行燈消えてくらがりに白無垢死出立恋路の闇黒小袖(早見あかり)
ひろし・・・来たか。
ひろし・・・来たな。
しかし・・・ストーブさん(小池徹平)とマスター(松尾スズキ)がいるだけに・・・ひろしさえもが意味深に思えてくる。
藤本有紀とクドカンのクロスオーバーだよねえ。
そもそも・・・ひろしは黄昏ているんだよねえ。
喜里(富司純子)、お玉(高岡早紀)、お袖(優香)、そしてお初(早見あかり)と出てくる女がみんなツンデレ設定だ。
親孝行では傑作が描けないあたりは・・・やはり、つか版忠臣蔵に通じていく。
そうなると・・・つかこうへい・クドカン・藤本有紀が一体となって・・・。
子捨て親殺しは河原者のつとめでございます・・・。
そういうニュアンスが不孝糖に結実するという・・・。
トレビアンの極みだねえ・・・。
来週が終わったら・・・せつないねえ。
で、『ちかえもん・第7回』(NHK総合20160225PM8~)脚本・藤本有紀、演出・梶原登城を見た。豪商・平野屋の道楽息子・徳兵衛(小池徹平)とわけありの遊女・お初(早見あかり)の出会いは雪の中庭・・・恋の行方は梅の季節を過ぎて・・・いよいよ桜も満開に。筆の進まぬちかえもんこと近松門左衛門(松尾スズキ)と小言ばかりを言うものの息子を溺愛する母・喜里の別れの門出も近付いて・・・平野屋の大旦那・忠右衛門(岸部一徳)の朝鮮人参ビジネスを狙う黒田屋九平次(山崎銀之丞)の悪だくみも大詰めに・・・いよいよ、真打ち万吉(青木崇高)の腕の見せ所なのである。
色茶屋・天満屋の主人・吉兵衛(佐川満男)と女将のお玉(高岡早紀)の帳場に・・・黒田屋が現れる。
「お初を身請けしたいのですが・・・」
「あの妓が何と言うのやら・・・なにしろ・・・平野屋の若旦那にぞっこんだからね」
すました顔でお初が登場。
「その話なら請けました」
「お初・・・」
お玉の鬼の目に浮かぶ思わしげな気配・・・。
「そういうもんやと教わりました」
言葉を失うお玉だった。
部屋に退く回廊でお初に声をかけるお袖(優香)である。
「あんた・・・ほんまにそれでええの」
「徳様を騙して傷つけて苦しめたわてが・・・他に仕様もあらしまへん」
お初の悲しみを染める桜吹雪・・・。
お初、渾身のポーカーフェイス。
ちかえもんは夜なべして浄瑠璃書くものの・・・木枯らし吹き込む貧乏屋敷に身は冷える。
梅、桃、桜と季節は過ぎても・・・ちかえもんの心には冷たい風が吹いていた。
書けないものは書けないのである。
そこへ・・・ちかえもんの弟で越前の医師・伊恒(これつね)より文が届く。
「飛脚から預かって来たで」と万吉。
出来のいい弟から母への手紙に気を揉むちかえもん。
「なんと書いてきたんです」
「駕籠で迎えをよこすから・・・越前へ参れと・・・人形浄瑠璃などという下賤なものを書く兄の元へと母を置いては気がかりと・・・美味なる鯖を召し上がり、温泉でのんびりなされよと・・・親孝行な伊恒とその嫁じゃこと・・・」
「・・・」
気が滅入るちかえもんを余所に・・・喜里に甘える万吉。
「嫌や・・・おかあはん・・・越前に行ったらあかんて」
「はいはい・・・あなたを残してどこにも行きませんよ」
「よかった・・・」
「万吉さんもそろそろ嫁を迎えねば・・・」
「そんなら・・・今すぐ嫁とるで・・・」
万吉は勇んで家を出る。
よもや・・・と嫌な予感のちかえもん。
「お前、まさか・・・お初のことを」
「そうや・・・あほぼんと切れて・・・一人になったお初を慰めてやれるのはわしだけや」
「あほかいな・・・」
「お初~」
しかし・・・お初の部屋には白無垢の婚礼衣装があるばかり。
「なんや・・・これ」
「お初は黒田屋さんに身請けされるんや」とお袖。
「そんな・・・」
「三百両でな」
「さ、三百両・・・」と絶句するちかえもん。
「いやや・・・そんなのいやや・・・」
駄々をこねる万吉は・・・白無垢を懐にいれ・・・天満屋を飛び出す。
「ど、泥棒や」
「お初・・・平気な顔をしとったけど・・・若旦那からもらった梅の木をまだ飾って・・・」
「嘘から出た真か・・・すっかり花も散ったのに・・・無惨なことや」
顔を見合わせるちかえもんとお袖だった。
徳兵衛は番頭の喜助(徳井優)に連れられて平野屋の蔵へ・・・。
蔵には幕府ご禁制の朝鮮人参が山と積まれている。
「これが・・・平野屋の裏の商い・・・」
「へえ」
蔵に徳兵衛を残し、喜助は風流を嗜む忠右衛門の元へ・・・。
「徳兵衛に蔵を見せたのか」
