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2016年3月31日 (木)

川獺(岡本玲)ぼっちゃん(伊勢佳世)坊ちゃんの坊ちゃん(左時枝)ニホンカワウソは絶滅種です(高岡早紀)

高岡早紀・・・活躍しているな。

ちかえもん」→「相棒」→「川獺」と余韻だ。

しかし・・・今回は・・・岡本玲と伊勢佳世も貴重だよな。

特に伊勢佳代はニホンカワウソのように・・・うっかりすると見逃すべっぴんさんだからな。

谷間である。

第1回で矢島正雄を生んだ日本放送作家協会とNHKが共催するテレビドラマのオリジナル台本を対象としたコンクール・・・創作テレビドラマ大賞の第39回大賞受賞作だ。

1964年に日本国の天然記念物に指定され、2012年に絶滅種に指定されたニホンカワウソ(日本川獺)をめぐる物語である。

そういう意味ではあまりタイムリーではないけどな。

「おまえ・・・かわうそじゃねえか」

「・・・」

「捕えて見れば昔のともだちか・・・」

「鬼太郎・・・」

ルーツはこのあたりか・・・。

で、『川獺(かわうそ)』(NHK総合20160329PM10~)脚本・山下真和、演出・伊勢田雅也を見た。責任転嫁は人間の潔くない態度の一つである。その延長線上にあるのが断罪だ。つまり・・・何か悪いことが起きた時に・・・自分の責任を痛感せずに・・・他者を裁くのが潔くないわけである。どこか・・・行ったことのない町で「事件」が起きた時・・・「ああ、俺が悪かった」と思える人間は実に潔いと言える。まあ・・・ある意味、バカなわけだが・・・。しかし・・・会ったこともない人間を批判する人間は基本的に無責任である。どこまでが責任でどこまでが無責任なのか・・・判断するのは難しい。まあ・・・自分がダメなことを親の責任にすることは親に対しては有効だが・・・世間では通用しないことも多いので注意が必要である。また無責任な親を責めても虚しい場合があります。

小学校教師の松浦保(若山耀人→堀井新太)は同僚の香山由美(岡本玲)と同棲中である。由美は妊娠中で・・・父親は保である可能性が高いのだが・・・保は煮え切らない態度をとっている。

保は自分が父親としての自覚を持てない原因を・・・疎遠になった父親の態度に還元しようとしている。

保が少年だった頃・・・両親は離婚し・・・保は母親と暮らしていたのだった。

保の父親の須藤明憲(須藤明憲)は保の母親の葬儀にも姿を見せなかった。

保は自分を愛さなかった父親を深く憎んでいるのだった。

両親の離婚の経緯は次のようなものである。

十四年前・・・保が中学生の頃・・・。

すでに・・・1980年代には目撃例の絶えていたニホンカワウソの生存を報告した明憲は時の人となるが・・・生存の捏造が明らかとなり非難の対象となる。

水産加工場を経営していた明憲が工業団地の誘致に反対して天然記念物であるニホンカワウソを利用したというのが世評だった。

マスメディアの押し寄せる中・・・両親は離婚し・・・保と母親は故郷から去ったのである。

その父が・・・心臓病のために危篤となった報せが届く。

父親に愛されなかったことを理由に由美との結婚も・・・父親になることも決断できない保は・・・鬱屈した思いを抱えて故郷へと単身向かうのだった。

待っていたのは入院した父親の代わりに工場を守っている叔母の須藤圭子(高岡早紀)だった。

「彼女・・・連れてこんかったの・・・」

「・・・」

「まだ・・・お父さんのこと・・・拘ってんの」

「・・・」

「甘えん坊じゃねえ・・・」

「なんで・・・親父はカワウソがおるなんて・・・言ったんじゃろ」

「さあねえ・・・当時の漁業長が・・・お兄さんの友達じゃったから・・・訪ねてみればどうじゃろう」

明憲は六十前である。

漁業長は健在だった。

保が名乗るといきなり土下座する漁業長・・・。

「まっことすまんかったぜよ」

「漁業長さんは・・・巻き込まれただけだったのでは・・・」

「いや・・・工業団地の件で・・・川獺を朝鮮半島から輸入したのは・・・ワシじゃき・・・」

「どうして・・・父は・・・協力したんですか」

「徹のことがあったからかも・・・しれんなあ・・・」

「徹・・・誰ですか?」

「昔のことねや・・・」

それ以上は語らない漁業長だった。

水産工場に戻った保は・・・叔母の圭子に尋ねる。

「徹という人を知ってる?」

「ああ・・・お兄さんの同級生だった人や・・・町岡寿子さんという須藤水産の従業員だった人の息子さんで・・・海で溺れて亡くなったんよ」

町岡寿子(伊勢佳世→左時枝)はその後、退職して別の街に移っていた。

保は・・・寿子を訪ねた。

「若い頃は伊勢佳世で年をとったら左時枝って言うことがあるんですか」

「昔の話ですよ・・・」

寿子はすべてを語る。

伊勢佳世は1981年生まれ、神奈川出身で劇団俳優座養成所から劇団「イキウメ」に参加。ドラマ「チーム・バチスタ~アリアドネの弾丸・第4話」やドラマ「癒し屋キリコの約束・Episode8」などで観測できる女優である。

「私が三十五才で・・・結構、美人だった頃・・・息子の徹と坊ちゃん・・・つまり坊ちゃんの坊ちゃんのお父さんである明憲坊ちゃんは・・・仲良しさんだったのです。実は・・・私の夫は・・・その頃・・・すでに他界していたのですが・・・ニホンカワウソマニアだったのです」

「え・・・」

「父親の影響で・・・徹もニホンカワウソに特別な拘りを持つようになりました」

「・・・はあ」

「ある日・・・徹と明憲坊ちゃんが磯釣りをしていた時・・・かわうそが現れたのです」

「え」

「徹は・・・大喜びで学校に報告しました・・・そのために・・・役人が調査にやってきました・・・それが・・・二人の仲に亀裂を生じさせたのです」

「どうして・・・」

「カワウソは時々・・・漁師の網にかかったりして・・・存在していることはみんな知っていたのですよ・・・それが公式にいるとなると・・・保護だなんだと・・・漁業に影響が出ると土地の人間は惧れていたのです・・・だから・・・旦那様・・・明憲坊ちゃんのお父さん・・・あなたのお爺さんは・・・明憲坊ちゃんに口止めしたのです」

「見なかったと・・・言えと」

「はい・・・私も徹に口止めしました・・・ところが・・・徹は父親譲りのカワウソマニアだったので・・・頑固に譲らなかったんです・・・明憲坊ちゃんは見なかったと言ったのに・・・徹は見たと言ったのです」

「・・・」

「それから・・・二人は一緒に遊ばなくなりました・・・そして・・・徹は一人で磯に行き・・・溺れて・・・」

「亡くなったのですか・・・」

「はい・・・私は・・・明憲坊ちゃんに・・・あなたのせいではないといいました・・・しかし・・・明憲坊ちゃんは・・・自分の嘘が・・・徹を殺したように・・・感じてしまったのかもしれません」

「・・・なんて・・・愚かな・・・」

「そうですね・・・明憲坊ちゃんは・・・そのために・・・鬱屈して・・・あの時・・・あんな嘘をついてしまったのでしょう」

「本当にかわうそを見たから・・・嘘ではないと・・・そんなことで・・・僕は父を憎むことに」

「つまらないことにこだわったら・・・人生を台無しにするってことですよ」

「そうですね・・・ニホンカワウソが絶滅していようがいまいが・・・人間は生きていける」

「だから・・・坊ちゃんの坊ちゃんも・・・つまらない過去に拘らず・・・今を生きてください」

「はい」

香山由美がやってきた。

「なかなか帰ってこないから・・・」

「親父・・・なかなか・・・死なないんだよ」

「どうするの」

「帰る・・・親父が生きていようがいまいが・・・僕は生きていけるから」

「まあ・・・」

「帰って・・・結婚のことを相談しよう・・・君も未婚の母になるのは嫌だろう」

「ええ・・・でも父親がいようがいまいが・・・子供は生むけどね」

「ひでぶ」

海辺ではかわうそが嘯いた。

「人間に見えようが見えないが・・・かわうそはいるんだけどね」

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2016年3月30日 (水)

悪党たちは千里を走る~二十年目ですが何か?(黒川芽以)

とある記録によれば・・・黒川芽以がブラウン管に初めて登場したのは「ウルトラマンティガ・第17話」(1996年)だと言う。もちろん・・・その三年前に「揖保乃糸」のCMで見かけたという人もいる。

とにかく・・・初ドラマからなんだかんだで・・・20年である。

八才の小学生が二十八才の大人の女になる歳月が流れ去ったのだった。

その間に大河ドラマで少女時代の淀殿になったり、「私を旅館に連れてって」で義母を憎む義理の娘になったり、戸川はるかかなたになったり、銭形泪になったり、風のハルカの妹のアスカになったり、愛の迷宮で夏木ゆりあになったり、嬢王のライバルになったり、横道世之介の元恋人になったり、木工用ボンドを食べていた清美になったりして・・・いろいろあったわけである。

2016年の冬ドラマは・・・黄金の七人とは別に・・・朝ドラマには宮崎あおいと波瑠がいて・・・深夜には二十年目の黒川芽以が毎週いたのだった。

ドラマの中では・・・「おばさんになったな」と言われる黒川芽以だが・・・。

誰がどう見たって「いい女」になっているわけである。

ブラウン管の中で女優・黒川芽以を監禁していれば犯罪者にはならないのになあ・・・。

で、『悪党たちは千里を走る・第1~最終回(全10話)』(TBSテレビ201601202353~)原作・貫井徳郎、脚本・渡邉真子、演出・岡本伸吾(他)を見た。イエローな感じのドラマ制作会社「テレマックス」のディレクター・高杉篤郎(ムロツヨシ)は自称・天才で傲慢な芸術家きどりの演出家だった。学生時代から・・・自主制作で「作品」を作り続けている。三十五才になったある日・・・上司のチーフ・プロデューサー・根津一久(光石研)と些細なことから口論となり・・・鉄拳制裁をしたあげくに退職してしまう。根津は高杉に・・・制作現場で生じた負債一千万円を請求するのだった。無職の上に借金を背負った高杉を部下でアシスタント・ディレクターの砂清水誠ではなくてグリーンな感じの園部優斗(山崎育三郎)は案じるのだった。二人は冗談で・・・元女優・渋井亜也子(紺野まひる)の息子で子役の巧(大西利空)の愛犬を誘拐し、巧の父親で携帯ゲーム会社などを経営する「渋井グループ」の社長・隆宏(堀部圭亮)から身代金を奪う計画を立案する。

そこへ・・・黒いコートを脱ぐとレッドな感じの謎の女・三上菜摘子(黒川芽以)が現れるのであった。

菜摘子は酔った高杉と一夜を共にしたと言い・・・高杉のマンションの部屋の鍵まで持っている。

「いいじゃない・・・犬を誘拐して・・・お金を儲ければ・・・」

「いきなり・・・何を言うんだ」

「お金は裏切らないわよ・・・あなたの上司と違って・・・」

「・・・」

その時・・・高杉の携帯電話に着信があり・・・「巧を誘拐した」とジョン・レノンを名乗る謎の男からメッセージが送られてくる。

密室で拘束された巧の動画が添付され・・・「これから・・・あなたには誘拐犯になってもらう・・・私とあなたの関係を警察に通報したら・・・巧の命は保証しない・・・身代金は一億円」と脅迫される高杉・・・。

ジョン・レノンというネーミングが・・・もうアレなのだが・・・この世には汚してはいけない名というものがあるからだ。

まあ・・・有名税として我慢するわけである。

インパクトはあるからな・・・。

こうして・・・ジョン・レノンを名乗る男に支配され・・・疑似誘拐犯となる・・・黄色と緑と赤のトリオなのだった。

詐欺師のように悪知恵の働く菜摘子・・・。

借金返済に迫られ出来心で身代金を五億円と言うが心の底に良心を持つ高杉・・・。

高杉の昔の恋人・TBSアナウンサーの林みなほを妻に持つ園部・・・。

それぞれが・・・お互いを疑いながら・・・犯罪行為を開始する三人だった。

一方・・・警視庁の敏腕刑事である陰木光(中村靖日)と天王寺雄吾(夙川アトム)は鋭すぎる捜査能力で・・・高杉に接近するのだった。

やがて・・・限りなく怪しい警視庁捜査一課特殊班捜査係の黒田刑事(吹越満)が捜査に参加し・・・トリオは追いつめられていく。

まあ・・・上司役の光石研、刑事役の中村靖日と吹越満・・・誰がジョン・レノンを名乗る男でもおかしくないキャスティングなのである。

それを言うなら父親役の堀部圭亮もなあ・・・。

とにかく・・・巧の銀行口座を利用して・・・父親に二億円を振り込ませ・・・素晴らしいインターネットの世界でブランド品を購入し・・・菜摘子の用意した架空名義で借りた部屋に配送させ・・・商品を質屋で換金するという・・・短期間で実行するにはいろいろとアレな方法で現金一億二千万円を入手するトリオなのだった。

しかし・・・警察の捜査の手は迫り・・・菜摘子は逮捕・・・園部は逃走・・・ついには高杉が一人で・・・ジョン・レノンを名乗る男に対峙することになる。

そこで明らかとなったのは・・・学生時代に高杉が自主製作した映画「青春アレルギー」(2000年)が大きく関与していたということだった。

「映画を見て元気が出ました・・・頑張ろうと思います」と上映会でアンケートに書いた女子中学生・真嶋美緒(飯塚理珠)・・・そして・・・アンケート用紙を丸めてゴミ箱に捨てた高級腕時計の男・・・。

16年前に高杉作品を見た二人が・・・事件に絡んでいたのである。

考えようによっては・・・事件そのものが・・・高杉監督を激励するための・・・メッセージだったと言える結末になっているわけである

「お前は天才じゃない・・・単なるクズだ」とディスる男。

「あなたは・・・やれば・・・出来る人なんじゃないかな」とリスペクトする女。

二人のファンが・・・高杉を追い込んでいく話なのである。

「もっと面白い作品を作れ」と・・・。

めでたく・・・事件は犯人不詳のまま、決着し・・・高杉は映画「青春アレルギー2016~再会~」を完成するのだった。

作品の狙いと深夜のチープな体制が少し・・・噛みあわない部分もあるのだが・・・セクシーで・・・裏がありそうで・・・とても純情可憐な・・・二十年目の黒川芽以を毎週見れたので特に文句はないのだった。

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2016年3月29日 (火)

2016年春ドラマを待ちながら(キッド)

まだ三月なわけだが・・・そして・・・ひょっとすると冬ドラマのレビューをする可能性もまだ残っているのだが・・・近所の桜の花が咲き始めて明日風が吹いたら春になりそうな気がするわけである。

四月になると恒例のアニソン三昧があったりするので少しソワソワする。

一方で冬ドラマの黄金の七人があまりにも圧倒的すぎて・・・春ドラマに対する情熱がまだ・・・湧きあがらないのである。

だから・・・少し早目に待ってみる覚悟である。

デート現場の下見をすることによってデート気分を盛り上げるみたいな・・・。

頭のおかしな人がおかしなことをする季節である。

とんでもない目にあわないためには・・・人を見たら泥棒と思う覚悟が必要なのだ。

脈絡ないだろう・・・。

もちろん・・・冬ドラマほどではないにしても・・・春ドラマだってそこそこ面白いはずである。

言い方っ。

まあ・・・なんだ・・・いつも殺す気満々のラインナップでは身が持たないしね。

春はのんびりと・・・ぼんやりと・・・さわやかに・・・ときめきたいものです。

で、(月)は「ラヴソング」である。脚本家が東京芸大出身で第26回フジテレビヤングシナリオ大賞の受賞者だ・・・ということはほぼ新人である。受賞作は「隣のレジの梅木さん」で・・・有村架純を酷使したわけである。誰もが酷使したい有村架純を酷使しているということで・・・そこそこ実力があると思われる。まあ・・・福山雅治が酷使される分には問題ないが・・・夏帆は酷使しないでもらいたい。冬ドラマに1人だけ参加しなかった海街四姉妹三女だからな。BSで「わたしのウチには、なんにもない。」に主演していたけどな。ヒロインは二十歳のシンガーソングライター藤原さくらでこれで女優デビューである。担当は「電車男」や「わたしたちの教科書」さらには「ガリレオ」のプロデューサーである。さあ・・・この冒険は吉と出るのか凶と出るのか・・・少し興味がわいてきた・・・。

(火)は「重版出来!」だ・・・黒木華とオダギリジョーの顔合せ・・・梅・・・まさか・・・第一次上田合戦で・・・戦死しちゃうのか・・・と言わざるを得ない。脚本は「空飛ぶ広報室」やあの「掟上今日子の備忘録」の野木亜紀子だ。これも面白いと・・・もう手堅い作家と言わざるを得ない。裏の相武紗季が登場する「僕のヤバイ妻」には梅の義理の姉(木村佳乃)も登場する。夏まで出番がないということかっ。

(水)は「世界一難しい恋」でこじらせ続ける脚本家・金子茂樹がこのタイトルである。大野智、波瑠をこじらしてしまうのか・・・。「毒島ゆり子のせきらら日記」は深夜だけに違う方向にこじらせるらしい・・・。前田敦子と新井浩文と渡辺大知の三角関係か・・・。なんだかなあ。水曜日は・・・また谷間候補なんだな。

(木)は「鼠、江戸を疾る2」・・・第一シリーズはゲストが抜群に好みのタイプ揃いだった・・・その記憶しかないぞ・・・脚本は「精霊の守り人」の大森寿美男なんだけどな。だが・・・「グッドパートナー 無敵の弁護士」の脚本は福田靖である。竹野内豊主演なのでじいや的に避けて通れないのだった。いや・・・「早子先生、結婚するって本当ですか?」だって松下奈緒と貫地谷しほりでおろそかにはできないのだが・・・まあ・・・いいかと思うわけである。

(金)は中谷美紀で「私結婚できないんじゃなくてしないんです」・・・石田ゆり子で「コントレール ~罪と恋~」・・・栗山千明で「不機嫌な果実」である。もう・・・すでに胸やけしている・・・テレ東・深夜の黒島結菜の「ナイトヒーローNAOTO」は発情するしないにかかわらず・・・主演がNAOTOだからな・・・。

(土)は満島ひかりのトットてれび」と土屋太鳳の「お迎えデス。」・・・基本的には土9の方がそそるわけだが・・・小泉今日子と石野真子どっちをとるのかという問題もあるな・・・ないぞ。脚本家的に中園ミホと尾崎将也だとどうなんだ・・・まあ・・・どっちもどっちとしか・・・言いようが・・・。

(日)は松本潤の「99.9 ―刑事専門弁護士」で二人目の弁護士が登場するわけだが・・・野島伸司は芦田愛菜とシャーロット・ケイト・フォックスで「OUR HOUSE」なのだが・・・「ゆとりですがなにか」は脚本・宮藤官九郎である。当然・・・レビューしたいところだが・・・今年の日曜日は長澤まさみの「真田丸」一択なのである。どこか・・・谷間捜すしかないよね・・・きっとあるよね・・・。

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2016年3月28日 (月)

覚悟しておいてあなたの弱味をにぎったら虜にしてみせるから(長澤まさみ)

女が基本的に生むための道具であった時代・・・。

それでも男は時に女に溺れ・・・寵愛された女は権力を握る。

腹違いの兄弟たちは時に骨肉の争いを繰り広げる。

もちろん・・・同母兄弟であっても殺し合うのが戦国時代である。

それでも・・・時に兄弟たちは力を合わせ苦難を乗り切ることもある。

とにかく・・・実力者は子供を作って作って作りまくってなんぼなのである。

男女平等を謳う健全な社会からは・・・邪な・・・一夫多妻の世界。

どんなに・・・善良な男を描いても・・・複数の妻がいるというだけで・・・うしろゆびを差されるわけである。

「結局、女ったらしかよ」・・・なのである。

脚本家は・・・チャレンジしているようで・・実は逃げ腰なのかもしれない。

愛妻が死んだら後妻を迎えるのは・・・そんなに悪くないでしょうというフラグが立った今回。

なにしろ・・・主人公の最初の娘を産んだ後・・・どうなったかよくわからない・・・女がターゲットである。

どんな・・・フィクションに仕上げても・・・構わないわけである。

まあ・・・主人公が二人の女と同衾したりするのは・・・夢のまた夢なのである。

両手に花でいいじゃないかっ。

そういうのがお望みなのかっ。

男のロマンじゃないかっ。

で、『真田丸・第12回』(NHK総合20160327PM8~)脚本・三谷幸喜、演出・田中正を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は越後国の戦国大名・上杉景勝の軍師ともいうべき直江兼続の描き下ろしイラスト大公開でお得でございます。同じ兼続でも・・・「天地人」の兼続とは一部お茶の間受けが天と地ほど違いますな・・・まあ・・・しかし・・・大衆受けのした天地人兼続もきっと別のお茶の間ではそれなりに受けていたわけです・・・このあたりが・・・万人受けの難しさでございますねえ。とにかく・・・景勝兼続主従と真田信繁の三角関係だけでじっくり一時間・・・たまりませんねえ。景勝が信繫に萌え、兼続が景勝に萌え、信繫が兼続に萌えるという格別の薄い本展開に・・・一部お茶の間うっとりなのでございますな。一方で信繫の青春を彩る二人の女性の明暗を描きつつ・・・波乱を感じさせる第一次上田合戦の前フリ終了・・・。史実にぴったりと寄り添いながら・・・自由きままにフィクションをぶちかます・・・まさに天晴な構成でございました。一週遅れで始っているので四月にずれ込む次週はまさに・・・冬のクライマックスの模様でございます。どの程度・・・戦萌えがあるのか・・・もう楽しみで楽しみで仕方ございませんっ。とにかく・・・画伯のレビューの行数を数えなくてすむことが何よりの本年度でございまする。しかし、あくまでマイペースでお願い申しあげます。

Sanada012天正十二年(1584年)、上杉景勝は羽柴秀吉に臣従し、甥(妹の夫の子)上杉義真を人質として差し出した。秀吉はすでに大坂城の建設に着手しており、上杉家は軒猿(忍び)を上方に送り込んでいる。小牧長久手などの実戦に勝利を重ねた織田・徳川連合軍だったが・・・織田信雄が秀吉と手打ちしたために・・・徳川家康は戦う理由を失い・・・自国に撤退する。結果として羽柴秀吉の織田信長の後継者としての立場は確立し・・・家康は守勢となる。同盟者・北条氏との交渉から臣従しながらも沼田割譲に応じない真田昌幸の暗殺も失敗し・・・家康の真田氏に対する態度は合戦へと傾きだす。十一月、秀吉は従三位権大納言に叙任された。十二月、家康は次男を秀吉に人質として差し出す。元服した家康次男は羽柴秀康と名乗った。この時、家康三男の秀忠は六歳である。天正十三年(1585年)三月、秀吉は正二位内大臣に叙任された。秀吉は紀州を征伐し、四国攻めを開始する。秀吉の四国遠征により・・・家康は信州真田領の攻略を決意。真田昌幸は上杉氏との同盟を目論み、信繫を人質として差し出す。家康は平岩親吉に甲府城の築城を命じ、甲斐国に進出。七月、遠州・浜松城に戻った家康は鳥居元忠、大久保忠世、平岩親吉らに上田城攻めを命ずる。徳川軍は深志、諏訪、佐久の三方向から真田氏に圧力を加える。真田昌幸は上田城を主城とし、東の沼田城に矢沢頼綱、南の矢沢城に矢沢頼康(頼幸)、北の砥石城に真田信幸、南の丸子城に臣従した丸子氏を配置し、海津城の上杉氏の援軍を頼む。海津城には信繫が上杉勢の一員として配置された。決戦前夜である・・・。

上田城には初音が里帰りしていた。

真田昌幸が若年の頃、下人に生ませた子供であり、名人忍びに売られ暗殺者として名をはせたくのいちであった。影の噂では信玄、謙信、信長を暗殺したと言う。

昌幸は初音を自由にさせていた。

初音は昌幸の娘ではあるが・・・すでに伝説の忍びである。

どこで何をしているか・・・昌幸にさえ窺い知れない。

しかし・・・初音が自分に子としての思いを抱いていることは察している。

初音はただ・・・父親という存在を面白がって観察しているのだった。

昌幸は初音が生まれ落ちた時から一度もその姿を知らない。

ただし・・・気配を感じたことは何度かあった。

昌幸の父である真田幸隆から伝えられた忍びの印が結ばれているのがその証である。

自分の父に売られた自分の娘の存在をどこかおかしく思う昌幸だった。

「まるで・・・仏に見られているようじゃ」

その気配が絶えたのは夏も盛りの閏八月だった。

上田城の忍び部屋に・・・初音の弟にあたり真田一族の影の長男である源太郎幸村が現れた。

「いよいよ・・・徳川勢が動き始めました」

「そうか・・・人数はいかほどか・・・」

「三河、遠江、駿河のものが四千ほど、甲斐のものが二千、信濃のものが千というところでしょうか・・・」

「あわせて・・・七千か・・・真田もなめられたものよのう」

「尾張では十倍の敵を打ち破った自信の顕れでございましょう」

「ふふふ・・・山の戦の恐ろしさを味わせてやろうぞ・・・」

「すでに弟と妹が佐久の小諸城に忍んでおります」

「佐助と・・・くのいちのお嶺か・・・」

「服部半蔵の手のものが出てくると聞き・・・術くらべをしようと言うのでしょう」

「半蔵自身は来ぬか・・・」

「家康も・・・身辺警護をぬかりなくするでしょうからな・・・」

「ふふふ・・・家康を初音が仕留めてくれれば・・・苦労はいらぬのじゃがなあ・・・」

「・・・姉上が・・・」

「まあ・・・あれは・・・もう天意で動いておるようじゃ・・・」

「天意でございますか・・・」

「そうじゃ・・・我々・・・下界のものには・・・知るよしもないわ」

初音は信州にいくつかある虚空蔵山の一つに籠り・・・天知通(精神感応)を使っていた。

山の神気と一体になり・・・千里眼・多聞耳(透視・読心)を得るのである。

その耳は・・・小諸城に潜む弟妹の声を捉えている。

「お峰・・・」

「なんや・・・佐助・・・」

二人は双子の忍びとくのいちである。

真田佐助は忍び装束であるが・・・くのいちであるお峰は男装の修験者の装束を身にまとっている。

お峰は男としての名を霧隠才蔵と言った。

「先ほど到着した奴らは・・・伊賀者とみたで」

「ほほう・・・服部半蔵かや」

「いいや・・・半蔵はまだ来ぬだろう。家康の周囲に結界を張っておるにちがいない」

「なんじゃ・・・つまらぬの・・・たぶらかすにしても・・・少しは歯ごたえがないとのう」

「おそらく・・・半蔵の影の一人じゃろう・・・十人ほどの忍びを率いておる」

「上田のお城に向かって斥候(うかみ)をするつもりじゃろうな」

「この間はお前にまかせたんじゃ・・・今度はわしの番じゃ」

「そんなら・・・オレは下人たちをひきうけた」

二人は小諸城の本丸の影から忍び出た。

修行を積んだ二人は穏形(かくれみの)の術を使い・・・敵兵に満ちた城内を苦も無く通りすぎる。

半蔵の数知れぬ影武者の一人、服部三蔵は下忍を率いて小諸城の北にある渓谷に侵入していた。

樹上を飛び、地を蹴って、伊賀の忍びの陣で山中を進んでいく。

陣形の中央に位置する三蔵は殺気を感じて木陰に身をひそめた。

周囲は山蔭にあり・・・昼なお暗い森の中である。

「気」を使い・・・周囲を探る三蔵は・・・下人たちの気配がないことに驚く。

「あっははは・・・・」

「・・・」

森の中に響く笑い声に三蔵は応じず・・・木陰から・・・木陰へと身を移す。

「下忍どもは・・・迷子になっちまっただよ」

「・・・」

「もう・・・半刻も前から・・・お前のまわりを飛んでたのはおいらさ・・・」

「・・・」

「それ」

樹上を猿のような影が飛ぶ。

思わず手裏剣を構えた三蔵は撃つのを思いとどまる。

「そりゃ」

反対側の樹上を影が飛ぶ。

次には背後に影が飛ぶ。

さらに気配は前後左右に同時に現れる。

「分身の術か・・・」

「そろそろ、いくぞ・・・おりゃあ」

四方八方から手裏剣が飛来する。

三蔵は身をかわし・・・伊賀十字撃ちで手裏剣を投ずる。

しかし・・・手応えはない。

三蔵は飛んだ。

その周囲を無数の佐助が飛翔する。

「見たか・・・猿飛の術」

三蔵は忍び刀を抜き、合打ちを狙う。

しかし、刀が空を斬ると同時に三蔵は背後から首を斬られていた。

一瞬で佐助は三蔵の前方から後方に飛んだのである。

その頃・・・お峰の霧にまかれた下忍たちは・・・次々と谷底に飛び込んでいた。

「他愛無いのう」

「赤子の手をひねるようじゃった」

二人の真田忍びが・・・小諸城にじゃれあいながら戻って行く姿を覗きながら初音は笑みを浮かべた。

「小童ども・・・やるもんじゃのう・・・」

恐るべき真田の忍びが待ち受ける信州上田城に・・・憐れな徳川勢は進軍を開始する。

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2016年3月27日 (日)

傷だらけの女用心棒(綾瀬はるか)図書室の囚人(林遣都)やくそう(東出昌大)おばば(高島礼子)天ノ神ノ子(藤原竜也)はじめての人殺し(清原果耶)

・・・谷間である。

春の谷間に・・・四週連続で第一部をぶつけてくるとは・・・なんだろう・・・大人の戦略なのか。

巷の噂によれば・・・全22話の予定だと言う。

来年が全9話。再来年が全9話。

4+9+9=22・・・ということなんだな。

まあ・・・それほど残念な人はいないかもしれないが・・・寿命が尽きたらどうするつもりだ。

「ドラゴンクエスト」的RPGの世界では・・・冒険が進むと世界そのものが広がって行くのがお約束である。

ヒロインのおいたちは・・・すでに・・・北のカンバル王国にルーツがあるので・・・現在の舞台となっている南の新ヨゴ帝国と二つの国家の存在が明らかになっている。

とにかく・・・序盤なので・・・すごくせまい地域をウロウロしているわけである。

カンバル王がいるので王国なのであり、帝がいたら帝国なのであるが・・・新ヨゴが王国なのか・・・皇国なのか・・・よくわからない。

新がついているので旧ヨゴ国もあるわけである。

古い方は南にあるらしい。

表の世界と裏の世界があるのもお約束である。

光と影・・・現世と死後の世界・・・物質と精神・・・ゲートの向こう側・・・様々な呼び名があるだけである。

まあ・・・ある意味・・・ありふれた世界へ・・・ようこそ。

で、『精霊の守り人・第2回』(NHK総合20160326PM9~)原作・上橋菜穂子、脚本・大森寿美男、演出・片岡敬司を見た。不可視の存在というものを描くのは不可能なのだが・・・あえて描くわけである。それでは不可視じゃないんじゃないかと・・・子供のようなことを言う人は子供なのである。精霊という言葉は・・・精神と霊魂が合体しているわけだが・・・そこから一歩、妖精の方向に進んでいるニュアンスがある。そこからさらに進むと妖怪になり、化け物とか怪獣へと進み続けたりするわけである。それらの総称は・・・未確認生物ということになるだろう。目に見えないが確かに存在するものは・・・神・・・でもあるわけだが・・・この世には特別な人間がいて・・・私には神が見えると言い出すわけである。普通は頭がおかしなことになっているわけだが・・・ファンタジーの世界では崇められたり、畏れられたりするので注意が必要なのだ。

Map2バルサの初めての殺人

カンバル王国の王位簒奪の陰謀に巻き込まれ、孤児となったバルサ(横溝菜帆→清原果耶→綾瀬はるか)は亡き父の親友で最強の短槍使いと呼ばれるジグロ(吉川晃司)と諸国を放浪する。

現在、三十歳となっているバルサは・・・二十四年前、六歳の時に放浪を開始、ジグロを師として短槍術を学び、十七年前の十三歳で用心棒デビューを果たす。

すでに・・・達人の域に達しているバルサはそのへんのチンピラは赤子あつかいである。旅商人の護衛役を引き受けたジグロとバルサは盗賊の襲撃に遭遇する。殺さなければ殺される修羅場で・・・バルサは初めて敵を殺し・・・大人になるのである。

この世界では人を殺してはじめて大人になれるのだ。

すべては生き続けるためである。

誇り高き帝の狩人たち

時は流れ・・・運命の導くままに・・・新ヨゴ皇国の皇子チャグム(小林颯)の用心棒となったバルサ。

魔物に憑依されたチャグムは父である帝(藤原竜也)に浄められる存在となった。浄めという名の暗殺を阻止するために・・・チャグムの母である二ノ妃(木村文乃)は五億円でバルサを雇用し、バルサとチャグムを王宮から脱出させる。

王都・光扇京の下町で旅の支度を整えた二人は城外にでるとまもなく・・・帝の放った追手・・・狩人と呼ばれる親衛隊に襲撃される。

チャグムを逃走させ、森の中で狩人を迎え撃つバルサ。

しかし、多勢に無勢のためにバルサは深手を負ってしまう。

王都の南から東に旋回し、青弓川の浅瀬を越えようとした二人を・・・最強の狩人であるジン(松田悟志)が襲う。

「何度も言うようだが・・・剣では短槍には勝てないよ・・・長い方が勝つのさ」

「ふふふ・・・その傷では・・・実力の半分も発揮できまい・・・我らは帝の影・・・神ノ子である帝の意志は絶対なのだ・・・大人しく天罰を受けよ」

「人殺しは人殺しさ・・・へ理屈こねてんじゃねえよ」

「無礼者」

「私は神と名乗る人間など信じない」

しかし・・・大量の出血により・・・動きの鈍るバルサは窮地に立つ。

その時・・・チャグムに憑依した魔物は川の水を操作するスーパー・ナチュラル・パワーを発揮するのだった。

「なんじゃ・・・これは」

ジンは突然、巻き起こった水流パンチでノックアウトされ・・・下流に流されていくのだった。

「さあ・・・今のうちに・・・川を渡るんだ」

「でも・・・」

「生きたいと思うのなら・・・一歩でも前へ・・・進め」

しかし・・・岸を渡ったところで力尽きるバルサだった。

「しっかりせんか・・・」

「この先の・・・北の丘に・・・タンダが・・・」

「タンダ・・・それは人間なのか・・・」

だが・・・バルサは意識を失っていた。

「役に立たぬな・・・」

仕方なく、チャグムは一人で前進した。

薬草師タンダの救援

粗末な小屋に・・・立ちこめる薬草の香り。

そこにいるのは医者坊主ではなくて・・・長身の若者だった。

「そなたが・・・タンダか」

「坊やは・・・誰だい」

「坊やではないっ」

チャグムの案内で意識不明のバルサを救助する薬草師タンダ(東出昌大)・・・。

「こりゃ・・・ひどくやられたな」

「バルサは死ぬのか」

「いえ・・・バルサは昔から何度も瀕死の重傷から復活しています・・・傷を縫合してヤクーのやくそうを塗って一晩眠れば・・・元通りです」

「すごい・・・回復力であるな・・・」

「はい・・・人間離れしております」

「お前は・・・ヤクーのものか」

「いえ・・・母の母がヤクーという混血種です」

「ヤクーは未開の土民というが・・・汚いものの普通の人のようであるな」

「まあ・・・アメリカ大陸のインディアン、日本の縄文人のようなものなので」

「先住民などというこじゃれた言い方もあるが・・・新ヨゴの民は特に融和政策などとっておらぬだろう」

「まあ・・・そういうのはもう少し民主主義が発達してからですよね」

二人が雑談している間に復活するバルサだった。

「まるでトカゲなみの生命力じゃの」

「ゴキブリにも勝るとも劣らないかと」

「なんだって」

青弓川の上流

ヤクーの呪術師・トロガイ(高島礼子)はサグ(人の世)とナユグ(精霊の世)の交わる場所を探索していた。

そこへ・・・星読博士・シュガ(林遣都)がやってくる。

「大丈夫ですか」

「邪魔をするでない」

「入水自殺ですか」

「水の精霊と交感しておったのじゃ・・・」

「マジですか・・・」

「お前・・・星ノ宮の役人か・・・」

「駆け出しの星読博士で・・・シュガと申す者・・・」

「天気予報官が・・・何のようじゃ・・・」

「ひでぶ・・・ヤクーに伝わる伝承について教えていただきたい」

「すべて暗唱するのに一年はかかるぞ・・・」

「水の魔物について・・・手短に・・・」

「お主・・・なかなか可愛い顔をしておるの・・・」

シュガはトロガイにそれなりの奉仕をした!

「お主・・・ついているな」

「それなりに・・・」

「見よ」

「こ・・・これはグロではないですか」

そこには両断された子供の死骸が腐乱して横たわっていた。

「お前たち・・・南から来た野蛮人たちは知らぬだろうが・・・水の魔物とはこの世の大気を支配する精霊様のことじゃ・・・」

「水の神ですか・・・」

「そうじゃ・・・ニュンガ・ロ・イムという精霊様じゃ・・・」

「そうなんですか」

「お主らの伝承では始祖のトルガルが水の魔物を倒したなどという捏造がなされておるのじゃ」

「知らなかった・・・」

「ニュンガ・ロ・イムは恵の雨をもたらしてくれる・・・大切な存在じゃ」

「すごい・・・今、干ばつの相が出ているのと・・・関係があるのですか」

「今は・・・百年に一度のニュンガ・ロ・イムの繁殖期なのじゃ・・・」

「繁殖期・・・」

「ニュンガ・ロ・イムは・・・精霊の種を人間に宿し・・・世代交代する」

「えええええ」

「しかし・・・精霊界にも多様な生態系があってな・・・」

「他にも精霊が・・・」

「そうじゃ・・・土の精霊ラルンガは・・・ニュンガ・ロ・イムの卵が大好物なのじゃ・・・」

「すると・・・この子は・・・」

「水の精霊の種を宿し・・・土の精霊に引き裂かれて・・・中身を食われてしまったのじゃよ」

「うえっ・・・」

そこへ・・・狩人が現れた!

