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2015年11月30日 (月)

とる糸のけふのさかえを初めにてひきい出すらし国の富岡・・・明治十三年横浜同伸会社設立(井上真央)

「富岡は糸によって国家に栄光をもたらすらしい・・・」と明治六年、昭憲皇太后は富岡製糸場に行幸され歌を詠まれた・・・。

幕末に切腹して果てた長井雅楽の長女である長井貞子も明治になって富岡製糸場の「工女」となった。

富岡製糸場は新政府が主導し、近代的な器械製糸技術普及させる・・・つまり士族や公家の娘たちが先進技術を学ぶ場であった。

一方で・・・「わたしゃ女工よ儚ない小鳥・・・羽根があっても飛べもせず」という「女工」の哀歌が残されている。

産業近代化の持つ二つの側面・・・「富岡製糸場」の「工女」たちとその他の「製糸場」の「女工」たちは別々の存在なのである。

教養ある「工女」たちは「源氏物語」を読んだりもするだろうが・・・親の借金で売られた「女工」たちは豚小屋生活をするのだった。

良家の子女たちによる御飯事のような「工女」と・・・社主に搾取されまくる「女工」・・・どちらが「富国強兵」の礎となったかについては言及を避けたいと思う。

女工節は「男軍人女は女工・・・糸をひくのも国のため」と続くのだ。

「富岡製糸場」と「野麦峠」の間には暗くて深い河があるのだった。

もちろん・・・この大河ドラマはそういう深淵には近寄らないし・・・前橋藩士で製糸業の技術スペシャリストとして官営富岡製糸所の3代目所長を務めた速水堅曹も登場しない。

そこにあるのは・・・幻想の富岡製糸場だけである。

で、『燃ゆ・第48回』(NHK総合20151129PM8~)脚本・小松江里子、演出・安達もじりを見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回も年末年賀状体制発動のためにイラスト描き下ろしはお休みです。明治時代を描くのは・・・そんなに難しいかなあ・・・と涙目の日々でございます。もちろん・・・主人公の初恋の人は世が世なら・・・上野国の国主とも言うべき県令様に出世していて・・・新政府の名代として群馬県を支配する立場にある。その日常は多忙でしょう。しかし・・・高崎藩や・・・前橋藩にいた士族たちはどこに消えたのか・・・。そして官庁に商人たちが官吏として幅を利かせているのは何故か・・・米を作っている農民たちは絶滅してしまったのか。県令として一番大切な仕事・・・新政府に対し県民たちに年貢の代わりに税金をどうやっておさめさせたのか・・・県令屋敷の掃除をする女中さんはいないのか。安中からやってきて「公娼廃止運動」を始める八重関係のクリスチャンたちはどうしているのか・・・すべてをスルーして・・・「夫を亡くした妻」と「妻を亡くした夫」の「前橋の恋の物語」をどうしてもやらなければならないのか・・・まあ・・・もう・・・日清戦争も日露戦争もないままに・・・二人の明治は終焉を迎えるのですな・・・あはは・・・あはははははは。なんだか天使に噛まれて「トルコ行進曲/モーツァルト」を歌いたい気分でございます。

Hanamoe48明治十四年(1881年)、楫取素彦の妻・久子が他界した時点で久坂玄瑞の未亡人・美和子は数えで三十九歳。素彦は五十三歳になっている。杉家としては出世した楫取と疎遠になることは好ましくなく、杉瀧が素彦の後妻に美和子を強く推したことは深謀遠慮と言えるだろう。この年、中央政界は薩長出身の官僚たちがついに派閥の最終形態に突入する。公家を代表する岩倉具視を・・・長州の伊藤博文が抑え込み、外務・内務という政治の主要ポストを長州が・・・大蔵・農商という経済の主要ポストを薩摩が抑え、陸軍は長州、海軍は薩摩と軍事が分割される。十二年後には・・・日清戦争が控えているのである。内務卿から大蔵卿へ転任する松方正義は大胆な経済改革を実行し、帝国の経済を破綻寸前にまで追い込む。官営富岡製糸所所長で内務省御用掛だった速水堅曹は・・・外国資本に対抗するために全国的蚕糸業団体である日本蚕糸協会の設立を松方に提案する。収益改善を追求する企業家的経営が実践され・・・日本の製糸業は黒字に転ずる。それは没落者と成功者を産む経済界の弱肉強食時代の到来を意味した。

利根川に毛利水軍旗をはためかせ河川砲艦「はぎ」「みたじり」「しものせき」が現れた。

爆裂弾が群馬県庁である前橋城を包囲する反乱軍に撃ちこまれ、軍兵を混乱させた。

楫取素彦はこれに呼応し、前橋城の鉄砲しのびたちに射撃を命ずる。

恐怖を感じた雑兵たちは敗走を開始する。

「くそたれが」

岩崎弥太郎は敗色が濃厚なのを感じ取り、悪態をつきながら撤退を開始する。

河川砲艦と城から追いうちをかける砲弾が降り注ぎ・・・城下には血の雨が降った。

美和子は勝利にわく・・・前橋城に入城する。

「義兄上・・・戦勝おめでとうございます」

「うむ・・・苦労をかけたな」

県令・楫取素彦は東京の毛利家との橋渡しをした美和子を労う。

その時・・・美和子は殺気を感じ取った。

出城となっている楫取が建設した公設遊郭・上野楼に何者かが狙撃を試みていた。

(姉上・・・)

美和子の念波に久子は感応した。

危険の正体を見極めようと振り向いた久子の眉間に空洞が生じる。

(姉上・・・姉上・・・)

(旦那・・・さ・・・)

久子の意識が闇に消えて行く。

遠距離射撃を終えた暗殺者は・・・迅速な逃走を開始していた。

美和子は意識を飛ばしてその行方を追う。

しかし・・・敵は霧の中に朧のような影を残すばかりである。

(すまぬな・・・渡世の義理だ・・・)

敵は嘲笑するように美和の意識に接触してきた。

恐ろしいほどに冷徹なくのいちの顔が美和の心に浮かぶ・・・。

伝説のスナイパー八重は微笑んでいた。

岩崎の金で買われたらしい・・・。

美和子は唇をかみしめた。

毛利家の勝利が運命で定まっていたように・・・久子の死も定まっていたのである。

吉田松陰の決定した未来はけして動かない。

それはまだまだ多くの血を欲していたのだ。

革命とは呪いに他ならないのだから・・・。

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明治14年の八重の桜

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2015年11月29日 (日)

一人寝の秘密探偵(新垣結衣)今日という日を大切に(岡田将生)暦の上ではまだ十一月(林愛夏)

あまちゃん」の影は長い。

もちろん・・・所属事務所の影も長いのである。

新垣結衣と能年玲奈は同じ事務所に所属している。

暦の上ではディセンバー」が第64回NHK紅白歌合戦で披露された時にアメ横女学園のメンバーとして参加したベイビーレイズJAPANの林愛夏の登場である。

同じ事務所なのである。

女性アイドルグループのブームが一つの頂点に達した2013年・・・それは過ぎ去った一年である。

リセットできる砂時計(一年用)があれば・・・ひっくり返して2013年の元旦を迎えたいものだ。

四月になれば「あまちゃん」が始る・・・あの年。

今はこの世から消え去った人々がまだ・・・笑い涙した日々。

しかし・・・過ぎ去った一日が戻らぬように過ぎ去った一年も戻らない。

それでも人々は生きて行く。

人生の砂時計(サンドグラス)がサラサラと落ちて行くから。

で、『掟上今日子の備忘録・第8回』(日本テレビ20151128PM9~)原作・西尾維新、脚本・野木亜紀子、演出・茂山佳則を見た。記憶について人々が何を記憶しているかは謎である。認知症という障害において・・・記憶は重要な要素となっている。認知症はある意味、記憶力の差異の病と言える。記憶力の優れた人間にとって・・・そうでない多くの人間はみんな認知症だと言えないこともないのである。私が覚えていることをどうしてあなたは忘れるのか・・・誰もがそう言いたい時がある。しかし・・・あなたにとって重要なことが私にとって重要ではなかったという答えが返ってくる場合もある。そういう時、殺人事件が発生することがあるのでご注意ください。

一日で・・・記憶がリセットされる人間なんて・・・いるのかよ・・・と思わず考えてしまう人間も・・・掟上今日子(新垣結衣)の存在にそろそろ馴染んできた・・・ということで。

掟上今日子の主観による一日の始りである。

目が覚めた時に・・・天井の「お前は今日から掟上今日子探偵として生きていく」という見慣れぬ文字を発見した今日子がなぜ驚愕するのか・・・お茶の間には分かっているわけだ。

優秀な観察力と洞察力を備えた今日子は・・・腕にかかれた文字を発見する。

「私は置手紙今日子探偵記憶が一日でリセットされる」

今日子は・・・そうなる以前の記憶も持っている。

一般的には・・・それが前日の記憶と考える人もいるだろう。

しかし・・・たとえば五年前のある日のことを思い出してもらいたい。

あなたはその日のことを鮮明に思い出せるだろうか。

もちろん・・・特殊な記憶力の持ち主もいて・・・生まれてから今までのすべての記憶が再生できるかもしれない。

しかし・・・多くの人間は五年前のある日の記憶は曖昧なものだ。

今日子にとって・・・おそらく・・・記憶を失う前の日々はそういう忘却の霧の彼方にあるのだろう。

だから・・・「リセット」された膨大な一日について・・・今日子はしばらく考える。

太股に書かれた「サンドグラスの電話番号そしてサンドクラスの三人の名前」を発見すると・・・今日子は自分に「人間関係」が残されていることを知る。

「人間関係」が「以前」と「以後」のどちらに属しているかは不明である。

お茶の間は・・・さらに「厄介さん信用できる」が残されていることから・・・これが「須永昼兵衛の死の真相」が解明された後の話だと知ることができる。

今日子は・・・「寒さ」から「冬」に気付き・・・前日に自分が用意した「今日の服」を発見する。

空腹から「食」を求め・・・冷蔵庫が「空」であると知る。

金庫を発見し・・・「熊一匹と鳩四羽」の暗号からとりあえず画数検索をし・・・熊十四画、一一画から・・・二の平方根である1.41421356(一夜一夜に人見頃)を連想・・・それが解除に必要な番号であることを確信する。

生活に必要な「金」が確保されていることに安堵する今日子。

ここで・・・お茶の間は二つのことを暗示される。

「やっかいさん・・・」という読み間違えで隠舘厄介(岡田将生)が忘れ去られていること。

そこにいない猫に話しかける今日子の不可解な行動により・・・今日子の心に思い出せないが覚えている何かがあるということ。

つまり・・・それが・・・厄介という「人間」について今日子の中で「何か」が育っているという話のポイントなのである。

もちろん・・・そういうことがわからない人は・・・世の中には結構います。

記憶を失うという状態は一口には言えない。

何を忘れ、何を覚えているかには個人差があるのだ。

たとえば・・・昨日何があったかは覚えていないがカレーライスの作り方は覚えている。

厄介のことは知らないが厄介が他の女性とイチャイチャしていたら不快になる。

つまり・・・今日子が見ず知らずの厄介に恋をしているということ。

厄介は今日子に恋をしているが・・・それが成就したとしても一日限りだと知っていること。

そういう・・・二人のなんともせつない「心」を描くために・・・ここまでの長い話が必要だったのである。

だから・・・今回はいよいよ本題に入ったと言える。

探偵斡旋業も営むアパルトマン「サンドグラス」のオーナー・絆井法郎(及川光博)はいつもの説明をしてトースト・スクランブルエッグ・サラダ・コーヒーの朝食をサービスする。

ウエイトレス・幕間まくる(内田理央)は優れた運動能力を披露して今日子を口惜しがらせる。

そして潜入捜査員の也川塗(有岡大貴)は「他にスタッフはいるのか」と問われ・・・いつもと違う今日子を感じるのだった。

今回は今日子の主観がお茶の間に示され・・・「厄介さんとは秘密の関係かもしれない」と推測する心の動きまでがサービスされるのだった。

そして・・・「今日の事件」が始る。

手続き記憶によって・・・現場に到着できるらしい今日子。

携帯電話の使用にも熟練しているようである。

つまり・・・携帯電話の使った記憶はないが・・・身体的にはリセットされた日々の痕跡があるわけだ。

事件が起こったのは第二次世界大戦期にドイツで開発された対戦車自走砲ではなくてアパレルショップ「ナースホルン(ドイツ語で犀)」である。

三周年記念セールにウキウキする今日子。

呼び出したのは警視庁捜査一課長の奥様(石田ひかり)であり、現場には遠浅深近刑事(工藤俊作)と新米刑事(岡村優)のコンビが到着している。

横並びの更衣室の一つで常連客の屋根井刺子(手島優)が死んでいるのが発見された。

死因は頭部の挫傷で凶器はハンガー。

午前11時頃に・・・被害者が更衣室に入るのを常連客である課長夫人が目撃している。

「ナースホルンの新作スーツ」が奥様たちの話題になったからだ。

そして・・・午前11時20分頃・・・アルバイトの厄介の脇に貼られた「半額」のシールをはがそうとした店員のミワ(渡辺舞)に脇腹をさわられて・・・脇腹が敏感すぎる厄介は転倒。カーテンの裾から・・・死体の脚部を発見したのだった。

第一発見者として疑われる厄介。

今日子は・・・ミワに脇腹を触られて感じる厄介の狂態になぜか不快感を覚え・・・嫉妬である・・・厄介を信用できると書いた自分自身に懐疑的になる。

関係者の事情聴取をする今日子。

厄介に対し・・・自分が恋をしているのではないかと思い当たった今日子は・・・それを「気の迷い」として否定しようとする。

なんらかの極限状態で生じた錯覚により・・・過去の自分が判断を誤ったと考えたのである。

しかし・・・三ヶ月前に・・・厄介と知りあい・・・何度か厄介を「ワトソン」と呼び・・・厄介が「クビになったりもした」と告白したことから・・・厄介の正直さを感じたり・・・そのマリアナ海溝よりも深い苦難に満ちた厄介の人生に同情したりするうちに・・・厄介を見捨てることができない感じの自分を見出していく。

「今回は目の密室です。更衣室の出入りは自由ですが・・・犯人は・・・真実を隠すために密室を作り上げました。犯人は何を隠そうとしたのか。死体でしょうか。それとも殺人事件そのもの。あるいは・・・犯人の正体。以上です」

「もう・・・犯人はわかっているのですか」

「僭越ながら・・・」

「誰ですか・・・」

「それは言えません。今回の依頼料は・・・半額なので」

「え」

「料金的にサービスできるのはここまでです」

「主人のケチ」と奥様。

「お小遣いが減らされたからだそうです」

「え」

「奥さんが残りを払うというわけには」と新米。

「もうすぐタスマニア旅行に行くので」

「厄介・・・お前が疑われているんだから・・・残りはお前が」と遠浅。

「今、探偵貯金がピンチなんです」

「ではこれで」

「なんで・・・そんなに金欠なんだ」

「この間・・・捜査の途中で今日子さんに買った洋服のローンが残っているんです」

「・・・しょうがないなあ・・・ヒントをあげますから・・・ワトソン・・・がんばって」

体に残る厄介の記憶を消しそこない・・・仕方なく・・・サービス残業を開始する今日子だった。

「相棒プレイね」と奥様。

「更衣室に被害者が入ったのを奥様たちは見ていた。犯人が更衣室に入ったところも出て行くところは奥様たちも店員たちも見ていない・・・つまり犯行は不可能・・・」

「つまり・・・事故ですか・・・ハンガーが空から降ってきた」

「天井の存在は」

「すみません・・・誰も悪いことをしていないといいなという希望的観測です」

厄介の人のよさに惚れこむ今日子。

「しかし・・・事件を説明するためには、余計な仮定は必要ありません」

オッカムの剃刀・・・ですね」

「まあ・・・よく知っているわね」

「最近・・・推理小説を読むようになったので・・・」

それが自分の影響だと一瞬で推察し・・・高まる今日子の心。

今日子は一生懸命な人を応援するのが好きなのである。

(頑張って・・・ワトソン)

「そうか・・・犯人は・・・犯行時刻を隠そうとしていたのかも・・・」

「正解・・・犯人は被害者に変装して・・・更衣室に入ったのです」

「つまり・・・犯行は・・・開店前に・・・」

「正解・・・」

「でも・・・更衣室には他のお客さんが・・・」と店員のウメ(林愛夏)が証言する。

「そう思ったのは・・・更衣室の前の靴が変わっていたからでよね」

「はい」

「そうか・・・犯人は靴を履き替えていたんだ」

「でも・・・被害者は確かに・・・あの更衣室に・・・」

「被害者に変装した犯人はとなりの更衣室に入ったんです」

「え」

「しかし・・・死体が発見された更衣室の印象の強さが・・・記憶を書き換えたんですよ」

「そして・・・犯人は・・・自分の服に着替えて・・・出て行ったんだ」

「正解・・・しかし・・・犯人にとって困ったことが起きました」

「僕が・・・靴を控室から運び出した・・・」

「そうです・・・犯人は自分の靴をとりもどそうとして・・・失敗しました」

厄介が転倒して落した靴の箱。

「ほら・・・これ・・・箱と中身がちがいます。これが犯人の靴・・・そして・・・箱の中の靴を履いている人が犯人です」

犯人はミワだった。

ミワと刺子は社長のまーくん(森岡豊)をとりあっていた。

開店前にやってきた刺子。

「三年したら結婚しようって言われた」

「それは私に言ったのよ・・・」

口論の果てに・・・ハンガーでミワは刺子を殺害したのだった。

「二股か・・・」と遠浅刑事。

「ちがうわ・・・社長は私にも・・・」と店長(幸田尚子)・・・。

突然、泣きだすウメ・・・。「私にも三年したら結婚しようって・・・」

「四股かよっ」

店長は社長を鉄拳制裁した。

課長夫人は・・・今日子と厄介の関係を見抜いていた。

「これ・・・映画の鑑賞券・・・よかったら」

今日子は・・・「香港竜王伝説」のチケットを入手した。

しかし・・・蕎麦屋のバイトがある厄介。

「すみません・・・送っていけません」

「私の家を知っているの・・・」

「はい」

「今日子さんは・・・あの部屋に三年くらい住んでいるそうですよ」

「・・・」

「今度・・・名探偵めい子のリバイバル上映があるんですけど・・・今はちょっと」

「金欠なのですね」

「はい・・・デート費用がありません」

「問題外ですね」

今日しかない今日子。恋の記念日は無意味だ。未来への投資も・・・遠い約束も無関係。しかし・・・その日を大切に生きることができる。

そして・・・信用できるパートナーもいる。

今日子は一人で映画を見る。

蘇る・・・遠い記憶・・・今日子は誰かに追いかけられていたようだ。

バイトを終えた厄介は「サンドグラス」に現れる。

誰かが・・・今日子を・・・「サンドグラス」という密室に閉じ込めた。

その正体を・・・絆井法郎に問うためだ。

「なんらかの事情を知っているのでしょう」

「・・・」

その頃・・・今日子は謎の男(要潤)に声をかけられる。

「今日子・・・俺だよ・・・覚えていないのか・・・付き合っていた男を忘れてしまったのか」

しかし・・・今日子は男の言葉に何らかの「嘘」を見出したらしい。

「私のことを知っているとしても・・・ナンパするなら・・・もう少し考えないと」

「・・・」

物語は・・・結末に向かって静かに加速していく。

いついかなる時も今日子にさえ・・・昨日と同じ今日は来ないのである。

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2015年11月28日 (土)

焼きそばと食べづわり(綾野剛)完全なる出産(南沢奈央)早く出してよ(足立梨花)まめりん・・・(松岡茉優)気張れ(恒松祐里)

今週も・・・豪華キャストだな・・・。

「かよっ」(冨士眞奈美)じゃないのかよっ。

ライバル「馬子先輩の言う通り」(フジテレビ)の追随を許さないのだな。

そこかよっ。

馬子(大野いと)にも頑張ってもらいたい・・・。

アキちゃん(能年玲奈)とユイちゃん(橋本愛)にも随分御無沙汰だからな・・・。

失敗できないポジションって辛いよな・・・。

伝説になるには若すぎるしな。

「続・あまちゃん」「続々・あまちゃん」「あまちゃんの逆襲」でいいのにな。

もう・・・ジャパンカップの季節か・・・。

そして・・・聖夜へ・・・。

静かな年末だといいけど・・・な。

で、『コウノドリ・第7回』(TBSテレビ20151127PM10~)原作・鈴ノ木ユウ、脚本・坪田文、演出・金子文紀を見た。日本国には男性の看護師はいても助産師はいない。助産行為を行えるのは医師と助産師だけである。看護師免許取得者は専門教育と実習を受けた後に国家試験に合格することで助産師の資格が与えられる。国内には現在、およそ三万人ほどの助産師がいる。ペルソナ総合医療センターの周産期母子医療センターの産科には小松留美子(恒松祐里→吉田羊)や角田真弓(清野菜名)などの助産師がいる。このドラマでは主軸となる医師や看護師・・・そして助産師以外にもちらちらとそれらの存在があり・・・主要メンバーが飲食などで抜けていても病院が運営されていることがそれとなくわかる感じが隠し味になっている。「まっしろ」とか出演者全員が「宴」を開いている時の病院の「もぬけの殻」感半端なかったからな・・・。

助産師の小松は母(久世星佳)の遺影に見送られ、今日も元気に出勤するのだった。

小松の母は元月組トップスター・・・ではなく元助産院の経営者だった。

小松は・・・母のような助産師になろうと日々、奮闘していたのだった。

「今夜は新月よ・・・忙しくなるわ・・・」

「え・・・忙しいのは満月なんじゃ・・・」と後期研修医の下屋加江(松岡茉優)は蒼ざめる。

産科医・鴻鳥サクラ(綾野剛)はとにかく、カップ焼きそばをスタンバイするのだった。

今週の妊婦ゲスト一人目はまめりん・・・ではなくてメンタリティーにやや問題のある山田郁美(足立梨花)である。他者への依存傾向が強く、自分に自信がないタイプ。その裏返しで他人に高圧的な態度をとるのだった・・・やはり、まめりんではないようだ。まめりんは自信が強すぎて高圧的になるタイプだからな。・・・結局、高圧的になるのかよっ。

「痛い痛い・・・見てないで医者ならなんとかしなさいよ」

「順調ですよ・・・」とサクラは微笑む。

「痛い・・・早く出して~」

暴れる山田は小松にパンチである。

しかし・・・小松はあわてずさわがず・・・山田を励ますのだった。

妊婦、医師、助産師が一体となり・・・無事出産である。

「おめでとうございます」

出産後の山田は「赤ちゃんが泣きやまない」と産後鬱を発症しかかる。

しかし、小松は「お母さんの為に赤ちゃんがいるんじゃないのよ・・・赤ちゃんがいるからお母さんがいるんだよ」とさりげなく・・・山田の心をほぐすのだった。

山田は妊婦に寄り添う助産婦の力で・・・母親への道を踏み出していく。

そんな小松に・・・引き抜きの話が持ち上がる。

小松の同期の助産師が助産院をオープンして・・・誘われているというのだ。

「そんな・・・小松さんにはもっと教えてもらいたいのに」と甘える下屋だった。

そこに第二のゲスト妊婦として「助産院での自然分娩」にこだわる森亜沙子(南沢奈央)が登場する。

亞沙子にとって「陣痛促進剤の投与」や「帝王切開」などの医療行為による出産は邪道らしい。

「自然分娩の痛みに耐えてこそ・・・子供を愛することができる」という脅迫観念に捉われた厄介な亞沙子だった。

亞沙子が信頼するのは「お産の失敗ゼロの伝説の助産師」・・・野々村秀子(冨士眞奈美)である。

お茶の間的には・・・「インチキな祈祷師」・・・「魔女・・・」などと囁きが広がる。

すべては「細うで繁盛記」(1970年)の呪いだな。

まあ・・・清純派時代の冨士眞奈美を知るものは・・・もう・・・六十代以上の人だからな。

「助産院での出産」に否定的な四宮春樹(星野源)は紅白出場決定前だったためにツンツンしていた。

「なにか・・・問題があった時に・・・医師が不在では・・・助かる命も助からない・・・産科だって最終的に責任をとるのは・・・助産師ではなくて医師だ」

助産師の存在まで否定されて・・・思わず立腹する小松だった。

このまま・・・小松が辞めてしまうのでは・・・とハラハラする下屋。

小松は思わずサクラに・・・自分の過去を話すのだった。

「私の母は・・・助産婦として・・・助産院を経営していた。他人のお産に夢中で・・・家庭を顧みない人で・・・結局、両親は離婚。私はぐれて・・・レディースになった。当時の私はビーバックハイスクールの三原山順子みたいでさ。ついにはポリ(警察)にパクられて(逮捕されて)、母親に身請けされる始末・・・ところが・・・その時も母はお産の現場に直行・・・こんな時にまでと思ったけど・・・初めて出産の現場に立ち会って・・・産みの苦しみってやつを体験してさ・・・思わず・・・妊婦さんに気張れ・・・って叫んじゃった・・・で・・・母の跡を継いで助産師になったわけ・・・ところが・・・たった一回・・・母はお産に失敗して・・・それ以来・・・助産院を閉めて・・・まもなく・・・ぽっくり・・・なんか・・・さっき・・・四宮先生に・・・母親のことを否定されたような気がして・・・」

サクラは・・・仕方なく・・・とっておきのカップ焼きそばを渡して小松を慰めるのだった。

さらに・・・レギュラー陣からも妊婦が発生。

助産師の角田である。

お相手は新生児科の研修医・白川(坂口健太郎)・・・ではなくて・・・男の夢であるミュージシャンの大森太助(角田晃広)だった。

角田は大森の夢を叶えるために「食べづわり」を堪えて健気に職務に励むのだった。

まだ紅白出場が決定しない四宮は「助産師が具合が悪くなったら妊婦が不安になる」と文句を言い「産科医がマタハラしてどうする」と全国の妊婦からお叱りを受けるのだった。・・・おいっ。

しかし・・・臨月を迎えた森亜沙子は難産となる。

そっと産室を抜けだした伝説の助産師は・・・サクラに電話をかけるのだった。

緊急搬送である。

難産のため・・・胎児が危険な状態であることを説明するサクラ。

「だから・・・早急にカイザーの必要があります」

「でも・・・それじゃあ・・・赤ちゃんがかわいそう」

「そんなことはないわよ・・・」と伝説の助産師・・・。

「え」

「私だって・・・帝王切開で産んでるの・・・それも二人も」

「ええ」

「大切なのは・・・出産じゃなくて・・・育児よ」

「えええ」

カイザーである。

「おめでとうございます」

微笑むサクラ。

「自然分娩も・・・帝王切開も・・・立派なお産ですよ・・・その証拠に・・・あなたはとても優しいお母さんの顔をしています」

亜沙子は長い・・・悪夢から目覚めたようだ。

伝説の助産師に・・・小松はアドバイスを求める。

「私は・・・卑怯者なんですよ・・・母のような助産師になりたいのに・・・怖くて産科から出られないんです」

「お産を助けるなんて・・・すごく・・・危険なことですもの。臆病なくらいでちょうどいいのよ。私だって同じ。あなたよりもきっと臆病かも。私は危ないと思ったらすぐに産科におまかせするの・・・だから・・・お産で失敗したことは一度もないのよ」

「・・・」

その手があったか・・・と感動する小松だった。

「今夜も忙しくなるわよ」と小松。

「満月でも新月でもないです」と下屋。

「低気圧が近づいているのよ」

「・・・」

難産発生である。

「カイザーしかないかも・・・」と下屋。

「小松さんの意見はどうですか」と四宮。

「もうすぐ状況が良くなる気がします」と小松。

「じゃ・・・しばらく様子を見ましょうか」と四宮。

どうやら・・・紅白出場が決定したらしい。

そして・・・角田に誘われて・・・「大森のライプ」にやってきた研修医・白川・・・。

「新曲です・・・つわり・・・聞いてください」

あの娘は食べづわり

横でおいらは鼻づまり

白川は口に含んだ牛乳を吹いた。

今回の軽さは・・・おそらく・・・次回の重さとのバランス・・・。

きっと・・・強敵来襲だな・・・。

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2015年11月27日 (金)

おかしの家(オダギリジョー)軽く重い女(尾野真千子)俺たちと河童そして天使(勝地涼)マロンちゃんって何ですか?(成海璃子)

谷間である。

いろいろと騒がしいことだなあ・・・。

ロトと聞けば宝くじとか勇者とかよりロシアとトルコの戦争を思い出す人間は少数派だ。

そういうことは結局、教育と教養の問題だからな。

ロシアとの関係が深いテレビ朝日のニュースを見ていると「ロシア兵がトルコ人に殺された」という印象が強いがロシア軍は空爆によってトルコ系シリア人を虐殺しているわけである。

中国との関係が深いTBSテレビは自衛隊の沖縄防衛計画について「中国脅威論はほどほどに」と釘を刺したりするからな。

報道さえ・・・「色」がついているわけである。

まあ・・・路地裏の少年たちにとって・・・そういうことは「関係するのが無理な範疇」なのである。

原節子が亡くなっても・・・昔の映像を見て・・・「おっばい揺れてる」と思うのが関の山だ。

「総合診療医ドクターG」で「赤ちゃんが高熱を出した」と言われてもきっとピンとこないぞ。

「このお姑さんが嫁いびりして・・・嫁が鬱になって・・・赤ちゃんに虐待してるんじゃないか」

「ウチの子はほとんど手がかからなかったのに・・・孫はよく泣くし・・・誰に似たのかしらとかな」

「スマホで調べていると・・・大切なことは機械にはわからない・・・母親ならではの勘を働かせろとかな」

「その上・・・ヘルペスウイルスのキャリアだとかな」

「え・・・姪っ子のエンテロウイルス・・・」

「ただの風邪かよ・・・」

「嫌味なお姑さん・・・無罪かよ・・・」

「スカッとしないねえ」

「・・・そういう番組じゃないぞ」

・・・そんな感じだよな。

でも・・・二人が天使化して歌うのが・・・よりによって「トルコ行進曲」・・・。

タイムリーじゃねえかっ。

で、『の家・第1~6回』(TBSテレビ201510212353~)原作協力・山田タロウ、脚本・演出・石井裕也を見た。東京都の場末の街にある駄菓子屋「さくらや」・・・。経営者である一人暮らしの桜井明子(八千草薫)の家に孫の桜井太郎(オダギリジョー)が居候しているわけである。祖父も両親もいない33才で独身の太郎にとって・・・83才の明子は唯一の身内である。人生の黄昏を前に孫の行く末を案じる祖母と・・・今にも逝きそうな祖母を想う孫・・・。時計の音さえ恐ろしい展開である。しかし・・・太郎はのほほんと暮らしているし・・・肉体労働のアルバイトで家計を支えつつ・・・時には性風俗関係の店に通い・・・駄菓子屋の裏の小さな空き地で昔の仲間たちと旧交を温めたりもする。

いつものメンバーは親友の三枝弘樹(勝地涼)、年下の金田(前野朋哉)、そして潰れかけている銭湯を経営する島崎(嶋田久作)・・・。

ここに紅一点でバツイチ子持ちの木村礼子(尾野真千子)が加わる。

礼子の一人息子で五才になる春馬(大山蓮斗)と心が通い合う少年の心を持った太郎に・・・礼子はなんとなく心惹かれるものを感じるのだ。

「さくらや」には昔から子供が通ってきた。

その中にはIT企業の社長になった男(藤原竜也)もいれば・・・貧乏で木工用ボンドを食べていた女(黒川芽以)もいた。

犯罪者となって逮捕されたものもいれば・・・結婚して母親になり病死したものもいる。

太郎も少しずつ老けて行くのである。

礼子の勤め先に自転車で出かけて行き・・・二人でランチを食べるのが最近の太郎の日課。

ところが・・・ある日、太郎は・・・礼子の勤め先の裏口で休憩する風俗嬢のマロンちゃん(成海璃子)に遭遇する。

「・・・久しぶり」

「・・・あ・・・わかりますか」

「もももももちろん・・・ここで・・・働いてんの?」

「はい」

「あの・・・木村礼子さんには・・・内緒にして・・・」

「え」

「僕のことは・・・何も言わないでほしい・・・」

「・・・」

マロンちゃんは・・・「さくらや」にやってくる。

明子は一目でマロンちゃんが・・・山本麻理恵というヨーグルト風味の駄菓子が好きな常連客だったことを思い出す。

「あら・・・麻理恵ちゃん・・・」

「おばちゃん・・・私のこと・・・」

「覚えているわよ・・・全然変わらないもの・・・あの頃から美人さんだもの」

「・・・私・・・結構。変わっちゃんたんですけどね」

まあ・・・確かに・・・性風俗店にこんな上玉がいたら・・・事件だよな。

礼子がいても驚かないよな。

しかし・・・実際にマロンちゃんだった麻理恵よりも・・・礼子を大切にしたいらしい太郎である。

まあ・・・離婚した亭主一人ならアレだけど・・・他の男を何人知っているかわからないというのはアレだよな。

そういう問題なのか。

「麻理恵ちゃんのこと・・・知ってるの」

「前にちょっと・・・仕事関係で」

お茶を濁す太郎だった。

まあ・・・確かにマロンちゃんにとっては仕事関係である。

太郎と麻理恵の再会・・・。

「私・・・さくらやに行って来たとこです」

「え」

「おばちゃん・・・元気そうでしたね」

「ええ」

「私・・・しばらく・・・海外に行くことになったんで」

「えええ」

「昔・・・太郎さんのこと憧れていました・・・覚えていないでしょうけど」

「・・・」

「私・・・礼子さんになら・・・勝てるかもって思っちゃいました・・・バツイチじゃないし・・・子供もいないし・・・」

「マ、マロンちゃんじゃないの?」

「マロンちゃんって・・・なんですか?」

「・・・マロンちゃん」

「麻理恵です」

「・・・」

「私のこと・・・忘れてたんですね」

マロンちゃん・・・あるいは麻理恵は去って行った。

少し・・・モヤモヤする太郎だった。

「結局・・・どっちだったんですか」と年下の金田。

「女の秘密・・・触るべからずさ」と年上の島崎。

太郎と弘樹の夢は「プロ野球選手かミュージシャンの二者択一」だった。

しかし・・・弘樹は脚本家になろうと考えている。

そんな弘樹を太郎は軽蔑するが・・・礼子は「応援してあげればいいのに」と大人ぶるのだった。

弘樹が書いた脚本は・・・太郎と弘樹の少年時代のある出来事に基づいている。

「あさが来た」では炭鉱の支配人、「サムライ先生」ではセクハラ上司と・・・今季大活躍の梶原善の演じる怪しい映画プロデューサー。

「よく書けているけど・・・少年が河童に出会うという題材がもう一つ新鮮さに欠けるよね」

「でも・・・実体験なので」

「あはは・・・何言ってるんだ・・・」

深夜・・・弘樹は太郎を呼び出す。

「・・・ダメだったのか」

「うん・・・俺たち・・・昔・・・河童を見たよな」

「見たよ」

「あの時・・・つかまえておけば・・・」

「仕方ないさ・・・子供だったもの」

「うん」

「あそこ・・・行ってみるか」

河童を目撃した川沿いの遊歩道にやってきた二人。

そこに・・・天使が現れる。

「あれ・・・天使かな」

「・・・変質者のおっさんのようにも見えるけど・・・」

しかし・・・響き渡る天使の歌声。

「よし・・・捕獲しよう」

「捕獲して・・・どうするの」

「ものはためしだよ」

大人だけど勇気出しすぎである。

だが・・・天使は強力で・・・逆襲された二人は天使に噛みつかれてしまう。

そして・・・天使は消えた。

翌朝・・・目を覚ました太郎は・・・天使の歌声を手にしていた。

お互いの家をめがけて走りだし・・・中間点で合流する太郎と弘樹・・・。

「ティアララルンティアララルンティアララティアララティアララルン」

「トゥドゥリャタタタリャタタタリャタタタドゥ」

天使のハーモニーでモーツァルトを奏でる二人・・・。

これは妄想ではありません・・・本当のドラマです。

・・・お腹よじれるよ。

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極悪がんぼ

小暮写眞館

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2015年11月26日 (木)

品行方正を説かんとすれば品行方正であれ(錦戸亮)ハッタリ上等(神木隆之介)訴えてやる(比嘉愛未)

教師たるもの子供を集めて裸の写真を撮影してはいけないのである。

個性を大切にと教育する人も・・・男性だけど性的対象が幼少の同性限定という個性は認めないのが一般的である。

「理想」というものの危うさはそれが所詮は虚構にすぎないということに尽きる。

イスラム教を信仰する穏健派は・・・イスラムの法とその他の人の法の融和を説くが・・・基本的にはアッラーの神がこの世を統一することが「理想」なのである。

自分たちの「神」を敬わない人を「良し」とはしないのである。

あらゆる・・・穏健派の人々が「まあまあ」と宥めても・・・「絶対に許さない」と拳を振りあげるものはいる。

「イスラムなんてクソだ」と言う人も悪いが「そんなことを言う奴は殺すしかない」と言う人にはかなり困るわけである。

現在の日本は・・・「王政復古」の後の・・・「連合国統治」の後の・・・「民主主義」の時代を迎えている。

幕末の尊皇攘夷派の目指した「王政復古」はシリアとイラクの辺境を支配するイスラム過激派・・・いわゆる「イスラム国」が「カリフを復活させ古のイスラム帝国を樹立すること」と似ていないこともない・・・いや、ある意味そっくりそのままだろう。

シリアにはロシアの傀儡政権があり、傀儡たるサダトは独裁で弾圧する。シリアにはアラブ人もいればクルド人もいてトさらにはルコ人もいる。トルコ系もアラブ系も基本的にはムスリムであるが・・・民族的には対立する。サダトに敵対するトルコ系住民をロシアが空爆すれば、トルコはロシア機を撃墜するのである。トルコもロシアもイスラム過激派テロリスト撲滅を叫びながら内輪で喧嘩を始めるのだ。イスラム過激派と敵対するトルコ系シリア人はロシア兵を殺害して「アッラーは偉大なり」と叫ぶのである。

武市半平太も「王政復古」を唱えた。

京都周辺を天皇家の直轄地とすることを画策した。

そして・・・「攘夷」を叫んだのだ。

公家の姉小路公知は「開国」に意見を変えた直後・・・暗殺される。

下手人として捕縛された薩摩藩士・田中新兵衛は自殺した。

この暗殺事件の黒幕が武市半平太であるという噂もある。

直後に半平太は・・・主君である山内容堂によって捕縛され・・・やがて切腹に至る。

血塗られた歴史は・・・延々と続くのである。

その果てに・・・破廉恥教師が産みだされたのである。

嗚呼・・・けしからぬ世の中にて候・・・。

で、『サムライせんせい・第5回』(テレビ朝日201511202315~)原作・黒江S介、脚本・黒岩勉、演出・植田尚を見た。カラオケスナック「カーニバル」の経営者である篠原理央(石田ニコル)の娘・優菜(岩崎春果)は小学生バトントワラーである。ある日の夜半、学校に忘れたバトンを取りに戻った優菜は恐ろしい「漆黒の鎧武者」を目撃するのだった。一方、実は県会議員の娘だった赤城サチコ(黒島結菜)とつりあう男になるために一攫千金を狙う佐伯寅之助(藤井流星)は「でんがくん移動販売計画」の資金源として・・・佐伯家の床の間に飾られた掛け軸の「書」を売り飛ばそうと考えていた。そのために県内の故買商のリストまで作成していたのである。

しかし・・・「書」の文句は「百伍拾年一瞬可」であり、署名が佐伯先生(森本レオ)の名である「真人」なので・・・そう高くは売れないと思われる。

この書は・・・最初からあるので・・・佐伯先生が「半平太がタイムスリップした百五十年間」について何かを知っていることは明らかなのである。

とにかく・・・その「書」は何者かによって落書きされてしまう。

「お・・・俺の・・・計画が・・・」

たちまち始る・・・寅之助による学習塾の生徒たちに対する犯人探し・・・。

「大人げないの・・・」と半平太(錦戸亮)。

「成長してないなあ」と龍馬(神木隆之介)。

だが・・・容疑者として浮上したのは優菜だった。

「学校で漆黒の武者を見た」と言う優菜は嘘つきのレッテルを貼られていた。

嘘つきは泥棒の始りなのである。

「漆黒の武者・・・ひょっとしたら・・・過去からきた武士かもしれない・・・」と龍馬。

「まさか・・・落武者の亡霊ではなかろうな・・・」と半平太。

武市半平太は・・・オカルト的なものに・・・弱いタイプだったのだ。

「神里の村乱れし時、漆黒の武者現れ、血の裁きを下す・・・という伝説があるとか」という晴香(比嘉愛未)・・・。

三人は真相を確かめるために夜の学校に向かう。

「漆黒の甲冑」は何者かが学校に寄進して昔から一画に展示されているらしい。

夜の学校にびびりまくる半平太。

内蔵剥き出しの人体模型にも怯える始末である。

「学校の怪談の小学生レベルかよ」と呆れる龍馬。

しかし・・・問題の甲冑は展示スペースから消えていた。

「二手に分かれて・・・行方を追いかけよう・・・武市さんはあっちへ・・・」

龍馬と晴香が去って・・・恐怖心の虜になった半平太であった。

その目前に・・・「漆黒の武者」が登場する。

「ひえええええええええ」

驚愕し・・・階段を踏み外して転落・・・意識を喪失する半平太・・・。

龍馬と晴香は気絶した半平太を佐伯家に搬送する。

たまたま・・・遊びに来ていたサチコは思う存分、半平太のマゲマゲ(丁髷)を堪能するのだった。

「これこれ・・・そんなものを弄りまわしていけませんよ」と注意する佐伯先生。

目覚めた半平太は龍馬に恐怖の体験を語る。

「あれは・・・確かに・・・武者だった・・・」

翌日・・・龍馬と半平太は学校に戻り、元通りに展示された甲冑を発見する。

しかし・・・龍馬は・・・甲冑に「土佐山内家の家紋・・・「丸に三つ細柏」を発見して驚く。

「なぜ・・・土佐柏の甲冑が・・・上野国に・・・」

「黒漆塗黒糸威二枚胴具足といえば・・・加賀の前田土佐守公伝来の品が有名じゃが」

「山内家所縁の逸品となれば・・・相当、高価だよ」

「そうじゃろうな・・・」

「坂本家は質屋じゃったから・・・甲冑はゴロゴロしていたけど・・・流石に土佐柏のものはねえ・・・」

「そんなものが質屋に流れるかっ」

その頃・・・校長室ではセクハラ上司・小見山喜一課長(梶原善)が春日井宗男校長(大河内浩)と密談中だった。

「校長・・・次の選挙で村長に立候補されるんでしょう」

「・・・しかし・・・漆黒の武者がいたなどと・・・変な噂が立って困っておる・・・」

「この小見山が真相を解明いたします」

「・・・」

小見山は晴香に真相究明を命じるのだった。

龍馬と半平太に合流した晴香は・・・かっての憧れの先輩・手塚公平(竹財輝之助)が教師となっていると知り、驚く。

手塚先生は・・・学校に導入された3Dプリンターで授業のための模型を工作中だった。

半平太は・・・未来の機会に好奇心を刺激されるのだった。

小見山は・・・「優菜が嘘をついている」ということで一件落着にすることを提案する。

例によって晴香のお尻を触りながら・・・小学生に偽証を強要する小見山。

「私は嘘をついてません」と優菜は小見山を睨む。

その目は圧力に屈し・・・長いものに巻かれたままの・・・因循姑息な晴香にも注がれるのだった。

再び・・・漆黒の武者の謎に挑む半平太たち。

途中で貞子ではなく・・・用務員の小林貞夫(渡辺火山)に遭遇してやはり恐怖する半平太だった・・・。

展示スペースに漆黒の甲冑は置かれていたが・・・半平太は・・・それが偽物であることを喝破する。

土佐柏が・・・似て非なるものになっていたのである。

三人は・・・工作室を訪れた。

「あの時・・・甲冑を着ていたのはあなたですね」

手塚先生を追及する半平太。

「・・・」

「展示スペースから・・・本物を持ちだし・・・ここで偽物を作り・・・すり替えた」

「そうです・・・校長が・・・学校の予算を横領して投資に失敗し・・・損失を補填するために・・・甲冑を売却するためです」

「なんで・・・あなたは・・・」

「校長には・・・逆らえないのです・・・実力者だから・・・」

「そのために・・・あなたの教え子が・・・嘘つきにされても・・・か」

「・・・」

「仕方ないのよ・・・先輩・・・わかります・・・先輩は悪い人じゃない・・・昔、朝礼で気分が悪くなって・・・嘔吐してしまい・・・みんなにゲロカと囃したてられていた私を・・・先輩は大丈夫かと声をかけ・・・庇ってくれた・・・先輩が優しい人だと私は知っています・・・私が明日・・・漆黒の武者が・・・ただの噂だったと証言しますから・・・」

