わたしをみつけて(瀧本美織)みんないい子になりたかった(溝端淳平)
この枠の前作である「デザイナーベイビー~速水刑事、産休前の難事件~」が変則的な時期で終了したために・・・キッドの個人的な意図でレギュラー・レビューにはならなかったが・・・見ごたえのあるドラマだった。
なにより・・・女優・瀧本美織に対する評価が跳ね上がったのである。
もちろん・・・はまり役だった・・・という考え方もあるが・・・凍結されていた人格のある部分が融けていく感じを見事に演じていたと考える。
ドラマの核心である「イチャイチャ」から一番遠い場所で・・・「イチャイチャ」の結果から生じる「ある問題」を心温まる物語に仕上げて行くのは一種の王道である。
たとえば「コウノドリ」はその典型と言える。
個人的に負ったハンディー・キャップを克服した成功例で・・・社会的な力を賞賛するのはうさんくさいものである。
しかし・・・捨て子だったけれどピアノも上手な産科医になる話より、捨て子だったけれど准看護士になる話の方がリアルに感じるということもあるよね・・・。
「あなたに私の何がわかるの」という拒絶に・・・「わかりません・・・捨て子なので」という激しい応答・・・。
一種の「必殺技」を見事に決めて・・・最後は「しかし・・・武器よさらば」というフィニッシュ。
そういう人々には・・・「イチヤイチャ」は遥か彼方にそびえる霊峰なんだなあ・・・。
とにかく・・・名作だ。
で、『わたしをみつけて・第1~最終回(全4話)』(NHK総合20151124PM10~)原作・中脇初枝、脚本・森脇京子、坂口理子、演出・野田雄介を見た。階級制度は一種の身分制度であるが、公正な競争によって獲得する資格はひとつの地位の象徴である。しかし、経済格差が医師と看護師、看護師と准看護士の「個人的ななりやすさ」に影響を及ぼしていることは間違いない。チームワークが円滑に行われるために・・・そこに亀裂を生じさせる問題があれば・・・制度設計を見直すこと。しかし、現場では個人が階級闘争を繰り広げる他はない。それぞれの能力を最大限に発揮することは社会を向上させる基本であると信じて。
看護師不足の時代に准看護士制度が生まれた。
専門的な教育を受ける看護師に準ずる資格・・・つまり・・・なりやすさにおいてハードルが看護師より低いということである。
病床数130床の星美ヶ丘病院の准看護士である山本弥生(瀧本美織)は・・・新任の看護師長である藤堂優子(鈴木保奈美)に「何故、看護師になったのか」と問われる。
「それしかできなかったので」と答える弥生・・・。
怪訝な顔をする藤堂看護師長である。
生まれてすぐに捨てられて両親を知らない弥生。
山本は当時の区長の姓であり、「捨てられたのが三月なので弥生」なのだった。
救急看護認定と緩和ケア認定というスキルを持つスーパー看護師である藤堂は抜群の指導力で・・・少し弛んでいた職場の空気を引き締め・・・五十嵐奈菜(奥村佳恵)、関美千代(野村麻純)、飯野七海(志保)、神田恵美子(初音映莉子)といった癖のある看護師たちをまとめ上げて行く。
ここで・・・藤堂と弥生にある特殊な関係も想像できるが・・・ドラマはそういう方向には傾いていかない。
世界から捨てられたと感じている弥生は極度の緊張感で日々を過ごしている。
里親に対し・・・「悪い子でも愛されるか」というチャレンジをした弥生は・・・再び、放棄され・・・「いい子でなければ捨てられる」という信念を勝ち取っていた。
忠実に職務を遂行し・・・自転車で通勤し・・・一人暮らしのアパートで冷や奴に生姜をすり下ろす。
唯一の贅沢はホーム・プラネタリウムによって天井に投影された星空を見ながら就寝すること。
「自分で自分の居場所を確保すること」が弥生の日常なのである。
しかし・・・ボランティアで近所の小学校の登下校の見守りをしている菊地勇(古谷一行)に声をかけられたことから・・・弥生の人生は転機を迎えるのだった。
