華麗なる跳躍探偵(新垣結衣)美女の踏み台にされる男始めました(岡田将生)犯人はこの中にいます(入山法子)
芸術家と職人の境界線は曖昧だ。
自称・芸術家より腕のいい職人の方が社会的な信用は高い。
しかし・・・腕のいい百円ライターは心のどこかで文豪に憧れている。
できれば・・・文豪として死にたいものである。
だが・・・たとえ・・・ライトノベル職人であっても・・・心は文豪でいいわけである。
多くの受け手にとって送り手が何者かは問題ではない。
漆職人の器も漆芸家の器も漆器に変わりはないのである。
アーティストとマエストロの違いなんてどうでもいいもんね。
で、『掟上今日子の備忘録・第4回』(日本テレビ20151031PM9~)原作・西尾維新、脚本・野木亜紀子、演出・茂山佳則を見た。東洋美術館の額縁すり替え事件で隠舘厄介(岡田将生)は額縁職人界の巨匠・和久井(山田明郷)と知りあう。和久井は額縁職人として財を成し、その金で芸術家の卵たちに資金援助をしていた。引退を考える和久井は最期の額縁制作にあたり、それに相応しい絵画を発注したのだった。和久井にとって額縁と絵画は一対の芸術作品だったのである。和久井が芸術家の卵である「絵描き」たちを住まわせる十四階建てのマンション「アトリエ荘」に呼び出された厄介は置手紙探偵事務所の掟上今日子(新垣結衣)とともに「美術商からの妨害工作に対して額縁制作現場の警備にあたること」を依頼される。
どうせ忘れられてしまい・・・前回は恋愛感情のスルーを宣言された厄介だったが・・・愛しい今日子に会う機会を見逃すわけにはいかなかったのだ。
「え~・・・マンションにただで住めるなんていいなあ・・・」
喫茶店「サンドグラス」のウエイトレス・幕間まくる(内田理央)は呟く。
悪魔的な「サンドグラス」のオーナー・絆井法郎(及川光博)は反駁する。
「うちのアパルトマンだって入居無料ではありませんか」
「だって・・・出会いがないし・・・」
「ここには独身男性が三人もいるのに・・・」と今日子。
厄介、法郎、そして潜入捜査員の也川塗(有岡大貴)は身構える。
殺気を孕んだまくるの格闘術の型が披露されて・・・。
「問題外ですよ・・・まず・・・私より強い人でないと・・・」
「どんな格闘アニメキャラですかっ」
厄介から依頼内容を聞いた今日子・・・。
「24時間警備するとなると半日交代ですね・・・しかし・・・探偵は警備員ではないので」
「ですよね・・・」
「それより・・・すでに事件は始っている可能性が高いのです」
「え」
「依頼者は嘘をつく・・・身の危険を感じるからこそ・・・警備を頼んだわけでしょう・・・相手は美術商ではなく・・・もっと身近にいる可能性があります・・・」
「そんな・・・」
「行きましょう」
今日子は覚えていないのだが・・・ふられたことを少し意識する厄介の態度。
「前回、何かありましたか」
「いえ・・・とくに・・・」
「しかし・・・何か私に含むところがあるような」
「何もありません」
「しかし・・・絶世の美女と一緒にいる喜びがありませんね」
「う」
「・・・冗談ですよ」
「そんな・・・今日子さんは・・・絶世の美女です・・・モデルにだってなれますよ」
「考えておきましょう」
アトリエ荘に到着する今日子と厄介。
しかし・・・101号室の和久井は応答せず・・・オートロックのマンションには入管できない。
厄介は知り合いの1402号室に住む天才少年・剥井陸(高木星来)を呼び出すがやはり応答はない。
今日子はロビーの三毛猫のかわいさに目を奪われる。
「かわいいにゃあ」
かわいいよ、ガッキーかわいいよ・・・である。
仕方なく裏口を捜す二人。
「モデルでなかったら・・・バレーボールの選手もいいかもしれません」
「今日子さんが・・・バレーボールですか」
「捨てたものじゃないのですよ」
今日子は厄介にレシーブのポーズを取らせると・・・厄介の手を踏み台にして忍者のようにマンションの壁を乗り越えるのだった。
「何か・・・見えた」
眩暈を感じる厄介。
そして・・・なぜか・・・壁の向こうで縄梯子を発見する今日子。
こうして・・・二人はマンションに侵入し・・・地下のアトリエで・・・負傷して倒れている和久井を発見するのだった。
