吾今国の為に死す、死すとも君恩に背かず・・・明治九年萩の乱(佐藤隆太)
武士をどうするか・・・明治維新の立役者たちはそれぞれに頭を悩ませる。
明治天皇はもちろん、武士ではない。
政府の要職を占める二人の公家、三条実美と岩倉具視も武士ではない。
しかし、実際に新政府を動かす、木戸、大久保、西郷は武士だった。
長州と薩摩ということでは・・・木戸と大久保、西郷は対立する。
しかし、官僚か武士かとなると・・・大久保と西郷は対立し、木戸は中立の立場となる。
帝国による朝鮮半島侵略を目指す第二次征韓論では・・・西郷は武士による軍事政権を確立するためにこれを求め、大久保は予算の点からこれを否定した。
たとえ・・・半島全域を日本の領土としても・・・赤字になることが大久保には恐ろしかったのである。
戦争を厭う天皇、公家は大久保に賛同した。
「東京を蒸気機関都市に」と夢見た佐賀の江藤新平、土佐の板垣退助らは西郷と共に野に下る。
彼らは基本的に・・・武士がなくなることなど・・・考えられないという魂を持っていた。
しかし・・・四民平等の夢は・・・彼らの矜持を木端微塵に打ち砕くのだった。
で、『花燃ゆ・第43回』(NHK総合20151025PM8~)脚本・小松江里子、演出・安達もじりを見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は松下村塾の創始者にして吉田松陰の叔父であり師匠である玉木文之進描き下ろしイラスト大公開でお得でございます。そうですね・・・今回のサブタイトル「萩の乱に誓う」とは・・・誰が何を誓ったのでしょうかね。さっぱりわからないのですが・・・もしかして・・・主人公と姉の夫が愛を誓ったわけでしょうか・・・なんのこっちゃでございます。人気の「あさが来た」では主人公は別の家に嫁ぐはずだったという設定があるわけですが・・・こちらの主人公・文(美和)の相手には木戸孝允こと桂小五郎も挙がっていたという話もあります。そういう意味では・・・姉・寿の死後に楫取の後妻となる主人公について・・・いろいろな妄想があっても・・・構わないと思うのですが・・・はっきりいって・・・どうでもいいですよねえ。本来・・・政府高官の木戸と群馬県令の楫取がこれまでのことを振り返るなら・・・死んでいった吉田松陰関係者の・・・恐るべき数に・・・慄くべきところでしょうに・・・。そして・・・主人公のことに触れるなら・・・久坂の妻ではなく・・・桂の妻だったら・・・全く違う人生だったろうに・・・というあたりが順当と言えます。まあ・・・「天地人」の人に何を言っても無駄でしょうが・・・あれだけ・・・土に親しむことに熱中していた主人公が・・・何故、蚕だけは苦手なのか・・・意味不明でございます。長州の土中は虫だらけじゃないのか。そして・・・どんだけ幼い頃から主人公が働いていたのか・・・忘れすぎにもほどがありますよねえ。
明治九年(1876年)三月、廃刀令発布。士族たちの特権剥奪政策の一環である。「武士の魂の携帯」を禁じられた軍人でも警察でもない士族たちはついに追い詰められた。十月二十四日、熊本県で神風連の乱が発生。二十七日、福岡県で秋月の乱が発生。二十八日、前原一誠が挙兵し、萩の乱が発生する。杉民治の長男で吉田松陰家を継いでいた吉田小太郎、長女の婿養子で玉木家に養子に入った玉木正誼は明倫館出身の三浦梧楼陸軍少将の率いる広島鎮台兵の攻撃により戦死する。当時、熊本鎮台にあった乃木希典少佐は玉木正誼の実兄である。同じ長州出身の士族たちが政府軍と反乱軍に分かれて戦ったことになる。各陣営は多数派工作を行い、乃木も反乱軍からの誘いを受けている。乃木はその誘いを断ったが、萩の乱における軍事活動が消極的だったことを指摘されている。乃木もまた玉木文之進の門弟の一人だったのである。圧倒的な軍事力で乱は鎮圧され、十一月六日、玉木文之進は自害。十二月三日、捕縛された前原一誠は斬首となった。吉田家は民治の妹の一人である千代の子・庫三が民治の娘婿となり継承する。ここに杉家の吉田松陰家継承の執念が覗える。
帝都の改装は進んでいる。海外から招かれた建築家たちは全国から集合した大工たちを指導し、皇居周辺に洋風の館を構築していった。
一方で幕府が消失し、解体されたいつくつかの大名屋敷では蓄財に長けた政府高官が新居を構えていた。皇居の南、赤坂で異彩を放つのは新たに参議となった勝海舟の邸宅である。
その地下には科学忍者隊の秘密基地があった。
公儀隠密と海援隊しのびの合流した科学忍者隊は言ってみれば節操のない集団である。しかし、幕臣でありながら倒幕の黒幕と噂される勝海舟ならではのいかがわしさで・・・新時代の忍びたちは統轄されていたのである。
伊藤博文は木戸孝允の密使として勝屋敷を訪問している。
「西の方の乱の兆しは・・・いよいよ明らかになっております」
「まあ・・・そりゃそうだろうよ・・・刀を捨てろと言われたら・・・頭に血が登る輩がまだまだいっぺえいるだろうからな。おいらなんか・・・あんな重てえもん、持つなと言われりゃ幸いだと思うがなあ」
「勝様の仰せのごときなら・・・苦労はありません」
「で・・・要件はなんだい」
「勝様の電信部隊をお借りしたいと思います」
「いよいよ・・・西郷どんの討伐か・・・」
「佐賀、山口などが・・・乱の先駆けとなるでしょう」
「広島や熊本の鎮台には兵の集結が済んでるのかい」
「はい・・・あとはタイミングでございます」
