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2016年2月27日 (土)

美しく静かな天使たちのドライブ(綾瀬はるか)

今季の選ばれた七本はどれも素晴らしい。

どれも・・・あっという間に一時間が立ってしまう。

その中でも洗練されているという点ではこのドラマが一番かもしれない。

ファンタジーとして・・・もう一つの現代を描く作品である。

明日、目が覚めた時に・・・向こうの世界に転移していたとしても違和感をほとんど感じない美しさがある。

しかし・・・自分がどちらなのか・・・という点は重要なのである。

人間なのか・・・それとも提供者なのかだ。

人間は病院に行って・・・延命処置を受けるのが普通だが・・・。

提供者の場合は基本的に寿命を縮めるために病院に行く。

・・・朝、病院のベッドで目が覚める。

体調はあまりよくない・・・。

そうか・・・自分は提供したのだった。

その時・・・突然、晴れやかな気分になる。

人間の役に立ててよかった・・・。

提供者の感じる・・・一瞬の幸福感。

遠ざかる・・・ここではないもう一つの世界の記憶。

で、『わたしを離さないで・第7回』(TBSテレビ20160226PM10~)原作・カズオ・イシグロ、脚本・森下佳子、演出・平川雄一朗を見た。時計塔のある駅前の広場で早世した友人の真実(エマ・バーンズ→中井ノエミ)を懐かしんだ保科恭子(鈴木梨央→綾瀬はるか)と珠世(本間日陽和→馬場園梓)・・・。人間たちと提供者たちは違和感なく共存し、平和な時を刻む。提供者たちは人間に管理され短い生涯を安穏と過ごし、人間たちは提供者によって効果的に延命する。高齢化社会を惧れる必要はない。高齢者たちの集団もいつかは一気に消え失せ・・・少子化の子供たちが高齢を迎えるころにはそれなりにバランスのとれた社会になるだけの話。大騒ぎしているのは一部のまもなく老年期を迎える馬鹿だけなのである。