弥生の通勤路の途中にあるアパートで・・・「子供の泣き声がして・・・気になる」と菊地は告げるのだった。
愛犬ラッキーと散歩中の菊地に対して・・・応答に戸惑う弥生。
虐待があるのかもしれない・・・と心配する菊地。
(この家の子は・・・この人に見つけてもらえるのだろうか・・・けれど・・・見つけてもらえなかった私に・・・何ができるだろう)
弥生は漠然とした壁を世界に感じている。
(見つけてもらえなかったとしても・・・ひっそりと生きて行くしかない)
弥生には・・・そういう覚悟があるのだった。
弥生の担当患者であった虫垂炎で入院中の楠山幸一(木内義一)の容体が急変して死亡する。
病院長であり優秀な外科医でもある後藤啓一郎(本田博太郎)の「誤診だった」と見抜く藤堂看護師長。
患者の遺族に対して・・・「真実」を告げさせないために弥生は・・・藤堂に対して別の患者のカルテがなくなったと報告して時間を稼ぐ。
「院長に命じられたら・・・何でもするの」と問いかける藤堂。
「いい子でいないと・・・捨てられてしまいます」と答える弥生。
藤堂は・・・弥生の履歴に・・・何か特別なことがあると察し・・・観察を開始するのだった。
しかし・・・担当患者を救えなかったことは弥生の心を大きく揺さぶっているのである。
藤堂を病院に招聘したのは事務長で院長の息子である後藤雅之(溝端淳平)だった。
星美ヶ丘病院の三代目に生まれながら・・・医師になれなかった雅之には父親との確執がある。
医師ではない病院の後継者として・・・ジレンマを抱える雅之。
「病院の閉鎖」の噂が発生し・・・弥生は雅之に真相を聞く。
「それは・・・ただの噂だよ・・・それに君ならどこでもやっていけるだろう」
「困るんです・・・ここがなくなったら・・・」
「そんな・・・この病院に縛られている僕と違って・・・君は自由じゃないか・・・」
「自由・・・」
弥生と「自由」とは無縁だった。
菊地が・・・大腸がんを発症し患者として入院してくる。
そして・・・訪れる大量の見舞客。
菊地は地域で愛されている男だった。
妻や娘・・・そして孫に囲まれて幸福そうな菊地。
(私が入院しても・・・誰も見舞いには来ない)
菊地と自分が同じ人間だとは思えない弥生だった。
しかし・・・孫との会話から・・・弥生が九九ができないことを見抜く菊地。
「ひょっとして・・・九九ができないんじゃないか」
「養護施設にいて・・・九九を習う時に学校に行けなかったのです」
弥生は九九を足し算で独学していた。
菊地は「ひらがなで書いた九九のメモ」を弥生に贈る。
「九九は・・・言葉にして・・・暗記するしかないんだよ」
「いんいちがいち・・・」
弥生は涙が止まらない。
弥生が「九九」を知らないことを「みつけてくれた人」がいたからである。
またしても・・・病院長が執刀した患者の容体が急変する。
弥生は・・・藤堂に相談するのだった。
藤堂は「誤診」を見抜き・・・別の病院への緊急搬送を独断で行う。
「でも・・・そんなことをしたら・・・」
「私たちの仕事は・・・患者さんに寄り添うことよ・・・」
藤堂の行為に激怒する院長・・・。
藤堂は解雇されることになる。
しかし・・・事務長は父親に外科医としての引退を迫るのだった。
「私たちの居場所は・・・いつでも患者さんの側にある」
看護師たちに言い残して・・・星美ヶ丘病院を去る藤堂。
「これから・・・どうなさるのですか」
「別の病院から・・・誘われているの」
「・・・そうですか」
「あなた・・・正看護師を目指してみたら・・・」
「考えたこともありませんでした」
「私と一緒に来ない?」
「え」
「あなたは・・・きっといい看護師になれる」
「私が・・・」
「私も家が貧しかったから・・・准看護士から始めたの・・・」
藤堂にとっては切り札である。
