安土城へゆけ(堺雅人)金柑頭を叩いてみれば逆心謀反の音がする(吉田鋼太郎)
国家が制度であるとすれば階級は不可分の成分である。
戦国時代が下剋上と呼ばれるのは身分制度の存在を前提にしている。
室町幕府では天皇を頂く朝廷と足利将軍の支配する武家が庶民を支配していたわけである。
幕府崩壊によって・・・群雄割拠した戦国大名の時代は終焉に近付き・・・新たなる統一へと向う安土桃山時代。
最初に台頭した織田政権によって今川家、斉藤家、六角家、北畠家、浅井家、朝倉家、三好家、本願寺家、そして武田家と名のある大名たちは滅ぼされていく。
武田家を主家とする真田一族は・・・主家の威信によって・・・信州小県と上州吾妻の支配権を認められ・・・国衆の総代としての立場を維持していた。
本来の足利将軍~守護大名~国衆ではなく、武田家~真田家~国衆という下剋上だったわけである。
武田勝頼の「死」によって真田家が小県や吾妻を支配する根拠は消滅し、立場はその他の国衆と同等になっている。
真田家の家長として真田昌幸は新秩序の支配者である織田信長に庇護を求める。
領民を支配する権利を保障してもらうために臣従するわけである。
独裁者・信長は裁量によって真田昌幸の地位を決する。
その立場は・・・第六天魔王信長の後継者・織田信忠の北信濃支配代行・森長可支配の信濃衆ではなく・・・魔王・信長に支配された朝廷により関東管領に命じられた滝川一益の支配による上野衆である。
つまり・・・真田家は織田家~滝川家~真田家(国衆)の立場にランクダウンしたのである。
信長は既得権益を解体し・・・再配分することにより・・・新たな中央による地方支配を実現しつつあった。
真田家は・・・真田の里の本領(実家のようなもの)を安堵されただけで・・・信濃の支配地域を森長可に、上野の支配地域を滝川一益に譲渡した上で・・・滝川一益の一家来となったのである。
「織田家では実力次第で出世も可能です」
「・・・」
関東管領という雲の上の存在にひれ伏す真田の棟梁なのだった・・・。
で、『真田丸・第4回』(NHK総合20160131PM8~)脚本・三谷幸喜、演出・吉川邦夫を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は第六天魔王・織田信長と真田昌幸の永遠のライバル・徳川家康の二大イラスト描き下ろしでお得でございます。真田父子を中心に澱みなく展開していく戦国絵巻・・・大河ドラマとして見事に構成されていますなあ・・・天晴と言う他ございません。必殺覗き見・立ち聞きの技で「信長による光秀折檻」を「源次郎は見た!」そして・・・「本能寺の変」を予感する真田信繁は・・・「安土城で人質の付き添いしてるから!」・・・歴史的事実の紹介に主要人物を絡める時は・・・このような深謀遠慮が嬉しいですよねえ・・・そして・・・「このままでは何もかも奪われる」と知りつつ自重する真田昌幸の心中・・・ものすごく・・・伝わってきました・・・。
信濃国人衆の中で最初に謀反した武田勝頼の義弟・木曽義昌は織田信忠支配下の河尻秀隆、森長可、毛利長秀と同格の武将として木曽谷周辺の所領を安堵される。信濃の守護大名だった小笠原家は河尻配下の南信濃衆としてツーランクダウン。関東管領として上野国厩橋城に拠点を構える滝川一益は武田(真田)と北条の紛争地域だった一体を織田軍団の威光で完全に掌握する。真田昌幸は上野半国の支配者から滝川配下の武将としてワンランクダウンしたのである。しかも上野衆には北条高広、由良国繁、内藤大和守、長尾顕長、倉賀野淡路守、武蔵衆には成田氏長、上田政朝など旧武田配下、北条配下の名だたる武将が顔を揃えており、その存在感は希薄となっていた。昌幸は織田家への忠誠を示すために嫡男・信幸の同母姉を信長の主城たる安土へと送ることを願い出る。