とっくに正気を失っていた刑事(松坂桃李)恋は盲目ですから(木村文乃)あなたはただの異常者ですよ(菜々緒)
サイレーンの声を聞いた男は狂う。
狂った男は死地へと誘われる。
サイレーンの声を聞いた男の恋人は帰らぬ男を想い嘆く他はない。
サイレーンの魔性から逃れる術はただ一つ。
なにも聞かない男になることだ。
しかし・・・たとえ耳を塞いでも・・・手遅れだ。
その時、男はもはや正気ではないのだから・・・。
で、『サイレーン刑事×彼女×完全悪女・第5回』(フジテレビ20151117PM10~)原作・山崎紗也夏、脚本・佐藤嗣麻子、演出・本橋圭太を見た。原作とは別に脚本家には一種の原型がある。基本的に・・・人知を越えた魔が存在する。魔を封ずるために天使が登場し、人間を巻き込んだ抗争が発生する。巻き込まれた人間は不慮の死を遂げるか・・・あるいは天使が人間を守るために消滅する。もちろん・・・これは太古からある人間の幻想の一つでもある。明らかに橘カラ(菜々緒)は魔性の存在である。天使が・・・警視庁機動捜査隊員・里見偲(松坂桃李)と猪熊夕貴(木村文乃)のどちらかは・・・まだ不明だが・・・おそらく・・・里見が天使なのだと推察する。
里見は天使であるゆえに・・・人間の法を軽々と踏み越える。
人間である猪熊には不可能な行為である。
魔を封じようとする里見の行為が・・・時々理解不能に見えるのはそのためである。
天使のすることなど・・・人間にも・・・悪魔にもわからないのだ。
直感に従ってカラを追う里見。
しかし・・・カラから里見に宛て送信された・・・計画的な間違いメールを受信した猪熊は・・・まんまとホテルにおびき出されるのだった。
猪熊の目にはエレベーターという密室の中で・・・よからぬ行為をしていたように見える里見とカラ・・・。
里見は茫然とするのだった。
「どうして・・・君がここに・・・」
「カラさん・・・間違って送信したでしょう・・・気になって来てしまいました・・・お二人だけで話があるようなので・・・私はこれで失礼します」
「一体・・・あいつに何をした」
「あなたにお話しがあると・・・メールを送ったのです」
「・・・」
「あなたのしていることは・・・異常ですよ」
「え」
「お伝えしたかったのは・・・それだけです」
里見はカラが自分より・・・一枚上手であることが・・・どうしても理解できないのだった。
だから・・・自分が罠にかかったことにすら・・・気がつかないのである。
すでに・・・里見は・・・刑事ではなく・・・ストーカーになっているのだが・・・本人には自覚がない。
里見の脳内に響く警報・・・。
「恐ろしい危機が迫っているのに・・・どうして誰も気がつかないのだ」
天使の嘆きは夜の闇に消える。
傷心の猪熊は父・文一(大杉漣)と母・三樹(藤吉久美子)のいる実家に帰るのだった。
・・・女子寮に住んでいるじゃなかったのか。寮母さんは心配しないのか。
まあ・・・いいか。
二人の動向を監視するカラ。
拠点として利用されている孤独な資産家の渡公平(光石研)は・・・今日こそ・・・一線を越えようとお茶の間サービスのシャワー・シーン終了を待つ。
(なんだ・・・こいつ)
「カラさん・・・好きだ!」
「・・・」
「今夜はベッドを共にしたい」
「口をあけて」
「あ」
「もっと大きく」
「ああ」
「もっと」
「あああ」
魔性の女の秘密の性的技巧により昇天する公平。
一部お茶の間は本当にあの世に送られたのでは・・・と危惧するのだった。
里見は誤解を解こうと猪熊に電話をするが・・・猪熊は着信を無視する。
猪熊の両親は微妙なお年頃の娘の不審な行動に戸惑うのだった。
翌朝・・・警視庁機動捜査隊員なのになぜか桜中央署に出勤し、生活安全課にデスクまである猪熊・・・ここはきっと設定ミスなんだよな。
ま、いいか。
同様に出勤した里見は・・・重体の少女売春婦・田沢麻弥(三上紗弥)が入院している病院の受付嬢から連絡を受ける。
里見の特殊技能である性的たらしこみによって受付嬢たちは里見に忠誠を誓っているわけだが・・・里見の個人的な捜査の電話を桜中央署にはしないだろうな。
ま、いいか。
ここは批判しているのではなく・・・そういう狂気を里見が周囲にまき散らしているという話である。