「おんしゃ・・・それでいいのか」

「・・・」

翌日・・・児童たちを前にした晴香は・・・偽りの証言を始める。

「ちがう・・・漆黒の武者はいた・・・それは僕だ」

手塚は真実を話す。

「君は首だ」と校長は罪を押しつける。

「そうはいきませんよ・・・」と甲冑を着こんだ龍馬。「あなたが・・・故買商に甲冑を売却したことはウラがとれています」

「くそ・・・」

その場を逃れようとする校長を優菜のバトンで一刀両断にする半平太だった。

「暴力反対・・・」

「天誅じゃ」

晴香は落ち込んだ・・・。

「私・・・また・・・他人の言いなりに・・・」

「いいや・・・手塚殿の心を動かしたのは晴香殿の言葉じゃ・・・先に行くものが範を示したなら・・・後に続くものは・・・それを見習えばいい」

「・・・」

正義は・・・時に・・・体制には都合の悪いもの・・・。

しかし・・・すべてに耐えて・・・悪政を許すことにも限度がある。

人はいつでも・・・その狭間に生きているのだった。

お尻を触る上司の手を掴む部下。

「いい加減にしないと・・・訴えるわよ」

「・・・うわあ・・・」

恭順する小見山課長だった。

優菜は・・・晴香の奮闘に微笑んだ。

「生徒たちが・・・悪戯を名乗り出ないのは・・・私の不徳・・・教師失格です」と半平太。

「いいえ・・・生徒たちは・・・名乗り出て・・・今、書を修正しています・・・元通りになったら・・・あなたに名乗り出ると申しておりますよ」と佐伯先生。

「さようですか」

「真心を尽くせば・・・それがたとえ・・・悪逆非道なことであっても・・・後に続くものは必ず現れる・・・それが人の歴史というものではないでしょうか・・・」

二人は・・・満月を見上げた。

一方の義は一方の不義・・・人類はそうやって栄え・・・やがて滅ぶ宿命である。

「ご存知ですか・・・今、日本も宇宙にロケットを打ちあげる時代です」

「宇宙・・・」

「そのロケットを作った会社は・・・土佐の郷士・岩崎弥太郎が起こしたのですよ」

「弥太郎が・・・」

「あなたの生きた時代は・・・よくもわるくも・・・現代とちゃんとつながっているのです」

その頃・・・龍馬は新事実を掴んでいた。

土佐柏の甲冑を寄贈したのが・・・他ならぬ佐伯真人であることを・・・。

一体・・・佐伯先生とは・・・何者なのか・・・。

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2015年11月25日 (水)

認めたくないものだな・・・自分が無能だということを(松坂桃李)二人の恋は終わったのね(木村文乃)計画通り(菜々緒)

究極の美男美女の刑事である。

テレビ朝日なら警視庁機動捜査隊所属のカップルでコンビの二人が・・・初動捜査のみという任務の枠を越えて事件を解決してしまう一話完結のシリーズに軽々と仕立て上げるところだ・・・まあ・・・面白いかどうかは別として。

しかし・・・関西テレビの場合・・・魔性のシリアルキラーを軸にして翻弄される二人をねっとりと描くわけである。

魔性がどうしても魅力的に描かれるし、翻弄される刑事たちは恰好悪かったり、間抜けだったりするわけである。

殺害現場がはっきりと描かれているのは変態のタクシー運転手、主婦、ネイルサロン勤務の整形女だけだが・・・売春少女は意識不明、整形外科医は消息不明・・・その他にベテランキャバクラ嬢やおそらく酒場店員も魔性の女の餌食になっている。

シリアルキラーがなぜ殺すのかの動機も解明されないまま死体の山が築かれる・・・。

一年で五人殺しているとすると八年で四十人くらい殺しているわけである。

猟奇的な物語としては非常に面白いのだが・・・平和を愛するお茶の間にストレスたまっちゃうんじゃないか。

必殺仕掛人なら・・・スカッと殺すのに・・・シリアルキラーは殺したいから殺すだけだからな。

できれば・・・ヒロインも主人公も無意味に殺されてシリアルキラーがひっそりと闇に消えて行く展開が見たいが・・・まあ・・・それはさすがにやらないんじゃないか。

で、『サイレーン刑事×彼女×完全悪女・第6回』(フジテレビ20151124PM10~)原作・山崎紗也夏、脚本・佐藤嗣麻子、演出・浜弘大を見た。この日、日本のH-IIA ロケット29号はカナダテレサット社の通信放送衛星を積載して天空へ上昇した。6号の失敗から23回連続の打ち上げ成功である。一方、ロシアの戦闘爆撃機Су-24(スホーイ24)はトルコ空軍の戦闘攻撃機F-16ファイティングファルコンに撃墜された。空戦はトルコ・シリアの国境付近で行われ・・・シリアの反体制派はパラシュート降下したロシア兵を殺害した可能性がある。イスラム・カリフによる世界征服を目論む一派の野望は全世界を混乱に巻き込んでいる。もちろん・・・空飛ぶ機械たちにはいかなる責任もないのである。

人間もまた本来・・・いかなる法にも支配されない。

しかし・・・人間はまた・・・あらゆる法で人を裁こうと考えるのだ。

これは・・・魔性のシリアルキラー・橘カラ(菜々緒)をめぐる物語である。

超人的な知力と体力を持つカラに普通の人々はたやすく屈する。

警視庁機動捜査隊員・猪熊夕貴(木村文乃)の正義の心に魅了され彼女を殺す決意をしたカラ・・・はたして、猪熊のパートナーである犯罪オタクの警察官・里見偲(松坂桃李)は・・・カラからの魔手から猪熊を守護できるのか・・・もはやそれはかなり難しい感じになってきました・・・。

猪熊の生命はいよいよ消滅寸前である。

カラは破壊者として人間を壊す。好奇心で友人を殺してみる女生徒のように・・・。それは多くの人間にとって理解が困難な現象である。しかし・・・人間は人間のことをそれほど知っているわけではない。

移民として・・・あるいは異教徒として差別されて生きていると信じる歪んだ若者と・・・国会前で反政府活動をする若者は全く違う存在だと考える人間もいるが・・・そう思わない人間もいる。沖縄県人である前に日本人であるべきなのか・・・日本人である前に沖縄県人であるべきなのか・・・答えが風に吹かれているのと同じだ。

食後のコーヒーを飲むように殺人を行うカラの内部に潜むメカニズムはまだ描かれない。

ただ・・・里見だけが・・・カラの存在に危機を抱いている。

しかし・・・その危機感の正体である邪悪な地獄の炎を消火する能力が里見に備わっているのかどうかは不明である。

里見はカラの正体に肉薄しているつもりで・・・ただカラの掌で踊っている存在である。

恋人である猪熊に明かすことができないほどの違法を積み重ね・・・カラの住居に不法侵入までしながら・・・カラの犯した犯罪についての証拠を何一つ掴めない里見。

地道な捜査を積み重ね・・・殺されたカラの恋人・高槻とおる(長澤航也)の存在に気がついた猪熊。

売春婦のレナ(入山杏奈)にキャバクラへの潜入捜査を依頼し、常連客の前川(石井正則)の昔話からとおるの存在にたどりついた里見。

本来、二人が正規の捜査協力をしていれば・・・情報の共有により・・・捜査は深まる可能性があった。

しかし・・・里見のカラへの疑いは・・・理由なき直感を根拠としている。

そして・・・猪熊の捜査は・・・里見への不信を払拭するためのものであった。

猪熊が疑っているのは・・・カラではなく・・・里見だったのである。

それも・・・里見の犯罪の関与ではなく・・・「浮気」を含む女性関係なのだ。

カラは・・・すれちがう里見と猪熊の会話を盗聴していた。

里見を応援する人々は・・・そうじゃないと叫ぶ。

猪熊を応援する人々は・・・里見のバカと叫ぶ。

カラを応援する人々はうっとりするのだった。

(里見は・・・私に近付いている)

カラの心の声はお茶の間にサービスされる。

(なぜ・・・あの事件を・・・私に結び付けた)

(常連客が・・・過去の話を)

(その話を誰かが里見に教えた)

(私の周囲にスパイがいる)

カラは思い浮かべる・・・口の軽い前川の顔。

カラは思い浮かべる・・・最近、店に入ってきたレナの顔。

(なぜ・・・私の住所が里見にわかったのか)

カラは思い浮かべる・・・月本の関係者を・・・。

(誰かに・・・里見を見張らせたい)

カラは思い浮かべる孤独な資産家の渡公平(光石研)の顔を・・・。

その男は背後にいた。

カラは公平を煽る。

「男につきまとわれています」

「え」

カラは里見の写真を見せる。

「この男です」

「警察に行こう」

「この男は警察官です」

「なんだって・・・」

「あなたに迷惑がかかるといけないので・・・お話をしておこうと思って」

「警察官が・・・善人とは限らないからなあ・・・」

「とにかく・・・この男を見かけても関わり合いにならないでください」

「・・・」

「あなたのことが・・・心配ですから」

カラは公平をあすなろ抱きでしとめるのだった。

公平は早速・・・桜中央署の生活安全課に相談に出向く。

応対したのは千歳弘子(山口紗弥加)だった。

「恋人が男につきまとわれているんだ」

「本人に事情を伺わないと・・・」

「驚くなよ・・・ストーカーは警察官だ」

「・・・なにか証拠でも・・・」

「彼女がそう言っているんだ」

「本人を連れてきていただけないでしょうか」

「彼女は怖がっているんだよ・・・もういい」

しかし・・・隣接したビルに住んでいる里見は公平にとってご近所中のご近所さんであり・・・公平はすぐに・・・里見と遭遇する。

里見はレナとアイ(佐野ひなこ)と密会中のところを公平に盗撮されてしまう。

「あの男・・・複数の女と交際しているみたいだ・・・」

「危険なので関わらないでください・・・」

「君のためなら・・・何でもするさ・・・」

カラはレナが里見のスパイであることを確認した。

カラは・・・潮時を感じる。

猪熊は・・・もうカラの手中にあった。

「誰も・・・あなたに話を聞きにこなかったのですか」

猪熊は当時の捜査員が被害者の恋人であるカラの存在に気がつかなかったことに憤慨していた。

「ええ・・・犯人は捕まらなかったし・・・私・・・警察を信用できないと思っていた時期もありました・・・それで・・・私自身が・・・犯人を捜そうと決意したことも・・・」

「え・・・」

「その時の資料が・・・私の別荘に・・・保管してあります・・・それを見ていただきたいのですが・・・これは誰にも内緒にしてもらいたいのです・・・恋人の里見さんにも・・・秘密にしてもらえますか」

「わかった・・・約束します」

「え・・・猪熊が捜査一課に・・・」

猪熊の転任をチビデカこと速水翔刑事(北山宏光)から聞かされ・・・刑事課長・安藤実(船越英一郎)に確認する里見。

「本人が・・・承諾しないので困っている・・・お前・・・何か知らないか」

「わかりません」

猪熊は同棲状態を解除し・・・仕事のパートナーは見習いの三宅巡査(高田翔)に交代。

それでも里見は・・・自分が絶縁されかかっているとは思わない。

自分の性的魅力に絶対の自信があるらしい。

ついに猪熊を呼び出し・・・食事を共にすることができた里見。

これが・・・最期の晩餐になるとは・・・里見には予想もつかない。

「話って・・・」

「捜査一課に出世するんだろう・・・約束通り・・・結婚しよう・・・今度の非番に指輪を見に行かないか・・・」

「今度の非番は・・・母と温泉に行くの」

「そう・・・それで・・・あれから・・・カラに会ったのか」

「・・・いいえ」

「彼女には気をつけろ・・・」

「彼女は被害者よ」

「君には何も見えていない・・・」

「あなたには何が見えているの・・・」

「それは・・・」

決裂する二人だった。

もちろん・・・カラはすべてを盗み聞く・・・。

そして・・・微笑んだ。

カラはレナの携帯電話を盗んでいた。

カラはレナになりすまし・・・ホテルの一室に里見を呼び出した。

そして・・・情報提供者として懇意となったチビデカに・・・男に付きまとわれているというメールを送る。

ホテルに到着した里見は鍵の掛かっていない部屋に侵入する。

背後から里見を襲うカラ・・・。

しかし・・・明らかに手加減をしているのだった。

カラの目的は・・・里見の携帯電話だった。

里見は携帯電話をすり取られたことにも気がつかない。

「ついに・・・正体を・・・」

しかし・・・カラは自分の顔を自分で殴り、衣服を引き裂く。

明らかな狂言の開始に・・・気がつかず驚愕する里見。

「助けて・・・」

「おい・・・やめろ」

思わずカラの口を塞いだところに・・・チビデカと猪熊が到着するのだった。

「婦女暴行の現行犯だぞ・・・しかし・・・警察にも体面があるから・・・署までご同行願いましょうか」

「違う・・・これは・・・その女が・・・」

「最低・・・」

猪熊に睨まれ沈黙する里見だった。

里見は漸く・・・自分がまずい立場に置かれていることを悟った。

「女から・・・電話で呼び出された・・・俺は何もやっていない」

「携帯電話はどこだ・・・」

「あの女に盗まれた・・・」

「いつ・・・」

「あの部屋で・・・」

「お前・・・携帯電話を盗まれて気がつかなかったのか・・・それでも刑事か」

「・・・」

しかし・・・カラは訴えなかった。

「あの女に感謝するんだな」

「俺は無罪だ」

「お前は自宅謹慎だよ・・・刑事としては・・・もう終わりだ」

「猪熊さん・・・」

「気安く声をかけないで・・・私たち・・・終わったのよ」

「・・・」

刑事失格の烙印を押された里見。

恋人に見放された里見。

すべてはカラの仕組んだ罠であるが・・・それを知っているのは里見だけなのだ。

しかし、里見は・・・自分が敗北したことを・・・認めることができない。

「くそ・・・必ず・・・お前の化けの皮を・・・」

少なくとも・・・里見にだけは・・・カラは本性を見せたのだった。

それは一種のご褒美だったのだろう・・・。

女王様が奴隷に与える種類の・・・。

猪熊は両親に・・・「捜査一課に転任すること」を報告した。

「お父さん・・・私・・・彼と別れたの」

「そうか・・・」

養父である文一(大杉漣)は複雑な表情を浮かべる。

里見は・・・唯一の手掛かりである前川に接触する。

得られた手掛かりはただ一つ・・・とある甲子園の出場高校の校名にカラが不快感を示したということだけ・・・。

そういう記憶を持っている前川のカラへの執着心の方が・・・恐ろしい感じである。

里見のカラへ続く道は果てしなく遠い。

その頃・・・猪熊は・・・カラに案内されて・・・人里離れた公平の別荘へ到着していた。

「この家・・・今・・・人の気配が・・・したような」

「おどかさないでくださいよ・・・」

「ごめん・・・」

「あ・・・下・・・」

「え」

カラに誘導されてうつむいた猪熊の後頭部を容赦なく鈍器で殴打するカラだった。

猪熊は響き渡るサイレーンの叫びを聞いた。

絶体絶命とは・・・このことなのだ。

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2015年11月24日 (火)

毎日が二人の記念日なのです(山下智久)恋人にしてさしあげます(石原さとみ)

あれは・・・およそ五千年前・・・。

魔法王国バビロニアで魔法博士たちは使い魔として使役する獣を選定していた。

「ネズミ、牛、虎、ウサギ、ドラゴン、蛇、馬、羊、鳥、猿、犬、イノシシ・・・」

「猫はどうする」

「猫はだめだろう・・・」

「服従させるのが難しいものな」

「いや・・・可愛いから・・・」

「・・・」

で、『5→9〜私に恋したお坊さん〜・第7回』(フジテレビ20151123PM9~)原作・相原実貴、脚本・小山正太・根本ノンジ、演出・谷村政樹を見た。勤労感謝の日に結婚すると結婚記念日はいろいろとそれぞれが勤めて労い感じて謝る日になります。・・・そうなのか。外国人講師アレックスとブリタニーの結婚披露パーティーでこっそりと星川高嶺(山下智久)とイチャイチャしてしまった桜庭潤子(石原さとみ)はもしかしたら・・・自分は恋をしているのではないかと疑い・・・そわそわしてしまうのだった。

まあ・・・今回は完全に恋をしていることを思い知るわけですが・・・。

相思相愛になると終わりなので・・・潤子がその気になったところで・・・高嶺にピンチがやってくるという流れ・・・シンデレラで言うと・・・お城の舞踏会で踊っていたら・・・もうすぐ12時ってところでございます。お寺は門限厳しいらしい。

とにかく・・・高嶺の手を握り締めたら・・・胸がときめいてしまったらしい潤子。

夢の中でも・・・高嶺との甘いひとときを反芻。

目が醒めて逆上。

「夢か・・・よかった・・・いや・・・夢じゃない・・・なんで私はあんなことを・・・がっつきすぎて」

手を・・・。

「いやいや・・・あれは・・・結婚パーティーの空気のせいだ・・・幸せテロに巻き込まれた的な・・・おめでたい流れ弾に当たった的な・・・いやいや、このたとえ昨今、ヤバイだろう」

しかし・・・手をにぎって・・・うっとりと・・・。

あの人に逢いたいと思うほどに・・・。

「いやいやいやいや・・・まずい・・・この流れだと・・・結婚・・・お寺に嫁ぐことに」

思わずベッドの上で仁王立ちになるジャージ姿の潤子だった。

昨日までの自分と今朝の自分が激しく葛藤するのだ。

「第一・・・私・・・あの人のこと・・・好きなのか・・・好き・・・好きってなんだよ・・・まあ・・・いい人だとは思うけど・・・」

恋愛から遠ざかっていた潤子は胸に生じた気持ちを持て余す。

「いやいやいやいやいや・・・好きなのは清宮さんじゃなかったのか・・・こわくなって逃げ込んだだけじゃ・・・」

だが・・・自分自身に対する説得力に欠ける潤子だった。

その目に飛び込む・・・ニューヨーク行きの資金を貯めた貯金ボトル。

「そうだ・・・私には・・・色恋ではなく・・・ニューヨークで働くという崇高な目標が・・・」

恋愛ではなく・・・仕事が第一となんとか気持ちを切り替える潤子。

高嶺に対する「思い」から目をそらすことに成功した潤子。

しかし、寝室を一歩出るとそこには・・・朝から潤子の家族と談笑する高嶺が待っていた。

「・・・でしょうね」

どうしようもなく高まる「恋の衝動」をねじ伏せる潤子である。

だが・・・妹・寧々(恒松祐里)は「あの時のツーショット写真」を撮影していたのだった。

「お似合いだよねえ」

「・・・」

結婚式の招待状用として・・・すでに大量のプリントが終わっているのである。

「結婚してさしあげます」

「いやいやいや」

「二人は手を繋ぎ・・・愛を誓いました」

「誓ってません」

「心と心が結ばれました」

「・・・」

「目と目で通じあいました」

「工藤静香じゃねえよっ」

しかし・・・ご飯を盛り、味噌汁を置く高嶺が接近する度に「うわああああ」となってしまう潤子だった。

寧々は今回のミッションを公開する。

里中由希(髙田彪我)と蜂屋蓮司(長妻怜央)が寧々の誕生日を祝ってくれるというのだ。

キラリと光るストーカーの目。

「誕生日はいつですか」

「十一月二十三日・・・」

好きな人の妹の誕生日を放置できる高嶺ではないのだ。

「私が祝ってさしあげます」

「私は一月十五日」と母・恵子(戸田恵子)・・・。

「俺は八月二日」と父・満(上島竜兵)・・・。

「おねだりかっ」

「大切な家族の記念日はもちろん・・・潤子さんとの記念日はすべて祝います」

「記念日・・・」

「初めてあった記念日・・・初めてお泊まりした記念日・・・初めて膝枕した記念日・・・」

「一年は365日しかないのよ」

「重複した場合は記念時で・・・」

「時・・・」

「はじめて待ち合わせに遅刻された記念時、はじめてホテルに・・・」

「ああああああああ」

その時・・・朝の情報番組は星座占いを届ける。

星座は天空の十二宮に基づいている。

十二・・・それはあの時間を示す数字である。

シンデレラの魔法が解ける・・・約束の時間・・・。真夜中の十二時。

今日が終わり・・・明日になる一瞬。

午前九時から午後五時まで働いたビジネスマンが午後五時から午後九時まで英会話のレッスンを受け・・・そして・・・真夜中を目指してアレコレするわけである。

これはそういう話なんだな。

英会話学校ELAには高嶺の弟である星川天音(志尊淳)が出現する。

「どんな別嬪はんかと思うたら普通なんでびっくりぽんや」

天音は潤子に手を伸ばすが高嶺がガード。

「何故・・・ここに」

「冷たいなあ・・・兄さん」

「兄さん・・・」

「天音は十四歳の時から京都のお寺で修行している弟です」

「兄弟・・・」

「ほな」

「一橋寺」を支配する女魔王・星川ひばり(加賀まりこ)は高嶺と潤子の仲を引き裂くために天音を呼び寄せたのだった。

そもそも・・・潤子より足利香織(吉本実憂)が次期住職の高嶺の妻として相応しいと言っているひばりだが・・・。

「二人の仲を引き裂いてくれたら・・・あなたを次期住職にする」と天音に約束する。

言っていることが支離滅裂だが・・・ひばりか脚本家の頭がおかしいということだ。

「かわいい兄さんに女ができたからって・・・憎い俺にそんなこと言って・・・大丈夫ですか」

脚本の破綻を案ずる天音だった。

とにかく・・・高嶺と潤子のゴールを阻む・・・シンデレラの兄弟なのだから・・・まあ・・・仕方ないのだ。

もちろん・・・ひばりは育ての母のポジションである。

天音は・・・何故か・・・高嶺を・・・異様な感じで憎んでいるらしい。

その理由が・・・単なる優秀すぎる兄に対する嫉妬だったらどうしよう・・・。

お寺の縁側では那覇三休(寺田心)が説話を読んでいる。

「お釈迦様が十二神将のお供の獣を選ぶことになりました。智恵あるネズミはかねてから名誉を得たいと考えていたのでいろいろと企みます。お供は約束の日に先着した順番で決まります。一番手が予想される牛に面会したネズミは一番は譲るので同行したいと持ちかけます。牛はおだてられその気になります。それからネズミはネコの元へと出かけ・・・約束の日について一日延期になったと嘘をつきます。ネコは知らせてくれた礼を言うのでした。そして、約束の日、ネズミは牛の背中から飛び降りて一番乗り・・・そして・・・ネコは騙されたことを知り・・・ネズミに一言文句を言うために・・・ネズミを見れば追いかけることに・・・」

天音は三休に感想を問う。

「ネズミは悪い奴だと思います」

「それは・・・違うで・・・騙されたネコがアホなんや・・・」

「オレオレ詐偽の話ですか」

「そのたとえは・・・いろいろとアレやで」

とにかく・・・天音はいろいろと歪んでいるらしい。

ちなみに・・・十二支にまつわるエトセトラは・・・いろいろとあるが・・・選ぶのが天帝だったり、名もなき神だったり・・・すべては伝説レベルである。

問題は十二という「数」なのである。

ネズミは十二支の第一であり・・・つまり・・・真夜中を示す獣である。

ネズミの担当時刻は午後十一時から午前一時なのだ。

寝ずの身であり・・・陽を見ないことから・・・ヒミズの別名を持っている。

つまり・・・天音は・・・シンデレラを城から追い出す真夜中の鐘の音なのだった・・・。

ちなみに射手座は人馬宮であり十二支では寅(虎)である。

虎がネコの仲間であることは・・・間違いない。

ネズミはネコは騙せたが虎はだませない。

虎はひっそりと牛の背後からネズミを狙っているのだ。

高嶺よ、虎だ・・・虎になれ。

・・・もう、いいか。

清宮真言(田中圭)の言いわけには耳を貸さず、高嶺への恋心から目をそらそうと奮闘努力する潤子・・・。

しかし、自意識過剰になり・・・ELAの授業ではことさら高嶺を無視する方向に・・・。

「クリスマスについて・・・ご存じのことをお話ください」

「日本でクリスマスが広く知られるようになったのは1900年代とされています。そして、結婚する男女の多くは手を握ったことがあります」

「クリスマスと関係ないだろう」

「私を避けているようですが・・・」

「そんなことはありません」

そこへ・・・お誕生日会の打ちあわせのために寧々がELAにやってくる。

「あまり派手なことはダメよ」と釘をさす潤子。

「銀座のプリンセスホテルの朱雀の間を抑えてあります」

「歌謡祭かっ」

高嶺の示す長めの経文のような「寧々様十七才の御生誕記念大会演目」・・・。

「レディー・ガガとか・・・アヴリル・ラヴィーンとか」

「他に十組のアーティストを・・・」

「高嶺の舞って・・・」

「舞います」

「舞うのかよ」

「潤子さんの誕生日は武道館を」

「成り上がりもののリサイタルかっ」

「では東京ドームファイブ・デイズで」

「ツアーの締めじゃないっつーの」

二人のじゃれあいを・・・諦観の表情で見つめる清宮だった。

高嶺に気持ちが動いていくことを抑えきれない潤子。

眠ろうと思っても眠れないのだった。

冷蔵の父専用ビールで酒盛りを始める潤子。

「だから・・・無理だってーの・・・生まれも育ちも違いすぎるんだもの・・・大体、カニカマのことだって知らないだろうし・・・そりゃ・・・カニは好きだけど・・・カニカマのカニでもカマボコでもない存在のせつなさが・・・あの人にはわからない」

一橋寺では高嶺が潤子に贈るカニを吟味する。

「今日は・・・潤子さん・・・元気がなかった・・・厳選したカニを・・・」

「大体ビールなんか飲まないだろう・・・お坊さんってお酒いいんだっけ・・・飲んだら甘えてくるタイプだったりして・・・ぐへへ」

「立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花なんて申しますね・・・ボタンは花の王様、シャクヤクは花の宰相だと言うんで百合は差し詰めお姫様・・・この言葉・・・まさに潤子様のためにあるのです」

シンデレラ高嶺は「王子様のような潤子」を想うのですな。

「あの人・・・洋服とか着ないのかな・・・似合いそうなのに・・・下着は・・・ふんどしだったりして・・・いやいやいや・・・ふんどしなんて・・・ふんどし婚とか・・・いやいや食い込むばかりだし」と潤子。

「君待つとわが恋ひをればわが屋戸のすだれ動かし秋の風吹く・・・万葉集・・・」と高嶺。

天武天皇の妃であった額田王の一首である。

額田王の娘・十市皇女は天武天皇の兄・天智天皇の息子である大友皇子の妃となる。

しかし、十市皇女の父と夫は皇位を争い・・・壬申の乱となる。

額田王は絶世の美女で・・・二人の天皇と三角関係にあったという噂もある。

「夫ではない・・・近江の君を恋しく想っていると・・・秋風ですだれが動くのにも心が騒ぐ・・・」という浮気心を歌ったとされるのである。

つまり・・・浮気相手が天智(天皇)、不倫妻が額田王、夫が天武(天皇の弟)ということになる。

まあ・・・あくまで噂である。千四百年前の噂をいまだにしているというのは日本人の噂好きの極みといえる。

「いや・・・とにかく・・・あの人のことが・・・好きだなんてありえないから・・・」

「好きなんでしょう・・・」

「え・・・」

カーテンの向こうで眠っている寧々の寝言だった・・・。

しかし・・・それは図星なのである。

潤子と高嶺は今・・・深い絆で結ばれつつあったのだ。

毛利まさこ(紗栄子)は三嶋聡(古川雄輝)のことが眼中にない潤子に意見する。

「私は好きだった三嶋さんを諦めたのに・・・潤子先生は両天秤なんてズルイ」

山渕百絵(高梨臨)は妄想彼氏として三嶋聡に懸想しているので言葉を濁す。

潤子、百絵、まさこって・・・中三トリオか。

・・・それ・・・どうしても言う必要あるの。

現実と仮想現実の区別がつかなくなった百絵は三嶋の胸に飛び込んで木村アーサー(速水もこみち)の自信を喪失させるのだった。

まあ・・・このドラマではひばりと百絵は・・・ある意味、精神に問題がある人なんだよな。

しかし・・・人の恋路を邪魔する奴と・・・現実逃避する奴はラブコメの敵そのものだからな。

高嶺に何やら邪な執着を持つ天音は策を巡らす。

「住職の妻は一生寺から出られない」などと意味不明の潤子に対する脅しである。

天音は両親の死後・・・七才だった兄の高嶺に養育され・・・チェスも習得したらしい。

しかし・・・世界を支配しようとするひばりに京都に追放されて・・・何かを喪失したらしい。

変な京言葉を覚えた天音の悪意を敏感に感知する高嶺一筋の香織。

「何を企んでいるのです」

「まあ・・・合唱部同志・・・仲良くしようや」

「お断りだす」

まあ・・・あえて・・・言えば・・・こういう「駆け引きの世界」は相当に面白くないと・・・ラブコメでは不純物になるのです。

もちろん・・・「高嶺が何もかも失った乞食坊主になったら・・・潤子はどうするのか」という話ですが・・・潤子は王子様だし、高嶺はシンデレラですから・・・本筋ではないのですな。

これは「愛と金の話」ではなくて「ラブコメ」なので・・・。

「潤子さんをあきらめるか・・・一橋寺をあきらめるか・・・ばあさんを殺すか」

「追放の大罪であるパーラージカを述べなさい」

「淫戒・・・すなわち淫らなことをすること・・・盜戒・・・すなわち与えられていないものを奪うこと・・・殺人戒・・・すなわち人を殺すこと・・・大妄語戒・・・すなわち嘘を語ること・・・の四つや・・・」

「愛する人を愛するのは淫らなことではありません・・・与えられたものを受けるのは盗みではありません」

「・・・」

「だから・・・潤子さんを愛し、一橋寺を継ぐことは・・・正しい仏の道なのです」

「・・・兄さん」

云い負かされ・・・天音の瞳は荒むのだった。

高嶺の父親(故人)と高嶺の間をつなぐ雇われ住職である寺田光栄(小野武彦)は親友の娘である潤子と高嶺の結婚を応援し・・・ひばりに申し出る。

「もう一度・・・高嶺くんと話し合ってください」

「では・・・明日・・・八時に」

「それは・・・私から・・・兄さんに伝えますよって」

小賢しいネズミと化した天音・・・。

約束の日は・・・もちろん・・・寧々の誕生日である。

寧々のために買い物に出かける潤子と高嶺。

ガーリーなファッションを大人買いしようとする高嶺を潤子が戒める。

「ガーリー(乙女チック)のイントネーション・・・違いますよ」

「大人ガーリーって・・・なんでしょうか」

「オトナ女子風ですよ」

「・・・ああ」

人気のラーメン店に行列する高嶺と潤子。

「なんで・・・並ぶんですか」

「恋人なのでに並びたかったのです」

「恥ずかしいから大きな声で言わないで」

「恥ずかしいことなどありません・・・あなたこそ・・・他の男と二人きりになるなんて」

「何もしていません」

「何もしていなくても・・・許せません・・・私がどれほど心配したか」

「心配し過ぎですよ」

「いいえ・・・あなたは自分の魅力をもう少し自覚しなければいけません」

「魅力?」

「あなたは地球上のすべての男にとって最高に魅力的な存在なのです」

「それ・・・褒めてるの?」

「私は単なる事実を述べています」

「・・・」

ラブラブである。

ひばりとの約束を知らぬまま・・・桜庭家で楽しい時を過ごす高嶺だった。

はじめて潤子に手巻き寿司を作ってもらった記念日・・・お持ち帰り禁止・・・。

星座占いで高嶺も「いて座」と知った潤子は・・・英会話学校ELAの生徒ファイルで高嶺の誕生日を確かめた。

「え」

だから・・・二次会のカラオケパーティー直前。

潤子は高嶺に部屋の後片付けを頼む。

桜庭家で二人きりになる潤子と高嶺・・・。

「照明を消して・・・」

「え」

「いいから・・・早く・・・」

潤子の大胆な申し出に怒張する高嶺。

しかし・・・潤子が用意していたのは小さなバースデイ・ケーキだった。

「お誕生日・・・おめでとう」

かわいいサプライズである。

高嶺の頬を伝う涙・・・。

「両親が死んで・・・最初の誕生日・・・おばあさまと住職はなんでも望むものをくれるといいました。幼い私は両親をと無理難題を申し・・・それ以来・・・誕生日を拒絶してしまったのです・・・だから・・・自分の誕生日を忘れていました」

「馬鹿ね・・・」

「誕生日を祝ってもらうのが・・・こんなに嬉しいことだとは・・・」

「泣くことないでしょう・・・こんな小さなケーキでごめんなさい・・・」

「生まれてから・・・今までで・・・最高の誕生日です」

「・・・」

「あなたのことが好きです」

「恋人にしてさしあげます」

高嶺の涙をぬぐう潤子・・・。

見つめ合う二人・・・そこにお約束で桜庭トリオが乱入するのだった。

「早く・・・カラオケに行きましょうよ」

高嶺の持ち歌は「とんちんかんちん一休さん/相内恵とヤング・フレッシュ」だったらしい。

「すきすきすきすきすきすき、あいしてる」

「・・・最期の方、音程狂うよね」

「・・・音痴だったんだね」

盛り上がる桜庭家の人々・・・。

その頃・・・ひばりは・・・愛する孫にふられて・・・歯ぎしりするのだった。

潤子は・・・ベッドの中で高嶺の歌を思い出し・・・愛しくて愛しくて笑いがとまらない・・・。

また眠れないらしい。

高嶺がそばにいないことが淋しい潤子だった。

高嶺と潤子の愛は幸せの絶頂である。

しかし・・・変な歌を歌う高嶺の前に・・・親の形見の法衣を着た天音が立ちはだかる。

「アニソン三昧かっ・・・潤子の母ちゃんマチルダさんかっ・・・残念でしたねえ・・・兄さん・・・一橋寺は僕がもらいましたよ」

「・・・」

「ははは・・・兄さんに勝った・・・これから・・・兄さんの持っていたものは・・・全部・・・僕のものだ」

高嶺は生きながら地獄に落ちた弟を不憫に思うのだった。

そして・・・一橋寺の自動門は閉じる・・・。

関連するキッドのブログ→第6話のレビュー

59007ごっこガーデン。愛の天使が撃ちまくるカラオケボックス・セット。

エリラブラブでイチャイチャで・・・好きな人の一挙一動が愛しくて愛しくて仕方ない恋の絶頂、坊主に恋すれば袈裟まで恋しいのでス~。庶民のお誕生日はあんな狭いお部屋でするのでしゅか~。脱いだ靴は廊下まであふれだすのでしゅか~。日本間なのに立食でしゅか~。シングルベッドで淫らな行為に及ぶのでしゅか~・・・いろいろと興味深いものでス~。じいや・・・次はPセンパイとデュエットしましゅよ~・・・高嶺の舞バックダンサーズもよろしくお願いしまス~

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2015年11月23日 (月)

声無きを訊き形無きを視る・・・明治十二年大警視死す(優香)

薩摩藩出身でありながら西郷を討った川路利良は大警視と陸軍少将を兼任するという軍人警察官である。

首都警察としての警視庁は明治、大正、昭和、平成を経て現在も継続中である。

ある意味・・・明治維新魂がそこでは今も生きているわけである。

犯罪者にとって・・・治安は敵である。

いつ犯罪者になるのかわからない・・・庶民にとって警察組織は・・・忌むべき側面を持っている。

しかし・・・「ごめんですんだら警察いらない」は生活安全の合言葉である。

悪いことをしなければこわくありません。

まあ・・・とにかく・・・そういうこともスルーして・・・明治十年、西郷星が輝きを失うといきなり明治十四年である。

おそろしくとんでも大河だなあ・・・。

木戸孝允や西郷隆盛そして大久保利通の死よりも主人公の姉の死が大事・・・まあ、それはそれでいいでしょう。

で、『燃ゆ・第47回』(NHK総合20151122PM8~)脚本・小松江里子、演出・渡邊良雄を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回も年末年賀状体制発動のためにイラスト描き下ろしはお休みです。明治五年(1872年)の「監獄則」によって獄衣は柿色と定められていたわけですが・・・これは幕府時代からそうだったので・・・もう少し色褪せていてもいいと思いますね。藩によっては浅黄色だったかもしれません。獄中の松陰は薄墨色だったので・・・ある意味イメージなんでしょうねえ。謀反人続出の杉一族の中にあって寿の夫だけが新政府における出世頭となった・・・。親戚一同が楫取素彦に頼るという自然な流れ・・・。楫取もまた吉田松陰という王政復古の先駆けをした者の名声を利用したとも言えます。維新の功労者の一人である久坂玄瑞の未亡人を後妻に迎えることは美談でございます。まあ・・・儒者である松陰一家としては人倫的にアレですが・・・もう文明開化の時代ですから~。そもそも・・・主君筋の毛利元昭は尾張公の娘・富姫と離縁して三条氏の娘と再婚、富姫も戸田氏と再婚してますし・・・。上流階級なんでもありでございます。そういう普通の関係を不倫まあいやらしい的に描かれても赤面するしかございませんよねえ。

Hanamoe47明治十一年(1878年)五月、大久保利通が東京・紀尾井坂で暗殺される。六月、東京株式取引所開業。七月、地方三新法公布。八月、東京竹橋にて大日本帝国陸軍の近衛兵部隊が反乱する。大蔵卿大隈重信公邸が銃撃されるも銃撃戦の末、鎮圧。十二月、陸軍卿山県有朋が軍人訓戒を頒布。明治十二年(1879年)一月、高橋お伝斬首。四月、琉球藩が廃止され沖縄県となる。東京・浦賀・館山間に汽船運航開始。チリがペルー・ボリビアに宣戦布告。五月、アフガニスタンと英国の第二次アフガン戦争勃発。六月、東京招魂社が靖國神社と改称される。九月、千住製絨所開業。この頃、久坂秀次郎が久坂家継承。粂次郎は楫取家に戻る。教育令公布。十月、川路利良死去。十二月、日本橋で大火、一万戸焼失。明治十三年(1880年)三月、十三年式村田銃が国産初の制式化。四月、群馬県教員伝習所所長に宮部襄が就任。十一月、官営工場払下げ開始される。斬首刑は廃止され、「人斬り浅右衛門」は失職。明治十四年(1881年)一月、憲兵設置。両国で大火、一万戸焼失。楫取寿死去。四月、農商務省設置。七月、ビリー・ザ・キッド射殺。十月、伊藤博文に追放され大隈重信下野。国会開設の詔により板垣退助が自由党結成。十二月、陸軍刑法・海軍刑法制定。

横浜の占い師・高島嘉右衛門の元に岩倉具視がお忍びでやってきていた。

「群馬県のことやが・・・」

「毛利家が勝ちまする・・・」

「ほんまか・・・」

「吉田の忍びを甘くみてはなりませぬ・・・」

「そんなら・・・英国式は・・・」

「結局はプロシア流となりましょう・・・」

「それは・・・あかんな・・・」

「まあ・・・右大臣様の命数はまもなく尽きまするゆえ・・・」

「後は野となれ・・・山となれかいな」

岩倉具視は気力の衰えを感じ、肩をすくめた。

美和は高崎の一揆衆と岩鼻の脱獄囚部隊に前橋への道を塞がれていた。

「まずいな・・・佐助・・・」

「は・・・」

「お前は板鼻まで迂回して・・・前橋に入れ・・・」

「美和様は・・・」

「私一人なら・・・結界を突破できる・・・」

「お気をつけて行かれませ・・・」

美和は敵の心を読みつつ・・・包囲線に足を踏み入れた。

(姉上・・・)

前橋城に楫取素彦県令と守備兵を置き、楫取夫人寿子は楫取が建設した公設遊郭・上野楼を出城として篭城していた。

岩鼻獄の囚人を解放したのは土佐科学忍者隊である。

薩摩を味方につけた土佐の政商・岩崎弥太郎が陣頭で指揮をとり・・・上野楼を包囲しようとしていた。

木戸、西郷、大久保という維新の元勲がすべて消えた空白に土佐勢が食い込もうとしていた。それは井上馨が支配する三井と岩崎弥太郎の三菱の前哨戦なのである。

弥太郎は妖術を使い・・・西郷の霊を薩摩の敗残兵たちに降ろそうとしていた。

「見よ・・・天に西郷星が輝いている」

前橋の空に赤い妖星が出現していた。

幻の西郷星に魅入られた薩摩の男たちは・・・身体に熱気が宿るのを感じる。

「おはんらの身体に西郷どんが入った・・・桜島の神が憑依した」

男たちの身体から噴煙が立ち上り・・・それは一つの火球となる。

「はなてえ」

膨れ上がった火球は遊郭に火災を発生させる。

寿子の周囲を守る鉄砲くのいちたちが叫びをあげて燃えあがる。

(まずい・・・)

しかし・・・美和は・・・上野楼の表を流れる川面に親しいものがいるのに気がついた。

(秀次郎・・・間に合ったか)

河童である久坂玄瑞の血を引く秀次郎が水中から躍り出た。

「久坂流水術・・・河津波じゃ」

怒涛が発生し・・・上野楼の火災を消し止めると・・・水流は薩摩の男たちを押し流す。

「こしゃくな」

岩崎弥太郎の顔に鬼のような憎悪の表情が浮かぶ。

(あれが・・・土佐の守銭奴・・・)

美和は夜の闇を駆け抜けながら思わず笑みをこぼす。

一夜を凌げば・・・利根川から毛利水軍の河川砲艦が到着する手筈である。

(勝てる・・・)

美和は勝利を確信する。

もちろん・・・毛利家の勝利は・・・運命により定まっているのである。

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2015年11月22日 (日)

不眠不休の読書探偵(新垣結衣)神に誓って私は見ていません(岡田将生)

記憶障害あるいは認知症の症状は様々だ。

忘れてしまうことと覚えているのに思い出せないことは違う。

ここはどこだかわからないが自分が誰かは知っている。

叱られて・・・といえばあの子は街までおつかいにと続けることはできても一人ではおつかいに行けない。

ドラマを見ていて次のセリフは予測できるが・・・前のセリフは忘れている。

自分の両親の名前さえ忘れてしまう。

生年月日は覚えているが自分が何才かはわからない。

とっくに死んだ人間がまだ生きているつもりだ。

嫌なことも忘れてしまうが・・・楽しいことも忘れてしまう。

なにも匂わない。

それでも・・・人間はしばらくは生きて行くのだ。

それが幸せなのかどうか・・・幸せという言葉を覚えているのかどうか・・・。

愛している人に忘れ去られること・・・なんと恐ろしいことだろう。

忘れた人は忘れたことも知らないのだ。

で、『掟上今日子の備忘録・第7回』(日本テレビ20151121PM9~)原作・西尾維新、脚本・野木亜紀子、演出・佐藤東弥を見た。小説家・須永昼兵衛に自殺の疑いが出る。死因が睡眠薬の過剰摂取にあるためだ。それは事故だったのか・・・それとも自殺だったのか。最期の作品「とうもろこしの軸」にヒントがあるのではないかと考えた出版社「作創社」の社長・小中は担当編集者の重里(神保悟志)に調査を命じる。「須永フェスタ」での掟上今日子(新垣結衣)の名推理に惚れこんだ重里は隠舘厄介(岡田将生)を通じて真相究明を依頼するのだった。

「何故・・・直接依頼しないんですか」

「今日子さんに逢ったら・・・自分がどうにかなってしまいそうなんだよ」

「・・・」

依頼を受けた今日子は遺稿となった「とうもろこしの軸」の出版予定日を訊ねる。

「来年の二月です・・・出版されたらサンドグラスの書棚に僕がそっと置いておく約束でした」

「私が・・・あなたに・・・そんなことを・・・」

「はい」

「何故?」

「それは・・・」

「最期の作品の謎を解くためには・・・須永作品を最初から全部読む必要がありますね」

「何作目からかは知りませんが・・・途中までは読んでいるんですよね」

「いえ・・・一言一句見逃せないので最初から全部」

「最新作を含めると百冊ありますけど・・・」

「徹夜で読みます」

「え」

翌日・・・居眠り防止助手として雇用された厄介は・・・秘密保持のために「置手紙探偵事務所」へと探偵斡旋業も営むアパルトマン「サンドグラス」のオーナー・絆井法郎(及川光博)やウエイトレス・幕間まくる(内田理央)そして潜入捜査員の也川塗(有岡大貴)の目を盗みコソコソと入室する。

