あなたの隣にカラがいる(松坂桃李)君の浮気が心配だ(木村文乃)秘密にしてね(菜々緒)
死の天使であるセイレンは人々の想像をかきたてる。
ある時は王女に仕える忠実な侍女として・・・。
ある時は屍をついばむ怪鳥として・・・。
ある時は地獄の女王に仕える死神として・・・。
また、ある時は男たちを誘惑する人魚として・・・。
そのためにセイレンは四姉妹であるとも言われる。
戦場に現れればヴァルキリー・・・。
海上に現れればローレライ・・・。
天空に姿を見せればハーピー・・・。
そして・・・夜に響く歌声はサイレン・・・。
美しく・・・そして醜い・・・。
彼女は矛盾した存在なのである。
で、『サイレーン刑事×彼女×完全悪女・第4回』(フジテレビ20151110PM10~)原作・山崎紗也夏、脚本・佐藤嗣麻子、演出・白木啓一郎を見た。脚本家は「エコエコアザラク」の人なので魔性についてはそれなりに習熟しているわけである。二人の刑事のどちらかと言えば間抜けな振る舞いに対して圧倒的な存在感を示す悪女。それはミステリの「悪女」と言うよりはホラーの「魔物」に近い気配がある。探偵コンビを形成する機動捜査車両16号担当の警視庁機動捜査隊員・里見偲(松坂桃李)と猪熊夕貴(木村文乃)は・・・頭脳派と武闘派というオーソドックスな組み合わせである。言うならば初代「相棒」に近いわけだ。里見が右京さんで・・・猪熊が亀山のヴァリエーションなのである。もちろん・・・里見は直観力に優れて論理的思考はあまり得意ではないために・・・とても頼りない。一方で格闘技は亀山以上だが・・・女心に支配されている猪熊はかなり危うい感じである。もちろん・・・苦手分野を補うことによって・・・かなり総合力があがるはずだが・・・暴走する年下の男に振りまわされ、チームワークに不安を感じる年上の女という展開のために・・・致命的なミスも犯す殺人鬼・橘カラ(菜々緒)に軽くあしらわれている気配が濃厚なのである。
やがて・・・カラが人間に過ぎないことが明らかになれば・・・刑事コンビも空回りが納まるのかもしれない。
しかし・・・たとえば・・・カラは武術家として・・・カラを信頼してしまうという件はかなりのリアリティーを持っている。
凡庸な格闘家であればあるほど・・・「強さ」が修練の賜物であると考えるわけだ。
そういう努力を続けることが出来る人間は・・・基本的に誠実ということになる。
しかし・・・世の中には・・・天賦の才に恵まれ・・・常人の努力の成果を一瞬で克服してしまう存在がないわけではない。
カラにはそういう傾向があり・・・それが・・・猪熊を呪縛する要素になっている。
できれば・・・カラにはそういう魔物であってもらいたいと・・・妄想的には願うのだった。
時間が不可逆的なものであるというのは人間の錯覚に過ぎないという理論がある。
しかし、多くの人間が死んだ人間が戻らないと考えるから・・・共通の認識としてはそれでいいわけである。
共通の認識というものは一種のお約束である。
たとえばドラマでは・・・「心の声」がお茶の間にナレーションとして聴こえてくることがある。
つまり・・・お茶の間は精神感応者(テレパシスト)気分を味わえる・・・そもそもドラマは「すべてお見通しの神の目」の疑似体験をしているとも言える。
次回予告で「未来の出来事」がフラッシュパックで展開したりするわけである。
「主人公の壁ドン」とか「主人公の必然性のないシャワーシーン」とかそういうものを先に見せられて「うひょお」となる人は確かに存在する。
しかし・・・ミステリとしては「邪道」と感じる人も多いだろう。
「犯人の声」で「動機」まで語られたら謎解きの楽しみがないからである。
だが・・・「刑事コロンボ」や「古畑任三郎」のように・・・「犯行のすべて」を見せるミステリだって成立するわけである。
ドラマの楽しみ方は人それぞれである。
