わたしを離さないで(綾瀬はるか)天使として生まれ森の中で育つ人(鈴木梨央)
医学の世界で臓器移植が現実のものとなって以来・・・くりかえし語られる話である。
その多くは・・・犯罪の物語であり、あるいはブラック・ユーモアとしての小話であった。
前提として・・・人間の命を犠牲にしてまで別の人間を生かす根拠のなさがある。
しかし・・・実際・・・たとえば・・・心臓疾患を持つ少年少女は・・・移植可能な「心臓」の持ち主の「脳死」を待ち望むわけである。
もちろん・・・こういう記述に「悪意」があると・・・感じる人もいるかもしれない。
「生きようとする意志を持つ人間」が「無用となった心臓」を「提供」してもらうことに「善悪」の問題は無関係であるにも関わらずだ。
「臓器移植」のために・・・人間を殺すのは犯罪である。
「臓器移植」のために・・・提供者の死を待つのは犯罪ではない。
二つの事実の間に・・・境界線はある。
境界線がある以上・・・そこに灰色の領域がある。
その灰色の領域を妄想するのは・・・ある意味・・・恐ろしいことなのである。
おそらく・・・このドラマでは・・・臓器移植が単なる手法と化した世界が描かれるのだろう。
移植用臓器の持ち主であるクローン人間には基本的人権はなく・・・ただ・・・生体部品としての生存が認められている。
そんな世界は恐ろしいという人間は・・・まだ本当の世界を知らないだけなのかもしれない・・・という話なのだ。
そういう意味で・・・この作品は斬新なのである。
で、『わたしを離さないで・第1回』(TBSテレビ20160115PM10~)原作・カズオ・イシグロ、脚本・森下佳子、演出・吉田健を見た。兵士たちは戦場に立つ。実弾が飛びかい致命傷を受ける可能性は高い。それでも兵士たちは戦場に立つ。なぜなら・・・世界から戦争はなくならないからである。そんな馬鹿なことはないと誰かが言う。しかし、戦争はあるし、兵士は戦場に立つ。哀しいことだと誰かが言う。けれど、戦争はあるし、兵士は戦場に立つ。そして、時には兵士でなくても戦場に立つことはあるのだった。
天使として生まれた保科恭子(鈴木梨央→綾瀬はるか)は「天使」と呼ばれる「臓器提供用人体」の介護人として生きている。
「臓器提供用人体」は人間の世界で生きているが・・・普通の人間とは違い、必要が生じれば普通の人間であるオリジナルの人体に臓器を提供するためにクローン技術で作られたコピーの人体に過ぎない。
何度かの「臓器提供後」・・・コピーは焼却処分される。
場合によっては最初に「提供終了」になる場合もあるし・・・多くは四度目には焼却されるのだ。
介護人は・・・自身が提供者でありながら・・・天使たちの世話や天使たちの終了後の安楽死や焼却業務を行って「提供行為」に奉仕するのである。
この世界ではお茶の間世界における「輸血」程度の軽さで「臓器移植」が行われているらしい。
普通の人間は虫歯を治療するように痛んだ臓器を交換するのだ。
これが大前提であり・・・そういう世界が想像できない人には少し難解な物語と言える。
仕事を終えた恭子は質素な部屋に戻って・・・宝箱を開ける。
そこには・・・聖なる天使である恭子の・・・聖なる記憶が残っている。
恭子は思い出す・・・自分がまだ天使であるとは知らなかった幼い日々を・・・。
恭子は小学校の四年生だった・・・。
恭子は深い森の中の・・・閉ざされた施設・・・陽光学園で暮らしていた。
森には攫った子供の内臓を食らい皮だけを残すという殺人鬼の伝説がある。
寄宿舎を完備した・・・その場所では・・・親のいない子供たちが養育されていたのだ。
学園長の神川恵美子(麻生祐未)は子供たちを大切にした。
美術教師の山崎次郎(甲本雅裕)は子供たちに真摯に接した。
子供たちは「美術」を奨励された。
「絵を描くことは・・・心を表現するために最も相応しい手段で・・・何よりも危険が少ない」
それが・・・この学園の基本方針であった。
恭子の親友である酒井美和(瑞城さくら→水川あさみ)は次郎先生に仄かな恋心を寄せている。
「次郎先生・・・私にプリンをくれたんだ」
「きっと・・・先生は美和ちゃんをえこひいきしているね」
「うふふ・・・」
そんな二人を読書好きで大人びた真実(エマ・バーンズ)は冷たく見下すのだった。
恭子は土井友彦(中川翼→三浦春馬)に惹かれるものを感じていた。
