とる糸のけふのさかえを初めにてひきい出すらし国の富岡・・・明治十三年横浜同伸会社設立(井上真央)
「富岡は糸によって国家に栄光をもたらすらしい・・・」と明治六年、昭憲皇太后は富岡製糸場に行幸され歌を詠まれた・・・。
幕末に切腹して果てた長井雅楽の長女である長井貞子も明治になって富岡製糸場の「工女」となった。
富岡製糸場は新政府が主導し、近代的な器械製糸技術普及させる・・・つまり士族や公家の娘たちが先進技術を学ぶ場であった。
一方で・・・「わたしゃ女工よ儚ない小鳥・・・羽根があっても飛べもせず」という「女工」の哀歌が残されている。
産業近代化の持つ二つの側面・・・「富岡製糸場」の「工女」たちとその他の「製糸場」の「女工」たちは別々の存在なのである。
教養ある「工女」たちは「源氏物語」を読んだりもするだろうが・・・親の借金で売られた「女工」たちは豚小屋生活をするのだった。
良家の子女たちによる御飯事のような「工女」と・・・社主に搾取されまくる「女工」・・・どちらが「富国強兵」の礎となったかについては言及を避けたいと思う。
女工節は「男軍人女は女工・・・糸をひくのも国のため」と続くのだ。
「富岡製糸場」と「野麦峠」の間には暗くて深い河があるのだった。
もちろん・・・この大河ドラマはそういう深淵には近寄らないし・・・前橋藩士で製糸業の技術スペシャリストとして官営富岡製糸所の3代目所長を務めた速水堅曹も登場しない。
そこにあるのは・・・幻想の富岡製糸場だけである。
で、『花燃ゆ・第48回』(NHK総合20151129PM8~)脚本・小松江里子、演出・安達もじりを見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回も年末年賀状体制発動のためにイラスト描き下ろしはお休みです。明治時代を描くのは・・・そんなに難しいかなあ・・・と涙目の日々でございます。もちろん・・・主人公の初恋の人は世が世なら・・・上野国の国主とも言うべき県令様に出世していて・・・新政府の名代として群馬県を支配する立場にある。その日常は多忙でしょう。しかし・・・高崎藩や・・・前橋藩にいた士族たちはどこに消えたのか・・・。そして官庁に商人たちが官吏として幅を利かせているのは何故か・・・米を作っている農民たちは絶滅してしまったのか。県令として一番大切な仕事・・・新政府に対し県民たちに年貢の代わりに税金をどうやっておさめさせたのか・・・県令屋敷の掃除をする女中さんはいないのか。安中からやってきて「公娼廃止運動」を始める八重関係のクリスチャンたちはどうしているのか・・・すべてをスルーして・・・「夫を亡くした妻」と「妻を亡くした夫」の「前橋の恋の物語」をどうしてもやらなければならないのか・・・まあ・・・もう・・・日清戦争も日露戦争もないままに・・・二人の明治は終焉を迎えるのですな・・・あはは・・・あはははははは。なんだか天使に噛まれて「トルコ行進曲/モーツァルト」を歌いたい気分でございます。
明治十四年(1881年)、楫取素彦の妻・久子が他界した時点で久坂玄瑞の未亡人・美和子は数えで三十九歳。素彦は五十三歳になっている。杉家としては出世した楫取と疎遠になることは好ましくなく、杉瀧が素彦の後妻に美和子を強く推したことは深謀遠慮と言えるだろう。この年、中央政界は薩長出身の官僚たちがついに派閥の最終形態に突入する。公家を代表する岩倉具視を・・・長州の伊藤博文が抑え込み、外務・内務という政治の主要ポストを長州が・・・大蔵・農商という経済の主要ポストを薩摩が抑え、陸軍は長州、海軍は薩摩と軍事が分割される。十二年後には・・・日清戦争が控えているのである。内務卿から大蔵卿へ転任する松方正義は大胆な経済改革を実行し、帝国の経済を破綻寸前にまで追い込む。官営富岡製糸所所長で内務省御用掛だった速水堅曹は・・・外国資本に対抗するために全国的蚕糸業団体である日本蚕糸協会の設立を松方に提案する。収益改善を追求する企業家的経営が実践され・・・日本の製糸業は黒字に転ずる。それは没落者と成功者を産む経済界の弱肉強食時代の到来を意味した。
利根川に毛利水軍旗をはためかせ河川砲艦「はぎ」「みたじり」「しものせき」が現れた。
爆裂弾が群馬県庁である前橋城を包囲する反乱軍に撃ちこまれ、軍兵を混乱させた。
楫取素彦はこれに呼応し、前橋城の鉄砲しのびたちに射撃を命ずる。
恐怖を感じた雑兵たちは敗走を開始する。
「くそたれが」
岩崎弥太郎は敗色が濃厚なのを感じ取り、悪態をつきながら撤退を開始する。
河川砲艦と城から追いうちをかける砲弾が降り注ぎ・・・城下には血の雨が降った。
美和子は勝利にわく・・・前橋城に入城する。
「義兄上・・・戦勝おめでとうございます」
「うむ・・・苦労をかけたな」
県令・楫取素彦は東京の毛利家との橋渡しをした美和子を労う。
その時・・・美和子は殺気を感じ取った。
出城となっている楫取が建設した公設遊郭・上野楼に何者かが狙撃を試みていた。
(姉上・・・)
美和子の念波に久子は感応した。
危険の正体を見極めようと振り向いた久子の眉間に空洞が生じる。
(姉上・・・姉上・・・)
(旦那・・・さ・・・)
久子の意識が闇に消えて行く。
遠距離射撃を終えた暗殺者は・・・迅速な逃走を開始していた。
美和子は意識を飛ばしてその行方を追う。
しかし・・・敵は霧の中に朧のような影を残すばかりである。
(すまぬな・・・渡世の義理だ・・・)
敵は嘲笑するように美和の意識に接触してきた。
恐ろしいほどに冷徹なくのいちの顔が美和の心に浮かぶ・・・。
伝説のスナイパー八重は微笑んでいた。
岩崎の金で買われたらしい・・・。
美和子は唇をかみしめた。
毛利家の勝利が運命で定まっていたように・・・久子の死も定まっていたのである。
吉田松陰の決定した未来はけして動かない。
それはまだまだ多くの血を欲していたのだ。
革命とは呪いに他ならないのだから・・・。
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