なにしろ・・・それは地獄だからな。

《恭子の時間》

「恭子はトモの介護人をやる気はない?」

土井友彦(中川翼→三浦春馬)の介護人である珠世には紅白の「提供開始通知」が届き、友彦は恭子を次の介護人としてリクエストしている。

「今・・・美和の介護人をしているの」

「美和の介護を・・・やめちゃえば・・・」

「やっとね・・・少し上手くいきだしたところなの」

「それはすごいね・・・それは邪魔するわけにはいかないね」

「・・・」

「恭子・・・手が空いたら・・・私の介護もやってよ」

「うん」

「じゃあ・・・」

笑顔で珠世と別れた恭子は・・・管理人用の集合住居に戻る。

郵便受けには・・・紅白の通知があった。

《あなたの提供が開始されます・・・所定の手続きを最寄りの回復センターで・・・》

幽かに揺らぐ恭子の表情・・・。

しかし、それはほとんどポーカーフェイスと変わらない。

恭子はそういうタイプなのである。

彼女は心の内を秘める女だった。

孤独で暗く冷たい夜を越えて・・・回復センターに出頭する恭子。

事務的な態度の職員は通知を受け取り、確認作業に入る。

「提供を始める時は・・・介護人としていつまで働けますか・・・それから・・・新規の介護を引き受けることは可能ですか」

「間違いですね」

「はい?」

「通知のミスです・・・あなたの提供開始は・・・まだです」

「・・・」

「新規介護の受付はあちらの窓口です」

恭子は何とも言えない気分というものを味わった。

しかし・・・と恭子は考える。

自分に残された時間は長くない・・・。

そして・・・自分たちとなるともっと短いのだ。

恭子と美和に残された時間。

あるいは・・・友彦と恭子に残された時間は。

終焉・・・提供の終了・・・その時を美和はどのように迎えたいと思っているのか。

そして・・・自分はどんな最後を・・・と。

恭子は介護を担当する提供者・加藤(柄本佑)のストレッチングを手伝いながら・・・とりとめのない自問自答を続ける。

加藤は無心に恭子の胸元を見つめている。

そこには小さな幸せがあるようだ。

加藤は・・・恭子がこちらをむく気配を感じて目をそらす。

「今度は仰向けになれますか」

「はい」

「無理をしないでくださいね」

「ありがとう」

加藤は色々な意味で感謝の言葉を述べた。

市街地には人間があふれている。

特に子供はみんな人間だ。

提供者の子供たちはゲートの向こう側にいるからだ。

しかし、外見では提供者の子供と人間の子供は変わらない。

子供たちは恭子に幼い日々を思い起こさせる。

女の子たちを見れば陽光学宛の仲間たちを・・・。

サッカーボールを持つ男の子を見れば幼い日の友彦を・・・。

少年少女だった頃を懐かしく思い出すということが・・・残り時間の少なさを物語るのだった。

恭子は提供を継続中の酒井美和(瑞城さくら→水川あさみ)のために彫塑用粘土を購入した。

下敷きのための板、細工のためのヘラやクシ・・・。

「ありがとう・・・」

「まだ続けていたのね」

「手を動かしたいと衝動的に思うことない?」

「・・・あるよ」

「これって・・・陽光育ちってことじゃないかしら・・・」

恭子は「授業」によって与えられる陽光学宛の「教養」を思い出す。

美和と彫塑と言えば・・・美術教師の山崎次郎(甲本雅裕)が思い浮かぶ。

その名前を口にすることは美和にとって残酷な側面を持つはずだが・・・恭子はさりげなく口にする。

それが復讐の意味合いを持つのか・・・恭子の優等生としての鈍感さを示すのかは微妙だが・・・おそらく・・・双方を含んだ表現なのだろう。

「次郎先生のテープってなんだったのかしら?」

「テープ?」

美和は少し驚いた後で恭子の真意を一瞬探るが・・・感情を封じこみ穏やかに応じる。

「ほら・・・次郎先生の声が入っていて・・・それなのに先生ったら口パクで・・・」

「さあ・・・目を閉じて・・・」

「それそれ・・・」

「手を大きく広げて・・・」

「凄く謎だよ・・・」

美和は恭子がそういうことを気にするタイプだと知っていた。

自分がそれほど気にならないことを恭子は気にする。

そして自分が気になることに恭子はそれほど関心を示さない。

幼い日の自分を思い出し・・・微笑みを浮かべる美和。

「今日は・・・もういいよ・・・」

「洗濯ものをするよ」

「まだ・・・たまってないから・・・明日で・・・作っている時に人がいるの苦手だから」

「そう・・・」

「レンタルのDVDも返しておいて」

