産む予定の女(黒木メイサ)産んだ女(安達祐実)産まなかった女(斉藤由貴)
あっと言う間の全八回である。
面白かったなあ・・・。
澱みない展開と魅力的なセリフにあふれた脚本。
見せるべきものと隠すべきものを心得たスムーズな演出。
物語を語りつくす配役の妙。
本年度の拙い「大河ドラマ」を作っている局とは思えない魅力あふれる完成度である。
・・・スタッフが全然違うぞ。
まあ・・・下請けの制作会社が作っているんですけどね。
この面白さに気がつかないお茶の間は大変に残念なことである。
まあ・・・深夜に再放送があるのでアレなわけだが・・・。
で、『デザイナーベイビー~速水刑事、産休前の難事件~・最終回(全8話)』(NHK総合20151110PM10~)原作・岡井崇、脚本・早船歌江子、演出・岩本仁志を見た。人類は増殖する。人類はそれぞれの個性を持っている。心身が生み出す個性は意識を形成し、世界と自分を分離する。分離された個人の自由や権利を世界が認めるか否かの定義は曖昧なものである。個人と個人は関係を持ち共同作業を行う。連帯も闘争も同じ共同作業に過ぎない。個人から個人が生じる妊娠出産成長というステージにおいて未分離の個人の存在は世界に複雑な問題を投げかける。「それ」は・・・まだ人間ではないのか・・・それとももう人間なのか・・・という疑念に基づく難問だ。
生育の各段階で「法」は「それ」を規定するが・・・規定そのものに対する人類すべての同意は得られていない。
「それ」が権利を主張しない以上・・・義務を科すのは公平ではないという考え方がある。
「それ」をどうするかについて・・・一番苦悩するのは「母親」であることが一般的である。
だが・・・世界は個人の自由を無制限に認めることはできないのだった。
「速水刑事と話したい・・・」
新生児ノゾミ誘拐犯の山原あけみ(斉藤由貴)は与那国令子管理官(松下由樹)に要求する。
金曜日・・・。
捜査本部に待機する妊婦刑事・速水悠里(黒木メイサ)は山原からのコンタクトを待っていた。
「大変そうね・・・」
「ええ・・・組織ですから」
「ノゾミの両親の会見を見た・・・彼女・・・凄い覚悟だったわ・・・」
ノゾミの母親である近森優子(安達祐実)は白血病を発症したノゾミの兄・近森新(岡本拓真)へ新生児であるノゾミの骨髄からの造血幹細胞移植治療を実行しようとしていた。それはドナーとなるノゾミの生命を脅かす重大なリスクを伴っている。
「しかし・・・父親は骨髄移植には反対だと・・・」
「あの母親の元へ・・・ノゾミを返すわけにはいかない・・・」
「山原さん・・・」
「逆探知できました・・・池袋駅東口の公衆電話」
「捜査官をただちに派遣」
「ノゾミの運命を・・・こんな風にするつもりはなかった・・・」
その時・・・公衆電話周辺の一般市民に過剰反応する山原。
通話は打ち切られた。
「速水・・・現場に向かいなさい」
「管理官・・・」
「山原を説得する必要があるかもしれないから・・・」
追い込まれた与那国管理官はついに警察官僚としての有能さを発揮するのだった。
安全地帯に身を置く管理官の上司(半海一晃)は用心深く状況を見つめる。
「フク・・・いくよ」
「ついに・・・スケを・・・省略・・・」
しかし・・・管理官から認知された上司を認めないわけにはいかないフクスケこと土橋福助刑事(渡辺大知)だった。
逃走する山原を・・・捜査官たちは懸命に追跡し・・・包囲網を閉じて行く。
新生児を抱えた逃走犯は・・・抜群の逃げ足を見せるのだった。
「山原は個人タクシーに乗車・・・車体は白」
「東口で下車」
「山原はタクシーに乗車・・・車体は黒」
「・・・商店街で目撃情報あり」
「大型家具店で・・・山原を目撃」
山原は事務室に侵入した。
刑事が突入するが・・・山原はカッターナイフで威嚇する。
「近付いたら・・・ノゾミを・・・この子を殺して・・・私も死ぬ」
「待て・・・」
速水刑事が現場に到着する。
「山原さん・・・」
「店から人を出して・・・シャッターを下ろして・・・ここに電話して」
山原は立て籠もった。
ノゾミ誘拐事件は大詰めに入っていた。
警視庁捜査一課特殊犯捜査係の日村係長(神保悟志)は現場に再び召喚された。
「何か問題が起きた時に・・・陣頭指揮をとっていた誰かが必要だからな」
管理官の上司の保身のための見事な采配である。
「この女に電話させるのか・・・」
「犯人のご指名ですから・・・」
与那国管理官の腹は据わりはじめる。
事件解決のために・・・手段は選べないのだった。
電話が鳴った。
「随分・・・待たせたわね・・・」
「いろいろと準備が・・・」
「組織だからね」
「そうです・・・要求がありますか」
「車を用意して・・・GPSのついてない奴・・・」
