犬や猫なら妊娠しても叱られないのにね(綾野剛)14才の母2015(山口まゆ)
「14才の母・愛するために生まれてきた」(2006年)はもう一昔前になろうとしているんだな。
流れて行く歳月・・・未希(志田未来)が産んだそらちゃんも九才になっているわけである。
さて・・・今回、中学生聖母を演じるのは山口まゆである。
「聖女」の主人公・肘井基子の幼少期や、「アイムホーム」で野沢すばると・・・存在感を示してココなのである。
なかなかに・・・将来性を期待されている感じがあるよねえ・・・。
もちろん・・・ワンクールできるネタを一話でお届けするわけなのでややライトでコンパクトにまとめているわけなのだが・・・山口まゆは早すぎた妊娠・出産をする女子中学生として「突如として子供から母親になっていく女」を演じるわけである。
なにしろ・・・世の中に出産経験者は星の数ほどいるので・・・アレなのだが・・・とにかく・・・出産直後に子供を奪われてしまう母親の悲しみは見事に演じていたと考える。
とにかく・・・そういう制度(社会)の前に・・・人間は無力なものなのだ。
で、『コウノドリ・第5回』(TBSテレビ20151113PM10~)原作・鈴ノ木ユウ、脚本・山本むつみ、演出・土井裕泰を見た。今回は登場するゲスト脇役たちが重厚な感じになっていて・・・深刻な問題をスピィーディーだけど・・・それなりに深みのあるものにしている。社会という枠組みが・・・出産適齢期や・・・出産に相応しい経済力などを要求し・・・そのために少子化が生じるという「制度」の不思議さを垣間見せるわけである。一万年続いた縄文時代にも許されない妊娠はあったかもしれないが・・・生むことも生きることももっと自然と同じ営みだったのではないか・・・と思うのだ。
周産期母子医療センターが設置されているペルソナ総合医療センターの産科医・鴻鳥サクラ(綾野剛)は医療ソーシャルワーカーの向井祥子(江口のりこ)から「性教育」の講師を依頼され戸惑いを見せる・・・と思う間もなく14才の少女が妊娠八カ月の身重の体で入院してくるのだった。
幼い妊婦は吉沢玲奈(山口まゆ)で胎児の父親は同級生の元倉亮(望月歩)である。
玲奈は自分が妊娠したとは気がつかず・・・部活の際中に貧血で倒れ・・・校医が気がついた時には出産まで残り八週となっていたのだった。
亮の父親は地方の名士である元倉和雄(螢雪次朗)であり、世間体を憚って旧知の仲であるペルソナ総合医療センターの大澤院長(浅野和之)に泣きついたらしい。
玲奈の妊娠は不祥事なのである。
玲奈の家は母子家庭・・・玲奈の父親は八年前に離婚が成立してから音信不通で・・・玲奈の母親・吉沢昌美(中島ひろ子)は経済的にギリギリの生活をしている。出産の費用などについて元蔵家は援助するが・・・養育については責任が持てないという話し合いが親同士で行われ・・・とにかく・・・吉沢母娘は・・・どうしていいかわからない状態で・・・入院したのだった。
エコー画像を見た玲奈は「CGみたい」と感想を言い・・・「二ヶ月後のバスケットボールの試合に出場できるか」を問い・・・「麻酔で痛くない出産」を希望する。
後期研修医の下屋加江(松岡茉優)は・・・おそらく処女なので・・・若いみそらで経験豊富な少女に・・・ご立腹なのである。
しかし・・・サクラは少女に胎児と真摯に向き合うように諭すのだった。
「君のお腹の中には生命が宿っている・・・君はまだ成長段階にあるために・・・無事出産するためには・・・それなりに覚悟が必要になるよ」
「・・・」
経済的には玲奈の母親にも・・・玲奈の子供を育てることは難しい。
そんな時・・・矢野夏希(清水富美加)の産んだ乳幼児矢野こころの定期検診のために「イレーネ乳児院」の職員・加賀美美智子(北浦愛→浅茅陽子)がやってくる。
加賀美はサクラを見て懐かしそうにするが・・・サクラはピンと来ない。
「ぜひ・・・一度イレーネ乳児院に来てください」と加賀美は誘うのだった。
イレーネ(エイレーネー)は平和の神であると同時に生命の芽吹きを意味する春の女神である。
そこには・・・理由あって母親の元を離れた乳児たちが過ごしているのである。
やがて・・・サクラは・・・加賀美が誰かを思い出すのだった。
「美智子ママ・・・」