「ふふふ・・・妃に入れ知恵したおかげで・・・帝が癇癪をおこしたか・・・」

「え・・・」

狩人はトロガイを殺害しようとするが・・・変わり身の術に謀られ痺れ薬で行動不能となる。

「命は助けてやる・・・ちょうどいい・・・シュガとやら・・・お前が連れ帰ってやるがいい」

「ええ~・・・この人・・・重そうだなあ・・・」

語り部の少女

チャグムの身に起きた謎を探るためにタンダの案内でバルサは・・・王都の東北に位置するアイヌの民ではなくてヤクー族の集落・ヤシロ村にやってくる。

タンダはヤシロ村の村長のノウヤ(螢雪次朗)とは顔馴染みである。

「おや・・・こちらは・・・」

「僕の初恋の人です・・・今は子連れの旅芸人です」

「なんと・・・逃がした魚は大きかったべさ」

「したっけえ」

「村の語り部はまだ若いけんど・・・すぐに使用可能になるだんべ」

「語り部さんに・・・水の精霊の話・・・してもらえんか」

「ああ・・・おじきの話か・・・あれは悲しい話だあ」

村長に呼ばれて語り部のニナ(石井萌々果)がやってきた。

「それでは・・・お願いします」

「これはおばばから聞いた話だば。ある時、村の童さ、水の神様から水の神様の卵さ植えつけられったんだわ。童は卵抱いて孵化そうとしたんだどもな・・・悪い土の神様が来てよ・・・卵ごと食べられちまったんだあ・・・可哀想に童の身体さ・・・真っ二つだんだと・・・」

「グロかよっ」

「我が真っ二つになるのか・・・嫌である」

思わず走り出すチャグムである。

「忌まわしい・・・何が水の精霊じゃ・・・おかげで都を追われ・・・その上、土の精霊に食われるだと・・・ふんだりけったりではないか」

バルサはチャグムをなだめる。

「落ちつけ・・・私が命にかえてもお前を守る」

「化け物を退治した経験は?」

「それはありません」

「ダメじゃないか!」

帝と謎の水晶玉

王宮に報告に戻る「狩人」の隊長モン(神尾佑)と達人ジン・・・。

「すると・・・チャグムはまだ浄化されておらぬのか・・・」

帝は謎の水晶玉をモンに突きつける。

「お許しを・・・」

「女用心棒一人始末できぬのか」

「僭越ながら・・・その者に負けたわけではございません」

「なんじゃと・・・」

「その・・・チャグム様にとりついた魔物が・・・」

「黙れ・・・天罰を下すぞ・・・」

「・・・」

「良いか・・・魔物などはおらぬ・・・チャグムをただ浄化せよと申したのだ」

「面目ございません・・・」

そこへ・・・シュガが到着する。

「ご無礼つかまつります」

聖導師(平幹二朗)は驚く。

「お前はまだ帝に拝する身分ではないぞ」

「水の魔物について・・・急ぎご報告がございます」

シュガはヤクーの伝承について報告するのだった。

帝は無言で謎の水晶玉をシュガにつきだした。

「ご容赦くださいませ・・・」と弟子の非礼を詫びる聖導師・・・。

「この始末はそちにまかせよう」

「ありがたき幸せ」

「狩人よ・・・」

「はっ・・・」

「ヤクーの村に斥候(うかみ)を放て」

「はっ・・・」

「もし・・・あのものがおれば・・・村ごと浄化せよ」

「仰せのままに・・・」

「聖導師・・・万が一のためじゃ・・・二ノ妃は・・・一ノ宮へ幽閉せよ」

「御意」

玉座から下がった聖導師はシュガに告げる。

「勇み足にもほどがある」

「しかし・・・事は国家の一大事です」

「よいか・・・地下の秘密の図書館に・・・初代聖導師の禁断の書がある」

「闇の記録ですか」

「その解読を命じる」

「かしこまりました」

しかし・・・シュガは禁断の文書保管庫に幽閉されてしまうのだった。

ガカイ(吹越満)はシュガを嘲笑する。

「だから・・・出過ぎた真似はよせといったのだ」

「せめて・・・水と食糧はもらえるんですよね」

「お前が・・・いい子にしてたらな」

「どういうことです」

「恐ろしい秘密を解読してしまったら・・・私にだけ・・・こっそり教えろ」

「ひでぶ」

忍びよる二つの影

ヤシロ村に旅のものに扮したジンがやってくる。

「お嬢ちゃん・・・槍をもった別嬪さんを見なかったか」

「おめえ様は・・・どちらさんだべか」

「あちきは・・・別嬪さんの許嫁でやんすよ」

「あんれまあ・・・」

一方・・・タンダの小屋にはトロガイがやってきた。

「お師匠様・・・」

タンダはトロガイの弟子だった。

「この婆さんも・・・薬草師か・・・」とチャグム。

「薬草師は・・・下級ジョブです・・・ジョブチェンジして呪術師になるのです」とタンダ。

「いいから・・・早く、ご馳走しな」とトロガイ。

「空腹ですか」

「そうでなきゃ・・・弟子のところになんか顔を出すもんか」

「トロガイ様・・・」

「なんだい・・・バルサ・・・」

「精霊を封ずる方法はあるのでしょうか」

「私がなんでも知っていると思ったら大間違いだよ」

「河童ですかっ」

「いいかい・・・よくお聞き・・・二つの影が忍び寄ってるよ・・・一つは帝の影・・・もう一つは・・・」

殺気を感じたバルサは短槍を構える。

狩人のジンは必殺剣で壁を打ち砕く。

バルサは槍先を突き出した。

「何度言ったらわかるんだい・・・剣では短槍に勝てぬと」

「ほざけ・・・女郎」

「あたしゃ・・・遊女じゃないよ」

バルサとジンが激闘する最中・・・。

二人は異様な気を感じて距離をとる。

「面妖な」とジン。

「タンダ・・・チャグムを・・・」とバルサ。

「む・・・」

タンダは無我夢中でチャグムを抱えて飛びのく。

目に見えぬ何かが室内に嵐を巻き起こす。

トロガイは鍋の汁をおかわりする。

バルサは見えない敵に短槍をくりだす。

幽かな手応え・・・。

「何かいるよ」

「馬鹿な・・・」

ジンは闇雲に剣を振るう。

その手が砂塵に飲まれる。

「うおおおお」

「これが・・・ラルンガ・・・」

一同は唖然とした。

武人にとって見えない敵ほど恐ろしいものはないのである。

「貞子vs伽椰子ってなんだよっ」

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2016年3月26日 (土)

私は生まれてきてよかったと心の底から思えたのです(桐谷美玲)

2016年の冬の季節に輝いた黄金の七人がついに去って行く。

生まれてよかったなあと思うわけである。

もちろん・・・彼女たちはこれからも輝いて行くだろう。

綾瀬はるかと長澤まさみはNHKで明日も明後日も輝くわけである。

テレビ東京の「ウレロ☆無限大少女・最終回」には早見あかりがいるし、映画館では広瀬すずの「ちはやふる」、有村架純の「僕だけがいない町」、そして桐谷美玲の「暗殺教室-卒業編-」がそろって公開中である。

みんな・・・絶好調だな。

しかし・・・「今」という時は過ぎ去っていくわけだ。

かけがえのない「今」は一瞬で過ぎ去って行く。

その・・・取り戻せない「今」をめぐる物語が・・・ロマンスなのである。

夢の中にだけある「永遠」を感じさせてくれるから・・・彼女たちは素晴らしいヒロインなのである。

で、『スミカスミレ45歳若返った女・最終回(全8話)』(テレビ朝日201603252315~)原作・高梨みつば、脚本・古家和尚、演出・小松隆志を見た。劇中に登場する宮城マリナ(伊藤かずえ)の主演映画「雨告鳥、帰る時」の雨告鳥はアカショウビン(赤翡翠)というカワセミの仲間である。渡り鳥で日本には梅雨時に渡ってくるのでこの名前がある。クチバシも含めて真っ赤な鳥なので「火の鳥」の異名もある。「火の鳥」とは「不死鳥」の代名詞だ。もちろん・・・如月澄(松坂慶子)が若返り、すみれ(桐谷美玲)となることは「不死鳥」の蘇りに似た行為なのである。つまり、「雨告鳥」はその象徴なのだ。

渡り鳥は毎年やってきてはかえっていく。

それは一種の「永遠」の象徴である。

個体はいつか「死」を迎えて消えていくが・・・「種」はあたかも・・・滅びていないように姿を見せるのである。

人間の苦悩・・・「生老病死」もまた・・・「愛」に他ならないことを「雨告鳥」は南に帰ることで示すのだ。

如月澄の苦悩を・・・化け猫の黎(及川光博)が受信して始る物語である。

黎の妖力はファンタスティックなものなので・・・すべては・・・幻想なのかもしれない。

しかし・・・自然の理を越えて・・・死すべき真白勇征(町田啓太)は延命し、すみれは若返る。

だが・・・奇跡を実現するためには・・・尋常ではない精神力が要求される。

その精神力を発揮するのは・・・「王子様」とお伽噺では決まっているのである。

勇征の発揮する尋常ではない力・・・それはお茶の間を絶叫させたに違いない・・・。

「本当にそれでいいのかよ」・・・なのである。

まあ・・・結局、「そうではない形でめでたく終わる」わけですけれど~。

だって・・・「種」としての「永遠」に「若さ」は不可欠なんですから。

命短し、恋せよ乙女なんですから。

だから・・・「今」なんですから。

高校教師となった二十五歳の勇征・・・。

「すみれのすべてを受けとめるから・・・結婚してください」

七十年の実年齢の人生の中で初めてプロポーズされたすみれ・・・。

しかし・・・すみれは勇征のプロポーズを承諾することができない。

二十五歳の勇征と・・・本当は七十歳の自分とではつり合いがとれない・・・とつい考えてしまう。

「無理です・・・あなたには・・・もっと相応しい方がいます」

「すみれ・・・黎さんなら・・・いいのかい」

「え・・・」

「僕には無理だけど・・・黎さんなら・・・」

「さようなら・・・」

すみれは・・・勇征を拒絶するのだった。

なぜなら・・・身も心も愛してもらいたかったからである。

帰宅したすみれは・・・部屋に灯りがあるので・・・黎の訪れを期待したが・・・現れたのは雪白(小西真奈美)だった。

「あんたから・・・真白の匂いがする」

「・・・」

「なんで・・・抱かれないの」

「抱かれるなんて・・・そんな」

「抱かれたくないんか」

「・・・」

「結局・・・あんた・・・逃げたんやな・・・」

「逃げるなんて・・・」

「いいや・・・あんたは・・・真白からも・・・あんたのほんまの気持ちからも逃げたんや・・・」

「・・・」

「なんのために・・・黎が・・・そんなあんたに命を燃やしたのか・・・わからん」

「黎さん・・・生きてました」

「さあ・・・どうやろうなあ・・・」

「え」

「あんた・・・このままで・・・ええと・・・思ってるん?」

「・・・」

雪白の謎めいた言葉に戸惑うすみれ・・・。

勇征の部屋に辻井健人(竹内涼真)が遊びに来る。

「おい・・・これなんだよ・・・」

「・・・」

お見合い写真を発見した健人だった。

「如月さんのことは・・・もういいのか」

「・・・」

如月家に菩提寺の住職である早雲(小日向文世)と慶和(高杉真宙)がやってくる。

「妖しい気配を感じたので・・・」

「うわあああ・・・すみれさん・・・こちらにお住まいでしたか・・・」

慶和はすみれの美貌に発情するのであった。

「黙れ、小童」

「大丈夫です・・・」

「しかし・・・浮かない顔をなさっていますな」

「せせせせ拙僧が御慰めいたす」

「黙れ、小童」

「本当に大丈夫です」

「何か困ったことが・・・あれば・・・何でも相談してください」

「はい・・・」

「親父・・・」

「なんだ・・・」

「あの屏風に・・・ブラックホールが見える」

「何・・・」

「親父には見えないのか・・・修業が足りないんじゃないの・・・」

「黙れ、小童」

屏風はこの世ではないどこかに通じる「何か」が存在しているのだった。

心に迷いを抱えながら株式会社レイク・フィルム宣伝部に出勤するすみれ・・・。

「封切られたアフロ・ゾンビは初日好調です」

「ゾンビものは手堅いな」

「問題はあの件ですね」

係長と職場の先輩である河野有紀子(西原亜希)はまもなく製作発表となる「雨告鳥、帰る時」の主演女優の件で悩んでいた。

「あの件とは?」

「舞台挨拶を渋っているのよ・・・宮城マリナが」

「大女優は・・・気難しいからなあ・・・」

「なにしろ・・・子役から数えて芸歴四十年ですものね」

「キカイダーとかな・・・とにかく・・・説得するしかない」

「如月・・・行くわよ」

マリナのいる撮影スタジオに出かける三人。

新人がNGを連発して押している現場。

マリナはご機嫌ななめである。

「カモミールティーがきれたですって・・・」

マネージャーを叱責するマリナに・・・係長が申し出る。

「今、ウチのものに・・・用意させます」

係長に急かされてお使いに出るすみれ・・・。

しかし・・・昼間だというのに・・・鼻がひくひくしたすみれは・・・。

澄に変身してしまうのだった・・・。

「そ・・・そんな・・・どうして・・・」

緊急避難したトイレから出たすみれは・・・とりあえず・・・買い出しに走る。

しかし・・・入館証が別人と判断され・・・警備員に咎められる始末。

(如月・・・おそいよ)

有紀子の催促の電話に思わず答える澄。

「買って来たんですが・・・入れなくなってしまって・・・」

「何言ってるの・・・」

迎えに出た有紀子から隠れる澄・・・。

そこに黎が現れる。

「レイク・フィルムの方ですか・・・こちらを渡してくれと頼まれたのですが・・・」

「え・・・あなた・・・どなた・・・」

「面倒なお方ですな・・・」

黎は妖力を行使する。

「・・・あ・・・ありがとうございました」

有紀子が去ると・・・よろめく黎・・・。

「黎さん・・・」

「久しぶりに力を使ったので・・・」

「私・・・」

「何故・・・こんな時間に猫魂が抜けたか・・・でございますね」

「・・・」

「あの日・・・私は残った力で・・・あなたをもう一度・・・若返らせました・・・あなたが・・・本当の幸せを掴んでくれることを期待したからです」

「・・・」

「あなたは五年間・・・よく励んでこられた・・・しかし・・・もう・・・残り時間は少ないのです」

「え」

「あの屏風には私の妖力を吸収する呪いがかけられていて・・・力を失った私は・・・やがて・・・元のように封印されてしまうでしょう・・・」

「そんな・・・」

「子の刻以外に術が解けるのは・・・その前兆です」

その時・・・澄はすみれに戻る。

「あ・・・」

そこへ・・・マリナがやってくる。

「あら・・・あなた・・・御苦労様・・・でも・・・少し遅かったわね・・・時を無駄にしてはダメよ」

「申し訳ありませんでした」

時が過ぎていく恐ろしさを思い出すすみれ・・・。

「黎さん・・・私・・・」

しかし、黎は消えていた。

黎は真白の前に姿を見せていた。

「真白様・・・」

「黎さん・・・」

「私があなたに言ったことを覚えていますか・・・」

「・・・」

「私は・・・あなたにあの方のすべてを受けとめてほしいとお願いしました」

「・・・」

「しかし・・・あなたは・・・あの方の秘密を知って・・・海外に去られました」

「僕は・・・恐ろしかったのです・・・しかし・・・五年間で僕は悟りました・・・すみれのいない日々の虚しさを・・・僕は・・・今度こそ・・・すみれのすべてを受けとめたい・・・すみれのいない人生には耐えられない・・・」

「あなたが・・・その気持ちを持ち続けることができるか・・・それが最後の希望です」

「希望・・・」

すみれは・・・失態をとりもどすために・・・宮城マリナについて考える。

すみれは・・・勇征に贈られたペンダントを身につける。

「真白さん・・・私に力を貸して下さい」

すみれから澄へのスイッチの頻度は増す。

いつ・・・澄に戻ってしまうのか・・・わからない状態である。

すみれは・・・記憶の彼方から・・・マリナの情報を思い出す。

そして・・・必殺の手土産を購入して・・・マリナの控室を急襲するのだった、

「この間は・・・ご迷惑をおかけしてすみませんでした」

「構わないわよ・・・あ」

マリナはドリンクをスカートにこぼす。

あわてるマネージャー。

「今・・・着替えを」

「まずいわ・・・この衣装じゃないと」

「大丈夫です・・・この程度のシミなら・・・なんとかなります」

「え」

家事のベテランである澄/すみれなのである。

スカートの下にタオルを敷き、薄めた潜在を浸した布で生地をたたく。

「はい・・・後は・・・ドライヤーで乾かせば・・・」

「凄いわね・・・あなた・・・お母さんみたい・・・」

「・・・」

「ごめんね・・・私より年下のあなたに・・・」

「いいえ・・・これ・・・よかったら・・・お召し上がりください」

「あ・・・このカステラは・・・」

「お気に入りの銘柄とお聞きしたので・・・」

「嘘・・・もう・・・何十年も前の話よ・・・あなたの生まれる前・・・」

「昔のインタビュー記事を拝見したのです」

「私が子役だった頃・・・母がよく買ってくれたの・・・私のご機嫌を治そうとしてね」

「・・・」

「でも・・・おいしくて・・・うっかり・・・機嫌がよくなっちゃったのよ・・・」

「まあ・・・」

「美味しいわ・・・変わらない味・・・おかしいな・・・私、ご機嫌になっちゃった・・・」

「優しいお母様だったのですね・・・」

「そりゃあ・・・厳しいステージママだったわよ」

「あら・・・」

「ふふふ・・・あなたって・・・なんだか・・・母に似ている・・・平成生まれでしょう」

「はい・・・」

「なのに・・・あなたには昭和の香りがする・・・」

(どっぷり・・・昭和です)

すっかり・・・打ちとけた二人だった。

「如月が・・・宮城マリナの心をキャッチしました」

「あなどれんな・・・キーボードに人指し指しかタッチしないくせに」

「恐るべし・・・一本指打法ですよ」

「一本足打法のことなんか・・・誰も知らんだろうがっ」

「えへへ・・・私、昭和六十二年の生まれです」

大学時代の親友・由ノ郷千明(秋元才加)が同窓会を呼び掛ける。

「急に思いついた割には・・・結構、集まったわね」

「由ノ郷の初仕事だからな」と健人。

集まった店は・・・千明が空間プロデュースした店だった。

「凄いですねえ・・・こんなに素敵な店を・・・」とすみれ。

「あら・・・亜梨紗だって凄いのよ」

幸坂亜梨紗(水沢エレナ)はウエディング・プランナーになったらしい。

とりまきの菜々美(小池里奈)や玲那(谷川りさこ)は亜梨紗に結婚式をプロデュースされたのだった。

「真白くんは来ないの」

「真白は・・・お見合いするって・・・」

「え」

「あれ・・・俺・・・何かまずいことを・・・」

全員が・・・すみれを気遣うのだった。

「すみれ・・・いいの・・・」

「私は・・・」

「はっきりしなさいよ・・・」

「え」

亜梨紗の励ましに戸惑うすみれ・・・。

「まっすぐなのが・・・あんたの取り柄でしょう・・・ウジウジしたらダメじゃない・・・めっ」

「ええ」

「お返しよ・・・」

「えええ」

「亜梨紗・・・大人になったのね」

「何言ってるの・・・私だってもう・・・二十五歳よ・・・」

何か・・・心に温かいものを感じながら・・・家路についたすみれ。

しかし・・・帰宅したと同時に澄に戻ってしまう。

そこに小倉夫人(高橋ひとみ)がやってくる。

「すみれちゃん・・・あ・・・澄さん」

「小倉さん・・・」

「もう・・・あなた・・・五年もどこに行ってたの・・・心配したじゃない」

「え・・・私を心配・・・」

「当たり前じゃない・・・ずっとお隣さんだったんだもの・・・すみれちゃんに聞いても教えてくれないし・・・具合でも悪いのかなと思っていたのよ」

「小倉さん・・・」

「そりゃあ・・・如月さんは十も年上のお姉さんだったけど・・・私も来年で六十なのよ・・・この年になったら・・・十歳なんて・・・年の差って言えないでしょう・・・たまにはおしゃべりでもして・・・茶飲み友達になりましょうよ・・・」

「私と・・・ともだちに・・・」

澄は思わず泣いてしまった。

世界から澄が疎外されていたのではなく・・・澄が世界を疎外していたらしい・・・。

新作映画の製作発表の日は・・・勇征のお見合いの日だった。

気分が落ち着かない・・・すみれ・・・。

宮城マリナが囁く・・・。

「あなた・・・何か・・・心配事があるんじゃない・・・」

「・・・」

「やらなければいけないことをやらないと・・・後悔するわよ」

「宮城さん・・・」

「まあ・・・やるかどうかを決めるのはあなただけどね・・・」

そこに・・・雪白が現れる。

「これ・・・真白がお見合いしてる場所のメモやで」

「え」

そして・・・黎が現れる。

「真白様のプロポーズをお断りになったそうですね」

「だって・・・私は・・・そんな資格のない女ですもの・・・」

「それは・・・真白様を貶めることになるのではないですか・・・」

「え・・・」

「あの方は・・・あなたを選んだ・・・そしてあなたは・・・あの方の目を疑う」

「でも・・・」

「あなたの・・・本当の気持ちはどうなのです・・・それを伝えないでいいのですか」

「・・・」

「私の本心を申しましょう・・・七十の老婆らしく胸を張って厚かましく生きろ!」

「はい・・・」

すみれは・・・走り出した。

頭の中は勇征で一杯だった。

自分が澄に戻ったのも気がつかないほどに・・・。

男、二十五歳・・・女、七十歳の・・・「卒業」である。

勇征はお見合いの席で頭を下げた。

「すみません・・・この話はなかったことにしてください」

「え」

その時・・・澄が乱入する。

「真白くん・・・私・・・どうしてもあなたに伝えたいことが・・・」

「ええ」

「とにかく・・・一緒に行きましょう・・・お母さん・・・皆さん・・・失礼します」

「えええ」

取り残される勇征の母とお見合い相手とお見合い相手の母だった。

「真白くん・・・私・・・」

「とにかく落ちついて・・・」

「私・・・あ・・・私」

「気がつかなかったのかい」

「嫌だ・・・私いつから」

「澄さんが・・・入って来たので・・・みんな驚いていたよ」

「ええ・・・じゃあ・・・お見合いの席を・・・七十歳の私が・・・メチャクチャに・・・」

「大丈夫・・・みんな・・・何が起こったかわからないよ・・・きっと」

勇征は澄の手を優しく撫でた。

タクシーの運転手は・・・客から目が離せなくなるのだった。

二人に釘付けである。

海の見える見晴らし台・・・。

「ここに・・・君を連れてきたかったんだ・・・」

「真白くん・・・私・・・あなたに出会えて・・・あなたと過ごして・・・喜びもせつなさもドキドキする気持ちも・・・そして勇気ももらったの・・・あなたとの思い出は・・・私との宝物です・・・私は・・・あなたを愛しています・・・」

「ありがとう・・・すみれ・・・」

そこに・・・黎が登場する。

「間に合わなかったのですね・・・」

「黎さん・・・どういうことです」

「もう・・・澄様は・・・すみれ様に戻ることはできません・・・」

「そんな・・・」

澄は・・・勇征に背を向ける。

「いいのよ・・・もう・・・思い残すことはないの・・・さあ・・・黎さん・・・帰りましょう」

「ダメだ・・・」

「え」

「帰さない・・・すみれさん・・・いや・・・澄さん・・・僕はあなたを愛しているのです・・・年の差なんて関係ない」

「ええ」

「言ったでしょう・・・僕は・・・あなたのすべてを受けとめるって・・・結婚しましょう」

「えええ」

勇征は澄を抱きしめた。

澄の気持ちは満たされた。

「こんな・・・嬉しいことがあるなんて・・・私・・・生まれてきて・・・本当によかったわあ・・・」

心と言葉が一致して・・・妖しい力が発動する。

その力は・・・すべての呪縛を打ち砕くのだった。

古の法師の法力は・・・愛の力の前に敗れたのだった。

「ふふふ・・・法師よ・・・女心の恐ろしさ・・・思い知ったかな・・・」

黎は微笑んだ・・・。

力が漲るのを感じる。

呪いの屏風はたちまち消滅した。

そして・・・澄は・・・すみれとなった。

「あ」

「すみれ様・・・もう・・・澄様に戻ることはありません・・・」

「え」

「あなたは・・・猫魂の力ではなく・・・あなた自身の若さを取り戻したのです」

「えええええええええ」

「もちろん・・・あなたも・・・四十五年後には・・・七十歳になりますが・・・それは自然の理に沿ったことですから」

「黎さん・・・」

「それでは・・・ご両人・・・末長くお幸せに・・・」

すみれと勇征は教会で結婚式を挙げた。

花嫁の父を務めるのは僧侶の早雲だった。

「実に日本らしい・・・」

「世界にもこうあってほしいよねえ」

二人は友人たちに祝福され・・・誓いのキスをかわす。

二匹の化け猫は・・・異界への道を仲良く進む。

「ああ・・・この日を何百年待ったことやろ・・・」

「大袈裟ですよ・・・」

「あんた・・・ちょっと・・・すみれちゃんに・・・気があったんとちゃう・・・」

「まさか・・・人間風情に・・・まあ・・・いい子でしたけどね」

「そうやなあ・・・ちょっといかしてたわ・・・」

すみれと勇征の新婚家庭。

「美味しそうな匂いだね・・・すみれ」

「つまみ食いはお行儀悪いわよ・・・勇征」

「じゃあ・・・すみれをいただきます」

「めっ」

二人は愛し合う。

移ろう時の中で・・・。

そして・・・永遠にたどり着くのだ。

そうやって人類は繁栄してきたのだから。

澄は百四十歳まで生きた。

いい人生だったらしい・・・。

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2016年3月25日 (金)

精霊の守り人(綾瀬はるか)金星人ではないのですね(林遣都)

王の後継者である王子がアクシデントによって橋の上から川へと落ちる。

ただものではないヒロインが川に飛び込む。

そして・・・ヒロインは王子の命の恩人となる。

予言通りになったな・・・。

昨日のブログと書きだしは同じである。

まあ・・・橋の上から王子が落ちるのはファンタジーの世界ではよくあることなんだな。

ちなみに実写版では「荒川アンダー ザ ブリッジ THE MOVIE」→「精霊の守り人」という時系列だが、原作は小説「精霊の守り人」(1996年)→コミック「荒川アンダー ザ ブリッジ」(2004年)の順である。・・・念のため・・・。

疑似歴史ファンタジーと違い、仮想世界ファンタジーなので・・・なんでもありなのだが・・・なんとなく韓流歴史ドラマの匂い立つ第1回だったな・・・。星ノ宮のチープさは懐かしい少年ドラマシリーズを思い出させる。

三年間に渡って全22回を放送する予定なのだが・・・最後には壮大なファンタジー大河になっているといいと思うよ。

まあ・・・なんとなく・・・ならないんじゃないか・・・と危惧するけどね。

で、『精霊の守り人・第1回』(NHK総合20160319PM9~)原作・上橋菜穂子、脚本・大森寿美男、演出・片岡敬司を見た。ファンタジーの世界がどこにあるかは・・・謎に満ちているが・・・それはこの銀河宇宙の別の惑星かもしれないし、超過去、超未来の地球の何処かなのかもしれない・・・あるいは全く別の次元の宇宙なのかもしれない・・・そういうことが前提である。そういう前提はある種の人間にとっては常識だが・・・世の中にはそうでない人もいる。お茶の間相手のビジネスを展開する場合・・・そうでもない人にわかってもらおうという下心を持つと・・・とんでもないことになるわけだが・・・このドラマにはそういう気配がどことなく漂っています。

たとえば・・・この世を「サグ」と呼び、「サグ」と重なり合う異世界である「ナユグ」があることはこの物語の「核心」であるが・・・そういうことを口に出さないように・・・緘口令が発令されているような気がする。「サグ」とか言っちゃうと・・・お茶の間の皆さんにそっぽを向かれるのではないかと・・・誰かが・・・まあ・・・杞憂だとは思いますけどね。

Map1バルサの生い立ち

国土の大半が山地であるカンバル王国は十の氏族の連合国家である。

十の氏族の長を束ねるのがカンバル王である。

現在のカンバル王は兄を暗殺し、王位を簒奪したらしい。

その暗殺に関わった前国王の主治医カルナは謀殺され・・・幼い一人娘バルサ(清原果耶→綾瀬はるか)にも危機が及ぶ。

カルナの親友でカンバル最強の短槍使いと謳われたジグロ(吉川晃司)は王国武術指南役の地位を捨てバルサを守護するために逃亡者となる。

カンバル王の刺客を倒しながら放浪の旅を続ける二人・・・やがて・・・ジグロの教えを受けたバルサは短槍の達人として成長する。

「よいか・・・バルサ・・・お前には王はいない・・・この世には人でありながら神を名乗る皇や帝もいる・・・そういうものを信じるな」

そして・・・数十年の時が流れた。

皇子チャグムの転落

ジグロと別れ・・・三十歳となったバルサは高名な女用心棒として放浪の旅を続けている。

カンバル王国の南にそびえる青霧山脈を越え、青弓川の分岐点に王宮を構える新ヨゴ皇国の光扇京に立ち寄ったバルサは・・・激流の上の石橋を渡る高貴な一行を河原から見上げる。

何か変事が起き・・・輿から子供が投げ出され・・・川に転落したのである。

咄嗟に川に飛び込み、子供を救出しようとしたバルサ。

しかし・・・子供・・・新ヨゴ皇国の皇子チャグム(小林颯)の身体には何か異様なものが潜んでおり・・・バルサは「それ」を感知するのだった。

チャグムを救助し、川岸に戻ったバルサを取り囲む皇国の衛士たち。

「さがれ・・・この方は・・・高貴なお方だぞ」

「ああ・・・そうかい」

身を引いた素手のバルサは殺気を感じる。

しかし・・・不意をつかれて衛士の一撃を受けバルサは意識を失う。

衛士は新ヨゴ皇国の帝直属の近衛隊「狩人」の隊長モン(神尾佑)と「狩人」最強の達人ジン(松田悟志)だったのである。

王宮の人々

新ヨゴ皇国の帝(藤原竜也)の后の一人である二ノ妃(木村文乃)は苦悩していた。

十一歳になる皇子チャグムの身に異変が生じ・・・帝がわが子の暗殺しようとしていると察したのであった。

民の前に帝が姿を見せる行事・・・ナナツボシ(夏至)の祭りの際中にチャグムの身体から霧が発生したのだった。

新ヨゴ皇国の伝承によれば・・・祖王は・・・南の海の果てからこの地に至り・・・土地に仇を為す「水の魔物」を退治して・・・最初の帝となったと言う。

もし・・・チャグムの身に水の魔物が憑依したとすれば・・・国家の基盤を揺るがす不祥事となるのだった。

ニノ妃は新ヨゴ皇国の国教である「天道」の長・聖導師(平幹二朗)を呼び出す。

「天道に仕える星読博士たちは・・・チャグムに起こった異変をなんと考えているのか」

「今は・・・まだ・・・なんとも・・・」

「嘘をつけ・・・水の魔物がとりついたと・・・噂が妾の耳にも届いておる」

「そのように申す者もおりますが・・・」

「星読博士の最高位である・・・そなたはなんと考える」

「結論を急ぐのは愚かなことです」

「皇子を助けたものが・・・牢に繋がれているそうだな・・・」

「・・・」

「なぜ・・・恩人を虜囚としたのだ・・・」

「・・・」

「その者が・・・水の中で何かを見たからではないのか」

「その者は・・・それについて口を閉ざしているのです」

「妾にそのものを会わせよ」

「相手は下賤のものですぞ・・・」

「命の恩人に母として礼を申すだけじゃ・・・」

「しかし・・・」

「妾の願いが聞けぬとあらば・・・帝に根も葉もない・・・そなたの醜聞を妾は告げるつもりじゃ・・・」

「ご無体な・・・」

バルサは縛めを解かれ、食事を施され、入浴を許された。

サービスとして・・・入浴中のバルサと全裸の付き合いをするニノ妃。

「噂には聞きましたが・・・凄いそうですね」

「それほどではございません」

「あなたに頼みたいことがあります・・・チャグムを連れて逃げてほしいのです」

「それは命令ですか・・・」

「いいえ・・・凄腕の女用心棒への依頼です・・・報酬ははずみます」

「いかほど」

「五億円くらいでどうですか」

「引き受けましょう」

「王宮には秘密の通路があります・・・あなたはその通路を通じて・・・チャグムの部屋に入り・・・放火して・・・逃げてほしいのです」

「王子を死んだことにするのですか・・・」

「実際に殺されるより・・・好ましいことです」

こうして・・・バルサは・・・チャグムの用心棒となったのだった。

逃亡する二人

王宮を脱出したバルサとチャグムは下町に身をひそめる。

バルサには長い用心棒稼業で知り合った多くの人々がいる。

中にはバルサを恩人として崇拝しているものもいるのだった。

物資調達を生業とする「頼まれ屋」のトーヤ(加藤清史郎)とサヤ(彩島りあな)もかってバルサに命を救われたことから・・・二人を道の下の住居に匿う。

二人は孤児だった。

突然、王宮から連れ出されたチャグムは・・・環境の変化に戸惑うのだった。

「さっさと食事をすませちゃいな・・・」

「お前は口のきき方を知らぬのか」

「あんたの方こそ・・・口のきき方を考えな。あんたはもう皇子じゃないんだし・・・皇子だったことを人に知られていけないんだよ」

「・・・」

サヤは粗末だが心のこもった料理で二人をもてなす。

「これはなんだ・・・」

「食べたことないの・・・おいしいよ」

サヤが先に食べたのを確認して・・・妖しい料理を口にするチャグム。

それは・・・美味だったらしい・・・。

「町に変わった様子はなかったかい」

「王宮の密偵が色々嗅ぎまわっていたよ・・・ここも・・・危ないかもしれない」

トーヤはバルサに正直に応える。

「今、襲ってこないところをみると・・・おそらく・・・町から出るのを待っていめのだろう」

「どこへ行くのかは聞かないよ・・・」

「それが身のためだね」

旅の支度を整えたバルサとチャグムは・・・王宮の下町に別れを告げる。

後ろを振りかるチャグム。

「もう・・・戻れないよ」

「わかっておる・・・こんなに歩いたのは初めてなだけだ」

「しょうがないね・・・おぶさりな・・・」

「おぶさりな・・・何の事じゃ」

問答無用でチャグムを背負うバルサ。

「下々の母親はこうして子供を背負うのさ」

「荒川の橋の下とかぶるものだな・・・」

「なんのことだい」

「時空を越えた話じゃ・・・さあ・・・行け・・・わが愛馬よ」

「こらこら・・・」

しかし・・・山道を抜けるうちに・・・追手の気配に気がつくバルサ・・・。

「この斜面を登った先に洞穴がある・・・そこまで一人でいけるかい」

「やってみよう・・・」

バルサは追手を足止めするために身構える。

チャグムの命を狙う狩人が殺到した。

「腕自慢のようだが・・・剣では短槍には勝てないよ」

「ほざくな」

狩人のジンは斬り込む。

バルサは激闘を開始した。

基本的にテレビ朝日の日曜日の朝を連想させるアクションである。

賛否が分かれるかもしれないが・・・こういうところであっと驚かせないとねえ。

キューティーハニーTL」の方が何倍もあっと驚いた。

星読博士たちの策動

星読博士・シュガ(林遣都)の兄弟子であるガカイ(吹越満)は星を観測する巨大な塔を持つ星ノ宮で忠告する。

「シュガよ・・・お前が余計なことを言ったことが・・・このような結果を招いたのだぞ・・・身を慎むことだな」

「しかし・・・皇子にとりついたのが・・・水の魔物であれば・・・この国の危機です」

「水の魔物は滅んだのだ・・・」

「それを確かめたものは・・・誰もいないではないですか」

「好奇心は猫をころすぞ」

「この世界・・・猫はいるんですかね」

「そういえば・・・見当たらないな」

「そういうのも大切なんですよね・・・異世界感を醸しだすためには・・・」

結局、シュガは・・・ニノ妃に「水の魔物」について教えたという呪術師のトロガイを捜し出すことにする。

邪教にこそ・・・奥義が秘められていることはよくあることなのだ。

下町の呪術グッズのお店を訪れるシュガ・・・。

「トロガイ様だと・・・」

「町の呪術師なら・・・その名を聞いたことがあるだろう」

「お前たち・・・ヨゴの民にまつろわぬ・・・ヤクーの末裔よ」

「先住民ヤクーのものか・・・」

「トロガイ様に逢いたいなら・・・心の中でその名を念じるこった」

「名を・・・」

「そうすれば・・・向こうから会いにきてくださる・・・もちろん・・・トロガイ様にその気があればだが・・・」

喉が渇いたシュガは井戸で水を汲む。

「トロガイ・・・トロガイ・・・トロガイと・・・まあ・・・来ないよな」

水を注いだ器の水面に・・・トロガイ(高島礼子)が映りだすのだった。

「うわ・・・」

「何の用じゃ・・・」

「な、夏木マリさん?」

「だまれ、小童」

「・・・聞きたいことがあるのです」

「ナユグのことかい」

「ナユグ・・・」

「あの世のことだよ」

様々な謎を孕んで・・・バルサの冒険は開幕したらしい・・・。

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2016年3月24日 (木)

荒川アンダー ザ ブリッジ THE MOVIE(林遣都)花がさかさまにスーパー咲いているみたいだ(桐谷美玲)

王の後継者である王子がアクシデントによって橋の上から川へと落ちる。

ただものではないヒロインが川に飛び込む。

そして・・・ヒロインは王子の命の恩人となる。

予言しておくと・・・明日のブログも書きだしは同じである。

まあ・・・橋の上から王子が川に落ちたら誰かが助けるよね・・・。

今から半世紀以上前・・・台風襲来で荒川は氾濫して周辺地域は洪水によって浸水した。

東京で川が氾濫することなど・・・今では考えられないような気がするが・・・父は勤務中のために不在で・・・近所に住んでいた祖父がボートで出動し・・・新居に取り残されてしまった妊婦の母を救出したのだった。

何度・・・その話を聞かされたことかっ。

その時、どこからか流されてきた蜜柑の木が庭に根付いた。

嘘のような本当の話である。

で、『荒川アンダー ザ ブリッジ THE MOVIE(2012年劇場公開作品)』(TOKYO MX20160103PM7~)原作・中村光、脚本・演出・飯塚健を見た。2011年のドラマ版がキッドのブログ休眠中でレビューが出来なかったわけである。2010年のアニメ版も大好きだったなあ・・・。とにかく・・・「スミカスミレ」で松坂慶子的桐谷美玲一色なので・・・別の桐谷美玲を思い出すためにも・・・毎日のようにコレを見ているわけである。そのぐらい好きだ。おそらく深層心理に訴えるものがあるんだな。

市ノ宮行(林遣都)は大財閥「市ノ宮グループ」の御曹司である。

市ノ宮家訓 「他人に借りを作るべからず」を忠実に守る几帳面な青年なのだ。

市ノ宮グループ代表で父親である市ノ宮積(上川隆也)から「荒川河川敷の再開発計画とそれに伴う不法占拠者の退去実施」を命ぜられた市ノ宮行は・・・第1秘書の高井(浅野和之)や第2秘書の島崎(井上和香)の制止を振り切って単身・・・現場に乗り込むのだった。

荒川に架かる橋の上で・・・凶暴な少女ステラ(徳永えり)と鉄雄(末岡拓人)・鉄郎(益子雷翔)の鉄人兄弟に遭遇。「ボンタン狩り」と称する悪戯で辱めを受ける。

主構の頂点から落下した市ノ宮行は荒川の濁流にのまれるが・・・通りかかった河川敷の住人の一人・・・ニノ(桐谷美玲)によって救助される。

市ノ宮行は「命を助けてもらう」という最大の借りを作ってしまったのである。

「御礼をします・・・家なんかどうですか」

「特に欲しいものはない」

「え」

「そんなに驚くな・・・地球人は・・・御礼が欲しくて人を助けるのか」

「あなただって・・・地球人でしょう」

「私は金星人だ」

「へー」

しかし・・・ニノは河川敷で入手した女性誌から入手した情報で「地球の恋愛」に興味を抱いていた。

「私の秘密の恋愛・・・彼は姉の恋人なのです」

「婚約者がいるのに同窓会で初恋の人から告白されて迷っています」

「年の離れた教師に恋をしてしまいました・・・私だけの先生になってほしい」

恋人を独り占めにしたい気持ちに憧れるニノなのである。

「一つ・・・お願いがある・・・私に恋をさせてくれないか」

水に強く、七夕になると額からスイッチが出るので金星に帰還できると言い、金髪をなびかせて飛翔し、「2-3」と記された青と白のジャージを頭にかぶってジャミラとなる謎の美少女の申し出を・・・一晩悩んだ末に了承する市ノ宮行だった。

ボーダーラインの向こう側へ・・・荒川河川敷に「不法占拠者を退去させるという黒い目的」を秘めてやってくる市ノ宮行・・・。

橋の上で出迎えるニノ・・・。その態度は不貞腐れているようにしか見えない。

「もっと・・・うれしそうな顔をしてくれてもいいんじゃないですか・・・あなたに恋をしてもらうために・・・やってきたんですから」

「すまないな・・・金星人は地球人のようには笑えない・・・そういう機能がないのだ」

「へー」

地球人のように表情を変えない・・・そういう設定の中で・・・喜怒哀楽を示す。

桐谷美玲の尋常ではない表現力が炸裂するのである。

なにしろ・・・誰もがニノに恋してしまうほどの美少女を魅力的に演じるのである。

凄いな・・・。

ニノに誘われ竹藪の扉を開けた市ノ宮行は村長(小栗旬)と面会する。

「マスク・・・マスクの人ですよね」

「河童だ」

村長が河童であることを否定しようとする市ノ宮行は凶暴なシスター(城田優)のサブマシンガン(本物)で沈黙させられた上で・・・荒川河川敷の住民としての名「リク」を与えられる。

