広ク会議ヲ興シ万機公論ニ決スベシ~明治元年スターダストメモリー(東山紀之)
大日本帝国の軍人に女性はいない。
四民平等もついに実現しなかった。
しかし・・・そんな時代にも女性は生きていたのである。
そして、平民たちは夢を見ていたのだ。
男女平等が語られるようになったのは戦後の話である。
女性兵士も自衛隊にならいる。
男に許されたことが女には許されなかった時代。
そういう時代があったことを描きたくないなら・・・歴史劇なんてやらない方がいいよなあ・・・。
今が・・・いかに女性にとって自由で平等な時代なのか・・・わからなくなってしまう・・・。
もちろん・・・自由で平等だからといって女性が幸福だとは限らない。
五寸釘を打ちこみたくなるほど・・・まだまだ不自由で不平等ともいえる。
しかし・・・虐げられるのが当たり前だった時代があったことを・・・どこまでも陰惨に暗黒モードで見せてもらいたいものだ。
それは・・・もう・・・叶わぬ夢ですか。
男のロマンは死んだのですか。
で、『花燃ゆ・第37回』(NHK総合20150913PM8~)脚本・小松江里子、演出・安達もじりを見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は明治新政府の総裁局顧問として五箇条の御誓文に深く関与した木戸孝允の描き下ろしイラスト大公開でお得でございます。架空の人物の虚構と実在の人物の虚構には差異があってほしいのですな。架空ならなんでもありだが・・・実在なら制約がある。そうでなければ実在の意味がございません。いつの時代でも人間なんてたいして変わらないという考え方もございます。食べて寝る・・・それだけの存在だ。男と女のあれやこれやで悩ましい。しかし・・・終戦直後の混乱で・・・十四歳の少年は幼い妹が餓死するのを見守らなければならなかった。そういうことは伝えなければならないでしょう。白人たちの奴隷にされる恐怖を感じながらアジアの片隅で・・・回天に命を捧げた人々の物語。もちろん・・・戊辰の戦で・・・命を落したものたちは・・・無駄死にだったのかもしれない。戦などせずに・・・日本統一をすればよかったのかもしれない。しかし・・・現実はそうできなかった。なぜ・・・そうできなかったのか・・・そういうことを描かず・・・たまたま・・・運よく長生きした・・・有名人の妹の荒唐無稽な物語を展開していく・・・なんなんだろう・・・これは・・・と物凄く情けない気持ちになりますねえ。
慶応四年(1868年)一月、幕府軍と薩長を中心とした倒幕軍が鳥羽伏見で激突。二月、毛利広封が大村益次郎と共に上洛。三月、明治天皇は大阪に行幸。甲州で近藤勇が板垣退助に敗北。四月、西郷隆盛と勝海舟の談判により江戸城開城。五月、新政府軍と旧幕府残党による彰義隊が上野戦争。大村益次郎が旧幕府軍を一日で殲滅。六月、関東北部の掃討作戦で新政府軍は勝利する。八月、会津戦争始る。九月八日、明治に改元。会津藩降伏。十月、旧幕府軍は蝦夷地に脱出。十一月、明治天皇が江戸に入り、江戸城は東京城となる。十二月、蝦夷共和国成立。函館戦争開始。明治二年(1869年)一月、毛利敬親は版籍奉還を奏す。三月、東京遷都。四月、函館湾海戦。蝦夷共和国海軍全滅。五月、蝦夷地にて土方歳三戦死。六月、戊辰戦争終結。藩籍奉還によって毛利元徳は山口藩知藩事に任じられる。
蒸気船の運用を開始した長州藩では山口からの陸路の煩わしさを避けるために三田尻への藩政府機能の移行を開始している。萩からの丹後を経た京入りも可能だったが、東京に新政府が出来たために瀬戸内海、大阪、名古屋、浜松、神奈川、東京という海運ルートに利があったのである。高杉の夢見た下関開港も実現し・・・山口藩(長州藩)は海運事業に乗り出そうとしている。奥御殿の引越し作業を進める美和は各地に散った塾生たちの動向を読んでいた。
新政府の重鎮の一人となった木戸は長崎にいる。
その任務はキリスト教の弾圧である。
新政府は神道の国教化を進めるために神仏分離を奨め、キリスト教徒の改宗を国是とした。
開国と同時に西欧列強というキリスト教国の文化の流入は避けることができないと考えた新政府首脳はキリスト教徒の弾圧を可能な限り推進したのである。