「わかった・・・リンダリンダリンダの小山先生って次郎先生に似てたでしょう」

「・・・そっくりだったわ・・・知ってる?・・・留学生のソンちゃんを演じたペ・ドゥナはクラウド アトラスで遺伝子操作で作られた合成人間を演じているの」

「この世界ではおそらく発禁なのよね」

「同じクローンでも給仕人で幸せそうだったわ・・・」

「まあ・・・非合法品を見たの」

「闇社会では・・・クローン娼婦だっているものよ」

「そうかもね」

「人間の娼婦にとっては強烈なライバルだと思う」

「でも・・・人間は人間を抱きたいものでしょ?」

「あなたは・・・人間に抱かれたいと思わないの?」

「どうせ・・・いつかは一体になるもの・・・」

「・・・ああ」

レンタルショップの店員は言った。

「これ・・・違う作品ですね」

ケースの中身は「キョウコ♥」のサインがある「Songs after Dark/JUDY BRIDGWATER」のCDだった。

「すみません・・・間違えました」

恭子にとって・・・美しく忌まわしい思い出につながるアイテムである。

友彦との大切な絆を傷つける煩わしい美和の棘。

恭子はつかみどころのない美和の心に悪意というものが存在することを認めたくない。

認めたがらない心を・・・恭子は育てている。

恭子の心を縛る陽光学宛の優等生としての拘束具。

まとわりつく美和の意志表示の意味が恭子には理解できない。

ただ・・・それに付き合うことが虚しく時間の浪費にしかならないと感じるのだった。

残された時間は・・・あまりにも短いというのに・・・。

《友彦の時間》

美和が入院中の回復センターAとは別の地区にある友彦の入院する回復センターB。

提供を開始している友彦はすでに身体が不自由になっている。

それでも・・・サッカーを続ける友彦だった。

友彦は・・・新しい介護人を待っていた。

提供者仲間が告げる。

「お前の・・・介護人・・・来たぞ」

「すごい美人だぞ」

「しかも・・・巨乳だ・・・」

恭子・・・と思わずにはいられない。

不自由な体で受け付けに向かう友彦。

しかし、現れたの僕の彼女はサイボーグではなく、シスターミキだった。

「・・・」

「どうもっす」

新しい介護人である中村彩(水崎綾女)は「逃げる女」「海底の君へ」と今季がんばっているな。

友彦は落胆した。

しかし・・・提供体験が・・・友彦になんらかの精神的成長をもたらした気配がある。

友彦は自分を偽ることを学んでいるようだ。

その表情は・・・美和や恭子に近づいていた。

《恭子の時間》

恭子は加藤の介護中に・・・美和との軋轢を思い出し、思わずため息をついてしまう。

「・・・すまないね・・・」

「あ・・・違います・・・加藤さんには関係ないのです・・・」

「悩み事かあ・・・よかったら相談にのるよ」

「わざわざ・・・聞いてもらうようなことでは・・・」

「いいじゃない・・・教えてよ・・・退屈しのぎに・・・」

「退屈な話ですよ・・・私が介護をしている別の人・・・昔からの友達なんです」

「ふうん」

「子供の頃・・・大切なCDを彼女に盗まれたことがあって・・・」

「へえ・・・」

「それを・・・最近・・・私に見せつけるんです」

「ほお・・・」

「わざとらしく・・・冷蔵庫の上に置いたり、レンタルのDVDとケースの中身を入れ替えたりして・・・もう・・・何をしたいのか・・・ワケがわかりません・・・」

「そうか・・・君には・・・わからないか」

「?」

「僕にはわかるような気がする・・・」

「え」

「提供者には・・・それぞれに思い描く理想の終わり方があるんだよ」

「自分がやった悪事を誇示することが・・・理想ですか」

「彼女が・・・君に何かを伝えようとしているのは・・・確かなんじゃないかな」

「何をですか?」

「それは・・・僕にはわからない」

「・・・」

介護人として・・・提供者の事務処理を行う恭子は・・・管理センターの職人に呼ばれる。

「保科さん・・・これ・・・酒井さん提供の告知お願いします」

「はい・・・」

「おわかりでしょうが・・・提供者への告知は介護人の義務ですから」

しかし・・・書類を見た恭子の顔色は変わる。

「これって・・・」

「三種同時提供が何か?」

「こんなの・・・即時解体と同じじゃないですか」

「酒井さんの管理にはお金がかかっているんですよ・・・提供後の回復に時間がかかっているし・・・自損にちかい事故もあったし・・・通常ならすでに三度目の提供があっておかしくない時期なんです・・・よくあることです」

