家族ノカタチ(香取慎吾)煩わしいのはお前だけじゃない(上野樹里)
二月の谷間である。
ホームドラマはお茶の間とともにあるわけで・・・「家庭」というものにはまだ需要があるらしい。
「家」に「庭」があるのは豊かなことであるが・・・「都会」と「田舎」では事情が違う。
都会にも「家庭」はあるが・・・「家」だけだったり、「部屋」だけだったりするわけである。
「家庭」に住む「家族」と・・・「家」に住む「家族」・・・さらには「部屋」に住む「家族」では・・・「幸福」の「形」は明らかに違うだろう。
「ホーム」と「ファミリー」にある「溝」が・・・時には「ホームドラマ」を困難なものにする。
「にぎやかでひっそりとした家族」はひとつの理想だが・・・両立は難しい。
「ただいま」と言えば「おかえりなさい」と言われることが「幸せ」なのかどうか・・・おそらく・・・それは・・・すべてを失った時に判明するのだろう。
だからといって・・・部屋に消し忘れの灯りがついているだけだとしても「不幸せ」とは限らないのだが。
人間は慣れる生き物なのだから。
で、『家族ノカタチ・第1回』(TBSテレビ20160117PM9~)脚本・後藤法子、演出・平野俊一を見た。原作ものでもオリジナルものでもそれなりに仕上げる脚本家である。オリジナルでは・・・どこか寂しい男女が登場する傾向がある。「都市伝説の女」では「淋しいことに何か問題があるか・・・」という態度だったが・・・ここでは「さびしくないのは結局面倒くさいこと」というトーンが流れているような気がする。まあ・・・どんなに楽しくても・・・人間関係には煩わしさが含まれるわけである。だって・・・家族なんて・・・本当に厄介だものな・・・おいっ。
文具メーカー「ペンナ」企画開発部の商品企画班・班長の永里大介(香取慎吾)は39歳の独身男性である。高層マンションの407号室を購入し・・・ついに「理想の城」を手に入れた喜びを噛みしめる。小さなロフトには趣味の自転車を飾り、スタイリッシュなビールで乾杯する。悩みの種といえば・・・文具に対して執拗にクレームをつける「hanako」の存在ぐらい。しかし、ビジネスにそういう煩わしさはつきもので・・・そのためにこそ・・・プライベートでは「自分だけのスペース」が必要なのである。
総合商社「帝光商事」飲料原料部・コーヒー課の社員・熊谷葉菜子(上野樹里)は32歳で離婚歴のある独身女性である。高層マンションの507号室に住んでいる。407号室に入居した大介には引っ越し時に洗濯ものをめぐるちょっとしたトラブルがあった。大介より若く大介より先に入居していて一つ上の階に住んでいるということは・・・経済的には大介よりワンランク上ということになる。商社とメーカーの格差と言っても良い。もちろん・・・仕事ができる女だが・・・「赤毛のアン」に憧れる乙女要素も持っており、文具には特別なこだわりがある。つまり・・・クレーマー「hanako」なのだった。
独身生活を謳歌する二人・・・。
しかし・・・人は一人では生きていけない・・・とあらゆる家族向けサービスの企業が求めるために・・・「独身」であることは許されないのだった。
407号室には・・・妻の美佐代(浅茅陽子)に五年前に死別して・・・浩太(髙田彪我)という中学生の連れ子がある恵(水野美紀)と再婚した・・・沼津で漁師をしている父・陽三が転がり込んでくる。再婚相手で大介より二歳年上の恵が家出し・・・東京にいるという噂を聞きつけ、浩太を連れて上京してきたというのだ。
いきなり・・・ベランダで魚を燻製にしようとして消防車が出動。
昔馴染みであるシゲさん(森本レオ)たちを呼びカラオケ大会・・・。
響き渡る大音響。
507号室の葉菜子は・・・「自治会」で問題化すると通告する。
いや・・・これは・・・もう・・・「殺すしかないレベル」だろう。
都会の住民を舐めるなよ・・・。
だが・・・ドラマなので・・・我慢する大介だった。
いや・・・両隣の人間が・・・刺すよな・・・。
浴槽で解体されるよな・・・。
だが・・・ドラマなので黙認されるのだった。
一方・・・507号室には「定年後の田舎生活」に憧れて都会を去った葉菜子の母・律子(風吹ジュン)が夫とのカントリーライフに辟易してやってくるのだった。