今回は「凄い犯罪者」と・・・「ちょっとおっちょこちょいな刑事」の両方を楽しめるミステリなのだと思う。
何を考えているのかわからないのは・・・桜中央署のチビデカこと速水翔刑事(北山宏光)ぐらいだが・・・彼の場合は・・・行動で性格が大体わかるという扱いなんだな。
もちろん・・・人間を殺しまくるカラが何を考えているかわからないという人もいるが・・・彼女の心の声はサービスされるのである。
「正義感が欲しい」
「高揚感がない」
「予定通り殺す」
断片的なカラの心のつぶやきから・・・彼女が・・・「自分には何かが欠落している」と思い「人を殺すことで高揚感を得ること」があり「誰かを愛することは殺すことである」と信じている・・・らしいことが推測できる。
一方で発達障害の傾向のある里見刑事は良く言えば「論理の飛躍」悪く言えば「思いこみ」で「犯罪者」を断定する・・・冤罪被害者を作りやすい捜査官である。
しかし・・・「直感」で「正解」を得る主人公特権を持っている。
カラの態度に何か「非人間的なもの」を見出した里見刑事は個人的なサービス残業で・・・カラを追跡し、殺人事件の背後に潜む整形外科医の月本圭(要潤)を突き止める。
しかし・・・幸か不幸か・・・カラの「正義感獲得の実験」に使用された月本は消息を絶ってしまう。
だが・・・殺人現場にカラを知る家出少女・田沢麻弥(三上紗弥)が居合わせたことで・・・カラが「完全ではないこと」も露呈する。
カラは致命的とも言えるミスを犯す。
月本の凌辱プレーの犠牲者として殺した麻弥が蘇生してしまったのである。
もちろん・・・そこに・・・「神の手」を想像することができる。
この世に紛れ込んだ魔性を滅するために・・・少女は息を吹き返したわけだ。
ここまでで浮かび上がるカラの行動原理は・・・「理想の人間を目指している」「そのために目標となる人間を捜す」「対象となった人間を心身ともにコピーする」「コピー終了後に対象を殺す」・・・ということである。
現在の目標は里見刑事の公私に渡るパートナーである猪熊刑事なのである。
カラは目標に接近し、信頼関係を構築する。
目標の内面を知り、目標に同化するために・・・目標と親密になる必要がある。
カラにとって外見と内面は不可分であり・・・カラが目標に見出した「美」を獲得するために整形外科医を予約する。
つまり・・・猪熊刑事の「死」は確実に接近している。
直感的にカラの「妖しさ」を感じた里見刑事は・・・まだ、恋人がターゲットになっていることは知らない。
「神の道具」として働く里見刑事は「神の鼻」や「神の目」や「神の耳」を駆使してカラを狩ろうとする天使なのである。
しかし・・・天使である里見刑事は「人間のルール」の前に行動を縛られる。
「疑わしきは罰せず」である以上・・・里見刑事の「直感」だけでは「犯罪の立証」は困難なのである。
常識人である猪熊刑事は・・・里見刑事の苛立ちを感じるが・・・その理由は読みとれない。
ただ・・・年下の恋人が・・・暴走するのではないかと案じ・・・自分に何かを隠していると感じれば浮気ではないかと疑うのである。
言わば・・・たくましい子羊を挟んで魔性の女と天使の刑事が対峙しているのである。
天使の刑事がいろいろと・・・残念な感じなのは・・・この世が悪魔に支配されている証拠だと言うことです・・・。
少女殺人未遂の重要参考人として月本を追う桜中央署(フィクション)の刑事たち。
桜中央署出身の里見刑事と猪熊刑事も捜査協力を依頼される。
二人は通常勤務としての機動捜査(覆面パトロール)の合間を縫って所轄の刑事課長・安藤実(船越英一郎)の指示を受けるのだった。
あくまでフィクションなので・・・命令系統が曖昧なのは目をつぶるべきである。
なにしろ・・・里見と猪熊の本来の上司である本庁機動捜査隊の隊長が不在なのです。