カラが殺人犯であり、里見が直感でカラを疑うことはお茶の間的には間違っていないが・・・正規の操作手順を踏もうとする所轄の刑事たちは単に無能なのではなく・・・ただ社会人として間違っていないだけなのである。
「髪の長い女性がお見舞いに来ました」
あわてて・・・病院に急行する里見だった。
猪熊は無能を代表する刑事課長・安藤実(船越英一郎)から呼び出される。
「いよいよ・・・お前の本庁捜査一課への移動が決まった」
しかし・・・里見とカラの件で動揺する猪熊は承諾を保留するのだった。
「え」
仕方なく・・・安藤は猪熊(父)に相談する。
「猪熊はなぜ迷っているのでしょうか」
「それを俺に聞くのかよ」
心温まる二人の密会だった。
桜中央署のチビデカこと速水翔刑事(北山宏光)は猪熊昇進の噂を聞きつけ歯ぎしりをするのだった。
麻弥の見舞いに来ていたのは売春婦仲間のアイ(佐野ひなこ)とレナ(入山杏奈)だった。
彼女たちはいずれも消息不明の月本(要潤)の経営する陪審組織の構成員である。
売春は犯罪なので彼女たちは犯罪者である。
しかし・・・カラの正体を探るために人手を求めていた里見は閃くのだった。
「ねえ・・・ある女の正体を突き止める手伝いをしてくれないか」
「面白そう」
里見の性的魅力に感応しているアイとレナはたちまち承諾する。
里見は犯罪者に捜査協力をさせることに何の疑問も感じない・・・。
なぜなら・・・里見はすでに・・・正気を失っているからだ。
一部お茶の間は・・・里見の性的魅力の虜になっているので・・・そう思わないらしい。
売春婦アイは売春組織の男性従業員・三河(西興一朗)からマネージャーとして採用予定だった橘カラの住居を聞きだすという特殊な交渉能力を発揮する。
売春婦レナはカラを監視するためにキャバクラ嬢として店に潜入するのだった。
そして・・・里見は・・・カラの留守を狙い・・・売春婦のアイと同伴してピッキングによる家宅不法侵入を開始する。
おわかりいただけたでしょうか・・・里見は違法捜査どころか・・・すでに立派な犯罪者であり・・・それを省みない・・・つまり・・・正気の沙汰ではないことをして平気な人間なのです。
里見の心に鳴り響く警鐘・・・それは・・・。
(なにがなんでも・・・カラの正体を暴け)
その命令に突き動かされ暴走する里見なのである。
なぜなら・・・里見は魔性のものを追う天使・・・魔物ハンターだからなのです。
・・・もう、いいか。
だから・・・病院の医師、受付嬢、そして売春婦までもが里見の味方になるのでした。
明らかに・・・その一人である桜中央署の生活安全課の千歳弘子(山口紗弥加)は猪熊の相談を受け・・・見当違いのアドバイスをする。
「里見は・・・浮気するような男じゃないよ・・・猪熊はまだ本当の里見を知らないのじゃないか」
しかし・・・それは天啓であり・・・猪熊を里見の関わった最初の事件へと導いていく。
魔性のカラ。
天使だがカラに魅入られた里見。
人間として里見を支援しようとする猪熊。
こういう構図です。
だが・・・性的魅力に特化した天使里見の愛を・・・猪熊は信じがたい・・・人間だから。
調査ファイルを紐解いた猪熊は「たかつき酒店従業員・高槻とおる殺害事件」の第一発見者となった・・・里見の足跡を追う。
惨殺死体を見た後で立哨中の里見は貧血で倒れていた。
おそらく・・・この時・・・天使あるいは精霊が・・・里見の心を浸食したのである。
高槻とおる(長澤航也)は店内で鋭利な刃物で滅多刺しにされ、頭部を鈍器で強打され、これが致命傷になっていた。凶器は発見されず・・・事件発生から八年を経過して捜査継続中の迷宮入り事件である。
猪熊は単独で再捜査を開始するのだった。
里見の狂気に引き摺られ始める猪熊・・・。
カラは魔性として猪熊を狙い、里見は天使としてカラを追い、猪熊は恋人として里見を探る。
よくある三角関係である。
たかつき酒店の顧客であるバーのマダム(阿南敦子)から「とおるに恋人がいた」という新情報を得る猪熊。
しかし・・・とおるの父(山崎一)は「いや・・・そういう人はいなかったと思います。警察からは何度も悪い人間との交遊関係を問われましたが・・・あいつに限ってそういうことは」と恋人の存在を否定する。
