人民ノ凶害ヲ予防シ安寧ヲ保全スルニアリ・・・明治八年行政警察規則布告(優香)
神奈川県令だった陸奥宗光は「地租改正」を提唱し、地租改正局長に転身する。
地租改正は新政府の財源確保のために絞れるところから絞る重税策だった。
幕藩体制ですでに搾取の構造が成立しており、新政府はこれを改良して利用するしかなかった。
土地所有を人民に認めるという開放政策でありながら、搾取階級である地主を育成し、小作人を極貧に導くのである。
幕府時代より過酷な重税を農民に課し、鉄道・通信を整備し、官営工場を建設し、都市の近代化と軍備の拡張をはかる。
当然のこととして農民一揆は各地で勃発した。
正規軍を士族の反乱用に準備した新政府は・・・農民一揆の対応策として行政警察を展開する。
全国に配置された巡査たちは・・・極貧にあえぐ農民たちの不穏な気配を監視し、厳しく取り締まるのである。
まあ・・・基本的に政府と人民の関係は・・・常にこんなものなのである。
だが・・・そうしなければ日本の近代化など達成されるはずもなかったのだった。
で、『花燃ゆ・第42回』(NHK総合20151018PM8~)脚本・小松江里子、演出・渡邊良雄を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は土曜の夜の天使・掟上今日子(新垣結衣)の描き下ろしをなされたので大河イラストはお休みです。まあ・・・せっかくの大御所登場も・・・架空の人物では・・・興が乗らない・・・のかもしれませんので・・・あくまでマイペースでお願いします。ドラマの楽しみ方も人それぞれなので・・・少なくとも当事者の皆さんはこれが面白いと思ってやっていると信じたい・・・。けれど・・・ある程度、お茶の間の期待にも答えてもらいたいですよねえ。大河ドラマの基本は見知らぬ時代に生きた人間を描くことで見知らぬ世界を感じさせることだと考えます。つまり・・・登場人物たちは世界を描く道具であるべき・・・。それなのにこの作品では・・・主人公と周辺の人々を描くために世界が道具になっている。そのあげく・・・主人公の業績をでっちあげるために・・・その他の人々までが架空の人間に・・・。なんじゃ・・・そりゃあ・・・でございます。歴史に名を残した人も人間なので・・・毀誉褒貶はつきものですが・・・歴史上の人物を単純明快な悪党にすることが憚れるという意図があまりにもくっきりと浮き彫りでございます。だったらせめて実在の人物を複雑に描いてもらいたいと考えます。現代人から見れば愚かな行為がいかに苦渋の果てのことだったか・・・そういうものを描いたドラマが見たい・・・本年度はこのまま・・・それを痛切に感じる一年になるのでしょうかねえ・・・。
明治九年(1976年)、官僚主義の大久保利通と軍人主義の西郷隆盛の決裂は決定的なものとなっていた。尊皇攘夷の志士たちにとって・・・文明開化を外国人教師が指導する新体制は悪夢そのものである。征韓論を掲げた西郷の意図するところは軍事力の行使からの軍事政権による独裁を目指すものであった。しかし、大久保はそれを成すものが旧士族ではなく、国民的軍隊であると考えていた。どちらが軍事的に優位性を持つのか・・・決着を着けるのはいつの時代も軍事衝突なのである。倒幕戦争によって・・・それを知る二人は・・・結局、そうするしかなかったのだ。松平直方の上野前橋藩は前橋県となり、大河内松平輝声の高崎藩は高崎県となった。土岐頼知の沼田藩は沼田県。秋元礼朝の館林藩は館林県に。新島襄を生んだ板倉勝殷の安中藩は安中県。奥平松平忠恕の小幡藩は小幡県。酒井忠彰の伊勢崎藩は伊勢崎県。鷹司松平信謹の吉井藩は吉井県。前田利昭の七日市藩は七日市県に・・・。それぞれの元藩主は上京し、各藩は統合されて群馬県となる。長州藩の下級武士にすぎなかった楫取素彦は群馬県令として・・・大出世を遂げたのだった。星野長太郎・新井領一郎という豪農出身の実業家を起用した楫取である。官営模範工場として建設された富岡製糸場はすで操業から四年、前年にお雇い外国人が帰国し、尾高惇忠所長の元でこの年、大幅な黒字に転じる。巨大化した工場は民営化の目途が立たず、明治二十四年の三井家への払い下げまで官営が続く。ちなみに広岡浅子の生家である出水(小石川)三井家もまた明治以後、三井財閥を構成する三井の一族である。この年、浅子は長女・亀子を出産している。
