無辜の民とは愚民の別名ではありません(水谷豊)あなたは正義の独裁者ですよね(武田梨奈)
「SMAP×SMAP」の「スマ進ハイスクール」の映画監督篇(2014年8月)にてヒロイン役を務めた武田梨奈がゲストとして登場である。
存在感を消した役柄なのだが・・・「オチ」であることは一部お茶の間愛好家にはキャスティングで明らかにされているわけである。
ただし、右京さんとのバトル・アクションはありませんでした。
英雄は独裁者の敵でもあるし、独裁者は英雄のなれの果てでもある。
特別の存在になりたい個人と平凡な幸福を求める個人。
二つの顔の中央で・・・第三の顔は煩悶する。
信念を貫き通す杉下右京と野望に燃える片山雛子の暗闘は・・・またもや痛み分けである。
片山雛子、負けるなと時々思うことがある。
・・・お前はそういうところが愚民受けしないんだよね。
で、『相棒~元日スペシャル~英雄~罪深き者たち・season14・第10話』(20160101PM9~)脚本・真野勝成、演出・橋本一を見た。古代の世界において森林は屍の処理場であった。まあ、現代でも身元不明の死体は発見されるわけだが・・・。死後の人体も資源の一つであり、火葬にしろ、土葬にしろ、遺棄にしろ・・・鳥獣の餌となったり、肥料として還元されたりするわけである。インドに置いては屍林は神の住む「死の世界」でもあった。カーリー(黒)やマハーカーラ(大黒)といった恐ろしい「死に至る時の神」はシャマシャナ(屍林)で人生の終焉を守護するのである。
その否応なさはまさに・・・「神」なのである。
人間はそれぞれの「生」を生きる。最高の人生であろうが、最低の人生であろうが・・・誰もが大黒の元へと帰って行くのだった。
その「絶対性」に「独裁者」を見るか、「英雄」を見るかは人それぞれなのである。
十三年前の十二月二十三日、富山県後浦群後浦村(フィクション)の屍林のような森にある小屋が焼失し、元国会議員の大黒が焼死体となって発見される。
現場には二人の少年がいたと噂されるが・・・その消息は知れない。
政権与党である自友党の官房長官・音越栄徳(西村和彦)が新会派「NEW WORLD ORDER」(新世界秩序)を立ち上げ、同志である衆議院議員の片山雛子(木村佳乃)とともに記者会見に臨む。
音越は総裁選への立候補を表明するが・・・直後に会見会場は爆破される。
使用された爆弾の形状から・・・左翼過激派のテロ組織「赤いカナリア」の大幹部だった爆弾魔・本多篤人(古谷一行)が捜査線上に浮上する。
本多は「テロに屈しない」という現政権の建前を覆す「テロリストとの交渉の歴史」の生き証人であることから、事態の隠蔽を画策した片山雛子との裏取引により、超法規的措置で別人として実の娘・早瀬茉莉(内山理名)との隠遁生活をしていた。
ところが・・・公安の監視下から離脱し、消息不明となっていた。
片山雛子は強権を発動し、官僚たちを非常呼集するのだった。
警察庁長官官房付の甲斐峯秋(石坂浩二)、警視庁刑事部長の内村完爾(片桐竜次)などとともに法務省のキャリア官僚である警視庁警務部付に出向中の冠城亘(反町隆史)も召集される。
冠城は五年前の本多父娘解放の超法規的措置に関与していたのだった。
休暇中の杉下右京(水谷豊)が寛ぐ「花の里」に元・捜査一課の刑事だった三浦信輔(大谷亮介)が訪れる。
「富山県で暮らしている本多だが・・・娘が危篤なのに消息不明らしい・・・」
杉下右京は・・・入院中の茉莉を見舞うために旅立つのだった。
富山県の鄙びた駅に下車する哀愁の有休警部・・・。
しかし・・・三日前に茉莉は死亡し・・・すでに葬儀も終了していた。
そして・・・茉莉の父親である元テロリストは娘を看取ることなく、姿を消していたのだ。
後浦村役場を訪れた右京は早瀬家の墓を尋ねる。
案内役を買って出たのは職員の後浦なつみ・・・誰だよ・・・ではなくて植村明梨(武田梨奈)だった。
親切すぎる職員・明梨は・・・茉莉の墓へと案内し、本多親子の暮らした山奥の住居へと案内する。
