引越し屋さん、ちょっと・・・嘘じゃなくて冗談だったんですね(有村架純)
「用がないから逢いに来た」でも良かったけれど・・・緊張感に耐えかねた。
フルスイングだからな・・・。
ついに・・・底辺と上流の話に・・・。
「金色夜叉」なんだな。
「月がとってもきれいね」
「今月今夜のこの月を僕の涙できっと曇らせてみせる」
「愛してる」に「怨んでやる」で答える・・・こんなにせつないことはないな。
世界でもトップクラスの豊かさがつまったこの国で・・・「このままでは大変なことになる」と心配するのは・・・今、恵まれている人たち・・・。
失うものが多過ぎるからな・・・。
しかし・・・引越し屋さんを恋する彼女は・・・棲む場所もお金を稼ぐ仕事がなくなっても「恋」があればそれでいいのだ。
砂場で作ったトンネルの向こうに・・・愚かで優しい世界が待っているからな・・・。
どんな時も・・・鉄は錆び不動産は整理され合理化という名の弱肉強食は平和共存を駆逐する。
そして、嘆きの言葉が世界を支配するのだった。
「Please Mr. Postman/The Marvelettes」→「郵便屋さんちょっと/つかこうへい」→ココである。
で、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう・第6回』(フジテレビ20160222PM9~)脚本・坂元裕二、演出・石井祐介を見た。幼い頃に両親を失い孤独だった杉原音(有村架純)は引越し屋さんこと曽田練(高良健吾)と出会い、たった一日で恋をする。だが・・・一年間、逢えない日が続く。漸く、再会して三ヶ月・・・二人は思いを伝え合うが結ばれることはなく・・・東日本大震災の前後から五年間、逢えない日が続くのだった。存在した三ヶ月と一日。不在の六年。それでも・・・二十七歳になった音は引越し屋さんを忘れることはできない。恋しい人からの便りを待って逢えない時間が愛を育てるのが・・・定番だからである。
あの日・・・音の恋は実らなかった。
音は夢を見る・・・幼い音(平澤宏々路)と・・・今は亡き母(満島ひかり)は公園の砂場で山を作り、トンネルを掘っている。
アルプス一万尺トンネルらしい・・・。
「あのな・・・恋って何?」
「池で泳いでるやつ」
「サカナとちゃう」
「ああ・・・あっち・・・それはな・・・帰るトコ」
「帰るトコって・・・おウチ」
「おウチがなくなっても・・・痩せた猫になっても・・・帰るトコ」
「わからへん」
「恋人がサンタクロースだってわかったらわかるよ」
「みゆきとユーミン、ごちゃまぜか」
母が死んだ年齢となった・・・二十七歳の音は「春寿の杜」の介護施設で働き続けている。
介護福祉士の資格を取得して仕事の量は三倍になったが給料は据え置きらしい。
21世紀の日本は「国費の無駄使い」を目指し「無駄をなくす社会」へと歩みを進める。
コストダウンのために・・・人件費を抑え、鉄筋の数を減らし、安心・安全を黙殺した・・・その結果、ワーキングプアが増殖し、マンションは傾き、トンネルは崩落し、秋葉原に殺人鬼が出現し、原子炉はメルトダウンしたのである。
あれから・・・五年。
社会のブラック化は浸透と拡散を続け・・・ついに介護施設から老人が投棄される時代となったのである。
特殊な例は氷山の一角に過ぎないが・・・ブラックな人たちほど私はホワイトだと呟くのだった。
神部所長(浦井健治)は健在である。
井吹朝陽(西島隆弘)は本社の人材派遣業務に転任したらしい。
「他の介護施設が・・・閉鎖されているようですが」
「介護ビジネスもそろそろ・・・利益を出すのが難しくなってきたからね」
「慈善事業じゃない・・・ですか」
「介護を委託する人たちの経済状況が悪化しているからね」
「うちの経営姿勢がブラックだと噂になっています」
「本当のことだから・・・ブラックな仕事にはブラックな奴がやってきてますますブラックになっていく・・・合理的じゃないか・・・」
「・・・」
音は朝陽と交際していることを職場では秘密にしていた。
「杉原さん・・・朝陽さんにお茶・・・」
「はい・・・」
「手は洗った?」
「はい」
部下に対する配慮に欠けた所長を・・・。
音と朝陽はアイコンタクトで嘲笑する。
介護施設の離職率は高い。日本介護福祉士会は「影響の大きさも考えていただきたい」と意見したようだが「高齢者介護施設に勤める主人公の給与の低さや労働環境の悪さ」を否定はしないのだった。
徹底した合理化が国家の方針だから・・・ほどほどにしてくれというニュアンスなんだな。
職場での人材育成を望めない企業に未来がないことは明らかだが・・・欲しがりません、滅亡するまではの大日本帝国精神は今もこの国に根強いのである。
「じっとしてっていってるだろ」
「ご利用者さんに・・・そんな口を利かないでね」
