もう、ここらでよか・・・明治十年(1877年)露土戦争(井上真央)
士族反乱という内戦は「西南戦争」で一応の終止符が打たれる。
戊辰戦争で東北を統一し、西南戦争で九州を統一した大日本帝国はようやく国家として成立したのだった。
幕藩体制という士族を中心とした軍事力が明治政府による徴兵制の軍事力へと変換されたのである。
形骸化した幕府よりも雄藩の軍事力が勝り、諸藩の軍事力よりも新政府の軍事力が勝る。
まさに「力こそ正義」の時代に日本はようやく参入する。
欧米列強の侵略するアジアに・・・日本という対抗勢力が誕生したのである。
それを「悪」と単純に断ずるのはあまりに愚鈍と言えるだろう。
有色人種を「人」と思わない白人たちの横暴は・・・現在も続いているが・・・そこに一定の歯止めをかけたのは・・・「黄色いサルたちの反抗」に他ならない。
「不戦こそ正義」を振りかざす狂信者たちの背後に何が潜んでいるのかを心ある人は考えなければならない。
で、『花燃ゆ・第45回』(NHK総合20151108PM8~)脚本・小松江里子、演出・深川貴志を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回も年末年賀状体制発動のためにイラスト描き下ろしはお休みです。視聴継続が苦行のような大河ドラマもいよいよ終盤戦でございます。・・・幕末・明治維新の点描ということでは一つ一つの「出来事」はそれなりに描かれている「ざけんなよ大河」でございますが・・・一番興味深いのが「紀行」部分にあるという・・・なんともいえない展開ですな。ドラマの途中に(※注)があって・・・たとえば今回は突然現れた船津伝次平はこんな人→紀行で解説・・・なんだか学習参考書のような展開でございます。ド、ドラマっていうのは・・・そういうんじゃないんだからねっ・・・という気分になりますなあ。暇をもてあました県令夫人の妹が・・・群馬をほっつき歩いて人材発掘みたいな・・・「三国志」ゲームの人材発掘コマンドかよっ・・・特に資料の残っていない杉文→楫取美和子という主人公の設定が・・・甘かったというしかないですな。軍学者の妹という武家の娘なので・・・文武両道でよかったのではないか・・・という気がします。奥御殿では軍師の真似事をしているし、幕末の剣士・桂小五郎の嫁候補でもあったわけですから・・・懐剣の達人くらいにしておくと・・・架空の見せ場はいくらでも作れたと思われ・・・なにしろ・・・一途な女であることは明らかなので・・・千葉さな子的キャラクターを付与していれば・・・物凄く魅力的になったのではと妄想する今日この頃です。
アジアの北部に横たわるロシア帝国は不凍港を求め蠢動する南下政策国家である。西ではオスマン帝国に侵攻し、東はシベリア経由で満州、朝鮮半島、樺太に進出を狙う。明治八年、明治政府は樺太千島交換条約をロシアと締結し、樺太全島はロシアの領土となった。オスマン帝国を支持した欧米列強の介入により敗北を喫したクリミア戦争から二十年、明治十年(1877年)、徴兵制を採用したロシアはオスマン帝国版図内のスラブ民族支援を口実に再びバルカン半島への進撃を開始するのだった。ペルシア、インド、清と各方面でロシアと欧米列強を代表する英国は暗闘を繰り返す。迫りくるロシアの南下に備えて大日本帝国は士族という特権階級を擁護する最期の半独立国・薩摩を討つ。盟友・西郷隆盛との決戦に・・・木戸孝允は衰弱し病死。親友・大久保利通は号泣する。十一月、大久保が総裁となり日本の産業振興を図った第1回内国勧業博覧会は上野公園で無事に幕を閉じる。西南戦争で国家予算をすべて使い切り・・・国庫は空になっていた。産業育成には資本家を育成する必要があり、資本家が登場すれば貧富の差は拡大する。富国強兵を進める新政府の前に・・・貧困から生まれる無政府主義者の群れが立ちはだかるのだった。
慶応十三年、秋・・・。
萩の港には長州藩軍自慢の新鋭軍艦・長門が停泊していた。
第14代将軍・徳川慶喜はついに征韓の布告を各藩軍に発したのである。将軍家御台所の和宮は元服した長子・徳川家孝とともに伊勢神宮で必勝を祈願したという。
長州藩軍主の毛利元慶は全軍に出陣を命じた。
萩城下に陣太鼓が響き渡る。
「いってらっしゃいませ」
長州藩軍参謀長の桂小五郎は軍装に身を固め家老屋敷を出る。
その姿を正妻の杉文は見送る。
「安心せい・・・松陰先生が幕府で作戦計画を指導している以上・・・征韓は必ず成功する」
夫の言葉を反芻する文・・・。
長門艦長の久坂玄瑞は・・・長州藩軍総司令の高杉晋作大将を迎える。
長州艦隊長官の松島剛蔵は指令室で高杉を待っていた。
「輸送船団への兵の乗船は終了しましたか」
「無論・・・急がねば薩摩の西郷や、土佐の坂本に遅れを取るからな」
「ふふふ・・・天候もよく・・・長州藩軍の一番槍は保証いたしますぞ」
「頼み申す」
「久坂・・・出航じゃ」
「かしこまってそうろう」
長州海軍は先陣として中継点の対馬を目指す・・・。
蒸気をあげて出航する軍船を見送り・・・文は・・・祈る。
(どうか・・・夫をお守りくださいませ・・・)
ぐらりと船が揺れて、久坂美和子は目覚めた。
夢と現実の境界線で桂小五郎の妻となった文と久坂玄瑞の未亡人である美和が引き裂かれる。
現実の時空間に同化しながら美和は急速に薄れゆく夢の残滓を追いかける。
(まるで・・・時間の壁の向こうにもう一人の自分がいるかのようだった)
毛利家所有の河川蒸気船「まつかげ」は美和と部下の忍びたちを乗せ利根川支流を遡上している。
利根川、鬼怒川、荒川などの武蔵野の河川は水運によって関東の経済を支えているのだ。
帆船に混じってかなりの数の蒸気船が水上にあった。
美和の姉の一人・・・楫取素彦夫人の寿子から救援要請があり、毛利家の忍び頭である美和は主人・元徳の許しを得て群馬県前橋に向かっている。
寿子は襲撃され、毒に侵されたらしい。
美和の読心術でも・・・寿子の脳内は混乱している。
その混乱を読み解くうちに・・・うたたねをしてしまったらしい。
「美和様・・・」
配下の伊藤佐助が注意を促す。
「わかっておる・・・」
美和は上流に強い殺気が待ち受けているのを読みとっていた。
群馬県ではただならぬ事態が発生しているらしい。
露天である蒸気船の甲板に身を起こした忍びたちは戦闘準備を整える。
美和は敵の心に見えない触手を伸ばす・・・。
(これは・・・土佐の科学忍者隊・・・)
九州で西郷と大久保が雌雄を決する戦が展開している時・・・群馬では・・・長州と土佐の暗闘が始っていたのだ。
関連するキッドのブログ→第44話のレビュー
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