今日子が「須永昼兵衛の百冊」を完全読破するまで眠らせないのが厄介の任務である。

「厄介さんが来るのを待つ間・・・遺稿を読みましたけど・・・須永作品としては凡作でした・・・これを遺作にして自殺するというほどの作品ではないし、駄作しか書けなくなったので自殺するというほどのものでもない・・・うっかり遺作になっちゃったんだと思います」

「・・・」

「そもそも・・・須永作品には・・・殺人事件はあっても・・・自殺はない・・・先生は自ら命を絶つことに深い嫌悪を抱いていたと推定されます」

「でも・・・可能性があるから・・・目をそらしていたということもありますよね」

「・・・」

「ここに小中社長の用意したすべての作品リストがあります・・・発行順になっているので・・・この順で・・・」

「処女作からですね」

「水底の殺人/須永昼兵衛」(1971年2月刊行)から・・・今日子は読書を始める。

一冊30分で読破する今日子・・・このペースなら99冊を二日とちょっとで読み終えることができる。

楽観した厄介は・・・今日子のためにビーフストロガノフを作りながら・・・甘い新婚生活願望に浸るのだった。

厄介が食器を洗い今日子が食器を拭う・・・。ふと触れあう手と手・・・。

おそろいのパジャマを着て・・・おそろいのパジャマを脱いで・・・おそろいのパジャマをまた着て・・・今日子の寝顔を堪能する・・・しかし、翌朝になれば・・・毎日、不審者として警察に通報されるのだ。

被害者意識の強い厄介は妄想内容も不幸だった・・・。

二日目に突入した二人は「眠気を醒ますヨガのポーズ」や「気分転換のジェンガ」までこなす余裕を見せていた。

しかし・・・身体的な睡眠の欲求が二人を倦怠期の夫婦のような心理に追い込む。

厄介は作品リストを眺めるうちに・・・須永作品の特徴に気が付く。

「須永作品は全部に22シリーズありますよね・・・薬品探偵シリーズとか、名もなき推理トリーズとか・・・今日子さんの好きな名探偵メイ子シリーズしか・・・ところがここ数年・・・須永さんは新シリーズをスタートさせていないし・・・継続中だった携帯電話探偵シリーズ、怪盗ブルーシリーズ、概算兄弟シリーズと・・・今年、すべてのシリーズが完結しています。これは・・・須永さんが・・・死を・・・」

「それは須永素人の発想です・・・先生は前にもすべてのシリーズを完結して・・・絶筆を噂された時がありましたが・・・まもなく新シリーズを開始しました。それに・・・先生にはシリーズものではない・・・ノン・シリーズもあるのですよ。たとえば・・・最新作はノン・シリーズです・・・もしかしたら・・・これは新シリーズ第一作なのかもしれない」

「・・・」

次第に険悪になる今日子と厄介の関係。

カツ丼を用意した厄介に・・・。

「こんな睡眠不足の時にそんな脂っこいもの食えるかっ」

刺々しい今日子だった。

追い込まれた厄介は・・・睡眠不足の呪いで今日子を嫌いになりそうな自分を発見してうろたえる。

(こんなことになったのも重信の野郎の依頼を引き受けたせいだ・・・依頼があるのは・・・須永昼兵衛が死んだから・・・)

今日子の部屋で「須永昼兵衛何故死んだ」と叫ぶ厄介だった。

「ちっ」と舌打ちする今日子。

「す、すみません」

「水・・・」

「はい」

もはや・・・主人と奴隷である。

四日目を越え・・・限界を感じる厄介。

睡眠不足のために読書ペースは一冊四時間越えになっていた。

(残り二十一冊・・・このペースだと・・・あと五日間近く眠れない・・・)

得体のしれないどす赤いスープを飲んで眠気を覚ます今日子。

74作目の「一、二、惨死/須永昼兵衛」を読みながらうとうとする今日子。

「頬をつねってください・・・両手で・・・」

「はい・・・」

「いい感じです」

罪人と執行人モードである。

69作目の「嬉し恥ずかし文化祭/須永昼兵衛」の頃が懐かしい厄介・・・。

「がんばれ・・・もう少しだ」

「はい」

ついに運動部の監督と選手に・・・。

うつらうつらしておでこをぶつける二人。

五日目である。

「私としたことが・・・五日もお風呂に入っていないとは・・・シャワーを浴びてのりきらにゃいと・・・」

「・・・」

「食事の用意・・・お願いしまします」

おねむのガッキーかわいいよおねむのガッキー連発である。

「寝室には絶対入らないように・・・」

「・・・」

(今日子さんがシャワーをあびているのに・・・モヤモヤする気力もない・・・もう・・・食材もない・・・今日子さんが戻ってきたら・・・買い物・・・に・・・・・・・)

厄介は眠ってしまった・・・。

部屋に差し込む夕陽・・・。

厄介は目が醒めた。

幽かにシャワーの音が聞こえる。

温水の後・・・冷水を浴びた今日子はそのまま・・・浴室で眠ってしまったのだ。

「今日子さん・・・入ります・・・」

そこには全裸の今日子が横たわっていた。

長時間、冷水を浴びて冷え切った今日子の身体・・・。

このままでは低体温症による生命の危険が・・・。

過去のバイト歴を活かして救急救命をする厄介。

「少しずつ・・・温めないと・・・心臓発作を起こす場合がある」

必死に処置をした厄介は・・・今日子が危機を脱したと同時に精神的に追い込まれる。

「目が覚めたら・・・今日子さんはまたチャレンジするだろう・・・今度は命を失うかもしれない・・・そんな危険は看過できない・・・この仕事はなかったことにしなければ・・・」

厄介は・・・そのために今日子の身体に残る置手紙を拭い去るのだった。

今日子との思い出の日々に決別する厄介は嗚咽を漏らす。

涙をこらえて記録を消去である。

左腕の「厄介さん眠らないように見張ってもらう!」を消す。

「五日目」を示す「正」を消す。

厄介が右腕に書いた「調査終了まで今日子さんを起こし続けることを誓います隠舘厄介」を消す。

太股の「須永先生が自殺?疑いを晴らすため全著作と遺稿を読む日曜の朝に本が来る極秘任務」を消す。

「とうもろこしの軸の発売予定日は?」を消す・・・。

残されたのは・・・「私は置手紙今日子探偵記憶が一日でリセットされる」と「サンドグラスの電話番号そしてサンドクラスの三人の名前」のみ・・・。

今日子の身体から・・・厄介の名は消えた。

すべての証拠を隠滅した厄介は・・・愛しい女が眠る部屋のドアをそっと閉じた。

「失敗でした・・・」と依頼を解除するように重里に頼む厄介。

「そうか・・・遺族は自殺ということで本が売れるならそれでいいと言ってるし・・・須永先生は自殺ということで・・・」

「須永昼兵衛は自殺しません」

「え」

「今日子さん・・・」

今日子は作品リストを示した。

「目が覚めたら床に落ちていたコレを発見しまして・・・リスト作成者の小中氏に連絡して事情を聞きました。その結果、須永先生は自殺したのではないことが明らかになったのです」

「謎が明らかになったのですか」

「僭越ながら・・・一秒で」

「ええっ」

「このリストには七冊のノンシリーズ作品があります」

「・・・」

「実は・・・これらは・・・一つのシリーズだったのです」

「えええ」

「デビュー作に登場する主人公の妹のクラスメートで頭文字がMの女子・・・この登場人物は脇役としてノンシリーズすべてに登場します。ある時は桃田さん。その後、結婚して桑田夫人。さらに名前があさみだったことも明らかになります。1971年にデビュー作で少女だったももたあさみは・・・最新作では六十代の農家のおばさんになっていました・・・」

「うわあ・・・ファンが誰ひとりとして今までそれに気がつかなかったなんて・・・」

「私も・・・七冊だけに特化して読まなければわかりませんでした・・・ももたあさみは・・・須永昼兵衛の初恋の人だったそうです・・・そして夭折なさってます・・・ノンシリーズの刊行日はいつも二月・・・彼女の命日です」

「ああ・・・」

「須永先生は・・・その人を作品の中でずっと愛し続けていたのです」

「・・・」

「彼女がまだ生きているのに彼女を残して・・・須永先生は自殺しません・・・」

「今日子さん・・・ありがとう・・・これで須永先生の名誉は守られた」

厄介は今日子と二人きりになった。

「さて・・・大人の話をしましょうか」

「その前に・・・あのリスト・・・僕は確かにリュックに・・・」

「拾ったというのは嘘です・・・あなたのリュックから拝借しました」

「そんな・・・いつ・・・」

「気持ちよく眠っていたらあなたの嗚咽で目が醒めました」

「え」

「あなたが証拠隠滅のためのクリームを取りに寝室を出た時に・・・身体のメモを確認して状況を把握し・・・リュックからリストを・・・」

「では・・・あの時・・・今日子さんは起きていたと・・・」

「はい・・・あなたが太股のメモを消している時も・・・」

「み、み、見ていません」

「私・・・頑張っている男子は・・・好物なんです」

「・・・結局・・・全作品読破にチャレンジしたかっただけなんですね」

「今度、厄介さんにも見せてもらいますよ」

「は」

「冗談です」

「う」

「寝室で見たことは他言無用です」

今日子の寝室の天井には・・・。

お前は今日から掟上今日子

探偵として生きていく

・・・と見事な筆跡で書かれていた。

「誰があれを・・・」

「わかりません・・・またのご依頼・・・お待ちしています」

「いいんですか」

「もちろんです」

厄介は今日子の全裸を見ても怒られなかった。

もちろん・・・今日に限ってのことである。

その夜・・・今日子は「サンドボックス」の三人の名前の下に・・・。

「厄介さん信用できる」を書き加えた。

厄介は・・・記憶を失う今日子に代わって・・・「Kの備忘録」を書き始める。

こうして・・・厄介と今日子にとって昨日とは違う一日が始るのだった。

もはや・・・二人の最高傑作の匂いが漂い始めたな・・・。

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2015年11月21日 (土)

出血が止まらない!(綾野剛)安産祈願ワンコ頼み!(松岡茉優)おしん!(小林綾子)

14才の母の次は43才の母である。

今回も豪華ゲスト続々だが・・・なんちゃっても続々である。

そもそも後期研修医の下屋を演じる松岡茉優(20)だからな・・・。

43才の妊婦を演じる森口瑤子(49)で・・・38才の不妊治療中の女性編集者を演じる西田尚美(43)なのである。

しかし・・・冒頭で子宮破裂により死産する43才の患者を演じるのは小林綾子(43)だ・・・。

清々しいね・・・。

「おしん」から・・・32年か・・・。

で、『コウノドリ・第6回』(TBSテレビ20151120PM10~)原作・鈴ノ木ユウ、脚本・山本むつみ、演出・加藤尚樹を見た。男女雇用機会均等法が施行され、男女が平等でない国家として指摘され、晩婚化で少子化が進む・・・個人がそれぞれの幸せを追いかける夢の国・ジャパン・・・それでも人々は生きて行く。そしてまだまだ不満があるのだ。偏向報道で名を馳せた「NEWS23」のメインキャスター膳場貴子(40)も産休に突入するのだった。半日的愛国心とでも呼ぶべき心根の疑似リベラルの人たちもいい加減にしてほしい。

周産期母子医療センターが設置されているペルソナ総合医療センターに緊急搬送されてくる妊婦・佐野真理子(小林綾子)・・・。

産科医・鴻鳥サクラ(綾野剛)や四宮春樹(星野源)・・・そして後期研修医の下屋加江(松岡茉優)は蒼ざめる。

「チアノーゼだ」

「腹が固い・・・大量に出血してる・・・」

「カイザーだ」

「新生児科と救急救命科にも応援要請・・・」

しかし・・・医師たちの奮闘虚しく・・・子宮破裂のために死産となり・・・辛うじて母体は命をとりとめる。

救急救命科の加瀬医師(平山祐介)は放心した表情を浮かべる。

「43才か・・・十年前に産んでおけばよかったのにな・・・」

どことなく差別的な発言に激昂する下屋。

「産みたい時に産めない事情だって・・・女にはあるんです・・・エイジハラスメンナトの上にマタニティーハラスメントですよ」

「女医だって・・・産休したら復帰が難しい場合もあるしね・・・」

珍しく下屋の味方をする新生児科の新井医師(山口紗弥加)だった。

女性軍の攻撃に無条件降伏する加瀬・・・。悪気はないのである。ただ・・・命を救えなかった愚痴が漏れただけだ。

もう少し・・・若ければ患者の子宮は破裂しなかったかもしれないのだから・・・。

サクラと四宮は沈黙を守った触らぬ神にたたりなしなのである。

人それぞれに人生がある。

妊娠三十六週の妻・永井晴美(川村ゆきえ)を交通事故で失った永井浩之(小栗旬)は残された新生児・メイを男手ひとつで育てていた。

育児と仕事の両立は辛い。保育園にお迎えに行った後で・・・乳児とともに会社に戻り残業する浩之なのである。

38才から不妊治療を始め五年目で懐妊した竹下敦子(森口瑤子)は臨月に達していた。

「この子に早く会いたい・・・ようやく会えると思うとうれしいです」

検診でサクラに語る敦子だった。

「高年齢による出産はリスクがあります・・・少し、尿に蛋白も出ていますので様子を見るために・・・少し早めに入院することをお奨めします」

「赤ちゃんに何か・・・」

「いえ・・・今のところ・・・問題はありません・・・予防的な入院とお考えください」

「やはり・・・高年齢であるのはまずいんでしょうか」

「そんなことはありません・・・統計的にも高年齢のお母さんから生まれたお子さんは情緒が安定しているという説もあるくらいです」

そこへ・・・夫の真一(山本浩司)がやってくる。

「子育ては出産してからが本番です・・・支えてくれるご主人と一緒なら大丈夫ですよ」

真一は入手が困難な安産祈願のアイテムを持参した。

「かわいい」と下屋は犬のマスコットに少女のように目を輝かせるのだった。

二十代の妊婦(大西礼芳)は四宮の診察を受けていた。

「今度・・・凄い番組がスタートすることになるんで・・・今回の出産はあきらめようかなと思っています」

「中絶を希望するということですか」

「そうなんです・・・この番組を成功させたいんです・・・今回、あきらめても・・・来年か、さ来年か・・・また妊娠できますよね」

「それは占い師にでも聞いてください」

「え」

「いいですか・・・卵子はあなたが生まれた時から増えません・・・つまり、あなたが老化するように老化していきます・・・今年より、来年、来年よりさ来年と妊娠しにくくなっていきます・・・次に妊娠するかどうかは医師にはなんとも言えません」

「・・・」

「で・・・いつにしますか」

「はあ」

「中絶の日取りです」

「・・・少し考えさせてください」

ある意味、脅迫である。

竹下夫妻が通った不妊治療外来に・・・人工授精の成否を確かめるために相沢美雪(西田尚美)がやってくる。

「残念ですが・・・」

今回も妊娠しなかったことを告げる不妊治療の専門医・岸田秀典(高橋洋)・・・。

「そろそろ・・・体外受精を考える時期かもしれません・・・」

「人工授精と・・・どう違うのですか」

「人工授精の場合・・・選抜した精子を子宮に送りこみますが・・・体外受精は・・・受精卵を子宮に戻します」

「なんだか・・・不自然ですよね」

「生命の誕生は・・・いつでも自然なものです」

「成功率は・・・」

「38才の場合・・・統計的には30%・・・三~四回で妊娠することになります。四十代では10%・・・つまり十回に一回という成功率です」

「・・・」

美雪の気持ちは沈む・・・。

メイが発熱していることに気がつかず仕事に熱中していた永井浩之はあわててサクラを訪ねる。

新生児科の今橋医師(大森南朋)が診断し容体を告げる。

「大丈夫ですよ・・・出産後半年くらいには・・・こういう発熱があるものです」

「本当ですか」

「メイちゃんも・・・生きるために・・・細菌と戦い始めているということです・・・しばらく様子を見て落ち着いたら帰宅できますよ」

「すみません・・・夜分におしかけて・・・」

「いいえ・・・仕事ですから・・・いつでもどうぞ」

サクラは孤軍奮闘する父親に話しかける。

「無理をしないでくださいね」

「こんなことでは・・・亡き妻にしかられてしまいます・・・」

「いいえ・・・母親だって・・・こうやって夜中にかけこんでくるものですよ・・・」

「・・・」

「あなたは・・・とてもよくやっています」

「・・・だって・・・この子はすごく可愛いんです・・・亡き妻にも抱かせてやりたかったなあ・・・」

「・・・」

竹下夫人の入院についてのカンファレンス。

高年齢出産によるリスクに神経が高ぶる新生児科の研修医・白川(坂口健太郎)・・・。

「こうなると不妊治療も考えものですよね・・・不妊治療は妊娠したら終わり、産科は出産したら終わりでしょうけど・・・新生児科にすべて押しつけられても・・・」

顔色が変わる下屋。

しかし・・・指導医の今橋が若者を窘める。

「それは・・・ちがうよ・・・周産期母子医療センターはひとつのチームなんだ・・・それぞれが連携して・・・お母さんと赤ちゃんの命を守っているんだよ」

「・・・」

「今回の入院はあくまで・・・予防的処置ですから・・・」

しかし・・・竹下夫人には妊娠中毒症の症状が現れる。

カイザーを決断するサクラ・・・。

見守る安産祈願のお守り・・・。

「おめでとうこざいます・・・女の子ですよ」

しかし・・・母体の出血が止まらない事態となる。

緊迫する産科チーム。

「止まらない・・・」

「全身麻酔に切り替えます」とマラソンのトレーニング中に転倒して指を剥離骨折中の麻酔科医・船越(豊本明長)が宣言する。

「止まらない・・・」

サクラは動揺する。

「落ちつけ・・・大丈夫だ」

四宮はサクラを励ます。

「止まらない」

「まだ・・・手はある・・・母体を助けろ・・・赤ちゃんにあわせてやれ」

「・・・子宮を摘出する」

「それしかない・・・」

サクラは決断した。

「血圧さがってます」

「どうした・・・船越」

「指が痛くてポンピングが・・・」

「死ぬ気で押し込めっ」

「コントをやってる場合じゃない」

「呼んだ・・・」

加勢医師の到着で・・・竹下夫人は一命をとりとめた・・・。

竹下夫妻は愛児と対面し・・・喜びにあふれる。

不妊治療をした岸田医師・・・産科のサクラ・・・新生児科の今橋は肩をならべて奇跡の光景を見守る。

「あの笑顔をみたくて・・・俺たちは・・・頑張るんだよな」

「ええ・・・」

「・・・」

大澤院長(浅野和之)は助産師の小松留美子(吉田羊)にうっかり口を滑らせる。

「子宮摘出か・・・まあ・・・子供は授かったんだから・・・お役御免だな」

「院長の睾丸も摘出しましょうか」

「私の精子はまだまだ元気だ」

相沢美雪の職場では45才の編集者が妊娠したことで盛り上がる。

「まったく・・・妊娠出産するなら・・・やめればいいのに」と毒づく男性社員。

「それ・・・マタハラよ」と嗜める女性社員。

美雪の心は乱れる。

失態をさらした船越を責める加瀬。

「アイスでも奢れよ・・・研修医、お前もチャーシューメンでも奢ってもらえ」

「チャーシューメンよりタンタンメンがいいです」

なんだかんだで女子会である。

「今さら結婚とか出産なんてねえ」と小松は医療ソーシャルワーカーの向井祥子(江口のりこ)に同意を求める。

「そうですねえ・・・結婚は十年前にしてますし」

「え・・・」

「子供は三人産みましたし」

「え・・・仲間だと思ってたのに・・・」

「仲間じゃないですね」

「同志だと」

「同志でもありません」

「味方じゃ」

「味方もしませんねえ・・・」

人にはそれぞれの人生があるのだった。

ベイビーは今日も喜びの調べを奏でる・・・。

偶然・・・手に入れたチケットでライブ会場にやってきた美雪・・・。

ベイビーの演奏は・・・何故か美雪の心を揺さぶる・・・。

やがて消えゆくものの・・・魂の孤独・・・。

それは頬を伝う涙・・・。

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2015年11月20日 (金)

破裂(椎名桔平)助けてください(仲代達矢)天寿安楽死国民生活財政危機超高齢化禁じ手ぴんぴんぽっくり万歳(滝藤賢一)

谷間である。

なんだかんだ・・・ドラマが多過ぎると思う。

こんなにコンテンツが多いと・・・視聴率なんて下がって当然だよな。

物凄く駄作で誰が見ても失敗作と超絶的な名作とが混然一体となって流れ去って行く御時勢なのである。

そろそろ・・・観測を続けることも困難になってきたよねえ。

中途半端な感想よりも・・・「完全な感想」を求めて・・・一日一本を続けていると・・・どうしても語り残した気分が強くなってくる。

谷間の記事は最初から中途半端になるわけだが・・・補完的中途半端がキッドの中で求められているわけである。

「デザイナーベイビー」が中途半端な時期で終了したのを契機に思い切って谷間の日にしました。

さあ・・・中途半端で行くぞっ。

で、『破裂・第1回』(NHK総合20151010PM10~)原作・久坂部羊、脚本・浜田秀哉、演出・本木一博を見た。最終回直前じゃいかっ。・・・ピンピンポックリは理想の死に様である。しかし・・・世の中にはいつまでも生きていたいという不思議な感覚を持つ人もいて・・・そんなことを言ってはいけないらしい。ゆりかごから墓場までを国家が保証するというユートピアで・・・年金生活者となり・・・一日中ゲームをして暮らす・・・労働者諸君はそのために汗水流して働きたまえと朗らかに言うことは一種のブラックユーモアと言えるだろう。そういう意味で・・・このドラマの第一回は「世にも奇妙な物語」としては完結しているのだ。何しろ心臓が若返るという画期的な療法が開発されるが副作用として間もなく心臓が爆発するというオチなのである。オチかっ。そんなちょっとしたお笑いを・・・重厚な俳優陣がねっとりとした人間ドラマに仕上げて行くのである。これだけで一同爆笑の展開だな。

基本的にこの国の自称公共放送は・・・「私たちの言うことは基本的に間違いではありません」という妖しい機関である。その魔性が・・・「何があってもとにかく死ぬまで受信料は払いましょう」という呪いを高らかに謳いあげるのである。

実は戦災孤児である国民的俳優・倉木蓮太郎(仲代達矢)は「最期の映画」の完成を目前として「死の床」につく。俳優として全力疾走し続けた心臓は老化して停止寸前なのだった。

倉木の中では・・・敗戦直後の暗い情念が燃えている。

馬鹿な大人たちのために・・・ひどい目にあった実体験である。

「戦前の日本人は悪であった・・・それだけは絶対正しい」という占領軍の政策をそのまま受け継ぐあらゆる制度が・・・その信念を補佐する。

現代から見ればとんでもないことは・・・過去にはいくらでもある。

たとえば・・・東京大空襲で・・・家族を殺され・・・家を焼きつくされた人間には・・・国家は何一つ援助しなかったのである。

驚くことに義援金さえなかったのだ。

だが・・・そんなことは「悪」ではない・・・単なる事実だ。

それが「悪」なら・・・広島や長崎で放射能にまみれた人々もすべて「悪」になってしまう。

しかし・・・奇妙なことに・・・この国の正しさは・・・そこには触れない。

そういうことをやり続けると・・・やがて・・・理由もなく国を怨む人が増え・・・公共機関に卵が投げつけられます。

ま・・・それはそれで面白いわけだが・・・。

倉木は俳優として完全燃焼するために・・・「鬼」となった。

そういう人間を愛する人もいるのが・・・面白いところで内縁の妻・須藤彰子(キムラ緑子)は神に仕える巫女のように・・・病床の倉木を支える。

倉木の乱れた私生活の途中で・・・やり捨ての憂き目にあった女(中原果南・無名塾)の私生児として生まれた香村鷹一郎(椎名桔平)は認知もされず・・・極貧の中で育ち・・・太政大臣の息子の公爵の息子の男爵の娘の息子の娘を母親に持ちながら父親が不明の人のようなもやもやした気持ちを持って・・・どこかクールな医者になった。

身体障害者の息子の私立進学が難しいという妻・朋美(黒沢あすか)の愚痴に対し・・・「身体障害者は普通の人間ではない・・・頭を使って世間を見返してやればよい」という信念を吐露する男である。

医師として研究に打ち込んだ香村は「老化した心臓を若返らせる心筋再生成長因子」を発見し、画期的な「香村療法」の完成を目前にしていた。

一方で・・・悪魔のような顔をした国民生活省大臣官房主任企画官・佐久間和尚(滝藤賢一・無名塾)は独自の着眼点で・・・「香村療法」を利用しようと考える。

佐久間は開発者の香村よりも早く・・・「香村療法」のある効果を掴んでいたのである。

それは・・・国家財政を暗礁に乗り上げさせている国民の超高齢化を一挙に解消する政策の立案につながる。

国民生活省老人衛生局長・城貞彦は「それは禁じ手なんじゃないか」と案じる。

しかし、佐久間は「官僚のすることなんてすべて禁じ手でしょう」と微笑むのである。

佐久間は・・・香村の研究成果を制御するために・・・あらゆる手段を駆使するのだった。

やがて・・・香村医師の元に・・・倉木が現れ・・・「お前の研究の実験台になる」と告げる。

人体に対する治験は時期尚早と考える香村は・・・父親への積年の恨みを込めて・・・父親の希望を一蹴する。

しかし・・・教授選を控える香村が医療ミスをしたと訴える怪文書が届くのだった。

死亡した患者の遺族である峰丘枝利子(松浦唯・無名塾)は香村の昔の恋人で人権派弁護士の松野公子(坂井真紀)に医療過誤として訴訟したいと依頼する。

松野は打倒・香村に燃える。

追い込まれた香村は・・・佐久間の「息子を捨てた父親の希望を叶える画期的な治療の成功者」という筋書きを了承する。

嵐の夜・・・捨てられた息子は捨てた父親を実験台にすることを決意するのだった。

実験は成功し・・・蘇った倉木は内縁の妻を抱きしめる。

祝杯をあげる研究チーム・・・その時・・・動物実験に使われた犬のサリーの突然死が発生する。

解剖したサリーの心臓は破裂していた。

「これは・・・心筋再生成長因子の・・・副作用でしょうか」と助手たち・・・。

「蘇った心臓は・・・破裂する運命なのか」

そして・・・悪魔の微笑みを浮かべ佐久間は「ぴんぴんぽっくり」と呟くのだった。

ある意味、「ぴっくりぽん」系だよな。

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2015年11月19日 (木)

草莽崛起なくば王政復古なし(錦戸亮)忍法冥途の術(神木隆之介)黒髪ゴールドに染めて(黒島結菜)

国家は世界の縮図である。

「アラブの春」がシリアで高揚した時・・・危機はすでに芽吹いていた。

イラク戦争がなければ・・・こんなことにはならなかったと言う人はいるかもしれない。

しかし・・・どうしようもなくやりきれない気持ちがある限り・・・修羅場の絶えることはないのだ。

安全保障政策に対峙して・・・国会前で馬鹿騒ぎをする人たちは・・・それを馬鹿だとは思わないかもしれない。

沖縄県で県民に対する国家の不平等さを罵る知事はそれを正義と信じているのかもしれない。

しかし・・・どこかで・・・妥協しなければ・・・流血沙汰になるのである。

それでも人は戦う。

戦うことは生の証だから。

願わくば・・・何のために戦うのか・・・指導者は理解してもらいたい。

戦って・・・孤立して・・・自爆して・・・殺戮して・・・誰かが本当に幸せになりますか?

振りあげた拳を・・・相手が下ろすまで・・・自分の拳を振りあげる。

それを愚かだと本当に思わないのですか?

で、『サムライせんせい・第4回』(テレビ朝日201511132315~)原作・黒江S介、脚本・黒岩勉、演出・木村ひさしを見た。武市瑞山が切腹して150年。そして戦後70年である。150年から70年を引くと80年が残る。つまり・・・それは・・・1935年から1945年までの10年の差である。幕末から明治維新へ・・・瑞山の死後・・・それは起きた。激動を経て瑞山の死後70年で大日本帝国は絶頂を迎えた。そしてその後の十年ですべてを失うのである。ドラマの中でダイジェストで展開する日本の歴史は第二次世界大戦による敗北で荒廃した国土から始る。つまり・・・明治と大正と戦前の昭和はなかったことにされているのだ。戦後70年・・・つまり、今は・・・瑞山の死後、構築された大日本帝国の隆盛期そのものなのである。歴史が繰り返されるのかどうか・・・悪魔はニヤニヤしながら見守っています。

幕藩体制の中・・・士農工商の身分制度があり、武士の身分も将軍を頂点とした封建制度の中で厳しく定められていた。澱んだ安寧の中でひっそりと息をひそめていた志は・・・黒船の砲声で一挙に揺れ動く。

大人しくしていたら滅びてしまう・・・。

鬱屈していた魂はついに爆発し・・・テロの嵐が吹きまくり、ついには内戦勃発である。

黄泉の国を信じた男たちは・・・大和魂に殉じることを是としたのである。

今・・・同じようなことが中近東から西洋にかけて起きています。

うわあ・・・って思いますよね。

その尊皇攘夷熱に犯された草莽の中心人物の一人が・・・半平太(錦戸亮)である。

半平太は・・・「草莽崛起」を説いた吉田松陰の弟子・久坂玄瑞に激しく洗脳されてしまったのである。

一方・・・龍馬(神木隆之介)は・・・殺しに行った相手が勝海舟という超現実主義者だった。

吉田松陰の裏に潜んでいた海外渡航の夢を実現した男は龍馬に「世界」を吹聴するのである。

土佐藩に忠勤を尽くした男は主に切腹を命じられる。

日本国を穏便にまとめあげようとした男は何者かに暗殺される。

彼らは・・・信じていた。

「霊能真柱」に示されたように・・・死後の世界が俗界と隣接し・・・死者たちが生者の側に寄り添っていることを・・・。

だから・・・二人は平成の神里村で復活したのである。

「ちゅうことは・・・他にもだれか・・・こっちにきちょるかもしれんの」

「だね・・・となると・・・あの看板の場所が・・・キーポイントなのかもしれない」

「きいぽいんと・・・」

「謎を解く鍵のありか・・・だよ」

「なるほど」

二人は「ようこそ、神里村」の看板の前で大の字になってみた。

しかし・・・何も起こらなかった。

そこへ・・・駐在の中嶋(山本圭祐)が通りかかる。

「こんなところで・・・寝ていたら危ないよ」

「は・・・申し訳ござらん」

「ところで・・・ここで変わったことはありませんでしたか」

「そういえば・・・金髪ギャルが思い詰めた顔をして佇んでいたねえ」

「ギャル・・・山賊娘か」

「ああ・・・寅之助くんの彼女のサチコさんね・・・」

「ひょっとして・・・あの者も・・・慶応から・・・」

「どこへ行くの・・・」

「山賊娘を捜すのじゃ」

「闇雲に捜さなくても携帯で寅之助くんに訊いた方が早いよ」

「なんじゃと・・・」

寅之助(藤井流星)と赤城サチコ(黒島結菜)はコンビニの前でカップ麺を食べていた。

「ごめんな・・・金なくて・・・キツネうどんしか御馳走できなくて」

「ううん・・・キツネうどん・・・マジ美味いし」

そこへ龍馬からの着信がある。

「さっちん・・・一緒だけど・・・今・・・コンビニの前・・・」

その時、黒い車が停車し・・・ダークスーツの男・・・牧村(尚玄)が現れる。

あわてて・・・寅之助の陰に身を隠すサチコ。しかし・・・。

「こんなところで何をしているんです・・・さあ、参りましょう」

「嫌だ」

サチコはたちまち・・・男に連れ去られてしまう。

あわてて追いかけようとする寅之助は半平太と龍馬と合流する。

「山賊娘はどこじゃ」

「変な男に拉致されてしまった」

「らち・・・」

「かどわかしだよ」

「なんとっ」

「ち・・・もたもたしてるから見失ったよ」

「大丈夫、サチコさんの携帯のGPSで位置がわかるから・・・」

「なんじゃそれは・・・」

「グローバル・ポジショニング・システムの略だよ」

「ぐ・・・」

三人はとあるお屋敷にたどり着く。

「これは・・・城か・・・」

「あ・・・あの車だ」

「警察に通報するか・・・」

「いや・・・サッチンがヤバイことになっていたら・・・まずいじゃん・・・あ、東京弁使っちゃった」

「それ・・・横浜方面の訛りだから」

「ヤバイこととは・・・」

「闇金から借金してたりして」

「やみきん」

「やくざな高利貸しだよ」

「返済に困ってデリヘルしてるとか」

「デリヘル」

「遊女の出前ね」

「遊女を・・・出前・・・」

「とにかく・・・俺があいつを助けてやらなくちゃ・・・」

庭から侵入した三人・・・しかし・・・監視カメラでチェックされていたのだった。

「こらこら・・・」と出現するダークスーツの男。

「やばい」

しかし・・・玄関から登場するサチコによく似た夫人とサチコ。

「何事ですか」

「え・・・」

サチコはヤンキーから良家の子女に変身していた。

「サッチン・・・」

「あらあら・・・あなたたち・・・サチコのお友達・・・」

瞬時に状況を把握する龍馬・・・。

「あなたは・・・もしかすると」

「ええ・・・サチコの母でございます」

赤城綾乃(宮澤美保)は微笑んだ。

「えええええええええええ」と驚く寅之助だった。

正体を知られたサチコは困惑するのだった。

「せっかくいらしたのだから・・・お茶でも飲んでいらして・・・サチコのお友達がお見えになるなんて珍しいことだし・・・いっそ、お食事でもいかが・・・」

「はいっ」

お招きにあずかる三人だった。

寅之助と幸知子の青春譜

遡ること一年前・・・。

繁華街で不良中学生にからまれていた名門女子高校生のサチコは通りがかった「元北吾妻中の番長と自称する男」にピンチを救われる。

「彼」に心を奪われたサチコは「北吾妻 寅」で検索。

すると・・・寅之助のブログを発見。

寅之助が「カブトムシの輸入販売事業」などに失敗したヤンキーだと知る。

寅之助好みの女になるためにヤンキー修行をするサチコ。

コメントを通じて寅之助に接近し・・・現在に至る。

「ピュアだったんだねえ」

「ピュ」

「おぼこいね」

「未通女(おぼこ)か・・・」

「おぼこ・・・」

「こっちの話です」

「なんで・・・隠していたんだよ」

「父は・・・いい年してブラブラしている人間との交際を認めまないと思うので・・・」

「う」

「父が帰ってくるまでに・・・なんとかしないと・・・たとえば・・・スーツに着替えて手土産としてボルドーの最高級ワインを用意するとか・・・」

突然、無理難題を言い出すいろいろとピュアなサチコだった。

情報の検索を終えた龍馬は確認する。

「すると・・・君のお父さんは・・・資産家で県会議員の赤城拓馬さんなんだね」

「はい・・・」

「えええ」

寅之助は自宅に戻り、ホスト風のスーツを身に纏うのだった。

「なんだ・・・急に態度を変えおって・・・」

「サチコと結婚したら一生遊んで暮らせる」

「・・・男としてでかい仕事をするのではなかったのか」

「でかい仕事をするのは一生遊んで暮らすためじゃないか」

「・・・」

寅之助とは違い午前九時から午後五時まで生活のために村役場で働いている姉の佐伯晴香(比嘉愛未)はセクハラ上司・小見山喜一課長(梶原善)の命令で民家の床下に巣を作ったハクビシンを捕獲しようとしていた。

そこへ・・・寅之助から着信がある。

「なに・・・ボルドーワイン・・・何、言ってんのよ・・・お姉ちゃん、忙しいのよ」

「なんだ・・・」

「弟です」

「あの・・・ぼんくらヤンキーか・・・さっきもコンビニ前でブラブラしてた・・・ろくなもんじゃないね」

「なんでも・・・赤城拓馬さんに招待されたとかで」

「何っ」

村会議員への転身を考える小見山課長の目の色が変わった・・・。

「県議会議員とはなんじゃ・・・」

「ここは群馬県という二十万石くらいの大藩なんだけど・・・そこの家老みたいなものだね」

「なんと・・・」

半平太はかって土佐の家老同志の政争に翻弄されたことがある。

深尾、伊賀、窪川、五藤、祖父江、永原、土岐、福岡、野中など名門家老家には常に主導権争いがあり、藩主連枝の山内大学家や柴田家、五島家などの派閥に属した下級武士である半平太は当時の主流派の指導者吉田東洋の暗殺を請け負う羽目になった・・・これが切腹に至った要因となる。

半平太の心中には・・・忠臣と謀反人が同居しているのである。

「武士に身分の上下はない」という信念と「殿に愛されたい」という情念が複雑に絡み合う半平太なのであった。

会食の席に着いた寅之助、龍馬、半平太、そして赤城親子。

寅之助は「IT企業家」と嘘八百の自己紹介で虚勢をはる・・・。

赤城が家老筋と知って土下座する半平太だった。

「この度はこのような宴席にお招きいただき・・・恐悦至極でございます」

「なんだ・・・君は・・・」

「彼は・・・舞台役者で・・・幕末の志士を演じております」

機転を利かしてフォローする龍馬だった。

「ほお・・・面白い・・・君は・・・」

「武市半平太と申します」

「瑞山先生か・・・」

「私のことをご存じですか」

「私が政治家を志したのは土佐の英雄に感動したからだ・・・」

「私に・・・」

「いや・・・坂本龍馬先生だ」

ニヤニヤする龍馬だった。

「もちろん・・・土佐勤王党を結成した瑞山先生のことも龍馬先生の同志としてそれなりに評価している・・・」

「そ・・・それなりに・・・」

やや鬱屈した半平太だが前菜のジュレのあまりの美味に「うおおお」となるのだった。

食堂の書棚に「龍馬暗殺」の文字を発見する半平太。

「龍馬暗殺・・・」

「ほお・・・君も龍馬暗殺に興味があるか・・・」

「・・・」

「君は黒幕は誰だと考えるかね」

「龍馬・・・おんし・・・誰に・・・」

その答えはあまりに重大なので言葉を濁す龍馬・・・まあ、黒幕が誰かを龍馬自身が知らない可能性もあります・・・なのである。

「赤城先生は・・・黒幕について・・・どう思いますか」

「私は武力による倒幕を考えていた西郷隆盛が有力だと思うのだが・・・」

「西郷・・・薩摩の西郷吉之助か・・・」

「まあまあ・・・武市さん・・・昔のことですよ」

「君はどう思うね・・・」

教養に問題のある寅之助・・・。

それを知るサチコの顔は蒼ざめる。

「・・・ノブナガ・・・」

「ははは・・・確かに龍馬が明智光秀の子孫とした上で織田の子孫が関係しているという珍説もあるね・・・君はなかなかにユニークだ」

教養が深すぎるというのは考えものなのである。

怪我の功名で窮地を脱した寅之助だった・・・。

「さあ・・・飲みたまえ」

「これは・・・ぶどうの汁ですか」

「ははは・・・その通り・・・」

下戸として知られる半平太が高級ワインを口にした時・・・。

出世欲の塊である小見山課長が晴香とともに乱入する。

「私の部下の弟にあたる寅之助くんがお目見えを許されたと知り、まかりこし申し上げました。私、村役場の小見山でございます・・・あ・・・」

小見山はサチコを発見する。

「お気をつけください・・・この女・・・正体はヤンキーですぞ・・・将来はできちゃった婚でヤンママコース決定の下賤のもの・・・このような席に同席させることはありません」

「私の娘だが・・・」

「えええ」

「一体・・・どういうことだ」

赤城議員は娘を睨む。

「まったく・・・寅之助もサチコ殿も・・・身分を偽ってこそこそと・・・働きもせず色恋にうつつを抜かすなど・・・もっての他・・・親に隠れて男の元に通うなど・・・お家の一大事・・・」

言うだけ言って酔いつぶれる半平太だった。

「幸知子・・・」

「・・・」

サチコは外出禁止となるのだった。

虎のぬいぐるみを抱きしめるサチコである。

そこへメイドに化けた龍馬がやってくる。

「あなたは・・・ルパン?」

「囚われの姫を助けにきた忍びのものです」

「梯子・・・」

サチコは窓から脱出した。

事態に気がついた用心棒の牧村は龍馬を拘束し、サチコを追跡する。

そうとは知らずに家出のお手伝いをする小見山課長である。

佐伯家で意識を取り戻す半平太。

「・・・どうした」

「終わったよ」

「何故・・・」

「あんたがぶち壊したんだよ・・・本当のことを言って」

「なぜ・・・それがいかんのだ」

「あんたの時代で言えば・・・殿様の娘と・・・遊び人が付き合うようなもんなんだよ」

「今は・・・身分の違いはなくなったのであろう」

「そんなもの・・・なくなるはずないだろう」

「・・・」

「無理なものは無理なんだよ」

「龍馬の母上は・・・低い身分ゆえ・・・さしてはならぬ傘をさし・・・無礼を咎められ・・・お手打ちにあった・・・どのように腕を磨いても・・・郷士の子は郷士と定められている。そんな世であるが故・・・龍馬は国を捨てた。わしは・・・意見の違う上役を殺した。そうやって・・・戦う他はなかったのじゃ。今は・・・命を捨てることなく・・・戦うことができる時代になったのじゃろう・・・」

「・・・」

そこへ・・・サチコが飛び込んでくる。

「寅ちゃん・・・」

しかし・・・迷う寅之助・・・自分がサチコを幸せにできるのか・・・自信がないのだ。

到着した牧村はサチコを奪還するのだった。

「寅ちゃん・・・」

「サチコ殿の方が肝がすわっておる・・・」

「俺をなめるなよ」

決意して家を出る寅之助・・・。

しかし・・・牧村の用心棒的暴力は寅之助を圧倒する。

力尽きる寅之助・・・。

「お主の覚悟・・・見届けた・・・義によって助太刀いたす」

半平太が現れ・・・サチコは寅之助を介抱する。

「・・・この偽侍が・・・」

「一言申し上げておく・・・この武市半平太・・・真の武士である」

佐伯家の麺打ち棒で牧村を昏倒させる半平太。

「警察を呼べ」と赤城議員。

「お待ちください・・・」と緊縛されたメイド姿の龍馬。

「君は・・・」

「坂本龍馬です・・・素晴らしいインターネットの世界の情報によると・・・先生も高校卒業後・・・二十代半ばまで・・・定職につかず・・・ブラブラしていたとか」

「う」

「しかし・・・奥様に出会って・・・あなたは変わった・・・一念発起して今の地位まで上り詰めた」

「そうなのよね・・・彼・・・昔のあなたにそっくりなのよ・・・」と赤城夫人。

「そんな・・・」

「大丈夫よ・・・男を育てるのは女だから」

「・・・」

「先生・・・二人の交際を認めてくださるなら・・・とっておきの情報を教えますよ」

篠原理央(石田ニコル)の経営するカラオケスナック「カーニバル」で晴香は龍馬に問う。

「しかし・・・よく議員を説得できましたね」

「あんなもの・・・薩長同盟に比べたら何でもないですよ」

「薩長同盟・・・」と理央ママ。

「栃木の暴走族と群馬の暴走族を一つにまとめたようなものよ」

「えええ」

「赤城議員に何を教えたんですか・・・」

「暗殺事件の真相ですよ」

「真相って・・・」

「・・・秘密です」

幕末ファンなら誰もが知りたい話である。

誰が殺した坂本龍馬・・・

それは私よ 黒幕がそう言った

私が腕利きの刺客を放ったの

私が殺した坂本龍馬・・・

半平太は佐伯家の縁側にいた。

「何をお悩みですか」

佐伯先生(森本レオ)が訊ねた。

「士農工商のない世・・・しかし・・・何の教養もないものが・・・権利ばかりを言いたてる・・・はたして・・・それが正しいことかと」

「確かに・・・今は・・・当たり前のように・・・誰もが声をあげる世でございます・・・しかし、それが当たり前であることこそが・・・大切なことではないでしょうか」

「・・・」

コンビニ前に寅之助とサチコがいた。

「俺・・・バイトして・・・ファミレスに連れてってやるから」

「チョリ~ス」

「無理すんなよ・・・お前のヤンキー語・・・おかしいし・・・ありのままのサッチンでいいんだよ」

「・・・ありがとう」

世界が混沌の中にあっても・・・若者たちの愛が・・・輝くものでありますように・・・。

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2015年11月18日 (水)

とっくに正気を失っていた刑事(松坂桃李)恋は盲目ですから(木村文乃)あなたはただの異常者ですよ(菜々緒)

