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2016年1月23日 (土)

やったのは私だよ(綾瀬はるか)壁を越えたら靴だけが帰ってくる世界(水川あさみ)

「時のないホテル/松任谷由実」は20世紀を楽しむ場所だが・・・。

世界と人との関係性を見事に謳いあげている。

世界という怪物の中で・・・人はどうしようもなく孤立している。

目に見えない「何か」が渦巻いているのだが・・・人がそれを知るのは・・・おそらく、一生の終わる時なのである。

人は時には「万人が愛する一人」を愛する。

それが愛なのかそうでないか・・・世界はけして明かさない。

それを明らかにするのは人なのだ。

明らかにするために・・・人は回転ドアを押す。

その時・・・世界は終わり、同時に人も終わるのである。

なぜなら・・・人のひげは・・・最初から抜かれているのだから。

で、『わたしを離さないで・第2回』(TBSテレビ20160122PM10~)原作・カズオ・イシグロ、脚本・森下佳子、演出・吉田健を見た。歯科医は義歯の料金を提示する。「提供義歯は100万円、全セラミックは10万円、准セラミックは7万円、金属なら保険内ですが・・・どうしますか」「私は提供保険加入者です」「ああ・・・ご指定の業者がありますか」「A社にストックがあるはずです」「しばらく・・・お待ちください」「・・・」「はい、ありますね」「それでお願いします」「承りました」・・・A社の提供歯倉庫に保管される・・・完璧な代用歯(神経付き)・・・これはそういう世界の話だと妄想しています。

土井友彦(中川翼→三浦春馬)はすでに提供を開始している。

その身体には傷痕が残る。

傷痕を美容整形で修復する必要性はないらしい。

自身が提供者であり、提供者の介護人でもある保科恭子(鈴木梨央→綾瀬はるか)は「指令」により、酒井美和(瑞城さくら→水川あさみ)の介護人となる。

「久しぶりね・・・」

「・・・」

恭子と美和の間には何らかの確執がある。

恭子にとってそれは・・・不快な記憶を呼び起こすものらしい。

しかし・・・美和はそのことにあまり執着していないようにも見える。

「あなたに・・・介護してもらいたくて・・・指名したのよ」

「・・・」

「前回、レバーだったから・・・貧血がひどくて・・・」

「・・・」

「それ・・・なに・・・」

「たいしたものじゃないわ」

介護人として提供者に贈るささやかなアイテム。

「まあ・・・プリン・・・私の好物、覚えていてくれたのね」

「あなたのデータに記入されていたからよ」

「冷たくして・・・食べたいから・・・冷蔵庫にしまっておいて・・・」

冷蔵庫の上には・・・「Songs after Dark/Judy Bridgewater」のケースと・・・「キョウコ♥」とサインされたCDが置かれていた。

「ねえ・・・あのこと・・・覚えている・・・」

(この女は・・・何が言いたいのだろう・・・それとも・・・どこかで・・・壊れてしまったのか)