「救急車を呼んで・・・止血して・・・心臓マッサージをして」
「心マ変わります」
「じゃ・・・私は人工呼吸を・・・」
「そ、それは僕が・・・」
おっさんと今日子のマウス・トゥ・マウスを阻止する厄介だった。
一瞬、意識を取り戻す和久井氏・・・。
「だれに刺されたんですか・・・」
「・・・」
しかし・・・和久井氏は黙秘する。
「警察には・・・」
「病院から通報がいくはずです・・・それより始めましょう」
「何を・・・」
「被害者は犯人をかばっていた・・・そして・・・我々が到着してから・・・マンションに出入りした人間はいない・・・つまり・・・犯人はこの建物の中にいます・・・私たちは・・・警察が到着する前に犯人を捜し出し・・・自首させなければなりません」
掟上今日子は名探偵なのである。
地下室に残された手掛かりを捜索する今日子。
潜入探偵は付近の住人からマンションの周辺事情を聴取する。
厄介は被害者の肉親である和久井氏の孫に事態を連絡する。
「和久井氏は・・・全員に絵画を発注しました・・・最期の額縁に相応しい作品を」
「いいえ・・・このマンションの住人は37人・・・発注されたキャンバスは35枚よ・・・」
「二人だけが・・・候補にエントリーされなかったのか」
「枠組みの大きさから該当者を断定しようとしたけれど・・・額縁の材料の発注伝票は何者かが持ち去っている」
「どうしましょう」
「一件ずつ当たるわよ・・・長い午後になりそうね」
「一人10分でも・・・37人だと六時間以上かかりますよ・・・」
「大変・・・眠たくなっちゃう・・・」
「・・・」
201号室・小柴風太(角田晃広)の証言。
「一人だけが栄冠を勝ち取れる・・・いいじゃないか・・・芸術家は自分の作品を信じている。このマンションの住人は・・・芸術だけに打ち込む喜びを感じて・・・やっているんだ・・・絵具の匂いを嗅ぐのはやめてください。コウノドリの麻酔医に続いて東京03参上・・・飯塚はももクロchanに出てるから今週は全員出たのです」
202号室・加賀笙子(入山法子)の証言。
「パソコン禁止、携帯禁止、禁酒、禁煙、恋愛禁止、ギャンブル禁止・・・マンション内の交遊も禁止・・・ひたすら芸術活動に打ち込むことがアトリエ荘のルール。生活費もギリギリで・・・静物デッサンのリンゴも食用だけど・・・芸術家は孤独なものだからね・・・発注されなかった人・・・それなら・・・高級品の辰之屋のキャンバスの所持の有無でわかるんじゃないかな・・・支給されなきゃ・・・みんな貧乏で買えないから」
「なるほど・・・メモ用紙も使いまわしですか・・・」
「・・・」
今日子は折り目のついた紙に注目した。
203号室。本竹(越村友一)の証言。
「きっと・・・一人は・・・303号室の住人だな・・・昨日、突然、引越したから」
なんだかんだで・・・12階にたどり着いた二人は非常階段で血痕を発見する。
「絵具では・・・」
「血です」
「嗅ぐのはやめてください」
「犯人はこの上にいます・・・しかし・・・なんで非常階段を・・・」
「あ」
厄介はエレベーターの階数ボタンに手が届かずに12階以上は歩く人物に思い当たる。
1402号室の天才少年・剥井陸・・・。
「あなたは・・・選ばれなかったのですね」
「そうだよ・・・」
「おかしいですね・・・あなたは天才なのに・・・」
「・・・」
「だから・・・あなたは和久井さんに文句を言いに行った・・・そこで事件に遭遇し・・・犯人を庇って・・・伝票を持ち去った・・・」
「・・・」
「なんということでしょう・・・伝票には・・・35枚分の・・・額縁の発注があった・・・つまり・・・和久井さんは発注した全員分額縁を作る気だった・・・」
「・・・」
「つまり・・・引っ越した人と・・・あなただけが選ばれなかった・・・屈辱だったでしょうね」
「・・・そりゃそうだろう」
「しかし・・・もっと怒った人がいたのです・・・おそらく・・・その人は芸術家として金メダルが欲しかったのに・・・全員金メダルってなんだよっ・・・ふざけんなと思いました。和久井さんを神のように尊敬していたその人は・・・逆上したのです・・・あなたはその人を庇っていますね」
「なんでだよ・・・」