「私は捨て子なので・・・」
切り替えされてひるむ藤堂だった。
「・・・」
「ひとつ問題があります」
「問題・・・」
「別の病院に行くためには引越しをしないと」
「・・・」
「施設を出る時は・・・施設長さんが保証人になってくれたのです」
「・・・」
「だけど・・・施設を出たら・・・もう保証人になってくれる人が」
「・・・私が保証人になるわ」
捨て子の想像を越えた不自由さに心を苛まれる藤堂だった。
「本当ですか」
「あなたは・・・立派よ・・・自分で自分を立派に育ててきた・・・私が保証するわ」
「・・・」
人生の終末を迎える・・・ふぞろいの林檎たち。
嫁と姑ではなく・・・母親と娘として登場する一宮シメ(佐々木すみ江)と一宮幸子(根岸季衣)である。
臨終の間際に・・・看病している娘の名前ではなく息子の名を呼ぶシメ・・・。
しかし・・・東堂は・・・「お母さん・・・本当は娘に感謝している・・・でもなかなか素直に口に出して言えないとおっしゃっていましたよ」と嘘をつく。
「なんで・・・あんなことを・・・」
「お母さんは・・・娘に幸子という名前をつけた・・・子供の幸せを祈らない親はいない」
「私は・・・捨てられて弥生という名前ですけどね」
「そんなことはないよ・・・あなたは拾われて弥生になった・・・幸せを祈られているのよ」
「ひろわれた・・・」
弥生の心の封印が解ける。
施設の寮母が・・・施設の仲間たちが・・・多くの人々が・・・幼い弥生を見守ってくれていた事実。
「私・・・たくさんの人に・・・育てられていたんですね」
「・・・」
弥生は菊地に頼まれていた「あの部屋のこと」を実行した。
子供の泣き声と・・・暴力的な男・・・。
部屋で子供と暴力を受けていたのは・・・同僚の神田だった。
「どうしましたか・・・」
「すみません・・・」
「あやまらないでください」
「でも・・・どうしても・・・あの人と別れられないの・・・子供は施設に預けようと思っています」
「私は・・・捨て子です」
「え」
「施設に預けられても・・・それで終わりじゃありません」
「・・・」
「あなたは・・・子供を守ってきた・・・」
「・・・」
「あなたには・・・子供がいるじゃないですか」
「・・・」
「あなたが・・・子供の居場所になってください・・・お母さん」
捨て子に逆らえる人間はいないのである。
心ある人間ならば・・・。
神田はイチャイチャをあきらめて・・・母親として強くなる他はないのだった。
藤堂に食事に誘われる弥生。
「いつ頃・・・引っ越すの・・・」
「引っ越せません・・・患者さんがいるので・・・」
「そう言うと思ったわ・・・」
微笑む二人だった。
菊地は・・・あえて・・・院長の手術を望む。
「でも・・・院長は・・・」
「あの人はまだ・・・やりきっていない・・・私はあの人の花道になりたい」
善人の道を極める菊地である。
「お前は・・・どう思う」
父は息子に問う。
「僕は・・・お父さんに命を預ける気にはなりません・・・しかし・・・患者の意向には答えなければなりません・・・事務長として・・・執刀をお願いします」
事務長は弥生に頼む。
「父を・・・助けてください」
弥生は看護師として・・・全力で菊地の手術に臨むのだった。
予期せぬ出血で動揺する院長。
「落ちついてください・・・圧迫止血で・・・血小板輸血をするべきです」
「ああ・・・それな・・・」
弥生の適切なアドバイスで菊地は死地を脱した。
院長は引退を決意する。
「後は・・・まかせたぞ・・・三代目・・・」
「・・・お父さん」
退院する菊地は・・・弥生に問いかける。
「くく」
「はちじゅういち」
人は誰でも幸せになれるのだ・・・たとえ捨て子であっても・・・。
誰かにみつけてもらえれば・・・。
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