友彦は学園の落ちこぼれである。
なぜなら・・・友彦には絵の才能がなかったのである。
「絵画」こそが心の証である学園では・・・絵心のなさは・・・心のなさに通じる。
「心がからっぽ」であると思われた友彦は・・・苛めの対象となっていた。
恭子は・・・憐れなものに惹かれるタイプだったのだ。
友彦は足が速く、サッカーも得意だったが・・・それには何の価値もなかった。
新任の教師がやってきた。
若い保健体育の教師である堀江龍子(伊藤歩)は理想に燃えていた。
「提供人体」にも「人間としての教育を与えよう」という学園の趣旨に賛同し、龍子は意欲的だった。
古着を身にまとい、廃品バザーでショッピングを楽しむ子供たち。
篤志家であるマダム(真飛聖)に捧げる絵を描くことに情熱を費やす子供たち。
そんな子供たちの中にも軋轢があることを知り、龍子は動揺する。
苛められた友彦にカリキュラム外の禁止事項を漏らすのである。
「私より・・・絵が上手ね」
「先生も空っぽなの・・・」
「いいえ・・・外の世界ではサッカーが上手なことも・・・素晴らしいことなのよ」
「・・・」
「あなたはまだ・・・本当のことを知らないだけ・・・」
発言は・・・たちまち・・・学園長の知るところとなる。
「困ったことをしてくれたわね」
「しかし・・・提供人体も様々なことを知るべきです」
「そうよ・・・そのために私たちは最高のカリキュラムを用意している」
「・・・」
「あなたはまだ・・・未熟なのよ」
「・・・」
「子供たちの・・・心はデリケートなものなのだから・・・まあ・・・いいわ」
「?」
「特別授業を前倒するから・・・あなたも受講しなさい・・・そうすれば・・・本校の指導理念がお分かりになるでしょう」
バザーで友彦が苛めによって失くした箸を買った恭子。
それを贈ろうとした恭子は・・・先に友彦からプレゼントを贈られる。
プレゼントは彼らにとって特別大切な概念だった。
「提供すること」は「聖なる行い」だったからである。
捨てられたCDには「キョウコ♥」がサインされていた。
「ほら・・・最初から君のものだったんだよ・・・」
二人は「Songs after Dark/Judy Bridgewater」の「Never let me go」で幼いダンスを踊る。
その姿にマダムは涙する。
マダムの善意は・・・幼い「人体提供者」に捨てられた「仔犬」に対するような憐憫を感じさせるのだった。
「プレゼントの相手が・・・彼じゃね・・・そのことは黙っていた方がいいわよ」
美和は恭子にアドバイスする。
しかし・・・恭子の心を察した真実はそっとつぶやく。
「大丈夫・・・本当のことを知れば・・・絵が下手でも心があるってことに・・・バカでも気がつくから」
「・・・」
そして・・・恭子たち四年生は講堂に集められ・・・特別授業が始る。
「あなたたちは・・・普通の人間ではありません。あなたたちは普通の人間に希望を与えるために特別な使命を持って生み出された天使なのです」
龍子は・・・自分の未熟さを悟る。
家畜には家畜のための言いまわしが必要だったのだ。
「だから・・・あなたたちは人体に有害な喫煙をしてはいけません。あなたたちの提供するものが・・・普通の人間の役に立つように・・・しっかりと守って行かなければなりません」
恭子は自分たちが特別な存在と知り驚く。
「私は普通の人間として・・・あなたたちのような特別な人間・・・天使を育てていることを誇りに感じます・・・どうか・・・天使の皆さんも・・・その期待に応えて・・・立派に使命を全うしてください」
沸き起こる拍手の嵐・・・。
こうして・・・恭子は・・・「提供者」としての人生をスタートしたのだった。
限られた時間を生きることは・・・普通の人間も同じだが・・・天使は・・・その時が来れば喜んで提供するのだ・・・。
両者の人生にそれほど大きな違いはない・・・そういう世界の話なのである。
恭子たち・・・天使の皆さんに幸多かれと祈る。
悪魔だからな・・・。
「白夜行」から十年・・・凄い綾瀬はるかが見られそうだな。
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コメント
じいやちゃま、
あけましておめでとうございます。
本年もじいやの辣腕を楽しみにしています。