サイレーンの声を聞いた男は狂う。

狂った男は死地へと誘われる。

サイレーンの声を聞いた男の恋人は帰らぬ男を想い嘆く他はない。

サイレーンの魔性から逃れる術はただ一つ。

なにも聞かない男になることだ。

しかし・・・たとえ耳を塞いでも・・・手遅れだ。

その時、男はもはや正気ではないのだから・・・。

で、『サイレーン刑事×彼女×完全悪女・第5回』(フジテレビ20151117PM10~)原作・山崎紗也夏、脚本・佐藤嗣麻子、演出・本橋圭太を見た。原作とは別に脚本家には一種の原型がある。基本的に・・・人知を越えた魔が存在する。魔を封ずるために天使が登場し、人間を巻き込んだ抗争が発生する。巻き込まれた人間は不慮の死を遂げるか・・・あるいは天使が人間を守るために消滅する。もちろん・・・これは太古からある人間の幻想の一つでもある。明らかに橘カラ(菜々緒)は魔性の存在である。天使が・・・警視庁機動捜査隊員・里見偲(松坂桃李)と猪熊夕貴(木村文乃)のどちらかは・・・まだ不明だが・・・おそらく・・・里見が天使なのだと推察する。

里見は天使であるゆえに・・・人間の法を軽々と踏み越える。

人間である猪熊には不可能な行為である。

魔を封じようとする里見の行為が・・・時々理解不能に見えるのはそのためである。

天使のすることなど・・・人間にも・・・悪魔にもわからないのだ。

直感に従ってカラを追う里見。

しかし・・・カラから里見に宛て送信された・・・計画的な間違いメールを受信した猪熊は・・・まんまとホテルにおびき出されるのだった。

猪熊の目にはエレベーターという密室の中で・・・よからぬ行為をしていたように見える里見とカラ・・・。

里見は茫然とするのだった。

「どうして・・・君がここに・・・」

「カラさん・・・間違って送信したでしょう・・・気になって来てしまいました・・・お二人だけで話があるようなので・・・私はこれで失礼します」

「一体・・・あいつに何をした」

「あなたにお話しがあると・・・メールを送ったのです」

「・・・」

「あなたのしていることは・・・異常ですよ」

「え」

「お伝えしたかったのは・・・それだけです」

里見はカラが自分より・・・一枚上手であることが・・・どうしても理解できないのだった。

だから・・・自分が罠にかかったことにすら・・・気がつかないのである。

すでに・・・里見は・・・刑事ではなく・・・ストーカーになっているのだが・・・本人には自覚がない。

里見の脳内に響く警報・・・。

「恐ろしい危機が迫っているのに・・・どうして誰も気がつかないのだ」

天使の嘆きは夜の闇に消える。

傷心の猪熊は父・文一(大杉漣)と母・三樹(藤吉久美子)のいる実家に帰るのだった。

・・・女子寮に住んでいるじゃなかったのか。寮母さんは心配しないのか。

まあ・・・いいか。

二人の動向を監視するカラ。

拠点として利用されている孤独な資産家の渡公平(光石研)は・・・今日こそ・・・一線を越えようとお茶の間サービスのシャワー・シーン終了を待つ。

(なんだ・・・こいつ)

「カラさん・・・好きだ!」

「・・・」

「今夜はベッドを共にしたい」

「口をあけて」

「あ」

「もっと大きく」

「ああ」

「もっと」

「あああ」

魔性の女の秘密の性的技巧により昇天する公平。

一部お茶の間は本当にあの世に送られたのでは・・・と危惧するのだった。

里見は誤解を解こうと猪熊に電話をするが・・・猪熊は着信を無視する。

猪熊の両親は微妙なお年頃の娘の不審な行動に戸惑うのだった。

翌朝・・・警視庁機動捜査隊員なのになぜか桜中央署に出勤し、生活安全課にデスクまである猪熊・・・ここはきっと設定ミスなんだよな。

ま、いいか。

同様に出勤した里見は・・・重体の少女売春婦・田沢麻弥(三上紗弥)が入院している病院の受付嬢から連絡を受ける。

里見の特殊技能である性的たらしこみによって受付嬢たちは里見に忠誠を誓っているわけだが・・・里見の個人的な捜査の電話を桜中央署にはしないだろうな。

ま、いいか。

ここは批判しているのではなく・・・そういう狂気を里見が周囲にまき散らしているという話である。

カラが殺人犯であり、里見が直感でカラを疑うことはお茶の間的には間違っていないが・・・正規の操作手順を踏もうとする所轄の刑事たちは単に無能なのではなく・・・ただ社会人として間違っていないだけなのである。

「髪の長い女性がお見舞いに来ました」

あわてて・・・病院に急行する里見だった。

猪熊は無能を代表する刑事課長・安藤実(船越英一郎)から呼び出される。

「いよいよ・・・お前の本庁捜査一課への移動が決まった」

しかし・・・里見とカラの件で動揺する猪熊は承諾を保留するのだった。

「え」

仕方なく・・・安藤は猪熊(父)に相談する。

「猪熊はなぜ迷っているのでしょうか」

「それを俺に聞くのかよ」

心温まる二人の密会だった。

桜中央署のチビデカこと速水翔刑事(北山宏光)は猪熊昇進の噂を聞きつけ歯ぎしりをするのだった。

麻弥の見舞いに来ていたのは売春婦仲間のアイ(佐野ひなこ)とレナ(入山杏奈)だった。

彼女たちはいずれも消息不明の月本(要潤)の経営する陪審組織の構成員である。

売春は犯罪なので彼女たちは犯罪者である。

しかし・・・カラの正体を探るために人手を求めていた里見は閃くのだった。

「ねえ・・・ある女の正体を突き止める手伝いをしてくれないか」

「面白そう」

里見の性的魅力に感応しているアイとレナはたちまち承諾する。

里見は犯罪者に捜査協力をさせることに何の疑問も感じない・・・。

なぜなら・・・里見はすでに・・・正気を失っているからだ。

一部お茶の間は・・・里見の性的魅力の虜になっているので・・・そう思わないらしい。

売春婦アイは売春組織の男性従業員・三河(西興一朗)からマネージャーとして採用予定だった橘カラの住居を聞きだすという特殊な交渉能力を発揮する。

売春婦レナはカラを監視するためにキャバクラ嬢として店に潜入するのだった。

そして・・・里見は・・・カラの留守を狙い・・・売春婦のアイと同伴してピッキングによる家宅不法侵入を開始する。

おわかりいただけたでしょうか・・・里見は違法捜査どころか・・・すでに立派な犯罪者であり・・・それを省みない・・・つまり・・・正気の沙汰ではないことをして平気な人間なのです。

里見の心に鳴り響く警鐘・・・それは・・・。

(なにがなんでも・・・カラの正体を暴け)

その命令に突き動かされ暴走する里見なのである。

なぜなら・・・里見は魔性のものを追う天使・・・魔物ハンターだからなのです。

・・・もう、いいか。

だから・・・病院の医師、受付嬢、そして売春婦までもが里見の味方になるのでした。

明らかに・・・その一人である桜中央署の生活安全課の千歳弘子(山口紗弥加)は猪熊の相談を受け・・・見当違いのアドバイスをする。

「里見は・・・浮気するような男じゃないよ・・・猪熊はまだ本当の里見を知らないのじゃないか」

しかし・・・それは天啓であり・・・猪熊を里見の関わった最初の事件へと導いていく。

魔性のカラ。

天使だがカラに魅入られた里見。

人間として里見を支援しようとする猪熊。

こういう構図です。

だが・・・性的魅力に特化した天使里見の愛を・・・猪熊は信じがたい・・・人間だから。

調査ファイルを紐解いた猪熊は「たかつき酒店従業員・高槻とおる殺害事件」の第一発見者となった・・・里見の足跡を追う。

惨殺死体を見た後で立哨中の里見は貧血で倒れていた。

おそらく・・・この時・・・天使あるいは精霊が・・・里見の心を浸食したのである。

高槻とおる(長澤航也)は店内で鋭利な刃物で滅多刺しにされ、頭部を鈍器で強打され、これが致命傷になっていた。凶器は発見されず・・・事件発生から八年を経過して捜査継続中の迷宮入り事件である。

猪熊は単独で再捜査を開始するのだった。

里見の狂気に引き摺られ始める猪熊・・・。

カラは魔性として猪熊を狙い、里見は天使としてカラを追い、猪熊は恋人として里見を探る。

よくある三角関係である。

たかつき酒店の顧客であるバーのマダム(阿南敦子)から「とおるに恋人がいた」という新情報を得る猪熊。

しかし・・・とおるの父(山崎一)は「いや・・・そういう人はいなかったと思います。警察からは何度も悪い人間との交遊関係を問われましたが・・・あいつに限ってそういうことは」と恋人の存在を否定する。

しかし、とおるのPCを開いた猪熊は・・・収録されたスナップ画像の中に・・・カラによく似た人物を見出し・・・驚愕する。

カラの部屋に侵入した里見は・・・白を基調とした殺風景な室内に戸惑う。

最小限の家具・・・カーテンの中のベッド。

(病室のようだ・・・)

発見できたのは・・・玩具の手錠や警棒・・・そして警察官の捜査の手引きだった。

(だから・・・俺の尾行術が通用しなかったのか)

いや・・・そういうレベルの問題ではないが・・・自分を見失っている人に何を言っても無駄だからな。

「この部屋・・・なんだか寒い」

「そうかな」

「まるで幽霊でもいるみたい」

アイは霊感が強いらしい・・・しかし・・・そこに棲んでいるのは幽霊ではなく魔性の存在なのである。

やがて・・・二人はキッチンで大量の薬物を発見する。

その頃、キャバクラではレナがカラの完璧な整形姿態に圧倒されていた。

そこにチビデカがやってくる。

「あんたが・・・猪熊の情報源か」

「・・・」

「その情報・・・俺にも回してくれ・・・高く買うぜ」

「・・・」

カラは刑事による足止めの可能性を吟味し・・・早退するのだった。

「大変・・・カラさんが早退したよ」

急報を受け・・・撤退を開始する里見とアイ。

侵入前の現状復帰に注意する里見だが・・・もちろん・・・それは間抜けな里見らしいルーズなものである。

帰宅したカラは・・・施錠の不具合を感知し・・・カーテンの遮蔽間隔を計測する。

(隙間が10㎝ではない・・・里見か)

すべてお見通しのカラだった・・・魔性のものだからな。

売春婦としてアイと同じように特殊な交渉術を持つレナは常連客の前川(石井 正則)から貴重な情報を入手する。

「カラさんには恋人がいて・・・八年前に殺されたんだって・・・」

「なんだって・・・」

レナと合流した里見は・・・カラの恋人が高槻とおるだったと知る。

その頃・・・ピッキングにより里見の部屋に侵入するカラ。

カラならすでに猪熊所有の合鍵をコピーしていてもいいけどな。

おそらく・・・復讐の一種だよな。

しかも・・・鈍い里見はピッキングの痕跡に気がつかないという・・・。

そして・・・カラは里見の部屋に電源不要のタコ足配線アタッチメント型盗聴器を設置するのだった。

カラは里見の侵入を察知したが・・・里見はカラの侵入を予想もしない。

里見はカラより一歩リードしたと考えている。

里見が性的魅力でコントロールする科学捜査研究所の女性所員から鑑定の結果が入る。

「鎮痛剤・・・か」

そこへ・・・猪熊がやってくる。

「あなたに見せたいものがある・・・」

「俺も君に・・・」

「これ・・・カラさんに似ているよね・・・この人・・・あなたが発見した・・・」

「・・・」

「だから・・・カラさんに近付いたの?」

「いや・・・」

「何を隠しているの?」

里見は個人的に・・・一般市民を追尾し、売春婦を協力者として利用し、人権を侵害し、住居不法侵入まで犯している。

本当のことなんか・・・言えないのだ。

「カラさんとチューしてたでしょ・・・」

「してないよ・・・何言ってるんだ」

里見は性的魅力を総動員して猪熊の口を封じようとする。

「君としかしない」

「・・・」

しかし・・・疑心暗鬼で防御した猪熊には通用しないのだ。

「彼女は被害者の恋人なのよ・・・彼女だって被害者みたいなもの」

「彼女は・・・警察を憎んでいるのかもしれない」

「君・・・おかしいよ」

「・・・」

「私・・・帰る」

猪熊は里見の部屋を飛び出しため息をつく。

「なぜ・・・こんなことに・・・」

里見は思わず舌打ちする。

「どうして・・・こうなるんだ・・・」

カラは無表情に二人の会話を盗聴していた。

(あの事件にたどりついたか)

公平は嬉々としてグラスにワインを注ぐ。

一部お茶の間で囁かれる生存確認のつぶやき・・・。

しかし・・・その命はサイレーンが霧で包む灯台の光のように朧である。

(この男を・・・そろそろ利用しよう)

お茶の間だけが聞くことができる魔性のものの声・・・。

はたして・・・勝利するのは・・・刑事とその彼女か・・・それとも魔性の女なのか。

できれば・・・悪女の完全勝利が見たいものだ。・・・悪魔だからな。

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2015年11月17日 (火)

限りない喜びは美しい人生のために(山下智久)笑ってよ私のために(石原さとみ)

食べられる時に食べておかないと何かあったらどうするつもりだ。

真夜中に誰かが不調になって病院に行くことになり、空腹が堪え切れなかったらみっともないぞ。

・・・そういう話じゃないだろう。

寸止めか・・・やはり寸止めだったのか。

やる時にやっておかないと・・・ろくなことはないと思うが・・・。

そういうタブーを破ってハッピーエンドになる気ならそれはそれでいいけどね。

まあ・・・相手がいいと言っているものをだな・・・。

まだ・・・言うか。

いわゆるひとつの・・・だが断る!だよ。

で、『5→9〜私に恋したお坊さん〜・第6回』(フジテレビ20151116PM9~)原作・相原実貴、脚本・小山正太・根本ノンジ、演出・平野眞を見た。いろいろあってお好み焼きをひっくり返すように桜庭潤子(石原さとみ)を組み敷いた星川高嶺(山下智久)だったが・・・据え膳を食わない男だった・・・愛し愛される・・・最高の状態で契りたいのである。なんて贅沢なストーカーなんだ・・・。

見つめ合う二人。

「潤子さん・・・私のことお好きですか?」

答えに・・・迷う潤子。

「・・・」

「帰りましょう・・・大切に取っておきます。あなたが私のことを本当に好きになってくれるまで」

「・・・ごめんなさい」

どうなんだ・・・ある意味・・・女に恥をかかせているんじゃないのか。

まあ・・・一種の凌辱プレーだよな。

・・・おいっ。

帰宅した潤子は・・・悶々とした夜を過ごしたと推定。

そして・・・翌朝・・・母・恵子(戸田恵子)、妹・寧々(恒松祐里)そして個人タクシーの運転手である父・満(上島竜兵)と和気藹々と過ごす高嶺だった。

「・・・おはようございます」

「おはようございます」

「・・・なんでいるんですか」

「お父上のご母堂・・・つまり潤子さんのお祖母様の十七回忌の件で」

「おばあちゃんの・・・法事」

「はい」

「週末にこの部屋で・・・家族だけの法要ということでよろしいですね」

「よろしくお願いします・・・」

抱擁はしないのに法要はするのかよ・・・と潤子は心の中で毒づいたと推定。

誰がじゃ・・・タジャレかっ。

一方・・・英会話学校ELAでは・・・外国人講師アレックスとブリタニーが結婚することになり、スクールにて結婚披露パーティーが挙行されることとなった。

司会は清宮真言(田中圭)と潤子に決定する。

清宮は潤子の態度が急変したことに戸惑うのだった。

やがて・・・部屋で潤子のイヤリングを拾い・・・「結婚式の写真」と指輪を発見されてしまったと推測する清宮。

「君に話したいことがある」とアプローチするのだが・・・清宮が・・・不倫をするような男だと思いたくない潤子は・・・清宮の発言を封じるのだった。

本当のことを知って傷つきたくない潤子なのである。

ただし・・・真相は・・・潤子の推定とはもちろん違うというのがお約束である。

結論から言えば・・・清宮は前妻と死別しているのだが・・・初婚同志でなければ問題外という理想もあるので・・・隠してはいけないことを隠していたという微妙なトーンになるわけである。

まあ・・・お茶の間・・・それぞれの判断にもよるだろうが・・・そういう曖昧な部分は・・・コメディーとしては邪魔くさいんだよな。

複数脚本家は詰めの甘い演出家とは相性が悪いのが基本で・・・この演出家はスタイリッシュなのだが・・・そういう意味では甘いところがあり・・・今回はそういう意味で煮え切らない仕上がりになっている。

まあ・・・好みの問題だけどねえ。

一周回って元の位置展開なので・・・仕切り直しの今回である。

新しいスタートを切るという意味では・・・これはこれで笑えるわけである。

なにしろ・・・やったと思わせてやってないというおやまああらさてな中盤戦突入なのだ。

おやおや・・・まあまあ・・・あらあら・・・さてさて・・・だよな。

ラブコメの基本は「おかしな主人公がヒロインと結ばれること」である。

ただし、このドラマは恋愛戦略ゲームの要素も持っていて、この場合は「主人公が世界のすべての男を攻略すること」が目的なのである。

つまり、高嶺を主人公とする物語と・・・潤子がプレイするゲームが混在しているのだ。

斬新な試みであるが・・・統合に失敗すると「辻褄があわない」事態が発生する。

今回はかなり・・・危うい感じがいたしました。

まあ・・・人生が思いのままにならないこと・・・の提示というのはエンターティメントとしては失敗だが・・・「表現」としてはチャレンジしていることになるからねえ。

まあ、「朝ドラ」とか「月9」でやっちゃうと「テロ」になっちゃうんだけどな。

ラブコメとしての障害物の一つである女魔王・星川ひばり(加賀まりこ)は「一橋寺」の経営者として「桜庭家の法要」をあっさりと許す。

宗教的には何の権限もない前住職の母親が権力を振りかざすことにも違和感はあるが・・・そこは「ラスボス」的設定と考えるしかない。

血縁的遺産相続者の横暴はよくあることだからである。

権力者として自分の意見が通らないことに苛立つひばりは・・・すでに手を打っている。

「一橋寺」後継者候補の一人で高嶺の弟である星川天音(志尊淳)を召喚しているのである。

これを潤子サイドから見ると・・・。

恋愛対象者リスト

星川高嶺・・・生真面目なストーカーで保険

清宮真言・・・本命

三嶋聡(古川雄輝)・・・男友達

里中由希(髙田彪我)・・・かわいい生徒

木村アーサー(速水もこみち)・・・女友達・山渕百絵(高梨臨)の恋人

蜂屋蓮司(長妻怜央)・・・射程外

星川天音・・・期待の新人

・・・ということになる。

ちなみに・・・チート(無敵)兵器である潤子にとっての敵はお嬢様の足利香織(吉本実憂)だけだが・・・星川天音はその対抗兵器のポジションであろう。

二人とも・・・「表参道高校合唱部」の出身である。優里亞と快人なのか・・・。

恋する高嶺にとっては・・・全員がライバルだが・・・味方も多い。

高嶺の父親(故人)と高嶺の間をつなぐ雇われ住職である寺田光栄(小野武彦)や那覇三休(寺田心)をはじめとする僧侶仲間たち。

潤子以外の桜庭家一同。

そして、恋愛マスターのアーサー。

だが・・・「ラブコメ」と「乙女ゲー」が交錯するこの世界では・・・恋愛マスターは中立的ポジションなのである。

エンターティメントとしては・・・少し複雑なシステム採用なんだな・・・。

まあ・・・「恋」という「妄想」は・・・「色即是空」の世界では・・・「無」だからな。

こうして・・・高嶺は桜庭幸江(長内美那子)の十七回忌のおつとめミッション。

潤子は同僚の結婚パーティーの司会ミッション。

二つのミッションをクリアすることが今回の筋になっていくのだった。

「仕事が終わったら飯食いながら打ち合わせでもどうだ?」

「・・・進行表まとめてメールしますのでチェック お願いします」

清宮の本心を疑う潤子はシャットアウトである。

中立者であるアーサーは腐女子奴隷・百絵を密偵として放つのだった。

「不倫・・・」

「結婚式の写真見ちゃった・・・」

「本人に確かめたの」

「だって・・・奥さんがいることが確定したら・・・清宮さんのことを尊敬してるから嫌いになりたくないんだよね」

「・・・BLのことしかわからない私には理解不能だわ・・・」

「BLだとどうなるの」

結婚ってBLにとってはかなりの障害だからやっぱりいろんなジャンルがあるけどこないだ読んだ話でチョー泣けたのが既婚者を思って身を引くっていうのがほんとやばくて・・・」

「・・・」

帰宅した潤子を迎える高嶺・・・。

「潤子さん・・・あの夜・・・あのような態度をとってしまい・・・申し訳ございませんでした」

態度とはホテルに同行したことなのか・・・それともやらなかったことなのか・・・どっちだよ。

「こちらこそホントにごめんなさい。そもそも私からホテルに誘うなんて・・・」

それは・・・敗戦処理に利用した謝罪なのか・・・それともがっつきすぎを恥じているのか・・・どっちだよ。

そういう脚本の曖昧さをなぎ倒してタクシー・ドライバーが帰宅。

「今の話・・・誰にも言わないから」

「えっ」

そこへ・・・潤子の母と妹も買い物から帰宅。

「ああ・・・もう我慢できない」

「ええっ」

「二人はホテルにね」

「えええっ」

高嶺を交えた桜庭家の団欒・・・完全に婿養子状態である。

一家は・・・故人の在りし日の姿を収めた動画を視聴する。

「ABCのうた」を謳う幼い日の潤子は「LMN」が歌えず「MMM」なことに。

「どんだけMなんだよ」

「なんで・・・こんなものを・・・」

「法要のために幸江さまの人柄を知っておきたくて・・・」

16年前には生まれたばかりだった寧々は祖母の記憶がない。

「おばあちゃんの顔・・・動画でしか知らないのよね」

「おふくろ・・・写真嫌いだったなあ」

「全然笑わない人だったのわねえ」

「ブスっとしてたよなあ・・・高嶺くん・・・身内じゃなきゃ・・・こんなのつまらないよね」

「いえ・・・ もっと聞かせてください。故人をしのびその思い出を語り合うことが何よりの供養になります」

「どうしたんだ・・・お坊さんみたいだぞ」

「お坊さんよ」

「くるりんぱ」

「じゃ・・・そろそろアツアツなおでんに」

「やめろよ」

「これからは・・・私が・・・潤子さんの成長記録を撮影します」

「やめてよ・・・もう成長しないわよ」

「動きませんね」

例によって潤子が福引で当てたビデオカメラは・・・なんだか幸運なんだな・・・寿命だった。

そこで・・・高嶺は・・・潤子専用ムービー・カメラを購入するのだった。

潤子にとって高嶺もまた当たりくじのようなものなのかもしれない。

パーティー会場の準備に励む従業員一同。

「すごく気になりますね」と百絵。

「常軌を逸してますね」と毛利まさこ(紗栄子)・・・。

潤子、百絵、まさこって・・・中三トリオか。

・・・それ・・・どうしても言う必要あるの。

潤子の成長記録撮影のために密着する高嶺だった。

「星川さん、盗撮ですよ」

「堂々と撮影しておりますし、あなたのご両親にも許可を頂いてます」

授業中も止まらない高嶺カメラ・・・。

「ちょっと・・・やめてください」

「ナイス・・・いい表情です」

「ちよっと」

「ナイス」

「没収します」

「ベリーナイス」

アツアツな二人を生温かく見守るクラスメートたち。

高嶺アイに阻まれて・・・潤子にプライベートな話ができない清宮だった。

ゲーム的には初婚ボーナス百点に対し、結婚歴回数×マイナス五十点が基本だが・・・妻と死別なら減点マイナス十点くらいになる・・・と主張したい清宮である。

ま・・・協議離婚だろうが死別だろうがバツイチだ・・・という考え方もございます。

アーサーは敵対する高嶺と清宮を銭湯に誘うのだった。

もちろん・・・お茶の間サービスである。

しかし・・・お互いをライバルと認めることさえ認めない二人は・・・入浴我慢対決を開始するのだった。

日韓とか、日中とか、米中とか、フランスとイスラム国とかもこうして決着つけるといいのにね・・・夢だな。

たとえていいことと悪いことがあるぞ。

悪魔の辞書にはありません。

一方・・・清宮の事情を潤子に伝えようとする百絵。

「だから・・・ルシファー様暗黒の迷宮をさまよってる時にミカエル悠久の祠封印されちゃうの。そこで」

「なんだか・・・まったくわからない」

たまたまリラクゼーションサウナに集合する中三トリオだった。

三人は現在、商社マンの三嶋聡(古川雄輝)との弱い恋愛関係で結ばれている。

三嶋→潤子

まさこ→三嶋(ただしサイフとして)

百絵→三嶋(ただしワンコとして)

・・・女たちのワンサイドゲームである。

「まさこちゃんはもてるよね」

「今年は不作です」

「まさこちゃんが不作なら私なんか不毛地帯だよ」

「三嶋といい感じだったじゃない」

「あれ・・・終わりました」

「まあ・・・残念」

「あんたが言うか」

「え?」

「とにかく・・・今は年下の子に攻められてるんですよ」

「何・・・相手いくつ・・・」

「十代なんですよ」

「犯罪じゃん」

「百絵先生は・・・アーサー先生とどうなんですか」

「ええ?」

「付き合ってますよね」

「ねえ」

「えええ?」

変則的「え」のシフトチェンジだな。・・・何を言っておるのだ。

結局、銭湯でのぼせた高嶺は桜庭家で潤子に介抱されるのだった。

もう・・・夫婦でいいじゃないか・・・。

「なんで・・・家が我が家みたいなことに」

「法要の前に準備が・・・その前に少し羽目を外して」

「しょうがないなあ・・・もう」

「男のプライドです・・・」

「はあ?」

「私は勝った・・・」

思わず力尽きて潤子の胸に顔を埋める高嶺だった。

「ちょっと・・・」

そこへ帰宅する寧々。

「・・・誰にもいいませ~ん」

《休憩タイム》

プレイヤーまさこ。

ターゲット蜂屋。

食事に誘われました・・・どの店を選びますか?

Ⓐフレンチレストラン

Ⓑイタリアンレストラン

Ⓒラーメン屋

まさこはⒸを選んだ。

「雰囲気台無しだっつうの」

「子供は贅沢しないの」

「ちぇ」

「食事の時は帽子を取りなさい」

「なんだよ・・・もう・・・」

「・・・」

「うめえ・・・」

蜂屋の好感度が105になった。

蜂屋の甘えん坊気質が102になった。

蜂屋の生意気さが少し下がった。

蜂屋はまさこに調教された。

《休憩タイム終了》

本当に中身がごたごたしているよな。

まあ・・・男に甘えられて喜ぶ女幻想のヴァリエーション展開なんだろう。

マザコンだからな・・・マザコンだからだ。

高嶺は桜庭家で家族動画DVD完全制覇に挑む。

「まだ・・・見てるんですか」

「法要の前に幸江さんのことをもっとよく知っておきたくて・・・」

「こういうの・・・家族じゃなかったら・・・飽きるでしょう」

「私にとって皆さんはもう家族です。好きな人の好きな人をもっと好きになりたいんです。どんな年代の潤子さんも見ておきたいですし」

「おいっ」

「それにしても・・・幸江さんは笑顔を見せない方だったのですね」

「星川さんもですよ・・・星川さんの笑っている顔・・・私、見たことないです」

「潤子さんといる時は基本的に笑っておりますが・・・」

「え」

潤子は・・・星川を見て・・・それが当たりくじであることに気がついたようだ。

その顔立ちを確認するために・・・おそろいの髪留めを使用する潤子。

目の前に潤子の無防備な胸を差しだされ・・・思わず欲情する高嶺。

「潤子さん・・・」

「高嶺さん・・・」

「ちょっと潤子ちゃん・・・」

モニター画面の中で若き日の恵子が呼びかける。

ケイちゃんと言うことは夫の満は・・・ミーなのかっ。

・・・それ・・・どうしても言う必要あるの。

やがて・・・高嶺は桜庭家の秘密に気が付くのだった・・・。

とにかく・・・両親や妹が別室で眠っているお茶の間で・・・妄想的には明らかに一戦している二人だった。

声を殺してするのって興奮するよね。

・・・もういいか。

潤子は・・・幼い頃に両親と死別した高嶺の孤独にふたたび心を揺さぶられる。

高嶺は・・・桜庭家の墓を清めた。

高嶺の父親代わりを自負する光栄は桜庭家を訪ねる。

タクシードライバーと光栄は・・・幸江の葬儀以前からの付き合いである。

「わざわざ・・・ありがとね」

「いや・・・今回、私がお経あげないので・・・御焼香だけでもと思ってね」

「ご丁寧に」

「十六年か・・・早いね」

「うん」

「あっと言う間でしたねえ」

潤子は・・・桜庭家が一橋家の檀家であることに漸く気が付くのだった。

「今回の法要は高嶺がしっかり務めますので。今日も桜庭家のお墓を掃除してました」

「まあ・・・高嶺さんが」

「高嶺はそういう男です。今後とも高嶺をよろしくお願いします・・・あいつは潤子さんと知り合えて幸せ者です。潤子さんと会って高嶺は変わりました」

「・・・」

「今まで付き合った人とは全然違う」

「え」

「星川さんって女の人とお付き合いされたことが・・・」

「潤子・・・そりゃ・・・高嶺君だって彼女の一人や二人ぐらい」

「大学のころはかなりモテましたよ。大学1年生のときに付き合った春ちゃんはおとなしくて 控えめな子で。2年のときの夏ちゃんは海が好きな活発タイプで。3年のときの秋ちゃんはこれまた情熱的なもう 色っぽい子でね。冬ちゃんがきたら春夏秋冬全部揃ったのに4年のとき付き合ったのが何とアンジェラ!」

「冬なしか」とタクシードライバー。

「残念ね」と恵子。

「惜しい!」と寧々。

(突っ込むのはそこじゃないだろう)と思う潤子だった。

潤子はモヤモヤした。

モヤモヤが炸裂する英会話教室。

「ミスター星川、軽率なことをしたお詫びを英語で言ってみて」

「私の軽率な行動でご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません」

「もっと丁寧に」

「私の軽率な行動が様々な人に悪影響を及ぼしたことは真にもって慙愧にたえないことであり慎んでお詫び申し上げます」

「そんなことで誠意が伝わりますか」

「私の軽率な行動は万死に値する卑劣極まりない古今東西例のない悪逆非道なふるまいであり・・・」

「どんなビジネス英語なんだよ・・・」と呆れるクラスメイト三嶋だった。

「何を怒っていらっしゃるのですか」

「別に怒ってません・・・授業が終わったら・・・とっととお帰り!」

香織タイムである。

「高嶺様・・・なぜ私じゃいけないのですか」

高嶺の背に身を預ける攻撃。

「すみません・・・準備がありますので」

高嶺はふりむいて距離を置く防御。

「どうして高嶺様が・・・こんな小さな法要を・・・」

「どんな法要も大切なものです・・・御仏の教えを伝える場に大小はありません」

「・・・」

香織タイム終了である。

ラブコメとしては香織は何か・・・お決まりのアクションが欲しいところだ。

前回の「私はあきらめない」で良かったのに・・・。

ポジション的には樹木希林の立ち位置なんだよな。

「高嶺様・・・」みたいな。

美しさが仇になっているというか・・・スタッフが甘いというか。

故・桜庭幸江の十七回忌である。

七回忌という七という数字を軸とした次の法要が十七回忌となる。

三十三回忌を弔い上げと考えれば・・・死者が神となる道の折り返し地点である。

赤いコスモスを供える高嶺。

「読経を始める前に少しだけお話をさせてください。柏木ナイス・・・ではなくて・・・この花は故人が大好きだったコスモスの花です。赤いコスモスの花言葉は愛情と申します。西洋ではコスモスは素晴らしい人生の限りない喜びを讃える花とされています。愛にあふれていた幸江さんに相応しいお花です」

恵子は思わず涙する。

「お嫁に来た時・・・お義母さんがコスモスの花を贈ってくれたのを思い出しちゃった・・・」

「ご近所の皆さんも・・・幸江さんは滅多に笑顔を見せない方だったとおっしゃってましたが・・・しかし・・・幸江さんは・・・よく笑う方だったのです」

「え」

「幸江さんは・・・お年寄りには珍しくなかなかのカメラマンでした・・・」

「ええ」

「皆さんが笑う時・・・幸江さんも笑っていましたよ」

「えええ」

「皆さんが幸せそうに笑う時・・・カメラマンの笑い声が同時に収録されていました・・・幸江さんは家族の幸せを何よりも愛していたのです。家族が幸せそうな時・・・幸江さんはいつも笑っていたのです」

「優しい・・・おばあちゃんだったのね・・・」と寧々。

「大切な人を亡くすことはつらく悲しいことです・・・けれど折りに触れ故人を偲び花を手向け・・・今、自分が生きていることに感謝する・・・それが何よりの供養となるのです・・・皆さまの幸せこそが・・・故人の喜びなのですから・・・」

「高嶺くん・・・お坊さんみたいだ・・・」

「お坊さんですよ」

潤子は・・・高嶺の高貴な心に触れ・・・激しく濡れるのだった。いや・・・心が洗われるのだった。

アレックスとブリタニーの結婚パーティー当日。

二人を祝福する従業員一同と生徒や友人たち・・・。

しかし・・・お祝い動画担当のアーサーと百絵はピンチになっていた。

再生装置のクローズがオープンしてしまうのだった。

「閉じたり開いたり・・・実にはしたない」

そこで・・・高嶺は自分の作品を提示した。

会場に流れ出す・・・二人の結婚準備に追われる潤子とその周囲の人々のスケッチ。

自然なドキュメンタリーが・・・人々の微笑みを誘う。

二人の結婚を祝福するムードが高まるのだった。

高嶺が潤子を見つめる目からあふれた愛がパーティー会場を包む。

潤子は・・・世界を見守る高嶺の気高く優しい表情を見た。

「わかりました・・・どうして・・・ずっともやもやしていたのか・・・私、ずっと気になっていたのです・・・星川さんの元カノさんたちは星川さんの笑顔を見たのかなって・・・でも・・・ もう大丈夫です・・・今・・・見たので」

「元カノさんという方を存じ上げませんが・・・」

「・・・」

脚本的には謎に包まれた・・・高嶺の学生時代だった。

衆人集う場所で温もりを感じ合うことで燃える変態体質の潤子はそっと高嶺の手を包むのだった。・・・まあ、いやらしい・・・。

そして・・・一橋寺には・・・天音が帰還する。

女魔王は・・・煩悩にまみれた高嶺を捨て・・・制御可能な天音に乗り換える気らしい。

まあ・・・法統も俗世間の荒波をかぶるのがこの世の定めというものかもしれない。

しかし・・・そんなことはラブコメとは無縁である。

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59005ごっこガーデン。愛と青春の曼荼羅セット。

エリ「きゃああああ・・・公衆の面前でこっそり隠れて恋人握りで・・・むふふ・・・これはもう愛撫でスー・・・もう官能的な名場面と言えるのでスー。お尻を触らせようとしているのかと思って鼻血ブーッなのでス~・・・じいや、ティッシュをお願いしましゅ・・・いよいよ・・・クリスマスシーズン・・・世界が平和で変態でもいい・・・愛にあふれる優しい場所でありますように・・・

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2015年11月16日 (月)

おはんが死んで新しい日本が生まれたのでごわす・・・明治十一年紀尾井坂の変(井上真央)

歴史音痴の脚本家なので・・・絶句もしないのだが・・・。

木戸と西郷が死んで・・・伊藤や山県が権力を掌握するのは・・・独裁者となった大久保利通が紀尾井坂で暗殺された後である。

いや・・・大久保利通がいない・・・この世界では・・・それでいいのか。

全国の大久保ファン・・・号泣である。

少なくとも・・・群馬県令・楫取素彦と大久保には重大な史実がある。

高崎城に陸軍歩兵第3連隊が駐屯していた関係で・・・県庁を置くスペースがなく・・・仮庁舎を前橋城に置く許可を楫取素彦は大久保内務卿に求めているのである。

大久保はこれを許し・・・前橋が県庁所在地となる伏線が張られる。

そもそも・・・中山道から外れている前橋が群馬県の中心というのはやや無理がある。

しかし・・・楫取の決定は・・・前橋の発展を促し・・・現在に至るのだ。

まあ・・・そういうことを面白いと思わない人に何を言っても無駄だけどな。

前橋(仮)が正式な太政官布告により県庁所在地として認可されるの大久保が暗殺された後の明治十四年のこととなる。

で、『燃ゆ・第46回』(NHK総合20151115PM8~)脚本・小松江里子、演出・渡邊良雄を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回も年末年賀状体制発動のためにイラスト描き下ろしはお休みです。まあ、まだ・・・このドラマの記事があることがすでに奇跡で有り難いことだと拝みたい気持ちでございます。もう少しだ・・・もう少しで・・・このわけのわからないへんなものが・・・この世から消えてなくなる・・・のでございます。なぜ・・・そうまでして視聴を続けるのか・・・それもまた歴史の妙ですねえ。まあ・・・今回・・・架空の登場人物である群馬の姐御が・・・主人公の心を問い・・・主人公が・・・家庭の事情を「志」として話す。想像力を全開し・・・ヒロインの演技力に身を委ね・・・堪え難きを堪えず、忍び難きを忍ばなかった・・・やんちゃな兄・松陰や・・・おっちょこちょいな夫・久坂玄瑞の・・・無念の死・・・を想起すれば・・・胸が熱くなってくるのが幕末フリークの心意気なのでございます。

胸が熱くなる回想シーンくらい入れて欲しい・・・。

大好きなお兄ちゃんや・・・愛しい旦那様の・・・無惨な最期をストレートに描いてこなかった報いが・・・ありありと示された・・・残念な演出でしたけれども・・・。

もう・・・感動させたいのか・・・させたくないのか・・・はっきりしろよ・・・と叫びたい。

Hanamoe46明治十年十月、アメリカ人の動物学者・エドワード・S・モースが大森貝塚の本格的な発掘を行う。学習院が開業し、初代院長に筑後三池藩藩主だった立花種恭が就任。十一月、招魂社にて西南戦役戦死者招魂祭が催される。十二月、大森貝塚を明治天皇が観覧。騒然とした明治十年は暮れ・・・明治十一年(1878年)三月、露土戦争集結。ルーマニア公国、セルビア公国、モンテネグロ公国、大ブルガリア公国が誕生する。東京・木挽町に電信中央局が開業。五月、東京府麹町区麹町紀尾井町で内務卿大久保利通が不平士族によって暗殺される。実行犯・島田一郎らは自首し、市ヶ谷監獄にて斬首に処せられる。

西南戦争で政府軍に降伏したものたちは・・・各地の監獄に輸送されていた。群馬県は幕府時代の岩鼻代官所を監獄として利用しており、明治十年、岩鼻監獄には五十人ほどの反乱軍兵士が収監されている。反乱者たちは長崎から横浜そして岩鼻へと護送されてきたのである。岩鼻監獄には五万石騒動と呼ばれた高崎農民一揆の罪人も収監されており・・・不平士族たちは・・・四民平等の世に・・・農民と同じ監獄に収監されるという屈辱を味わうのだった。

利根川上流から山内家所有の小型汽船が現れた。

船首には機関砲が設置されている。

しかし・・・美和子はすでにその存在を察知し・・・鉄砲忍びたちに火砲を用意させていた。

敵の小型汽船に砲弾が発射され・・・命中する。

機関砲兵は血煙とともに爆散する。

小型汽船は炎上し・・・夜の川面を照らす。

その影から二艇の小型艇が現れ、乱戦となった。

土佐の科学忍者たちは拳銃で武装し、短剣をかざして白兵戦を仕掛けて来た。

敵の射線に入った美和子は咄嗟に跳躍し、川に落下する。

「美和様」

伊藤佐助は忍者刀で敵を倒して・・・川に飛び込む。

毛利船と・・・山内船はすれ違い・・・お互いに敵味方を乗せたまま遠ざかる。

船上では銃声が響き、忍びたちの死闘が続いている。

美和は流されながら河原へと抜き手を切る。

這いあがった上陸地点に敵の気配はなかった。

背後から伊藤佐助が追従する。

「ご用心くだされませ・・・」

「大丈夫だ・・・岸に・・・敵はいない」

「問答無用で仕掛けてきましたな・・・」

「敵は・・・政商の岩崎弥太郎の手のものじゃ・・・土佐勤王党の死にぞこないというところか・・・」

「土佐・・・勤王党・・・」

「坂本龍馬亡き後・・・明智流の科学忍者たちは・・・分散し・・・一部は政府軍に仕えておるが・・・多くのものが三菱の私兵になっておるのよ・・・」

「なるほど・・・」

「ここは・・・どのあたりじゃ・・・」

「南に下れば・・・本庄宿というあたりでしょう・・・」

「では・・・新町宿、倉賀野宿と一気に夜駆けと参ろう・・・」

「されど・・・なぜ・・・土佐のものが・・・」

「三菱は・・・群馬を狙っているのじゃ・・・」

「はあ・・・」

「そもそも・・・義兄は県庁移転の件で高崎の者どもの怨みを買っておるからな・・・高崎と前橋の戦の気配もある」

「西南戦争では・・・旧高崎藩の士卒も戦死しておりますな」

「義兄は・・・岩鼻監獄に収監された反乱兵を庇護しているというものもある・・・三菱はそういう流れを利用して群馬の利権を奪いにかかってきたのじゃ・・・長州は三井贔屓じゃからな・・・岩崎の背後には薩摩の大久保様がついておるらしい・・・」

「それで・・・混乱にまぎれて・・・県令様のお命を・・・」

「そうじゃ・・・闇に葬る気じゃ・・・この世に争いの種は尽きぬのよ」

二人の忍びはすでに闇の中を走りだしていた。

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2015年11月15日 (日)

素晴らしきセーラー服探偵(新垣結衣)希死念慮なんて知らない(岡田将生)恥ずかしがり屋の殺人者(浅見姫香)

恥ずかしくて消えてしまいたい気持ちと邪魔ものを消したい気持ちは背中合わせである。

テロリストたちは・・・恥ずかしさでいっぱいになり・・・見ず知らずの人を殺さずにはいられないのかもしれない。

誰かを殺したいほどの怒り・・・その恥ずかしさ・・・。

恥ずかしながら生きて行く人々の・・・堪え性の強さ・・・。

人々は危ういバランスの上でスキップをするのだった・・・それな。

殺されるくらいなら身も心も捧げる人は・・・強いのか、弱いのか・・・よくわからない。

相手を挑発するのはよくない・・・という人がいるが・・・弱味を見せればつけこまれるものである。

絶対安全な場所など・・・この世にはない。

しかし・・・運がよければ地雷原さえ・・・突破できるのだ。

人生は・・・サバイバルの連続に過ぎないのである。

で、『掟上今日子の備忘録・第6回』(日本テレビ20151114PM9~)原作・西尾維新、脚本・野木亜紀子、演出・小室直子を見た。十一月も半ば・・・2015年も終わりが見えて来た。イスラム原理主義者と中国共産党帝国という二つの独善的な組織が東西で摩擦を起こす年の瀬である。ドーピング帝国も「共通の敵」を見出してなんとか自分の汚れた手を隠そうとしている。まあ・・・敵の敵は味方だし、味方の敵は敵なのである。私のことは放っておいてと言ってもそうはさせじとストーカーなんだな。明日は七五三・・・由緒正しいコスプレ日和である・・・もう、いいか。

探偵斡旋業も営むアパルトマン「サンドグラス」のオーナー・絆井法郎(及川光博)は・・・今日も一日ですべてがリセットされる忘却探偵・置手紙探偵事務所の掟上今日子(新垣結衣)に恋をした冤罪事件の常習被害者・隠舘厄介(岡田将生)の愚痴を聞くのだった。

「死にたいほど恥ずかしいって・・・誰が・・・」

「無限堂古書店の奥さんです・・・」

厄介は無限堂古書店でアルバイトをしていたのだ。主人(おかやまはじめ)には気に入られたのだが・・・夫人(山下裕子)が青春時代に交際していた恋人に・・・厄介は瓜二つだった。

恋人に貢いでいた赤面の過去を思い出し・・・半狂乱になる無限堂古書店夫人・・・。

「で・・・クビに・・・」

「いえ・・・自主的に辞めました・・・」

「それで・・・」

「最近・・・そういうことは不運だと思わないようになりました・・・ある人から・・・人生に無駄なことはないって言われて・・・確かにあらゆる職業を経験しているので・・・たいていのことはこなせますし・・・今回は経歴のおかげで・・・中学校の管理作業員に採用されたんです」

