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2016年2月29日 (月)

誘惑するものと誘惑されるもの・・・どちらが罪深いのでしょうか(長澤まさみ)

武田信玄が真田昌幸の父・真田幸隆を臣下として・・・砥石城を攻略するのは天文二十年(1551年)のことである。

小笠原氏や村上氏の信濃勢を駆逐し、諏訪氏や木曽氏を臣従させて信濃国をほぼ手中にする。

天文二十二年(1553年)になると信越国境での上杉謙信との川中島の戦いが開始されるのである。

それから天正十年(1582年)までおよそ、三十年の間・・・信濃国は武田家の領土であった。

天文十六年(1547年)生まれの真田昌幸はこの年齢三十六・・・。

信玄から勝頼と代替わりはしたものの・・・ここまでほとんどの人生を・・・武田家の臣下として過ごしてきたわけである。

長兄・信綱、次兄・昌輝が天正三年(1575年)の長篠の戦いで戦死し、真田家の家督を継いでわずか七年・・・父・幸隆の築きあげて来た小県の国衆総代としての地位も盤石のものとは言えない。

謀略の限りを尽くして・・・真田の里と一族を守ること・・・主家である武田家を失った真田昌幸は・・・裏切りを重ね・・・サバイバル・レースに挑む。

最終的には徳川家と豊臣家を天秤にかけ・・・一家を二つにわけるという・・・決断に至るわけだが・・・その凄まじい知略は少なくとも慶長五年(1600年)の関ヶ原の合戦までこれからの真田家十八年間の死闘を支えるのだった。

周囲に北条、上杉、徳川の大名勢力があり、内では旧武田家臣団の勢力争いがある。

真田から沼田まで細長い領地は信濃・上野国境上で一万石たらず・・・動員兵力はおよそ五百。

独立勢力となるには明らかに人員不足なのだ。

この・・・吹けば飛ぶような真田一族の命運は昌幸の双肩にかかっていた。

まさに・・・真田昌幸の戦いは今、始ったのである。

で、『真田丸・第8回』(NHK総合20160228PM8~)脚本・三谷幸喜、演出・田中正を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は真田昌幸の弟で同母弟とも異母弟もされる怪しさ抜群の真田忍びの一人・真田隠岐守信尹と主人公・真田左衛門佐信繁の哀愁の二枚目という二大イラスト描き下ろしでお得でございます。快調な描き下ろしに感激ですが、あくまでマイペースでお願いします。叔父と甥ですが・・・共に弟ポジションで・・・相通じるところのあった二人ですが・・・今回、大人たちの洗礼を受けて心乱れる源二郎・・・。新府城脱出行で兄・信幸に叱咤されて以来の放心状態に・・・あれから三ヶ月なので・・・まだまだ初々しいのですねえ。このしごかれていく感じが素敵でございます。戦国武将たるものスパルタ教育の果てに生き残ってナンボですからねえ。それにしても春日氏調略の筋立てで・・・高坂弾正の子・信達(昌元)が登場。脚本家は違うけれどなんとなく・・・「風林火山その後で」の香りがいたしますな。攻め弾正の息子・昌幸が・・・逃げ弾正の息子・信達を攻めちゃうのですなあ・・・。虎綱(田中幸太郎)の死(享年52)が早すぎたと言えるのですよね・・・。この後も春日一族にはさらなる徹底的な磔の憂き目が待っているわけですし・・・南無阿弥陀仏・・・合掌。

Sanada008天正十年(1582年)六月、真田昌幸は沼田城と岩櫃城を奪還。海津(松代)城の春日信達、深志(松本)城の小笠原洞雪斎を臣従させた上杉景勝は北信濃に侵入、長沼城を前進基地とする。昌幸は上杉家に臣従。北条氏直は上野国から碓氷峠を越えて信濃国に侵攻。徳川方の依田信蕃は佐久の小諸城を捨て春日城に撤退。北条方の大道寺政繁が小諸城に撤退。氏直は諏訪高島城の諏訪頼忠、木曽福島城の木曽義昌の所領を安堵する。北条勢は佐久・諏訪のラインを確保し、上杉勢は海津・深志のラインを確保することによって川中島での対決の構図が浮上。徳川家康は酒井忠次、奥平信昌に南信濃に派遣。同時に甲斐国に進出する。七月七日、羽柴秀吉は家康の信濃、甲斐、上野への侵攻を認可。九日、家康は甲府に至る。昌幸は北条家に臣従。十三日、信達の謀反が発覚し景勝が謀殺。越後では柴田勝家と連動した新発田重家が新潟城で反乱を継続中。川中島で対峙した上杉勢と北条勢は北に新発田、南に徳川とそれぞれが挟撃される危機を持つことから講和交渉を開始。七月末に和平が成立し、川中島以北を上杉が領有化。北条勢は転身して対徳川戦を開始。氏直が佐久から、氏邦が秩父から、氏忠が河口湖から甲斐に圧力をかける。北条勢四万、徳川勢一万の対決である。

※北条氏直は父・北条氏政、母・黄梅院(武田信玄の娘)で武田信玄の孫である。

※真田信繁は父・真田昌幸、母・薫(仮名・武田信玄の養女)で武田信玄の義理の孫である。

※つまり・・・武田信玄系ということでは氏直と信繫は同格なのだった。恐ろしいことだ。

上野・沼田城には真田幸隆の弟である矢沢頼綱が配されている。

齢六十を越えているが忍びとして鍛錬した身体は壮健である。

幸隆と共に武田に仕え、合戦を重ねてきたが・・・不敗であった。

嫡男の矢沢頼康は従兄弟にあたる真田昌幸より二歳年下である。

頼康もまた父親譲りの猛将だった。

矢沢親子の守る沼田城には隙がない。

すでに梅雨の終わった関東ではうだるような熱気が周囲に満ちている。

夜半を過ぎても熱が去る気配はない。

寝所の暗闇の中で・・・頼綱は目を開く。

殺気を感じたのである。

「頼康・・・」と頼綱は息子の名を呼んだ。

「控えております」

「わかるか・・・」

「誘いをかけているようですな・・・」

「ふふふ・・・おそらく・・・風魔の透破じゃろう」

「城下に忍びこんだようでございます」

「面白い・・・ちと遊んでやるか・・・」

「父上が出るまでもありますまい」

「さようか・・・受けて立たねばなめられるからのう」

「拙者におまかせくだされ」

忍者としての修練を積んだものには神通力が宿る。

矢沢父子は共に気合の達人であった。

常に戦場に生きて来た二人は・・・戦いそのものに喜びを感じる。

城主という立場を忘れて戦に惹かれる父を押さえて頼康は屋敷から飛び出す。

一瞬で黒の忍び装束を整えた頼康は城門を飛び越え・・・殺気の発した方角に進む。

城下の寺の屋根に人影があった。

「お前か」

叫んだと同時に頼康は気を打った。

人影はゆらりと身をかわし、地に向かって飛ぶ。

その手から風車と呼ばれる風魔の手裏剣が放たれた。

回転する手裏剣を頼康は長さ一尺ほどの鉄製の棍棒で撃ち落とす。

地上に降りた人影は巨漢である。

「矢沢頼康殿か・・・」

「おうよ」

「それがしは・・・風魔の足柄と申す者・・・お命いただきに参上した」

「ふふふ・・・風魔の三男坊か・・・とれるものならとってみろ」

「たーっ」

足柄は気合を放つ。

一種の念力である「気」は通常のものならば防御のしようがない。

鎧を貫き、心臓に達すれば、息の根を止めることもできる。

気合いの術者たちは・・・時には飛ぶ鳥も落とすのである。

しかし・・・修練によって達人の域に入った頼康は足柄の気合いを棍棒で打ち払う。

次の瞬間には頼康は足柄と打ちあいの距離に入っていた。

「おりゃ」

頼康の棍棒が足柄の頭上を襲う。

足柄の道具は鉄の小槌だった。

頼康の棍棒を下からはじきかえす。

しかし、その時には頼康の左手が足柄の首に突き刺さっている。

手槍の一撃である。

首の血管をつまみだして頼康が飛び下がると・・・足柄はすでに絶命している。

夜目の利く頼康は足柄がまだ顔に幼さを残しているのを見てとった。

「腕に溺れて・・・墓穴を掘ったな・・・」

超人的な技を持つものは・・・たやすく過信の罠に陥る。

上には上がいるという自明の理を忘れるのである。

「十年早いわ」

呟いた時には頼康の姿は闇に消えていた。

頼康の下忍たちが闇の中から現れ死体の始末にかかる。

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2016年2月28日 (日)

勧善懲悪的馬鹿になれ!(亀梨和也)都知事些少活躍(広瀬すず)

謎の黒幕・・・ユウキテンメイ・・・。

ユウキテンメイの切り札と呼ばれる殺し屋カメレオン。

二つの正体が謎である。

仮面劇のお約束の一つは・・・仮面の中身・・・素顔がすでに登場している人物のものである・・・ということだ。

もちろん・・・仮面の下は掟破りの大物ゲスト・・・という展開も一種のお約束である。

しかし・・・その場合は・・・やはり・・・卑怯な感じが否めない。

由緒正しい正体を予測するのが本来の醍醐味だろう・・・。

カメレオンの正体は・・・。

①ユウキテンメイの元ボデイガード・・・ラクダ。

②いかにも三枚目を演じるダークカイトな雑誌記者。

③登場人物中、戦闘力ナンバーワンの丸顔の女スパイ

・・・に絞られてきた。

ユウキテンメイの正体は・・・。

①侠武会組長・中岡太一(実は齢百歳)

②死んだはずの都知事・藤堂(二代目・・・ボスが初代)

③死んだはずのハッカー・細田(二代目・・・父親が初代)

・・・ということになるだろう。

血糊の噴き出す防弾ベストと警察内部の隠蔽がある限り・・・撃たれても死亡しないルールである。

もちろん・・・この世界では双子の兄弟も想定内である。

はたして・・・どんな結末が待っているのか・・・楽しみだ!

で、『怪盗 山猫・第7回』(日本テレビ20160227PM9~)原作・神永学、脚本・武藤将吾、演出・猪俣隆一を見た。組織暴力団・侠武会の幹部殺害の容疑者として拘留された雑誌記者の勝村英男(成宮寛貴)は怪盗探偵・山猫(亀梨和也)の協力によって警察病院から逃亡することに成功する。山猫を執拗に追いかける狂犬刑事である犬井克明(池内博之)は霧島さくら刑事(菜々緒)とともに勝村の行方を追う。一方・・・都知事・藤堂健一郎(北村有起哉)は反社会勢力の撲滅と東京都営カジノ計画の推進を公言し安心安全を願うギャンブル大好きな一部都民の評価を高めるのだった。

「勝村はどこだ!」

「我々の目指すのは完全なる世界だ」

逮捕されたテロリスト集団・ウロボロスのメンバーを取り調べる狂犬刑事は・・・脱法的な暴力を行使する。

「犬井さん・・・やりすぎです」

霧島さくら刑事は相棒の無謀な取調方法に困惑する。

「勝村はどこだ?」

「し、知りません」

勝村の記事を掲載する雑誌の編集長・水上(村杉蝉之介)を恫喝する狂犬刑事。

「犬井さん・・・それ・・・脅迫行為です」

「勝村はどこだって言ってんだよ」

「ひええええ・・・」

勝村の住居の管理人を締めあげる狂犬刑事。

「犬井さん・・・相手は一般市民ですし・・・暴行傷害です」

路地裏のカフェ「STRAY CATS」にやってきた狂犬刑事とさくら刑事。

「くそ・・・いないじゃねえか」

「不法侵入です」

「ちくしょう」

「器物破損です」

「勝村~」

「なんで・・・そこまで先輩を追うんですか・・・濡れ衣なのは・・・明らかでしょう」

「逃亡者なんて・・・嫌いだ・・・警察を悪者扱いしやがって・・・」

「それにしても行きすぎた捜査は問題になります」

「お前が・・・上手いこと報告書を書けば問題ない」

「・・・」

「それに・・・勝村は・・・山猫とつながっている!」

基本的に「くりかえし」はギャグの基本の一つだが・・・この作品はしつこいくらいに展開するのだった。

一般市民・山根こと山猫に連れられた勝村と魔王こと高杉真央(広瀬すず)は目隠しをしたまま・・・山猫の新しい隠れ家に案内される。

真央の目隠し姿サービスはギリギリカットである・・・サービス悪いな。

変態かっ。

たどり着いたのは・・・路地裏のカフェ「STRAY CATS 2号店」だった。

「一緒じゃん」

「違うよ」

マダム・宝生里佳子(大塚寧々)は囁く。

「目を瞑って思い出して・・・あなたの愛したSTRAY CATS 1号店のことを・・・」

「あ・・・照明がひとつ・・・御用提灯になっている」

「間違い捜しかよ」

「けして・・・セットの使いまわしではないのだにゃあ」

「使いまわしってなんだよ」

「ところで・・・ウロボロスの黒幕は誰なの?」

「ウロボロスに指令を出していたのは・・・都知事の藤堂さ・・・」

「地元組織の侠武会と台湾マフィアのサーペントを抗争させて共倒れにするために・・・サーペントを動かしたのね」

「そういうことだ・・・」

「ウロボロスの幹部五人は・・・警察組織の人間あるいは元警官の可能性が高いです」と潜入中に掴んだ情報を伝えるおとり記者・勝村。

「そうともいえないぞ・・・」と悪徳警官の関本修吾警部(佐々木蔵之介)が登場する。

「ウロポロスから・・・都知事に脅迫状が届いた」

「みえみえの狂言じゃないか・・・」

「まあな・・・」

カップラーメン・タイムである。

「またマラソンの五輪代表がもめてるよ」

「武士道精神の名残だよな」

「そもそも・・・実力の世界に義理人情を持ち込みすぎなんだよな」

「それから・・・既得権益を手放したくないおっさんたちのアレな」

「スポーツマンシップとは程遠いよな」

「ま、盛り上がればなんでもいいんじゃないの」

そこへ・・・勝村先輩秘密の携帯端末にさくら刑事のメッセージが着信。

(ウロボロスによる侠武会幹部の殺害映像を入手しましたが解除暗号を解読できません)

「罠だよな」

「罠だが・・・虎穴に入らずんば虎児を得ずだ」

「だからといって・・・何故・・・緑のもじゃもじゃを頭にかぶらなければ・・・」

「目立った方が目立たない・・・いい意味で」

「どんな意味だよ」

さくら刑事との密会の場所はビルの屋上である。

「先輩・・・なぜ・・・高木ブーに・・・」

「雷様じゃな~い」

「かかったな」

狂犬刑事が乱入する。

おとり記者と狂犬が揉み合うが・・・さくらが発砲・・・。

虚をつかれた狂犬をふりほどき・・・おとり記者は飛翔する。

鍛え抜かれた囮記者は煎餅布団一枚あれば飛び降りた衝撃を吸収できるのだった。

「すげえ・・・」

「なぜ・・・発砲した」

「私は威嚇射撃をしただけです」

「そんな言いわけが通用するか」

「報告書に上手に書きますから」

「・・・あんな男に惚れやがって・・・」

「先輩は無実です・・・」

「あいつは・・・ただものじゃないぞ・・・見ろ」

一瞬の隙をついて囮記者は狂犬の背広に発信器を仕掛けていた。

「え・・・」

「ただの雑誌記者にこんなことができるか」

「先輩・・・苦労しているから・・・」

恋は盲目である。

電子の要塞である山猫カーの車内。

「あ・・・つぶされちゃった」と魔王。

「せっかく・・・仕掛けたのに」と囮記者。

「これも・・・発信器だにゃあ」

老婆に変装した山猫は勝村の入手したメモリを潰すのだった。

悪徳刑事は・・・都知事を問いただす。

「お前が・・・ウロボロスを操っているのか」

「あいつらの目指すのは完全なる世界・・・私が目指すのは新世界だ・・・関係ないだろう」

「それもそうだな・・・しかし・・・山猫を甘く見るなよ」

「二十年前の・・・あの少年か・・・」

遠い目になる二人・・・。

都知事は日本蕎麦を手繰るのだった。

一方、ウロボロスのアジトに囚われの身となっていた正体不明の謎の女(中村静香)は見張りの一瞬の隙をつき、カニバサミで昇天させる。屍より咥え取り出す手錠の鍵・・・。

今回は顔の傷跡が妙にいい感じに陰影をつけメイクが仕上がっているのだった。

路地裏のカフェ「STRAY CATS 2号店」・・・。

「結局・・・あんな変な恰好までして・・・無駄足だったじゃないか」

「いい意味でね・・・」

「どんな意味だよ・・・」

「印象操作だよ・・・いい意味で」

「意味ないよ」

「バカだな・・・いい意味でとか・・・禿げてるね・・・いい意味でとか・・・ブスだよね・・・いい意味でとか・・・なんかいい感じになるでしょう・・・いい意味で」

「ハゲはハゲだし、ブスはブスでしょう」

「若いって・・・こわいものしらずだねえ・・・いい意味で」

そこへ・・・謎の女が登場する。

「無事だったのか・・・」

「情報収集のために捕まったフリをしていただけよ」

「大胆不敵だねえ・・・いい意味で・・・」

「なぜ・・・ここへ」

「愛するもののためよ」

「つまり・・・金の話か」

「もちろん・・・いい意味で」

狂犬刑事とさくら刑事は・・・都知事護衛の特別任務を与えられていた。

「なぜです・・・SPがいるのに・・・」

「キャストの使いまわしに決まってるだろう」

駐車場でウロボロスが都知事を襲撃する。

狂犬刑事とさくら刑事のバトルアクション。

そして都知事も剣道の腕前を発揮するのだった。

「大慈大悲観音力と金剛力を出しゑいやつと身ぶるひすれば・・・」

たちまち打たれて捕縛の憂き目のウロボロス・・・。

都知事自ら悪漢のウロボロスをば一網打尽の朗報に・・・都民国民やんやの大歓声。

都知事支持率うなぎ昇りである。

「ちかえもん」入ってきてるぞ・・・。

一方・・・謎の女の情報で「ウロボロス」の正体を掴んだチーム山猫は・・・最後の仕上げにとりかかる。

「ウロボロスの本拠地に乗り込み・・・暗殺犯をひっとらえ・・・勝村の無実を証明する」

「ありがとう・・・」

山猫の言葉に・・・思わず感涙の囮記者。

「・・・ということで・・・細田の遺産・・・山猫秘密兵器で武装しろ」

「え・・・俺が」

「天は自ら助くるものを助けるのだ」

「この・・・催涙スプレーかもしれないスプレーとか・・・まさかの水鉄砲とか・・・必殺吹き矢とか・・・防犯ブザーのようなブザーって・・・本当に秘密兵器なのか・・・」

「細田の科学力を信じてやれ・・・いい意味で」

ウロポロスの基地に殴りこみをかける囮記者。

しかし・・・細田の秘密兵器はほぼ無能だった。

「キャー、この人チカンです~・・・キャー、この人チカンです~・・・キャー、この人チカンです~・・・」

山猫カーのマダムと魔王。

「毎回お約束で捕まってるよね」

「山猫の作戦が捕まることが前提だしね」

囮記者が陽動中に謎の女はウロボロスの金庫室に侵入・・・。

活動資金の一億円を入手するのだった。

「ファンタスティック・・・にゃあ」

今回の謎の女はセクシー・ダイナマイトである。

計画通りに監禁される囮記者。

ウロボロスの真の幹部たちが現れる。

「元警官五人衆だ・・・」

「なぜ・・・警察官がテロリストに・・・」

「警察は・・・悪に無力すぎるから・・・悪い意味で・・・」

「そこまでよ・・・」

さくら刑事が登場。

しかし・・・ウロボロス五人衆は発砲する。

「残念だったなあ・・・俺たちは警告抜きで発砲できるんだよ・・・現職じゃないから」

「・・・」

囮記者に突きつけられる拳銃。

「銃を捨てろ」

その時、魔王による停電発生。

暗闇に閃く銃火。

乱入した暗視スコープ装備の狂犬が・・・ウロボロス五人衆を射殺していた。

「俺はなあ・・・警告抜きで発砲するんだよ・・・現職だけどな」

「僕にあたったらどうするんです」

「戦場に流れ弾は不可欠だ・・・いい意味で」

「上手な報告書を書きます・・・いい意味で」

「ひでぶ」

一方、山猫は都知事を急襲していた。

「結局・・・あんたは・・・カジノ計画の推進が目的だったんだな」

「財政難を解決するための政策だ」

「ウロボロスを使って・・・人心を操作してまでか」

「民衆というのは・・・通知表が1~5までの全員だ・・・基本的に・・・多数派というのは馬鹿の集まりなんだよ・・・そういう愚民を率いて正しい道へ導くのが・・・真のリーダーシップというものだ」

「一般市民を・・・騙して・・・見下してもか・・・」

「政治というものはそういうものだ・・・声を大にして正義を主張したものが勝利する・・・大衆が何かを成し遂げることなど・・・永遠にないのだから」

「ちなみに・・・ここまで全国に中継しているけどね」

「え」

「タイムラグを作って加工処理はしているけどさ・・・俺の顔にはモザイク処理入ってるんだよね」

「安心してください・・・入ってます」と魔王。

「ということで・・・放送終了」

「・・・」

「ちなみに・・・今、公共放送では・・・」

「なんということでしょう・・・現職都知事の暴言に驚いた街の声をお聞きください」

「ふざけんな」

「死ねばいいと思うよ」

「びっくりぽん」

「あんな人だったとは」

「清き一票を返してください」

脱力する都知事だった。

「一体・・・あんたの核はなんだったんだ」

「民衆の笑顔を守ることさ・・・そのためには綺麗事だけじゃすまないだけだ」

自殺用カプセルを服用する都知事。

「残念だけど・・・それはビタミン剤だ」

山猫はカプセルをすり替えていた。

「私に何をしろと・・・」

「馬鹿になれよ・・・そして・・・最後まで信念を貫けよ・・・悪党が逮捕されれば大衆は拍手喝采をするんだから・・・」

「ふん・・・犯罪者のくせに・・・綺麗事が好きなんだな」

「それが・・・小中学生向けのヒーローだからさ・・・いい意味で」

山猫が去ると・・・悪徳刑事がやってくる。

「もうすぐ・・・警官隊がやってくる・・・自発的に出頭するなら・・・署まで送るよ」

「友情ってやつか・・・」

「腐れ縁だって・・・縁だからな・・・いい意味で」

暗い夜道を二人を乗せた車が失踪する。

「結局・・・お前もユウキテンメイに踊らされたのか・・・」

「それは・・・どうかな・・・」

赤信号で急停車する車。

開いたダッシュボードから覗く拳銃。

夜の沈黙を破る銃声・・・。

無表情な悪徳警官。

助手席で都知事は流血し・・・息絶える。

路地裏のカフェ「STRAY CATS 2号店」に謎の女が戻ってくる。

悪は滅び・・・怪盗たちは・・・大金を手にしたのだった。

「結局・・・金か」

「結局・・・金よ・・・いい意味で」

早春の細田の故郷。

廃工場に残る謎を・・・魔王は解き明かした。

「ここに・・・まだ秘密があったとはな・・・」

「地下通路の秘密の扉が・・・あったわ」

「お前は・・・ここで・・・待機してろ・・・」

「・・・」

魔王は山猫の後ろ姿を心配そうに見つめるのだった。

地下通路の先にある・・・秘密の部屋・・・。

床に落ちた謎の「福印金貨」・・・。

そこには・・・ユウキテンメイが待っていた。

「お前か・・・」

「久しぶりだな・・・山猫・・・」

はたして・・・ゴキブリダースベイダーの正体は・・・如何に・・・おそらくイカ大王だけに。

Ky007ごっこガーデン。早春の田舎道お散歩セット。

エリ早春の田舎道はデートに最適なのです・・・時々、冷たい風が吹いてきて山猫先輩が寒くないかい・・・と優しく温めてくれたりしてぐふふ・・・なのでス~。お弁当は丘の上で陽射しを浴びて・・・ひな祭りも近いので甘酒でほっこりしまス~。じいや~、テザートはコンデンスミルクたっぷりのフレッシュ摘みたてイチゴをお願いしましゅ~・・・尾行ごっこ中のみんなの分もね~

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2016年2月27日 (土)

美しく静かな天使たちのドライブ(綾瀬はるか)

今季の選ばれた七本はどれも素晴らしい。

どれも・・・あっという間に一時間が立ってしまう。

その中でも洗練されているという点ではこのドラマが一番かもしれない。

ファンタジーとして・・・もう一つの現代を描く作品である。

明日、目が覚めた時に・・・向こうの世界に転移していたとしても違和感をほとんど感じない美しさがある。

しかし・・・自分がどちらなのか・・・という点は重要なのである。

人間なのか・・・それとも提供者なのかだ。

人間は病院に行って・・・延命処置を受けるのが普通だが・・・。

提供者の場合は基本的に寿命を縮めるために病院に行く。

・・・朝、病院のベッドで目が覚める。

体調はあまりよくない・・・。

そうか・・・自分は提供したのだった。

その時・・・突然、晴れやかな気分になる。

人間の役に立ててよかった・・・。

提供者の感じる・・・一瞬の幸福感。

遠ざかる・・・ここではないもう一つの世界の記憶。

で、『わたしを離さないで・第7回』(TBSテレビ20160226PM10~)原作・カズオ・イシグロ、脚本・森下佳子、演出・平川雄一朗を見た。時計塔のある駅前の広場で早世した友人の真実(エマ・バーンズ→中井ノエミ)を懐かしんだ保科恭子(鈴木梨央→綾瀬はるか)と珠世(本間日陽和→馬場園梓)・・・。人間たちと提供者たちは違和感なく共存し、平和な時を刻む。提供者たちは人間に管理され短い生涯を安穏と過ごし、人間たちは提供者によって効果的に延命する。高齢化社会を惧れる必要はない。高齢者たちの集団もいつかは一気に消え失せ・・・少子化の子供たちが高齢を迎えるころにはそれなりにバランスのとれた社会になるだけの話。大騒ぎしているのは一部のまもなく老年期を迎える馬鹿だけなのである。

なにしろ・・・それは地獄だからな。

《恭子の時間》

「恭子はトモの介護人をやる気はない?」

土井友彦(中川翼→三浦春馬)の介護人である珠世には紅白の「提供開始通知」が届き、友彦は恭子を次の介護人としてリクエストしている。

「今・・・美和の介護人をしているの」

「美和の介護を・・・やめちゃえば・・・」

「やっとね・・・少し上手くいきだしたところなの」

「それはすごいね・・・それは邪魔するわけにはいかないね」

「・・・」

「恭子・・・手が空いたら・・・私の介護もやってよ」

「うん」

「じゃあ・・・」

笑顔で珠世と別れた恭子は・・・管理人用の集合住居に戻る。

郵便受けには・・・紅白の通知があった。

《あなたの提供が開始されます・・・所定の手続きを最寄りの回復センターで・・・》

幽かに揺らぐ恭子の表情・・・。

しかし、それはほとんどポーカーフェイスと変わらない。

恭子はそういうタイプなのである。

彼女は心の内を秘める女だった。

孤独で暗く冷たい夜を越えて・・・回復センターに出頭する恭子。

事務的な態度の職員は通知を受け取り、確認作業に入る。

「提供を始める時は・・・介護人としていつまで働けますか・・・それから・・・新規の介護を引き受けることは可能ですか」

「間違いですね」

「はい?」

「通知のミスです・・・あなたの提供開始は・・・まだです」

「・・・」

「新規介護の受付はあちらの窓口です」

恭子は何とも言えない気分というものを味わった。

しかし・・・と恭子は考える。

自分に残された時間は長くない・・・。

そして・・・自分たちとなるともっと短いのだ。

恭子と美和に残された時間。

あるいは・・・友彦と恭子に残された時間は。

終焉・・・提供の終了・・・その時を美和はどのように迎えたいと思っているのか。

そして・・・自分はどんな最後を・・・と。

恭子は介護を担当する提供者・加藤(柄本佑)のストレッチングを手伝いながら・・・とりとめのない自問自答を続ける。

加藤は無心に恭子の胸元を見つめている。

そこには小さな幸せがあるようだ。

加藤は・・・恭子がこちらをむく気配を感じて目をそらす。

「今度は仰向けになれますか」

「はい」

「無理をしないでくださいね」

「ありがとう」

加藤は色々な意味で感謝の言葉を述べた。

市街地には人間があふれている。

特に子供はみんな人間だ。

提供者の子供たちはゲートの向こう側にいるからだ。

しかし、外見では提供者の子供と人間の子供は変わらない。

子供たちは恭子に幼い日々を思い起こさせる。

女の子たちを見れば陽光学宛の仲間たちを・・・。

サッカーボールを持つ男の子を見れば幼い日の友彦を・・・。

少年少女だった頃を懐かしく思い出すということが・・・残り時間の少なさを物語るのだった。

恭子は提供を継続中の酒井美和(瑞城さくら→水川あさみ)のために彫塑用粘土を購入した。

下敷きのための板、細工のためのヘラやクシ・・・。

「ありがとう・・・」

「まだ続けていたのね」

「手を動かしたいと衝動的に思うことない?」

「・・・あるよ」

「これって・・・陽光育ちってことじゃないかしら・・・」

恭子は「授業」によって与えられる陽光学宛の「教養」を思い出す。

美和と彫塑と言えば・・・美術教師の山崎次郎(甲本雅裕)が思い浮かぶ。

その名前を口にすることは美和にとって残酷な側面を持つはずだが・・・恭子はさりげなく口にする。

それが復讐の意味合いを持つのか・・・恭子の優等生としての鈍感さを示すのかは微妙だが・・・おそらく・・・双方を含んだ表現なのだろう。

「次郎先生のテープってなんだったのかしら?」

「テープ?」

美和は少し驚いた後で恭子の真意を一瞬探るが・・・感情を封じこみ穏やかに応じる。

「ほら・・・次郎先生の声が入っていて・・・それなのに先生ったら口パクで・・・」

「さあ・・・目を閉じて・・・」

「それそれ・・・」

「手を大きく広げて・・・」

「凄く謎だよ・・・」

美和は恭子がそういうことを気にするタイプだと知っていた。

自分がそれほど気にならないことを恭子は気にする。

そして自分が気になることに恭子はそれほど関心を示さない。

幼い日の自分を思い出し・・・微笑みを浮かべる美和。

「今日は・・・もういいよ・・・」

「洗濯ものをするよ」

「まだ・・・たまってないから・・・明日で・・・作っている時に人がいるの苦手だから」

「そう・・・」

「レンタルのDVDも返しておいて」

「わかった・・・リンダリンダリンダの小山先生って次郎先生に似てたでしょう」

「・・・そっくりだったわ・・・知ってる?・・・留学生のソンちゃんを演じたペ・ドゥナはクラウド アトラスで遺伝子操作で作られた合成人間を演じているの」

「この世界ではおそらく発禁なのよね」

「同じクローンでも給仕人で幸せそうだったわ・・・」

「まあ・・・非合法品を見たの」

「闇社会では・・・クローン娼婦だっているものよ」

「そうかもね」

「人間の娼婦にとっては強烈なライバルだと思う」

「でも・・・人間は人間を抱きたいものでしょ?」

「あなたは・・・人間に抱かれたいと思わないの?」

「どうせ・・・いつかは一体になるもの・・・」

「・・・ああ」

レンタルショップの店員は言った。

「これ・・・違う作品ですね」

ケースの中身は「キョウコ♥」のサインがある「Songs after Dark/JUDY BRIDGWATER」のCDだった。

「すみません・・・間違えました」

恭子にとって・・・美しく忌まわしい思い出につながるアイテムである。

友彦との大切な絆を傷つける煩わしい美和の棘。

恭子はつかみどころのない美和の心に悪意というものが存在することを認めたくない。

認めたがらない心を・・・恭子は育てている。

恭子の心を縛る陽光学宛の優等生としての拘束具。

まとわりつく美和の意志表示の意味が恭子には理解できない。

ただ・・・それに付き合うことが虚しく時間の浪費にしかならないと感じるのだった。

残された時間は・・・あまりにも短いというのに・・・。

《友彦の時間》

美和が入院中の回復センターAとは別の地区にある友彦の入院する回復センターB。

提供を開始している友彦はすでに身体が不自由になっている。

それでも・・・サッカーを続ける友彦だった。

友彦は・・・新しい介護人を待っていた。

提供者仲間が告げる。

「お前の・・・介護人・・・来たぞ」

「すごい美人だぞ」

「しかも・・・巨乳だ・・・」

恭子・・・と思わずにはいられない。

不自由な体で受け付けに向かう友彦。

しかし、現れたの僕の彼女はサイボーグではなく、シスターミキだった。

「・・・」

「どうもっす」

新しい介護人である中村彩(水崎綾女)は「逃げる女」「海底の君へ」と今季がんばっているな。

友彦は落胆した。

しかし・・・提供体験が・・・友彦になんらかの精神的成長をもたらした気配がある。

友彦は自分を偽ることを学んでいるようだ。

その表情は・・・美和や恭子に近づいていた。

《恭子の時間》

恭子は加藤の介護中に・・・美和との軋轢を思い出し、思わずため息をついてしまう。

「・・・すまないね・・・」

「あ・・・違います・・・加藤さんには関係ないのです・・・」

「悩み事かあ・・・よかったら相談にのるよ」

「わざわざ・・・聞いてもらうようなことでは・・・」

「いいじゃない・・・教えてよ・・・退屈しのぎに・・・」

「退屈な話ですよ・・・私が介護をしている別の人・・・昔からの友達なんです」

「ふうん」

「子供の頃・・・大切なCDを彼女に盗まれたことがあって・・・」

「へえ・・・」

「それを・・・最近・・・私に見せつけるんです」

「ほお・・・」

「わざとらしく・・・冷蔵庫の上に置いたり、レンタルのDVDとケースの中身を入れ替えたりして・・・もう・・・何をしたいのか・・・ワケがわかりません・・・」

「そうか・・・君には・・・わからないか」

「?」

「僕にはわかるような気がする・・・」

「え」

「提供者には・・・それぞれに思い描く理想の終わり方があるんだよ」

「自分がやった悪事を誇示することが・・・理想ですか」

「彼女が・・・君に何かを伝えようとしているのは・・・確かなんじゃないかな」

「何をですか?」

「それは・・・僕にはわからない」

「・・・」

介護人として・・・提供者の事務処理を行う恭子は・・・管理センターの職人に呼ばれる。

「保科さん・・・これ・・・酒井さん提供の告知お願いします」

「はい・・・」

「おわかりでしょうが・・・提供者への告知は介護人の義務ですから」

しかし・・・書類を見た恭子の顔色は変わる。

「これって・・・」

「三種同時提供が何か?」

「こんなの・・・即時解体と同じじゃないですか」

「酒井さんの管理にはお金がかかっているんですよ・・・提供後の回復に時間がかかっているし・・・自損にちかい事故もあったし・・・通常ならすでに三度目の提供があっておかしくない時期なんです・・・よくあることです」

「でも・・・個体差による猶予が・・・」

「もう・・・期限切れなんですよ」

肝臓・小腸・膵臓の同時提供。

恭子は「提供終了」を意味する「告知」に対する美和の反応を想像する。

やり場のない怒りをぶつけられ・・・美和に罵倒される自分。

花瓶を投げつけてくるかもしれない・・・。

しかし・・・知らせる他はないのだ。

美和は提供者で恭子は介護人なのだから。

お茶の間はそろそろ疑う・・・美和や友彦の提供が開始されているのに・・・なぜ・・・恭子はまだ・・・なのか。

ひょっとして・・・恭子は・・・すでに猶予の対象者ではないのかと。

しかし・・・珠世が直前まで提供をしていなかったので・・・そうであるとも限らない。

残された提供猶予の謎・・・。

美和は・・・わざとらしい態度で言う。

「ごめん・・・私・・・ケースの中身を間違えたみたい」

「大丈夫・・・まだ返却していないから」

「そう・・・」

「それより・・・告知があります・・・自分で読んでもらっていいかしら」

「かまわないよ」

恭子の予想に反し・・・美和は穏やかに書類に目を通す。

「・・・」

「読んだよ・・・」

「怒らないの?」

「ああ・・・ひどいとは思うけど・・・特別ひどいわけじゃないでしょう」

「・・・ごめん・・・私、嘘をついていたわ・・・アレのこと気がつかないフリをしていた・・・美和・・・私になにか・・・話したいことがあるの?」

「・・・もう・・・いいのよ」

「話したいことって・・・」

「恭子は・・・恭子なんだなあって・・・」

「?」

「とにかくソレは返したってことで・・・終わり。洗濯と掃除をお願いね・・・私、ラウンジにいるから・・・終わったら・・・呼びに来て・・・」

洗濯機は回る。

恭子は人間の書いた小説を読む。

一度くらいは提供者の書いた小説を読んでみたいものだと思う。

提供者の心と人間の心は違うものなのか。

それとも同じようなものなのか。

提供者は何を語るのだろうか。

しかし・・・提供者は小説家にはなれないのだ。

《美和の時間》

もの思う美和・・・。

「もう・・・時間がないのね・・・急がなくちゃね」

静かなつぶやきが漏れる。

《友彦の時間》

彩は友彦のマッサージをしている。

「陽光の出身者なんすよね」

「うん」

「いいっすよね」

「・・・みんなそう言うけど・・・いた方にはよくわからないんだ・・・何がいいのか」

「授業ってのが・・・あったんすよね」

「え・・・なかったりするの」

「読み書きなんて・・・覚えたかったら勝手に・・・って感じすよ・・・だからうちんとこには字を読めない方がフツーっす」

「俺・・・そこにいたら・・・確実に読めない方だったな・・・」

「そうなんすか」

「一番の落ちこぼれさ・・・馬鹿にされたりもしたけど・・・いつも友達に助けてもらってた」

「・・・」

「それなのに介護人の資格をとるなんて・・・君は・・・すごく・・・頑張ったんだな」

「えへ」

かわいいよ、ミキ、かわいいよである。

・・・いつまで「キューティーハニーTL」を・・・。

ブルーにしか見えないんだよ・・・。

・・・もういいか。

《恭子の時間》

ラウンジで恭子を待っている美和。

「掃除・・・終わったよ」

「恭子・・・私ね・・・陽光に行きたいの」

「え」

「最後の提供の前に・・・どうしても・・・行ってみたいの」

「陽光がつぶれたの・・・知ってるよね」

「知ってる・・・それでも行きたいのよ・・・三人で」

「三人・・・?」

「トモも・・・一緒に・・・恭子とトモと私・・・三人で」

「三人で行って・・・どうするの」

友彦をめぐって・・・決裂した恭子と美和だった・・・。

「・・・恭子は私の介護人でしょう・・・最後の望み・・・叶えようと・・・努力してよ」

「わかった・・・やってみるよ」

「絶対・・・叶えてね」

恭子は管理センターで熱弁した。

「どうして・・・許可できないとおっしゃるのですか・・・」

「提供前に・・・体調を崩したり・・・事故にあったりしたら・・・問題になるんですよ」

「私が責任をもって・・・無理をさせません」

「許可はできないのです」

「三種同時で・・・精神的に不安定なんです・・・また・・・自損事故を起こすかもしれません」

「・・・」

「許可が下りない場合・・・何が起こっても・・・責任もてませんよ」

「・・・いいでしょう・・・外出の自由がないわけでは・・・ないので」

「・・・ありがとうございます」

恭子は美和にペンと便箋を渡した。

「私が・・・トモに手紙を・・・」

「言い出したのは美和だもの・・・」

「恭子が書いた方がいいよ・・・私とトモはいろいろあったから・・・私が頼んでも来てくれないかもしれないし・・・恭子が呼びだして・・・私がだまし討ちみたいな感じで・・・」

「会いたいっていうのは・・・美和の意志なんだから・・・ちゃんと伝えないと・・・それが最後の願いなんでしょ・・・」

「・・・」

《友彦の時間》

友彦は提供者仲間とサッカーに熱中し・・・転倒した。

手紙を手に友彦を捜していた彩が駆け寄る。

意識の混濁する友彦。

(サッカー選手になるんだ)(陽光学宛を出たら)(プロのサッカーチムームのテストを受ける)(無理だよ)(一発じゃ無理かもしれないさ)(俺はサッカー選手になるのが夢なんだよ)(私)(プロになるんだ)(トモのこと)(選手になるんだ)(好きだなって)(トモ)(しっかりしろよ)(トモさん)(担架きたぞ)(トモさん)(それ)(トモさん宛ての手紙っす)(しっかりしてください)(手紙・・・)

「トモへ・・・元気かな?・・・なわけないよね・・・私ももちろん元気でもないけど・・・あのね・・・今・・・私の介護人・・・恭子がやってくれています・・・この間・・・トモはどうしているんだろうって話になって・・・お互い・・・終了も近いみたいだし・・・このあたりで一度会ってみませんか・・・三人で陽光の跡地でも見に行くというのはどうでしょう・・・返事にはトモの都合のいい日を・・・必ず書いてください・・・美和より」

《恭子の時間》

提供のための検査を終えた美和を恭子が労わる。

「大丈夫?」

「うん・・・」

「提供三種だと・・・検査項目も多いね」

「いっそ・・・提供不適合になりたいわ」

「ヤバイ病気だからとか・・・」

「ヤバイ病気はヤバイけどね」

「それもそうか・・・」

「まあ・・・提供三回で終了が平均的って言うけど・・・ボロボロになった身体で四回目待ちって・・・ヤバイの通り越すって言うし・・・」

「・・・」

「それにくらべたら・・・二回目で一気に三種って・・・マシなのかもよ・・・それより・・・返事遅いね」

「そうね」

「やっぱり・・・恭子が書いた方がよかったんじゃないの」

「・・・」

「私・・・トモとはいろいろあったから・・・」

「トモは・・・そういう根にもつタイプじゃないでしょう」

「まあね・・・バカだからね」

「外出許可が出ないのかも・・・トモも提供を開始しているから・・・」

「・・・」

しかし・・・手紙は届いた。

「美和・・・」

「トモって・・・こんな字だった」

「開けて・・・読んで・・・」

「はじめまして・・・介護人の中村と申します・・・友彦さんが手紙が苦手とのことで・・・私が代筆させていただきました。返事が遅くなったのは・・・提供後の体力低下などで外出許可が下りなかったためです・・・ただし、友彦さんはお二人にとても会いたがっております・・・なので・・・こっちに来てもらうとか・・・そういうことではいけませんか」

「トモ・・・大丈夫みたいだね」

「でも・・・あんまりよくはないんだね」

「美和の外出許可だって・・・大変だったし・・・すごく悪いとは限らないよ」

「あれ・・・約束の日時がないじゃない・・・」

恭子は封筒を探る・・・残されていた一枚の絵。

「この絵に日付があるよ・・・この絵も介護人が描いてくれたのかな」

「これ・・・トモの絵だよ・・・」

「え・・・」

「あれから・・・ずっと・・・練習していたんだ・・・最後に会った頃には・・・こういう感じのタッチになっていた」

「・・・」

「トモ・・・すごく絵がうまくなって・・・よかった・・・」

恭子は美和がトモの絵を抱きしめ・・・涙を流したのを見て驚愕する。

恭子は加藤の提供手術の日に立ち会っていた。

「・・・そう・・・友達の絵を見て泣いたんだ・・・その人・・・」

「他人のことで泣くような人じゃなかったんですけどね・・・」

「人は変わるって言うよ・・・特に提供後はね・・・」

「会わない間に彼女は変わって・・・私、そのことに気がつかなかった・・・私の方が変わってなかったというか・・・」

「で・・・CDの件は・・・」

「そこは・・・もう・・・謎のままでも・・・いいかなって・・・」

「余韻ってやつだね・・・それで会いにいくんだ」

「二月二十八日に・・・」

「楽しみだね」

人間の医療スタッフがやってくる。

「時間です」

「お・・・行かなくちゃ」

介護人は人間の看護師に書類を渡す。

「これ・・・お願いします」

「・・・」

無表情に書類を受け取る看護師・・・。

「最後に聞けたのがいい話でよかったよ」

「・・・」

加藤は手術室に運ばれていく。

その穏やかな微笑み。

夜がやってくる。

そして・・・朝がやってくる。

暗闇にささやかな光がさして・・・世界は息を吹き返す。

恭子の中で何かが変わって行く。

《恭子と美和の時間》

恭子は管理人用のレンタカーで美和を乗せて朝の街を走りだす。

約束の日・・・。

二月の最後の日の前日・・・うるう年なので。

「私が出て行ったあと・・・トモと何があったの・・・?」

「トモは相変わらずよ・・・私にはちっとも興味がなくってさ」

「相変わらず?」

「そもそも・・・私に何の興味もなかったじゃない・・・最初から」

「そうなの・・・?」

「そうよ・・・トモは私を見ない・・・無理矢理こっちを向かせない限りね」

「サッカーボールのことはいつも見ているのにね」

「あと・・・私の身体は見たわよ・・・そこには少し興味があったみたい」

「・・・」

「なんだか・・・トモとつきあってるのが馬鹿馬鹿しくなっちゃって・・・コテージに新しく来た人と付き合い始めて・・・トモに言ったら・・・あっさり・・・ああそうって感じ・・・それで終わりよ」

「トモは・・・」

「トモのお相手のことは・・・知らない・・・でも・・・介護人講習で・・・花と再会して仲良かったみたいだよ」

珠世と一緒のコテージだった花(濱田ここね→大西礼芳)は消息不明である。

「そうなんだ」

「絵も花に教わったみたい・・・」

「それであんなにうまくなったのかな」

「さあ・・・ねえ・・・花ってちょっと恭子に似てるよね」

恭子は身構える。

言葉に美和の攻撃の気配を感じる。

しかし・・・それは弱々しい一撃だった。

「そう?」

「似てるよ・・・鼻とか・・・目元とか・・・唇とか・・・全体の雰囲気とか」

「女だし・・・同い年だし・・・そりゃあ・・・似てるでしょう・・・美和と花だって似てるし・・・私は・・・時々・・・似てない人なんていないんじゃないかと思う・・・私たちってほとんど同じなのよ・・・だから・・・ちょっと違うところを見つけたりすると・・・驚いたり戸惑ったり憎んだり羨んだりして・・・違うからこそ・・・ほしいと思ったり・・・憧れたりする・・・そういう人になりたいと思ったり・・・好きになったりするんじゃないかしら・・・」

「ふふふ・・・相変わらず優等生ね・・・恭子は・・・でもまあ・・・そうなのかもね・・・私たちの一生なんて・・・ささいなところでウロウロしているうちに・・・あっという間に終わるのかもね・・・」

「・・・」

「ねえ・・・あの曲をかけて・・・もっているんでしょう」

「・・・ええ」

「Never Let Me Goってどういう意味?」

「わたしを離さないで・・・」

「私・・・恭子を怒らせたかった・・・それでクズとか・・・最低とか・・・死ねとか言われて・・・それで本当の友達になれるような気がしたの・・・対等の関係っていうか」

「・・・」

「だって・・・いつもキレてるの私ばかりだったでしょう・・・結局、うまくいかなかったけどね・・・あなたってすごく我慢強いっていうか・・・鈍いっていうか」

「何度も何度も・・・ぶっ殺してやろうかと思ったよ」

「本当?」

「大成功よ」

「よかった・・・」

恭子は・・・美和の心を理解したような気持ちになった・・・。

美和はただ・・・恭子が自分と同じ人間なのかどうか・・・確かめたかっただけなのだった。

そして・・・恭子は本当の自分を美和に隠し続けていた。

罵られたら罵り返すだけで・・・よかったらしい。

しかし・・・それが人生というものなのだ。

どんなに曲がりくねった道を通っても・・・たどり着く場所は同じなのだから。

《恭子と美和とそして友彦の時間》

友彦の回復センターの駐車場で友彦は車に乗り込んできた。

「外出許可が出なかったんじゃないの」

「手紙のことを話したら・・・みんなで一日、ごまかしてくれるって」

「・・・」

「だから・・・陽光に行こう」

「大丈夫なの」

「うん・・・身体は丈夫だから」

「規則を破ったりして」

「規則は破るためにあるのさ・・・」

「塀を乗り越えたら即時解体だけどね」

「やりたいことをして・・・解体されるか・・・何もしないで解体されるか・・・もう・・・ほとんど同じじゃないか」

「トモにしては・・・まともな論理だわ」

「私は・・・変わってないなと思うけど・・・」

「行こうよ・・・森の中の・・・俺たちが育った場所へ・・・行きたいって手紙に書いてあったでしょう」

「・・・」

「大丈夫・・・時間までに戻ればいいのさ・・・うちのセンターって・・・ルーズなんだ・・・俺たちだって・・・もう子供じゃないんだし」

恭子は友彦を見た。

何かが変わったようにも見え・・・何も変わらないように見える・・・幼馴染で初恋の男。

雰囲気の変わった男に戸惑うような恋敵で親友の女。

友彦は美和を見つめる。

美和は涙をこらえて目をそらす。

恭子は思わず微笑む。

大人になるということは・・・もうすぐすべてが終わるということだ。

世界が急に美しくなったように感じる恭子だった。

「陽光って・・・今・・・どうなってんのかな・・・」

「どんなにボロボロになっていたとしても・・・私たちのふるさとよ」

「故郷・・・」

「そう・・・故郷」

「ようこそ・・・陽光へ」

「だじゃれかよっ」

緑の森の中を一本の道が通じ三人を乗せた車が走っている。

恭子は道の果てに・・・何か素晴らしいものが待っているような気がしてきた。

「陽光学園は・・・滅んで・・・何か美しいものに生まれ変わっていたりして・・・」

「それはないんじゃないかな」

「過剰な期待は禁物よ」

「だって・・・私たちは」

「提供者なんだもの!」

彼らは見た。

閉ざされた門。

鉄条網。

そして・・・扉に記された「HOME J-28R」と「関係者以外立入禁止」の表示を・・・。

今、世界は終わろうとしている。

恭子だけが特別・・・という希望の光を残して・・・。

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2016年2月26日 (金)

行燈消えてくらがりに白無垢死出立恋路の闇黒小袖(早見あかり)

ひろし・・・来たか。

ひろし・・・来たな。

しかし・・・ストーブさん(小池徹平)とマスター(松尾スズキ)がいるだけに・・・ひろしさえもが意味深に思えてくる。

藤本有紀とクドカンのクロスオーバーだよねえ。

そもそも・・・ひろしは黄昏ているんだよねえ。

喜里(富司純子)、お玉(高岡早紀)、お袖(優香)、そしてお初(早見あかり)と出てくる女がみんなツンデレ設定だ。

親孝行では傑作が描けないあたりは・・・やはり、つか版忠臣蔵に通じていく。

そうなると・・・つかこうへい・クドカン・藤本有紀が一体となって・・・。

子捨て親殺しは河原者のつとめでございます・・・。

そういうニュアンスが不孝糖に結実するという・・・。

トレビアンの極みだねえ・・・。

来週が終わったら・・・せつないねえ。

で、『ちかえもん・第7回』(NHK総合20160225PM8~)脚本・藤本有紀、演出・梶原登城を見た。豪商・平野屋の道楽息子・徳兵衛(小池徹平)とわけありの遊女・お初(早見あかり)の出会いは雪の中庭・・・恋の行方は梅の季節を過ぎて・・・いよいよ桜も満開に。筆の進まぬちかえもんこと近松門左衛門(松尾スズキ)と小言ばかりを言うものの息子を溺愛する母・喜里の別れの門出も近付いて・・・平野屋の大旦那・忠右衛門(岸部一徳)の朝鮮人参ビジネスを狙う黒田屋九平次(山崎銀之丞)の悪だくみも大詰めに・・・いよいよ、真打ち万吉(青木崇高)の腕の見せ所なのである。

色茶屋・天満屋の主人・吉兵衛(佐川満男)と女将のお玉(高岡早紀)の帳場に・・・黒田屋が現れる。

「お初を身請けしたいのですが・・・」

「あの妓が何と言うのやら・・・なにしろ・・・平野屋の若旦那にぞっこんだからね」

すました顔でお初が登場。

「その話なら請けました」

「お初・・・」

お玉の鬼の目に浮かぶ思わしげな気配・・・。

「そういうもんやと教わりました」

言葉を失うお玉だった。

部屋に退く回廊でお初に声をかけるお袖(優香)である。

「あんた・・・ほんまにそれでええの」

「徳様を騙して傷つけて苦しめたわてが・・・他に仕様もあらしまへん」

お初の悲しみを染める桜吹雪・・・。

お初、渾身のポーカーフェイス。

ちかえもんは夜なべして浄瑠璃書くものの・・・木枯らし吹き込む貧乏屋敷に身は冷える。

梅、桃、桜と季節は過ぎても・・・ちかえもんの心には冷たい風が吹いていた。

書けないものは書けないのである。

そこへ・・・ちかえもんの弟で越前の医師・伊恒(これつね)より文が届く。

「飛脚から預かって来たで」と万吉。

出来のいい弟から母への手紙に気を揉むちかえもん。

「なんと書いてきたんです」

「駕籠で迎えをよこすから・・・越前へ参れと・・・人形浄瑠璃などという下賤なものを書く兄の元へと母を置いては気がかりと・・・美味なる鯖を召し上がり、温泉でのんびりなされよと・・・親孝行な伊恒とその嫁じゃこと・・・」