恭子は時を遡上する。

自分が提供者という存在だと知ったあの日に・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

学園長の神川恵美子(麻生祐未)が明かした・・・「提供者」という「本当のこと」・・・。

幼い子供たちは語りあう。

「私たちが誰かに自分の身体をあげるって・・・」

「それが素晴らしいことなの・・・」

「誰かに身体の一部をあげたらどうなるのかしら・・・」

「心臓をあげたら・・・」

「心臓は無理でしょう・・・私たちが死んじゃうもの」

「きっと・・・あげても大丈夫なものを・・・あげるのよ」

子供たちの会話を・・・読書好きで大人びた真実(エマ・バーンズ)は冷たく聞き流す。

知識が彼女を大人にしている。

物事が明らかになることは何かをあきらめるということなのである。

だが・・・真実がいくら・・・真実を知っていたとしても・・・何も知らない子供たちと立場は変わらない。

真実はおそらく・・・そこまで知ってしまった子供なのである。

この世界では普通の人間にとって・・・それは常識に過ぎないのだった。

真実は・・・個性あふれる同級生たちを憐れむ。

個性などに意味はない。

誰もが提供者に過ぎないのだ。

美術の成績が抜群で・・・観察力と表現力に優れた恭子は・・・学園長と若い保健体育の教師である堀江龍子(伊藤歩)の「本当の話」の間になんらかの違和感を察知する。

龍子の話には・・・なにか「希望」のようなものがあった。しかし、学園長の話には「不安」を感じるだけだ・・・。

そのことを・・・龍子と直接話しをした友彦に確かめたいと考える恭子。

しかし・・・友彦は・・・「外の世界ではサッカーの才能が美術の才能と同じように認められている」という一点に夢中なのである。

「提供者」の意味については全く関心がない友彦だった。

「自分たちが提供者である」という現実から生じる不安を恭子と共有できる子供は友彦ではなかった。

恭子は真実なら・・・何かを知っていると気が付いていたが孤立している真実に関わることも不安になるのだ。

しかし・・・見せかけの友情を育む美和では話にならないだろう。

学園長と龍子は対峙していた。

「毎年・・・あんな・・・恐ろしい話を・・・」

「そうですよ・・・この学園の子供たちが特権を得るために必要な課程です」

「天使だなんて・・・凄く・・・偽善的じゃないですか」

「偽善・・・どうしてですか」

「提供することが・・・聖なる行いだなんて・・・」

「私はそう・・・信じていますよ」

「・・・」

「あなたも・・・ここで教師を続けるつもりなら・・・よく考えて行動なさってくださいね」

しかし・・・体育会系で・・・純情な龍子は・・・子供たちが今・・・人生を楽しむことを・・・どうしても・・・追求したくなるのである。

なぜなら・・・外の普通の人間たちは・・・美術だけでなく・・・サッカーが得意なことも評価されている。

提供者がそうであって・・・何故いけないのか・・・龍子はあまり考えない。

龍子は友彦たち・・・男子にサッカーの楽しさを伝え・・・世界にはどんなサッカー選手がいるか・・・彼らがどんな人生を送っているかを語る・・・。

龍子には・・・普通の人間と提供者の区別が・・・曖昧になってしまう愚鈍な資質があった。

子供たちは・・・龍子の語る「普通の人間の人生」の素晴らしさに夢中になるのだった。

篤志家であるマダム(真飛聖)が優秀作品を買い上げる「展示会」が近付く。

美術教師の山崎次郎(甲本雅裕)に対する「愛」を表現するために・・・美和は次郎の手を「彫塑」として発表する。

「提供者」に「愛」など感じない普通の人間である次郎は戸惑う。

男子が・・・世界的に有名なサッカー選手の「絵」を描いたことは次郎をさらに戸惑わせる。

次郎は「龍子の暴走」に危機感を覚える。

「どうして・・・あの人を雇用したのです」

「こういうところで・・・働きたいと思う人は少ないからです・・・まあ・・・若さゆえのあやまちというものをあの人もそのうち・・・わかってくれると思います」

「・・・」

展示会が行われる。

会場の外に締めだされた子供たち。

マダムは子供たちの「作品」を鑑賞し・・・気に入ったものを引きとって行く。

「恭子・・・四年連続で・・・お持ち帰りじゃない・・・凄いわね」

クラスメートに賞賛される恭子。

しかし・・・美和の「手」は残されていた。

そこに・・・「和」を乱す予兆を感じる恭子。

恭子は「手」をとりあげる。

「この作品が残されるなんて・・・きっと・・・見落としよ」

「・・・」

恭子は帰路のマダムを待ち伏せる。

突然、現れた子供たちに狼狽するマダム・・・。

「なんだ・・・お前たち・・・失礼じゃないか」と次郎は叱る。

「これ・・・見落とされたのではないかと・・・・私・・・これが一番素晴らしいと思いますから」

