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2015年12月 2日 (水)

ただいま転落中(松坂桃李)ただいま監禁中(菜々緒)殺さないと生きていけない人って・・・(木村文乃)

拒食症や過食症に悩む人は精神的に失調している。

失調には心理的な原因があることもないこともある。

痛みには苦しみが伴う事が多い。

苦しみという名の電車に乗っている人間は生きながら地獄の振動に揺られている。

食べ過ぎは健康に悪いが・・・食べなければやがて死ぬ。

食べなくても生きていけるのは植物のような状態の人間だけである。

殺さずに生きていける動物はいない。

殺し過ぎるのも病気だが・・・殺せないのも病気なのだ。

なぜ・・・そんなことを・・・するの。

「そうしなければ生きていけないからさ」と死の天使は囁く。

で、『サイレーン刑事×彼女×完全悪女・第7回』(フジテレビ20151204PM10~)原作・山崎紗也夏、脚本・佐藤嗣麻子、演出・白木啓一郎を見た。正常な人間の目から平常心で人間を殺傷できる人間は異常に見える。しかし、シリアルキラーにとってそういう人間は単なる獲物に過ぎない。シリアルキラーにとって人間を殺せない人間は心を病んでいるとしか思えない憐れな存在なのである。多くの人間は後天的に・・・訓練などによって殺人の恐怖を克服する。しかし・・・先天的に人間を殺すために生まれて来た人間がいないとは誰にも断言できないだろう。少なくとも人間は人間を殺すことがあると・・・誰もが知っている。

殺人の禁忌(タブー)が亢進し「人を殺しても必ずしも死刑にならない」社会では非殺人者は心の安定を得やすい。近親者を殺害されたものの復讐心は愚行を招く間違った精神状態と見なされ、殺人者の更生を願い信じる態度を肯定する。

真なる殺人者にとって・・・非殺人者は・・・愚者あるいは狂人にすぎないのかもしれない。

戦場に死の天使が現れる。ヴァルキリーたちは殺し殺されたものを祝福し・・・天上に導いていく。翼ある死の御使いたちは殺人者の賛歌を奏でる。

航海者たちを死の天使が襲う。ハーピーは冒険するものに喜びと恐怖を授ける。怪鳥の叫びを響かせて。

翼を失ったセイレーンは夜の静寂に蹙る。波の音や風の音は古き神の声である。冥府へ向かう魂は死の旋律に身を委ねる。

脚を失くしたローレライは誘う。生きる苦しみから人間を解き放ち、喜ばしい死へと人間を導く。その歌声は愛に満ちている。

どこにでもいる・・・特別じゃない・・・死神たち。

橘カラ(菜々緒)に魅了された孤独な資産家の渡公平(光石研)の人里離れた別荘。

隔離された地下室で警視庁機動捜査隊員・猪熊夕貴(木村文乃)は目覚める。

失神前の記憶は混乱している。

(誰かがいた気配があった)(カラさん)(カラさんの他に誰かが)(殴られた)(殴ったのはカラさん)(そんなはずはない)(カラさんはどこに)(カラさんは無事なのか)

猪熊は拘束具によって身動きができない。

打撃された後頭部の鈍痛。

(しかし)(私を殴って失神させたのはカラさんだった)(そんなはずはない)

地下室へ続く階段を赤いドレスのカラが下りてくる。

「カラさん・・・」

「猪熊さん・・・」

「・・・無事なの・・・」

「もちろん・・・」

「私を殴った相手は・・・」

「私よ・・・」

「そんな」

「あなたは・・・素晴らしい正義感を持っているけど・・・懐疑する能力に欠けたところがある」

「・・・何を言っているの」

「大丈夫・・・安心して・・・あなたに素晴らしいプレゼントがあるから」

「・・・」

「だから・・・大人しくしていてもらうわ・・・」

「やめて・・・痛い」

薬物を注射された猪熊は意識を失った。

売春婦のレナ(入山杏奈)を通じてキャバクラ嬢としてのカラの常連客の前川(石井正則)から情報を得た謹慎中の警視庁機動捜査隊員・里見偲(松坂桃李)はとある地方にある栄西高校を訪問していた。

「橘カラは・・・67期生・・・平成16年度の卒業生ですから・・・今年、30歳になりますね」

里見はカラの実年齢に違和感を覚える。

(俺より・・・年上なのか・・・やはり化け物だな)

卒業写真の橘カラは眼鏡を使用していたが・・・確かに面影がある。

(どこを整形したのか・・・わからない)