「おいおい・・・うちの隊員に勝手に仕事させんなよ」とクレームつけられる展開は・・・この世界にはないのだ。
猪熊は群馬県から上京した麻弥の母親から「家出して上京した経緯」などを聴取する。
里見は意識不明の麻弥が入院している病院の担当医(笛木優子)から有力な情報を聞き出そうと接近する。
七歳年上の女医は・・・里見との夜のプレイを求めるが・・・天使であるために誘惑には乗らないのだった。
女医の証言によれば麻弥は意識を失う前に「なんとかさん、言わないから助けて」と囈(うわごと)を囁いたらしい。
月本の経営していた売春組織のホステスであるアイ(佐野ひなこ)とレナ(入山杏奈)への事情聴取から・・・二人は売春組織の一員だが様々な大人の事情で野放しなのだ・・・「売春婦たちは・・・月本を月本先生、あるいはオーナーと呼んでいた・・・麻弥だけが月本さんと呼ぶのは不自然だ・・・なんとかさんは月本以外の誰かではないか」と捜査会議で報告する里見刑事・・・。
「おい・・・俺の部下で・・・俺のことを係長って呼ばない奴はいるか・・・」と安藤課長。
「いや・・・親しみをこめて実さんて言う人はいるかもしれませんね」と部下たち。
「特殊な関係なら・・・なおさら・・・」
「ドラマの相棒でも階級が下の相棒が右京さんて呼んでるしな・・・」
「里見・・・お前のは単なる希望的観測なんだよ・・・いいか、現代の犯罪捜査は証拠が第一なんだ」
「・・・」
「役に立たない空想をする暇があったら月本の行方を追え」
「・・・」
猪熊刑事はおバカな相棒・里見刑事の将来を案じるのだった。
しかし・・・「麻耶の生存」が新聞記事になったことを知った里見は・・・推理おタク的感性で麻耶の身に危険が迫ることを直感する。
一方・・・カラは・・・里見の部屋の監視所として利用しているマンションの同居人(家主)で・・・デザイナーをしているらしい孤独な資産家の渡公平(光石研)から「別荘への小旅行」を提案されていた。
保養地にある渡の別荘は地下室があり・・・庭も広く・・・なかなかの物件である。
(これは・・・使える)と心の声をお茶の間に届けるカラ。
マンションに戻ってきた渡はカラの家族について訪ねる。
「母とは幼いころに死別・・・父は再婚相手の母国であるフィリピンで暮らし、北海道在住の兄とは疎遠」という本当かどうか不明の話をする。
渡は指輪を用意していた。
「ぼ・・・ぼくと・・・け、け、け・・・・結婚を前提に交際してください」
カラは微笑む。
「わかりました・・・考えてみます・・・でも・・・私のことはまだ親族や周囲の方には内緒にしておいてくださいね・・・騒がしいことになると・・・あなたとのことをじっくりと考えられません」
「はい・・・」
渡は歓喜に震え・・・カラに睡眠薬入りのドリンクを飲まされる。
(この男はまだ使える・・・)
眠りこんだ渡から愛車のキーを借用したカラは・・・自分の部屋に戻る。
部屋から運び出したのはキャリーケースに入った何か・・・死体のようなもの・・・である。
おそらく月本の遺体(あるいは標本体)は渡の別荘の裏庭あるいは地下室に安置されたのだろう。
雑用を終えたカラは渡の部屋で新聞を読む。
その目に・・・麻弥の生存の記事が飛びこむ。
機動捜査車両16号のGPSにより・・・病院を特定するカラ。
失敗を隠蔽するために・・・変装したカラは・・・病院にやってくる。
麻弥の息の根を断ち切るためである。
しかし・・・病院に急行した里見刑事は天使の嗅覚でカラの香水を嗅ぎ分け・・・正体を見破るのだった。
「ショートカットもお似合いですね」
「これ・・・ウイッグですよ」
「今日は・・・外来ですか」
「入院している友達のお見舞いに・・・」
「それにしても・・・偶然ですね」
「縁があるのかもしれませんね」
里見の猜疑心は高まるが・・・カラは動じない。
(こいつのことを見くびりすぎた・・・これではもう殺せない)
