降る雪や明治は遠くなりにけり・・・昭和六年三月事件未遂(井上真央)
楫取美和子は天保十四年(1843年)に生まれ大正十年(1921年)に死去する。
八十年に足らない人生で天保、弘化、嘉永、安政、万延、文久、元治、慶応、明治、大正と十の元号の時代を生きたのだった。
吉田松陰の妹・杉文は・・・久坂玄瑞の妻・久坂文となり、未亡人となって久坂美和を名乗り、姉の夫の後妻となって楫取美和子となる。
波乱万丈の人生だったが・・・その事跡はあまりにも不明である。
いわば・・・歴史の影のような存在なのである。
脚本家たちは・・・影に物語性を与えようとして試行錯誤し・・・結局、ゴール地点を楫取夫妻の成立に決めた。
その最終形態は・・・一分の隙もない超絶的な善男善女である。
その結果・・・歴史の矢面に立たされ・・・善悪の境界線で懊悩した歴史的人物たちは・・・憐れなほどに卑小化され、あるいは消滅させられる。
たとえば・・・伊藤博文は明治天皇から国の行く末をたくされ・・・まがりなりにもそれをやりとげた人間である。
かっては肖像が千円札に刻印されたほどの人物だ。
吉田松陰の門弟である伊藤博文は師・吉田松陰の妹に対して敬意を払ったかもしれないが・・・それ以上に吉田松陰の妹は・・・卑賤の身から国家の重鎮にまで成り上がった兄の弟子にもう少し敬意を払うべきだろう。
世界の公共放送を目指す制作企業が・・・日本国を敵視する隣国に配慮し・・・朝鮮半島出身のテロリストに暗殺される「彼」について深入りしないことを目指しているにしてもだ。
テロリストの兄とテロリストの夫を持ちながら最期は特権階級に属した女の一生。
もう少し・・・面白おかしく描くことができなかったかと・・・思う今日この頃である。
美和子の死後・・・関東大震災、昭和恐慌、日中戦争、太平洋戦争と大日本帝国は坂道を転げ落ちて行く。
で、『花燃ゆ・最終回(全五十話)』(NHK総合20151213PM8~)脚本・小松江里子、演出・渡邊良雄を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。最終回も年末年賀状体制発動のためにイラスト描き下ろしはお休みです。画伯、そろそろフィニッシュなさいましたかな。来年は戦国絵巻・・・キッドは脚本家についてはそれほど高く評価していませんが一部お茶の間の期待は高まるばかりなのですな。タイトルから妄想すると・・・慶長十九年(1614年)の大阪冬の陣における十二月四日の真田丸の戦いの前後五十時間を描く感じでしょうかね。・・・なわけあるか~いっ。まあ・・・守備側の真田信繁や攻撃側の前田利常の回想シーンをもりこんで・・・十二月四日を全五十話で描き切るのかもしれませんな・・・なわけあるか~い。まあ・・・冗談はともかく・・・キッドはくのいち・きりの入浴シーンだけはきっとあると信じて来年を待ちたいと考えます。一年間、素晴らしい描き下ろし作品の数々ありがとうございました。来年もあくまでマイペースでお願い申しあげまする。
明治十七年(1884年)五月、群馬県北甘楽郡で農民による自由民権運動が激化、妙義山麓陣場ヶ原で蜂起が発生し、群集は松井田警察分署を襲撃、高利貸岡部為作邸を打ちこわした。政府転覆を図る不平分子たちの武装蜂起の先駆となった事件である。七月、群馬県令・楫取素彦は辞任。後任は山口県出身の佐藤與三である。明治二十三年(1890年)、吉田松陰の母・瀧が死去。明治二十五年(1892年)、楫取素彦が華浦幼稚園を設立。明治二十七年(1894年)、日清戦争勃発。明治二十九年(1896年)、台湾で芝山巌事件が発生し、楫取道明が惨殺される。明治三十年(1897年)楫取素彦が明治天皇第十皇女・貞宮多喜子内親王の御養育主任となる。明治三十二年(1899年)、貞宮多喜子内親王夭折。明治三十七年(1905年)、日露戦争勃発。明治四十二年(1909年)、伊藤博文、朝鮮民族主義活動家の安重根に暗殺される。大正元年(1912年)、楫取素彦死去。大正三年(1914年)、第一次世界大戦勃発。大正十年(1921年)五月、ココ・シャネルが香水「NO.5」を発売する。七月、上海で中国共産党が創立される。九月、楫取美和子死去。十一月、鉄道労働者・中岡艮一が原敬首相を暗殺する。恩赦により出獄した中岡は後にムスリムに改宗する。
群馬における暴動の背後に反政府忍者の存在を探知した美和は・・・毛利忍びを率いて討伐に出動する。
追い詰められたのは紋次郎と名乗る侠客だった。
「神妙にお縄につけ・・・」
「ふふふ・・・毛利のくのいちか・・・もはや・・・これまでじゃ・・・」
相手が観念したとみた佐助が進み出るのを美和が制する。
「待て・・・うかつに近付くな」