「・・・」

気が滅入るちかえもんを余所に・・・喜里に甘える万吉。

「嫌や・・・おかあはん・・・越前に行ったらあかんて」

「はいはい・・・あなたを残してどこにも行きませんよ」

「よかった・・・」

「万吉さんもそろそろ嫁を迎えねば・・・」

「そんなら・・・今すぐ嫁とるで・・・」

万吉は勇んで家を出る。

よもや・・・と嫌な予感のちかえもん。

「お前、まさか・・・お初のことを」

「そうや・・・あほぼんと切れて・・・一人になったお初を慰めてやれるのはわしだけや」

「あほかいな・・・」

「お初~」

しかし・・・お初の部屋には白無垢の婚礼衣装があるばかり。

「なんや・・・これ」

「お初は黒田屋さんに身請けされるんや」とお袖。

「そんな・・・」

「三百両でな」

「さ、三百両・・・」と絶句するちかえもん。

「いやや・・・そんなのいやや・・・」

駄々をこねる万吉は・・・白無垢を懐にいれ・・・天満屋を飛び出す。

「ど、泥棒や」

「お初・・・平気な顔をしとったけど・・・若旦那からもらった梅の木をまだ飾って・・・」

「嘘から出た真か・・・すっかり花も散ったのに・・・無惨なことや」

顔を見合わせるちかえもんとお袖だった。

徳兵衛は番頭の喜助(徳井優)に連れられて平野屋の蔵へ・・・。

蔵には幕府ご禁制の朝鮮人参が山と積まれている。

「これが・・・平野屋の裏の商い・・・」

「へえ」

蔵に徳兵衛を残し、喜助は風流を嗜む忠右衛門の元へ・・・。

「徳兵衛に蔵を見せたのか」

「へえ・・・私の一存でそうさせてもらいました」

「私は・・・純真な徳兵衛に・・・闇の商いができるものかと案じています」

「けれど・・・今だけは・・・若旦那様に・・・おまかせしとうおます」

「・・・」

「恋焦れたお初様を・・・なんとか思いきろうとなさっておいでやさかい・・・」

すべての元凶である朝鮮人参を見つめる徳兵衛。

そこにふらりと万吉がやってくる。

「お金貸してえな」

「饅頭でも食うのか・・・ほな・・・五文でええか」

「あと三百両」

「三百両・・・て」

「あの油屋が・・・三百両でお初を身請けするいうねん」

「・・・黒田屋さんが」

「そやさかい・・・わしが三百両に五文を足して先を越したろうと」

「黒田屋さんなら・・・お初を幸せにしてくれるやろう」

「あんなもん・・・ろくでもないで」

「いや・・・わては黒田屋さんには恩義がある・・・今となっては・・・お初の幸せを願うばかりや」

「そうかいな・・・ほんなら・・・ワシは去ぬで・・・五文はもらっとく」

「なんでやねん」

奉行所の与力・鬼塚新右衛門をもてなす九平次・・・。

「大分手間取るな」

「もう仕上げにかかっております」

「そうか・・・」

「平野屋の裏の商いはそっくりいただき・・・鬼塚様にもたっぷりと御礼をいたしますので」

「ふふふ・・・黒田屋・・・お主も悪よのう・・・」

一方・・・相関図に夢中のちかえもん。

「お初と徳兵衛の恋路を邪魔する九平次・・・まあ・・・これが定番として・・・さて九平次は何をどう仕掛けるつもりか・・・徳兵衛に恩を打ったのも何かの布石か」

そっと茶を置く喜里である。

その優しさが気に障るちかえもん。

「母上・・・弟のところへ参られたらいかがです」

「お前のことが気がかりで鯖の味もわかるまい」

「私だって・・・母上が気がかりで筆が進まぬのです」

「また・・・お前は人のせいにして・・・」

情けないと思いつつ・・・心と裏腹に憎まれ口を利くちかえもんだった。

「七十越えたばあさんが・・・薄明かりの下で繕いものなどしていたら・・・気が滅入るのです」

思わず家を飛び出すちかえもん・・・反抗期の小学生かっ。

大坂の街に広がる宵闇・・・。

ちかえもんの行きつく先は竹本義太夫(北村有起哉)の小屋・・・。

「それはあんたが悪い・・・」

「みなまで言うな・・・」

焚火の炎を見つめるちかえもん。

「いくら・・・どぐされ浄瑠璃作者と言われてもな」

「そこまで言われとらんわ」

「もう・・・受けなんて気にせず書いたらよろしいがな」

「なんやて・・・」

「わしらももうええ年や・・・世間を気にせず・・・自分がこれやと思うもんでええのやないか」

「これやと思うもんなんか・・・この世にあるんやろうか」

「信じるものがみつかったとしても信じないそぶりか」

「たくろうは来ないな」

夜なべして新作の不孝糖作りに精を出す万吉・・・。

「でけたで・・・なにしろ三百両を稼ぎださにゃならんのだ・・・おかあはん、味見をしとくんなはれ」

しかし・・・倒れ伏す喜里だった。

「おかあはん・・・」

呼び出されたのは草原兄さんではなくて医師・横川敏斎(桂吉弥)である。

「お代は・・・」

「万吉殿・・・お代は頂きまへん。 そのかわり新作が出来たら・・・木戸賃ただにするように近松先生に言うとくなはれ。 やぶ医者の楽しみいうたら浄瑠璃くらいのもんだすさかいな」

「万吉殿・・・私は越前に参ろうと思います」

「なんでや・・・」

「母親というものは愚かな者・・・いくつになっても子供の世話を焼いているつもりで邪魔になっても気がつかない・・・そのうち捨てたくなるほど厄介なことに」

「そんなこと・・・」

「この姿をごらんなさい・・・あの子はやれ薬だ・・・やれ滋養強壮だと走り回る・・・いいものが書けなくなります」

「・・・」

「万吉さん・・・あの子のことをお頼みします」

「よっしゃ・・・まかせておくんなはれ・・・」

くしゃみのとまらぬちかえもんは・・・熱に浮かされ天満屋のお袖の部屋へ。

「風邪引いてしもうた・・・」

「なんでよ・・・」

「小屋で眠っちゃった・・・」

「馬鹿なの」

「お袖・・・」

「何?」

「わしと・・・一緒になってくれ」

「えええええ」

思わず部屋を飛び出すお袖。

「何言ってんだ・・・あのじじい・・・」

しかし・・・その顔に浮かぶ微笑み。

(ああ・・・私は求婚してしまった・・・)

大坂・・・黄昏・・・お茶屋の小部屋・・・。

あの人は行って行ってしまったのである。

ひろしものまね王座決定戦だ。

一方・・・黒田屋の姦計に乗せられて・・・朝鮮人参を持ち出した徳兵衛。

お初が労咳の疑いがあると騙され・・・証文まで渡され・・・黒田屋を信じて疑わぬ徳兵衛。

しかし・・・証文が盗まれた判によるものだといきなり告げられ茫然とするのだった。

「盗んだ判で証文を作るとは・・・とんだ悪党だ・・・お上に訴えますぜ」

「黒田屋・・・謀ったな」

「やっちまいな」

黒田屋の子分に殴る蹴るの仕打ちを受ける徳兵衛だった。

往来の騒ぎは・・・客の口からたちまち色茶屋に伝播する。

「お初・・・大変だよ・・・徳様が・・・」

「証文偽造して打ち首とか」

「変な薬もやっていたとか」

「放火殺人おタナは炎上」

「大坂市中は大騒ぎ」

遊女たちから事情を聞き・・・蒼白となるお初。

たまらず走り出す。

「お初・・・どこへ行く」

「徳様が・・・」

「ならぬ・・・」

お初を阻む色茶屋の男衆。

所詮は籠の鳥・・・愛しい男の危機にも飛んでは行けぬ身の上・・・。

お初は半狂乱で身悶えるばかりなり・・・。

「明日一番で・・・鯖薫る越前に参る故・・・今夜は先に休みます」

「母上・・・」

明けてぞ今朝は別れゆく。

「文豪は身なりにも気を配らねばなりませぬ」

「母上・・・」

母さんが夜なべして仕立てた衣に涙するちかえもん・・・。

親を慕うあまりの親不孝、子を思うあまりの子不幸に朝露も濡れて・・・。

越前と大坂に別れることが・・・今生の別れとなるやもしれず・・・胸がいっぱいちかえもん。

えっさえっさえさほいさっさと駕籠は去る。

行ってしまった・・・もう帰らない。

そこへ現れた満身創痍の徳兵衛。

「あほボン」

「いもり・・・」

「どないしたのや」

「油屋にはめられた・・・わてが捕まったら平野屋も終いや」

「なんてこと・・・」

「いまさら・・・なにをと言うかもしれんが・・・一目、お初に・・・」

「わかった・・・わいにまかしとけ」

中庭の桜を見上げ放心するお初。

そこに白無垢二人羽織の万吉が現れる。

「不孝糖~不孝糖~」

「あら・・・万吉さん・・・」

白無垢の下から徳兵衛。

「徳様・・・」

「おはちゅ・・・」

おはでチュ~なら新婚さん・・・遊女のお初とうらぶれた徳兵衛はすべてを忘れてい抱き合う。

「とくさま~」

「おはつ~」

「とくさま~」

「・・・もう思い残すことはない・・・お初、達者でな」

・・・と去ろうとする徳兵衛をお初は離さない。

「嫌でございます」

「おはつ・・・」

「もう一人にはなりとうおまへん」

「おはつ・・・」

「とくさま~」

「おはつ~」

「ああ・・・もう・・・ええかげんにしいや」

辛抱しきれぬ万吉であった。

「・・・」

「今生で結ばんれんのやったら・・・来世で夫婦になればよい」

人形のような目を輝かせ万吉は笑む。

人形のような顔色の徳兵衛は目をパチパチ。

人形のような顔立ちのお初はその眼差しをひたと据え・・・。

万吉の手引きで二人は裏木戸から死出の旅路へ・・・。

再び相関図と格闘するちかえもん・・・。

「平家の残党も出てこない・・・赤穂義士も出てこない・・・商人やら遊女やらがわちゃわちゃとしているだけで・・・何でこんなに面白いのや」

人情と人形の交差点でため息をつくちかえもん。

酒席にて・・・西町奉行に袖の下を渡さんとする黒田屋・・・。

「ここに用意しましたのは値千金の朝鮮人参」

しかし・・・箱の中身は不孝糖だった。

「戯言が過ぎるわ」

西町奉行は席を立つ。

「・・・」

万吉がちかえもんの元へと戻る。

「おや・・・風邪治りましたんやな」

「そう言えば・・・ほんまや」

「さすがは・・・朝鮮人参入りの不孝糖や」

「そうか朝鮮人参かと乗ってツッコミチョウセンニンジン~」

「そやで・・・あほぼんとこから拝借してきたんや」

「拝借て・・・盗人猛々しいわ」

「そうそう・・・あほぼんとお初はな・・・」

「お・・・」

「旅に出ました」

「旅?」

「・・・気違のやうになってゐたわいなうとお初・・・もはやとんと覚悟は決めたとあほぼん・・・そやさかいにな・・・この世で添い遂げられぬなら・・・あの世で結ばれなはれと・・・わしが言うてやった」

「え・・・ええええええ」

竹の林を抜けていく徳兵衛とお初の道行・・・。

顔を見合わせああ嬉しと・・・死に行く身をよろこびし・・・あわれさつらさあさましさ・・・。

南無阿弥陀仏・・・南無阿弥陀仏・・・。

ああ・・・来週が待ち遠しいし、いっそこのまま逝ってしまいたい・・・。

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2016年2月25日 (木)

カップルだらけの真冬の遊園地で膝小僧を出してみました(桐谷美玲)

45年前は昭和四十六年(1971年)である。

この年一月、大坂万博「EXPO'70」で作られたタイムカプセルが埋められ、三島由紀夫は築地本願寺に埋葬され、「ザ・タイガース」が解散し、横綱大鵬が最後の優勝を飾った。

何かが終わって・・・1970年代が始るのである。

何かが終わるということは何かが始るということである。

この年、竹野内豊や、高田万由子、工藤夕貴、三代目若乃花、ユースケサンタマリア、木村多江、筒井道隆、藤原紀香、檀れい、牧瀬里穂、ウィノナ・ライダーなどが生まれ、四月になると「仮面ライダー」が生まれる。

仮面ライダー3号(及川光博)、仮面ライダードライブ(竹内涼真)、仮面ライダー龍玄(高杉真宙)も大集合なのである。

これは・・・時空を越える恋愛バトルファンタジーなのである。

・・・そうなのか。

過ぎ去りし時の幻影は・・・たった半世紀で曖昧なものとなる。

そして・・・格差社会ではそれぞれの六十五歳の生き様がある。

基本的に・・・化け物が・・・人の人生に介在してくる話なので・・・主人公の言動には・・・おかしな点もあるわけだが・・・純情な魂の叫びは・・・不浄の世を浄化する力があるのだった。

何故なら・・・世の中というものはいつの時代も真っ暗闇なものだからである。

で、『スミカスミレ 45歳若返った女・第3回』(テレビ朝日201602192315~)原作・高梨みつば、脚本・古家和尚、演出・小松隆志を見た。深夜なので視聴率の話はアレだが・・・*7.8%↘*4.6%↗*6.9%ということでアンチが騒ぎ立てたりするのは・・・本当にアレだな。ちなみに何故か、この枠のドラマは二回目あるいは三回目で急落するという傾向がある。「サムライせんせい」も*7.4%↘*4.8%↗*6.1%だったし、「民王」も*8.5%↘*7.0%↘*4.8%↗*6.6%だった。見限った人が評判を聞いて戻ってくるという・・・人間心理のアヤである。

ドラマのオリジナル設定である子の刻(午後十一時から午前一時まで)のねこまっしぐら現象により二十歳のすみれ(桐谷美玲)から六十五歳の澄(松坂慶子)に戻ってしまうのである。

その時、うっかりと時が過ぎるのを忘れたすみかは澄に変身しながら真白勇征(町田啓太)の上に倒れ込んでしまう。

絶体絶命のピンチである。

これは・・・けしてお年寄りを見下しているのではないのだが。

しかし、美人薄命という言葉は・・・若くして死ぬから美人という話なのであって、美人も長寿を保てば単なる婆になってしまうという考え方もあります。

・・・とにかく・・・愛しい勇征の前で婆になりたくない乙女心があります。

六十五歳の皆さん、ご理解ください。

「もう・・・だめだ・・・」

その時、停電である。

「灯りを消して」は世界共通の我が身を恥じるアレなのである。

・・・最近、アレとか多いな。

年齢的なアレなんだよ。

懐中電灯を持った化け猫・黎(及川光博)が現れる。

「落雷で停電したようです」

「あれ?・・・すみれさんは・・・」

「すみれ様は・・・御不浄・・・トイレに行かれました」

「ご不浄?」

「そろそろ・・・終電が終わりますので・・・お帰り下さい」

「それでは・・・すみれさんにひとこと挨拶してから・・・」

「すみれ様は・・・一度・・・トイレに入ると長いのです・・・お察しください」

「・・・」

「さあ・・・急がないと・・・終電が・・・」

「はあ・・・」

不承不承で表に出ると・・・外はあれほど激しかった嵐が嘘のような星空である。

すべては・・・怪異である黎の魔力の凄まじさを物語っているのだった。

「なんてことでしょう」

恥ずかしい澄だった。

「緊急事態です」

配電盤の電源をオンにする黎だった。

「それにしても・・・トイレが長いなんて嘘・・・」

「ご婦人のトイレは長いと相場が決まっています」

「え」

「六十五歳の婆らしく恥じらいなど捨てなさい」

「そんな~」

一方・・・こちらも原作にはないオリジナル設定の「天楽寺」の住職で法力のある天野早雲(小日向文世)は古文書を紐解いていた。

古い「絵図」に示される・・・無数の人骨の上に立つ大黒猫と法師の対決の場・・・。

不肖の息子である慶和(高杉真宙)は父親の手元を覗きこむ。

「親父・・・なんだい・・・そのホラーなイラストは・・・」

「容易ならん事だ」

「これは・・・妖怪?」

「猫化けだ・・・化け猫ともいうが・・・猫は年を経ると人語を解するようになるという。しかし、人にもピンからキリまであるように・・・一種の天才猫も希に現れる・・・そういうものは・・・人に害を為すことがあるのだ」

「・・・?」

「お前・・・今度の日曜日・・・開けなさい」

「僕にもいろいろと都合が・・・」

「バイト代は出す・・・一万円でどうだ」

「よろこんで」

翌日・・・椿丘大学ですみれは勇征に頭を下げる。

「ごめんなさい・・・昨日はお別れの挨拶もできず・・・」

「いや・・・俺も初めて行ったのに・・・晩くまでお邪魔しちゃって・・・」

「めっそうもない・・・本当にごめんなさい・・・」

「あの・・・黎さんて・・・どういう人なのかな」

「それは・・・もう遠い親戚で・・・」

「君のことをお嬢様みたいに・・・言ってるようだけど」

「・・・」

「ひょっとして・・・君たちは付き合っているんじゃ・・・」

「まさか・・・親戚同志でそんな・・・」

「ごめん・・・とても・・・魅力的な人だったから・・・つい」

「あの・・・今の時代には・・・あれなんですけど・・・本家と分家のようなもので・・・」

「はあ・・・」

「私のことを・・・特別扱いしているんです・・・主筋ということで」

「主筋・・・つまり・・・すみれさんはご主人様なのか・・・」

「女ですけど・・・」

「だから・・・お嬢様扱いなんだね」

「はい」

「ところで・・・よかったら・・・今度の日曜日・・・二人だけでどこかに遊びにいけないかな」

「え・・・私なんかと・・・」

「あ・・・無理だったら・・・いいんだ・・・忘れてください」

「・・・」

帰宅したすみれを叱る黎だった。

「どうして・・・お断りになったんです」

「断るなんて・・・そんな」

「あなたは・・・青春を取り戻すのではなかったのですか」

蘇る高校時代の思い出。

図書館で見かける他校の男子からデートに誘われる澄。

「今度・・・遊園地に行きませんか」

待ち合わせの場所と日時を記された紙を渡される澄。

しかし、澄は結局、デートをする勇気が出なかった。

「・・・私は」

「せっかく・・・若返ったのに・・・同じことを繰り返すだけですか」

「そうですね・・・私は・・・若返ってやり直したいと願ったのでした・・・」

黎はビデオテープに収められた澄の「日曜洋画劇場コレクション」を示す。

「ローマの休日」「ある愛の詩」「ロミオとジュリエット」「男はつらいよ」「プリティーウーマン」「ゴースト」・・・澄が憧れた・・・ラブロマンスの世界。

「テレビで放映される映画ではなく・・・現実の日曜日を楽しむのです」

「・・・」

「さあ・・・勇気を出して・・・」

家の電話の前に正座して・・・勇征の携帯電話の番号を推すすみれ。

すみれ、可憐だよすみれ・・・である。

「もしもし・・・」

「すみれさん・・・」

「今度の日曜日に・・・遊園地に連れて行ってもらえませんか」

「もちろん、いいですよ・・・」

「ありがとうございます」

電話を切ったすみれはへたり込む。

「胸がドキドキしています」

「それは・・・ときめきというものでございます」

「これが・・・ときめき・・・」

翌日、如月家の隣人である小倉富子(高橋ひとみ)がやってくる。

「また・・・お宅の猫が・・・」

「おや・・・術が解けましたか」

妖術・アゴクイで富子を虜にする黎だった。

「天楽寺の住職様が・・・二人のことを怪しんでましたよ」

「なるほど・・・」

黎は敵の存在を感知するのだった。

すみれは・・・街で新しい服を購入していた。

お手伝いに現れた由ノ郷千明(秋元才加)と西原美緒(小槙まこ)・・・。

「寒いのでとっくりのセーターが・・・」

「とっくり?」

「タートルネックのことですよ、先輩」

「とにかく・・・まかせなさい・・・スカートはきなさい」

「これ・・・膝小僧が見えてます」

「膝上二十センチです」

「まだまだいけるな」

「女子は腰を冷やさないようにと死んだ母が」

「膝上三十センチです」

「かわいい・・・」

「パンツが見えます」

「むしろ・・・見せな」

「お似合いですよ・・・先輩」

化け猫探偵・黎の調べでは・・・企業経営者で市会議員の父親を持ち、両親と豪邸に三人で住む勇征だったが・・・アルバイトをしていた。

成績は優秀なのに・・・一浪しているらしく・・・これは伏線である。

アルバイト仲間の辻井健人(竹内涼真)に女王様きどりの幸坂亜梨紗(水沢エレナ)から電話がある。

「真白くんが電話に出ないんだけど」

「あいつは・・・今、忙しいから」

「どういうこと・・・」

「デートだよ」

「デートって・・・誰と・・・」

お約束で伝えてはいけない相手に呑気に情報漏洩する健人だった。

デート当日・・・。

待ち合わせの時間より・・・一時間早く出発するすみれ・・・。

如月家に向かう途中で・・・すみれを発見する住職・・・。

「あの女・・・」

「きれいな人だねえ・・・」

すみれから発する「魔物の匂い」を嗅ぐことのできる住職である。

「追うぞ・・・」

「え」

大量の残雪がある富士急ハイランドに見える近所の遊園地。

約束の時間より早く来たのにすみれを待たせてしまう勇征だった。

「ごめん・・・待った」

「すみません・・・うれしくて早く来てしまいました」

入場料支払いで揉める二人。

「余所様のご子息にお金を払わせるわけには・・・」

「俺が払いたいんです」

「誘ったのは私ですし・・・」

「それでは割り勘で」

「・・・はい」

入場した遊園地に驚くすみれ。

「こんなに広いなんて・・・」

「遊園地・・・初めてなんですか」

「はい・・・それにアベックの方があんなにたくさん・・・」

「アベック・・・えーと・・・カップルだけでなく・・・もう少しすると家族連れも増えてきますよ・・・」

「そうなんですか・・・」

「それに・・・僕たちもアベックですよ」

「まあ・・・」

「それじゃ・・・何からのりますか」

「私・・・ジェットコースターというものに一度乗ってみたかったのです・・・テレビでは見た事あるのですけど・・・大丈夫でしょうか」

「大丈夫ですとも」

結構、エンジョイするすみれだった。

促されて小さく両手をあげるすみれ、かわいいよすみれなのだ。

初めてのクレープを奢られるすみれ・・・。

「どうして・・・奢ってくださるのですか」

「それは・・・君に何かをしてあげたいから」

「・・・美味しい」

「よかった」

「真白さんは・・・好きな食べ物がありますか」

「好き嫌いはない方だけど・・・タマゴヤキとかオムライスとか・・・」

「卵料理がお好きなんですね・・・好きな色は何でしょう」

「青です」

「お好きな映画は・・・」

「どうしたんですか・・・急に」

「すみません・・・あなたのことがもっと知りたくて」

「うれしいな・・・だけどもっとゆっくり・・・お互いのことを知っていきましょう」

「そうですね・・・私・・・なんだか・・・すごく気が急いて・・・」

その時・・・すみれはメリーゴーランドに乗る黎を発見するのだった。

「すみません・・・私・・・ちょっとお手洗いに・・・」

「え」

その頃、すみれを追いかけて来た住職は怪しげな道具を取り出していた。

「親父・・・そんなものを勝手においたら・・・逮捕されるよ」

「いいから・・・私の指示に従いなさい・・・アルバイト代出さないぞ」

「かしこまり・・・それ・・・何?」

「真言の梵字を収めた器だ・・・これで方位神による四天王の結界を張るのだ」

「四天王の結界・・・?」

「東方に酒精ケンタウロスを従える持国天、南方に餓鬼ヘイレータを従える増長天、西方に龍神ガルーダを従える広目天、北方に夜叉カーリーを従える多聞天を配置して、四方陣内の魔を封じる破邪の法なり」

「・・・」

「とにかく・・・この地図に記した場所に・・・器を置いてきなさい」

一方・・・人として生まれながらすでに邪気にまみれていると思われる亜梨紗が乱入である。

「真白くん・・・見つけた」

「え・・・どうしてここに」

「偶然よ・・・」

「君が・・・一人で・・・遊園地に・・・」

「こんなところで逢うなんて・・・運命かしら」

一方・・・すみれは黎に・・・。

「一人で大丈夫だと言ったのに・・・」

「主様が集められた遊園地の書を読むうちに・・・見聞したくなったのです」

「黎さんが・・・じゃあ・・・一緒に行きますか」

「それは・・・まずいのでは・・・」

そこへ・・・勇征と亜梨紗が現れる。

「そちらは・・・どなた・・・」

「遠縁のもので・・・偶然・・・ここに」

「へえ・・・偶然ね・・・じゃあ・・・一緒に楽しみましょうよ」

「え・・・」

「良いでしょう」

「・・・はい」

黎も・・・勇征も・・・すみれの決断に落胆するのだった。

しかし・・・鈍感なすみれはまだ・・・自分の失敗に気がつかないのだった。

人間視線で見れば・・・妖魔によって魔女と化した澄/すみれは魔性の存在で・・・勇征は魔に魅入られ、誑かされているわけだが・・・人間である亜梨紗がとんでもなく邪悪な魂の持ち主なので・・・人と魔の正邪が入れ替わる構図になっているわけである。

「何・・・飲んでるの」

「サイダーだけど・・・」

「ちょっと味見させてよ」

ランチタイムに間接キス攻撃をする亜梨紗。

すみれは・・・なんだか嫌な気持ちになるのだった。

「こんなものより・・・やはりすみれ様のお弁当になさればよかったのです」

某遊園地のフライドチキンを批判する黎だった。

「お弁当を・・・」

「でも・・・私のお弁当なんか・・・」

「食べたかったな・・・すみれさん・・・料理が上手だし」

「なんで・・・真白くんが・・・そんなこと知っているのよ」

「それはこの間・・・ご馳走になったから」

「・・・次は・・・こわいって評判の・・・戦慄迷宮ね」

「・・・お化け屋敷ですか・・・」

「私と真白くんペアでいいでしょう・・・さすがに知らない男の人とは・・・ねえ」

「・・・はい」

漸く・・・自分の失敗に気がつくすみれ・・・。

勇征は浮かない顔で亜梨紗と先発する。

「きゃ・・・」

「本物の化け猫と一緒なのに・・・こんな作り物のどこがこわいのです」

「私・・・本当に苦手なんです」

「本来・・・すがりつく相手はあの方だったのでは・・・」

「私・・・デートとはそれだけで楽しいものだと思っていました・・・それなのに嫌な気持ちになったりして・・・」

「あの方は・・・あなたの何倍もそう思っておいでなのでは・・・」

「・・・」

「あの女狐を追い払うべきなのでは?」

その時、配置が完了した包囲の法器によって結界が発動する。

「む・・・破邪の法か」

不安定となった黎の魔力・・・。

「あ」

すみれから猫魂が飛びだし・・・すみれは澄に変身してしまうのだった。

「まあ・・・大変・・・どうしましょう」

「私が・・・善処しますので・・・すみれ様は気分を悪くしたとということで救護室に・・・」

「え・・・」

黎は・・・法力の源を求めて飛び出した。

一方・・・先に出口に到着した勇征と亜梨紗。

すがりつく亜梨紗の手を振りほどく勇征。

「今日は・・・如月くんとデートなんだ・・・だから・・・君とは手を組めない」

「真白くん・・・あなた・・・きっとあの女にだまされているのよ・・・きっとあの二人はできていて・・・陰であなたを笑っているんだわ」

「・・・」

あることないこと口に出す亜梨紗・・・ある意味、明らかに別の「魔」に憑依されている気配である。

低級な狐の霊だな。

狸魂かもしれんて。

嘘八百狸か。

そこに・・・黎がやってくる。

「すみません・・・すみれ様は気分を悪くされて・・・お帰りでございます・・・」

「え」

「ほら・・・やっぱり・・・」

「真白様には・・・申し訳ないとおっしゃってました」

「だから・・・私とデートしましょう」

「悪いがそんな気にはなれない」

「私、あの女に文句を言ってきてやるわ・・・どうせ、中に隠れているんでしょう」

自分をないがしろにされた亜梨紗の怒りは沸騰するのだった。

「係員さん・・・気分が悪くなった人はどこに・・・」

「ああ・・・あの人なら・・・救護室に」

急に変身した場合に備えてトイレに隠れる澄だった。

「そこにいるんでしょう・・・出てきなさいよ」

「・・・」

「私、あなたが大嫌い・・・急にやってきて・・・私の大好きな真白くんに手を出して・・・身体が弱いフリをして・・・男の気をひこうなんて・・・百年前のやり口なんだよ・・・このクズ女」

ようやく・・・法器を発見した黎。

「ふん・・・猪口才な・・・」

些少の時間を要したが法力の障壁を打破し・・・呪詛の法器を粉砕する黎だった。

たちまち・・・すみれとなる澄。

「戻った・・・」

「何を言ってるのよ・・・このゲス女」

「私も・・・あなたが嫌いです・・・女性の前と男性の前では態度を変えるあなたのような人が・・・」

「え」

すみれは・・・勇征の姿を求めて走り出す。

肩を落して・・・遊園地を出ようとした勇征は・・・あきらめきれずに振り返る。

「真白さん」

「如月さん」

「私・・・」

「その女・・・やはり・・・真白くんをだましていたよ・・・」

「そんなの嘘です・・・私は真白くんと二人で・・・遊園地で・・・デートをしたいんです」

「・・・」

勇征はすみれの手をとる。

「俺もすみれさんとデートがしたいのです」

無視された亜梨紗は地団駄を踏むのだった。

「ええい、えいこの・・・ええいこの」

黄昏迫る遊園地に燃えあがる嫉妬の炎・・・。

住職は・・・すみれの姿を見て結界が破れたことを知る。

「くそ・・・あのバカ息子」

いや・・・四か所の結界に二人の見張りじゃ・・・作戦ミスだろう。

「あの・・・せっかくのデートなのに・・・先に帰ろうとしてすみません」

「うん・・・少しへこんだけど・・・」

「それに・・・黎さんも一緒に行こうなんて・・・失礼なことを・・・」

「うん・・・かなりへこんだけれど」

「私・・・はじめてのデートで・・・勝手がわからず・・・無神経でした」

「でも・・・意外に強きなすみれさんを見れて・・・うれしかった」

「え」

「最初に会った日から・・・俺は・・・すみれさんのこと・・・かっこいいと思ってた」

「私が・・・かっこいい」

「うん・・・ひたむきにノートをとって・・・いつも背筋をピンとのばして・・・」

「そんな・・・」

「ものすごく・・・芯の通った人なんだなあって・・・」

「・・・」

「最後に何か乗っていこうか」

「では・・・観覧車を・・・」

突然、海が見える巨大な観覧車・・・。

「町があんなに小さく・・・」

幼女のようにはしゃぐすみれ・・・。

もちろん・・・観覧車も初体験なのである。

時代からも社会からも隔絶された・・・すみれの六十五年間・・・。

「すみれさん・・・俺は・・・まだ・・・未熟な人間です・・・ですが・・・あなたが好きなのです・・・俺と付き合ってくれませんか」

「・・・よろしくお願いします」

勇征は席を移り、すみれの肩を抱く。

すみれは勇征に身を寄せた。

「どうしましょう」

「何がです・・・」

「私が恋をするなんて・・・」

「夢見心地で承諾したけれど我に帰って慌てふためいていると」

「そうです・・・」

「とにかく・・・早く・・・恋を成就して・・・いただかないと」

「あの・・・封印が完全に解けたら・・・黎さんはどうなさるの」

「それは・・・」

その時・・・住職が深夜の来襲である。

「渇」

「黎さん・・・」

「離れなさい・・・この化け物は私が始末する」

他人の恋路を邪魔する犬・・・じゃなくて猫に食われるかもしれない住職だった・・・。

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2016年2月24日 (水)

彼って私の一番好きな人なんだな(深田恭子)

うわあああああああああああ・・・である。

鈍いにも程があるわけだが・・・そういう「話」である。

なにしろ・・・「三十歳」で「超かわいい女」なのに「処女」なのである。

どこかに「欠陥」がなければ成立しないのだ。

恋愛に満ちた冬ドラマ・・・早春の迫る頃・・・主人公やヒロインたちは・・・次々に大人の階段を登るわけであるが・・・まだまだ処女率は高いのだった・・・。

(月)の音ちゃんは・・・二十七歳、社長の息子と交際中だが・・・肉体関係については不明である。

(火)は「試合」なし・・・。

(水)は「六十五歳」の処女である。

(木)は「遊女」なので・・・言及を控えたい。

(金)は「生殖能力なし」だがやりまくっているらしい。

(土)はそういう点はスルーの女子高校生だ。

(日)はまだ「側室」ではないのだった。

半分以上・・・処女じゃないか・・・。

しかも・・・そうでない人たちは特殊な立場に置かれているのだった。

結局、そこがゴールの設定なのか・・・。

まあ・・・「結ばれたら終了」なのが・・・「シンデレラ・ストーリー」の基本だから。

お茶の間向けのドラマというものは・・・そういうある種の「お約束」で成立しているのだなあ。

で、『ダメな私に恋してください・第7回』(TBSテレビ20160223PM10~)原作・中原アヤ、脚本・吉澤智子、演出・月川翔を見た。登場人物たちの言葉、行動、そして表情が・・・「心」を物語る。本人が気付いていないことをお茶の間が察してハラハラ、ドキドキするのがドラマの醍醐味である。そういう意味では物凄く上手な作品に仕上がっているようだ。何と言っても「志村うしろ~」はエンターティメントの基本だからな。

「僕と結婚して下さい」という便利グッズの会社「ライフニクス」の年下の同僚・最上大地(三浦翔平)の言葉に「よろしくお願いします」と応じる柴田ミチコ(深田恭子)である。

本人が無自覚なミチコの一番好きな人を知っているお茶の間は「ダメ~」とか「あ~あ」とか「ヤバイよ!」とか騒然となるのであった。

居候を決め込んでいる晶(野波麻帆)の部屋で・・・「エンゲージメント・リング」を誇示するミチコ・・・。

「プロポーズされちゃいました」

「え」

「はいって言っちゃいました」

「ええ」

「婚約指輪もらっちゃぃました」

「えええ」

「私、ただいま、婚約中の柴田です」

「女の夢の結晶を・・・パカッと・・・」

「はい、パカッと」

「で・・・試合の方もパカッと」

「それは・・・パカッとなしです」

バカである。

しかし・・・七年の永い春の末に・・・黒沢歩(ディーン・フジオカ)と同棲生活を解消した晶は複雑な心境になるのだった。

三十五歳の独身女性が結婚できる確率は・・・弁護士資格を獲得する確率よりも低いらしい・・・。

すべては歩の兄・一(竹財輝之助)の未亡人である花屋の春子(ミムラ)に・・・歩がずっと片思いしていることが・・・いけないのである。

つまり・・・晶→歩→春子→一(死亡中)という片思いの連鎖なのである。

部外者のミチコが・・・先にゴールを決めたことで・・・再燃する晶の歩への思い・・・。

しかし・・・お茶の間は・・・ここでも「ああああああ」と叫ぶしかないのであった。

婚約中のミチコはウキウキと納豆を混ぜ、婚約中のミチコは颯爽と通勤し、婚約中のミチコは心ここにあらず・・・業務上の過失を連発するのだった。

「日曜日の誰かさんみたいに入力ミスの連打ですよ・・・今日はどうしたんですか」

クールな年下の同僚・門真(佐野ひなこ)に叱責されるミチコだった。

「どうもすみません・・・」

残業なしで大地とデートするミチコに・・・先を急ぐ大地は・・・結婚までのスケジュールを話す。

「まず・・・ミチコさんのご両親にご挨拶を・・・都合のいい日を聞いてください」

「はい」

「それから・・・式場や披露宴会場について・・・ブライダルフェアの下見に」

「はい」

「それから・・・これは・・・柴田さんに負担がかかりますが・・・結婚したら・・・パスポートやカードなどの名義変更をしなければなりません」

「・・・」

「姓が・・・最上になりますので・・・」

「最上ミチコ・・・」

その新鮮な響きに心躍るミチコだった。

しかし・・・ミチコの心の最深部では警戒警報が発令し・・・心の安定を欠いたミチコは・・・晶の部屋ではなく・・・喫茶「ひまわり」に帰宅するのだった。

とりあえず詐偽じゃなかったオムライスを振る舞う歩。

「何にしにきた・・・」

「えーと・・・私、プロポーズされちゃいました」

「えっ」と驚くのは常連客の鯉田和夫(小野武彦)だった。

「それは・・・ご愁傷様・・・」

「ひどい・・・婚約指輪ももらったのに」

「・・・」と僅かに揺らぐ歩の表情。

お茶の間を代表してそれを見逃さない鯉田だった。

「美味い」と食欲ですべての問題を解決するミチコだった。

「・・・おめでとう」

「主任~」

晶の部屋に戻るとミチコの結婚式を自分のことのように夢見る家主が待っている。

「結婚式・・・それは女の晴れ舞台よ」

「・・・」

まあ・・・一種のサプライズ・パーティーだからな。

だが・・・ミチコは・・・自分の結婚式が他人事のように思えているのだった。

柴田家の両親へのご挨拶のアポイントメントも大地にせかされて・・・漸くである。

「あの・・・今度・・・家に男の人を連れていくので・・・」

「ぎょえええええええええええええええええええええ」

実家の寺は大騒ぎになるのであるが・・・これは来週のアクシデントの予告である。

こういうフリ→オチも結構、丁寧に仕組まれている。

結婚式場のブライダル・フェアで下見デートをするミチコと大地・・・披露宴での食事の試食で舌鼓を打つミチコだった。

「美味い・・・こんな美味い肉が食べられるなんて・・・結婚式って素敵」

「ご新婦様は・・・お食事なされないのですが・・・」と会場スタッフ・・・。

「えええ」

「いえ・・・もちろん・・・ご準備はさせていただきます」

食べ過ぎたミチコはウエディングドレスの試着に苦戦するのだった。

「これなんか・・・いけそう・・・」

「マタニティー仕様でございます」

「これなんか・・・素敵じゃないか」

「マーメイド仕様でございますね」

「こ・・・これは・・・緊縛SM~」

なんだかんだ楽しい一日の後で・・・大地の父親が急変し・・・病院へ向かうことになるのだが・・・。

「すみません・・・明日の下見はキャンセルで・・・」

「私のことは気にしないで・・・病院へ行ってください」

・・・一緒に行くとは言わないミチコであった。

・・・なにしろ・・・他人事なのである。

大地の両親の病状も・・・大地との結婚も・・・。

そこへ・・・春子から「もつ鍋」のお誘いがかかる。

「焼き肉は一人で行けるけど・・・もつ鍋はねえ」

「そうなんですか」

「あら・・・その指輪・・・」

「私・・・婚約中なんです」

「え・・・歩くんと・・・」

「まさか・・・会社の同僚です」

「そうなんだ・・・私はてっきり・・・歩くんと交際しているのかと」

「ありえませんよお・・・それより、春子さんはどうなんですか・・・再婚とか」

「考えないわけじゃないけど・・・今でも・・・彼が一番だから・・・」

「・・・」

帰宅したミチコは晶に告げる。

「私・・・春子さんじゅなくて・・・晶さんを応援することにしました」

「え」

「だって・・・春子さんは・・・主任を一番好きにはならないと思うんです・・・その点、晶さんは主任のことが一番でしょう・・・」

「それって・・・結局・・・あなたが応援するのは・・・私のためじゃなく・・・彼のためじゃない」

「え」

日曜日のスケジュールがなくなり・・・アルバイトに出たミチコ。

しかし、歩は風邪気味で絶不調だった。

「今日は・・・お休みにすれば・・・」

「大丈夫だ・・・熱もないし」

「熱はこれから出るんです」

ミチコは歩の眼鏡を奪うと・・・強制閉店してしまうのだった。

月曜日・・・出勤したミチコはアクシデント・モードに突入する。

販売部長(小松和重)が「倉庫の在庫チェック」を門真に命じ・・・渋る門真。

「先週のミス連発をフォローしてくれたお返し」で立候補するミチコ。

スムーズなフリ→オチである。

場末の場所にあり、暖房設備もなく・・・携帯電話の電波が届かない・・・倉庫。

そこに・・・応援にやってくる大地。

「昨日の埋め合わせです」

「ありがとう」

作業の途中で休憩のために外に出た二人が・・・帰ったと勘違いする管理人(大堀こういち)・・・。

再び、倉庫に戻った二人に気がつかず・・・管理人はシャッターを閉じてしまうのだった。

まあ・・・内側から開かない設備って・・・どうなんだという話であるが・・・フリ→オチとしては丁寧な展開であるから気にならない。

「やはり・・・電波が届かない」

寒さに震えるミチコを気遣う大地であったが・・・。

「大丈夫よ・・・明日になれば・・・」

「それだと・・・困るんです・・・今日、父の検査の結果を・・・主治医の先生から母と訊く予定になってるんで・・・」

「え・・・」

一方・・・晶は・・・メガネを持ってひまわりにやってくる。

「今日はお休みにしたの・・・」

「昨日、熱が出た・・・客に感染させるのはまずいし・・・」

「大丈夫・・・」

「なんか・・・食べるか・・・」

「私・・・柴田に・・・七年間もあなたと一緒で幸せだったって・・・言われちゃった」

「・・・」

晶は・・・何度か・・・やり直そうと言い出す機会を伺うが・・・。

「幸せにしてやれなくて・・・ごめん」

歩に引導を渡されてしまうのだった。

晶は涙のLOVEライスを食べるのだった・・・。

「こんなのメニューにあった・・・」

「祖母ちゃんの頃からの定番だ・・・」

「もっと・・・早く・・・食べたかったなあ・・・雪山遭難もしたかったなあ」

「雪山遭難・・・?」

その頃・・・倉庫では・・・。

雪山遭難中の二人の男女が身体を寄せあううちに・・・発情という展開はないのだった。

雪山遭難ご無沙汰だなあ・・・。

「何か・・・楽しいことを考えましょう」

「楽しいこと・・・」

「この間の試食会のお料理・・・美味かったですね」

「テンダーロイン・ステーキ・・・」

ステーキ、主任のステーキ、主任と焼き肉、主任の猫の餌の肉、主任のとってくれたサーロインステーキ抱き枕・・・私とお肉とそして主任。

「あ」

極限状態に追い込まれたミチコは・・・ついに気がついてしまったのである。

自分が一番愛しているのは・・・歩であるということに。

大変なことになった・・・と心で絶叫するミチコだった。

歩を愛しているのに・・・他の男と婚約しているのである。

その時・・・シャッターが開く。

「あれ・・・帰ったんじゃなかったの・・・今、会社から・・・連絡があってさ・・・」

「助かった」

「すぐに・・・病院に・・・」

「はい」

一緒についていかないミチコである。

なぜ・・・ついていかないか・・・ミチコはもう知っているのだった。

ふらふらと・・・「ひまわり」にたどり着くミチコ。

そこでは・・・お見舞いにきた春子が歩と仲睦まじく向かい合っている。

ミチコは・・・ついに「恋する胸の痛み」を入手したのだった。

翌日・・・倉庫で二人きりだった噂は社内を駆け回っていた。

「あれれ・・・」

「・・・今日・・・お話があります」

「はい?」

試合会場予定だった大地の部屋でミチコは・・・。

「お父さんの具合は・・・」

「大丈夫でした」

「よかった・・・私・・・最上さんにあやまらなければなりません」

「・・・」

「私・・・結婚できません・・・ごめんなさい」

「主任さんですか・・・」

「・・・片思いですけど」

「僕はずっと・・・主任さんに嫉妬してたんです・・・それで・・・焦って・・・ミチコさんの気持ちを無視して・・・結婚を急ぎました・・・ごめんなさい」

「そんな・・・最上くんは・・・何も悪くありません・・・私が生きていてよかったと思えたのは・・・最上くんのおかげだし・・・」

「片思いなら・・・僕にも・・・まだチャンスはあるんですよね・・・友達から・・・やり直してもいいですか・・・」

「最上くん・・・」

二人は別れの握手をかわすのだった。

ミチコは「ひまわり」へと向うのだった。

「結婚なくなりました・・・」

「そうか・・・つらいな」

「つらいのは・・・最上くんなんです・・・」

「そうか・・・」

歩はLOVEライスを与える。

「なんで・・・今日に限ってまともなんですか・・・もっと笑いをとってくださいよ」

「そうか・・・悪かった」

「そうですよ・・・悪いのはみんな・・・主任なんです・・・そういうことにしておいてください」

「うん」

いつものようにヒートアップしない二人である。

ミチコの心は静まり・・・歩の心は揺れ始める。

沈んだ気持ちで晶の部屋に戻ったミチコ。

「結婚やめました」

「えええええ」

驚きの後で・・・すべてを察した晶の告げる言葉は・・・。

「じゃあ・・・出て行って」

「えええええええええええええ」

ま・・・当然だよな。

恋のライバルを応援する女はいないのだ。

しかし・・・ミチコが「ひまわり」に戻るしかないことを考えると・・・晶の優しさがハートに火をつけるのである。

敵に塩を送る女の心意気・・・。

嫌煙家にはわからないかもしれないが・・・煙が目にしみるのだ。

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2016年2月23日 (火)

引越し屋さん、ちょっと・・・嘘じゃなくて冗談だったんですね(有村架純)

「用がないから逢いに来た」でも良かったけれど・・・緊張感に耐えかねた。

フルスイングだからな・・・。

ついに・・・底辺と上流の話に・・・。

「金色夜叉」なんだな。

「月がとってもきれいね」

「今月今夜のこの月を僕の涙できっと曇らせてみせる」

「愛してる」に「怨んでやる」で答える・・・こんなにせつないことはないな。

世界でもトップクラスの豊かさがつまったこの国で・・・「このままでは大変なことになる」と心配するのは・・・今、恵まれている人たち・・・。

失うものが多過ぎるからな・・・。

しかし・・・引越し屋さんを恋する彼女は・・・棲む場所もお金を稼ぐ仕事がなくなっても「恋」があればそれでいいのだ。

砂場で作ったトンネルの向こうに・・・愚かで優しい世界が待っているからな・・・。

どんな時も・・・鉄は錆び不動産は整理され合理化という名の弱肉強食は平和共存を駆逐する。

そして、嘆きの言葉が世界を支配するのだった。

「Please Mr. Postman/The Marvelettes」→「郵便屋さんちょっと/つかこうへい」→ココである。

で、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう・第6回』(フジテレビ20160222PM9~)脚本・坂元裕二、演出・石井祐介を見た。幼い頃に両親を失い孤独だった杉原音(有村架純)は引越し屋さんこと曽田練(高良健吾)と出会い、たった一日で恋をする。だが・・・一年間、逢えない日が続く。漸く、再会して三ヶ月・・・二人は思いを伝え合うが結ばれることはなく・・・東日本大震災の前後から五年間、逢えない日が続くのだった。存在した三ヶ月と一日。不在の六年。それでも・・・二十七歳になった音は引越し屋さんを忘れることはできない。恋しい人からの便りを待って逢えない時間が愛を育てるのが・・・定番だからである。

あの日・・・音の恋は実らなかった。

音は夢を見る・・・幼い音(平澤宏々路)と・・・今は亡き母(満島ひかり)は公園の砂場で山を作り、トンネルを掘っている。

アルプス一万尺トンネルらしい・・・。

「あのな・・・恋って何?」

「池で泳いでるやつ」

「サカナとちゃう」

「ああ・・・あっち・・・それはな・・・帰るトコ」

「帰るトコって・・・おウチ」

「おウチがなくなっても・・・痩せた猫になっても・・・帰るトコ」

「わからへん」

「恋人がサンタクロースだってわかったらわかるよ」

「みゆきとユーミン、ごちゃまぜか」

母が死んだ年齢となった・・・二十七歳の音は「春寿の杜」の介護施設で働き続けている。

介護福祉士の資格を取得して仕事の量は三倍になったが給料は据え置きらしい。

21世紀の日本は「国費の無駄使い」を目指し「無駄をなくす社会」へと歩みを進める。

コストダウンのために・・・人件費を抑え、鉄筋の数を減らし、安心・安全を黙殺した・・・その結果、ワーキングプアが増殖し、マンションは傾き、トンネルは崩落し、秋葉原に殺人鬼が出現し、原子炉はメルトダウンしたのである。

あれから・・・五年。

社会のブラック化は浸透と拡散を続け・・・ついに介護施設から老人が投棄される時代となったのである。

特殊な例は氷山の一角に過ぎないが・・・ブラックな人たちほど私はホワイトだと呟くのだった。

神部所長(浦井健治)は健在である。

井吹朝陽(西島隆弘)は本社の人材派遣業務に転任したらしい。

「他の介護施設が・・・閉鎖されているようですが」

「介護ビジネスもそろそろ・・・利益を出すのが難しくなってきたからね」

「慈善事業じゃない・・・ですか」

「介護を委託する人たちの経済状況が悪化しているからね」

「うちの経営姿勢がブラックだと噂になっています」

「本当のことだから・・・ブラックな仕事にはブラックな奴がやってきてますますブラックになっていく・・・合理的じゃないか・・・」

「・・・」

音は朝陽と交際していることを職場では秘密にしていた。

「杉原さん・・・朝陽さんにお茶・・・」

「はい・・・」

「手は洗った?」

「はい」

部下に対する配慮に欠けた所長を・・・。

音と朝陽はアイコンタクトで嘲笑する。

介護施設の離職率は高い。日本介護福祉士会は「影響の大きさも考えていただきたい」と意見したようだが「高齢者介護施設に勤める主人公の給与の低さや労働環境の悪さ」を否定はしないのだった。

徹底した合理化が国家の方針だから・・・ほどほどにしてくれというニュアンスなんだな。

職場での人材育成を望めない企業に未来がないことは明らかだが・・・欲しがりません、滅亡するまではの大日本帝国精神は今もこの国に根強いのである。

「じっとしてっていってるだろ」

「ご利用者さんに・・・そんな口を利かないでね」

「・・・」

「歯磨き介助お願いします」

「・・・」

底辺の職場にはますます底辺の人材が集まってくる。

「やめたら補充すればいい」の精神の帰結である。

「失業率は低下しています」

「ブラック的にですか」

・・・なのだった。

毎日・・・日本の誇る特殊な技術が喪失中なのだ。

残るのは「もったいないこころ」の終点としての「かっておもてなしだったもの」である。

かっての上司だった丸山朋子(桜井ユキ)も同期の船川玲美(永野芽郁)も離職していた。

「あなたは生き残って・・・」

「今の派遣業務・・・月に120時間残業させられて・・・残業代ゼロなんだけど・・・なんとかならないかしら・・・朝陽さんに・・・」

音は友人たちには朝陽との交際を明かしているらしい。

朝陽は本社勤務になっても・・・優しい一面を残していて・・・音の求めに応じるのだった。

腹違いの実の兄・和馬(福士誠治)に相談を持ちかける。

「派遣社員のサービス残業のことなんだけど・・・それが会社にとって必要なシステムだと理解している上で・・・今回だけ善処できないかな・・・彼女の女友達なので・・・」

「お前・・・変わったな・・・昔は・・・世のため、人のためだったのに・・・今は交際相手の周辺だけ特別扱いかよ・・・」

「・・・」

「この会社がなんで儲かっているのか・・・知っているか」

「それは・・・派遣事業が・・・」

「企業買収だよ・・・企業を安く買って、不動産を売り払い、企業そのものは解体処分する。俺の仕事は・・・人材の解雇だ・・・リストラなんてもんじゃない・・・全員解雇だ・・・人間は金の卵を産まないからな」

「・・・」

「俺はもう・・・疲れた・・・なあ、朝陽・・・」

「はい」

「二人で手を組んで・・・会社から親父を追いださないか」

「え」

「考えておいてくれ・・・」

朝陽の心は音へのプロポーズのことでいっぱいだった。

交際から二年・・・肉体交渉があるのかどうかは不明だが・・・いつもポケットには婚約指輪が忍ばせてある。

「パーティー・・・」

「大切な関係者の十周年記念だ・・・どうしても一緒に出て欲しい」

「ファミレスじゃないんでしょう・・・」

「どんだけ・・・ファミレスが好きなんだよ」

「・・・」

「クリスマスを二回もすっぽかされているし・・・」

「みんなイブの夜勤は嫌がるから・・・利用者さんの汚物の処理をしていると一人ぼっちの砂場で犬のウンチの埋めてる気分になるみたい」

「お願いだ・・・」

他人に頼まれたら嫌とは言えない音だった。

一人暮らしの仙道静恵(八千草薫)の屋敷に・・・今も通っている音。

朝陽のお金でドレスアップして・・・二十万円のバッグをもらった音に・・・秘蔵のネックレスを静恵はプレゼントする。

「古いものだけど・・・」

「もったいない・・・私には・・・不似合いです」

「似会う女になってちょうだい」

「・・・」

音の「シンデレラ装備」である。

そして・・・日向木穂子(高畑充希)の訪問が・・・音の心の箱の鍵を開けるのだった。

「木穂子さん・・・」

「音ちゃん・・・」

「元気だった・・・」

「あれ以来ですね」

「彼は・・・元気?」

「彼って・・・」

「練に・・・決まってるでしょう」

「練は・・・木穂子さんと一緒じゃないんですか」

「え」

「え」

東日本大震災の後で「安否確認」のメールを何度かやりとりした後で・・・練は消息不明になっていた。

アパートも解約され・・・携帯電話も通じなくなっていた。

音は・・・練が木穂子と一緒にいると思っていた。

木穂子は・・・練が音と一緒にいると思っていた。

そして・・・恋を封印していたのである。

「今・・・交際している人は・・・」

「あの日・・・一緒だった人です・・・木穂子さんは・・・」

「デザイン業界の関係者よ・・・」

不倫じゃないんでしょうね、ジロリンチョとは問わない音。

心はたちまち・・・「引越し屋さん」への気持ちで満たされる。

「柿谷運送」を訪ねた音は・・・佐引穣次(高橋一生)に面会するのだった。

「俺はさ・・・ボルトをコーチしたことあるんだぜ・・・ジャマイカでさ・・・俺が高校生で奴が小学生の時にね」

「・・・」

「嘘じゃなくて冗談だ」

「ユースケサンタマリアですか」

「あいつは・・・ここで働いている」

「・・・」

一枚の名刺を差し出される音。

スマートリクルーティング社

マネージャー 曽田 練

「あんたが・・・あいつに逢いたいのなら・・・持っていけばいい」

音は迷わず・・・それを受け取った。

練に木穂子がいたように・・・音には朝陽がいる。

しかし・・・これは・・・思い出したら泣いてしまう恋の話なのである。

スマートリクルーティングを素晴らしいインターネットの世界で検索する音。

あの頃のケータイは水没し・・・今はスマホなのだった。

《スマリク・・・最悪だ》

《スマリクと契約したら・・・人生終わり》

《いつか殺してやる》

《殺すしかないね》

《スマリク・・・つぶれろ》

(評判悪すぎ・・・)

