二人だけの秘密だよ(綾野剛)私は空気が読めない(松岡茉優)先天性風疹症候群というリスク(山田望叶)
妊娠は病気ではありません・・・いや・・・病気なんじゃないか。
ヒューマニズムという・・・不可解な思想はデリケートな問題をオブラートに包む。
サイコパスにとってはいろいろと厄介なことである。
「命の大切さ」を説きながら殺虫剤に点火することの不条理におりあいをつける必要から・・・人間第一主義は生まれる。
暗黙の了解とか・・・不文律とか・・・そういう曖昧なルールが法の抜け穴を生み出していくのである。
喫煙という刺激が・・・刺激的なことは明らかである。
飲酒も刺激的だし、観光旅行も刺激的だ。
そういう刺激を求めることと適度な安静は対立するに決まっている。
しかし、無知や怠惰は・・・人間の不完全性の表出でもある。
感染症というリスクに刺激されるかどうか・・・情報と言うものへの接し方の問題がある。
特別な細胞分裂は個人と世界の接点である。
人の道は・・・世界へと続いて行く。
それが「病」の一種であることは間違いない。
で、『コウノドリ・第3回』(TBSテレビ20151030PM10~)原作・鈴ノ木ユウ、脚本・山本むつみ、演出・金子文紀を見た。性交・受精・妊娠・出産というシステムで繁殖する人類は哺乳類として動物の王座に君臨する。しかし、ハロウィンで冥界から逆流する悪霊は時に人類の繁殖を妨害する。妊娠10週までに妊婦が風疹ウイルスに初感染すると90%の胎児に様々な影響を及ぼし先天性風疹症候群の新生児を誕生させることがある。喫煙は女性ホルモン生成に必要な酵素を抑制し、卵巣機能不全にする。喫煙期間が長いければ卵子や胎芽が減少し、喫煙量が増えれば卵子の質が低下し受精率が低下し、妊娠中の喫煙は早期破水、前置胎盤、胎盤異常、妊娠期間短縮、自然流産、早産、難産、死産、周産期死亡、新生児死亡、未熟児、妊娠合併症などのリスクを高める。妊娠中の海外渡航は想定外の出来事に対して妊婦の主治医が関与しにくい場合がある。顧客獲得の必要性に迫られて「リラックスのためにマタニティー旅行はいかが?」と推奨する旅行業者は悪霊に憑依されているのかもしれない。飲酒はこれらの事象をはるかに凌駕するリスクであるがスポンサーの顔色を窺う場合にはネタとしてスルーしましょう。
後期研修医の下屋加江(松岡茉優)は若さゆえに転びやすい。
「四宮先生は・・・患者に人気がありません」
「まあ・・・妊婦さんは患者ではないのだけれど・・・妊娠は病気ではないからね」
「あ」
鴻鳥サクラ(綾野剛)は四宮春樹(星野源)の過去について「ここだけの話」を始める。
下屋や助産師の小松(吉田羊)の誤解を修正するためである。
情報の共有はリスク管理の基本だ。
サイコパス要素の低い人間は感情で左右されやすく、円滑な人間関係の醸成はリスク低減に欠かせない。
サクラと四宮はかって・・・喫煙によるリスクを無視した妊婦と胎児の異常出産に立ち会った。四宮は妊婦に嫌われることを惧れ、「禁煙」を強く推奨しなかった。妊婦が子宮の温存を希望していたために子宮摘出の判断が遅れ結果として母親は死亡した。新生児は後遺症として昏睡を続ける「つぼみちゃん」として・・・五年間・・・入院を続けている。父親は事態に対応できずに家庭は崩壊した。
四宮は・・・つぼみの部屋へ夜毎通い続ける傷心者なのである。
「四宮先生は・・・喫煙妊婦に厳しいし、子宮温存よりも母体優先の傾向が強いのです」
「・・・」
下屋の知らないことは多い。
研修医仲間の白川(坂口健太郎)は好きな女の子を口汚く罵るタイプなので下屋に構うのだが・・・下屋は知らないのである。
助産師の角田真弓(清野菜名)が気配り上手でさりげなく白川に給仕していることは下屋に対するライバル宣言なのだが・・・下屋は知ったこっちゃないのである。
サクラが担当する妊娠安定期に入った根岸若菜(佐藤栞里)は夫の大輝(渡辺裕太)と共に海外のリゾート地にバカンスに行く計画を話す。
「安定期は・・・安全期ではありません・・・赤ちゃんの生育に必要な条件が整ったというだけで・・・お奨めできません・・・何かあっても・・・私が飛んでいけませんし」
「え・・・ドクターヘリとか」
「国境は越えられませんから」
下屋は流行に敏感である。
「マタたびですね」
「なんだい・・・それは」
「マタニティー旅行ですよ・・・マタニティー・ブルー回避のためのリフレッシュです」
「妊娠そのものがブルーになるわ」
「あ」
下屋はうっかりさんである。
新生児科の今橋医師(大森南朋)がサクラに盲目の少女ピアニスト・瀬戸遙香(山田望叶)を紹介する。
「この人・・・誰ですか」
「君が生まれた時のお医者さんだよ」
「その節はお世話になりました」
「どういたしまして」
遙香の母親の加奈子(石田ひかり)は顔に苦労の滲みでる女である。
加奈子は妊娠中に風疹を発症し、そのために先天性風疹症候群によって遙香は心臓疾患を抱え、白内障も患い目が不自由となってしまった。
そんな遥香に加奈子の夫・啓介(音尾琢真)の知人の報道関係者から「風疹の予防接種を啓蒙するためのテレビ番組」への出演依頼があったらしい。
