君がくれた夏の終わり(本田翼)僕は君をもっと好きになるだろう(福士蒼汰)僕は許された(野村周平)
「嘘をついてはいけない」という言葉はこの世の大前提である。
もちろん・・・世界そのものが嘘なので矛盾をはらんだ言葉である。
しかし・・・人々は「嘘」によって生じる「罪」を心のどこかで信じている。
たとえば「憲法」という嘘を盲目的に信じる人々がいる。
「憲法」はルールの一つである。
ルールというものは基本的には多数派のためにあるものだ。
あるいは・・・実力を伴う主権者のためにあるものとも言える。
たとえば・・・「殺人」が「悪」とされるのは多数の人間にとってその方が都合がいいからである。
殺人を行うものは・・・目的達成のための手段を間違ったということもできるが・・・「殺人」を「悪」と考えない少数派であったとも言える。
「憲法」には「自衛する権利」が保障されていない。
そのために「憲法信者」は「自衛隊」も認めないし、「正当防衛」すら認めない場合がある。
「けして撃たないと決めたから撃たれたら潔く死ぬ」という信念を持つものはそれはそれで清々しい存在である。
しかし・・・多くの人間にはその覚悟はない。
「撃たないから撃たないでください」ですんだら暴れた犬も射殺されないのである。
「自分の身は自分で守る」という不文律はある。
言わば・・・「憲法」と「不文律」の戦いが今、タケナワなのである。
もちろん・・・法というものは・・・手続きが重要である。
しかし・・・多数決もまた正当な手続きなのである。
全員一致という理想にむかって・・・人は「嘘をついてはいけない」と叫び続ける。
ついてはいけない嘘をついてしまった人間を許すのも許さないのも・・・人間の行いである。
とりかえしのつかないあやまちがもしも許されたなら・・・それは奇跡の一つなのである。
で、『恋仲・最終回(全9話)』(フジテレビ20150914PM9~)脚本・桑村さや香、演出・金井紘を見た。三浦葵(福士蒼汰)と芹沢あかり(本田翼)・・・そして蒼井翔太(野村周平)の三角関係は実は善良な男女と邪な人間との葛藤の物語である。蒼井翔太は「欲しいものを手にいれるために嘘をついた人間」である。翔太はあかりの葵への愛のメッセージを盗み、葵からあかりを奪い去った。あかりは苦境に落ちていたために・・・翔太の汚れた手をそうとは知らずに掴んだのである。
たとえば・・・翔太が暴力であかりの純潔を奪ったとしたら・・・その罪は明瞭だった。
しかし、翔太の邪悪さは・・・巧妙に「罪」を隠蔽したところにある。
翔太に一方的に愛されたあかりは・・・一度はその愛を受け入れてしまう。
けれど・・・「罪」は結局・・・翔太自身を押しつぶしていく。
翔太の罪が明らかになった時・・・実は物語は・・・あかりが・・・葵と翔太のどちらを選ぶかという話ではなくなっている。
翔太という「罪人」を・・・あかりと葵が許すのか・・・許さないのか・・という話なのである。
葵にとってはさらに・・・「罪人」に騙されて・・・「純潔を失った乙女」を許すのか・・・許さないのか・・・という話になる。
あかりにとっては・・・「詐偽の被害者」になってしまった自分を・・・葵が慰めてくれるのか・・・慰めてくれないのか・・・という話でもある。
葵があかりを許すことが明らかになり、あかりが葵に慰められた時・・・すでに・・・翔太は除外されているのである。
それでも・・・翔太は・・・あかりを求める・・・求めることによって赦しを乞うのである。
葵は・・・翔太があかりを求め続けることで・・・翔太を許すのである。
翔太が葵を許すために・・・あかりも翔太を許すことができる。
もしも・・・翔太とあかりがそれでも結ばれるというのなら・・・「やったもん勝ち」ということで・・・この世は闇に落ちるのである。
それは・・・あかりの部屋の金魚も許さない・・・禁断の結末と言えるだろう。
もちろん・・・この世は・・・多数派だけではなく少数派も存在している。
十人いれば・・・翔太に味方するものも一人くらいはいるだろう。
そういう人間はいつか中学生を殺す大人になる可能性があります。
もちろん・・・この物語は・・・夏の終わりをそんなに後味悪くはしないのである。
少なくとも・・・表面上は・・・。
瀬戸際まで追いつめられて・・・葵はついに・・・「あかりを絶対にあきらめられない自分」に気がつく。
「第27回新人建築設計コンクール」の会場を飛び出した葵は・・・あかりを追いかけることしか考えない野獣と化すのだった。
高校時代・・・葵とあかりの間にも・・・葵とあかりと翔太の間にも割り込めなかった公平(太賀)だったが・・・三人のすべてを飲みこんでいる。