音は眩暈を感じるのだった。

練は・・・晴太(坂口健太郎)と一緒だった。

コストカットの嵐に吹き飛ばされ・・・ネットカフェにたどり着いた極貧の若者たちに声をかけ・・・違法すれすれの仕事を斡旋し・・・ピンハネをするのが・・・業務である。

「これ・・・時給安すぎませんか」

「まさか・・・フクシマの仕事なんじゃ」

「簡単な電話営業って・・・オレオ」

「お金が・・・欲しいんでしょう」

雑居ビルの元カラオケスナックを改装した「スマートリクルーティング」の事務所兼住居。上の階はこれ以上なく組織の匂う「兵頭興業」の看板がある。

練と晴太の上司の非堅気臭も半端ないのだった。

練は・・・どこかで見たような酔っ払いが道に倒れていてもスルーする男になっていた。

パーティー当日。

シンデレラスタイルの音はバス・ストップでじろじろ見られる。

しかし・・・朝陽は父親に呼び出される。

「すまない・・・行けなくなった」

「そうですか」

井吹征二郎(小日向文世)は側室の子供にワインを勧めた。

「三十歳になったんだって・・・」

「はい」

「明日から・・・社長室に入れ・・・」

「え」

「和馬はダメだ・・・お前の最初の仕事は・・・あいつのクビを切ることだ」

「お父さん・・・」

朝陽の夢は叶った。

父親が自分の目を見て・・・話してくれている。

音は・・・名刺にかかれた住所に向かっていた。

しかし・・・雑居ビルに入る勇気が出なかった。

引きかえし橋を渡る音。

曲がり角を過ぎて川沿いの道へ・・・。

そして・・・川面を見つめる練に気がつく。

「引越し屋さん」

追いかけて・・・お約束で転ぶのだった・・・。

「・・・」

事務所は無人だった。

「ここ・・・カラオケ屋さんみたい」

「昔はそうだった・・・」

「あ・・・ホコリつかまえた」

「・・・」

「嘘じゃなくて冗談です」

「何の用だ・・・」

「あの・・・おじいさんは・・・」

「死んだ」

「・・・」

「用は・・・」

「用は・・・ないです」

「じゃあ・・・帰ってくれ」

その時・・・投石で窓ガラスが割れる。

驚愕して立ちすくむ音をカウンターの中に避難させる練。

「隕石なの・・・」

「いやがらせの投石だ・・・仕事で職のない人間に職を斡旋してピンハネをするのが仕事だから・・・逆恨みしてネットに書きこみしたり・・・石を投げる奴もいる・・・」

「・・・」

「裏口から・・・帰れ」

「用はなんだって・・・なんで聞くのよ」

「・・・」

「用なんかないよ・・・用があったら・・・来ないよ・・・あの日・・・私、東京にいたから・・・無事って聞いても・・・本当なのか・・・わからなくて・・・顔を見て・・・安心したかった・・・だから来たんだよ」

「・・・」

「ねえ・・・こんな危険な仕事・・・やめて・・・」

「あんたにはわからない・・・」

「何が・・・」

練は音が落したバッグを拾い上げる。

「ウチは転売もしているから・・・知っている・・・このバッグの値段・・・」

「これは・・・」

「あんたとおれでは・・・もう・・・違う」

「・・・」

「だから・・・あんたにはわからない」

「・・・」

音は引きさがる。

しかし・・・あきらめるつもりはないのだろう。

「あのね・・・」

練は扉を閉めた。

反対側のドアから・・・あの日、会津にいた市村小夏(森川葵)が現れる。

「なに・・・どうしたの」

「なんでもないよ・・・ガラスが割れただけ」

「本当なの・・・はっ・・・はっ・・・はっ・・はっ・はっはっはっはっ」

「大丈夫・・・落ちついて・・・」

小夏は心になんらかの傷を追い・・・パニックを発症しているらしい。

おそらく・・・あの日・・・小夏は帰る場所を失くしてしまったのだろう。

小夏が眠りに落ちると晴太が現れる。

「小夏は・・・」

「もう・・・落ちついた」

「あのさ・・・小夏を一生・・・背負うのか」

「・・・玉子丼食べるか」

相変わらず・・・正体も意図も不明な晴太だった。

しかし・・・音の登場に警戒心が発動しているようにも見えるのだった。

その理由は・・・やはり・・・。

音が恋泥棒だからなのか・・・。

帰宅した音をあすなろ抱きで攻撃する朝陽。

「今日・・・お父さんが逢ってくれた・・・」

「・・・よかったね」

「音ちゃん・・・幸せになろう」

「・・・」

「結婚してほしい・・・」

「どうしたの・・・突然・・・」

朝陽は婚約指輪を示した。

息を飲む音。

心に響き渡る・・・放流開始のサイレン・・・。

待っているのは恋の破局・・・それとも・・・まさか、ハッピーエンドじゃないだろうな。

でも・・・月9だからな。

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2016年2月22日 (月)

私は自分を隠せない(長澤まさみ)神流川、血に染めて(堺雅人)

大河ドラマのプロデュースにはいくつかの問題点がある。

それは歴史上の人物、特に英雄の問題点である。

そして、とりわけ、二つの大問題がある。

第一が・・・英雄が基本的に大量殺戮者であるということ。

織田信長を例に考えてみよう。実の弟殺しである。

比叡山では僧侶を殺し、浅井・朝倉の髑髏で盃を作り、本願寺攻めで女子供を殺し・・・もういいか。

現代社会にはこういう人を「偉大だ」と声を大にして言えないという病的な風潮があるのだった。

そんなこと言ってたら・・・歴史なんて語れないだろうがっ。

第二が・・・英雄、色を好むである。

豊臣秀吉を例に考えてみよう・・・以下、略。

そこで・・・戦国時代の武将なのに・・・人命尊重をしている人、一夫一婦制度を順守する愛妻家。

そういう人が主人公に相応しいとか・・・馬鹿が言い出すわけである。

そんなにお茶の間の顔色を伺ってどうする・・・。

今回はいきなり・・・ヒロインが側室である。しかも、ダブル側室である。正室のキャスティングも発表されたのである。

もちろん・・・すでに・・・主人公の父親の側室とか・・・主人公の祖父の側室とかは省略されているわけだが・・・それは作劇の上での登場人物の割愛の範囲内として受容できるのだった。

とにかく、主人公に正室の他に側室が二人いるということが・・・現時点で・・・明らかになっている。

実際はもっといたわけだが・・・そして、省略されてしまうのかもしれないが・・・それも作劇の上での登場人物の割愛の範囲内として受容できるのだった。

英雄が殺しまくり、やりまくる戦国時代こそ・・・男のロマンなのである。

戦の鬼・真田信繫による三人妻体制・・・。

大河ドラマ「真田丸」万歳。

で、『真田丸・第7回』(NHK総合20160221PM8~)脚本・三谷幸喜、演出・田中正を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は関東の覇者・北条氏政と真田幸隆の正室で真田昌幸の母である恭雲院こととりの二大描き下ろしイラスト大公開でお得でございます。本能寺の変から二週間・・・激変に見舞われた信濃・上野の陣取り合戦を・・・昌幸の「勘」と真田信繁の「無鉄砲」で描いていく今回。一同爆笑に次ぐ爆笑でしたな。特に中高生カップルのツンデレ対決に心奪われました・・・。信繫の側室の一人となる「きり」の成長が楽しみでございます。そもそも・・・負け組である信繫の周辺人物の来歴は結構、謎に包まれているので・・・そこを妄想するのは・・・楽しいですねえ。一週間があっという間でございます。そもそも・・・北信濃の有力な豪族であった高梨家と真田家の関係が霧に包まれている。川中島の合戦では・・・敵味方に別れたりもするけれど・・・嫡流である高梨政盛の娘・於北が真田信綱の正室です。そうなると真田信幸の現在の正室・おこうは母系が高梨家の可能性があるわけです。きりの父親の高梨内記はそうした経緯で真田家家臣団に加わっているのかもしれませんな。本来、嫡流家である信綱の娘と昌幸の嫡男である信幸の婚姻は・・・本家と分家の合体という政略結婚の基本の一つでございますよねえ。真田家における高梨流の立ち場をさらに強化するべく・・・信繫に娘を送り込む高梨内記・・・実にそそります・・・。

Sanada007天正十年(1582年)六月十二日、相模、伊豆、武蔵、上総、下総、安房の太守である北条氏政は領国に動員令を発する。十六日、氏政、氏直らが率いる五万人が上野国滝川一益領に進軍を開始。一益は厩橋城、松井田城、小諸城などに守備兵を残し、およそ二万の兵で出陣する。上杉景勝は海津城の春日信達を調略。守護小笠原家の小笠原洞雪斎などを用いて北信濃に浸透する。十八日、一益は北条軍先鋒の氏直軍を撃破。甲斐国主・河尻秀隆が一揆勢に殺害される。十九日、突出する滝川軍を北条軍が包囲殲滅する。一益は厩橋城に退却。二十日、一益は箕輪城に退却。二十一日、一益は上州を捨て信州小諸城に退却。美濃・尾張への退却路を確保するために木曽路を抑える木曽義昌の動静を探る。森長可は木曽福島城を急襲し、義昌嫡男の岩松丸を人質にとる。真田昌幸は叔父・矢沢頼綱を沼田城に、嫡男・信幸を岩櫃城に派遣。二十二日、依田信蕃は旧武田家臣の人質を一益に献上。二十三日、徳川家康は岡部正綱によって甲斐の国人衆に知行を安堵する。二十四日、長可は美濃国に帰還し、人質を解放。景勝は信州・長沼城に進出。昌幸は景勝に臣従。二十五日、長可は岐阜城に入る。二十六日、氏政は佐久の国衆を臣従させる。二十七日、一益の所有する真田昌幸の母などを含む佐久・小県の国人衆の人質を義昌に引き渡す協定が成立。尾張清州城で織田家の相続会議開催。二十八日、一益は下諏訪で義昌の通行証を受け取り木曽路を通過。北条軍は信濃への侵攻を開始。七月一日、一益は伊勢長島城に帰還。

佐久の春日城に依田信蕃が帰城したのは六月二十三日であった。

武田家の滅亡から僅か三ヶ月で本能寺の変が起こり、信濃国は混乱の極みとなっている。

徳川家康と行動を共にしていた穴山梅雪の指示により・・・織田に降ったものの・・・梅雪が死亡したことにより・・・誰が敵か味方かもわからない。

「滝川一益に嫡子・竹福丸を人質として渡して・・・よかったのか」

思わず・・・疑問が口に出る。

そこへ・・・留守を務めていた弟・依田信幸がやってくる。

「家康様の家臣・岡部正綱殿から使いが来ている」

「会おう・・・」

案内されてきたのは女だった。

「お・・・そなたは・・・」

「土屋昌恒様の正室・岡部殿の侍女でございました・・・畝と申します」

「奥方は・・・どうなされた」

「徳川様にかくまわれてございます」

「そうか・・・」

土屋昌恒は武田勝頼に殉じ、天目山で片手千人斬りの伝説を残した。

昌恒の正室は岡部正綱の同族である岡部元信の娘だった。

「甲斐では・・・穴山衆が徳川様にお味方すると決しました」

「おぬし・・・くのいちか」

「・・・はい」

「書状によれば・・・武田家臣を集めよということだが・・・」

「できうれば・・・真田家と繋いでもらいたいとのこと・・・」

「真田殿か・・・あれは・・・食えない男じゃ・・・」

真田昌幸は・・・依田信蕃より一歳年上である。

人質の中に昌幸の母がいた・・・。

(人質といっても・・・あれは武田くのいちの頭・・・陣中に忍びを招きいれるのも同然じゃ)

信蕃は思わず苦笑いをした。

「それから・・・人質の件ですが・・・」

「それは・・・滝川様に・・・」

「できれば・・・徳川様に・・・引き渡すように交渉していただきたいとのこと・・・」

「なんじゃと・・・」

「忍びの報告によれば・・・滝川様は木曽様に・・・人質をお渡しになるとのこと・・・」

「・・・盥回しじゃな・・・」

「御苦労様にございます・・・私はこれより・・・信蕃様にお仕えするよう・・・命じられております」

「なるほど・・・夜伽を命じてもよいのだな・・・」

「お望みとあらば・・・」

信蕃はくのいち畝が・・・美貌を備えていることにようやく気がついた。

「では・・・お主は・・・徳川様からの・・・褒美・・・」

めくるめく一夜の後・・・信蕃は再び・・・小諸城に向かう・・・。

信濃ではすでに・・・北条、徳川、上杉の忍びたちが・・・暗躍を開始していた。

上杉は川中島から佐久へ。

北条は碓氷峠から佐久へ。

徳川は甲斐から佐久へ。

それぞれの忍びが佐久に集結しつつあった。

真田忍軍もまた・・・。

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2016年2月21日 (日)

娘として妻として母として男を甘やかすのが女の使命という思想(亀梨和也)最低!(広瀬すず)

「武士道」の背景には・・・当然の如く「男尊女卑」の思想が横たわっている。

なぜなら・・・「女性武士」というものは基本的に存在しないのである。

もちろん・・・日本史上にも・・・女の武者は登場する。

「平家物語」には源義仲に仕える女武者として巴御前が登場する。

しかし・・・男よりも強い女がいることを歴史家たちは基本的に否定的に考えるのである。

つまり・・・実在が疑わしいということになる。

「武士道」では「木村重成の妻の最後の文」が引用される。

木村重成は大坂・夏の陣で戦死した豊臣方の武将である。

「源義仲は松殿の局(藤原伊子)と別れを惜しんだ(そのために勝機を逃した)というが・・・後顧の憂いのないよう・・・夫よりも先に自害し、死出の道で待つ」

「夫が戦死する覚悟である以上、先に自害する妻の覚悟」を「武士道」はある程度、称揚するのである。

「武士道」が「自己犠牲」の思想である以上・・・これは避けられない結論なのだった。

「武士道」では・・・これを「女」を賎しめる思想ではなく・・・「女」が「男」と同等に「武士道精神」を持っている証と捉えるのだった。

木村重成の妻・青柳は自害したが・・・それは戦後、男児を出産し、重成の一周忌の後のことだったと言う。

現代的に考えれば・・・愛児を残して自殺ってどうなの・・・とお茶の間騒然である。

だが・・・すべては「信念」という「思いこみ」の為せる術であり・・・その人たちがそれでいいと思うのなら他人がとやかく言っても虚しいばかりなんだな。

「命」を尊重し、「長寿」を誇り、「老人ホーム」にたどり着き、「他人」に「嫌悪」されて・・・「一生」を終える。

それはそれで・・・なんとなく釈然としない気持ちになるし・・・。

「彼」が「武士道精神」で耐えがたきを耐えればよかったのかもしれないし・・・。

「幻想の武士道精神」は消滅した・・・しかし・・・その残り香は・・・今もなお・・・「武士道」を読んでしまった人の心に宿るのだった。

男女雇用機会均等法の世では・・・それが明らかに「男尊女卑」的であることは間違いないにしても。

階級社会では下剋上は悪そのものである。

社会の秩序を乱さないことこそが平和の根本であるからである。

そういう意味で武士道は逆境にあるものに自発的な忍従を求める教えだ。

顔で笑って心で泣くのが美徳であるかどうか・・・それもまた謎である。

その裏側にある誰もが心から笑える理想の世界・・・それを悪魔は笑うしかない。

で、『怪盗 山猫・第6回』(日本テレビ20160220PM9~)原作・神永学、脚本・武藤将吾、演出・西村了を見た。人間は「理想」を追求する。誰もが幸福な社会を夢想するものも多い。しかし、他人が不幸でなければ幸福感を得られない人間が一人でもいれば・・・全体の幸福は成立しない。「人を嫌な気持ちにさせて何かよいことがあるのか」と誰かが主張しても「苛め」がなくならないという「現実」があるのである。悪魔としては・・・「自分を殺すくらいなら相手を殺せばいいのに」とも思うし、「自分を殺すなんて優しい」とも思う。「相手が心から謝罪し、自分も心から許容する」のも心地よい。結局、何でもいいのだな・・・どうせ他人事だもの。

怪盗探偵・山猫(亀梨和也)は父親が母親を殺害して服役中の上に苛められっ子だった魔王こと高杉真央(広瀬すず)のスーパー・ハッカーとしての腕を買い、仲間にする。

路地裏のカフェ「STRAY CATS」のマダム・宝生里佳子(大塚寧々)は魔王を流産した娘の身代わりのように感じており・・・山猫と里佳子は・・・魔王を保護していると言えないこともない。

霧島さくら刑事(菜々緒)の父親である源一郎(中丸新将)が指摘したように・・・「山猫は間違っているが・・・社会はもっと間違っている」世界が彼らの棲む場所である。

心ある警官たちは・・・腐った警察組織の中で犯罪者を追うことに疲れている。

一方・・・源一郎殺害の黒幕であった森田刑事(利重剛)は秘密結社「ウロボロス」に言及する。

「間違った世界を正し完全なる世界を目指す」という主張で破壊活動を行うテロリスト集団である。

「いかなる反社会的集団も許されない・・・必ずや粛清する」

都知事・藤堂健一郎(北村有起哉)はマス・メディアに宣言するのだった。

その頃・・・チーム山猫は近所の公園で・・・缶けりに興じていた。

警視庁捜査七課の刑事・来宮渚(堀北真希)はたまたま通りかかるのだった。

「・・・?」

「・・・野ブタパワー注入」

「注入・・・」

思わずシンクロしてしまう渚だった。

「バイバイセコー・・・」

「・・・」

謎の暗殺者カメレオン候補ナンバーワンの雑誌記者・勝村英男(成宮寛貴)は山猫に問う。

「何ですか・・・今の」

「昔話さ・・・」

こういう・・・「お遊び」は・・・楽屋落ちの一種であり・・・一部お茶の間向けなのだが・・・賛否は問わないことにしておく。

一種の「これはフィクションです」の変形なのだが・・・かえって現実で彼女が人妻であることを喚起してしまい・・・興をそがれる場合もあるので要注意だ。

毎晩、何を注入しているのかといろいろと妄想が・・・おいっ。

ドラマ「野ブタをプロデュース。」も一昔前なのである。

野ブタが去ると狂犬刑事である犬井克明(池内博之)が現れる。

「牛乳好きか・・・」

「当たり前田のクラッカー」

「てなもんや三度笠なんて知ってるのか」

「素晴らしいインターネットの世界は結局無法ですから」

「そういう歪んだ正義感を・・・俺は認めない」

「・・・」

狂犬は山猫の正体を見抜いていた。

山猫は・・・「子供」である。

その根底にあるのは「童心」であり・・・「人生ゲーム」や「子供の遊戯」に熱中するのは・・・その象徴である。

脚本家にはそういう「郷愁」への傾斜があるらしい。

マダムも魔王もそういう山猫の「郷愁」に付き合い・・・「失ったもの」を悼むのである。

その結果・・・ゲームの敗者となった勝村はみんなの下僕・エプロン奴隷となるのだった。

「なんでだよ」

「ゲームじゃないか」

「トイレの掃除もよろしく」

「夕飯の支度もよろしく」

下僕記者を弄ぶ一同・・・。

魔王はPCで新しいソフトを楽しんでいた。

入力した文章の言葉を使用した動画を検索し、連続して再生するアプリケーションである。

新聞・雑誌の活字を切り抜いて作る脅迫文の動画版として応用できるのだった。

「こたつで・靴下・匂う」

「一緒に・かゆみを・わかちあう」

「そんなの・絶対に・ありえへん」

「そこまで・否定・するのかよ」

「水虫・男はんが・怒ったよ」

「面白いけど・・・意味不明だ」

テレビのニュース番組では侠武会組長の中岡(笹野高史)が襲撃された事件が報道されている。

中岡は・・・東京都が事業化を検討中の「公営カジノ」への参入を都知事に申し出た後で・・・ウロボロスに襲撃されたらしい。

中岡から病院に呼び出された山猫は「ウロボロスの正体」を探ってほしいと頼まれる。

「とこで・・・あんたのコアはなんだ?」

「堅気の人の笑顔さ・・・任侠道の基本だぜ」

「堅気の人を泣かせてなんぼじゃないのかよ」

「博打で負ければ泣く、勝てば笑う・・・それが人の生きる道だ」

「結局、カジノ利権かよ・・・」

「いくらでやってくれる」

「報酬は・・・これだ」

山猫は一円玉を示す。

「一千万円か・・・一億円か」

「・・・」

暗黙の了解をする二人だった。

例によってエプロン奴隷は霧島さくら刑事から情報を漏洩してもらうのだった。

「ウロボロスはサーペントと無縁だと公安資料にありました」

「公営カジノへの参入をめぐって日本の暴力団と外国の暴力団がしのぎをけずっているという話があるんだが」

「ウロボロスは公権力を含めた既成の組織の破壊を目標にしています・・・行政組織のビジネスに介入するとは思えません」

「組織員はどうやって集めているのかな」

「素晴らしいインターネットの世界での個人的勧誘が中心です」

「なんか・・・よく聞く手口だな」

「先輩だから・・・漏洩しますけど・・・なんで・・・この人たちも一緒なんですか」

「・・・」

「良いですか・・・内部情報を漏らすのは立派な犯罪なんですよ・・・これだって立件されたら逮捕されて実刑食らう可能性があるんです・・・獄中結婚してもらえますか」

「え」

父親殺害の真相に触れ・・・警察組織に絶望し・・・愛に一直線となったさくら刑事だった。

「重いね」とマダム。

「もてないですね」と魔王。

「殺すわよ」

「カラ・・・」

「カラなの」

「蛇の頭のようなサーペントと土着の侠武会を操作して漁夫の利を得ようとしている奴がいるな」

「山根さん・・・あなたの声・・・誰かに似ている」

「地元じゃ負け知らずの人とそっくりだとよく言われます」

「ああ・・・お坊さん?」

「違うっ」

所轄署に戻ったさくらに噛みつく狂犬。

「お前が山猫ではないかと疑った山根と会って来た」

「あれは勘違いでした」

「勘違いが勘違いかもしれん」

「え・・・彼らは無実です」

「彼ら・・・お前の愛しい勝村先輩のことか・・・」

「やめてください」

「刑事に私情は禁物だ」

「いいか・・・俺はある子供を引きとって育てている・・・山猫が暴いた政治家と建設会社の癒着問題を覚えているか・・・」

「はい・・・父が担当していた事件ですから」

「山猫が暴いた不正で・・・建築家は激しい非難を受け自殺、母親も後追い自殺した」

「・・・」

「残された子供に何の罪がある・・・」

「・・・」

「山猫の正義は・・・やりすぎなんだよ・・・ここは法治国家なんだから」

「国家の正義も・・・腐るし・・・暴走しますけどね」

「警官がそれを言い出したら終わりなんだよ」

しかし・・・子供のいる犯罪者を全員無罪にはできないからな。

だが・・・殺人事件の被害者・・・納税できない。加害者・・・更生して納税の可能性あり。

税収の観点から国家は前者より後者を守るメリットが・・・おいおい。

「警察官であろうと、一般市民であろうと、犯罪者であろうと・・・わが青春に悔いなしであればよしです」

「何を言ってるんだ・・・」

「いじめた奴らを爆死させるもよし、奇跡の彼女に止められて泣いちゃうもよしです」

「誰が海の底にいる藤原くんの話をしろと・・・」

「このドラマも根底に流れるものは同じと判断しました」

「何を判断してるんだよ」

「妹が水崎綾女で・・・恋人が成海璃子なら・・・もはや敗者とは言えませんし」

「・・・もういい」

こたつを導入した魔王の個室ではベッドに山猫、正座待機の奴隷ライターを従え、魔王が「ウロポロスのサイト」へのアクセスに成功していた。

「まあ・・・誰でも入れるんですけどね」

「・・・」

「結社員募集してますけど・・・」

「よし・・・勝村くん、出動だ!」

「嫌ですよ」

「奴隷に選択権はない」

「明日、小学校で奴隷ごっこが流行したらどうするんです」

「Pが切腹すれば済む話だ」

「そんなこと言ってると現場からやる気がなくなりますよ」

「客あっての客商売だからな」

面接で簡単に合格する奴隷ライター。

眼鏡カメラを装着してウロボロス本部にあっさり潜入である。

一方、仮名・杏里の謎めいた非通知の女(中村静香)に接触する山猫。

「耳よりの情報をあげるわよ」

「くれ」

「悪徳警官の関本と藤堂都知事・・・つながってるわよ」

「ちっ」

「私・・・しばらく日本を出るわ」

「逃げるのか」

「私のターゲットはカメレオン・・・姉の仇よ・・・姉はあなたと同じ場所にいた」

「・・・」

「カメレオンがユウキテンメイの切り札である以上・・・私とあなたは味方ってことよ」

謎の言葉を残し・・・杏里(仮名)は去る。

関本を問いつめる山猫。

「何故隠していた・・・俺を裏切るのか」

「お前が俺を信じている限り、俺がお前を裏切ることはない」

「意味がわかりません」

「つまり・・・騙され続けていれば・・・裏切りなんか存在しないってことだ」

「なるほど」

「納得するのかよ」

結局・・・人間関係なんてそういう曖昧模糊としたものなのである。

山猫カーで監視を続ける魔王は・・・ウロボロスが空港に出現し、杏里(仮名)を拉致したことを知る。

しかし・・・奴隷ライターはその一員だった。

「大丈夫・・・俺は味方だ」

「貴様・・・何をしている・・・」

「あ・・・」

追跡装置入り小道具をとりあげられる奴隷ライター。

「なんて・・・使えない奴なの・・・」

毒づく魔王だった。

しかし・・・本部の位置は分かっているので問題ないのだった。

「お前たちには死んでもらう」

「死体を隠す時間があるかしら」

通報によって警官隊が接近しているのだった。

鳴り響く・・・サイレン。

一瞬の隙をついて杏里(仮名)のバトルモードに突入。

眼つぶし爆弾で視力を奪うと・・・脱出を開始する二人。

しかし・・・目の不自由な人射撃により・・・負傷する杏里(仮名)だった。

殴打され気絶する奴隷ライター。

悪徳警官、狂犬、さくらが突入すると・・・残されていたのは銃創のある侠武会構成員の遺体と銃を握って昏倒中の奴隷ライターのみ。

構成員殺害の容疑で警察病院で拘束される奴隷ライター。

「助けてあげて」

「お金にならないからな・・・」

「最低・・・」

「潜入中にウロボロスの黒幕を突き止めたかもよ」とマダムが助け舟を出す。

「よし・・・都知事に会いに行こう」

テレポートしてきた山猫に驚く都知事。

「君は誰だ」

「山猫にゃ」

「何の用だ」

「ウロボロスの黒幕を・・・教えてやったらいくらくれる」

「誰だというのだ」

「警察病院に入院中の雑誌記者が・・・」

「都の予算編成まで待ってくれ」

「機密費で何とかしろにや」

山猫は・・・餌を撒いた・・・。

登場人物的に・・・ウロボロスの黒幕は都知事かユウキテンメイなのだから・・・。

マダムはナースに変装して病室に・・・。

花瓶を変え・・・PC/TVのスイッチをオンにする。

突然、病院をウロボロスが襲撃する。

「かかったな・・・」と山猫。

病室で奴隷ライターを尋問する狂犬。

「なぜ・・・ウロボロスに潜入した」

「雑誌記者なので・・・」

「・・・」

「・・・」

階下の騒ぎを聞きつけ応援に出る狂犬。

「変な真似をするなよ」

「ベッドに手錠でくくりつけられて・・・何ができるんですか」

「片手が空いているじゃないか」

「しませんっ」

PCから流れ出す切り張りメッセージ。

「花瓶の・中・見ちゃえばいいのに」

花瓶の底から手錠のキー。

「五分後・屋上で・待っている・にゃん」

「にゃん・・・いらないよな」

屋上に用意されていたのはロープと滑車だった。

「・・・」

遥か下のゴールで待つ山猫。

さくらと二人でウロボロスを殲滅した狂犬が屋上に現れる。

「おい・・・やめておけ・・・」

「くそ」

奴隷ライターは滑空した。

「ゴール」

「ひどい・・・と思ったら泣けて来た」

二人の心が通い合ったらしい。

しかし・・・殴りこんでくる狂犬。

「山猫~」

「にゃあに~」

「お前の歪んだ正義感を叩き直してやる」

「やれるもんなら・・・やってみろ」

狂犬は噛みつくが催涙スプレーを食らうのだった。

「はい・・・残念」

「お前に・・・目の前で母親の首吊り死体を見た子供の気持ちがわかるのか・・・お前が余計なことをしなければ・・・事件は警察が・・・解決したのだ」

「政治家と企業・・・もう一つのキーワードは官僚だ」

「・・・」

「警察と政治家はグルなんだから・・・俺しかあの不正は暴けなかった」

「・・・」

「つまり・・・あんたの言っていることは・・・不正を見逃せ・・・犯罪をもみ消せ・・・と言っているのと同じだにゃん」

「だけど・・・お前はまちがっているんだよ」

「俺がやらなきゃ・・・誰がやる・・・」

「・・・」

「しばらく大人しくしていれば・・・視力は戻るのにゃん」

「お前・・・牛乳好きか」

「当たり前だのクラッカー」

「・・・」

路地裏のカフェ「STRAY CATS」・・・。

「どうする・・・指名手配されちゃったみたいだよ」

「さくらと新幹線に乗って京都に行ってきます」

「楽屋オチリレーの完成か・・・」

「視聴率的には逆に↘でしたけどね」

「貢献できるといいよねえ」

「そうですねえ」

「ところで・・・ウロボロスの黒幕なんだけど・・・」

「何の話ですか」

「・・・」

「誰が敵で誰が味方なのか・・・それは善と悪と同じように曖昧なのにゃ・・・」

関連するキッドのレビュー→第5話のレビュー

Ky006ごっこガーデン。山猫とヒガンバナが交錯する階段セット。

エリまた一人・・・怪盗探偵山猫に説教されてしまう人出現・・・誰も傷つけない犯罪なんてない。万引きされたらお店はつぶれるし、いじめは人の人生を台無しにする。犯罪を許したら真面目な人はガッカリしまス~。それでも・・・巨大な悪の隠された犯罪を暴くために・・・怪物のような盗賊・・・略して怪盗は出没するのでス~。そして・・・今日も一人、明日も一人・・・ハートを盗まれるのでス~。良い子のみんなは真似しないでね~

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2016年2月20日 (土)

わたしは天使になりたい(綾瀬はるか)

彼らはルーツと呼ばれる人々の細胞から作られたクローン人体である。

彼らは「提供者」と呼ばれ「国民」ではない。

この「国家」では「臓器提供クローン法」のようなものが制定され、「提供者」の存在は合法化されている。

その点以外は・・・基本的に「日本国」である。

ドラマ「白夜行」が原作を逸脱して遥かな高みに昇華したように、このドラマも原作を遥かに越えて昇華している。

この世界でも「不倫関係」が「公序良俗」に反するために「自由恋愛」は制限される。

この世界では「提供者の自由」が「公序良俗」に反する場合には制限され「提供拒否」は「即時解体」となる。

「臓器移植、みんなで賛成すればこわくない」のである。

この世界はあなたの「ドナーカード」やみんなの「二十歳になったら献血」の延長線上にあります。

・・・おいっ。

で、『わたしを離さないで・第6回』(TBSテレビ20160219PM10~)原作・カズオ・イシグロ、脚本・森下佳子、演出・平川雄一朗を見た。2016年2月18日、北海道大病院は「生体肝移植を受ける患者とドナー(臓器提供者)のリンパ球から培養した特別な免疫細胞を使い、免疫抑制剤を使わず拒絶反応を抑えることに成功した」と発表した。患者と提供者の臓器の適合性のハードルが一段下がったのである。臓器移植を受けた患者は拒絶反応を抑えるため、免疫抑制剤を飲み続けなければならないという多額の医療費負担に加え、免疫抑制剤の副作用として感染症にかかりやすくなるなどのリスクがあった。現在進行形で臓器移植後の拒絶反応に苦しむ患者にとって朗報である。もちろん・・・「提供者」にとっては無関係な話であるとも言えるし、「提供」の負担が増したと考えることもできる。キッドはその是非を問わないが・・・これは「現実の話」というものである。

誰もがクローン人体という「提供者」から比較的容易に臓器を入手できる世界。

人々は「いただきます」と手を合わせ家畜を栄養源とするように・・・無造作に臓器を交換するのである。

そんな馬鹿な・・・と一部のお茶の間が戦慄する世界の「話」なのだ。

そして「提供者」たちは「介護人」として働く以外には・・・遺伝子操作で生殖能力を持たない提供に至るまでの短い「生」を甘受するのである。

戦火に追われた子供たちが逃げ惑うように・・・放射能汚染された土地に人々が帰れないように・・・。

これは・・・よくある「話」なのだった。

そんな馬鹿な・・・と言う人たちは基本的に馬鹿なのである・・・おいおいっ。

時計塔のある駅前の広場に・・・保科恭子(鈴木梨央→綾瀬はるか)が佇んでいる。

煙草に火をつけた恭子はガラスの小瓶に供養の煙草を立てる。

空にとけていく紫煙・・・。

土井友彦(中川翼→三浦春馬)の介護人である珠世(本間日陽和→馬場園梓)が花束を持って現れる。

「命日じゃないのに・・・偶然ね」

「・・・あなたこそ・・・」

「提供が始る前に・・・来ておこうと思ったの・・・」

「私は・・・彼女に残された宿題のことを考えていた」

「そう・・・」

そこは・・・真実(エマ・バーンズ→中井ノエミ)の終焉の地だった・・・。

《現在》➢➢➢《回想世界》

「陽光学苑」の出身者の「特権」についての噂。

友彦に「絵を提出すること」を勧める龍子(伊藤歩)から届いた手紙。

「夢」について語る友彦への愛着。

入手した二枚目の「Songs after Dark/Judy Bridgewater」・・・。

握り合った友彦の手の温もり。

「のぞみがさき」から戻った恭子の心は揺れる。

酒井美和(瑞城さくら→水川あさみ)は友彦の変化に不審を抱いている。

恭子を支配するための大切な道具として・・・美和は友彦を管理しなければならなかった。

「最近・・・友彦が私を避けているような気がする」

「疲れているんじゃないの・・・」

「何に・・・」

「あなたに・・・」

「どうして・・・」

「さあ・・・」

恭子はとぼける。

美和は猜疑心で目を光らせる。

そこに・・・「さぴしい男性提供者」がやってくる。

「今晩、どう・・・」

「私、今日は疲れているの」

「・・・」

立花浩介(井上芳雄)によって疑似生殖行為の快感を知った恭子は・・・浩介が介護人としてコテージを旅立った後は・・・複数の男性提供者と夜を過ごしているらしい。

「パートナーと愛し合っていることが認められた男女は特別な猶予が与えられる」という噂の信奉者である金井あぐり(白羽ゆり)は・・・疑似一夫一婦制度のようなパートナー関係を前提とした恋人関係に反する・・・まるで娼婦のような恭子の振る舞いに批判の眼差しを注いでいる。

しかし・・・提供者には生殖機能がないし、婚姻制度もない。

恭子と複数の男性提供者を罰するいかなる法も存在しない。

なにしろ・・・提供者は法的には人間ですらないのである。

あぐりにとって重要なのは「陽光学苑」出身者の情報であり、娼婦のような恭子よりも・・・友彦とパートナー関係を構築している美和の方に親近感を抱いているという程度で・・・恭子を迫害しようという意志はない。

「あの話・・・どうだった」

「すみません・・・今、問い合わせの応えを待っています」

「そう・・・」

恭子と二人きりになった美和は苦笑する。

「あぐりさん・・・しつこくて・・・困るわ」

(あなたの言い出したことじゃないの・・・)という言葉を飲み込む恭子だった。

恭子の中で・・・友彦と美和のパートナー関係が重圧となっていた。

友彦を独占したいという気持ちが・・・恭子の心に存在する。

恭子は当然、美和にも友彦を独占したいという気持ちがあると想像する。

美和の疑似所有物としての友彦を奪うという行為は・・・提供者として育てられた恭子に激しい葛藤を生じさせるのだった。

朝食の後で・・・サッカーに熱中する友彦。

友彦の「精神」が「普通より遅滞していること」を揶揄しながら提供者たちは笑う。

「変わってるよなあ」

「どんなに練習しても試合さえできないのに・・・」

「どこかに・・・サッカー好きの集まるコテージがあればね」

「最低でも二十二人必要だぞ」

「フットサルの人数を集めるのも大変だよな」

「怪我でもしたら・・・介護人になれないし・・・」

「予後不良なら即時解体かもしれないぜ」

恭子は・・・無遠慮な言葉に・・・微笑む。

美和は・・・友彦の監視を開始する。

友彦が「ノート」を持って・・・何か秘密の遊びをしていることを疑っているのだ。

友彦は美和の尾行には気がつかず・・・秘密の作業小屋に向かうのだった。

一方、街頭で「提供者解放活動」のビラ撒きをしていた「マンションの活動家」が私服警官に任意同行を求められ、恐慌に陥って・・・傷害事件を起こすという出来事が発生する。

「マンション」に逃げ帰った男の報告を聞き・・・リーダーは顔色を変える。

「なんてことをしてくれたんだ」

「でも・・・こわくて」

「おわりだな」

活動家の真実は・・・解体の前に・・・恭子に会いたいと思った。

深夜に「マンション」を出た真実は「コテージ」を目指す。

「おじさん、トラックに乗せて」

深夜のヒッチハイクの果てに真実は昼前の「コテージ」に到着した。

「どうしたの・・・」

「あなたに会いたくて・・・」

真実は「デュポンのライター」で「ジタンのタバコ」に点火する。

「やめてよ・・・」

「タバコ、嫌いだったわね」

「煙に弱いの・・・」

真実は・・・ライターとタバコを置いた。

「あなたは・・・幸せになった?」

「あなたの活動はどうなの?」

「順調よ・・・」

「友彦とは寝たの・・・」

「他人のものを奪ってはいけない・・・から」

「先に奪ったのは美和じゃない・・・あなたは奪われたものを取り戻すだけよ」

「・・・」

「第一、美和が友彦と寝るのはあんたから奪って勝利に酔うためよ」

「そんな・・・」

「美和はただ・・・あなたに勝ちたい・・・それだけなの」

「・・・」

「あなただって気がついているんでしょう」

「・・・」

「私はあなたに・・・幸せになってもらいたい・・・」

「幸せ・・・」

「そうよ・・・それが私の望むもの・・・あなたへの宿題よ・・・」

「・・・」

真実は・・・紙片に書いた「日本国憲法第13条」を読みあげる。

「すべての国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」

「・・・」

「美和は公共の福祉じゃないでしょう」

「真実・・・」

「私・・・そろそろ、帰らなくちゃ・・・」

「もう・・・帰るの」

「私にはやることがあるから・・・」

「・・・」

「あなたにも・・・それを見つけてもらいたい」

こうして真実は・・・恭子の前から去って行った。

美和は友彦のノートを盗み出して・・・恭子に見せる。

「見てよ・・・友彦ったら・・・隠れて絵を描いていたの」

「・・・」

「へたくそすぎて・・・笑っちゃうでしょう」

恭子は友彦が美和に隠れて「絵」を描いたことに希望を感じる。

友彦は恭子と「猶予」を受けようとしているのかもしれないと考えたのである。

そのことについて・・・友彦と話したいと思う恭子。

美和は・・・真実の残した煙草を発見する。

「タバコ・・・」

「真実が来たの・・・」

「私に一本吸わせて・・・」

「待って・・・窓をあけるから・・・」

美和は一瞬の隙をついて・・・。

「二枚目」の存在を発見する。

「やはり・・・いいわ・・・」

恭子は・・・美和の挙動から・・・「二枚目」の存在に気付かれたことを悟る。

破局は迫っている。

美和は友彦への疑いを強め・・・友彦の私物を探る。

そして、「手紙」を発見するのだった。

「特権を得るために絵を提出すること」という情報をあぐりに渡す美和。

あぐりは・・・「恭子についての噂」を口にする。

美和にとって・・・それは・・・「恭子より優位に立つ切り札」であるように思える。

真実は・・・「マンション」に帰る。

活動家たちは脱出の準備を整えていた。

しかし・・・「法の番人」たちは速やかに手配を完了していた。

一斉検挙の網を逃れ・・・一人、町へと逃亡する真実。

時計塔のある駅前の広場に・・・立候補者が街頭演説をしていた。

「大企業のおこぼれにあずかる中小企業である以上、大企業が倒れれば共倒れです。大企業が栄え、中小企業は息もたえだえなのはおかしいという人もいる。しかし、大企業が栄えてこその中小企業であるという論理も成立します。中小企業を手厚く保護して、大企業がつぶれたら・・・結局、中小企業もつぶれる。たちまち、就職氷河期です・・・わが光民党は若者たちの幸福のための政策を・・・」

護身のためのナイフで手首を自傷した真実が現れた。

「私に・・・マイクを貸してください・・・私はもうすぐ・・・死ぬので・・・いいでしょう」

「君・・・落ちつきたまえ・・・話せばわかる」

「だから・・・少しだけ・・・話させてください・・・」

「わ、わかった」

「皆さん・・・私は立候補者ではありません・・・提供者です。どうか・・・私の話を聞いてください」

無防備に立ち止まる通りすがりの人間たち・・・。

「私は・・・施設で育ちました・・・幼い頃の私は・・・皆さんと同じように友達と遊び、笑ったり、泣いたりしました。けれど・・・ある日、自分が人間ではなく・・・天使だと教えられたのです。皆さんに身体を提供するために作られた聖なる存在だと・・・私は一番仲のよかった友達のために・・・自分の命を捧げることを想像してみました・・・私にはできなかった・・・自分の命を捨てて・・・彼女を救うことが・・・そう考えることができなかったのです。私は皆さんと同じように自由に散歩がしたかった。好きな仕事をして働いてみたかった。好きな相手と一緒に暮らし、子供を産んで育ててみたかった。でも・・・それは許されない。何故なら・・・私は天使ではなくて・・・家畜だからです・・・皆さんにお願いがあります・・・私たちを家畜として扱うのなら・・・どうか・・・私の心を消してください・・・家畜に心なんていらないのだから」

おそらく、この世界の科学力は心のない人間を作れない。

脳なしの牛が作れないように・・・そして「家畜」は「自然の力」である程度まで生育しなければならない。自分自身で「提供に相応しい人体」のためにメンテンスしなければならない。さらには「提供開始後の介護」も・・・。そういうシステムにすぎないのである。

臓器移植を必要とする人間がいて・・・社会がそれに応じただけなのである。

「やめなさい」

駆けつけた警察官が真実の言論を封じようとする。

真実はナイフで自分の頸動脈を切断する。

飛散する提供者の鮮血・・・。

ある意味で彼らはみな「銀の匙」を持って生まれて来た。

そして最後は刃物で切り刻まれるのだった。

恭子を作業小屋に呼び出した友彦・・・。

しかし・・・先着したのは美和だった。

「ここで何をしているの・・・」

「・・・」

「ねえ・・・知ってた・・・恭子ったら・・・みんなとやってるんだって」

「え」

そこに恭子がやってくる。

「美和・・・」

「美和が恭子が・・・みんなとしているって」

「私は・・・淋しさを忘れるために・・・することは悪くないことだと思っているけれど・・・」

しかし・・・友彦は・・・「男の浮気はともかく女の浮気を絶対に許さないスポーツマン気質」だった。

「そう・・・」

「・・・」

「・・・」

「コテージ」に戻った恭子を刑事たちが待っている。

「・・・マンションに出入りしていたそうだな」

「一度だけです・・・友達を訪ねて」

「うん・・・記録通りだ」

「真実に何か・・・あったんですか」

「駅前で派手なパフォーマンスをした後で・・・即時解体され・・・提供に回されたよ」

「・・・」

「それと何を話したのか・・・聞かせてもらおうか・・・」

「・・・ただの・・・昔話です・・・子供の頃の思い出・・・」

「うん・・・記録通りだ・・・邪魔したな・・・長生きしたかったら・・・余計なことは考えないことだ」

「・・・」

恭子は決心した。一般男性の峰岸(梶原善)はリクエストに応じて引越し屋さんとなる。

「なんとかしてよ・・・恭子がコテージを出て行くって言うのよ」と美和は泣き叫ぶ。

友彦はどうしていいのかわからなかった。

《回想世界》➢➢➢《現在》

「あの日・・・私は天使になろうと思ったの・・・喜怒哀楽を捨てて・・・何も感じない天使になろうと・・・」

「そう・・・」

「でも・・・真実から残された宿題のことが気になって」

「友彦の介護をするの・・・?」

「好きな人と一緒に過ごすのは・・・私の・・・やりたいことだったかもしれないけど・・・」

「・・・あなたが幸せになれるように・・・祈るわ」

「ありがとう」

「さようなら」

先に旅立った仲間を偲んだ二人の提供者は人間たちの雑踏の中に消えて行った。

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2016年2月19日 (金)

身を悶え泣けど叫べど甲斐ぞなき(早見あかり)ものの哀れの限りなり(北村有起哉)

「出世景清/近松門左衛門」(1685年)では景清を慕う女が二人登場する。一人はドラマ「ちかえもん」でお初が感情移入する景清の正妻ともいうべき熱田大宮司の娘・小野姫(おののひめ)・・・。お尋ねものの景清のために父娘ともども官憲の責め問い(拷問)を受ける身の上である。

一方で京の都の遊女・阿古屋を愛人とする景清は二人の子供を儲けるまでになる。

ひとときの小野姫への嫉妬心によって・・・景清を官憲に売り渡した阿古屋だったが・・・景清が捕縛されたと知り、許しを求めて牢を訪れる。

景清は許しを与えず・・・阿古屋は二人のわが子を殺し、自害して果てる。

ドラマ「ちかえもん」で平野屋忠右衛門が心に鬼を棲まわせることとなるのがこの場面である。

怒りを鎮めることが出来ずに愛する女と子供たちを死に追いやったのが自分自身であるにも関わらず・・・景清は世を呪うのである。

すべては・・・栄華を誇った平家が滅び・・・仇と狙った源頼朝の暗殺にも失敗し・・・正室と舅のために牢に繋がれた景清の・・・身の不運を嘆く男の負の情念が・・・自分を裏切った愛人に集中した結果である。

景清は身悶えて鬼となり・・・その心が・・・平野屋忠右衛門に呪いをかける・・・。

つまり・・・平野屋が悪事を働くのも・・・お初の父親が冤罪で切腹することになるのも・・・お初が遊女になるのも・・・お初が仇討ちに夢中になるのも・・・全部、ちかえもんの創作という悪行三昧の結果なのであった。

しかし・・・いつの時代であろうともフィクションに文句を言われても困るのだ。

で、『ちかえもん・第6回』(NHK総合20160218PM8~)脚本・藤本有紀、演出・川野秀昭を見た。手っ取り早く・・・仇討ちを・・・と天満屋の遊女・お初(花田鼓→早見あかり)を唆す不孝糖売りの万吉(青木崇高)・・・。うわあ・・・ドラマ「ちかえもん」との別離の日が近づいてきたのである。毎週木曜日にお茶の間で正座することもなくなってしまうのである。何より、うっとりするほど美しいお初に逢えなくなってしまうのである。なんと無常な・・・神も仏もないとはこのことなのである。だけど悪魔なのでそれでいいのだ。

色茶屋・・・客が大金払って遊女と色事を楽しむ社交場・・・天満屋のお初の呼び出しに応じたネズミの親分こと忠右衛門(岸部一徳)とお供の喜助(徳井優)・・・。

立会人の万吉を挟んで正装したお初は親の仇であるネズミの親分を怨みのこもった目で見つめる。

お初の殺意に座敷を覗くちかえもんこと近松門左衛門(松尾スズキ)はうっかり感応するのだった。

「親の仇」と小刀振りかざすお初。

「旦那様、危うし」と身を呈すネズミの子分こと番頭の喜助・・・。

凶刃は喜助の腹を刺す。

「喜助・・・」

「旦那様・・・実を申せば・・・この私・・・昔、旦那様に助けられた狸でございます」

「なんと・・・狸の恩返しとは・・・」

・・・などというちかえもんの妄想による予告篇詐偽を越え・・・本題に入るネズミの親分。

お初に大金を差し出す。丁銀の束はざっと二百万円ほど・・・女一人が新しい暮らしを立てるには充分な額である。これとは別にネズミの親分は天満屋の女将に掛け合い、借金を帳消しにすると申し出る。

つまり・・・お初を遊女の身から解放すると言うチュー衛門。

条件は大坂の街からお初が退去することであった。

「お初・・・お前が結城格之進の娘であると知ってのことだ」

「・・・」

「最初は・・・わからなんだが・・・倅から身請け話を聞き・・・お前のことを思い出した」

「・・・」

「え」と驚くちかえもん。

万吉は何を思ってか無言である。

そこへ・・・お袖(優香)がやってくる。

「大変や・・・徳兵衛様のおなりやで」

「ええ」

ちかえもんはお袖に命じられ・・・徳兵衛(小池徹平)の足止めという大役に挑む。

「折り入っての話って無茶振りやがな」

「折り入っての話とは・・・」

「金貸してください・・・お袖を身請けしたいんや」

「なんと・・・」

「アホな話とは思われますでしょうが・・・」

「いいえ・・・わかる・・・今の私にはわかります・・・お初と出会った私には・・・」

アホなので三倍ピュアなハートで応じる徳兵衛だった。

「行かなくちゃ・・・お初に会いに行かなくちゃ・・・」

「お初のことは諦めてくだされ」

「お初を諦めろとは・・・」

「お初はもう別口で身請けが決まったのです」

「そんな馬鹿な・・・」

「大金積まれて天満屋の女将が承知したこと・・・お初は若旦那に会わせる顔がないと・・・」

「嘘だ・・・」

一方・・・お初は・・・。

「肝心のお話がまだすんでまへん」

「・・・」

「一言・・・父にわびてください」

「・・・」

そこへ・・・血相を変えた徳兵衛が乱入。

無造作に置かれた金・・・唖然とする父親・・・小刀を構えるお初・・・。

徳兵衛はたちまち誤解するのだった。

「江戸の寿屋の縁談なんぞ持ちだして・・・自分がお初を身請けしようという魂胆だったんやな・・・大人は汚い」

気を殺がれるとともに・・・呆気にとられ・・・徳兵衛を憐れむ・・・めまぐるしいほどに変わるお初の表情・・・見事だ・・・見事だぞ・・・あかりん。

「大人は汚い~」

連打である。

若旦那の勘違いに便乗して・・・この場を丸く収めようとするちかえもん。

「若旦那の言う通り・・・平野屋さんも大人げない・・・ここは一旦、おかえりになったらよろしかろ」

「そうですな」と乗るタヌキの喜助。

意味不明のまま収束しようとした事態をとどめる万吉の必殺の相関図攻撃。

「なんてことを・・・」

「仇討ちの立会人として当然のことをしたまでや・・・」

お初の父親を罠にはめた徳兵衛の父親。

武士の娘として生まれながら遊女に身を落したお初。

そんなこととは露知らずアホな若旦那となった徳兵衛・・・。

親の仇であるネズミの親分に近付くために子ネズミに近付いたお初。

すべての人間関係を読み解く徳兵衛・・・。

「あなたの過去など知りたくない・・・けれど」

「済んでしまったことは仕方ない・・・けれど」

「あの人のことは忘れてほしい・・・けれど」

「私が聞いても言わないでほしい・・・けれど」

お袖も事情を知る。ちかえもんは切羽詰まる。ネズミの親分子分は肩を落す。お初はどうしていいかもうわからない・・・。

せつないよ・・・お初・・・せつないよ・・・である。

「すまなかったなあ・・・お初・・・」

立ち上がった徳兵衛はお初から小刀をとりあげると自分を刺そうと振りあげる。

「馬鹿なことを」

思わず止める父親の人情。

「お初の父親は殺された・・・仇の息子が死んだらおあいこや・・・」

「やめい」

揉み合う親子に割って入ろうとするタヌキを見て・・・危険を感じるちかえもんである。

「危ない・・・タヌキ」

勢い余ったちかえもんはすっ転び、その臀部を襲う凶刃。

「痛」

のけぞったちかえもんは鴨居に額を打ち付ける。

「痛」

奇跡のソフト・ランディングか・・・。

「大丈夫」と駆け寄るお袖。

大騒ぎである。なんとか・・・小刀を息子の手から奪い取った忠右衛門だった。

一瞬の静寂・・・。

「まだや・・・まだ・・・隠されていることがある」

「え」

「ワカメ鉢巻や」

「岡目八目な・・・囲碁で見物人の方がプレイヤーよりも冷静に状況が判断できるというたとえな・・・ワカメを頭に巻いてどないすんのや・・・ラゴンか」

「黙ってみとったら・・・ネズミの親分が隠しごとをしているのがわかったんや」

「すべては・・・御料様のためです」

「喜助・・・」

「いいえ・・・若旦那にも・・・そろそろ話す頃合いでしょう」

「お母はんに何の関係が・・・」

「若旦那のお母上は・・・とても優しい方ででした・・・旦那様とも仲睦まじく・・・しかし・・・労咳を患っておいででした」

「・・・」

「お医者様が言うには・・・朝鮮人参が効くとのこと・・・しかし・・・朝鮮人参は専売品・・・とても高価で・・・一介の醬油問屋には高嶺の花・・・旦那様は御料様にそれを与えることができませんでした」

