SPEC~結~漸ノ篇・爻ノ篇(戸田恵梨香)陰陽交わりて太極となる(加瀬亮)
太極とは宇宙、あるいは宇宙の原理で唯一無二のものである。
しかし、根本原理は二元論に通じて行く。
月と太陽、女と男、正と負、あなたとわたし・・・。
一神教では・・・神は善悪を超越するが・・・そうなると神と悪魔の一体感が生じる。
善神と悪神は総じて神となり、神は聖と邪に分離する。
人類の存亡をかけて展開するこの物語・・・。
しかし・・・大銀河の辺境にある太陽系の一惑星の話と考えると・・・実はローカルな話なのである。
すべての世界は滅びる運命だが・・・滅びた世界と滅びつつある世界には陰陽の二極が浮かび上がる。
全能ゆえに実体がなく・・・無能ゆえに虚無ではない。
二つの存在は・・・境界線で・・・仄かな火花を散らすのだ。
で、『SPEC~結~漸ノ篇・爻ノ篇(2013年劇場公開作品)』(TBSテレビ20150923PM7~)脚本・西荻弓絵、演出・堤幸彦を見た。1950年代生まれの脚本家と演出家である。当然のようにコミックやアニメの影響を受けている。冒頭・・・世界のどこかで・・・野々村光太郎(竜雷太)のメッセージを伝える正汽雅(有村架純)は「銀河鉄道999/松本零士」のヒロイン・メーテルのコスプレをしているわけだが・・・最後に「ケイゾク」シリーズとしての余韻を伝える男女はキャプテン・ハーロック(井上真樹夫)とクイーン・エメラルダス(田島令子)である。一方、先住民と原住民の確執は「ゲゲゲの鬼太郎/水木しげる」の基本的なアイディアである。鬼太郎は人類に滅ぼされた霊人類の子孫なのである。鬼太郎(妖怪)が妖怪を退治する図式は当麻紗綾(戸田恵梨香)とスペックホルダーたちとの対決として展開されていく。水木しげるは1920年代生まれであり・・・従軍して左手を失っている。その作品からは「戦争に対する嫌悪」が滲みでる。松本零士は1930年代生まれであり、戦時中は少年だった。作品で戦争を賛美するわけではないが・・・平和国家としての日本を賛美するわけでもない傾向もある。武装解除され、与えられた平和を生きる人間に冷たい眼差しを送っていることが随所に見られるのだ。なんてったって「宇宙戦艦ヤマト」だ。戦後生まれの日本人は・・・成長するにつれ・・・敗戦国の現実を学んでいくわけであるが・・・水木しげると松本零士は・・・陰陽交わりて太極になっているのである。
スペックホルダー争奪戦はやがて・・・人類とスペックホルダーの種族間戦争の色合いを深める。
世界を支配するものたちの・・・思惑と・・・街の治安を守る刑事たちの・・・魂は・・・いつしか・・・激しくスパークしていくのだった。
スペックホルダーによる犯罪を捜査してきた警視庁公安部公安第五課未詳事件特別対策係の刑事である瀬文焚流(加瀬亮)は相棒の当麻紗綾が「死者を召喚するSPEC」を持っていることに激しく動揺する。
一方・・・死者の存在する場所(冥界)と接続することによって当麻紗綾は「地獄の亡者」たちに心を浸食される。
「私が・・・堕ちたら・・・迷わず撃ってください」
「俺を信じろ」
二人の絆は深まり・・・それは愛というものに限りなく近い。
だが・・・男女交際に関して初心な二人は・・・それを表沙汰にすることはない。
その点に関しては・・・野々村係長と雅その愛があれば充分なのである。
「刑事の妻として・・・内縁だけど・・・覚悟はできてます」
「みやびちゃん・・・」
刑事というものは殉職するために生まれてくる存在なのだ・・・とにかく刑事ドラマでは。
本編は・・・ゴリさん第二の殉職の物語と言っても過言ではない。
ドラマ「ケイゾク」では柴田純(中谷美紀)と殉職した真山(渡部篤郎)の上司だったゴリさんもついにその時を迎える。
「生きて帰ってくると約束したのに・・・」
「・・・」
遺体にすがりつく雅に無言で答えるゴリさんだった。
「ケイゾク」の真山刑事は・・・謎のスペックホルダー朝倉(高木将大)に妹の沙織(多田亜沙美)を凌辱の上で殺害されており・・・復讐心による狂気を秘めている。真山刑事の心は烏によって監視されていた。
人間に生じる心の闇を・・・監視するのが烏の宿命だからである。
やがて・・・本編では・・・烏の正体が明らかにされていく。
烏たちは・・・冥界にあるスペックホルダーの象徴だったのである。
例によって不死身のSPECで蘇生した瀬文は内縁の妻である青池里子(栗山千明)が娘の潤(森山樹)とともに消息不明になっていることを知り動揺する。
潤は時をかける少女であり・・・時間を小刻みに移動するためにしゃっくりが止まらない女(大島優子)と時空連続体を形成している。
やがて・・・新たなスペックホルダー・プロフェッサーJ(遠藤憲一)が現れる。
Jは当麻の父親(佐野元春)の親友・湯田秀樹を装い、当麻家に侵入。
死体に憑依するSPECにより、殺害した当麻の祖母(大森暁美)に憑依し、当麻暗殺を謀るが失敗する。
一方・・・日本国の影の支配者である卑弥呼(北大路欣也)ともつながっていた野々村は・・・米国の影の支配者が実行する「シンプル・プラン」を阻止するために動き出す。