「こちらからも・・・お願いがあります」
「・・・」
「人質交換をお願いします」
「私が・・・ノゾミを手放すと思ってるの・・・」
「山原さんは・・・ノゾミを守りたかったんですよね・・・でも・・・ノゾミは生後二週間にしては充分すぎるほど旅をしています・・・環境変化のストレスから・・・解放してあげてください」
「ダメよ・・・ノゾミは私が育てる・・・どうしても交換するというのなら・・・アラタね・・・あの女にそう伝えて・・・」
通話は切られた。
「馬鹿な・・・アラタは重体なんだろう・・・」
「なぜ・・・あんなことを・・・」
「山原さんに・・・冷静になってもらうためです・・・この状況で・・・逃亡なんて無理ですし・・・ノゾミに危害を加えるくらいなら・・・最初から・・・誘拐なんてしていなかった・・・と」
「・・・」
「母親にはメッセージを伝えてください・・・犯人からの要求ですから・・・」
「わかったわ」
速水刑事と管理官に阿吽の呼吸が生じだす。
城南大学附属病院産婦人科では崎山典彦特任教授(渡辺いっけい)殺害犯であるサイコパス・皆本順(細田善彦)が危険を察知していた。
須佐見誠二郎教授(渡部篤郎)に縋る皆本。
「僕が犯人になったら・・・病院としてもまずいでしょう・・・アリバイを偽証してください」
「やってもいいが・・・本当のことは知りたい」
「もちろん・・・やるべきことはやりましたよ」
「君は・・・国家試験には合格したかもしれないが・・・人間失格だ・・・」
「え」
刑事たちが現れた。
「いろいろと証拠があがってきてね・・・」と本当は主役である西室刑事(手塚とおる)が決める。
「ははは・・・僕を逮捕したって無駄だ・・・扉は開かれたんだ・・・医学は輝ける未来に向かって」
「御託は署できくよ」
言わせない西室刑事だった。
「須佐見先生・・・情報提供をお願いできますか・・・弟子からおつかいを頼まれちゃって・・・」
「主人公特権ですな・・・お答えできることはお答えします」
ノゾミの居場所を伝えられた近森優子は長距離ランナーのスピードで現場にやってくる。
「そこにいるんでしょう・・・メグミを返して」
警官に制止される優子。
山原は110番通報した。
「近森さんをお招きするわ・・・」
「一人で行かせるわけにはいかないので・・・私も一緒でいいですか」
「・・・いいわよ」
「被害者の母親と・・・妊婦を行かせるのか・・・」と管理官の上司。
「私が全責任を負います・・・捜査官の中で・・・山原の心を一番理解しているのは・・・速水刑事だから・・・説得させます」
「ち・・・女どもめ・・・どうなっても知らないぞ」と安全を確認する管理官の名もなき上司。
「頼んだぞ・・・お前の背中は俺が預かった」と日村係長。
「まあ・・・背後には誰もいませんけどね」
そこへ西室がおつかいから帰ってくる。
「山原の個人情報だ」
「ありがとうございます・・・師匠」
「俺の読みが聞きたいか・・・山原は女子高校生時代にスケバ・・・」
「後でゆっくり・・・」
「犯人と友達になっちゃったんですよね・・・っていうか・・・友達が犯人じゃないですか」とフクスケ。
「フク・・・余計な真似はしないように・・・何もしないことが一番のお手柄よ」
「・・・」
速水刑事と近森優子は現場に入った。
「車は用意できたの・・・」
「ノゾミを返して・・・あなたが作ってくれたんでしょう・・・なんで今さら」
「ノゾミを使ってアラタを助けようとした・・・それでアラタが助からなかったらどうするの」
「・・・」
「ノゾミはアラタを助けられなかったダメな子・・・」
「・・・」
「もしも・・・アラタが助かったとしたら・・・ノゾミはいい子なの・・・母親として・・・あなたはそれでいいの」
「・・・そんなの・・・わからない」
「山原さん・・・病院長代理になった須佐見先生から・・・特別に・・・あなたの個人情報を見せてもらいました・・・」
「・・・」
「あなたは・・・ノゾミと一緒なんですよね・・・」
「あなたのお父さんは・・・遺伝性進行性神経変性疾患を発症した。つまり・・・有森さんのご主人と同じ病気です」
「え」と驚く優子。
「あなたは・・・まだ発病していないけれど・・・父親からその遺伝子を受け継いでいる」
「・・・」
「だから・・・あなたは・・・ノゾミの運命を変えることに同意したんですよね・・・」
「ゲノム編集は・・・素晴らしい技術だと信じていたから・・・でも間違いだった」
「どうして・・・こんなことに」
「何もかもうまくいくと思っていた・・・けれど誘拐事件が起きて・・・私と彼の秘密の仕事が・・・崎山教授にばれてしまった・・・情報公開をしようとする崎山教授を説得しようとして・・・彼が・・・教授を・・・あっという間に・・・」