マダムは平静を装い告げる。

「見落としていたかもしれません・・・いただきましょう」

恭子は安堵する。

しかし・・・美和の気持ちは波立つ。

そして・・・真実はすべてを冷たく見つめる。

その頃・・・中の世界に興味を失った男子たちは塀に梯子をかける。

広樹(小林喜日)と聖人(石川樹)に続いて友彦も大人の階段を登ろうとするが・・・古びた梯子は朽ちて・・・友彦は取り残される。

殺人鬼がいるという噂の森を抜ける二人の少年・・・。

学園長は・・・警告のメッセージを受け取る。

提供者の体内に埋め込められた所在確認チップで・・・二人の脱走を知る学園長。

二人は世界の果てにたどりつく。

「うわあ・・・本当に世界は広いなあ」

「これから・・・どうするの」

「どうしよう・・・」

彼らに行くあてなどない。彼らには戸籍もないし、両親もいない。彼らは人間ではなく・・・単なる「提供者」なのだから・・・。

そこに学園長が黒いワゴンに乗ってやってくる。

「困ったことをしてくれましたね・・・」

学園長は微笑んだ。

二人の天使は一足早く・・・使命を全うすることになったのだ。

「あなたに・・・いいものをあげるわ・・・」

真実はゴキブリの玩具を恭子の掌にのせる。

「きゃ・・・」

「マダムはね・・・きっと・・・そういう気持ちだったのよ」

「・・・」

「普通の人間にとって提供者は・・・私たちにとってのゴキブリの玩具なのよ」

「そんな・・・」

宝箱にゴキブリの玩具をしまおうとした恭子は・・・「Songs after Dark/Judy Bridgewater」が消えていることに気がつく。

「どんな絵が描かれていたっけ」と訪ねる美和。

「・・・女の人がタバコを吸ってるの」

動揺するクラスメイトの花(濱田ここね)や珠世(本間日陽和)・・・。

「そのことは内緒にして・・・みんなで捜しましょう」

恭子は美和の言動に不審なものを感じる。

真実にはすべてお見通しだった。

恭子を貶め、美和が賞賛されるために・・・隠された「Songs after Dark/Judy Bridgewater」・・・。

美和は上級生から買い求めたCDを恭子に贈る。

「こういう感じのでしょう」

「うん・・・そういう感じの・・・だわ」

そして・・・子供たちに・・・二人の少年が行方不明になったことが伝えられる。

門に晒される血まみれの運動靴・・・。

恐怖に立ちすくむ子供たち・・・。

龍子は学園長に食い下がる。

「行方不明って・・・」

「子供の提供者は・・・すごく需要が高いんですよ」

「・・・」

「脱走するなんて・・・そんなことを許していたら・・・どうなると思いますか」

「・・・」

「介護人になれるような提供者は・・・すべてを受容した穏やかな心を持つ必要があるのです・・・この学園はそういう提供者を育成しているのですよ」

「・・・」

「介護人になれれば三年間の提供猶予の特権もあります」

「・・・」

「あなたが・・・彼らから・・・その可能性を奪ったのです」

「申し訳ありませんでした」

過ちを犯すまで自分の愚かさに気がつかないのが人間というものだ。

学園長もそれ以上、若者のあやまちを責めないのだった。

自分にも監督責任があるし・・・脱走者が初めてというわけでもないからだ。

すべては・・・システムの許容範囲なのである。

二人きりなれたので・・・恭子は・・・龍子先生に質問する。

「先生の言っていた・・・私たちの知らない本当のことって・・・学園長のお話ししてくれたことですか」

「・・・そうよ」

涙をこらえることができない幼い龍子先生。

恭子は・・・本当のことなど知らない方が幸せだと・・・龍子先生が言っているように感じる。

・・・・・・・・・・・・・・・。

それを感じたのが・・・今の自分なのか・・・あの日の自分なのか・・・介護人になった恭子には定かではない。

「あのこと・・・覚えている・・・あなたのアレがなくなった日のこと・・・」

「・・・」

美和は恭子に問いかける。

「あれをやったのは・・・誰だったのかしら・・・」

美和は恭子が・・・犯行を仄めかしているように感じる。

何故か・・・やったのは美和だと恭子に言わせたいらしい。

恭子は・・・今では何故か美和に敵意を抱くようになっている。

提供者としての人生が恭子の心を変えたのだ。

だから・・・思い通りにはなりたくない・・・。

恭子は言う。

「やったのは・・・私よ・・・私がやったの・・・」

言葉を失う美和・・・。

お茶の間には残酷に見える普通の時が・・・恭子と美和の間に流れ去って行く。

二人は人間ではなくて・・・提供者同志なのだ。

関連するキッドのブログ→第1話のレビュー

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