「でも・・・個体差による猶予が・・・」

「もう・・・期限切れなんですよ」

肝臓・小腸・膵臓の同時提供。

恭子は「提供終了」を意味する「告知」に対する美和の反応を想像する。

やり場のない怒りをぶつけられ・・・美和に罵倒される自分。

花瓶を投げつけてくるかもしれない・・・。

しかし・・・知らせる他はないのだ。

美和は提供者で恭子は介護人なのだから。

お茶の間はそろそろ疑う・・・美和や友彦の提供が開始されているのに・・・なぜ・・・恭子はまだ・・・なのか。

ひょっとして・・・恭子は・・・すでに猶予の対象者ではないのかと。

しかし・・・珠世が直前まで提供をしていなかったので・・・そうであるとも限らない。

残された提供猶予の謎・・・。

美和は・・・わざとらしい態度で言う。

「ごめん・・・私・・・ケースの中身を間違えたみたい」

「大丈夫・・・まだ返却していないから」

「そう・・・」

「それより・・・告知があります・・・自分で読んでもらっていいかしら」

「かまわないよ」

恭子の予想に反し・・・美和は穏やかに書類に目を通す。

「・・・」

「読んだよ・・・」

「怒らないの?」

「ああ・・・ひどいとは思うけど・・・特別ひどいわけじゃないでしょう」

「・・・ごめん・・・私、嘘をついていたわ・・・アレのこと気がつかないフリをしていた・・・美和・・・私になにか・・・話したいことがあるの?」

「・・・もう・・・いいのよ」

「話したいことって・・・」

「恭子は・・・恭子なんだなあって・・・」

「?」

「とにかくソレは返したってことで・・・終わり。洗濯と掃除をお願いね・・・私、ラウンジにいるから・・・終わったら・・・呼びに来て・・・」

洗濯機は回る。

恭子は人間の書いた小説を読む。

一度くらいは提供者の書いた小説を読んでみたいものだと思う。

提供者の心と人間の心は違うものなのか。

それとも同じようなものなのか。

提供者は何を語るのだろうか。

しかし・・・提供者は小説家にはなれないのだ。

《美和の時間》

もの思う美和・・・。

「もう・・・時間がないのね・・・急がなくちゃね」

静かなつぶやきが漏れる。

《友彦の時間》

彩は友彦のマッサージをしている。

「陽光の出身者なんすよね」

「うん」

「いいっすよね」

「・・・みんなそう言うけど・・・いた方にはよくわからないんだ・・・何がいいのか」

「授業ってのが・・・あったんすよね」

「え・・・なかったりするの」

「読み書きなんて・・・覚えたかったら勝手に・・・って感じすよ・・・だからうちんとこには字を読めない方がフツーっす」

「俺・・・そこにいたら・・・確実に読めない方だったな・・・」

「そうなんすか」

「一番の落ちこぼれさ・・・馬鹿にされたりもしたけど・・・いつも友達に助けてもらってた」

「・・・」

「それなのに介護人の資格をとるなんて・・・君は・・・すごく・・・頑張ったんだな」

「えへ」

かわいいよ、ミキ、かわいいよである。

・・・いつまで「キューティーハニーTL」を・・・。

ブルーにしか見えないんだよ・・・。

・・・もういいか。

《恭子の時間》

ラウンジで恭子を待っている美和。

「掃除・・・終わったよ」

「恭子・・・私ね・・・陽光に行きたいの」

「え」

「最後の提供の前に・・・どうしても・・・行ってみたいの」

「陽光がつぶれたの・・・知ってるよね」

「知ってる・・・それでも行きたいのよ・・・三人で」

「三人・・・?」

「トモも・・・一緒に・・・恭子とトモと私・・・三人で」

「三人で行って・・・どうするの」

友彦をめぐって・・・決裂した恭子と美和だった・・・。

「・・・恭子は私の介護人でしょう・・・最後の望み・・・叶えようと・・・努力してよ」

「わかった・・・やってみるよ」

「絶対・・・叶えてね」

恭子は管理センターで熱弁した。

「どうして・・・許可できないとおっしゃるのですか・・・」

「提供前に・・・体調を崩したり・・・事故にあったりしたら・・・問題になるんですよ」

「私が責任をもって・・・無理をさせません」

「許可はできないのです」

「三種同時で・・・精神的に不安定なんです・・・また・・・自損事故を起こすかもしれません」

「・・・」

「許可が下りない場合・・・何が起こっても・・・責任もてませんよ」

「・・・いいでしょう・・・外出の自由がないわけでは・・・ないので」

「・・・ありがとうございます」

恭子は美和にペンと便箋を渡した。

「私が・・・トモに手紙を・・・」

「言い出したのは美和だもの・・・」

「恭子が書いた方がいいよ・・・私とトモはいろいろあったから・・・私が頼んでも来てくれないかもしれないし・・・恭子が呼びだして・・・私がだまし討ちみたいな感じで・・・」

「会いたいっていうのは・・・美和の意志なんだから・・・ちゃんと伝えないと・・・それが最後の願いなんでしょ・・・」

「・・・」

《友彦の時間》

友彦は提供者仲間とサッカーに熱中し・・・転倒した。

手紙を手に友彦を捜していた彩が駆け寄る。

意識の混濁する友彦。

(サッカー選手になるんだ)(陽光学宛を出たら)(プロのサッカーチムームのテストを受ける)(無理だよ)(一発じゃ無理かもしれないさ)(俺はサッカー選手になるのが夢なんだよ)(私)(プロになるんだ)(トモのこと)(選手になるんだ)(好きだなって)(トモ)(しっかりしろよ)(トモさん)(担架きたぞ)(トモさん)(それ)(トモさん宛ての手紙っす)(しっかりしてください)(手紙・・・)

「トモへ・・・元気かな?・・・なわけないよね・・・私ももちろん元気でもないけど・・・あのね・・・今・・・私の介護人・・・恭子がやってくれています・・・この間・・・トモはどうしているんだろうって話になって・・・お互い・・・終了も近いみたいだし・・・このあたりで一度会ってみませんか・・・三人で陽光の跡地でも見に行くというのはどうでしょう・・・返事にはトモの都合のいい日を・・・必ず書いてください・・・美和より」