「よかったねえ」

「でも・・・問題がありまして・・・女子校なんです」

「サンドグラス」のウエイトレス・幕間まくる(内田理央)や変装した潜入捜査員の也川塗(有岡大貴)も思わず頷く。

「それは・・・アレだねえ」

「だから・・・生徒とは目も合わせないようにしています」

だが・・・冤罪体質の厄介を見逃すほど・・・五十嶺学園の女生徒たちは甘くなかったのである。

ある日の放課後・・・。

廊下が水浸しになっていて・・・掃除を開始した厄介は用具室に導かれる。

そこでは・・・女生徒・逆瀬坂雅歌(浅見姫香)が倒れていて・・・室内には文化祭用の二酸化炭素ボンベからガスが漏れていた。閉まったドアは内側から開かないように細工されており、遺書が床に落ちている。窓も強力接着剤で開閉不能。このままでは・・・厄介は女生徒と一緒に窒息死である。

しかし・・・サバイバル雑誌でのアルバイトが役に立ち・・・懐中電灯の集光器とほぐした縄、そして油性マジックで着火装置を自作した厄介は太陽光で煙を発生させ、火災警報の作動に成功する。

意識を取り戻した厄介の前に遠浅深近刑事(工藤俊作)と新米刑事(岡村優)のコンビが現れる。

「まさか・・・」

「ごめん・・・見舞いの天国プリン・・・二つしか売れ残ってなかった・・・」

「あの子は・・・」

「自殺未遂ということになっている・・・しかし・・・覚醒しないんだ」

「・・・」

「だから・・・お前が無理心中を仕掛けたんじゃないかという線でも捜査が進んでいる」

「え」

「いや・・・俺たちは・・・お前がそういう奴じゃないことはわかってるけどさ」

「・・・」

仕方なく・・・厄介は・・・今日子に依頼するのだった。

捜査開始の日・・・天国プリンは四つしか売れ残っていなかった。

「残念だねえ」

「サンドグラス」の人々は死ぬほど美味い天国プリンを味わう。

「プリンを食べられない運命なんです」

「確認しておきますが・・・本当に逆瀬坂雅歌(さかせざかまさか)さんとは面識がないんですね」

「はい・・・」

「一方的に思いを寄せていたとか」

「ありません」

「だって・・・厄介くんは他に好きな女性がいるものね」とオーナー。

もちろん・・・その相手とは今日子だが・・・今日子はそれを知っていても忘れてしまうのである。

「自殺の証明をすればよろしいんですね」

「自殺の証明か・・・女子中学生が自殺する気だったことを・・・裏付けるなんて・・・」

「今、そこですか」

「・・・」

「遺書には自殺の理由が書かれていなかったのですか」

「人気バンドのELIZA HEADの詩が引用されているだけだったので・・・」

「・・・」

「これは自殺のための自殺だ」

「なるほど」

「ところが・・・彼女の部屋には・・・ELIZA HEADのファンであることを匂わせるものが何もなかったんです」

「そのために・・・第一発見者のあなたが・・・容疑者として浮上したんですね」

「はい」

「では・・・現場に行きましょう」

しかし・・・校門で厄介は女性警官(高橋あゆみ)と霊長類最強の女性警官(吉田沙保里)に職務質問された上に抱えあげられてしまう。

「もにもに」

「不審人物、確保」

しかし・・・顔見知りの学校図書館の司書(桜井聖)によって救助される厄介。

「助かりました・・・」

「君が真面目な人だって先生方はみんな知ってます・・・しかし・・・保護者の皆さんが・・・」

「・・・」

「そういえば・・・彼女・・・変わった本の借り方をしていました・・・というか・・・いつも読み切れないほどの本を借りてたんです」

「名作映画とアダルトビデオを混ぜて借りるみたいな・・・」

「それだ」

一方・・・ファッション誌「SG」(フィクション)のモデルほ装って三年D組に潜入した今日子は中学生にもみくちゃにされて服を脱がされ燃やされて見本のセーラー服を着用することを余儀なくされてしまう。

・・・どういう状況だよ。

ガッキーと宮﨑あおいは永遠に中学生ができるよな。

合流した厄介もうっとりである。

現場検証をした二人は背後に不審な影を見つける。

「そう言えば・・・あの時も・・・廊下に誰かいたような・・・」

「そうだとすると・・・これは殺人事件なのかもしれません」

「え」

「密室に見せかけて・・・誰かが・・・彼女を・・・まあ、可能性の一つです」

「自殺の方は・・・」

「彼女は存在感の薄い人だった・・・そして・・・自分の内面を人に悟られるのを恐れていた・・・図書館で・・・読みたい本を借りる時にカモフラージュを必要とするほどに・・・」

「自意識過剰・・・」

「ええ・・・遺書が抽象的なのもカモフラージュなのかもしれない・・・いじめとか孤独とかで・・・死んだと思われたくない・・・それな」

「・・・」

「でも・・・なんとなく死にたくて・・・自殺願望あるいは希死念慮を抱くことはあるのかもしれない」

「それはどう違うのです」

「わかりません」

「・・・」

「わかられるのがいやという気持ちの一つですからね」

「・・・」

「まあ・・・乙女心ですよ」

「・・・」

「ところで・・・洋服買ってきてもらえますか・・・」

「え」

「厄介さんの予算の範囲で・・・」

今日子に服をプレゼントするチャンスに飛び付く厄介。

またしても・・・貯金はゼロになるのだった。

ルンルン気分で戻ってきた厄介はまたしても婦人警官たちに確保される。

「女性の服です・・・タグなしです」

「すぐに着るので外してもらったんです・・・もにもに」

今度は潜入探偵に救われる厄介。

「兄は・・・スカートを穿くタイプの人なので」

「ああ」

女装趣味をあてがわれモヤモヤする厄介だった。

「今日子さんから・・・サンドグラスに戻るようにと・・・」

「え」

今日子は一人暮らしの逆瀬坂雅歌の部屋に不法侵入し・・・殺風景な部屋に残された古書と古書店のレシートを入手していた。

「この女性に心当たりは・・・」

「あ・・・トンボちゃん・・・」

「最後にこの店に来たのは・・・いつですか」

「あの時は厄介くんが応対したんだったな」

「え」

厄介は・・・「彼女」にあっていた。

しかも・・・彼女の好みの本を推奨するという・・・「虎の尾」を踏んでいたのだった。

彼女にとってそれは「死ぬほど恥ずかしいこと」だった。

霊感の強い今日子はすでに鏡の中に第二の少女の姿を発見していた。

第二の少女・・・山之内茂美(米山穂香)は彼女に日記を読まれてしまい・・・内容を誰かに話されるのではないかと・・・彼女を尾行していた。

そして・・・廊下に水を撒く彼女の姿を目撃している。

病院にやってきた厄介はベッドに横たわる今日子を発見する。

「今日子さん・・・」

「きゃあああああ」

かわいいよ、ガッキーかわいすぎるよ。

「・・・」

「安心してください・・・彼女の気持ちを考えていただけです」

「彼女が入院中・・・自分で点滴を外していることが判明し・・・僕は無罪になりました」

「洋服は・・・」

厄介は白いニットの上下を買ってきた。

「この意味は・・・」

「最初に逢った時に・・・白だったので」

「気に入りました」

「よかった・・・」

「彼女は・・・恥ずかしかった・・・けれど忘れようとしました・・・二人にとって不幸だったのは・・・厄介さんの転職です」

「あ」

「二度と会うまいと思っていた人に毎日会う苦痛・・・」

「・・・」

「しかも・・・彼女は・・・学校でも・・・家庭でも孤独だった・・・死ぬほど恥ずかしい・・・辱しめた相手を殺したい・・・彼女の気持ちはどうしようもなく・・・高まっていた・・・そして・・・あの日・・・あなたを殺して・・・自分も死のうと思った・・・すべてを秘密にするために・・・」

「・・・」

「でも・・・私には彼女を問いつめることはできません・・・忘れたいのに忘れられない人に・・・忘れたくなくても忘れてしまう人間は・・・語る言葉がないのです」

「・・・」

「これ・・・天国プリン・・・一つだけ残っていました・・・洋服の御礼にどうぞ」

厄介は・・・プリンを持って病室に向かった。

「僕は・・・殺されそうになって怒るべきなのかもしれません・・・でも・・・冴えない人生を送る人の気持ちはわかるつもりです。僕はずっと・・・みっともない人生を送ってきました。小学生の時・・・ぼくは・・・」

厄介は眠ったふりをする彼女に・・・自分の人生がどれほど恥ずかしいものだったかを物語る。

今日子は夕陽に照らされながら・・・その言葉を聞いていた。

彼女は天国プリンを食べた。

「サンドグラス」のオーナーは今日子の独り言を聞いた。

「今日は救われたような気分になりました・・・闇に光が灯ったような・・・素敵な人だったなあ」

今日子の告白にオーナーは微笑んだ。

その日暮らしの人に向ける・・・優しい言葉に代えて・・・。

厄介は好きな相手に思われた・・・しかし、それも今日限りのことなのである。

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2015年11月14日 (土)

犬や猫なら妊娠しても叱られないのにね(綾野剛)14才の母2015(山口まゆ)

14才の母・愛するために生まれてきた」(2006年)はもう一昔前になろうとしているんだな。

流れて行く歳月・・・未希(志田未来)が産んだそらちゃんも九才になっているわけである。

さて・・・今回、中学生聖母を演じるのは山口まゆである。

聖女」の主人公・肘井基子の幼少期や、「アイムホーム」で野沢すばると・・・存在感を示してココなのである。

なかなかに・・・将来性を期待されている感じがあるよねえ・・・。

もちろん・・・ワンクールできるネタを一話でお届けするわけなのでややライトでコンパクトにまとめているわけなのだが・・・山口まゆは早すぎた妊娠・出産をする女子中学生として「突如として子供から母親になっていく女」を演じるわけである。

なにしろ・・・世の中に出産経験者は星の数ほどいるので・・・アレなのだが・・・とにかく・・・出産直後に子供を奪われてしまう母親の悲しみは見事に演じていたと考える。

とにかく・・・そういう制度(社会)の前に・・・人間は無力なものなのだ。

で、『コウノドリ・第5回』(TBSテレビ20151113PM10~)原作・鈴ノ木ユウ、脚本・山本むつみ、演出・土井裕泰を見た。今回は登場するゲスト脇役たちが重厚な感じになっていて・・・深刻な問題をスピィーディーだけど・・・それなりに深みのあるものにしている。社会という枠組みが・・・出産適齢期や・・・出産に相応しい経済力などを要求し・・・そのために少子化が生じるという「制度」の不思議さを垣間見せるわけである。一万年続いた縄文時代にも許されない妊娠はあったかもしれないが・・・生むことも生きることももっと自然と同じ営みだったのではないか・・・と思うのだ。

周産期母子医療センターが設置されているペルソナ総合医療センターの産科医・鴻鳥サクラ(綾野剛)は医療ソーシャルワーカーの向井祥子(江口のりこ)から「性教育」の講師を依頼され戸惑いを見せる・・・と思う間もなく14才の少女が妊娠八カ月の身重の体で入院してくるのだった。

幼い妊婦は吉沢玲奈(山口まゆ)で胎児の父親は同級生の元倉亮(望月歩)である。

玲奈は自分が妊娠したとは気がつかず・・・部活の際中に貧血で倒れ・・・校医が気がついた時には出産まで残り八週となっていたのだった。

亮の父親は地方の名士である元倉和雄(螢雪次朗)であり、世間体を憚って旧知の仲であるペルソナ総合医療センターの大澤院長(浅野和之)に泣きついたらしい。

玲奈の妊娠は不祥事なのである。

玲奈の家は母子家庭・・・玲奈の父親は八年前に離婚が成立してから音信不通で・・・玲奈の母親・吉沢昌美(中島ひろ子)は経済的にギリギリの生活をしている。出産の費用などについて元蔵家は援助するが・・・養育については責任が持てないという話し合いが親同士で行われ・・・とにかく・・・吉沢母娘は・・・どうしていいかわからない状態で・・・入院したのだった。

エコー画像を見た玲奈は「CGみたい」と感想を言い・・・「二ヶ月後のバスケットボールの試合に出場できるか」を問い・・・「麻酔で痛くない出産」を希望する。

後期研修医の下屋加江(松岡茉優)は・・・おそらく処女なので・・・若いみそらで経験豊富な少女に・・・ご立腹なのである。

しかし・・・サクラは少女に胎児と真摯に向き合うように諭すのだった。

「君のお腹の中には生命が宿っている・・・君はまだ成長段階にあるために・・・無事出産するためには・・・それなりに覚悟が必要になるよ」

「・・・」

経済的には玲奈の母親にも・・・玲奈の子供を育てることは難しい。

そんな時・・・矢野夏希(清水富美加)の産んだ乳幼児矢野こころの定期検診のために「イレーネ乳児院」の職員・加賀美美智子(北浦愛→浅茅陽子)がやってくる。

加賀美はサクラを見て懐かしそうにするが・・・サクラはピンと来ない。

「ぜひ・・・一度イレーネ乳児院に来てください」と加賀美は誘うのだった。

イレーネ(エイレーネー)は平和の神であると同時に生命の芽吹きを意味する春の女神である。

そこには・・・理由あって母親の元を離れた乳児たちが過ごしているのである。

やがて・・・サクラは・・・加賀美が誰かを思い出すのだった。

「美智子ママ・・・」

一方、新生児科の今橋医師(大森南朋)の元には特別養子縁組の斡旋をする「つぐみの家」の職員・笠原節子(烏丸せつこ)が訪れていた。

「両親に恵まれない子供のために・・・子供に恵まれない夫婦を紹介いたします・・・あくまで・・・特別養子縁組は子供の欲しい親のための制度ではなく・・・子供の福祉のためのための制度なのです」

「・・・」

つぐみの語源が・・・夏に口を噤むことからを想起させる・・・笠原節子の秘密めいた存在感・・・である。

出生の秘密は他言無用的な・・・。

玲奈の子供の将来の選択肢として・・・「つぐみの家」に出向くサクラと下屋・・・。

紹介された不妊治療に疲れた早見夫妻(土屋良太・滝沢涼子)の切実さ・・・。

「血の繋がっていない子供を愛せるものですか・・・」と直球を投げる下屋。

「子供は・・・天からの授かりものだと思っています」と応じる夫妻。

「デンデケデケデケな感じで」

「デビュー作ですか」

・・・おいっ。

数週間後・・・胎児が自分の中で蠢動することに・・・生命の息吹を体感する玲奈は・・・真剣に子供のことを考えるようになっていた。

サクラは加賀美の記憶を取り戻し・・・イレーネ乳児院を訪問する。

加賀美はサクラにとって第二の母親だった。

最初にピアノを教えたのはサクラだったのだ。

「あなたのこと・・・思い出しました」

「そう・・・」

古びたピアノは・・・ホンキイ・トンク(調律不足)になっていた。

サクラはピアニスト・ベイビーとなり、「キラキラ星変奏曲/モーツァルト」を演奏する。

「まあ・・・サクラちゃん・・・上手になったのね」

「あなたが・・・教えてくれたから・・・」

加賀美は昔を思い出し涙ぐむ。

サクラを養護院に送りだした時・・・泣いてしまって見送れなかった若き日の自分。

去って行くサクラに加賀美は呼びかける。

「さよなら・・・サクラちゃん・・・元気でね」

「加賀美さんも・・・お達者で」

玲奈は母親に問う。

「私を産んだ時・・・痛かった」

「そりゃ・・・もう痛かったわよ」

「ごめんね」

「嘘・・・あなたが生まれたら痛みなんかふっとんじゃったわ」

玲奈は・・・陣痛に立ち向かう決心をするのだった。

「鴻鳥先生はどうして産科医になったのですか」

玲奈に問われ・・・サクラは生い立ちを語るのだった。

「僕には三人のお母さんがいる。最初のお母さんは僕を産んだ後に亡くなった。乳がんだったんだ。僕にはお父さんもいなかったので・・・僕は乳児院に預けられた。そこで加賀美ママにピアノを教えてもらった。それから養護施設の小野田ママにピアノの腕を磨いてもらったんだよ・・・僕を産んでくれた母は僕を産むために・・・リスクを伴う乳がん治療は行わなかったらしい・・・僕は・・・お母さんも赤ちゃんも無事でいられる手伝いをしようと思った・・・だから産科医になったんだ」

居合わせた下屋はサクラの生い立ちにショックを受けるのだった。

「施設で育って・・・辛かった?」

施設で育つということは・・・いろいろと大変なこともある・・・だけど・・・僕は三人のお母さんからたくさんの愛をもらったと思っている・・・だから・・・自分が不幸だと思ったことはないよ」

幼い玲奈は・・・精一杯・・・生まれてくる子供の居場所について考えていた。

「私も・・・お母さんも・・・子供を育てるのは・・・無理だと思う・・・だから・・・この子は養子に出します・・・」

「うん・・・それが君の答えなんだね」

「はい」

出産の時が来た。

陣痛の間隔は狭まり・・・玲奈は苦痛に喘ぐ。

その叫びを・・・胎児の父親である亮は深刻に受け止める。

産声とともに・・・新生児が誕生する。

「おめでとう」

玲奈の顔に浮かぶ母親の表情。

「じゃあ・・・そろそろ・・・連れて行くよ」

サクラは新生児を取り上げる。

玲奈の顔に浮かぶ・・・苦悩。

(嫌・・・連れていかないで・・・)

しかし・・・制度はそれを認めない。

人間はそういう制度の中で生きていることを玲奈は思い知らされる。

新生児は・・・早見夫妻の手に渡った。

制度は・・・半年間・・・早見夫妻を試すのだった。

それぞれの心に・・・それぞれの痛みを残して・・・一人の人間が生まれた。

すべては男と女が愛し合った結果である。

人間が人間を妊娠しても妊娠させても誰もが叱られない制度はまだない。

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2015年11月13日 (金)

するとここは死後の世界なのかもしれない(神木隆之介)やはりあの世か(錦戸亮)富子ではありません(谷村美月)

天寿を全うすることは「運命」という意味ではすべての人間に訪れることだ。

しかし・・・生物学的な寿命による自然死と・・・不慮の死にはなんとなく違いがあるような気がする。

もちろん・・・自然死も・・・遺伝子と環境に左右され・・・一種の病死と言えるかもしれない。

一般的には「平均寿命」より早く死ねば・・・早世という感じがするし・・・老衰によって死ねば大往生な感じはするだろう。

とにかく・・・事故死とか・・・自殺・・・あるいは他殺・・・戦死など・・・特別な死との遭遇というものがあれば・・・「まだ生きられた感じ」は高まるものである。

そういう運命も含めて天寿という考え方もあるが・・・「もっと生きたかった悔い」のようなものが不慮の死には強いような気もする。

慶応元年に切腹した武市瑞山も、その二年後の慶応三年に暗殺された坂本龍馬も・・・肉体的にはまだ生きられた可能性がある。

この世界は・・・一種の地獄システムで・・・二人は残された寿命を消費するためにやってきたのかもしれない。

ちなみに・・・武市富子は大正六年・・・87歳で天寿を全うしている・・・。

もしも・・・富子が死後の世界に復活すると・・・武市瑞山にとっては・・・いろいろとアレなことに・・・。

まあ・・・ファンタジーだから・・・どんなシステムでも問題ないわけだが・・・。

で、『サムライせんせい・第3回』(テレビ朝日201511062315~)原作・黒江S介、脚本・黒岩勉、演出・木村ひさしを見た。(火)の「デザイナーベイビー」が最終回を迎えたので・・・どうしようかと考えているわけである。時系列的には・・・これが(火)へお引っ越しして(木)が谷間になるのがスムーズだが・・・(火)「サイレーン」(水)「サムライせんせい」という手もある。このままで(火)谷間というのもあり・・・迷う。そんなことで悩んで何の意味があるのか不明だが・・・人間というものは迷うものなのだ。・・・お前、悪魔だろう・・・。とにかく・・・武市半平太や坂本龍馬は・・・彷徨っているわけである。つまり・・・二人はきっと・・・幽霊なんだな。

過ぎ去った過去の知識の量も人それぞれである。

世の中には・・・坂本龍馬も武市半平太も知らない人も多い。

佐伯晴香(比嘉愛未)は・・・歴史的な登場人物として・・・二人の名前を知っていた。

しかも・・・知名度という点において・・・武市半平太と坂本龍馬に差異があることを晴香は認識している。

その差異は「大河ドラマ」の脇役と主役のような感じである。

つまり・・・福山雅治と大森南朋の・・・おいっ。

半平太(錦戸亮)と龍馬(神木隆之介)が佐伯家の庭で再会した夜・・・二人を見つめる晴香の顔はどこか・・・この世のものではない感じが漂っていた。

あれが照明のミスでないとしたら・・・この世はやはり・・・二人の死後の世界・・・つまり幻想に過ぎないのかもしれない・・・。

「そうですか・・・あなたは坂本龍馬さんだったのですか・・・」

学習塾の経営者・佐伯真人(森本レオ)は大変な人格者である。

「武市さんは・・・いつ、こっちに・・・」

「数日前じゃ・・・」

「そうか・・・じゃ・・・歴史のことは何も知らないんだ」

「なんじゃ・・・その言葉使いは・・・」

「勉強したんだよ・・・武市さんも現代語を覚えないと・・・」

「おまん・・・いつからこっちに・・・」

「一年前・・・」

「どうして・・・」

「武市さんが切腹した二年後に・・・暗殺されちゃって・・・」

「暗殺じゃと・・・一体誰に・・・」

「・・・まあ・・・それはおいおい」

龍馬暗殺の真相は歴史的に謎に包まれている。

「ちくと待て・・・なぜ・・・後から死んだお主が・・・先着しておるんじゃ」

「その辺は・・・アバウトなんじゃないかな・・・」

「あばうと?」

「龍馬・・・なんか・・・軽い・・・」と晴香は思わずつぶやく・・・。

「そうなんですよ・・・でも・・・僕は前からこんな感じで・・・みんなより有名になっててびっくりぽんです」

「有名・・・」

「うん・・・こっちの世界では・・・大殿(土佐藩主・山内容堂)より・・・僕の方がメジャーなんですよ・・・」

「めじゃあ・・・」

「武市さんや・・・中岡さん・・・長州の久坂さんなんか・・・あんなに真面目に頑張ってたのに・・・なんだか心苦しい感じなんですよ」

「・・・」

なんとなく・・・面白くない気がする半平太だった。

「ほら・・・桂浜に僕の銅像建ってます」

「・・・」

「そうだ・・・歴史の教科書・・・ありますか」

「歴史・・・」

「これまでの流れが大体書いてあります」

「・・・」

「こわいですか・・・ですよね・・・まあ・・・気が向いたら・・・読んでみてください。何しろ・・・百五十年・・・日本も世界も凄いことになってるんですよ・・・」

「百五十年か・・・」

半平太は旧知の龍馬に言われて・・・その事実に・・・うろたえた。

「だけど・・・二人ということになれば三人目もいるかもね」

「三人目・・・」

「そういえば・・・あの時代にいた人によく似ている人が一人いた」

「なに・・・誰じゃ・・・以蔵か?」

「いや・・・富子さん・・・」

「富子じゃと・・・」

「それは・・・武市さんの奥方様の・・・」

「さすがは佐伯先生・・・教養あるなあ・・・」

「どこにおるんじゃ・・・富子は」

「いや・・・他人の空似かもしれない・・・なにしろ・・・女優さんだから・・・」

「じょゆう・・・?」

「女役者さんだよ・・・三方有紗さんという・・・二時間ドラマの女王・・・」

「え・・・有紗さんなら・・・明日、ロケでこの村に来ますけど・・・」と晴香。

「なんじゃと・・・」

半平太は妄想する。

愛妻の富子と再会し・・・二人で泥蕎麦(ヤキソバ)を食す光景を・・・。

「あの美味さを・・・富子にも・・・喜ぶじゃろうなあ」

「は?」

翌朝・・・どうやら芸能人大好きらしい篠原理央(石田ニコル)や寅之助(藤井流星)に誘われてロケ現場にやってくる半平太。

半平太の丁髷に深い関心を抱き、半平太を「マゲマゲ」と呼ぶ赤城サチコ(黒島結菜)は登校中である。

ロケのアテンド(世話役)を務める神里村役場の小見山喜一課長(梶原善)と晴香は主演女優に挨拶に出向く。

有紗と相手役の「二時間ドラマの王子様」と呼ばれる俳優・相馬聖太郎(矢野聖人)は交際中という噂があるらしい。

小見山の推奨する「ハート型の白い蒟蒻に梅肉ソース、赤い蒟蒻に白味噌ソースのラブ田楽」を読者百万人のブログで紹介するという聖太郎。

「一緒に食べた恋人は結婚する」というあきらかにインチキな伝承に興味を示す有紗だった。

そこへ・・・半平太が乱入する。

「あなた・・・どなた・・・」

「富子・・・わしじゃ・・・」

幕末きっての愛妻家である半平太は・・・富子との運命の再会に我を忘れる。

しかし・・・有紗は・・・富子ではなかったらしい。

富子に抱きつこうとする半平太は村人一同に確保されるのだった。

「本人が違うと言ってるでしょう」と説教する晴香。

「この時代の仲間たちには・・・隠しているのかもしれん」と半平太。

「どうしたの・・・」と理央。

「有紗が自分の嫁だって」と寅之助。

「さすが・・・ペータ先輩」と感心する理央だった。

「湯煙探偵13・カニしゃぶ食べ放題殺人ツアー」の撮影が開始され・・・巨乳を封印したサービス度低めの入浴シーンに挑む女優・有紗。

ここは「たぶらかし」なみにアピールしてほしかったな・・・。

その・・・露天風呂の背後に落武者の亡霊が・・・。

半平太だった。

「きゃーっ」

捕縛されて佐伯家の納屋に監禁される半平太。

「違う・・・と言ってるでしょう」

「あれは・・・富子じゃ・・・」

「・・・」

「晴香殿はいくつになられた・・・」

「27ですけど・・・」

「それは・・・随分・・・生き遅れたな」

「え」

「わしは二十歳・・・富子は十九で嫁に来た。それから十余年・・・仲睦まじく暮らしてきたのじゃ・・・わしが見間違えることなどありえん・・・」

「富子さんは・・・本当に妻の鑑のようなお方でしたからねえ・・・武市さんが獄中にある時は・・・夫と同じように土間で寝起きを続けたとか・・・」と佐伯先生。

一途な夫婦の物語に途中参加のサチコは感動する。

交際相手の寅之助が・・・そういう感じではないからである。

一方・・・実際に聖太郎と交際中の有紗も・・・聖太郎の浮気に立腹していた。

どうやら・・・シリーズ最終回らしく・・・ドラマは意外な展開に・・・。

「君は彼がカニアレルギーだと知っていて・・・」

「そうよ・・・私が殺したの・・・」

そこへ・・・龍馬によって縄を解かれた半平太が乱入する。

龍馬の半平太を想うこと衆道の気配ありである。

「また・・・こいつか」と呆れるスタッフ一同。

しかし・・・複雑な心境の有紗はあえて半平太と行動を共にするのだった。

「やはり・・・富子じゃったか・・・」

「違うと言っているでしょう」

「ふふふ・・・富子・・・隠しても背中にはわししか知らぬ黒子があるのじゃろう」

「ないわよ・・・」

サービス控えめの首元をみせる有紗・・・。

そこには黒子はなかった。

「う・・・お前・・・何者じゃ」

「それはこっちのセリフよ・・・」

しかし・・・富子は車を運転し・・・半平太と現場を脱走する。

近くの観光牧場で「はじめてのソフトクリーム」を体験する半平太。

「冷たい・・・そして甘いのか・・・」

「その富子さんて言う人・・・あんたの奥さん?」

「理由あって・・・離れ離れになってしまったのでござる」

「理由ありか・・・」

「有紗殿は・・・あの王子とやらと夫婦の契りを交わしておるのか・・・」

「え」

下半身が節操ないらしい相馬聖太郎は学校の体育館に呼び出されるのだった。

「有紗殿を大切に思うなら・・・わしと勝負せい」

竹刀を渡す半平太。

半平太が剣の達人と知る佐伯姉妹は制止するが・・・聖太郎は半平太に打ちかかる。

無防備に面を撃たせる半平太。

これは・・・痛いぞ・・・富子への煩悩を断ちきるためか・・・半平太。

「見事じゃ・・・有紗殿はお返しいたす・・・末長く添い遂げられよ」

「え」

半平太の気迫に聖太郎は感応したらしい。

ドラマのクライマックス・・・。

「さあ・・・私を逮捕しなさいよ」

「あなたを・・・待っています・・・罪を償って・・・あなたが僕のところへ戻ってくる・・・その時を」

「え」

有紗を抱きしめる聖太郎・・・。

有紗の顔に喜びが浮かぶ・・・。

「監督・・・脚本と違いますけど・・・」

「いい・・・これでいい・・・リアルにまさる演技なしだ」

「・・・」

まあ・・・探偵が犯人じゃ・・・どうせ最終回だからな・・・。

龍馬は雑誌記者として・・・熱愛報道スクープをゲットしたのだった。

そして・・・マゲマゲこと半平太の男気に感動したサチコ・・・。

サチコは金髪のウイッグをとり・・・いつもの黒髪に戻るのだった。

ヤンキーではなく・・・お嬢様だったらしい・・・。

まあ・・・そうだろうとも・・・。

先生と生徒会長再びである。

そして・・・半平太は・・・妻のその後を佐伯先生から聞き・・・黙祷するのだった。

一人の男を愛し抜いた女がいた。

そして半平太が一人の女を愛し抜く男かどうかは・・・まだ不明である。

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2015年11月12日 (木)

あなたの隣にカラがいる(松坂桃李)君の浮気が心配だ(木村文乃)秘密にしてね(菜々緒)

死の天使であるセイレンは人々の想像をかきたてる。

ある時は王女に仕える忠実な侍女として・・・。

ある時は屍をついばむ怪鳥として・・・。

ある時は地獄の女王に仕える死神として・・・。

また、ある時は男たちを誘惑する人魚として・・・。

そのためにセイレンは四姉妹であるとも言われる。

戦場に現れればヴァルキリー・・・。

海上に現れればローレライ・・・。

天空に姿を見せればハーピー・・・。

そして・・・夜に響く歌声はサイレン・・・。

美しく・・・そして醜い・・・。

彼女は矛盾した存在なのである。

で、『サイレーン刑事×彼女×完全悪女・第4回』(フジテレビ20151110PM10~)原作・山崎紗也夏、脚本・佐藤嗣麻子、演出・白木啓一郎を見た。脚本家は「エコエコアザラク」の人なので魔性についてはそれなりに習熟しているわけである。二人の刑事のどちらかと言えば間抜けな振る舞いに対して圧倒的な存在感を示す悪女。それはミステリの「悪女」と言うよりはホラーの「魔物」に近い気配がある。探偵コンビを形成する機動捜査車両16号担当の警視庁機動捜査隊員・里見偲(松坂桃李)と猪熊夕貴(木村文乃)は・・・頭脳派と武闘派というオーソドックスな組み合わせである。言うならば初代「相棒」に近いわけだ。里見が右京さんで・・・猪熊が亀山のヴァリエーションなのである。もちろん・・・里見は直観力に優れて論理的思考はあまり得意ではないために・・・とても頼りない。一方で格闘技は亀山以上だが・・・女心に支配されている猪熊はかなり危うい感じである。もちろん・・・苦手分野を補うことによって・・・かなり総合力があがるはずだが・・・暴走する年下の男に振りまわされ、チームワークに不安を感じる年上の女という展開のために・・・致命的なミスも犯す殺人鬼・橘カラ(菜々緒)に軽くあしらわれている気配が濃厚なのである。

やがて・・・カラが人間に過ぎないことが明らかになれば・・・刑事コンビも空回りが納まるのかもしれない。

しかし・・・たとえば・・・カラは武術家として・・・カラを信頼してしまうという件はかなりのリアリティーを持っている。

凡庸な格闘家であればあるほど・・・「強さ」が修練の賜物であると考えるわけだ。

そういう努力を続けることが出来る人間は・・・基本的に誠実ということになる。

しかし・・・世の中には・・・天賦の才に恵まれ・・・常人の努力の成果を一瞬で克服してしまう存在がないわけではない。

カラにはそういう傾向があり・・・それが・・・猪熊を呪縛する要素になっている。

できれば・・・カラにはそういう魔物であってもらいたいと・・・妄想的には願うのだった。

時間が不可逆的なものであるというのは人間の錯覚に過ぎないという理論がある。

しかし、多くの人間が死んだ人間が戻らないと考えるから・・・共通の認識としてはそれでいいわけである。

共通の認識というものは一種のお約束である。

たとえばドラマでは・・・「心の声」がお茶の間にナレーションとして聴こえてくることがある。

つまり・・・お茶の間は精神感応者(テレパシスト)気分を味わえる・・・そもそもドラマは「すべてお見通しの神の目」の疑似体験をしているとも言える。

次回予告で「未来の出来事」がフラッシュパックで展開したりするわけである。

「主人公の壁ドン」とか「主人公の必然性のないシャワーシーン」とかそういうものを先に見せられて「うひょお」となる人は確かに存在する。

しかし・・・ミステリとしては「邪道」と感じる人も多いだろう。

「犯人の声」で「動機」まで語られたら謎解きの楽しみがないからである。

だが・・・「刑事コロンボ」や「古畑任三郎」のように・・・「犯行のすべて」を見せるミステリだって成立するわけである。

ドラマの楽しみ方は人それぞれである。

今回は「凄い犯罪者」と・・・「ちょっとおっちょこちょいな刑事」の両方を楽しめるミステリなのだと思う。

何を考えているのかわからないのは・・・桜中央署のチビデカこと速水翔刑事(北山宏光)ぐらいだが・・・彼の場合は・・・行動で性格が大体わかるという扱いなんだな。

もちろん・・・人間を殺しまくるカラが何を考えているかわからないという人もいるが・・・彼女の心の声はサービスされるのである。

「正義感が欲しい」

「高揚感がない」

「予定通り殺す」

断片的なカラの心のつぶやきから・・・彼女が・・・「自分には何かが欠落している」と思い「人を殺すことで高揚感を得ること」があり「誰かを愛することは殺すことである」と信じている・・・らしいことが推測できる。

一方で発達障害の傾向のある里見刑事は良く言えば「論理の飛躍」悪く言えば「思いこみ」で「犯罪者」を断定する・・・冤罪被害者を作りやすい捜査官である。

しかし・・・「直感」で「正解」を得る主人公特権を持っている。

カラの態度に何か「非人間的なもの」を見出した里見刑事は個人的なサービス残業で・・・カラを追跡し、殺人事件の背後に潜む整形外科医の月本圭(要潤)を突き止める。

しかし・・・幸か不幸か・・・カラの「正義感獲得の実験」に使用された月本は消息を絶ってしまう。

だが・・・殺人現場にカラを知る家出少女・田沢麻弥(三上紗弥)が居合わせたことで・・・カラが「完全ではないこと」も露呈する。

カラは致命的とも言えるミスを犯す。

月本の凌辱プレーの犠牲者として殺した麻弥が蘇生してしまったのである。

もちろん・・・そこに・・・「神の手」を想像することができる。

この世に紛れ込んだ魔性を滅するために・・・少女は息を吹き返したわけだ。

ここまでで浮かび上がるカラの行動原理は・・・「理想の人間を目指している」「そのために目標となる人間を捜す」「対象となった人間を心身ともにコピーする」「コピー終了後に対象を殺す」・・・ということである。

現在の目標は里見刑事の公私に渡るパートナーである猪熊刑事なのである。

カラは目標に接近し、信頼関係を構築する。

目標の内面を知り、目標に同化するために・・・目標と親密になる必要がある。

カラにとって外見と内面は不可分であり・・・カラが目標に見出した「美」を獲得するために整形外科医を予約する。

つまり・・・猪熊刑事の「死」は確実に接近している。

直感的にカラの「妖しさ」を感じた里見刑事は・・・まだ、恋人がターゲットになっていることは知らない。

「神の道具」として働く里見刑事は「神の鼻」や「神の目」や「神の耳」を駆使してカラを狩ろうとする天使なのである。

しかし・・・天使である里見刑事は「人間のルール」の前に行動を縛られる。

「疑わしきは罰せず」である以上・・・里見刑事の「直感」だけでは「犯罪の立証」は困難なのである。

常識人である猪熊刑事は・・・里見刑事の苛立ちを感じるが・・・その理由は読みとれない。

ただ・・・年下の恋人が・・・暴走するのではないかと案じ・・・自分に何かを隠していると感じれば浮気ではないかと疑うのである。

言わば・・・たくましい子羊を挟んで魔性の女と天使の刑事が対峙しているのである。

天使の刑事がいろいろと・・・残念な感じなのは・・・この世が悪魔に支配されている証拠だと言うことです・・・。

少女殺人未遂の重要参考人として月本を追う桜中央署(フィクション)の刑事たち。

桜中央署出身の里見刑事と猪熊刑事も捜査協力を依頼される。

二人は通常勤務としての機動捜査(覆面パトロール)の合間を縫って所轄の刑事課長・安藤実(船越英一郎)の指示を受けるのだった。

あくまでフィクションなので・・・命令系統が曖昧なのは目をつぶるべきである。

なにしろ・・・里見と猪熊の本来の上司である本庁機動捜査隊の隊長が不在なのです。

「おいおい・・・うちの隊員に勝手に仕事させんなよ」とクレームつけられる展開は・・・この世界にはないのだ。

猪熊は群馬県から上京した麻弥の母親から「家出して上京した経緯」などを聴取する。

里見は意識不明の麻弥が入院している病院の担当医(笛木優子)から有力な情報を聞き出そうと接近する。

七歳年上の女医は・・・里見との夜のプレイを求めるが・・・天使であるために誘惑には乗らないのだった。

女医の証言によれば麻弥は意識を失う前に「なんとかさん、言わないから助けて」と囈(うわごと)を囁いたらしい。

月本の経営していた売春組織のホステスであるアイ(佐野ひなこ)とレナ(入山杏奈)への事情聴取から・・・二人は売春組織の一員だが様々な大人の事情で野放しなのだ・・・「売春婦たちは・・・月本を月本先生、あるいはオーナーと呼んでいた・・・麻弥だけが月本さんと呼ぶのは不自然だ・・・なんとかさんは月本以外の誰かではないか」と捜査会議で報告する里見刑事・・・。

「おい・・・俺の部下で・・・俺のことを係長って呼ばない奴はいるか・・・」と安藤課長。

「いや・・・親しみをこめて実さんて言う人はいるかもしれませんね」と部下たち。

「特殊な関係なら・・・なおさら・・・」

「ドラマの相棒でも階級が下の相棒が右京さんて呼んでるしな・・・」

「里見・・・お前のは単なる希望的観測なんだよ・・・いいか、現代の犯罪捜査は証拠が第一なんだ」

「・・・」

「役に立たない空想をする暇があったら月本の行方を追え」

「・・・」

猪熊刑事はおバカな相棒・里見刑事の将来を案じるのだった。

しかし・・・「麻耶の生存」が新聞記事になったことを知った里見は・・・推理おタク的感性で麻耶の身に危険が迫ることを直感する。

一方・・・カラは・・・里見の部屋の監視所として利用しているマンションの同居人(家主)で・・・デザイナーをしているらしい孤独な資産家の渡公平(光石研)から「別荘への小旅行」を提案されていた。

保養地にある渡の別荘は地下室があり・・・庭も広く・・・なかなかの物件である。

(これは・・・使える)と心の声をお茶の間に届けるカラ。

マンションに戻ってきた渡はカラの家族について訪ねる。

「母とは幼いころに死別・・・父は再婚相手の母国であるフィリピンで暮らし、北海道在住の兄とは疎遠」という本当かどうか不明の話をする。

渡は指輪を用意していた。

「ぼ・・・ぼくと・・・け、け、け・・・・結婚を前提に交際してください」

カラは微笑む。

「わかりました・・・考えてみます・・・でも・・・私のことはまだ親族や周囲の方には内緒にしておいてくださいね・・・騒がしいことになると・・・あなたとのことをじっくりと考えられません」

「はい・・・」

渡は歓喜に震え・・・カラに睡眠薬入りのドリンクを飲まされる。

(この男はまだ使える・・・)

眠りこんだ渡から愛車のキーを借用したカラは・・・自分の部屋に戻る。

部屋から運び出したのはキャリーケースに入った何か・・・死体のようなもの・・・である。

おそらく月本の遺体(あるいは標本体)は渡の別荘の裏庭あるいは地下室に安置されたのだろう。

雑用を終えたカラは渡の部屋で新聞を読む。

その目に・・・麻弥の生存の記事が飛びこむ。

機動捜査車両16号のGPSにより・・・病院を特定するカラ。

失敗を隠蔽するために・・・変装したカラは・・・病院にやってくる。

麻弥の息の根を断ち切るためである。

しかし・・・病院に急行した里見刑事は天使の嗅覚でカラの香水を嗅ぎ分け・・・正体を見破るのだった。

「ショートカットもお似合いですね」

「これ・・・ウイッグですよ」

「今日は・・・外来ですか」

「入院している友達のお見舞いに・・・」

「それにしても・・・偶然ですね」

「縁があるのかもしれませんね」

里見の猜疑心は高まるが・・・カラは動じない。

(こいつのことを見くびりすぎた・・・これではもう殺せない)

しかし・・・カラにとってはそういうことは些細なことなのかもしれない。

カラが「なんらかの犯罪者である」と確信した里見は・・・勤務時間外をカラの尾行に費やすのだった。

一方、里見とイチャイチャした女医の化粧の香りや里見の上着に付着した長い毛髪に気がついた猪熊は・・・浮気を疑う。

里見とは別の猜疑心にとりつかれた猪熊はうっかり・・・桜中央署の生活安全課の千歳弘子(山口紗弥加)に・・・里見との男女交際関係を漏らしてしまうのだった。

そして・・・チビデカもまた・・・里見と猪熊のプライベートでの関係を探っていた。

もちろん・・・チビデカの場合は・・・手柄を横取りして自分が出世するための情報収集である。

職務として事件を捜査する警察官としてではなく・・・言わば・・・自分の情熱に駆られて個人的な捜査を続ける里見・・・。

その孤独な戦いは・・・どこか・・・間抜けである。

自分ではプロフェッショナルな仕事をしているつもりなのに・・・尾行対象のカラにとっては児戯に等しい行動なのである。

それは反政府活動としてのデモに参加しつつ・・・就職活動に勤しむ大学生に似ている。

「元気があってよろしい」と彼を採用する企業は・・・おそらくブラック企業である。

しかし・・・おそらく・・・妙に政治的な大学生と同じように里見には・・・そうしなければ生きていけない個人的事情があるのだろう。

それは・・・これから明らかにされていくと思われる。

カラは尾行する里見の写真を撮影し・・・猪熊を呼び出すのだった。

「私・・・警察に・・・付きまとわれているのです」

里見の変装した姿を見せられ絶句する猪熊。

「この人・・・猪熊さんの同僚ですよね・・・私・・・何か・・・疑われているのでしょうか」

「・・・ははは・・・これは・・・」

「・・・」

「身辺調査だと思います・・・実は私・・・彼と交際していまして」

「・・・」

「彼は・・・その・・・私がカラさんと親しくしているのを知って・・・個人的にあなたのことを調査しているのだと思います・・・すみません・・・警察官は身内に犯罪者がいてはまずいので・・・」

「・・・」

「私から彼に止めるように言います・・・すみませんでした」

「いえ・・・それならいいのです・・・このことは二人の秘密ということにしませんか・・・彼が猪熊さんのためにしたことで文句を言われたら傷つくかもしれませんし・・・」

「・・・」

「よかった・・・私ったら変な誤解までしてしまったのです・・・ひょっとしたら・・・彼が私に個人的な興味があるのかと・・・」

顔色が変わる猪熊。彼女の心に生じた疑心暗鬼はカラではなく・・・里見に向かっていく。

里見は・・・絶対の自信を持って尾行を開始する。

キャバクラの勤務を終えたカラが・・・どこに帰るのか・・・。

数日の尾行によってカラの自宅さえ着きとめられない自分の無能さには気がつかない里見だった。

カラは罠を仕掛け・・・里見をホテルにおびき出す。

猪熊は謎のメールによってホテルに呼び出される。

ホテルのエレベーターでカラの利用階を確かめた里見が乗り込んだエレベーターには魔性のものの如く・・・カラが乗っていた。

「どうも・・・」

微笑むカラ。

追い詰められた里見は・・・ハッタリをかますのだった。

「お前は・・・容疑者として・・・警察の捜査対象になっているんだ」

壁ドンで迫る里見・・・完全な脅迫行為である。

監視カメラを見ていた警備員が飛んでくる状況だ。

しかし・・・扉が開くとそこに猪熊がいる。

不審者として・・・完全に追い詰められた里見。

カラはまるで唇を無理矢理奪われた女のように・・・そっと口を拭うのだった。

猪熊は・・・立ちすくむ。

何処かで音もなく魔性のサイレンが鳴り響く。

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2015年11月11日 (水)