一方、新生児科の今橋医師(大森南朋)の元には特別養子縁組の斡旋をする「つぐみの家」の職員・笠原節子(烏丸せつこ)が訪れていた。
「両親に恵まれない子供のために・・・子供に恵まれない夫婦を紹介いたします・・・あくまで・・・特別養子縁組は子供の欲しい親のための制度ではなく・・・子供の福祉のためのための制度なのです」
「・・・」
つぐみの語源が・・・夏に口を噤むことからを想起させる・・・笠原節子の秘密めいた存在感・・・である。
出生の秘密は他言無用的な・・・。
玲奈の子供の将来の選択肢として・・・「つぐみの家」に出向くサクラと下屋・・・。
紹介された不妊治療に疲れた早見夫妻(土屋良太・滝沢涼子)の切実さ・・・。
「血の繋がっていない子供を愛せるものですか・・・」と直球を投げる下屋。
「子供は・・・天からの授かりものだと思っています」と応じる夫妻。
「デンデケデケデケな感じで」
「デビュー作ですか」
・・・おいっ。
数週間後・・・胎児が自分の中で蠢動することに・・・生命の息吹を体感する玲奈は・・・真剣に子供のことを考えるようになっていた。
サクラは加賀美の記憶を取り戻し・・・イレーネ乳児院を訪問する。
加賀美はサクラにとって第二の母親だった。
最初にピアノを教えたのはサクラだったのだ。
「あなたのこと・・・思い出しました」
「そう・・・」
古びたピアノは・・・ホンキイ・トンク(調律不足)になっていた。
サクラはピアニスト・ベイビーとなり、「キラキラ星変奏曲/モーツァルト」を演奏する。
「まあ・・・サクラちゃん・・・上手になったのね」
「あなたが・・・教えてくれたから・・・」
加賀美は昔を思い出し涙ぐむ。
サクラを養護院に送りだした時・・・泣いてしまって見送れなかった若き日の自分。
去って行くサクラに加賀美は呼びかける。
「さよなら・・・サクラちゃん・・・元気でね」
「加賀美さんも・・・お達者で」
玲奈は母親に問う。
「私を産んだ時・・・痛かった」
「そりゃ・・・もう痛かったわよ」
「ごめんね」
「嘘・・・あなたが生まれたら痛みなんかふっとんじゃったわ」
玲奈は・・・陣痛に立ち向かう決心をするのだった。
「鴻鳥先生はどうして産科医になったのですか」
玲奈に問われ・・・サクラは生い立ちを語るのだった。
「僕には三人のお母さんがいる。最初のお母さんは僕を産んだ後に亡くなった。乳がんだったんだ。僕にはお父さんもいなかったので・・・僕は乳児院に預けられた。そこで加賀美ママにピアノを教えてもらった。それから養護施設の小野田ママにピアノの腕を磨いてもらったんだよ・・・僕を産んでくれた母は僕を産むために・・・リスクを伴う乳がん治療は行わなかったらしい・・・僕は・・・お母さんも赤ちゃんも無事でいられる手伝いをしようと思った・・・だから産科医になったんだ」
居合わせた下屋はサクラの生い立ちにショックを受けるのだった。
「施設で育って・・・辛かった?」
「施設で育つということは・・・いろいろと大変なこともある・・・だけど・・・僕は三人のお母さんからたくさんの愛をもらったと思っている・・・だから・・・自分が不幸だと思ったことはないよ」
幼い玲奈は・・・精一杯・・・生まれてくる子供の居場所について考えていた。
「私も・・・お母さんも・・・子供を育てるのは・・・無理だと思う・・・だから・・・この子は養子に出します・・・」
「うん・・・それが君の答えなんだね」
「はい」
出産の時が来た。
陣痛の間隔は狭まり・・・玲奈は苦痛に喘ぐ。
その叫びを・・・胎児の父親である亮は深刻に受け止める。
産声とともに・・・新生児が誕生する。
「おめでとう」
玲奈の顔に浮かぶ母親の表情。
「じゃあ・・・そろそろ・・・連れて行くよ」
サクラは新生児を取り上げる。
玲奈の顔に浮かぶ・・・苦悩。
(嫌・・・連れていかないで・・・)
しかし・・・制度はそれを認めない。
人間はそういう制度の中で生きていることを玲奈は思い知らされる。
新生児は・・・早見夫妻の手に渡った。
制度は・・・半年間・・・早見夫妻を試すのだった。
それぞれの心に・・・それぞれの痛みを残して・・・一人の人間が生まれた。
すべては男と女が愛し合った結果である。
人間が人間を妊娠しても妊娠させても誰もが叱られない制度はまだない。
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