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2015年11月 5日 (木)

泡にまみれて(松坂桃李)疑惑の香り(木村文乃)償えって言ってみた(菜々緒)私は無垢な少女しか愛せない(要潤)

「神話」は遠い記憶である。

現代を生きる誰もが実際には知ることのない時代の物語。

そういう意味では百年前の出来事はほとんどが「神話的」である。

しかし・・・文献や絵画に記された記録が・・・その記憶を幽かに蘇生させる。

遥かな「過去」には混沌とした出来事が横たわる。

神々や悪鬼・・・そして精霊たちは曖昧な姿を垣間見せる。

すべては幻想である。

真実を知るものは・・・ヒトではない・・・何者かのみである。

たとえば・・・人魚の一種であるローレライが実はサイレーンであると語るものがいる。

サイレーンの母親は・・・歌の女神メルペポネであるとも舞踊の女神テルプシコーラであるとも言われる。

メルペポネやテルプシコーラを生んだのは記憶の女神ムネーモシュネーとも調和の女神ハルモニアとも言われる。

神話の世界は虚実の迷宮なのである。

サイレーンは悲劇の女神である。

ローレライもまた悲劇の精霊だ。

サイレーンの物語の果てに「人魚姫の悲劇」が生まれるのだ。

ギリシャ世界ではヒトは基本的に「枯葉のようなもの」である。

大樹から解き放たれて地に落ち・・・虚しく朽ち果てる一生。

それにくらべて悲劇の女神たちは・・・永遠の時を過ごしていく。

謎めいた精霊サイレーンは・・・水面に浮かぶ枯葉を・・・揺らし・・・やがて沈ませるのだ。

で、『サイレーン刑事×彼女×完全悪女・第3回』(フジテレビ20151103PM10~)原作・山崎紗也夏、脚本・佐藤嗣麻子、演出・白木啓一郎を見た。狂気と正気の境界線もまた曖昧なものだ。半世紀以上も恙無い人生を送ってきた人間が突然、歩道を車道のように考えて走り出す。料理の上手な人間がお湯を沸かせることもできなくなる。人の人生はまさに枯葉のようなものなのだ。人間の作り出す善意や悪意もまた枯葉の舞に似ている。その傍らを魔物はそっと通りすぎて行く。人間がそれを理解することは不可能だ。人間はただそれを感じるしかない。ある時は恐怖を・・・。ある時は悲哀を・・・。そして、ある時は永遠を。