木戸はキリスト教徒に満ちた長崎での邪教弾圧を監督するために・・・派遣されたのだった。
旧幕府も基本的にはキリスト教弾圧を続けてきたために役人たちは手慣れていた。
隠れキリシタンたちは幕末の動乱の間に姿を見せており、拉致監禁は容易になっている。
「ころばすためにはどのような方法を用いるのか」
「女たちは妊娠していれば牢にて出産を命じます」
「うむ」
「子が生まれれば母と引き離し、牢の外でお乳欲しがる赤子の泣き声を母に聞かせるのです」
「むごいな」
「お乳をあたえたくば改宗せよと問います」
「・・・」
「しかし・・・なかなか転びませぬ・・・」
「赤子は・・・」
「飢えて死にまする」
木戸はその拷問を黙認した。それが新政府の方針だったからである。
前原一誠は東北戦争で華々しい戦功を重ねた後で越後で占領軍司令官となっていた。
明治元年の秋から二年の春にかけて全国では一揆の嵐が吹き荒れている。
政府側の食糧を確保するために強奪を重ねた前原軍は治安を回復するために年貢の半減策を打ち出している。
しかし、函館戦争に勝ち、日本国の支配権をつかみとった新政府はたちまち手のひらを返して、従来通りの年貢を課す方針に転向した。
「なに・・・年貢の半減はならぬと」
「新政府のお達しでございます」
「都でのうのうと暮らしておった貴族たちにこちらの苦労がわかるものか」
「しかし・・・」
「みろ・・・民は飢えている・・・また・・・一揆がおこるぞ」
「武をもって鎮圧せよとのお達しでございます」
「やってられるか」
前原は憤然と官を捨て長州に戻ってきた。
「なに・・・毛利も島津も将軍にはなれぬ・・・と申すか」
病床で元藩主・毛利敬親は新政府とのパイプ役となった楫取に問う。
「新しい幕府は開かれませぬ・・・」
「では・・・武士は誰が束ねるのだ」
「武士は・・・藩主身分のものは華族となり・・・家臣身分のものは士族となり・・・家臣の郎党は卒族となって・・・今上天皇の侍となるのでございます」
「王政復古とはそういうものか・・・」
「長州軍も・・・今や・・・半分は平民で成立しております」
「戊辰の戦では敵味方合わせておよそ一万も死んだというが・・・長州で死んだのはほとんど百姓や町民だったと言うの・・・」
「でございます・・・新政府の軍はやがて平民を主力とするものになりましょう」
「実力主義という奴か・・・まさに下剋上じゃのう・・・」
「・・・」
「しかし・・・それでは・・・俸禄を失った・・・武家のものが騒ぐのではないか・・・」
「世の流れに逆らう無能なものたちは・・・粛清されることになりましょう」
「惨い・・・」
「それが御一新と言うものなのです」
「・・・」
美和は亡き兄の見た後の世が次々と実現していくことを知っている。
しかし・・・その細部は・・・いかにも惨いことの連続であった。
幕府は消え・・・日本国が誕生した。
しかし・・・久坂玄瑞も高杉晋作も・・・消えた。
「兄上・・・これが・・・本当に世直しなのでしょうか・・・世は前より良くなっているのでしょうか」
美和の問いに吉田松陰は答えない。
関連するキッドのブログ→第36話のレビュー
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コメント
じいや、こんばんわ。
あまりに滑稽な大河になってしまいましたわね。
日曜はツッコみで始まりツッコみで終る…
終わる方のツッコみは昨日惜しまれつつ最終回を迎えてしまいましたので、もう、あとはツッコミツッコみツッコみで年末まで…←脱藩はしないらしい(爆)
>男に許されたことが女には許されなかった時代。
そういう時代があったことを描きたくないなら・・・歴史劇なんてやらない方がいいよなあ・・・。
人が無残に死なず何となくお涙で美化された戦争ドラマ、女性が一番何の権利も持てない法の下で生きていたのに活躍する強い女ばかりが描かれる時代物朝ドラと大河。
それを歴史のお勉強になると言って見る視聴者。
何だか色々と危険な臭いがいたします…
日本はどこへ向かうのかーー!