「何故・・・お母はんを助けてくれなんだ」と父を責める幼い徳兵衛の記憶・・・。

「悲しみを紛らわせようと・・・ふらりと入ったのが・・・」

貞享二年初演の「出世景清」・・・。

鬼気迫る十八年前の竹本義太夫(北村有起哉)の節回し・・・。

二人の息子を自ら殺し、自害した愛人の骸を見下ろした・・・景清。

「景清は身を悶え泣けど叫べど甲斐ぞなき・・・神や仏はなき世かの・・・さりとてはゆるしてくれよ・・・やれ兄弟よ我妻よと・・・鬼を欺く景清も・・・声をあげてぞ泣きゐたり・・・ものの・・・哀れの極限なり・・・」

貧しさが・・・妻を殺したと心得た忠右衛門は・・・鬼の商人となるのだった。

「銭や・・・銭や・・・銭がすべてなんや」

やがて大商人となった忠右衛門は・・・長崎、大坂の役人たちを抱き込んで・・・朝鮮人参の闇取引に手を染める。

人形浄瑠璃の同好の士である結城格之進(国広富之)は悪い噂を聞き・・・忠右衛門に忠告する。

「友を訴えるような真似はしたくない」

「サムライに義があるように商人には利がおます・・・」

「聞き分けのない奴や」

「そちらこそ・・・」

「武士の一分がたたぬのだ・・・」

「武士の一分がたたぬ世や」

こうして喧嘩別れした二人・・・。

しかし・・・意を決した格之進の訴えが上役に取り上げられることはなかった。

上役が・・・闇商売にどっぷりとつかっていたのである。

「旦那様は・・・けして・・・格之進様を・・・貶めるような真似は・・・」

「格之進を救ってやることが出来なかったのだ・・・それは同じこと・・・」

お初は大人の事情を知り・・・落胆する・・・。

「旦那様は・・・御寮人様と同じように・・・格之進様の供養を続けられておるのです」

平野屋の二つの位牌の謎解きである。

「これは・・・遅くなったが見舞い金や・・・貴女には・・・新しい暮らしをはじめて欲しい」

しかし・・・お初は金を差し戻す・・・。

名場面である。

「私は・・・結城格之進の娘・・・どこで何をしていようが・・・それに変わりはありませぬ・・・父が拒んだお金を・・・いかに受け取ることができましょうか・・・たとえ苦界に身を沈めようとも・・・それが宿命と思いきり・・・親に忠孝を尽くすのが子の務め・・・名こそ惜しむが武士の一分」

お初のせつない覚悟に胸打たれる一同だった・・・それが江戸時代の人情なのである。

意地と意地とが鬩ぎ合いペンペン草が生えるのだ。

座敷から・・・一人・・・また一人と役者が去り・・・残された徳兵衛とお初。

「申し訳ございませんでした」

「お初・・・惚れなおしたぜ・・・身体に気いつけや」

散り落ちた梅の花・・・。

舞台裏では・・・油問屋の黒田屋九平次(山崎銀之丞)が舌打ちする。

「長い・・・猿芝居を見せられたものよ・・・」

やがて・・・その顔に凄惨な笑みが浮かぶ。

「なんや・・・武士だろうと・・・商人だろうと・・・えらいつまらんもんやなあ」とちかえもん。

「そうか・・・」とお初に思いを残しながら飄々とする万吉。

「息苦しくてかなわんわ・・・」

「武士はくわねど高楊枝でわては浪速の商人だすやなあ・・・」

「不孝糖売り歩いているお前の方がマシに思えてきたわ」

「ちかえもん・・・ようやくか」

その頃・・・ちかえもんの母の喜里(富司純子)は竹本義太夫をもてなしていた。

「はっきり・・・言ってくだされ・・・息子は・・・もうダメなんでしょうか」

「そんなことは・・・ありません・・・近松様は日本一の浄瑠璃作者ですから・・・」

「・・・うれしい」

子を思う母は涙をこらえるのだった。

喜里もまた武家の母なのである。

ちかえもんはもう一度・・・相関図を見直す。

遊女たちの悲しい運命に心を奪われつつも・・・ちかえもんもまた・・・創作の鬼を心に飼っているのだった。

「もう・・・ひとひねり・・・展開が欲しいよねえ」

天満屋の座敷にはお初と・・・黒田屋九平次。

「平野屋ののっとりは・・・やめてくださりませ」

頭を下げるお初を見下ろす九平次。

「ふふふ・・・たらしこむつもりで・・・徳兵衛に心奪われたか・・・」

「・・・」

「平野屋を救う手立てはただ一つ・・・俺に身請けされることだ」

「だれが・・・あんたなんかと・・・」

「そうなりゃ・・・若旦那はおしまいだ」

「・・・なんと卑怯な」

「ふふふ・・・良い顔だ・・・惚れた男のために嫌な男に身を任せる・・・そういう筋書きが俺の大好物なのよ・・・」

お初の身体を抱きすくめる九平次・・・。

お初には為す術もない・・・。

十の年から色町に売られ・・・男を喜ばす手管を仕込まれて・・・夜を重ねた遊女の身。

汚れちまった悲しみに・・・梅も桜もただ過ぎ去って・・・。

死んで花実は咲かないが生きても恥を晒すのみ・・・。

せつないよ・・・お初・・・せつないよ・・・。

くりかえしになるがプライドがないので大丈夫なのである。

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2016年2月18日 (木)

めっ!(桐谷美玲)袖振り合うも他生の縁(松坂慶子)

他生とは前世や来世を含めた生まれ変わりの信仰に基づく・・・魂の遍歴を示す言葉である。

これに準じた言葉に「多生」がある。

これは人生は一度だけではないという意味と・・・多くの命という意味を持っている。

一人の命を殺して多くの命を救う場合の多生である。

「他生の縁」なのか「多生の縁」なのかは関係者各位で意見の分かれるところである。

「多生派」には「縁」には「前世(過去の生涯)」の因果応報が影響するものだから・・・「他生」は俗用。

「他生派」にはそもそも・・・「多生」は「他生」の派生語・・・他生(生まれ変わり)が少ない場合の説明がつかないという論理がある。

まあ・・・完全なる誤用とされる「多少」も含めて・・・「ヒトとヒトとの縁は大切にしよう」という意味が通じればいいと思う。

「多少」の場合は「輪廻転生」を信じないヒトにも有効だしな。

そもそも・・・輪廻転生の理は未来永劫変化を許されないという考え方もあるわけである。

つまり・・・前世も今生も来世もすべては決定しているのであって判断の余地なんかないのである。

功徳を積めば来世が変わるなんて甘言に騙されてはいけませんよ・・・と悪魔が申しております。

生まれ変わりの方は信じているんだな。

で、『スミカスミレ 45歳若返った女・第2回』(テレビ朝日201602122315~)原作・高梨みつば、脚本・古家和尚、演出・今井和久を見た。家業の手伝いと家族の介護に追われ・・・「家」に縛り付けられた六十五歳の処女・如月澄(松坂慶子)は天涯孤独な身の上・・・しかし、ひょんなことから物置に仕舞われていた「カキツバタの屏風」から化け猫を解放し、完全なる封印の解除を実現するための契約を結ばされてしまう。

「行けなかった椿丘大学に行きできなかった恋をするために若返ること」・・・澄のせつない願いを成就するために変身して人の姿になった化け猫・黎(及川光博)は魔力を行使して澄を二十歳の頃の身体に若返らせ、如月すみれ(桐谷美玲)としてこの世に登録するのである。

外見は二十歳のすみれ・・・内面は六十五才の澄という一種の化け物となったわけだな。

化け猫という妖怪にも様々な種類があり、一口には言えないが・・・黎は過去に何者かによって霊力を封印された精神生命体の一種と考えることができる。

封印されるくらいなので・・・何かヒトに害を為した可能性があるわけである。

まあ・・・人間は実害がなくても異分子を迫害する傾向もあるがな。

少なくとも・・・澄/すみれにとって黎はそこそこ礼節正しい召使として振る舞うのだった。

「僕と契約してよ」というアレには注意が必要だけどな。

こうして・・・新たな青春時代をスタートさせたすみれ・・・。

しかし・・・午後十一時になると・・・突然、すみれは澄に戻ってしまうのだった。

「きゃっ」

「元の姿に戻っただけで大袈裟な・・・」

「それもそうね・・・一日だけだったけれど・・・楽しい思い出が出来てうれしかった・・・どうもありがとう」

「いや・・・これは一時的な現象だ」

「え」

「主(あるじ)様の願いが叶うまで・・・私の霊力は不安定になっているのでございます・・・そのために・・・主様に分け与えた私の分霊が抜けだしてしまうのでございます」

「・・・」

「午後十一時から午前一時までは昔で言えば子の刻・・・つまりねずみの時間です・・・私の猫魂(ねこたま)が必要以上に活性化して・・・ねずみを求めて走り出す」

「はあ・・・」

「つまり、ねこまっしぐらタイムの間だけ・・・主様は若さの根源を失うのです」

「・・・」

黎の言う通り・・・午前一時になると輝く猫魂は澄に戻り、澄はすみれに変身する。

願いが叶えば・・・黎は完全に解放され・・・暴走は鎮まると黎は説明するが・・・ひょっとしたらそうなった場合・・・いろいろと恐ろしい事態になる可能性は残されています。

なにしろ・・・相手は封印されちゃうような化け猫だからね。

化け猫はヒトを食う場合もあるからね。

そんな化け猫の魔獣の香りを・・・法力によって嗅ぎつけている住職の天野早雲(小日向文世)・・・。

今の処・・・早雲は・・・「すみれの恋路」を邪魔する障害物の可能性を醸しだしているが・・・化け猫が悪霊だった場合には「頼れる味方」になるのかもしれない。

如月家の隣人である小倉富子(高橋ひとみ)にかけられた黎の「たぶらかしの術」を一喝して解くなど・・・なかなかの法力を持った住職なのである。

魔力対法力のスペクタクルが内在している物語なのだな。

まあ、ミッチーとコヒさんではミッチーが勝ちそうだがな。

しかし、住職の悩みは目下・・・アホな跡取り息子の慶和(高杉真宙)と交際中の叶野りょう(梶谷桃子)の爛れた交際である。

「部屋を掃除しなさい・・・それから寺はラブホじゃねえよっ」

一方、束縛された魂の完全なる解放を目指す黎はすみれを煽るのだった。

「まもなく・・・バレンタインデーでございます・・・お相手の殿方を見つけ・・・恋を叶えれば満願成就ですぞ~」

「そんな・・・バレンタインデーなんて・・・若い人たちの行事ですし・・・私なんか」

「主様は・・・青春をとりもどしたいのではなかったのですか」

「・・・」

椿丘大学の黒崎明雄(小須田康人)ゼミに出席したすみれ・・・。

「おはようございます」と挨拶する相手は真白勇征(町田啓太)である。

「おはよう」

「今日も素敵なレトロスタイルだね・・・」と割り込むのはゼミ仲間の辻井健人(竹内涼真)である。

「・・・」

「例のアレは・・・どんなに小さくてもOKだからね」

健人は「チョコレートの催促」をするのだった。

ゼミの女王様きどりの幸坂亜梨紗(水沢エレナ)ととりまきの加藤菜々美(小池里奈)、大浦玲那(谷川りさこ)の性悪トリオは「バレンタインデーのチョコ作り」の話題に熱中するのだった。

女友達も欲しいすみれは会話に加わろうとするがシャットアウトされてしまうのだった。

亜梨紗は意中の人である勇征と親しげなすみれに嫉妬しているのである。

すみれは・・・黒崎教授の話から・・・ゼミを長期欠席している学生がいることを知る。

「このままじゃ・・・単位が危ないぞ」と教授。

「どうして・・・お休みされているのですか」

「さあ」

すみれの質問に首をかしげる勇征だった。

澄の最後の学校生活は半世紀前の高校時代・・・。

クラスメートが休んでいれば心配するのが・・・当然と・・・澄は考えるし・・・大学生たちのドライな気分は理解しがたいのだった。

「どうして・・・そんなに気になるの」

「だって・・・せっかく入った大学なのに・・・もったいないじゃないですか・・・」

「俺も気になって何度かメールしたけど返事がなくて・・・まさか、家を訪ねるわけにもいかないし」

しかし・・・早速・・・休学中の由ノ郷千明(秋元才加)の家庭訪問をする・・・心は六十五歳の澄/すみれなのである。

「どなた・・・」

「椿丘大学の学友です」

「まあ・・・千明のお友達なのね」

千明の母親は・・・すみれを迎え入れるが・・・肝心の千明は部屋に引きこもったままだった。

「部屋にいるか・・・夜遊びするかで・・・でも夕食の時には部屋から下りてくると思うから・・・」

「あ・・・夕飯時にお邪魔してすみません・・・すぐにおいとましますので」

「あら・・・せっかくだから・・・夕飯ご一緒にいかが・・・」

「それでは・・・お手伝いさせてください」

「まあ・・・」

空腹を感じた千明は階下のにぎやかさに不審を感じる。

食卓では千明の弟が・・・すみれの天麩羅を絶賛しているのだった。

「ママの天麩羅より美味しい・・・サクサクだよ・・・サクサク」

「本当に・・・そうね・・・どこかでお習いになってるの」

「ずっと・・・家の食事を作ってきましたので・・・」

「あなた・・・誰?」

驚愕する千明だった。

「私・・・同じゼミの如月と申します」

「え・・・知らないんだけれど・・・」

「ずっと休学していたもので・・・」

「一年間まるまる・・・?」

「由ノ郷が休学なさっているときき・・・様子をお尋ねに参ったのです」

「なんでよ・・・」

「このままだと・・・単位が不足してしまうとか・・・」

「余計なお世話でしょう」

突然、現れたすみれを持て余し・・・夜遊びに出る千明・・・。

つきまとうすみれだった。

盛り場のクラブに逃げ込んだ千明。

「ここは・・・噂に聞いたディスコ・・・」

クラブどころかディスコも知らないすみれである。

まあ・・・なんか・・・ディスコみたいな場末のクラブだけどな。

それでも浮いているらしいレトロなすみれのワンピーススタイル。

「君・・・やばい恰好だね」

「一人・・・」

たちまち群がるお約束の不良二人組・・・。

「お友達を探しているんです」

「捜してあげるよ・・・」

「それまで・・・落ちつける場所で待ってれば」

言われるがままに・・・そういうスペースに連れ込まれるすみれだった。

「とにかく・・・のみなよ」

「ご親切はありがたいのですが・・・」

「まあまあ・・・いいじゃないか・・・気持ちいいことしようよ」

いきなり・・・性欲を丸出しにする二人組。

「やめてください・・・力尽くで手篭めなんて・・・破廉恥な・・・この助平」

「何してんだ」

千明が手を差し伸べる。

「悪いけど・・・この子、私のツレなんで・・・」

「おいおい・・・じゃ・・・ちょうどいいじゃないか・・・二対二で」

「やれやれ・・・」

「あ・・・黎さん・・・」

「お逃げなさい・・・後はおまかせを・・・」

「なんだ・・・てめえは」

「おやおや・・・下賤のものが・・・なんて口の利き方を・・・お仕置きしなければなりませぬな」

「なめてんのか・・・」

「そう・・・そなたはなめたくなる・・・となりにはうっとりするほど・・・いい女が・・・いるので」

「あ」

「そうそう・・・そなたもさかりがついたけだもののように・・・むしゃぶりつく」

「あ」

「あーっ」

「あーっ」

「ふ・・・あさましい・・・」

黎の魔力によって惑わされた男たちは互いの穴を求めて勃起するのだった。

「だから・・・余計なことしないでっていったでしょう」

「でも・・・心配だったので・・・」

「とにかく・・・これ以上、私に関わらないで・・・」

千明に拒否されて立ちすくむ・・・すみれ・・・。

「ふられてしまったようですな」

「黎さん・・・あの殿方たちは・・・」

「近頃の言葉で言えばラブラブでございます」

「ラブラブ・・・」

「とにかく・・・今宵は遅い・・・帰りましょう」

「・・・」

「私としては女性ではなく男性について熱心に取り組んでもらいたいのですが・・・」

「でも・・・気になって・・・」

その頃、すみれの言葉に感化された勇征は千明にメールを送っていた。

(たまにはゼミに来ない?)

(一体、何の真似、すみれって子、何なの?)

千明からの久しぶりの返信に・・・事態を悟る勇征だった。

アゴクイされて上気する小倉富子(高橋ひとみ)がお供えしたチョコレートケーキを味わう黎・・・。

「猫なのにチョコなんて大丈夫なの」

「初めて食したが・・・なんとも・・・面妖な味じゃな」

どうやら・・・化け猫はチョコレートが気に入ったらしい・・・。

そこへ・・・昼間に電話番号を交換した勇征から電話が入る。

「女の子の家に電話するなんて・・・初めてだよ」

「私も・・・殿方から電話をもらうのは初めてです」

「ところで・・・由ノ郷くんのところへ行ったんだって・・・」

「はい・・・」

「メールをしたら・・・文句を言われた」

「すみません」

そこで・・・ねこまっしぐらの子の刻である。

前触れとして鼻がヒクヒクするらしい。ネズミの匂いを嗅ぎつけたんだな。

澄に戻ったすみれは動顛する。

「声なら大丈夫でしょう」と黎。

「もしもし」

「あれ・・・声が・・・」

「ごめんなさい・・・ごほごほ・・・少し風邪気味で」

「とにかく・・・もう来ないように言ってくれと言われた」

「でも・・・明日・・・もう一度・・・行ってみるつもりです」

「そう言うと思った・・・じゃあ・・・僕も一緒に行くよ」

「え」

「だって・・・気になるから」

「ありがとうございます」

「なるほど・・・彼が・・・主様の意中の殿方ですか」

「そんなんじゃありません」

澄とすみれの服のサイズが気になるお茶の間の方々もおいでだろうが・・・すべては黎の魔力の為せる術なのです。

ハニーフラッシュ状態」とお考えください・・・如月だけにな。

澄に戻ると立ち上がるのにも膝が痛む・・・六十五歳だった。

翌日・・・二十歳に戻ったすみれと勇征は千明を直撃するのだった・・・。

「なんなのよ・・・あんたたち・・・」

「私はただ・・・ずっと後悔していたので・・・あの日・・・ああしていたらと六十五年間・・・ずっと悔んで生きることになっては・・・もったいないと思うのです」

「六十五年・・・」

「それ・・・お祖母さんの話・・・」と勇征が・・・知らぬが仏のフォローである。

「あ・・・はい・・・そうです」

「私に関係ないでしょう・・・」

「でも・・・大学に来てくれたら・・・お友達になれるかもしれないのに・・・」

「私・・・そういうの間に合ってますから・・・これ以上・・・しつこくしないで」

「・・・」

項垂れるすみれを慰める勇征である。

「結局・・・何もできませんでした」

「そんなことない・・・少なくとも・・・俺の考えは変わったよ・・・彼女だってきっと・・・」

「・・・」

「君はよくやったよ」

勇征の「頭ポンポン」攻撃に・・・澄/すみれは眩暈を感じるのだった。

その頃・・・住職は・・・如月家に異変が起きていることを・・・小倉夫人の状態から察知するのだった。

「魔物の匂いがする・・・」

タマもモノも・・・霊的な存在を示す言葉である。

タマシイやミタマのようにタマには善霊のニュアンスがあり、モノノケやマモノのようにモノには悪霊のニュアンスがある。

しかし・・・そういう善悪は立ち場によって変わるわけである。

黎にとっての「ねこたま」が住職にとっては「まもの」となるように・・・。

しかし・・・ねこたまによって生まれたすみれが・・・千明の人生に光明を与えたことは間違いない。

翌週のゼミに姿を見せる千明に・・・喜ぶすみれ・・・。

「よかった・・・」

「勘違いしないでよね・・・私はただ学費がもったいないと思っただけなんだから・・・」

「・・・はい」

「それから・・・また・・・家に来てよ・・・お母さんが天麩羅の秘訣を教わりたいって」

「はい・・・よろこんで」

しかし・・・性悪トリオはトイレ前にすみれを呼び出すのだった。

「あんた・・・あの子とつきあうのはやめな」

「あいつ・・・浮いてんだから」

「高校時代にもツッパリで引き籠りだったっていう話だし」

「そうじゃないとあんたもハブるよ」

「ハブ・・・沖縄のヘビですか」

「え」

そもそも・・・千明が休学したのも・・・性悪トリオの陰湿な意地悪が原因だったらしい。

「めっ」

「ええ」

「大学生にもなって・・・誰かを仲間はずれにしようとか・・・いじめみたいなことに夢中になるなんて・・・悪い子ですね・・・おばあちゃんにめってしかられますよ」

「えええ」

そこに・・・千明がやってくる。

「私にも悪いところがあったら・・・あやまるよ・・・これからよろしくね」

「あなたが・・・そういうのなら・・・私もちょっと・・・やりすぎたかもしれなかったわね」

通りすがりの男子が・・・。

「ちょっとだったのか」

通りすがりの女子が・・・。

「でも亜梨紗が謝ったということが奇跡よね」

千明の家で・・・。

「ねえ・・・チョコレートも作れるの」

「いえ・・・チョコはちょっと・・・和菓子なら・・・」

「せっかくだから・・・チャレンジしてみようよ」

結局、手作りチョコレートを作るすみれだった・・・。

「変な形になってしまいました」

「しかし・・・味はなかなかですぞ」と黎。

「・・・」

「明日、これを殿方に渡す時は・・・さりげなくボディータッチをするとよろしいそうです」

「そんなっ」

バレンタインデー当日・・・亜梨紗が勇征に豪華なチョコレートを渡す姿を見て・・・結局、チョコレートを渡す勇気が出ないすみれ。

しかし・・・健人は謎の一年生西原美緒(小槙まこ)に義理チョコをもらえたのだった。

肩を落して帰るすみれを時ならぬ二月の嵐が襲うのだった。

「急に降って来たのよ」

「はい・・・こんな嵐の日に・・・財布を届けにきてくれた親切な方を簡単にお返しするわけには参りますまい・・・」

「何を言ってるの・・・」

その時・・・訪問者が現れる。

黎はすみれの財布を盗むと・・・勇征に拾わせて・・・すみれに追いつけない絶妙のタイミングを演出し・・・さらに低気圧を召喚したらしい・・・。

恐るべし・・・黎の魔力・・・。

「これ・・・君の学生証が入っていたので・・・」

「まあ・・・わざわざ・・・すみません」

「じゃあ・・・僕はこれで・・・」

「そんなに濡れて・・・風邪をひいたら大変です・・・とにかく・・・あがってらして」

あわただしく着替えを用意するすみれだった。

「あの・・・祖父の浴衣しか・・・ないんですけど・・・」

「お風呂が沸いておりますよ」と黎。

「え・・・」

「とにかく・・・身体を温めてください」

「この人は・・・」

「遠縁の黎さんです」

「お婆様から・・・すみれ様のお世話を命じられているものです」

「はあ・・・」

しかし・・・入浴してくつろぐ勇征だった。

食事を用意して待つすみれ・・・。

「古い家でお恥ずかしい・・・食事もありあわせで・・・」

「いえ・・・なんだか・・・とても落ちつききす」

「食後のデザートにこちらを・・・」

「黎さん・・・それは」

「これは・・・すみれ様が・・・真白様にとお作りになったものです」

「俺のために・・・」

「すみれ様は・・・いつも真白様のお噂を・・・」

「やめてよ・・・黎さん」

「如月さん・・・とても美味しいよ・・・これ」

「・・・ありがとうございます」

「よければ・・・あちらにお布団のご用意が・・・」

「黎さん・・・あの・・・よかったら勉強を・・・教えてください・・・わからないことが多いので」

「俺でよければ・・・」

「トリプルメディアって何ですか」

「それは・・・マーケティングの用語ですねえ」

「マーケット・・・」

「そうです・・・商業ベースでの・・・メディア・・・つまりコミュニケーションのための媒体の考え方です」

「トリプルですから・・・三つあるのですか」

「そうです・・・」

「テレビとか・・・新聞とか・・・映画とか」

「それはみんな一つ目で・・・ペイドメディアと言います。マスメディアでの広告を利用する方法という意味で・・・」

「はあ・・・」

「それから・・・次がオウンドメディア・・・素晴らしいインターネットの世界が出来てからの主流で・・・続きはウェブで・・・という奴です」

「それは・・・パソコンと関係あるのですか」

「そうです・・・すみれさんは・・・ケータイもパソコンもスマホも・・・利用していないのですね」

「・・・はい」

「パソコンには企業のホームページというものがあり・・・それぞれのコントロールが効いた自己主張を展開するメディアです」

「・・・」

「三つ目がアーンドメディア・・・昔なら口コミというところですが・・・今では素晴らしいインターネットの世界で様々な個人的表現活動がなされています。コンロールの効かないメディアですが・・・それだけに予想外の広告効果が期待できるのです」

「誰かに宣伝してもらう・・・自分で宣伝する・・・人の噂に頼る・・・こんな感じでしょうか」

「そうです・・・如月さん・・・飲みこみが早いですね」

しかし・・・黎の部屋の時計は午後九時で止まっていた。

すみれも勉強に熱中して・・・時の過ぎ去るのを忘れていた。

気がつけば・・・子の刻・・・ねこまっしぐらタイムである。

寸前に気がついて・・・動顛するすみれ。

「私・・・ちょっと・・・」

慌てて立ち上がり躓いたすみれは・・・勇征の上に倒れ込むのだった。

「きゃ・・・」

そして・・・変身する澄/すみれ・・・うわあ・・・である。

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2016年2月17日 (水)

私は恋がわからない(深田恭子)

「恋がわからない女」と言えば「デート〜恋とはどんなものかしら〜」の主人公・依子(内田愛→杏)が代表格だが・・・なにしろ・・・そういう主題のドラマである。

言葉の意味する本質というものを理解するのは至難であるという考え方もある。

「自由」というものを理解している人間もいないし、「平等」というものを理解している人間もいない。

キッドは「人殺しが何故いけないのか」を説明することにいつも困難を感じる。

教育者や肉親であれば「悪いものは悪い」で済む話だが・・・なんらかの表現者である以上、現実にあるものを禁じることに伴う抵抗感が「思考」の中に含まれているのが基本だからである。

たとえば・・・「サイコパス」は精神異常者であると断じることはできない。

どちらかといえば「サイコパス」は能力の一種である。

人間の身体に刃物を突き刺すことには生理的な嫌悪感がある。

しかし、外科医は患者にメスを入れなければ仕事ができない。

「慣れ」によって克服という考え方もできるが・・・サイコパス能力によって・・・「嫌悪」を感じない方が効率的である。

ゴルゴ13が毎回、克服していたら精神的にもたないのである。

そういう意味で「恋」も・・・非常にサイコパスな要素を含んでいる。

赤の他人と裸で抱き合ったりするわけである。

物凄く異常なことだが・・・多くの人間はそれ克服しているわけではないだろう。

克服しなければならない人は大変だよなあ・・・。

フィクションで描かれていることにクレームをつける馬鹿は「世の中には馬鹿が多いこと」をクレームの根拠にする場合が多い。

そういう馬鹿のためにこそフィクションは存在するのだが・・・なにしろ馬鹿なので理解できないのだ。

そして・・・けしてブラックではないと思われる「介護の現場」で老人が投げ落とされた時、「信じられない」と叫びだす。

信じようが信じまいがそれは「現実」なのである。

「恋」もまた・・・なんだかわからないものでいいと考える。

「恋」はよくわからないものだが・・・実際に人は「恋」をして・・・繁殖していくのだ。

で、『ダメな私に恋してください・第6回』(TBSテレビ20160216PM10~)原作・中原アヤ、脚本・吉澤智子、演出・河合勇人を見た。気がつけば「冬ドラマ」も中盤戦である。ラブ・ストーリーが主軸の今季・・・「バレンタインデー」を越えて・・・恋もねっとりと熟成しつつある。日曜日の黄昏時には女子小学生がコンビニの前で群れをなし、戦果の報告会を行っていた。心和む風景にも思えるが「恋」が絡んでいるだけに凄惨なリンチ事件が発生してもおかしくないわけである。「私の彼をとったってそりゃもう大騒ぎ」・・・「ブスたちが美少女を集団で制裁」・・・なんてことを・・・な大事件である!・・・妄想はその辺にしておけよ。

便利グッズの会社「ライフニクス」の年下の同僚・最上大地(三浦翔平)と「同棲」に向けて動き出した柴田ミチコ(深田恭子)だったが・・・最初に「同棲宣言」をする相手が喫茶「ひまわり」のマスターでミチコのファーストキスを奪った男・黒沢歩(ディーン・フジオカ)なのであった。

もう・・・お約束の三角関係なのであるが・・・ミチコが可愛いので・・・誰と結ばれてもハッピーエンドだ・・・結ばれなくてもハッピーという超絶技巧を展開中である。

なにしろ・・・基本的に・・・三十過ぎて処女の恋愛妄想なのである。

そして・・・ミチコは居候として店舗兼住居の「ひまわり」で歩と同居中なのである。

大地にとって・・・それは限りなく「彼女が他の男と同棲中」に思える状況であり・・・この状況に耐えているのは「詐欺師だから」と結論する歩だった。

「詐欺師じゃありません・・・彼氏です」

「どうでもいいが・・・お前、そのパジャマを同棲しても着続けるのか」

「え」

ミチコのパジャマは脇が綻びて穴があいている。

穏便な位置の穴だが・・・腋の下フェチが悶死する状況である。

思わずハブラシを持つ手が震えるミチコだった。

家主と仲良く歯磨きしている場合ではないのだった。

「同棲を承諾するべきか・・・」と歩の元カノである晶(野波麻帆)にアドバイスを求めるミチコ・・・。

晶は店長を務めるランジェリーショップでのデートを提案するのだった。

それは・・・明らかに・・・変態の領域だぞ。

①下着なんかどうでもいい

②どんな下着なのか・・・初見する喜び

③この下着を脱がす時のことを考えて興奮

③の人以外は・・・そんなデートはいやだと思う。

しかし・・・年下の彼氏である大地は年上の彼女の提案に服従である。

現場に立って初めて・・・それがどんなに恥ずかしい状況かを察するミチコだった。

しかし・・・猛獣である晶は容赦なく大地を吟味するのだった。

「彼女にはかせたい下着の好みで分かる彼氏の性格占い」

清楚な下着を選んだ彼氏は意外に曲者・・・。

そんなもので占われてたまるか・・・なのだった。

だが・・・デート中に着信したメールを盗み見した晶は・・・ミチコに「彼氏の浮気注意報」を発令するのだった。

メールの内容は「どうしていいかわからないから大地と一度相談したい・・・」だったのだ。

同棲したら・・・素顔を見られ、デカパンを見られ、ありのままの自分をさらけだすしかない・・・。

まあ・・・歩には・・・すでにそのすべてを見られているわけだが・・・。

「詐欺師だったらどうしようなんて悩むのは・・・ただ自分が好きなだけ・・・自分が傷つくのを惧れたら恋なんかできないよ」と煽る晶。

しかし・・・「親が病気で治療費が百万円」という「詐偽」で実際に被害者となっているミチコの気持ちは・・・晶には理解できないのである。

だが・・・ミチコは「騙されても構わないと思うほどダメな恋」に向かって走り出すのである。

話の途中で・・・ミチコが歩と同棲中だと気がつく晶。

「なんだって・・・」

「あれ・・・言ってませんでしたか」

「聞いてないよ~」

晶は自分がまだ諦められない歩とのほほんと同居しているミチコの恋の悩みに付き合っている自分に愕然とするのだった。

晶~・・・と叫びたくなる夜だった。

一方、歩の意中の人で・・・歩の兄・一(竹財輝之助)の未亡人である花屋の春子(ミムラ)はランチタイムのミチコを襲撃する。

「ここ・・・お気に入りの店になっちゃった」

「おいしいですもんね」

ミチコは歩にアシストするために・・・春子から情報を収集する。

「春子さんは好きな人がいるんですか」

「いるわよ・・・一さん・・・私ってこう見えて肉食系なの・・・学生時代からずっと好きでプロポーズも私からしたし・・・勝手にいなくなっちゃったけど・・・今も好き」

これ以上なく一途な女であるらしい。

しかし・・・保護者である歩の恋慕する相手の言葉に・・・心を動かされるミチコ。

騙されても構わない・・・一筋の恋に賭けようと決心するのだった。

会社では・・・大地が大きな仕事を獲得したことが話題になっていた。

素晴らしいインターネットの世界で評判のネットショップ番組への商品売り込みに成功したらしい。

「フローリングの床をモップがけできる・・・ロボモップ・・・モッファ」を「ネット・ショップ」の南社長(山村美智)が気に入ったらしい。

「最上はセールストークが達者だから」という販売部長(小松和重)の言葉に揺れるミチコ。

ミチコの脳内では「セールストークが達者→口が上手い→詐欺師」なのだった。

「ひまわり」でのアルバイトを続けるミチコは・・・テリー(鈴木貴之)が大地を伴って宣伝活動から戻って来たのに驚く。

それにしてもタマ(石黒英雄)はこのまま潜伏し続けるのか。

「呼び出してくれたら・・・もっと落ちつける場所に行ったのに・・・」

「アルバイトをしているミチコさんを見たかったんです」

ミチコは・・・大地を詐欺師と断定している歩が何かを言い出すかと気が気ではないのだが・・・大地の目からは・・・ミチコと歩がイチャイチャしているようにしか見えないのだった。

そして・・・「SAGIライス」を振る舞う歩だった。

「サギライス・・・」

「日替わりなの・・・昨日がトキで・・・明日が九官鳥」

「漢字ですか」

「いえ・・・Q-chanです」

「・・・」

「いつも・・・柴田がお世話になっています」と保護者として挨拶する歩・・・。

「いえ・・・彼女は営業部の女子の中で一番優秀と評判で・・・」

「なるほど・・・それでターゲットに・・・」

「あーあー」

挙動不審なミチコだった。

そして・・・ついに・・・不審な電話の相手を明かす大地・・・。

「実は・・・母が入院してしまって・・・」

「詐欺師が来た」と眩暈を感じるミチコ。

「あの・・・お父さんは・・・」

「実は母が倒れたのは入院中の父の世話に疲れたのが原因で・・・」

「両親が入院・・・の次は百万円」と緊張するミチコである。

「入院費も大変でしょうね・・・」

「ええ・・・百万単位です・・・それで・・・」

「借金申し込み」と諦観するミチコ・・・。

「同棲の件なんですが・・・しばらく保留にしてもらえませんか・・・」

「え・・・そっち・・・」

「はい・・・仕事と両親のことで手いっぱいで・・・本当にすみません・・・」

「そんなことで・・・謝る必要ないです・・・私にできることがあれば・・・言ってください」

「ありがとうございます」

詐欺師の件も保留なのである。

しかし・・・「ひまわり」から引っ越さなければならないミチコ・・・に晶が救いの手を差し伸べる。

「ウチに来ればいいよ」

もちろん・・・歩からミチコを引き離したい晶なのである。

だが・・・ミチコは晶の好意に感謝するのだった。

晶にしろ春子にしろ・・・行動の裏を邪推することはできるのだが・・・ミチコの「可愛さ」がすべてを浄化して・・・爽やかな物語にしてしまうという恐ろしいドラマなのである。

そして・・・ネットショッピングの放送中にトラブルが発生する。

肝心の商品サンプルが配送ミスでスタジオに届かないのである。

「申し訳ありません」

「仕方ないわ・・・他の商品に・・・」

「待ってください・・・小売の商品を・・・店舗から回収します」

「一時間だけ・・・待つわ」

見学していたミチコの提案で町に飛び出す営業部一同。

クールな年下の同僚・門真(佐野ひなこ)は店舗に電話をかけてしらみつぶしに・・・。

ついに爆買い現場で「最後の一個」を発見するミチコ・・・。

「すみません・・・ソレを譲ってください」

「ワタシニホンゴワカラナイノコトデス」

「誰が・・・中国語の通訳をお願いできませんか」

「はい」・・・たまたま・・・オーブントースターを購入していた歩だった。

「えええええええ」

「彼女ハ三十路ナノニ独身デ借金ガアリマス」

「ソレハカワイソウノコトネ・・・ソレデハニバイノネダンデウルアルネ」

「謝々」

歩の超有能に惧れいるミチコだった・・・。

それにしても・・・ここで怪しい中国人をからませてくるとは世界は本質的にかぶるんだな。

まあ・・・脚本家も中国人爆買いで洗脳されているからな。

演者の特性も考慮してのことだろう。

そういうことがシンクロ的関連性の本質なんだけどな。

本番中に預かっていた大地の携帯に応答するミチコ。

「よかった・・・連絡がとれて・・・」

「すみません・・・同僚です・・・最上は今・・・手が離せない状態で・・・」

「あら・・・すみません・・・慣れない入院で不安になって・・・息子にしつこく電話したので・・・迷惑をかけているのではないかと・・・また電話してしまったんですけど・・・」

親の入院が嘘ではないと判明し安堵するミチコだった。

いや・・・それはそれで大変な事態なんだけどな。

穴のあいた花瓶・・・動かない時計・・・割れたケースなどの・・・思い出の品というガラクタを整理したミチコは猫の「A5」に別れを告げ、歩にもらった「サーロインステーキ抱き枕」を抱えて晶の部屋へ引っ越す。テリーがいるので・・・引越し屋さんは呼ばないのだった。

記念日アプリにトライするミチコは引越し記念日を登録するのだった。

歩はミチコを送るのだった。

「金はちゃんと清算してもらったのか」

「通常料金分だけ」

「また・・・貢ぎグセか」

「でも・・・倍額払うと決めたのは私だから」

「いいか・・・お前はアホだ・・・だから・・・何かあったら一人で解決しようと思うな・・・」

「主任・・・」

「警察に必ず相談しろ・・・」

「主任!」

とにかく・・・本線でも対抗でいいや的状況に常連客の鯉田和夫(小野武彦)は一石を投じる。

「似てるなあ・・・薫さんに」

「え」

薫とは歩の祖母である。

「いつまでも保護者のままでいいのかな・・・」

「・・・」

鯉田は薫に恋をしていたが見守り続けてしまったらしい・・・。

その頃・・・馬鹿馬鹿しいほどにロマンチックなイルミネーション・・・中央に巨大ダイヤモンドのオブジェと噴水がある光のナイアガラで・・・デートするミチコと大地・・・。

歩とミチコのイチャイチャぶりに懊悩する大地は・・・勝負に出る。

「僕と・・・結婚して下さい」

差し出されるエンゲージメント・リング・・・。

「はい」と飛びつくミチコだった・・・。

まあ・・・最終回ではないので・・・これでハッピーエンドではないわけだが・・・それでも別に構わない。

この後・・・大地が婚約者を奪われることになっても・・・てんでハッピーになれないことはない。

ミチコが一度でもはいと言ってくれたらそれでもう充分ハッピーなのだから・・・。

ミチコ、かわいいよ、ミチコの世界はまだ続いて行く。

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2016年2月16日 (火)

一度好きになったらなかなか好きでなくならないの(有村架純)

空を見上げれば星がある。

あなたや私の世界線は不確実的だと思われるが、地球規模で考えれば半年後には太陽の反対側にいて、一年後にはまたこのあたりにいるわけである。

地球からおよそ642光年の彼方にあるオリオン座のベテルギウスは赤色超巨星で変光星である。

現在は加速的に収縮中であり、まもなく超新星爆発を起こすことが予測されている。

この時、地球ではガンマ線バーストの直撃で生命が死滅する可能性もあるがそうはならないという意見もある。

影響大ならベテルギウスの世界線が地球人類の世界線と宇宙的規模では交わっているということになる。

その時、あなたや私の世界線が延長中であるかどうかは定かではない。

しかし、和名の「平家星」が示す赤い星が青白く輝く時、あなたと私の世界線が同時に消滅する可能性があることは・・・ある意味ロマンチックだと・・・言えないこともない。

そして・・・光が到達するのにおよそ642年かかるので・・・ベテルギウスの方ではそれはもう始っているかもしれないのです。

で、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう・第5回』(フジテレビ20160215PM9~)脚本・坂元裕二、演出・並木道子を見た。人が人を恋する気持ちは厄介なものだ・・・雌にふられた雄象は街で一暴れすれば気がまぎれるだろうし、交尾しそこねた野鳥のメスなら他鳥の巣の雛を突き落とせば気が晴れるのだが・・・人間の場合は犯罪者になる惧れがあるのだった。それぞれの恋のスタイルが交錯し、両想いの二人が結ばれないのはドラマチックなことである。もちろん・・・やりたくなったらやっちゃえばいいのだが・・・誰もが悪魔ではないのだった・・・。

「君のことは好きだけど・・・俺は他の子と交際しているので・・・君と交際することはできない」

「なんじゃ、そりゃああああ」という言葉を飲み込んで曽田練(高良健吾)に従う杉原音(有村架純)である。

しかし、練は妻が妊娠中に他の女性と不適切な交際をする国会議員のようにはなれない・・・クソ真面目な男だったのだ・・・。

そういう男だから好きになったので・・・自業自得である。

そんな音を井吹朝陽(西島隆弘)は趣味の屋上天文台へ誘い・・・個人所有の天体望遠鏡で一緒に星を鑑賞する。

「東京でも冬の風の強い日には・・・星がよく見えるよ」

「凄いね」

「赤い星がベテルギウス・・・ペテルギウスとかビートルジュースとかいろいろと呼び間違いされる星さ」

「赤いね」

「好きな人のことを思いながら星を見ると余計にきれいだろう」

「そうですね」

「好きな人と一緒に星を見たらもっときれいに見えるよ」

「・・・そうですね」

「僕を好きになってくれたら・・・君に両想いをあげられるのに」

朝陽の告白に・・・音は正座で応えるのだった。

「私・・・一度好きになったら・・・なかなか好きではなくならないんです」

「・・・」

「好きになってもらおうと思って好きになるわけではないので」

「・・・僕も同じだよ」

「・・・未練もありますし」

「・・・」

「猪苗代湖って知ってますか」

「うん」

「好きな人が生まれた土地なんです・・・一緒に行ってみたかったな」

「僕とじゃ・・・ダメかい」

「井吹さんは・・・どこで生まれたんですか」

「戸越銀座」

「雪が谷大塚から五反田までの途中駅じゃないですか・・・通勤路ですよ」

「まあね・・・都営浅草線に乗り換えられるよ」

「東京スカイツリーができたら利用するかもですね」

見つめ合う二人の頭上で星は瞬いた。

練は・・・音に贈るつもりで買ったストーブを押し入れに収納する。

「柿谷運送」の仕事は「引越し屋さん」である。

「引越し屋さん」と呼ばれる度に練の心は疼く。

エレベーターでは・・・時間を奪われることに我慢ができない都会の人間が待ち構える。

「お前たちが上で止めてるから・・・待たされたよ」

「すみません」

「それで謝罪したつもりか・・・土下座しろよ」

「・・・」

金髪の上司である佐引穣次(高橋一生)がやってきて・・・スムーズな土下座をみせる。

「申し訳ありませんでした」

「チッ」

通りすがりのクレーマーが去ると穣次は囁く。

「馬鹿相手に時間を無駄にしないための儀式だと思えばいいんだよ」

「・・・すみませんでした」

正体不明の男・中條晴太(坂口健太郎)は市村小夏(森川葵)の髪を切る。

「小さい頃・・・父が浮気して母は不機嫌になった・・・家に居づらくなっていると練がお祭りに連れて行ってくれた・・・私の初恋の人なのよ」

「その初恋を僕が叶えてあげる」

「どうして」

「君が好きだから・・・」

「でも・・・練は私のことなんか・・・なんとも思ってないよ」

「君が一番最初に練を好きになったんだ・・・君には故郷という強みがある。オセロゲームで言えば枚数は少ないけど四隅を取ってるんだ」

「・・・」

「練を故郷に帰るように仕向けるか・・・邪魔ものを階段から突き落とすか」

「え」

「・・・冗談だよ」

はたして・・・晴太は小夏のことが本当に好きなのか・・・どうも疑わしい。本当は練を独占したいんじゃないか・・・いろいろな意味で・・・。

地球外生命体の線もあるしな。

バスの中で練の姿を求める音・・・。

その目に映るのは練と仲睦まじい日向木穂子(高畑充希)の姿である。

不器用な二人は不自然な素っ気なさを精一杯装う。

「今仕事の帰りですか」

「あ・・・はい・・・そちらも」

「あ・・・はい・・・それじゃあ」

「あ・・・はい・・・おやすみなさい」

「あ・・・はい・・・おやすみなさい」

練の部屋で待ち伏せる小夏と晴太・・・。

「母から電話でおじいちゃんが転んだって・・・」

「・・・」

「ケガはたいしたことないらしいけど・・・一度帰ってあげたら・・・」

「仕事が休めない」

「練・・・おじいちゃんがどこで買い物しているか知ってる?」

「商店街だろう」

「いつの話よ・・・国道沿いのスーパーができて・・・商店街つぶれたよ・・今はスーパーもつぶれて・・・車のある人は駅前まで買い物いくのよ・・・おじいちゃん、片道一時間歩いていくのよ」

「・・・」

揺さぶられる練の心・・・。

晴太は忍びのように練の携帯電話から情報を盗み読む。

練と二人になった木穂子は案じる。

「おじいちゃんをここに呼んだら・・・」

「無理だ・・・」

「まさか・・・練が東京からいなくなったり・・・」

「そんなことは・・・しない・・・それにまだ帰れない」

音は職場である「春寿の杜」のカレンダーをめくる。

「今日から・・・三月か・・・」

「がんばろうね」

同期入社の船川玲美(永野芽郁)と音の携帯端末に着信がある。

「今月末で契約期間が終了しますが・・・更新はいたしません」

「そんな・・・」

神部所長(浦井健治)は「正社員が一人くるんで・・・君たち二人の給与が払えない・・・そういうことだ」と告げる。

「投げやりにならないで・・・」と朝陽が慰める。

「なりますよ・・・私たちはちょっとずつ投げやりにならないとこういうことがあるたびに傷ついちゃうんです」

玲美は嘆く。

あのシフト地獄から・・・二人を解放して・・・この施設が利用者にどう報いるのかを考えると背筋が寒くなるわけである。

女社長の神谷嘉美(松田美由紀)に休暇について聞く練・・・。

「休みたいだって・・・」

「そのまま・・・ずっと帰郷したままだったりして」と同僚の加持登(森岡龍)。

「それで言うんだろう・・・俺が東京にいた時はああだったとかこうだったとか・・・何にもしてないくせにな」と穣次。

俯く練・・・。

一人暮らしの仙道静恵(八千草薫)の屋敷に米を届ける練。

拾った仔犬の散歩から帰ってくる音・・・。

二人は気不味いまま静恵のお茶を飲む。

「お爺さまが心配なら・・・帰ってあげたら・・・」と静恵。

「たいしたことはないみたいなので」

「音ちゃん・・・どう思う・・・」

「少し膝が痛いだけでも足が上がらくなって段差がつらくなったりすることもあります」

「だってよ・・・」

「・・・」

「二人で行ってくれば善いのに・・・」

「え」

「ちょっと」

「独り言よ・・・おやすみなさい」

静恵は退場する。

「帰ってあげればいいのに・・・独り言ですけど」

「あんたには関係ない・・・独り言だ」

「おじいちゃんには誰かがついててあげないと」

「まだ・・・帰れない・・・なんにもしてないのに」

「なんにもって・・・」

「いろいろだよ」

「私は・・・大切な手紙届けてもらって・・・東京に連れてきてもらって・・・もう言えないけど・・・心の中に・・・あなたへの感謝の気持ちをしまっている・・・心の奥の方にずっとしまってる」

「俺だって・・・同じだ・・・音ちゃんへの気持ちは・・・しまってある・・・一人に一つずつ・・・同じ気持ちが・・・そう思っている」

「だから・・・なんにもしてないってことはないでしょう」

「・・・」

「それに・・・セーターむしると・・・痛むよ」

「え・・・」

練は毛玉を作っていた。

二人の秘密を晴太が立ち聞きしていた。

静恵は晴太に声をかける。

「あら・・・晴太くん・・・」

「あ・・・静恵さん」

忍びとくのいちなのか・・・。

そして・・・もどかしい二人の恋路に・・・三月十一日が迫ってくる。

それは今日と同じ明日が来るとは限らないことを示す特別な一日。

練は故郷に電話をする。

しかし・・・老いの進む祖父の健二(田中泯)が受話器にたどり着くまでの時間は・・・練の想像を越える。

自分の部屋に戻った練は・・・高速バスの料金3420円をかきあつめる。

小夏は「恋をあきらめる決心」をして部屋の前で佇む。

しかし・・・晴太は首をふる。

もちろん・・・晴太が・・・練と音の本当の恋を祈ったとも考えられるが・・・晴太からは邪心が匂い立つのである。

なにしろ・・・ただ一人・・・正体不明の男だからな・・・。

晴太の生い立ちが最後に残されたピースなんだな・・・。

春の気配が近づく。

人生にはつらいことだけがあるとは限らない。

辛さを感じるためには楽しいことも必要だからである。

辛いばかりだと辛いかどうかも分からなくなるものだ。

音の契約は更新された。

朝陽が本社にかけあったのだ。

そのために朝陽は本社でリストラ対象者のための特別研修を受けることになった。

音は・・・終業後に本社に向かう。

朝陽は徒労感を味わうための洗車勤務についていた。

「手伝います・・・」

「無理しなくていいよ・・・また風邪でもひいたら大変だし」

「私・・・本当は・・・初めて会った日のこと・・・覚えています」

「本当?・・・ガソリンスタンドだよ」

「だから・・・洗車は得意なんですよ」

「なるほど」

練は休暇を申請した。

「三月だよ・・・どんなシーズンか・・・わかるだろう」と女社長。

「損失分は給料から引いてもらって構いません」

「三件できるところが・・・一件になるかもなんだよ」

「引いてください」

「しょうがないな・・・佐引が良いって言ったら・・・休んでいいよ」

穣次は条件を出す。

「土下座したら・・・だな」

土下座する練。

「カツかと思ったらハムカツだよ」

「カツ丼食べたいですね」

「ソースカツ丼な・・・」

「・・・」

「カレーやきそばもな・・・」

「え」

「トミーフードにロイヤルか・・・」

「・・・野口英世記念館の・・・」

穣次は会津訛りになって・・・故郷の食堂の名を並べ上げる。

「そんなに帰りたいか・・・ずるいな・・・一人で帰るなんて・・・ああ・・・帰れ、帰れ」

穣次は・・・会津のしかも・・・猪苗代町の男だったらしい・・・。

転勤してきた上司に呼び出された木穂子は・・・三年前の企画書を示される。

「また・・・企画書だしてみてよ・・・」

思わずお茶を飲み干す木穂子だった。

練は音を・・・音は練を・・・心の中で宝物としてしまいこみ・・・練と木穂子や・・・音と朝陽の恋が始って行く兆しもあった・・・。

けれど・・・運命はそれを許さない。

そして・・・晴太も許さない。

もしかしたら・・・静恵も許さない。

静恵は・・・「芋煮」を練に所望する。木穂子を連れて来なさいと誘う。

音に朝陽を誘わせる。

そして・・・晴太と小夏を呼び付ける。

静恵はただ・・・にぎやかな一日を過ごしたかったのかもしれないが・・・音と練がお似合いだと思ったのかもしれない。

なにしろ・・・身寄りのない静恵にとって・・・練と音は理想の介護人なのだから・・・。

こうして・・・三月九日の修羅場が用意されたのだった。

最初に遭遇した練と木穂子、音と朝陽のカップルは・・・ぎこちないけれど・・・なんとか平和を取り繕う。

静恵は・・・女たちを二人きりにするなど・・・明らかに悪戯心いっぱいである。

「確定申告おわりましたか」

「サトイモって皮をむくのが大変よね」

「消費税が」

「ニンジンはどう切るの」

噛みあわない会話を続ける二人・・・。

「故郷は・・・」

「神戸で生まれて北海道で育って一年前に東京に」

「私・・・福岡・・・九州ね」

「北海道と九州ってすごく遠いですよね」

「一年前・・・練が北海道に行ったって・・・」

「あの・・・大切な手紙を届けてもらって・・・それで東京に一緒に来て・・・それだけです・・・すごくお世話になったんです・・・ただ・・・それだけなんです」

「・・・」

「彼女の会社にはケータイ五台もってる人がいてね」

「うちにはポケットに唐揚げ入れてる人がいます」

微妙な会話が続くうちに・・・乱入する晴太と小夏。

「彼女の会社にさ」

「不倫相手がいるんですよね」と口火を切る晴太。

「・・・」

絶句する一同。

「楽しいですか・・・私・・・楽しくありません」と故郷の言葉で語りだす小夏だが標準語でおお届けします。

「好きじゃない人を好きだって言わないで我慢して楽しいですか。そんなの私にはわからない」

「俺は・・・木穂子さんが好きだ」

「何番目にですか・・・一番ですか」

「・・・」

くそまじめなので絶句する練に・・・泣きだす木穂子。

「好きなら好きっていえばいいじゃないですか・・・好きよ・・・好きよ・・・好きよ・・・大好きよ」

告白しながら・・・泣きだす小夏。

ただ一人・・・泣くに泣けない音だった。

静恵は・・・小夏を引きとるのだった。

少し・・・やりすぎたと反省しているのだ。

晴太は無言で去る。

木穂子はタクシーで去る。

静恵は思う。

「恋はくそまじめじゃダメなの・・・少しズルくていいの・・・」

しかし・・・くそまじめな男を愛した人々に・・・それは許されないのだった。

音は最初から「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」覚悟だったのである。

音と朝陽が去り・・・練は一人残された。

音は・・・愛する練のために徹夜で「介護のために」ノートを仕上げる。

そして・・・三月十日。

脳梗塞のために坂上二郎氏は栃木の病院で死去する。

練は木穂子にメールする。

「明日、帰ります・・・声が聞きたいです」

練は音のノートを発見する。

老人介護のための図説入りの・・・さようならの言葉・・・。

「今までありがとうございました」

そして・・・飴が一粒。

残雪の残る会津の街に降り立つ練。

早春の風に波立つ猪苗代湖で音の飴を舐める。

夕暮れ・・・練は帰宅する。

「なして・・・帰ってきた」

「電球替えに・・・」

祖父は三千円で売れる燈籠細工を五百円で卸していた。

「やっぱり・・・じいちゃんはすげえな」

「・・・」

「俺・・・東京でいろんな人に会ったよ」

「そうか」

「きっと会津と聞いただけで俺のこと思い出してくれる人もいる・・・」

「そうか」

「風呂沸いたぞ・・・」

「後で入る・・・」

「ぬるくなるぞ」

「それがいい・・・」

「そうか・・・」

「ぬるい!」

「呆けてんのかよ!」

そこへ・・・小夏がやってきた。

しかし・・・練は小夏を完全にシャットアウトする。

練は長い旅を終えて夢にまで見た故郷に帰って来たのだ。

そして・・・三月十一日がやってきた。

それから・・・五年間・・・音と練は会わなかった。

白桃の缶詰の消費期限を越えて・・・。

平成二十八年(2016年)一月・・・。

音は介護施設で主任クラスになっている。

もう・・・二十七歳なのである。

「すぐにトイレをすましてきて・・・」

「私まだ・・・」と新人。

「したいかどうかじゃなくて出せる時に出すのよ」

すっかり・・・ブラック介護が身に着いたらしい音である。

そして・・・柴犬は黒柴になった。

ダークスーツに身を固め、眉をひそめる練。

晴太が都会の雑踏に姿を見せる。

「人身事故で動かないって」

「ちっ」

練の舌打ちの音を響かせて二人はタクシー乗り場へと歩み去る。

あの日・・・洗われた日本人の心も・・・今はすっかりドス黒くなっているらしい。

なにしろ・・・放射能で汚染されたからな。

構成論的には長いフリが終わり、長いオチが始るということである。

素敵・・・。

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2016年2月15日 (月)