「彼女が綺麗なお姉さんだから・・・」
「おいっ」
人間関係を拒絶した芸術家たち・・・。
しかし・・・彼らは・・・絵を描く・・・。
何のために・・・。
例外はあるとしても・・・誰かに見せるために・・・。
孤独であればあるほど・・・芸術家たちは・・・人恋しいのである。
潜入捜査員は調べた。
マンションから紙飛行機が飛ばされたことを・・・。
色の嫌いな少年画伯の・・・作品が描かれた紙飛行機。
その紙飛行機の束が・・・202号室にあった。
加賀笙子と少年画伯は禁断の恋をしていたのだった。
「お姉さん受けの少年攻めですか」
「おいっ・・・」
色とりどりの家族を捨てた少年は美人画家の色香に迷い黄色い絵の具のついたペインティングナイフ(凶器)を現場から持ち去ったのだ。
今日子は加賀笙子を責める。
「彼からの紙飛行機伝言で・・・私の記憶をリセットしようとしていますね」
「人生は365日の紙飛行機ね」
「まさしく・・・あなたは神に裏切られた・・・妥協を許さない厳しい世界を凌辱されたと思った・・・しかし・・・殺人という芸術以外の行為をしたあなたも・・・同罪なのでは・・・」
「自首します」
「ありがとうございます・・・しかし・・・ひとつだけ・・・和久井氏を弁護しておきましょう」
「?」
「潜入探偵の捜査によると・・・和久井さんは東京国際美術館に展示スペースを発注しています」
「それがどうしたの」
「35枚のキャンバスの総面積は15.75平方メートルになります・・・展示スペースの大きさは・・・縦3.5メートル横4.5メートル・・・つまり和久井さんは自分の額縁にすべての作品を収めたひとつの芸術作品を作ろうとしていたのです・・・自分の芸術のために他の人のことなどどうでもよかった・・・少年画伯に発注がなかったのは・・・黒は不要だったからと思われます」
「あ・・・」
「つまり・・・和久井さんは神だったのです・・・自分自身の芸術に忠実だった」
「・・・」
「罪をつぐなって戻ってきて絵を完成させてください。和久井さんは意識を回復して・・・あなたをかばった。おそらく和久井さんは殺人者だろうが変質者だろうが・・・芸術の価値とは無関係と考えるタイプだと思います」
「・・・確かに」
「1983年、23才の若きアーティストであるジャン=ミシェル・バスキアは55才のポップアートの巨匠・アンディ・ウォーホールと出会う。二人はつかのま・・・激しくスパークしあうが・・・1987年、58才のウォーホールは心臓麻痺で死去し、その翌年、27才のバスキアはヘロインの過剰摂取で死亡する・・・人はいつか死ぬし、芸術もやがて忘れ去られます」
「・・・ですね」
遠浅刑事(工藤俊作)と新米刑事(岡村優)は・・・美人画家を連行した。
少年画伯は綺麗なお姉さんを失ったのだった。
夜の闇にピンクのイルミネーションが浮かぶ時刻・・・。
「今日子さんは・・・昔・・・僕にはワトソンは向いていないと言いました。けれど・・・少し調べた限りではワトソンって凡人じゃないですか・・・僕は不運と凡人であることには自信があるんです」
「・・・」
「僕なら今日子さんに迫る危険を最悪の不運でガードできます」
「・・・帰ります・・・」
一瞬、拒絶されたような厄介。
「どうしたんですか・・・送ってくれないんですか・・・相棒なんでしょう」
昇天する厄介。
「家・・・どこですか」
「厄介さんも知っています」
そこは・・・「サンドグラス」だった。
「え」
そこに潜入探偵が帰還する。
「今日子さん・・・これ・・・今日の調査料の請求書」
「あ・・・しまった・・・今日の探偵料金・・・」
「後日・・・和久井さんに請求すれば・・・」
「記憶にありません」
「・・・」
「これ・・・相棒として・・・払っといてください」
「ええ・・・そんな・・・」
「じゃ・・・相棒解消です」
「えええ」
「おやすみなさい」
「今日子さん・・・」
甘い・・・甘いぞ・・・二人の仲が・・・。
ロマンチックでよろしいですなあ・・・。
なかなかのラブコメ職人仕事と申せますなあ。
ミステリだって立派な芸術ですからねえ。
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