私はあなたを支配している(水川あさみ)私たちは世界に支配されている(綾瀬はるか)
「見てください・・・この牧場では自然と同じような放飼いが実現されています」
「暗い工場に押し込められた養殖ものとは違うわけですね」
「そうです・・・不健康なものを食べて健康になれると思いますか」
「やはり、健康なものを食べてこその栄養補給ですよね」
「みてください・・・この仔たちの生き生きとした表情を・・・」
「本当に・・・美味しそうですね」
「美味しいものに国境はありません」
「そうですね・・・日本人でも中国人でもロシア人でも・・・美味しいものは美味しいのですね」
「生まれた時から・・・日本人は罪人であると教えられている国々の方でも・・・きっと満足していただけると思いますよ」
「今なら、お得なサービスがあるそうですね」
「はい・・・今、1頭ご購入いただけますともれなくもう1頭が無料になります」
「えええええ・・・ゴージャスでリーズナブルなんて・・・夢のようですね」
で、『わたしを離さないで・第3回』(TBSテレビ20160129PM10~)原作・カズオ・イシグロ、脚本・森下佳子、演出・山本剛義を見た。このドラマの設定に違和感を感じる人には2種類あると思う。「現実」の設定に違和感を感じるタイプと「現実」には設定はないと考えるタイプである。私たちは実は設定された世界で生きている。日本国内で日本人の両親から生まれれば自動的に日本人として設定され、そのまま日本で成長し二十歳になれば日本人として納税する義務が生じるという設定になっているのだ。そういう意味ではこのドラマの提供者も・・・国民として血税を治める納税者も同じなのである。税金なんか納めたくないと考え実行して発覚すれば脱税者として処罰されます。
このドラマはそういう想像力を喚起するドラマなのだが・・・悲しいことに想像力のない人は何をどうしても喚起されないんだよな。
なにしろ・・・大衆というのは飼育された豚なんだから・・・おいっ。
「提供者」のための「陽光学苑」を巣立った保科恭子(鈴木梨央→綾瀬はるか)は「介護人」として「提供」を開始している酒井美和(瑞城さくら→水川あさみ)と再会する。
恭子と美和には土井友彦(中川翼→三浦春馬)をめぐる確執があるらしい・・・。
単純に考えればそれは・・・恭子の好きだった友彦を美和が略奪した三角関係である。
しかし・・・「提供者」としての宿命が・・・三人の心に「共通の影」を落していることも間違いない。
美和は・・・幼い頃に・・・恭子から盗んだ友彦からのプレゼント「Songs after Dark/Judy Bridgewater」を提示する。
「あなたの宝物を・・・誰が盗ったのかしら」
美和が自分に何かを仕掛けようとしていると推測した恭子はあえて、嘘をつく。
「それは・・・私・・・私が置き忘れたの・・・きっと・・・先生が処分したのね・・・だって喫煙者を描いたカバーだったもの・・・」
「・・・」
美和は失望に似た表情を見せる。
恭子は・・・失禁してしまった美和の寝具を洗濯しながら・・・つかの間の勝利感に酔う。
そして・・・「巣立ち」の季節を思い出すのだった。
「普通の人間」が義務教育を終える頃・・・「陽光学苑」の提供者たちは・・・「学苑」での集団生活を終え、小グループによる「コテージ」や「マンション」での生活に移る。
「誰」と「どこ」に行くのか・・・「陽光学苑」の提供者には選択の自由が与えられている。
殺人鬼のいる外の世界では「陽光学苑」の提供者以外の提供者は・・・需要があれば幼児でも提供されてしまうのである。
学園長の神川恵美子(麻生祐未)は・・・「陽光学苑」のシステムが提供者たちに福音をもたらしていると信じている。
一方で・・・「人」と「豚」の違いのわからない未成熟な精神を持った堀江龍子(伊藤歩)は自分の「善意」が広樹(小林喜日)と聖人(石川樹)の提供の前倒しという「結果」を招いたことによる自責の念で・・・精神の平衡を失っていた。
「巣立ちの季節」・・・提供者たちはそれぞれの思惑で「未来」を探りはじめる。
「学苑」の女王として君臨し、自分が特別な存在であるという設定に固執する美和は「普通の人間」である美術教師の山崎次郎(甲本雅裕)と「恋愛すること」で提供者という立場から離脱しようと目論む。
長年の経験から・・・美和の支配に辟易した珠世(本間日陽和→馬場園梓)や花(濱田ここね→大西礼芳)は・・・恭子を美和から解放しようと・・・自分たちのグループに誘う。
しかし・・・恭子は・・・友彦とのロマンチックな新生活を夢見ていた。
だが・・・友彦は・・・プロのサッカー選手になり・・・提供者から解放されることを夢見ていた。
「恭子は・・・料理が上手だから・・・最高の料理人になればいい・・・そうすれば・・・提供しなくてもすむかも・・・」
恭子は・・・常識的に・・・友彦の夢が実現しないことに気が付いている。
しかし・・・学習障害者の傾向を持つ友彦の幼稚な部分も含めて愛している恭子は・・・あえて友彦の夢想を否定しない。
「提供」の示す「恐怖」を克服するためには・・・人それぞれのやり方があるだろう・・・と恭子は考える。
そんな・・・恭子を・・・読書によって・・・誰よりも深く世界の構造を認知し・・・自分たちの置かれた立場を認識している真実(エマ・バーンズ→中井ノエミ)は生温かく見守るのだった。