「どうして・・・その時・・・私に話してくれなかったんですか」
「・・・」
「三日前に・・・あなたの冷凍保存された卵子が紛失していますね・・・皆本に脅迫されていたんですか」
「私・・・どうかしていたのよ・・・自分の子供を持つなんて・・・とっくにあきらめていたのに・・・心のどこかで・・・いつかきっとって・・・」
「・・・」
「あの子の運命を・・・良い方向に・・・もっていけるはずだったのに・・・」
「山原さん・・・う」
胎児の蠢動に呻く速水刑事。
「すみません・・・見えないけど・・・この子・・・結構、腕白なんで・・・」
「・・・」
「子供の存在感って凄いですよね・・・でも・・・ノゾミはすごく大人しい・・・まるでここにはいないみたい・・・」
「ええっ」と驚く優子。
「山原さん・・・今、この子じゃなくて・・・あの子っていいましたよね」
「・・・」
「ノゾミは・・・今、どこにいるんですか・・・」
こぼれおちる・・・人形。
「えええっ」と驚く優子。
「突入」
山原は確保された。
「山原さん・・・ノゾミはどこですか」
「・・・」
「ノゾミにはノゾミの人生がある・・・それはもう始ってます」
「山原家の菩提寺が・・・近所にあるのよ・・・」
「なるほど・・・」
病院に戻った優子をマスメディアがハゲタカとなって追及する。
「人の生命をなんだと思っているんですか」
「そんなこと・・・この人は・・・誰よりもわかってる・・・ずっと息子の病気と戦ってきたんだ・・・あんたは人の命について・・・何か知っているのか」
マスメディアに言いたい放題の須佐見教授だった。
「すみません・・・これが仕事なんで・・・」
記者は怒られて鬱を発症した。
速水刑事とフクスケは寺にやってきた。
山原家の墓には花が供えられている。
本堂に新生児が安置されていた。
「君が・・・ノゾミ・・・」
住職が現れる。
「その子は・・・檀家のお嬢さんが・・・・一時間くらい預かってくれと言われまして・・・もう大分立つので・・・どうしようかと考えていたところです」
「警察です・・・この子は引きとります」
「はあ・・・」
アラタの病室では・・・両親がノゾミの到着を待っていた。
「もうすぐ・・・ノゾミが来るわ・・・ノゾミから血をもらえば・・・あなたの苦しみは救われる」
「ノゾミが・・・血をくれるの・・・」
「そうよ・・・家族ですもの・・・あなたの妹ですもの・・・」
「でも・・・きいてね・・・」
「・・・」
「ノゾミに・・・僕に血を分けてくれるのか・・・きいてね」
「・・・」
優子は言葉を失った。
アラタの手を握る優子の手に優子の夫はそっと手を重ねる。
与那国管理官は・・・ノゾミを抱いて花道を通る。
見せ場と手柄を確保した自分を褒めたい管理官だった。
須佐見教授は屋上にいた。
速水刑事がやってきた。
「もう・・・産休に入ったのでしょう」
「ええ・・・今は・・・お産をする病院を・・・捜しています」
「うちは満床ですよ」
「ケチ・・・」
「私は辞任するつもりです」
「アラタくんの容体は・・・」
「一進一退です・・・両親は・・・ノゾミちゃんの成長を待つことで同意したようです」
「落とし所ですか・・・」
「さあ・・・どうでしょう・・・目の前で大切な命が失われようとしている・・・そんな時・・・何もしないでいられるかどうか・・・そこに正解なんて・・・あるはずがない」
「・・・」
「医者は・・・命を救うために全力を尽くす・・・ただ・・・そのために・・・他の命を犠牲にすることは・・・おかしいでしょう」
「おかしいですね」
「一線です」
「一線ですね」
速水刑事は夫の下地浩介(山崎樹範)の店で寛ぐ。
「あの病院・・・デザイナーベイビーを希望する親が殺到してるってよ」
「じゃ・・・ウチも二人目・・・すごいのにしてみる」
「あんまり・・・すごいと親としてアレだな」
「じゃ・・・すごいタコライス作って」
「かしこまり」
そこへ義理の息子でゾンビマニアの下地雄介(若山耀人)が帰宅する。
「これ・・・今度の新作・・・初日に一緒にどうですか・・・お義母さん」
映画「ゾンビのたわむれ」は近日公開らしい。
「これって・・・」
「ザリガニゾンビがね・・・人間をゾンビ化して・・・クライマックスはなんと巨大ザリガニゾンビが・・・」
「・・・」
息子に「ゾンビやザリガニが苦手」と言えない継母だった。
復帰した日村係長から着信がある。
「暇か・・・」
「産休中ですから・・・暇じゃありません・・・出産という大仕事が待っているんですよ・・・続きはコウノドリで・・・」
「・・・」
おめでた後の速水刑事の活躍も見たいが・・・蛇足になったら・・・困るよねえ。
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