恋はため息と涙でいっぱい・・・信繁様への真心ゆえに(長澤まさみ)終わりの始まり(段田安則)

安土城がいつ炎上したのかには諸説ある。

安土城といっても巨大な城郭であるために・・・全焼したという確証はない。

大きなパーツを考えても、天守閣、本丸、二の丸、城下町が存在する。

このうち、本丸は天正七年(1579年)には落雷で一度、焼失したという説がある。

天守と本丸は一体化されていたという説もあるが・・・信長の宗教的特殊性から天主台として別個に存在した可能性もある。

つまり・・・武将としての信長は本丸に・・・魔王としての信長は天主に存在していたかもしれない。

安土城は信長による築城以前は観音寺城の支城であったと言われる。

明智光秀は丹波国から京に攻め入り、その後、近江国の坂本城から、安土城を攻略した。

しかし、安土城を守備していた蒲生氏が織田一族を連れ、南の日野城に脱出したために・・・得たのは財宝だけだった。

明智軍はその後、琵琶湖岸を東に進み、丹羽長秀の佐和山城、羽柴秀吉の長浜城を制圧する。

長秀は四国攻め、秀吉は中国攻めのため・・・留守であり・・・ここでも丹羽一族も羽柴一族も脱出し・・・明智軍は無意味な占拠を続け、戦力を分散していく。

秀吉と光秀は六月十三日に山崎で決戦する。

安土城を守備していた明智秀満は敗報に接し西の坂本城に撤退する。

この時、放火があり、本丸が焼失したという説がある。

しかし、本丸出火が十五日だという記録があり、この時、秀満はすでに坂本城で秀吉指揮下の堀秀政軍と交戦中であったために・・・放火犯は別にいることになる。

伊勢国から出陣した織田信雄軍が、安土城の明智残党と交戦して炎上に至った可能性もある。

周辺の農民一揆、周辺の盗賊の略奪・・・様々な放火犯が推定される。

結局・・・安土城を燃やしたのが誰かどのくらい燃えたのかは不明なのである。

とにかく・・・本能寺の変から二週間くらいは安土城周辺は大混乱だったのだ。

秀吉による乱平定後、安土城は西の丸に織田一族を収容する。

秀吉が・・・天下の簒奪を決意したのはまもなくのことだったろう。

天正十三年・・・織田の天下を象徴する安土城を秀吉は廃したのだった。

可能性としては秀吉が燃やしちゃったなんてこともあるのじゃないか・・・と考える。

で、『真田丸・第6回』(NHK総合20160214PM8~)脚本・三谷幸喜、演出・木村隆文を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は早くも三枚目の「表裏比興者」こと真田昌幸と、その娘・松の夫である小山田茂誠の二大イラスト描き下ろし大公開でお得でございます。画伯ノリノリですがあくまでマイペースでお願い申しあげます。男性陣に比べて、とり、薫、松、こう、きり、梅などの女性陣が軽いなんていう方もありますが・・・それぞれが素晴らしい個性として描かれているわけですよねえ。これだけ・・・描き分けられている戦国女性群像も最近の大河では記憶にありません。真田家初代とも言える幸隆の室であったとり・・・信玄公の肝入りで正室となった薫、信幸、信繫の姉として兄弟の面倒を見て来たかのような松、真田本家の忘れ形見であるこう、真田家家老の娘であるきり、農民の娘である梅・・・それぞれがいい味出しておりまする。特にきりと梅は・・・信繫が高校生くらいである以上・・・高校生か・・・あるいは中学生なわけで・・・これは萌えるしかございません。初恋を秘めて・・・人質となるとりに付き添い敵城へ向かうきり・・・そのせつなさ炸裂でございましたな。

Sanada006天正十年(1582年)六月十一日、北条氏政は滝川一益に本能寺の変後の親書を送り、同盟関係を確認。その裏で北条氏照軍は北上を開始。上杉景勝に通じた上野国の藤田信吉が反乱を起こし沼田城を攻める。城主・滝川益重は救援を待ち篭城。十二日、氏政は軍令を出し、氏直、氏邦、氏規らがおよそ五万人を動員。滝川勢力圏境界線に兵力を展開。十三日、一益は・・・由良、倉賀野、長尾、内藤、小幡などの上野衆を動員して沼田城を救援し、包囲中の藤田軍を撃破。天王山の麓、山崎で明智軍と羽柴軍が激突。明智光秀は撤退中に一揆勢に襲撃され自害。十四日、織田信孝は光秀の首を本能寺に晒す。安土城の明智秀満は敗報に接し坂本城に撤退。琵琶湖上を馬で越える伝説を残す。十五日、坂本城落城。明智一族は滅亡する。入江長兵衛は秀満の遺言を聞き、礼金として黄金三百両を入手する。十六日、北条勢は同盟を一方的に破棄し、滝川一益支配の上野国へ進攻を開始する。十七日、明智家の家老・斎藤利三は捕縛され即日、斬首。十八日、甲斐国主となった河尻秀隆は武田遺臣による一揆勢によって殺害される。森長可は海津城を放棄し、撤退戦を開始。

六月四日、徳川家康は三河国岡崎城から陣触れを発した。

伊賀越えを果たした者たちは・・・家康軍団の中核を為すものである。

変事を聞き、すでに、三河衆、遠江衆は臨戦態勢に入っている。

明智討伐の先鋒は重臣筆頭の酒井忠次と決まり、あわただしく先発する。

家康は服部半蔵忍びの軍団に周辺各国への斥候を命じる。

諸国を放浪した本多正信もまた忍びの軍団を持っており、甲賀衆や根来衆などの草が使いを三河に寄せてくる。

「明智の様子はどうだ」

岡崎城の家康は側室たちに緊張により疲弊した身体を揉ませながら近侍する正信に問う。

「安土の辺りをうろうろしているようでございます」

「あの男・・・少し・・・呆けてきたのではないかや」

「おそらく・・・うろたえておるのでしょう」

「やはり・・・のぼせおったか・・・」

「しかし・・・まあ、領地の丹波から・・・京を抑え・・・坂本から安土を獲るのは定石といえば定石」

「そりゃ・・・北国の柴田が恐ろしいのだがや」

「殿はいかがなさりまする」

「鳴海から尾張に入り、清州あたりで様子を見るつもりだがや、明智の出方次第で美濃から近江に討って出るのがよかろうず」

「甲斐や信濃については」

「まず、北条は上野に手を出す気だで・・・おっつけ、滝川が援軍を頼んでくるだに・・・駿府に手だしは控えるように申しておけ・・・甲斐の河尻には誰ぞ・・・使いを出す算段でや」

「本多庄左衛門では」

「信俊は織田家での覚えもめでたいで名案だに」

「河尻様にはなんと・・・」

「甲斐からの出陣を誘うか・・・それとも一時撤退を勧めるか・・・」

「庄左衛門にまかせてみては・・・」

「よきにせよ」

家康は岡崎周辺の軍勢がそろうと出陣する。

しかし、三河・尾張国境で各地からの出兵を待たなければならない。

本多信俊は甲斐国の旧武田家臣に不穏な動きがあることを察知し、徳川家の使者として河尻秀隆に美濃国への撤退を進言する。

だが・・・疑心暗鬼に囚われた秀隆は・・・信俊を六月十日に謀殺してしまうのだった。

家康は出陣前に報せを聞き、天を仰ぐ。

「次は岡部正綱に軍勢ひきつれて行かせよ」

十四日、鳴海城に進出した家康は・・・秀吉の勝利を知る。

「おったまげたでや」

「いかがなさいまする」

「忠次に一日、様子見させて・・・引き上げるのだわ」

「では・・・」

「ゆるりと甲斐を獲りにいくのだに」

十五日、甲斐国では一揆衆が旗揚げする。

家康は依田信蕃に信濃国内の旧武田家臣への呼びかけを命じる。

十八日に甲斐の岩窪館で河尻秀隆は一揆勢に攻め殺された。

二十日、家康は岡崎に戻り、二十一日には浜松城へと帰着する。

家康軍団は甲斐国境に集結しつつあった。

上州ではすでに北条と滝川の合戦が始っている。

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軍師官兵衛の安土城

天地人の信長暗殺

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2016年2月14日 (日)

世界が美しければ誰もが新世界を望んだりしないだろう(亀梨和也)調教が必要なのね(広瀬すず)

氷の上を滑走するためにはバランス感覚が必要だ。

人類がスピードを求める生き物であるのは間違いない。

素早く移動するメリットと転倒のリスク・・・失敗を重ねながら人は成功を目指して滑走を繰り返す。

はたして・・・そこに何の意味があるのかは・・・問うても仕方がない。

恐ろしいほどのスピードで滑走するものは美しい。

ただ・・・それだけのことである。

その美しさを感じるものと・・・感じないものの不毛の諍いは永遠に続く。

それが・・・人類の宿命なのである。

で、『怪盗 山猫・第5回』(日本テレビ20160213PM9~)原作・神永学、脚本・武藤将吾、演出・小室直子を見た。芸能と仮面は深い絆で結ばれている。世界中に仮面があり、仮面劇がある。日本にも能面があるのは誰もが知っていることだ。仮面はとらえどころのない人間の表情を固定したものであると言える。時には人の持つ喜怒哀楽を誇張し、時にはすべての感情を消し去った無表情を表現する。人間をこの世のものではないものに変化させ・・・普遍的な意味での人間そのものを表出する。男が女になり、若者が老人となる。そして・・・一人の青年が・・・怪盗探偵山猫になることもある。古から現代へ・・・脈々と受け継がれる仮面の物語・・・そこには善も悪もなく・・・ただ仮面があるだけなのだ。

出版社の社長・今井(神尾佑)が殺された。

今井は秘匿性の高い防犯カメラを使用しており、殺害した犯人の姿が映像として残されていた。

犯人は山猫の仮面を装着していたのだ。

警察は「山猫」を重要参考人としてマークするが・・・「山猫」が殺人を犯した疑いがあることについては発表を控える。

世間を騒がせる「怪盗山猫」を野放しにしていることは警察の失態であり、この上、「怪盗山猫」が殺人犯となれば警察の無能に対する責任追及が世論の主流になる惧れがあったからである。

「怪盗山猫」を可及的速やかに逮捕しなければ・・・その殺人容疑について触れることができないという警察上層部の判断である。

現場の刑事たちは・・・そういうことにもやもやするのだった。

自分たちが・・・何を追いかけているのか・・・よくわからなくなるからだ。

それは・・・警察官たちが正義を見失う契機の一つに違いない。

路地裏のカフェ「STRAY CATS」では・・・悪徳警官の関本修吾警部(佐々木蔵之介)が宝生里佳子(大塚寧々)に「今井の訃報」を伝えていた。

今井は里佳子の元・婚約者であったらしい。

「お悔みもうしあげる」

「昔のことよ・・・婚約破棄から・・・もう十七年・・・」

「数えているじゃないか・・・」

「数日前に・・・今井がこの店に来たのよ・・・」

「なんだって・・・」

「この指輪を預けて行った・・・」

「安物だな・・・」

「今井は・・・身の危険を感じているようだったわ・・・」

「なるほど・・・つまり・・・これは・・・メッセージということか」

「さあ・・・」

都知事選挙の投票日直前・・・。

立候補した藤堂健一郎(北村有起哉)は謎の黒幕・ユウキテンメイとつながっている。

「今、日本は未曽有の危機に直面しています・・・世界は混乱し・・・政治は漂流している。国民は不安に怯え・・・未来への希望を見失っている。今こそ、自信を取り戻さなければなりません。一番大切なもの・・・それはものづくりです。確かなものづくりこそ・・・日本人の誇るべき宝・・・東京から日本を変えよう・・・私は・・・信念をもって・・・」

藤堂の演説を見守る正体不明の謎の女(中村静香)・・・。

藤堂の語る空虚な言葉に・・・ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」第4楽章が重なって行く・・・それは一つの崩壊の予兆らしい・・・。

路地裏のカフェ「STRAY CATS」には今井から「雑誌」が郵送されてくる。

「里佳子さんに・・・何かを伝えようとしているのでは・・・」

里佳子は魔王こと高杉真央(広瀬すず)を連れ・・・今井の死の真相を解明するために足跡を追う。

今井の出版事業は経営不振に陥っていたらしい。

今井が雑誌の販売を頼んでいた源三(斉藤暁)は浮浪者同然の男だった。

「あんたが・・・流産が原因で別れたフィアンセか・・・」

「・・・」

「おっと・・・すまない・・・今井さんは酔うと・・・いつもそれを口にしていたから」

「今井に・・・変わった様子はなかったの・・・」

「やり残したことをやるって・・・言ってたな・・・」

「やり残したこと・・・」

魔王は・・・里佳子の過去に悲しい出来事があったことを知り心を痛める。

「里佳子さん・・・」

「昔の話よ・・・その子が生まれていたら・・・今のあなたくらい・・・そのくらい・・・昔のこと」

山猫を父の仇として追う霧島さくら刑事(菜々緒)は・・・殺された今井と父の源一郎(中丸新将)に接点があったことを知る。

源一郎は警察の内部情報を今井に漏洩したらしい。

狂犬である犬井克明(池内博之)はさくらに告げる。

「お前の親父は立派な刑事だった・・・情報漏洩をして小銭を稼ぐような真似はしない・・・とお前が思うなら・・・」

「私は父を信じています」

「警察の不祥事を・・・内部告発しようとした可能性が残る」

「内部告発・・・」

「つまり・・・もみ消しを惧れたということだ」

「・・・」

「あの頃・・・お前の親父は・・・覚醒剤関係の事件を担当していたはずだ」

「覚醒剤・・・ですか」

「それに気になることがある・・・細田も今井も・・・山猫の犯行が疑われているわけだが・・・細田からは四十四口径、今井からは三十八口径の銃弾が摘出されている」

「犯人が違う可能性が・・・」

「俺たちの拳銃は何口径だ?」

「三十八口径です・・・」

「・・・」

「まさか・・・」

「STRAY CATS」では雑誌記者の勝村英男(成宮寛貴)と自称・怪盗探偵・山猫(亀梨和也)が対峙していた。

山猫の犯罪者にあるまじき行動を非難する勝村・・・。

「なんで・・・アジトの前で・・・山猫グッズを販売しているんだよ・・・しかも・・・この山猫抱き枕・・・素顔さらしているじゃないか・・・犯罪者としての自覚がないにも程がある・・・それに・・・何より・・・俺のお宝・・・サイン入りの皆藤愛子写真集に落書きするなんて・・・絶対に許さん」

「だけど・・・」

「話しかけるな」

「しかし・・・」

「しゃべるな」

「でも・・・」

「お宝を弁償するまで・・・口を開くな・・・」

「・・・」

「俺がいいって言うまで無言でいられたら・・・鼻に割り箸突っ込んで炭坑節を踊ってやるよ」

アホなゲームを始めた二人だった・・・。

二人の間に友情が育っているのだが・・・レベルとしては小学生低学年である。

山猫はとあるソフトを使って読みあげ音声で語りはじめる・・・。

「ゆっくり・・・していってね・・・」

「アホか・・・」

魔王は・・・山猫を調教する必要を感じる。

ドラマでは・・・覚醒剤が単なる「犯罪的なアイテム」としてとりあげられている。

しかし・・・その恐ろしさは・・・・「キヨハラ」によって面白おかしく周知されているのだ。

覚醒剤やめますか・・・それとも人間やめますか・・・という言葉は世界を呪い続ける。

人間の精神は・・・刺激を求めている。

しかし・・・刺激はいつでも心地よいとは限らない。

不快な刺激から逃れようと・・・強い刺激を求めた時・・・人間は罠にかかる。

薬物依存の恐ろしさは自発的に摂取しようが・・・強制されて摂取させられようが・・・結果は同じだということである。

破綻しそうな精神を守ろうとして精神そのものを破壊する。

覚醒剤は人間を食うのである。

昔は・・・覚醒剤をネタにする時は・・・そういう恐ろしさを示す描写を伴うのが普通だったが・・・最近は・・・すっかり・・・周知の事実みたいな扱いで・・・なんだかなあ・・・と思うことがある。

戦争を惧れるあまり・・・歴史の教科書から・・・合戦と言う言葉を駆逐するような・・・ひ弱な社会は・・・非常に危ういと考えます。

何者かによって・・・里佳子の指輪が盗まれる。

だが・・・山猫はアジトに防犯カメラを仕掛けていたのだった。

犯人は・・・覚醒剤の常習者だった。

「お前・・・指輪を盗んだだろう」

「なななななんの・・・指輪・・・指に・・・輪・・・リングリング・・・夜が走ります」

「だめだ・・・完全に精神が・・・」

「ヤクが切れてんだろ」

山猫は覚醒剤を常習者に使用した。

「な・・・・なんだ・・・お前らは・・・」

「お前・・・指輪を盗んだだろう」

「はい」

「どこだ」

「ここ」

「誰に頼まれた」

「覚醒剤をくれる人です」

「・・・」

通報を受けたさくらは・・・震える常習者を逮捕する。

「父は・・・こういう人を出す社会を憎んでいた・・・」

さくらは・・・父の臨終の場を思い出す。

逃げていく山猫・・・。

そして・・・やってきた・・・同僚の刑事・・・。

「あいつが・・・」

カフェ「STRAY CATS」では山猫が謎解きを渋っていた。

魔王は山猫を調教する。

調教の基本は餌を与えることである。

命令に従えば餌を与える・・・服従しなければ与えない。

人間はそうやって人生を始めるのだった。

「豚キムチ味よ」

魔王は新作カップラーメンで山猫を服従させた。

山猫が魔王を保護し、魔王が山猫を調教する。

複雑な人間関係である。

しかし・・・一方的な支配関係よりも・・・そういうプレイが混在する方が健全な場合がある。

「おあずけ」

「ニャン」

「おて」

「ニャン」

「協力」

「ニャンニャン」

山猫は謎を解いた。

特殊なライトで浮かび上がる指輪に隠された桜のマーク。

雑誌に掲載された桜の写真にも・・・同様の仕掛けがあった。

浮かび上がったのは素晴らしいインターネットの世界のアドレス。

「このページにはパスワードが必要だ」

「コンビニで二人の若い男がレジにたっている」

「なんだよ・・・」

「二人の青年がピッ」

「二人の生年月日・・・か」

里佳子は今井と自分の生年月日を入力した。

そこに現れたのは・・・覚醒剤をめぐる恐ろしいシステムの記録だった。

「覚醒剤がメニューにあるレストランか・・・」

実状を確かめに行った勝村と里佳子はあっさりと捕縛されてしまうのだった。

さくらは福原刑事(渡部豪太)を問いつめていた。

「あなた・・・父を撃ったの・・・」

「馬鹿な・・・」

「あなたが・・・覚醒剤を横流ししている証拠を・・・父は今井に流していたのよ」

「だが・・・その証拠はすでに回収したよ」

「あなたを逮捕するわ・・・」

そこへ・・・森田刑事(利重剛)がやってくる。

「残念だったなあ・・・」

森田はさくらに拳銃をつきつけた。

「まさか・・・あなたまで・・・」

「こんなこと・・・一人でするのは・・・大変なんだよ」

危険なレストランに連れ込まれたさくらは・・・すでに捕縛された勝村に驚く。

「先輩・・・」

「みんなまとめて・・・始末してやるよ・・・」と福原刑事。

「最後のお願いだ・・・真相を聞かせてくれ」

「いいだろう・・・俺たちは覚醒剤を押収する・・・どのくらい押収したかは・・・報告書に記載するが・・・その数字を調節するのは簡単だ。俺たちは覚醒剤の横流しで稼ぐ。なにしろ・・・元手がいらないので・・・どんどん儲かる。ついにこんなレストランまで手に入れた。ここで覚醒剤を買っても・・・経費で落ちるので・・・幅広い利用者が見込める。ところが・・・さくらの父親に勘付かれた・・・さくらの父親は・・・不祥事をもみ消される惧れを感じて今井に情報を流した。ところが・・・今井は俺たちに金をせびりだしたんだよ。俺たちは・・・情報源であるさくらの父親を始末した。山猫の犯行に見せかけてな。二年前のことだ。ところが・・・今井が急におかしなことを始めたんで・・・始末したんだよ・・・じゃあ・・・死にな」

福原刑事は勝村に銃口を向ける。

「やめて・・・撃つなら・・・私を撃ちなさい」

勝村を庇うさくら。

「だから・・・みんな・・・殺すってば・・・まあ、先にあんたを親父のいるところへ・・・」

「俺の負けだ・・・お願いだから・・・なんとか言ってくれ」

勝村はライター型盗聴器に向かって叫んだ。

魔王は例によって館内放送を乗っ取る。

「エスオーエス・・・今日も・・・また・・・誰か・・・乙女のピンチ~」

「なんだ・・・これは」

「はい・・・今の告白すべて・・・録音させていただきました・・・警察に同時中継したので・・・もうすぐパトカーがやってきますよ」

森田は福原を撃った。

「え・・・」

森田はすべての罪を福原に着せるつもりだった。

森田は仮面をつけた従業員に囁く。

「始末しておけ・・・俺は金とブツを回収しておく」

頷く仮面の男。

しかし・・・それは山猫だった。

山猫は他の部下を射殺して・・・森田を追う。

「お前・・・」

「金とブツはもらった・・・」

「・・・」

「俺も悪党だ・・・あんたを責めたりはしない・・・」

「・・・」

「だけど・・・市民の安全を守るために・・・あんたも警官になったんじゃないのか」

「責めてるじゃないか」

「悪い奴を・・・逮捕するのは簡単だ・・・しかし・・・悪は滅びない・・・いつか・・・心が悪に傾いていくことだってあるだろう」

「・・・半島から列島に覚醒剤が送り込まれてくる・・・たが・・・それを止めるには戦争しかないんだ・・・ところが・・・この国では戦争は覚醒剤より悪だからな・・・結局、野放しにするしかない・・・日本は・・・平和を守るために覚醒剤とつきあっていくしかないんだよ・・・」

「あの刑事は言ってたぜ・・・俺にまちがってるって言うために・・・そういう社会を・・・正したいってな」

「・・・」

「なぜなら・・・正しいことは・・・きっと美しいんだよ」

「まあな・・・汚れた俺たちは楽しんだ・・・奴より長生きしたしな」

「ここで・・・殺してもいいけれど・・・死刑になりなさい」

山猫は森田の足を撃ち抜いた。

「くそ・・・」

到着した犬井は・・・福原刑事の死体を蹴りあげた。

「仏さんになんてことを・・・」

「悪党は死んだって仏なんかにゃなれないんだよ」

そして・・・勝村は怪しい踊りを踊るのだった。

藤堂健一郎は当選した。

首都東京に闇が迫っているらしい。

関連するキッドのブログ→第4話のレビュー

Ky005ごっこガーデン。休憩時間にチョコをあげようバレンタイン祭りセット。

エリ男と女は調教したりされたりあっは~んなのでス~。社会というものはしつけとか教育とか・・・言葉は違うけれどカタにはめることで成立するのでス~。立派なレディーになるためにはいろいろと身につける必要があるのですね~。今は山猫先輩にあ~んさせるエレガントさを練習中でス~。じいや、チョコのおかわりヨロシク~

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2016年2月13日 (土)

私たちは時々可愛いし時々残酷なことをする(綾瀬はるか)

「デカメロン(十日物語)/ジョヴァンニ・ボッカッチョ」は教科書にも登場する十四世紀の文学作品である。

その名を聞いた時、ほとんどの中学生男子は浮かれた気持ちになるし、半分くらいは「メロンパン」を連想する。

そして、感性の鋭いものは勃起するわけである。

ある時期の人々は「デカメロン伝説/少年隊」に思いを馳せるだろう。

十四世紀・・・ヨーロッパではペストが大流行し・・・街は死体であふれた。

ペストを惧れる男女が十人・・・屋敷に引き籠る。

彼らは退屈をしのぐために一日にそれぞれがひとつの「話」を披露する。

たとえば・・・騎士の亡霊が美女を殺し猟犬に内臓を貪り食わせる怪異をめぐる求婚の話・・・とか。

こうして十日目には百の物語が紡がれるのである。

「施設」を出て「自由」になれば「解体される運命」が待っている「提供者」たちは・・・。

まさに・・・「デカメロン」的状況に置かれているのである。

時代が変わっても恋人たちは見つめ合い伝説を作るのだ。

で、『わたしを離さないで・第5回』(TBSテレビ20160212PM10~)原作・カズオ・イシグロ、脚本・森下佳子、演出・山本剛義を見た。多くの人間は「嘘が悪である」と教えられて育つ。「嘘」というものは複雑な概念であり、「話」が虚構である以上、「本当の話」も「嘘」に過ぎない。この矛盾に適応するために・・・「嘘」は「善悪」で判断される。「ついて良い嘘と悪い嘘がある」などという戯言を人は概ね信じるわけである。この世を「話」でまとめるのは傲慢なことでもあるし、せつないことでもある。そういう「話」に「そんなのありえない」とか「馬鹿馬鹿しい」とか難癖つけるのは・・・結局、馬鹿の証なのである。

めくるめく・・・この世界の真実の姿を・・・人はありのままに描くのだ。それぞれに。

結局・・・保科恭子(鈴木梨央→綾瀬はるか)と酒井美和(瑞城さくら→水川あさみ)はどうしようもなく同胞としての関係を続けるしかないのだった。

最初から親なき子として作られ、「陽光学苑」で幼少期から馴染み、個性による違いはあっても・・・同じ「提供者」なのである。

提供を開始した美和の面倒を介護人の恭子が引き受けるのは・・・極めて自然な行為だった。

恭子は・・・美和の好きな料理を作って与えるし、美和の好きそうな「映像作品」を調達する。

「こういうのが観たかったのよ」と美和が喜べば、「そうでしょうね」と恭子は微笑む。

恭子にとって・・・美和は・・・幼馴染であり・・・親友であり・・・恋仇であり・・・そして仲間なのだった。

求められれば応ずるしかないのである。

一方・・・提供者同志の三角関係を経て・・・疎遠になっているらしい土井友彦(中川翼→三浦春馬)も・・・介護人の珠世(本間日陽和→馬場園梓)が提供を開始することになり・・・次の介護人に恭子を希望する。

ここで恭子の介護人の期間が長いのは偶然とは言えないような気がする。

恭子には・・・特別な猶予が与えられているのかもしれない。

それは・・・希望というにはあまりにも虚しい希望である。

「恭子・・・どうかな」

「まだ・・・わからないよ」

「いいよ・・・そうなったらいいな・・・って思うだけだから」

「そうなるといいよね」

《現在》➢➢➢《回想世界》

恭子は「コテージ」で立花浩介(井上芳雄)と出会い、つかの間、孤独から解放される。

介護人研修の時間以外は、食べて寝て・・・生殖を伴わない性的行為をするしかない提供者にとって・・・パートナーがいないことは一つの地獄だった。

そこで性的な喜びを知った恭子は・・・それなりに充実した日々を過ごす。

自分が性的な行為に対する欲求が強いことも素直に受け止める恭子だった。

しかし・・・年長者である浩介は先に「介護人」となり、「コテージ」を去って行く。

浩介は・・・恭子との「疑似恋人」関係に終止符を打ち、旅立っていった。

おそらく・・・恭子はその後も・・・「コテージ」の男たちと適当に寝たと考えられる。

一般男性の峰岸(梶原善)は相変わらず提供者たちに毒舌を吐く。

「ほれほれちゃんとやっとけよ・・・マザーサッカーどもが・・・コロコロうまいこと球を転がしやがってよお前らは夜のマラドーナかよ・・・ふざけんじゃねえぞ」

人間の言葉に・・・提供者たちは戸惑いを感じる。

「マザーサッカーってなんだろう」

「マザーってのは母親ってことだよな」

「俺たちには細胞提供者ってことだよな」

「人間には母親に対する特別な思いがあるんだってさ」

「本当はマザーサッカーじゃなくてマザーファッカーだよ」

「なんだい・・・それ」

「母親と性行為をしろという罵倒らしい」

「母親と性行為をするってどういうことなんだろう」

「高齢者に挿入することが珍しいという意味なのではないだろうか」

「確かに高齢者にはあまり性的魅力を感じないな」

「そういう意味でこの変わりものってぐらいのニュアンスかな」

「なるほどねえ」

「いや・・・人間には近親相姦をタブー視する文化があるから・・・それを推奨するというところには・・・揶揄の要素が強いという話を聞いた」

「ふうん」

「コロコロ玉ってのは」

「睾丸のことかな」

「女のことをタマっていうらしいぜ」

「睾丸を女の上で転がしてる感じかな」

「お・・・ちょっと今度試してみよう」

「あの人、面白いこと言うから憎めないよね」

「夜のマラドーナって・・・」

「陰茎のことを魔羅っていうらしいぜ」

「マラドーナって伝説のサッカー選手ですよ」

「つまり・・・夜のマラドーナってことは」

「伝説的に魔羅が凄いってことだなあ・・・」

男たちの雑談を聞き流す女たち・・・。

「そういえば・・・恭子も何か言われてたわよね」

「乳が牛みたいだとか・・・デカメロン伝説とか・・・」

「・・・」

「デカメロンもスイカップほどじゃないわよねえ」

こぼれていく時の砂・・・。

彼らは細胞提供者によるクローン人体であるらしい。

クローン人体による臓器提供が合法化された社会で、クローン人体には人権がないことが暗示されている。

臓器提供にはレシピエントの拒絶反応が問題になるが・・・ドナーを豊富に確保すれば解消される問題である。特別な経済力があれば・・・自分のスペアとしてクローン人体を確保できるのだろう。場合によってはそれが社会的不公平であるということで禁止されている可能性もある。誰もが平等に提供者から提供されるべきであるという論理である。もちろん・・・臓器移植に最も適合したオリジナルからのコピーの利用は闇で行われるだろうけれど。

そういう世界で・・・提供者たちは・・・自分のルーツである「細胞提供者」に漠然とした憧れを抱いている。

基本的に彼らは「オリジナル」のために作られた「コピー」であるという被害者意識は薄い。

最初から「提供者」なのであって・・・「人間」が「提供者」を残酷に処理することに対しては諦観しているのだ。

もちろん・・・そうではない「提供者」も描かれるはずである。

しかし、「核武装した世界」で「核兵器の破棄」を叫ぶことは意外に困難なことなのだ。

「拉致被害者の解放を求める国家」と「拉致被害者の存在を否定する国家」のどちらかが正しいことに両者が同意することが困難なのと同じである。

「浮気くらいいいじゃないか」と「絶対に許さない」が・・・もう、いいか。

「男性用性的娯楽誌」を閲覧中の恭子・・・。

「へえ・・・恭子もそういうの観るんだ・・・なになに・・・安心してください・・・中は顔出ししてますよか・・・凌辱プレー系ね」

「違うの・・・」

「違うって・・・何が」

「私・・・結構、好色みたいなのよ」

「あらあら」

「だから・・・こういう人たちの中に・・・私のルーツの人がいるんじゃないかって・・・」

「馬鹿ねえ・・・こういう人たちが好色とは限らないのよ」

「そうなの・・・?」

「経済的に困ったり・・・アイドルになろうとして騙されたり・・・中には覚悟を決めて脱ぐ人もいるみたい」

「こういう人たちも・・・一種の提供者なのかしら・・・それとも提供者が」

「それはないと思う・・・人間の異性間の権利意識は高いから・・・人間でないものに異性が性的関心を持つことは許されないはず・・・なんて云ったかしらね・・・キモ・・・キミ」

「キモい」

「そうそう・・・人間の男が提供者の女に手なんか出したらきっとキモいって言われるのよ」

「・・・」

一昔前、白人と有色人種の間にはそういう感情的齟齬が確実にあった。

「鉄腕アトム」ではロボット妻と結婚しようとした人間の男性が爆弾を投げられるのだった。

おタクがロリコンであれば今もなお・・・もう、いいぞ。

自分たちがどこからきて・・・どこへ向かうのか。

親の記憶が全くない提供者にも・・・漠然としたルーツへの思慕があるのだった。

もちろん・・・それは・・・完全なる孤児以外の人間には・・・空想の領域である。

恭子のところへ・・・友彦がやってくる。

「実は・・・譲二さんが・・・美和のルーツを見たらしいんだ」

「・・・」

譲二(阿部進之助)は街に外出中、加齢した美和にそっくりの美容師を目撃したと言う。

譲二のパートナーである金井あぐり(白羽ゆり)は美和に「滅多にないことだから会ってみたらどうか」と持ちかけたという。

しかし、美和はあまり乗り気でないので・・・恭子に説得してもらいたいと友彦は言うのだった。

ここでは基本的に提供者たちは「ルーツに会いたい」と思うのが自然な感情であるという設定である。

特にあぐりや友彦にとってはそうらしい。

しかし・・・恭子は漠然とした不安も抱いている。

それは恭子も同様だった。

「会ってどうなるものじゃない・・・」

「そりゃ・・・そうね・・・こっちは提供者で向こうは人間なんだし」

「それに・・・ルーツが残念な感じだったら嫌だわ・・・オリジナルが残念だったらコピーだって残念ってことになるでしょう」

「でも・・・もしかしたら・・・素晴らしいオリジナルかもしれないし・・・」

自分の出自が・・・貴い人間かもしれないという夢想に美和は屈服した。

それこそが・・・美和の望むことであり・・・恭子はそれをよく心得ている。

提供者も自動車の運転を許されている世界に・・・違和感を感じる人も多いだろう・・・走る凶器を奴隷に与えていいものか・・・と。

しかし・・・彼らに対する支配はおそらく相当に巧妙になされているのである。

あるいは・・・牛や馬も・・・車を牽くほどのことなのかもしれない。

譲二の運転する車で・・・外出する五人。

特別に外出のために三千円のお小遣いがプリペイド・カードに入金される。

それもおそらく・・・介護人研修中の提供者に与えられた特権なのである。

いつも不機嫌な恭子だが・・・情緒は不安定である。

「みんな・・・別についてこなくてもよかったのに・・・」

「悪いじゃない・・・せっかく親切で・・・」

「いいのよ・・・不安な気持ちわかるわ・・・」

「・・・」

五人はせっかくの自由なひとときのためにドライブ・インで食事をする。

「私・・・カレーでいい」

美和は様々なメニューの中からいつも食べているアラカルトを選択する。

同意する三人たちの中で・・・同調性のない友彦は好奇心の赴くままに注文するのだった。

「俺・・・ジャンバラヤ」

そして・・・無心にジャンバラヤを食べるのだった。

一種の知的障害者あるいは発達障害者さもなくば自閉症スペクトラムなんだよな・・・友彦は・・・。

しかし・・・提供者たちにとってそういう差異は些細な問題なのだろう。

なにしろ・・・彼らは人間ではないのだから。

友彦が特殊な存在であることを恭子も美和もそれほど意識している様子はない。

演じているのが三十代の女優で・・・二十代の男優であることが微妙な関係性を自然に演出しているのが配役の妙と言える。

「そういえば・・・陽光学苑には特別な猶予があるって言うわよね」

「・・・」

「愛し合ったカップルは・・・それが認められれば・・・提供が猶予になるという噂だけど・・・本当かしら」

「・・・」

「その噂なら聞いたことがあります」

美和はいつものように話に乗るのだった。

トイレで恭子は真意を確かめる。

「あぐりさんたちの機嫌を損ねたら・・・引きかえすとか言い出すかもしれないでしょう」

「でも・・・そんな噂ないし・・・」

「陽光に問いあわせたけどわからなかったと言えばすむ話じゃない」

用心深い恭子は・・・臨機応変な美和に戸惑う。

しかし・・・それが二人の・・・疑似主従関係なのだ。

美和は恭子に甘え・・・時には美和は恭子を庇うように振る舞う。

美和は・・・恭子の主人であり・・・恭子は美和の母親代わりなのだ。

閉鎖された社会で・・・提供者たちの人格のモデルとなる教師たちは・・・その二つのタイプに分類されたからである。

恭子は自分とそっくりの人間と出会う。

しかし・・・用意した質問・・・何故、細胞を提供したのか・・・自分の存在を知っていたのか・・・美和という名前に心当たりがあるか・・・を口にすることはできない。

「お水を買いたいのですが・・・」

親切な美容師は・・・地図を描いてくれた。

礼を言って戻ってくる恭子。

「彼女・・・左利きだった・・・」

利き腕は絶対的な遺伝的特性ではないが・・・恭子は結局、ルーツを不明なままにしておく気持ちになったのだった。

「ざまあみろ・・・って思っているでしょう」

「そんなことないよ・・・」

「どうせ・・・細胞提供者なんて・・・アル中かヤク中か・・・自己破産者か・・・社会のクズに決まってるもの」

「・・・」

「私のルーツが立派な美容師さんじゃ・・・あなたの負けだもの・・・」

「そんなことで・・・勝ち負けなんて・・・」

「恭子は・・・パートナーがいなくなって・・・私を怨んでいるんでしょう」

「別に・・・彼とは喧嘩して別れたんじゃなくて・・・ただ時間切れになっただけだし」

「・・・」

そこへ空気を読まない友彦がやってくる。

「この近くに・・・のぞみがさき・・・あるって・・・」

「え」

「失くしたものが漂着するという伝説の海岸だよ・・・」

「・・・」

「一緒に行こうよ・・・」

「私は行かない」

仕方なく・・・恭子は一人で駅に向かう。

しかし・・・恭子の身を案じた譲二が・・・友彦に付き添いを命じるのだった。

残った三人はなんとなく楽しそうな遊園地に向かったらしい。

「次は・・・のぞみがさき・・・」

車窓から見える海に・・・新鮮な驚きを感じる恭子と友彦。

恭子にとっては・・・夢にまで見た友彦とのおでかけだった・・・。

しかし・・・のぞみがさきは・・・漂流物の積み重なったゴミ捨て場のような海岸だった。

「結局・・・あぐりさんたちは・・・あの話が目当てだったのかもしれないね」

「・・・」

「そんな噂なんかないのに・・・」

「これ・・・」

友彦はドナー支援者の一人・・・龍子(伊藤歩)から届いた手紙を見せる。

「元気ですか・・・あの頃・・・若かった私は・・・あなたに間違った希望を抱かせて・・・傷つけてしまいました。しかし・・・詳しくは話せませんが・・・陽光学苑には希望が隠されていたのです。絵を描くのは素晴らしいことだったのです。今からでも遅くありません・・・絵を描いて・・・学園に届けてください・・・」

「これが・・・猶予なんじゃないか・・・恋人が愛し合っていることを証明する手段」

「え」

「絵が魂を写し出すって・・・先生が言ってただろう・・・」

「・・・」

「もしかしたら・・・そうやって猶予されれば・・・サッカーを・・・」

「そんなの・・・無理よ・・・猶予なんてないことは・・・もう・・・わかっているでしょう」

突然、子供の時のように癇癪を破裂させる友彦・・・。

「待って・・・どこにいくの・・・」

「・・・」

「何を怒っているの」

「先生は・・・失くしたものがここにあるって言った」

「・・・」

友彦は目についた店に飛び込み・・・自分が恭子に贈ったけれど無くなってしまったプレゼントを捜す。

「こんなところに・・・あるわけないわ・・・」

しかし・・・突然、店内に流れ出す「Songs after Dark/Judy Bridgewater」の収録曲。

「Never let me go(わたしを離さないで)」・・・。

「そんな・・・」

「これは・・・有線放送ですか」

「いや・・・」

店主(大友康平)は「Songs after Dark/Judy Bridgewater」のジャケット・ケースを示す。

「それ・・・売ってもらえますか」

「こんなものを・・・構わないけど」

「これで買えますか・・・」

差し出された提供者専用のプリペイドカードを見て一瞬、動揺する店主。

その姿に・・・ゴキブリを見たようなと・・・真実(中井ノエミ)が表現したマダム(真飛聖)の表情を連想する恭子・・・。

「ごめんね・・・それを読みとる機械は置いてないんだ・・・」

「・・・」

「あげるよ・・・あんたたちには充分もらっている・・・こんなものでよければ・・・お返しするよ・・・ありがとう・・・あんたたちもがんばって・・・提供してくれ」

「ありがとうございます」

「家畜」に優しい「人間」だったらしい。

恭子は「奇跡」に驚くのだった。

二人は・・・古びた気動車に乗り込む。

「俺は・・・夢って叶わなくてもいいんじゃないかって・・・思うんだ」

「え・・・」

「テレビで・・・サッカー選手になりたかったけどなれなかった人の話を聞いた・・・」

「・・・」

「でも・・・その人は・・・夢を見たことは悪いことじゃなかったって言ってた」

「・・・」

「俺も叶わなくても夢を見たいんだ・・・」

恭子は涙が止まらない。

「・・・」

「どうしたの・・・」

「あのね・・・私やっぱり・・・友彦のこと・・・好きだなって・・・思って」

「・・・」

「でも・・・そういう意味じゃないんだからね」

遊園地に行った美和は機嫌が直り・・・恭子にお土産を買った。

リスのポストカードには「ごめんね」の文字が書かれている。

「これじゃ・・・出せないじゃない」

「誰かに謝る時に使えばいいじゃない・・・」

(美和は・・・時々・・・可愛いことをする・・・)

「良かったよ・・・門限に間に合わなかったら・・・解体されちゃうところだった」

「彼女・・・相当に疲れたのね・・・」

「ああ・・・ルーツに会えるかもしれないとと思ったら・・・昨日から眠れなかったんだろう」

周囲を疲れされる美和は自分自身が疲れ果て熟睡していた。

友彦は恭子の愛の遮断機が開いたことを感じ手を伸ばす。

恭子は欲しかったものに小指をからめる。

欲情の炎が恭子の存在するだけの子宮に点火する。

あぐりは気がついた。

恭子と友彦の手が性的な意味で握られていることを・・・。

(恭子は・・・時々・・・酷いことをする・・・)

そして、提供者たちに残された時間は・・・あまりにも短いのだ。

従順な羊である恭子も・・・夢に向かって歩き出す。

性的な欲求が強い性質だったからである。

無慈悲な世界の中で小さな希望の灯が点いた。

しかし・・・その灯りは夜道を照らすことはない。

漆黒の闇の中で・・・禁煙者がしまいこんだライターの如く・・・儚いのである。

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2016年2月12日 (金)

あらき風にもあてぬ身を裸になして縄をかけ(早見あかり)お初がかわいそうやねん(青木崇高)

冬のラブ・ストーリー・・・。

(月)は中盤・・・ラブ・シャッフルである。

(火)は主人公がかわいすぎるのでトライアングルそっちのけ。

(水)は六十五歳のバージンの「アゲイン」である。

(木)は・・・もう・・・「愛」とか以前に・・・「人生」が悲しくて大爆笑。

(金)は究極の尽くすタイプ。

(土)は悪い人と女子高校生の純愛。

(日)は側室だって愛がある戦国絵巻である。

この素晴らしい愛に満ちたシーズン。

なんだろう・・・世界が終わるのかな。

で、『ちかえもん・第5回』(NHK総合20160211PM8~)脚本・藤本有紀、演出・川野秀昭を見た。全八話とすると第二章突入の「起」とも考えられるし、「転」の前篇とも考えられる今回。お初(花田鼓→早見あかり)の身の上が明らかとなり、時代劇ファンにはよくある話なので予想通りの展開だが・・・「曽根崎心中」ファンには話が予想外の方向に進んで戸惑うところ・・・。とにかく、どこに転がって行くのかわからない「話」に手に汗握る今日この頃である。それにしても芸達者なメンバーに囲まれて・・・ほとんど持ち前の「存在感」だけで「今回」を演じ切ったアイドルから転身した女優には・・・この「役」を演じられる喜びを噛みしめてもらいたい。ここからどれだけ精進するかが「女優人生」なのである。

もちろん・・・人形のような顔立ちに・・・九才で遊女となった武士の娘という役は・・・ほとんど「素」で嵌り役なのである。

嵌っているが・・・物足りないところはいくらでもあるということだ。

なにしろ・・・こういうすべてをわかっているスタッフはざらにはいないのがこの業界なので。

今回は本当に恵まれていると思うのだった。

ちかえもんの母の喜里(富司純子)が読み聞かせる浄瑠璃「出世景清/近松門左衛門」(1685年)の一節に・・・不孝糖売りの万吉(青木崇高)は折檻を受けていたお初の歌を思い出す。

「父は都の六波羅へ・・・虜囚となりてあさましや・・・憂き目にあわせたまうとの・・・その音信(おとづれ)を聞きしより・・・思いに思い積み重ね」

「お初が歌ってた」

「なんや・・・お初・・・出世景清・・・観てたのか・・・」

お初が何故・・・その歌を・・・とは思わず、店で一番器量がいい遊女が・・・自分の作品を鑑賞していたことに有頂天になる近松門左衛門(松尾スズキ)だった。

アホである。

一方・・・シリアスモードの色茶屋・天満屋の一室。

遊女のお初に油問屋の黒田屋九平次(山崎銀之丞)は問いかける・・・。

「お前は平野屋の若旦那じゃなくて・・・大旦那が目当てだろう」

「何を仰いますのやら・・・」

「ふふふ・・・京都に人をやって・・・お前さんのことはあらかた調べたよ」

「・・・」

「お前は平野屋の懐にもぐりこみ・・・仇討しようという魂胆だろう」

「・・・」

「だが・・・そいつはあまりにも気の長い話だ・・・どうだい、俺と手を組んで・・・平野屋の身代をそっくりそのままいただくってのは・・・」

「お断りや・・・わての邪魔をせんといて・・・わてにはわての・・・」

「ふ・・・さすがは武家の出やな・・・」

「・・・」

色事の場に不似合いな殺気を孕んだ男と女であった・・・。

そんなこととは露知らず・・・浄瑠璃「赤穂義士~言うても詮無いことなれど」は討ち入りの場面にさしかかる。

赤穂浪士の場合は・・・あまりにもおばかさん

赤穂浪士の場合は・・・あまりにも悲しい

元禄十六年の二月四日 

江戸の街に消えた命・・・四十六・・・

「アホか・・・誰がフランシーヌ・ルコントですか」

「死んで花実が咲くものかですよ・・・お母さん」

「フランシーヌはちょっと鬱だったのよ」

早くも「駄作」の香りがする出来に・・・嘆く母であった。

「ちかえもん・・・便所に紙がないよ」とどこでも居候の万吉。

「やめんかい」

「わが子が・・・便所紙作者になろうとは」

「なんちゅうことを・・・それは傑作・・・出世景清」

「そやけど・・・おもろないねん」

「いいもん・・・愛してくれるファンがおるもんね~」

屈辱に耐えかねて家を出るちかえもん。

酷評に弱い作者はいつの時代にもいるのだった。

すでに浄瑠璃「出世景清」については述べたが・・・景清とは「源平合戦」(平安時代末期~鎌倉時代初期)の頃に実在したと言われる平家の家臣・藤原景清であり、「出世景清」は彼をモデルとしたフィクションの一つである。

すでに平家は滅亡し、流浪の身である景清は・・・源頼朝を仇と狙うお尋ね者。

京に潜伏中の景清は遊女・阿古屋とねんごろになり二人の男子を儲ける。

景清の行方を追う六波羅方は景清の妻・小野姫の父である熱田の大宮司を捕縛し、取調を行う。

小野姫は父を案じて六波羅を訪ねるが梶原源太に捕まり責め問いの憂き目にあうのである。

六条河原で裸にされた小野姫は水責めの拷問の後で木に吊り下げられて古木責めを受け無惨な姿となるのであった。

昔も今も残虐なシーンは観客をうっとりとさせる見せ場なのである。

まさに・・・傑作・・・どうかお見逃しなきよう・・・。

しかし、初演から十八年・・・今では誰もが忘れかけた名作「出世景清」への賛辞を期待してちかえもんは天満屋のお初を訪ねるのだった。

「お初・・・まさか、お前が観てくれとったとは・・・いつや・・・いつ頃観たん?」

「人形浄瑠璃みたいなもん・・・誰が見るか」

脆いハートを狙い撃ちされたちかえもんだった。

傷心のちかえもんは・・・例によってお袖(優香)の部屋へと逃げ込むのだった。

「お初にいじめられた・・・」

「アホやな・・・それでも人情に通じた作者かい」

「・・・」

お袖は金魚鉢の金魚を眺める。

「ここにいるもんは・・・みんな・・・口にできない過去を抱えておるのや」

「・・・」

「それでも・・・わてはお初がうらやましい・・・人形浄瑠璃なんて見たことあらへんもの・・・わてが知っててるのは・・・紙の前で歯ぎしりするあんただけやもの・・・」

苦界に身を沈めた女たちの境遇にふと胸を突かれるちかえもん。

金魚鉢の金魚が金魚鉢の金魚を眺めているのだ・・・。

女たちの憐れさに身悶えするちかえもんだった。

ふりむけば・・・ここは・・・そういう金魚たちが・・・春を売る場所だったのである。

お初のところには若旦那から手代の身分に引き下げられた徳兵衛(小池徹平)がやってくる。その手には梅の小枝が握られている・・・。

「咲終わったと思ったんやけど・・・天神の森につぼみのままの梅があったんや」

「・・・」

「いつか・・・お前を身請けして・・・二人で梅観をしようやないか」

「・・・」

お初の美しい瞳は何も語らず・・・沈黙する二人。

その目に映るのは・・・仇の息子か・・・それとも・・・。

とにかく、お初は梅の枝を部屋に飾るのだった。

平野屋に戻った徳兵衛は番頭の喜助(徳井優)に促され、忠右衛門(岸部一徳)の前へ。

「お前に縁談がある」

「・・・」

「江戸の大商人の娘を妻とせよ」

「私には決めた人がいます」

「なんやと・・・」

「天満屋のお初を身請けすると約束したんや」

「そんな・・・天満屋の跡取り息子が遊女を嫁になどできまへんで」と喜助。

「世迷言や・・・」

忠右衛門は構わずに縁談を押し進める。

もちろんお初と徳兵衛をモデルにした浄瑠璃「曽根崎心中/近松門左衛門」(1703年)はこの世では結ばれぬ二人が・・・天神の森からあの世に旅立つ話なのである。

ドラマの初回冒頭にあったように二人が道行をするのは宿命なのだった。

まあ・・・本当に心中するのかどうかは別として。

こんな感じで死なれたら・・・お茶の間はたまらんよなあ・・・。

憐れな遊女の人生に傾く心で・・・男に身を売るお鈴(川崎亜沙美)やお里(辻本瑞貴)の座敷の光景に翻弄されていたちかえもんだったが・・・。

天満屋に姿を見せる竹本義太夫(北村有起哉)・・・。

「ギギギ義太夫」

原稿の催促にあわてふためく作家のように逃げ場を求める浄瑠璃作者だった。

一方・・・俄かに体調を崩したお初を介抱するお袖・・・。

「お初・・・わてでよければ・・・胸につかえたものを・・・聞くよって・・・」

「お袖姉さんになんか・・・わての気持ちはわかりまへん」

「そうか・・・なら・・・お休み・・・」

「・・・」

義太夫は布団に隠れたちかえもんを見つけたつもりが・・・万吉だった。

たくましい万吉の太腿にうっとりとする一部お茶の間・・・。

万吉は・・・義太夫に・・・「出世景清」について尋ねるのだった。

「父親が捕えられたと知って小野姫は・・・せめては憂きに、かはらんと、乳人ばかりを力にて・・・つまり・・・自分が身代わりにでもなろうと・・・乳母と二人・・・尾張の国から京の都まで旅に出るんや・・・そんでな・・・六波羅にこそ着きにけれ」

