一人寝の秘密探偵(新垣結衣)今日という日を大切に(岡田将生)暦の上ではまだ十一月(林愛夏)
「あまちゃん」の影は長い。
もちろん・・・所属事務所の影も長いのである。
新垣結衣と能年玲奈は同じ事務所に所属している。
「暦の上ではディセンバー」が第64回NHK紅白歌合戦で披露された時にアメ横女学園のメンバーとして参加したベイビーレイズJAPANの林愛夏の登場である。
同じ事務所なのである。
女性アイドルグループのブームが一つの頂点に達した2013年・・・それは過ぎ去った一年である。
リセットできる砂時計(一年用)があれば・・・ひっくり返して2013年の元旦を迎えたいものだ。
四月になれば「あまちゃん」が始る・・・あの年。
今はこの世から消え去った人々がまだ・・・笑い涙した日々。
しかし・・・過ぎ去った一日が戻らぬように過ぎ去った一年も戻らない。
それでも人々は生きて行く。
人生の砂時計(サンドグラス)がサラサラと落ちて行くから。
で、『掟上今日子の備忘録・第8回』(日本テレビ20151128PM9~)原作・西尾維新、脚本・野木亜紀子、演出・茂山佳則を見た。記憶について人々が何を記憶しているかは謎である。認知症という障害において・・・記憶は重要な要素となっている。認知症はある意味、記憶力の差異の病と言える。記憶力の優れた人間にとって・・・そうでない多くの人間はみんな認知症だと言えないこともないのである。私が覚えていることをどうしてあなたは忘れるのか・・・誰もがそう言いたい時がある。しかし・・・あなたにとって重要なことが私にとって重要ではなかったという答えが返ってくる場合もある。そういう時、殺人事件が発生することがあるのでご注意ください。
一日で・・・記憶がリセットされる人間なんて・・・いるのかよ・・・と思わず考えてしまう人間も・・・掟上今日子(新垣結衣)の存在にそろそろ馴染んできた・・・ということで。
掟上今日子の主観による一日の始りである。
目が覚めた時に・・・天井の「お前は今日から掟上今日子探偵として生きていく」という見慣れぬ文字を発見した今日子がなぜ驚愕するのか・・・お茶の間には分かっているわけだ。
優秀な観察力と洞察力を備えた今日子は・・・腕にかかれた文字を発見する。
「私は置手紙今日子探偵記憶が一日でリセットされる」
今日子は・・・そうなる以前の記憶も持っている。
一般的には・・・それが前日の記憶と考える人もいるだろう。
しかし・・・たとえば五年前のある日のことを思い出してもらいたい。
あなたはその日のことを鮮明に思い出せるだろうか。
もちろん・・・特殊な記憶力の持ち主もいて・・・生まれてから今までのすべての記憶が再生できるかもしれない。
しかし・・・多くの人間は五年前のある日の記憶は曖昧なものだ。
今日子にとって・・・おそらく・・・記憶を失う前の日々はそういう忘却の霧の彼方にあるのだろう。
だから・・・「リセット」された膨大な一日について・・・今日子はしばらく考える。
太股に書かれた「サンドグラスの電話番号そしてサンドクラスの三人の名前」を発見すると・・・今日子は自分に「人間関係」が残されていることを知る。
「人間関係」が「以前」と「以後」のどちらに属しているかは不明である。
お茶の間は・・・さらに「厄介さん信用できる」が残されていることから・・・これが「須永昼兵衛の死の真相」が解明された後の話だと知ることができる。
今日子は・・・「寒さ」から「冬」に気付き・・・前日に自分が用意した「今日の服」を発見する。
空腹から「食」を求め・・・冷蔵庫が「空」であると知る。
金庫を発見し・・・「熊一匹と鳩四羽」の暗号からとりあえず画数検索をし・・・熊十四画、一一画から・・・二の平方根である1.41421356(一夜一夜に人見頃)を連想・・・それが解除に必要な番号であることを確信する。
生活に必要な「金」が確保されていることに安堵する今日子。
ここで・・・お茶の間は二つのことを暗示される。
「やっかいさん・・・」という読み間違えで隠舘厄介(岡田将生)が忘れ去られていること。
そこにいない猫に話しかける今日子の不可解な行動により・・・今日子の心に思い出せないが覚えている何かがあるということ。
つまり・・・それが・・・厄介という「人間」について今日子の中で「何か」が育っているという話のポイントなのである。