あたかも一つの集落のような・・・不法占拠ぶりに驚くリク。

「不法占拠にもほどがある・・・」

朝の儀式である妖しい体操をする・・・河川敷の住民たち・・・。

「俺は・・・世の中のことは・・・二つに分けられると思う・・・ロックか・・・ロックじゃないかだ」

星(山田孝之)に嘯かれ・・・戸惑うリク。

「この体操の曲・・・俺が作ったんだけど・・・どう思う?」

「最高にロックじゃないですか」

社交辞令を述べるリク。

「俺たちは親友だ」

喜ぶ星・・・そこへ凶暴なマリア(片瀬那奈)が現れる。

「あんたたち・・・舌を出しな」

「え」

「タン塩にしてやるっていってんだよ」

「ええ」

「おしゃべりをやめなってこと・・・」

「えええ」

「次はないからね・・・」

とにかく・・・凶暴な住民たちに戦慄を感じるリクだった。

もちろん、住人にはきゅうりなどの野菜を育てるP子(安倍なつみ)、マッサージをしてくれるジャクリーン(有坂来瞳)、元カリスマ美容師だったラストサムライ(駿河太郎)、白線を引き続けるシロ(手塚とおる)などそれほど凶暴でないものもいるのである。

ドラマ版ではそれぞれとの交流で・・・リクの心が解放されていく課程が描かれるが・・・映画版はあくまで・・・ニノとリクの恋の物語が主軸となっている。

ニノの住居から距離を置いてテントを設置するリク。

「随分・・・離れているんだな」

「距離感は大切ですから」

「それについては読んだことがある・・・遠くにいるのに近いようで近くにいるのに遠いような気持ちになるんだな・・・こういうことか・・・」

ニノはリクの手を握った。

「冷たい手ですね・・・」

「金星人は地球人より体温が低いんだ・・・」

「へー」

共同体意識の強い住民たちは・・・リクの歓迎パーティーを催す。

P子はマジックで村長を小栗旬に変身させたりするのだった。

「脱いだだけじゃないか」

「さあ・・・リク・・・今度はお前の番だ・・・恋人のニノにいいところをみせてやれ」

瞬間的に河童に戻る・・・どこか尋常ではない村長だった。

実は・・・ものすごい権力を持つ仙人・・・でもあるらしい。

ファンタスティックだなあ・・・。

ニノに片思いをしている星はリクがニノの恋人だと紹介され動揺する。

「本当なのか」

「はい・・・一応」とリク。

「俺を怒らせると海が一つ消えるぜ」

「海はもともと一つしかないですよ・・・この荒川だっていわば海です」

「理屈のリクかよ・・・本当に本当なのか」

「本当だぞ・・・さっきも手を繋いだしな」

ニノに告げられ星は流れ星になるのだった。

「流れるのは涙ばかりじゃないんだぜ~」

ロマンチックだな・・・。

「歓迎会の費用の件ですが・・・」

現金を持って村長と交渉を開始するリク。

「ここは自給自足だ」と河川敷の暮らしを説く村長。

「いくら払えば・・・立ち退いてくれるんです」

「リク・・・何でも買えると思うなよ」

経営者でもあるリクは株式会社GOES取締役社長としての業務を処理するために河川敷を留守にする。

「一週間も会社に泊まり込んでは・・・お体に障りますぞ」と秘書たち。

「父の期待に答えたいんだ」

「・・・」

「昔一度だけ・・・父に髪を洗ってもらったことがある・・・小学校の卒業式の日・・・」

「あの方が・・・」

「それから僕は家を出て自立した・・・泣いたのはあの日が最後だ」

リクの母親はリクが生まれた日に世を去った。

リクの父親は・・・その日・・・目に見えないものの存在を否定したのだった。

何故か・・・リクの母親はニノに瓜二つだが・・・それはあくまで偶然なのである。

なにしろ・・・ニノは金星人なのだから・・・。

水面下では・・・リクの父親と・・・仙人である村長の駆け引きが展開しているのだ。

河川敷に戻ったリクに飛び付き殺しそうな力で抱きしめるニノ。

「どこ行ってたんだ」

「旅行って言ったでしょう」

「帰ってこないかと思ったぞ」

「いたたた・・・」

「リクがいなくなって・・・私は距離感というものがわかった気がする」

「・・・」

「ここにはいないのにここにいるんだ」

「・・・」

二人は「チヨコレイトのゲーム」で遊ぶ。

ニノはメチャクチャじゃんけんが弱い・・・。

彼方で地団駄を踏むニノ。

口惜しい顔はできるらしい。

仕方なく・・・一度だけわざと負けるリク。

一瞬の金星人の笑み。

「グリコーゲンハゲンキノモトカニチャーハンハウマスギルイエイイエイ・・・」

「なんですか・・・それ・・・」

「火星の言葉だ・・・まだ途中だ・・・パイナップルプルプルリンプリンプルトニウムニウラニウムパイポパイポノ・・・」

罰ゲームでニノをおんぶするリク。

「金星にはおんぶという習慣がないぞ」

「僕もしてもらったことがありません」

「じゃ・・・私がしてやる」

「いいですよ・・・これは僕の罰なんですから」

「リク・・・お前・・・臭いな」

「え・・・」

「来い・・・」

鉄人兄弟の風呂に導かれるリク。

ニノはリクの髪の毛をシャンプーするのだった。

「やめてください」

「これは貸しじゃないぞ・・・私がしたくてしているのだ・・・私の借りだ」

郷愁に突き動かされ涙するリク。

「・・・いいな・・・地球人は泣くことができて・・・」

「・・・」

二人は河川敷を歩く。

「これはデートというより・・・散歩ですね」

「だけど・・・川は海とつながっているんだろう」

二人は川面にとどまる玩具の船を発見する。

「あれは・・・私と同じだな・・・」

「え」

「どこにもいけずに一人ぼっちだ」

リクは思わず川に入り・・・船を流す。

「僕も一緒ですよ・・・ニノさんと同じです・・・どこにも行けずに一人ぼっちです」

「リク・・・もう帰ろう・・・」

「でも・・・海はすぐそこですよ」

「恋人に風邪をひかせるわけにはいかない」

「・・・じゃあ・・・今度にしましょう」

「約束は嫌いだ」

「七夕になったら・・・帰るからですか」

「・・・そうだ」

「じゃあ・・・七夕になる前に行きましょう」

「・・・」

村長がリクに声をかける。

「ここの暮らしに慣れてきたみたいだな」

「どうすれば立ち退いてくれるんですか」

「ここが安住の地だからだ」

「国の所有地です」

「ワンダーランドに反逆したいのなら・・・すればいい」

「不法占拠しているのは・・・あなたたちです」

「法律を作ったのは神様ではない・・・どうするのかはお前の自由だけど・・・あっちにつくのなら・・・二度とニノには近付くな」

「・・・」

リクは鉄人兄弟の鉄郎に会う。

「御礼ならいいよ・・・いつでも入りにきて」

「僕にできることはないかな」

「じゃ・・・逆上がりを教えて・・・」

「できないのか」

「ステラや兄さんはできるんだけどね」

リクは鉄棒を作る。

結局・・・ステラや鉄雄も逆上がりが出来ず・・・P子やニノも参加して賑わう「リクの鉄棒教室」・・・。

逆上がりを披露したリクは・・・熱い崇拝の嵐に酔うのだった。

お金じゃ買えない愛の暮らしに解けていく・・・リクの心・・・。

二ヶ月が過ぎ去っていた。

リクの父親はついに工事を強行することを決意する。

リクは高屋敷交通大臣(高嶋政宏)と交渉し・・・工事の許可を取り消すことに成功するが・・・リクの父と母の友人だった高屋敷から・・・出生の秘密を聞かされ動揺する。

「七夕祭りの夜、美しいスーパーボールを手中にしたリクの母親は交通事故に遭い・・・リクを出産した直後に死亡した・・・」

リクは真実の重みをもてあまし・・・それをニノに吐き出す。

「そろそろ・・・本当のことを教えてください・・・あなたは何者なんです」

「私は金星人だ」

「そんなこと・・・誰が信じるのです」

「リクは・・・私のことを信じていなかったのか・・・」

「信じられるわけないでしょう」

「私は信じていたのに・・・リクをずっと信じていたのに」

「・・・」

「私は地球でたった一人の金星人だ」

「どう見たって・・・地球人だよ」

常識に縛られて・・・リクはニノを突き飛ばす。

ニノは真実を語り・・・リクにぶつかる。

意地と意地とのぶつかりあいは・・・暴力となり・・・恋人たちを引き裂くのだった。

それはこの星のいたるところで繰り広げられてきた悲劇。

宇宙には上下がないのに・・・人は望遠鏡に映るものを「さかさま」だと思ってしまう。

心に生じる枠組みのもつれ・・・。

きれいなものは・・・ただきれいなものにすぎないのに・・・人はその理由を探そうとする生き物なのである。

ニノは川に美しい姿勢で飛びこむ。

七夕の日・・・。

リクは笹の葉の間のニノの短冊を読む。

リクと仲直りできますように

「村長」

「呼んだ?」

「村長はいつかコウノドリで父と同じ運命を味わいますよ・・・それはそれとしてニノさんは一体何者なんですか」

村長は一冊の学習帳を差し出す。

そこには・・・ニノが「日本語」を練習した軌跡が残されていた。

あいうえお・・・。

文盲展開のヴァリエーション。

物凄く拙い字に萌えるリク・・・。

リクとであった

リクと手をつないだ

リクとデートした

リクがないた

リクがわらった

リクがわざとまけてくれた

リクがやさしかった

リクはいつもさびしい

わたしとおなじだ

だからわたしはリクのそばにいる

「ニノさん・・・」

村長は・・・甲羅を脱いで渡した。

「なんですか・・・」

「大切なものは・・・水の底にあるんだよ・・・」

「これは・・・酸素ボンベ・・・」

「お前が見て来たものを信じろ・・・酸素を一杯吸って・・・恋人を捜してこい」

「え」

リクは川に飛び込んだ。

川底に妖しく光る金星人の宮殿。

深く潜水して・・・リクは佇むニノを発見する。

地上にいるかのように振る舞うニノ。

ニノは地球人ではなかったのだ。

リクは頭を下げた。

「リク・・・もういいんだ」

「・・・」

「今日・・・私は金星に帰る」

リクは酸素マスクを外す。

「だめです・・・だって僕は・・・あなたに恋をしてもらっていない・・・」

「もう・・・恋をした」

「嘘です・・・ニノさんはずっと本当のことを話していたのに・・・僕は何一つ信じてなかった・・・そんなの・・・近くにいるのに・・・結局遠かったってことじゃないですか」

「リク・・・」

「僕は・・・ニノさんに・・・恋を・・・」

酸欠で気が遠くなるリク。

ニノはリクを抱きしめてキスをした。

金星人は地球人に酸素を供給できるらしい。

その時・・・帰還装置が作動した。

天に向かって伸びるヴィーナス(金星)の樹・・・。

強制執行部隊と対峙する河川敷の住人たち・・・。

高屋敷交通大臣は更迭され・・・再び工事の認可が下ったのだ。

「すみやかに退去してください」

「かかってこいや」

そこに・・・リクとニノが濡れそぼって現れる。

「退去しないものは公務執行妨害とみなします」

「私たちは退去しません」

「なぜだ・・・」

市ノ宮積が現れた。

「ここには・・・宝物があるからです」

「リク・・・宝物を失うのはつらいことだぞ・・・」

「だから・・・僕は宝物を守ります」

「だが・・・神は・・・いつだって与え奪うものだ」

「けれど・・・宝物を忘れることなんて・・・僕にはできない」

「覚えるより・・・忘れる方が難しいと知ってもか・・・」

「たとえ失って傷ついても宝物がなかったことなんかにできませんよ・・・父さん・・・」

「私にできなかったことが・・・お前にできると言うのなら・・・やってみるがいい」

「ありがとう・・・父さん」

「後悔するなよ・・・息子よ」

「愛とはけして後悔しないことなのです」

「知ったような口を利くな」

「ごめんなさい・・・」

父は息子を抱擁する。

「撤収だ」

「撤収!」

そして・・・ヴィーナス(美の女神)となったニノ。

ランドセルのような超機械。

「これが・・・惑星間飛翔装置だ・・・」

「ニノさん・・・」

「リク・・・私に恋をしたのだな」

「はい・・・」

ニノの額には輝くスイッチが生じていた。

「これを押せるのは・・・恋人だけだ」

「ニノさん・・・教えてください・・・」

「何を」

「金星語で私ははなんて言うんですか」

「花が・・・だ」

「あなたを・・・は」

「さかさかまに・・・」

「とても・・・は」

「スーパー・・・」

「本当ですか?」

「本当だ・・・それを知って私は少し嬉しかった」

「愛している・・・は」

「咲いてるみたいだ」

「花がさかさまにスーパー咲いてるみたいだ」

「花がさかさまにスーパー咲いてるみたいだ」

「ニノさん・・・」

「リク」

「今度海に行こうって約束しましたよね」

「だからまた会える」

「遠いようで近くにいるから・・・」

「リクはきれいな目をしているから小さな私にいつでも逢えるぞ」

「今度逢ったら・・・僕に恋をしてくれませんか」

「それも約束だ」

二人は抱き合って熱い唇づけをかわす。

その時が来た。

夕陽が沈む前にスイッチを押さなければならない。

リクはニノを振りほどく。

「さよなら・・・ニノさん」

「これが・・・恋というものか」

リクはニノのスイッチを押した。

点火・・・。

ニノは飛翔する。

遥か遠い金星に向かう軌道にのって・・・。

美しい・・・ニノ・・・美しいよ。

ニノは小さなリクを見た。

リクは小さなニノを見た。

ニノはさびしい時は空を見上げて・・・地球を見るだろう。

そして・・・小さなリクを捜すだろう。

リクはスーパー望遠鏡を開発した。

二人は・・・アイコンタクトで通じあうのだ。

晴れた日に金星が見えれば・・・。

そして・・・リクは灼熱の金星探索プロジェクトに着手するのだった・・・。

スーパー遠距離恋愛に終止符を打つために・・・。

恋をするのにお金なんて必要ない。

必要なのは勇気だけ・・・。

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2016年3月23日 (水)

外見は二十五歳(桐谷美玲)中身は七十歳(松坂慶子)

「タイトル」の中では「外見は二十歳、中身は六十五歳」のキャッチ・フレーズがそのままだが・・・五年後となって外見も中身も加齢が進んでいる。

ここは・・・手直しするべきだよな・・・手抜き感が醸し出るからな。

まあ・・・そういうチープさが・・・この枠だと言えばそれまでだが・・・。

などと・・少し批判もするわけだが・・・概ね良好の・・・このドラマ。

大河ドラマ「真田丸」の長澤まさみを除いて・・・奇跡の冬ドラマの女優陣も物語の彼方に次々と去って行き・・・残るは桐谷美玲のみである。

最終回も目前で・・・ここで「黄金の七人」とも言うべき・・・今季レビューの主要な女優たちを振り返っておく。

順不同でもいいが・・・ここは年齢順だ。

ダメ恋」の深田恭子(33歳)は東京都出身の1982年生まれ・・・一番のお姉さんである。つまり・・・奇跡の美しさというか・・・ある意味、モンスターだな。しかも・・・黄金の七人の中で・・・一番かわいいと言っても過言ではないのだ。もう・・・語る必要もないが・・・巨乳である。

わたしを離さないで」の綾瀬はるか(30)は広島県出身の1985年生まれ・・・もはやトップスターと言っていいだろう。深田恭子と同じくホリプロで・・・老舗はそれなりにスターを育てていることが分かる。適齢期を越えて生き残りスターとなっているのが証拠である。大河ドラマに主演し、紅白歌合戦の司会もして、主演映画が日本アカデミー賞も受賞する・・・しかも・・・巨乳だ。

真田丸」の長澤まさみ(28)は静岡県出身の1987年生まれ・・・「東宝シンデレラ」であり、王道の美人女優だが・・・ものすごく役に恵まれていたとは言い切れない。怪獣映画とか人気コミックのキャラクターとかリメイクとか・・・結構、製作陣の無能さが目立つ作品が多かったわけである。2011年の映画「モテキ」や2012年のドラマ「都市伝説の女」あたりで・・・ようやく・・・存在感の凄味が伝えられるようになってきたわけである。映画「WOOD JOB! 〜神去なあなあ日常〜」の抜群の美しさを見よ。「真田丸」の怪演で世間が今頃、ギョッとなっているのは・・・世間の見る目がいかに・・・とにかく・・・巨乳である。

「スミカスミレ」の桐谷美玲(26)は千葉県出身の1989年生まれ・・・ファッション・モデル出身の女優だが実は演技派なのである。フェリス女学院大学卒業なので「NEWS ZERO」のキャスターもこなすのである。ある意味、雲の上の存在だが・・・変なCMにも出ていて親しみがある。7人の中央に位置している要の存在だ。所属事務所のスウィートパワーには堀北真希や黒木メイサが一つ上のお姉さんとして君臨しているのでアレだが・・・なんといっても独身なのである。スレンダーだが着やせするタイプだと推定する。

いつ恋」の有村架純(23)は兵庫県出身の1993年生まれ・・・ここから90年代生まれで若手組となる。その苦闘の歴史は何度も触れているのでここには書かない。「あまちゃん」パワーの最大の功績は・・・彼女を光ある世界へと浮上させたことにある。それでも理解できない奴はいるわけだが・・・彼女の驚くべき「スター」としての輝きを多くの作り手たちがキャッチしたことは言うまでもない。所属事務所は広末涼子の「フラーム」である。よくがんばりました。もちろん・・・ナイスボディなのである。

ちかえもん」の早見あかり(21)は東京都出身の1995年生まれ・・・なにしろ・・・「ももいろクローバー」を「ももいろクローバーZ」にしてしまった元アイドルである。その情熱と芯の強さは・・・逆に危うさを伴っている。その上で老舗のスターダストプロモーションである。このメンバーに入っても・・・抜群の存在感を醸しだしているところが凄いのである。スケールが大きいのは間違いなく・・・ついつい・・・周囲もスケールを大きくしようとするわけだが・・・逆にちまちました魅力を発揮することもあるのだった。テレビ東京→NHK→テレビ東京→NHK・・・このアバンバャルドな流れ・・・それだけでニヤニヤできる。もちろん・・・スケール大のスタイルである。

怪盗山猫」の広瀬すず(17歳)は静岡県出身の1998年・・・唯一の十代だが・・・その大物感は・・・他者を圧倒しているくらいだ。北乃きいや姉の広瀬アリスと共にフォスタープラスに所属している。お姉さんたちの切り開いた道をプリンセスとして歩いていくのである。どこまで輝くのか想像もつかないぞ・・・。育ち盛りなのでスタイルについての言及は避けたい。

・・・冬ドラマの黄金の七人がどれだけ・・・未曾有の現象で・・・前代未聞のラインナップだったか・・・些少なりとも御理解いただけただろうか・・・キッドは・・・うれしさのあまりに「殺す気か」とつい言ってしまうのだが・・・今回はもう・・・ほとんど死んでしまった気がしている。

各世代・・・各地域・・・各ジャンルを選りすぐって集結した黄金の七人・・・静岡県!

ああ・・・終わって行く・・・奇跡のシーズンが・・・。

で、『スミカスミレ45歳若返った女・第7回』(テレビ朝日201603182315~)原作・高梨みつば、脚本・古家和尚、演出・今井和久を見た。心臓病で余命いいくばくもない真白勇征(町田啓太)に猫魂を注入し・・・若さを失った如月澄(松坂慶子)・・・。恋人が六十五歳と知って・・・うろたえた勇征は・・・英国留学に逃亡するのだった。澄の願いが成就しなければ完全なる復活を果たせない黎(及川光博)は残った猫魂を使い・・・澄は再び二十歳のすみれ(桐谷美玲)となる。しかし・・・一度、壊れた関係を修復することはできず・・・虚しく五年の歳月が過ぎていったのだった・・・。

若返り前後の四十五歳差は変わらないが・・・この設定は恐ろしいタイムリミットを設定している。

人間の最長寿命は百二十歳前後に設定されていると言われるが・・・日本の女性の平均寿命はおよそ86歳。

遺伝子的な個人差もあるために・・・七十歳はすでにいつ死んでもおかしくない年齢である。

平均寿命までは残り十六年。

もちろん・・・一日24時間のうち2時間だけ老化すると考えれば一年間は一ヶ月の加齢という考え方もある。

だが・・・澄の父親は早世しているのである。

午前十一時になると・・・すみれは寿命が尽きてしまうかもしれないのだった。

まさに・・・美人薄命なのである。

まあ・・・アフリカ大陸には・・・平均寿命が四十歳前後という国家もあるわけだが。

椿丘大学を卒業したすみれは映画を製作・配給するらしい株式会社レイク・フィルムに就職していた。

仕事は宣伝部のよくわからない・・・雑多なアシスタント業務である。

説教するのが趣味の係長に叱責されながら・・・それなりに頑張って業務をこなしているらしい。

人差し指でPCを使った文書も作成できるのだ。

面倒見のいい職場の先輩である河野有紀子(西原亜希)は裁縫が上手すぎるすみれを時々、昭和のお母さんか・・・と思うのだった。

しかし・・・映画製作のような時間の不規則な仕事を午後十一時~午前一時まで完全に不在になるしかないすみれが・・・よく務まったと思うよな。

そこは・・・祖母を介護している設定で乗り切っているらしい。

午後十一時間際に帰宅し・・・澄に戻ってからもスケジュール表作成などの残業に追われるすみれはつい居眠りしてしまう。

夢の中で黎に再会するすみれ・・・。

「黎さん・・・今までどこにいたのですか」

「すみれ様・・・お元気そうで何よりです・・・」

しかし・・・目覚めれば一人・・・。

五年前のあの日・・・澄を再び若返らせた黎は消えてしまったのだった。

すみれは再び与えられたチャンスを大切にしようと・・・夢だった映画の仕事に打ち込んでいる・・・。

勇征への恋心は封印しているらしい。

そんなある日、有紀子に強引に誘われて・・・合コンに参加するすみれ。

そこに現れたのは・・・教師になった勇征と・・・ゼミ仲間の辻井健人(竹内涼真)だった。

五年ぶりの再会に戸惑うすみれ・・・。

大学時代に二人が交際していたことを隠す勇征に少しさびしい気持ちになる。

そのために飲めない酒を飲み・・・酩酊するすみれ・・・。

しかし・・・勇征はそっと囁く。

「大丈夫かい・・・」

「大丈夫れすう・・・」

「そうじゃない・・・もうすぐ十一時だよ」

「え」

一瞬、酔いの醒めるすみれだった。

しかし・・・酔いのために思うように動けない。

「おい・・・お持ち帰りかよ」

「彼女・・・少し気分が悪いようなので送っていきます」

「じゃあ・・・俺が」

明らかにすみれ狙いの年上の男を健人が制する。

「まあまあ・・・ここは・・・奇跡の再会に免じて・・・許してください」

健人もそれなりに社会人として成長したらしい。

「ごめんなさい・・・私・・・タクシーで帰れますから」

すみれは・・・勇征が・・・「如月さん」と他人行儀な態度を示したことに・・・怒りつつ・・・迷惑をかけたくない気持ちを示すのだった。

交錯する澄とすみれの心情・・・。

心の声を担当するのが澄(松坂慶子)なのですみれ(桐谷美玲)が松坂慶子風に演じるセリフがますます際立って行くのである。

すみれを介抱する勇征はその時・・・黎が高層ビルに消える姿を目撃する。

「今・・・黎さんが・・・」

しかし・・・すみれはついに眠りこんでしまうのだった。

勇征はいわゆるお姫様抱っこですみれを抱き上げる。

そこで・・・午後十一時・・・すみれは澄にチェンジするのだった。

勇征は抱えるすみれが七十歳の澄になっても顔色を変えず・・・歩き続ける。

「ここは・・・」

一瞬、目が覚めたすみれは・・・ベッドの上である。

「俺の部屋だよ・・・一番近かったのでとりあえず・・・」

「ごめんなさい」

澄は羞恥で心がいっぱいになるのだった。

なにしろ・・・男性の部屋に入るのも生まれてはじめての経験である。

「安心して・・・僕はとなりの部屋にいるから・・・何かあったら声をかけてね・・・とにかく・・・眠るといいよ」

勇征の昔と変わらぬ誠実で優しい言葉に安堵した澄は・・・眠りに誘われる。

気がつけば・・・朝になっていたのだった。

当然、澄はすみれに戻っている。

大失敗だ・・・と暗澹たる気持ちになるすみれだった。

「真白くん・・・ごめんなさい」

「おはよう・・・すみれ・・・」

昔のように優しく微笑みかける勇征に・・・すみれの胸はときめく・・・。

失態を挽回しようとしたすみれは・・・部屋を掃除しようとして昔、すみれが勇征に贈った「筆入れ」の存在に気がつく・・・。

狼狽するすみれ・・・。

「それより・・・仕事大丈夫かい」

「あ」

出社時間が迫っていた・・・あわてて退散するすみれ・・・。

帰宅したすみれは・・・着替えようとして・・・アクセサリーボックスの・・・「ペンダント」に気がつく。

勇征からのプレゼント・・・甘い恋の思い出の品。

「にゃあ」

飼い猫ジュリに急かされて・・・我に帰るすみれだった。

「いやあねえ・・・もう」

その出来事を大学時代の親友・由ノ郷千明(秋元才加)に話すすみれ・・・。

「へえ・・・運命的な再会かあ・・・ねえ・・・すみれは・・・まだ真白のこと好きなんじゃないの」

「そんな・・・私が一方的に・・・お別れしてしまったのだし・・・」

「どうして破局したのか・・・少しも話してくれないから・・・アレだけど・・・なおさら・・・真白はすみれのこと・・・忘れられないんじゃないの・・・」

「でも・・・もう五年も前のことですし・・・」

「そうかなあ・・・」

千明は悪戯っぽく微笑むのだった。

帰宅したすみれを隣人の小倉夫人(高橋ひとみ)が急襲する。

「私・・・家出してきたの」

「え」

「主人たらひどいのよ・・・」

小倉夫人は夫婦喧嘩をして飛び出してきたらしい。

「すみれちゃん・・・昔の映画をたくさんコレクションしていたでしょう・・・今夜はオールナイトで鑑賞するつもり・・・」

「ええ」

マイペースで家に上がり込む小倉夫人に眩暈を感じるすみれ。

そこへ・・・小倉氏(西岡徳馬)がやってくる。

「あの・・・妻がお邪魔していませんか」

「えええ」

あげくの果てに・・・小倉夫妻は如月家で映画鑑賞を始めるのだった。

午後十一時が迫り・・・慌てるすみれ。

しかし・・・。

「あの女優・・・若い頃のお前に似てるな」

「どうせ・・・今はおばさんですよ」

「いや・・・今でも・・・お前の方がずっと綺麗だよ」

「あら・・・そう」

たちまち・・・仲直りして・・・去って行く小倉夫妻に呆れるすみれだった。

とにかく・・・すみれにとって夫婦生活というものは・・・実感のわかないものなのだ。

知っている夫婦と言えば・・・両親だけなのである。

祖母の介護・・・父の他界による家業の手伝い・・・母の介護・・・気がつけば六十五歳になっていたすみれ。

しかし・・・それからの五年間は・・・目の回るような日々だった。

ただ・・・恋だけは・・・五年前の破局から・・・封印しているすみれだった。

勇征との出会いと・・・短くも幸せだった日々だけが・・・すみれの心の支えなのである。

長年連れ添った夫婦の情愛というものが少し羨ましいすみれ・・・。

そこへ勇征から着信がある。

「昨夜は大変ご迷惑をかけて・・・」

「そんなことはないよ・・・それより・・・君・・・名刺入れを忘れていったよ」

「あ・・・今朝はあわてていたので・・・落してしまったんだわ」

「直接会って渡したいだけど・・・明日の都合はどうかな」

「え」

勇征との待ち合わせ・・・思い出の観覧車を眺めて・・・胸か高鳴るすみれ・・・。

(私ったら・・・何を期待しているのかしら)

桐谷美玲の演技に松坂慶子の心の声・・・この組み合わせのインパクトは・・・なかなかに印象深いな・・・。

癖になるよね・・・。

現れた勇征は・・・前夜のことをわびるのだった。

「君と付き合っていたことを隠してごめん」

「いえ・・・真白さんにも・・・都合があるでしょうし」

「そうじゃないよ・・・すみれとのことを・・・酒の席でからかわれたくなかったんだ」

すみれ・・・と呼ばれて喜びがこみあげる澄/すみれである。

そこへ・・・突然・・・女子校生が現れる。

「ゆうせい~・・・誰、この女」

勇征の教え子の栗原知果(山田杏奈)だった。

「こら・・・教師を下の名で呼ぶなと何度言ったらわかるんだ」

「ゆうせい~つめたい~」

「すみません・・・教え子の栗原です・・・この人は俺の大学時代の同窓生の如月さんだ」

「・・・」

知果は敵意丸出しですみれを睨む。

「すみません・・・こいつを駅まで送り届けてくるんで・・・」

「はい・・・」

喫茶店で待つすみれの元へ・・・勇征が戻ってくる。

「あの生徒・・・神出鬼没で・・・」

「教師も大変そうですね・・・神出鬼没といえば・・・」

「そういえば・・・昨日・・・黎さんにそっくりな人を見たよ」

「え」

「・・・一緒に確かめに行ってみないか」

勇征の提案に同意するすみれだった。

二人がやってくるのを高層階の窓から見下ろす黎。

ふりかえる思わしげな眼差しの先には・・・花瓶に活けられたすみれの花・・・。

フロントにたどりついた二人の前に黎は姿を見せるのだった。

レビューをしながら思うのだが・・・構成は結構アクロバットな展開になっている。

もちろん・・・実に巧妙に仕組まれているのだが・・・少し仕組みが過ぎて・・・ニュアンスを伝えようとすると再現率がすぐに高まる複雑な構成である。

たとえば・・・栗原の再登場へのシーンの運び方がやや不自然だったりする部分も少し気になる。

まあ・・・きっと・・・脚本家は少し苦労したんだな。

もちろん・・・お茶の間的には・・・よどみのない展開なのかもしれない。

黎とすみれ。

すみれと勇征。

勇征と黎という微妙な三角関係の処理に少し迷いがあるのかもしれないなあ。

思わせぶりなのか・・・重要な要素なのか。

そこが分かりにくくなっているような気がする。

「黎さん・・・」

「すみれ様・・・久しぶりです・・・真白様もお変わりないようで・・・」

「黎さん・・・どうして・・・五年間も・・・私とジュリちゃんを残して」

「申し訳あけありませんが・・・この後・・・所要がありまして・・・御用があればアポイントをとって後日にしていただけませんか」

「そんな・・・なぜ・・・連絡を断っていたのですか」

「ここで・・・お話するようなことではございませんし・・・真白様は・・・もう私たちとは無関係な方です」

「俺は・・・」

「では・・・失礼します」

「黎さん・・・」

黎の冷たい対応に戸惑うすみれ・・・。

黎が立ち去り・・・残された二人は顔を見合わせる。

「一体・・・どうして・・・」

「とにかく・・・もう少し話し合おう」

そこへ・・・知果が現れる。

「ゆうせいに近付かないでよ・・・おばさん」

「え」

「栗原・・・」

「あんたなんなの・・・」

「私は真白くんの大学時代の友人で・・・」

「それだけ・・・本当にそれだけなの」

「確かに・・・お付き合いはしていたけど・・・」

「うそよ・・・だってゆうせいにはちっともにあわないし・・・おばさんくさいし・・・本当に同級生なの・・・」

「そうねえ・・・確かに私は少し・・・年寄りっぽいかもしれないわ」

「おい・・・栗原・・・いい加減にしろ・・・すみれ・・・ごめん」

「いいのよ・・・」

「今日は本当にすまなかった・・・この埋め合わせは・・・日をあらためて」

「気にしないで・・・そうそう・・・名刺入れ」

「あ・・・肝心なことを・・・」

あわてて名刺入れをとりだした勇征は・・・名刺入れを落して中身をばら撒くのだった。

すみれの名刺を一枚拾って入手する知果である。

「じゃあ・・・また」

「はい」

知果はすみれを睨みつけて勇征と去って行くのだった。

(若いわねえ)・・・とため息をつくすみれ。

すみれと知果の年齢差は十歳くらいだが・・・。

澄と知果の年齢差は五十五歳くらいなのだった。

すみれは・・・黎の冷たい態度が気になって仕方なかった。

このあたり・・・勇征との再会よりも・・・黎との再会の方にすみれの心が傾いていて・・・それでいいのかと心配になるわけである。

とにかく・・・すみれと勇征のハッピーエンドが月9なら着地点だが・・・ここはなんでもありの枠だからな・・・。

最終回前に・・・恋愛よりも・・・怪奇談の結末の方に重点が置かれるのは微妙なんだよな。

まあ・・・考えすぎか・・・。

ここまで・・・すべてのレビュー対象作品が傑作な・・・このシーズンだけに・・・これも傑作であってほしいと願うばかりなんだな。

できれば・・・怪奇な恋愛談であって欲しいと思うよ。

「いつ恋」と違ってストレートにそうなんだからな。

ロケ現場の仕事に出るすみれ・・・。

「今日はクライマックスの撮影で押しそうだな・・・直帰でいいよ」

「はい」

時間ができたら・・・黎を訪ねようと考えるすみれ。

しかし・・・すみれを尾行する知果。

「あなた・・・学校は・・・」

「創立記念日です」

「ちょっと・・・真白くんに確かめてみるわね」

「やめて・・・私・・・どうしたら・・・ゆうせいに好かれるのか・・・あなたを見て研究したいの・・・今日一日・・・あなたを見学させて・・・」

ひたむきな知果に心が揺れるすみれ・・・。

「しょうがないわね」

親戚の子供の体で見学を許すすみれだった。

「まあ・・・すみれちゃんの頼みじゃしょうがないな」

もちろん・・・すみれの人柄を現場のスタッフは認めているわけである。

知果も大人しく遠くからすみれを監視するのだった。

すみれは真白にメールで連絡する。

《知果ちゃんが・・・現場に来ています》

《すまない・・・放課後・・・迎えに行く》

安堵したすみれは現場の業務をこなす。

スケジュールに会わせて、出演者に対応し・・・スタッフの体調にまで気を使う。

「風邪気味ですか・・・喉飴いかがですか」

「お、ありがとう」

「お疲れ様です・・・これ生姜入りのホットドリンクです」

「さすが・・・すみれちゃん」

「監督・・・ここはこのジュースでお願いします」

「あ・・・タイアップか」

「如月さん・・・例のワイドショーの出演の件なんだけど」

「スケジュールいただけますか」

忙しく働くすみれの姿に・・・知果は心を打たれるのだった・・・。

すみれは紙コップのドリンクを知果に勧める。

「これ・・・生姜入りなんだけど・・・よかったら」

「生姜嫌い・・・」

「・・・ごめんね」

すみれの笑顔に知果は俯く。

「如月く~ん」

「はい」

そして・・・夕暮れ・・・無事に撮影は終わった。

すみれは・・・知果が消えているのに気がつき・・・現場近くの海岸へと捜しに出る。

知果は波打ち際にいた。

「知果ちゃん・・・終わったから・・・一緒に帰りましょう」

「ずるいよ・・・」

「え」

「大人はいいよね・・・ちゃんと仕事して・・・楽しそうで・・・それで・・・勇征にも優しくされて・・・私なんか何にもないよ・・・学校でシカトされて・・・ディスられて・・・夢なんかないし・・・やりたいこともない」

鬱屈していたらしい知果は海に飛び込むのだった。

「知果ちゃん」

あわてて追いかけるすみれ・・・。

波の中で知果を抱きとめるが立ち往生してしまうのだった。

そこへ・・・勇征到着である。

二人を波打ち際まで連れもどる勇征。

「真白くん・・・ごめんなさい」

「いや・・・とにかく・・・無事でよかった・・・」

「知果ちゃん・・・私だって・・・いろいろ・・・悩むことはあるのよ」

「・・・」

「でもね・・・めっ」

「!」

「自分を傷つけるようなことをしちゃいけないわ・・・若いってことは・・・今はまだ何にも持っていなくても・・・これから・・・いくらでも持てるようになるってことなんだから・・・おばあちゃんになったら・・・そうはいかないのよ・・・」

「・・・」

すみれの言葉は・・・知果に届いたようだった。

「教師の出る幕なし・・・だな」

勇征は微笑むのだった。

知果を自宅まで送り届けた二人。

鬱屈を吐き出した知果は落ちついたようだった。

「ありがとう・・・すみれさん・・・先生・・・ごめんなさい」

「栗原・・・お前のいいところは素直なところだと思うよ・・・いつも本当の自分をぶつけていけば・・・いつか・・・わかってくれる友達がきっとできるよ」

最後は教師として・・・言葉をかける勇征だった。

「真白くん・・・いい先生になったのね」

「君のほうこそ・・・久しぶりに聞いたよ・・・君のめっ・・・」

「まあ・・・」

「昔・・・由ノ郷を大学に呼びもどしたり・・・幸坂にも毅然として・・・めって言ってた」

「恥ずかしいわ・・・」

「そんなことはないよ・・・俺は君のめっが大好きだった。教師になったのだって・・・そういう君を見ていて・・・」

「まあ・・・」

「今も君は変わらない」

「私は・・・黎さんがくれたチャンスを無駄にしちゃいけないって・・・ただそれだけで・・・」

「すみれ・・・」

勇征はすみれを抱きしめた。

「え」

「もう一度・・・やり直せないかな」

「ええ」

「今度は君のすべてを受けとめるから・・・」

「えええ」

この流れだと・・・澄・黎エンドじゃないか・・・。

いいのか・・・それで?

