大いに屈する人を恐れよと伊藤博文は言った・・・明治十五年壬午事変(宮崎香蓮)
エジプトでは英国に対するウラービーによる反植民地運動が発生していた。
朝鮮半島では王父と王妃が権力闘争を繰り広げ、暴動が発生し、日本公使館員ら十数名が殺害される。
日本海軍は新鋭のコルベット艦「金剛」や「比叡」を朝鮮水域警備に派遣する。
朝鮮半島をめぐる清国と大日本帝国の思惑が軋轢を生じ始めていた明治十五年。
しかし・・・前妻を明治十四年に亡くし、後妻を明治十六年に迎える群馬県令・楫取素彦には・・・そんなの関係ないわけである。
伊藤博文と離婚後、大蔵官僚である長岡義之と結婚して十年以上の入江すみは当然、東京府在住と思われる。
すみの兄である野村靖は内務省の官僚となって、まもなく子爵となる。
伊藤博文は憲法調査のためにヨーロッバを外遊中である。
視察を命じた明治天皇は「芸者遊びはほどほどにせよ」と伊藤に意見したと言う。
井筒タツは京都の豪農と結婚して十年以上が過ぎている。
久坂玄瑞の母方の遠縁の家で養育された久坂秀次郎はこの頃、品川弥次郎と関係の深い大倉財閥に就職したらしい。
大倉財閥の大倉喜八郎は三井財閥と組んで、海運業を独占していた三菱に対抗した一派である。
もちろん・・・そこには長州閥と・・・土佐と組んだ薩摩閥の派閥争いの影が見える。
ついでに・・・あの内乱以来・・・富永有隣は国事犯として監獄に収容されている。
そういう・・・いろいろと面白い情勢は・・・この大河ドラマでは表現されません。
で、『花燃ゆ・第49回』(NHK総合20151206PM8~)脚本・小松江里子、演出・末永創を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回も年末年賀状体制発動のためにイラスト描き下ろしはお休みです。楫取久子が明治十四年に没し、明治十六年に楫取美和子が誕生する。・・・スルーされた昭和十五年には明治維新の元勲である岩倉具視が亡くなり・・・続いて徳川幕府の大奥を閉めた天璋院が没している。時代を象徴する人間と・・・そうではない人間の対比というだけでも・・・そこそこ面白くなるのにと思うばかりでございます。どうせフィクションなら・・・鹿鳴館を建設するのは大倉組なので・・・就職した久坂秀次郎が・・・千代田城近郊で汗を流しているくらいであってほしい。なにしろ・・・鹿鳴館設立に一番熱心なのは不死身の外務卿・井上馨なのでございますから・・・。まあ、とにかく・・・師走ですな・・・。これほど大河ドラマで燃えない年末・・・記憶にございませんねえ。三年後の2018年は明治150年・・・なんか期待しちゃうんですが。ま・・・期待するだけあれでございますな・・・。
明治十五年(1882年)一月、軍人勅諭が発布される。三月、伊藤博文が渡欧する。上野動物園が開園する。四月、板垣退助が岐阜で暴漢に襲われる。五月、講道館が設立される。米国で排華移民法が成立する。六月、アレクサンドリアで暴動が発生。七月、朝鮮の漢城で暴動が発生し日本公使館員らが多数殺傷される。岩倉具視死去。八月、戒厳令が制定される。英国軍がアレクサンドリアに上陸。九月、英国軍がエジプトを占領。十月、日本銀行開業。東京専門学校創立。十一月、天璋院死去。十二月、福島県で自由民権運動が高まり、警察署を襲撃、二千名が逮捕される。明治十六年(1883年)三月、新潟県で自由民権運動が高まり、活動家が誤認逮捕される。七月、鹿鳴館落成。日本鉄道により上野・熊谷間が開業する。八月、伊藤博文が帰国する。九月、三池炭鉱、高島炭鉱で暴動発生。十一月、鹿鳴館開館・・・。
前橋の県令邸では楫取素彦と美和子祝言披露が行われていた。東京からは伊藤博文の先妻である長岡すみ子が祝いに駆けつける。伊藤は派閥政治には無頓着と言われるが・・・忍びである。毛利目付け衆を軸とした独自の諜報網を持っている。すみ子はその組織に属するくのいちであった。
「その後・・・三菱の横やりはどうですか」
「土佐の忍びが潜伏して・・・妙義山周辺に忍び宿を作っているようです。松方様の方策で・・・没落した農民たちは困窮していますからね・・・福島県の一揆のような火種はどこにでもありますよ」
「福島の鬼県令は薩摩のお方・・・西郷様のお供をしたくぐり衆が多いので・・・忍びの数が不足していたようです」
「毛利忍びも・・・洋行中の伊藤閣下の護衛で人手が足りないのではありませんか」
「ほほほ・・・閣下などとは・・・大袈裟な・・・まあ・・・伊藤様は・・・猿飛ですから・・・いざとなったら逃げ足は天下一でございましょうけど・・・」
美和子は口の悪い年下の幼馴染に微笑んだ。
「おや・・・」
美和子は気配に振り返った。
「これは・・・おっかさん」
「まあ・・・佐助・・・大きくなったねえ」
「すみ様も・・・お達者そうで・・・」
「あら・・・山猿がお愛想を言うようになったよ」
「佐助は・・・術も伸びて・・・重宝しております」
「文・・・いえ、美和子様の仕込みのおかげでございます」
「佐助・・・どうした」
「やはり・・・旅の博徒を装って・・・明智流の忍びが北甘楽郡あたりに入り込んでいるようでございます・・・」
「そうか・・・旦那様の任期は来年あたりで終わるようだが・・・それまでは火消をしなければなるまいな」
「しかし・・・厄介ですね・・・相手は忍びでもなく・・・ただのあぶれ者ですし・・・」
「いつの世にも・・・はみ出して不平を唱えるものの種は尽きぬ・・・まあ・・・あの兄上の妹が言うのもなんだけれど」
「まさしく」
明治政府のくのいち・・・長岡すみ子は口元を歪めた。
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