もちろん・・・そういうことがわからない人は・・・世の中には結構います。
記憶を失うという状態は一口には言えない。
何を忘れ、何を覚えているかには個人差があるのだ。
たとえば・・・昨日何があったかは覚えていないがカレーライスの作り方は覚えている。
厄介のことは知らないが厄介が他の女性とイチャイチャしていたら不快になる。
つまり・・・今日子が見ず知らずの厄介に恋をしているということ。
厄介は今日子に恋をしているが・・・それが成就したとしても一日限りだと知っていること。
そういう・・・二人のなんともせつない「心」を描くために・・・ここまでの長い話が必要だったのである。
だから・・・今回はいよいよ本題に入ったと言える。
探偵斡旋業も営むアパルトマン「サンドグラス」のオーナー・絆井法郎(及川光博)はいつもの説明をしてトースト・スクランブルエッグ・サラダ・コーヒーの朝食をサービスする。
ウエイトレス・幕間まくる(内田理央)は優れた運動能力を披露して今日子を口惜しがらせる。
そして潜入捜査員の也川塗(有岡大貴)は「他にスタッフはいるのか」と問われ・・・いつもと違う今日子を感じるのだった。
今回は今日子の主観がお茶の間に示され・・・「厄介さんとは秘密の関係かもしれない」と推測する心の動きまでがサービスされるのだった。
そして・・・「今日の事件」が始る。
手続き記憶によって・・・現場に到着できるらしい今日子。
携帯電話の使用にも熟練しているようである。
つまり・・・携帯電話の使った記憶はないが・・・身体的にはリセットされた日々の痕跡があるわけだ。
事件が起こったのは第二次世界大戦期にドイツで開発された対戦車自走砲ではなくてアパレルショップ「ナースホルン(ドイツ語で犀)」である。
三周年記念セールにウキウキする今日子。
呼び出したのは警視庁捜査一課長の奥様(石田ひかり)であり、現場には遠浅深近刑事(工藤俊作)と新米刑事(岡村優)のコンビが到着している。
横並びの更衣室の一つで常連客の屋根井刺子(手島優)が死んでいるのが発見された。
死因は頭部の挫傷で凶器はハンガー。
午前11時頃に・・・被害者が更衣室に入るのを常連客である課長夫人が目撃している。
「ナースホルンの新作スーツ」が奥様たちの話題になったからだ。
そして・・・午前11時20分頃・・・アルバイトの厄介の脇に貼られた「半額」のシールをはがそうとした店員のミワ(渡辺舞)に脇腹をさわられて・・・脇腹が敏感すぎる厄介は転倒。カーテンの裾から・・・死体の脚部を発見したのだった。
第一発見者として疑われる厄介。
今日子は・・・ミワに脇腹を触られて感じる厄介の狂態になぜか不快感を覚え・・・嫉妬である・・・厄介を信用できると書いた自分自身に懐疑的になる。
関係者の事情聴取をする今日子。
厄介に対し・・・自分が恋をしているのではないかと思い当たった今日子は・・・それを「気の迷い」として否定しようとする。
なんらかの極限状態で生じた錯覚により・・・過去の自分が判断を誤ったと考えたのである。
しかし・・・三ヶ月前に・・・厄介と知りあい・・・何度か厄介を「ワトソン」と呼び・・・厄介が「クビになったりもした」と告白したことから・・・厄介の正直さを感じたり・・・そのマリアナ海溝よりも深い苦難に満ちた厄介の人生に同情したりするうちに・・・厄介を見捨てることができない感じの自分を見出していく。
「今回は目の密室です。更衣室の出入りは自由ですが・・・犯人は・・・真実を隠すために密室を作り上げました。犯人は何を隠そうとしたのか。死体でしょうか。それとも殺人事件そのもの。あるいは・・・犯人の正体。以上です」
「もう・・・犯人はわかっているのですか」
「僭越ながら・・・」
「誰ですか・・・」
「それは言えません。今回の依頼料は・・・半額なので」
「え」
「料金的にサービスできるのはここまでです」
「主人のケチ」と奥様。
「お小遣いが減らされたからだそうです」
「え」
「奥さんが残りを払うというわけには」と新米。
「もうすぐタスマニア旅行に行くので」
「厄介・・・お前が疑われているんだから・・・残りはお前が」と遠浅。
「今、探偵貯金がピンチなんです」
「ではこれで」
「なんで・・・そんなに金欠なんだ」
「この間・・・捜査の途中で今日子さんに買った洋服のローンが残っているんです」
「・・・しょうがないなあ・・・ヒントをあげますから・・・ワトソン・・・がんばって」
