犯人の筋書き通りに動いたら刑事失格ですから(黒木メイサ)何があっても自分の無能さだけは認めません(松下由樹)
恐ろしいほどにキャストが生々しい感じのこのドラマ・・・。
役者たちのすべてのキャリアがこの作品のためにあったような濃厚さだ。
有能すぎる刑事を演じる黒木メイサ。
息子を溺愛するあまりに娘の身体を捧げる母親を演じる安達祐実。
誰かを助けるために誰かを犠牲にではない父親を演じる池内万作。
神を支配しようとするサイコパスの細田善彦。
神に悪戯を仕掛けた天使の斉藤由貴。
若さゆえの自分のあやまちをスルーし続ける渡辺大知。
良心的には見えないのに良心的な医師の渡部篤郎。
中途半端に悪い渡辺いっけい。
自己保身の結晶である半海一晃。
あたりはずれがあたりまえの手塚とおる。
癒しだけのために生きている山崎樹範。
下に甘く上に辛い中間管理職の鑑としての神保悟志。
そして・・・無能さゆえに出世し頓珍漢な自分をけして省みない松下由樹・・・。
凄いな・・・刑事ドラマとしては今世紀一番の完璧なキャスティングかもしれん。
で、『デザイナーベイビー~速水刑事、産休前の難事件~・第7回』(NHK総合20151103PM10~)原作・岡井崇、脚本・早船歌江子、演出・岩本仁志を見た。苦悩は知的な作業である。苦悩することが不幸なことであれば愚か者ほど幸福なのである。苦悩する誰もが愚か者を見下して呟く。いいねえ・・・お前には悩みがなくて・・・と。しかし、生まれ出ずる悩みはどんな脳からも湧き出ている。
サイコパス的人生哲学三原則。
第一の原則 自分の命は守らなければならない。
第二の原則 第一に反しない限り世界を守らなければならない。
第三の原則 第一、第二に反しない限り他人の命は守らなければならない。
その実践例。
自分の命を守らなければならない。戦争に勝利して世界を守らなければならない。原子爆弾を広島に投下してもよし。
自分の命を守らなければならない。米国に味方して日本を守らなければならない。沖縄に米軍基地を置いてもよし。
自分の命を守らなければならない。隣国に配慮して不戦を守らなければならない。政府に爆弾を投げつけてもよし。
私は自分の仕事を神聖なものにしようとしていた。ねじ曲がろうとする自分の心をひっぱたいて、できるだけ伸び伸びしたまっすぐな明るい世界に出て、そこに自分の芸術の宮殿を築き上げようともがいていた。それは私にとってどれほど喜ばしい事だったろう。
「生まれいずる悩み/有島武郎」(1918年)より。
木曜日・・・。フクスケこと土橋福助刑事(渡辺大知)はまたしてもミスを犯し、近森優子(安達祐実)の退院を見逃す。
各放送局に警官を配置し、「誘拐事件の発生」を隠匿しようとする警視庁捜査一課特殊犯捜査係の日村係長(神保悟志)・・・。
「人質の安全確保のために絶対に情報を公開させるな」と命ずる与那国令子管理官(松下由樹・・・。
「誘拐七日目で事件解決の目途が立っていないなんてことは絶対に知られてはならん」と圧力をかける管理官の上司(半海一晃)・・・。
「こちら・・・近森邸監視班・・・近森優子が・・・素晴らしいインターネットの世界の海賊放送局・ネコネコ動画のスタッフと帰宅しました」
「放送を阻止せよ」
「住居不法侵入できません」
現場に向かうフクスケと妊婦刑事・速水悠里(黒木メイサ)・・・。
「くそ・・・夫を囮にして妻が逃げ出すなんて・・・」
「あなた・・・そのうち猫にでも騙されるわよ・・・」
「・・・」
「おかしな話だわ・・・誘拐犯を追わないで・・・誘拐された子供の母親を追うなんて」
「ノゾミの命を守るためでしょう・・・」
「警察の面子を守るためよ」
「それのどこがいけないんですか」
「・・・」
単純な若者にとって世界は複雑なものであってはいけないのだ。
速水刑事の苦悩をフクスケが理解するのは困難だった。