まぁ、いざとなったらデスノートに活躍してもらって不安要素は削除すればいいかしら。新世界の神になるわ❤
不安定な天気が続きつつ秋らしし涼しくなってまいりました。どうぞご自愛くださいませ。
今年の松茸パーティも楽しみにしております。
投稿: くう | 2015年9月14日 (月) 17時05分
じいや特製寒天による「まめかん」をお作りしましたぞ。
塩豆とみつはお好みでお召し上がりくださいませ。
夏も終わりでございますねえ。
まあ・・・主人公は幼少の頃から見守ってきた女優さんが
演じているのでなんとか見守り続けるしかありませんな。
「松陰」「久坂」「高杉」「楫取」という四人が
そろっているので妄想的には
花より男子に燃ゆ・・・というドラマなんだと
思うことにしております。
天地人の人投入で・・・もう・・・何も期待しないのです。
幕末から明治へのドサクサ・・・。
ここは一年戦争でジオンが勝利した架空戦記の世界でございます。
ジークジオンの声が鳴り響き
地球連邦の人々は
強制的にコロニーに移住を余儀なくされるのでございます。
アムロもセイラさんも蝦夷地で苦難に喘ぐのですな。
明治新政府のお役人にはシャアが・・・。
まあ・・・正史とは別のもうひとつの明治を笑うしかないのですねえ。
しかし・・・男たちの屍をのりこえて
のしあがっていく主人公。
最初から運命の人として登場する姉婿・・・。
なんじゃあこりゃああああああああっ・・・ですが。
地震、洪水、噴火・・・九月は災厄の月になっていますので
もしもの時のご用心を心がけてくださいませ。
じいめも非常持ち出し袋に名前をかいておりますぞ。
まあ・・・お屋敷は
いざとなったら宇宙空間まで脱出できる機動力が
ございますけれど~。
今週は最終回ラッシュ・・・。
ここを抜けると谷間でございます。
秋ドラマまでのしばしの休息・・・。
どうかリフレッシュなさりますように・・・。
投稿: キッド | 2015年9月14日 (月) 20時31分
なんかいつの間にか大政奉還が終わっててびっくり(^_^;)戦のシーンもほとんど写りませんでしたないうか文さんはなんでわざわざ戦が始まる時期に京都に行こうとするんだ!(笑)
先週もなぜか家族を差し置いて高杉さんの看病しているし、高杉さんの愛人のおうのさんも一体どこへ??愛人だから存在をなかったことにされたのか(^^ゞ辰路さんといい扱いも現在の愛人とまったく変わらないですな。
もうちょっと世の中をどうやって変えたのか分かるドラマにして欲しいですよね。これだとあんまり現代と変わらないし。こういう書き方じゃないとどこかから文句が入るんですかね?
でも本当に世の中を変えるというのは民主化した現在でもなかなか難しいですね。日本だからかな?他の国はよくわかりませんが、国民性とかも関係あるのかな?
なにか一押しあれば変わる気もしますがその一押しがなんなのかが怖いですね(^_^;)明治維新と昭和の場合は黒船と戦争だったわけですが。
まあ、変わることが良いことばかりとは限らないんですけどね、明治維新も後に世界大戦に繋がったわけですし。
投稿: 出雲 | 2015年9月18日 (金) 13時59分
世の中が変わるというのは日常的なことであり、同時に非日常的なことでもあります。
70年前には影も形もなかったものが今では
絶対に守らなければいけないものになっていると
信じる人もいる。
縄文あるいは弥生の昔から米を作り
代々米を作ってきた人々もいる。
世の中は変わっているようで変わらず
変わらずにいるようで変わっている。
そういう「流れ」を掴んでることは大前提。
人口ボーナスを使い切り
衰退に向かう国家では
選択の幅は狭くなっている。
もちろん・・・増えすぎた人口が
縮小に向かうのは悪いことばかりではない。
ただし・・・昔のような幸福は追求できないわけです。
人々は新しい幸福のカタチを捜しているとも言えます。
誰もが貧しかった時代・・・人々は貧困をわかちあった。
誰かが豊かになると・・・裕福をわかちあうのは難しい。
平穏な暮らしのためにあらゆる拘束に耐える時代があり
平穏な暮らしを守るために危機を管理する時代がある。
ひとつの変化を求めるためには
大きなエネルギーが必要となり
大きなエネルギーは人間の命をたやすく奪う可能性がある。
吉田松陰は民草のエネルギーを解放する導火線。
民草は幕藩体制を転覆させ、明治維新を発生させる。
爆発は連鎖して・・・西南戦争、日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦、日中戦争、第二次世界大戦と続いて行く。
大日本帝国の崩壊によって・・・庶民はついに
民主主義を獲得する。
吉田松陰の夢の結実です。
しかし・・・一人一人の民衆には
なにがなんだかわからない。
だから・・・こういうドラマも成立する。
これはこれで面白いと思う他ございません。
投稿: キッド | 2015年9月18日 (金) 14時33分