暗礁の上に見えるのは

黄金の美少女の姿態

黄昏の光に輝く

長い髪に見え隠れする肢体

誘惑の歌声が忍びより

破滅させられた死体

それはローレライの物語

虚しい人生の四諦

機動捜査車両16号担当の警視庁機動捜査隊員・里見偲(松坂桃李)は桜中央署管内で発生した不審死事件が・・・何者かによる連続殺人事件ではないかと直感する。

しかし・・・具体的な証拠は皆無で・・・公私兼用のパートナーである猪熊夕貴(木村文乃)は「推理だけでは事件は解決できない」と苦言を呈する。

けれど・・・警視庁捜査一課の刑事を目指す里見は「事件解決」という「手柄」を欲していた。

人間関係の糸を繋いだ里見捜査員は・・・事件の中核に・・・謎の女・橘カラ(菜々緒)と整形外科医の月本圭(要潤)が存在していると推測する。

勤務外の時間を・・・月本の行動確認に費やし始める里見捜査員。

相棒で恋人の猪熊捜査員は・・・里見の単独行動を不審に感じ始める・・・。

一方で・・・超人的な身体能力で・・・欲するままに殺人を重ねるカラは・・・何故か猪熊に執着し・・・その信頼を勝ち取りつつあった。

謎に包まれたカラの魔性に・・・「普通の人々」は翻弄されていく・・・。

月本の行動確認(張り込みと尾行)を続ける里見捜査員を監視する桜中央署のチビデカこと速水翔刑事(北山宏光)・・・。

チビデカは里見捜査官の手柄の横取りを常に模索しているのだった。

この物語の男たちは基本的に犯罪解決を出世の手段と考える邪な人々なのだ。

やがて・・・月本が会員制のクラブに通っていることを突きとめる里見。

桜中央署の生活安全課の千歳弘子(山口紗弥加)に情報を求めると・・・すでに「クラブ」に対しての内偵が開始されているという。

「潜入捜査のために・・・協力者を紹介してください」

「捜査費は計上されないぞ・・・」

「自腹でなんとかします」

「・・・いいだろう」

千歳の確保していた「クラブ」の会員から・・・紹介を受けた里見は・・・高級スーツをレンタルして・・・IT企業の経営者になりすます。

「話は聞いたよ」

チビデカは協力を装い、里見にブランドものの腕時計を貸し与える。しかし、それは高級腕時計風盗聴器だった。

顧客として「クラブ」に乗り込んだ里見は支配人からシステムの説明を受け・・・そこが高級売春組織であることを察知する。

内情を知るために「ダブルで六時間」のコースをオーダーする里見。

指定された高級ホテルのスイートルームに向かうと・・・そこに二人のホステス・・・アイ(佐野ひなこ)とレナ(入山杏奈)が現れる。

コース料金プラスホテル宿泊料・・・里見の銀行預金残高に危険信号が灯る。

「私たち・・・なんでもありですから」

ホステスという名の高級売春婦に迫られ・・・我を失いかける里見・・・。

アイとレナは・・・早くも里見の怒張した局部を責め立てるのだった。

「ま・・・待ってくれ・・・私は・・・最初は何もしない主義なんだ」

「え」

「相手のことを・・・知らないと・・・燃えないんだよ」

「ああ・・・」

「だから・・・今日はおしゃべりだけして・・・その気になったら次回・・・君たちを指名したい」

「まあ・・・大変・・・私たちのこと・・・お気に召してもらえるかしら・・・」

「それは・・・君たち次第だ・・・」

「うふふ・・・」

「早速だが・・・どちらか一人・・・鯛焼きを買ってきてくれ」

「た・・・鯛焼き・・・それでどんなプレーを・・・」

「いや・・・私は・・・女の子とおしゃべりをする時・・・鯛焼きを食べると興奮するんだよ」

「・・・」

変態・・・と感じた二人だったが・・・従順に顧客のリクエストに答えるのだった。

「なにやってんだ」と盗聴しているチビデカは苦笑した。

しかし・・・里見は・・・アイの口から・・・クラブのオーナーが月本であることを突きとめる。

それから・・・里見とアイはバスルームでおしゃべりを続けたらしい。

帰宅した里見は同棲中の猪熊に「映画を見て来た」と嘘をつく。

しかし・・・里見の身体からは石鹸の香りが漂っていた。

猪熊の不審は深まるのだった。

里見の報告書を吟味した千歳は強制調査の着手を決定する。

しかし・・・家宅捜査当日・・・捜査は中止となるのだった。

チビデカが「クラブ」の顧客の中に警視庁幹部がいることを発見したのである。

「なんですって・・・」

「そんな組織を摘発できるか」

「・・・」

「チビデカは不祥事発覚を未然に防いだことが本庁で高く評価されたらしいぞ」

「やってられるか・・・」

意気消沈する里見だった。

虚しく消えた多額の投資・・・。

「こんなことなら・・・やれることをやっていればよかった」と思ったに違いない・・・おいっ。

ちなみに・・・「64」で消えた娘は・・・こんなところで売春婦になっていたんだな。