ヤマブンタ(フィクション)という猛毒の蛇が棲息する山道を越える二人。
「スーツと革靴が汚れますよ」
「お構いなく・・・毒蛇に噛まれたらどうするんですか」
「一応、職員は解毒のための血清を常備しています」
「なるほど・・・それなら噛まれても大丈夫ですね」
「興味本位で噛まれないでください・・・死にますから」
「それは・・・残念ですね」
幽霊に会いたい・・・だけでなく・・・毒蛇にも噛まれたい・・・好奇心旺盛な右京である。
枯葉に埋もれた本多家で右京は・・・父と娘の仲睦まじい暮らしの名残を感じる。
「彼は・・・どこへいったんでしょうねえ」
「さあ・・・役所にも連絡はありませんし・・・」
本多家で右京は・・・「本多親子のフォトアルバム」「大黒天の置物」「ラピスラズリ(瑠璃)のペンダント」を発見する。
「それは・・・この辺りの民間伝承による・・・願い石だと思います」
自然石を二つに割り、同じ願いを持つ二人が持ち合うという呪術であるらしい。
「なるほど・・・」
「私も・・・」
明梨はカーネリアン(紅玉髄)の願い石を持っていた。
「それは・・・どなたと・・・」
「それは秘密です・・・他人に話すと願いが叶わないというお約束です」
「特別なご利益には・・・暗黙の了解がつきものですからねえ」
しかし・・・そこに片山雛子の私兵となっている公安三課の刑事たちがやってくる。
片山に召喚される右京。
「何をしているのです・・・」
「休暇中です・・・」
「本多の行方はご存じですか」
「わかりません・・・ただし・・・父娘が暮らしていたのは音越官房長官の選挙地盤だったようですね」
「それが何か・・・」
「本多が狙っているのが・・・あなたとは限らないということです」
「本多が誰を狙っているかは問題ではありません・・・実在しない本多が事件を起こすことが問題なのです」
「一度隠すと決めたものは・・・隠しとおさないと・・・困ったことになりますからねえ」
警視庁刑事部鑑識課の米沢守(六角精児)によってカーネリアンの願い石を作成してもらった右京は冠城と「事件解決」を願って分かち合い・・・ご満悦のようだ。
再び・・・後浦村にやってきた右京は・・・地元遊説に訪れている音越官房長官に密着する。
音越と大黒の間には確執があった。
自友党内の内部抗争で・・・古い自友党をぶっこわすと宣言した当時の総理により・・・抵抗勢力として公認を失った大黒と・・・刺客として落下傘候補となった音越・・・。
大黒は・・・小児に性的悪戯をしているという黒い噂で失脚したのである。
「あくまで・・・噂ですけれど・・・」
「火のない所に煙は立たない・・・と言いますからねえ」
「亡くなられた方を悪く言うのは・・・上品とは言えません」
「しかし・・・無実の罪であったなら・・・さぞや無念だったでしょうねえ」
「・・・」
「そういう怨みを込めた焼身自殺だったかもしれませんねえ」
「私には・・・なんとも・・・」
音越は大黒の政治手法は継承し・・・地元の人々にも人気があった。
大黒の小屋が行き場のない子供たちの憩いの場であったと知った右京は・・・現場から消えた二人の少年の捜索を開始する。
明梨の案内した児童相談所で当時十歳だった柄谷時生(郭智博)の情報を得る右京。
「あの夜から行方不明なのです」
「親は捜索願いを出さなかったのですか」
「育児放棄され・・・虐待されていた子ですから・・・」
「もう一人の少年については・・・」
「仲良くしていた子がいたようですが・・・この施設の子ではなかったようです」
「・・・」
保管されていた柄谷時生の絵を観察する右京。
「暗い絵の中で・・・大黒氏の小屋の絵は・・・明るいですね」
「そうですか」
「そうです・・・おそらく・・・これは大黒氏・・・彼はチャンバラごっこでもしていたのでしょうか・・・友人は梨を持っているようですね」
「すごい・・・名探偵みたいです」
明梨(あかり)は微笑んだ。