その頃・・・黎は枯れたすみれの花を見つめている。

「もう・・・時間がない・・・すみれ様にも・・・私にも」

もちろん・・・すみれが願いを成就しなければ・・・すみれの本来の年齢が・・・「死」をもたらす。

そして・・・そうなれば・・・黎の封印は解かれることはないのである。

そもそも・・・黎と雪白(小西真奈美)はどうして封印されたのか。

はたして・・・すみれの恋は実るのか・・・。

その恋の相手は・・・勇征なのか・・・黎なのか・・・。

謎をはらんで・・・物語はクライマックスへ・・・。

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2016年3月22日 (火)

恋をしているので遠回りして帰ります(有村架純)

清く貧しく美しく・・・そんな二人の恋の軌跡・・・。

うっとりするよねえ。

ファミリーレストランで会話しているだけの恋人たちをずっと眺めていたくなるなんて・・・どんだけ傑作なんだよ。

奇跡のような2016年の冬ドラマの恋のラインナップも・・・いよいよクライマックスが近いな・・・。

いつか、この恋を思い出して・・・ニヤニヤしてしまうんだな。

結局、恋の話というのは・・・ニヤニヤしてしまう・・・一種の麻薬なんだな。

清く貧しくても美しい恋はできるんだよね。

清く貧しく美しい二人が出会えばね。

そして・・・二人なら貧しさは少し緩和されて・・・三人になってもなんとか生きていければ・・・たとえ、車の中で生活して最高のごちそうがみたらし団子でも・・・いい思い出と言えるアイドルが育つ可能性はあるのだ。

何の話だよっ。

とにかく・・・こんなに一週間がせつなくなる月9は久しぶりだったよ。

もう・・・思い出になったからニヤニヤしたいだけすればいいんだものな。

今夜は月がとても青いからね・・・。

で、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう・最終回(全10話)』(フジテレビ20160321PM9~)脚本・坂元裕二、演出・並木道子を見た。清く貧しく美しいという三拍子を揃えるのも大変だよな。ブサイクで金持ちで不潔という三拍子も大変だけどな。いや・・・不潔でブサイクな金持ちは結構いるんじゃないか・・・。ついにお墓を掃除していて「業者の方ですか」と声をかけられたしな。雨上がりだったので結構、装備多めだったからな。リュック一杯の掃除道具を背負ってお彼岸を過ごすからだろう。何の話だよ・・・。いや、林田雅彦(柄本明)の遺骨が下水に流されなかったかどうか・・・気がかりでな。どんな復讐劇なんだよっ。とにかく・・・酷い目にあってきた主人公がハッピーエンドを迎えられて・・・こんなにうれしいことはない・・・。

シマシマの東京タワーを背景に・・・緊急のお知らせを受け取る日向木穂子(高畑充希)・・・。

木穂子と井吹朝陽(西島隆弘)の間には杉原音(有村架純)を通じた交遊関係があったわけである。

「春寿の杜」の船川玲美(永野芽郁)は音と長い付き合いだし、施設長の神部(浦井健治)は社長の息子の婚約者の危機に駆け付けているわけである。

階段から落下して意識不明の音の病院に駆けつける木穂子は・・・当然のように曽田練(高良健吾)に連絡するのだった。

担当医は「脳の神経が損傷している」と物騒なことを言う。

しかし・・・清く貧しく美しい音は・・・身体も丈夫な方なので安心するしかない。

東京に住んでいる以上・・・階段から落ちない人はいないのだ。

なにしろ・・・第一回で・・・六人の男女は待ち合わせをして埠頭に集合するのである。

そういう場面がまだない以上・・・音が復活することは約束されているのである。

イメージだったらどうすんだ。

そういう不安が漂う中・・・「最近、ヘリコプターの音を聞いても動揺しなくなったんだ」と仙道静恵(八千草薫)の家で晴太(坂口健太郎)は練に囁く。

劇団の衣装係として復活した市村小夏(森川葵)が元気を取り戻したことを喜ぶ練。

「晴太・・・ありがとう」

「そこの二人・・・遊んでないで・・・明日までに猿とウサギとパンダを完成しなくちゃなんだから」

「はいはい」

しかし・・・木穂子の電話で家を飛び出す練。

大丈夫なのか・・・三体の着ぐるみが完成するのか不安になるのである。

ここで・・・練と朝陽は気まずく顔を合わせる。

しかし・・・重要なのは・・・船川玲美と練の顔合せなのである。

もちろん・・・恋の亡霊(満島ひかり)が暗躍しているわけである。

ちなみに・・・音の鞄を落して朝陽に自分が音に書いた手紙を読ませるのも彼女の仕業なのだ。

目に見えなくても存在するものは存在するのだった。

生死の境を彷徨う音・・・。

そこへ・・・ひったくられた女・明日香(芳根京子)がやってくる。

「あの・・・階段から落ちた人って・・・」

「君は・・・被害者の人・・・犯人は捕まったって」

「いえ・・・そうじゃないんです・・・ひったくった人は悪くないんです・・・ひったくられたのは本当だけど・・・ちゃんと返してくれたし・・・関係ない人が追いかけだして・・・私たち、止めようとして・・・関係ない人があの人にぶつかって・・・警察に言っても信用してもらえないし・・・あの人に証言してもらえれば・・・」

「彼女は・・・意識不明なんだ」

「そんな」

愕然とする明日香を自販機のコーナーに連れ出す練・・・。

「喉が渇いただろう」

ソフトドリンクを勧める練。

「いえ・・・あの人・・・こんなことになるなんて・・・抛っておいてくれればよかったのに・・・」

俯く明日香・・・。

「いや・・・音ちゃんは・・・抛っておかないよ・・・音ちゃんはそういう人だ」

「・・・」

朝陽は・・・木穂子に告白する。

「彼女のお母さんの手紙を読んだ・・・手紙はもう一通あって・・・それを読めば彼女が僕と曽田さんのどちらを選んだか・・・わかるかもしれない」

「安心して・・・彼女はあなたを選んだから・・・今は・・・恋人として彼女の覚醒を祈って・・・」

「お母さんの手紙・・・曽田さんが・・・北海道まで届けたって話を聞いたことがある」

「そうよ・・・」

「僕だったら・・・そうしたかなって・・・思って・・・」

「しないのが普通よ・・・彼は普通じゃないだけ・・・」

「・・・」

悪い奴が素敵な恋をしたって問題ないのだが・・・ここは清く美しい恋の世界なのである。

貧しくなくても・・・清く美しいことは求められる。

木穂子は・・・朝陽が・・・清く美しくあるために背中を押すのである。

昔の恋人である練のために・・・今の親友である音のために・・・清く美しくあるために・・・。

怒りを含んだ言葉は朝陽の胸を刺すのだった。

長い夜の果て・・・。

すべての準備を調えた恋の亡霊は・・・音に囁く。

「ベイビー・・・私の可愛いベイビー・・・もういいよ」

覚醒する音だった。

「患者さんが意識を取り戻しました・・・」

喜びに輝く三人。

「じゃあ・・・僕はこれで・・・」

練は離脱した。

病室に入る朝陽と木穂子。

「こけちゃった・・・」

「音ちゃん・・・」

「そうだ・・・あの子・・・どうしただろう」

「ひったくりの犯人のこと・・・?」

「違うの・・・ちゃんと謝ったし・・・許されて・・・それなのに・・・私が行って説明してあげないと・・・痛」

「安静にしてないと・・・」

「たぶん・・・」と木穂子は言った。「その件は・・・練が片付けにいったよ・・・」

音が安堵したことを朝陽は悟る。

木穂子の容赦ない「月9なんだから恋こそがすべて」攻撃である。

そして・・・この恋は清く美しくなければならないのだ。

練は明日香とともに・・・ひったくり犯(葉山奨之)が取調を受けている警察署に向かうのだった。

練は音が朝陽を選んだと考えて身を引いた。

しかし・・・音の望むことは練の望むことなのである。

恋の亡霊は・・・素敵な出会いのために・・・悪事を働いた晴太に報いる。

着ぐるみを着た晴太に・・・小夏は靡いていた。

「晴太・・・あんたの言うことは本当か嘘かからないけど・・・私・・・あんたの言うことが嘘だろうが・・・本当だろうが・・・全部信じることにした・・・」

「なんで・・・」

「あんたのこと・・・好きになっちゃったから」

晴太は狼の仮面をかぶって泣いた。

「・・・」

「なんで泣くのよ・・・」

「・・・」

小夏は狼の晴太を抱きしめた。

狼は小夏にキスをした。

「私は赤ずきんちゃん」

小夏は晴太に食べられてしまった・・・。

恋の亡霊は・・・役目を終えた木穂子にも幸せを振る舞う。

かねてから交際していた同じ職場の恋人は木穂子に結婚を申し込むのだった。

長い長い恋の迷路の果てに彼女は結婚というゴールに到着する。

それはそれで祝福するべきことだろう。

そういう意味で・・・天使の一人であった佐引穣次(高橋一生)は「恋の弁当」を入手する。

彼らはみな・・・音の恋の成就のための犠牲者なのである。

そして・・・最大の犠牲者である朝陽は・・・音の退院を契機に・・・人間関係を清算する。

優しさを与えてくれた人に優しさで報いなければ・・・清く美しい人間にはなれないのだ。

「換気しないと・・・」

音はジャーナリスト時代の朝陽の記事の載った雑誌を見せる。

「このこと・・・話していたね」

音は・・・朝陽との関係を良好なものにするために・・・努力を惜しまない。

しかし・・・朝陽はすでに決断していたのだった。

「僕は・・・父親にお見合いを勧められている」

「え」

「結婚となると・・・いろいろとあるからね」

「・・・」

「だから・・・君との婚約は解消する」

「どうして・・・」

「二番目や三番目でもいいなんて言ってすまなかった・・・大切な人に順番なんてつけられないものね」

「朝陽さん・・・私・・・決めたのに」

「愛なんて決めるものじゃないだろう・・・君に無理矢理、決めさせたのは僕だけどね」

「・・・」

「僕は曽田さんみたいに君を愛せないし・・・君は曽田さんを愛するようには僕を愛せない・・・だから・・・僕は君が嫌いになった・・・」

「朝陽さん・・・」

「また・・・一緒にご飯を食べよう・・・今度は四人で・・・」

音は朝陽の示した最高の優しさに涙する。

朝陽は清潔なハンカチを残し潔く去って行った。

音と練の間に・・・「恋」だけが残っている。

恋の亡霊は仕上げにかかる。

この世に残した遺骨を流した憎むべき音の養父の心臓をひとひねりしたのだった。

恋の障害であった優しすぎる婚約者を失い・・・茫然とする音の携帯電話の着信音が響く・・・。

養父の突然の死・・・地獄の北海道に残された養母からの電話である。

音は地獄の養父母に送金を続けている清く貧しく美しい主人公なのである。

そして最後のジャンプ・・・一ヶ月が過ぎ去る。

練は朝陽と結婚する音の幸せを祈っていた。

坂の上から見下ろす町のどこかで・・・音は・・・きっと幸せになる・・・。

しかし・・・いつの間にか、晴太と恋をしていた小夏は・・・最後の矢を放つ。

「音さん・・・どうしているかな」

「便りがないのは無事の報せさ」

「でも・・・頭の怪我はこわいのよ・・・震災の時だって・・・」

「・・・」

小夏はもう・・・震災のショックを乗り越えたのだった。

練は安堵すると同時に・・・不安を感じる。

音に何かあったら・・・と思うと・・・頭が痺れてくる。

なぜなら・・・練は音に恋をしているのだ。

恋の亡霊の最後の犠牲者である井吹和馬(福士誠治)の再就職先は妻の実家の手伝いと決まった。

腹違いの兄に励まされ・・・朝陽は・・・目に見えないものを信じない父親(小日向文世)とのゲームを開始する。

「全員解雇というのは利益を損なうと考えますね」

「どこが損益になるんだ」

「有能な人材は利益を生みますから」

「つまり・・・どういうことだ・・・」

「無能な人間を切って・・・有能な人間は残します」

「一理あるな」

「将来性というものも考慮する必要があります」

「ところで・・・有能と無能を判断するのは誰なんだ」

「もちろん・・・私です」

「なるほど・・・」

「お父さん・・・後継者というものをどう考えるか・・・それも経営者としての有能さの証ですよ」

「先の先を考えれば・・・後継者の後継者も大切だぞ」

「最高の後継者を産む配偶者を確保してみせます」

「それでこそ・・・俺の息子だ」

血は争えないものだ。

最後のピースをはめるために・・・音の無事を確かめるために「春寿の杜」にやってくる練。

恋の亡霊は船川を外出させる。

「あら・・・あなた・・・病院で」

「杉原さんは・・・お元気ですか」

「杉原さんは退職しましたよ・・・お母さんの具合が悪いので・・・北海道に帰るとかで」

「え・・・あの・・・井吹さんは・・・」

「井吹さんは・・・ご令嬢と結婚するそうです」

「・・・」

音は・・・初めて手に入れた自分の城を清掃した。

最後に残ったのは・・・一通の手紙と・・・白桃の缶詰。

音が書いたのは・・・亡き母への手紙だった。

お母さん・・・私は二十七歳になりました。

お母さん・・・私は東京に住んでいますよ。

介護の仕事をしています。

立派な資格も持っています。

お給料が上がって欲しいとか・・・お休みが欲しいとか思うこともあります。

でも・・・がんばって働いて・・・ありがとうと言われると・・・それだけで幸せな気持ちになります。

坂の上から見るとたくさんの家が見えます。

そこにはたくさんの人がいます。

そこで暮らしている人たちのあれやこれやを想像すると楽しくなります。

世界は・・・こわいこともたくさんあるし・・・うれしいこともありますね。

バスに乗っている引越し屋さんとか。

バスに乗っている介護士さんとか。

お疲れ様ですと顔馴染みなので挨拶したりとか。

仔犬に名前をつけたりとか。

お母さん、私は恋をしましたよ。

恋をすると・・・うれしいことは二倍になるし、悲しいことは半分になるよ。

あの頃の私に・・・伝えてほしい。

お母さんが恋しくて泣いていた頃の私に。

いつか・・・大きなトラックを運転している引越し屋さんが。

白桃の缶詰をくれること。

飴をあげたらガリガリかむこと。

だから・・・お母さん・・・この恋はしまっておいてください。

思い出したら泣いてしまうから。

大切にしまっておいてね。

また、手紙を書きます。

じゃあね。

音は手紙を破り捨てた。

手にいれたものを手放すのはさびしいことだ。

しかし・・・思い出があれば・・・音は生きていける。

音はそうやって自分で自分を支えて来たし・・・これからもそうやって生きていける。

音は練にもらった白桃の缶詰を開ける。

とっくに賞味期限は切れているが・・・清く貧しく美しい人間はお腹も丈夫なので平気だった。

音は味わう。

白桃の缶詰は「恋」の味がする。

甘い汁を飲み干すと・・・からっぽの部屋で音は眠る。

思い出がありあまり・・・心は安らかだ。

清く貧しく美しい七年間をくれた養母の顔を思い出す。

受けた恩を返すのは・・・清く美しい生き方そのものだ。

目覚めた音は・・・恋がしっかりと封印されていることを確かめる。

恋の亡霊は・・・音に部屋の鍵を閉め忘れさせた。

仕事を終えて・・・雨の中をラーメン屋の二階にあるアパートの一室にかけつける練。

鍵のかかっていない部屋を開けると・・・からっぽの部屋がある。

からっぽの部屋の何もない広さと・・・何かがあった狭さに胸をしめつけられる練。

思わず・・・音に電話をかける練だった。

「もしもし・・・杉原さん・・・」

「・・・・・・・・何?」

「どこにいるんですか」

「北海道・・・」

「今・・・部屋の前です」

「だから・・・何よ」

「会って下さい・・・月曜日に・・・あのファミレスに行きますから」

音は電話を切った。

恋の亡霊は泣く。

夜の雨は涙の味がする。

「柿谷運送」のトラックは走る。

女社長の神谷嘉美(松田美由紀)は仙台発苫小牧行フェリーにのって・・・たどり着く北海道八羽根町(フィクション)への「荷」を手配したのである。

採算割れの場合は練の給与から天引きするだけだ。

しかし・・・七年の歳月が・・・彼女の経営者としての手腕を磨きあげたことは間違いないのだった。

景気がよかろうとわるかろうとなんとかするのが優れた経営者というものなのである。

こうして・・・練は・・・「ガスト」八王子宇津木店のようなファミリーレストラン「QUEST」に到着する。

時間が止まったような北海道・・・ウエイトレスまでが・・・あの日のままのように見えるが別人だ。

音はあの日のコートでやってきた。

音はあの日に戻るつもりなのだった。

だから・・・音はまだ・・・練に恋などしていない覚悟なのである。

「無理を言って・・・すみません」

「・・・」

姿勢を正す・・・練。

「この度はお悔み申し上げます・・・」

「・・・ご丁寧にどうも・・・」

「何か・・・食べませんか」

「コーヒーで・・・」

ウエイトレスは注文を受ける。

「お母さんの具合・・・どうですか」

「足がちょっと・・・」

「大変ですね」

「別に・・・」

コーヒーが運ばれてくると二人はウエイトレスに感謝する。

「ありがとう」

「どうぞ」

「ありがとう」

「ごゆっくり・・・」

「やはり・・・何か注文しましょう・・・俺はお腹がすいてるし・・・簡単なもので・・・一応、二人前注文しますね」

「・・・」

「あの日は・・・何を注文したんでしたっけ・・・」

「・・・」

「大根おろしのハンバーグと・・・デミグラスソースのハンバーグで・・・」

ウエイトレスが注文を確認していると・・・思わずつぶやく・・・音。

「トマト・・・」

「え」

「なんでもない・・・」

「じゃあ・・・大根おろしとデミグラスで・・・」

ウエイトレスが去った後で文句を言う音。

「トマトソースだったやん」

「あ・・・注文しなおしましょうか」

「いいよ・・・もう」

思い出には厳しい音なのである。

しかし・・・トマトソースの味を思い出した練は・・・蘇る記憶を繰り出すのだった。

「あの時・・・杉原さんは・・・東京では家具屋で迷子になるって思ってましたよね」

「そんなこと・・・」

「迷いましたか」

「六本木ヒルズで・・・」

「六本木ヒルズになんて行くんですか」

「そりゃ・・・六年もいれば・・・」

「見上げちゃいますよね」

「見上げちゃいますね」

「運送会社の先輩はビルを見上げると田舎者だってばれるぞって言ってました」

「そんなこと・・・お腹がすいた犬だって見上げるじゃない」

「見上げますね」

「佐助なんて東京生まれの東京育ちでしょ」

「ですね・・・」

「佐助・・・元気ですか」

「昨日・・・お風呂に入れたら暴れました」

「顔に水がかかるの・・・嫌いなんですよね」

「佐助・・・杉原さんに似てきました」

「曽田さんに・・・似てるでしょう」

「いいえ・・・こんな感じだから・・・」

「それはただの曽田さんの変顔ですよ・・・」

ついに笑ってしまう音。

「今度・・・佐助を連れてきますね」

「・・・」

「北海道は遠くないですよ・・・新幹線だってあるし」

「・・・」

今にも爆発しそうな音の心の扉。

「迷惑かもしれませんけど・・・」

「迷惑なわけないやん・・・今日だって来てくれてうれしいし」

「返事もしてもらってないし・・・」

「好きやで・・・好きなんやわ・・・それはほんまに・・・」

「・・・」

「本当は・・・お母さん・・・東京に帰りって言ってくれたんや・・・でも・・・そんなお母さん・・・一人にできへん」

「・・・」

「それにな・・・井吹さん・・・すごく・・・優しい人やった・・・」

「・・・」

「だから・・・東京には住めん・・・」

「・・・」

「佐助の写真・・・送ってくれる」

「はい」

「佐助の写真を飾って・・・毎日・・・眠る前に見たら・・・安心できる」

「・・・」

「振り出しにもどっても・・・」

そこへウエイトレスがやってくる。

恋の亡霊の最後のマジック。

「大根おろしのハンバーグと・・・トマトソースのハンバーグです」

奇跡の衝撃波に眩暈を感じる二人。

「あ・・・」

「こんなことってある?」

「運が良かったですね」

「こんなにちょこっとした運なんて・・・」

「振り出しになんか・・・戻ってないですよ」

「え」

「杉原さんは・・・七年間も東京で頑張って・・・目には見えなくてもたくさん・・・思い出を作ったでしょう。僕は杉原さんがどんなに努力したか・・・ちゃんと覚えています」

「・・・」

「みんなの心の中に杉原さんの七年間は残っていますから・・・振り出しになんか・・・戻れませんよ」

音は思い出してしまった。

大切な恋を思い出してしまった。

だから・・・泣いてしまうしかないのだった。

「俺は何度でも来ますよ・・・会津に一緒に行く約束だって果たしてないし・・・猪苗代湖で白鳥のボートに乗せたいし、じいちゃんの種の大根を食べてもらいたいし・・・道がありますから・・・道があって・・・約束があって・・・ちょこっとした運があれば会えますから・・・」

「・・・逢えます」

「音さん・・・あなたが好きです・・・」

「はい・・・」

「・・・はい」

「・・・」

「食べましょう・・・二つに分けますね」

「はい」

音は好きな人にサービスされて身も心も温まる。

「どうぞ」

「美味しい・・・」

「はい」

恋人たちの窓の外で・・・愛の亡霊は白い雪と化す・・・。

店員は素晴らしいカップルを見つめる。

もう・・・帰っちゃうの・・・。

もう少しイチャイチャしていてもいいですよ・・・。

したっけ・・・。

店を出た二人は空を見上げた。

「北海道はまだ雪が降るんですね」

「はい」

練は音の手をとった。

音は微笑んだ。

二人はあの日のようにトラックに乗り込む。

練は音にキスをした。

「・・・」

音は世界からあらゆる苦悩が消えていく気分を味わう。

「出たら・・・右に行って左・・・」

「近道ですか」

「・・・遠回りよ」

練はアクセルを踏んだ。

音が地獄に落ちたら練は手を差し伸べる。

練が地獄に落ちそうになれば音は抱きしめる。

そして・・・ハンバーグを半分ずつ食べて・・・いつか・・・仲間たちと埠頭で再会する。

その前に・・・二人は鮮やかなネオンの下で・・・。

恋の果実を味わうだろう。

二人は元気だし・・・ついに大切な人に巡り合ったのだから。

これからは清く貧しく美しい人生を二人で生きていくのだ。

一話のファミリーレストランのシーンを見直すと・・・そこに二十歳そこそこの音がいて驚く。

そして最終話の音が大人として美しく成長しているのに驚くのである。

女優・有村架純の底力にトレビアンである。

結局・・・道端の雑草のようなたくましさこそが・・・人を幸せに導くという話なのである。

世の中なんて・・・間違っているのが大自然なのだ。

結局、恋だけが人を救う唯一の手段なんだな。

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2016年3月21日 (月)

彼と彼女の祝言は御伽草子のようにめでたしめでたしとはいきませんでした(長澤まさみ)

ドラマチックだったなあ・・・。

フリがあってオチがあることが劇的ということである。

一世を風靡した「だまれ!小童」で・・・おそらくほとんどの人が知らない室賀正武をここまで強烈にアピールして・・・真田昌幸の幼い頃からの宿敵だったというフィクションを浸透させていく。

国衆というのは地縁・血縁で結ばれているが・・・室賀の出自は屋代氏であり、その本流は武田に北信濃を奪われた村上氏である。

武田氏の信濃侵略は信濃国衆の一員である真田の裏切りによって一挙に進行する。

村上一門の高梨家は真田嫡流である真田信綱と娘の婚姻によって安全保障を得る。

おそらく高梨内記はその一族である。

結局、上杉氏を頼って村上一門は越後に落ちるわけだが・・・高梨や室賀・・・そして出浦などは武田に臣従して真田配下となるわけである。

しかし・・・あくまで信濃先方衆(外様)としての結びつきであって・・・真田と室賀は同格という気分は残るわけである。

真田も海野氏の一支族に過ぎないからだ。

この真田昌幸と室賀正武の関係性を・・・史実音痴の人にもなんとなくわからせることが脚本力なのである。

阿吽の呼吸で乱世を切りぬけてきた二人・・・時には協力し、時には敵対して・・・なんとか・・・ここまでやってきた。

その果ての・・・家康による昌幸暗殺指令であり・・・むざむざと殺されるわけにはいかない昌幸。

さらに言うならば・・・独立勢力として力を持つために隣接する室賀領は直轄したいという野望もあるわけだ。

実際に真田と室賀は前年に小競り合いをしている。

一方で・・・次男・信繫の最初の婚姻の相手が真田の里の地侍の娘であるという史実が「祝言」というフィクションの舞台を提供する。

天才的な戦略家である信繫であるが・・・まだ若者である。

殺伐とした乱世に育ちながら・・・真田の長の一族として甘い部分も持っている。

父親の非情な策略や実際の戦闘で「鬼」になりきれない部分があるのをここまでくりかえしフリとして描いているのである。

三角関係として真田家当主の次男、里の地侍の娘、准一族の家臣の娘が展開されている。

ここまでのストーリー展開から信繫(18)、堀田の娘(16)、高梨の娘(14)といった年齢設定が推測できる。

堀田の娘の現実的な側面や・・・高梨の娘の夢想的な側面が・・・信繫の内面を語っている。

信繫が何故・・・本来相応しい家柄の高梨の娘ではなく・・・身分の低い堀田の娘に魅了されるのかといえば・・・つまり、信繫自身が夢想家だからである。ないものねだりなのだ。

信繫が大人の仲間入りをするための祝言の裏で・・・凄惨な陰謀が繰り広げられる。

ある意味で信繫は父や兄、そして重臣たちの画策する「真田家の陰謀」の蚊帳の外に置かれるわけである。

その修羅場に・・・夢想家と現実家の結婚からはみ出した・・・夢見る少女が迷いこむのである。

なんという皮肉・・・。

なんという作劇・・・。

ものすごく計算されつくした展開なんだな。

「真田丸」の構成を普通に考えていくと四分構成になることが分かる。

①真田家の勃興・・・第一次上田合戦まで。

②豊臣家臣従。

③関ヶ原・・・第二次上田合戦まで。

④九度山隠遁・・・大阪の陣。

序盤の最終章が近付き・・・信繫は大人の階段を登る。

それが「祝言」と「暗殺」で彩られるのである。

ふりまくり・・・おとしまくる・・・痺れるフリオチだ。

まあ・・・今回・・・一番のサービスは・・・昌幸正室の山手殿の出自のヒントの提出である。

つまり・・・京都の公家の娘ということは・・・菊亭晴季、正親町実彦、三条家周辺といういくつかの実家候補に絞られて・・・この世界では宇多頼忠説は消え・・・真田昌幸と石田三成は相婿同志ではない関係となるのである。

今後の展開を予想する上で結構・・・重要だよなあ。

ううん・・・ゾクゾクするのお・・・。

で、『真田丸・第11回』(NHK総合20160320PM8~)脚本・三谷幸喜、演出・田中正を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は真田昌幸の家臣で後の信繫の舅の一人となる高梨内記と屋代秀正の兄で小県国衆の室賀正武の二大イラスト描き下ろしでお得でございます。主人公の義父と・・・主人公の父の宿敵・・・ついに描き下ろし・・・ですな。まあ・・・「だまれ!小童!」の人は残念ながらさよなら描き下ろしシリーズでございますね。マップ的にはまさに・・・一期一会でございました・・・。「秀吉」の家康・・・よかったなあ・・・。宍戸正信と二人でもち焼いて・・・食って・・・。ついに暗躍を開始する闇の狩人・本多正信・・・。まあ・・・昌幸には煮え湯を飲まされ続けるわけで・・・しかし・・・それでも大久保家の没落を招くまで・・・家康の汚れ仕事を引き受け続ける感じが香り立ち・・・素敵でございました。そして・・・緊迫の暗殺シーン。大河名物田舎踊りで盛り上がる祝言の場と・・・静寂の囲碁対決。本多正信の放った刺客を瞬殺する出浦昌相の忍びの刀術・・・。生温かい流血と冷たい碁盤上の石・・・。腹を探り合う二人を見つめてその時を待つ三人の討手。波紋を投げかける幼いきりの無作為の行動。見せかけの武装解除の後の暗器の光。乾坤一擲の一打を許さぬ手裏剣の一撃。浅手に終わる若者の二手。愛娘に動揺しつつも致命傷を追わせる熟練の三手・・・そして武士の情けを感じさせる同族よりの止めの介錯。そして主人公を現場に引きだすヒロインの爆発する感情。これは大河史上に残る名場面でございましたよねえ・・・。

Sanada011天正十一年(1583年)、上田城築城開始。真田昌幸は上田・丸子城の丸子三左衛門を攻略。周辺の禰津氏、屋代氏、室賀氏を臣従させる。蒲生氏郷と織田信長の次女・冬姫夫妻の嫡男・秀行生まれる。四月、賤ヶ岳の合戦にて柴田勝家は羽柴秀吉に敗れ北ノ庄城で自害。秀吉は浅井三姉妹を入手。上杉景勝は越中国の佐々成政と対抗するために秀吉と同盟。直江兼続山城守を称する。織田信雄と徳川家康が同盟を締結。六月、矢沢頼綱が昌幸に改めて臣従。八月、北条氏直に徳川家康の次女・督姫が嫁ぐ。天正十二年(1584年)三月、信雄が三家老を粛清。家康は尾張に出兵。徳川軍の酒井忠次が羽柴軍の森長可を撃破。沖田畷の戦いで有馬晴信・島津家久連合軍が龍造寺隆信軍を撃破。隆信は討ち死に。四月、尾張では羽柴軍が犬山城に、織田・徳川連合軍が小牧山に進出し対峙する。長久手にて羽柴軍の羽柴秀次・堀秀正・池田恒興・森勢を徳川軍が撃破。恒興、長可は討ち死に。五月、戦況不利な秀吉は滝川一益・一忠父子を起用し尾張国蟹江城を攻略。六月、長宗我部元親が讃岐を平定。羽柴軍、織田徳川連合軍の和平交渉が開始される。七月、家康は尾張清州城に在陣。上田城内において真田昌幸は室賀正武を暗殺。室賀一族と本家筋の屋代一族は信濃国を脱出し家康に臣従する。正武の弟・秀正の子・屋代忠正は後に安房北条藩一万石の大名となる。羽柴秀吉は大坂城に帰還。九月、末森城の戦いで前田利家が佐々軍を撃破。十月、伊達政宗、家督を継承。

家康が軍団を率いて尾張に出兵したために・・・信濃国は再び空白地帯となっている。

上田城築城を開始した真田昌幸は真田忍軍によって西の諏訪、南の佐久、北の善光寺に対峙する結界を張っていた。

信濃国の徳川領を預かる本多正信は配下の大和忍びを使って謀略を仕掛けるが・・・真田忍びの底知れぬ力の前に苦戦を強いられる。

「真田の忍びは得体が知れぬ・・・」

正信は甲斐の新府城で嫡男の正純にこぼす。

正純は父親譲りの無表情のまま・・・ほとんど口を動かさず答える。

「今・・・柳生の里から剣術使いが参っております」

「ほう・・・」

「柳生本家のものではありませんが・・・なかなかの達人と見ました」

「ふん・・・」

「築城に使う木材を運ぶ人夫に検分役としてまぎれさせ・・・上田に遣わしてはいかがかと・・・」

「それでどうなる」

「真田忍びは一騎当千のものだらけ・・・誰でも良いので挑ませるのです」

「それは・・・もう策でもなんでもないのう・・・」

「手詰まりでございますゆえ・・・」

正信は室賀正武を使った暗殺の失敗を思い出す。

室賀一族の中に真田に通じるものがあり・・・結局・・・無惨な結果となったのである。

「何もやらぬよりましか・・・」

柳生九兵衛は賑わう上田城下に入った。

城はほとんど完成しており・・・城下町も活況を呈している。

九兵衛は柳生の里で剣技を学ぶと同時に忍びの心得を習得している。

柳生忍びもまた・・・「気」を使う。

九兵衛はすでに自分が監視されていることを知った。

(面白い・・・腕試しと行こうか)

九兵衛は・・・監視者に向かって軽く殺気を放ち・・・気を引いた。

そのまま・・・川辺へむかって歩きだす。

監視者は誘われるように九兵衛を追いはじめる。

九兵衛は釣り上げた獲物を人気のない方に誘導していく。

「さて・・・この辺りでよかろう・・・一手・・・所望したい・・・拙者、大和の国の修行者で柳生九兵衛と申す」

「・・・」

監視者は答えない。

「名を名乗られよ」

「命を落すことになるが・・・よいかな」

「ははは・・・勝負はしてみなければならぬもの・・・」

「霧隠の才蔵じゃ・・・」

しかし・・・才蔵は姿を見せない。

九兵衛は監視者の気配が消えたことを知った。

「なんだ・・・つまらぬの・・・」

九兵衛は仕方なく元来た道を戻ろうとする。

しかし・・・道は消えていた。

「おや・・・」

周囲にいつの間にか霞みが立ち込め始めている。

「面妖な」

九兵衛は背後を振り返る。

河原にも靄が立ちこめている。

突然、殺気を感じた九兵衛は思わず抜刀し、跳び下がった。

着地して構えようとした九兵衛は思わず叫び声をあげる。

「うわ・・・」

そこに地面はなかった。

九兵衛はいつのまにか山中に導かれていたのだ。

川と思っていたのは谷間だった。

九兵衛は今の今まで断崖絶壁に立っていたのだ。

そして・・・今は虚空に身を躍らせている。

一瞬の後、墜落した九兵衛は即死した。

谷底には川が流れていた。

その河原に九兵衛は無惨な骸を晒す・・・。

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2016年3月20日 (日)

武士道は永遠に不滅です(亀梨和也)ファンタスティックにありがとう(広瀬すず)

「武士道」の起源を特定するのは難しい。

平安貴族に対抗する武士階級を根とするか・・・。

それとも神話時代の豪族や将軍に遡上するべきか・・・。

このドラマにおける武士道が準拠するのは「武士道/新渡戸稲造」であるが・・・それは「士族」の凋落に伴う一種のノスタルジーを漂わせる。

新渡戸稲造は武士の象徴として「切腹」と「仇討ち」を持ちだす。

どちらも・・・維新政府が禁じる旧時代の風習である。

つまり・・・「制度」にとって排除するべき「悪事」を回顧しつつ美化するのが新渡戸稲造の態度なのである。

それは・・・冷静に考えれば無意味であるが・・・観念の世界では心を震わせる毒を持っている。

すべての人間関係を「主従関係」として変換すれば・・・「主人の命令があれば自ら命を断ち、主人の復讐のためにはあらゆる法令を無視するもの」は「理想の従者」なのである。

その驚くべき・・・「主人にとって都合のいい考え方」は・・・個人主義の時代に・・・愚かなものたちを魅了するパワーを秘めているのだった・・・。

結局・・・おのれをむなしくすることは・・・楽だからである。

異存のあるものは依存性の高い薬物の常用者を見よ。

・・・だじゃれかよっ。

で、『怪盗  山猫・最終回(全10話)』(日本テレビ20160319PM9~)原作・神永学、脚本・武藤将吾、演出・猪俣隆一を見た。世界の不備に気がつくのは若者の特権である。欲しいものが入手できないことは・・・心に不満を生み出す。混乱する世にあってはその欲求不満を解消することは有能なものには比較的容易であると言える。ドサクサにまぎれて自由度が高いからである。しかし・・・公序良俗の抑圧が強い平穏な社会では・・・その不満は・・・沈潜し・・・時々、小さな爆発を起こすだけである。「英雄」たちは・・・そういう心のはけ口である。けれど・・・「制度」が「フィクション」を縛りだせば・・・たちまち「英雄」たちは限りなく「凡人」となっていく。そして・・・人々の心は死ぬのだ。このドラマはそういう「危険性」を仄かに窺わせる。脚本家はおそらく面白おかしい物語を描きながら激しく鬱屈しているものと思われる。

素敵なヒーローを描けば描くほど・・・その姿は幼稚になっていくからである。

大人たちに精一杯反抗した悪童を最後に癒すのは少女。

なぜならば・・・女子の精神年齢は常に男子より高いという幻想があるからなんだな。

とにかく・・・現代における「怪盗」はそういう予定調和に飲み込まれることでしか存在を許されないのだった。

まあ・・・それは・・・凄く悪いことではないのかもしれないが・・・。

視聴者からの疑問にドラマの登場人物が答えるという形式のお遊びから始るこのドラマ。

視聴者参加型の体(てい)であるが実際に「視聴者からのお便り」があってもなくても成立する内容であることを指摘しておく。

そもそも・・・ドラマというものは役者を作った「やらせ」なのである。

「やらせ」が悪いなんて言うのは・・・ものすごく真面目な人だと考える。

「お茶の間を欺くスタイル」が濃厚なこのドラマ・・・。

最終回までに・・・「山猫チーム」のメンバーの動向は・・・。

怪盗探偵・山猫(亀梨和也)・・・腹部銃創で絶対安静。

魔王こと高杉真央(広瀬すず)・・・路地裏のカフェ「STRAY CATS 3号店」で焼死。

マダム・宝生里佳子(大塚寧々)・・・路地裏のカフェ「STRAY CATS 3号店」で焼死。

雑誌記者の勝村英男(成宮寛貴)・・・実は結城天明の手下の暗殺者カメレオン。

悪徳警官の関本修吾警部(佐々木蔵之介)・・・拘束中の北浦警察署から脱走。

謎の女・セシリア・ウォン(中村静香)・・・カメレオンに銃撃され死亡。

・・・となっており、急遽、臨時メンバーが召集される。

魔王の同級生でハスキーボイスのアイドル・垣内結菜(伊藤沙莉)である。

路地裏のカフェ「STRAY CATS 4号店」で山猫と悪徳警官そしてアイドルは「視聴者からのお便りにDJスタイルで答えていく。

「山猫は・・・盗むけど奪わないそうですが・・・細田政生(塚地武雅)の母親である芳子(市毛良枝)を突き飛ばすなど暴力を行使しているのはいかがなものでしょうか?」

「あれは・・・芳子が勝手にふっとんだのです」

「ですよね~」

「・・・おいっ」

「日本人の国籍を持つ姉がいるのにどうしてセシリアは台湾人なんですか」

「腹違いだからじゃね」

「世界には帰化という国籍変更の手法があってだな」

「・・・おいっ」

「山猫はどうして失禁するんですか」

「失禁ではなく射精かもしれません」

「夢精もあったよね」

「おもらしでおねしょじゃねえのかよ」

「取れ高OKです」

「おいおいおい」

広域特殊窃盗犯対策本部の狂犬である犬井克明(池内博之)は悪徳警官の経歴を調査するために警視庁公安部の資料室である警察歴史館に向かう。

一方・・・霧島さくら刑事(菜々緒)は謎の黒幕・結城天明の屋敷を山猫が再び襲撃する事態に備え、警官隊と警備に向かう。

しかし、さくらたちは結城天明の私設警備部隊によって邸内への侵入を拒絶されてしまう。

仕方なく邸外警備をするさくらたちに囮の老山猫を宛がい、邸内への侵入を果たす山猫と悪徳警官。

邸内には結城天明を守護する百人の用心棒がいるが・・・格闘の奥義を会得する山猫と悪徳警官は難なく突破に成功する。

山猫はスパイ養成学校でエリート教育を受け「達人」の域に達していたし、悪徳警官は秘密警察の教官レベルの技能を持っているのだ。

ドラマでは特に説明はないが・・・おそらくそうだと思われる。

「武士道」の背景には・・・「武者修行」という素養がある。

現代では失われた「命がけの訓練」が人を超人と為すのである。

たとえば「手刀」で「岩」を砕く域に達する鍛錬である。

「砂」から「砂利」・・・「砂利」から「石」と段階を経て「手」を「刀」とする修行では・・・「手」を失くすか・・・その域に達するかという選別が行われる。

本来、特殊な技能というものは・・・そういう生死を分ける選別の果てに生まれるものだ。

山猫はそういう「教育」の中で成長し・・・心に狂気を育ててきた。

山猫の音痴、失禁、盗癖などは・・・その精神の歪みの発露である。

「武士道」における「仇討ち」は忠義に基づく復讐の肯定である。

「汝の隣人を愛せよ・・・右の頬を撃たれたら左の頬を差し出せ」というキリスト教的博愛精神による奴隷主義では否定される「復讐」がここでは肯定される。

山猫は金庫室に・・・悪徳警官は結城天明の部屋へと二手に分かれたチーム山猫。

山猫はカメレオンに出会い・・・「仇討ち」のシークエンス(場面)に突入する。

「また・・・あなたに逢えてうれしいです」

「カメレオン・・・お前には何度もチャンスを与えた・・・」

「いつから・・・私がカメレオンだと・・・」

「お前の記事を読んだ時からだ・・・お前の記事の中で引用される武士道の翻訳は・・・組織の中で運用されるものと同一だったから」

「なるほど・・・」

「もっとも・・・カメレオンというコードネームは・・・セシリアに教わったのだが・・・」

「彼女も素晴らしい工作員でしたね」

「細田は友であり・・・セシリアも友だ・・・友の仇は討たなければならない」

「私に勝てると思っているのですか・・・」

「山猫が飼い猫に負けるわけがないだろう」

「おやおや」

格闘戦に突入する山猫とカメレオン。

しかし・・・暗殺技能に特化したカメレオンの腕は山猫を凌駕する。

「拳銃など使わなくても・・・あなたを殺すことなど簡単なのです」

「ところで・・・知っているか・・・セシリアは・・・二人の女の命の恩人だということを」

「ほう・・・」

「魔王にかかれば・・・お前の部屋のテレビ画面なんか・・・いくらでも捏造できるのさ」

「なるほど・・・」

「セシリア姉妹を殺したお前は報いを受けなければならない」

「無敵の私に報復など無理です」

「知っているか・・・この部屋には音響装置があることをそして・・・俺は耳栓をしている」

「なに・・・」

「やれ」

(アイアイサー)と山猫カーで魔王が応じた。

音響兵器モラシテナイヨアイコトバハアタリマエダノクラッカーが発動し・・・直撃を受けたカメレオンは行動不能に陥る。

山猫はカメレオンの拳銃を奪い、弾丸を仇の腹に射込んだ。

「ひでぶ」

「わかるか・・・俺とお前の違いが・・・」

「・・・」

「俺の方がイケメンだ」

「誰の評価ですか」

「冗談だ・・・俺は命を奪わない」

「とどめをささなかったことを後悔しますよ・・・あなたが私を殺さなかったことで多くの人命が失われることになる」

「どうせ・・・人間はいつか死ぬし・・・殺された人間は運がなかったという話さ」

「あははは」

山猫は金庫室の地下に潜入した。

しかし、再び発動する警備システム。

「どうなってんだ」

(電子戦に突入しているわ)

「閉じ込められたぞ」

(敵のシステムの中枢を特定中)

「排気装置が稼働している・・・このままでは酸欠死する」

(システムの隔離場所を発見!)