「へえ・・・私の一存でそうさせてもらいました」
「私は・・・純真な徳兵衛に・・・闇の商いができるものかと案じています」
「けれど・・・今だけは・・・若旦那様に・・・おまかせしとうおます」
「・・・」
「恋焦れたお初様を・・・なんとか思いきろうとなさっておいでやさかい・・・」
すべての元凶である朝鮮人参を見つめる徳兵衛。
そこにふらりと万吉がやってくる。
「お金貸してえな」
「饅頭でも食うのか・・・ほな・・・五文でええか」
「あと三百両」
「三百両・・・て」
「あの油屋が・・・三百両でお初を身請けするいうねん」
「・・・黒田屋さんが」
「そやさかい・・・わしが三百両に五文を足して先を越したろうと」
「黒田屋さんなら・・・お初を幸せにしてくれるやろう」
「あんなもん・・・ろくでもないで」
「いや・・・わては黒田屋さんには恩義がある・・・今となっては・・・お初の幸せを願うばかりや」
「そうかいな・・・ほんなら・・・ワシは去ぬで・・・五文はもらっとく」
「なんでやねん」
奉行所の与力・鬼塚新右衛門をもてなす九平次・・・。
「大分手間取るな」
「もう仕上げにかかっております」
「そうか・・・」
「平野屋の裏の商いはそっくりいただき・・・鬼塚様にもたっぷりと御礼をいたしますので」
「ふふふ・・・黒田屋・・・お主も悪よのう・・・」
一方・・・相関図に夢中のちかえもん。
「お初と徳兵衛の恋路を邪魔する九平次・・・まあ・・・これが定番として・・・さて九平次は何をどう仕掛けるつもりか・・・徳兵衛に恩を打ったのも何かの布石か」
そっと茶を置く喜里である。
その優しさが気に障るちかえもん。
「母上・・・弟のところへ参られたらいかがです」
「お前のことが気がかりで鯖の味もわかるまい」
「私だって・・・母上が気がかりで筆が進まぬのです」
「また・・・お前は人のせいにして・・・」
情けないと思いつつ・・・心と裏腹に憎まれ口を利くちかえもんだった。
「七十越えたばあさんが・・・薄明かりの下で繕いものなどしていたら・・・気が滅入るのです」
思わず家を飛び出すちかえもん・・・反抗期の小学生かっ。
大坂の街に広がる宵闇・・・。
ちかえもんの行きつく先は竹本義太夫(北村有起哉)の小屋・・・。
「それはあんたが悪い・・・」
「みなまで言うな・・・」
焚火の炎を見つめるちかえもん。
「いくら・・・どぐされ浄瑠璃作者と言われてもな」
「そこまで言われとらんわ」
「もう・・・受けなんて気にせず書いたらよろしいがな」
「なんやて・・・」
「わしらももうええ年や・・・世間を気にせず・・・自分がこれやと思うもんでええのやないか」
「これやと思うもんなんか・・・この世にあるんやろうか」
「信じるものがみつかったとしても信じないそぶりか」
「たくろうは来ないな」
夜なべして新作の不孝糖作りに精を出す万吉・・・。
「でけたで・・・なにしろ三百両を稼ぎださにゃならんのだ・・・おかあはん、味見をしとくんなはれ」
しかし・・・倒れ伏す喜里だった。
「おかあはん・・・」
呼び出されたのは草原兄さんではなくて医師・横川敏斎(桂吉弥)である。
「お代は・・・」
「万吉殿・・・お代は頂きまへん。 そのかわり新作が出来たら・・・木戸賃ただにするように近松先生に言うとくなはれ。 やぶ医者の楽しみいうたら浄瑠璃くらいのもんだすさかいな」
「万吉殿・・・私は越前に参ろうと思います」
「なんでや・・・」
「母親というものは愚かな者・・・いくつになっても子供の世話を焼いているつもりで邪魔になっても気がつかない・・・そのうち捨てたくなるほど厄介なことに」
「そんなこと・・・」
「この姿をごらんなさい・・・あの子はやれ薬だ・・・やれ滋養強壮だと走り回る・・・いいものが書けなくなります」
「・・・」
「万吉さん・・・あの子のことをお頼みします」
「よっしゃ・・・まかせておくんなはれ・・・」
くしゃみのとまらぬちかえもんは・・・熱に浮かされ天満屋のお袖の部屋へ。
「風邪引いてしもうた・・・」
「なんでよ・・・」
「小屋で眠っちゃった・・・」
「馬鹿なの」
「お袖・・・」
「何?」
「わしと・・・一緒になってくれ」
「えええええ」
思わず部屋を飛び出すお袖。
「何言ってんだ・・・あのじじい・・・」
しかし・・・その顔に浮かぶ微笑み。
(ああ・・・私は求婚してしまった・・・)
大坂・・・黄昏・・・お茶屋の小部屋・・・。
あの人は行って行ってしまったのである。
ひろしものまね王座決定戦だ。
一方・・・黒田屋の姦計に乗せられて・・・朝鮮人参を持ち出した徳兵衛。