「・・・」
「歯磨き介助お願いします」
「・・・」
底辺の職場にはますます底辺の人材が集まってくる。
「やめたら補充すればいい」の精神の帰結である。
「失業率は低下しています」
「ブラック的にですか」
・・・なのだった。
毎日・・・日本の誇る特殊な技術が喪失中なのだ。
残るのは「もったいないこころ」の終点としての「かっておもてなしだったもの」である。
かっての上司だった丸山朋子(桜井ユキ)も同期の船川玲美(永野芽郁)も離職していた。
「あなたは生き残って・・・」
「今の派遣業務・・・月に120時間残業させられて・・・残業代ゼロなんだけど・・・なんとかならないかしら・・・朝陽さんに・・・」
音は友人たちには朝陽との交際を明かしているらしい。
朝陽は本社勤務になっても・・・優しい一面を残していて・・・音の求めに応じるのだった。
腹違いの実の兄・和馬(福士誠治)に相談を持ちかける。
「派遣社員のサービス残業のことなんだけど・・・それが会社にとって必要なシステムだと理解している上で・・・今回だけ善処できないかな・・・彼女の女友達なので・・・」
「お前・・・変わったな・・・昔は・・・世のため、人のためだったのに・・・今は交際相手の周辺だけ特別扱いかよ・・・」
「・・・」
「この会社がなんで儲かっているのか・・・知っているか」
「それは・・・派遣事業が・・・」
「企業買収だよ・・・企業を安く買って、不動産を売り払い、企業そのものは解体処分する。俺の仕事は・・・人材の解雇だ・・・リストラなんてもんじゃない・・・全員解雇だ・・・人間は金の卵を産まないからな」
「・・・」
「俺はもう・・・疲れた・・・なあ、朝陽・・・」
「はい」
「二人で手を組んで・・・会社から親父を追いださないか」
「え」
「考えておいてくれ・・・」
朝陽の心は音へのプロポーズのことでいっぱいだった。
交際から二年・・・肉体交渉があるのかどうかは不明だが・・・いつもポケットには婚約指輪が忍ばせてある。
「パーティー・・・」
「大切な関係者の十周年記念だ・・・どうしても一緒に出て欲しい」
「ファミレスじゃないんでしょう・・・」
「どんだけ・・・ファミレスが好きなんだよ」
「・・・」
「クリスマスを二回もすっぽかされているし・・・」
「みんなイブの夜勤は嫌がるから・・・利用者さんの汚物の処理をしていると一人ぼっちの砂場で犬のウンチの埋めてる気分になるみたい」
「お願いだ・・・」
他人に頼まれたら嫌とは言えない音だった。
一人暮らしの仙道静恵(八千草薫)の屋敷に・・・今も通っている音。
朝陽のお金でドレスアップして・・・二十万円のバッグをもらった音に・・・秘蔵のネックレスを静恵はプレゼントする。
「古いものだけど・・・」
「もったいない・・・私には・・・不似合いです」
「似会う女になってちょうだい」
「・・・」
音の「シンデレラ装備」である。
そして・・・日向木穂子(高畑充希)の訪問が・・・音の心の箱の鍵を開けるのだった。
「木穂子さん・・・」
「音ちゃん・・・」
「元気だった・・・」
「あれ以来ですね」
「彼は・・・元気?」
「彼って・・・」
「練に・・・決まってるでしょう」
「練は・・・木穂子さんと一緒じゃないんですか」
「え」
「え」
東日本大震災の後で「安否確認」のメールを何度かやりとりした後で・・・練は消息不明になっていた。
アパートも解約され・・・携帯電話も通じなくなっていた。
音は・・・練が木穂子と一緒にいると思っていた。
木穂子は・・・練が音と一緒にいると思っていた。
そして・・・恋を封印していたのである。
「今・・・交際している人は・・・」
「あの日・・・一緒だった人です・・・木穂子さんは・・・」
「デザイン業界の関係者よ・・・」
不倫じゃないんでしょうね、ジロリンチョとは問わない音。
心はたちまち・・・「引越し屋さん」への気持ちで満たされる。
「柿谷運送」を訪ねた音は・・・佐引穣次(高橋一生)に面会するのだった。
「俺はさ・・・ボルトをコーチしたことあるんだぜ・・・ジャマイカでさ・・・俺が高校生で奴が小学生の時にね」
「・・・」
「嘘じゃなくて冗談だ」
「ユースケサンタマリアですか」
「あいつは・・・ここで働いている」
「・・・」
一枚の名刺を差し出される音。
スマートリクルーティング社
マネージャー 曽田 練
「あんたが・・・あいつに逢いたいのなら・・・持っていけばいい」
音は迷わず・・・それを受け取った。
練に木穂子がいたように・・・音には朝陽がいる。
しかし・・・これは・・・思い出したら泣いてしまう恋の話なのである。
スマートリクルーティングを素晴らしいインターネットの世界で検索する音。
あの頃のケータイは水没し・・・今はスマホなのだった。
《スマリク・・・最悪だ》