山猫カーのすずはマダムを振り返る。

「屋敷の警備室で直接アクセスしないと・・・止めても行きます」

「私についておいで・・・」

「里佳子さん・・・」

特に説明はないがマダム里佳子もまた・・・なんらかの組織の元工作員だった。

即死の可能性のある神経麻痺銃を使って手薄になった邸内の警備室を襲撃するマダム。

「マジシャンじゃなかったんですか」

「私はくのいちよ・・・」

「ジョブチェンジですか」

「ゲームの話はそこまでよ」

すずはついに・・・警備システムを完全に制御した。

「おそいじゃねえか・・・」

「計算通りよ」

「危機一髪だったじゃないか」

「想定内よ」

「死ぬかと思ったぜ」

「ファンタスティック(生と死の境界線)!」

「にゃあ・・・」

地下室の扉の向こうには広大な地下倉庫が広がっていた。

そこに待っている結城天明。

「どうやら・・・今度は実体のようだな」

「待ッテイタゾ・・・ヤマネコ」

「正体を見せろ」

「武士ノ魂ヲ獲レ」

天明は・・・刀剣を山猫に授与した。

「おっさんは・・・どうした」

「アレハ・・・軍門ニ降ッタ」

「情けない奴・・・」

「真剣勝負ダガ・・・コレハ・・・ツマルトコロ・・・オマエガ切腹スルノト同ジコト・・・」

ここから「切腹のシークエンス」である。

「つまり・・・敗北は自ら望んだ死ということか」

「主ノタメニ命ヲ捧ゲヨ」

しかし・・・山猫は結城天明の仮面を切断する。

中身は悪徳警官だった。

「なんだ・・・また・・・裏切ったのか」

「いいや・・・私は最初から・・・結城天明の命令で動いている」

「結城天明なんて・・・いないんだろう・・・二十年前・・・すでに・・・死にそうな老人だったんだから」

「いや・・・ところが・・・ユウキテンメイは実在している・・・おい・・・魔王・・・警備システムに今から言うコードを入力しろ」

悪徳警官は「バルス」と叫んだ。

(入力した)

秘密の扉が開き・・・電子装置に繋がれた結城天明の屍が現れる。

(お化け屋敷・・・みたい)

「十年前・・・国家予算をつぎこんで完成した・・・人工知能への人格転移システムだ」

「無駄遣いすぎだぞ」

「これにより・・・結城天明先生は有機から無機になったのだ」

「じゃあ・・・ムキテンメイじゃねえか」

「必要最低限の防衛予算の運営という敗戦国ならではの経営戦略により・・・我が国は・・・富を蓄積した・・・国民がどんなに不平不満を持とうが・・・日本で生まれることは・・・世界の多くの民の垂涎の的である」

「・・・」

「もう・・・最高を求める必要はなかった・・・凋落を防ぎ・・・現状を維持することが最適というゲーム戦略しかない」

「そんなこと・・・誰が決めるんだよ」

「象徴としてのスメラミコト、一部の特権階級、そして愚民たちを守護するムキテンメイ様だ」

「結局・・・電脳の奴隷か・・・」

「いいじゃないか・・・幸せならば・・・」

「俺は結局・・・ムキテンメイの駒として・・・お前の指示に従い・・・ムキテンメイの計画する現状維持の手伝いをしていたってことか」

「そうだ・・・そしてお前の使命は終わった」

「それを決めるのは俺だ」

「いや・・・お前にはできない・・・お前にできるのは・・・盗むことだけ・・・奪う意志がないものに許されるのは賜れた死を甘受することだ」

「嫌だ」

「山猫・・・切腹せよ」

「嫌だ」

「では死ね・・・お前は私を殺すことができない・・・父であり師であり友である私を・・・しかし・・・私はお前を殺すことができる」

「・・・」

「所詮・・・お前は武士道人形なのだ・・・お前にはコアがない」

「いや・・・死なばもろともという手があるにゃ・・・」

「そこかっ」

山猫は悪徳警官を刺した。

「刺し違えればいいのだ・・・コアなんてなくてもな」

山猫は切腹体制に移行する。

「だめよ・・・」

「・・・」

「山猫・・・あなたは人形なんかじゃないわ」

「・・・」

「私・・・変わったもの・・・あなたの示した道・・・あなたの行動・・・あなたの言葉で生まれ変わったもの・・・」

「・・・」

「わかるでしょう・・・人形には人間を変えることなどできない・・・人を変えられるのは人だけよ・・・」

「・・・」

「私にはあなたが必要なの・・・」

「・・・」

「私のありがとうの気持ちを・・・もっとあなたに伝えたいの・・・」

銃声を聞きつけた警官隊が邸内に突撃。

さくらは・・・半死半生のカメレオンを確保する。

「さくらちゃん・・・」

「先輩・・・」

「こんな僕でごめんね」

「あなたが何千人殺していようと・・・私の愛する人であることには変わりありません・・・でも・・・刑事としてあなたを逮捕します」

「・・・」

漸く到着した狂犬は・・・魔王とマダムを逮捕する。

「山猫はどこだ・・・」

しかし・・・山猫と悪徳警官は消えていた。

「まったく・・・逃げ足の速いやつだ・・・」

「怪盗探偵ですもの・・・」

「言っておくが・・・国家を裏から支配する結城天明などという荒唐無稽な存在については・・・警察は関与しない・・・お前たちは窃盗の共犯として起訴してやる」

「私・・・未成年ですけど」

「日本には・・・悪い子を矯正するシステムが実在する」

「・・・」

こうして・・・一連の山猫事件は未解決のまま・・・捜査が終了した。

「どうして・・・ですか」

「上の命令だ・・・」

「荒唐無稽な上ではなくて・・・」

「そういうものはどうでもいい・・・俺たちの仕事は犯罪者を逮捕することだ・・・だから俺はこれからも山猫を追い続ける」

「・・・ですね・・・公僕ですから」

「あの男・・・警察病院を脱走したそうだな」

「荒唐無稽な存在を拘束することには無理があるんですよ」

「お前も・・・荒唐無稽な恋なんて・・・あきらめろ・・・婚期を逃すぞ」

「ご忠告感謝します」

狂犬は警視庁に・・・さくらは都下の所轄に移動が決まっていた。

「山猫は・・・どうなったんでしょう」

「さあな・・・世界をまたにかける大泥棒にでもなったんじゃないか・・・」

一年間の更生期間を経て未成年更生施設である少年鑑別所を出所する魔王。

春の空気を吸い込んで・・・。

「シャバの空気は美味いね・・・」

もちろん・・・天才ハッカーは更生したりはしないのだ。

返却された携帯端末にマダムからの着信がある。

(カフェ「STRAY CATS 5号店」本日オープン)

魔王は指定された場所へ向かう。

薄暗い店内は閑散としていた。

魔王は少し不安になる・・・もしも・・・誰もこなかったらどうしようか。

しかし・・・それは杞憂だった。

遠くから聴こえる音程のはずれた歌声・・・。

魔王は待ち切れずに扉を開く・・・。

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Ky010ごっこガーデン。永遠の路地裏のカフェ「STRAY CATS」セット。

エリ楽しい夢の時間はあっという間にすぎるのです。いろいろなものになりたい夢多き若者のための・・・。怪盗になりたい人も探偵になりたい人も満足させる存在・・・。それが怪盗探偵なのでス~。現れないのに現れるのは透明人間でス~。鬼ごっこに夢中になって逸れてしまっても大丈夫・・・夜になれば一人、また一人とこの店に集うのです。大切な山猫先輩を待って・・・大人のカクテルを飲めば・・・幸せというものの正体が何か・・・きっとわかるでしょう・・・

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2016年3月19日 (土)

そしてみんな逝ってしまった(綾瀬はるか)

アニメ「サイボーグ009」(1968年)の第16話「太平洋の亡霊」は脚本家・辻真先のオリジナル・ストーリーである。

老いた科学者が想念を実体化する超技術を開発し・・・太平洋戦争の戦死者たちが・・・太平洋に沈む兵器と共に実体化し・・・「あやまちを二度とくりかえしません」と誓った人々が「誓い」を破ってばかりなので制裁を開始するという話である。

「反戦」という主題だったと言われる。

「反戦」という言葉は「戦争反対」を意味するわけだが・・・つまり「平和の尊重」である。

「平和の尊重」をないがしろにするものをスーパーナチュラルな武力で鎮圧しようとするわけである。

ここに・・・「平和のための反体制運動」というものが「闘争」となり「テロル」となり「戦争」となっていく「悲しみ」がある。

一方でこの話には「誓い」とか「約束」を反故にされたものの「痛み」というもう一つの主題も潜在している。

昭和初期に日本人として生まれたものは・・・大人たちのために酷い目にあっている。

彼らは敗戦時の少年少女であり・・・戦争責任から解放されている。

それ以外の大人たち・・・生き残ったものたちは「命」の大切さを説きながら平和国家を建設する。

しかし・・・「一億玉砕」を信じて戦地に散ったものたちにとって・・・そもそも全員が「裏切り者」である。

心あるものは・・・どんな綺麗事を言おうが後ろめたかったはずだ。

「え・・・俺たちを特攻させておいて・・・降伏しちゃうの・・・」なのだ。

今や・・・そういう無責任な人々もみな・・・ほとんどが土に帰った。

地獄というものがあれば・・・彼らはみな・・・待ちかまえている亡霊たちに・・・地獄の責苦を与えられているはずである。

「そうか・・・よかったな・・・平和な国になって」

「美味しいものをたくさん食べたのだな」

「愛し合って子孫を繁栄させたのだな」

「俺たちにはなにもなかったけれどな・・・」

目の前で起こる・・・あってはならないことに・・・人々は・・・ほとんど無力だから仕方ない。

だが・・・自分たちが愚かで情けなくあさましい存在であることを思い出す時はかならずやってくるのだ。

で、『わたしを離さないで・最終回(全10話)』(TBSテレビ20160318PM10~)原作・カズオ・イシグロ、脚本・森下佳子、演出・吉田健を見た。「特別な猶予などというものはありません」と陽光学苑の創設者である神川恵美子(麻生祐未)に「死刑」を宣告された土井友彦(三浦春馬)はついに「絶望と言う名の終着駅」に到着する。いつか・・・「サッカー選手」になれるかもしれない・・・とこの期に及んで希望を抱いていた友彦は・・・ついに「真実」にたどり着く。自分が「サッカー選手」になることはない・・・ということである。発達障害者である友彦にとってそれは・・・受け入れ難い不条理だった。

癇癪を起こし・・・幼児退行をした友彦は・・・介護人である保科恭子(綾瀬はるか)にも怒りをぶつけるのだった。

友彦にとって恭子は疑似的な母親だったからである。

そんな友彦に・・・恭子は・・・「三度目の提供」を告知するしかないのだった。

提供者にとって「三度目」はほぼ「終了」を意味するが・・・例外的に「四度目」が終了となるものもいた。

「三度目」と「四度目」の間には「生ける屍」のような「人生」が待っているのが普通だった。

友彦の中に・・・恭子に対する複雑な思いが炸裂する。

「介護人を・・・別の人に変わってほしい」

恭子は・・・介護人として・・・経験を積んだ女である。

友彦の心の揺らぎは理解できる。

恭子は・・・友彦の心に自分に対する「愛」さえ見出すことができるのだ。

「自分の最後の苦しみを見せたくない男」と・・・「苦しみを分かち合いたい女」との葛藤である。

恭子は・・・事務的に・・・友彦の希望を否定する。

「もう・・・提供まで時間がないの・・・これから・・・新しい介護人との関係を構築するのは・・・お互いにとって難しいと思う」

「四度目があったらどうする・・・俺は・・・自分じゃトイレにも行けなくなって・・・」

「私は・・・」

そんなことは苦にならないし・・・最後まで友彦といたいと言いたい恭子。

「とにかく・・・今日は帰ってくれ」

「トモ・・・」

「俺だって一人になりたい時はある」

「それじゃ・・・一緒に暮らすのはやめるから・・・介護人を続けさせて」

「・・・」

もちろん・・・介護人を辞めて・・・ただ暮らすという「愛の形」もあるが・・・今の友彦はただ混乱しているだけなのだと恭子は悟り・・・部屋から出て行くのだった。

(トモは・・・すぐに落ちつくだろう・・・)

夜の街で自分の部屋へと向う恭子は・・・疼く思いに耐える。

(私たちはいつも酷い目に会うけれど・・・私はいつも耐えることができる)

恭子の姿を龍子(伊藤歩)が見かけたことに気付くこともなく・・・彼女は進む。

(耐える他にできることなどないのだから)

夜の闇よりも深い・・・恭子の心の暗がり。

「顔色が悪いね・・・もしかして・・・提供が開始されたのか」

恭子が介護を担当する提供者の加藤(柄本佑)はいつも穏やかだ。

「いいえ・・・少し・・・寝不足なだけです」

「心配ごとか」

「心配しても仕方がないことですけど」

「そうだね・・・僕たちはある意味・・・心配ごととは無縁の存在だ」

「・・・」

「でも・・・ああ・・・よかったと思いたいよね」

「何をですか」

「そうだね・・・この世界に生まれてきたこと・・・を」

「・・・そんなことあるんでしょうか」

「さあ・・・僕には・・・まだないけどね」

「・・・」

「でも・・・今・・・こうして・・・君と話していることだって・・・そんなに悪くはないさ」

加藤は微笑んだ。

「この世界に生まれて来たことがそんなに悪くなかった・・・と」

「どう思うかは・・・人それぞれ・・・さ」

恭子は俯いた。

言葉とは裏腹に・・・加藤は恭子に・・・提供者同志の親しみを伝えているのだった。

提供者は「もうすぐ終了する」という絶対的な共通点で結ばれているのだった。

恭子は回復センターの友彦を訪ねる。

部屋に不在の友彦・・・。

そして・・・ゴミ袋には・・・友彦の宝物が捨ててあった。

食堂にいる友彦を発見する恭子・・・。

「清掃が終わったら教えてください」

他人行儀な態度で・・・恭子の存在を無視して提供者仲間と雑談をする友彦・・・。

部屋に戻った友彦は宝物が戻されているのを知って激怒する。

「みんな・・・ゴミだよ」

「でも・・・これは・・・大切なものでしょう」

恭子は・・・友彦や美和の作品を示す。

「結局・・・何の役にもたたなかった・・・」

「昔・・・美和が宝物を捨てた時・・・トモが拾ってとっておいたでしょう」

「・・・」

「今は怒って・・・捨てたけれど・・・後で惜しくなるかもしれないって・・・」

「もう・・・後はないじゃないか・・・」

幼児のように駄々をこねる友彦だった・・・。

恭子は友彦の宝物だったものをゴミ袋に集める。

サッカーボールからはエアが抜けていた。

友彦と同じようにそれはもはや「残骸」なのかもしれなかった。

恭子はゴミ袋を自分の車に積んだ。

「のぞみが崎」の神川家の屋敷に美術部顧問の山崎次郎(甲本雅裕)が訪れていた。

「そう・・・子供たちの絵画教室を開いているの」

「ええ・・・彼らはなろうと思えば絵描きになれますからね・・・教え甲斐があります」

山崎は人間の描いた「提供者」の絵を披露する。

「彼らに・・・提供者の話をしてみました」

「あらあら・・・」

「提供者の子供たちの生活を・・・」

「問題になりませんか・・・」

「まあ・・・どの世界にも・・・理解のある方はいますから」

「私に提供を奨める医師から聞いた話ですが・・・」

「提供を拒絶なさっているそうですね」

「脳を取りかえることができない以上・・・長寿はいろいろと問題を起こします」

「認知症の増加・・・ですか」

「それでも・・・いつまでも生きていたいという人間も多い」

「そうですね・・・僕も・・・絵を描けない身体になったら・・・提供を受けるかもしれません」

「始ったものはいつか終わる・・・そしてもっと恐ろしいことが始るものよ」

「あなたにとって・・・このシステムの終焉は悲願だったのでしょう」

「でも・・・それを見届けたいからといって提供を受ける気にはなりません」

「・・・」

友彦は薬物の摂取を拒絶し・・・回復に問題が生じていた。

人間の係員は介護人の恭子を叱責する。

「提供まで一週間です・・・必要な処置を怠らないでください」

「もうしわけありません」

恭子は頭を下げた。

消耗した身体をベッドに横たえる友彦。

「なぜ・・・お薬を飲まないの・・・そんなに私といるのが嫌なの・・・それとも提供そのものを拒絶したいの」

「わからない・・・もう・・・終わりにしたいんだ」

「私はいやだ・・・友彦といたいの」

恭子は友彦の手を握る。

「俺に四度目までねばれ・・・っていうのか」

「そんなの・・・わからないよ・・・」

「・・・」

「私だって・・・どうしていいのか・・・わからない」

友彦は冷たい視線を天井に向ける。

夜の街で家路に着く恭子を・・・龍子がキャッチする。

「保科恭子さん」

「・・・龍子先生」

「前に一度・・・ここであなたを見かけたの・・・」

「・・・」

「会えないかと思って待っていたのよ」

「・・・」

「少し・・・お話できないかしら・・・」

恭子は龍子を見つめる。

提供者に寄り添おうとする人間。

しかし・・・提供者ではない人間を。

彼女が善意で何かをする度に・・・友彦は酷い目にあってきたわけだが・・・。

龍子は朗らかに生きている。

提供者ではない・・・ただの人間だから・・・。

恭子は用心深く・・・龍子を観察する。

龍子は・・・恭子に提案をした。

恭子は「慈悲深い人間の言葉」を友彦に伝えた。

「龍子先生が・・・サッカーの試合を見に来ないかって・・・嫌だったら・・・」

「行くよ・・・」

恭子は悟った。

恭子は母親のように友彦を愛す。

友彦にとって恭子は愛人だったが・・・恋人ではなかった。

友彦にとっての初恋の人は・・・龍子先生なのだ。

美和が人間の美術教師に憧れたように・・・。

友彦は・・・人間の体育教師に恋をしていたのである。

恭子や真実のように同胞である提供者を愛することができないものはいるのだった。

「そう・・・」

「でも・・・それって規則違反になるんじゃないのかい・・・」

「大丈夫・・・私たちにとってもう・・・人間の規則なんて意味ないもの」

「・・・」

「私いつ提供の通知が来ても構わないわ・・・」

「恭子が・・・提供するの」

「何言ってるの・・・私だってあなたと同じ提供者じゃない」

「俺と・・・同じ」

「何言ってるの・・・一緒の施設で・・・ずっとあなたと育ったんじゃない」

「そうか・・・恭子は・・・特別なのかと思っていた」

友彦は恭子と過ごした日々を思い出した。

「いつも・・・迷惑ばかりかけて・・・ごめん」

「馬鹿ね・・・迷惑だと思ったことなんか一度もないよ」

青空の下・・・人間の子供たちはサッカーに熱中していた。

引退した選手のような顔で・・・競技観戦に夢中になる友彦。

「龍子先生は今は・・・サッカーの仕事をしているのですか」

恭子は龍子に素朴な質問をした。

「いいえ・・・今日はお手伝いにきただけ・・・」

「じゃあ・・・お仕事は何を・・・」

「私は文章を書いているの」

「小説家なんですか・・・」

「いいえ・・・ノンフィクションライターよ」

「・・・」

「私は・・・陽光学苑に来る前から運動をしていたの」

「サッカーとか・・・バスケットボールとか」

「いいえ・・・社会運動・・・提供者の権利を擁護しようという・・・」

「?」

「でも・・・考えが甘くて・・・失敗してしまった・・・それから・・・私は提供された人のインタビューを・・・」

「え」

「提供者から贈り物をされた人に話を聞いて・・・本を書いたの」

「・・・」

「無関心な人もいるし・・・話をするのを嫌がる人もいた・・・人間もいろいろだから・・・」

「マダムのような・・・」

「ええ・・・あの人たちのような慈善は・・・私には無理だったけれど・・・」

その時・・・子供たちの父兄の一人が子供の名を呼んだ。

「ひろき・・・」

友彦の顔が驚きに歪む。

「ひろき・・・」

「あの子の父親も・・・インタビューに応えてくれた一人なの・・・」

「へえ」

「あの人の胸には・・・広樹くんの心臓が移植されているの・・・」

「・・・」

提供者にしかわからない衝撃が恭子を襲う。

「彼は・・・移植相手に興味を持っていて・・・私に調査を依頼した・・・私は調べて・・・驚いたわ・・・あの広樹くんが提供者だったから・・・」

「・・・」

「彼は・・・提供者に感謝していると言った・・・そして・・・子供に広樹と名付けたの・・・広樹くんにもらった命だからと・・・」

「・・・」

「あなたたちにとっては・・・だから・・・なんだという話かもしれないけど・・・私は・・・その時・・・救われたのよ」

恭子は人間の恐ろしい顔を見た。

「友彦くん・・・生まれてきてくれて・・・ありがとう・・・ありがとうございました」

しかし・・・友彦は微笑んだ。

「よかったですね・・・先生は僕たちに・・・世界は広いって話してくれた・・・サッカー選手の話をしてくれた・・・本当のことを話してくれて・・・ありがとうございました」

「友彦くん・・・本当にごめんなさい・・・何もしてあげられなくて・・・」

「いいんです・・・先生は人間としてできるだけのことをしてくれた・・・僕は提供者として・・・やるべきことをします」

「ありがとう・・・友彦くん」

恭子は微笑んだ。

(友彦がそれでいいと言うのなら・・・それでいい)

友彦は母である恭子の手をとった。

友彦はまだまだ・・・子供だったからである。

最後に龍子に会えたことで友彦は落ちつきを取り戻していた。

恭子は友彦の母親として龍子に感謝さえした。

「恭子・・・俺・・・思い出したことがある」

「何・・・」

「恭子がずっとそばにいてくれたこと・・・そして・・・恭子がいなくなってから・・・恭子にずっと会いたかったこと・・・」

「・・・」

「だから・・・今・・・俺・・・望みがかなっている」

友彦は恭子を抱きしめた。

世界で一番大切な提供者を・・・。

恭子は美和の言葉を思い出した。

「わたしを・・・離さないでよ・・・」

その時・・・恭子と友彦はまるで人間同志が愛し合っているように見えた。

そして・・・その日がやってきた。

「もしも・・・あなたが望むなら・・・終了させることはできるよ」

「じゃあ・・・がんばって終わらせないと・・・恭子だって・・・そんなことしたくないだろう」

「大丈夫・・・私は慣れているから」

提供者に四度目を迎えさせないこと・・・それは介護人の恭子にとって日常的なことだった。

人間に贈り物をする天使が必要以上に苦しむことはないと恭子は考える。

恭子はこのシステムの優等生なのだ。

そして・・・友彦の提供は終了した。

恭子は一人の天使を安楽死させた。

恭子は友彦の遺品を乗せた車で夜を走る。

提供者に弔いの儀式はない。

しかし・・・人間のように愛しいものに別れを告げても誰も咎めないだろう。

恭子は思い出の道をたどる。

青春時代を過ごした「コテージ ブラウン」・・・幼年期を過ごした「陽光学苑」・・・。

最愛の天使である友彦と過ごした日々・・・。

そして・・・友彦は夢にまで見た広い世界に旅立った。

恭子は友彦の魂が宿っているサッカーボールを川に流す。

川は海に繋がり・・・海は世界に繋がっていると誰かが教えてくれた気がした。

私の愛しいベイビー

あなたと過ごした時間は永遠に思えた

どうか私を抱きしめて

ずっとずっと私を離さないで

叶わないと知っている夢を

ずっとずっと見続けて

ボールが見えなくなるまで恭子は橋の上に佇んだ。

時々・・・「友彦への声援」を叫びながら・・・。

やがて・・・珠世(馬場園梓)も終わり、花(大西礼芳)も終わった。

加藤も終わる。

加藤の遺品の眼鏡を宝箱に入れると蓋が閉まらなくなってしまった。

恭子は・・・宝物を持て余した。

しかし・・・恭子に提供の通知が来ることはなかった。

恭子の信念は揺らいでいた。

「なるべく長く生きていたい」

恭子は真実に告げた。

けれど・・・孤独な日々は恭子に苦痛を与え始める。

雨の日・・・胸にあふれる寂寥・・・。

聖なる使命を果たした天使たちは・・・みんなどこかで集っているのだろうか。

なぜ・・・私一人が残されてしまったのだろう。

恭子は不安に襲われる。

人間でもなく・・・提供者でもない・・・世界にたった一人になってしまったもののように・・・。

恭子は・・・何かを求めて・・・「のぞみが崎」にやってきた。

そこに・・・人間でもなく提供者でもない老女が待っていた。

「何かを探しにきたの・・・」

「先生・・・」

「お久しぶりね・・・宝箱を大切にしてくれていて・・・うれしいわ」

「先生は・・・何故宝箱をくださったのですか」

「身体を奪われてしまうあなたたちに・・・誰にも奪われないものがあることを・・・教えたかったの・・・」

「それは・・・魂ですか」

「さあ・・・それをなんと呼ぶのか・・・私にはわからない」

「でも・・・みんな居なくなってしまいました」

「・・・」

「なんだか・・・誰もとりにこない忘れものをあずかっているみたいな気がします」

「あなたは・・・優等生だから・・・」

「・・・」

「私がなんのために生まれて来たか・・・私にはわかりません・・・私は人間でもないのに・・・提供をすることもなく・・・もう・・・他人に介護されるような年齢まで生きてしまいました」

「・・・」

「それでも・・・こうして生きています・・・」

老女は恭子にすがりついた。

「・・・」

「ねえ・・・恭子さん・・・家にいらっしゃいませんか」

恭子はためらって・・・それから答えた。

「・・・では・・・後ほど」

「きっと・・・いらしてくださいね」

神川恵美子を見送った恭子はガラクタの集積された浜辺から海を見る。

恭子は子供のいない恵美子にとって・・・後継者候補なのかもしれなかった。

恵美子の恐ろしい孤独を引き継ぐもの・・・それは恵美子の儚い欲望。クローンの妄執。

しかし、生き続けることの残酷さが・・・恭子の胸に渦巻く。

寄せては返す波は恭子を誘うように潮騒を奏でる。

「私・・・みんなのところへ行きたいな・・・友彦にもう一度逢いたいの・・・ねえ・・・いいでしょう」

恭子は・・・波打ち際から一歩足を進める。

「もう・・・いいでしょう・・・そっちへ行って」

その時・・・朽ち果てたサッカーボールが足元にまとわりついた。

「まあだだよ」

ボールは囁いた。

恭子は水の流れを感じる。

川の流れ。雨だれ。海の波。そして流れる涙・・・。

美しく冥い水が世界を覆っていた。

生と死の境界線を恭子は歩き出す。

その足跡を波が洗う。

いつか・・・世界は終わる。

その日まで世界はあり続けるのだろう。

ただ・・・それだけのこと。

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2016年3月18日 (金)

杉下右京はじめての土下座(水谷豊)亡霊たちのテロル(高岡早紀)

まだ余韻なのか・・・。

天満屋の女将のお玉(高岡早紀)だからな。

「ちかえもん」のない木曜日はさびしいよねえ・・・。

しかし・・・相棒は「テロリズム」が大好きだよな。

今回は一種のお遊び回でもあるよな。

長期シリーズのドラマにおけるゲストが別人で登場する件についてのおふざけが展開するのだな。

まず・・・亡国内閣が凄いことになっているな。

内閣総理大臣の玄間(国広富之)である。「Season7 第15話」に登場する仏文学翻訳家・宇佐美悦子(岸惠子)の使用人・榊敏郎のそっくりさんなんだな。

玉手副総理(小野寺昭)は片山雛子(木村佳乃)の父親で「劇場版」に登場した片山擁一のそっくりさんだ。親戚筋なのかもしれん。

菊本農林水産大臣(石橋蓮司) は「season4 第2話」に登場する成華大学心理学部教授の春日秀平に瓜二つなのだ。まあ、かなり加齢しているがな。

そして・・・愛の心中テロリスト・カップル・・・警察学校訓練生の伴野(瀬川亮)が「劇場版Ⅲ」の鳳凰島で殺害された即応予備自衛官の岩代純也・・・そして元公安調査官の鴨志田慎子(高岡早紀)は「Season 3 第7話」に登場する世田谷区立南図書館司書の辻村めぐみ・・・潜入捜査中の変名かもしれんがな・・・なのだった。

これだけ固めてくると・・・わざととしか思えんな。

で、『相棒・season14・最終回(全20話)』(20160101PM9~)脚本・輿水泰弘、演出・和泉聖治を見た。メイン・ライターとメイン・ディレクターによる一種の幕引きである。警視庁特命係の杉下右京(水谷豊)と法務省から警視庁へ出向中のキャリア官僚・冠城亘(反町隆史)の変則的な関係のコンビが解消し・・・新たなる「相棒」の誕生が宣言されるわけである。要するに・・・「season14」は全編が冠城亘の人物紹介だったのだ・・・。

ある事件で・・・裁判所の令状執行を阻止する捜査妨害を行った右京と亘は謹慎処分となる。

小料理屋「花の里」でのんびりする二人に女将の月本幸子(鈴木杏樹)は苛立つのだった。

「のほほんとしちゃって・・・懲戒免職になったらどうすんですか」

まあ・・・右京は幸子の実質上の愛人というかパトロンだからな・・・おいっ。

一方、突然の辞令により、「警察学校」の教官となることになった鑑識課の米沢守は「警察大学校」で教官養成の研修を受けた帰り道・・・不審な訓練生を発見する。

米沢の鼻は硝煙の香りを嗅ぎつけるのだった。

不審な訓練生・伴野に逃げられた米沢は・・・射撃訓練場にかけつけ・・・大量殺人事件の発生を知るのだった。

唯一生き残った訓練生・金井塚(小柳友)の証言により・・・「テロに屈しないという政府に対するテロを宣言した伴野は・・・教官や訓練生たちを射殺し・・・実弾と拳銃を持って逃走した」ことが判明する。

「テレビドラマではすぐに腹部を撃つが・・・防弾チョッキを着ている可能性がある以上、俺は頭を撃つ」と言って射殺しまくる伴野だった。

「閣僚たちの本気度を試すために標的にするし・・・それを守ろうとすれば警官も殺害する・・・ただし一般市民は巻き込まない」というメッセージを残すために・・・金井塚だけは射殺を免れたらしい。

伴野は警察が対応に戸惑う間に文部科学大臣と警護の警察官を射殺する。

警察官訓練生による閣僚殺害という前代未聞の事態により・・・警視庁は威信を問われるのだった。

テロの標的となることを惧れた菊本農林水産大臣は健康上の問題を理由として辞表を提出する。

玉手副総理は「テロに屈して逃げるのか」と詰る。

しかし・・・玄間総理大臣は「去るものは追わない姿勢」で辞表を受理する。

事態を静観するしかない特命係だったが・・・亘の元へ公安調査庁時代の同僚である鴨志田慎子(高岡早紀)から連絡が入る。

鴨志田は伴野と個人的な交友関係があり・・・事件の直前に電話連絡があったと言う。

日本の秘密警察の一つである公安調査庁の調査官である鴨志田は米国の中央情報局での研修中、バーで世界放浪旅行中の伴野と知りあい一夜を共にしたのだった。

伴野の姉は五年前に東京で起きた地下鉄爆破テロに巻き込まれ死亡したという。

「テロの被害者はいつも一般市民だ」と伴野は嘆いていたらしい。

「何故・・・俺に話す・・・」と亘。

「ピンチなんでしょう・・・昔の男に恩を売るのが私の主義なのよ」

「弱みを握るのが・・・だろう」

亘は右京に事情を話し・・・右京は捜査一課の伊丹刑事(川原和久)を巻き込むのだった。

捜査一課は・・・伴野と鴨志田の密会の現場に鴨志田に扮した女性警官を送り込み、包囲による犯人確保を試みる。

しかし・・・あらかじめ・・・状況を読んだ伴野は焼身自殺を敢行するのだった。

その一部始終を素晴らしいインターネットの世界の自称ジャーナリストが空中から撮影していた。

「テロとの戦いはテロを呼ぶ・・・それでもテロと戦うというのなら・・・政治家たちは覚悟をみせろ・・・」と叫ぶ伴野の最後の姿はインターネット上で公開され・・・それなりに人気となるのだった。

「燃える男ヤバし」

「バカじゃね」

「死ね・・・と言う前に死にました」

どのようなテロも所詮、他人事である。

テロル(恐怖)というものは鈍感な人間にとっては・・・なんていうことはないことだからな。

事件は解決したかに見えたが・・・亘は鴨志田がすでに公安調査庁の職を辞していたことを知り不審を感じる。

一方、右京は・・・伴野の部屋で発見された残弾の数に拘っていた。

「最初にあった銃弾と・・・使われた銃弾・・・そして残った銃弾の数が合いませんねえ・・・」

「誰かが食べちゃったという可能性はないですか」

「・・・銃弾を食べる幽霊ですか・・・それは興味深い」

やがて・・・鴨志田がテロ被害者の支援団体の一員であることが判明する。

支援団体を指示する有力者の一人が玉手副総理だった。

右京は・・・生き残った訓練生・金井塚と伴野がグルであることを疑う。

亘は鴨志田と伴野がグルだったことを疑う。

二人はそれぞれのターゲットを追跡し・・・支援団体のイベントで合流するのだった。

イベント会場に姿を見せる玉手副総理を花束に見せかけた絞首具で襲う鴨志田。

しかし・・・金井塚は・・・絞首具を解除し・・・玉手副総理を救命するのだった。

「これはいったい・・・」

「狂言テロの匂いがしますね」

「狂言テロ・・・」

「テロリストたちは・・・目標に近づくために手段を選んではいられないということです」

玉手副総理の命を救った英雄となった金井塚は総理大臣への面会権を入手したのだった。

しかし・・・すべてお見通しの右京さんによって・・・家宅捜査のブラフをかまされた金井塚は証拠を隠滅するために・・・ゴミ出しをする。

もちろん・・・すかさず回収する特命係である。

「素人にも困ったもんですねえ」

ゴミの中から副総理襲撃計画書が発見されるのだった。

そして・・・金井塚のPCからは・・・玉手副総理とのメールのやりとりが復元される。

「お粗末でしたねえ・・・」

こうして・・・鴨志田、金井塚、玉手副総理がグルだったことが判明する。

玉手副総理の弁明・・・。

「首相暗殺・・・弔い合戦・・・選挙に大勝利、私は次期総理・・・自分を信じてアイムソーリー」

「ラップか」

「ピンチをチャンスにフライハイ!」

「副総理が総理を殺すなんて・・・テレビ朝日の願望ですか」

「反体制報道も手詰まりなんですよねえ」

金井塚の告白。

「テロって最高」

「あなたは単なる人殺しですよ」

「おいらは立派なテロリスト」

「立派なテロなんてありません」

右京の激昂終了である。

鴨志田のポエム。

「伴野を心から愛しているの・・・でも・・・私は末期癌で余命宣告されて・・・彼は一緒に死のうと言ってくれた・・・どうせ死ぬなら・・・最後に花を飾りたい・・・私は工作員として・・・総理大臣暗殺という・・・晴舞台を用意してみたのです」

「ちかえもん・・・か」

「ちかえもん・・・です」

「つまり・・・テロではなく・・・情死だったと・・・」

「素敵でしょう・・・」

「・・・」

しかし・・・時間が余ってしまったので黒幕を追及する右京。

「暗殺用花束は・・・見事な作品でしたね」

「お褒めに預かって・・・うれしいね」

「なぜ・・・こんなことを・・・」

「テロ対策において・・・日本はあまりに無防備だ・・・国民がすぐそこにある危機を認識するために・・・日本はもっと危険な国にならなくてはならない。総理大臣を暗殺されたらさすがに日本人も目を覚ますだろう・・・」

菊本農林水産大臣は趣味の生花を自慢したかったらしい・・・。

「困りましたねえ・・・閣僚による首相暗殺・・・まるで子供っぽいテレビ朝日の願望まるだしじゃないですか」

「思いきって厨二病と言ったらどうだ・・・」

「さすがに・・・そこまでは・・・」

「どうせコメンテーターが学歴詐称しているのに気がつかない局じゃないか」

「それはこの局だけではありませんよ」

「お高くとまってるから揶揄されるのさ」

「でも・・・スミカスミレは素晴らしいドラマですから・・・」

こうして・・・恐ろしい首相暗殺計画は・・・特命係のいつもの活躍で幕を閉じたのだった。

お手柄に免じて・・・右京の処分は減俸。

亘は法務省からの退官処分となり・・・再就職先として警視庁を宛がわれた。

新人警察官として・・・亘は米沢教官の訓練生となる。

そして・・・研修終了後・・・特命係に配属されるらしい・・・。

鑑識課への米沢復帰を待ちながら・・・相棒シリーズは続いて行くのだった・・・。

関連するキッドのブログ→相棒~元日スペシャル~英雄~罪深き者たち・season14

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2016年3月17日 (木)

さよならバースデイ(桐谷美玲)

「年の差」は恋愛において重要なファクターと言えるだろう。

「愛があれば年の差なんて」というところが充分に問題になっているわけである。

これには「結婚適齢期」というものが関係してくる。

「愛の結晶」を得るためのの「出産」の問題もある。

ただし・・・そこを追求しすぎると「愛」の定義が揺らぐわけである。

例によって・・・ドラマの作り手たちの「心」が「深層」あるいは「浅瀬」で連結されているために・・・かぶりまくる今季のドラマ・・・。

「スミカスミレ」においては・・・45歳差カップルが化け猫の妖力で成立する趣向だが・・・実在する45歳差カップルにとっては・・・何が面白いのかという気分もあるわけである。・・・まあ、面白いわけだが。

お義父さんと呼ばせて」では蓮佛美沙子(25)と遠藤憲一(54)が29歳差カップルで主軸を演ずる。

男性優位社会では「女房と畳は・・・」以下略である。

さらに言うと「家族ノカタチ」は香取慎吾(39)と上野樹里(29)が主軸だが・・・西田敏行(68)と水野美紀(41)という27歳差カップルも絡んでいる。

基本、「女房と畳は・・・」なのであるが・・・そういう意味で「スミカスミレ」は異端の存在と言えるだろう。

だから・・・「化け猫」というスーパーナチュラルな存在が介入してくるわけである。

今回・・・「正体」がバレて・・・「愛」が終わった感じになるのは・・・おかしいと感じる人もいるだろうが・・・。

二十歳の男性が六十五歳の女性を性的対象として見れないというのは・・・おそらくノーマルの範囲なのではないだろうか。

二十歳の女性が六十五歳の男性を「くそじじい」と思うのと同じくらいノーマルだと考える。

まあ・・・何がノーマルで何がアブノーマルなのかは・・・以下省略である。

そういう「微妙な空気」の物語を・・・桐谷美玲と松坂慶子は見事に紡いでいる・・・。

で、『スミカスミレ45歳若返った女・第6回』(テレビ朝日201603112315~)原作・高梨みつば、脚本・嶋田うれ葉(他)、演出・小松隆志を見た。「悪」を描くことが難しい時代である。あれから五年が経過したこの日・・・ようやく・・・あの時の「爆発」が「白い煙があがっている」ようなものではなく「ものすごい大爆発」だったことをドラマで描写されることが解禁されたらしい。それがどれだけ「巨悪」を包み隠して世の中が動いているかを示すひとつの例だと感じた人は多いだろう。しかし・・・それが現実というものなのである。それに比べれば「化け猫の妖力で本当は六十五歳だけど二十歳に若返っている」という嘘は「かわいい嘘」と言えるだろう。しかし・・・「恋愛」において・・・「嘘はいけないこと」になっているわけである。しかし、そもそも「愛」なんてフィクションという考え方に立てば・・・「だますなら騙しとおす」のも一つのやり方である。まあ・・・大抵の場合、バレるんだけどね。とにかく・・・六十五歳の澄(松坂慶子)から二十歳のすみれ(桐谷美玲)に変身していることは・・・恋愛相手をだましている「悪いこと」に分類されてしまうのだ。そういう縛りが・・・ロマンスをこじらせるわけである。

心臓病で余命いいくばくもない真白勇征(町田啓太)が入院中のつつじ野大学病院から戻ったすみれは・・・黎(及川光博)と雪白(小西真奈美)と・・・勇征の救命について話し合う。