速水刑事の沈黙をフクスケは自分の勝利と感じる。
世界は不毛である。
近森邸には締め出された捜査官が立ちすくんでいた。
「どうするんです」
「不法侵入が必要ならするだけよ」
二人は裏口から庭に侵入し、邸内に入る。
「もう収録は終わったよ」
「送信を阻止する」
「どんな権利だ」
「人命尊重のための緊急避難だ」
「報道の自由を死守するぞ」
多勢に無勢で拘束されるフクスケ。
通信機器は速水刑事が確保する。
「母親として・・・お願いするわ・・・送信させて」
「いいでしょう」
「そんな・・・」
「ノゾミが誘拐された事実」は公開された。
公開阻止の失敗を報告する二人。
管理官の上司は責任の所在を決定する。
「捜査責任者として日村係長を降格人事する」
「・・・」
警視庁捜査一課特殊犯捜査係の刑事たちは帰還した二人を詰問する。
「なんで阻止しなかった」
「お前らの不手際で・・・係長は所轄に飛ばされたぞ」
「係長・・・」
「阻止しなかった理由を言いなさい」
有能すぎる速水刑事を疎みつつ・・・藁にもすがる思いの管理官。
「誘拐犯の目的は・・・ノゾミそのものです・・・このままでは事態は進展しません」
「どういうこと・・・」
「犯人を揺さぶる必要がありました」
「それで事態が動くと・・・」
「・・・」
管理官の上司は管理官を追及する。
「あの女を外さないのか」
「一日だけ・・・待ってみます・・・それで犯人に動きがなければ」
「とにかく・・・明日までに事件を解決しろ・・・手段は選ばなくていい」
「・・・」
世界かコントロールされていないことを認めない組織の言葉である。
それに従うことが出世の秘訣だった。
「ノゾミは生後二週間の新生児です・・・誘拐されてすでに一週間・・・今日、明日にも命の危険があります・・・どうか・・・ノゾミを私に返してください」
オリンピックの金メダリストだった優子の発信力が情報を拡散する。
追従する形で報道規制を破る大手メディア。
「ノゾミ・・・可哀想」の空気が世界に浸透する。
真実を知る崎山典彦特任教授(渡辺いっけい)は脳に血栓を生じている。
抗凝固薬のヘパリンに作用を阻害する拮抗薬プロタミンを混入されて・・・その口は封じられた。
二人のデザイナーベイビーの制作者たちは密会する。
「放送を見ましたか・・・先生・・・僕は思わず笑ってしまいました」
「・・・」
ゴッドハンドの胚培養士・山原あけみ(斉藤由貴)の凍結卵子を人質にとって支配するサイコパスかつ近森優子の担当医・皆本順(細田善彦)である。
「一体・・・どうするつもりなの・・・」
「夢の実現の好機到来ですよ・・・僕たちは・・・このままでは先端技術で生命をもてあそぶ異端者だ・・・しかし・・・世論は物語に弱い・・・白血病で生命の危機にある兄を救うために・・・救世主として妹が降臨する・・・医学の勝利を謳う文脈を作り上げるんです」
「新生児をドナーとする骨髄移植は・・・危険すぎる」
「しかし・・・成功すれば問題ありません」
「つまり・・・善意の誘拐犯は・・・憐れな母親の元にノゾミを戻すのね・・・ノゾミはどこにいるの」
あけみは微笑む。
「ノゾミの友達のところに・・・」
「友達・・・」
「まあ・・・まかせてください・・・悪いようにはしませんから」
しかし・・・あけみは・・・これ以上、熱狂する若者に付き合う気持ちはなかった。
皆本は・・・自然という名の神を制御することに酔う。
けれど・・・山原はただ・・・自然では出会うことがなかった卵子と精子を出会わせ・・・自然にちょっとした悪戯を仕掛けただけの良心的な天使だったのである。
予想される苦悩を削除しただけで・・・悪気はなかったのだ。
だが・・・皆本は目的達成のためには殺人も辞さない悪魔と化し・・・新生児を理想のための供物として捧げようとしている。
子供に恵まれない憐れな母親たちを皆本は弱みにつけこんで支配しているのである。