「おっちゃん・・・凄い~・・・人情形瑠璃最高や~」

義太夫の名人芸に・・・引きこまれる万吉・・・。

「でも・・・歌舞伎におされてなあ・・・もう仕舞にしようと思うんや」

「あかん・・・もうすぐ・・・ちかえもんが傑作書きますよって・・・辛抱や」

「え」

一方、ちかえもんは臥せったお初の部屋へ・・・。

「お袖姉さん・・・」

(え・・・)

「そのままでええから・・・聞いておくれやす・・・私の父は大坂の蔵役人・結城格之進と申します・・・」

(えええ・・・)

お初は他言無用と断って身の上話をするのだった。

蔵役人は蔵屋敷の担当官である武士である。

大坂は商業の中心地であり、各藩から幕府まで蔵屋敷を置いて米を金に換えていた。

お初の父親である結城格之進(国広富之)はそんな蔵役人の一人であったらしい。

頑固一徹の父親だったが趣味は人形浄瑠璃で幼いお初を連れて出かけることもあった。

そして・・・平野屋忠右衛門は蔵屋敷に出入りする商人で・・・浄瑠璃の同好の友であったのだ。

しかし・・・忠右衛門の不正取引の噂を聞いた格之進が・・・手を引くように忠告すると・・・忠右衛門は・・・格之進にあらぬ嫌疑をかけ・・・格之進は切腹の憂き目に遭う。

お家は断絶、母はまもなく病死し・・・強欲で評判の叔父に引きとられた九才のお初は・・・京の遊郭に身売りされたのだった・・・。

(ええええええええええええ)

とんでもない話を聞かされたちかえもんは・・・戻って来たお袖と入れ替わり・・・部屋を出る。

そうとは・・・知らぬお袖とお初。

「徳様に初めて会った時・・・ちょろいぼんぼんやと・・・」

「え」

噛みあわない会話を始めるのだった。

天満屋の女将・お玉(高岡早紀)の部屋にたどり着いたちかえもんは・・・物凄い話をまとめようと筆をとる。

我を忘れたちかえもん・・・行燈に灯りを点じたお玉は仕事にとりかかった男を優しく見守るのだった。・・・つけが溜まっているからである。

「これは・・・面白い・・・面白いが・・・これをどうしたものか」

人物相関図を書きあげ・・・うなるちかえもん。

創作者としての血が騒ぐのだ。

「それにしても・・・平野屋が・・・そんなに悪党だったとは・・・」

「ほんまやなあ・・・」

いつの間にか現れた万吉は・・・すべてを知るのだった。

いつしか夜明けである。

「酷い話や・・・」

「お前・・・字が読めるんかい」

「行こう・・・」

「どこへ」

平野屋にやってきた万吉は・・・忠右衛門にお初からの招きの席を伝える。

「ほう・・・」

「申の刻(午後四時)やで・・・」

「承知した・・・」

何故か、承諾する忠右衛門だった。

天満屋に戻った万吉はお初に小刀を渡す。

「ええええええ」

ちかえもんは驚く。

「どういうこと・・・」

「すまなんだ・・・話を聞いたのはお袖やない・・・私や・・・浄瑠璃よりおもろい思うて思わずしたためとったら・・・万吉に盗み見られてしまったんや・・・」

「ひどい・・・」

お茶の間も含めて満場一致である。

一方、爽やかに「仇討ち」をお初に勧める万吉だった。

「そら・・・いくらなんでもあかん・・・」

「せやかて・・・お初がかわいそうやねんもん・・・親にひどいことされて・・・売られて・・・十年・・・ずぅ~っと火攻め水攻め古木責めやで・・・」

「万吉・・・」

「忠右衛門様にお会いします・・・」

お初は小刀を鞘に戻して・・・。

「お初・・・」

「いくらなんでも・・・いきなり刃傷沙汰にはいたしません・・・会ってお話して・・・それからのことでございます」

武家の娘としての・・・遠い記憶がお初の所作を変える。

思わず気押されるちかえもん・・・。

「あのな・・・」とお袖は囁く。

「親の仇を討つのは・・・親孝行なんやろか・・・」

「そりゃ・・・親不孝に決まっとるやないか・・・人を殺したら地獄行きや・・・二度と親には会えないんやで」

「まあ・・・親が地獄で待ってるかもしれへんけどなあ・・・」

そのころ九平次は・・・平野屋に女中として潜り込ませたくのいちからの連絡を聞く。

「何・・・お初が忠右衛門を・・・私に知られてあせったか・・・まあ・・・お初が殺ってくれるなら・・・それはそれで話が早い・・・」

一人残された九平次の闇・・・。

とにかく・・・どんなに・・・シリアスに見えても・・・痛快娯楽時代劇らしいので一安心である。

月並な感想だがプライドがないので平気なのである。

ああ・・・残り三話なのか・・・。

快楽の時は一瞬だなあ・・・。

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2016年2月11日 (木)

スミカスミレ(桐谷美玲)45歳若返った女(松坂慶子)

谷間の終了である。

これで・・・。

(月)有村架純

(火)深田恭子

(水)桐谷美玲

(木)早見あかり

(金)綾瀬はるか

(土)広瀬すず

(日)長澤まさみ

・・・という今世紀最高美人女優のラインナップが完成したのである。

これだけの並びは・・・空前絶後だな・・・。

本当に・・・これだけは言いたい・・・殺す気かっ。

まさに「美しすぎて・・・」なのである。

2016年の「黄金の七人」だ。

特に・・・これまで・・・役不足の連続だった桐谷美玲には・・・ようやく・・・ここに来たかという思いがある。

AFC U-23選手権の生中継に邪魔されて二月スタートなのが・・・らしいよね。

で、『スミカスミレ 45歳若返った女・第1回』(テレビ朝日201602052315~)原作・高梨みつば、脚本・古家和尚、演出・今井和久を見た。由緒正しい若返りファンタジーである。人生が二度あれば・・・嗚呼・・・ではなくて人生が二度目だよ・・・なんだな。最初の人生を演じるのが松坂慶子(63)で二度目の青春を桐谷美玲(26)が演じるわけである。つまり・・・桐谷美玲は大スターである松坂慶子になるんだよなあ・・・。

わかるぞ・・・松坂慶子をデビューから見て来たキッドには・・・「ウルトラセブン」から「夜の診察室」を経て「国盗り物語」を越え「水中花」にたどり着く軌跡が・・・桐谷美玲が下積みを重ねて過ごした十代、二十代の不遇の日々が・・・見事に重なっていることが・・・。

いや・・・二人とも若くしてスターだっただろう。

いや・・・もっともっとスーパースターでよかったという話なんだよ。

美しすぎるって・・・罪なんだよな・・・大衆文化では・・・。

今回は王道ファンタジーで手堅い脚本家・・・きっと名作になるよね。

死んでしまえば・・・もうこの世にはいない。

葬儀が豪勢だろうが・・・質素だろうが関係ないのだ。

菩提寺の住職と・・・親族一名の・・・葬儀の席。

「お母さんの介護・・・大変だったねえ」と住職の天野早雲(小日向文世)・・・。

「お世話になりました」と故人の一人娘である如月澄(松坂慶子)・・・。

「気を落さずに・・・これからは自分の人生を大切にしてください」

そう言われて考え込む65歳の澄だった・・・。

花農家と生花店を営む家に生まれた澄・・・。

幼い頃から家業の手伝いを命じられ・・・合格した椿丘大学も祖母が寝たきりになったために入学できなかった。

「せっかく合格したのに・・・」

「花屋を継ぐのに大学に行く必要はない・・・お前にはばあちゃんの介護も頼みたいし」

それからは・・・家業の手伝いと祖母の介護。

祖母が逝くと五十代で父親が故人となる。それから三十年、母親と家業を営み、母が寝たきりになるとその介護に追われ・・・気がつけば・・・もはや定年退職の年齢である。

「自分の人生」と言われても戸惑うしかないのだった。

ああ・・・なんて寂しい人生だ・・・。

帰りのバスが揺れ・・・あやうく白木の箱包みを落しそうになる澄。

しかし・・・一人の若者・・・真白勇征(町田啓太)が手を差し伸べてくれた。

「大丈夫ですか」

「ありがとうございます」

それが・・・運命の出会いであることを・・・澄はまだ知らない。

母の遺骨を抱えて帰宅した澄を如月家の隣人である小倉富子(高橋ひとみ)がやってくる。

「お宅の飼い猫がウチの庭で用を足すのなんとかしてっていってるじゃない」

「でも・・・うちのジュリちゃんは・・・」

「この近所に猫は・・・あら・・・それって」

ようやく澄の家の不幸を悟り・・・口を噤む厄介なクレーマーだった。

何もかも・・・嫌になるような状況だが・・・家族思いの澄は仏壇の遺影が気になる。

五十代で亡くなった父親と・・・八十代で亡くなった母親の年の差が気になるのである。

「人は亡くなった時の人の姿を生前の姿として記憶しているそうだけど・・・これじゃ・・・お母さんが恥ずかしいかもしれないな・・・」

澄は・・・母親の若い頃の写真に・・・遺影を差し替えるために・・・物置に入る。

古いアルバムを捜すうちに・・・こぼれ落ちる・・・椿丘大学の合格通知。

「・・・行きたかったなあ・・・大学」

ふと・・・古い屏風に気がつく澄。

「カキツバタを背景に一匹の黒猫が身構える絵柄」が・・・幼い頃の澄には恐ろしく・・・母は屏風絵をここにしまってくれたのだ。

優しい母親だった・・・と澄は故人を忍ぶ。

そんな母を看取れたことに悔いはない。

だけど・・・私を看取ってくれる人はいない。

そう思うと胸の中を風が吹き抜けるような気がする。

その時・・・古い屏風のささくれが・・・澄の指を切る。

屏風に飛散する血液。

「大変・・・」

澄はあわてた。

屏風が澄の血で汚れてしまった・・・が・・・目の前で血の跡は消えてしまう。

「え」

おかしなことがあるものだ・・・と思いつつ床についた澄。

夜の闇から語りかけるものがいる。

「お前の望みを申せ」

「大学に行きたかった・・・」

夢と現実の境界線で思わず応じる澄・・・。

「それだけか」

「恋もしてみたかった・・・」

「もっと申してみよ」

「人生をやり直したい」

「承った」

気がつくと目の前に巨大な黒猫が澄を見下ろしている。

「ば、化け猫」

「無礼な・・・」

「ひ・・・」

「この姿が恐ろしいか」

化け猫は変身して人の姿になった。

「わが名は黎・・・そなたの・・・処女の生き血で蘇生した」

「きゃ・・・」

黎(及川光博)は澄を見つめる。

「古の作法に則り・・・契約に応えねばならぬ・・・」

「契約・・・」

「そなたの願いを叶えるのだ」

「願い」

「満願成就の暁に・・・我は自由となる・・・それまではそなたがわが主じゃ・・・」

「・・・」

恐ろしさのあまり・・・気を失う澄だった。

ごみ収集車の騒音に気が付き・・・目覚める澄。

「あら・・・今日は・・・ゴミの日だったかしら」

あわてて・・・ゴミ袋を抱えて・・・表へ出る澄は・・・走り去る収集車を思わず追いかける。

「待ってください・・・」

「はい」

振り返った作業員の目が釘付けになる。

「・・・」

「なんですか」

「いえ・・・若いのに・・・珍しいなと思って・・・」

澄はバックミラーに映った自分の姿に驚愕する。

その姿は・・・遠い昔・・・まだ二十歳そこそこの・・・自分自身・・・。

そして・・・ある意味、艶っぽい寝間着姿・・・。

「ええええええええ」

駆け戻った家には・・・黎が待っていた。

「こ、これ・・・」

「望みをかなえたまで・・・主様は人生をやりなおしたいのであろう」

「・・・」

「主様は・・・如月すみれとなった」

「すみれって・・・」

「そういう名前で・・・手続きをすましたので」

「手続きって・・・」

「椿丘大学の二年生・・・主様は女子大生すみれとなったのです」

「ええええええ」

風呂場の姿見で・・・自分の肉体をチェックする澄・・・すみれ。

「わ、若い・・・」

思わず見とれてしまうのだった。

「自分の裸が・・・面白いか」

「きゃっ・・・」

「お風邪を召しますぞ・・・」

「・・・」

「それにしても・・・若いものの・・・着る服がないな・・・」

「四十五年前の洋服なんて・・・色褪せるに決まってます」

「流行りというものもあるしな・・・とにかく・・・今の服を仕立てなおしておくか・・・」

「そ、そんなことまで」

「おいおい・・・人を若返らせることができる我に不可能なんてあると思うか・・・」

「・・・」

隣のクレーマーの性格も修正する黎である。

もちろん・・・何やら怪しい魔物なのだ。

六十五歳の洋服で外出する二十歳になった澄。

近所の公園で身体を動かしてみる。

腰・・・痛くない。

ひざ・・・痛くない。

どこもかしこも痛くない。

若いって・・・素晴らしい・・・。

すみれは子供たちと一緒になって公園の遊具で遊ぶ。

その姿を・・・真白勇征が見ていた。

「何見てんのよ・・・」

「なんだか楽しそうだなあと思って」

「何・・・あれ・・・変な服着て・・・」

幸坂亜梨紗(水沢エレナ)は・・・敵意をむき出しにするのだった。

二人は・・・椿丘大学・黒崎ゼミの二年生なのである。

その頃・・・住職は・・・息子の慶和(高杉真宙)に小言を言っていた。

「何が、レッツなまんだぶだよ」

「読経とダンスの融合だけど・・・」

「アホか」

「おでかけですか」

「檀家の如月さんのところへな・・・納骨の日取りを打合せしたいのだが・・・電話に出ない」

「電話に出んわ・・・とは言わないんですね」

「言うか・・・それに友達を選べ」

「彼女だよ」

「・・・」

叶野りょう(梶谷桃子)は慶和を応援しているらしい。

如月家にやって来た住職は異臭に気がつく。

「これは・・・魔物の匂い・・・」

住職は・・・ただものではないらしい。

しかし・・・家からは応答はない。

近所には如月澄は引越し・・・家の管理を遠縁のすみれと黎がまかされたという設定が伝えられた。

そして・・・晴れて大学へと向う澄/すみれ・・・。

「いってきます」

「いってらっしゃいませ」

こうして・・・祖母のお下がりのようなものを着こんだ如月すみれの青春は・・・始ったのである。

美人だが・・・コートが・・・古めかしい・・・。

大学で好奇の目に晒されるすみれ。

(何か・・・変なのかしら・・・)

コートを脱ぐと時代遅れの花柄ワンピースである。

「何あれ・・・」

「おばあちゃんが・・・あんなの着てる」

無遠慮な視線にうつむくすみれ。

そこへ・・・真白勇征が現れる。

「あれ・・・君・・・」

「あ・・・バスの中の学生さん」

「バス・・・僕が見たのは公園で・・・」

「・・・」

「この大学の学生だったんだ・・・学部どこ・・・」

「文学部の芸術文化コースの二年生です」

「え・・・一緒じゃないか・・・次の芸術史の授業は出るの」

「はい」

「じゃ・・・行こう」

校舎に消える二人を・・・黒猫(小)は見ていた。

おそらく黎の使い魔なのであろう。

初めて見る大学の教室に緊張するすみれ・・・。

「大丈夫・・・テンパってるみたいだけど」

「私・・・天然パーマではありません」

「え・・・」

そこへ・・・ゼミ仲間の辻井健人(竹内涼真)が現れる。

「どうしたの・・・マスクなんかして・・・」

「風邪引いちゃった・・・」

「あのよろしければ・・・喉飴です・・・」

「あ・・・ありがとう」

「僕にもくれる?」

「はい」

「随分・・・レトロな恰好してるね・・・ゼミはどこなの」

「黒崎ゼミです」

「え・・・一緒じゃないか・・・どうして今まで会ったことないんだろう」

「私・・・ずっと休学していたので」

「休学・・・」

授業が始り・・・ノートをとるすみれ・・・。

(帳面にうつしがきするなんて・・・懐かしい・・・)

時々入る・・・澄の心の声が効く。

松坂慶子の演技を研究した形跡が見える桐谷美玲の発声や姿勢が・・・お茶の間に・・・彼女の女優としての実力を伝えたことだろう。

学内を案内する真白に恐縮するすみれ・・・。

「ご親切にしていただいて・・・」

「飴の御礼・・・僕のおばあちゃんもよく飴をくれたなあ・・・なんだなつかしい」

「でも・・・私とご一緒では・・・ご迷惑なのでは」

「そんなことはないよ・・・たしかに古風な感じだけど」

「母が縫ってくれた余所行きなんですけど」

「ヨソイキ・・・君のお母さんって・・・凄いね・・・洋服が縫えるなんて」

「・・・」

「そんな大事なものを古風なんて言って・・・ごめんね」

そこへ・・・ギラギラしながら幸坂亜梨紗がやってくる。

「この人・・・誰?」

「同じゼミのすみれさん・・・ずっと休学してたんだって」

「へえ・・・よろしく」

「こちらこそ・・・よろしくお願いします」

必ず立ってお辞儀をする・・・礼儀正しいすみれに・・・呆れる亜梨紗だった。

「ふつつかものですが・・・よろしくお願いいたします」

自分より年下の黒崎明雄(小須田康人)に挨拶をするすみれ。

「これは・・・どうも御丁寧に・・・私、専門はメディアコミュニケーション学ですが・・・このゼミは映像関係なら何でもOKですから・・・自由に研究を進めてください」

「はい」

「映像に興味があるの・・・」

「昔から・・・唯一の楽しみが映画鑑賞でした・・・」

澄/すみれは膨大な映画コレクション(ビデオテープ)を持っていた。

おそらく・・・1980年代以後のもので・・・それでも三十年分である。

絶対・・・造詣深いよな・・・。

生まれついてのいじめっ子キャラクターらしい亜梨紗は画策付きの歓迎会を企画するのだった。

何やら・・・正体不明の西原美緒(小槙まこ)が出現し・・・すみれに忠告するのだった。

「このゼミは・・・真白勇征をめぐる女子たちの黒い欲望が渦巻いていますので・・・ご用心」

「?」

美緒は・・・黎の回し者の可能性を秘めているな・・・。

そして・・・すみれは・・・初めてのカラオケに接するのだった。

もちろん・・・六十五歳の人は普通はカラオケは大好きだが・・・そういうものとは無縁の・・・澄の人生だったのである。

澄は今年・・・六十五・・・。

仕事に追われ家族のために・・・年老いたのだ・・・。

娯楽はテレビの名画劇場だけだったのである・・・。

「小さな恋のうた/モンゴル800」とか「女々しくて/ゴールデンボンバー」とか「恋するフォーチュンクッキー/AKB48」とか「奏(かなで)/スキマスイッチ」とか「Dragon Night/SEKAI NO OWARI」とか「Let It Go〜ありのままで〜/松たか子」とか「Darling/西野カナ」とか「にじいろ/絢香」とか知ったこっちゃないのである。

機械操作のできないすみれを罠にはめるために・・・亜梨紗の歌唱中に「カラオケ」を止めるお約束の女王様の配下・・・加藤菜々美(小池里奈)である。

水沢エレナ(23)と小池里奈(22)の意地悪な女子大生・・・鉄壁な布陣じゃないか・・・。

女子トイレで謝罪するすみれに・・・ドス黒い正体を示す亜梨紗。

「一人だけドンくさいのが混じっていると・・・ウザい・・・だから消えな」

すごすごと退散する澄・・・である。

あわてて・・・真白が追うが・・・すでにすみれの姿はない。

すみれは・・・ショー・ウインドウに映る自分の姿が「澄」に見える。

そこへ・・・黎が現れる。

「どうしました・・・初日から浮かない顔をして」

「やはり・・・無理でした・・・若い子についていくなんて・・・とても」

「では・・・あの頃なら・・・四十五年前なら・・・上手くできたと・・・」

澄は思い出す・・・昭和46年(1971年)・・・二十歳だった自分を・・・。

高校時代の親友は大学生になっていた。

その華やかな空気を避けて・・・家事手伝いの澄は・・・身を隠したのだった。

「・・・ダメです・・・私は・・・どうやって・・・友達とつきあっていいのか・・・忘れてしまいました」

「情けない・・・六十五年も生きてきて・・・それですか」

「・・・」

「あなたは・・・六十五歳でしょう・・・四十歳以上、年下の子供たちを相手に何をためらっているんです」

「そんな・・・」

「好きな歌の一つもないんですか・・・」

「ありますよ・・・あれは・・・エクソシストとかモンチッチとか・・・変なものがはやっていた二十代の頃・・・ずうとるびのみかん色の恋・・・笑点の座布団運びの山田くんが歌ってた曲です」

「だったら・・・それを歌えばいいじゃないですか・・・あなたは六十五歳の老婆なんだ・・・老婆なら老婆らしく・・・あつかましく生きるがいい」

「・・・」

「さあ・・・本気で人生をやりなすのか・・・あっさり青春をあきらめるのか・・・どっちにするんです」

黎に罵倒されて・・・自分を取り戻す澄だった。

(そうね・・・若返ったって・・・中身は65歳なのよね・・・あんな子供たちに負けてられないのよね)

すみれは開き直ってカラオケ会場へ戻る・・・。

亜梨紗はガードをするが・・・真白はすみれの手をとってリクエストを問うのだった。

「愛の水中花」じゃないのかよっというお茶の間の声をよそに・・・。

好きなんだ

逆立ちしたいほど

ダメなんだ

僕逆立ちができない

少し、笑いをとるすみれだった。

「なつかしいな」と中学生時代を思い出す教授・・・。

「年寄りじみていてすみません・・・でも・・・これからがんばりますので・・・ご指導ご鞭撻のほどをよろしくお願いいたします」

拍手で新しい仲間・・・すみれを迎えるゼミ一同だった。

もちろん・・・亜梨紗はドス黒い炎で燃える・・・。

公園のベンチで立ち止まるすみれ・・・。

「どっこいしょ・・・」

「スッキリした顔ですね」

「私・・・初めて人前で歌いました・・・思い出したら震えてきちゃって・・・」

「それは・・・いけませんね・・・風邪でもひかれたら・・・大変だ」

黎はすみれをお姫様抱っこするのだった。

「やめてください・・・誰かに見られたら・・・」

「おや・・・もう・・・見られたら困る殿方を・・・お見つけになられたのですか」

「殿方って・・・そんな・・・それに六十五歳はまだ老婆ではありません」

「我の生きた時代には・・・六十五歳はもう・・・死にぞこないとか・・・棺桶に片足突っ込んでるとか言われて・・・山に捨てられる年頃でしたぞ・・・」

「いつの時代よ」

その頃・・・霊能力者らしい住職は・・・警戒を強めていた。

どうやら・・・すみれにとっての真の敵は・・・亜梨紗ではなく・・・魔を払うものらしい。

そして・・・風呂場で・・・突然・・・すみれは澄に変身してしまうのだった。

「きゃあ・・・」

「どうした・・・」

「私・・・元に戻っちゃった・・・」

「面妖な・・・」

面妖なのは・・・黎なのだが・・・。

はたして・・・澄/すみれは・・・恋をして・・・誰かと夜明けを一緒に見ることができるのか・・・。

幸せになってもらいたいものだ・・・。

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2016年2月10日 (水)

今が一番若いから明日の私は昨日の私より命短しです(深田恭子)

だから・・・恋せよ乙女なのである。

なにしろ・・・誰かと一緒に何かをするって・・・疲れるからなあ・・・。

まあ・・・それが苦にならないお年頃って絶対あるんだよな。

朝まで眠らずに愛し合ってそのまま仕事に行って帰ってきたらまた愛し合うなんて・・・絶対無理って時が必ず来るからな。

もちろん誰もが・・・そんなに激しく愛し合う必要もないだろうが・・・年の差カップルには基本的にこれがない可能性が高いのである。

一方で・・・三十路を過ぎて処女だとそういうことを知らずに一生を終える可能性もある。

うっかりよろめくタイミングでもあるよ。

一つだけ言えるのは・・・このダメな私の恋も・・・いつか思い出したらきっと泣いてしまうということなんだ。

で、『ダメな私に恋してください・第5回』(TBSテレビ20160209PM10~)原作・中原アヤ、脚本・吉澤智子、演出・月川翔を見た。「みんな!エスパーだよ!」(2013)第8話~第9話の演出家である。なにしろ・・・ムーンリバー翔だからな・・・。これまで以上に柴田ミチコ(深田恭子)が美しいのである。凄いぞ・・・。特に・・・便利グッズの会社「ライフニクス」の年下の同僚・最上大地(三浦翔平)といる時も可愛いミチコが・・・喫茶「ひまわり」のマスターでミチコのファーストキスを奪った男・黒沢歩(ディーン・フジオカ)といる時にさらに可愛くなっているという驚異の光景が展開される。本当に凄いな・・・深田恭子が実際可愛いのは別としても。

ついに・・・大地との結婚を前提とした交際を開始したミチコ。

しかし・・・三十歳まで守り続けた女の操がいろいろと差し障るのだった。

そして・・・給料日に・・・大地の誘いを断り、歩との約束を優先させるのもあってはならないことなのである。

挙動不審な側面のある大地だが・・・イチャイチャしているようにしか見えない保護者と奴隷のふるまいに・・・嫉妬の炎を燃やしていることは確実なのだった。

「今夜は寒いから鍋でもどうですか・・・昨日は寂しかった」

大地からのお誘いメールにニヤニヤするミチコ。

そこへ・・・大地を狙っていたらしい江藤瞳(内田理央)がやってくる。

「あら・・・職場最年長女子なのに入社早々年下社員を捕獲した肉食獣の柴田さん」

「え」

「いえ・・・そういう噂を耳にしたので」

思わず・・・クールな年下の同僚・門真(佐野ひなこ)に救いを求めるミチコ。

「間違いありません」

「私・・・江藤さんに嫌われてるの?」

「違います・・・嫉妬されているんです」

「え・・・嫉妬・・・私が・・・えへへ」

「喜んでいる場合ではありません・・・不本意な相手に負けた人間の心の傷は深いので・・・気をつけた方がいいですよ・・・」

「・・・」

恐ろしいことである。

しかし・・・大地との食事をエンジョイするミチコだった。

「すみません・・・私のようなものに奢っていただいて」

「何言ってるんです・・・誘ったのは僕なんですから当然ですよ」

さりげなくミチコと手を繋ぐ大地なのである。

(うわっ・・・まるでつきあっているみたい・・・いや・・・つきあっているのだ)

「・・・」

「こういうの・・・嫌いですか」

「いいえ・・・いざ・・・参りましょう」

処女喪失という「大試合」を控え・・・アスリートとして緊張が高まるミチコ。

そうだなあ・・・右も左もわからない頃に欲望の赴くままにたどり着かないと大変なことになるよなあ・・・。

だって・・・とにかく・・・恥ずかしいことなんだから~。

遠くに見える観覧車。夜景の綺麗な人通りの絶えたスポット。

恋人とのファーストキス目前で・・・クリーニングから帰って来た第二のコートにはタグがついているお約束である。

「今度・・・江の島のイルミネーション・・・見に行きませんか」

「日本三大イルミネーションですね」

「もしかして・・・バイトの皆さんともう行ってたりして」

「いいえ・・・テレビで見ただけです」

「そうですか・・・」

本命に対してあまりにも無防備なミチコだった。

そして・・・「年上の女性」に対する対応に戸惑う大地・・・おそらく・・・相手が処女だなんて・・・想定外なのだな。

すでに五回目なのに処女のままなので・・・最終回まで処女の可能性はかなりあるな。

いや・・・それよりも恐ろしいのは・・・兄の一(竹財輝之助)の未亡人である花屋の春子(ミムラ)に懸想している歩の・・・35歳童貞説である。

・・・うわあ。

なんだかんだ・・・キャスティング的には恋の大本命の・・・ミチコと歩。

三十代の処女と童貞というこじらせ方なのか・・・。

これで・・・ミチコと大地が結ばれてからの歩コースだと・・・年下の経験済み女子と年上の童貞という組み合わせに・・・。

妄想はそこまでだ。

相手が童貞とは知らずに・・・だから決めつけるなよ・・・嫉妬の炎を燃やす大地は攻めるのだった。

「今度の週末・・・箱根の温泉に行きませんか」

小田急ロマンスカーコースなのか・・・江の島じゃなければ箱根か。

いきなり決勝戦に眩暈を感じるミチコだった。

試合のことで頭が一杯のミチコはランチタイムを逃しそうになった。

そこへ通りすがりの春子が現れた!

「配達の予定がずれて・・・お昼食べそこなっちゃいそうなの・・・この辺で・・・どこかいいお店しりませんか」

お肉の美味しい定食屋に案内するミチコだった。

「行列のできるパンケーキの店もあったんですけど」

「早くて安いのが一番よ・・・美味しいし」

「ですよね~」

意気投合する三十路の二人である。

ちなみに実年齢は・・・。

深田恭子(33)

ミムラ(31)

役設定は・・・。

ミチコ(30)

黒沢春子(35)

・・・なのである。

いろいろな意味で・・・絶妙だな。

「歩くんは優しいでしょう」

「厳しいです」

「照れ屋なのよ・・・彼もよく・・・いつもむっつりしている歩くんを笑わせようとしていたわ」

「・・・亡くなったお兄さんが・・・」

「彼は歩くんのことが大好きだったのよねえ・・・」

(主任は・・・あなたのことが大好きみたいですよ・・・)

行きずりの男性も思わず笑顔にしてしまう春子の天真爛漫さに・・・驚異を感じるミチコだった。

歩の恋のハードルはかなり高い感じなのである。

なにしろ・・・相手は・・・亡き夫の可愛い弟としか歩を見ていないらしい・・・。

ミチコは・・・思わず・・・歩に激しく同情するのだった。

(可哀想な主任・・・)

しかし、恋愛経験のないミチコには分からなかったが・・・それはもう胸がきゅんとしているわけである。

思わず・・・歩に焼き肉を食べさせたくなるミチコだった。

「なぜ・・・俺がお前と焼き肉屋に行かねばならんのだ」

「いいじゃないですか・・・お世話になっている御礼です」

「借金返済なら・・・現金で・・・」

だが・・・結局・・・焼き肉に付き合う歩・・・拾ってきた犬に少し、情が移っています。

「春子さん・・・主任のこと・・・優しいって言ってましたよ」

「何故・・・お前が・・・春子と・・・」

「まあ・・・とにかく・・・飲みましょうよ」

「・・・」

「私・・・主任と春子さんを応援します」

しかし・・・酔って眠った歩である。

お茶の間に可愛い寝顔をサービスするために歩の眼鏡を外したミチコは思わずうっとりするのだった。

そして・・・歩をお姫様抱っこで持ちかえるミチコだった・・・おいっ。

もちろん・・・わかる人にはわかる。

大地と一緒にいる時よりも・・・ミチコは歩と一緒だと・・・とても幸せな気分になっていることが。

気がつけばバレンタイデー・シーズンである。

今年は日曜日でいろいろとアレなのである。

本命チョコを渡すにはデート前提か・・・自宅特攻しかないのだ・・・そんなこともないだろう。

「貢いでも怒られない日」に闘志を燃やすミチコは・・・「肉体」ではなくて・・・「手作り料理」を贈ることに決める。

主任からビタミン増量の「BBAオムライス」を提示されたミチコは・・・「お料理修業」を申し込むのだった。

「おい・・・まず人参の皮を・・・」

「え・・・人参に皮があるんですか」

オムライスの前に・・・野菜の刻み方を学ぶミチコ・・・。

「玉ねぎはもっと均等に・・・」

「これで充分じゃないですか」

「火の通りというものがあってだな」

「・・・」

風邪気味の人には・・・飲み物にジンジャーを忍ばせる人。

相手のことをいつも考える思いやりのある人。

春子の語る歩の心を感じ取るミチコ。

ミチコに自覚はないが・・・恋心のベクトルはどんどん傾いています。

そして・・・決戦の日。

「素晴らしい間取りですね」

初めて訪れる恋人の部屋で不動産鑑定士のようになってしまうミチコだった。

「LOVEオムライス」は形は悪いが味はまあまあの出来である。

歩の元カノである晶(野波麻帆)からは「とにかく照明器具の位置は確認して」とアドバイスされたミチコ。

しかし・・・大地の部屋にはいたるところに照明が置かれ・・・すべてをオフにするのに困難を極める予感がある。

そして・・・決戦会場であるベッドルームはすでに視界に入っていた。

「美味しいです・・・いつも料理しているんですか」

「ごめんなさい・・・アルバイト先で教えてもらったの・・・」

「あの・・・もしかしたら・・・アルバイト先のマスターは・・・元・・・恋人とか」

「全然、違います・・・黙っていて・・・ごめんね・・・前の会社が倒産して・・・借金があって・・・途方にくれていた時に・・・アルバイトに雇ってくれて・・・空いている部屋に住んでいいよって言ってくれたんです・・・こんなダメな私で・・・すみません」

しかし・・・大地はミチコを抱きしめる。

「そんなに・・・苦労していたなんて・・・知らなかった・・・ミチコさん・・・僕にあなたを守らせてください・・・」

ついに大地とキスをするミチコだった。

そして・・・本命チョコを渡し・・・いよいよ試合開始・・・直前・・・大地の携帯に着信があるのだった。

お約束の寸止めである。

「今日は・・・遅くならないうちに・・・保護者にお返しします」

またもや・・・大地の正体に陰がかかる・・・お約束の展開である。

「恋愛に積極的すぎる男」に続いて用意されているのは「仕事上のトラブル」それとも「家庭の事情」かな・・・。

正式なファーストキスを晶に報告するミチコ。

「なんで・・・そのまま試合してしまわないのよ」

「だって・・・照明を消さずに・・・肌をさらすのは・・・」

「いつまでもあると思うな・・・延長時間・・・あなたは今が一番若いのよ」

「・・・」

「私たちは昨日よりも今日、今日よりも明日・・・四十歳に近付いて行くのだから」

「・・・ですね」

そして・・・ミチコは歩のための義理チョコも用意しているのだった。

だが・・・「ひまわり」には春子が先着していた・・・。

テーブルに置かれたチョコを見て・・・義理チョコを出せなくなるミチコ。

「あれ・・・なんだろう・・・このもやもやは・・・」

ふと・・・ミチコは「まだ知ってはいけない自分の本心」に接近する。

しかし・・・なんとかやり過ごすのだった。

(こんなことで・・・もやもやするとなると・・・男と一つ屋根の下で暮らしていると知った彼はすごくもやもやしているのでは・・・)

大切なことに気がつくミチコだった。

「おい・・・お前の勝負パンツ・・・落ちてたぞ」

「・・・」

「一枚しかないセクシーな下着なんだから大切にしろ・・・」

「下着なんかなくても私は中身がセクシーですから」

「セクシー・・・お前が・・・セクシー・・・あはは」

「・・・」

とある昼下がり・・・ランチタイムに「ひまわり」にやってくる大地。

オムライスを食べた大地は微笑む。

「美味しかったです・・・彼女の作る味に似てました・・・」

「ありがとうございます」

しかし・・・歩は・・・大地の気持ちに気付くのだった。

歯磨きタイム・・・。

「おまえ」

「私は」

「引越しを」

「引越しを」

「・・・そうか」

「はい」

翌朝・・・「美味しい朝食」と「疲れて帰った日のおかえりなさいという言葉」に早くも未練をかじるミチコ。

昭和の男性サラリーマンかっ。

なぜか・・・さびしい朝のひとときだった。

しかし・・・。

「私・・・引っ越そうと思っています」

「じゃあ・・・僕のところにきませんか」

「え」

「経済的だし」

「ど、同棲・・・」

同棲・・・それはミチコにはそびえたつヒマラヤの断崖絶壁・・・。

なにしろ・・・心の準備どころか下着の準備もできていないのである。

基本的に・・・性的なダメ女を描く先行系には綾瀬はるかによる「ホタルノヒカリ」と「きょうは会社休みます。」の二つのコースが用意されている。まあ、相手が年上か・・・年下かという話である。どちらのコースに行くのか・・・今回はちょっと描き過ぎたかもねえ。歩のためにミチコが世話をしたクリスマスローズの開花とかねえ・・・。

引越し屋さん・・・が通りすぎていきます。

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2016年2月 9日 (火)

月のきれいな夜・・・たこ焼きにタコが二個入っていました(有村架純)

空を見上げると月がある。

時には満月が、時には半月が、時には三日月が、そして時には新月が。

晴の日が続けば月の変化に一日が過ぎ去ったことに気がつく。

雨の日が続けば大きな変化に驚く。

一月、空を見上げずに・・・また満月かと思う夜もある。

一年にざっと12回の月の満ち欠けがあり、100年で1200回。

季節に比べれば・・・たとえば冬は100年で100回だ・・・割と多い。

しかし・・・1200回、満月を見たら・・・人生は大体終わるのだ。

そして・・・月の美しさに酔うことができる夜は・・・それほど多くはないと考える。

で、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう・第4回』(フジテレビ20160208PM9~)脚本・坂元裕二、演出・高野舞を見た。思い出したらきっと泣いてしまう恋について考えると心は穏やかではない。どの恋を思い出しても泣けてくるからである。つまり、どんな恋も思い出したら泣いてしまうものなのだ。嘘だと思うのなら思い出してみるがいい。・・・泣けない人はきっと本当の恋を今まで一度もしていないだけだ。思い出したら泣いてしまうのが恋なのだから・・・。

孤独だった曽田練(高良健吾)はもっと孤独な杉原音(有村架純)に出会い、恋をする。

音もまた練に恋をして・・・北海道から東京にやってくる。

しかし、練には交際中の日向木穂子(高畑充希)がいた。

木穂子は家庭のある男性と不倫中であり、練との関係も曖昧なものだった。

練は木穂子との関係を清算しようと考えるが、木穂子は不倫相手との関係を清算してしまうのだった。

音は練に気持ちを告白するが・・・木穂子は別れを告げた相手に暴力を振るわれ入院してしまう。

偽りの自分を捨て練の胸に飛び込んできた木穂子・・・。

もはや・・・練は木穂子を突き放すことなどできないのだった。

一人暮らしの仙道静恵(八千草薫)の屋敷の庭に咲いた早春の花を摘み・・・木穂子の病院へと向う練・・・東京はまだ空気の冷たい季節の中にある。

「退院おめでとう」

「ありがとう・・・突然、長いメールなんかして・・・引いた?」

「・・・」

「重い女だと思ったでしょう?」

「・・・」

「もう・・・別れたい?」

「別れない」

「・・・」

傷跡の残る素顔で木穂子は微笑んだ。

傷跡が消えるまで故郷で過ごすことにした木穂子は新幹線に乗って東京を去った。

木穂子と音の間で軋む練の心・・・。

木穂子の存在を知りつつ練に恋焦れる音は・・・介護施設「春寿の杜」での勤務に励む。

「少し・・・シフトを入れすぎなんじゃないか」

「大丈夫です」

音に好意を持っている井吹朝陽(西島隆弘)は健康を気遣う。

従業員に過酷な労働環境を強いる「春寿の杜」の体質に疑問を感じている朝陽だったが・・・愛人の子という出自によるものか・・・経営者である父親の井吹征二郎社長(小日向文世)や正妻の子である兄の和馬(福士誠治)とは折り合いが悪く・・・その主張を通すのは困難であるらしい・・・。

幼馴染で・・・練に恋する第三の女である市村小夏(森川葵)は鬱屈した思いを抱え・・・東京の華やかさに突撃を開始する。

正体不明の男・中條晴太(坂口健太郎)は小夏を生温かく見守るのだった。

ハードな仕事を終え、バス停留所に向かう音は・・・露店のたこ焼きに魅了される。

たこやき君くるくる  

くるくるたこやき君  

鉄板の上で転がって 

どうにもこうにも目がまわる

誘惑に耐えかねてたこ焼きを購入した音。

薄給から・・・実母の遺骨をトイレに流した養父と寝たきりの養母に仕送りをしている音にとってギリギリの贅沢である。

たこ焼きをもってバスに乗車した音。

後から乗り込んできた練に声をかけようとして乗客に押され、たこ焼きを落し、車外に蹴りだされてしまうのである。

「たこ焼き・・・」

無常にも走り出す血も涙もないワンマンバスだった。

雪谷で下車した音は練に声をかける。

「この間は・・・急にあんなことしてごめんなさい」

「じゃ・・・さよなら」

「え」

練は・・・音に対して冷たい態度をとるのだった。

「・・・」

「どうして・・・」

「・・・」

北口方面へと歩き去って行く練を・・・音は悲しく見送る。

練は充分に距離を置いて耐えきれず振り返る。

そこにはただ風が吹いているだけだった。

練は・・・けじめをつけようとあがいているのだった。

過酷な労働環境のためにスタッフが長続きしないために・・・残ったものはますます無理なシフトになっていく。

音の身体も悲鳴をあげていた。

音の部屋には火の気がない。

電気ストーブは高嶺の花だった。

「このストーブ・・・暖かそうやなあ」

「あんた、この前も同じこと言ってたな」

「・・・」

「現品限りだよ」

電気屋の前で見るだけの女だった・・・。

練の勤務する「柿谷運送」の給料も安い。

金髪の上司である佐引穣次(高橋一生)は女社長の神谷嘉美(松田美由紀)に噛みつく。

「え・・・減俸ですか・・・」

「今月、会社厳しいのよ」

「でも・・・これじゃ・・・養育費が・・・」

「父親なら・・・やりくりしなさいよ」

穣次には別れた妻(西山繭子)との間に息子がいるのだった。

「この春から・・・小学生なんだ・・・いろいろと金がいるから・・・二万円貸してくれ」

練にからむ穣次。

「無理ですよ・・・」

「そこをなんとか・・・」

「いくらなんでも・・・この間の弁償金もかぶせたのに」

珍しく同僚の加持登(森岡龍)も練に味方するのだった。

「なんだよ・・・お前まで・・・」

穣次は怯むのだった。

音と練はバスに乗り合わせる。

泣きだした赤ん坊を抱いた母親がいて・・・中年男の乗客が毒を吐く。

「なんだよ・・・他人の迷惑を考えろよ・・・」

「すみません」

音はうつむく。

練もうつむく。

沈黙が支配するワンマンバス。

赤ん坊の泣き声だけが響き渡る。

音は練に声をかけるが・・・練は音を頑なに拒絶するのだった。

音は練への恋しさに耐えかね・・・冷たい部屋で眠れぬ夜を過ごす。

そして・・・音は壊れた。

翌朝・・・ふらふらとバスに乗り込んだ音は・・・座席からずり落ちて床に倒れ込む。

練は思わず駆けより・・・音を職場まで運ぶのだった。

ロビーのソファで意識を失っている音を介抱する朝陽だった・・・。

「だから・・・働きすぎだって言ったのに・・・」

意を決した朝陽は社長への直談判に臨む。

「今の勤務体制には無理があります」

「脱落者が出たら・・・補充すればいい」

「しかし・・・」

「意見するのなら・・・会社に利益をもたらすことにしろ・・・」

「・・・」

「私は失敗作を見ると不愉快になるんだよ」

言葉を失う朝陽だった。

父親と愛人の子の間には暗くて深い河が流れているらしい・・・。

無力感を味わいながら愛人の子でもあるが・・・御曹司でもある朝陽はポケットマネーにものを言わせるのだった。

愛車で音を送り届け、ストーブと加湿器を購入したのである。

隙間風の入る狭い部屋は・・・人間の住める場所になったらしい。

「あったかい・・・」

「これ・・・君が描いたの」

音のスケッチブックを発見する朝陽だった。

そこに描かれているのは入所者の老人たちの似顔絵。

「見ないでください・・・」

「すごく上手じゃないか・・・イラストレーターになろうと思わなかったの」

「そんなの・・・ただの落書きですから」

「君には夢がないのか」

「夢」

「そうだよ・・・浅田真央ちゃんみたいになりたいとか」

「あなたにはあるんですか」

「夢か・・・夢のことを考えると苦しくなる・・・どうしても叶えたい夢なら・・・なおさら・・・」

音は練からの贈り物である白桃の缶詰を見つめる。

音の夢は・・・。

東京で引越し屋さんと恋をすることだったのだ・・・。

「夢なら・・・もう叶ったんです」

「え」

「自分で稼いだお金で・・・自分だけの部屋で暮らすこと・・・それが私の夢だったから」

「・・・」

「私は・・・今、夢の中にいるんです」

「そうか・・・それなら・・・僕も夢の途中なのかもしれない」

「・・・」

「あの人に・・・認めてもらうことが・・・僕の夢だとすれば」

「・・・」

音は朝陽の言葉を聞き流した。

音にとって・・・会社の社長の息子は無縁の存在だったのである。

それが・・・愛人の子であろうとも・・・。

とにかく・・・一部お茶の間的には・・・かわいいよ、体育座りかわいいよに尽きるのだった。

金にならないから見限った「劇団まつぼっくり」のチラシを配る団員の横を顔を伏せて通る小夏。

「君はモデルに向いてない」

晴太はあまりん・・・小夏の心を直撃である。

「そんなのわかってる・・・私は・・・どこにでもいる子になりたくないの・・・特別な人になるの・・・」

「どこにでもいる子になりたくない子ってどこにでもいるよ」

「そういうどこにでもいる子じゃなくなりたいって言ってんのよ」

「だからそういう子はどこにでもいるって」

「バカッ」

「君と契約したいって言う事務所・・・聞いたことないんだな」

「これからの事務所だって言ってたもの」

「これから・・・どうなるんだろう」

「・・・」

完全に怪しそうな事務所に突入する小夏。

「これ・・・マンションの契約書ね」

「マンションって・・・私が契約するんですか」

「お金がなければ事務所が貸すから大丈夫」

「私・・・事務所に借金するんですか」

「大丈夫・・・君ならすぐにいい仕事が入るから」

「・・・母と相談してみます」

「おいおい・・・ここまで来て置いてそれはないだろう・・・ああん」

「・・・」

「今日はまず・・・カメラテストをしていきなさい」

「カメラテスト・・・」

「そうだよ・・・モデルになるためには・・・いろいろと勉強しないとね」

「勉強・・・」

「もちろん・・・水着とか下着の撮影もあるし・・・そういう場合についても詳しく教えるから」

「今日は帰ります」

「困るよ・・・スタッフがスタンパイしているんだから・・・」

現れる怪しいカメラマンとアシスタント。

「スタッフって・・・」

「さあ・・・まず、衣装をチェンジしようか・・・」

ここから面白いところなのだが月9なので晴太がチャイムを鳴らすのだった。

「なんだ、てめえは」

「うわあ・・・てめえだよ・・・友達のお迎えに・・・小夏ちゃん」

「晴太・・・助けて」

「なんだ・・・可愛がってもらいてえのか」

「うわあ・・・可愛がってもらえるんですか」

修羅場なのでこれ以上の描写はない・・・月9なので。

現実ではこの後、二人とも恥ずかしいポーズをとることになるのだった。

なにしろ・・・14歳でも思いつくお約束の買春斡旋業である。

この後、小夏は鉄塔から飛び降りることになる・・・あまりん無惨・・・誰が「リリイ・シュシュのすべて」の話をしろと・・・。

業務中、穣次は子供の通う小学校に立ち寄る。

「どうだい・・・私立の小学校に通うんだぜ」

「すごいですね・・・どれですか」

「人の子供をどれって言うな・・・あの子だよ・・・」

しかし・・・そこには穣次の妻と・・・新しい父親が現れる。

「何しに来たの」

「入学金・・・」

「あの人が出してくれるから・・・いらないっていったでしょう」

「・・・」

穣次の淋しさに撃ち抜かれる練だった。

引越し先で・・・客の貴金属に手を出す穣次。

「だめです」と制止する練。

「・・・なめんなよ・・・俺を誰だと思ってる・・・有名人から毎日誘われてんだぜ・・・お前は出ていけ・・・東京から出ていけ・・・東京になんかいたって・・・金たまんないぞ・・・俺みたいになるだけだぞ」

穣次の孤独な魂は虚空に向かって叫ぶのだった。

バス亭で赤ん坊を連れた母親と遭遇する音。

「乗らないんですか」

「混んでいるし・・・この子はきっと泣くと思います」

「でも・・・寒いし・・・赤ちゃん、風邪引いたら大変ですよ」

乗車するとお約束で泣きだす赤ん坊。

お約束で中年男がクレームをつけ始める。

「僕はいいんだけどね・・・何もこんな時間に赤ん坊を連れまわさなくてもいいんじゃないの」

「すみません」

母親と頭を下げる音。

「うるさいのはおっさんじゃないの」

若者が中年男を揶揄する。

「なんだと・・・誰がおっさんじゃ」

「おっさんはおっさんだろう」

「車内ではお静かに願います」

「迷惑だ・・・もっと後ろに行ってくれ」

「はい」

走行中を移動する母親と音。

その時、バスが揺れ、音はお約束で転倒。

音の手提げ袋から・・・着替えの下着が転がり落ちる。

「うわあ・・・ブラジャーじゃん」

鼻をたらした学生が囃したて・・・勃起した男性客は下着を取り上げ撮影を開始する。

「や・・・やめてください・・・かえしてください」

「面白い」

「おもしゃぐねえな」

ついに・・・沈黙を破る練だった。

「なってもおもしゃぐねえ」

沈黙する乗客たち。泣く子も黙るのだった。

「たんだ・・・人が転んだだけだ」

上京する木穂子に合鍵を残してきた練は・・・覚悟を決めていた。

これが・・・最後の機会なのだ。

「洗濯もの・・・静恵さんのところで・・・すればいい」

「いいんですか」

「俺も後から行くから・・・買い物してから」

「買い物」

「音ちゃんに食べさせたいものがある」

静恵不在の屋敷で・・・たこ焼きを開始する二人。

「手際いいね」

「高校生の時、バイトしてた・・・じいちゃんにマッサージ器買ってやろうと思って」

「おじいさん・・・喜んだでしょう」

「叱られた・・・年寄り扱いするなって・・・」

「・・・」

「じいちゃん・・・七十過ぎてんのに・・・頑固だから」

「会ってみたいな」

「会わせたい・・・音ちゃんも頑固だから・・・どっちが頑固なのか・・・見てみたい」

「・・・」

「家の近くに湖がある」

「湖?」

「猪苗代湖だ・・・」

「怪獣が出そうな名前ね」

「湖が鏡みたいに澄んで・・・夕焼けで真っ赤に燃えあがる」

「見たいな・・・」

「見せたい」

「一緒に・・・」

「音ちゃんのこと・・・好きです・・・好きで好きでどうしようもねえくらいになりました・・・いつも音ちゃんのことを思っています・・・そのことをあきらめなくちゃいけないのは苦しい・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・好きでした」

音は練の膝の上の手に手を重ねる。

「引越し屋さん・・・」

練は・・・その手を静かに外す。

「鰹節とってくる」

「はい」

たこ焼きは黒焦げになった。

食器を洗う練の背後で音は静かに帰った。

坂道で音はコンビニでプリンもしくはアイスクリームを二個買った木穂子とすれ違う。

「あら・・・こんばんわ」

「こんばんわ」

「月がとっても綺麗ね」

「はい・・・」

坂を下りながら音は泣いた。

シクシクシクシク・・・もう泣いてるじゃないか・・・。

だから・・・恋を思い出したらいつだって泣いてしまうんだって・・・。

なんとか虎口を脱した小夏に・・・いつもの屋上で傷だらけの晴太が合流する。

「強いんじゃなかったの」

「弱いよ・・・」

「私・・・あなたのこと・・・好きじゃないのに」

「知ってるよ・・・だから・・・僕が君を練とくっつけてやるよ」

「え」

「僕と契約しよう」

「魔法少・・・」

晴太は小夏に誓いのキスをした。

練は木穂子と普通の恋人たちを目指す。

小夏は晴太と怪しい密約を交わす。

取り残された音に着信がある。

「こんな時間にごめん・・・」

「何かあったんですか」

「君に逢いたくなっちゃった・・・」

冬は去りつつあった。

そして音はたこ焼きを見る度にいつも悲しくなる女になったのだった。

たこ焼きにタコが二個入っていたらきっと泣くと思う。

昔はよかったなあ・・・戦に勝って二人とも側室にすれば済んだ話だもの。

まあ・・・練は誠実さに拘ってだまし討ちにあって殺されちゃうんだけどね。

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天使テンメイ様の主題歌「明日への手紙」感想

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2016年2月 8日 (月)