「私の精気を・・・捧げれば真白様は助かります」と黎。

「そんなことをしたら黎さんが・・・私の精気を真白くんにあげます」とすみれ。

「そんなことをしたら・・・六十五歳に戻ってまうで・・・」と雪白。

勇征の命か・・・黎の命か・・・それともすみれの変身解除か。

もちろん・・・すみれの結論は決まっている。

すみれは・・・もう・・・充分に・・・「若さ」を楽しんだ。

二十歳に若返り、行きたかった椿丘大学に行けた。

勇征との夢のような恋もした。

夢から覚めて元の六十五歳に戻っても悔いはないのだ。

夢のような日々に別れを告げるために・・・すみれは大学に行く。

教室では勇征の休学が話題になっていた。

女王様きどりの幸坂亜梨紗(水沢エレナ)とのとりまきである菜々美(小池里奈)と玲那(谷川りさこ)は例によって辻井健人(竹内涼真)を囲むのだった。

「真白くんが入院って本当かよ」

「そういう話だよ」

「どこの病院なんだよ」

「そこまでは知らない」

「知らないだと・・・」

「あ・・・如月さん・・・お見舞いに行ったんだよね」

「はい」

「なに~・・・」

「でも・・・真白くんはお元気そうでしたから・・・大丈夫だと思います」

「どこの病院なのか・・・幸坂たちに教えてやってくれ・・・」

「いや・・・いい」

「え」

「自力で捜す・・・おい・・・健人・・・お前、病院に片っ端から電話しろ」

「他力じゃねえか・・・」

和気藹々の学友たちに心の中で別れを告げるすみれだった・・・。

如月家の墓を管理している「天楽寺」を訪ねるすみれ・・・。

すみれの美貌に慶和(高杉真宙)はうっとりして・・・叶野りょう(梶谷桃子)は激しく嫉妬するのだった。

すみれは「罪な女」なのである。

すべての事情を知っている住職の早雲(小日向文世)はすみれの決意を察するのだった。

「結局・・・私がこのような姿でいることは・・・よからぬことなのでしょうね」

「いいえ・・・あなたは別に悪を為しているわけではありません」

「そうおっしゃっていただけると・・・幾分か救われます」

「それにしても・・・化け猫のくせに・・・我が身を犠牲にして・・・あなたに尽くそうとするなんて・・・前代未聞のレレレのレ~ですな」

「黎さんは・・・とてもいい人・・・いえ・・・化け猫さんです」

「・・・」

もちろん・・・そんないい化け猫が・・・何故・・・屏風に封印されてしまったのかという謎は残っているわけである。

はたして・・・黎はどこまで・・・本当のことを語っているのか・・・。

そういう仕掛けが必要なのかどうかは別として。

この物語は・・・あくまで・・・「愛とは何か」を問いかけるものだからな。

帰宅途中で・・・ショーウインドウに飾られたペンダントが目に入るすみれ・・・。

それは勇征が・・・贈ってくれたペンダントと同じだった。

すみれにとって至福のひとときである。

すみれは・・・勇征とデートする時のために買ったワンピースを着用し・・・最後のお見舞いに行くのだった。

「また・・・お見舞いに来てしまいました」

「ありがとう・・・すみれ・・・そのワンピース・・・とてもかわいいね」

「ありがとうございます」

僅かな間に痩せて衰えた勇征の姿に心をしめつけられるすみれ・・・。

勇征はすみれの手をとった・・・。

「すみれの手・・・冷たくて気持ちがいい」

「若い頃から冷え症なんです」

「ふふふ・・・すみれはいつも面白いな・・・」

発熱している勇征は潤んだ瞳で・・・すみれを見つめる。

その時・・・心臓に発作が起きる。

「大変・・・すぐに・・・誰か」

「いいんだ・・・しばらく・・・このままで・・・君と二人でいたいんだ・・・」

「でも・・・」

「お願いだ・・・」

すみれは・・・愛おしい勇征の願いを聞きいれる。

勇征は・・・昏睡状態になった。

すみれは急いで帰宅する。

「本当にやるんか・・・ええのんか」

雪白はすみれに問う。

「はい・・・」

「まったく・・・あんた・・・人間にしては立派やな」

「・・・黎さん・・・方法を教えてください」

黎は頷いた。

「それでは・・・術を伝授します」

「・・・」

「猫魂の精気を感じてください」

「私の中に・・・みなぎっている力ですね」

「精気を身体の中心である胸に集めるのです」

「・・・」

「そして・・・それを口うつしで・・・真白様に吹き込むのです」

「口うつし・・・」

「そうです・・・接吻です」

「・・・」

「正式なやり方をご存じですか」

「映画で・・・見たことがあります」

「そうです・・・唇と唇を重ねるのです」

「・・・」

雪白が結界を張り・・・深夜の病院に・・・すみれは侵入する。

心疾患である勇征は上体を起こして眠りについている。

その寝顔を見つめるすみれ・・・。

「真白さん・・・あなたに・・・逢ってから・・・私はいつも幸せでした・・・あなたを好きになったから・・・今まで・・・ありがとう」

涙の止まらないすみれである。

すみれは雪白の唇に唇を重ねる。

最初で・・・最後のキス・・・。

病室は猫魂の放出する妖しい光で包まれる。

廊下で黎は待っていた。

やがて・・・光は消え・・・病室から・・・如月澄が現れた。

「すみれ様・・・」

「黎さん・・・」

黎はすみれを慰めるように病院から連れ出した。

やがて・・・苦悶の表情を浮かべる勇征。

巡回中の看護師が急変を発見するのだった。

一夜明けて・・・回復する勇征。

「そんな馬鹿な・・・」

「どうしたのですか」と勇征の母親が問う。

「・・・治ってます」

「え」

「心臓が・・・正常に機能しています」

「それは・・・ご、誤診だったということですか」

「い・・・いえ・・・奇跡です」

勇征は・・・退院した。

入院している理由がなくなったからである。

「人魚姫」なら・・・泡になってしまうところだが・・・すみれは澄に戻っただけだ。

しかし・・・勇征の愛したすみれはもう・・・いないのである。

勇征は音信不通になってしまったすみれに不安を覚えながら大学にやってくる。

退院を喜ぶ学友たち・・・。

しかし・・・その中にすみれの姿はない。

勇征はすみれの親友となった由ノ郷千明(秋元才加)に尋ねる。

「すみれくんは・・・」

「ずっと・・・休んでいるのよ」

「え」

勇征は如月家を訪ねる。

応対するのは黎だった。

「すみれさんは・・・」

「すみれ様は・・・今は・・・あなたとお会いになれません」

「そんな・・・」

「今日はおひきとりください・・・」

仕方なく帰宅する勇征は・・・大福食べながら読書をしている家政婦の山中こと雪白の前でつぶやく。

「一体・・・彼女に何が・・・」

「あんたなあ・・・あの子に感謝せんとな・・・」

「え・・・山中さん・・・何か知っているの・・・」

「いや・・・なんも知らんけどな」

「・・・」

「せやかて・・・あの子はええ子やで」

勇征の悲痛な声を聞き・・・すみれの心は揺れる。

「私が・・・ちゃんと・・・話さないから・・・」

「話しても・・・信じていただけるとは限りませんよ・・・」

黎はつぶやくが・・・すみれは勇征に電話をする。

「真白くん・・・」

「すみれ・・・よかった」

「・・・」

「すみれ・・・夜の病院にいたよね・・・」

「夜の病院には入れませんよ」

「それじゃ・・・あれは夢だったのかな」

「私・・・あなたに嘘をついていました・・・」

「嘘って・・・」

「私は・・・本当は六十五歳なんです」

「・・・何を言ってるんだ」

「ごめんなさい・・・だから・・・もう・・・あなたとお会いできないのです」

「すみれ・・・」

すみれの告白が勇征の心を揺さぶる。

たしかに・・・すみれには・・・まるで・・・おばあちゃんのようなところがあった。

しかし・・・二十歳の女子大生そのものである。

そもそも・・・そのギャップに萌えた勇征なのである。

だからといってすみれが六十五歳であるわけがない。

夜の街を走る勇征。

なにしろ・・・猫魂がみなぎっているのである。

しかし・・・すみれの猫魂は子の刻に抜けだすのでは・・・まあ、いいか・・・策士策に溺れるのはよくある話だからな。複数脚本家になったのは・・・そういう・・・以下省略。

ファンタジーだからかっ。

狂ったように呼鈴を鳴らす勇征だった。

「いかがなさいますか・・・」

「会います・・・着替えるので待っていてもらってください」

「黎さん・・・」

「しばらくお待ちください・・・すみれ様がお会いになるそうです」

「よかった・・・」

しかし・・・現れた澄を見て・・・後ずさりする勇征。

「どうして・・・こんな・・・」

澄はすみれとして・・・勇征に初めて会った時のワンピースを着ていた。

「真白くん・・・本当にごめんなさい」

「そんな・・・まさか・・・」

「とにかく・・・おあがりください」

勇征に向かいあう澄と黎。

「私は・・・屏風に封印された化け猫でした・・・」

「え・・・」

黎はすべてを語る。

澄と黎の精気が合体して・・・すみれになったこと。

勇征の病を治癒させるために・・・すみれが消えたこと。

「そんなこと・・・してほしくなかった・・・」

「・・・」

「君との思い出を胸に・・・死んでしまえば・・・」

「真白くん・・・」

「・・・すみません・・・」

「真白くん・・・ちょっと歩きませんか」

信じられない話だが・・・奇跡によって死に至る病が消えてしまった勇征は信じるしかなかったのである。

「こうやって・・・二人で歩きましたね」

「・・・」

「あなたは・・・いつも優しかった・・・」

「・・・」

「私はあなたと・・・出会えて・・・幸せでした」

思わず・・・澄の手をとる勇征・・・。

その手に残る・・・すみれの記憶。

勇征は確信する・・・澄がすみれであることを・・・。

澄は思い出を振り切るように立ち去る。

「さようなら」

「・・・」

立ちすくむ勇征・・・。

「よいしょっと・・・」

帰宅した澄は自然に振る舞う。

「これで・・・本当によろしかったのですか」

「・・・はい」

黎は澄を見つめる。

大学では・・・すみれの休学が話題になっていた。

「なんか・・・あの子・・・おかしかったもんね」

「なんか・・・やばいことになってたりして」

「あやしいよね」

勇征は立ち上がった。

「変なこと言うな・・・すみれ・・・如月さんは・・・素晴らしい人だ・・・」

しかし・・・すみれはもういないのだった。

勇征は・・・澄となったすみれを受け入れられなかった自分に・・・傷ついていた。

二十歳だった恋人が急に六十五歳になったら・・・もう・・・わけがわからないのは・・・仕方のないことである。

由ノ郷千明と西原美緒(小槙まこ)は如月家にやってくる。

「あ・・・もしかして・・・すみれちゃんのおばあちゃんですか」

「え」

「これ・・・すみれちゃんが・・・就職試験を受ける予定の映画会社の資料なんですけど」

「あ・・・まだ・・・取り消していなかったのね」

「あの・・・すみれちゃんは・・・」

「しばらく・・・帰れないの・・・わざわざ・・・訪ねてくださって・・・」

「前に休学中の私をすみれちゃんが訪ねてくれて・・・今、大学に行けてるの・・・すみれちゃんのおかげなんですよ」

「まあ・・・それを聞いたら・・・きっとすみれは喜ぶわ・・・」

しかし・・・すみれはもういないのである。

勇征は・・・もやもやした気持ちを切り替えるために・・・英国留学を決意していた。

スケジュールを確認していた・・・勇征は・・・すみれの誕生日に気がつく。

四月五日・・・。

その日を楽しみにしていた時の気持ちを噛みしめる勇征・・・。

仏壇の前で手を合わせる澄・・・。

「あら・・・私・・・今日で六十六歳になってしまったのね・・・」

郵便受けには・・・勇征から封書が届いていた。

中に入っていたのは・・・バースデーカードだった。

すみれ・・・ありがとう

勇征からの別れの言葉を噛みしめる澄・・・。

二十代の若者と六十代の高齢者との・・・越えられない壁・・・。

「ご生誕・・・六十六周年・・・おめでとうございます」

「黎さん・・・ありがとう」

「私からの贈り物がございます」

黎は髪飾りを渡す。

「まあ・・・素敵ね・・・でも・・・今の私にはちょっと派手かしらね」

「贈り物はもう一つあります・・・その前に昔の話をお聞きください」

「はい?」

「私は・・・幼い頃のあなたをずっと見ていた・・・」

「え・・・」

「あなたは・・・家族の言われるままに・・・自分を押し殺して生きていた」

「・・・」

「私は思わず・・・愚か者・・・子供らしくやりたいことをしろ・・・と叫んでしまいました」

「まあ・・・」

「そして・・・私は物置に放置され・・・次に会った時・・・あなたは・・・虚しく時を重ねた後だった」

「・・・」

「だから・・・私は・・・あなたに・・・もっともっと幸せになってもらいたいのです」

「黎さん・・・何を・・・」

「生まれ変わりなさい・・・すみれに・・・」

澄の唇を奪う黎・・・。

すみれは妖しい光に包まれて・・・気を失う。

目覚めれば朝・・・。

思わず黎の姿を捜すすみれ・・・寝間着のまま飛び出す。

そこに・・・お隣の小倉富子(高橋ひとみ)が・・・。

「だめよ・・・若い娘が・・・そんな恰好でうろうろしたら・・・」

「え」

すみれは・・・若返った自分に驚く。

夜になっても・・・黎は戻ってこない。

かわりに雪白が現れる。

「雪白さん・・・」

「大丈夫・・・黎はそんなに簡単に死んだりせんよ」

「でも・・・」

その時・・・子の刻がやってくる。

すみれは澄に変身するのだった。

「ほら・・・呪いが解けてないやろ・・・つまり・・・黎がおるってこっちゃ」

「・・・」

「それより・・・あんた・・・黎がいなくなって・・・大丈夫なんか・・・」

「私・・・もう一度頑張ってみます・・・」

「よっしゃ・・・その意気や」

すみれは・・・大学に戻る。

驚く・・・勇征・・・。

勇征は・・・しかし・・・手放しでは喜べない。

六十五歳のすみれを受け入れられなかった後ろめたさがあるのだった。

「どうして・・・」

「黎さんが・・・命を与えてくれたのです・・・」

「・・・」

「だから・・・私・・・もう一度頑張ってみようと・・・映画会社の試験も受けるつもりです」

「そうか・・・僕は・・・留学するつもりだ・・・」

「留学・・・」

微笑むすみれ。

微笑み返す勇征。

「就職活動がんばって・・・僕も応援するよ」

「ありがとうございます・・・」

そして・・・五年の歳月が過ぎ去った。

お前もかっ。

どうやら・・・二十五歳になったすみれ(実年齢七十歳)は・・・映画会社に就職できたようだ。

はたして・・・勇征との恋の行方はどうなったのか・・・。

黒猫はすみれを見守っているらしい・・・。

そして・・・お茶の間もまた・・・。

すみれには幸せになってもらいたいと願うしかないのだった。

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2016年3月16日 (水)

もう恋をしていると言われちゃいました(深田恭子)

女の子は比べられるのが好きじゃないの~なのだが。

(月)「いつ恋」と(火)の「ダメ恋」はまるで同じような展開をしていくわけである。

つまり・・・お手本通りなのだった。

しかし・・・(月)は言ってみればシリアス。(火)はコメディーである。

たとえば・・・(月)の貧しい若者たちの住む部屋は本当に貧しい。

しかし・・・(火)の借金女の借りたボロアパートはそこそこ綺麗なのである。

一週早くフィニッシュする(火)では三角関係の清算のために・・・「一番好きな人が振り向いてくれないけれど愛してくれる人の求婚は断固断る」わけである。

一方で(月)は途中経過とはいえ「一番好きな人も愛してくれるけれど・・・先に求婚してくれた方と結婚しよう」と思ったりするのだった。

純粋な愛とは何かを突き詰めながら・・・違う答えにたどり着く。

人生がいかに難解なものかということだ。

しかし・・・正解も誤解もない。

そういう考え方もあるわけだ。

メルトダウンの瞬間・・・そこにいた人といなかった人・・・。

どちらが・・・正解だったかなんて・・・問うのは無意味なのである。

「一人で食事するのは嫌だなあ」

「よかったら・・・僕がご一緒しましょうか」

「お断りします」

断られるのが前提の人とそうでない人の境界線なんて・・・誰が引けるというのだろう・・・。

で、『ダメな私に恋してください・最終回(全10話)』(TBSテレビ20160315PM10~)原作・中原アヤ、脚本・吉澤智子、演出・河合勇人を見た。原作は未完であるために・・・このドラマはもう一つの別の世界で展開されている。そこでは生きている人が死んでいたりするわけである。しかし、それは原作ありのドラマではよくある話なのでスルーしておく。とにかく・・・今世紀最高のニヤニヤドラマはとてつもなくニヤニヤさせながら完結を迎えるのだった・・・。

大好きな人の大好きな人のために潔く身を引き・・・街を彷徨う柴田ミチコ(深田恭子)・・・とりあえずまだ寒いので素晴らしいインターネットの世界のカフェに避難するのだった。

最上大地(三浦翔平)の部屋や・・・晶(野波麻帆)の部屋に転がりこまないところが・・・ミチコの成長の証らしい。

一人で暮らしていける立派な大人になる覚悟のミチコなのである。

ネカフェで「空室情報」を検索するミチコ・・・。

「高い・・・お・・・これ月六万か・・・築三十年って・・・同い年じゃん」

ミチコ・・・みちる化が激しいな。

「あ・・・そういえばもうすぐ・・・誕生日の三月十五日・・・三十一歳になっちゃうのか・・・」

ホワイトデーの翌日が誕生日なのである。

初めてもらったプレゼントが黒沢歩(ディーン・フジオカ)がケームセンターのクレーンゲームでケットした肉クッションであるミチコは・・・ホワイトデー、バースデーと虚しい連日をくりかえしてきたんだなあ・・・。

「失恋って・・・本当に死にたくなるんだな」

厳しい現実から逃避するために・・・ミチコは思わず・・・昔の性癖を思い出す。

「美食戦隊グルメンズ」の「グリーン」にたちまち恋するミチコなのである。

・・・アホだな。

「これでなんとか・・・生きていける・・・いや・・・超生きていける気がする」

アホの生活設計である。

一方・・・便利グッズの会社「ライフニクス」の中島美咲(内藤理沙)は寿退社を報告する。

「これも柴田さんのおかげです」

「え」

「柴田さんに叱られたのを彼に愚痴ったら・・・彼がそういう大人の人は大切にした方がいいって真剣にアドバイスしてくれて・・・」

「ええっ」

「それから・・・彼のこと本気でアタックして・・・ゲットすることができました・・・この恩は忘れません」

「えええ」

そして・・・ミチコ考案の「下着が隠せる物干しハンガー」の商品化が決定。

ミチコは女性による開発チームの主任に抜擢されることが決定したのだった。

「おめでとう・・・四月からがんばってくれ」

販売本部長の森努(小松和重)から激励されるミチコである。

「主任なんて・・・そんな」

「中島君も君を推薦してたぞ」

「う」

ミチコはのしかかる責任に眩暈を感じるのだった。

おしゃれでシックなイェイがワンサカな感じに変身している晶とミチコはシュラスコ(南米肉料理)で合流・・・。

「どうしましたか・・・」

「今度はクリエーティブ系狙いなんだけど・・・私・・・もう自分が何を着てるのかわからない・・・ドライブウェイに春がくるのかしら」

「サイケデリックなヒッピーですか・・・」

その頃・・・いい人だらけのドラマの中で非難轟々の花屋「クレッセント」の春子(ミムラ)はミチコが住んでいた部屋で闘病中である。

歩はカニ雑炊を作るのだった。

「春子さんはカニが好きだったから・・・」

「あら・・・私はそうでもないのよ・・・カニが好きだったのは一くん・・・私は付き合ってただけなの・・・本当はカニより肉が好きなの」

「え・・・そうなの」

「ミチコちゃんと一緒に食べたカツ丼おいしかったなあ・・・そう言えば・・・ミチコちゃん・・・どうしてる」

「さあ・・・どこを彷徨っているのか・・・」

遠い目をする歩。

思い出すのは・・・兄の一(竹財輝之助)ではなくて・・・ミチコの姿だった。

ミチコは美食戦隊グルメンズ主催のイベントに参加していた。

グルメングリーンのお料理ショー&握手会である。

華麗にキャベツを刻むグリーンにうっとりなのである。

(ああ・・・キャベツになりたい)

「さあ、続いて質問コーナーです」

「はいはいはい」

挙手をするグリーン愛好家たち・・・。

指名されたのは・・・メガネなしの門真由希(佐野ひなこ)だった。

「お風呂で最初に洗うところはどこですか?」

由希とミチコは同好の士であったらしい。

「やっぱりレッドよりグリーンよねえ」

「ですよねえ」

「門真さん・・・彼氏がいたんじゃ?」

「あくまでコレは趣味ですから」

「・・・」

「それより・・・引き継ぎ大丈夫ですか・・・後・・・半月ですよ・・・今日はもう十五日ですから」

門真に言われて自分の誕生日を思い出すミチコ。

アフターなしのビフォーな日々・・・。

(なんということでしょう・・・金なし男なし変わりなし・・・これはもう・・・匠の術ですね)

そこへ・・・主任から着信がある。

「今日・・・荷物を引きとりに来い・・・」

「今日は・・・引き継ぎのためのサービス残業が」

「来ないのなら捨てる」

仕方なく・・・喫茶「ひまわり」にやってくるミチコ・・・。

待っていたのはバースデー・パーティーだった。

テリー(鈴木貴之)、ポチ(クロちゃん)、タマ(石黒英雄)のトリオも祝福。

春子も花束をプレゼントしてくれるのだった。

そして肉料理につぐ肉料理である。

心から幸せを感じるミチコだった。

「私・・・主任になるんです」

「主任?」

「主任としての心構えを教えてください」

「部下には厳しく接しろ」

「そんなことしたら・・・部下が鬱になって男に貢いで破産します」

「そんなのお前だけだ・・・お前・・・今、どこに住んでいるんだ」

「一人暮らしですよ・・・大人ですから」

「生意気な・・・全国の一人暮らしの人に謝れ」

「私はロマンスがありあまる人ですか」

そこへ・・・歩の祖母の薫から宅急便が届くのだった。

薫の好物のチーズケーキに添えられた手紙・・・。

長野県佐久地方在住の薫・・・あの人か・・・。

人質になることを拒否するのか。

そして・・・常連客の鯉田(小野武彦)の消息がわかる。

「ケガも無事に治り・・・」

「あの時の電話・・・」

「鯉田さんがかけつけてくれ・・・」

「婚約者代理の日です」

「今は鯉田さんと暮らしています」

「えええええええ」

「いや~ん、うらやましい~」とポチ。

「どんどんどん」

そして・・・チーズケーキの下から現れる鯉田の色紙・・・。

一人でいたから二人で暮らせる

よりかかるのではなくよりそう

それが愛だから・・・

「沁みる・・・」

「鯉田さん・・・待ちすぎ・・・」

「でも・・・めでたいことです」

春子はふと・・・クリスマスローズを見る。

一が自分に似ているから好きだと言ってくれた花。

地味たげど強い花・・・。

ここで・・・春子はやっぱりいい人に向かって走り出すのだった。

一人暮らしのアパートに帰ってきたミチコ・・・。

幸せ一杯だったバースデーパーティーの名残のケーキを食べながら・・・ふと思う。

「来年の私は・・・何しているんだろう」

できれば・・・ずっと・・・誰かに誕生日を祝ってもらいたいミチコだった。

そこへ・・・大地からの着信がある。

お誕生日おめでとうございます

心温まるミチコだった。

大地が仕切るイベントの日。

追加注文の花を届ける春子。

「おかげで助かりました」

「いいえ・・・助けられたのは私です」

大好きな人の大好きな人の大好きな人に微笑む大地・・・。

そして・・・何事もなく「ひまわり」でのバイトを再開するミチコだった。

「主任・・・賄は・・・大人様ランチにしてくださいよ」

「お前に・・・大人様ランチは早すぎる」

「はあ?」

「今日は・・・あいつのイベントの日だろう・・・」

「・・・」

「お前も役に立ったんだ・・・様子を見てこい」

「主任・・・」

「マスターと呼べといっただろう」

「はい、マスター」

ああ・・・始ったのは正月だったのに・・・もう春かよっ。

つまり・・・歩はミチコに・・・選択肢を与えているわけである。

大地のラストチャンス・・・。

「盛況ですね」

「ミチコさんのおかげです」

「そんな・・・春子さんがいたから」

「ライバルを応援してどうするんですか・・・」

「・・・」

「僕・・・提携先の会社からヘッドハンティングされました」

「すごい出世じゃないですか」

「ええ・・・いい話なので・・・引きぬかれようと思います・・・だから・・・柴田さん・・・僕と付き合ってくれませんか」

「・・・ごめんなさい」

「僕をキープしておけばいいのに・・・」

「でも・・・私・・・大人にならなければいけないの・・・それに・・・最上くんに嘘ついてたし・・・」

「え」

「私・・・肉が好きなの・・・肉があればそれでいいタイプなの・・・そして・・・最上くんのこと・・・ずっと詐欺師だと思っていたの・・・」

「ひでぶ」

最上大地は二度死ぬ・・・。

一方・・・晶もまた婚活に失敗していた。

「易者さん・・・どうすれば結婚できるの~」

「この水晶を買えばいいあーりん」

「それは詐偽ですよ」

「あ・・・シンプルな下着が好きな曲者・・・」

悲しい男と悲しい女のいつもの出会いである。

そして・・・寸止めなのでセーフだが・・・帰宅途中に現れる見知らぬ男(柄本時生)・・・。

「ああ・・・一人はさびしいなあ」

「その淋しさ・・・私が受けとめましょう」

「ひええええええ」

不気味な男の登場に・・・脱兎の如く・・・例の揺れをサービスするミチコだった。

自分の部屋に逃げ込んだミチコだったが・・・見知らぬ男はドアをガンガンするのだった。

「主任・・・助けて・・・」

連絡を受けた歩は夜の街を走る。

歩もドアをガンガンするのだった。

「俺だ・・・」

「主任・・・」

「近くに交番あるだろう・・・なんで自分の部屋までストーカーを誘導するんだよ」

「だって・・・こわくて・・・何も考えられなくて・・・」

「アホだからだ・・・心配するじゃないか」

「主任・・・もう大丈夫です・・・」

「・・・」

「春子さんが心配するから・・・」

「・・・柴田・・・あのな」

歩は回想する。

人生ゲームの結婚のマス・・・。

「俺・・・春子さんのことずっと好きだった」

「私も・・・新しい恋をいつかするつもり」

「春子さん・・・」

「甘えてばかりでごめんね・・・でも・・・もう大丈夫・・・私は自分の家に帰ります」

歩は春子にふられたのか・・・。

それとも・・・春子が歩の本心を見抜いたのか・・・。

それはお茶の間の判断に委ねられた。

それが大人の恋というものである。

歩はそっとミチコの手を握る。

歩はミチコに声をかけようとするが・・・お約束で爆睡しているミチコだった。

「・・・だな」

歩に手を握られている夢から目覚めるミチコ。

「主任・・・どこで寝たんですか」

「冷たい床の上で」

「すみません・・・」

しかし・・・朝食を作る歩だった。

「冷蔵庫の中の消費期限ギリギリのものばかりじゃないか」

「半額なので」

「・・・たくましいな」

「何と言うことでしょう・・・あの食材がこんな素晴らしい朝食に・・・これぞ・・・ビフォーアフター・・・匠の技です」

素晴らしい朝食の後で・・・交番に被害届を出す二人。

「最近・・・熟女狙いの痴漢が出没してるんです」

「熟女・・・」

「ちょっと・・・顔を貸しな」

「はい?」

「してるんですじゃねえよ・・・とっとととっつかまえろや」

警察官を威圧する元ヤンの迫力に感嘆するミチコだった。

出勤したミチコは挙動不審な大地と遭遇する。

「最上くん・・・」

「ひえ・・・」

思わず股間をガードする大地だった。

恐ろしい夜を越えたらしい。

「ごめん・・・一応元カノに話通しておこうと思って・・・」

ミチコにわびる晶だった。

「何があったんです」

「極限までの空腹状態なので・・・家まで送ってくれた男をそのまま帰すわけにはいかなかったの・・・脱がないので脱いで押し倒して脱がして・・・練習試合を」

「食っちゃたんですか」

「・・・」

「女豹ですか」

大地は・・・晶を忘れられなくなってしまったのだ。

「凄かったんです」

「・・・」

そこには・・・ミチコの知らない野生の王国が広がっていたらしい。

春の夜・・・ミチコと連絡がつかないので苛立つ歩。

「何かあったのでは・・・」とテリー。

「まさか・・・あいつも・・・大人なんだから・・・」

しかし・・・ミチコの部屋に向かって走り出す歩だった。

だが・・・ミチコは不在である。

そこにテリーからの着信がある。

「柴田さんが・・・大変です・・・今、店にいます」

全力疾走で「ひまわり」に戻る歩。

そこには・・・拾った猫をあやすミチコが・・・なにやってんだ・・・である。

テリーたちはニヤニヤしながらこっそりと立ち去るのだった。

「一人て生きていこうと思ったんです。でも・・・主任と暮らした後で・・・一人の部屋はさびしすぎるんです・・・だから・・・猫に助けてもらおうと思って・・・」

「なぜ・・・携帯電話の電源を・・・」

「着信音で猫を驚かせないように・・・」

「アホか・・・」

「だって・・・もう・・・猫に助けてもらうしかないんです」

「ダメな奴だな・・・」

「だから・・・ダメな私に恋してくださいよ」

「・・・もうしている・・・」

「え・・・何を言ってるんですか・・・」

うるさい女の口をふさぐ歩だった。

全お茶の間がニヤニヤする・・・お約束の熱い接吻・・・。

何かが終わった後で・・・オムライスを作る歩。

ミチコはアシスタントを務めるのだった。

二人はなんだかんだ息のあったパートナーだったのだ・・・もうずっと。

完成したのはダメダメライスである。

「なんすか・・・これは・・・」

「いいから・・・食え」

「美味しい・・・」

ミチコのスプーンを奪い・・・味見をする歩。

「自分のがあるじゃないですか」

「お前の方が肉多めなんだよ」

「返してくださいよ」

「嫌だよ」

背後から二人羽織でミチコのスプーンを強奪する歩。

「主任~」

フォーカスの移動。

最後にピントが合うのは・・・。

イチャイチャする二人を見守ってニヤニヤしているような「LOVEライス」だった・・・。

もっと・・・もっと・・・ねえ・・・もっとニヤニヤしていたかったんだ・・・。

だけどもう春だったんだねえ。

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2016年3月15日 (火)

会えません・・・今はまだ(有村架純)

あなたが来るのが遅すぎたのよ・・・。

こうなったら・・・もう・・・誰かを守って帰らぬ人になるしかないわけである。

しかし・・・ここは宇宙世紀ではないので・・・あれなんだな。

それにしても・・・どんな脚本家も・・・有村架純を見ると・・・凌辱したくなってしまうんだな。

今回は・・・お前もかっ・・・だったぞ。

地球のずっと西の方では女子校が襲撃されて女学生が丸ごと奴隷にされている21世紀。

中野区では夜歩いていると見知らぬ男に殺されて裸にされてしまう。

実の親が子供をウサギ扱いし、家出少女はヤクザのヤサで薬物中毒死する。

殺伐とした世界で・・・略奪愛をしようものなら袋叩きである。

まあ・・・父と母の愛の結晶である子供は・・・生まれてしまえば愛が冷えたり壊れたりすることもよくあることなんだと諦めて生きていくのが一番なんだな。

だって・・・愛は冷めやすく・・・壊れやすいものなんだから。

消費期限が過ぎた缶詰の中身は何か恐ろしいことになっているような気がする。

とりかえしの・・・とりかえしのつかないことをしてしまうのが人生だ。

で、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう・第9回』(フジテレビ20160314PM9~)脚本・坂元裕二、演出・石井祐介を見た。ラブ・ストーリーの定番は三つある。ひとつは愛するもの同志が結ばれる「シンデレラ・ストーリー」、ひとつはどちらかが消える「ある愛の詩」、そして「ロミオとジュリエット」である。ハッピーエンドと言えるのは「シンデレラ」だけと考えることもできるが・・・どちらかが「私は最高に愛された」と思えれば「ゴースト」だってハッピーエンドだし、いい思い出だったとなれば「ローマの休日」だってハッピーエンドと言えないこともない。そもそも・・・愛に恵まれない人にとっては・・・「愛のかけら」だって・・・うらやましい限りなのかもしれないのである。とにかく・・・「ハッピーエンド」の前に愛する二人が別れるのは・・・深夜を過ぎたら駆け下りる階段のようなお約束・・・。しかし・・・階段から落ちると・・・恐ろしい結末が待っている可能性があるのでご用心である。

もちろん・・・このドラマは最初からヒロインの亡き母親(満島ひかり)が・・・「どんな苦しさも恋をしていれば忘れられる」という恐ろしい呪いを愛児にかけ・・・遺骨を下水道に流されてスタートするホラーなので・・・どんな結末でも許されるのである。

後半で身近な女子にいいところを見せようとして狼藉を働く男性が登場するが・・・この物語全体がそういうラブレターだと言えないこともないのだった。

そういうところもやるせないよねえ。

「好きです・・・」と曽田練(高良健吾)が言う。

その言葉を噛みしめる杉原音(有村架純)は返す言葉を失う。

その時・・・音の部屋に井吹朝陽(西島隆弘)がやってくる。

音と二年間交際し・・・結婚を申し込んだ男である。

しかし・・・朝陽は・・・音が恋をしているのは練だと最初から知っているのである。

だから・・・ここで逆上するわけにはいかないのだ。

「いま・・・そこでお隣の夫婦は喧嘩していたよ・・・なんていったっけ・・・上が下田さんで下が上田さんだったっけ・・・ええと・・・僕が出て行った方がいいのかな」

音は堪えていた・・・欲しいものを手に入れようとする純粋な心と・・・生きるためにはあらゆることを我慢しなければならないと自分自身が鍛え上げた心が鬩ぎ合う精神分裂の危機に・・・。

「すみません・・・帰ります・・・僕が・・・無理を言ってお邪魔したんです・・・杉原さんは困惑していました・・・」

「・・・」

「あの・・・どこかで・・・二人だけでお話できませんか」

「これ・・・持って・・・お帰りください」

朝陽は音が描きかけた「練の似顔絵」を押し付けた。

朝陽にとってそれは・・・自分が愛されていない証拠のようなものなのである。

練は・・・虚しい気持ちを抱いて立ち去る。

誰かを傷つけてまで・・・自分の欲しいものを手に入れることは・・・今の練にとっては・・・困難なことだった。

愛することは奪うことではないという教えが練を縛っている。

あらゆるものを奪われ・・・奪い返そうと決意した時・・・それを止めたのは・・・音だった。

それが・・・音の愛し方。

そして・・・それは練の愛し方。

二人を結びつける亡き母の亡霊・・・。

しかし・・・世界はそんな二人に無情なのである。

練を待つ音を放置してはくれないし・・・音を守る力を練に与えない。

音を地獄から解放した練は幼馴染の市村小夏(森川葵)や恋人の日向木穂子(高畑充希)に呪縛され・・・練を地獄から解放した音には父親の征二郎(小日向文世)の奴隷である朝陽がまとわりつく。

亡き母の恋の魔法は・・・現実に抗うことはできないのだった。

仙道静恵(八千草薫)の家に帰還した練の後を・・・いたたまれない思いを抱いて追いかける朝陽。

「先程は・・・追い返すような真似をして・・・失礼しました・・・もしも・・・あなたが・・・満足できないようなら・・・示談金を・・・」

「示談金って何よ」と小夏が現れた。

「手切れ金ってことだろう・・・」と晴太(坂口健太郎)は教える。

「舐めないでよ・・・練の・・・音ちゃんへの気持ちは・・・買えないよ・・・お金じゃ買えないものなんだよ」

「・・・」

朝陽は・・・言葉を失い・・・家路をたどる。そのやるせない気持ちは鞄にぶつけられた。

「ちくしょう・・・」

小夏に福島の母から連絡が入る。

小夏の母は・・・練の祖父が残した大根の種を使った収穫があるという。

福島に手伝いに来てくれないか・・・というのである。

ホワイトデーなので・・・木穂子がエクレアを持って静恵の家にやってくる。

「バレンタインデーにチョコをもらったわけじゃないけど・・・で・・・音ちゃんに会ったわけ」

「・・・」

「告白したの・・・」

「・・・」

「どうするつもり・・・」

「・・・」

「遅刻したり迷ったりもしたけど二人はもう同じ船に乗っちゃってるんだよ・・・進むしかないよ・・・優しいと優しすぎるは違うよ?・・・恋愛って不平等なんだよ・・・奇数は弾かれるの・・・しょうがないよ・・・頑張りな!・・・あたしも相変わらず楽しくやってるから・・・」

木穂子の中にも練を乞う気持ちは残っている・・・しかし・・・今は練の幸せを願う気持ちの方が大きいのである。

「春寿の杜」の介護施設に音との結婚の予定を伝える朝陽。

施設長の神部正平(浦井健治)は「まさか・・・あなたが朝陽様の婚約者だったとは・・・知らぬこととは言え・・・失礼しました・・・身が震える思いです」と二倍の速度で掌を返すのだった。

困惑する音・・・。

音にとって・・・朝陽は・・・拾った仔犬のようなものなのである。

音は・・・乞われて餌を与えただけなのだが・・・二年の歳月は重くのしかかるのだった。

情が移ってしまったのだ。

朝陽は買収して整理する会社の顧問弁護士と面会する。

弁護士はかって・・・朝陽がジャーナリストとして告発した医療事故で・・・被害者遺族の弁護を担当していた。

「あの時の・・・あなたの記事で・・・不正が明るみに出たのです・・・遺族の皆さんは大変感謝していましたよ・・・」

「・・・」

「今は・・・こちらの会社にお勤めですか・・・大変ですね」

「いえ・・・私が全員解雇を求めている・・・新しい経営者の代理のものです」

「え・・・そんな・・・まさか」

清らかだった頃の自分を知る弁護士の前で矛先が鈍る朝陽。

交渉は不調に終わり・・・朝陽の父親は激怒する。

「無様だな・・・それでも私の息子か」

「次回の交渉で押し切ります」

「あの女は・・・どうした」

「はい」

「お前のような奴は早く結婚した方がいい・・・女房に尻を叩かれれば少しはマシになるだろう。あの女はいいぞ・・・貧困で強欲になった女だ・・・自分を捨てた過去がある女は強い。嘘を指摘されても・・・顔色ひとつ変えなかった・・・あれはいいタマだ・・・ああいう女の方がお前にはむいているかもしれない」

「・・・」

父親の期待に応えるために・・・音の尊敬する人格を捨て去った朝陽。

そのために音に捨てられそうになっている朝陽。

その父親に音との結婚を急かされる朝陽。

父親に捨てられないためには・・・朝陽は音をなんとか説得しなければならないのだ。

たとえ・・・音の心を踏みにじることになっても・・・。

震災後の景気回復で・・・「柿谷運送」の経営はやや上向きだった。

女社長・柿谷嘉美(松田美由紀)は練に帰省のための休暇を与えた。

手土産の番付煎餅まで用意する配慮を見せる。

五年という歳月の重さ・・・。

「すみません・・・福島に行かせてもらえて・・・うれしいです」

「行くってか・・・帰るんじゃないの」

「もう・・・家も畑もないので」

「私は東京生まれでアレだけどさ・・・ふるさとなんてものは・・・思い出の中にあるんじゃないの」

「・・・」

佐引穣次(高橋一生)が言う。

「知ってるか・・・猪苗代湖の白鳥のボートに乗ったカップルは一生結ばれるって話」

「本当ですか・・・」

「俺が嘘ついたことあるかい」

「・・・」

一人の部屋で悶々とする練・・・。

迷い・・・ためらい・・・ついに・・・堪え切れずに音にメールを送る。

「会いたいです」

音は考える。そして返信する。

「会えません・・・今はまだ」

しかし・・・周囲の応援を受けて・・・練は送信する。

「声が聞きたいです」

音は・・・練に電話をかけた。

「杉原です・・・」

「あ・・・曽田です」

「今・・・大丈夫ですか」

「はい・・・あの・・・特に用もなくて・・・似顔絵ありがとうございました」

「まだ描きかけだったのです」

「あの・・・今度・・・福島に大根の収穫にいきます」

「福島に・・・」

「一緒に行きませんか」

「休暇を合わせるのが難しいかもしれません」

「もし・・・たまたま合ったらで・・・」

「ごめんなさい・・・もう寝ないと」

「あ・・・おやすみなさい・・・」

「おやすみなさい」

音はうれしかった・・・。

恋する人との・・・寝る前の電話にときめいた。

しかし・・・それはまだ許されない恋なのだった。

最後の謎だった晴太の正体が明かされる時が来た。

小夏をデートに誘う晴太。

「こっちにボーリング場なんてあった?」

「ボーリングのシーンがないのは野島ドラマと一線を画すからだよ」

晴太が小夏を連れこんだのは・・・小夏がかって衣装デザインを担当していた小劇団のリハーサル会場だった。

「なんでよ・・・」

「河童なのに大根踊りなんて変だよな」

「私はもう・・・やめたのよ・・・こんな劇団ださいし」

「ださいけど・・・楽しかったんだろう」

「あんた・・・何よ・・・どうして・・・私に構うのよ・・・何でもお見通しみたいな顔して・・・私、知ってるわよ・・・あんた・・・なんか・・・隠してるでしょう」

「僕の両親は仮面夫婦で・・・お互いが他に恋人がいた・・・でも僕の前では仲良しさんだった・・・僕はそんな嘘に付き合うのに疲れて・・・十五才の時に家出をした・・・それからずっとふてくされて生きて来たんだ」