・・・ああ、面倒くさい。
「赤毛のアン」のように・・・花園や果樹園に囲まれた暮らしは・・・空想の中だけでしか楽しくないらしい。
さらに・・・職場では・・・帰国子女で縁故採用のお嬢様である田中莉奈(水原希子)の教育的指導に手こずる葉菜子なのである。
「コーヒー豆が入港してないのよ」
「なるほど」
「なるほどって・・・」
「出航は確認しましたが」
「その船が東京じゃなくてシンガホールにいるのよ」
「なるほど」
「・・・いいかしら・・・私たちの仕事はコーヒー豆を」
「辞めます」
「え」
「私・・・この仕事に向いていないみたいなので」
「えええ」
お手上げの葉菜子に・・・上司の田中部長(入江雅人)は・・・。
「困るんだよ・・・縁故採用だって・・・知ってるだろう」
「・・・」
「とにかく・・・あやまって・・・」
「あやまる・・・私が・・・何をですかああああああああ」
しかし・・・大人として対処する葉菜子・・・。
「よかったわ・・・呼び出しに応じてくれて・・・」
「一度、お会いしないとしつこくされそうで」
「し・・・しつこく」
「熊谷さん・・・仕事楽しいですか」
「え」
「私・・・赤毛のアンのように・・・楽しく生きていきたいんです」
「あ、あんたに・・・赤毛のアンの何がわかるのよ・・・好きにしなさいよ・・・楽しく生きなさいよ・・・いつまでも・・・あると思うな・・・親と金よ」
「・・・」
大介は・・・昔の恋人だった美佳(観月ありさ)と偶然再会する。
独身主義だった大介のために・・・仕方なく別の男性と結婚した美佳と・・・大介は申し訳なさを感じていたのだが・・・。
「何言ってるの・・・あなたと結婚したら面倒くさいだろうなあと思って・・・あなたを捨てて今の主人と結婚したのよ・・・私」
「え・・・」
「なんだっけ・・・あなたの趣味の自転車・・・触っただけで凄く怒っちゃって・・・あ、だめだ、この人って・・・見切りをつけたのよ」
「・・・」
まあ・・・思い出を美化している男に・・・意地悪なことを言わなくてもいいとは思いますけどね。
帰宅した・・・大介を待っていたのは・・・最愛の自転車に乗って出かけようとする父の姿。
「俺のロード・バイクに触るな!」
「いいじゃないか・・・減るもんじゃねえし」
「出てけ!」
ついにきれて・・・自分が出て行く大介。
優しい息子である。
ベランダから投げ落としてやればいいのに・・・。
思わず・・・人気のない場所で叫ぶ大介だった。
「あああああああ」
ふりかえると・・・そこには葉菜子が・・・。
「叫んでましたね」
「・・・大人げないことをしたので・・・どうして・・・ここに」
「お気に入りの場所です・・・あなたこそ・・・」
「お気に入りの場所です・・・何かあったのですか」
「若い子に大人げのないことを言ってしまって・・・」
「・・・」
「・・・」
そこへ・・・父親の逃げた再婚相手の連れ子がやってくる。
「ひどいことを・・・いわないで・・・あなたのこと・・・いつも自慢してたのに・・・東京の大学を卒業して・・・立派な会社に勤めているって・・・」
「・・・親父のこと・・・好きなのか」
「前のお父さんと違って・・・ぶったりけったりしないから・・・」
「・・・」
仕方なく・・・一時休戦する大介だった。
葉菜子は・・・莉奈に電話をかける。
「はい」
「さっきは少し・・・言いすぎました」
「私・・・会社を辞めないことにしました」
「え」
「あなたの言葉が・・・胸に沁みたので・・・」
「ええええええええええ」
ま・・・独身でいることが気にならないタイプはいる。
もちろん・・・独身でいることが耐えられないタイプもいる。
とにかく・・・独身のまま・・・年老いて・・・制度に面倒をかけることになったとしても・・・。
納税者には面倒を見てもらう権利はあるのだ。
たとえ・・・ホースで水をかけられ・・・庭に投げ落とされることになったとしても・・・。
台本を読まないで現場に入る天才型演技者を・・・よくわかっている脚本と演出で・・・安心して見られるドラマである。
クールなのだめもいい。
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