腰抜けは何度も死ぬかと思うが本当に死ぬのは一度きり(内野聖陽)奥入りのお許しが出たのは六月(長澤まさみ)

「死ぬかと思った」と言う時には人は死んでいないのである。

戦国時代・・・人はいつ死ぬかわからなかった。

食事に毒を盛られれば死ぬし、寝首を掻かれたら死ぬのである。

徳川家康は・・・長男の信康を切腹に追い込んでいる。

幼少時代を今川家の人質と過ごしている家康は・・・常に「死」を意識していただろう。

誰かが裏切れば即死というのが人質というものなのだ。

今川氏の武将として初陣を飾ってから三年目が桶狭間の戦いである。

数え十八歳の家康は先鋒として敵陣を突破している。

戦は今川義元の戦死により大敗北である。

家康の自害未遂はこの時から始る。

しかし・・・結局、死にきれずに・・・独立武将としての人生を開始する。

三河統一戦では足利将軍家に連なる吉良氏を討ち、三河一向一揆を鎮圧する。

すべて・・・死闘である。

織田家との同盟により姉川の戦いに参戦し、以後は織田家の東の盾となり・・・武田家との抗争が開始される。

三方ヶ原の戦いでは武田信玄に惨敗を喫し・・・浜松城まで大敗走を演じる。

家康は当然のように用心深い性格になっていっただろう。

それでも・・・「死」は常に迫ってくる。

本能寺の変によって・・・大混乱に陥った堺から京へと続く道で・・・伊賀国から伊勢経由で帰国するという選択をした家康は・・・。

またしても九死に一生を得るのだった。

「死ぬかと思った」けれど・・・しぶとく生き残り・・・ついには天下を統一する。

家康の苦難は・・・まだ序の口である。

で、『真田丸・第5回』(NHK総合20160207PM8~)脚本・三谷幸喜、演出・木村隆文を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は上杉謙信の後継者で戦国末期を生き抜く上杉景勝の描き下ろしイラスト大公開でお得でございます。素晴らしいインターネットの世界のない時代、電信電話もなく、通信手段は狼煙や動物を使ったものの他は人々の移動する時間が情報伝播の基本・・・遠ければ遠いほど「それ」を知ることが遅くなる。そのもどかしさにこだわって描かれていましたよねえ。そういう不便さを描くことがピンとこない時代になりつつあるのかもしれませんが・・・。京と安土城の距離、京と堺の距離、京と松尾(真田)城の距離、京と厩橋城の距離・・・そういう地理的知識が一般常識とは言えないということもございますしねえ。少なくとも以前は一部マニアだけが知っているだけだったような気がします。そういう史実を生かした作劇の数々、そしてその切れ味・・・。事件の実態を知るために現場に向かう信繫。危機を知らずに奥入りに微笑む高梨内記の娘。右往左往する旅先の家康一行。その中で冴える服部半蔵の体術。そして明智勢をなぎ倒す本多忠勝の武芸。変事を知らずに「夢の果て」を語る滝川一益。これぞ大河ドラマでしたな。去年の悪夢が嘘のようでございますねえ。

Sanada005天正十年(1582年)六月二日未明、近畿管領・明智光秀の率いる丹波衆が織田信長の宿営する京の本能寺を急襲。ほぼ同時に織田家嫡男・信忠が滞在する二条城も襲い、信長・信忠親子は自害。信長の弟・長益は近江国・安土城に向けて脱出する。三日、柴田勝家は上杉方の越中国魚津城を占領。徳川家康は伊賀越えを開始。四日、光秀は坂本城を中心に近江国内をほぼ平定。家康は伊勢から三河国岡崎城に帰着。羽柴秀吉は備中国で明智方の密使を捕縛。高松城で清水宗治切腹。五日、光秀は安土城に入城。秀吉の長浜城、丹羽長秀の佐和山城を占拠。長秀は織田信孝とともに摂津国野田城で光秀の婿・津田信澄を殺害。秀吉は中国大返しを開始。六日、柴田勝家は本能寺の変を知り、魚津城から撤退開始。七日、上野国・厩橋城の滝川一益に急報が届く。秀吉は播磨国姫路城に帰陣。八日、森長可は越後国春日山城攻めを中止し信濃国に撤退開始。九日、光秀は京に戻る。秀吉、姫路城を出陣。十日、秀吉は兵庫に着陣。光秀は大和国の筒井順慶に援軍を求める。十一日、厩橋の長益は上野国衆を集め能興行をした。秀吉は尼崎に着陣する。十二日、摂津国富田に着陣した秀吉の元に反明智軍が集結する。

明智光秀の支配する丹波・山城・近江の忍び衆は京周辺に集合し、結界を張っていた。しかし、明智忍びを上回る各地の忍び衆が京の都には滞在しており、本能寺、二条城を中心とした焼き打ちによる火災から逃れる避難民にまぎれて・・・変事の情報は周辺諸国に伝播している。光秀は各地の国衆に向けて密使を派遣するがそれよりも早く、信長の遭難の報は拡散していた。周辺国の武将たちから真相探索のための密偵が京に向かって放たれ、京周辺には忍びたちが充満する。真田忍びにおいては琵琶湖・諏訪湖の地下水路を使った河童衆による急報が河原綱家から真田昌幸に伝えられた。

六月三日の夜・・・松尾城の忍び小屋には・・・真田忍びの頭である真田幸村がすでに控えていた。

「京周辺では明智忍びとその他のものの暗闘が繰り広げられているようでございます」

「愚かなことだな・・・明智光秀とやらは・・・信長を討ってどうするつもりだったのだ」

「さて・・・信長を討てば・・・世間は喝采すると・・・思いこんでいたのでしょうか」

「思いこみが激しいというのは恐ろしいものだな」

「朝廷の一部勢力が・・・光秀を唆したのでございましょうか」

「腐れ公家どもか・・・京などというところは魑魅魍魎が跋扈しておるからのう・・・」

「信長公を怨む筋がないわけではございません」

「手を下したのは・・・あの者だという話もあるが・・・」

「真偽のほどは定かではありません・・・あの方は・・・忍びの中の忍びなれば・・・影さえ残しませぬゆえに・・・」

「まあ・・・よい・・・問題は・・・この後だ・・・厩橋城の周囲には・・・」

「すでに鈴木衆の忍びたちが潜んでおります」

「安土城に誰かをやらねばならんな・・・」

「鎌原衆を出しました」

「そうか・・・」

「くのいち衆は銀杏が率いて参ります」

銀杏は昌幸の三女で長篠の戦いで戦死した鎌原重澄の嫡男で真田家老臣の鎌原重春の妻である。

「まあ・・・信繫も・・・松も・・・ぬかりはしまいが・・・戦となれば・・・何が起こるかわからんからな」

「安土には蒲生衆がおりますれば・・・明智軍も・・・蹂躪するというわけには参らぬでしょう」

「信長の家来たちも・・・簡単には降るまいて・・・」

「誰が・・・明智を討伐するでしょうか」

「さあな・・・柴田か・・・丹羽か・・・滝川殿は遠すぎる・・・毛利と対峙しているという羽柴も難しいだろう・・・誰が残るにしろ・・・無傷というわけには参るまい」

「戦の世に戻りますな」

「それは間違いなかろう・・・」

その頃・・・徳川家康は伊賀を目指して京への道から進路を変更していた。

僅かな手勢だが・・・先導するのは伊賀忍者の二代目服部半蔵。殿を守るのは戦国最強を謳われた本多忠勝である。

その殺意に落武者狩りの一揆勢も沈黙する。

光秀は家康の生け捕りを画策していた。できれば三河・遠江・駿河の三国の太守である徳川家を味方につけたいのである。

京路から消えた家康が伊賀を抜け伊勢に出ると読んだ光秀は筒井順慶配下の柳生衆に追跡を命じる。

柳生石舟斎の子・久斎と徳斎の兄弟は柳生忍びを率いて伊賀上野から伊勢へと結界を張る。信長の伊賀攻めにより壊滅した伊賀の忍び衆の生き残りは半数が半蔵の支配下に入り、残された恩賞目当てのものたちが柳生の誘いに乗った。

「殿・・・囲まれました」と半蔵が囁く。

「圧し通らんでどうならあ」と家康はつぶやく。

柳生久斎が叫ぶ。

「徳川様とお見受けしました・・・明智光秀配下筒井順慶の手のものでございます」

「・・・」

「どうか・・・御同道くだされ」

「ちょーけるだに(笑わせることだよ)」

家康は本多忠勝を振り返る。

忠勝は進み出ると跳びながら槍を三度繰り出し、一瞬で三人の小者を屠ると最後の一人を串刺しにして、槍を旋回させ、投げ飛ばした。

即死した身体は彼方の林に落下する。

柳生衆は沈黙し・・・家康一行は去って行った。

「恐ろしいの・・・」

「命あってのものだねや」

「こうなりゃ、父上に申して筒井が明智を見限るよう進言せねばならぬ」

「そうじゃのう」

徳川一行を見送った柳生兄弟はしばらく震えが止まらなかった。

安土城の蒲生賢秀は濃姫ら織田一族を連れ、三男レオン氏郷の居城・日野城に脱し、甲賀忍び衆による結界を張っていた。

明智の忍びはその結界を破ることができない。

明智光秀の野望はすでに闇に包まれ始めている。

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2016年2月 7日 (日)

悔い改めた豚に失われた夢の名残を与えたまえ(亀梨和也)無償の愛なんて幻想なのよ(広瀬すず)

武士道では「愛」を「感情」と考えている。

「感情」は「人間の心」に「自然」に生じるものである。

たとえば・・・親と子の間には・・・「愛情」が発生するのが「自然」なのである。

それに対し「義理」は・・・あくまで「論理」であり、あえて言えば「不自然」となる「人間の作為」と考えられる。

「義理」は「愛情」を欠損した場合の「代用品」である。

親を愛さない子供、子供を愛さない親も「義理」によって拘束される。

親に対する義理である「孝行」が強調されると「親の放蕩の結果生じた負債」を「子供が身売りをしてでも返済」しなければならないという不条理が生じる。

「義理」に「美」を見出せば・・・そこには義理に縛られたものへの際限のない一方的な搾取が開始される予兆があるのだ。

親が子を慈しみ、子が親を慕う・・・その上で「親子の義理」は語られるべきであるが・・・そのためには「孝行をしたい時には親はなし」という言葉の真意を吟味する必要があるだろう。

つまり・・・子供が孝行をしたくなるような年齢まで親が生きているのは・・・アレなのである。

で、『怪盗 山猫・第4回』(日本テレビ20160206PM9~)原作・神永学、脚本・武藤将吾、演出・猪俣隆一を見た。「怪盗」という「存在そのもの」がリアリティーを欠く現在にあって・・・「怪盗」を創作するためにはある程度の「お約束」が必要となる。たとえば・・・「世界」が「ファンタジー的異世界」であれば・・・「怪盗」という「職種」があっても許容の範囲内になるわけである。しかし・・・そういう「世界」を許容する一部のお茶の間は・・・そもそもリアリティーを求めていない。「そんなことは現実的ではない」と言い出す「本当は世間知らずのお茶の間」を騙そうとして・・・「新世界」という言葉を持ち出すと・・・とんでもないことになる可能性があると言及しておきたい。

悪徳警官の関本修吾警部(佐々木蔵之介)は藤堂健一郎(北村有起哉)によって・・・モニターを通じて謎の黒幕「ユウキテンメイ」と再会する。

かって・・・関本はユウキテンメイのボディガード、藤堂はユウキテンメイの秘書だったらしい。

ユウキテンメイは1945年にはすでに成人していたので若くても2016年には90歳以上に達している。

しかし、1945年には関本も藤堂も生まれていないため・・・あくまで伝説的な情報に過ぎない。

ゴキブリマスクを装着しているユウキテンメイが本人であるかも定かではない。

関本は超自然的存在もしくは幻覚であるユウキテンメイの殺気を感じる。

白刃で一刀両断されそうになるのである。

藤堂の目指す「新世界」とともに・・・この脚本家の大風呂敷にいつものように微笑むしかない。・・・まあな。

基本的に・・・「情報操作」は「悪」の本質である。

そのために・・・登場人物たちは「虚言」を弄する。

たとえば・・・「盗聴」されている時に「真実」を語らないことも一種の「情報操作」なので「悪」なのである。

この物語は基本的に「悪」をもって「悪」を制すスタイルであり、「核保有国」に対する「防衛戦力としての核武装」を主張する一部半島国家の「主張」を肯定している。・・・おい。

とにかく・・・この世界では「日本国」は「ユウキテンメイの所有物」であり、自称・怪盗探偵・山猫(亀梨和也)は「それ」を盗もうとしているのだった・・・。

路地裏のカフェ「STRAY CATS」では「怪盗人生ゲーム」によるギャラ争奪戦が繰り広げられていた。山猫と魔王こと高杉真央(広瀬すず)は獲得した賞金を藤堂によって換金してもらえたが・・・魔王は下宿代などを引かれ手取り五百円である。

「少ない」

憤慨する魔王、かわいいよ魔王である。

雑誌記者の勝村英男(成宮寛貴)に至ってはゲームでの借財をそのまま負債として「二百万円の借金人生」に突入する。

「そんな馬鹿な話があるか」

関本は山猫チームの金庫番らしく・・・残金はすべて懐に収めるのだった。

「テンメイに会えたのか」

「ダメだった・・・」

関本の言葉も・・・山猫の表情も・・・どこまで本当なのかはわからない。

一歩間違えると・・・誰も話についてこれなくなる展開である。

カップラーメンの在庫を誇る宝生里佳子(大塚寧々)が本当に仲間なのかどうかも不明なのだ。

限りなく「すべてが謎」の世界は「なんでもあり」の世界と紙一重なので注意が必要だ。

「謎」の面白さと「なんでもあり」の虚しさはお互いを食いつくす惧れがある。

まあ・・・この脚本家にとってはいつもの曲芸なんだけどな。

純真な女子高校生でもある魔王こと高杉真央(広瀬すず)の気がかり・・・「前任のハッキング担当者・細田(塚地武雅)を殺害したのが誰か」は今も不明のままなのだ・・・。

魔王は「情報を盗むこと」を「悪」とは考えないが・・・「人を殺すこと」は「悪」と考える。

山猫が「人を殺すのかどうか」は魔王にとって重大事なのだ。

しかし・・・山猫はあえて・・・魔王に真相を語らない。

一方・・・警察組織には応援のための新顔の刑事たちが追加される。

狂犬である犬井克明(池内博之)は「山猫事件捜査班と細田殺害事件捜査班を分ける必要はない」と司令塔の悪徳刑事に進言する。

「山猫事件の通報者は声紋チェックにより・・・細田と断定された・・・山猫と細田はつながっている」

「犬井は狂犬ですが・・・刑事としては優秀です」

そう語るのはコンビを組む森田刑事(利重剛)と福原刑事(渡部豪太)・・・。

そして新コンビとして霧島さくら(菜々緒)と狂犬の組み合わせが司令塔から発令される。

さくらと狂犬・・・禍々しいな・・・。

続々と増える登場人物たち・・・殉職要員でないことを祈るばかりである。

一方・・・ある時は会社員の失踪した恋人・赤松杏里、ある時は高級売春婦・セシリア、ある時は台湾マフィアの工作員・ウォンだが・・・結局、正体不明の謎の女(中村静香)は山猫に「新情報」をもたらす・・・。

「死んだ細田は・・・死ぬ前に不動産会社を調べていた」

「何故・・・俺にそんなことを・・・」

「細田を殺したものと・・・私を狙ったものは同じ組織に属しているかもしれない・・・」

「・・・」

「ユウキテンメイは・・・カメレオンという暗殺者を飼っているそうだ・・・」

「カメレオン?」

「そいつは・・・笑顔でターゲットに近付いてくるという・・・気をつけなさい」

お茶の間的には・・・「勝村か」という予測が沸き立つのだった。

「かつむら」と「カメレオン」は・・・似ていないとは断言できない微妙さだ。

「か」だけだろうが・・・。

「細田と・・・不動産か・・・」

「そういえば・・・細田、山がどうかとか言ってなかったかしら」と里佳子。

山猫は・・・人生ゲーム中の雑談を思い出す。

「そうだ・・・細田は実家は山を持っていると・・・でも山の値段は安いと・・・家族とは疎遠だと・・・しばらくぶりに帰ったら細田の母親は認知症に・・・山は騙し取られていた・・・と言っていたな」

「なんで・・・全部、ゲーム中の会話なの」と魔王。

「金でも懸ってないと・・・人の人生なんかに興味は持てないよ」

「あのゲーム・・・いつもやってんのかよ」

山猫は・・・プレイヤーの顔写真付きの特別の駒をつくるほどの凝り性だった。

できれば・・・美術さんに趣味の人がいて「フィギュア」にしてもらいたかったな。

山猫フィギュアも魔王フィギュアもそこそこ売れると思うぞ。

裏返して魔王のパンツが見たいだけだろう・・・。

魔王の検索により・・・「細田家の山」を購入したのが「モルダウ不動産」であることが分かる。

「山の中にあった・・・細田家の廃工場も屋敷も・・・取られてしまったのね・・・」

しかし・・・それについて・・・山猫はとっくに知っていた。

あの日・・・。

「テンメイはお前の命を狙うかもしれない・・・だから死んだフリをして逃げろ」

「・・・すまねえ」

「何故・・・裏切った・・・」

「母親のために・・・山を買い戻すためには三億円が必要だった」

「悪徳刑事に借金すればいいじゃないか」

「頼んだけど・・・断られた」

山猫は悪徳刑事を問いつめる。

「なぜ、金を貸してやらなかったんだ」

「そんな二束三文の山を買い戻すなんて・・・儲からないことに金を使えるか」

「・・・」

魔王は・・・山猫に頼みこむ。

「土地の権利証書を取り戻してよ・・・あんたならできるでしょう」

「・・・金の匂いがしない」

「馬鹿」

それでも・・・山猫は魔王とカメレオンかもしれない勝村を連れて細田の母親を訪ねる。

細田の母・芳子は認知症には見えないほどにしっかりしていたが・・・「息子の死」を忘却していた。

芳子の手料理を食べた魔王は・・・芳子に亡き母の面影を見出す。

魔王の保護者である里佳子は・・・魔王の暴走を危惧するのだった。

さくらは犬井の命令で・・・カメレオン(仮)に接触する。

「先輩・・・山根さんとよく会うんですか」

「そんなことないよ」

しかし・・・さくらは山猫と密会中のカメレオン(仮)のいるカフェ「STRAY CATS」に突撃。

「山根さんに会ってるじゃないですか」

「いや・・・これは・・・」

「仕方ない・・・俺が怪盗」

「皆藤愛子を愛する会の会長さんだ」

「実名シリーズですね・・・猫ひろしとかガッキーとか阪神の金本とか・・・気をつけないと・・・放送中止になりますよ」

「番長の話はやめてくれ」

「そういう実名を出して荒唐無稽な世界にリアルを付加しようとするスタッフの健気さを察してやってくれ」

「セントフォースとか事務所名まで出して・・・」

「高城千佳子も同じ事務所だよな」

「山根さん・・・あなたが山猫ね」

「証拠があるのか」

「・・・」

「エビデンス(根拠)を示してくれよ・・・立証責任はそっちにあるんだから」

「ちっ」

しかし・・・店内に盗聴器をしかける橘カ・・・さくらだった。

だが・・・怪盗山猫は・・・「盗みのプロ」として・・・盗聴器を見逃したりはしないのだった。

ここで・・・山猫の目標が明らかになる。

「細田の実家にあるPC」・・・。

しかし、それは警察に押収されていた。

警察の科学捜査チームは・・・暗号化された情報を解読できていないらしい。

犬井は・・・山猫が・・・PCを狙うと読んでいた。

動きだす・・・山猫チーム。

魔王は・・・「モルダウ不動産の金庫」を狙っていた。

盗聴中のさくらは「山猫リサイタル」の開演に苦悶する。

犬井は・・・山猫を追って「モルダウ不動産」へ。

金庫破りの途中でロッカーに逃げ込んだ魔王。

ガードマンに変装したカメレオン(仮)は犬井を地下室に誘導する。

魔王を救助したカメレオン(仮)は里佳子の運転する車で闘争開始。

「どうして・・・」

「仲間を信じなきゃ・・・」

勝村は怪盗山猫チームの一員であるように魔王を諭すのだった。

犬井は車に発信器を仕掛ける。

激しい攻防戦である。

さくらと合流し・・・山猫チームを追跡する犬井。

しかし・・・追跡用の発信機は・・・タクシードライバーの手に渡っていた。

「あなたが・・・犬井さんですか・・・これを渡すように頼まれました」

「この先の廃工場で待ってます・・・山猫」というメモである。

歯ぎしりしながら・・・工場に到着した犬井が目撃したのはスネーク・ヘッ・・・サーペントというアジアンマフィアの経営する銃器密造工場だった。

「なんですか」

「くそ・・・」

狂犬とカ・・・さくらは激しい肉弾戦で用心棒たちを制圧する。

そこに突入してくる・・・悪徳警官と機動隊の皆さん。

「お手柄だったな・・・」

「どうして・・・ここに・・・」

「え・・・お前が・・・銃の密売組織を発見したと・・・連絡してきたんだろう・・・」

ラクダ・・・いや、悪徳警官のおとぼけ炸裂である。

「しまった・・・」

おびき出されたことを悟り・・・警察の庁舎に急行する犬井とさくら。

PC運搬中のこわい顔の山猫と遭遇する。

「山猫~」

しかし・・・山猫の格闘術は・・・狂犬とさくらを上回るのだった。

最後は音響閃光弾で戦闘不能にされてしまう二人の刑事である。

「倉庫の閃光弾を無断使用か」

「ど、泥棒」

「おなら、ぷっぷっぷ~」

保護者である里佳子は魔王に教育的指導をするのだった。

「心配したじゃないの・・・」

「ごめんなさい」

「二度とやらないでよ」

「すみません・・・」

「今度やったらお仕置きよ」

「はい」

大塚寧々(47)、広瀬すず(17)・・・ある意味、疑似母娘関係なんだな。

PCに隠匿された情報を解読するスーパーハッカー。

現れたのは「細田のラストメッセージ」だった。

「・・・この映像を呼び出せるのは・・・魔王だけだろう・・・だから・・・山猫・・・お前がこれを見ているということは・・・俺はもう・・・この世にいないかもしれない」

「真実がお前の望むものとは限らないぞ・・・」

山猫は魔王を気遣うのだった。

そして・・・。

山猫と魔王は・・・細田芳子を訪ねる。

「今日も・・・あの子は留守なのよ」

「もう・・・芝居はいいよ・・・認知症なんて・・・嘘だろう」

「・・・」

「あんたの・・・父親も・・・あんたの夫も・・・闇社会の人間だったんだろう」

「・・・」

「あんたは・・・細田だけは・・・表の社会で育てるつもりだった」

「・・・」

「しかし・・・細田は引き籠り・・・母親には家庭内暴力を振るい・・・最後には犯罪者として逮捕された・・・」

「・・・」

「ほっとしたんだろう・・・あいつか死んだと知って・・・」

「あんたに・・・何がわかるの・・・」

「あんたは・・・父親の残した密造工場を・・・サーペントに売却した・・・価格は三千万円・・・まあ、老後を楽しく暮らすためには適当な額だ・・・」

「・・・」

「ところが・・・息子が帰ってきて・・・事情が変わった・・・あんたは・・・恐ろしかったんだ」

「そうよ・・・お金をあの子に取られると思ったわ」

「そうだな・・・母親を殴るような男だ・・・信用できなくて・・・当然だ」

山猫は仏壇の下に隠された札束の存在を暴く。

「やめて・・・」

「そうだな・・・息子より金を信用したんだ・・・あんたは」

「でも・・・信じてあげて欲しかった・・・お母さんなんだから」

山猫は魔王に牙をむく。

「親だから・・・子供に無償の愛で尽くせってのか・・・」

「子供は・・・それを信じるしかないんだもの・・・」

魔王は「細田の遺言」を開く。

「俺は母親にひどいことをした・・・そんな俺を母親は許してくれないだろう・・・だけど・・・せめてもの罪滅ぼしに・・・あの山をなんとか取り戻すつもりだ・・・そして・・・母さんに・・・ごめんなさいと頭を下げたいんだ・・・」

「細田は刑務所で罪を償って・・・出所した・・・そして・・・犯罪者である母親のために・・・親孝行しようとして・・・死んじゃった・・・馬鹿な奴だよ」

「笑ってあげてください・・・」

魔王は涙ながらに訴えた。

「・・・」

細田芳子の妻は・・・自首した。

違法な武器売買に関与した罪に問われるためである。

「これでよかったのかしら・・・」

「お前がしたことは・・・細田の母親を細田の母親に戻した・・・それだけだ・・・」

「知ってたよ・・・山猫は細田さんを殺してないって・・・勝村さんに言ったって・・・勝村さんに聞いた」

「・・・俺はそんなこと・・・勝村に言ってないけどな・・・」

「・・・」

山猫は・・・細田のフィギュアを墓前に供えた。

「よかったな・・・細田・・・母のいる子供になれて・・・」

山猫は歌う・・・。

「ざらついたにがい砂を噛むと・・・ねじふせられた正直さが・・・」

謎の女は藤堂を抱きしめる。

「よかったわね・・・サーペントがつぶれて・・・」

「ああ・・・また一つ・・・新世界に・・・汚れなき街が戻って来たよ」

藤堂は女を抱きながら・・・微笑む。

「あの工場を立ち上げたのも・・・ユウキテンメイだったらしい」

「結局・・・細田は・・・生まれた時からユウキテンメイの掌の中で踊っていたんだな」

「・・・」

山猫と・・・悪徳刑事・・・そして里佳子は沈黙する。

ラジオからは緊急ニュースが流れてくる。

「北朝鮮がミサイルを発射しました。着弾方向は沖縄方面・・・」

そして・・・悪徳刑事には「殺人事件の発生」を告げる着信がある。

骨身にしみる荒唐無稽な世界は続いて行く。

関連するキッドのブログ→第3話のレビュー

Ky004ごっこガーデン。チーム対抗お宝争奪戦セット。

エリ怒った顔の山猫マスクも素敵なのでスー。そしてお尻フリフリの山猫先輩はとってもキュートでスー。それにしても・・・まこちゃまチーム・・・もうすぐスペシャル選タクシーでお宝ゲットやりなおし作戦は反則でス~。じいや、こうなったら・・・プロポーズ大作戦の妖精ロイドを起動しますよ~。まこちゃまより過去に戻ってお宝を奪還するのでス~・・・もちろん、山P先輩ロイドも起こしてね~

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2016年2月 6日 (土)

聖なる天使の如く羊の如く牛の如く馬の如く豚の如く鶏の如く・・・(綾瀬はるか)

この世界には巨大なクローン工場がある。

クローン技術によって誕生した人体は遺伝子工学的な処理で生殖機能をもたない一代種となっている。

人工子宮で生育され、乳幼児になったら保育器に移される。

クローンである以上、複製体が一定数あるわけである。

経済的に優位にあるものは常に複数の個体を「部品」として維持することができるだろう。

臓器移植には適合性が必要であり、オリジナルのコピーであれば拒絶反応が回避される。

常にフレッシュな「部品」を確保するために「成人」の場合は「完全体」を複数維持している。

一般的な受給者はいわばそのおこぼれにあずかることができる。

消費期限切れの「提供者」を比較的安価で入手可能である。

「家畜」の飼育にも様々な形態があるように・・・「提供者」の養育にも様々な形態がある。

厩舎による飼育から放牧による飼育。

あるいは「出荷」の時期の調整。

非常に特権的なものから一般用まで・・・レシピエントとドナーにはレベルの設定がなされる。

「動物愛護団体」のように「提供体保護」を叫ぶ反体制派も存在するだろう。

彼らは叫ぶ。

「提供体も生命として尊重されるべきである」と・・・。

しかし、「ビーフステーキを食べながらクジラの保護を訴える」というような様々な矛盾はつきものである。

「平和の象徴の鳩は美味しいが・・・犬や猫を食べるなんてとんでもないことだ」と言うように・・・。

で、『わたしを離さないで・第4回』(TBSテレビ20160205PM10~)原作・カズオ・イシグロ、脚本・森下佳子、演出・吉田健を見た。「生きたい」という根源的な欲求を否定することは難しい。「自死」という選択さえ、「生きたい」という欲求のバリエーションに過ぎないという考え方もある。欲求の希薄な人間は「臓器移植」をしてまで生きる必要を認めない傾向があるが・・・「何が何でも生きていたい」という人間は少なからず存在する。認知症となって洗濯物をたたむことしかできないくせに「できるだけ長く生きたい」と希望している人を知っている。「心臓疾患」のために成人になるまでの生存が難しい子供を持つ親は「すぐに誰かの心臓をください」と願う。そういう人間がいる限り・・・この不条理な世界はあり得るのである。

それを毒々しく感じるかどうかは・・・人それぞれの感性の問題である。

「陽光学苑」の女王である酒井美和(瑞城さくら→水川あさみ)は発達障害のある土井友彦(中川翼→三浦春馬)を獲得することで臣下である保科恭子(鈴木梨央→綾瀬はるか)の忠誠の確保に成功する。

「陽光学苑」の洗脳教育によって・・・「提供」することへの抵抗力が最大限に希薄化された恭子は・・・美和の高圧的な支配からも逃れることは困難だった。

なぜなら・・・恭子は「自己を犠牲として聖なる世界に捧げる教え」の優等生だからである。

三人が到着した「コテージ」・・・荒廃した古い民家の・・・扉は開く。

現れたの一般男性の峰岸(梶原善)だった。

「お・・・仔羊どもか・・・」

「・・・」

続いて見知らぬ女が現れる。

「お待たせしてすみません・・・色々とたてこんでいて・・・」

「どうせ・・・交尾中だったんだろう・・・納品書にサインしな」

「・・・はい」

「まあ・・・盛りのついたメス豚じゃしょうがねえな」

峰岸は去って行った。

「気にしないで・・・」と金井あぐり(白羽ゆり)は微笑んだ。「ああいう口汚い人なの・・・ここへ食材や生活に必要な物資を運んできてくれる人・・・」

「外の人・・・なんですか」

「ああ・・・陽光学苑ではそういうのね・・・そう、あの人は提供者じゃないわ」

「あなたは・・・」

「もちろん・・・あなたたちと同じ提供者よ・・・」

《回想世界》➢➢➢《現在》

そうだ・・・私は初めて「陽光学苑」以外の提供者の存在を知ったのだ。

そして・・・自分たちが恵まれた提供者だったことを知る。

しかし・・・特別扱いについて・・・美和は独特な勘で「危うさ」を嗅ぎつけていた。

美和は姑息だ・・・しかし・・・支配しようとしていたものが・・・自分がどうしようもなく支配されていることを知った時の絶望感を私は想像することができる。

美和は常に・・・私だけは自分の思い通りにしたいと願っていた。

今・・・高所からの墜落という手段で骨折し・・・「介護人」となった私を呼び出したのも・・・彼女にとって・・・精一杯の策略なのだ。

「来てくれると思った・・・」

「・・・」

美和の思い通りになりたくないという感情と・・・介護人変更の手続きの煩雑さが・・・私の中でせめぎあう。

「どうして・・・落ちたりしたの・・・」

「腎臓をとってから・・・すぐに・・・ふらつくのよ・・・」

私にはわかる・・・嘘をついている時の美和の瞳の光り方が・・・。

その酷薄な表情が・・・。

その怯えた口調が・・・。

私の短い生涯の中で・・・最も長くの時間を共有したのは・・・この女なのだから・・・。

《現在》➢➢➢《回想世界》

「コテージ」のまとめ役であるあぐりは三人を案内する。

あぐりはどことなく・・・マダム(真飛聖)を連想させる。マダムの一族のコピーなのかもしれない・・・タカラジェンヌ一族かっ。

「コテージ」では「男性用」と「女性用」の個室がある。

しかし・・・ほどんどの男女がカップルであるためにその境界は適当だった。

食事の支度や清掃なども・・・適当に気が向いた誰かがやるというものである。

恭子は部屋を間違えて・・・初めて交尾中の男女を目撃する。

この世にセックスというものがあると噂では聞いていたらしい。

それが「コレか」という直感で恭子は赤面するのだった。

やがて・・・立花浩介(井上芳雄)たちが「介護人」の研修を終えて帰ってくる。

「介護人・・・とは何ですか」

「え・・・陽光学苑では・・・何も教えてくれなかったの」

「・・・」

「提供が猶予される介護人の研修を受けるんだ・・・」

「どうしても・・・介護人にならなければいけないの?」と「サッカー選手になる夢」をあきらめきれない友彦は問う。

「そういう選択もないことはないけど・・・その場合はすぐに提供することになるよ」

「・・・」

「なんなの・・・あんたたち・・・私たちがどれだけ苦労して・・・介護人研修のあるコテージに入居したと思ってんの・・・」

適性試験などの難関を突破したエリートである自負で桃(松岡恵望子)は激昂する。

「仕方ないだろう・・・陽光学苑出身者にはそういう特権があるんだから・・・」

食後の片付けをしながら恭子は思わず美和に問う。

「どうして・・・私たちは・・・介護人について教えてもらえなかったのかしら」

「そんなの・・・どうでもいいじゃない・・・きっと・・・そういうものなのよ」

美和は苛立つ。

恭子は美和よりも・・・早く・・・絶望に気が付き・・・それを克服しようとして失敗しているのだ。

美和の願いはただ一つ・・・そういう世界でも・・・自分より惨めな存在を確保することなのである。

そうでなければ・・・立つ瀬がないのだった。

恭子は初めて見たテレビの消し方を知らなかった。

「これが・・・イルカか・・・」

恭子は電源からコードを抜いた。

テレビは消え・・・イルカのいる世界も消えた。

友彦は・・・宝物である「サッカー選手のカード」を眺めている。

そこに美和がやってくる。

「そんなもの・・・どうしたの・・・」

「龍子先生にもらったんだ・・・」

「・・・」

「どうして・・・僕たちは・・・介護人について教えてもらえなかったのかな」

「そんなの・・・どうでもいいじゃない・・・私たちは介護人になって・・・提供者になって・・・それで終わりなのよ」

「・・・」

「こんなもの・・・意味ないのよ」

美和は絶望を友彦にぶつける。

絶望しきれない友彦は呻くのだった。

そして・・・美和と友彦は・・・自然が与えた最高の快楽の追及を開始する。

すべてを忘れ・・・絶頂を感じるために・・・。

「コテージ」ではそれぞれのカップルがお互いの性器を摩擦し、濡れそぼり、無我の境地へと逃避する。

恭子は孤独の中で・・・薄汚れた部屋を清掃し・・・そして読書によって空想の世界へ逃避した。

翌朝・・・恭子は得意なことである「料理」に熱中する。

「これ・・・美味いな・・・」

あぐりのパートナーである譲二(阿部進之助)や桃のパートナーである信(川村陽介)は恭子の料理の腕を賞賛する。

「料理人にだってなれそうだ」

「でも・・・なれないのでしょう」

思わず攻撃的になる恭子・・・。

「なによ・・・冗談じゃない」と敵意を見せるあぐり・・・。

「でも・・・陽光学苑出身の人は・・・ガソリンスタンドて働けるって話じゃない」

「あ・・・その噂聞いたことあります・・・」

突然、美和は明るく応じる。

「何故・・・あんな嘘を・・・ついたの」

「馬鹿なの・・・あんた・・・あぐりさんを敵に回したのよ・・・」

「・・・」

「あぐりさんより・・・美味しい料理を作ったりしたら・・・ダメじゃない」

「・・・でも・・・提供者がガソリンスタンドで働けるなんて噂・・・ないじゃない」

「あなた・・・空気を読むってことができないのね・・・まるで友彦みたい・・・」

「・・・」

どうして・・・友彦を見下しながら・・・友彦に好きだなんて言ったの・・・と叫びたい恭子。

しかし・・・友彦よりも聡い恭子には分かっていた。

友彦は・・・恭子を釣る餌にされたのだと。

わかっていながら・・・恭子は美和に釣られてしまったのである。

三人の関係を観察する・・・浩介・・・彼は「コテージ」の実質的リーダーらしい。

「随分・・・特殊な関係だな」

「特殊な関係?」

「そうか・・・君は・・・発達障・・・わからないのか」

「?」

「君は・・・恭子さんのことも好きなんだろう・・・」

「・・・」

「だから・・・美和さんがイライラするんだよ」

「でも・・・二人は親友です」

「でも・・・君は美和さんの恋人なんだろう・・・」

「?」

「嫉妬というのは・・・君には難しいか・・・恋人というのは自分が一番優しくしてもらいたいのさ・・・だから恋人以外の人間にはあまり優しくしてはだめなんだよ」

納得して思わず放屁する友彦だった。

孤立して・・・読書を続ける恭子に接近する浩介・・・。

「ホテルの前には金髪の女がいて男たちの下に寝そべったり・・・男の下腹部をしゃぶりつくす・・・サルトルか・・・そういうのも読むんだね」

「・・・」

「君が淋しさに耐えられないと感じたら・・・いつでも・・・僕の部屋に来てくれていい」

「・・・」

「君が僕たちを愚かだと思っているのは・・・わかっている・・・食べてやって寝て・・・それが何になるのかってね・・・だけど・・・介護人の生活は忙しいし・・・提供者になったら・・・身体はどんどん衰弱する・・・今だけが・・・最後の自由な時間だって・・・覚えていてほしい・・・」

「・・・」

しかし・・・優等生である恭子は簡単に誘惑に乗ることはできなかった。

峰岸が配達にやってくる。

「牛みたいな乳だな・・・搾乳したくなるほどだ・・・白ヤギさんからお手紙ついた・・・読まずに食べるなよ」

鬱屈した恭子は・・・真実(中井ノエミ)から届いた手紙に心を躍らせる。

「マナミ・・・」

美和は錯乱する。

「恭子・・・どこに行っちゃったの」

「コテージを移るんじゃないかしら・・・よくあることよ・・・彼女・・・ここじゃ、孤立していたし」

「そんな・・・」

「仕方ないんじゃないか・・・美和も冷たかったし」

「何言ってるの・・・恋人なら・・・なんとかしなさいよ・・・恭子をとりかえしてきてよ」

「・・・」

到着したマンション・・・廃墟となった病院で・・・恭子は峰岸に注意される。

「脱走なんか・・・するなよ・・・牛娘・・・即時全身提供開始になるからな」

「全身提供・・・」

「解体されるのさ」

「・・・」

真実は笑顔で恭子を迎え・・・恭子は落涙する。

「どうしたの・・・」

「マナミに逢えたら・・・ホッとしちゃって・・・」

「マンション」の提供者たちは・・・研究熱心だった。

「みんな・・・何かに熱中しているのよ・・・おタクなの」

「・・・素敵だわ・・・コテージでは・・・」

「みんな・・・セックスばかりなんでしょう」

「・・・」

「でも・・・ここだってセックスはするわよ・・・」

「え」

「ただ・・・みんなセックスが虚しいことを知っている」

「?」

美和は真実が喫煙していることに驚愕する。

「自分の身体を傷つけるなんて・・・いけないことだわ」

「単なる嗜好品よ・・・こんなもの・・・支援者たちが・・・差し入れしてくれたのよ・・・それに自分の身体なんて・・・持ってないでしょう・・・あなたも私も・・・」

「・・・支援者」

「レシピエントたちにも・・・私たちを人間として考える人たちがいるのよ」

「レシピエエント・・・」

「提供を受けるものよ・・・私たち提供者はドナー・・・」

「ドナー」

「テレビを見たでしょう」

「世界を見せてくれる箱ね」

「私たちのこともたまに話題になる・・・だけど・・・ドナーの新しい利用法が報道されるだけで・・・私たちの心は無視されている」

「・・・社会には民主主義というものがあるでしょう」

「そうね・・・多数決ではドナーシステム肯定派が圧倒的な多数・・・そしてドナーには選挙権もない」

「選挙権?」

「私たちの意見は黙殺されるんじゃなくて・・・最初から無視されるの」

「私たちは・・・提供者だから」

「心を何にも伝えられないなんて・・・そんなの耐えられない」

「心・・・」

「私たちは・・・戦うつもり・・・」

「戦う」

「奪われたものをとりかえすために・・・あるいは・・・与えられなかったものを奪い取るために」

「奪われたって・・・何を」

「基本的人権よ・・・」

「・・・」

「レシピエントにあってドナーにないもの・・・」

「でも・・・そんなことをしたら・・・」

「そうね・・・解体されてしまうかもしれない」

「・・・」

「だけど・・・どうせ解体されるなら・・・抗いたいわ・・・だって私たち・・・家畜じゃないもの」

「けれど・・・私たちがいなくなったら・・・困る人がいるでしょう」

「なぜ・・・私たちが奪われて・・・その人たちが与えられなければならないの・・・そんなの間違ってる」

「私には・・・無理だわ」

「天使だから?」

「少しでも・・・長く生きたいの・・・」

「・・・」

「今日は・・・ありがとう」

「気が変わったら・・・いつでもおいで・・・」

コテージのゴミ捨て場に友彦がいる。

「何してるの・・・」

「美和が・・・宝物を捨てたんだ・・・でも気が変わるかもしれないから・・・拾っておこうと思って・・・」

「この香水瓶・・・大切にしていたよ」

「ありがとう」

「・・・」

「真実に会ったの?」

「マナミは生き生きしてた・・・やりたいことをやろうとしている・・・私だけが・・・何もしていない」

「恭子にはいいところがたくさんある・・・きっと褒めてくれる人がいるよ」

「・・・友彦・・・あなたはどうなの・・・私のこと・・・好き?」

「僕には・・・美和がいるから・・・恭子にすごく優しくするのはダメだって・・・言われた」

「・・・」

美和は孤独を噛みしめた・・・。

「嫌だ」

美和は部屋を出て浩介を訪ねる。

「一人ぼっちは嫌・・・私は・・・みんなをバカにしていた・・・セックスばかりして・・・でも・・・それしかないのよね・・・誰かを好きだと言って・・・誰かに好きだって言ってもらって・・・私たちが幸せになる方法は・・・それだけなのね」

「知ってるかい・・・君は僕が見た女たちの中で一番魅力的だ・・・特に胸が・・・」

美和は初恋を宝箱に収め・・・浩介に処女を捧げた。

そして、深淵なる性戯の研究に没頭するのだった。

《回想世界》➢➢➢《現在》

私は知った。恐ろしい世界のことを忘れる魔法。

抱き合えば・・・世界には二人しかいなくなる。

私が抱いている人と・・・私を抱いている人。

それだけで他には何もない。

私はその空虚な感覚を・・・幸福と名付けるのだ。

「きっと・・・来てくれると思った」

衰弱した提供者の美和が微笑む。

私を誰よりも求めている人・・・。

彼女を私は抱きしめた。

彼女は私を抱きしめた。

精一杯の力で・・・。

それは悲しいほどの弱さだった。

《外の世界》

ドナー支援者の一人・・・龍子(伊藤歩)は校長の神川恵美子(麻生祐未)を訪ねた。

「こんな・・・資料をどこで・・・」

「・・・」

「あなたは・・・本当にあの子たちを守ることを第一に考えてくれますか」

「私は・・・あの日より・・・少しは・・・自分が大人になったと思っています」

「では・・・お話ししましょう・・・私が何故・・・陽光学苑を創設したか・・・を」

マダムは若々しい姿で・・・恭子の描いた絵の前を通りすぎる。

その姿は・・・ドナーたちの肉体を・・・全身移植しているものと考えられる。

「後は・・・脳の情報転移だけね」

「そうですな・・・そうなればすべてのレシピエントは不死身となるのです」

科学者たちは微笑む。

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2016年2月 5日 (金)

言うてもせんないことなれど(小池徹平)一足ずつに消えていく夢の夢こそあわれなり(早見あかり)

映画「最後の忠臣蔵」(2010年)には・・・大石内蔵助(片岡仁左衛門)の隠し子である可音(北村沙羅→桜庭ななみ)を密かに養育する瀬尾孫左衛門(役所広司)を疑う役回りの寺坂吉右衛門(佐藤浩市)が登場する。

ここでの寺坂は大石の命令で「赤穂義士の遺族を援助する役割」を担っている。

四十七士の中で寺坂だけが討ち入り後の泉岳寺に姿を見せなかった。

その理由については・・・討ち入り直後から・・・様々な憶測を呼んでいたと言う。

基本的には寺坂が四十七士の一人、吉田兼亮に仕える足軽で・・・他のものとは身分が違うために処分の対象にならなかったとされるのである。

ただし、それが・・・誰の意図するところだったかは謎なのである。

寺坂には妻がいて・・・寺坂夫婦は・・・姫路藩士・伊藤治興に嫁入りした吉田兼亮の娘の奉公人となっている。

ドラマの中で討ち入り後の寺坂が・・・姫路の伊藤氏のところにいるというのはほぼ史実なのである。

幕府評定所の大目付・仙石久尚は「四十六士」の自首を受け、吟味を行い、寺坂に追手を出さないことを決定したという。

それもまた・・・「寺坂は軽輩者であり、構う必要はない」という大石の意志を赤穂藩贔屓であった仙石が斟酌したと推定されるわけである。

寺坂は縁あって旗本の麻生山内家の士分となり、延享4年(1747年)まで生きる。討ち入りから半世紀近くの時が過ぎていた。寺坂吉右衛門信行・・・享年83。

で、『ちかえもん・第4回』(NHK総合20160204PM8~)脚本・藤本有紀、演出・川野秀昭を見た。「曽根崎心中」が大阪竹本座で初演されるのが元禄十六年(1703年)五月七日のことである。モデルとなった醤油屋平野屋忠右衛門の甥で手代の徳兵衛(25)と天満屋の遊女であるお初(21)は深くいいかわした仲であったがそれぞれの事情によって引き裂かれる前途を嘆き、四月七日に曽根崎天神の森で心中死を遂げるのである。この面白おかしい流れで・・・最後はものすごい悲しいことになるのかどうか・・・お茶の間は固唾を飲んで見守るのだった・・・。

シリアスモードの大坂で一、二を争う豪商・平野屋の大旦那の忠右衛門(岸部一徳)と油問屋の黒田屋九平次(山崎銀之丞)の密会・・・。

「私は・・・平野屋さんの・・・禁製品ビジネスに一枚かましてもらいたいのです」

「この私に難癖つけるおつもりですかな」

「とんでもない・・・私は平野屋さんこそ・・・商人の神様だと思っております」

「残念だが・・・お眼鏡違いだ・・・喜助、去ぬで・・・」

忠右衛門は九平次を軽くいなして番頭の喜助(徳井優)と席を立つ。

しかし・・・九平次の瞳には執念の火を消した様子がない。

「曽根崎心中」での九平次の役回りは徳兵衛の金をだまし取る悪友である。

ちかえもんの世界でも・・・九平次は・・・徳兵衛を通じて平野屋のっとりを画策しているらしい・・・。

そんなこととは露知らず・・・。

浄瑠璃「赤穂義士~言うても詮無いことなれど」を執筆するちかえもんこと近松門左衛門(松尾スズキ)だった。

「どうせ切腹するのなら・・・焼き肉にすればよかったなあ」

「山形でアゴだしラーメンを食べたかった」

「オマールエビのテルミドールを・・・」

「なんで・・・わかめ蕎麦ですませちゃったのかなあ・・・」

・・・という切腹の場面から書きだしたらしい・・・。

「どうや・・・切腹を前にうまいもんに執着する四十七士・・・ぐっとくるだろう・・・」

ちかえもんは居候の不孝糖売りの万吉(青木崇高)に新作をアピールする。

「ちっとも」

「なんでや・・・」

「小手先の技っちゅーか・・・これ見よがしの外連味が鼻につくっちゅーか・・・」

「素人の言いたい放題か」

「第一・・・情報収集能力の弱さが露呈しとるで」

「何」

「切腹したのは四十六士や・・・」

「え・・・どういうこっちゃ・・・」

「討ち入り後・・・一人、消えたんよ」

「え・・・誰が・・・」

「花咲か爺やったかの・・・吉四六さんやったかの・・・衣紋掛けやったかの」

「寺坂吉右衛門か」

「せいかーい」・・・おい、その人ではないぞ。

「しかし・・・何故・・・」

「その何故というところに・・・ミステリの醍醐味があるのとちゃうの」

「井戸端の噂だと・・・」とちかえもんの母の喜里(富司純子)・・・。「寺坂吉右衛門という人は大阪に潜伏中だとか・・・」

「えええ・・・」

竹本座にご機嫌伺いにやってきたちかえもん・・・。

「書いてます」

「何も言うてへんがな・・・」

座主の竹本義太夫(北村有起哉)は心ハリネズミのちかえもんに呆れるのだった。

「閑古鳥がないとっても・・・小屋の灯りを消すわけにもいかへん・・・儲かるのは油屋ばかり」

「九平次はんか・・・」

「それにしても・・・九平次という男・・・去年の暮れにふらりと大阪に現れてあっちゅう間に・・・商売繁盛や・・・何者なんやろ・・・」

「去年の暮れ・・・」

たちまち・・・妄想が迷走を開始するちかえもん・・・。

もしかしてだけど

もしかしてだけど

九平次はんって寺坂吉右衛門じゃないの・・・

心が騒ぎつつ・・・天満屋にやってきたちかえもん・・・。

行燈の油を配達中の九平次と遭遇である。

その時・・・天満屋の厨房では・・・。

「なんやそれ」

「あさのたくあんの残りや」

「梅干しの色が移ってあこうなっとんのかいな」

・・・九平次が料理人たちの会話に反応したように感じるちかえもん・・・。

「あさのたくあんののこり・・・浅野内匠頭か・・・あこうなってる・・・赤穂浪士か」

頭に蛆が湧いたような連想がとまらないちかえもん。

「それにしても・・・九平次はん・・・さぞかし名のある店で修業されてたんでしょうねえ」という天満屋主人の吉兵衛(佐川満男)のさりげない煽てにも・・・。

「ナイス」と時空を越えてイングリッシュである。

「いやいや・・・私の身の上など・・・話して面白いことなど何一つありません・・・」

「はぐらかした・・・」と勘繰り続けるちかえもんだった。

うっかり・・・聞き耳を立てていた戸が開いて座敷に転がり込むちかえもん。

「うわあああああ」

「この間は・・・つい・・・無礼な振る舞いをしてすみませんでした」

ちかえもんに非礼を詫びる九平次・・・。

九平次の殊勝な姿に「サムライ魂」を感じるちかえもんだった。

「わしの目に狂いはない・・・九平次はんは・・・寺坂吉右衛門や」

「いつも狂ってばかりなのに・・・」とお袖(優香)は容赦ないツッコミである。

「わてには・・・胡散臭い奴としか思えまへんな」と万吉・・・。

その頃・・・若旦那から手代の身分に引き下げられた徳兵衛(小池徹平)は荷降ろしの手伝いなどもして・・・平野屋スタッフとも和気藹々である。

「ええ感じですな」

どうやら・・・徳兵衛贔屓の喜助は目を細める。

「黒田屋のこともある・・・うかうかしる間はないで」

しかし・・・やはり・・・裏稼業を匂わせる忠右衛門なのである。

手代の半纏を着て天満へやってきた徳兵衛は・・・中庭の祠に祈りを捧げるお初(早見あかり)を発見する。

「徳さま・・・」

「お初・・・」

「あれ・・・御髪に・・・」

それはひとひらの梅の花・・・。

「梅や・・・もうあらかた散ってしまったけどな」

「梅・・・今年もついに見ず仕舞い・・・」

「何を祈ってたんや」

「秘密です」

「教えてえな」

「意地悪・・・お分かりのくせして・・・」

「お初~」

「徳様・・・」

一方・・・お袖の部屋では・・・。

「しかし・・・なんで・・・赤穂義士が大坂で商人に・・・」

「その謎をこれから解こうってことやないか」

「けれど・・・謎が解ける前に正体がばれてお縄になったりして・・・」

「なんでや・・・」

「御公儀に逆らった罪人なんでしょう」

「・・・」

もしかしてもしかして

私の他にも誰か

気付いた人がいるのなら

捕縛しないで見逃して

その時、天満屋で捕物騒ぎが勃発。

「御用だ・・・御用だ」

思わず錯乱して「吉右衛門様~、お逃げくだされ~」と役人を羽交い締めするちかえもんだった。

しかし・・・容疑は「孝行奨励の御時勢に不孝糖を販売したこと」で・・・容疑者は徳兵衛である。

「神妙にいたせ・・・」

「えええ」

「徳様・・・」

たちまち捕縛される徳兵衛。

「待った」かける万吉。

蒼ざめるちかえもん・・・。

「そいつは子分だ・・・不孝糖売りの元締めはわてや」

「そのような痴れ者は捨ておけ」

奉行所の役人たちは徳兵衛を連行するのだった。

「徳様~」

徳兵衛を追おうとするお初を制止する天満屋の男衆。

「安心おし・・・お前のような器量よしなら・・・もっと上客がつく」

女将のお玉(高岡早紀)が慰める。

「あかんのや・・・徳兵衛様でなくては・・・あかんのや」

「おかしいな・・・」と首をかしげる天満屋吉兵衛である。

「いくら、万吉がアホやから言うて・・・本人がやったと言うものを・・・放免するとは」

「これは・・・最初から徳兵衛さんを狙ってのことかもしれませんね」と口を出す九平次。

「徳兵衛さんを・・・」

「はい・・・平野屋さんの商いを妬んだものの密告かも・・・」

そりゃ・・・あんただろうとお茶の間は全員がツッコミを入れるのだった。

「そんな・・・」と項垂れるお初を・・・興味深く見つめる九平次だった・・・。

しかし・・・徳兵衛は・・・間もなく釈放される。

九平次が奉行所に手をまわして話をつけたというのである。

「ピンと来たね・・・やはりあのお方は・・・」

「だから・・・ピンと来る度、いつも間違っているでしょう」

ちかえもんとお袖の息の合った漫才はさておき・・・腑に落ちない万吉は・・・九平次を尾行・・・。

そして・・・役人と言葉を交わす九平次を目撃するのだった。

店に戻った徳兵衛・・・。

「よろしゅうおましたな」と喜ぶ喜助。

しかし、忠右衛門は「九平次に心を許すな」と釘を刺す。

「なんでやねん」

思わず尋ねる息子に父親は口を閉ざす。

たちまち・・・広がる親子の溝である。

そして・・・平野屋には・・・怪しい荷が届くのだった。

裏のビジネスを息子には語れぬ父親だった。

「お父さんは・・・裏で危ない橋渡ってます」とはアホぼんには言い難いのだ。

一方・・・「九平次吉右衛門説」が爆発しそうなちかえもん。

都会では切腹するサムライが増えている

今朝見た瓦版の片隅に書いていた

けれども問題は今日の雨

傘がない・・・

お豆腐を買いに出た美音子(辻希美)は「傘がない」を歌う女(ミカ)と出会いネコ姉さんへの道を歩き出す・・・だれがドラマ愛の詩シリーズ「ミニモニ。でブレーメンの音楽隊」(2004年・NHK教育テレビ)の話をしろとっ。