お初が労咳の疑いがあると騙され・・・証文まで渡され・・・黒田屋を信じて疑わぬ徳兵衛。
しかし・・・証文が盗まれた判によるものだといきなり告げられ茫然とするのだった。
「盗んだ判で証文を作るとは・・・とんだ悪党だ・・・お上に訴えますぜ」
「黒田屋・・・謀ったな」
「やっちまいな」
黒田屋の子分に殴る蹴るの仕打ちを受ける徳兵衛だった。
往来の騒ぎは・・・客の口からたちまち色茶屋に伝播する。
「お初・・・大変だよ・・・徳様が・・・」
「証文偽造して打ち首とか」
「変な薬もやっていたとか」
「放火殺人おタナは炎上」
「大坂市中は大騒ぎ」
遊女たちから事情を聞き・・・蒼白となるお初。
たまらず走り出す。
「お初・・・どこへ行く」
「徳様が・・・」
「ならぬ・・・」
お初を阻む色茶屋の男衆。
所詮は籠の鳥・・・愛しい男の危機にも飛んでは行けぬ身の上・・・。
お初は半狂乱で身悶えるばかりなり・・・。
「明日一番で・・・鯖薫る越前に参る故・・・今夜は先に休みます」
「母上・・・」
明けてぞ今朝は別れゆく。
「文豪は身なりにも気を配らねばなりませぬ」
「母上・・・」
母さんが夜なべして仕立てた衣に涙するちかえもん・・・。
親を慕うあまりの親不孝、子を思うあまりの子不幸に朝露も濡れて・・・。
越前と大坂に別れることが・・・今生の別れとなるやもしれず・・・胸がいっぱいちかえもん。
えっさえっさえさほいさっさと駕籠は去る。
行ってしまった・・・もう帰らない。
そこへ現れた満身創痍の徳兵衛。
「あほボン」
「いもり・・・」
「どないしたのや」
「油屋にはめられた・・・わてが捕まったら平野屋も終いや」
「なんてこと・・・」
「いまさら・・・なにをと言うかもしれんが・・・一目、お初に・・・」
「わかった・・・わいにまかしとけ」
中庭の桜を見上げ放心するお初。
そこに白無垢二人羽織の万吉が現れる。
「不孝糖~不孝糖~」
「あら・・・万吉さん・・・」
白無垢の下から徳兵衛。
「徳様・・・」
「おはちゅ・・・」
おはでチュ~なら新婚さん・・・遊女のお初とうらぶれた徳兵衛はすべてを忘れてい抱き合う。
「とくさま~」
「おはつ~」
「とくさま~」
「・・・もう思い残すことはない・・・お初、達者でな」
・・・と去ろうとする徳兵衛をお初は離さない。
「嫌でございます」
「おはつ・・・」
「もう一人にはなりとうおまへん」
「おはつ・・・」
「とくさま~」
「おはつ~」
「ああ・・・もう・・・ええかげんにしいや」
辛抱しきれぬ万吉であった。
「・・・」
「今生で結ばんれんのやったら・・・来世で夫婦になればよい」
人形のような目を輝かせ万吉は笑む。
人形のような顔色の徳兵衛は目をパチパチ。
人形のような顔立ちのお初はその眼差しをひたと据え・・・。
万吉の手引きで二人は裏木戸から死出の旅路へ・・・。
再び相関図と格闘するちかえもん・・・。
「平家の残党も出てこない・・・赤穂義士も出てこない・・・商人やら遊女やらがわちゃわちゃとしているだけで・・・何でこんなに面白いのや」
人情と人形の交差点でため息をつくちかえもん。
酒席にて・・・西町奉行に袖の下を渡さんとする黒田屋・・・。
「ここに用意しましたのは値千金の朝鮮人参」
しかし・・・箱の中身は不孝糖だった。
「戯言が過ぎるわ」
西町奉行は席を立つ。
「・・・」
万吉がちかえもんの元へと戻る。
「おや・・・風邪治りましたんやな」
「そう言えば・・・ほんまや」
「さすがは・・・朝鮮人参入りの不孝糖や」
「そうか朝鮮人参かと乗ってツッコミチョウセンニンジン~」
「そやで・・・あほぼんとこから拝借してきたんや」
「拝借て・・・盗人猛々しいわ」
「そうそう・・・あほぼんとお初はな・・・」
「お・・・」
「旅に出ました」
「旅?」
「・・・気違のやうになってゐたわいなうとお初・・・もはやとんと覚悟は決めたとあほぼん・・・そやさかいにな・・・この世で添い遂げられぬなら・・・あの世で結ばれなはれと・・・わしが言うてやった」
「え・・・ええええええ」
竹の林を抜けていく徳兵衛とお初の道行・・・。
顔を見合わせああ嬉しと・・・死に行く身をよろこびし・・・あわれさつらさあさましさ・・・。
南無阿弥陀仏・・・南無阿弥陀仏・・・。
ああ・・・来週が待ち遠しいし、いっそこのまま逝ってしまいたい・・・。
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