そのために・・・人々の人生は狂い出していた。
ノゾミの友達・・・それは・・・ノゾミと同じように二人が作った子供・・・。
山原は・・・皆本が用意したノゾミの居場所を推察した。
それは・・・もう一人のデザイナーベイビーの母親(阿南敦子)の家だった。
須佐見誠二郎教授(渡部篤郎)はDNA制限酵素を発注した皆本医師を追及する。
「君は・・・近森夫妻のためにデザイナーベイビーを作ったのか」
「教授・・・本当に遺伝子操作について・・・あまりご存じないんですね」
「・・・」
「遺伝子操作には・・・恐ろしいほどの熟練が必要とされるのです・・・僕にそんなことができると思うのですか」
「じゃ・・・誰にやらせたんだ・・・」
「さあ・・・そんなことを僕に訊かれても・・・困るな」
その時・・・崎山教授の心肺が停止する。
そして・・・速水刑事が城南大学附属病院に到着する。
「崎山教授は・・・病状が安定していたのではないのですか」
「おかしい・・・まるで・・・ヘパリンが利かなかったみたいだ」
「どういうことですか」
「ちょっと待ってくれ」
須佐見は薬品の在庫リストをチェックする。
「プロタミンが紛失している」
「プロタミン・・・」
「何者かが・・・ヘパリンをプロタミンで中和した・・・ということだ」
「何者って・・・」
薬品倉庫の人の出入りをチェックする須佐見・・・。
「山原あけみ・・・だ」
山原は・・・ノゾミの友達の家を訪問していた。
「いつまで・・・その子を預かればいいんですか・・・その子・・・あの子なんでしょう」
「私が・・・預かります」
「あれも皆本先生が持って来たんです・・・確かに皆本先生には感謝してますけど・・・なんだか脅迫されているような気がするんですよ」
「この子が・・・あの時の子・・・」
ノゾミの友達の幼児を見つめる山原。
「私は・・・君が目に見えないくらい小さい時から知っているのよ・・・君はすごく強そうだった・・・元気に育っていてうれしいわ・・・」
それから・・・山原は人質に取られていた自分の卵子を処分した。
「誰かに利用されたらかわいそうだものね」
皆本は出遅れた。
「私は・・・止めたんです」
ベランダに散布された・・・生命の源・・・。
「先生の宣戦布告か・・・」
毎度おなじみの悪魔と天使の戦いが始ったのだった。
緊急捜査会議が招集される。
「すると・・・山原あけみが・・・崎山医師を・・・」
「一体・・・何のために・・・」
「それは僕が説明できるかもしれません」
管理官、西室刑事(手塚とおる)、速水刑事、そしてフクスケの前で自分に都合のいい証言を始める皆本医師・・・。
「山原先生は・・・ゴッドハンドの持ち主です・・・彼女の神秘的な技術を知った僕は・・・崎山教授に彼女のトータルケアプロジェクトへの参加を進言しました。彼女は・・・遺伝子レベルの治療を可能にしたのです」
「ゲノム編集を・・・」
「そうです・・・たとえば有森さんのご主人は・・・遺伝性進行性神経変性疾患を発症しています・・・そのままなら・・・有森家の子供は二人に一人がこの病気を発症する」
「そんな・・・」
「しかし・・・ゲノム編集で・・・受精卵の段階で・・・これを治療することができます」
「・・・」
速水刑事以外の捜査官たちは・・・皆本の言葉に踊らされ始める。
「しかし・・・それは倫理的に問題があります」
「・・・」
「そのことを崎山教授に知られ・・・僕は処分を覚悟しましたが・・・山原先生は崎山教授を説得するとおっしゃってました」
「おかしいじゃないの・・・それなら事故の時・・・あなたはそのことを証言するでしょう」
火花を散らす犯人と刑事。
しかし・・・愚かな若者を演じるサイコパスは頭を下げる。
「すみません・・・このまま・・・うやむやになればいいと・・・つい思ってしまいました・・・けれど・・・今日・・・崎山教授がお亡くなりになって・・・後悔したのです」