「ばかじゃないの・・・」

「でも君のことが好きだ」

「どうしてよ・・・」

「君は悲しい時に泣くし・・・嫌な時に嫌な顔をするから・・・」

「ばかね・・・」

小夏は涙ぐんで・・・晴太の手に自分の手を重ねた。

二人は一足先にゴールしたらしい。

晴太はゲイではなくバイだったのか・・・。

崖っぷちの朝陽はきんつばを購入した。

「散歩しないか・・・」

「・・・」

「昔・・・園田さんと三人でしたみたいに・・・」

朝陽は音の弱点を突いた。

「覚えていたのね」

「昔の僕を知っている人に会った・・・変わってしまった僕を見て驚いていたよ・・・今の君みたいにね」

「・・・」

「僕は今・・・一生懸命まじめに働いている人から仕事を奪う仕事をしている・・・君には黙っていたがもう・・・隠すのはやめたんだ・・・だからといってもう昔の自分にはもどれない。君が誰かを一番好きなことも知っている。それでも・・・僕は君と結婚したい・・・僕には君が必要だから・・・それでも二人は幸せになれると思うから・・・」

すがりつく仔犬を音は追い払うことができないのだった。

その帰り道・・・母の亡霊は・・・練の元へと音を導く。

行く手を阻む迷子の男の子。

音に気付かず練は男の子に声をかける。

「大丈夫・・・一緒に捜してやるよ」

「・・・」

そこに母親がかけよってくる。

「すみません」

「よかった・・」

夜の街角で一部始終を見届けて・・・去って行く練の姿を見つめる音。

その瞳から涙があふれる。

(よかった・・・あの人は・・・いつまでも変わらない)

音は介護施設のゴミ箱に捨てられた便箋を拾う。

花模様の透かしの入った美しい白い紙・・・。

手紙で始った恋は手紙で終わらせるしかないのだった。

母の亡霊は・・・木穂子に縋る。

「聞いたわよ・・・練に好きって言われたんでしょう」

「・・・」

「どうするのよ」

「結婚します」

「え」

「もう・・・引き返せない」

「なんでよ・・・あなたには練でしょう・・・練にはあなたでしょう」

「おそすぎたの・・・もう・・・彼と二年も交際しているし・・・」

「私はね・・・練に会いに行けなかった・・・あなたは行ったでしょう・・・一番好きなんでしょう」

「もう・・・決めたの・・・誰かを傷つけて・・・幸せにはなれないから」

「練は・・・どうするのよ・・・練だって傷つくよ」

「あの人は・・・いいんです・・・あの人はわかってくれるから」

母の亡霊が離脱し腰を抜かす木穂子。

「しぇらしか・・・許さんよ・・・練やないと・・・」

帰省の前日。

音から「直接会いたい」と連絡された練は職場で待つことにする。

手紙を書き終えた音は・・・練の職場の最寄り駅で降りる。

駅前でピョンピョン飛び跳ねる挙動不審な少女を発見する音。

「何を捜してるん?」

「泥棒」と明日香(芳根京子)は答えた。

「泥棒?」

「かばん・・・とられてん」

「わかった・・・交番連れてったる」

「・・・あんた・・・誰?」

「どっから来たん・・・」

「奈良から・・・吉野ってとこ・・・」

「そうか・・・あめ食べ」

「ねえ・・・東京って一駅歩けるって・・・ホンマ?」

「ホンマや」

「あ・・・」

明日香はひったくり犯(葉山奨之)を発見した。

遅刻する音に電話する練。

「もしもし・・・道に迷っているんじゃないかと思って」

「メッセージをどうぞ」

「何か困ってるなら電話してください・・・俺は・・・そんなにいろいろなことを考えているわけではないけど・・・あの日のことはよく覚えています・・・君と東京へ向かうトラックの中で・・・朝陽を見たこと・・・二人で夜明けを迎えた時・・・俺は何か素晴らしいことが起こるような気持ちになりました・・・君と二人で」

「メッセージをお預かりしました」

母の亡霊は半狂乱になっていた。

せっかく・・・とっておきの「恋」を用意したのに

あなたはそれを裏切るの

そんなこと・・・母さんは許しませんよ

亡霊の狂気は夜の街に凶運を呼び込む。

ひったくり犯は・・・飢えていた。

「なんだ・・・あんた・・・お腹すいてるの」

「・・・」

優しい言葉をかける明日香に・・・戸惑う音。

そこへ・・・通りすがりの暴漢たちがやってくる。

「ひったくりだって」

「警察につきださなくちゃな」

「俺がいいところ見せてやるよ」

「俺たちは正義の味方だ」

逃げ出すひったくり犯を追いかける野次馬たち。

「やめて・・・ひどいこと・・・しないで」

明日香は野次馬を追いかけ・・・音は明日香を追いかける。

歩道橋の階段を駆け上がるひったくり犯。

お茶の間はざわつく。

おい・・・練で階段落ちは終わりじゃないのか。

木穂子も落ちていたからな。

二度あることは三度ある展開かよ。

じゃ・・・三度目の正直じゃないか。

倒れた明日香を庇う音・・・。

転がり落ちる音の荷物・・・。

音の職場からの連絡を受け・・・顔色を変える朝陽。

どこかで亡霊が笑う・・・。

・・・暗転。

この世の終わりを告げるサイレンが残響する。

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2016年3月14日 (月)

いいや・・・真田一族にとって子は増やすべきものですから(長澤まさみ)

まだまだ乱世である。

天正十一年(1583年)は今から四世紀以上も昔だ。

その頃・・・人々がどんな暮らしをしていたか・・・想像を絶する。

平成の人々が昭和の暮らしを本当にはわからないのと同じである。

素晴らしいインターネットの世界のない世界なんだぜ。

たとえば・・・男尊女卑である。

真田信繁の名前は伝わっても・・・信繫の母の名前は不明だ。

信繫の最初の子を産んだ女の名前も不明である。

その名は・・・ただ堀田作兵衛興重の娘あるいは妹と伝わるばかりなのである。

女がいつ生まれ、いつ死んだのかも不明である。

つまり・・・そのくらいどうでもいい存在だったとも言える。

ただ・・・信繫の子を産んだということだけが・・・歴史的には・・・残るばかりなのだ。

もちろん・・・それは四世紀後の史的な話である。

彼女が生きた時代には・・・信繫と重ねた夜がある。

彼女が産んだ信繫の長女は小県長窪(後の長久保宿)の地侍・石合氏に嫁いでいる。

信繫が勝者であれば・・・その人生はもう少し明確になったかもしれない。

しかし・・・信繫は敗者であり・・・歴史は彼女の人生を闇の中に葬り去るのだった。

乱世には乱どりという習慣があった。

戦で勝利した男たちは・・・敗者の女たちを蹂躪するのである。

おそらく・・・信繫もそれをしただろう。

そして・・・信繫の娘たちもそうされたのだろう。

それが戦国時代なのである。

そのすべてをお茶の間に向けて表現することは困難だが・・・なんとなくそういうことが匂う大河ドラマには傑作の予感が漂うのである。

女たちが人質になるのは嫌だなあとぼやく・・・そういうことはあったと思う。

で、『真田丸・第10回』(NHK総合20160313PM8~)脚本・三谷幸喜、演出・小林大児を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は真田信繁の祖父・真田幸隆の弟で猛将の矢沢頼綱の描き下ろしイラスト大公開でお得でございます。猛将・頼綱・・・ガンガンいこうぜカテゴリーですな。そもそも・・・昌幸・信繫父子が智将で陰謀好きなのであれですが・・・幸隆の長男・次男である信綱・昌輝が長篠の合戦で戦死していることからして・・・基本的にガンガンいこうぜ系の猛将が・・・真田の基本色なのではと考えまする。もちろん・・・真田信幸と本多忠勝の娘の縁組は・・・政略結婚ですが・・・どちらかといえば・・・信幸もガンガンいこうぜ系だったのだと考えられますな。このドラマでは信繫との対比で・・・実直さが前面に出ていますが・・・頼綱、忠勝、信幸は・・・本当は猛将で猛将で猛将だったのではないかと思われます。まあ・・・人それぞれの真田信幸がいるので・・・真田丸の信幸もなかなかですけれどねえ。信幸の嫡男である信吉は清音院殿(真田信綱の娘)が十年以上後に生んでいるわけですが・・・この時期のこうはおそらくもっとピチピチだったと思われますし・・・まあ・・・病弱なので老いて見えるという話ですけどね。そういう意味では・・・きりはまだ十歳くらいなんですよね・・・きっと。きりが産んだとされる三女は関ヶ原直前の出産ですし・・・。まあ・・・子役でもよかったと思いますが・・・ここは長澤まさみを早めに見せてくれた脚本家に感謝したいと考えます。結構、子沢山な信繫ですが・・・ほとんどが関ヶ原の後の出生。まあ・・・謹慎中は・・・他にやることなかった・・・でございますな。昌幸もまだまだ励んでおりますし・・・。

Sanada010天正十年(1582年)は壬午の年である。そのために・・・本能寺の変以後、信濃・上野国の領有権を巡って徳川・北条・上杉が争う一連の出来事を天正壬午の乱と呼ぶのである。九月下旬に徳川と北条が和睦することによって一応の決着を見るのである。しかし・・・上野国沼田城周辺の領有権を巡って真田と北条、北条と徳川、徳川と真田は交渉を紛糾させる。北条は徳川との条約に基づき領有を主張し、真田は固有の領土として譲らない。ついに北条は城攻めという強行手段をとり・・・千に満たない守兵の沼田城を万の大軍で攻め立てる。しかし、猛将・矢沢父子は一歩も譲らず、北条勢を撃退するのだった。一方、徳川は甲斐国の領土化を進めるとともに・・・信濃国の国衆の臣従下を画策する。木曽氏、諏訪氏など傘下に収め、さらには小笠原貞慶が上杉方の小笠原洞雪斎を駆逐し、北信濃を支配する上杉景勝に圧力を加えるのだった。明けて天正十一年(1583年)・・・真田と徳川のつなぎ役だった旧武田家臣の依田信蕃が佐久・岩尾城攻めで戦死。真田昌幸は対上杉の前衛として上田城築城を家康に進言する。正月に伊勢国の滝川一益が羽柴秀吉に叛旗を翻し、二月、柴田勝家が挙兵する。織田家相続争いが進む中・・・家康は信濃国支配を目指す。真田家を抑圧する徳川、北条の同盟に対抗するために・・・真田昌幸は上杉景勝との同盟を画策するのだった。

北条勢は厩橋城から沼田城へ、高崎城から岩櫃城へと軍勢を進める。

主力となる北条氏直の二万の軍勢が矢沢頼綱・頼康が籠る沼田城を目指す。

一方、北条氏邦は先鋒として富永主膳の五千を高崎城と岩櫃城の中間点である大戸城に配した。

岩櫃に籠る真田信幸の軍勢に対する抑えである。

沼田城救援に信幸が打って出れば背後から北条勢が追撃する算段だった。

千に満たない沼田城の軍勢であるが・・・数回に渡る北条勢の城攻めを撃退している。

結局、氏直は包囲戦に切り替えざるを得なかったのである。

一方、岩櫃城の信幸の元へは山道を越え・・・信濃から騎馬武者たちが参集していた。

正室の母方の家来衆である高梨一族をはじめとした北信濃の騎馬武者たちが到着し、真田家嫡男として・・・昌幸の付けた騎馬忍び衆を従えた信幸は岩櫃城を出陣する。

筆頭家老の河原綱家が左翼に展開し、高梨衆が右翼に展開する。

山道を馬蹄の響きが駆け抜けていく。

その数は五百だが・・・全員が騎乗している真田騎馬軍団である。

騎馬により山中を移動する真田衆は岩櫃城に備えた大戸城の北面を通過し、脆さを見せる南面に集結する。

「そりゃ・・・目にものみせてやれ」

信幸の左右に控える鈴木一族の若武者が馬上で大筒を構える。

射出された大玉が大戸城の城門を一撃で打ち砕く。

それを合図に弓騎馬隊が無数の火矢を城内に射込んだ。

「かかれえ」

先頭を切る信幸に続いて鉄砲騎馬が城内になだれ込んだ。

奇襲された守備兵たちは驚愕する。

各所で火の手があがり・・・騎馬武者による銃撃が足軽たちをなぎ倒す。

その背後から槍を抱えた信幸が猛然とあわてふためく武将たちに襲いかかるのである。

城内には女子供もあり、悲鳴をあげて逃げ回る。

信幸は誰彼構わず突きかかる。

その修練の槍技は一瞬で人間の顔面を突きとおす。

襲撃の間に信幸は百人ほどの人間を突き殺した。

すでに大戸城の本丸は真田勢の放火により炎に包まれていた。

「長居は無用じゃ・・・女子供に構うでない」

信幸は槍先に残った首をふりはらい叫ぶ。

「引き上げじゃ」

「引き上げじゃ」

「引き上げじゃ」

騎馬忍びたちは声をあわせ・・・馬首を巡らせる。

地響きを立て・・・真田騎馬隊は城を出る。

残るのは・・・地に伏したものたちのうめき声のみ・・・。

大戸城の五千の守備兵は全滅していた。

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2016年3月13日 (日)

ある山猫の半生(亀梨和也)美しくも儚く燃えて(広瀬すず)

怪盗につきものなのは予告状である。

「今夜、あなたの大切なものを奪いに参ります」

実に・・・紳士的だが・・・やることは泥棒なのである。

だが・・・たとえば・・・貞操を奪いにくれば色事師になってしまう。

命を奪いにくれば殺し屋である。

予告されたものが淑女であれば・・・お返事したいのが人情だ。

「あなたのおいでを心からお待ちしています」

こうなると・・・相思相愛なのである。

この世の残酷さを描くために・・・一番安易な方法は登場人物を殺すことである。

前回はついに主役を殺してしまった。

しかし・・・今回は「実は生きていました」と訂正である。

そして、今回はヒロインを殺してしまった。

「焼け跡から遺体が発見された」と報道までしている。

だが・・・最終回に「実は生きていました」と訂正しても大丈夫だ。

仏の顔も三度までなので・・・まだ二回目だし・・・しかし、そんなことばかりやっていると・・・「うそつき」って言われるぞ。

まあ・・・フィクションの作者である以上・・・基本的にうそつきなので仕方ないけどね。

特別企画で・・・「今週の放送終了後に視聴者の疑問を受けつけ・・・来週、ドラマの中で回答する」らしい。

ゆとりというか・・・切羽詰まってるというか・・・だな。

視聴者「魔王は本当に死んだのですか?」

スタッフ「それは見てのお楽しみ!」

・・・うそつきである前に必死だな。

で、『怪盗  山猫・第9回』(日本テレビ20160312PM9~)原作・神永学、脚本・武藤将吾、演出・小室直子を見た。怪盗が何を盗むのか・・・その究極のお宝は「あなたのハート」に決まっているわけだが・・・あの手この手で攻めまくり・・・いよいよ、最終回である。目に見えるものはいつか消えていくので・・・目に見えないものを盗みたいのが怪盗少女なのだが・・・果たして・・・山猫は・・・何を盗んでいくのか。あまり・・・期待しすぎると裏切られた時のショックが大きいので・・・何を盗むつもりか知らないけれどお茶の間としては盗めるものなら盗んで見ろよと思うしかないのだな・・・。土9だしな。

ついに正体を明かした・・・雑誌記者の勝村英男(成宮寛貴)こと殺し屋カメレオン。

細田の遺品・・・血糊の噴き出す防弾ベスト着用の怪盗探偵・山猫(亀梨和也)だったが・・・本気のカメレオンは脇腹を撃つのだった。内臓を損傷すれば致命傷である。

殺し屋カメレオンは・・・「喜んで殺す」タイプなので・・・とどめを刺さない。

つまり・・・「死に至る時間を引き延ばす」のである。

もちろん・・・脚本家が話を引きのばしているわけである。

カメレオンの仕掛けた電子的な罠にスーパー・ハッカーらしからぬうかつさで嵌り、混乱する魔王こと高杉真央(広瀬すず)・・・。

電子の要塞・山猫カーで監視カメラの復旧に挑むが・・・修復できたのは・・・音声だけだった。

「銃声だわ・・・誰か撃たれたみたい・・・助けに行かなくちゃ・・・」

「あなたが行っても足手まといよ」

「でも・・・」

「山猫は自力でなんとかする・・・それよりも警官隊が接近しているわ」

周囲の状況を監視していた路地裏のカフェ「STRAY CATS 3号店」のマダム・宝生里佳子(大塚寧々)が説諭する。

「・・・」

「今は逃げるのが・・・私たちの仕事よ」

現場に一番乗りしたのは・・・霧島さくら刑事(菜々緒)だった。

「山猫・・・撃たれたの」

「撃ったのは・・・勝村だ」

「まさか」

「何故・・・勝村が撃ったのか・・・知りたければ俺を匿え」

「何を言っているの・・・私は刑事よ」

「好奇心や恋心は・・・時に職業的忠誠心を上回る」

「・・・」

大学の先輩である勝村に一途な恋心のあるさくらは・・・山猫の誘惑に屈するのだった。

山猫を自宅に監禁し・・・応急処置をしたのである。。

「普通は・・・死ぬわよ」

「大丈夫だ・・・主人公だから・・・最終回までは死なない」

「・・・この枠では最終回直前に死にかけることがあるのよ」

「この脚本家にはそこまでの根性はない」

「・・・」

狂犬である犬井克明(池内博之)は悪徳警官の関本修吾警部(佐々木蔵之介)を北浦警察署で足止めしていた。

「あんたが・・・山猫の一味であることはわかっている」

「証拠があるのか・・・ないのならカツ丼を奢れ」

「ふざけるな」

「黙秘権を行使してやる」

「・・・」

路地裏のカフェ「STRAY CATS 3号店」に戻った魔王とマダム。

そこにカメレオンから連絡がある。

「何があったの・・・」

「山猫が撃たれた」

「誰に・・・」

「わからない・・・僕も必死で逃げたので・・・」

「勝村さんは大丈夫なの」

「なんとか・・・今は近くのホテルに潜伏している」

「山猫は・・・」

「わからない・・・」

魔王は激しく不安を感じるのだった。

もちろん・・・魔王が山猫を愛しているからだ。

山猫のいない世界など・・・考えられないのである。

さくらの部屋に・・・「山猫の秘密」という原稿が届く。

連載が中止になった勝村の未発表の原稿だった。

そこには・・・怪盗山猫の半生が綴られている。

今から・・・二十年前・・・1996年。

孤児だった八歳の少年は・・・結城天明の作った秘密組織に拉致される。

動乱の続く欧州では日本国籍の工作員を養成する計画が立案されていた。

スパイ天国である日本国を工作員の潜伏先として利用するためである。

この計画を受注した結城天明は身寄りのない少年少女二十名を選抜し・・・欧州の工作員養成組織に送り込んだのである。

山猫は・・・結城天明に怒りをぶつけようとするが・・・ボデイガードだった関本に制止される。

関本は暗号を秘めた「武士道/新渡戸稲造」を山猫に渡す。

「その本の内容を理解する頃にまた会おう」

関本は結城天明に「見どころあり」と評価された少年に微笑んだ。

某国の工作員養成施設では脱落すれば闇に葬られるという過酷な訓練が続く。

「知っているか・・・いなくなった奴は死んでいるんだぜ」

山猫にそう語った少年も消えた。

十年後・・・生き残ったのは山猫も含めて三人。

その中に「いつか妹と再会したい」と山猫に語っていた少女(安藤美優)も含まれていた。

彼女こそが正体不明の謎の女(中村静香)の姉だったらしい。

工作員として・・・情報収集の任務に着く山猫。

その才能は・・・見事に開花した。

やがて・・・山猫の前に姿を見せる関本・・・。

「日本の闇資金が・・・お前の所属する組織に狙われている」

「フィリピンに秘匿されているのだろう」

「お前には二重スパイを命ずる」

「何故だ・・・」

「すべては祖国のためだ・・・お前も日本人だろう」

「・・・」

「敗戦から65年・・・日本は常に全世界の敵として標的にされ続けて来た・・・闇資金はその最後の盾なのだ・・・」

「俺は何をすればいい・・・」

「偽情報を・・・流すのだ」

五年前のことである。

しかし・・・それは・・・有能すぎる山猫を始末するために結城天明が仕掛けた罠だった。

山猫は某国の秘密組織に逮捕され・・・処刑されかかる。

しかし・・・身に付けた特殊能力により危地を脱し・・・消息不明となった。

三年前・・・日本に戻った山猫は悪徳警官と対峙する。

そして・・・売国奴となった結城天明に天誅を下すために二人は同志となったのだ。

日本に巣食う「悪の組織」の資金を盗み・・・死亡したとされる結城天明への挑戦を開始するチーム山猫が誕生した・・・。

勝村の記事を読み終わったさくらは混乱する。

何が正義なのか・・・わからなくなったのだった。

山猫を隠匿したことを秘密にしながら・・・狂犬に・・・勝村の記事について意見を問うさくら。

「この世界の裏側で何が起こっているのか・・・そんなことはどうでもいい・・・俺たちの仕事は・・・罪を犯した者を逮捕し・・・公正な裁きの場へと送りだすことだ」

「・・・それが刑事の仕事だから」

「その通り」

「私・・・目が覚めました・・・帰ります」

「帰るのか・・・」

さくら刑事は山猫を逮捕することを決意した。

その頃・・・魔王とマダムの殺害を命じられたカメレオンは・・・何食わぬ顔で・・・路地裏のカフェ「STRAY CATS 3号店」に姿を見せる。

「実は・・・隠していたことがあります」

「今さら・・・何よ」

「僕が・・・カメレオンです」

「え」

「僕が・・・山猫を撃ちました」

「ええ」

「そして・・・これからお二人を殺します」

「えええ」

茫然とするマダムと魔王。

「仲間だと思っていたのに・・・」と詰め寄る魔王を冷酷に突き飛ばすカメレオン。

「無駄ですよ」と隠していた拳銃を取り出そうとするマダムの動きを威嚇射撃で封ずるカメレオン。

「一体・・・何故・・・」

「私は・・・殺すのが好きなのです。ただ殺すのではなく・・・相手の信頼を勝ち取った上で・・・裏切られた驚きを感じる相手を殺すことに喜びを感じます」

「山猫と仲良くして・・・感激のあまり・・・泣いていたくせに・・・」

「山猫は僕にとって特別な存在です・・・」

「特別・・・」

「僕は山猫と同じ組織で訓練を受けていたのです。彼は覚えていないようでしたが・・・彼は工作員コース・・・僕は暗殺者コースを卒業したので・・・」

「そんな漫画みたいな話・・・信じられない」

「怪盗だって漫画みたいじやないですか・・・まして・・・その怪盗とお友達ごっこをして・・・仲間になったりすることも・・・」

「あなたのことも・・・仲間だと思っていたのに・・・」

「うれしいなあ・・・そんな・・・あなたを殺せるかと思うと・・・ときめきます」

「変態」

「最高の褒め言葉ですね」

「・・・」

「あのバースデー・パーティーの時・・・あなたのマジックは最高でしたよ」

「山猫はすべてを知っていて・・・あなたを仲間にしたのかもしれないわ」

「もし・・・そうならうれしいな」

「生まれつきの殺し屋なんていない・・・あなたはそういう風に仕込まれただけ」

「さあ・・・それはどうでしょう・・・本当の僕がこわれてしまったのか・・・どうか・・・いまとなっては誰にもわからない・・・僕は今・・・ここにこうして存在しているわけですし」

「山猫はあなたが・・・もう一度変わることを願っていたのかも」

「・・・」

カメレオンは二人をロープで拘束すると・・・店に放火するのだった。

カメレオンは燃えあがる炎の隙間で振り返る。

「山猫はひょっとしたら・・・生きているかもしれない」

「・・・」

「もし生きているとしてこのことを知ったら・・・どれほど僕を憎むことか・・・」

「・・・」

「細田を殺し・・・門松を殺し・・・マダムと魔王を殺したのがカメレオンと知って・・・どれほど・・・自分の無能さを呪うことでしょう・・・想像しただけで胸が熱くなる・・・」

うっとりした表情を見せて去って行くカメレオン。

「あなただけは絶対に助ける・・・」

マダムはなわぬけの技能を披露した。

魔王の縛めを解くマダム・・・。

「早く・・・逃げて」

「一人でなんか逃げられない」

魔王はマダムの縛めを解く。

しかし・・・火の回りは早く・・・脱出は不可能となっていた。

マダムは魔王を抱きしめる。

「あなたがここにきてから・・・私のコアはあなただった・・・」

「・・・」

「顔を見せて・・・大丈夫・・・こわくないよ・・・もうすぐ酸欠で意識を失ってしまうから」

「・・・」

二人は炎に包まれた。

二人の危機を悟り・・・街を走る山猫。

しかし・・・ついに力尽きる。

そこへさくらがやってくる。

「そんな身体で出歩くなんて・・・」

「二人が・・・危ない・・・」

意識を失う山猫。

仕方なく・・・再び、家に連れ帰るさくら。

ニュースでは路地裏のカフェ「STRAY CATS 3号店」が全焼したことが伝えられる。

「店内から二人の遺体が発見され・・・身元が特定され・・・」

「まさか・・・これも先輩が・・・」

「そうだ・・・奴は殺し屋だ」

「そんな・・・大学の時から・・・ずっと・・・知っていたのに」

振り返ると山猫の姿は消えていた・・・。

どこかで・・・大都会で夢を追い続ける地方出身者のバラードが聴こえる。

裏切りを嘆く山猫の遠吠え・・・。

痛快犯罪ドラマであるコレでは・・・「なんでもあり」が前提である。

レギュラー出演者が死亡したり、死亡したとみせかけたりしても構わない。

身代わりの死体の手配や当局の情報操作など言いわけはいくらでもつく。

「死」の直接的表現が苦手なお茶の間対応で曖昧な描写も許容範囲である。

「死者」も「死んだように見えるもの」も判別しにくいわけである。

しかし・・・なにからなにまで嘘だと思うと・・・ドラマだからなって言う他ないぞ。

警察に潜入する山猫。

悪徳警官の救出である。

しかし・・・悪徳警官は・・・別に拘束されているわけではない・・・何しろ・・・証拠がないのだからな。

狂犬が勝手に拘束しているだけなのだ。

あえて言うならば・・・山猫は悪徳警官に会いに来ただけだ。

幼少期から特殊な教育を受けた山猫は組織による洗脳に対抗する手段として「武士道」を与えられた。そこには悪徳警官からのメッセージが暗号化されて秘められている。

「武士道」は山猫の「聖書」となり・・・「幻の祖国である日本国」・・・「やまとは くにのまほろば」(生まれ故郷の景観こそうるわしい心のよりどころ)を山猫の「コア」として定着させる。

山猫にとって悪徳警官は・・・父であり、師なのである。

しかし・・・同時に悪徳警官は・・・結城天明につながる「鍵」でもあった。

侠武会組長の中岡(笹野高史)は組員たちを山猫ダミーとして大量動員する陽動作戦を展開する。

狂犬がおびき出される中・・・山猫の手口に馴染んださくらは屋上へ向かう。

悪徳警官を突き落とした後で山猫は振り返る。

「山猫・・・逮捕だ」

しかし・・・拳銃の弾丸は抜かれている。

「拳銃の弾丸を抜かれて・・・重さで気付かないなんて・・・プロじゃないね」

「私は・・・狙撃手じゃなくて・・・武闘派なのよ」

「これは・・・看病してくれたお礼だにゃあ」

弾丸をばらまいて山猫は飛翔する。

「ルバンめ~じゃなかった・・・山猫~」

救出マットレスを展開する山猫カーのドライバーは・・・いじめっ子アイドル垣内結菜(伊藤沙莉)だった。

「免許もってたのか」

「ダブルだぶりで二十歳の女子高校生なんだよ」

「ヤンキーかっ」

「勝村がカメレオンだった・・・」

「そうか・・・」

「知らなかったのか」

「まんまとだまされたよ・・・それでどうする」

「もちろん・・・リターン・マッチだよ」

「それは・・・復讐か・・・それとも勧誘か」

「武士道とは・・・勘忍の心だろう」

「・・・」

その頃・・・ついに姉の仇を突き止めた謎の女・・・セシリア・ウォンはカメレオンと対峙していた。

「あなたが姉の仇だったのね」

「甘いな・・・圧倒的な戦闘力への過信は命取りだ」

一瞬でセシリアの手から拳銃を奪取するカメレオン。

さくらを圧倒する戦闘力を持つセシリアを子供扱いするカメレオン。

「上には上があるということを忘れないことだ」

「・・・」

「もっとも・・・君がその教訓を生かす機会はもうないんだけどね」

セシリアに銃弾を撃ち込むカメレオン。

「・・・このお守り・・・御利益ないのことね」

さくらは「門松のお守り」を血に染めた。

「あの世のお姉さんによろしく~」

例によってとどめをささないで立ち去るカメレオン。

最強すぎて・・・暗殺者としてはどうかと思うのである。

「・・・山猫・・・後は・・・頼むのことあるよ」

さくらはこときれた・・・。

そして・・・山猫とカメレオンの最後の戦いが始るのだった・・・。

まあ・・・最後かどうかはわからんがな・・・。

ユウキテンメイはゴリさんじゃないだろうな。

関連するキッドのブログ→第8話のレビュー

Ky009ごっこガーデン。哀愁の警察駐車場ライブステージセット。

エリキャ~、ヒロイン焼死ですかさずさくら刑事に衣装チェンジです・・・ぐふふ・・・山猫先輩を手錠でベッドに縛り付けて介護プレー・・・堪能するのでス~。そして・・・休憩時間はカップラーメンで栄養を補給して朝までカラオケ大会でス~。上を向いて歩いたらバナナの皮ですべるのがお約束なので気をつけてくださいね~。さてさて・・・いよいよ・・・最終回・・・お別れするのは辛いけど~仕方がないのよ春だから~。はたして・・・どんなフィナーレが待っているのか~。ああ・・・一週間が待ち遠しいのでス~

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2016年3月12日 (土)

もう誰も彼を傷つけないでください(綾瀬はるか)

今年も何事もなく三月十一日が通りすぎていった。

去年の三月十二日のレビューは「フラガールと犬のチョコ」である。

今年はこれであるのが・・・運命的なんだな。

人間にとって・・・世界とは自分そのものである。

あるいは「私」と「世界」しかこの世にはないのだ。

その証拠に私が死ねば世界は消えるのである。

だから・・・私以外の誰かが死んでも世界は続いて行くわけである。

東日本大震災の死者1万5894人は私とは違うのである。あるいはあなたとは。

このドラマでは・・・「人間」と「それ以外の何か」の葛藤が描かれる。

こういう設定があり得ないと感じる人間は無垢だと言える。

「制裁するもの」と「制裁されるもの」

「基地周辺住民以外の国民」と「基地周辺住民」

「正規雇用者」と「非正規雇用者」

「扶養家族あり」と「扶養家族なし」

「非避難民」と「避難民」

「日本死ねと言わない人」と「日本死ねと言う人」

「五体満足の人」と「そうではない人」

「自殺しない中学生」と「自殺する中学生」

あらゆる場所で・・・「存在を無視する人」と「存在を無視される人」は共存しているのである。

これは・・・そういうことが日常茶飯事であることを示す傑作なのである。

あなたの隣にいる誰かは・・・あなたではないのだ。

で、『わたしを離さないで・第9回』(TBSテレビ20160311PM10~)原作・カズオ・イシグロ、脚本・森下佳子、演出・山本剛義を見た。「ベビベビふんふふんふんふーん」と歌い、「愛し合う二人は猶予を勝ち取るべきだ」と願い、「私を離さないで」と叫んだ酒井美和(瑞城さくら→水川あさみ)は提供を終了した。提供者としての使命を果たし・・・天使としてこの世から消えたのだった。

残された保科恭子(鈴木梨央→綾瀬はるか)は土井友彦(中川翼→三浦春馬)の介護人となり・・・「最後の希望」である・・・「愛し合う二人には猶予が与えられる」という陽光学苑の「噂」を確認するために・・・美和の残した陽光学苑校長・神川恵美子の住所を訪ねる決意をする。

「じゃあ・・・俺も行くよ」

「・・・トモの外出許可を得るのは大変なのよ」

「この前みたいに・・・無断外出すれば」

「留守かもしれないし・・・とにかく・・・私が行ってみるから・・・トモは絵を描いて」

「・・・」

楽天家の友彦と違い・・・悲観的なところのある恭子は用心深かった。

もしも・・・「猶予の噂」が・・・根拠のない噂だった場合・・・友彦の心が傷つくことが・・・恭子には見通せたのである。

友彦は少し・・・知性の発達に問題があり・・・物事の裏を憶測することが苦手だった。

恭子はそれを「自分にはない美点」と感じていたが・・・だからといって・・・愛する人が傷つくのは避けたかったのだった。

恭子は思慮深く・・・誰よりも現実主義者だった・・・少なくとも提供者としては・・・。

介護人の仕事の合間を縫い・・・下妻市の神川邸を訪問する恭子。

「一年前に引っ越した・・・」

「うん・・・」

「引越し先・・・わからないのかな」

「もう一度行って・・・近所の人に訊いてみるつもり」

「郵便屋さんとか・・・知らないかな」

「聞いてみるわ」

二人は希望を失わない。

「ねえ・・・俺とここで暮さないか」

「・・・」

「もちろん・・・一人になりたい時は・・・俺がどこかに・・・」

「一人になりたいなんて思わないよ・・・いつも一緒にいたいもの」

放屁をする友彦。

「臭いわね」

「うれしくて」

「うれしいと出るシステムだったの」

提供者として抜群の優等生である恭子は・・・友彦のすべてを愛する。

恭子にとって・・・友彦は・・・恋人であり・・・提供者にとって生むことのできないベイビーなのである。

二人は愛し合う。

まどろむ恭子の寝顔を友彦はスケッチする。

「やめてよ・・・恥ずかしい」

「恥ずかしがることなんかないよ・・・恭子の寝顔は最高にかわいいから」

「嘘・・・」

「嘘じゃないさ」

友彦は「正常位」や「後背位」そして「騎乗位」などの「二人」も描くつもりだった。

「絵」の主題は・・・「二人が愛し合っていることの証」だったからである。

恭子は元・神川邸を訪ねるが・・・恵美子の引越し先は杳として知れなかった。

「外の世界では・・・個人情報というものを明かさないらしいの」

「そうなんだ」

「お手上げね」

「ねえ・・・恭子の絵は・・・いつもマダムにもっていかれたよね・・・」

「うん・・・」

「あの絵は・・・どこにあるんだろう・・・」

「さあ・・・」

「わざわざ持って行ったんだから・・・何処かに飾ってあるんじゃないのかな・・・美術館とか」

「・・・」

「もしも・・・どこかで恭子の絵が見つかれば・・・マダムと連絡がつくんじゃないかな」

恭子は・・・それを雲を掴むような話だと感じる。

しかし・・・友彦の「最後の希望」を否定することはできない。

それは・・・恭子にとっても「最後の希望」だった。

恭子は・・・時間の許す限り・・・美術館めぐりをするのだった。

「大変そうだね・・・」

恭子が介護を担当する提供者の加藤(柄本佑)が呟く。

「すみません・・・お世話をする時間をあまり・・・とれなくて」

「構わないよ・・・」

加藤は三度目の提供を待つ身である。

それは友彦も同じだった。

恭子は残り時間の少なさにあせりを感じる。

友彦は完成した絵を広げて・・・鑑賞していた。

知性に問題のある友彦が創作に熱中して・・・薬の服用を忘れたことに腹を立てる恭子。

「ダメじゃない・・・」

「でも・・・体調良かったから・・・」

「回復しなければ・・・いけないの・・・どうしてわかってくれないの」

「・・・」

「私・・・今日は家に帰るわ・・・」

恭子は疲れていた。

言うことを聞かない友彦に・・・。

「最後の希望」に至る道が開かれないことに・・・。

加藤は呟く。

「なかなか・・・見つからないんだね・・・」

「もう・・・無理なのかもしれません」

「でも・・・なんだか・・・楽しそうだ」

「え」

「僕には・・・そういうことは・・・なかったから」

「・・・」

誰よりも大切な友彦から・・・離れて・・・自分に何が残るというのか。

恭子は・・・友彦のところへ戻った。

友彦は病院の図書室で借りたミステリ小説「深解のキャンバス/詩邑ことは」(フィクション)を読んでいた。

「友彦・・・」

「思ったより早かったね」

「何を読んでいるの・・・」

「人の捜し方を研究しようと思って」

「参考になった?」

「全然・・・でも面白いよ」

恭子は小説を手にとり・・・愕然とする。

表紙に使われている「絵」は・・・恭子自身の「絵」だった。

出版社を訪ねる恭子。

「あなたの作品とは知りませんでした・・・未許可だったとは・・・」と編集者は困惑する。

「以前・・・ある人に贈った絵だったのです・・・もし・・・その人と連絡がついたら・・・伺いたいことがあるのです」

「それでは・・・あなたの連絡先を教えてください」

恭子は考える。

提供者の連絡先は・・・すべて管理センターを経由したものになる。

そこで・・・恭子は「マダム」宛ての手紙に「友彦の回復センターの住所」を添え・・・編集者に託すことにした。

それが・・・マダム(真飛聖)の手に届くかどうかは・・・賭けなのである。

そして・・・恭子は賭けに勝った。

マダムから返事が来たのだ。

「恵美子先生は・・・のぞみが崎に住んでいるって・・・私たちと会ってくださるそうよ・・・」

「でも・・・猶予が本当かどうかは・・・」

「猶予のことも私は手紙に書いたから・・・もし・・・それがただの噂なら・・・そんなものはないと手紙に書けばいいんだもの・・・わざわざ会ってくれるというのは・・・猶予があるということよ」