おそらく・・・真実は・・・知性によって孤立し・・・恭子の知性に期待しているのだろう。
ひょっとしたら・・・真実は・・・「革命」とか「奴隷解放」とかといった最も見果てぬ夢を見ているのかもしれない。
そして・・・真実が真実を知れば知るほどに・・・本質的な絶望は深まっていると推定される。
それでも・・・真実は同志を求めているに違いない。
だが・・・温厚な恭子は・・・稚拙な美和の支配さえ・・・許容していく根っからの追従者だった。
美和は・・・香水を「外の人間からもらった」という作りごとに酔っている。
真実は美和に「本当の支配者」の投影を見る。
真実は美和の「虚栄」を暴くことに・・・実験的な快楽を感じる。
「あなた・・・臭いわよ」
「なんですって・・・」
「香水をつけすぎてるのよ」
「・・・」
「あなたの通った後はすぐにわかる・・・まるでなめくじみたい」
「なめくじ・・・」
真実の容赦ない攻撃に・・・恭子は救いの手を差し伸べずにはいられない。
「それは・・・私・・・私が・・・黙って香水を借りたのよ」
「・・・」
世界の平和を求める恭子の言葉に・・・真実は苛立つ。
「そう・・・あなたはそうやって・・・支配を受け入れるのね・・・それがどんなに理不尽なものであっても」
「・・・」
二人のやりとりを・・・提供者たちは黙って見つめている。
美和はついに・・・山崎次郎を肉体的に誘惑する。
しかし・・・「提供者」を「人間」としては考えない山崎次郎は断固として拒絶する。
「私が・・・提供者だからですか」
「君だって・・・こんなおっさんを相手にするのは・・・俺が外の人間だからだろう」
「・・・」
「お互い様なんだよ・・・」
しかし・・・外の世界を知らない美和にとって・・・それは酷な話だろう。
美和は美和なりに山崎次郎を愛していたのである。
恭子は・・・「失ったものを取り戻す岬のコテージ」に友彦を誘うことに成功する。
恭子と友彦を祝福する珠世と花。
美和の中で憎悪の炎が燃えあがる。
真実は冷たい眼差しで成り行きを見つめる。
巣立ちの季節に・・・「未来」を感じる提供者たち。
しかし・・・ついに堀江龍子の精神は崩壊するのだった。
「サッカー選手になんかなれないわよ・・・あなたたちは何にもなれない・・・あなたたちは提供を甘く考えすぎている・・・あなたたちは提供して死ぬ・・・それだけの存在・・・誰かの部品であり・・・人間にとっての家畜にすぎないの・・・あなたたちは天使なんかじゃないのよ」
驚愕する提供者たち・・・。
ついに堀江龍子は学園を追われることになるのだった。
「先生は・・・精神を病んでしまわれました・・・先生の言葉は間違いです・・・皆さんは・・・本当に天使なのですから・・・」
恭子は・・・それが嘘だとわかっている。
しかし・・・それが嘘であろうと本当だろうと・・・提供者であることは変わらない。
(限りある時を・・・友彦と過ごす・・・それだけで自分は満足だ)
だが・・・美和は恭子だけが幸せになることを許さなかった。
恭子が自分を見捨てることができない道を必死に考える美和。
そして・・・女王は・・・家臣の宝物を奪うことに決める。
「私・・・あなたが好き」
「え・・・どうして・・・僕を・・・」
「だって・・・私たち・・・空っぽ同志だもの・・・」
友彦はたやすく美和に溺れる。
恭子は知る・・・。
美和が友彦を奪ったことを・・・。
「ねえ・・・恭子・・・私たちと一緒に来ない」
恭子は・・・友彦と一緒にいられれば・・・それもいいかなと思う。
たとえ・・・友彦が美和のものだったとしても・・・友彦と別れる必要はない。
真実は・・・恭子の決断を冷笑する。
「これ・・・あげる」
「これ・・・」
「みんなの靴に仕込んであった・・・発信器よ・・・羊がどこにいるか・・・羊飼いはいつでも知っているの」
「・・・」
「学園を出たって同じ・・・私たちはどこにも逃げられない」
「・・・」
「あなたが・・・自分を偽って・・・支配されることを受け入れるなら・・・」
「・・・」
「運命は変わらない」
「・・・」
「また・・・逢いましょう」
生徒たちの去った後・・・学園長は・・・発信器の抜き取られた靴を発見する。
「まったく・・・どうして・・・こんなに守ってあげているのに・・・あの仔たちは反抗するのかしら・・・」
学園長の嘆きを美術教師は無言で聞き流す・・・。
彼だって・・・育てた牛が出荷される時に無感情ではいられないのだ。
到着したコテージ・・・荒廃した古い民家に・・・美和と友彦は立ちすくむ。
二人の保護者のように・・・恭子は偽りの微笑みを見せる。
そして・・・恭子は・・・美和を羨み、憎み、許すというサイクルを乾燥機の中の洗濯もののように繰り返すのだった。
そして・・・時は流れたのだ。
友彦もすでに提供を開始している。
介護人は珠世だった。
「私・・・提供することになっちゃった」
「・・・」
「次の介護人・・・どうする」
「・・・」
「恭子は・・・まだ介護人を続けているみたい」
「彼女が・・・俺に会いたいと思うかい・・・」
「・・・」
しかし・・・恭子はいつだって・・・友彦の側にいたいと思うのだ。
恭子は極めて優秀な提供者なのだから・・・。
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