しかし、とおるのPCを開いた猪熊は・・・収録されたスナップ画像の中に・・・カラによく似た人物を見出し・・・驚愕する。
カラの部屋に侵入した里見は・・・白を基調とした殺風景な室内に戸惑う。
最小限の家具・・・カーテンの中のベッド。
(病室のようだ・・・)
発見できたのは・・・玩具の手錠や警棒・・・そして警察官の捜査の手引きだった。
(だから・・・俺の尾行術が通用しなかったのか)
いや・・・そういうレベルの問題ではないが・・・自分を見失っている人に何を言っても無駄だからな。
「この部屋・・・なんだか寒い」
「そうかな」
「まるで幽霊でもいるみたい」
アイは霊感が強いらしい・・・しかし・・・そこに棲んでいるのは幽霊ではなく魔性の存在なのである。
やがて・・・二人はキッチンで大量の薬物を発見する。
その頃、キャバクラではレナがカラの完璧な整形姿態に圧倒されていた。
そこにチビデカがやってくる。
「あんたが・・・猪熊の情報源か」
「・・・」
「その情報・・・俺にも回してくれ・・・高く買うぜ」
「・・・」
カラは刑事による足止めの可能性を吟味し・・・早退するのだった。
「大変・・・カラさんが早退したよ」
急報を受け・・・撤退を開始する里見とアイ。
侵入前の現状復帰に注意する里見だが・・・もちろん・・・それは間抜けな里見らしいルーズなものである。
帰宅したカラは・・・施錠の不具合を感知し・・・カーテンの遮蔽間隔を計測する。
(隙間が10㎝ではない・・・里見か)
すべてお見通しのカラだった・・・魔性のものだからな。
売春婦としてアイと同じように特殊な交渉術を持つレナは常連客の前川(石井 正則)から貴重な情報を入手する。
「カラさんには恋人がいて・・・八年前に殺されたんだって・・・」
「なんだって・・・」
レナと合流した里見は・・・カラの恋人が高槻とおるだったと知る。
その頃・・・ピッキングにより里見の部屋に侵入するカラ。
カラならすでに猪熊所有の合鍵をコピーしていてもいいけどな。
おそらく・・・復讐の一種だよな。
しかも・・・鈍い里見はピッキングの痕跡に気がつかないという・・・。
そして・・・カラは里見の部屋に電源不要のタコ足配線アタッチメント型盗聴器を設置するのだった。
カラは里見の侵入を察知したが・・・里見はカラの侵入を予想もしない。
里見はカラより一歩リードしたと考えている。
里見が性的魅力でコントロールする科学捜査研究所の女性所員から鑑定の結果が入る。
「鎮痛剤・・・か」
そこへ・・・猪熊がやってくる。
「あなたに見せたいものがある・・・」
「俺も君に・・・」
「これ・・・カラさんに似ているよね・・・この人・・・あなたが発見した・・・」
「・・・」
「だから・・・カラさんに近付いたの?」
「いや・・・」
「何を隠しているの?」
里見は個人的に・・・一般市民を追尾し、売春婦を協力者として利用し、人権を侵害し、住居不法侵入まで犯している。
本当のことなんか・・・言えないのだ。
「カラさんとチューしてたでしょ・・・」
「してないよ・・・何言ってるんだ」
里見は性的魅力を総動員して猪熊の口を封じようとする。
「君としかしない」
「・・・」
しかし・・・疑心暗鬼で防御した猪熊には通用しないのだ。
「彼女は被害者の恋人なのよ・・・彼女だって被害者みたいなもの」
「彼女は・・・警察を憎んでいるのかもしれない」
「君・・・おかしいよ」
「・・・」
「私・・・帰る」
猪熊は里見の部屋を飛び出しため息をつく。
「なぜ・・・こんなことに・・・」
里見は思わず舌打ちする。
「どうして・・・こうなるんだ・・・」
カラは無表情に二人の会話を盗聴していた。
(あの事件にたどりついたか)
公平は嬉々としてグラスにワインを注ぐ。
一部お茶の間で囁かれる生存確認のつぶやき・・・。
しかし・・・その命はサイレーンが霧で包む灯台の光のように朧である。
(この男を・・・そろそろ利用しよう)
お茶の間だけが聞くことができる魔性のものの声・・・。
はたして・・・勝利するのは・・・刑事とその彼女か・・・それとも魔性の女なのか。
できれば・・・悪女の完全勝利が見たいものだ。・・・悪魔だからな。
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