大切なのは・・・カラが眼鏡をしていたことである。

(今は・・・コンタクト使用なのか)とも考えない里見。

卓抜なカラの身体能力と視力の関連性を考察できない里見の捜査官としての洞察力不足。・・・致命的じゃないか。

再び・・・目が覚めた猪熊はカラに化粧を施されている。

衣装はミニスカポリスに着替えさせられている。

「ほら・・・警察官でも・・・こんなに美しくなれるのよ」

「これは・・・着せ替え人形ごっこなの」

「あなたを・・・最高の形で殺したいの」

「殺したい・・・」

「そうよ・・・あなたには何の怨みもないけれど・・・私が殺すの」

「何故・・・」

「あなたの魂を手にいれるためよ」

「え」

一瞬の隙をつき、猪熊は攻撃に転じる・・・しかし、拘束された状態でカラに敵うわけもなくねじ伏せられる。

里見は個人情報について無頓着な学校関係者から聞きだしたカラの実家を訪ねる。

しかし・・・橘家は無人だった。

近所の農家の女性が通りかかる。

「美人さんだったねえ・・・学校の成績も良くて・・・礼儀正しい娘だったよ・・・」

「・・・」

「それが急に見えなくなって・・・」

「他に何かご存じありませんか・・・十和田さんのお嬢さんと仲がよかったね」

「十和田・・・」

里見はまた着替えさせられていた。

「女の子らしい服も似合うわね・・・」

「一体・・・何の真似・・・」

「猪熊さん・・・その服は・・・私の友達の服なのよ・・・」

「友達・・・」

「高野乃花・・・知っているでしょう」

高野乃花(足立梨花)を「殺人を犯したあげくに自殺した者」として警察は処理している。

「たかの・・・のはな・・・」

「乃花は誰も殺していないし・・・自殺もしていないの」

「まさか・・・あなたが・・・」

「そうよ・・・殺したのは私・・・ようやく・・・正解できたね」

「そんな・・・」

「あなたの知っている人間だけでも・・・五人・・・」

「え・・・」

「狂ったタクシー・ドライバー、前の店のキャバクラ嬢、そして酒屋の男・・・美人妻と乃花を殺したのは・・・あなたのためよ」

「私の・・・」

「ええ・・・あなたの信頼を勝ち取るため・・・」

「・・・」

橘カラの正体に衝撃を感じると同時に・・・激しい悔恨に襲われる猪熊だった。

「そうよ・・・あなたは・・・殺人者とお友達になって・・・喜んでいたの」

猪熊は・・・かってのパートナーだった里見の言葉を想起する。

《あの女に深入りするな》

《あの女は・・・殺人事件に・・・絡み過ぎている》

《君は・・・あまりにも・・・見えていない》

(見えていたなら・・・教えてよ・・・口下手にも程があるわ)