産む予定の女(黒木メイサ)産んだ女(安達祐実)産まなかった女(斉藤由貴)

あっと言う間の全八回である。

面白かったなあ・・・。

澱みない展開と魅力的なセリフにあふれた脚本。

見せるべきものと隠すべきものを心得たスムーズな演出。

物語を語りつくす配役の妙。

本年度の拙い「大河ドラマ」を作っている局とは思えない魅力あふれる完成度である。

・・・スタッフが全然違うぞ。

まあ・・・下請けの制作会社が作っているんですけどね。

この面白さに気がつかないお茶の間は大変に残念なことである。

まあ・・・深夜に再放送があるのでアレなわけだが・・・。

で、『デザイナーベイビー~速水刑事、産休前の難事件~・最終回(全8話)』(NHK総合20151110PM10~)原作・岡井崇、脚本・早船歌江子、演出・岩本仁志を見た。人類は増殖する。人類はそれぞれの個性を持っている。心身が生み出す個性は意識を形成し、世界と自分を分離する。分離された個人の自由や権利を世界が認めるか否かの定義は曖昧なものである。個人と個人は関係を持ち共同作業を行う。連帯も闘争も同じ共同作業に過ぎない。個人から個人が生じる妊娠出産成長というステージにおいて未分離の個人の存在は世界に複雑な問題を投げかける。「それ」は・・・まだ人間ではないのか・・・それとももう人間なのか・・・という疑念に基づく難問だ。

生育の各段階で「法」は「それ」を規定するが・・・規定そのものに対する人類すべての同意は得られていない。

「それ」が権利を主張しない以上・・・義務を科すのは公平ではないという考え方がある。

「それ」をどうするかについて・・・一番苦悩するのは「母親」であることが一般的である。

だが・・・世界は個人の自由を無制限に認めることはできないのだった。

「速水刑事と話したい・・・」

新生児ノゾミ誘拐犯の山原あけみ(斉藤由貴)は与那国令子管理官(松下由樹)に要求する。

金曜日・・・。

捜査本部に待機する妊婦刑事・速水悠里(黒木メイサ)は山原からのコンタクトを待っていた。

「大変そうね・・・」

「ええ・・・組織ですから」

「ノゾミの両親の会見を見た・・・彼女・・・凄い覚悟だったわ・・・」

ノゾミの母親である近森優子(安達祐実)は白血病を発症したノゾミの兄・近森新(岡本拓真)へ新生児であるノゾミの骨髄からの造血幹細胞移植治療を実行しようとしていた。それはドナーとなるノゾミの生命を脅かす重大なリスクを伴っている。

「しかし・・・父親は骨髄移植には反対だと・・・」

「あの母親の元へ・・・ノゾミを返すわけにはいかない・・・」

「山原さん・・・」

「逆探知できました・・・池袋駅東口の公衆電話」

「捜査官をただちに派遣」

「ノゾミの運命を・・・こんな風にするつもりはなかった・・・」

その時・・・公衆電話周辺の一般市民に過剰反応する山原。

通話は打ち切られた。

「速水・・・現場に向かいなさい」

「管理官・・・」

「山原を説得する必要があるかもしれないから・・・」

追い込まれた与那国管理官はついに警察官僚としての有能さを発揮するのだった。

安全地帯に身を置く管理官の上司(半海一晃)は用心深く状況を見つめる。

「フク・・・いくよ」

「ついに・・・スケを・・・省略・・・」

しかし・・・管理官から認知された上司を認めないわけにはいかないフクスケこと土橋福助刑事(渡辺大知)だった。

逃走する山原を・・・捜査官たちは懸命に追跡し・・・包囲網を閉じて行く。

新生児を抱えた逃走犯は・・・抜群の逃げ足を見せるのだった。

「山原は個人タクシーに乗車・・・車体は白」

「東口で下車」

「山原はタクシーに乗車・・・車体は黒」

「・・・商店街で目撃情報あり」

「大型家具店で・・・山原を目撃」

山原は事務室に侵入した。

刑事が突入するが・・・山原はカッターナイフで威嚇する。

「近付いたら・・・ノゾミを・・・この子を殺して・・・私も死ぬ」

「待て・・・」

速水刑事が現場に到着する。

「山原さん・・・」

「店から人を出して・・・シャッターを下ろして・・・ここに電話して」

山原は立て籠もった。

ノゾミ誘拐事件は大詰めに入っていた。

警視庁捜査一課特殊犯捜査係の日村係長(神保悟志)は現場に再び召喚された。

「何か問題が起きた時に・・・陣頭指揮をとっていた誰かが必要だからな」

管理官の上司の保身のための見事な采配である。

「この女に電話させるのか・・・」

「犯人のご指名ですから・・・」

与那国管理官の腹は据わりはじめる。

事件解決のために・・・手段は選べないのだった。

電話が鳴った。

「随分・・・待たせたわね・・・」

「いろいろと準備が・・・」

「組織だからね」

「そうです・・・要求がありますか」

「車を用意して・・・GPSのついてない奴・・・」

「こちらからも・・・お願いがあります」

「・・・」

「人質交換をお願いします」

「私が・・・ノゾミを手放すと思ってるの・・・」

「山原さんは・・・ノゾミを守りたかったんですよね・・・でも・・・ノゾミは生後二週間にしては充分すぎるほど旅をしています・・・環境変化のストレスから・・・解放してあげてください」

「ダメよ・・・ノゾミは私が育てる・・・どうしても交換するというのなら・・・アラタね・・・あの女にそう伝えて・・・」

通話は切られた。

「馬鹿な・・・アラタは重体なんだろう・・・」

「なぜ・・・あんなことを・・・」

「山原さんに・・・冷静になってもらうためです・・・この状況で・・・逃亡なんて無理ですし・・・ノゾミに危害を加えるくらいなら・・・最初から・・・誘拐なんてしていなかった・・・と」

「・・・」

「母親にはメッセージを伝えてください・・・犯人からの要求ですから・・・」

「わかったわ」

速水刑事と管理官に阿吽の呼吸が生じだす。

城南大学附属病院産婦人科では崎山典彦特任教授(渡辺いっけい)殺害犯であるサイコパス・皆本順(細田善彦)が危険を察知していた。

須佐見誠二郎教授(渡部篤郎)に縋る皆本。

「僕が犯人になったら・・・病院としてもまずいでしょう・・・アリバイを偽証してください」

「やってもいいが・・・本当のことは知りたい」

「もちろん・・・やるべきことはやりましたよ」

「君は・・・国家試験には合格したかもしれないが・・・人間失格だ・・・」

「え」

刑事たちが現れた。

「いろいろと証拠があがってきてね・・・」と本当は主役である西室刑事(手塚とおる)が決める。

「ははは・・・僕を逮捕したって無駄だ・・・扉は開かれたんだ・・・医学は輝ける未来に向かって」

「御託は署できくよ」

言わせない西室刑事だった。

「須佐見先生・・・情報提供をお願いできますか・・・弟子からおつかいを頼まれちゃって・・・」

「主人公特権ですな・・・お答えできることはお答えします」

ノゾミの居場所を伝えられた近森優子は長距離ランナーのスピードで現場にやってくる。

「そこにいるんでしょう・・・メグミを返して」

警官に制止される優子。

山原は110番通報した。

「近森さんをお招きするわ・・・」

「一人で行かせるわけにはいかないので・・・私も一緒でいいですか」

「・・・いいわよ」

「被害者の母親と・・・妊婦を行かせるのか・・・」と管理官の上司。

「私が全責任を負います・・・捜査官の中で・・・山原の心を一番理解しているのは・・・速水刑事だから・・・説得させます」

「ち・・・女どもめ・・・どうなっても知らないぞ」と安全を確認する管理官の名もなき上司。

「頼んだぞ・・・お前の背中は俺が預かった」と日村係長。

「まあ・・・背後には誰もいませんけどね」

そこへ西室がおつかいから帰ってくる。

「山原の個人情報だ」

「ありがとうございます・・・師匠」

「俺の読みが聞きたいか・・・山原は女子高校生時代にスケバ・・・」

「後でゆっくり・・・」

「犯人と友達になっちゃったんですよね・・・っていうか・・・友達が犯人じゃないですか」とフクスケ。

「フク・・・余計な真似はしないように・・・何もしないことが一番のお手柄よ」

「・・・」

速水刑事と近森優子は現場に入った。

「車は用意できたの・・・」

「ノゾミを返して・・・あなたが作ってくれたんでしょう・・・なんで今さら」

「ノゾミを使ってアラタを助けようとした・・・それでアラタが助からなかったらどうするの」

「・・・」

「ノゾミはアラタを助けられなかったダメな子・・・」

「・・・」

「もしも・・・アラタが助かったとしたら・・・ノゾミはいい子なの・・・母親として・・・あなたはそれでいいの」

「・・・そんなの・・・わからない」

「山原さん・・・病院長代理になった須佐見先生から・・・特別に・・・あなたの個人情報を見せてもらいました・・・」

「・・・」

「あなたは・・・ノゾミと一緒なんですよね・・・」

「あなたのお父さんは・・・遺伝性進行性神経変性疾患を発症した。つまり・・・有森さんのご主人と同じ病気です」

「え」と驚く優子。

「あなたは・・・まだ発病していないけれど・・・父親からその遺伝子を受け継いでいる」

「・・・」

「だから・・・あなたは・・・ノゾミの運命を変えることに同意したんですよね・・・」

「ゲノム編集は・・・素晴らしい技術だと信じていたから・・・でも間違いだった」

「どうして・・・こんなことに」

「何もかもうまくいくと思っていた・・・けれど誘拐事件が起きて・・・私と彼の秘密の仕事が・・・崎山教授にばれてしまった・・・情報公開をしようとする崎山教授を説得しようとして・・・彼が・・・教授を・・・あっという間に・・・」

「どうして・・・その時・・・私に話してくれなかったんですか」

「・・・」

「三日前に・・・あなたの冷凍保存された卵子が紛失していますね・・・皆本に脅迫されていたんですか」

「私・・・どうかしていたのよ・・・自分の子供を持つなんて・・・とっくにあきらめていたのに・・・心のどこかで・・・いつかきっとって・・・」

「・・・」

「あの子の運命を・・・良い方向に・・・もっていけるはずだったのに・・・」

「山原さん・・・う」

胎児の蠢動に呻く速水刑事。

「すみません・・・見えないけど・・・この子・・・結構、腕白なんで・・・」

「・・・」

「子供の存在感って凄いですよね・・・でも・・・ノゾミはすごく大人しい・・・まるでここにはいないみたい・・・」

「ええっ」と驚く優子。

「山原さん・・・今、この子じゃなくて・・・あの子っていいましたよね」

「・・・」

「ノゾミは・・・今、どこにいるんですか・・・」

こぼれおちる・・・人形。

「えええっ」と驚く優子。

「突入」

山原は確保された。

「山原さん・・・ノゾミはどこですか」

「・・・」

「ノゾミにはノゾミの人生がある・・・それはもう始ってます」

「山原家の菩提寺が・・・近所にあるのよ・・・」

「なるほど・・・」

病院に戻った優子をマスメディアがハゲタカとなって追及する。

「人の生命をなんだと思っているんですか」

「そんなこと・・・この人は・・・誰よりもわかってる・・・ずっと息子の病気と戦ってきたんだ・・・あんたは人の命について・・・何か知っているのか」

マスメディアに言いたい放題の須佐見教授だった。

「すみません・・・これが仕事なんで・・・」

記者は怒られて鬱を発症した。

速水刑事とフクスケは寺にやってきた。

山原家の墓には花が供えられている。

本堂に新生児が安置されていた。

「君が・・・ノゾミ・・・」

住職が現れる。

「その子は・・・檀家のお嬢さんが・・・・一時間くらい預かってくれと言われまして・・・もう大分立つので・・・どうしようかと考えていたところです」

「警察です・・・この子は引きとります」

「はあ・・・」

アラタの病室では・・・両親がノゾミの到着を待っていた。

「もうすぐ・・・ノゾミが来るわ・・・ノゾミから血をもらえば・・・あなたの苦しみは救われる」

「ノゾミが・・・血をくれるの・・・」

「そうよ・・・家族ですもの・・・あなたの妹ですもの・・・」

「でも・・・きいてね・・・」

「・・・」

「ノゾミに・・・僕に血を分けてくれるのか・・・きいてね」

「・・・」

優子は言葉を失った。

アラタの手を握る優子の手に優子の夫はそっと手を重ねる。

与那国管理官は・・・ノゾミを抱いて花道を通る。

見せ場と手柄を確保した自分を褒めたい管理官だった。

須佐見教授は屋上にいた。

速水刑事がやってきた。

「もう・・・産休に入ったのでしょう」

「ええ・・・今は・・・お産をする病院を・・・捜しています」

「うちは満床ですよ」

「ケチ・・・」

「私は辞任するつもりです」

「アラタくんの容体は・・・」

「一進一退です・・・両親は・・・ノゾミちゃんの成長を待つことで同意したようです」

「落とし所ですか・・・」

「さあ・・・どうでしょう・・・目の前で大切な命が失われようとしている・・・そんな時・・・何もしないでいられるかどうか・・・そこに正解なんて・・・あるはずがない」

「・・・」

「医者は・・・命を救うために全力を尽くす・・・ただ・・・そのために・・・他の命を犠牲にすることは・・・おかしいでしょう」

「おかしいですね」

「一線です」

「一線ですね」

速水刑事は夫の下地浩介(山崎樹範)の店で寛ぐ。

「あの病院・・・デザイナーベイビーを希望する親が殺到してるってよ」

「じゃ・・・ウチも二人目・・・すごいのにしてみる」

「あんまり・・・すごいと親としてアレだな」

「じゃ・・・すごいタコライス作って」

「かしこまり」

そこへ義理の息子でゾンビマニアの下地雄介(若山耀人)が帰宅する。

「これ・・・今度の新作・・・初日に一緒にどうですか・・・お義母さん」

映画「ゾンビのたわむれ」は近日公開らしい。

「これって・・・」

「ザリガニゾンビがね・・・人間をゾンビ化して・・・クライマックスはなんと巨大ザリガニゾンビが・・・」

「・・・」

息子に「ゾンビやザリガニが苦手」と言えない継母だった。

復帰した日村係長から着信がある。

「暇か・・・」

「産休中ですから・・・暇じゃありません・・・出産という大仕事が待っているんですよ・・・続きはコウノドリで・・・」

「・・・」

おめでた後の速水刑事の活躍も見たいが・・・蛇足になったら・・・困るよねえ。

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2015年11月10日 (火)

拙僧はこれからいいところ(山下智久)ここかと思えばまたまたあちらな女(石原さとみ)

「アシュリーがダメなら・・・もう、レット・バトラーでいいか」

・・・みたいな。

スカーレットか・・・「風と共に去りぬ」なのか。

まあ、女心なんて往年の名作の世界とほとんど変わらないよねえ。

お茶の間的には・・・なんで山Pでなくて田中圭なんだよという声もあるだろうけどな。

人の好みだからな。

寺田心がいいという人もいるだろうしな。

それは危険な領域じゃないかっ。

いろいろと・・・昔を思い出すドラマだよなあ。

三嶋のキスの回想シーンで・・・ブライアン・デ・パルマの「ボディ・ダブル」(1984年)を思い出したよ。

ああ・・・主人公が早退して帰宅すると恋人が別の男と騎乗位で絶頂に達しているという。

ハードさが違いすぎるだろう。

あの時の女の物悲しい驚きの表情が・・・心にしみるよねえ。

それにくらべたら・・・ヒロインはドライだよな。

そういう時代だから。

いや・・・そういう女だから。

で、『5→9〜私に恋したお坊さん〜・第5回』(フジテレビ20151109PM9~)原作・相原実貴、脚本・小山正太・根本ノンジ、演出・相沢秀幸を見た。いろいろと好みは分かれるだろうが・・・クリスマス・イブで結ばれるラブコメではなくて・・・中盤でゴールするシンデレラである。・・・ということはここからはシンデレラのその後で本当は恐ろしい話になる可能性があるわけである。まあ・・・そういうことは十代ですますべきなのだが・・・晩婚の時代には三十路周辺でこういうことにもなるのかもしれない。ストーカーと尻軽女というカップルの成立に紳士淑女の皆さんは雪崩れるかもしれないが・・・まあ、ハラホレヒロハレな世界というものはある意味リアルなんだな。みんな・・・それなりにみっともない人生を過ごしているのだもの。

2012年12月・・・桜庭潤子(石原さとみ)は英会話学校ELAの講師・清宮真言(田中圭)に恋をしていたらしい。しかし、気持ちを打ち明けることはできず、清宮からの告白もなかった。

ニューヨークに去った清宮に潤子はクリスマスカードを送ったが、清宮から潤子にクリスマスカードは届かなかった。

それから・・・三年近くが過ぎ、ニューヨーク帰りのジェネラルマネージャーとなった清宮は突然、潤子にプロポーズである。

「今年のクリスマスはニューヨークで一緒に過ごそう」

ある意味で一途な潤子は喜びの絶頂にひたり・・・庶民的な我が家の浴槽で一部お茶の間向けのサービスをする。

お湯の透明度は超低めである。

しかし、湯上りの潤子を待っていたのは母・恵子(戸田恵子)、妹・寧々(恒松祐里)そして個人タクシーの運転手である父・満(上島竜兵)と和気藹々と過ごす四百年の歴史を持つ由緒正しい一橋寺の次期住職で潤子のストーカー・星川高嶺(山下智久)だった。

星川は・・・潤子との「デートの約束」を果たすためにいろいろと計画中なのであった。

「本日は・・・日取りを決めに参りました」

「そんな法事みたいな・・・」

「お約束しましたよね・・・はい、はいと二度もお返事いただきました」

「念には念をいれたわけじゃありません」

「週末は・・・一粒万倍日で・・・物事を始めるのに良き日です」

「・・・」

すでに・・・清宮との結婚が脳内スケジュールに書きこまれている潤子は高嶺との約束をキャンセルしようとするが・・・それを口にするのが憚られるのだった。

しかし・・・なんとか気持ちを伝えようとする潤子。

なにしろ・・・自分は「清宮と結婚する予定の身」なのである。

だが・・・それを高嶺に伝えられないのは・・・潤子の心に迷いがある・・・ということになる。

女心の恐ろしいところである。

出勤した潤子は・・・スキルアップの証明である「ビジネスクラス」の担当を事務員の伊能蘭(中村アン)から伝えられる。

スーちゃんとミキちゃんはいないのか。

・・・それ・・・どうしても言う必要あるの。

喜び倍増の潤子は正社員講師・山渕百絵(高梨臨)に清宮の告白を伝える。

「すごい・・・ところで・・・」

百絵は・・・BLマニアのイベントへの同伴を頼みこむ。

なんだか・・・妖しいイベント内容に尻ごみする潤子。

話を聞きつけたELAの人気講師である木村アーサー(速水もこみち)は代役を申し出る。

「え・・・でも・・・」と処女なのでためらう百絵。

「衣装とカツラは向こうで用意のイベント参加でキュン死確定な本日限定のアイテム獲得チャンスなんでしょう」

「ぐふふ・・・お願いします」

この二人はすでに別世界だな。

ラブコメ的には主人公とヒロインの恋を応援する彼と彼女の友人ポジションである。

つまり・・・群像劇に対する歯止めだ。

ビジネスクラスの教室では・・・高嶺と商社マンの三嶋聡(古川雄輝)が激突する。

公開キスで高嶺を傷心させた三嶋は潤子の大学時代の親友のフリをしている恋のライバルである。

つまり・・・群像劇に対する歯止めだ。

たちまち・・・英会話で激突する二人。

「私は・・・エリート商社マンです」

「私は由緒ある寺の後継者です」

「私は潤子さんと大学時代からの関係です」

「私と潤子さんは家族ぐるみのお付き合いです」

「私は潤子と卒業旅行にいきました」

「私は週末に潤子さんとデートする予定です」

「潤子禁止です」

「・・・」

「・・・」

「他に話題ないのかよ・・・高嶺さん・・・本日は大事な話があります」

「申し訳ありません・・・本日はのっぴきならない用事がありまして」

仕方なく、三嶋の誘いに乗る潤子。

「この間は・・・」

「酔っていたからでしょ・・・もう忘れたわ」

「キスの思い出」を忘れられてしまう三嶋だった。

そんな二人を忌々しく見つめる毛利まさこ(紗栄子)・・・。

潤子、百絵、まさこって・・・中三トリオか。

・・・それ・・・どうしても言う必要あるの。

まさこにちょっかいをかける「渋谷王子」こと蜂屋蓮司(長妻怜央)・・・。

ここが・・・アレだな・・・。

群像劇に対する歯止めになってないよな。

まさこと渋谷王子のことはどうでもいいものな。

しかし・・・寸止めだと信じることにしよう。

ギリギリの尺(使用時間)だしな。

男だった女装高校生の里中由希(髙田彪我)もからめると群像劇に対する歯止めは崩壊する可能性があるよねえ。

妹・寧々のファンは手に汗握る展開だな・・・。

「君に興味がでてきた」

「私には興味ないわ」

そして・・・一部お茶の間もな。

高嶺は・・・一橋寺の僧侶たちとともに・・・「デートの準備」に余念がないのだった。

ある意味、雑念すぎるだろう。

周辺の人々から潤子の「好き嫌い」をリサーチする高嶺。

午後一時 遊園地において待ち合わせ

午後一時半 庭園において昼食(カニおにぎり)

午後二時 お手洗い休憩

午後三時 メリーゴーランド乗車・・・。

「おでかけのしおり」は午後八時半に「永遠の愛を誓う」の後に午後十一時まで「謎の空白」を残して完成していく。

「女性は必ず遅刻するそうです」

「告白は男がしなければなりません」

「論より証拠だよ」

恋人(西澤愛菜)を紹介してお手本を示す最年少小坊主の那覇三休(寺田心)だった。

高嶺は万全を期すために・・・下見に出発し・・・ポップコーンを全種類注文して試食する。

「オール・ポップコーン!」

「もう一度お願いします」

「他の男との約束など無意味だ・・・今宵、私と永遠の契りを交わすのだから」

「ぐふ・・・ぐふ・・・ぐふふ・・・」

妖しいイベント帰りの二人は視察中の高嶺と遭遇する。

高嶺の純粋な情熱に絆される二人だった・・・。

百絵は潤子の事情を知っているわけだが・・・キュン死確定な本日限定のグッズを確保して心が満腹なのでスルーなのである。

知らぬが仏と言う。

知らない人や親友と自分の愛する人がベッドを共にしていたら・・・ものすごくショックを味わうわけだが・・・知らなければ問題はない。

浮気されたベッドで安眠していたりすることはよくあるだろう。

あるのかよっ。

高嶺は愛する女が・・・他の男と結婚する気満々であることを知らない。

知れば裏切られた気持ちになるだろうが・・・基本、ストーカーですから・・・。

そのことを高嶺に告げることができない潤子は・・・悪い女でも狡い女でもない。

ただ・・・少し・・・迷うだけである。

これは・・・傷つけたくないからとは少し違うんだね。

「すごく・・・本気だったよ」とデートの計画に熱中する高嶺についてアーサーから教えられた潤子は・・・少し、気が咎めるのだった。

そこへ・・・清楚な和装で決めた両家の子女である香織(吉本実憂)がやってくる。

「これ以上・・・高嶺様を傷つけるような真似はおやめください」

由緒正しい檀家である足利家の娘が言う以上・・・香織は潤子の素行調査をしているということである。

潤子が・・・清宮に告白されて有頂天になっていることも御存じなのだ・・・そうなのか・・・まあ、妄想上では・・・おいっ。

「私は・・・」

ここで潤子が言葉を濁すのは・・・高嶺に百パーセント気持ちがないわけではないことを示しています。

つまり・・・今・・・潤子は99%清宮で・・・残りの1%にその他の可能性がすべて詰まっている状態なのです。

高嶺・・・。

家族にはついに・・・清宮の存在について明かす潤子。

なにしろ・・・三年以上、片思いしている相手である。

急に告白されても・・・自信がないのだ。

しかし・・・高嶺がカニおにぎりの吟味をしている頃・・・おにぎり交換ランチタイムを清宮と分かち合った潤子には・・・「清宮とニューヨークで過ごすクリスマス」が現実感を伴い始めていた。

「他に好きな人がいるの・・・」

「え・・・高嶺ちゃん、ふられちゃうの」と父。

「お義兄さん・・・かわいそう」と妹。

「武士の情けで・・・デートくらいしてあげなさいよ」と母。

何故か・・・桜庭家は・・・圧倒的に高嶺ラブに満ちているのだ・・・オリジナル設定だからな。

だから・・・乗り気ではないのに・・・「おでかけのしおり」を受け取る潤子。

「星川さん・・・私・・・あなたに・・・言わなければいけないことが」

「それは・・・デートの最後に私の方から申し上げます」

「え」

高嶺にとって・・・言わなければいけないことは「愛の告白」前提である。

眩暈を感じる潤子・・・デ・パルマならカメラが被写体の周囲をグルグル回りはじめるところである。

音楽・ピノ・ドナッジオの美しい旋律とともに・・・。

・・・いや、まだ早いぞ。

デートの当日・・・父の形見の最高級の袈裟を着用の上・・・遊園地へと向う高嶺。

一方・・・潤子は・・・清宮から・・・外国人上司の子守残業を申しつけられる。

約束をキャンセルしようと携帯電話のない高嶺のために・・・妹の寧々を派遣する潤子だった。

その頃・・・ハート型風船を持った高嶺はメリーゴーランドの前で・・・来場者に拝まれていた。

そこへ・・・「残業でいけない」いう伝言を持って寧々が到着する。

「それでは・・・来るまでお待ちします」

高嶺が待つというので一緒に待つ寧々。

そこへ・・・女魔王・星川ひばり(加賀まりこ)と坊主軍団が現れる。

ひばりについては言及ないのかよ・・・。

くりかえしのギャグのスルー・・・つまりスカシです。

「もう・・・あきらめて帰りなさい」

「いやです」

「なぜです・・・あんな小娘・・・あなたにはふさわしくないのに」

「なぜ・・・邪魔をなさるのです」

「私が決めたことに間違いはないからです」

「・・・」

そこで・・・寧々がくしゃみをして空気を変える。

「お家まで・・・送りましょう・・・寧々さんが風邪をひいたら大変だ」

ひばりは・・・デートの阻止成功に満足するのだった。

子守任務から解放された潤子は清宮から誘われて・・・清宮とデートを開始する。

誘われるままに清宮の部屋に入る潤子。

このまま・・・婚前交渉に突入というところで・・・清宮の妖しい男友達たちが邪魔をする。

聖なるピタゴラスイッチが作動して・・・潤子は・・・イヤリングを落し・・・清宮が隠してあった写真と指輪を発見するのだった。

清宮と花嫁の写真・・・二人の手に光る指輪・・・。

清宮が結婚している。

清宮はバツイチ。

何処かの花嫁と・・・単なる指輪・・・。

様々な想像が膨らんで・・・潤子を打ちのめす。

なにしろ・・・三年間、片思いのまま放置された女なのである。

清宮に問い正す勇気など最初から持っていないのだった。

「ワインでもどう」

「ごめんなさい・・・私・・・帰ります・・・少し・・・酔いすぎたので」

「え」

清宮の真意はわからないが・・・とりあえす・・・やりそこねたことは明らかだった。

ずっと自分を愛しているはずだった女。

ずっと相手を想っているはずだった自分。

その女心の間隙に・・・高嶺は鋭い楔を打ち込んでいたのである。

自分の情念を持て余し・・・路上で泣き濡れる潤子。

バッグの中の・・・「おでかけのしおり」・・・。

お約束・・・私から離れないこと

持ち物・・・あなたの笑顔

潤子は・・・夜の街を抜けて遊園地にたどり着く。

遊園地は閉園時間を過ぎ・・・人気は途絶えている。

「いるはず・・・ないか」

しかし・・・寧々を送り届けた高嶺は遊園地に戻っていた。

「なんで・・・いるのよ」

「あなたをお待ちしていました」

「だって・・・行けないって妹から聞いたでしょう」

「女性はデートに遅刻するものだと聞きました」

「・・・」

「すみません」

「なぜ・・・あなたが謝るの」

「もう・・・あなたを楽しませるアトラクションがありません」

「私・・・悪い女なのよ・・・自分で自分が嫌になる・・・今だって・・・別の男の人とその気になってたの」

「あなたは・・・私にとって・・・唯一無二の女性です・・・私はあなたが好きなのです」

「・・・」

「来てくださって・・・ありがとうございます」

「・・・」

「さあ・・・帰りましょう・・・遅くなってしまいましたから」

「私・・・帰りたくない」

「・・・」

「あなたと一緒にいたいの」

ここか・・・ここでグルグル・・・。

回るのはラブホテルの回転ベッドだけにしておけ。

なんということでしょう・・・11月になったばかりだというのに・・・ベッドに倒れ込む高嶺と潤子・・・。

このままでは・・・クリスマスまで・・・待っているのは無間地獄だけなのでは・・・。

リラックスなさい 

楽になりたければ 

肩の力を抜いて 

自分を解放しましょう 

リラックスなさい 

そうすればすぐに極楽浄土へ

まさか・・・ここまでやっといて寸止めじゃないだろうな・・・。

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59004ごっこガーデン。涅槃のメリーゴーランド・セット。

エリきゃーっ・・・ついに高嶺Pがめくるめく大人の世界へ・・・やはり大人の階段昇るシンデレラだったのですね・・・幸せは誰かが運んでくれると信じているのですね・・・しかし・・・ここがゴールじゃないとなると・・・これからぼぎゃああああんな仕打ちが待っているのでス~。あんなことやこんなことの果て・・・高嶺Pは潤子にもてあそばれて・・・奈落の底に落ちてしまうのでしょうか・・・はうぅん・・・それはそれでドキドキしまス~・・・

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2015年11月 9日 (月)

もう、ここらでよか・・・明治十年(1877年)露土戦争(井上真央)

士族反乱という内戦は「西南戦争」で一応の終止符が打たれる。

戊辰戦争で東北を統一し、西南戦争で九州を統一した大日本帝国はようやく国家として成立したのだった。

幕藩体制という士族を中心とした軍事力が明治政府による徴兵制の軍事力へと変換されたのである。

形骸化した幕府よりも雄藩の軍事力が勝り、諸藩の軍事力よりも新政府の軍事力が勝る。

まさに「力こそ正義」の時代に日本はようやく参入する。

欧米列強の侵略するアジアに・・・日本という対抗勢力が誕生したのである。

それを「悪」と単純に断ずるのはあまりに愚鈍と言えるだろう。

有色人種を「人」と思わない白人たちの横暴は・・・現在も続いているが・・・そこに一定の歯止めをかけたのは・・・「黄色いサルたちの反抗」に他ならない。

「不戦こそ正義」を振りかざす狂信者たちの背後に何が潜んでいるのかを心ある人は考えなければならない。

で、『燃ゆ・第45回』(NHK総合20151108PM8~)脚本・小松江里子、演出・深川貴志を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回も年末年賀状体制発動のためにイラスト描き下ろしはお休みです。視聴継続が苦行のような大河ドラマもいよいよ終盤戦でございます。・・・幕末・明治維新の点描ということでは一つ一つの「出来事」はそれなりに描かれている「ざけんなよ大河」でございますが・・・一番興味深いのが「紀行」部分にあるという・・・なんともいえない展開ですな。ドラマの途中に(※注)があって・・・たとえば今回は突然現れた船津伝次平はこんな人→紀行で解説・・・なんだか学習参考書のような展開でございます。ド、ドラマっていうのは・・・そういうんじゃないんだからねっ・・・という気分になりますなあ。暇をもてあました県令夫人の妹が・・・群馬をほっつき歩いて人材発掘みたいな・・・「三国志」ゲームの人材発掘コマンドかよっ・・・特に資料の残っていない杉文→楫取美和子という主人公の設定が・・・甘かったというしかないですな。軍学者の妹という武家の娘なので・・・文武両道でよかったのではないか・・・という気がします。奥御殿では軍師の真似事をしているし、幕末の剣士・桂小五郎の嫁候補でもあったわけですから・・・懐剣の達人くらいにしておくと・・・架空の見せ場はいくらでも作れたと思われ・・・なにしろ・・・一途な女であることは明らかなので・・・千葉さな子的キャラクターを付与していれば・・・物凄く魅力的になったのではと妄想する今日この頃です。

Hanamoe45アジアの北部に横たわるロシア帝国は不凍港を求め蠢動する南下政策国家である。西ではオスマン帝国に侵攻し、東はシベリア経由で満州、朝鮮半島、樺太に進出を狙う。明治八年、明治政府は樺太千島交換条約をロシアと締結し、樺太全島はロシアの領土となった。オスマン帝国を支持した欧米列強の介入により敗北を喫したクリミア戦争から二十年、明治十年(1877年)、徴兵制を採用したロシアはオスマン帝国版図内のスラブ民族支援を口実に再びバルカン半島への進撃を開始するのだった。ペルシア、インド、清と各方面でロシアと欧米列強を代表する英国は暗闘を繰り返す。迫りくるロシアの南下に備えて大日本帝国は士族という特権階級を擁護する最期の半独立国・薩摩を討つ。盟友・西郷隆盛との決戦に・・・木戸孝允は衰弱し病死。親友・大久保利通は号泣する。十一月、大久保が総裁となり日本の産業振興を図った第1回内国勧業博覧会は上野公園で無事に幕を閉じる。西南戦争で国家予算をすべて使い切り・・・国庫は空になっていた。産業育成には資本家を育成する必要があり、資本家が登場すれば貧富の差は拡大する。富国強兵を進める新政府の前に・・・貧困から生まれる無政府主義者の群れが立ちはだかるのだった。

慶応十三年、秋・・・。

萩の港には長州藩軍自慢の新鋭軍艦・長門が停泊していた。

第14代将軍・徳川慶喜はついに征韓の布告を各藩軍に発したのである。将軍家御台所の和宮は元服した長子・徳川家孝とともに伊勢神宮で必勝を祈願したという。

長州藩軍主の毛利元慶は全軍に出陣を命じた。

萩城下に陣太鼓が響き渡る。

「いってらっしゃいませ」

長州藩軍参謀長の桂小五郎は軍装に身を固め家老屋敷を出る。

その姿を正妻の杉文は見送る。

「安心せい・・・松陰先生が幕府で作戦計画を指導している以上・・・征韓は必ず成功する」

夫の言葉を反芻する文・・・。

長門艦長の久坂玄瑞は・・・長州藩軍総司令の高杉晋作大将を迎える。

長州艦隊長官の松島剛蔵は指令室で高杉を待っていた。

「輸送船団への兵の乗船は終了しましたか」

「無論・・・急がねば薩摩の西郷や、土佐の坂本に遅れを取るからな」

「ふふふ・・・天候もよく・・・長州藩軍の一番槍は保証いたしますぞ」

「頼み申す」

「久坂・・・出航じゃ」

「かしこまってそうろう」

長州海軍は先陣として中継点の対馬を目指す・・・。

蒸気をあげて出航する軍船を見送り・・・文は・・・祈る。

(どうか・・・夫をお守りくださいませ・・・)

ぐらりと船が揺れて、久坂美和子は目覚めた。

夢と現実の境界線で桂小五郎の妻となった文と久坂玄瑞の未亡人である美和が引き裂かれる。

現実の時空間に同化しながら美和は急速に薄れゆく夢の残滓を追いかける。

(まるで・・・時間の壁の向こうにもう一人の自分がいるかのようだった)

毛利家所有の河川蒸気船「まつかげ」は美和と部下の忍びたちを乗せ利根川支流を遡上している。

利根川、鬼怒川、荒川などの武蔵野の河川は水運によって関東の経済を支えているのだ。

帆船に混じってかなりの数の蒸気船が水上にあった。

美和の姉の一人・・・楫取素彦夫人の寿子から救援要請があり、毛利家の忍び頭である美和は主人・元徳の許しを得て群馬県前橋に向かっている。

寿子は襲撃され、毒に侵されたらしい。

美和の読心術でも・・・寿子の脳内は混乱している。

その混乱を読み解くうちに・・・うたたねをしてしまったらしい。

「美和様・・・」

配下の伊藤佐助が注意を促す。

「わかっておる・・・」

美和は上流に強い殺気が待ち受けているのを読みとっていた。

群馬県ではただならぬ事態が発生しているらしい。

露天である蒸気船の甲板に身を起こした忍びたちは戦闘準備を整える。

美和は敵の心に見えない触手を伸ばす・・・。

(これは・・・土佐の科学忍者隊・・・)

九州で西郷と大久保が雌雄を決する戦が展開している時・・・群馬では・・・長州と土佐の暗闘が始っていたのだ。

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八重の桜・・・西南戦争の頃

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2015年11月 8日 (日)

胸躍る軽井沢探偵(新垣結衣)百億のそれぞれの一日がWAKUWAKUするものでありますように(岡田将生)

百億にはまだだいぶあるんじゃないのか。

およそ73億なので四捨五入すれば百億だ。

地球人口の話かよ・・・。

すぐに忘れてしまう人は面白いよねえ。

昨日の夕食はカキフライだったのだが・・・食べ終わって皿を片づけたところで夕方のニュースの情報コーナーが「カキフライ特集」だった・・・カキフライだって、美味しそうだねえ・・・とその人は言った。

同じ一日の出来事でも人それぞれだからな。

新しい恋人が出来て現在の恋人に別れを告げる人は基本的にワクワクしているからな。

別れを告げられた方は基本的にガッカリだよな。

だめだ・・・例が胸に痛すぎるぞ・・・。

弾んでます。

揺れているのか。

揺れは確認できません。

妄想機能全開。

あ・・・ゆ、ゆれているようないないような・・・。

どっちなんだ・・・。

で、『掟上今日子の備忘録・第5回』(日本テレビ20151107PM9~)原作・西尾維新、脚本・野木亜紀子、演出・佐藤東弥を見た。情報というものには全体と部分がある。情報の意味とは構成要素の関係性によって生じる。意味とは結局、人それぞれの情報処理の結果である。全体の把握にこだわる人、細かい部分の分析にこだわる人、全体と部分の調和にこだわる人、部分と全体の作用にこだわる人・・・それぞれの情報は一個人の処理能力を常に凌駕する。情報の洪水の中で人間は叫ぶ。誰か・・・助けて・・・ここに・・・人がいます・・・と。

一日ですべてがリセットされる忘却探偵・置手紙探偵事務所の掟上今日子(新垣結衣)に恋をした冤罪事件の常習被害者・隠舘厄介(岡田将生)は・・・今日も最初で最期の一日を迎えるのだった。

十月のある日・・・。

「作創社」の編集者である重里(神保悟志)に呼び出された厄介は「須永フェスタ」への参加を求められる。

現在は古本屋で働く厄介だったが漫画家アシスタント時代に重里と知りあい、重里は百万円事件で今日子の存在を知っている、

「ぜひ・・・今日子さんにも参加してもらいたい」

須永フェスタは別名「須永の休日」とも呼ばれる。人気小説家の須永昼兵衛が「新作原稿」を「宝物」に見たて・・・担当編集者たちが須永の出すヒントに基づき「宝探し」をするという厄介な「お遊び」である。もしも・・・出版権をめぐるゲームなら死人が出そうな話である。

「今日子さんの推理力で・・・隠された原稿を捜してもらいたいのです」

「・・・というわけで、今日子さんに頼みたいのですが」

探偵斡旋業も営むアパルトマン「サンドグラス」のオーナー・絆井法郎(及川光博)に相談する厄介。

「いつ・・・」

「十一月一日の日曜日です」

「まだ・・・先の話じゃないか」

「ギャラはなしなんですけど」

「それじゃ無理じゃないの・・・守銭奴だから」

「・・・ですよね」

しかし・・・須永昼兵衛の熱狂的なファンである今日子。

「第六回・須永フェストですって・・・イキマスイキマスゼッタイイキマスイクイクイクイキマスオネガイダカライカセテクダサイ」

何回か・・・昇天しかかる厄介と一部お茶の間である。

厄介にとって・・・フェスタ会場となる軽井沢の須永本人の別荘行きは・・・今日子とのデートと言ってもいい・・・格別の一日になるはずだった。

しかし・・・目印の「めい子」を抱えてバス乗り場で待っていた厄介は太股サービスを受けた後で、観光気分の絆井法郎と「サンドグラス」のウエイトレス・幕間まくる(内田理央)や長距離バスの運転手に変装した潜入捜査員の也川塗(有岡大貴)といういつものメンバーが同行とすることを知るのだった。