一方、爆薬の成分から・・・原料が特定され・・・組織犯罪対策部組織犯罪対策第5課の角田課長(山西惇)は新たに浮上した容疑者に困惑していた。
元組織暴力団の組長・鞘師九一郎(橋本さとし)は国外逃亡の果てにサルウィン共和国(亀山夫妻が在住)のクーデターに参加し・・・ツネカオというサルウィン国籍を取得し、サルウィンの外交官として日本に入国していた。ツネカオは原料を持ちこんだ形跡があったのだった。
「外交官特権があるだろう」
「外交官の身体の不可侵ですか」
「そうなんだよ・・・」
角田課長にアドバイスを求められた冠城は・・・ツネカオ/鞘師の本籍地に注目する。
「富山県後浦群後浦村(フィクション)・・・」
大黒元議員は・・・鞘師組長との黒い噂があったのだ。
片山雛子へ本多からの着信がある。
「もう・・・テロなんかしないと言ったくせに」
「テロリストに・・・そんな説教は無意味だよ・・・二発目は仕掛けたよ」
「一体・・・そんなことをして・・・どんな利益があるの」
「老いた人間には・・・結局・・・思い出が大切なんだ・・・」
「それが・・・ヒントなの・・・」
右京不在の警視庁では・・・捜査一課の伊丹刑事(川原和久)が閃くしかないのだった。
本多の思い出のヨットハーバーに係留されたクルーザーから・・・第二の爆弾が発見される。
「お手柄じゃないですか」
芹沢刑事(山中崇史)は先輩の偉業を讃えるのだった。
しかし・・・爆弾の原料の量についての情報から第三の爆弾があることが予想されていた。
右京の推理は加速する。
老いたテロリスト。父親を英雄視する娘の死。屍林の小屋から消えた少年たち。任侠道の男の帰還。噂によって政治生命を断たれた国会議員。その地盤を引き継いだ国会議員。誰が何のために誰を標的にしているのか・・・。
十三年前に自殺した大黒氏の命日・・・。
野望に燃えた政治家・音越栄徳は・・・豪華客船・ロイヤルウイング号で・・・講演会を企画していた。
右京は・・・クライマックスを予感して乗船を決めるのだった。
そこへ・・・ドレスアップして現れる明梨・・・。
「似合わないでしょう」
「いえいえ・・・とても・・・お似合いですよ・・・」
そこへ・・・冠城もやってくる。
「警察庁長官官房付の甲斐さんから・・・休暇をとるように言われました」
「なるほど・・・官僚と政治家の駆け引きも最高潮のようですね」
やがて・・・左翼の本多と極道の鞘師は・・・船員に扮した柄谷時生を人質にとって・・・狂言を開始するのだった。
要求は・・・「音越議員との人質交換」である。
甲斐は第三の爆弾について・・・右京の意見を求める。
「本多は・・・無辜の民を殺すことを厭う心境になっていました・・・狙うとすれば・・・建造物でしょう・・・おそらく・・・音越議員が大黒氏からの利権政治継承を象徴する干拓事業の水門・・・」
「なるほど・・・」
第三の爆弾は発見された。
そこで・・・片山雛子は・・・「総裁選のためのスタンドプレー」を思いつく。
「そんな危険は冒せない・・・私は責任をとれない」と甲斐。
「私の責任でやりますよ」
テロ行為の切り札としての爆弾を解除したことを犯人たちには知らせず・・・人質交換に応じる音越の英雄的行動をアピールした後で・・・犯人を確保する。
片山雛子のシナリオ・・・。
一方、本多は・・・恩人である大黒氏の名誉を回復したいという柄谷の願いを聞き届けた娘のために・・・「彼ら」を守ろうとしていたのだった。
人質交換の一瞬の隙をついて音越に斬りつける柄谷・・・。
「撃つな」と爆弾のスイッチで威嚇する本多。
「撃て」と命じる音越。
本多と柄谷は銃撃に倒れる。
「彼は・・・柄谷時生ですか・・・」
「そうだ・・・」
「あなたと茉莉さんの願いは・・・」
「彼らを守ることだった・・・あの男に一太刀浴びせることができたら・・・爆弾で威嚇して・・・脱出する・・・手筈・・・まさか・・・爆弾が・・・・・・君か」
「・・・私です」
「気にするな・・・それが・・・君の・・・」
二人の遺体を別室に移す右京。