新年早々、すさまじいドラマでしたね~。
確かにクローンの存在を想像できるかどうかで
理解度が違ってきますね。
それにしても輸血や歯医者レベルの気軽さで
臓器を交換できる時代がくるなんてすごいことです。
できればそれはヒトの姿でなくて
臓器そのものや意志を持たない別の姿のほうが都合がいいような気がしますけど。
ドラマではだから「心」の課目があるのでしたか。
「命」のお題の前にただただ戦慄でした。
じいやちゃま、夜には
ハクサイとハムのとろとろスープをもっていきますわ。
ヤマネコが狙ってるかも?ですけどぉ(ニカっ
温まってね~~♪
投稿: エリ | 2016年1月16日 (土) 17時00分
✿❀✿❀✿かりん☆スー☆エリ様、いらっしゃいませ✿❀✿❀✿
エリお嬢様、慎んで新年のお喜びを申し上げます。
本日は特選まぐろを大根で煮つけにしましたぞ~。
お刺身で食べても美味しいのに煮てしまうところが
冬の楽しみでございます。
「やったのは私だよ」の再来ですな。
あのやるせない世界がパワーアップして帰ってきた感じでございます。
そんな世界は嘘だと思う人も多いでしょうが・・・。
海を隔てた半島では餓死者が出る中で
水爆のようなものを実験している。
中近東では奴隷売買が復活している。
アフリカでは誘拐された少女たちが慰み者にされている。
日本では食糧援助総数の二倍の食料が廃棄されている。
そういうどうしようもない世界が
どうしようもなくあるのですからねえ。
提供人体が人間として認知されないことなど
なんの問題もなく成立するのでございます。
そういう世界を淡々とこれでもかと
描いてもらいたいと考えています。
長い長いブラック・ジョークの開幕なのですな。
(金)は禁じられた世界・・・。
そして・・・(土)はにゃんだふるな世界・・・。
どちらも・・・「善意」や「悪意」が
交錯する世界でございますねえ・・・。
今季の週末はなかなかに哲学的と申せましょう。
投稿: キッド | 2016年1月16日 (土) 23時02分
急に寒くなりましたね。
風邪やインフルエンザにはお気をつけください!
原作よりも学園のあり方が立体的で、ドラマ化万歳と感じたのが第一印象です。といっても原作を読んだのはもうずいぶん前で色あせた記憶でして根拠薄弱なのですが^^;
白夜行から10年もたつのですね。(横レスすみませんっ)
白夜行ドラマ版は原作の怖い箇所を全て映像化したわけではなかったにもかかわらず、どの回も衝撃的でせつないエピソードに満ちていたと記憶しています。
綾瀬はるかちゃんが今作も凄まじい空気を纏っていて続きがとても楽しみなような怖いような・・・でも観たい!という気持ちです。
少し前から流れているパンテーンのCMの最新作はご覧になりましたか。
綾瀬はるかちゃんが女子中学生と髪の美しさを争っていて、大人の女性の圧倒的な輝きを放っています。私からするとはるかちゃん完勝!という印象なのですが、ドラマはこれとは全然違うトーンですね。女優ってすごい、と改めて感じ入っています。いや彼女が格別に凄いのでしょうか。
投稿: mi-mi | 2016年1月22日 (金) 23時57分
aDayinOurLife~ mi-mi様、いらっしゃいませ~アタラシイナニカヲミツケルネェ
回転ドアを少しまわすと外の空気が流れ込むので
悪いウイルスが入り込むかもですな。
気休めといいながら外出には
マスクを欠かさない悪魔でございます。
かれこれ十年ほど風邪をひいていないので
今度発病したら大変なことになる・・・と予感しております。
「白夜行」もコレも
原作のボリュームはあまりありません。
しかし・・・その核心にある「やるせなさ」を
この脚本家は謳いあげるのですな。
おそらく・・・十年に一度の名作間違いなしでございます。
綾瀬はるかの持つ・・・恐ろしい緊張感が炸裂することでしょう。
それにしても・・・十年間という歳月を
美貌的に感じさせない女優魂・・・。
私は小娘には負けない!シャンプー万歳です。
今季は格別の女優が揃い踏み。
(月)有村架純
(火)深田恭子
(水)?
(木)早見あかり
(金)綾瀬はるか
(土)広瀬すず
(日)長澤まさみ
・・・なんだろう・・・フィナーレ?
投稿: キッド | 2016年1月23日 (土) 00時23分