真田家に忠誠を誓ったかっての国人衆たちも・・・あるものは信濃で森長可の配下となり、あるものは三河・遠江に加えて駿河一国の支配者となった徳川家康に臣従する。真田グループの解体は刻一刻と進行していた。天正十年(1582年)五月、徳川家康は駿河拝領の御礼のために旧武田家臣の穴山信君とともに安土城に参上。織田信長は明智光秀に接待を命じる。その際中に毛利征伐中の羽柴秀吉から増援要請があり、信長は光秀に山陰方面への出兵を命じるのだった。近畿管領として丹波衆を支配し、細川藤孝の丹後衆、筒井順慶の大和衆を従える光秀にとって・・・それは屈辱的な指図であり・・・禁断の果実へと誘う・・・謀反の導火線となっていた。時に天正十年六月二日・・・。
武田家殲滅の報せは・・・桜の花綻び川面に霞み立つ季節を越えて主君なき里々に忍びよっていった。すでに徳川と滝川の圧力によって北条家は戦意を喪失し、柴田勝家と森長可に西と南から攻められ、上杉家は降伏寸前、羽柴軍と交戦中の中国地方の覇者・毛利家は存亡の危機に直面している。
残るは九州の覇者である島津家、四国の覇者である長宗我部家、陸奥を掌握しつつある伊達家・・・信長の野望はまさに達成寸前だった。
真田忍びの密偵部隊である山家修験者を指揮する真田源内幸景は近江国堅田の忍び小屋で中国方面の探索を終えた猿の大角から報告を受けていた。
「羽柴軍は因幡国の秀長勢、備前国の宇喜多勢と呼応し、播磨国より、備中、美作、伯耆の国人衆を調略しつつあり・・・四月には冠山城、五月には宮路山城を攻略・・・まもなく高松城も陥落する気配でござる」
「されば・・・毛利も降伏か・・・」
「武田勝頼の天目山での自害の様子は轟き渡っておりまする」
「織田の諜者・・・恐るべしじゃな・・・」
「対話と圧力はいつの世でも常道ですからな・・・」
「毛利はどうなると思う・・・」
「長州に押し込められて・・・島津成敗の先鋒部隊となるしか・・・生き残る道はありますまい」
その時・・・忍び小屋に血の匂いが漂う。
殺気立つ源内と大角の前に血まみれの女が現れた。
「お・・・」
「明智配下の丹波衆・・・城戸十乗坊に忍んでいた木猿様配下の・・・糸と申します」
「うむ・・・存じておるぞ」
「明智様・・・ご謀反・・・京に攻め入りまし・・・」
「・・・何」
しかし・・・くのいち糸はすでにこと切れていた。
大角は死骸を探る。
「確かに・・・木猿の割符でござる」
「追手があるな・・・」
「拙者が引き受けまする・・・源内様は・・・いそぎ・・・河原のものへ・・・」
源内は頷くと忍び小屋の床下へと降りる。
小屋の下には琵琶湖の湖畔への地下通路が通じているのだった。
大角は扉をあけて小屋を出る。
「明智の忍び衆とお見受けした・・・出ませい」
返事の代わりに飛来した苦内(クナイ・・・手裏剣の一種)を修行僧姿の大角は手にした錫杖で払い除け、同時に跳躍して忍び鉄砲を抜き放つ。
そして小屋の裏の林へと姿を消した。
木々の間で幽かな遊環の音が鳴る。
殺到するクナイ・・・。
しかし・・・同時に銃声が響き・・・明智の忍びが打ち倒される・・・。
「真田流・・・二丁拳銃じゃ・・・」
大角は・・・両手に忍び鉄砲を隠しもっている。
一丁は威嚇用の散弾仕込みであり・・・もう一丁は必殺の鉛玉である。
飛距離が短いために接近戦で使用される撃発型火薬銃である。
長篠の敗戦から七年・・・雑賀忍びを招いた真田の里では忍び鉄砲の開発が進んでいる・・・。
京での変事の報せは・・・安土城に滞在中の真田衆にもただちに届いた。
天下統一から戦乱へ・・・時計の針は逆行を開始する。
眠りかけた真田信繁のもののふの血が騒ぎだすのだった。
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