「シンプル・プラン」はスペックホルダーだけを殺すインフルエンザ・ウイルスによる・・・虐殺計画だった。
なぜ・・・スペックホルダーだけを殺すインフルエンザ・ウイルスが存在するのか・・・それは・・・人類の遺伝子が・・・ウイルスに対して弱肉強食の論理で挑む・・・宇宙生命体との混血によって生み出された外来種だったからである。
地球生命体ガイアと共存する旧人類は・・・外来種である人類との生存競争に敗れたのである。
スペックホルダーは・・・旧人類の名残だった。
そのために・・・インフルエンザ・ウイルスに対する抵抗力が低いのであるる
時をかける少女はガイアの一部であり・・・本来・・・霊体であるが・・・智子の妊娠出産によって肉体を得たのである。
人類の滅亡を願う旧人類の意志の結晶である霊体・セカイ(向井理)こそが世界の真の黒幕だった。その正体はゲゲゲの女房の夫である。
セカイは人類そのものを激しく憎悪する。
人類が憎悪の結晶体だからである。
その激しい矛盾に立ち向かう当麻。
当麻の中に殉職した野々村の言葉が蘇る。
「人類の可能性を阻止するものと・・・人類の可能性を信じるもの・・・これは・・・そういう戦争なんだよ」
「我々は戦争はしない・・・ただ・・・人類が滅びるのを眺めるだけだ」
「詭弁よ・・・あなたは仕組んだじゃない」
「・・・」
「神の意志に逆らうものを容赦しないだけだ」
「神が聞いてあきれるわ・・・あなたはただ・・・勝者を許せない敗者・・・それだけの存在よ」
「ふふふ・・・それなら・・・どうする」
「あなたをあなたのいるべき世界へ送ってやる・・・この堕天使野郎」
「なんという暴言だ・・・」
「すべてはダメで元々なんだよ」
Jは御前会議が保護していたスペックホルダーにウイルスを感染させる。
「ケイゾク」では婦人警官だった今井夏紀は・・・スペックホルダーの少女に転生していた。
その死に際して当麻も感染する。
怒りに萌えた当麻は地獄の門を開く。
当麻の左手は冥界への鍵だった。
「お前が世界の秘密の鍵を開くソロモンの鍵・・・人類を滅亡させる・・・引き金なんだよ」
「スペックホルダーは霊体化して・・・復活の時を待つのよ」と時をかける少女。
「すべては計画通り」とユダ。
東京に立ち上るキノコ雲・・・赤く染まる世界。
「人類滅亡の始りだ・・・疑心暗鬼に陥った核保有国はドンパチを始める」
「ウイルス兵器を作りだす米国も・・・クローンスペックホルダーを研究する中国も・・・所詮、同じ穴の下等生物なのよ」
「残念でした」
当麻の左手SPECによって蘇るスペックホルダーたち。
サトリは神の心を悟り、志村美鈴(福田沙紀)は神の暗躍を少し読みとり、冷泉俊明(田中哲司)は神の未来を予知する。
「お前たちの計画なんて・・・お見通しなんだよ」
「ばかな・・・」
「お前たちは・・・平和共存と弱肉強食の境界線に生まれる愛ってやつを知らない」
「愛?」
「だから・・・地獄がお似合いなんだ・・・さあ・・・行こう・・・死者がいるべき世界へ」
当麻は・・・セカイを飲みこむ。
「そんな・・・バカな」
「瀬文さん」
当麻は世界と戦っていた。
「当麻」
「これしかないの・・・刑事でしょう」
瀬文は・・・セカイを飲みこんだ当麻を射殺する。
肉体を失った当麻の魂は・・・セカイを地獄に引きずり込んだ。
たちまち世界は旧人類の記憶を失う。
世界の目論んだ人類滅亡計画は幻想となる。
そして・・・瀬文は刑事殺しの汚名を着た。
人々の暮らしを守る刑事としてやるべきことをやったのだ・・・。
宇宙は無限の泡で構成されている。
当麻の右手は・・・あらゆる宇宙の可能性とつながっていた。
当麻は漂う・・・あらゆる時空を・・・。
当麻の消えた世界で・・・孤独を噛みしめる瀬文。
当麻は瀬文に手を差し伸べる。
その手を瀬文はしっかりとつかんだ。
無数の泡の一つの世界。
時間を遡上した当麻は・・・瀬文と肩を並べ雑踏に消える。
巻き戻され・・・再生される世界。
当麻陽太(神木隆之介)は停止された時間の中で・・・悪意に満ちたスペックホルダーを眺める。
朝倉は友人たちを狂わせ・・・少女を凌辱しようとしている。
陽太は下半身を丸出しにした男たちを交番の前に並べておいた。
そして・・・指を鳴らした。
悪意に満ちた烏は・・・絶望の吐息をもらす・・・。
真山は柴田を見て微笑む。
そして・・・SPECは夢となった。
関連するキッドのブログ→劇場版 SPEC〜天〜
| 固定リンク
コメント
会話部分はどこから持ってきたの?創作?
投稿: 多島 | 2015年9月27日 (日) 18時54分
SPECソボクナギモン~多島様、いらっしゃいませ~ンモギナクボソCEPS
初歩的なご質問ありがとうございます。
会話部分に限らず・・・基本的にキッドの妄想による記事です。
つまり・・・オンエアされた虚構が
キッドによって脳内変換された結果と言うことです。
厳密に言えば創作というよりは評論と言うことになると思います。
どうか・・・ご了承ください。
投稿: キッド | 2015年9月27日 (日) 23時16分