「あれは何・・・」

「東京スカイツリーですよ」

休日気分を満喫する今日子とまくる・・・。

右手に電波塔を見ながら軽井沢へ続く道をひた走る長距離バス・・・。

「ひょっとしたら須永先生に会えるかも」と高なる今日子の胸の鼓動・・・。

しかし・・・不運な男・厄介の凶運が発動し・・・その日の朝・・・主催者の須永昼兵衛は心不全でこの世を去っていたのだった。

編集者の重信から訃報を伝えられた厄介は「ワクワクしている今日子の気持ち」を大切にするために・・・「主催者死亡を隠蔽してフェスタ続行」を提案する。

ここから・・・厄介は「真実を隠すドタバタ」を展開するのだ。

編集部を代表するのはバイト君(青木泰寛)で・・・須永の別荘の鍵をあけ・・・宝探しのヒントを配布する。

ここで・・・何故か・・・遠浅深近刑事(工藤俊作)と新米刑事(岡村優)のコンビが参入。

須永ファンである遠浅刑事が権力を濫用して参加資格を得たらしい。

遠浅と今日子の間に危険なファン同志の火花が散るのだった。

ヒントは・・・。

①作品はおよそ120分あれば読めるくらい

②デリケートな場所に隠してある

③あるものではなくないものを捜せ

「④は空白ですか」

「かって・・・第四のヒントを・・・須永先生自身が変装して所持していたことがあります」

「いや・・・それはないと思います・・・」

「何故ですか・・・」

理由は言えない厄介だった。

一方、絆井法郎は別荘内でリラックスし、まくるは軽井沢周辺でショッピング、そして潜入探偵は趣味の風景写真撮影に熱中する。

遠浅と今日子は先を争って「須永の書斎」に駆け込む。

「ここに・・・隠されているのですか」

「いえ・・・先生の書斎を拝見したいだけです」

「ふふふ・・・忘却探偵・・・私の勝ちだな」と突然、勝利宣言をする遠浅刑事。

「え」

「貴様は・・・ある時から一日で記憶がリセットされるようになった・・・つまり・・・須永先生の最新作については・・・疎い」

「確かに」

「最新作にヒントが隠されているとしたら・・・貴様にはわかるまい・・・」

「・・・」

ファンとしての屈辱感を味わう今日子に・・・厄介は萌えるのだった。・・・おいっ。

「書斎には・・・先生が45年間に書きあげた全作品があるはずだが・・・一冊が欠けているのだ」

しかし、今日子はすでにファンとして須永の寝室を見学していた。

「かってにベッドに入るのは・・・それに眠くなったらどうするんですか」

「ドキドキして眠れませんよ」

「かわいいよ・・・今日子さん、かわいいよ」

やがて・・・須永の洗面室で合流する遠浅と今日子。

「見ろ・・・黄色だ」

鮮やかな色で塗装された洗面室の反射光で金髪となる今日子。

「どういうことです」

「須永先生の最新シリーズは・・・全四巻」

「盗まれたブルー」

「裏切りの赤」

「青い夕焼け」

「連投グリーン」

「書斎からは盗まれたブルーが消えていた・・・そして・・・四作目は連投グリーン・・・グリーンからブルーを盗めば・・・」

「イエローですか」

しかし・・・今日子はオレンジ色のバランスボールに夢中だった。

「これなんですかあ・・・」

「今日子さん・・・かわいい・・・かわいい・・・かわいい」

「この洗面室は・・・私も読んだことのある小説に登場します・・・しかし、作者あとがきにこう書かれています」

「あとがき・・・」

「母が金色に塗ってしまった洗面室と・・・」

「黄色ではなく・・・金色だったのか」

「しかし・・・盗まれたブルーは・・・」

そこへ・・・須永の娯楽室から戻ってくる絆井法郎。

その手には・・・「盗まれたブルー」が・・・。

「読もうと思ったけど・・・レコード聞いている間に眠ってしまった」

「あんたが・・・持ち出しただけかよ」

宝探しは振り出しに戻る。

そこへ・・・訃報を知ったマスメディアの記者たちが押し掛ける。

応対する厄介。

居合わせた法郎は事情を聴く。

「なるほど・・・今日子さんのために・・・か」

法郎は記者たちの前に出た。

「あなたはどなたですか」

「妻です・・・主人がいつもお世話になっています」

「・・・妻?」

「詳しい話は・・・主人の愛した散歩コースで・・・」

今日子は・・・立ち聞きしていた。

「先生は・・・」

「先生は来ません・・・」

愛する小説家の死を知り悲しみを浮かべる今日子・・・。

しかし・・・須永の来訪を哀訴していると誤解した厄介は・・・。

「そんな顔してもダメですよ」

優しくすれ違う二人の心と心である。

屈指の名場面だったなあ・・・。

魚肉ソーセージや今日子が羨望する1500円のズワイガニの缶詰を盗み食いしたバイト君は「ヒント」をコピーしていた。

原本を求める今日子。

④には「鉛筆が必要となるかもしれない」の文字が修正テープで消されているという「ヒント」があった。

「なるほど・・・作品は120分で読めるくらい・・・」

「僕なら短編しか読めない時間ですが・・・新作は長編だそうです」

しかし・・・今日子は自動掃除ロボットに夢中になっていた。

「こんにちは~はじめまして~」

「なんですか・・・」

「どうやら・・・最新のペットロボットだと勘違いしているらしい」

「お名前はなんですか~」

「かわいい・・・(><)・・・かわいいよ」

しかし・・・世界では「訃報」が呟かれ・・・。

「なんでもかんでも呟くな・・・」と厄介を憤慨させ・・・。

「大変よ」と帰宅したまくるが叫び・・・。

厄介の目の前を横切った黒猫が・・・テレビのスイッチを入れる。

「本日未明・・・人気作家の須永昼兵衛さんが亡くなりました・・・」

「・・・」

「・・・そうですか・・・先生が・・・」

「・・・」

「学生時代・・・つまらないことで悩んでいた時に・・・須永先生の次回作があると思うとワクワクして・・・救われたことがあります」

「今日子さん・・・」

「私がこうなった後も・・・須永先生は・・・たくさんのファンをワクワクさせ続けていたんですよねえ」

「・・・」

「百作目を見つけないと・・・ファンの人たちがガッカリしますね」

「まさか・・・もう・・・謎は解けたんですか?」

「僭越ながら・・・」

今日子は袖から・・・録音用のカセットテープを取り出す。

「レトロなマジックか・・・」

「娯楽室にありました・・・①120分のテープです」

「懐かしい・・・」

「④テープがたるんだら・・・鉛筆でクルクル・・・」

「懐かしすぎる・・・」

「しかし・・・二時間では長編は朗読できまい」

「レトロな時代・・・磁気テープには・・・データも記録できたのです」

「つまり・・・①120分で読み込めるということですか」

「磁気による記録は②デリケートです・・・水にも磁力にも弱い」

「確かに・・・」

「そして、テープがあるのに再生するための機器が見当たりません」

「③あるのに・・・ない・・・ですね」

「ここに・・・暗号があります」

「R6L8R4L2・・・ダイヤル式の金庫だ・・・」

「レトロなテレビの下にレトロな金庫がありました」

金庫の中にあったのは・・・。

「うわあ・・・MZ-700・・・」

MZ-700は実在する1982年発売の8ビットパーソナルコンピュータである。

「IBM5100じゃないのか・・・」

「タイムマシンではなく・・・ゼビウスが遊べますよ・・・エロゲーも」

「立ち上げに10分・・・すべてのデータ読み込みに120分かかりますけどね」

レトロなモニター画面に現れる・・・レトロな文字。

須永昼兵衛の最期のメッセージ。

「タカラサガシノジュンビヲスルノハタノシイ。ワタシニトッテサイコウノキュウジツデシタ・・・」

「・・・」

「ミナサンハタノシンデクレマシタカ?」

「はい・・・」

厄介は今日子の最高の笑顔を記憶した。

軽井沢の黄昏・・・。

楽しい休日はもうすぐ終了である。

「読みたかったなあ・・・須永先生の遺作・・・」

「二ヶ月後に・・・発刊だそうです・・・プレゼントしますよ・・・あ・・・今日子さんは部屋に本を置かないんでしたね」

「ええ・・・一冊の本を毎日読んで・・・一生が終わってしまいます」

「だから・・・今日子さんは探偵として・・・書を捨てて街へ出たのかもしれませんね」

「こうしたら・・・どうでしょう・・・サンドグラスの書棚に・・・あなたのプレゼントをそっと置いてみたら・・・」

厄介の甘い空想が広がる・・・。

ある日・・・書棚に・・・須永昼兵衛の最新作を発見する今日子。

本を手にとった今日子に・・・本にまつわるエピソードを披露する厄介。

ワクワクする未来の情景。

黄昏の金色の光の中で魔法にかかった二人。

そんな二人をカメラに収め・・・潜入探偵は微笑む。

まくるは呼びかける。

「帰る時間ですよ」

厄介の恋の物語は続く・・・しかし、今日子の記憶は続かないのだ。

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2015年11月 7日 (土)

うっかりしたら火傷するよ(綾野剛)私は思い続ける(松岡茉優)今夜はいけない(山口紗弥加)

山口紗弥加はローティーンでデビューしていて今や三十路も半ばなので芸歴二十年以上である。

その間・・・ほぼ脇役で過ごしている。

ある意味・・・凄いぞ。

2015年も春ドラマでは「ようこそ、わが家へ」と「ヤメゴク〜ヤクザやめて頂きます〜」でキャバクラでアルバイトしているOLと整形外科医を演じ、夏ドラマ「リスクの神様」では左遷されるエリート社員、今季もコレと「サイレーン」の刑事役をかけもちである。

まあ・・・汚れ役でも地味な役でも・・・美人でもブスでもできるという・・・ミステリアスなポジションを確保しているわけである。

まあ・・・映画「モスラ」(1996年)の妖精エリアス三姉妹の末っ子ロラだからな・・・。

で、『コウノドリ・第4回』(TBSテレビ20151106PM10~)原作・鈴ノ木ユウ、脚本・山本むつみ、演出・金子文紀を見た。ペルソナ総合医療センターには産科と新生児科の両方が組み合わされた周産期母子医療センターが設置されている。産科には母体胎児集中治療室(MFICU)があり、新生児科には新生児集中治療室(NICU)がある。鴻鳥サクラ(綾野剛)や四宮春樹(星野源)そして後期研修医の下屋加江(松岡茉優)は産科に所属し、新しいメンバーである新井恵美(山口紗弥加)は新生児科に所属する。出産で任務を終える産科から「未熟児」を受け取る新生児科は過酷な任務を引き継ぐことになるのだ。生と死の交錯する医療現場では・・・未熟であることは大いなるリスクなのだから。

天空の女王であるヘラの神殿に仕える巫女がいた。

巫女には二人の自慢の息子があり、彼らは母親に忠孝を尽くした。

母親はヘラに彼らの幸福を願う。

するとヘラはたちまち、それに答えた。

二人の息子は安らかに永遠の眠りについたのである。

「死」こそは最高の神の贈り物なのだ。

待合室で産気づき、破水した妊婦に気がついた下屋はその場で出産させることを決断する。

助産師の角田真弓(清野菜名)とともに出産を成功させる下屋。

そこに新生児科に赴任してきた新井が現れる。

新井は手際よく新生児を診断する。

産科から新生児科へオーソドックスな命のリレーが行われる。

サクラやベテラン助産師の小松(吉田羊)は下屋の成長を賞賛する。

下屋は少し調子に乗るのだった。

そこへ・・・前日に定期検診を受けて「痛みとお腹の張り」を訴えたが担当医の下屋が「特に問題はない」と診断した妊婦・田中陽子(河井青葉)が夫の淳(和田正人)とともにやってくる。

陽子は切迫流産で破水し、危険な状態にあった。

「昨日・・・何も問題はないと・・・おっしゃってましたよね」

「・・・」

下屋は夫婦の問いかけに絶句する。

サクラは下屋に代わり答える。

「切迫流産は事前に予見することは難しいのです・・・発生してからの対応になります」

「赤ちゃんは・・・大丈夫なんですか」

「21週と1日での出産では・・・早すぎて・・・赤ちゃんの生存は絶望的です」

「そんな・・・」

「24週まで・・・安静にして妊娠状態を継続できれば・・・出産後の赤ちゃんの生存率は50%に高まります。ただし・・・この場合も障害の残る可能性は否定できません」

「嘘だ・・・そんな・・・嘘だって言ってください」

「嘘ではありません・・・安静のために入院していただくとしても・・・歩行禁止で食事も排泄もベッドの上でということになり・・・感染病予防の薬剤の投与などの副作用でかなり苦痛を伴うことがあります」

「・・・」

「法的に人工流産の認められるのは21週6日までですので・・・数日の間に・・・決断していただくしか・・・」

「決断って・・・そんなこと決められません」と父親は叫ぶ。

「私たち医者は生まれてくる赤ちゃんの人生を背負うことはできないのです。しかし・・・選択された結果について全力でサポートします」

「・・・そんな・・・結婚して十年・・・ようやく授かった子供なのに・・・」

選択肢ⓐ 胎児をあきらめる

選択肢ⓑ 安静にして障害児になる可能性のある胎児の妊娠を継続

妊婦の田中陽子は取り乱した。

「私の赤ちゃん・・・かわいそう」

「そう思ったら・・・じっとして・・・安静にしてなきゃ・・・子供がかわいそうだろう」

下屋はうつむいた。

四宮は厳しい言葉を投げかける。

「お前は自分が失敗していない証拠を見つけたいのか・・・それが今やる仕事か」

小松は励ます。

「四宮先生の言い方はアレだけど・・・言ってることは間違ってないよ」

「私・・・ちゃんと説明できなくて・・・一番厳しい説明を鴻鳥先生に・・・」

サクラは・・・夫婦の決断を待っていた。

妊娠を継続してほしい・・・しかし・・・それを口にすることはできない。

給湯器からお湯があふれズボンを濡らしても気がつかないほどの放心・・・。

「熱・・・」

そこへ・・・妊婦の夫がやってくる。

「鴻鳥先生・・・何があっても構いません・・・私は子供に出来る限りのことはしてやりたい」

「・・・わかりました・・・全力を尽くします」

選択肢ⓑが選ばれた・・・。

下屋は「死」が遠のいたことに安堵して顔をあげる。

産科と新生児科のカンファレンス(会議)・・・。

「前日の問診で患者が痛みを訴えたのに・・・危機意識はなかったの」

新井は容赦ない言葉を下屋に浴びせる。

「問題ないと・・・思いました」

「思いましたって・・・それはあなたの感想・・・それとも医師としての判断なの」

「・・・」

下屋に好意を寄せている研修医の白川(坂口健太郎)は噂を思い出す。

「新井先生・・・鉄の女とか・・・鉄仮面って呼ばれているらしい・・・」

四宮は両親の意志を危ぶむ。

「両親の覚悟は大丈夫なのか」

「父親の淳さんは・・・胎児に大きな愛情を抱いていると感じました」

「また・・・あなたの直感の話なの・・・」

「・・・」

「しかし・・・選ぶのは医師ではない」とサクラはフォローする。

「まあ・・・四宮先生の危惧はわかるよ・・・実際、出産後・・・胎児の未熟さに・・・逃げ出す親もいるから・・・」

新生児科のリーダー今橋(大森南朋)は仲をとりもつのだった。

野崎隆太という男に・・・「今夜は当直なので・・・デートできない」というメールを送る新井。

救急救命科の加瀬医師(平山祐介)はアイスクリームを食べる。

「アイスを愛す・・・なんちゃって」と麻酔科の船越医師(豊本明長)は緊張感をマラソン・スタイルで和らげた。

24週を目指して安静を続ける田中陽子・・・。

夫の淳は妻を励ますために・・・結婚を反対されたために・・・十年間音信不通だった陽子の両親に連絡をとる。

「なんで・・・もっと早く連絡しなかったの・・・」

娘の身を案じる両親の涙に・・・陽子の闘志は燃えあがるのだった。

しかし・・・妊娠24週を目前にして・・・陽子の陣痛が始る。

「先生・・・カイザーしかありません」

下屋はピアニスト・ベイビーとして開演寸前のサクラに連絡する。

「その選択は・・・誰がしたんだ・・・子宮はまだ小さいし・・・カイザーは母体にかなりの負担になるぞ・・・」

「でも・・・カイザーしない・・・通常分娩では赤ちゃんが助かりません・・・」

「選択するのは医師ではない・・・状況を正しく説明するのが仕事だろう」

「・・・」

下屋は説明した。

ⓐカイザー(帝王切開) 母体に負担がかかる

ⓑ通常分娩(流産) 胎児をあきらめる

「先生は・・・どう、思いますか・・・医者じゃなくて・・・人間として・・・女として」

「私は・・・お母さんも・・・赤ちゃんも助けたいです」

「私も赤ちゃんを助けたい・・・お願いします・・・赤ちゃんを助けて」

「・・・はい」

ⓐが選ばれた。

すでに・・・サクラはスタンバイしていた。

ドラマなので・・・いや・・・サクラが名医なので見事に胎児は取り出される。

「おめでとうございます・・・男の子です」

しかし・・・胎児のあまりの未熟さに下屋は恐怖を感じる。

「ちっちゃい・・・」

たとえ・・・420~450gの未熟児でも男子にそのセリフは禁句である。

新井は新生児を受け取ると冷静に処置を行う。

「早い・・・」

白川研修医は思わずつぶやく。

女子には言ってもいいセリフだった。

新生児集中治療室 (NICU)に搬送される未熟児・・・。

父親になった淳は・・・慄きながら・・・我が子を見た。

「私にできることはありませんか」

「そっと触れてあげてください・・・赤ちゃんはお父さんが来たのを喜びます」

今橋は囁く。

淳は息子の大地に触れた。

「あったけえ・・・」

今橋は微笑んだ。

下屋は暗闇の中にいた。

「こんなところにいたのか」

「あんなに・・・小さいなんて・・・」

「赤ちゃん・・・元気だったぞ」

「私・・・こわくなってしまいました」

「俺だってこわいさ・・・でも・・・できることは二つしかない」

「・・・」

「逃げ出すか・・・立ち向かうかだ・・・」

サクラはホットコーヒーを下屋の手に置いた。

「熱・・・」

淳は陽子の車椅子を押した。

「いいか・・・泣くんじゃねえぞ・・・母親が泣いたら・・・大地が悲しむぞ」

「・・・」

母親は息子に触れた。

「哀しくて泣いてるんじゃないのよ・・・嬉しくて泣いてるの」

「そうか」

母親は下屋を振り返った。

「赤ちゃんを産ませてくれて・・・ありがとうございました」

「・・・」

下屋は深く頭を下げた・・・。

新井は微笑んだ。

その子には厳しい運命が待っているのかもしれない。

しかし・・・基本的に厳しくない人生はないのである。

そうとでも考えないとやってられないのが人生というものなのだ。

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2015年11月 6日 (金)

天に代わって不義を討ったらダメですか(錦戸亮)お尻のタッチは我慢します(比嘉愛未)先着してました(神木隆之介)

武市半平太の死亡は1865年7月3日である。

坂本龍馬の死亡は1867年12月10日である。

幕末と現代を結ぶ神里村タイムトンネルのシステムはまだ明らかではないが・・・。

平行システム仮説では・・・坂本龍馬の時空移動は1864年の夏に行われた可能性がある。

すでに武市は獄中にあり、二度目の脱藩中の龍馬は神戸海軍塾にあり、楢崎龍と祝言をあげている。

過去への帰還があるとすれば・・・龍馬は消失時空点に戻り、その後の人生を続けることになる。

死亡システム仮説では・・・龍馬は過去において二年以上、現代で一年の時を武市より重ねていることになり、実年齢では7歳年上だった半平太に四歳差まで迫ったことになる。

この場合、二人は過去に帰還した時点で死亡する。

平行システムで龍馬が帰還しないと歴史は変更されるため・・・龍馬は時空線を乗り越えているか・・・すでに歴史は改編され・・・海援隊に龍馬がいない歴史になっている可能性がある。

まあ・・・ファンタジーだから・・・どんなシステムでも問題ないという考え方もあります。

で、『サムライせんせい・第2回』(テレビ朝日201510302315~)原作・黒江S介、脚本・黒岩勉、演出・片山修を見た。ほぼ一週間遅れでお届けしています。つまり、過去へタイムスリップしているのです。まあ・・・キッドの好みにあわせて・・・各局が番組編成しているわけではないからなあ・・・。ちなみに・・・まもなく(火)の「デザイナーベイビー」が最終回・・・ここが谷間になるのか・・・それとも「南くん」が一週間遅れで登場するのか・・・それは未来予知なのか・・・まあ・・・先のことを言ってもな・・・。来週がやってくるのかどうかもわからないしな。最近、東京上空を格安航空の旅客機が飛んでいる気がして・・・恐怖を感じるのだな。

「コンビニの裏の森の秘密の隠れ家」で・・・佐伯学習塾の子供たちを人質にとった殺人犯・橋本(渋谷謙人)と対峙する過去の人・武市半平太(錦戸亮)・・・そして巻き込まれた佐伯晴香(比嘉愛未)寅之助(藤井流星)の姉と弟・・・。

「お前・・・なんでサムライのコスプレしてるんだ」

「こすぷれ・・・それはなんじゃ」

「ふざけてんのか」

「ふざけてなどおらん・・・おてまえこそ・・・何をしておる」

「俺は東京で気に入らない上司をぶっ殺してきたんだよ」

「ほほう・・・おてまえも・・・上士に天誅を・・・」

「てんちゅう・・・なんだそれは・・・」

「この世は・・・軟弱の徒ばかりと思っていたが・・・おてまえのような気骨のある者もおったのか」

「はあ?」

「そのようなものが・・・なぜ・・・童を質にとっているのじゃ・・・童のご母堂が案じておったぞ・・・そうなれば追手がかかろう・・・知らぬフリをするゆえ・・・一刻も早く立ち去りなされよ」

「バカなのか・・・俺は気に入らない奴はガキだって容赦しないんだよ・・・お前たちもぶっ殺す」

「なんと・・・それではおてまえは・・・ただの狂犬か・・・」

「何・・・」

平然とナイフの前に身をさらす半平太に・・・あたふたとする佐伯姉妹。

しかし・・・半平太は幼少より、一刀流、小野派一刀流の伝授を受け、鏡心明智流皆伝に達し江戸三大道場の一つ桃井春蔵の士学館で塾頭となった剣の達人なのである。・・・この域に達すれば素人が相手なら素手で確実に殺すことができます。

ナイフを振りかざした狂犬は半平太の手刀の一撃で悶絶するのだった。

「ワシに手向かった勇気に免じて・・・手加減しておいたき・・・」

「えええ」

頭のおかしい人の超人技に・・・茫然とする佐伯姉妹。

「何をしておる・・・ご母堂たちに・・・童の無事を知らさんでいいのか」

「あ・・・け、警察」

「こいつを縛らないと・・・」

縄を解かれた子供たちは半平太を見上げる。

「なんで・・・助けに来たの」

「幼いものを守るのは・・・大人の役目じゃ」

「・・・」

子供たちは超人に熱狂的に感謝して号泣するのだった。

「これ・・・男子たるもの・・・泣くでない」

晴香は駐在の中嶋和樹(山本圭祐)に子供たちの無事と犯人確保を知らせる。

セクハラ上司である小見山喜一課長(梶原善)は耳聡く聞きつけ姦計を巡らせるのだった。

「あなたがいなかったら・・・子供たちは危なかったかも・・・」

安堵した晴香は思わず・・・口にする。

「なに・・・それでは・・・ひょっとすると」

「なんですか・・・」

「この童たちの命を救うために・・・天が私をこの世に遣わしたとしたら・・・帰ることができるかもしれん・・・」

「帰る・・・」

「私のいた・・・あの時代へ・・・」

「え」

「後はまかせた・・・」

「まかせたって・・・」

「私のことは他言無用じゃ・・・」

「そんなこと言ったって・・・」

「真のことを言っても私のことなど・・・誰も信じまい」

「それはそうですけど・・・」

「しからば・・・御免」

半平太は去った。

事情を孫から聞いて・・・半平太を案じる学習塾を経営する佐伯真人(森本レオ)・・・。

翌朝・・・晴香は・・・半平太が出現したあの場所へ行ってみる。

月9と同じで変な人に少しずつ心を奪われていく展開なのである。

しかし・・・半平太はいなかった。

そこへ・・・寅之助がやってくる。

「なにしてんの・・・」

「あの人・・・本当に過去に戻っちゃったのかしら」

「じゃ・・・お祝いしないと」

「え」

「だって・・・あんなのにいられたら迷惑でしょう」

「まあ・・・そうね」

二人はシングルマザーの篠原理央(石田ニコル)の経営するカラオケスナックに向かう。

しかし・・・半平太はそこでウエイターをしていた。

深夜・・・路上で寝ていた半平太は理央の運転する車に轢かれそうになったのだった。

そして・・・理央に拾われたのだった。

そこへ小見山課長に案内されたジャーナリストの楢崎(神木隆之介)がやってくる。

楢崎は「神里村に現れたサムライ」を取材しにきたといい・・・半平太は店の奥へと避難する。

理央の娘の小学生・優菜(岩崎春果)からカレーライスを振る舞われる半平太。

「私、ママが16才で産んだ娘なの」

「十五で嫁に行くのは普通じゃな」

「ママは必殺仕事人が好きなの」

「それはなんじゃ」

「悪い奴をバッサリよ」

「ほう・・・」

「今も人気らしいよ」

「やはり天誅は・・・この世でも盛んなのか」

いろいろと誤解する半平太だった。

しかし・・・理央のセクシーなパジャマ姿を見て・・・「ブラジャー」が「乳隠し」と知る半平太。

己の不埒な振る舞いを晴香に侘びるために・・・役場にかけつけた半平太は・・・そこで・・・謎のジャーナリスト・楢崎と遭遇する。

楢崎はただならぬ剣気を発し・・・半平太を挑発する。

「その太刀筋・・・北辰一刀流とみた・・・」

二人が傘入れにあった傘で一瞬即発の場面・・・晴香が制止するのだった。

小見山課長が「自分が手柄横取りのヒーローになるためにセッティングした記者会見」の控室に半平太を隠す晴香。

そこに置かれたゆるキャラの着ぐるみを着用した半平太は・・・小見山課長が晴香の尻に度々触れるのを目撃する。

スナックに戻った半平太は晴香に問う。

「晴香殿が上士に尻を撫でさせるのは・・・なにか・・・仔細あってのことか」

「仔細って・・・」

「お女中として高い地位を狙ってのこととか」

「なんですって・・・」

おひやぶちまける晴香だった。

「そりゃ・・・ペータ先輩が悪いよ・・・」と理央。

「何故じゃ・・・」

「今の世の中・・・職を得るのは大変なんだよ・・・嫌なことでも・・・我慢しなければやっていられないんだ」

「なんと・・・それでは・・・晴香殿は・・・上士に辱しめを・・・」

「辱しめって・・・」

その頃・・・帰宅した晴香を楢崎が待っていた。

「え」

「覚えていませんか・・・一年前に拾われた生き倒れです」

「あ・・・あのホームレスの人・・・」

その時、晴香に小見山課長からの緊急呼び出しが・・・。

モップで武装した半平太は役場に討ち入りを敢行していた。

仕方なく駆けつけた晴香は・・・天誅寸前の小見山課長の一命を救う。

「殺しちゃ・・・ダメ」

「しかし・・・晴香殿を辱しめた・・・この男・・・万死に値する・・・闇討ちはいいのであろう」

「ダメです・・・」

「では・・・尻を触られても構わぬと・・・」

「それもダメですけど・・・だからといってすぐに殺しちゃダメなんです」

「・・・」

「そういう時代なんですよ」

武市半平太の脳裏に浮かぶ・・・ある男の面影・・・。

回天のために・・・暗殺も辞さぬと告げた半平太と袂を分かった一人の志士。

「わしは・・・殺生は好かんぜよ」

(龍馬・・・)

半平太は肩を落した。

そんな半平太を待っていたのは・・・子供たちと母親たちの御礼の宴だった。

ここで・・・妙な編集を感じるのは・・・あの事件の影響か・・・。

ここに・・・いたのか。

顔を見せない母親の一人だったのか・・・。

紅蓮女・・・。

「子供たちを助けてくださってありがとう・・・」

「いや・・・拙者は・・・」

「武市さん・・・」と佐伯先生。「あなたがなぜ・・・この時代に来たのかはわかりません・・・しかし、いつか帰られるとしても・・・今は・・・ここで・・・子供たちにあなたにしか教えられないことを教えてもらえませんか・・・」

「拙者にしか教えられないこと・・・」

「そうです・・・あなたは・・・この世にあっては・・・特別な人なのですから・・・」

「・・・」

「とにかく・・・佐伯家に泊まりなさいよ」

晴香はツンデレと化すのだった。

渡された歯磨きの「タケチ」の文字を見て訝しい表情を浮かべる半平太。

「夕・・・なんじゃ・・・竹の書き損じか?」

丁髷を悪戯しようとした赤城サチコ(黒島結菜)は歯ブラシでお手打ちにされるのだった。

そこへ・・・姿を見せる楢崎。

「お前はなぜ・・・武市半平太を名乗る」

「武市半平太だからじゃ」

「・・・」

「本当じゃ・・・気が付いたら・・・この世に落ちていたのじゃ」

「それは・・・まことか・・・」

「まことじゃ・・・」

「この顔に見覚えがあるか・・・」

眼鏡を外す楢崎・・・。

「お前・・・アザ(痣・・・坂本龍馬の仇名)か」

「お主は・・・まっこと・・・アギ(顎・・・武市半平太の仇名)どのか・・・」

「アザ・・・」

「アギ・・・」

武市半平太と坂本龍馬・・・土佐勤王党の同志二人は時空を越えて抱擁した。

「え・・・楢崎さん・・・」と男たちの抱擁に赤面する晴香・・・。

「楢崎じゃないき・・・この男は坂本龍馬ぜよ」

「ええ」

「ワシだけじゃなかったんじゃ・・・この世に落ちたのは・・・」

「えええ」

・・・どんどん増殖するのか。

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Ss002ごっこガーデン。タイム・メトロ・セット。

くう武市半平太の修行した士学館道場は南八丁堀大富町蜊河岸、現在の中央区新富にあったよ。坂本龍馬の修行した北辰一刀流の玄武館分家の桶町千葉道場は桶町八重洲、現在の中央区京橋あたり・・・

まこ東京メトロだと有楽町線新富町駅から銀座一丁目で下車して銀座駅から銀座線に乗り換えて京橋駅へ・・・まあ・・・メトロに乗らずにぶらぶらお散歩してもすぐの距離でしゅ~

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2015年11月 5日 (木)

泡にまみれて(松坂桃李)疑惑の香り(木村文乃)償えって言ってみた(菜々緒)私は無垢な少女しか愛せない(要潤)

「神話」は遠い記憶である。

現代を生きる誰もが実際には知ることのない時代の物語。

そういう意味では百年前の出来事はほとんどが「神話的」である。

しかし・・・文献や絵画に記された記録が・・・その記憶を幽かに蘇生させる。

遥かな「過去」には混沌とした出来事が横たわる。

神々や悪鬼・・・そして精霊たちは曖昧な姿を垣間見せる。

すべては幻想である。

真実を知るものは・・・ヒトではない・・・何者かのみである。

たとえば・・・人魚の一種であるローレライが実はサイレーンであると語るものがいる。

サイレーンの母親は・・・歌の女神メルペポネであるとも舞踊の女神テルプシコーラであるとも言われる。

メルペポネやテルプシコーラを生んだのは記憶の女神ムネーモシュネーとも調和の女神ハルモニアとも言われる。

神話の世界は虚実の迷宮なのである。

サイレーンは悲劇の女神である。

ローレライもまた悲劇の精霊だ。

サイレーンの物語の果てに「人魚姫の悲劇」が生まれるのだ。

ギリシャ世界ではヒトは基本的に「枯葉のようなもの」である。

大樹から解き放たれて地に落ち・・・虚しく朽ち果てる一生。

それにくらべて悲劇の女神たちは・・・永遠の時を過ごしていく。

謎めいた精霊サイレーンは・・・水面に浮かぶ枯葉を・・・揺らし・・・やがて沈ませるのだ。

で、『サイレーン刑事×彼女×完全悪女・第3回』(フジテレビ20151103PM10~)原作・山崎紗也夏、脚本・佐藤嗣麻子、演出・白木啓一郎を見た。狂気と正気の境界線もまた曖昧なものだ。半世紀以上も恙無い人生を送ってきた人間が突然、歩道を車道のように考えて走り出す。料理の上手な人間がお湯を沸かせることもできなくなる。人の人生はまさに枯葉のようなものなのだ。人間の作り出す善意や悪意もまた枯葉の舞に似ている。その傍らを魔物はそっと通りすぎて行く。人間がそれを理解することは不可能だ。人間はただそれを感じるしかない。ある時は恐怖を・・・。ある時は悲哀を・・・。そして、ある時は永遠を。

暗礁の上に見えるのは

黄金の美少女の姿態

黄昏の光に輝く

長い髪に見え隠れする肢体

誘惑の歌声が忍びより

破滅させられた死体

それはローレライの物語

虚しい人生の四諦

機動捜査車両16号担当の警視庁機動捜査隊員・里見偲(松坂桃李)は桜中央署管内で発生した不審死事件が・・・何者かによる連続殺人事件ではないかと直感する。

しかし・・・具体的な証拠は皆無で・・・公私兼用のパートナーである猪熊夕貴(木村文乃)は「推理だけでは事件は解決できない」と苦言を呈する。

けれど・・・警視庁捜査一課の刑事を目指す里見は「事件解決」という「手柄」を欲していた。

人間関係の糸を繋いだ里見捜査員は・・・事件の中核に・・・謎の女・橘カラ(菜々緒)と整形外科医の月本圭(要潤)が存在していると推測する。

勤務外の時間を・・・月本の行動確認に費やし始める里見捜査員。

相棒で恋人の猪熊捜査員は・・・里見の単独行動を不審に感じ始める・・・。

一方で・・・超人的な身体能力で・・・欲するままに殺人を重ねるカラは・・・何故か猪熊に執着し・・・その信頼を勝ち取りつつあった。

謎に包まれたカラの魔性に・・・「普通の人々」は翻弄されていく・・・。

月本の行動確認(張り込みと尾行)を続ける里見捜査員を監視する桜中央署のチビデカこと速水翔刑事(北山宏光)・・・。

チビデカは里見捜査官の手柄の横取りを常に模索しているのだった。

この物語の男たちは基本的に犯罪解決を出世の手段と考える邪な人々なのだ。

やがて・・・月本が会員制のクラブに通っていることを突きとめる里見。

桜中央署の生活安全課の千歳弘子(山口紗弥加)に情報を求めると・・・すでに「クラブ」に対しての内偵が開始されているという。

「潜入捜査のために・・・協力者を紹介してください」

「捜査費は計上されないぞ・・・」

「自腹でなんとかします」

「・・・いいだろう」

千歳の確保していた「クラブ」の会員から・・・紹介を受けた里見は・・・高級スーツをレンタルして・・・IT企業の経営者になりすます。

「話は聞いたよ」

チビデカは協力を装い、里見にブランドものの腕時計を貸し与える。しかし、それは高級腕時計風盗聴器だった。

顧客として「クラブ」に乗り込んだ里見は支配人からシステムの説明を受け・・・そこが高級売春組織であることを察知する。

内情を知るために「ダブルで六時間」のコースをオーダーする里見。

指定された高級ホテルのスイートルームに向かうと・・・そこに二人のホステス・・・アイ(佐野ひなこ)とレナ(入山杏奈)が現れる。

コース料金プラスホテル宿泊料・・・里見の銀行預金残高に危険信号が灯る。

「私たち・・・なんでもありですから」

ホステスという名の高級売春婦に迫られ・・・我を失いかける里見・・・。

アイとレナは・・・早くも里見の怒張した局部を責め立てるのだった。

「ま・・・待ってくれ・・・私は・・・最初は何もしない主義なんだ」

「え」

「相手のことを・・・知らないと・・・燃えないんだよ」

「ああ・・・」

「だから・・・今日はおしゃべりだけして・・・その気になったら次回・・・君たちを指名したい」

「まあ・・・大変・・・私たちのこと・・・お気に召してもらえるかしら・・・」

「それは・・・君たち次第だ・・・」

「うふふ・・・」

「早速だが・・・どちらか一人・・・鯛焼きを買ってきてくれ」

「た・・・鯛焼き・・・それでどんなプレーを・・・」

「いや・・・私は・・・女の子とおしゃべりをする時・・・鯛焼きを食べると興奮するんだよ」

「・・・」

変態・・・と感じた二人だったが・・・従順に顧客のリクエストに答えるのだった。

「なにやってんだ」と盗聴しているチビデカは苦笑した。

しかし・・・里見は・・・アイの口から・・・クラブのオーナーが月本であることを突きとめる。

それから・・・里見とアイはバスルームでおしゃべりを続けたらしい。

帰宅した里見は同棲中の猪熊に「映画を見て来た」と嘘をつく。

しかし・・・里見の身体からは石鹸の香りが漂っていた。

猪熊の不審は深まるのだった。

里見の報告書を吟味した千歳は強制調査の着手を決定する。

しかし・・・家宅捜査当日・・・捜査は中止となるのだった。

チビデカが「クラブ」の顧客の中に警視庁幹部がいることを発見したのである。

「なんですって・・・」

「そんな組織を摘発できるか」

「・・・」

「チビデカは不祥事発覚を未然に防いだことが本庁で高く評価されたらしいぞ」

「やってられるか・・・」

意気消沈する里見だった。

虚しく消えた多額の投資・・・。

「こんなことなら・・・やれることをやっていればよかった」と思ったに違いない・・・おいっ。

ちなみに・・・「64」で消えた娘は・・・こんなところで売春婦になっていたんだな。

そして・・・地下アイドル・ミサミサもまた・・・。

・・・もう、いいか。

カラはスカッシュを通じて猪熊と親交を深める。

「カラさんには謝りたいと思っていた」

「・・・」

「あの事件の時・・・カラさんでなければ・・・刺されていた・・・私の説得は・・・力不足でした」

「・・・そんなことはない・・・あの時のあなたは・・・危険に身をさらして・・・とても勇気があった」

「・・・ありがとう」

再会を約して分かれる二人・・・。

しかし・・・カラの中では・・・ある決心が生じていた。

「猪熊が生まれつき持っているという正義感・・・それを私も感じてみたい」

・・・ということである。

なぜ・・・カラがそう欲するのかは謎である。

その謎は最後まで解明されないかもしれないな・・・。

魔性のものの心情なんて人間には理解不能だから・・・。

月本圭とカラの関係は単なる美容整形外科医と患者の関係ではなかった。

月本は特殊な性癖の持ち主だった。

成熟した女性を異性とは認識できず、未成熟の女性としか性行為ができなかったのだ。

しかも・・・未成熟の女性を凌辱することに性的興奮を覚えるのだった。

そのために未成年の少女を責めすぎて殺してしまい・・・それをカラに目撃されていたのである。

だが・・・カラは月本の行為を黙認し・・・協力さえ申し出る。

地方から家出してきた少女を月本に紹介するカラだった。

月本は見返りとして無償でカラの整形手術を行ってきたのだ。

月本は保護者の承諾抜きで未成年者の整形手術を行い、整形少女を調教して、高級娼婦に仕立て上げていたのだった。

「女としての喜びを感じはじめたら・・・私には対象外だが・・・そういう女を喜ぶ顧客はいくらでもいるからねえ」

「女の若さ」にしか欲情しない男性は・・・社会的地位の高さに関係なく存在し・・・月本の秘密クラブは莫大な利益をあげていた。

だが・・・カラにとって・・・そういうことはどうでもいいことだった。

月本クリニックの秘密の扉の向こうにある月本の隠し部屋を訪れたカラ。

「おや・・・カラちゃん・・・今日は・・・何の用だい」

「正義を感じにきた」

「正義・・・?」

たちまち・・・月本を拘束するカラ。

「何の真似だよ・・・やめてくれ・・・私は道具を使うのが好きなんだ・・・使われるのは好きじゃない・・・私受けのカラちゃん攻めなんてやめてくれよ。それに・・・君がいくら完璧な美女でも・・・私には無理なんだ・・・君が・・・十代の頃に出会えたら話は別だけどさ・・・二十歳を越えた女なんて・・・私には汚物のようなものなんだから」

「お前は・・・犯罪者だ・・・」

「え・・・」

「お前は児童買春クラブの運営者だ・・・それに・・・ちっちゃい子を殺している」

「何を今さら・・・」

「償え!」

「まさか・・・そのセリフを言うためだけに・・・私を殺すのか」

月本の動きを封じ、騎乗位になったカラは腕を伸ばす。

「う・・・」

首を絞められ苦悶する月本。

「償え!」

さらに月本に何かを注射するカラ・・・。

「い・・・痛い・・・痛い・・・いた・・・」

月本は意識を失った。

そこへ・・・カラが月本に紹介した家出少女・田沢麻弥(三上紗弥)が忘れものをとりに戻り・・・物音に気付いて・・・秘密の部屋を覗いてしまう。

驚愕した麻弥は逃げようとして階段を転げ落ちる。

「やめて・・・黙っているから・・・助けて」

しかし・・・カラは無表情に・・・麻弥に何かを注射するのだった。

翌朝・・・月本クリニックに出勤した受付嬢(沖絵莉)は秘密の部屋に横たわる少女を発見する。

「司令センターより各局へ・・・月本クリニックで女性の変死体が発見された・・・最寄車両の現場への急行求む」

16号車は現場に到着する。

「これは・・・」

「未成年者と性交中に・・・誤まって殺してしまった・・・という感じかしら・・・」

「待て・・・この子・・・生きてるぞ」

「救急車・・・」

田沢麻弥の体内からは農薬の成分が検出される。

月本医師は・・・なんらかの事情を知っているものとして緊急手配された。

その頃・・・カラは・・・月本クリニックから持ち出した自分のカルテを処分していた。

「・・・失敗だった・・・月本だけを殺すつもりだったのに・・・それに高揚感も得られなかった・・・あの時、猪熊はもっと生き生きしていた・・・やはり・・・模倣するだけでは正義感を得ることはできないのか・・・やはり・・・予定通り・・・殺すしかない」

カラの中に蠢く・・・謎の心理・・・。

そして・・・里見捜査官は・・・月本の患者のカルテの中に・・・カラの名を見出せず・・・失望感を感じる。

通俗的な捜査官たちの目を逃れ・・・魔性の殺人者は・・・次の目標を吟味し始める・・・。

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2015年11月 4日 (水)

犯人の筋書き通りに動いたら刑事失格ですから(黒木メイサ)何があっても自分の無能さだけは認めません(松下由樹)

恐ろしいほどにキャストが生々しい感じのこのドラマ・・・。

役者たちのすべてのキャリアがこの作品のためにあったような濃厚さだ。

有能すぎる刑事を演じる黒木メイサ。

息子を溺愛するあまりに娘の身体を捧げる母親を演じる安達祐実。

誰かを助けるために誰かを犠牲にではない父親を演じる池内万作。

神を支配しようとするサイコパスの細田善彦。

神に悪戯を仕掛けた天使の斉藤由貴。

若さゆえの自分のあやまちをスルーし続ける渡辺大知。

良心的には見えないのに良心的な医師の渡部篤郎。

中途半端に悪い渡辺いっけい。

自己保身の結晶である半海一晃。

あたりはずれがあたりまえの手塚とおる。

癒しだけのために生きている山崎樹範。

下に甘く上に辛い中間管理職の鑑としての神保悟志。

そして・・・無能さゆえに出世し頓珍漢な自分をけして省みない松下由樹・・・。

凄いな・・・刑事ドラマとしては今世紀一番の完璧なキャスティングかもしれん。

で、『デザイナーベイビー~速水刑事、産休前の難事件~・第7回』(NHK総合20151103PM10~)原作・岡井崇、脚本・早船歌江子、演出・岩本仁志を見た。苦悩は知的な作業である。苦悩することが不幸なことであれば愚か者ほど幸福なのである。苦悩する誰もが愚か者を見下して呟く。いいねえ・・・お前には悩みがなくて・・・と。しかし、生まれ出ずる悩みはどんな脳からも湧き出ている。

サイコパス的人生哲学三原則。

第一の原則 自分の命は守らなければならない。

第二の原則 第一に反しない限り世界を守らなければならない。

第三の原則 第一、第二に反しない限り他人の命は守らなければならない。

その実践例。

自分の命を守らなければならない。戦争に勝利して世界を守らなければならない。原子爆弾を広島に投下してもよし。

自分の命を守らなければならない。米国に味方して日本を守らなければならない。沖縄に米軍基地を置いてもよし。

自分の命を守らなければならない。隣国に配慮して不戦を守らなければならない。政府に爆弾を投げつけてもよし。

私は自分の仕事を神聖なものにしようとしていた。ねじ曲がろうとする自分の心をひっぱたいて、できるだけ伸び伸びしたまっすぐな明るい世界に出て、そこに自分の芸術の宮殿を築き上げようともがいていた。それは私にとってどれほど喜ばしい事だったろう。

「生まれいずる悩み/有島武郎」(1918年)より。

木曜日・・・。フクスケこと土橋福助刑事(渡辺大知)はまたしてもミスを犯し、近森優子(安達祐実)の退院を見逃す。

各放送局に警官を配置し、「誘拐事件の発生」を隠匿しようとする警視庁捜査一課特殊犯捜査係の日村係長(神保悟志)・・・。

「人質の安全確保のために絶対に情報を公開させるな」と命ずる与那国令子管理官(松下由樹・・・。

「誘拐七日目で事件解決の目途が立っていないなんてことは絶対に知られてはならん」と圧力をかける管理官の上司(半海一晃)・・・。

「こちら・・・近森邸監視班・・・近森優子が・・・素晴らしいインターネットの世界の海賊放送局・ネコネコ動画のスタッフと帰宅しました」

「放送を阻止せよ」

「住居不法侵入できません」

現場に向かうフクスケと妊婦刑事・速水悠里(黒木メイサ)・・・。

「くそ・・・夫を囮にして妻が逃げ出すなんて・・・」

「あなた・・・そのうち猫にでも騙されるわよ・・・」

「・・・」

「おかしな話だわ・・・誘拐犯を追わないで・・・誘拐された子供の母親を追うなんて」

「ノゾミの命を守るためでしょう・・・」

「警察の面子を守るためよ」

「それのどこがいけないんですか」

「・・・」

単純な若者にとって世界は複雑なものであってはいけないのだ。

速水刑事の苦悩をフクスケが理解するのは困難だった。

速水刑事の沈黙をフクスケは自分の勝利と感じる。

世界は不毛である。

近森邸には締め出された捜査官が立ちすくんでいた。

「どうするんです」

「不法侵入が必要ならするだけよ」

二人は裏口から庭に侵入し、邸内に入る。

「もう収録は終わったよ」

「送信を阻止する」

「どんな権利だ」

「人命尊重のための緊急避難だ」

「報道の自由を死守するぞ」

多勢に無勢で拘束されるフクスケ。

通信機器は速水刑事が確保する。

「母親として・・・お願いするわ・・・送信させて」

「いいでしょう」

「そんな・・・」

「ノゾミが誘拐された事実」は公開された。

公開阻止の失敗を報告する二人。

管理官の上司は責任の所在を決定する。

「捜査責任者として日村係長を降格人事する」

「・・・」

警視庁捜査一課特殊犯捜査係の刑事たちは帰還した二人を詰問する。

「なんで阻止しなかった」

「お前らの不手際で・・・係長は所轄に飛ばされたぞ」

「係長・・・」

「阻止しなかった理由を言いなさい」

有能すぎる速水刑事を疎みつつ・・・藁にもすがる思いの管理官。

「誘拐犯の目的は・・・ノゾミそのものです・・・このままでは事態は進展しません」

「どういうこと・・・」

「犯人を揺さぶる必要がありました」

「それで事態が動くと・・・」

「・・・」

管理官の上司は管理官を追及する。

「あの女を外さないのか」

「一日だけ・・・待ってみます・・・それで犯人に動きがなければ」

「とにかく・・・明日までに事件を解決しろ・・・手段は選ばなくていい」

「・・・」

世界かコントロールされていないことを認めない組織の言葉である。

それに従うことが出世の秘訣だった。

「ノゾミは生後二週間の新生児です・・・誘拐されてすでに一週間・・・今日、明日にも命の危険があります・・・どうか・・・ノゾミを私に返してください」

オリンピックの金メダリストだった優子の発信力が情報を拡散する。

追従する形で報道規制を破る大手メディア。

「ノゾミ・・・可哀想」の空気が世界に浸透する。

真実を知る崎山典彦特任教授(渡辺いっけい)は脳に血栓を生じている。

抗凝固薬のヘパリンに作用を阻害する拮抗薬プロタミンを混入されて・・・その口は封じられた。

二人のデザイナーベイビーの制作者たちは密会する。

「放送を見ましたか・・・先生・・・僕は思わず笑ってしまいました」

「・・・」

ゴッドハンドの胚培養士・山原あけみ(斉藤由貴)の凍結卵子を人質にとって支配するサイコパスかつ近森優子の担当医・皆本順(細田善彦)である。

「一体・・・どうするつもりなの・・・」

「夢の実現の好機到来ですよ・・・僕たちは・・・このままでは先端技術で生命をもてあそぶ異端者だ・・・しかし・・・世論は物語に弱い・・・白血病で生命の危機にある兄を救うために・・・救世主として妹が降臨する・・・医学の勝利を謳う文脈を作り上げるんです」