同席した下屋は無思慮に発言する。
「それは素晴らしいですね・・・妊娠初期に風疹にかかるリスクは周知されていませんし」
「私は・・・反対なのです・・・それでなくても・・・ハンデを抱えているあの子を世間の好奇の目にさらすのは・・・」
「あ」
「目が見えないから・・・他人の視線は気にならないのでは・・・」という言葉を流石に飲み込む下屋である。
加奈子のやつれ方に・・・娘に障害を負わせてしまった愚鈍な母親の気配を察したのだった。
下屋は・・・まんざら空気の読めない子ではない。ただ、少し口が滑るだけなのだ。
「そのこと」に触れたくないのは母親自身だったのだ。
「そうですか・・・」
言葉を濁す大人のサクラだった。
「あの子・・・ジャズピアニストのベイビーのファンなんです」
「ベイビー・・・誰ですか」
今橋医師は問う。
「知らないんですか・・・凄い人気のピアニストですよ・・・見た目は少し、のだめのミルヒーに似ています」
下屋の知らないことは多い。
「ミルヒー・・・」
むせかえるサクラ・・・ベイビー本人である。
「週末・・・あの子の誕生日に・・・ベイビーのライブへ連れて行く約束をしています」
「うわ・・・いいなあ」
「・・・」
喫煙の習慣をやめられない木村法子(山田真歩)が道に倒れていると・・・ドラマ的な運命に基づき通りかかる四宮。
「あなた・・・まだ・・・喫煙していたのですか」
「先生・・・赤ちゃんを・・・赤ちゃんを助けてください」
「ちっ」
舌打ちはしないで・・・緊急搬送する四宮だった。
喫煙を憎んで喫煙者を憎まずである。
法子は喫煙リスクによって発症の可能性が高まるとされている胎盤早期剥離で母子ともに危険な状態だった。
サクラも駆けつけ、診断の結果、緊急の帝王切開による出産が決断される。
「カイザーします」
「出血も多いぞ」
「胎児の心音弱くなっています」
修羅場である。
「胎児出ました」
四宮の心の傷は記憶のフラッシュバックによって開き・・・心の血が流れ出す。
「出血が止まらない」
「四宮」
「だめだ・・・子宮を全部摘出するしかない」
「四宮」
「死ぬぞ・・・また死ぬぞ」
「四宮」
「また殺すのか」
「落ちつけ・・・赤ちゃんは無事生まれた・・・あの時とは違う・・・」
「・・・サクラ」
「処置を続けるぞ・・・」
修羅場で施術中の医師が正気を失う。
恐ろしい体験をして震える下屋だった。
この世には・・・下屋の知らない世界がまだまだあるのだった。
母子ともに救われた病室。
「先生・・・喫煙してすみません」
「・・・」
「先生・・・赤ちゃんを助けてくれてありがとう・・・」
「・・・まだ油断はできません・・・できるだけ・・・安静にしてください」
正気を取り戻す四宮。
遥香の母親加奈子は今橋に報告する。
「あの話は断りました」
「そうですか・・・親は子供が転びはしないかと案じるものです」
「はい・・・」
「しかし・・・転ばない子供はいません」
「・・・」
「転んだ時に・・・手を差し伸べたり・・・起きあがることを教えられる親でありたいと・・・私は思っています」
遥香のバースデー。
ベイビーのライブ会場に着席する瀬戸夫妻と十歳の遥香。
ベイビーは突然、客席にやってきて・・・遥香をステージに招く。
「一緒に引きましょう・・・」
「できるかな・・・」
「昔・・・神様は悪い人間に罰を与えるために洪水をおこしました・・・神様はやりすぎたと思って・・・もうしないと人間に約束しました・・・その証が虹なのです・・・虹を渡れば苦難の果てに希望はいつもあるのです」
「クヨクヨしたってしょうがないって話ね」
「その通り・・・」
響き渡るベイビーと少女の奇跡の連弾。
会場は歓喜する。
加奈子は・・・娘の成長に驚くのだった。
「あの子・・・一人で生きていくのね」
「そうさ・・・だれもが・・・いつかは旅立つのだ」
加奈子は肩の荷を下ろす。
「お誕生日おめでとう・・・」
「ありがとう・・・サクラ先生・・・」
「え・・・」
「声と匂いと手触りでわかるのよ・・・」
「・・・内緒にしておいてくれるかな」
「そうね・・・誰にだって秘密にしておきたいことがあるもの」
「君は・・・大人だね」
「でも・・・手を出したら犯罪になるのよ」
「だね」
下屋の知らないことは多いのである。
遥香はテレビに出演した。
「悲劇をくりかえさないために・・・ワクチン接種を推奨します」
旅行好きの根岸夫妻がやってくる。
「ワクチン接種を受けることにしました」
「よろしいですね」
「旅先でキャリアに会ったら大変ですからね」
「え」
「海外旅行はあきらめました」
「よろしいですね」
「で・・・沖縄県のリゾート地に行くことにしました」
「え」
「国内ならドクターヘリは」
「飛びません・・・コードブルーじゃありませんから」
下屋の知らないことは多い。
しかし・・・一般人は下屋よりずっと無知なのかもしれない。
それでいいのだ。
人類はそうやって・・・なんとなく繁殖し続ける。
人生の終焉・・・この世の終わりまで・・・。
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