大好きな兄を手に入れることをあきらめた妹の鑑・七海(大原櫻子)は手を差し伸べる。
公平は葵のためにタクシーを止める。
七海は葵のために有り金を渡すのである。
葵は・・・妹の指し示す富山行きの新幹線のホームを目指すのだった。
翔太は誰よりも早く富山の花火会場に到着し・・・獲物の到着を待つ。
しかし・・・あかりは葵と過ごした故郷の街へやってくる。
あかりは・・・失われた七年間を探そうとする。
自分の生まれた家はすでに人手に渡っている。
葵と通った高校はすでに廃校になっていた。
葵と語らった駅のベンチすら・・・すでに新装されている。
過ぎ去った歳月。
翔太と過ごした時間。
「でも・・・葵だって・・・冴木瑠衣子さん(市川由衣)と交際してたんだもんね」
おあいこなのである。
あかりにはわかっていた。
翔太があんなことをしなければそんなことにはならなかったのだ。
しかし・・・あかりは翔太を責める気にはなれないのだった。
だって・・・好きになったものはしょうがないと思うのだ。
だから・・・翔太を赦そうとあかりは決めるのだった。
川には橋がかかっている。
橋には道が続いている。
向こう岸に渡るためには・・・いくつもの道筋がある。
葵があかりのための家を作ってくれるとわかった以上・・・どの道も・・・その家に続いている。
目の前には翔太と葵がいた。
「俺も・・・あかりをあきらめられない」
「そう言うと思ったよ」
「先にあかりと話をさせてほしい」
「僕にはそれを止める権利なんてないさ」
「ありがとう」
「・・・」
葵は振り向いた・・・。
「あかり・・・二人だけで話がしたい」
「・・・」
二人は肩を並べて歩き出す。
「この街も変わったねえ」
「うん・・・」
「私も変わっちゃった」
「俺には・・・あかりを幸せにできる自信はない」
「・・・」
「でも・・・あかりを好きな気持ちは誰にも負けない」
あかりの顔は輝く。
「あかりのこと・・・初恋だって言っただろう・・・」
「・・・」
「でも・・・七年前より・・・今の方が・・・あかりのことが好きだ・・・十年後にはきっともっと好きになっている」
「バカじゃん」
「あかりのこと・・・あの場所で待っているよ」
「・・・」
「富山みなと祭り納涼花火大会」の花火が夜空を染める。
あかりは翔太に声をかける。
「翔太・・・」
「・・・」
「ごめんね・・・」
「ありがとう・・・あかり・・・」
「うん」
翔太の邪悪な恋は終わった。
葵の前にあかりがやってくる。
「花火・・・きれいだね」
「うん・・・」
「私・・・葵の作った家に一緒に住みたい」
「あかりのいない家なんて・・・考えられない」
「私ね・・・百年後も葵が好きだと思う」
「バカじゃん」
二人は見つめ合い・・・何度もキスをした。
「少しは俺を見ろ」と花火はつぶやいた。
結婚式の前日・・・新郎と新婦は独身生活最後の屋台のラーメンを食べた。
天使のようなラーメン屋(峯田和伸)は微笑んだ。
葵は結婚式で新郎として長いスピーチをした。
「僕は失敗の多い男です・・・肝心な時に失敗します・・・最悪な気分を・・・彼女がいつもなかったことにしてくれます。彼女は僕の甘いシュークリーム。もしも彼女が消えてしまったら僕は最悪な気分をかかえたまま・・・一生を過ごすことになる。彼女が結婚してくれて・・・僕は本当に感謝しています・・・ありがとう・・・あかり」
新婦のあかりは微笑んだ。
罪滅ぼしのために・・・新婦の父親(小林薫)を案内してきた翔太は二人を祝福する。
二人の道は幸いなるかな。
裏切り者を赦す善良さは・・・婚姻相手の浮気くらい大目に見るからだ。
夏の終わり・・・二人は夜店を歩いて行く。
「もうすぐ・・・秋だねえ」
「夏の終わりに・・・あかりと一緒にもう一度花火を見ようと思って・・・」
「楽しかったね・・・夏・・・」
「うん」
善良な二人は記念写真を撮った。
撮影者は通りすがりの指原莉乃だった。
こうしてマリオはピーチ姫と末長く幸せに暮らしましたとさ・・・。
若者たちによる若者たちのための若者のドラマとして名作と言えるだろう。
今まで過ごしてきた夏がこれから過ごす夏より長かった人たちは少し口惜しい気持ちになるかもしれませんねえ。
恋愛にファール・プレイ(反則)はつきものだけど・・・騙す時は死ぬまで騙すことが鉄則。
証拠隠滅はお早めに。
ただし・・・人生終了後・・・悪魔は地獄であなたをお待ちしております。
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