《恭子の時間》

提供のための検査を終えた美和を恭子が労わる。

「大丈夫?」

「うん・・・」

「提供三種だと・・・検査項目も多いね」

「いっそ・・・提供不適合になりたいわ」

「ヤバイ病気だからとか・・・」

「ヤバイ病気はヤバイけどね」

「それもそうか・・・」

「まあ・・・提供三回で終了が平均的って言うけど・・・ボロボロになった身体で四回目待ちって・・・ヤバイの通り越すって言うし・・・」

「・・・」

「それにくらべたら・・・二回目で一気に三種って・・・マシなのかもよ・・・それより・・・返事遅いね」

「そうね」

「やっぱり・・・恭子が書いた方がよかったんじゃないの」

「・・・」

「私・・・トモとはいろいろあったから・・・」

「トモは・・・そういう根にもつタイプじゃないでしょう」

「まあね・・・バカだからね」

「外出許可が出ないのかも・・・トモも提供を開始しているから・・・」

「・・・」

しかし・・・手紙は届いた。

「美和・・・」

「トモって・・・こんな字だった」

「開けて・・・読んで・・・」

「はじめまして・・・介護人の中村と申します・・・友彦さんが手紙が苦手とのことで・・・私が代筆させていただきました。返事が遅くなったのは・・・提供後の体力低下などで外出許可が下りなかったためです・・・ただし、友彦さんはお二人にとても会いたがっております・・・なので・・・こっちに来てもらうとか・・・そういうことではいけませんか」

「トモ・・・大丈夫みたいだね」

「でも・・・あんまりよくはないんだね」

「美和の外出許可だって・・・大変だったし・・・すごく悪いとは限らないよ」

「あれ・・・約束の日時がないじゃない・・・」

恭子は封筒を探る・・・残されていた一枚の絵。

「この絵に日付があるよ・・・この絵も介護人が描いてくれたのかな」

「これ・・・トモの絵だよ・・・」

「え・・・」

「あれから・・・ずっと・・・練習していたんだ・・・最後に会った頃には・・・こういう感じのタッチになっていた」

「・・・」

「トモ・・・すごく絵がうまくなって・・・よかった・・・」

恭子は美和がトモの絵を抱きしめ・・・涙を流したのを見て驚愕する。

恭子は加藤の提供手術の日に立ち会っていた。

「・・・そう・・・友達の絵を見て泣いたんだ・・・その人・・・」

「他人のことで泣くような人じゃなかったんですけどね・・・」

「人は変わるって言うよ・・・特に提供後はね・・・」

「会わない間に彼女は変わって・・・私、そのことに気がつかなかった・・・私の方が変わってなかったというか・・・」

「で・・・CDの件は・・・」

「そこは・・・もう・・・謎のままでも・・・いいかなって・・・」

「余韻ってやつだね・・・それで会いにいくんだ」

「二月二十八日に・・・」

「楽しみだね」

人間の医療スタッフがやってくる。

「時間です」

「お・・・行かなくちゃ」

介護人は人間の看護師に書類を渡す。

「これ・・・お願いします」

「・・・」

無表情に書類を受け取る看護師・・・。

「最後に聞けたのがいい話でよかったよ」

「・・・」

加藤は手術室に運ばれていく。

その穏やかな微笑み。

夜がやってくる。

そして・・・朝がやってくる。

暗闇にささやかな光がさして・・・世界は息を吹き返す。

恭子の中で何かが変わって行く。

《恭子と美和の時間》

恭子は管理人用のレンタカーで美和を乗せて朝の街を走りだす。

約束の日・・・。

二月の最後の日の前日・・・うるう年なので。

「私が出て行ったあと・・・トモと何があったの・・・?」

「トモは相変わらずよ・・・私にはちっとも興味がなくってさ」

「相変わらず?」

「そもそも・・・私に何の興味もなかったじゃない・・・最初から」

「そうなの・・・?」

「そうよ・・・トモは私を見ない・・・無理矢理こっちを向かせない限りね」

「サッカーボールのことはいつも見ているのにね」

「あと・・・私の身体は見たわよ・・・そこには少し興味があったみたい」

「・・・」

「なんだか・・・トモとつきあってるのが馬鹿馬鹿しくなっちゃって・・・コテージに新しく来た人と付き合い始めて・・・トモに言ったら・・・あっさり・・・ああそうって感じ・・・それで終わりよ」