速水以外の捜査官たちは悪魔にたやすく心を許した。
「山原先生は自分の作品であるノゾミと一緒に自殺するつもりかも・・・」
「・・・」
悪魔の言葉に洗脳される一同。
速水だけは・・・疑いの目を注ぐ。
「山原を指名手配する」と管理官。
「待ってください。あの医者の言葉を信用するのですか」
「辻褄はあっている」
「しかし・・・女の山原さんが・・・男の崎山教授を・・・突き落とせますか」
「女が男を殺すことは珍しくない」
「・・・山原さんは・・・命を大切にしていた・・・自殺したりは・・・」
「とにかく・・・今は山原を追うしかない・・・あなたの山原に対する気分なんて問題外よ」
「けれど」
「もういい・・・帰宅しなさい」
フクスケは生意気な女が偉い女に叱られる様子に満足する。
たたき上げの西室刑事は・・・愛弟子の速水刑事を慰めるが弁護はしないのだった。
「安心しろ・・・後はまかせろ・・・」
仕方なく帰宅する・・・速水刑事。
夫の下地浩介(山崎樹範)はタコライスで義母と胎内の異母兄弟の身を案じるゾンビマニア下地雄介(若山耀人)は採取したザリガニで速水刑事を和ませるのだった。
山原は・・・挑戦的に監視カメラにノゾミを誇示した後は消息を絶っていた。
刑事たちは・・・山原の必死の逃亡にまたしても・・・お手上げになるのだった。
「なぜ・・・新生児を抱えている女が・・・簡単に行方をくらますことができる」
山原はビシネスホテルの裏口にノゾミを隠し・・・単身でチェックインし・・・それからノゾミを回収して部屋に隠れ潜んでいた。
「近森夫妻は・・・報道各社に対して公式の記者会見を開く予定です」
テレビからはニュースが流れていた。
「行くんだろう」と夫。
「行きなよ・・・お義母さん」と義理の息子。
速水刑事は頷いた。
白血病を発症した近森新(岡本拓真)に残された時間はおよそ一日となっている。
会見会場の控室で・・・近森博(池内万作)は苦悩していた。
速水刑事は揺さぶりをかけに現れる。
「あなたの気持ちを正直に話して下さい・・・それが奥様の意見とは違ったとしても」
「・・・」
記者会見がスタートする。
「あの子の命は風前の灯です」
「ご主人のお気持ちもお話ください」
「私は・・・望が・・・戻らないで欲しいと思っています」
どよめく会場。
「望が戻った後に起きることが恐ろしい・・・」
「どういうことですか」
「私の長男は・・・白血病を発症しています・・・望は・・・新を救うための救世主兄妹として・・・生まれてきたのです」
騒然となる会場。
近森優子は夫の裏切りに・・・唇を噛みしめる。
「そんなことが・・・許されると思っているんですか」
「移植のために・・・子供を作るなんて・・・人権侵害だ」
「ひどい母親だ」
「母親だからです・・・新の命を救うためにはドナーが必要なのです・・・そのために私は望を生んだ」
「母親なら何をしても許されるのですか・・・望ちゃんはあなたの道具ですか」
「そうよ・・・私は望の母親ですもの」
対峙する刑事と犯人に制御された被害者。
茫然とする一同。
管理官は呻く。
「これが・・・速水の狙い・・・」
フクスケは口を開ける。
「すごいスタンドプレイだ・・・」
西室は愛弟子の晴れ舞台にうっとりとするのだった。
「さすがだ・・・速水」
騒然とする捜査本部に一本の電話がかかる。
「不審な電話があります」
「変われ」
「速水刑事はいますか」と山原。
「私が変わる・・・」と管理官。
「お話したいことがあります・・・」
速水がノゾミの父親を揺さぶり・・・その振動は時空を越えて山原に達した。
そして、物語は・・・怒涛の終焉へ向かうのだった。
はたして・・・妊娠刑事は・・・出産刑事になるのだろうか。
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