しかし・・・カラにとってはそういうことは些細なことなのかもしれない。
カラが「なんらかの犯罪者である」と確信した里見は・・・勤務時間外をカラの尾行に費やすのだった。
一方、里見とイチャイチャした女医の化粧の香りや里見の上着に付着した長い毛髪に気がついた猪熊は・・・浮気を疑う。
里見とは別の猜疑心にとりつかれた猪熊はうっかり・・・桜中央署の生活安全課の千歳弘子(山口紗弥加)に・・・里見との男女交際関係を漏らしてしまうのだった。
そして・・・チビデカもまた・・・里見と猪熊のプライベートでの関係を探っていた。
もちろん・・・チビデカの場合は・・・手柄を横取りして自分が出世するための情報収集である。
職務として事件を捜査する警察官としてではなく・・・言わば・・・自分の情熱に駆られて個人的な捜査を続ける里見・・・。
その孤独な戦いは・・・どこか・・・間抜けである。
自分ではプロフェッショナルな仕事をしているつもりなのに・・・尾行対象のカラにとっては児戯に等しい行動なのである。
それは反政府活動としてのデモに参加しつつ・・・就職活動に勤しむ大学生に似ている。
「元気があってよろしい」と彼を採用する企業は・・・おそらくブラック企業である。
しかし・・・おそらく・・・妙に政治的な大学生と同じように里見には・・・そうしなければ生きていけない個人的事情があるのだろう。
それは・・・これから明らかにされていくと思われる。
カラは尾行する里見の写真を撮影し・・・猪熊を呼び出すのだった。
「私・・・警察に・・・付きまとわれているのです」
里見の変装した姿を見せられ絶句する猪熊。
「この人・・・猪熊さんの同僚ですよね・・・私・・・何か・・・疑われているのでしょうか」
「・・・ははは・・・これは・・・」
「・・・」
「身辺調査だと思います・・・実は私・・・彼と交際していまして」
「・・・」
「彼は・・・その・・・私がカラさんと親しくしているのを知って・・・個人的にあなたのことを調査しているのだと思います・・・すみません・・・警察官は身内に犯罪者がいてはまずいので・・・」
「・・・」
「私から彼に止めるように言います・・・すみませんでした」
「いえ・・・それならいいのです・・・このことは二人の秘密ということにしませんか・・・彼が猪熊さんのためにしたことで文句を言われたら傷つくかもしれませんし・・・」
「・・・」
「よかった・・・私ったら変な誤解までしてしまったのです・・・ひょっとしたら・・・彼が私に個人的な興味があるのかと・・・」
顔色が変わる猪熊。彼女の心に生じた疑心暗鬼はカラではなく・・・里見に向かっていく。
里見は・・・絶対の自信を持って尾行を開始する。
キャバクラの勤務を終えたカラが・・・どこに帰るのか・・・。
数日の尾行によってカラの自宅さえ着きとめられない自分の無能さには気がつかない里見だった。
カラは罠を仕掛け・・・里見をホテルにおびき出す。
猪熊は謎のメールによってホテルに呼び出される。
ホテルのエレベーターでカラの利用階を確かめた里見が乗り込んだエレベーターには魔性のものの如く・・・カラが乗っていた。
「どうも・・・」
微笑むカラ。
追い詰められた里見は・・・ハッタリをかますのだった。
「お前は・・・容疑者として・・・警察の捜査対象になっているんだ」
壁ドンで迫る里見・・・完全な脅迫行為である。
監視カメラを見ていた警備員が飛んでくる状況だ。
しかし・・・扉が開くとそこに猪熊がいる。
不審者として・・・完全に追い詰められた里見。
カラはまるで唇を無理矢理奪われた女のように・・・そっと口を拭うのだった。
猪熊は・・・立ちすくむ。
何処かで音もなく魔性のサイレンが鳴り響く。
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