「トモは・・・」

「トモのお相手のことは・・・知らない・・・でも・・・介護人講習で・・・花と再会して仲良かったみたいだよ」

珠世と一緒のコテージだった花(濱田ここね→大西礼芳)は消息不明である。

「そうなんだ」

「絵も花に教わったみたい・・・」

「それであんなにうまくなったのかな」

「さあ・・・ねえ・・・花ってちょっと恭子に似てるよね」

恭子は身構える。

言葉に美和の攻撃の気配を感じる。

しかし・・・それは弱々しい一撃だった。

「そう?」

「似てるよ・・・鼻とか・・・目元とか・・・唇とか・・・全体の雰囲気とか」

「女だし・・・同い年だし・・・そりゃあ・・・似てるでしょう・・・美和と花だって似てるし・・・私は・・・時々・・・似てない人なんていないんじゃないかと思う・・・私たちってほとんど同じなのよ・・・だから・・・ちょっと違うところを見つけたりすると・・・驚いたり戸惑ったり憎んだり羨んだりして・・・違うからこそ・・・ほしいと思ったり・・・憧れたりする・・・そういう人になりたいと思ったり・・・好きになったりするんじゃないかしら・・・」

「ふふふ・・・相変わらず優等生ね・・・恭子は・・・でもまあ・・・そうなのかもね・・・私たちの一生なんて・・・ささいなところでウロウロしているうちに・・・あっという間に終わるのかもね・・・」

「・・・」

「ねえ・・・あの曲をかけて・・・もっているんでしょう」

「・・・ええ」

「Never Let Me Goってどういう意味?」

「わたしを離さないで・・・」

「私・・・恭子を怒らせたかった・・・それでクズとか・・・最低とか・・・死ねとか言われて・・・それで本当の友達になれるような気がしたの・・・対等の関係っていうか」

「・・・」

「だって・・・いつもキレてるの私ばかりだったでしょう・・・結局、うまくいかなかったけどね・・・あなたってすごく我慢強いっていうか・・・鈍いっていうか」

「何度も何度も・・・ぶっ殺してやろうかと思ったよ」

「本当?」

「大成功よ」

「よかった・・・」

恭子は・・・美和の心を理解したような気持ちになった・・・。

美和はただ・・・恭子が自分と同じ人間なのかどうか・・・確かめたかっただけなのだった。

そして・・・恭子は本当の自分を美和に隠し続けていた。

罵られたら罵り返すだけで・・・よかったらしい。

しかし・・・それが人生というものなのだ。

どんなに曲がりくねった道を通っても・・・たどり着く場所は同じなのだから。

《恭子と美和とそして友彦の時間》

友彦の回復センターの駐車場で友彦は車に乗り込んできた。

「外出許可が出なかったんじゃないの」

「手紙のことを話したら・・・みんなで一日、ごまかしてくれるって」

「・・・」

「だから・・・陽光に行こう」

「大丈夫なの」

「うん・・・身体は丈夫だから」

「規則を破ったりして」

「規則は破るためにあるのさ・・・」

「塀を乗り越えたら即時解体だけどね」

「やりたいことをして・・・解体されるか・・・何もしないで解体されるか・・・もう・・・ほとんど同じじゃないか」

「トモにしては・・・まともな論理だわ」

「私は・・・変わってないなと思うけど・・・」

「行こうよ・・・森の中の・・・俺たちが育った場所へ・・・行きたいって手紙に書いてあったでしょう」

「・・・」

「大丈夫・・・時間までに戻ればいいのさ・・・うちのセンターって・・・ルーズなんだ・・・俺たちだって・・・もう子供じゃないんだし」

恭子は友彦を見た。

何かが変わったようにも見え・・・何も変わらないように見える・・・幼馴染で初恋の男。

雰囲気の変わった男に戸惑うような恋敵で親友の女。

友彦は美和を見つめる。

美和は涙をこらえて目をそらす。

恭子は思わず微笑む。

大人になるということは・・・もうすぐすべてが終わるということだ。

世界が急に美しくなったように感じる恭子だった。

「陽光って・・・今・・・どうなってんのかな・・・」

「どんなにボロボロになっていたとしても・・・私たちのふるさとよ」

「故郷・・・」

「そう・・・故郷」

「ようこそ・・・陽光へ」

「だじゃれかよっ」

緑の森の中を一本の道が通じ三人を乗せた車が走っている。

恭子は道の果てに・・・何か素晴らしいものが待っているような気がしてきた。

「陽光学園は・・・滅んで・・・何か美しいものに生まれ変わっていたりして・・・」

「それはないんじゃないかな」

「過剰な期待は禁物よ」

「だって・・・私たちは」

「提供者なんだもの!」

彼らは見た。

閉ざされた門。

鉄条網。

そして・・・扉に記された「HOME J-28R」と「関係者以外立入禁止」の表示を・・・。

今、世界は終わろうとしている。

恭子だけが特別・・・という希望の光を残して・・・。

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