体に残る厄介の記憶を消しそこない・・・仕方なく・・・サービス残業を開始する今日子だった。
「相棒プレイね」と奥様。
「更衣室に被害者が入ったのを奥様たちは見ていた。犯人が更衣室に入ったところも出て行くところは奥様たちも店員たちも見ていない・・・つまり犯行は不可能・・・」
「つまり・・・事故ですか・・・ハンガーが空から降ってきた」
「天井の存在は」
「すみません・・・誰も悪いことをしていないといいなという希望的観測です」
厄介の人のよさに惚れこむ今日子。
「しかし・・・事件を説明するためには、余計な仮定は必要ありません」
「オッカムの剃刀・・・ですね」
「まあ・・・よく知っているわね」
「最近・・・推理小説を読むようになったので・・・」
それが自分の影響だと一瞬で推察し・・・高まる今日子の心。
今日子は一生懸命な人を応援するのが好きなのである。
(頑張って・・・ワトソン)
「そうか・・・犯人は・・・犯行時刻を隠そうとしていたのかも・・・」
「正解・・・犯人は被害者に変装して・・・更衣室に入ったのです」
「つまり・・・犯行は・・・開店前に・・・」
「正解・・・」
「でも・・・更衣室には他のお客さんが・・・」と店員のウメ(林愛夏)が証言する。
「そう思ったのは・・・更衣室の前の靴が変わっていたからでよね」
「はい」
「そうか・・・犯人は靴を履き替えていたんだ」
「でも・・・被害者は確かに・・・あの更衣室に・・・」
「被害者に変装した犯人はとなりの更衣室に入ったんです」
「え」
「しかし・・・死体が発見された更衣室の印象の強さが・・・記憶を書き換えたんですよ」
「そして・・・犯人は・・・自分の服に着替えて・・・出て行ったんだ」
「正解・・・しかし・・・犯人にとって困ったことが起きました」
「僕が・・・靴を控室から運び出した・・・」
「そうです・・・犯人は自分の靴をとりもどそうとして・・・失敗しました」
厄介が転倒して落した靴の箱。
「ほら・・・これ・・・箱と中身がちがいます。これが犯人の靴・・・そして・・・箱の中の靴を履いている人が犯人です」
犯人はミワだった。
ミワと刺子は社長のまーくん(森岡豊)をとりあっていた。
開店前にやってきた刺子。
「三年したら結婚しようって言われた」
「それは私に言ったのよ・・・」
口論の果てに・・・ハンガーでミワは刺子を殺害したのだった。
「二股か・・・」と遠浅刑事。
「ちがうわ・・・社長は私にも・・・」と店長(幸田尚子)・・・。
突然、泣きだすウメ・・・。「私にも三年したら結婚しようって・・・」
「四股かよっ」
店長は社長を鉄拳制裁した。
課長夫人は・・・今日子と厄介の関係を見抜いていた。
「これ・・・映画の鑑賞券・・・よかったら」
今日子は・・・「香港竜王伝説」のチケットを入手した。
しかし・・・蕎麦屋のバイトがある厄介。
「すみません・・・送っていけません」
「私の家を知っているの・・・」
「はい」
「今日子さんは・・・あの部屋に三年くらい住んでいるそうですよ」
「・・・」
「今度・・・名探偵めい子のリバイバル上映があるんですけど・・・今はちょっと」
「金欠なのですね」
「はい・・・デート費用がありません」
「問題外ですね」
今日しかない今日子。恋の記念日は無意味だ。未来への投資も・・・遠い約束も無関係。しかし・・・その日を大切に生きることができる。
そして・・・信用できるパートナーもいる。
今日子は一人で映画を見る。
蘇る・・・遠い記憶・・・今日子は誰かに追いかけられていたようだ。
バイトを終えた厄介は「サンドグラス」に現れる。
誰かが・・・今日子を・・・「サンドグラス」という密室に閉じ込めた。
その正体を・・・絆井法郎に問うためだ。
「なんらかの事情を知っているのでしょう」
「・・・」
その頃・・・今日子は謎の男(要潤)に声をかけられる。
「今日子・・・俺だよ・・・覚えていないのか・・・付き合っていた男を忘れてしまったのか」
しかし・・・今日子は男の言葉に何らかの「嘘」を見出したらしい。
「私のことを知っているとしても・・・ナンパするなら・・・もう少し考えないと」
「・・・」
物語は・・・結末に向かって静かに加速していく。
いついかなる時も今日子にさえ・・・昨日と同じ今日は来ないのである。
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