《スマリクと契約したら・・・人生終わり》
《いつか殺してやる》
《殺すしかないね》
《スマリク・・・つぶれろ》
(評判悪すぎ・・・)
音は眩暈を感じるのだった。
練は・・・晴太(坂口健太郎)と一緒だった。
コストカットの嵐に吹き飛ばされ・・・ネットカフェにたどり着いた極貧の若者たちに声をかけ・・・違法すれすれの仕事を斡旋し・・・ピンハネをするのが・・・業務である。
「これ・・・時給安すぎませんか」
「まさか・・・フクシマの仕事なんじゃ」
「簡単な電話営業って・・・オレオ」
「お金が・・・欲しいんでしょう」
雑居ビルの元カラオケスナックを改装した「スマートリクルーティング」の事務所兼住居。上の階はこれ以上なく組織の匂う「兵頭興業」の看板がある。
練と晴太の上司の非堅気臭も半端ないのだった。
練は・・・どこかで見たような酔っ払いが道に倒れていてもスルーする男になっていた。
パーティー当日。
シンデレラスタイルの音はバス・ストップでじろじろ見られる。
しかし・・・朝陽は父親に呼び出される。
「すまない・・・行けなくなった」
「そうですか」
井吹征二郎(小日向文世)は側室の子供にワインを勧めた。
「三十歳になったんだって・・・」
「はい」
「明日から・・・社長室に入れ・・・」
「え」
「和馬はダメだ・・・お前の最初の仕事は・・・あいつのクビを切ることだ」
「お父さん・・・」
朝陽の夢は叶った。
父親が自分の目を見て・・・話してくれている。
音は・・・名刺にかかれた住所に向かっていた。
しかし・・・雑居ビルに入る勇気が出なかった。
引きかえし橋を渡る音。
曲がり角を過ぎて川沿いの道へ・・・。
そして・・・川面を見つめる練に気がつく。
「引越し屋さん」
追いかけて・・・お約束で転ぶのだった・・・。
「・・・」
事務所は無人だった。
「ここ・・・カラオケ屋さんみたい」
「昔はそうだった・・・」
「あ・・・ホコリつかまえた」
「・・・」
「嘘じゃなくて冗談です」
「何の用だ・・・」
「あの・・・おじいさんは・・・」
「死んだ」
「・・・」
「用は・・・」
「用は・・・ないです」
「じゃあ・・・帰ってくれ」
その時・・・投石で窓ガラスが割れる。
驚愕して立ちすくむ音をカウンターの中に避難させる練。
「隕石なの・・・」
「いやがらせの投石だ・・・仕事で職のない人間に職を斡旋してピンハネをするのが仕事だから・・・逆恨みしてネットに書きこみしたり・・・石を投げる奴もいる・・・」
「・・・」
「裏口から・・・帰れ」
「用はなんだって・・・なんで聞くのよ」
「・・・」
「用なんかないよ・・・用があったら・・・来ないよ・・・あの日・・・私、東京にいたから・・・無事って聞いても・・・本当なのか・・・わからなくて・・・顔を見て・・・安心したかった・・・だから来たんだよ」
「・・・」
「ねえ・・・こんな危険な仕事・・・やめて・・・」
「あんたにはわからない・・・」
「何が・・・」
練は音が落したバッグを拾い上げる。
「ウチは転売もしているから・・・知っている・・・このバッグの値段・・・」
「これは・・・」
「あんたとおれでは・・・もう・・・違う」
「・・・」
「だから・・・あんたにはわからない」
「・・・」
音は引きさがる。
しかし・・・あきらめるつもりはないのだろう。
「あのね・・・」
練は扉を閉めた。
反対側のドアから・・・あの日、会津にいた市村小夏(森川葵)が現れる。
「なに・・・どうしたの」
「なんでもないよ・・・ガラスが割れただけ」
「本当なの・・・はっ・・・はっ・・・はっ・・はっ・はっはっはっはっ」
「大丈夫・・・落ちついて・・・」
小夏は心になんらかの傷を追い・・・パニックを発症しているらしい。
おそらく・・・あの日・・・小夏は帰る場所を失くしてしまったのだろう。
小夏が眠りに落ちると晴太が現れる。
「小夏は・・・」
「もう・・・落ちついた」
「あのさ・・・小夏を一生・・・背負うのか」
「・・・玉子丼食べるか」
相変わらず・・・正体も意図も不明な晴太だった。
しかし・・・音の登場に警戒心が発動しているようにも見えるのだった。
その理由は・・・やはり・・・。
音が恋泥棒だからなのか・・・。
帰宅した音をあすなろ抱きで攻撃する朝陽。
「今日・・・お父さんが逢ってくれた・・・」
「・・・よかったね」
「音ちゃん・・・幸せになろう」
「・・・」
「結婚してほしい・・・」
「どうしたの・・・突然・・・」
朝陽は婚約指輪を示した。
息を飲む音。
心に響き渡る・・・放流開始のサイレン・・・。
待っているのは恋の破局・・・それとも・・・まさか、ハッピーエンドじゃないだろうな。
でも・・・月9だからな。
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