猪熊は歯ぎしりをしてカラに噛みついた。

「・・・」

「・・・」

「あらあら・・・せっかく・・・綺麗に殺しあげようとしたのに・・・口紅落ちちゃったじゃないの」

カラは腕に残る歯型を見つめる。

里見は十和田家にたどり着いていた。

しかし・・・無人である。

隣の家の男が声をかける。

「十和田さんの家の人は認知症で施設に入っているよ」

「娘さんがいたはずですが・・・」

「かなり前に家出したよ・・・」

「家出」

「おい・・・よしこ・・・家の娘は十和田さんちの子と同級生なんだ・・・」

里見は橘リカの友人の十和田サチの同級生・良子(中島亜梨沙)に出会った。

「一体・・・何のために・・・」

「あなたは・・・高槻とおるの事件を調べているでしょう」

「・・・」

カラは猪熊をナイフで刺す。

苦悶の叫びをあげる猪熊。

「彼をナイフで刺した時・・・彼は声を殺していた・・・私が警察に捕まることを惧れたの・・・彼を刺す度に・・・彼の優しさが伝わってきた」

「なんてことを・・・」

「彼を殺して・・・私は優しさを手に入れた」

「何を言ってるの」

「あなたを殺して・・・あなたの正義感を・・・もらうの」

「そんな馬鹿な・・・」

カラは猪熊を何度も刺す。

「こうして・・・動脈を切り刻めば・・・血が流れる・・・ゆっくりと逝けるわ」

里見はよしこから昔話を聞く。

「ええ・・・サチと橘さんは・・・仲良しでした・・・亀見橋の下でキャンプごっこをしているのを何度も見かけたわ・・・」

「橘カラは・・・この人ですか」

「ええ・・・やはり・・・凄い美人になっていたのね・・・あら・・・でも・・・どこか変ね」

「変」

「印象が・・・でも・・・もう・・・何年もあっていないから・・・」

十和田サチの写真を入手していない・・・どこまでも手抜かりの多い里見。

行方不明の二人の女。

整形しているのに整形していないように見える橘カラ。

昔とはどこかが違う橘カラ。

眼鏡をかけていた橘カラ。

殺人事件に深く関与している橘カラ。

では・・・カラの同級生・・・十和田サチはどこに消えたのか。

サチはカラに殺されたのだろう。

あるいは・・・サチがカラを・・・。

里見は亀見橋を探索する。

その時・・・売春婦のアイ(佐野ひなこ)から連絡が入る。

「・・・どうした」

「レナが・・・帰ってきません」

「なんだって」

カラの出身中学校、カラの出身小学校・・・カラのおいたちを探る旅は・・・手つかずの部分を残して中断する。里見は無能だし・・・中途半端な警官だったのだ。

東京に急行する車中の里見は猪熊の母・三樹(藤吉久美子)からの着信に驚く。

「・・・御無沙汰しています」

「夕貴と一緒ですか」

「え・・・お母さんと温泉旅行では・・・」

「温泉旅行・・・あの子と連絡が取れないんです」

(まさか・・・橘カラと・・・)

里見は・・・焦燥感を覚えた。

(まさか・・・相手は・・・自分より上手なんじゃ・・・)

遅すぎる疑惑が・・・里見を捉えかかる。

謹慎中の身で・・・桜中央署に乗り込む里見。

本当の里見を知っているらしい生活安全課の千歳弘子(山口紗弥加)は「猪熊は休暇で埼玉方面へ旅行」の届けが出ていると告げる。

「僕には・・・母親と温泉に行くと・・・」

「じゃ・・・お母さんと一緒だろう」

「しかし、お母さんはそんな予定はなかったと・・・」

「なんじゃ・・・それは・・・わかってるのか・・・里見・・・お前、暴行未遂の現行犯で逮捕されて・・・被害者が告訴しなかったんで謹慎中だぞ・・・そんな男の元交際相手が消息不明になったら・・・どうなると思う・・・」

「え」

「お前が一番の重要参考人だよ」

「そんな・・・そうですね」

「わかったら・・・大人しく帰れ」

本当の里見を知っているらしい千歳・・・それは温情かけすぎである。

・・・里見の個人的な協力者である売春婦のレナも消息を絶っている。

(身の危険を感じて行方をくらましたのか・・・)

とっくにレナの正体がカラに割れているとは考えない甘いマスク以上に考え方が甘い里見・・・。

いくら・・・相手が売春婦だとはいえ・・・一般人を事件に巻き込んでいる自覚が・・・恐ろしいほどにない里見・・・。

猪熊のことだけしか心配してないよな・・・。

ある意味・・・大胆で凄味を感じさせるキャラクター設定だ。

猪熊の父親であり、機動捜査隊の元上司である文一(大杉漣)を頼る里見である。

「夕貴さんと連絡がとれません」

「お前が原因じゃないだろうな」

「夕貴さんは・・・昔の事件を調べていました」

「とにかく・・・情報を共有しよう」

しかし・・・違法捜査ばかりしている里見は・・・警察関係者と情報を共有できないのである。

やぶれかぶれの里見は・・・カラのキャバクラに入店した。

「いらっしゃい・・・」

「レナって子を知らないか・・・」

「指名しておいて・・・他の女の子の話ですか」

「猪熊と・・・会っただろう」

「あの日が最後ですよ・・・あなたが・・・謹慎処分になった日・・・」

「あれは・・・お前が・・・」

「そんなことを誰が信じるんですか」

「・・・」

「里見さん・・・あなた・・・今のままでは・・・ダメですよ」

「なんだって・・・」

「男として・・・パートナーに秘密を作りすぎている・・・そのうち・・・誰からも相手にされなくなりますよ」

「随分と・・・親切なんだな」

「私・・・今、とても充実しているんです・・・みんなに幸せになってもらいたいんですよ」

「・・・」

「カラさん・・・三番テーブルご指名です」

「ごめんなさい・・・いかなくちゃ・・・」

「・・・トワダサチ・・・」

「?」

「高校時代・・・仲がよかったんだろう・・・今はどうしている」

「さあ・・・」

里見・・・意味もなくとっておきのカードをきって・・・ブラフでしくじったばかりなのに・・・。

しかし・・・里見も守護天使に見守られているらしい。

街角で・・・渡に遭遇するのだった。

まあ・・・超ご近所さんだからな・・・里見の観察力不足が明確になっているわけだが。

素人の渡の尾行に漸く成功する里見。

近所の商店主の雑談で・・・渡がストーカーを警察に訴えに来た男であることを掴む。

(まさか・・・この男が・・・カラの恋人?)