「タイミングか・・・萩や佐賀に忍ばせた密偵と鎮台をつなぎたいと・・・そういうわけか」
「はい・・・できれば、各鎮台と・・・大阪、京、東京を結んでいただきたい」
「それはいくらなんでも・・・手が足りねえな・・・」
「噂によれば・・・幕府が密かに作った忍び電信線があるとか・・・」
「・・・どうやら・・・公儀隠密にも手を突っ込まれちまったようだな」
「ミカドの忍びたちは・・・なかなかに恐ろしゅうございますから・・・」
「くぐり衆はどうなった・・・」
「岩倉卿を襲ったものたちは・・・すべて始末されたようです・・・そもそも・・・くぐり衆も半分は大奥のお方が引きとったのでございましょう。西郷様につくものは多くはなかったようです」
「つまり・・・西郷どんは・・・情報戦で負けた・・・と言うわけか」
「いざ・・・戦となれば・・・西郷様ほどの大将はいないでしょうが・・・反乱勢力は各個撃破され・・・最終的には戦力差がものを言うでしょう・・・」
「士族たちは・・・結局、国民皆兵の術に敗れるわけだ・・・」
「なにしろ・・・西郷一族でさえ・・・多くのものが新政府に残っております・・・」
「恐ろしいねえ・・・江戸開城の談判から・・・十年・・・すべては・・・松陰の予知のままか・・・」
「松陰先生の・・・何でございますか」
「いや・・・それはこちらのことだ・・・とにかく・・・電信のことは引き受けた・・・もう・・・いい加減・・・内戦は終いにしねえとな・・・」
「感謝いたします」
美和は毛利屋敷の女中部屋で思わず目を瞠った。
(兄の予知を知るものがいた・・・)
美和は意識の触手を伊藤博文から引き抜き・・・対面している勝海舟に向ける。
(・・・これは)
美和は勝海舟の心が灰色に閉ざされているのを知った。
灰色の霧の彼方から・・・こちらを窺っている気配がある。
(・・・この人か・・・)
幕末の一時期・・・美和は・・・心を閉ざしたくのいちたちと暗闘したことがあった。
維新後・・・その気配は途絶え・・・美和もいつしかそのことを忘却していたのだった。
(あれは・・・藤原のくのいちだと思っていたが・・・)
公儀隠密の服部半蔵の一人であった勝海舟・・・。
その人もまた・・・美和と同じ術者であったらしい・・・。
(そういえば・・・兄上は・・・勝様と・・・佐久間様のことを・・・何かお話だったような気がする)
美和は意識を後退させながら・・・記憶を手繰る。
しかし・・・時の流れは美和の心に澱みを作っていた。
吉田松陰が決定した未来はあまりにも残酷で・・・耐えられぬほどの流血沙汰の果てにあった。
その日々は美和の心をいつしか疲弊させていた。
迫りくる・・・反乱は・・・美和の身内をまたしても生贄として求めているのである。
美和は・・・兄の作った未来を見届けることに・・・もはや憂鬱を感じているのだった。
東京にはガス燈が灯り、遠くで汽笛が鳴っている。
関連するキッドのブログ→第42話のレビュー
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コメント
この1話に限っての恋愛ドラマでは秀逸ですね
もう歴史ドラマとしてみるとまったくの論外ですがw
畑仕事できる人間なのにねぇ
山口でも蚕とか作ってるとこはあるだろうに
おかいこさんがだめとか信じられないですが
やはり、桂さんの描写が序盤であまりにもなさすぎたので、今過去の事であれこれ言っても、奥行き感はなさすぎですねぇ
このドラマみてると
吉田松陰>桂小五郎
みたいな感じがしますねぇ
さて、年賀状が発売されたので
年賀状作成作業にもはいりますが
今年は会社の仕事も忙しくて
ちょっと色々と作業がやばそうな雰囲気です
; ̄∇ ̄ゞ
投稿: ikasama4 | 2015年10月29日 (木) 12時48分
✥✥✥ピーポ✥✥✥ikasama4様、いらっしゃいませ✥✥✥ピーポ✥✥✥
持ちかえり残業ご苦労様です。
本年度はここまて快調な描き下ろしイラスト展開ですが
年末に向かう季節の変わり目・・・
あくまでマイペースでお願いいたします。
お茶の間的には脚本家が一人になって
連続ドラマとしてそれなりに見やすくなっている気がします。
今回は・・・美和と姉の夫の通いあう心を描くドラマとしてはそれなりに成立していましたねえ。
けれど・・・それをここでやる意味がよくわかりません。
天皇崇拝という一つのシステムを体現した
吉田一族の悲劇ということでは
この大河ドラマは非常にマニアックな性質を持っていると言えるでしょう。
杉文という登場人物は
戦国戦略シミュレーションゲームなら
織田信長の弟・織田老犬斎レベルですからな。
老犬斎主役の大河ドラマ・・・考えるだけで
うっとりします。
そうならそうで・・・長姉千代も登場させて
吉田松陰がいたために
どれだけ・・大変な目に杉一族があったかを
最期まで描ききってほしかった・・・気もします。
桂小五郎は最初に素晴らしい立ち回りを見せて
期待させられただけに
その苦悩がほとんど楫取素彦に移植されてしまっていて
透明人間のようになってしまいましたな。
尊皇と武士という二つのポジションに板挟みになり
苦悩の果てに血を吐いて死んでいく・・・。
そういう木戸孝允なのに・・・。
まあ・・・こういう時代なのかもしれません。
南シナ海海戦勃発にドキドキする年の瀬・・・。
心健やかにお過ごしくださいますように・・・。
投稿: キッド | 2015年10月29日 (木) 14時33分