柄谷の首に願い石のネックレスを発見する。
「しまった・・・私としたことが・・・」
その頃・・・負傷した音越は苦悶していた。
「傷が・・・」
「まさか・・・毒・・・」と蒼ざめる秘書。
「これは・・・ヤマブンタの毒ですね」
明梨が現れた。
「確か・・・君は解毒剤を・・・」
「あります・・・」
明梨は傷口に・・・致死量の毒をすりこんだ・・・。
そこへ・・・右京が駆けつける。
「大黒のおじさん・・・仇はとったよ」
明梨はヤマブンタの毒を服用する。
「待ちなさい・・・」
右京は血清をとりだした・・・注射セットは一人分。
右京は迷わず明梨に注入する。
音越は死亡した。
鞘師は・・・外交官特権で国外に退去する。
片山雛子は・・・音越死亡の責任をとって議員を辞職することを宣言するのだった。
一命をとりとめた・・・明梨を見舞う右京。
「あなたが・・・柄谷時生のお友達だったんですね」
「・・・」
「なぜ・・・あなたが・・・復讐をしなければならなかったのですか」
「あなたみたいな・・・綺麗なスーツを着ている人にはわからないわ」
「血の誓い・・・ですか」
「地獄だったのさ・・・親に捨てられた子供は最悪だよ・・・薄汚れて腹を減らして・・・名前さえ呼ばれない・・・女だとも思われない・・・大黒のおじさんだけが・・・私を女の子だと気がついてくれた・・・あかり・・・って名前をつけてくれたんだ」
「・・・」
「私は・・・願いをかなえたよ・・・」
「本多さん父娘の願いを知っていますか」
「・・・」
「それは・・・あなたたちを守ることでした」
「・・・」
「願いは半分しか・・・叶わなかった」
「・・・」
「大黒元議員は・・・恩人だったかもしれない・・・しかし・・・本当にあなたたちの幸せを願っていたなら・・・復讐など頼まなかったでしょう・・・」
「・・・」
「結局・・・あなたは最後まで悪い大人に利用された・・・憐れな子供だったんですよ」
「・・・」
「あなたも・・・柄谷時生も無辜の民にもなれた・・・しかし、結局は愚民になったのです」
「・・・ううううううううううああああああああおおおおおおおおお」
右京さんに口答えすることは何人にも許されないのである。
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コメント
はじめまして
子供に復讐心を植え付けさせたのは…
子供達への性的虐待は音越のデマ
考えて見ると虐げられてた彼らの対応は中途半端です。
本当に子供達の事を考えてばいれば、もう少し親切な
配慮がされてたはずですね。
本多も鞘師も別の方で音越をやっつける方法を考えるべきでしたね。
それが、あの二人を本当に守る事になったのに…
投稿: ミント | 2016年1月14日 (木) 17時40分
冥王の薄荷ペパー~ミント様、いらっしゃいませ~相棒の薄荷スペア
秘密めいた森の中で・・・
大黒が何をしていたのかは定かではありません。
火のないところに煙はたたないといいますから
大黒が子供たちと不適切な行為をしていた可能性はある。
しかし・・・世間がそれを「悪」といっても
本人たちにとってそれは「愛」だったのかもしれない。
子供として育まれなかった「彼ら」は
すでに大人だったとも言えます。
「情念」に正邪はつけがたいものです。
「革命の志」も「任侠の道」も「神を慕う気持ち」も
考えようによっては邪な精神の在りようでございます。
彼らは・・・普通の子供たちではなく
ただ・・・大黒の優しさに癒された。
「救い」を汚された子供たちは
戦う他に道はなかったのでしょうねえ。
本来・・・正義とは復讐が果たされること。
「そんなことはありません」という右京の独善的な正義は時に虚しく響く。
本多も鞘師も・・・子供たちもこの世から
あぶれたもの同志・・・その存在がすでに物悲しい。
キッドは本作の裏にそういう「毒」が潜んでいたと妄想しております。
投稿: キッド | 2016年1月14日 (木) 21時22分