「新生児をドナーとする骨髄移植は・・・危険すぎる」

「しかし・・・成功すれば問題ありません」

「つまり・・・善意の誘拐犯は・・・憐れな母親の元にノゾミを戻すのね・・・ノゾミはどこにいるの」

あけみは微笑む。

「ノゾミの友達のところに・・・」

「友達・・・」

「まあ・・・まかせてください・・・悪いようにはしませんから」

しかし・・・あけみは・・・これ以上、熱狂する若者に付き合う気持ちはなかった。

皆本は・・・自然という名の神を制御することに酔う。

けれど・・・山原はただ・・・自然では出会うことがなかった卵子と精子を出会わせ・・・自然にちょっとした悪戯を仕掛けただけの良心的な天使だったのである。

予想される苦悩を削除しただけで・・・悪気はなかったのだ。

だが・・・皆本は目的達成のためには殺人も辞さない悪魔と化し・・・新生児を理想のための供物として捧げようとしている。

子供に恵まれない憐れな母親たちを皆本は弱みにつけこんで支配しているのである。

そのために・・・人々の人生は狂い出していた。

ノゾミの友達・・・それは・・・ノゾミと同じように二人が作った子供・・・。

山原は・・・皆本が用意したノゾミの居場所を推察した。

それは・・・もう一人のデザイナーベイビーの母親(阿南敦子)の家だった。

須佐見誠二郎教授(渡部篤郎)はDNA制限酵素を発注した皆本医師を追及する。

「君は・・・近森夫妻のためにデザイナーベイビーを作ったのか」

「教授・・・本当に遺伝子操作について・・・あまりご存じないんですね」

「・・・」

「遺伝子操作には・・・恐ろしいほどの熟練が必要とされるのです・・・僕にそんなことができると思うのですか」

「じゃ・・・誰にやらせたんだ・・・」

「さあ・・・そんなことを僕に訊かれても・・・困るな」

その時・・・崎山教授の心肺が停止する。

そして・・・速水刑事が城南大学附属病院に到着する。

「崎山教授は・・・病状が安定していたのではないのですか」

「おかしい・・・まるで・・・ヘパリンが利かなかったみたいだ」

「どういうことですか」

「ちょっと待ってくれ」

須佐見は薬品の在庫リストをチェックする。

「プロタミンが紛失している」

「プロタミン・・・」

「何者かが・・・ヘパリンをプロタミンで中和した・・・ということだ」

「何者って・・・」

薬品倉庫の人の出入りをチェックする須佐見・・・。

「山原あけみ・・・だ」

山原は・・・ノゾミの友達の家を訪問していた。

「いつまで・・・その子を預かればいいんですか・・・その子・・・あの子なんでしょう」

「私が・・・預かります」

「あれも皆本先生が持って来たんです・・・確かに皆本先生には感謝してますけど・・・なんだか脅迫されているような気がするんですよ」

「この子が・・・あの時の子・・・」

ノゾミの友達の幼児を見つめる山原。

「私は・・・君が目に見えないくらい小さい時から知っているのよ・・・君はすごく強そうだった・・・元気に育っていてうれしいわ・・・」

それから・・・山原は人質に取られていた自分の卵子を処分した。

「誰かに利用されたらかわいそうだものね」

皆本は出遅れた。

「私は・・・止めたんです」

ベランダに散布された・・・生命の源・・・。

「先生の宣戦布告か・・・」

毎度おなじみの悪魔と天使の戦いが始ったのだった。

緊急捜査会議が招集される。

「すると・・・山原あけみが・・・崎山医師を・・・」

「一体・・・何のために・・・」

「それは僕が説明できるかもしれません」

管理官、西室刑事(手塚とおる)、速水刑事、そしてフクスケの前で自分に都合のいい証言を始める皆本医師・・・。

「山原先生は・・・ゴッドハンドの持ち主です・・・彼女の神秘的な技術を知った僕は・・・崎山教授に彼女のトータルケアプロジェクトへの参加を進言しました。彼女は・・・遺伝子レベルの治療を可能にしたのです」

「ゲノム編集を・・・」

「そうです・・・たとえば有森さんのご主人は・・・遺伝性進行性神経変性疾患を発症しています・・・そのままなら・・・有森家の子供は二人に一人がこの病気を発症する」

「そんな・・・」

「しかし・・・ゲノム編集で・・・受精卵の段階で・・・これを治療することができます」

「・・・」

速水刑事以外の捜査官たちは・・・皆本の言葉に踊らされ始める。

「しかし・・・それは倫理的に問題があります」

「・・・」

「そのことを崎山教授に知られ・・・僕は処分を覚悟しましたが・・・山原先生は崎山教授を説得するとおっしゃってました」

「おかしいじゃないの・・・それなら事故の時・・・あなたはそのことを証言するでしょう」

火花を散らす犯人と刑事。

しかし・・・愚かな若者を演じるサイコパスは頭を下げる。

「すみません・・・このまま・・・うやむやになればいいと・・・つい思ってしまいました・・・けれど・・・今日・・・崎山教授がお亡くなりになって・・・後悔したのです」

速水以外の捜査官たちは悪魔にたやすく心を許した。

「山原先生は自分の作品であるノゾミと一緒に自殺するつもりかも・・・」

「・・・」

悪魔の言葉に洗脳される一同。

速水だけは・・・疑いの目を注ぐ。

「山原を指名手配する」と管理官。

「待ってください。あの医者の言葉を信用するのですか」

「辻褄はあっている」

「しかし・・・女の山原さんが・・・男の崎山教授を・・・突き落とせますか」

「女が男を殺すことは珍しくない」

「・・・山原さんは・・・命を大切にしていた・・・自殺したりは・・・」

「とにかく・・・今は山原を追うしかない・・・あなたの山原に対する気分なんて問題外よ」

「けれど」

「もういい・・・帰宅しなさい」

フクスケは生意気な女が偉い女に叱られる様子に満足する。

たたき上げの西室刑事は・・・愛弟子の速水刑事を慰めるが弁護はしないのだった。

「安心しろ・・・後はまかせろ・・・」

仕方なく帰宅する・・・速水刑事。

夫の下地浩介(山崎樹範)はタコライスで義母と胎内の異母兄弟の身を案じるゾンビマニア下地雄介(若山耀人)は採取したザリガニで速水刑事を和ませるのだった。

山原は・・・挑戦的に監視カメラにノゾミを誇示した後は消息を絶っていた。

刑事たちは・・・山原の必死の逃亡にまたしても・・・お手上げになるのだった。

「なぜ・・・新生児を抱えている女が・・・簡単に行方をくらますことができる」

山原はビシネスホテルの裏口にノゾミを隠し・・・単身でチェックインし・・・それからノゾミを回収して部屋に隠れ潜んでいた。

「近森夫妻は・・・報道各社に対して公式の記者会見を開く予定です」

テレビからはニュースが流れていた。

「行くんだろう」と夫。

「行きなよ・・・お義母さん」と義理の息子。

速水刑事は頷いた。

白血病を発症した近森新(岡本拓真)に残された時間はおよそ一日となっている。

会見会場の控室で・・・近森博(池内万作)は苦悩していた。

速水刑事は揺さぶりをかけに現れる。

「あなたの気持ちを正直に話して下さい・・・それが奥様の意見とは違ったとしても」

「・・・」

記者会見がスタートする。

「あの子の命は風前の灯です」

「ご主人のお気持ちもお話ください」

「私は・・・望が・・・戻らないで欲しいと思っています」

どよめく会場。

「望が戻った後に起きることが恐ろしい・・・」

「どういうことですか」

「私の長男は・・・白血病を発症しています・・・望は・・・新を救うための救世主兄妹として・・・生まれてきたのです」

騒然となる会場。

近森優子は夫の裏切りに・・・唇を噛みしめる。

「そんなことが・・・許されると思っているんですか」

「移植のために・・・子供を作るなんて・・・人権侵害だ」

「ひどい母親だ」

「母親だからです・・・新の命を救うためにはドナーが必要なのです・・・そのために私は望を生んだ」

「母親なら何をしても許されるのですか・・・望ちゃんはあなたの道具ですか」

「そうよ・・・私は望の母親ですもの」

対峙する刑事と犯人に制御された被害者。

茫然とする一同。

管理官は呻く。

「これが・・・速水の狙い・・・」

フクスケは口を開ける。

「すごいスタンドプレイだ・・・」

西室は愛弟子の晴れ舞台にうっとりとするのだった。

「さすがだ・・・速水」

騒然とする捜査本部に一本の電話がかかる。

「不審な電話があります」

「変われ」

「速水刑事はいますか」と山原。

「私が変わる・・・」と管理官。

「お話したいことがあります・・・」

速水がノゾミの父親を揺さぶり・・・その振動は時空を越えて山原に達した。

そして、物語は・・・怒涛の終焉へ向かうのだった。

はたして・・・妊娠刑事は・・・出産刑事になるのだろうか。

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2015年11月 3日 (火)

夏ばっぱではありません(山下智久)膝枕ならしてさしあげます(石原さとみ)あて馬スターにさよならだ(田中圭)

じわり・・・と群像劇になってきたな・・・。

同じ変態でも「のだめカンタービレ」のような名作コミックと違って・・・本当に変態の原作だからな。

これを二人のスターのラブコメに仕上げるのが腕の見せ所なわけだな。

ついに連名の脚本家になってしまったぞ・・・。

これはプロデューサーが「極悪がんぼ」で負った傷の深さを物語っているな。

セレブと貧乏太郎」とか「月の恋人〜Moon Lovers〜」とかも・・・貧富の差へのこだわりがラブ・ロマンスに影を落とし過ぎてギリギリだったんだよな。

現実では確かに「マネー」と「恋愛」は切っても切れない要素なのだが・・・。

ドラマの「ラブ・ロマンス」はそれを越えた地平にあるんだよな。

今月今夜のこの月を僕の涙で曇らせて見せる・・・ほど好きだっていう・・・。

そういう話の本質を見失わないといいよねえ。

で、『5→9〜私に恋したお坊さん〜・第4回』(フジテレビ20151102PM9~)原作・相原実貴、脚本・小山正太・根本ノンジ、演出・谷村政樹を見た。原作と脚本と演出はドラマの額縁のようなものである。原作はそれ自体が芸術だが・・・それを素材として脚本家と演出家という職人がドラマという作品に仕上げるわけである。基本的に重要なのは脚本家で・・・素晴らしい脚本ならどんな演出家でもそれなりの作品に仕上げることができるが・・・脚本が失敗作ならどんな演出家にも傑作を仕上げることはできない。いい脚本にいい演出・・・これがもちろん理想である。そういう意味ではスタッフの誰かがこだわっている「心がポキッとね」で見たばかりの遊び心がここにあります的なタイトル出しは好みが分かれるところだが・・・今回はギリギリセーフの仕上がりだったと考える。足し算でなくて引き算が望ましいのである。お茶の間はただ・・・心がホットになる恋愛物語が見たいだけなのだから・・・。

本当は桜庭潤子(石原さとみ)を愛しているのだが・・・親友のフリをしているエリート商社マンの三嶋聡(古川雄輝)は・・・ストーカーのようにストレートな星川高嶺(山下智久)の登場に思わず潤子の唇を強奪して・・・気持ちを伝えようとする。

最愛の人が他の男とキスしているのを見せられショックを受ける高嶺・・・。

女装高校生の里中由希(髙田彪我)もまたショックである。

どうやら・・・ニューヨーク帰りのジェネラルマネージャー・清宮真言(田中圭)もショックだったらしい。

そして・・・三嶋を狙う毛利まさこ(紗栄子)も・・・。

群像劇的な大波紋である。

しかし、潤子は「酒の席で狂犬に嚙まれたなもの・・・」と三嶋の「恋心」をスルーするのだった。

そして・・・ビンゴで「全自動ドラム型洗濯機」を射止めるのだった。

高嶺が搬送した賞品に熱狂する桜庭家の人々・・・。

「ありがとうございました・・・もういいですよ」と高嶺をあしらう潤子。

「よくはありません」と潤子を説教する高嶺。

「いつまで・・・ガダガタ言ってんの・・・事故みたいなもんだからしょうがないでしょう」

「やったわねえ・・・洗濯機のための貯金どうしようかしら」と母・恵子(戸田恵子)・・・。

「お母さん・・・コツコツ貯めてたものねえ」と妹・寧々(恒松祐里)・・・。

「うちもパーティーでもしようか」と個人タクシーの運転手である父・満(上島竜兵)・・・。

「破廉恥な・・・みっともないとは思わないんですか」と高嶺。

「えっ」と顔色を変える満。

しかし・・・高嶺は潤子としか話していないというコントである。

「だから・・・不可抗力ですから」と高嶺の追及に弁解する潤子。

二人の世界を追及するのが困難な家族団欒の間でもわが道を行く高嶺がもたらす悲劇である。

まあ・・・傷つくのが満なのでお茶の間的には問題ないらしい。

「旅行なんてどうかしら」

「行きたい行きたい」

「お父さん仕事休むよ」

「恥を知りなさい」

「ええっ」

「酔っ払っていたわけですし」

「どこ行く」

「沖縄とか」

「やはり温泉がいいんじゃない」

「もうそれ以上言わないでください・・・吐き気がする」

「えええ・・・あんまりだよ・・・高嶺君」

「?」

今回は三周して基本に忠実だ。二周だと一種のスカシのギャグになるが・・・それは火傷の素だからな。スカシの場合は同じパターンを三度やって充分に馴染んでから・・・「やらないのかよ」というのが筋なのである。・・・なんの話だよっ。

「それより・・・温泉よ・・・どこ行く・・・そうだ・・・高嶺くんも来れば」

「ボーリングしましょうよ」

「行きます」

「友達は行きません」

「婚前旅行もかねて」

「友達でしょう」

「友達から結婚なんてすぐよね」

「僕たちは早かったね」

「すぐにお泊まりだったし」

「どこで」

「私の実家」

「まあ・・・実家なら」

「その時、潤子が出来たんだ」

「やめて」

「潤子さんが」

「そこは掘り下げない」

「お泊まりがきっかけで結婚したのよね」

「やめてよ」

「お泊まりで結婚・・・お泊まりで結婚・・・お泊まりでけ」

こうして・・・一橋寺宿坊作戦がスタートしたのだった。

素晴らしい一幕であり・・・こういうものの丁寧な積み重ねがクリスマス・イブに続く道であるといいねえ。

それはホーリーナイト・・・聖の夜なのだから・・・。

「宿坊ですと・・・」と両親が事故死した高嶺のためにつなぎの住職を務める寺田光栄(小野武彦)・・・。父親代わり光栄は高嶺の恋の応援団である。

親鸞のように・・・人としての自由な精神の動きこそが・・・御仏の道と心得る宗派らしい。

「宿坊って何ですか」と最年少小坊主の那覇三休(寺田心)・・・。

「宿坊とは・・・僧侶や参拝者のために作られる宿泊施設です。この寺の場合は一般の人々を寺にお泊めしておもてなしし・・・仏教について親しんでもらう狙いがございます」

「私は反対です・・・元総理大臣の法要が近いのですよ・・・新しい事業を始める時期ではありません」と高嶺の恋路を邪魔する女魔王・星川ひばり(加賀まりこ)は正論を吐くのだった。

ひばりは由緒正しい一橋寺に心を奪われた亡者なのである。

後継者が由緒正しいものであることを一番に思う鬼婆なのだ。

由緒正しい檀家である足利家の娘・香織(吉本実憂)を高嶺の許嫁と決め、潤子を不倶戴天の敵と定めている困ったお方である。

しかし・・・高嶺の思いは「お泊まりで結婚」なのであって・・・ひばりの地方出張を狙って、宿坊作戦を開始する。

英会話学校ELAで高嶺は潤子を誘う。

「お断りします」

だが・・・高嶺は権力にものを言わせ・・・ELA本部から通達を発する。

「一橋寺の宿坊に逗留することを命ず」

どんな社命だよっ。

仕方なく・・・BLマニアの正社員講師・山渕百絵(高梨臨)を同伴する潤子。

潤子、百絵、まさ子って・・・中三トリオか。

・・・それ・・・どうしても言う必要あるの。

百絵は「お坊さん→男色→美坊主」という発想でノリノリである。

百絵の要求に応えカメラの前でポーズをとる一教寺・美僧侶軍団。

しかし・・・予定を早めに切り上げ・・・ひばり来襲である。

高嶺はこそこそと潤子たちをいつもの離れに隔離するのだった。

ELAの人気講師である木村アーサー(速水もこみち)は高嶺の恋の師匠として招聘されるのだった。

潤子をひばりから隠蔽する作戦で・・・熟女キラーの腕前を発揮するアーサー師匠。

「夜空に星が一つ足りないと思っていたら・・・ここにいらっしゃったのですね」

「まあ・・・」

美辞麗句に頬を染めるひばりだった。

潤子をもてなすために徹夜でカニを茹でた高嶺。

「あら・・・豪華なのね」と百絵も驚く。

「カニ・・・」と目が眩む潤子。

「高嶺君がすべて用意したそうですよ」と助け舟を出すアーサー師匠。

高嶺に胃袋を掴まれる潤子だった。

「法要があるのにそんなに無理して大丈夫なんですか」

「・・・」

「寝不足なんじゃ・・・」

「眠っていません・・・瞑想ですよ」

写経などを済ませると・・・早くも暇を持て余す宿泊客。

「ゲームなどいかがですか・・・」

「ゲームなんてあるんですか」

「百人一首があります」

「坊主めくりですね」

何故か・・・坊主めくりに熱狂する潤子だった。

運命なんだな。

嬉々として坊主をめくりまくる潤子以外は睡魔に襲われる一同。

「もう寝ましょうか」

「・・・眠っていません・・・瞑想ですよ」

高嶺は潤子と一夜を共にしたかったのだが・・・結局、枕を並べる四人である。

潤子・高嶺・師匠・百絵という並び・・・。

師匠は百絵を背後から攻めるのだが・・・処女なので凍りつく百絵。

その反応の無さに・・・深読みしすぎた師匠は・・・自縛されてしまうのだった。

(おかしい・・・百絵先生の心が読めない)

(男の人と寝ている・・・男の人と寝ている・・・男の人と寝ている)

一方・・・潤子は少なからず高嶺を意識している。

(きっと・・・私をじっと見ている)

(・・・)

(ああ・・・気になってしょうがない)

(・・・)

(自然な感じで寝がえりをうって)

見開いた高嶺の目と遭遇する潤子・・・。

「きゃあ・・・」

「どうしました」

「潤子さん・・・」

しかし・・・高嶺は目を見開いたまま熟睡しているのだった。

「・・・お疲れだったのでしょうね」と師匠。

「・・・」

ここで・・・師匠とともに・・・百絵も・・・高嶺応援団になったようだ。

翌朝・・・廊下で潤子は高嶺と遭遇する。

「その花は・・・」

「毎朝・・・私の両親の墓に備えているのです」

「え・・・」

「幼い頃・・・両親は事故で・・・」

高嶺の孤独な生い立ちに心が揺らぐ潤子・・・なにしろ・・・舅とか姑がいないのはある意味、得点が高い。・・・おいっ。

しかし・・・そこに猛獣ひばり登場である。

「け、汚らわしい・・・」

「お、お許しください」

「潤子さんに罪はありません」

「きーっ、許しません」

宿坊作戦終了である。

さて・・・波紋のその後である。

あの夜を機会に交際しようとしていた三嶋は「酒の上の戯れ」で「セクハラ扱い」でぎゃふんである。

三嶋を狙うまさ子は「収入三千万ないと射程外」と心にもない絶縁宣言をして涙。

「あの夜は何もなかった」と聞かされて露骨に安堵する三嶋だった。

しかし・・・それが本当かどうかはまさ子のみぞ知るである。

泣いているまさ子は高級なお店の経営者である高校生・「渋谷王子」こと蜂屋蓮司(長妻怜央)に遭遇する。

「面倒くさいことしているね」

「高校生には関係ないわ」

だが・・・引き籠りになっている女装少年のために・・・妹・寧々をつかって渋谷王子は潤子を高級ホテルのスイート・ルームにおびき出すのだった。

面倒臭くないのか。

ちなみに・・・桜庭一家は熱海温泉旅行中である。

そして・・・ジェネラルマネージャー・清宮真言はデスクから古い手紙を取り出す。

「いつか・・・一緒にニューヨークで」という潤子の手紙。

そして・・・「一緒にニューヨークで暮らそう」という・・・清宮自身の出さなかった手紙である。

2012年に・・・清宮はラブレターを出せなかったらしい。

やはり・・・お前もかである。

まあ・・・どう考えても当て馬なんですけどね。

女装少年を案じて・・・ホテルを訪ねる潤子。

少年は裸になって・・・気持ちを伝えるのだった。

「僕は・・・潤子ちゃんが好き・・・」

「えええ」

状況を知って駆けつける高嶺。

そこで高嶺が見たのは・・・泣きじゃくる少年を慰める潤子の姿だった。

「君が・・・男だと言うことは知っていた」

「えええ」と高嶺の心眼に驚く潤子。

「君の気持ちはよくわかる・・・愛する女性が目の前で他の男性とキスをするところを見せられては・・・心が砕ける思いでしょう」

「やめてください」

「しかし・・・そういう試練に立ち向かうのが・・・人の道なのです」

「何・・・言ってるんですか・・・」

「励ましています・・・彼と私自身を」

「先生・・・僕のこと嫌いになった」

「そんなことありませんよ・・・あなたは私の大切な生徒ですから」

常に恋愛モードにはならない潤子らしい。

少年の頭を撫でる潤子に・・・嫉妬で心が砕ける高嶺である。

桜庭家に戻った高嶺と潤子・・・二人きりの夜である。

「たとえ・・・男の子でも・・・心を許してはいけません」

「・・・」

「あなたは隙だらけなんです」

「隙なんてありません」

「今だって」

タンスを叩く高嶺・・・。

「壁ドン↘・・・です」

「壁ドン↗・・・ですよ」

見つめ合う二人・・・そこへお約束で帰還する旅人たち。

「これ・・・お土産・・・」

熱海製のクマの置物、熱海製の熊手、熱海製の木刀をもらう高嶺であった。

熱海・・・なんでもあるな。

その頃・・・意味ありげに客を見つめる女バーテンダーのいる店で親密になる三嶋と清宮。

「そうか・・・思いは伝えないとね」

「はあ・・・」

「僕も・・・好きな人には好きだと言わないとダメだと最近、思い知ったよ」

「はあ・・・」

翌朝・・・ELAの事務員・伊能蘭(中村アン)は潤子に高峰の欠席を告げる。

「ご病気だそうです」

「・・・」

「潤子先生のために無理をしていたからなあ・・・」と高嶺を応援する師匠。

「そんなこと言われても・・・」

「ですよねえ・・・でも・・・大事な法要・・・あるんですよね」

百絵はなんとなく・・・師匠に同意するのだった。

高熱を発し病床に伏す高嶺を・・・許嫁の足利香織は懸命に看病する。

仕方なく・・・高嶺の見舞いにやってきた潤子。

応対するものの無いまま・・・かなり馴染んできている寺の中に侵入である。

「それじゃあ・・・高嶺は絶望的なんですか」

廊下に響くひばりの声を立ち聞きして身を竦ませる潤子。

そして・・・香織が水を汲みに行っている間隙を縫っていつもの離れに到着である。

「星川さん・・・大丈夫ですか」

「潤子さん・・・来てくれたのですか」

「無理をするから・・・」

「お願いがあります・・・」

「できることなら・・・してさしあげます」

「手を握ってください」

「・・・はいはい」

その手に縋り・・・身を起こす高嶺・・・。

「寝ていなくちゃ・・・ダメですよ」

「あなたの手料理が食べてみたい」

「私・・・下手ですけど・・・」

「あなたと・・・デートがしたい・・・」

「・・・はいはい・・・」

「あなたと・・・夫婦になりたい・・・あなたと家族になりたい」

「・・・それは無理だって言ったでしょう・・・病気だからって調子に乗りすぎです」

「・・・」

脱力して潤子の膝に頭を落す高嶺・・・。

「しばらく・・・このままで・・・よろしいですか」

「・・・いいですよ」

眠りに落ちる高嶺・・・。

その有髪の頭をそっと撫でる潤子・・・。

二人のいい感じに立ちすくむ香織だった。

翌朝である。

布団の中で一人目を覚ます潤子。

すでに僧衣に身を包んだ高嶺と廊下で遭遇する。

「大丈夫なんですか・・・」

「あなたのおかげで・・・全快いたしました」

「嘘・・・!」

愛の効力である。

霊験なのだ。

「観自在菩薩行深般若波羅蜜多時・・・」

智恵を求めるものは自由自在に真実を見極めるものとなる。

新たなる悟りを得たように法要の務めを果たす高嶺だった。

その姿を忌々しく見つめるひばり・・・。

「ひばり様・・・私はあきらめません」

香織の続投宣言である。

悪の組織の総裁と構成員のような二人だった。

そして・・・当て馬の真打ち登場である。

潤子に電話する三人の男たち。

潤子を求める三嶋・・・そして高嶺。

しかし・・・潤子は清宮の前に姿を見せる。

「一緒にニューヨークに行こう」

ついに・・・清宮は高嶺の恋敵としての正体を明かしたのだった。

潤子・・・本当に・・・モテモテだな。

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A001ごっこガーデン。平成財閥秘蔵曼荼羅ご開帳セット。

エリキャー、隣りで高嶺P先輩が寝ていると考えただけではうぅ~んでス~。そして、なし崩し的膝枕の術にうっとりなのでス~。次々と二人の仲を邪魔する悪の秘密組織・・・そして繰り出される怪人たち・・・。いきなりキス魔人やラブレター出せない男、そして少女みたいな美少年に負けてはなりませぬ~。がんばれ、高嶺P先輩・・・私をめくるめく曼荼羅無限の桃源郷に連れてって~!・・・そして坊主めくりで徹夜するのでス~・・・じいや、P猫ロイドをよろしくね~」

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2015年11月 2日 (月)

西郷もいいかげんにしないか・・・明治十年西南戦争(東山紀之)

国家の話である。

国家が生まれて十年・・・。

その形は未だ定まらず・・・蠢動はおさまらない。

明治維新を成し遂げたものたちは・・・それぞれの志によって・・・袂を分かって行く。

議会を作らなければならない・・・木戸孝允は夢を見て一度は捨てた参議の席に戻った。

鉄道を作らなければならない。伊藤博文は工部卿として鉄道建設を推進しようとした。

国民を教育しなければならない。明治五年(1852年)に「学制」が発せられ、明治十年(1877年)には「教育令」発布の準備が始る。

中央直轄か地方自治か・・・教育方法をめぐり・・・方針は二転三転する。

この時代・・・教育は未だ無償では受けられない。

諸々の新政府の事業をすべて停止させる一大事。

それが陸軍大将・西郷隆盛による反乱である。

西郷は「私学校」と言う名の「士族専門軍事学校」を創立し・・・結果として反乱を招く。

陸軍中将・山縣有朋は鹿児島県逆徒征討軍を・・・実質的に率いる司令官となった。

最期の内戦の勃発に・・・心ある人々は涙した。

で、『燃ゆ・第44回』(NHK総合20151101PM8~)脚本・小松江里子、演出・末永創を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は年末年賀状体制発動のためにイラスト描き下ろしはお休みです。あくまでマイペースでお願いします。

「本日お届けするのはおなじみの杉文あらためまして久坂美和でございます」

「うわあ」

「なんと今回は特別に前回に続いて楫取素彦の抱擁をセットでお届けします」

「きゃああ」

「とにかく名高い吉田松陰の妹の美和ですので・・・あの毛利家夫人の安子様、さらには木戸家夫人の松子様、身分の上下を問わず絶賛の嵐です」

「すごおい」

「政府の命令で学制を整えなければならない県令一家が出費を惜しむ地元の人々をゴリ押しで説得してしまう豪華特典つき」

「さすがだわあ」

「そして・・・有名な西南戦争もちょっぴりサービス」

「へ~え~」

「初恋の人と結ばれるための用意も着々と進み、正妻自らが身を引いて行くというスムーズ展開」

「まあ」

「今回は回想シーンも出血大サービス」

「ふ~ん」

「その上受信料は据え置きです」

「やったわあ」

「どなた様もこのチャンスをお見逃しなく!」

こんな深夜の通販みたいな大河はある意味、珍しいと言えましょう。

Hanamoe44明治九年(1876年)三月、松下村塾出身の野村靖が神奈川県権令(五等官)に任じられる。県令は海援隊出身で陸奥宗光の妹婿・中島信行。野村は明治11年(1878年)に県令(四等官)に出世する。明治五年発布の「学制」により、国民皆学を目指したが費用負担を国民に課したためにまったく浸透しなかった。このために「教育令」による改革が叫ばれる。しかし、費用負担を国民に課す姿勢は変わらず、結局、国民の自主性に頼る他はなかったのが実情である。それでも向学心に燃える一部の人々によって国民教育は徐々に浸透していく。明治二年(1869年)に東京~京都を結ぶ中山道幹線鉄道建設計画が新政府によって計画されるが実現は困難なものとなる。工部卿・伊藤博文は民間事業への委託を模索し、半官半民の会社「日本鉄道」が設立されることとなる。結局、上野~前橋が開通するのは明治十七年(1884年)のこととなる。越前松平氏の旧前橋藩と大河内松平氏の旧高崎藩は利根川をはさんで前橋城と高崎城が隣接する宿敵同志である。県庁所在地をめぐって誘致合戦が行われるが生糸の輸出で財を成していた前橋が金五万円を捻出し高崎にあった県庁を移転させることに成功するのだった。

伊藤佐助とともに美和は銀座の街を歩いていた。

旧主の夫人である毛利安子に頼まれて木村屋であんパンを購入したのである。

一昨年の春、花見の際に山岡鉄舟が明治天皇に献上し、それ以来宮内省御用達となっている。東京名物であった。

佐助は小柄だが・・・忍びとして膂力がある。

風呂敷包み一杯の土産の品を軽々と担いでいる。

「いい香りが背中から漂ってつばがとまりませぬ」

「だらしがないの」

美和は微笑んだ。

三十路も半ばにさしかかった美和は洋装である。

美和と佐助は皇居を右に見ながら麻布へと歩いて行く。

あんパンの届け先は和宮屋敷だった。

毛利元徳が御用銀行の頭取に就任した祝いの品が和宮から寄せられ、その返礼としてあんパンを贈ることを決めたのは安子だった。

「あんパンですか・・・」

「和宮様は・・・大の甘党じゃそうな」

「なるほど・・・」

「私も食してみたが・・・大層美味であったぞ」

「まあ・・・」

和宮屋敷は元の八戸藩屋敷である。

薩摩藩から南部藩へ養子に出た藩主・南部信順はすでに他界している。

麻布の森に囲まれた和宮屋敷の手前で佐助がつぶやいた。

「これは・・・」

「うむ・・・結構な数の忍びが潜んでおるの・・・」

「さすがは・・・元の御台所様ですね・・・」

「そもそも・・・やんごとなきお方じゃ・・・孝明天皇の四鬼というしのびがお守りしていると言う噂がある」

「そいつは恐ろしゅうございますな」

「妙な悪戯心は無用じゃぞ」

「心得ております」

しかし・・・帰り道・・・佐助は森の中の術者に術比べを挑み・・・危うく命を落しかけるのだった。

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2015年11月 1日 (日)

華麗なる跳躍探偵(新垣結衣)美女の踏み台にされる男始めました(岡田将生)犯人はこの中にいます(入山法子)

芸術家と職人の境界線は曖昧だ。

自称・芸術家より腕のいい職人の方が社会的な信用は高い。

しかし・・・腕のいい百円ライターは心のどこかで文豪に憧れている。

できれば・・・文豪として死にたいものである。

だが・・・たとえ・・・ライトノベル職人であっても・・・心は文豪でいいわけである。

多くの受け手にとって送り手が何者かは問題ではない。

漆職人の器も漆芸家の器も漆器に変わりはないのである。

アーティストとマエストロの違いなんてどうでもいいもんね。

で、『掟上今日子の備忘録・第4回』(日本テレビ20151031PM9~)原作・西尾維新、脚本・野木亜紀子、演出・茂山佳則を見た。東洋美術館の額縁すり替え事件で隠舘厄介(岡田将生)は額縁職人界の巨匠・和久井(山田明郷)と知りあう。和久井は額縁職人として財を成し、その金で芸術家の卵たちに資金援助をしていた。引退を考える和久井は最期の額縁制作にあたり、それに相応しい絵画を発注したのだった。和久井にとって額縁と絵画は一対の芸術作品だったのである。和久井が芸術家の卵である「絵描き」たちを住まわせる十四階建てのマンション「アトリエ荘」に呼び出された厄介は置手紙探偵事務所の掟上今日子(新垣結衣)とともに「美術商からの妨害工作に対して額縁制作現場の警備にあたること」を依頼される。

どうせ忘れられてしまい・・・前回は恋愛感情のスルーを宣言された厄介だったが・・・愛しい今日子に会う機会を見逃すわけにはいかなかったのだ。

「え~・・・マンションにただで住めるなんていいなあ・・・」

喫茶店「サンドグラス」のウエイトレス・幕間まくる(内田理央)は呟く。

悪魔的な「サンドグラス」のオーナー・絆井法郎(及川光博)は反駁する。

「うちのアパルトマンだって入居無料ではありませんか」

「だって・・・出会いがないし・・・」

「ここには独身男性が三人もいるのに・・・」と今日子。

厄介、法郎、そして潜入捜査員の也川塗(有岡大貴)は身構える。

殺気を孕んだまくるの格闘術の型が披露されて・・・。

「問題外ですよ・・・まず・・・私より強い人でないと・・・」

「どんな格闘アニメキャラですかっ」

厄介から依頼内容を聞いた今日子・・・。

「24時間警備するとなると半日交代ですね・・・しかし・・・探偵は警備員ではないので」

「ですよね・・・」

「それより・・・すでに事件は始っている可能性が高いのです」

「え」

「依頼者は嘘をつく・・・身の危険を感じるからこそ・・・警備を頼んだわけでしょう・・・相手は美術商ではなく・・・もっと身近にいる可能性があります・・・」

「そんな・・・」

「行きましょう」

今日子は覚えていないのだが・・・ふられたことを少し意識する厄介の態度。

「前回、何かありましたか」

「いえ・・・とくに・・・」

「しかし・・・何か私に含むところがあるような」

「何もありません」

「しかし・・・絶世の美女と一緒にいる喜びがありませんね」

「う」

「・・・冗談ですよ」

「そんな・・・今日子さんは・・・絶世の美女です・・・モデルにだってなれますよ」

「考えておきましょう」

アトリエ荘に到着する今日子と厄介。

しかし・・・101号室の和久井は応答せず・・・オートロックのマンションには入管できない。

厄介は知り合いの1402号室に住む天才少年・剥井陸(高木星来)を呼び出すがやはり応答はない。

今日子はロビーの三毛猫のかわいさに目を奪われる。

「かわいいにゃあ」

かわいいよ、ガッキーかわいいよ・・・である。

仕方なく裏口を捜す二人。

「モデルでなかったら・・・バレーボールの選手もいいかもしれません」

「今日子さんが・・・バレーボールですか」

「捨てたものじゃないのですよ」

今日子は厄介にレシーブのポーズを取らせると・・・厄介の手を踏み台にして忍者のようにマンションの壁を乗り越えるのだった。

「何か・・・見えた」

眩暈を感じる厄介。

そして・・・なぜか・・・壁の向こうで縄梯子を発見する今日子。

こうして・・・二人はマンションに侵入し・・・地下のアトリエで・・・負傷して倒れている和久井を発見するのだった。

「救急車を呼んで・・・止血して・・・心臓マッサージをして」

「心マ変わります」

「じゃ・・・私は人工呼吸を・・・」

「そ、それは僕が・・・」

おっさんと今日子のマウス・トゥ・マウスを阻止する厄介だった。

一瞬、意識を取り戻す和久井氏・・・。

「だれに刺されたんですか・・・」

「・・・」

しかし・・・和久井氏は黙秘する。

「警察には・・・」

「病院から通報がいくはずです・・・それより始めましょう」

「何を・・・」

「被害者は犯人をかばっていた・・・そして・・・我々が到着してから・・・マンションに出入りした人間はいない・・・つまり・・・犯人はこの建物の中にいます・・・私たちは・・・警察が到着する前に犯人を捜し出し・・・自首させなければなりません」

掟上今日子は名探偵なのである。

地下室に残された手掛かりを捜索する今日子。

潜入探偵は付近の住人からマンションの周辺事情を聴取する。

厄介は被害者の肉親である和久井氏の孫に事態を連絡する。

「和久井氏は・・・全員に絵画を発注しました・・・最期の額縁に相応しい作品を」

「いいえ・・・このマンションの住人は37人・・・発注されたキャンバスは35枚よ・・・」

「二人だけが・・・候補にエントリーされなかったのか」

「枠組みの大きさから該当者を断定しようとしたけれど・・・額縁の材料の発注伝票は何者かが持ち去っている」

「どうしましょう」

「一件ずつ当たるわよ・・・長い午後になりそうね」

「一人10分でも・・・37人だと六時間以上かかりますよ・・・」

「大変・・・眠たくなっちゃう・・・」

「・・・」

201号室・小柴風太(角田晃広)の証言。

「一人だけが栄冠を勝ち取れる・・・いいじゃないか・・・芸術家は自分の作品を信じている。このマンションの住人は・・・芸術だけに打ち込む喜びを感じて・・・やっているんだ・・・絵具の匂いを嗅ぐのはやめてください。コウノドリの麻酔医に続いて東京03参上・・・飯塚はももクロchanに出てるから今週は全員出たのです」

202号室・加賀笙子(入山法子)の証言。

「パソコン禁止、携帯禁止、禁酒、禁煙、恋愛禁止、ギャンブル禁止・・・マンション内の交遊も禁止・・・ひたすら芸術活動に打ち込むことがアトリエ荘のルール。生活費もギリギリで・・・静物デッサンのリンゴも食用だけど・・・芸術家は孤独なものだからね・・・発注されなかった人・・・それなら・・・高級品の辰之屋のキャンバスの所持の有無でわかるんじゃないかな・・・支給されなきゃ・・・みんな貧乏で買えないから」

「なるほど・・・メモ用紙も使いまわしですか・・・」

「・・・」

今日子は折り目のついた紙に注目した。

203号室。本竹(越村友一)の証言。

「きっと・・・一人は・・・303号室の住人だな・・・昨日、突然、引越したから」

なんだかんだで・・・12階にたどり着いた二人は非常階段で血痕を発見する。

「絵具では・・・」

「血です」

「嗅ぐのはやめてください」

「犯人はこの上にいます・・・しかし・・・なんで非常階段を・・・」

「あ」

厄介はエレベーターの階数ボタンに手が届かずに12階以上は歩く人物に思い当たる。

1402号室の天才少年・剥井陸・・・。

「あなたは・・・選ばれなかったのですね」

「そうだよ・・・」

「おかしいですね・・・あなたは天才なのに・・・」

「・・・」

「だから・・・あなたは和久井さんに文句を言いに行った・・・そこで事件に遭遇し・・・犯人を庇って・・・伝票を持ち去った・・・」

「・・・」

「なんということでしょう・・・伝票には・・・35枚分の・・・額縁の発注があった・・・つまり・・・和久井さんは発注した全員分額縁を作る気だった・・・」

「・・・」

「つまり・・・引っ越した人と・・・あなただけが選ばれなかった・・・屈辱だったでしょうね」

「・・・そりゃそうだろう」

「しかし・・・もっと怒った人がいたのです・・・おそらく・・・その人は芸術家として金メダルが欲しかったのに・・・全員金メダルってなんだよっ・・・ふざけんなと思いました。和久井さんを神のように尊敬していたその人は・・・逆上したのです・・・あなたはその人を庇っていますね」

「なんでだよ・・・」

「彼女が綺麗なお姉さんだから・・・」

「おいっ」

人間関係を拒絶した芸術家たち・・・。

しかし・・・彼らは・・・絵を描く・・・。

何のために・・・。

例外はあるとしても・・・誰かに見せるために・・・。

孤独であればあるほど・・・芸術家たちは・・・人恋しいのである。

潜入捜査員は調べた。

マンションから紙飛行機が飛ばされたことを・・・。

色の嫌いな少年画伯の・・・作品が描かれた紙飛行機。

その紙飛行機の束が・・・202号室にあった。

加賀笙子と少年画伯は禁断の恋をしていたのだった。

「お姉さん受けの少年攻めですか」

「おいっ・・・」

色とりどりの家族を捨てた少年は美人画家の色香に迷い黄色い絵の具のついたペインティングナイフ(凶器)を現場から持ち去ったのだ。

今日子は加賀笙子を責める。

「彼からの紙飛行機伝言で・・・私の記憶をリセットしようとしていますね」

「人生は365日の紙飛行機ね」

「まさしく・・・あなたは神に裏切られた・・・妥協を許さない厳しい世界を凌辱されたと思った・・・しかし・・・殺人という芸術以外の行為をしたあなたも・・・同罪なのでは・・・」

「自首します」

「ありがとうございます・・・しかし・・・ひとつだけ・・・和久井氏を弁護しておきましょう」

「?」

「潜入探偵の捜査によると・・・和久井さんは東京国際美術館に展示スペースを発注しています」

「それがどうしたの」

「35枚のキャンバスの総面積は15.75平方メートルになります・・・展示スペースの大きさは・・・縦3.5メートル横4.5メートル・・・つまり和久井さんは自分の額縁にすべての作品を収めたひとつの芸術作品を作ろうとしていたのです・・・自分の芸術のために他の人のことなどどうでもよかった・・・少年画伯に発注がなかったのは・・・黒は不要だったからと思われます」

「あ・・・」

「つまり・・・和久井さんは神だったのです・・・自分自身の芸術に忠実だった」

「・・・」

「罪をつぐなって戻ってきて絵を完成させてください。和久井さんは意識を回復して・・・あなたをかばった。おそらく和久井さんは殺人者だろうが変質者だろうが・・・芸術の価値とは無関係と考えるタイプだと思います」

「・・・確かに」

「1983年、23才の若きアーティストであるジャン=ミシェル・バスキアは55才のポップアートの巨匠・アンディ・ウォーホールと出会う。二人はつかのま・・・激しくスパークしあうが・・・1987年、58才のウォーホールは心臓麻痺で死去し、その翌年、27才のバスキアはヘロインの過剰摂取で死亡する・・・人はいつか死ぬし、芸術もやがて忘れ去られます」

「・・・ですね」

遠浅刑事(工藤俊作)と新米刑事(岡村優)は・・・美人画家を連行した。

少年画伯は綺麗なお姉さんを失ったのだった。

夜の闇にピンクのイルミネーションが浮かぶ時刻・・・。

「今日子さんは・・・昔・・・僕にはワトソンは向いていないと言いました。けれど・・・少し調べた限りではワトソンって凡人じゃないですか・・・僕は不運と凡人であることには自信があるんです」

「・・・」

「僕なら今日子さんに迫る危険を最悪の不運でガードできます」

「・・・帰ります・・・」

一瞬、拒絶されたような厄介。

「どうしたんですか・・・送ってくれないんですか・・・相棒なんでしょう」

昇天する厄介。

「家・・・どこですか」

「厄介さんも知っています」

そこは・・・「サンドグラス」だった。

「え」

そこに潜入探偵が帰還する。

「今日子さん・・・これ・・・今日の調査料の請求書」

「あ・・・しまった・・・今日の探偵料金・・・」

「後日・・・和久井さんに請求すれば・・・」

「記憶にありません」

「・・・」

「これ・・・相棒として・・・払っといてください」

「ええ・・・そんな・・・」

「じゃ・・・相棒解消です」

「えええ」

「おやすみなさい」

「今日子さん・・・」

甘い・・・甘いぞ・・・二人の仲が・・・。

ロマンチックでよろしいですなあ・・・。

なかなかのラブコメ職人仕事と申せますなあ。

ミステリだって立派な芸術ですからねえ。

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