そして・・・地下アイドル・ミサミサもまた・・・。

・・・もう、いいか。

カラはスカッシュを通じて猪熊と親交を深める。

「カラさんには謝りたいと思っていた」

「・・・」

「あの事件の時・・・カラさんでなければ・・・刺されていた・・・私の説得は・・・力不足でした」

「・・・そんなことはない・・・あの時のあなたは・・・危険に身をさらして・・・とても勇気があった」

「・・・ありがとう」

再会を約して分かれる二人・・・。

しかし・・・カラの中では・・・ある決心が生じていた。

「猪熊が生まれつき持っているという正義感・・・それを私も感じてみたい」

・・・ということである。

なぜ・・・カラがそう欲するのかは謎である。

その謎は最後まで解明されないかもしれないな・・・。

魔性のものの心情なんて人間には理解不能だから・・・。

月本圭とカラの関係は単なる美容整形外科医と患者の関係ではなかった。

月本は特殊な性癖の持ち主だった。

成熟した女性を異性とは認識できず、未成熟の女性としか性行為ができなかったのだ。

しかも・・・未成熟の女性を凌辱することに性的興奮を覚えるのだった。

そのために未成年の少女を責めすぎて殺してしまい・・・それをカラに目撃されていたのである。

だが・・・カラは月本の行為を黙認し・・・協力さえ申し出る。

地方から家出してきた少女を月本に紹介するカラだった。

月本は見返りとして無償でカラの整形手術を行ってきたのだ。

月本は保護者の承諾抜きで未成年者の整形手術を行い、整形少女を調教して、高級娼婦に仕立て上げていたのだった。

「女としての喜びを感じはじめたら・・・私には対象外だが・・・そういう女を喜ぶ顧客はいくらでもいるからねえ」

「女の若さ」にしか欲情しない男性は・・・社会的地位の高さに関係なく存在し・・・月本の秘密クラブは莫大な利益をあげていた。

だが・・・カラにとって・・・そういうことはどうでもいいことだった。

月本クリニックの秘密の扉の向こうにある月本の隠し部屋を訪れたカラ。

「おや・・・カラちゃん・・・今日は・・・何の用だい」

「正義を感じにきた」

「正義・・・?」

たちまち・・・月本を拘束するカラ。

「何の真似だよ・・・やめてくれ・・・私は道具を使うのが好きなんだ・・・使われるのは好きじゃない・・・私受けのカラちゃん攻めなんてやめてくれよ。それに・・・君がいくら完璧な美女でも・・・私には無理なんだ・・・君が・・・十代の頃に出会えたら話は別だけどさ・・・二十歳を越えた女なんて・・・私には汚物のようなものなんだから」

「お前は・・・犯罪者だ・・・」

「え・・・」

「お前は児童買春クラブの運営者だ・・・それに・・・ちっちゃい子を殺している」

「何を今さら・・・」

「償え!」

「まさか・・・そのセリフを言うためだけに・・・私を殺すのか」

月本の動きを封じ、騎乗位になったカラは腕を伸ばす。

「う・・・」

首を絞められ苦悶する月本。

「償え!」

さらに月本に何かを注射するカラ・・・。

「い・・・痛い・・・痛い・・・いた・・・」

月本は意識を失った。

そこへ・・・カラが月本に紹介した家出少女・田沢麻弥(三上紗弥)が忘れものをとりに戻り・・・物音に気付いて・・・秘密の部屋を覗いてしまう。

驚愕した麻弥は逃げようとして階段を転げ落ちる。

「やめて・・・黙っているから・・・助けて」

しかし・・・カラは無表情に・・・麻弥に何かを注射するのだった。

翌朝・・・月本クリニックに出勤した受付嬢(沖絵莉)は秘密の部屋に横たわる少女を発見する。

「司令センターより各局へ・・・月本クリニックで女性の変死体が発見された・・・最寄車両の現場への急行求む」

16号車は現場に到着する。

「これは・・・」

「未成年者と性交中に・・・誤まって殺してしまった・・・という感じかしら・・・」

「待て・・・この子・・・生きてるぞ」

「救急車・・・」

田沢麻弥の体内からは農薬の成分が検出される。

月本医師は・・・なんらかの事情を知っているものとして緊急手配された。

その頃・・・カラは・・・月本クリニックから持ち出した自分のカルテを処分していた。

「・・・失敗だった・・・月本だけを殺すつもりだったのに・・・それに高揚感も得られなかった・・・あの時、猪熊はもっと生き生きしていた・・・やはり・・・模倣するだけでは正義感を得ることはできないのか・・・やはり・・・予定通り・・・殺すしかない」

カラの中に蠢く・・・謎の心理・・・。

そして・・・里見捜査官は・・・月本の患者のカルテの中に・・・カラの名を見出せず・・・失望感を感じる。

通俗的な捜査官たちの目を逃れ・・・魔性の殺人者は・・・次の目標を吟味し始める・・・。

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