(人手が足りない・・・)
山口県のくのいち諜報組織を指揮する久坂美和は義兄の楫取素彦が群馬県令になったことにより、組織改編に追われていた。
旧藩知事の毛利元徳公爵家のために・・・主だった忍びやくのいちは東京に移住している。
山口県の役人を務める兄の杉民治は目付け系の忍びを支配していたが・・・すでに忍びのものたちは高齢化の兆しをみせている。
政府の布告による行政制度としての警察官は・・・密偵としては役不足だった。
地主階級の台頭によって小作人は疲弊しており・・・一揆の気配は絶えずあったが・・・監視もままならない状況である。
そもそも・・・誰のために忍び働きをするか・・・という問題が生じている。
杉の一族も・・・楫取素彦のように大出世したものから・・・松下村塾を再興し、不平士族の溜まり場と化している玉木家まで・・・立場や意見を異にしている。
忍びは乱においては戦働きをし、治においては見張りをするものである。
しかし・・・幕藩体制が消えた今・・・治の行方は定かではなかった。
(もはや・・・しのびやくのいちの時代ではないのかもしれぬ)
美和は維新後の動乱の後・・・抜け忍が続出した頃から・・・その思いに囚われていた。
「美和様・・・」
庭から忍びが呼びかける。
伊藤博文の隠し子の一人で幼名を猿二郎といった少年忍者である。
今は伊藤佐助を名乗っている。
今、美和の子飼いの忍びといえるのは佐助一人だった。
父親は政府の高官として大出世しているわけであるが・・・育ての親でもある美和を慕い・・・佐助は忠実な忍びとして仕えているのだった。
「明倫館の様子はどうじゃ・・・」
「人数が集まっています・・・どうやら・・・決起は避けられぬようです」
「・・・」
「玉木家や杉家の方々も・・・戦支度をしています」
「やはり・・・なるようにしかならぬな・・・」
美和は・・・甥たちに・・・それとなく意見したのだが・・・流血の定めを変えることはできなかった。兄・吉田松陰の定めた未来は・・・呪いのようにこの世を呪縛している。
すでに・・・県内に入った政府軍の密偵たちは・・・電信を使って危機を政府に報告していた。
一方で・・・義にこだわる男たちは昔ながらの回状で決起を促していた。
「佐助・・・お前も好きにしていいのだぞ・・・」
「・・・」
「この騒ぎが終わったら・・・私は帝都東京に参るつもりじゃ・・・」
「・・・」
「銀姫様につけた薺や蘿蔔が・・・岩倉卿のくのいちたちに・・・手こずっているようなのでな」
「新政府は・・・華族の没落を画策しているのですね」
「俸禄はすくないほど・・・いいからのう・・・」
「口減らしですか・・・」
「一緒に帝都に参るか」
「美和様の行くところ・・・どこにでもついて参ります」
「・・・」
美和は忍びの師として育てた佐助に人として情を感じていた。
くのいちとしては失格である。
しかし・・・時代は・・・それを許すのだった。
(東京で一働きしたら・・・次は群馬か・・・これは手がかかりそうな・・・)
一県を治めるための諜報組織の形成は大事業だった。
しかし、姉の寿とともに先発したくのいちたちがすでに工作を開始している。
成功の手ごたえはあった。
兄の夢見た・・・富国強兵の時代が始まろうとしている。
(やはり・・・どんな時代になっても・・・忍びはなくならぬか・・・)
美和は佐助を台所に招く。
握り飯を振る舞うつもりである。
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