渡の家を突き止めた里見・・・。

(ええええええええええ)

当たってくだけろ体質なので渡の部屋を訪問する里見だった。

愛するカラのために勇気を出してストーカーと対峙する渡。

「あなたの・・・恋人は・・・橘カラですか」

「そんなことを訊いてどうするつもりだ・・・このストーカーが・・・」

「いえ・・・私は・・・ある事件で・・・カラさんを調べているだけです」

「そんな話を誰が信じると思う・・・」

「みんなにそう・・・言われてます・・・まあ・・・無駄だと思いますが・・・あなたも気をつけてください」

「脅しか・・・」

「・・・警察官としての警告です」

だが・・・里見の発するサイレンは誰の耳にも届かない。

(夕貴・・・)

猪熊の前にレナが現れた。

衰弱して怯えた表情を浮かべるレナ・・・。

「あなたは・・・」

「紹介しましょう・・・里見が買った女・・・レナちゃん・・・・こちらは里見の元パートナーの猪熊さん・・・」

「やめて・・・その子は助けて」

「殺さないで」

「おやおや・・・人の秘密を探っておいて・・・今さら・・・命ごいか・・・」

「一体・・・あなたは・・・何人殺せば気が済むの・・・」

「一度満腹したら・・・人間はもう・・・一生、食事をしないとでも・・・?」

「あなた・・・いつから・・・殺してるの」

「うん・・・いい質問ね・・・原点にはいつも何かがかくされているもの」

「・・・」

「あれは・・・十四歳の頃・・・カエルを踏みつぶすぐらいでは・・・もう満足できなかった」

「・・・」

「父親が橋の上にいたの・・・格闘技を学んでいれば・・・わかるわよね・・・人間が下半身を責められたら・・・どれだけ脆いかを・・・」

「まさか・・・自分の父親を・・・」

「真っ逆様に落ちて行く父親の叫びを聞きながら・・・私は父の魂を手にいれた高揚感で震えるような気分になった・・・」

「なんてことを・・・あなた・・・おかしいわよ」

「そうかしら・・・あなたはそんなおかしい人に・・・好きなようにされているのよね」

「・・・」

「おかしいのはあなたじゃないって・・・誰かが助けてくれるかな」

(里見くん・・・あなたを信じなかった私を許して・・・里見くん・・・助けて)

「猪熊さん・・・あなたは愛されて育った・・・あなたは美しい・・・だから・・・少しおかしくなっても・・・仕方ないと思うの・・・でも・・・あなたには素晴らしい正義感があるじゃない・・・それで充分でしょう・・・だから・・・私がそれをもらってあげる」

「カラさん・・・そんなことをしたって・・・あなたは何も手に入れられない」

「それを決めるのは・・・あなたじゃなくて・・・私だよ」

「・・・」

「大丈夫・・・あなたはまだ殺さないわ」

地下室にゾンビのような顔色の男が現れる。

それは行方不明の整形外科医・月本(要潤)・・・。

「月本・・・こんなところに・・・」

猪熊は理解を越えた展開に・・・正気を失いかけていた。

カラは微笑んだ。

カラの通う格闘技のジムに・・・カラに憧れる女・まひる(中別府葵)がいた。

「私・・・カラさんみたいになりたいです」

「あら・・・なれるわよ」

カラはまひるを「使える女」と認定していた。

カラは蜘蛛を掌で遊ばせるように・・・人間を使用するのだ。

「使える男」と認定された渡を言葉巧みに操るカラ・・・。

「あの男には気をつけて・・・心配させないように黙っていたけど・・・私はあの男にレイプされかかったの・・・あなたに何かあったら・・・私・・・生きていけない・・・」

猪熊の監禁は続いている。

無断欠勤が発覚し・・・署内では一部のものが動揺していた。

さくら寮の管理人は・・・猪熊が監禁前に発送した「土産」が宅配されたことを何故か・・・ここやや苦しいぞ・・・里見に告げる。

猪熊の立ち回り先が分かる最期の手掛かりである。

土産物屋の先には渡の別荘が隠されているのだ。

里見は猪熊に通じる蜘蛛の糸があったことに喜びを感じる。

「今、すぐ・・・そちらに」

その背後で金属バットをふるう渡・・・。

「死ね・・・」

里見ははぐれ刑事の登場人物のように・・・階段を転げ落ち・・・意識不明の重体となった。

人間の街には・・・誰にも聴こえないサイレンが鳴り響いている。

禁忌の裏側には「ま」がある。

そこには「まもの」が潜んでいるのだ。

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