好きなんだな・・・。

たどり着いたのは黒田屋である。

「九平次はん・・・あなた様は・・・寺坂吉右衛門なんでしょう」

「・・・」

なにやら調合作業中の黒田屋・・・背後には怪しい白い粉末が・・・。

「これは赤穂の塩なんでしょう・・・軍師金調達ために・・・大阪で販売ルートを・・・」

なんだ・・・タイムリーなのか・・・。

シンクロしちゃったのか・・・。

そこへ・・・万吉登場。

「あんたの狙いは徳兵衛の弱みを掴んで・・・思い通りにすることやろう・・・」

「・・・」

「そして・・・最終的には不孝糖で・・・大儲けする気やろう・・・」

お茶の間は雪崩れるのだった。

「確かに・・・わては・・・寺坂吉右衛門や」

「・・・」

「しかし・・・わての心は皆さんの思うようなものではあらへんのや・・・確かに吉良は憎いと思うてます。しかし・・・藩主の内匠頭様も・・・家老の・・・大石様も・・・赤穂の士分の皆さんも憎いと思うてます」

「え」

「武士は赤穂義士になれても・・・足軽はなれへん」

「ええ」

「そやさかい・・・わては・・・みんな切腹してまえと・・・話を運んだのや・・・」

「えええ」

「・・・てな筋書きの話が好きなのでございます」

「・・・」

ちかえもんと万吉は脱力し・・・お茶の間は・・・九平次のドス黒い闇を垣間見たのでございます。

井戸端通信は寺坂吉右衛門の本当の消息を伝える。

大坂にはいなかったらしい・・・。

眠くなった万吉は喜里に「読み聞かせ」を所望する。

「眠くなるようにちかえもんの著書を読んであげましょう・・・」

「ひでぶ」

「父は都の六波羅へ・・・虜囚となりてあさましや・・・憂き目にあわせたまうとの・・・その音信(おとづれ)を聞きしより・・・思いに思い積み重ね」

「あ・・・その歌・・・お初が歌ってた」

「え・・・お初が・・・出世景清を・・・照れるやないの・・・」

「・・・」

「・・・」

その頃・・・九平次はお初を呼び出していた。

「忠右衛門はな・・・禁製品の朝鮮人参に手を出してんのや」

「・・・」

「わてはな・・・その闇商売・・・のっとるつもりや」

お初のお酌をする手が震えだす。

初々しいのう・・・。

桃色詰草青色美尻背後艶姿色香炸裂だったしな・・・。

なにしろ・・・遊女だから・・・呼び出されたらお酌するのみというわけではないのだ。

「平野屋の跡取り・・・徳兵衛様は・・・大事なお人・・・なんでそんな話を・・・なさるのだす」

「お前の狙いは徳兵衛でなくて・・・忠右衛門なんやろ・・・」

「・・・」

「・・・」

沈黙は肯定の証なのである。

徳兵衛は庭に・・・咲残った梅の花を見つける。

いつかお初を身請けして・・・二人で梅を眺めたい・・・。

徳兵衛の見た夢がせめてドラマでは現実のものとなりますように・・・と思わず祈らずにはいられない。

プライドがないのでそんな陳腐な言い回しで・・・つづくのだった。

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2016年2月 4日 (木)

家族ノカタチ(香取慎吾)煩わしいのはお前だけじゃない(上野樹里)

二月の谷間である。

ホームドラマはお茶の間とともにあるわけで・・・「家庭」というものにはまだ需要があるらしい。

「家」に「庭」があるのは豊かなことであるが・・・「都会」と「田舎」では事情が違う。

都会にも「家庭」はあるが・・・「家」だけだったり、「部屋」だけだったりするわけである。

「家庭」に住む「家族」と・・・「家」に住む「家族」・・・さらには「部屋」に住む「家族」では・・・「幸福」の「形」は明らかに違うだろう。

「ホーム」と「ファミリー」にある「溝」が・・・時には「ホームドラマ」を困難なものにする。

「にぎやかでひっそりとした家族」はひとつの理想だが・・・両立は難しい。

「ただいま」と言えば「おかえりなさい」と言われることが「幸せ」なのかどうか・・・おそらく・・・それは・・・すべてを失った時に判明するのだろう。

だからといって・・・部屋に消し忘れの灯りがついているだけだとしても「不幸せ」とは限らないのだが。

人間は慣れる生き物なのだから。

で、『家族ノカタチ・第1回』(TBSテレビ20160117PM9~)脚本・後藤法子、演出・平野俊一を見た。原作ものでもオリジナルものでもそれなりに仕上げる脚本家である。オリジナルでは・・・どこか寂しい男女が登場する傾向がある。「都市伝説の女」では「淋しいことに何か問題があるか・・・」という態度だったが・・・ここでは「さびしくないのは結局面倒くさいこと」というトーンが流れているような気がする。まあ・・・どんなに楽しくても・・・人間関係には煩わしさが含まれるわけである。だって・・・家族なんて・・・本当に厄介だものな・・・おいっ。

文具メーカー「ペンナ」企画開発部の商品企画班・班長の永里大介(香取慎吾)は39歳の独身男性である。高層マンションの407号室を購入し・・・ついに「理想の城」を手に入れた喜びを噛みしめる。小さなロフトには趣味の自転車を飾り、スタイリッシュなビールで乾杯する。悩みの種といえば・・・文具に対して執拗にクレームをつける「hanako」の存在ぐらい。しかし、ビジネスにそういう煩わしさはつきもので・・・そのためにこそ・・・プライベートでは「自分だけのスペース」が必要なのである。

総合商社「帝光商事」飲料原料部・コーヒー課の社員・熊谷葉菜子(上野樹里)は32歳で離婚歴のある独身女性である。高層マンションの507号室に住んでいる。407号室に入居した大介には引っ越し時に洗濯ものをめぐるちょっとしたトラブルがあった。大介より若く大介より先に入居していて一つ上の階に住んでいるということは・・・経済的には大介よりワンランク上ということになる。商社とメーカーの格差と言っても良い。もちろん・・・仕事ができる女だが・・・「赤毛のアン」に憧れる乙女要素も持っており、文具には特別なこだわりがある。つまり・・・クレーマー「hanako」なのだった。

独身生活を謳歌する二人・・・。

しかし・・・人は一人では生きていけない・・・とあらゆる家族向けサービスの企業が求めるために・・・「独身」であることは許されないのだった。

407号室には・・・妻の美佐代(浅茅陽子)に五年前に死別して・・・浩太(髙田彪我)という中学生の連れ子がある恵(水野美紀)と再婚した・・・沼津で漁師をしている父・陽三が転がり込んでくる。再婚相手で大介より二歳年上の恵が家出し・・・東京にいるという噂を聞きつけ、浩太を連れて上京してきたというのだ。

いきなり・・・ベランダで魚を燻製にしようとして消防車が出動。

昔馴染みであるシゲさん(森本レオ)たちを呼びカラオケ大会・・・。

響き渡る大音響。

507号室の葉菜子は・・・「自治会」で問題化すると通告する。

いや・・・これは・・・もう・・・「殺すしかないレベル」だろう。

都会の住民を舐めるなよ・・・。

だが・・・ドラマなので・・・我慢する大介だった。

いや・・・両隣の人間が・・・刺すよな・・・。

浴槽で解体されるよな・・・。

だが・・・ドラマなので黙認されるのだった。

一方・・・507号室には「定年後の田舎生活」に憧れて都会を去った葉菜子の母・律子(風吹ジュン)が夫とのカントリーライフに辟易してやってくるのだった。

・・・ああ、面倒くさい。

「赤毛のアン」のように・・・花園や果樹園に囲まれた暮らしは・・・空想の中だけでしか楽しくないらしい。

さらに・・・職場では・・・帰国子女で縁故採用のお嬢様である田中莉奈(水原希子)の教育的指導に手こずる葉菜子なのである。

「コーヒー豆が入港してないのよ」

「なるほど」

「なるほどって・・・」

「出航は確認しましたが」

「その船が東京じゃなくてシンガホールにいるのよ」

「なるほど」

「・・・いいかしら・・・私たちの仕事はコーヒー豆を」

「辞めます」

「え」

「私・・・この仕事に向いていないみたいなので」

「えええ」

お手上げの葉菜子に・・・上司の田中部長(入江雅人)は・・・。

「困るんだよ・・・縁故採用だって・・・知ってるだろう」

「・・・」

「とにかく・・・あやまって・・・」

「あやまる・・・私が・・・何をですかああああああああ」

しかし・・・大人として対処する葉菜子・・・。

「よかったわ・・・呼び出しに応じてくれて・・・」

「一度、お会いしないとしつこくされそうで」

「し・・・しつこく」

「熊谷さん・・・仕事楽しいですか」

「え」

「私・・・赤毛のアンのように・・・楽しく生きていきたいんです」

「あ、あんたに・・・赤毛のアンの何がわかるのよ・・・好きにしなさいよ・・・楽しく生きなさいよ・・・いつまでも・・・あると思うな・・・親と金よ」

「・・・」

大介は・・・昔の恋人だった美佳(観月ありさ)と偶然再会する。

独身主義だった大介のために・・・仕方なく別の男性と結婚した美佳と・・・大介は申し訳なさを感じていたのだが・・・。

「何言ってるの・・・あなたと結婚したら面倒くさいだろうなあと思って・・・あなたを捨てて今の主人と結婚したのよ・・・私」

「え・・・」

「なんだっけ・・・あなたの趣味の自転車・・・触っただけで凄く怒っちゃって・・・あ、だめだ、この人って・・・見切りをつけたのよ」

「・・・」

まあ・・・思い出を美化している男に・・・意地悪なことを言わなくてもいいとは思いますけどね。

帰宅した・・・大介を待っていたのは・・・最愛の自転車に乗って出かけようとする父の姿。

「俺のロード・バイクに触るな!」

「いいじゃないか・・・減るもんじゃねえし」

「出てけ!」

ついにきれて・・・自分が出て行く大介。

優しい息子である。

ベランダから投げ落としてやればいいのに・・・。

思わず・・・人気のない場所で叫ぶ大介だった。

「あああああああ」

ふりかえると・・・そこには葉菜子が・・・。

「叫んでましたね」

「・・・大人げないことをしたので・・・どうして・・・ここに」

「お気に入りの場所です・・・あなたこそ・・・」

「お気に入りの場所です・・・何かあったのですか」

「若い子に大人げのないことを言ってしまって・・・」

「・・・」

「・・・」

そこへ・・・父親の逃げた再婚相手の連れ子がやってくる。

「ひどいことを・・・いわないで・・・あなたのこと・・・いつも自慢してたのに・・・東京の大学を卒業して・・・立派な会社に勤めているって・・・」

「・・・親父のこと・・・好きなのか」

「前のお父さんと違って・・・ぶったりけったりしないから・・・」

「・・・」

仕方なく・・・一時休戦する大介だった。

葉菜子は・・・莉奈に電話をかける。

「はい」

「さっきは少し・・・言いすぎました」

「私・・・会社を辞めないことにしました」

「え」

「あなたの言葉が・・・胸に沁みたので・・・」

「ええええええええええ」

ま・・・独身でいることが気にならないタイプはいる。

もちろん・・・独身でいることが耐えられないタイプもいる。

とにかく・・・独身のまま・・・年老いて・・・制度に面倒をかけることになったとしても・・・。

納税者には面倒を見てもらう権利はあるのだ。

たとえ・・・ホースで水をかけられ・・・庭に投げ落とされることになったとしても・・・。

台本を読まないで現場に入る天才型演技者を・・・よくわかっている脚本と演出で・・・安心して見られるドラマである。

クールなのだめもいい。

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ウロボロス〜この愛こそ、正義。

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2016年2月 3日 (水)

いつ幸せになるの・・・今ですか・・・本当に今ですか(深田恭子)

「ロマンスの神様」はスキー場所とかに出現するわけだが・・・「マネーの神様」はいたるところにいるわけである。

「あわてる乞食はもらいがすくない」という名言は「乞食」の部分にいろいろと難癖をつけるバカがいるために忘れられつつある。

この場合・・・乞食は急ぎすぎてはいけないというわけではない。

「行列してまで食べたいものがある人たち」が少し早目にならんでも問題ないわけである。

いけないのは「あわてること」なのだ。

「落ちついて急ぐこと」は大切なのである。

「津波だ~」と言われたら「落ちついて急いで」高台を目指す必要があります。

「チャンスの神様」は・・・時を刻む神である前髪残した刈り上げのカイロスと同一視される。

「終電を逃がさない」ためには「発車時刻までにホームに到着すること」が必要なのである。

しかし・・・いつやってくるかわからない幸運をつかむためには相当に緊張している必要がある。

そういうことが苦にならない人は・・・すでに幸福なのかもしれません。

まあ・・・今か今かと待っている人は・・・幸せそうには見えないものですが・・・。

シュートチャンスにシュートしたってゴールできるとは限らないし・・・。

で、『ダメな私に恋してください・第4回』(TBSテレビ20160202PM10~)原作・中原アヤ、脚本・吉澤智子、演出・福田亮介を見た。二月二日はツインテールの日だが・・・このドラマの初回・・・三十歳まで男性経験のない深田恭子そっくりの柴田ミチコ(深田恭子)はツインテールを披露している。見逃した人は「深田恭子・ツインテール」で検索してみよう。素晴らしいインターネットの世界はかわいいよ、深キョン、かわいいよというチャンスを求める人に与えるシステムです。

・・・もう、いいか。

便利グッズの会社「ライフニクス」の年下の同僚・最上大地(三浦翔平)から「結婚を前提にした交際」を申し込まれたミチコだったが・・・即答を回避するのだった。そういう性格だからこそ・・・処女なのである。ミチコのファーストキスを奪った男・黒沢歩(ディーン・フジオカ)は「結婚詐欺師だな」と断定する。元上司のアドバイスにうっかり反応してしまうミチコは疑心暗鬼に囚われる。

気がつけば・・・門真(佐野ひなこ)や中島(内藤理沙)も・・・大地から贈られたハンドクリームを愛用している。販売部長の森(小松和重)までもが大地お薦めのハンドクリームの香りにうっとりしているだった。

さらに社員食堂では・・・女子たちが・・・大地が女子たちを誘惑しまくっているという悪い噂が囁かれているのだった。

しかし・・・大地は堂々と「次の食事」に誘ってくるのである。

「三十路の女子を誘うからにはそれなりに覚悟あるんでしょうね」と嫌味を言う女子社員たち。

「僕はいつでも真剣です」

「ターゲットを絞り込むまではリサーチを積極的に行い、決断したら一直線。勤務態度も良好だし・・・三十歳の女子には優良物件と言えます」

門真はミチコの恋のライバルではなく・・・心優しい年下の先輩だったらしい・・・。

しかし・・・ミチコは戸惑うのだった。

ついこの間まで・・・戦隊ヒーローに萌える小学生女子で・・・その後ヒーローに似ている男性に貢ぐ中学生女子として・・・実生活での恋愛経験が皆無だったのだ。

「結婚を前提としたおつきあい」はすでに・・・ミチコの想像を絶する世界の産物なのである。

現実から逃避するために・・・ひまわり娘に変身するミチコは公園で喫茶「ひまわり」のチラシを配るのだった。

「ちっ・・・ひまわりおばさんかよ」

「お、おばさんじゃないからね・・・お姉さんだからね」

「小学生にとって義務教育を終えた人はみんなおばさんだよ」

「・・・」

「見つけたらハッピーになれるひまわり巨人はいつ出るんだよ」

「ひまわり巨人・・・」

ひまわり巨人こと・・・テリー(鈴木貴之)は恋をしていた。

お相手は・・・客の丹野綾(大野いと)である。

二人は・・・「ミシェル・プラティニ率いるフランス代表がウイングを置かない4-4-2のフォーメーションを用いて攻撃的なサッカーを見せたシャンパンサッカー」について語り合うのだった。

テリーは店の外でもっとも相談してはいけないミチコに恋の悩みを打ち明ける。

「女子は壁ドンで告白すると落ちるって本当ですか」

「恐怖しか感じません」

「ええええええええ」

「それより・・・ヤンキーなのにサッカーが好きなの」

まあ・・・サッカーしてる奴は基本的にヤンキーだけどな・・・おいっ。

「いいえ・・・綾さんと話をするために・・・素晴らしいインターネットの世界で勉強してるんです・・・サッカーなんか・・・体育の授業でも真面目にやらなかったす・・・」

しかし・・・お約束で・・・背後には綾さんが立ち聞きをしているのだった。

ふりかえる・・・テリー。

走り去る綾さんなのだ。

破局である。

まあ・・・綾さんは・・・前世では馬子先輩で・・・GMTの佐賀担当で・・・遡れば高校サッカーのイメージ・マネージャーだった・・・。

「結婚を前提としたお付き合い」に戸惑うミチコ・・・。

「返事は急がなくてもいいですよ」とミチコの心中を察する大地である。

「どうして・・・私を・・・」

「柴田さんが運命の人だと思ったんです・・・チャンスの神様には前髪しかないと言いますから・・・思い立ったら吉日です」

「前髪しかない・・・」

「つまり通りすぎたら掴む毛がないんです・・・」

「前髪だけで後ろがハゲ・・・実際にいたら・・・変な人だと思いますよね」

「・・・」

歩の元カノである晶(野波麻帆)はミチコにアドバイスする。

「結婚を前提にしたお付き合いをしたいっていうのは・・・つまり・・・一生一緒にいたいって思ってるってことよ」

「一生一緒にいてくれや・・・ですか」

「まあ・・・処女にはいろいろと想像のつかない世界よねえ・・・」

「・・・」

悩み疲れたミチコは・・・歩に相談したくなるのだった。

まあ・・・ミチコは・・・自覚はないが・・・本当は歩のことが・・・気になってしょうがないのである。

「俺は・・・今日は疲れている・・・もう寝ろ・・・」

「でも・・・結婚を前提にしたお付き合いがしたいって・・・」

「売れ残りを買おうというお客さんを拒否してどうする」

「ヴィンテージアイテムとして価値があるかもしれないデッドストックです」

「お前は駄菓子屋の棚の上に埋もれたブリキの玩具か」

「・・・知ってますか・・・チャンスの神様は・・・後ろが禿げているんです」

「take if it you see it!(チャンスを見逃すな)」

「え」

「立候補しなければ当選しないということだ・・・もう、寝ろ」

後ろ髪をひかれながら自分の部屋へと続く階段を登るミチコ。

そこへ・・・花屋の春子(ミムラ)がやってくる。

「今・・・大丈夫?」

「もちろん」

「疲れているんじゃない?」

「全然、疲れていないよ」

自分に対する態度と違いすぎる扱いに愕然とするミチコだった。

「ウソツキ」と叫びたいミチコなのである。

そして・・・春子の結婚指輪を発見するミチコ・・・。

なんだかんだ・・・春子のことが気にかかるミチコなのだった。

「人妻」と叫びたいミチコだった。

「じゃ・・・しようか」

「いいとも・・・」

「何をする気だ」と叫びたいミチコだったが・・・想像を絶する展開に退散するのである。

「あら・・・」

「猫だよ」

「にゃあおう・・・」

名前がA5(最高級の食肉)という猫は・・・化け猫に憐れを催すのだった。

翌朝・・・カウンターで眠る歩を叩き起すミチコ。

「朝ですよ」

「・・・年増の猫か・・・」

「何してたんですか」

「ゲームだよ」

想像を絶するゲームに眩暈を感じるミチコはひまわり娘に変身するのだった。

チラシを配るミチコは公園で綾さんを発見する。

綾さんを追いかけてお約束で転倒するミチコ。

「大丈夫ですか」

「日頃のご愛顧に感謝してサービスしますからご来店お願いします」

喫茶「ひまわり」に綾さんを連れこむミチコだった。

歩は「LOVEオムライス」を作り、テリーが給仕をする。

「頼んでませんけど・・・」

「日頃のご愛顧に感謝してサービスです」

「・・・」

「ごめんなさい・・・綾さんと話がしたくて・・・嘘をついてしまいました・・・でも・・・綾さんが好きだという気持ちは嘘ではありません・・・」

「ごめんなさい・・・私もサッカーが好きだと嘘をついていました・・・」

「ええええええ」

「最初に店に来た時・・・」

ポチ(クロちゃん)が投げ損ねたオレンジをダイビングヘッド(実はヤンキーのジャンピング頭突き)で打ち返したテリーを見て・・・綾さんは勘違いをしたのだった。

「てっきり・・・サッカーをしている人だと思い・・・素晴らしいインターネットの世界で勉強したのです・・・本当はルールもよく知りません・・・オフサイドって何ですか?」

「え」

「テリーのこと好きなのよね」

「え」

「だって・・・ひまわり巨人のチラシを受け取ったの・・・綾さんだけだったし・・・ありがとうって言ってたし・・・すぐにお店に来てくれたし・・・」

「両想いかよ・・・」

こうして・・・背中を押したミチコは背中を押された感じになるのだった・・・。

大切なプレゼンテーションを控える大地に疲れにガツンのアキラメンWを差し入れ・・・。

「明日、がんばって」

「ありがとう、元気出た」

・・・なのである。

しかし・・・大事な書類会社に忘れ~の、ミチコがあわてて届け~の、書類を道に落して散乱~の、風が吹いて川面に飛ばされ~のお約束があって。

「すぐにとってきます」

「飛びこまないで・・・僕がなんとかします」

「飛びこまないで・・・」

「飛びこまない方向で・・・書類の内容は頭に入ってますし・・・」

「二百ページもあったのに・・・」

「数字に強いんです・・・円周率だって百桁まで言えますし・・・」

「嘘ですね」

「嘘です・・・でも、大丈夫です・・・まかせてください」

「・・・結婚を前提にお付き合いしてください」

「え」

「ふつつかものですが・・・よろしくお願いします」

「・・・喜んで」

「・・・」

「・・・」

「あ・・・プレゼン」

「いってきます」

「いってらっしゃい・・・」

焼き鳥屋で交際開始を晶に報告するミチル。

「ここからが・・・本番よ」

「ですね」

「私なんか・・・七年も待ってアレだったので・・・すぐに結婚しちゃいなよ」

「主任・・・マスターの好きな人って・・・春子さんですよね」

「その名前・・・聞きたくない」

「まさか・・・人の道を外れて・・・人妻となんて・・・」

「元・・・人妻だけどね」

「え・・・」

「歩のお兄さんのお嫁さんだから・・・お兄さんが亡くなって・・・今は未亡人・・・」

「えええ」

歩は回想する。

兄の一(竹財輝之助)と春子と三人で「人生ゲーム」に興じた日々・・・。

兄から二人の結婚を打ち明けられたあの日・・・。

ミチコの中で・・・何かが揺れるのだった。

もちろん・・・本人に自覚はないのだった。

待ちに待った給料日。

ミチコはケーキを買って帰ると歩にメールを送る。

たちまち届く・・・大地からのお誘い・・・。

しかし・・・ミチコはデートを先送りしてケーキを買うのだった。

喫茶店「ひまわり」には常連客の鯉田(小野武彦)とテリーと結婚を前提として交際中の綾さんまで集合なのである。

綾さん・・・レギュラーかよ・・・キャラ設定とか・・・できてんのか。

面白いといいなあ・・・。

「結婚で大切なのは得手より不得手だからね」と鯉田の名言・・・。

「好きなことが一緒であることより・・・嫌いなことが一緒の方がいい・・・ですか」

「カレーが嫌いな人がカレーを食べるの大変ですものね」

「カレーが嫌いな人なんているんですか」

「結局、好きなことが一緒なのと何が違うんですか」

「深く考えるな」

「それよりも・・・恋が実る喫茶店という噂を拡散させましょう」

「なるほど・・・お前・・・天才かっ」

なんとなくイチャイチャするミチコと歩だった。

その姿を・・・店の外で・・・大地は見ていた!

まあ・・・どちらと結ばれてもミチコが幸せならいいんだよね。

最悪、結ばれなくてもいいんだよね。

そういうドラマだよね。

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2016年2月 2日 (火)

そんなの好きやからに決まってるやん(有村架純)

トークショーで公開が延期されている映画の宣伝に現れたクドカンと二枚目ゴリラ・・・。

「あまちゃんの脚本は全体的な筋は決まってたんですか」

「もちろん・・・でも・・・いくつか変更点はあって・・・有村架純さんの出番はもう終わったな・・・と思っていると・・・あ・・・ここにも出るな・・・と追加撮影がありまして・・・」

「有村架純さん、オールアップで~す」

花束贈呈。

「ありがとうございます」

「すみません・・・出番が追加されました・・・」

収録後・・・。

「有村架純さん、またオールアップで~す」

花束贈呈。

「ありがとうございます」

「すみません・・・また出番が追加されまして・・・」

収録後・・・。

「有村架純さん、またまたオールアップで~す」

花束贈呈。

「ありがとうございます」

・・・きっと、あのシーンとあのシーンだな・・・。

やはり・・・何か囁くものがいるんだな・・・。

実際、あの「役」は超越していたものな・・・。

で、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう・第3回』(フジテレビ20160201PM9~)脚本・坂元裕二、演出・石井祐介を見た。ドラマ「アオイホノオ」の通常の三倍のスピードで走る赤い自転車の男といえば矢野ケンタロー(浦井健治)だが・・・最近、三連打である。まず、深夜の「ニーチェ先生」(脚本・演出・福田雄一)で残念な感じのコンビニ店員(主演)を演じている。そして、テレビ東京の「ウレロ☆無限大少女」では女子アンロッカーをメロメロにしてしまう異常な二枚目役。さらに・・・ここではブラック企業の申し子的なスーパー嫌な上司である。まあ・・・何をやってもいつか赤い自転車に乗るだろうとドキドキしますけれどね。一週間で三度も見るということは・・・やはり通常の三倍のスピードなのかっ。

ドラマ「わたしたちの教科書」で・・・主人公は恋人の連れ子を預けられて捨てられる。主人公は連れ子を見捨てるが・・・捨てられたと思っていた恋人が実はとんでもないことになっていたという悲惨な展開が遊園地のアトラクション的なのだった。

そういう・・・奇想天外な悲劇の開陳は一種の持ち味である。

だから・・・不倫中の大人の女とか・・・御曹司のプレイボーイなんて・・・そのままのわけがないのである。

今回は二人の正体が明らかになり・・・2011年の東京には初雪が降る。

あれ以来・・・東京で降る雪は・・・不安を感じさせるのだった。

秒読みなんだな・・・。「それでも、生きてゆく」(2011年)、「最高の離婚」(2012年)に続く・・・その時が接近中なのである。両者は過去形だったが・・・今回は現在進行形なのである。

東日本大震災をネタにするなと叫ばないでください。

「春寿の杜」の御曹司・井吹朝陽(西島隆弘)は認知症のケア専門士を目指すスタッフとして杉原音(有村架純)に握手を求める。

神部正平所長(浦井健治)は「あの患者のケアは必要ないと言っているでしょう。料金未払いで退園が決まっているのですから」とブラックをさらけ出す。

神部を無視する朝陽の態度に・・・微笑む音・・・。

しかし・・・音の気持ちは・・・引越し屋さんこと「柿谷運送」のトラック運転手である曽田練(高良健吾)に一直線なのである。

音は・・・電車通勤からバス通勤にチェンジしていた。

もちろん・・・偶然を装って・・・あの人に逢うためだ・・・。

そして・・・その時は来た。

バスに乗り込んできた練に気がついてもらうためにクスリと笑い・・・結露した車窓に「おつかれさま」と指で書く音。

練は微笑んで「おつかれさまです」と応じるのだった。

同じ停留所で下車する二人。

しかし・・・音が思うほどには・・・練の態度は素っ気ない。

帰り道は左右に別れる二人・・・。

「じゃあ・・・」

「犬の散歩は・・・」

「これからします」

仕方なく背を向けて歩きだした音に・・・練は声をかける。

「杉原さん・・・」

「はい・・・」

「がんばって・・・僕はずっと応援していますから」

「・・・あんたも頑張りなぁ」

ものたりないけれど・・・満ち足りる音だった・・・。もう、悲しいんですけど。

そして・・・音はお湯をわかし・・・お茶漬を台所で立ったまま食べる・・・椅子もテーブルもないのかよ・・・。

なにしろ・・・ほぼ無一文で上京し・・・一年で資格をとり・・・介護施設に職を得たのだ。

何もかもギリギリなんだよな。

そして・・・恋をしている相手には「つきあっている人」がいると知っているのだ。

それでも・・・好きな気持ちはどうしようもない。

なにしろ・・・私生児を生んだ亡き母(満島ひかり)の血が流れているのだから・・・。

正体不明の男・中條晴太(坂口健太郎)は練の幼馴染でデザイナー志望の市村小夏(森川葵)とお茶を飲む。

妄想では・・・晴太は十三人に一人いると言われる同性愛者なので・・・小夏とはガールズトークを展開している。

ちなみに・・・小夏も妹感覚で・・・練に想いを寄せていることも妄想できる。

つまり・・・練の交際相手である・・・自称・広告代理店勤務のプランナー・日向木穂子(高畑充希)以外に・・・音のライバルとして小夏と晴太が配置されているのである。

晴太・・・人気者だ。

ティファニーで昼食をとった小夏と晴太の前に・・・読者モデルたちが現れる。

愛読しているファッション誌に登場する顔ぶれに・・・心浮き立つ小夏。

「東京には・・・あのくらいの子・・・ゴロゴロしているから・・・」

「私だって・・・地元じゃ・・・おしゃれ番長って呼ばれてたべ」

憐れを催した晴太は・・・マイフェアレディを開始する。

ローマの休日でヘアを整えた後は最新ファッションの試着である。

すべて・・・オードリーか・・・。

「これ・・・買う」

しかし・・・金額を見た小夏は言葉を失う。

「楽しんだだろう・・・脱げよ」

「脱ぎたくない・・・ねえ・・・お金になる仕事・・・紹介してよ」

汚れた目で見れば・・・晴太は「風俗ビジネスのスカウトマン」にしか見えない。

晴太が小夏に紹介するのは高級援助交際ビジネスである。

「これってやばくないの・・・」

「東京では・・・可愛い子が十万円でおっさんとカラオケに付き合うのは・・・やばくないんだよ」

「・・・」

「まあ・・・もやもやするけどな」

結局、小夏は自分が高く売れることを知るのだった。

木穂子は・・・練の部屋のカーテンや食器を買いそろえるためにキャッシュを払う。

カードでないところに・・・木穂子の闇が滲みでる。

高級ブランドの包丁がすでに不気味である。

模様替えを終えたところで・・・自信のなさが露呈する木穂子・・・。

「やっぱり・・・変かな」

「そんなことないよ・・・部屋が明るくなった・・・」

木穂子を気遣う練・・・。

二人の関係には歪な空気が漂う。

「今度・・・私のプランがテレビCMになるの・・・」

「え・・・すごいな・・・木穂子さん・・・」

「・・・まあね」

言葉とは裏腹に不安な表情を見せる木穂子なのである。

深夜勤務のシフトを終えて朝帰りの音は・・・寝不足の足取りで・・・一人暮らしの仙道静恵(八千草薫)の屋敷へと向う。

お目当ての練を目にした音は・・・足がもつれて転倒するのだった。

道に倒れた音の視界に木穂子が入ってくる。

「おはよう・・・杉原さん」

「ああ・・・犬を見つけてくれた人・・・」

「おはようございます」

「この人が・・・木穂子さん・・・僕がつきあっている人・・・」

「おはようございます」

脱力しながら坂を登る音だった。

「本当のことを言えばいいのに・・・」

「え」

「この人は不倫中で・・・可哀想だから相手をしているって・・・」

「そんな・・・」

「本当の恋人じゃないって・・・」

「木穂子さん・・・確かに最初・・・僕たちは・・・慰め合うような関係だったけど・・・そろそろ・・・相手の人とは別れて・・・僕だけを見てもらえませんか」

「練・・・あなたは優しい人ね」

木穂子はタクシーに乗り出勤していった。

田園調布の静恵の屋敷。

「それは残念だったわね」

音は片思いを打ち明けたらしい。

「でも片思いだって・・・五十年も立てば宝物になるわよ」

「本当ですか」

「知りたい・・・?」

「・・・いいです」

微笑むお茶目な静恵である。

練は木穂子をプラネタリウムに誘うつもりでチケットを入手していた。

その旨を木穂子にメールするが返信はない。

柿谷運送の金髪の上司である佐引穣次(高橋一生)と追従者の加持登(森岡龍)は携帯を気にする練をからかう。

「おい・・・お前の女って・・・あいつかよ」

「あいつって誰です」

「客だよ・・・引越し先で手首切ってた・・・こいつが救急車呼んだんだ」

「えええ」

「やめとけよ・・・不倫している女なんて・・・泥沼だぜ」

「・・・」

挑発に耐えかねて金髪に挑みかかる練。

「ドロドロだぜ」

「・・・」

練の鉄拳制裁を制止する女社長の神谷嘉美(松田美由紀)・・・。

「かわいそうに・・・」

「でしょう」

「かわいそうなのは・・・あんただよ」

練を搾取しまくる女社長だが・・・仏心がないわけではないらしい。

底辺の人々に給料払っているだけですでに菩薩だという考え方もあります・・・おいっ。

音の勤務する施設に・・・「春寿の杜」の井吹征二郎社長(小日向文世)と長男の和馬(福士誠治)がやってくる。

入所者たちを金のなる木としか見ていない態度の社長と長男。

朝陽は囁く。

「兄貴は・・・正妻の子・・・僕は愛人の子なんだ・・・」

音は父親に無視される朝陽のもの欲しそうな視線に驚くのだった・・・。

「今度の保育園との交流イベントですが・・・政治家の講演会に変更になりました・・・」

ブラック上司の発言に噛みつく妾の子。

「入居者の皆さんは子供たちが来るのを楽しみにしているのに・・・」

「施設は援助金が必要だし、政治家は高齢者の清き一票が必要なんです・・・需要と供給の問題ですよ」

「しかし・・・」

「施設の方針に逆らうようなら・・・追い出して構わないと社長がおっしゃってました」

「・・・」

退室する朝陽に追い打ちをかけるブラック上司。

「あの人は・・・元はジャーナリストだったんですよ・・・正論だけじゃ食っていけなくて・・・ここに来たのに・・・バカが治ってないな」

丁寧な口調の悪意の放射に部下たちは言葉を失うのだった。

少しだけ・・・揺れる音の心。

道楽息子テリトリーの御曹司が・・・捨て犬テリトリーに引越してきたのである。

大荷物を抱えた音とバス亭で出あう練。

「途中まで・・・運ぶの手伝うよ・・・これ・・・何?」

「お楽しみ会で子供たちにプレゼントする予定の手作りグッズです・・・イベントが中止になったので捨てろって言われたけど・・・捨てられなくて・・・保育園に配ろうと思って・・・」

「じゃ・・・会社のトラックを借りてくるから・・・一緒に配ろう」

「でも・・・」

「僕が・・・そうしたいんだ」

「・・・」

音には練からの「お出かけの誘惑」を断ることはできなかった。

「これ食べてって言うから・・・食べるフリして・・・美味しいって言ったら・・・紙じゃんって言われた・・・」

「さっきのアレ・・・なんだったの・・・」

「エビフライ・・・」

いくつかの保育園を回りながら東京都と神奈川県の境界線を彷徨う二人のトラック・・・。

亡き母の亡霊は・・・音の前に・・・木穂子と不倫相手を出現させる。

しかし・・・練の心情を思い・・・思わず別方向を指さす音だった。

「あれ・・・」

「なに・・・観覧車?」

「・・・はい」

夕闇の中に浮かび上がる観覧車。

タクシーに乗り込んだ不倫カップルは・・・車内でキスを始めていた。

「じゃ・・・配達が終わったら・・・観覧車に乗りに行こうか」

「はい・・・え」

「どうしたの・・・観覧車に乗りたくないの」

「乗りたい・・・」

保育園デートを楽しむ練は・・・メールの着信をスルーするのだった。

絶叫マシーンは今・・・頂点に向かってゆっくりと上昇しているのだった。

観覧車にたどり着いた二人は営業時間が終了していることに落胆する。

その時・・・亡き母の亡霊は・・・練のポケットからプラネタリウムの鑑賞券を風に乗せて吹き飛ばす。

しかし・・・練のために夢中になって拾う音。

たどり着いたのピアノリサイタルが開園中のライブハウスの裏口だった。

流れてくるジャズ・ピアノの旋律に心を奪われる音。

「ちょっと聞いていてもいいですか」

「・・・」

練は音のために廃棄物から・・・座る場所を作りだす。

「お客様・・・こちらにどうぞ」

「・・・いいんですか」

「お客様の指定席ですよ」

「私・・・コンサートって初めて」

「僕もだよ」

「え・・・クラブとかは・・・」

「行ったことないよ・・・」

「ダンスもしないの・・・」

「君は・・・するの」

「アルプス一万尺くらいなら・・・」

「あれは・・・ダンスなのか・・・」

「やったことある・・・」

「それは・・・」

二人は手遊びを開始する。見事なコンビネーションである。

「なんで・・・」

「なんでかなあ・・・」

思わず・・・熱中する二人だった・・・。

「やった~」

「・・・バス通勤に変えたんだね」

「・・・」

「僕も・・・昔は電車で通勤してた・・・」

「へえ・・・」

流れるメロディーはしっとりした「ムーンリバー」へと変わって行く。

どうしてもヘップパーンか・・・。

「だけど・・・人身事故があって・・・誰かが舌打ちするのを聞いたんだ・・・人身事故がある度にみんな不機嫌になるんだ・・・それが・・・とてもつらくて・・・」

「・・・」

「ごめん・・・変なこと言って・・・」

音は携帯電話でとった画像を披露する。

「郵便ポストの下の雑草が花を咲かせてた・・・」

練は画像に見入り・・・自分の携帯電話を差し出す。

そこにも・・・「路傍の花」が咲いている。

「杉原さんに見せようと思って・・・」

沈黙する二人・・・。

ラストナンバーが終わり・・・路地裏に拍手喝采が鳴り響く・・・。

二人は思わず・・・拍手をする。

トラックは・・・雪が谷に戻る・・・。

「これ・・・ちゃんと行かないと・・・」

音はプラネタリウムのチケットを練に渡す。

練は思わず心情を吐露する。

「彼女・・・本当は恋人がいるんだ・・・でも・・・不倫をしていて・・・僕は・・・その穴埋めみたいなもので・・・とても・・・付き合っているって・・・」

「・・・がっかりよ・・・」

「え・・・なんで・・・」

トラックの助手席を飛び降りた音は運転席に回り込む。

「好きやからに決まってるやん・・・引越し屋さんのこと、好きやからに決まってるやん」

音は情熱的なキスをするのだった。

練は戸惑う・・・。

ワイパーは揺れる。

そして・・・音は速攻で帰宅した。

動揺しながら帰宅した練を待ち受けるのはドレスアップして酩酊した小夏。

「ひさしぶり・・・」

「え」

「ねえ・・・見て・・・すごいでしょう・・・私・・・雑誌に写真撮られちゃった・・・」

「・・・」

「やはり・・・センスのいい服着ないとね・・・このTシャツなんて二万円だよ」

「そんな金・・・どうした」

「東京では可愛い子は十万円もらえるのです」

「劇団の仕事は・・・」

「あんなの・・・無駄よ・・・」

「・・・」

そこに晴太が帰宅し、一瞬で事情を悟る。

「寒い・・・お風呂貸して」

「・・・」

さらに小夏を叱ろうとした練に着信音がある。

「え・・・」

蒼白になった練は部屋を飛び出す。

置き去りにされた小夏は・・・入浴中の晴太の胸の中に着衣のまま飛び込むのだった。

「どうして・・・好きになってくれる人を好きにならないのかしら」

「それは一番難しいことだね」

「あんたに・・・何がわかるのよ」

「君が誰を好きなのかは知ってるよ」

「私だって・・・」

二人は沈黙する・・・。

もちろん・・・二人は練に片思いなのである。

まあ・・・少なくとも妄想上はな・・・。

予告篇にウシジマくんのダチがいたような気がして気がかりだ・・・。

幼女をゴミ袋につっこんだ前科もあるしな・・・。

病院に駆け付けた練。

「曽田と申します・・・日向さんが・・・」

「日向さん・・・意識を取り戻してます・・・さっきまで、警察の方が事情聴取していて」

「何が・・・」

「男性に突き飛ばされたそうですよ・・・」

「え・・・」

「脳波の検査が終わったら・・・もう一度こちらに戻ってきますから」

練は携帯電話を見る。

木穂子からメールが届いていた。

練と別れた木穂子はタクシーの中で泣きながらメールを打ったのだった。

「私は・・・練に嘘をついていました。広告代理店に勤めているのは本当ですが・・・企画とは無関係の事務職です。私の父は経理マンで・・・母は専業主婦・・・地味な親を持った地味な娘です。両親の写真を見た友人は・・・アニメのネズミに似てると言いました」

「なんだ・・・ミッキー・・・ジェリー・・・ガンバ・・・ロッキーチャック・・・まさか・・・川の光のタータとチッタか・・・ものすごくかわいいぞ・・・」

「私は東京の大学で・・・なるべくネズミのように笑わないようにしましたが・・・最初に寝た男には・・・行為の後でお腹がすいたからコンビニでおにぎり買ってきてと言われました・・・それから・・・男の人に期待しないようにして・・・今の恋人に行きついたのです・・・そして、練くんと出会いました・・・練くんの前では・・・別の私になろうと思いました。職場では親しみをこめて日陰さんと呼ばれる私は・・・退社後にトイレで着替えて化粧をして・・・プランナーの日向さんに変身するのです。いい女らしく酔うために・・・コンビニで買った缶ビールを立ち飲みしたら準備完了です・・・でも・・・練くんの本当の恋人になるために・・・そんな嘘はやめようと思いました・・・今日・・・彼に別れを告げて・・・ありのままの私になって練くんに会いにいきます。化粧を落した私が私だって分かるかな・・・じゃあね・・・あとでね」

練は傷だらけの木穂子を見る。つきとばされたのではなく殴る蹴るの暴行の傷痕・・・。

「木穂子さん・・・」

「・・・」

「木穂子さん・・・」

「私って・・・わかったと・・・」

「木穂子さん・・・」

自分の恋が窮地に陥ったとは知らずに・・・。

静恵と新聞や雑誌を資源ごみに出す準備をする音。

「東京タワーってどこにあるのな」

「今度・・・スカイツリーができるでしょう」

「今年」

「来年」

「スカイツリーが出来たら東京タワーは壊すの?」

「あんな・・・大きいものどうやって壊すのかしら?」

二人は身振りで手振りで・・・東京タワーを破壊しまくる。

「くしゃくしゃ」

「くしゃくしゃくしゃあ・・・」

ふと手に取った雑誌「週間ジャーナル」に・・・「医療ミスを告発する朝陽の署名記事」を発見する音。

練は木穂子に・・・音は朝陽に・・・ちょっと寄り道である。

そして・・・東京タワーのアンテナが曲がる日は・・・そこまで迫っている・・・。

音は東京で雪を見た。

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2016年2月 1日 (月)

安土城へゆけ(堺雅人)金柑頭を叩いてみれば逆心謀反の音がする(吉田鋼太郎)

国家が制度であるとすれば階級は不可分の成分である。

戦国時代が下剋上と呼ばれるのは身分制度の存在を前提にしている。

室町幕府では天皇を頂く朝廷と足利将軍の支配する武家が庶民を支配していたわけである。

幕府崩壊によって・・・群雄割拠した戦国大名の時代は終焉に近付き・・・新たなる統一へと向う安土桃山時代。

最初に台頭した織田政権によって今川家、斉藤家、六角家、北畠家、浅井家、朝倉家、三好家、本願寺家、そして武田家と名のある大名たちは滅ぼされていく。

武田家を主家とする真田一族は・・・主家の威信によって・・・信州小県と上州吾妻の支配権を認められ・・・国衆の総代としての立場を維持していた。

本来の足利将軍~守護大名~国衆ではなく、武田家~真田家~国衆という下剋上だったわけである。

武田勝頼の「死」によって真田家が小県や吾妻を支配する根拠は消滅し、立場はその他の国衆と同等になっている。

真田家の家長として真田昌幸は新秩序の支配者である織田信長に庇護を求める。

領民を支配する権利を保障してもらうために臣従するわけである。

独裁者・信長は裁量によって真田昌幸の地位を決する。

その立場は・・・第六天魔王信長の後継者・織田信忠の北信濃支配代行・森長可支配の信濃衆ではなく・・・魔王・信長に支配された朝廷により関東管領に命じられた滝川一益の支配による上野衆である。

つまり・・・真田家は織田家~滝川家~真田家(国衆)の立場にランクダウンしたのである。

信長は既得権益を解体し・・・再配分することにより・・・新たな中央による地方支配を実現しつつあった。

真田家は・・・真田の里の本領(実家のようなもの)を安堵されただけで・・・信濃の支配地域を森長可に、上野の支配地域を滝川一益に譲渡した上で・・・滝川一益の一家来となったのである。

「織田家では実力次第で出世も可能です」

「・・・」

関東管領という雲の上の存在にひれ伏す真田の棟梁なのだった・・・。

で、『真田丸・第4回』(NHK総合20160131PM8~)脚本・三谷幸喜、演出・吉川邦夫を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は第六天魔王・織田信長と真田昌幸の永遠のライバル・徳川家康の二大イラスト描き下ろしでお得でございます。真田父子を中心に澱みなく展開していく戦国絵巻・・・大河ドラマとして見事に構成されていますなあ・・・天晴と言う他ございません。必殺覗き見・立ち聞きの技で「信長による光秀折檻」を「源次郎は見た!」そして・・・「本能寺の変」を予感する真田信繁は・・・「安土城で人質の付き添いしてるから!」・・・歴史的事実の紹介に主要人物を絡める時は・・・このような深謀遠慮が嬉しいですよねえ・・・そして・・・「このままでは何もかも奪われる」と知りつつ自重する真田昌幸の心中・・・ものすごく・・・伝わってきました・・・。

Sanada004信濃国人衆の中で最初に謀反した武田勝頼の義弟・木曽義昌は織田信忠支配下の河尻秀隆、森長可、毛利長秀と同格の武将として木曽谷周辺の所領を安堵される。信濃の守護大名だった小笠原家は河尻配下の南信濃衆としてツーランクダウン。関東管領として上野国厩橋城に拠点を構える滝川一益は武田(真田)と北条の紛争地域だった一体を織田軍団の威光で完全に掌握する。真田昌幸は上野半国の支配者から滝川配下の武将としてワンランクダウンしたのである。しかも上野衆には北条高広、由良国繁、内藤大和守、長尾顕長、倉賀野淡路守、武蔵衆には成田氏長、上田政朝など旧武田配下、北条配下の名だたる武将が顔を揃えており、その存在感は希薄となっていた。昌幸は織田家への忠誠を示すために嫡男・信幸の同母姉を信長の主城たる安土へと送ることを願い出る。真田家に忠誠を誓ったかっての国人衆たちも・・・あるものは信濃で森長可の配下となり、あるものは三河・遠江に加えて駿河一国の支配者となった徳川家康に臣従する。真田グループの解体は刻一刻と進行していた。天正十年(1582年)五月、徳川家康は駿河拝領の御礼のために旧武田家臣の穴山信君とともに安土城に参上。織田信長は明智光秀に接待を命じる。その際中に毛利征伐中の羽柴秀吉から増援要請があり、信長は光秀に山陰方面への出兵を命じるのだった。近畿管領として丹波衆を支配し、細川藤孝の丹後衆、筒井順慶の大和衆を従える光秀にとって・・・それは屈辱的な指図であり・・・禁断の果実へと誘う・・・謀反の導火線となっていた。時に天正十年六月二日・・・。

武田家殲滅の報せは・・・桜の花綻び川面に霞み立つ季節を越えて主君なき里々に忍びよっていった。すでに徳川と滝川の圧力によって北条家は戦意を喪失し、柴田勝家と森長可に西と南から攻められ、上杉家は降伏寸前、羽柴軍と交戦中の中国地方の覇者・毛利家は存亡の危機に直面している。

残るは九州の覇者である島津家、四国の覇者である長宗我部家、陸奥を掌握しつつある伊達家・・・信長の野望はまさに達成寸前だった。

真田忍びの密偵部隊である山家修験者を指揮する真田源内幸景は近江国堅田の忍び小屋で中国方面の探索を終えた猿の大角から報告を受けていた。

「羽柴軍は因幡国の秀長勢、備前国の宇喜多勢と呼応し、播磨国より、備中、美作、伯耆の国人衆を調略しつつあり・・・四月には冠山城、五月には宮路山城を攻略・・・まもなく高松城も陥落する気配でござる」

「されば・・・毛利も降伏か・・・」

「武田勝頼の天目山での自害の様子は轟き渡っておりまする」

「織田の諜者・・・恐るべしじゃな・・・」

「対話と圧力はいつの世でも常道ですからな・・・」

「毛利はどうなると思う・・・」

「長州に押し込められて・・・島津成敗の先鋒部隊となるしか・・・生き残る道はありますまい」

その時・・・忍び小屋に血の匂いが漂う。

殺気立つ源内と大角の前に血まみれの女が現れた。

「お・・・」

「明智配下の丹波衆・・・城戸十乗坊に忍んでいた木猿様配下の・・・糸と申します」

「うむ・・・存じておるぞ」

「明智様・・・ご謀反・・・京に攻め入りまし・・・」

「・・・何」

しかし・・・くのいち糸はすでにこと切れていた。

大角は死骸を探る。

「確かに・・・木猿の割符でござる」

「追手があるな・・・」

「拙者が引き受けまする・・・源内様は・・・いそぎ・・・河原のものへ・・・」

源内は頷くと忍び小屋の床下へと降りる。

小屋の下には琵琶湖の湖畔への地下通路が通じているのだった。

大角は扉をあけて小屋を出る。

「明智の忍び衆とお見受けした・・・出ませい」

返事の代わりに飛来した苦内(クナイ・・・手裏剣の一種)を修行僧姿の大角は手にした錫杖で払い除け、同時に跳躍して忍び鉄砲を抜き放つ。

そして小屋の裏の林へと姿を消した。

木々の間で幽かな遊環の音が鳴る。

殺到するクナイ・・・。

しかし・・・同時に銃声が響き・・・明智の忍びが打ち倒される・・・。

「真田流・・・二丁拳銃じゃ・・・」

大角は・・・両手に忍び鉄砲を隠しもっている。

一丁は威嚇用の散弾仕込みであり・・・もう一丁は必殺の鉛玉である。

飛距離が短いために接近戦で使用される撃発型火薬銃である。

長篠の敗戦から七年・・・雑賀忍びを招いた真田の里では忍び鉄砲の開発が進んでいる・・・。

京での変事の報せは・・・安土城に滞在中の真田衆にもただちに届いた。

天下統一から戦乱へ・・・時計の針は逆行を開始する。

眠りかけた真田信繁のもののふの血が騒ぎだすのだった。

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