「風魔流秘術・・・凩(こがらし)・・・」
突然、周囲に旋風が巻き起こった。砂塵にまぎれて風魔手裏剣が佐助を襲う。
しかし、佐助は見切りの術でそれをかわした。
銃声が響く。
美和は拳銃を発砲していた。
「くそ・・・新政府の雌犬が・・・お・・・お主は・・・千里眼か・・・」
「なに・・・」
「見える・・・私にも・・・見える・・・お主は心に鬼を飼っている」
「なに・・・そなたも天知通の術を・・・」
「おお・・・恐ろしや・・・護国の鬼じゃ」
「なんじゃと・・・」
しかし・・・風魔の紋次郎は絶命していた。
死の床で美和子はあの日の出来事を思い出す。
あれから・・・美和子は平穏な日々を過ごしてきた。
国外では兵士たちが山に海に屍を晒していたが・・・皇国の御世は安泰だった。
美和子はすでに悟っていた。
美和子は単なる観相者ではなかったのだ。
吉田松陰は死にあたり・・・美和子の精神に転移し・・・美和子の精神を通じて・・・政治を操っていたのである。
美和子が他者の心を覗くことは・・・松陰が他者の心を導く行為でもあった。
美和子の心に救う松陰の神霊は・・・松陰の祈願する未来へと・・・軌道修正を行っていたのだった。
松陰に導かれた民草は・・・圧倒的な神がかりによって・・・絶対に勝てない戦を・・・勝利してきたのだった。
松陰に囁かれた為政者たちは・・・薄氷の勝利を刻み続ける。
ミカドが代替わりしてからの・・・世界の大戦も無事に乗り切った。
しかし・・・松陰の魂が憑依した・・・美和子の肉体も朽ちようとしている。
美和は朧げになる意識の中で・・・懐かしい兄の気配を感じる。
その・・・冷酷でありながら・・・灼熱の輝き・・・。
(兄上・・・)
呪われた護国の鬼は・・・解き放たれた。
美和子は虚無の中に消える。
関連するキッドのブログ→第49話のレビュー
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コメント
じいや、お疲れ様でした。
知らない内に秋も過ぎて年末とやらになり、大河だったらしいものも終わってしまいましたわ…。
クリスマス会の会場を探して迷子になっているところでございます。
もうね、史実がどうの設定がどうの以前に、とてもつまらなかったのです…ドラマとして。
こんなラブラブ少女漫画と昼メロと朝ドラを足して割って薄めたような内容をよく1年も放送したなぁ。
(よくそれを見ていたね^^;)
来年は若干の不安と共に…それでも見守るつもりで見ますわ。
大河も朝ドラと一緒で過度の期待は良くありませんわね。
では~クリスマスパーティでお会いしましょう~。
投稿: くう | 2015年12月20日 (日) 00時44分
うわあああああっと叫びたくなる大河ドラマの完走・・・お疲れ様でございました。
まことに・・・素晴らしい忍耐の賜物でございまする。
お屋敷ではただいま年末スターウォーズ祭り絶賛開催中でございます。
お屋敷映画館のオールナイトエピソード1~7上映会も
そこそこヘトヘトになりますが・・・
鑑賞後のやりきった感じは格別ですぞ。
ハンソロイドやクローンチューバッカの実演付き酒場で
特製カクテルをお召し上がりくださいませ。
流れ弾にご注意くださりますように・・・。
クリスマス会場では
かわいいアレがゴロゴロいたしております。
まだ・・・最終回を迎えていないドラマもございますが
少し長めの師走の谷間・・・。
様々な出来事がございました・・・





一年の疲れを・・・
癒す憩いの日々をおすごしくださいますように・・・
投稿: キッド | 2015年12月20日 (日) 02時45分
今作ではどうも足をお運びいただき有り難うございました
今年はちと軽い鬱になったようで私生活はちと無気力状態になってました
来年は大河ドラマに邁進しようと思います
それだけ心躍る作品になることを祈るのみです
来年もよろしくお願い致します
投稿: ikasama4 | 2015年12月31日 (木) 19時46分
わざわざのおでまし恐悦至極でございます。
期待を裏切られると心は穏やかではいられませんものねえ。
画伯の描き下ろしペースのダウンこそが
駄作の証でございます。
主人公を演じた井上真央は
演技力があって・・・拙い脚本をそれなりに
演じてしまうだけに・・・
魅力的でない主人公をバッチリ表現してしまう。
それをなんとか・・・役以上に魅力的にしようと
悪戦苦闘したと考えられます。
もう後半は涙なくしては見られない感じでございましたな。
2016年は・・・画伯の気分を晴らしてくれる





大河ドラマでありますように・・・。
心からお祈り申し上げまする。
投稿: キッド | 2016年1月 1日 (金) 07時36分