「でも・・・猶予を受けられるかどうかは・・・わからない」

「・・・」

「ねえ・・・どの絵を持って行こうかな」

「全部よ・・・何が評価されるかなんて・・・わからないもの」

二人は「最後の希望」を求めて旅立った。

恭子の運転する車は・・・友彦を乗せて「のぞみが崎」に向かう。

「本当に・・・猶予があるなんて・・・」

「まだ・・・猶予を受けられるとは決まってないよ」

恭子は・・・希望に目が眩んでいた。

しかし・・・友彦は・・・希望が失われる惧れを抱いていた。

二人の心はすれ違う。

だが・・・それはそれほど問題ではなかった。

夢だと思っていたものが現実になる・・・二人は同じ道を走っていたのである。

資産家の別荘の趣きがある神川家の屋敷。

マダムが二人を案内し・・・老いの気配を漂わせる美和子の元へと導く。

「覚えていますよ・・・いつも癇癪ばかり起こしていた男の子と・・・格別の優等生だった・・・あなたたち二人のことを・・・」

「私たちは・・・猶予のお願いに来たのです・・・」

「・・・」

「絵を描いてきました・・・陽光にいた時は・・・下手だったのですが・・・ずっと練習して・・・」

「素晴らしい作品ですね・・・特に彼女を描いた連作には・・・彼女を大切に思う気持ちが息づいている・・・」

「それじゃ・・・」

恵美子は二人から視線をそらす。

「猶予というものが・・・あれば・・・猶予をあげることができたら・・・そうしたいのはやまやまです」

「え」

「しかし・・・そういうものはありません・・・」

「そんな・・・」

友彦はすがるように龍子(伊藤歩)の手紙を示す。

「ここに・・・陽光には・・・秘密があると・・・」

恵美子は・・・二人に視線を戻した。

「私は・・・人間ではありません・・・」

「ええっ」

「私は・・・クローンの・・・最初の成功例なのです」

「えええ」

恵美子を演じる麻生祐未は1963年の生まれである。

現実の世界では1963年には世界で初めて魚類のクローンが作成された。

哺乳類のクローンが作成されるのは1981年のことである。

こちらの世界では・・・同じ時期に・・・提供者としてのクローン作成が実用化したのである。

恵美子の戸籍上の父親である神川博士は・・・恵美子の戸籍上の母親である神川夫人の細胞からクローン人体の作成に成功した。

神川夫人のクローン人体は恵美子と命名され・・・神川夫妻の娘として養育されたのである。

母親とそっくりの娘として・・・違和感なく普通の人間として育った恵美子。

古い写真で恵美子そっくりの神川夫人の手に抱かれているのは恵美子だったのだ。

恵美子が初潮を迎えない自分の身体に疑問を感じる思春期に達した頃・・・すでに・・・提供者社会は実現していた。

人間たちは移植臓器提供のために作成されたクローン人体を「提供者」と呼び家畜化していたのである。

父親の告白により・・・自分が「提供者」という「家畜」と同じ「クローン」であると知った嫌悪感で吐き気を感じた。

「酷いでしょう・・・私も・・・父も・・・」

「・・・」

恵美子の告白に戸惑う恭子・・・。

家畜である提供者と同じクローンでありながら・・・人間として育てられた恵美子。

自分の正体を知った恵美子の苦悩・・・。

クローンである自分が人間と同じように生きていることを・・・もてあましたのである。

神川博士が故人となり・・・遺産を相続した恵美子は・・・陽光学苑を創立する。

提供者に人間らしい教育を与え、人間らしい提供者によって・・・クローン人体が「家畜」ではないことを社会に訴え・・・「提供者」制度の改革を目指す・・・。

それが・・・恵美子の遠大な計画だった。

「龍子先生のように・・・想像力のある人間には・・・魂を持った提供者が存在することが簡単にわかる・・・そして・・・提供者システムが人間として許されない非人道的なものであることが・・・しかし・・・多くの人間にはそういう想像力が欠如しているのです」

「それでは・・・外の人たちは・・・私たちに魂がないと信じているのですか」

「そうです」

「友彦の作品の一つ・・・この絵に描かれているのは私と・・・親友の美和です。美和は勝気な性分で・・・意地悪で・・・私は多くの嫌がらせを受けました。一時は・・・耐えかねて私自身が心を閉ざすところまで追いつめられたのです。しかし・・・介護人として提供者となった美和と接するうちに・・・彼女が私を愛していたことを知りました。彼女はただ・・・私に愛されることを求めていたのです。それほど・・・純粋に・・・愛を求めた美和に魂がなかったと・・・」

「私は・・・あなたたちを単なる家畜にしたくなかった・・・あなたたちが天使として・・・誇りを持ち・・・提供者や介護人となることで・・・それを世に問おうと考えたのです」

「・・・」

「人間は・・・強欲です・・・すでにある便利なものをないものとして手放すことを難しいと考えます。クローン人体による移植臓器提供という・・・素晴らしい成果を手放したくないと考える生き物なのです」

「つまり・・・便利な道具を手放したくないから・・・道具に魂があることなんか・・・無視する・・・ということですか」

「私は・・・あなたたちに・・・可能な限り・・・人間のように生きてもらいたいと願いました・・・そのことをおわかりいただけましたか」

「・・・」

「しかし・・・人間たちは簡単には・・・クローン人体という家畜に魂があることを認めない。だから・・・私はあなたたちに貴い使命を説き・・・あなたたちを天使と呼びました」

「・・・」

「私は間違っていましたか・・・他にもっといい方法がありましたか・・・」

恭子は答えることができなかった。

恭子は・・・恵美子の方法論の優等生だった。

恵美子の方法に異を唱え反逆しようとした真実(エマ・バーンズ→中井ノエミ)はどうなった・・・。

「・・・通行中の皆様。突然失礼します。私は候補者ではありません。私は提供者です。でもどうか少しだけ私の話を聞いてください。 私はある施設で育てられました。その頃はまだ提供者と知らずごく普通の子供時代でした。だけどある日、提供という使命を持った天使だと知らされました。私の命は誰かのためにある。誰かを救うためにあるのだ。捧げるのが使命だと。だからお前たちは天使だと教えられました。大好きな友人に命をあげることを考えました。彼女が苦しんていて私の心臓があげられるかと。私は無理だと思いました。代わりに死ぬことなどできない。私は天使ではないと思いました。天使でなければなんなのか。私は普通の人間ではないだろうかと。私の望みはごく普通のことです。自由に歩きたい。仕事をしてみたい。理想の将来について語りたい。子供をもちたい。でも許されない。そんな些細なことが。なぜですか?・・・簡単です。私たちは家畜だからです。私だって豚が何を考えているかなんて考えません。だからお願いします。どうか、私たちを何も考えないように作ってください。自分の命は自分のものではないのかなどと思いもしないように・・・」

真実はそう叫んで自死したのだ。

恭子は・・・真実のようにはなれない。

その日が来るまで・・・できるだけ長く生きていたい。

なぜなら・・・恭子は・・・そう考える提供者だから・・・。

「帰ろうか・・・」

涙を流す二人のクローンの女を無視して友彦は呟いた。

友彦の「最後の希望」は打ち砕かれたのだ。

「あなたたちにお会いできて・・・うれしかったわ」

恵美子は退室した。

その場にいる唯一の人間であるマダムに・・・恭子は問わずにはいられなかった。

「そうではない・・・人間もいるのですね」

「そうです・・・しかし・・・とても少数で・・・無力なのです」

「昔・・・私たちが音楽室で踊っていた時・・・あなたは泣いていた・・・私たち提供者と言う名の家畜を憐れだと思っていたのですか」

「あなたたちは・・・幸せそうだった・・・私は祈ったのです・・・その幸せが・・・あなたたちから失われてしまわぬようにと・・・」

「・・・」

誰が悪いというわけではなかった。

それはそういう世界の話なのである。

そして・・・それは・・・人間の世界ではよくあることなのだ。

暗い夜道を車は走る。

「結局・・・いいわけばかりだったな」

恭子はなんとか友彦を慰めようと考える。

「私・・・友彦の言っていたことがようやくわかったような気がする」

「・・・」

「夢は・・・あるだけで・・・素晴らしいって・・・」

「・・・」

「探偵ごっこは楽しかったし・・・」

「そうだな・・・愛し合っている二人に猶予が与えられるって・・・もう実現していようなものだし」

「だよね・・・」

「・・・」

友彦は車窓に映る自分の顔を見る。

すでに・・・そこには夢を見ていた自分はいない。

なぜなら・・・夢はもう消えたのである。

赤信号で停車した車から飛び降りる友彦。

「トモ・・・」

「ああああああああああああ」

友彦は叫ぶ。

絶望と・・・激昂と・・・悲哀が爆発する。

友彦は幼い頃のように癇癪を破裂させる。

ガードレールを蹴り、素手で殴る。

血まみれになる友彦の手・・・。残される鮮やかな血痕。

提供者が人間のように生きている証。

「ダメよ・・・自傷行為なんて・・・解体されてしまう・・・」

「・・・」

「サッカーが出来なくなってしまうよ・・・」

「恭子・・・無理だよ・・・もう・・・無理だよ・・・」

恭子は震える友彦を抱きしめた。

(誰か・・・)

脚本家の森下佳子は・・・女優の綾瀬はるかと数々の名作を手掛けている。

「MR.BRAIN」(2009年)や「JIN-仁-」(2009年~2011年)というヒット作もあるが・・・「わたしを離さないで」は「世界の中心で、愛をさけぶ」(2004年)や「白夜行」(2006年)に通じるものがある。

それは・・・作品世界に横たわる「絶望の深さ」である。

「白夜行」の「やったのは私だよ」のセルフ・パロディーに続き・・・ここでは「セカチュー」の「誰か助けてください」のバリエーションが展開されるのである。

(これ以上・・・友彦を傷つけさせないで・・・)

しかし・・・恭子のせつない願いを叶えるものはいない。

友彦に届く「三種同時提供」の通知・・・。

友彦の肉体は切り刻まれ・・・そして・・・心は傷ついたまま消えるのみなのだ・・・。

最終回・・・果たして・・・恭子はそんな世界で「光」を見つけることができるのか。

見つけたって悪くはないが・・・とてつもない「闇」が残るだけでも構わないと思う。

このドラマはもう・・・充分に傑作なのだから・・・。

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2016年3月11日 (金)

マッサンスピンオフすみれの家出~追いかけて大阪べっぴんさん一人旅(早見あかり)

余韻だな・・・。

余韻です・・・。

お初(早見あかり)のいない木曜日なんて・・・だな。

まあ・・・まだテレビ東京深夜の「ウレロ☆無限大少女」で会えるわけだが・・・。

如月すみれ(桐谷美玲)からの亀山すみれ(早見あかり)である。

すみれが来ているな・・・。

どこにだよっ。

三月の谷間なので・・・本当は触れるべきドラマはたくさんあるわけだが・・・「お義父さんと呼ばせて」の花澤真理乃(新川優愛)と中森愛(中村ゆりか)のこととかな。

そこ限定かよっ。

「桜坂近辺物語」の川口春奈とかもな。

第4夜限定かよっ。

で、『すみれの家出〜かわいい子には旅をさせよ「マッサン」スピンオフドラマ前編』(NHK総合20151231PM2~)脚本・坂口理子、演出・野田雄介を見た。2015年4月のBSプレミアムからのおさがりオンエアである。早見あかり的には「マッサン」本編から「すべてがFになる」の真賀田四季、「セカンド・ラブ」の野口綾子を挟んでいることになる。それから「ラーメン大好き小泉さん」だ。そういう意味で・・・ある意味、主演デビュー作といっていいこのドラマ・・・実に堂々としていて・・・かつ初々しい・・・。素晴らしい二十歳のスタートだったな・・・。

すでに・・・住吉の食堂「こひのぼり」には「太陽ワイン」のポスターが掲示されているので大正時代である。モデルとなる松島栄美子の「赤玉ポートワイン」のヌード・ポスターは大正十一年(1922年)だが「マッサン」の世界は少し前倒ししているのである。

本編の主人公・マッサンこと亀山政春(玉山鉄二)とエリー(シャーロット・ケイト・フォックス)の夫妻は孤児のエマを養女とした頃のこと・・・。

マッサンの故郷・広島から妹の亀山すみれが大阪に「心に秘めた思い」を抱いてやってきた・・・。

住吉酒造の社長・田中大作(西川きよし)とすれ違ったすみれは・・・空腹を抱えて「こひのぼり」から聴こえる広島訛りに誘われる・・・。

その手には・・・。

東成郡住吉村 山村信吾

・・・というメモが握られている。

「こひのぼり」の店主・春さん(及川いぞう)と娘の秋(しるさ)はすみれが同郷と聞き・・・歓迎する。

しかし・・・食事を終えたすみれは・・・無一文なので住み込みで働かせて欲しいと願い出る。

春さんは「家出した」と聞いて・・・事情は聞かずにすみれを受け入れるのだった。

常連客である巡査(バッファロー吾郎A)は臨時雇いのすみれにたちまちのぼせあがる。

しかし・・・町の世話役・キャサリン(濱田マリ)はピンときて・・・マッサンに知らせるのだった。

あわててやってきたマッサンは家出の理由を問いただす。

「女学校を卒業したらお見合いさせられる」とすみれ・・・。

「なんじゃと」

たちまち・・・頑固な似たもの兄妹の激突である。

「こひのぼり」の常連客一同はその瓜二つな感じに呆れるのだ。

むくれ顔のすみれ、かわいいよ、すみれだった。

「自立した女になるために・・・教師になりたいのだ」と言うすみれだったが・・・。

「何のために・・・大阪に来たのか」と詰め寄られ・・・「女学校の教師に文句を言うためだ」と目的を明かす。

恩師の山村真吾(須賀貴匡)は「教え子には自立を目指せと教えたのに・・・自分は家業を継ぐために教師を辞めて結婚するなんて許せない」と言うすみれ・・・。

しかし、キャサリンやエリー・・・そして安藤好子(江口のりこ)はたちまち・・・すみれの本心を見抜くのだった。

「あの子、男性教師に惚れておっかけてきたんやで」・・・なのである。

恋心をもてあまし爆発する・・・すみれ、かわいいよすみれ・・・なのであった。

亀山酒造の番頭の島爺(高橋元太郎)が「お嬢様のお見合い相手は結婚しても教師の職業を続けてもよろしいとおっしゃってます」と迎えに来ても・・・そこが問題ではないすみれだった。

鴨居英一郎(浅香航大)と女優のみどり(柳ゆり菜)が「こひのぼり」を訪れ・・・「ロミオとジュリエット」の舞台に一同を誘う。

「ロミオとジュリエット」に「マッサンとエリー」を見出すすみれ・・・。

しかし・・・キャサリンは・・・「マッサンとエリーが喧嘩ばかりしていた」とすみれに告げる。

すみれは・・・まだ恋に焦れる女学生なのだった。

すみれが訪ねた時に留守だった山村真吾が「こひのぼり」にやってくる。

「どうして・・・教師をやめて・・・家業を継ぐなんて」と本音を隠して詰るすみれ。

「すまない・・・こんなことを言えた義理ではないのだが・・・君には立派な教師になってもらいたい」

「先生がいないのに・・・教師になったって・・・」

ついに本音が出てしまうすみれ。

すみれの心を察した山村は・・・去って行くのだった。

山村が自分のことをなんとも思っていないことを知ったすみれは自暴自棄になる。

「私、女優になります」と言い出す始末である。

・・・自伝かっ。

「ロミオ・・・どうしてあなたはロミオなの」とすみれは叫んだ。

今度は・・・山村の婚約者である川野妙子(マイコ)が「こひのぼり」にやってきた。

「本当は・・・結婚して・・・広島に参るはずでした・・・しかし・・・私の実家を継いだ兄が早世し・・・私が婿を取らねばならなくなったのです。あの人は教師の夢を捨て・・・帰ってきてくれました・・・しかし・・・それが私には心苦しい・・・どうか・・・あの人を連れて広島に・・・」

「そんな・・・それじゃあ・・・あなたは・・・」

「私はあの人が幸せであれば・・・それでいいのです」

妙子の言葉に打ちのめされるすみれ・・・。

引き籠ったすみれをエリーが見舞う。

「元気出して・・・」

「私・・・自分のことしか考えていなかった・・・先生が自分のものになればそれでよかった・・・先生のことなんか・・・考えてなかったんじゃ・・・穴があったらはいりたいもんよ」

「私には・・・マッサンの前にも・・・好きな人がいました・・・」

「え」

「その人は戦争に行って・・・帰らぬ人になった・・・でも・・・私はその人を愛したことを後悔していない・・・そして・・・マッサンに出会って・・・今、とても幸せです」

「ラブですか」

「ラブです・・・すみれ・・・あなたにもきっと新しいラブが待ってます」

「エリーお義姉さん・・・・」

こうして・・・すみれの初恋は終わり・・・旅立ちの時がやってきた。

「先生、結婚おめでとうございます」

「ありがとう・・・すみれくん・・・」

初恋の人を心から祝福するすみれだった。

「すみれ様・・・お忘れものはございませんか」と島爺・・・。

「手ぶらで家出してきたから・・・」

「いいえ・・・お心の方でございます」

「まあ・・・大丈夫よ・・・心はいくら盗まれても減らないから」

島爺は強がるすみれに微笑むのだった。

まあ・・・古典的な新喜劇だったな・・・。

そして・・・すみれはお初になるのだった。

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2016年3月10日 (木)

雪山遭難ホワイトデー(桐谷美玲)死ぬよ!(小西真奈美)

雪山遭難じゃ、雪山遭難じゃ、久しぶりだにゃあ。

・・・好きなんだな。

・・・好きなんだ。

雪山遭難こそがドラマの基本だ・・・おいっ。

まあ・・・ロケが大変なんだけど・・・そこを頑張るのがいいんだよな。

今年はあまりなくていいよな。

そういうリスクはあるよな。

現実とかぶるとフィクションがお蔵というシステムがよくわからん。

まあ・・・大人の事情だからな。

そういう意味でナベツネは大人じゃないよな。

そもそも・・・そういう大人が・・・中学生を自殺に追い込むんだけどな。

雪山遭難クリスマスとか雪山遭難バレンタインデーとかも素敵だよねえ。

震えながらチョコレートを食べたいよねえ。

北半球では雪山遭難は愛の季節の風物詩なんだよねえ。

で、『スミカスミレ45歳若返った女・第5回』(テレビ朝日201603042315~)原作・高梨みつば、脚本・古家和尚、演出・宮岡太郎を見た。如月家に伝わる黒猫のかきつばたの屏風から黎(及川光博)が抜けだしたように・・・真白家に伝わる白猫のかきつばたの屏風からは謎の美女(小西真奈美)が現れる。六十五歳の澄(松坂慶子)から二十歳のすみれ(桐谷美玲)に変身している・・・彼女には・・・謎の美女が化け猫だと判るのだが・・・真白勇征(町田啓太)はただ驚くばかりである。

「誰だ・・・君は」

「誰だってか・・・」

白装束の化け猫は妖力で勇征を気絶させるのだった。

「何をするんですか」

「大丈夫や・・・ちいと眠ってもらたっただけやで・・・目を覚ましたら・・・ここであったことは忘れとるから安心やで」

「・・・」

「あなたは・・・お名前は・・・」

「私は雪白・・・さあ・・・黎の処へ案内しておくれ」

「・・・」

仕方なく・・・雪白を如月家に連れ帰るすみれだった。

すみれは・・・手料理を作って雪白をもてなす。

「まあまあの味やな」

そこへ黎が登場する。

「主様に対して失礼だぞ」

「主様・・・」

「契約が成就するまで・・・すみれ様はわが主だ」

「ち・・・固いことを・・・」

「お前こそ・・・余計なことをして」

「なんや・・・あんたと子作りしたくて・・・こうして封印を破ったのに・・・」

「お前が・・・真白様の犬を操って・・・蔵で仔を産ませ・・・すみれ様に鍵となる言葉を無理矢理言わせたことか・・・」

「・・・」

「そんなことでは・・・封印は破れない・・・」

「こうして・・・私が出られたやないの」

「いいや・・・まだ本当に自由になってはいないのだ・・・」

「ふん」

「だから・・・お前もしばらくは人間のフリして大人しくしていろ」

「ち・・・せっかく出て来たのにお説教か・・・もう・・・ええわ」

すみれの心尽くしのどてらを着たまま家出する雪白だった。

「あ・・・雪白さん」

「放っておきなさい・・・腹が減ったら帰ってきます」

「そんな・・・猫みたいに・・・言わなくても」

「化け猫です」

「それにしても・・・真白くんの家に対の屏風があるなんて・・・びっくりするような偶然ですね」

「偶然ではなく・・・運命かもしれませんよ」

「え」

「如月と真白には縁があるのでしょう・・・」

「・・・まあ」

黎の意味深な言葉に赤面するすみれだった。

そこに・・・勇征が訪ねてくる。

「真白くん・・・」

「よかった・・・戻られていたんですね」

「ごめんなさい・・・急用があったものですから・・・」

「こちらこそ・・・せっかく・・・あなたが遊びにきてくれたのに・・・蔵で眠りこんだりして・・・」

「私こそ・・・寝ているあなたを置き去りしちゃって・・・」

勇征は思わずすみれを抱きしめる。

「すみれ・・・」

「え・・・」

「ほっとしたので・・・ちょっと充電させてください」

「充電?」

うっとりとする勇征だが・・・その視線の先に・・・立っている黎だった。

「あ・・・すみません・・・玄関先で・・・」

「いえ・・・どうぞ、お続けください・・・なんなら・・・私、少し散歩してまいります」

「いえ・・・安心したので・・・今日はこれで帰ります」

「おや・・・そうでございますか・・・もっと積極的でもよろしいのに・・・」

「はあ・・・」

勇征が去るとすみれは疑問を口にした。

「あの・・・封印は解けていないのですか・・・」

「はい・・・雪白がしたのは・・・掟破りの邪法です・・・封印を解くためには・・・すみれ様が・・・心から幸せを感じなければならないのです」

「私・・・もう充分幸せですが・・・」

「いえ・・・本当の幸せは・・・もっと凄いのでございます」

「・・・」

封印が解けていない証拠に・・・午後十一時~午前一時の子の刻タイムになると澄に戻ってしまうすみれだった・・・。

「あらまあ・・・こういうこと」

「そういうことです」

凄い幸せを求めて・・・椿丘大学に通うすみれだった。

凄い幸せを模索して・・・次のデート・プランをすみれに告げる勇征・・・。

「今度・・・一緒にスノーボードをしませんか」

「スノーボードって・・・スキーみたいな・・・」

「そうです」

「でも・・・私・・・スキーもしたことないのです」

「大丈夫・・・俺が教えますよ・・・一泊二日で行きましょう」

「え・・・でも・・・」

「ぜひとも・・・お連れください」

「え」

「黎さん・・・」

神出鬼没の黎だった。

「ただ・・・お二人はまだ学生なので・・・間違いが起こらぬように・・・別々の部屋にお泊まりください」

「も・・・もちろんです」

少し・・・落胆する勇征だった。

子の刻タイム問題が解決し、すみれは大胆になった。

「私をスノボに連れて行ってください」

「喜んで・・・」

女王様きどりの幸坂亜梨紗(水沢エレナ)とのとりまきである菜々美(小池里奈)と玲那(谷川りさこ)は例によって辻井健人(竹内涼真)を囲むのだった。

「おい・・・あの二人の次のデートはどうなってんだよ」

「俺は・・・もうスパイみたいなこと嫌だ」

「誰も・・・お前の好き嫌いなんて聞いてねえんだよ」

「ひでぶ」

そこへ・・・シーチキン味のポテトチップスをもぐもぐする雪白が現れる。

かわいいよ、雪白かわいいよ・・・である。

化け猫だけどな。

「おやおや・・・真白と如月の匂いがするね・・・あんたら・・・二人の友達かい」

「なに・・・この人・・・」

「あんたらには・・・あの二人がねんごろになるために頑張ってもらわんと」

「ねんごろってなんだよ」

「仲睦まじくなることや」

「なんで・・・そんなこと・・・私たちが・・・」

「あんたらの気持ちなんてどうでもいいんや」

妖力を行使する雪白・・・。

たちまち・・・催眠状態になる一同・・・。

そこへ・・・黎がやってくる。

「やめなさい・・・」

「なんでやねん」

「策を弄しても無駄だと言ってるだろう・・・」

「じれったいやん」

黎は雪白の術を解くのだった。

「時を待つのだ・・・何百年も待ったのではないか・・・」

「・・・」

二人の化け猫は朦朧とした四人を残して去って行く。

お泊まりの準備中のすみれ。

発破をかける雪白・・・。

「ええか・・・夜はダメでも昼間ならやれんのやで」

「何をですか」

「子作りにきまっとるやないか」

「え」

そこへ・・・お隣の小倉富子(高橋ひとみ)が乱入する・・・。

「黎様・・・えええ・・・その女は」

「こちらは黎さんの許嫁の雪白さんです」

「いいなじゅけ~」

卒倒する富子だった。

「誰や?」

「隣人です」

「けったいな女やな」

スノボ旅行当日である。

「すみれ・・・」

「真白さん」

由ノ郷千明(秋元才加)と西原美緒(小槙まこ)の教育の成果で・・・旅行ファッションもそれなりの仕上がりを見せるすみれだった。

「とても・・・素敵だよ」

「・・・今日は新幹線でしょうか」

「もう・・・二人分買ってある」

「まあ・・・おいくらでしたか」

「今日は・・・僕が誘ったんだから・・・奢らせてください」

「・・・はい」

「車内で何か食べるものを買いに行きましょう」

「あの・・・お弁当を作ってまいりました」

お弁当とお茶、みかんと饅頭も用意しているすみれである。

「じゃあ・・・荷物は俺が持ちますよ」

こうして最高の幸せを求めて旅に出る二人・・・。

普通の幸せではもの足りない・・・封印が解けないのである。

ゲレンデは最高のスノボ日和・・・もちろん・・・黎が天候を操っているのだ。

なんだかんだ・・・黎も策を弄しているわけだが・・・。

おそらく・・・黎の中で・・・雪白との雄雌の情とは別に・・・すみれとは飼い主と飼い猫の情のようなものが生まれているのだと思われる・・・。

勇征は手取り足取りのコーチを開始する。

「転び方からはじめよう」

「きゃあああ」

「はい・・・しっかりつかまって・・・」

「どっこいしょ・・・」

思わず口に出して赤面するすみれ・・・。

しかし・・・勇征は・・・かわいいよ、すみれかわいいよで・・・思わずあすなろ抱きである。

ニヤニヤするしかないイチャイチャぶりだった・・・。

休憩する二人・・・。

通路に落ちていた手袋を拾うすみれ・・・。

「どなたか・・・手袋を落してますよ」

単なる親切心を発するすみれ・・・。

「あ・・・俺のだ・・・」

「はい・・・」

若者はすみれの美貌に発情するのだった。

「まさか・・・逆ナンじゃないよな」

「ぎゃぐ?」

「すみれ・・・」

「あ・・・はあい」

すみれが男連れと知り・・・逆上する若者だった。

「なんだよ・・・俺のタイプなのに・・・」

男の中に邪な情欲が燃えあがるのだった。

勇征は豪華なディナーを予約していた。

「ここ・・・お高いんじゃ・・・」

「大丈夫・・・バイトしているから」

「美味しい・・・」

「すみれさん・・・ちょっと目を瞑ってくれないか」

「・・・はい」

勇征はティファニーのオープンハート風のベンダントをすみれの首にかける。

「もういいよ・・・」

「まあ・・・」

「実は・・・安物なんだけど・・・」

「・・・」

思わず泣いてしまうすみれだった。

「すみれさん・・・」

「男の人に・・・プレゼントされるなんて・・・生まれて初めてです・・・」

「ペンケースをもらったし・・・ホワイトデーだから」

「・・・うれしい・・・」

「何か・・・形のあるものをあげたかったんだ」

その時・・・突然・・・胸のあたりに違和感を感じる勇征。

「大丈夫ですか・・・」

「いや・・・喜んでもらって・・・うれしくて・・・」

「・・・」

もちろん・・・それは「兆し」なのである。

「ならずもの」が定番であるように・・・「やまい」もまた定番なのだ。

食後のナイトスキーに出かける二人。

すみれはプレゼントを失くさないようにと貴重品ロッカーに入れることを思いつく。

「じゃあ・・・俺はトイレに・・・」

しかし・・・勇征は迷子に遭遇し手間取るのだった。

戻って来たすみれに色情狂が近付く。

「やあ・・・君はさっきの・・・」

「あら・・・」

「彼氏なら・・・君を捜してリフトの方に行ったよ」

「まあ・・・」

「僕が案内してあげる・・・」

「ありがとうございます」

疑うことを知らないすみれはまんまと上級者コース行きのリフトに乗せられてしまうのだった。

戻って来た勇征はすみれの不在に驚く。

「彼氏・・・見当たらないから・・・俺が教えてあげるよ」

「結構です・・・私・・・彼を捜しますので」

「ははは・・・彼はいないよ・・・君と楽しみたくて嘘をついたのさ」

「え」

「いいだろう・・・俺と楽しもうよ」

「お断りします」

「ちぇ・・・なんだよ・・・」

すみれの決然とした態度に憮然として・・・男はすみれを放置するのだった。

なんとか・・・自力で戻ろうとして・・・コースを外れ・・・彷徨い始めるすみれ・・・。

(私はなんて・・・愚かだろう・・・真白くんが私を残してどこかに行くはずはないのに・・・あんな嘘に騙されて・・・真白くんは・・・きっと心配している・・・真白くんに心配をかけるなんて・・・いい年をして・・・私は・・・)

焦れば焦るほど道を見失うすみれ・・・。

何しろ・・・生まれて初めて・・・雪山にやってきたのだ。

その恐ろしさをすみれは知らないのだった。

すみれを案じる勇征はフロントにかけあい・・・呼び出しをかける。

しかし・・・ゲレンデを離れて雪山に迷い込んだすみれは呼びかけに応じることもできず、係員の目に留まることもない。

足を踏み外したすみれは谷底に落ちてしまう。

そこで・・・子の刻タイムとなり・・・澄となったすみれは体力的にも限界に達するのだった。

天候は悪化し・・・捜索は難航する。

雪に埋もれ・・・遠のく意識。

「真白さん・・・ごめんなさい」

闇の中で揺れる人影。

「真白さん・・・」

しかし・・・それは黎だった。

「すみれ様・・・」

黎は巨大な黒猫に変身する。

獣の温もりに・・・すみれは安堵するのだった。

「天候が回復してきたので・・・捜索を開始します」

「・・・」

唇を噛みしめる勇征・・・。

「なんで・・・こんなことに・・・」

その目に・・・すみれを抱きかかえた黎の姿が映る。

「え」

「すみれ様はご無事でございます」

「なぜ・・・ここに・・・」

「すみれ様をお守りするのが私の役目でございますので」

「・・・」

「後はよろしくお願いします」

すみれはホテルのベッドで目覚めた。

「私・・・」

「すみれ・・・」

「真白さん・・・」

「黎さんが・・・助けてくれたんだ・・・どうして一人で・・・」

「私・・・騙されてしまいました」

「もう・・・他の人の言うことをたやすくきかないでください」

「ごめんなさい・・・」

「よかった・・・すみれが無事でよかった・・・」

「真白さん・・・」

そのまま・・・初夜の勢いだが・・・もう昼だった。

チェックアウトの時間である。

就職活動について語る黒崎教授(小須田康人)・・・。

勇征はすみれに問う。

「すみれは・・・将来どうするつもりなんだい」

「私は映画の仕事がしてみたいのです」

「すみれは映画監督になりたいの」

「監督なんて・・・そんな・・・」

「えええええ」と驚く健人・・・。

「すみれって・・・」と千明・・・。

「呼び捨てかよっ」

「ひゅーひゅー」

冷やかされて照れる二人・・・。

「そろそろ、バイトの時間だよ・・・」

「はい・・・」

「真白、今日は飲みにいかないか」

「俺はちょっと人と会うんだ・・・」

公園で待ち合わせているのは・・・黎だった。

「すみません・・・お呼び立てして」

「いいえ・・・構いません」

「ちゃんとおわびをしていなかったので・・・」

「私にわびることなどありませんよ・・・」

「・・・」

「すみれ様は・・・あの通りのお方でございます」

「・・・」

「あの方とお付き合いするなら・・・覚悟して末長くお付き合いください」

「はい・・・俺は・・・すみれさんを・・・ずっと守って・・・」

勇征を激痛が襲う・・・。

「真白様・・・」

「このことは・・・すみれさんには・・・言わないでください・・・心配をかけたくないので・・・」

「承知しました」

すみれは映画を録画したビデオテープを整理する。

「何をなさっておいでなのです」

「就職活動のために・・・もう一度見直そうと思って・・・」

「すみれ様は・・・映画監督になるおつもりですか」

「まあ・・・黎さんたら・・・真白くんと同じことを」

「おや・・・」

「そうそう・・・これ・・・助けてくれたお礼です」

父親の遺品の反物で黎の着物を仕立てたすみれだった。

黎の瞳に浮かぶ・・・思わしげな色・・・。

「ありがとうございます・・・すみれ様」

微笑む黎に嬉しげなすみれである・・・。

すみれにメールが届く。

「家の用事でしばらく大学を休みます・・・メールもできませんが・・・心配しないでください」

それから・・・勇征は音信不通になってしまったのだ。

亜梨紗に呼び出されるすみれ・・・。

「どうなってんのよ」

「私も連絡がとれなくて・・・」

「なんとかしなさいよ・・・つきあってるんでしょう」

むちゃくちゃだが・・・仇が話を展開させるのだった。

勇気を出して真白家を訪ねるすみれ・・・。

そこに雪白がやってくる。

「雪白さん・・・どうしてここに・・・」

「人間のフリをせいっていうからな・・・ここで家政婦に化けているんや」

「はあ・・・あの・・・真白さんは・・・」

「ついといで・・・これから着替えを届けるとこや」

「え」

「坊ちゃん・・・入院してるんや」

「ええっ」

病室にやってきたすみれと雪白。

「すみれ・・・」

「真白くん・・・」

「ばれちゃったか・・・心配かけたくなかったから・・・だまってたんだ・・・ごめん」

「・・・」

「でも・・・大丈夫だよ・・・ただの検査入院だから・・・」

「よかった・・・」

病室から出たすみれの前に黎が現れる。

「すみません・・・口止めされていたものですから」

「接吻くらいせなあかんで・・・」

「接吻なんて・・・」

「死ぬで・・・坊ちゃん」

「え」

「重い病や・・・心臓のなんとかいう病気やで・・・」

「そんな・・・」

「ご心配なく・・・私が治しますから・・・」

「何言うてんのや・・・あんた・・・もう猫魂の精気を半分、すみれのために遣ってるやんか・・・そないなことしたら命が尽きてしまうで・・・」

「え・・・」

「構いません・・・すみれ様の願いが成就するために必要とあらば・・・」

「だめよ」とすみれ・・・。

「すみれ様・・・」

「私のために使っている精気を・・・真白くんを助けるために使ってください」

「あほやな・・・そないなことしたら・・・あんた・・・若さを失ってしまうやん」

「構いません・・・」

「すみれ様・・・」

若さを保てば恋人を失い・・・恋人を救えば若さを失う・・・。

しかし・・・すみれの決意は固いのだった。

そして・・・願いが成就しなければ封印は解けないのである。

すみれと二匹の化け猫は・・・立ちすくむ・・・。

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2016年3月 9日 (水)

私がアホだから笑うしかないのです・・・私は泣きますけどね(深田恭子)

いよいよ・・・冬のラブ・ストーリーズも終盤戦である。

(月)三角関係が修羅場に突入!

(火)ヒロインが恋仇に泣かされた!

(水)雪山遭難!

(木)心中未遂で完結!

(金)幼馴染が提供終了!

(土)主人公がヒロインに威圧される!

(日)主人公の初恋実る!

・・・ラブストーリーもいろいろである。

まあ・・・(月)と(火)はいかにも王道展開なんだよなあ。

大雑把に言えばシリアスとコメディーの差しかない。

まあ・・・どんな愛でも心が温まる人と・・・そうでない人がいるので・・・なるべく温める方向で作るしかないよね。

で、『ダメな私に恋してください・第9回』(TBSテレビ20160308PM10~)原作・中原アヤ、脚本・吉澤智子、演出・福田亮介を見た。全国の主任(男性)が「しゅに~ん」で癒されるドラマである。主人公の柴田ミチコ(深田恭子)が勇気を出してはじめてのプロポーズをしたけれど「お断り」されての今回。最終回直前なので・・・意中の人と訣別するという王道展開。これがフリで最終回にハッピーエンドというオチが待っているわけである。つまり・・・「破局」と見せかけながら・・・「そうではなかった」という話なので・・・「可能性」を残しつつ・・・「まさか・・・このまま終わりなのか」とお茶の間をもやもやさせなければならないのだ。そういう意味でこの脚本家は・・・なかなかの腕前なのでございます。

「結婚してください」

「断る!」

ミチコの故郷のバス乗り場で・・・黒沢歩(ディーン・フジオカ)は断言するのだった。

「えええ」

「動機はなんだ・・・」

「ムシャクシャしてカッとなってやりました」

「今は反省しているのか」

「主任の婚約者・・・最高だったので・・・このまま本当に結婚してもいいかな・・・お見合いとか嫌だし・・・」

「誰でもよかったのかよっ」

「見逃してくださいっ」

「お前とは絶対に結婚しない」

「じゃ・・・五百円でどうですか」

「なにがだ・・・」

「五百円で・・・結婚してください」

「俺はワンコインランチか」

「なんで・・・結婚してくれないんですか」

「まず・・・借金を返せ・・・このポンコツの三十歳が・・・」

ガラガラのバスの車中。

しかし・・・二人は仲良く並んで座るのだった。

(気まずい・・・こういう時は寝たフリだ)

ついでに主任の肩枕をいただきにかかるミチコ。

主任はミチコの頭を押し返すが・・・ついに根負けするのだった。

「着いたぞ・・・起きろ」

「・・・」

「起きたら結婚してやる」

目覚めるミチコ。

「嘘だ」

結局・・・プロポーズは「ネタ」として扱われるのだった。

喫茶店「ひまわり」では・・・・テリー(鈴木貴之)、ポチ(クロちゃん)、タマ(石黒英雄)が待っていた。常連客の鯉田(小野武彦)はピッツァを残して帰ったらしい。

「主任は明るくてよく食べて若くてかわいいって言ってくれました」

「若くて・・・は言ってないだろう・・・みんな・・・お前のためについたウソだ・・・それなのに婚約者じゃないこと自分でばらしやがって・・・」

「でも・・・主任の人柄の良さで・・・みんな安心してくれたみたいです」

「・・・」

「まあ・・・婚約者のフリをしてくれる人がいることよりも・・・本当の婚約者がいた方が安心でしょうけどね」

婚約者代理失格のタマだった。

「チーズってお肉の香水です~」

鯉田のピッツアに夢中のミチコだった。

「御苦労様でした」と歩を労うテリー。

「まあ・・・いいところだったけどな・・・」

ミチコの祖父の言葉を思い出して微笑む歩。

(あなたのことをお兄さんもきっと見守っている・・・)

そして蘇るミチコの言葉。

(つらいことがあった人によりそう・・・暖かい場所を作れる人なんです・・・)

「俺も、先輩と長年つきあってますけど・・・そんな風に笑った顔を見るのは初めてです」

「え」

「ミチコさんて・・・凄い人なんですね」

「・・・」

歩はミチコが払った五百円を見つめる・・・。

(なんで・・・いきなり・・・プロポーズなんだよ)

つまり・・・ミチコのプロポーズは効いているのである。

脈ありなのだった。

「好きだから」と言わないのは・・・最終回直前だからなのだ。

主人公の好きな人が主人公を好きになったら「終わり」なのだ。

そういう意味で・・・月曜日は反則なんだよな。

まあ・・・好きなもの同志がなかなか結ばれないのも王道だけどな。

「ロミオとジュリエット」があるからな。

このドラマの癒しポイント・・・二人で仲良く歯磨きである。

違うのは・・・ミチコが好きな人と一つ屋根の下にいるという状況になったこと。

「なんで結婚してくれないの」と猫のA5相手にごろごろするミチコだった。

そして・・・好きな人と朝食タイムである。

「じゃあ・・・主任が私の嫁に来るってどうですか」

「なぜ・・・自ら不幸になる必要があるんだ」

「我が家で・・・末長く暮らしましょう」

「やだよ~」

しかし・・・明らかにまんざらでもない主任である。

けれど・・・恐ろしいインフルエンザの流行が・・・深い霧のように・・・接近していたのである。

なにしろ・・・まだ最終回ではないのである。

便利グッズの会社「ライフニクス」でミチコは販売本部長の森努(小松和重)から「シタギカクレール物干しハンガー」が商品化の最終選考に残ったと伝えられる。

朗報を喜ぶ中島美咲(内藤理沙)はさりげなく元カレの最上大地(三浦翔平)も大手インテリアショップとの提携に成功しそうだとミチコに伝える。

「破局後も相手の成功を認めあえるのは素晴らしいことです」

門真由希(佐野ひなこ)も微妙なトーンでミチコを慰めるのだった。

ミチコの方から婚約解消をしたとは誰も信じないのだった。

ミチコは最上に山梨県名物の信玄餅を渡すのだった。

「婚約解消の件でご両親は・・・」

「主任のおかげでなんとかなりました・・・」

「主任さんの・・・」

複雑な気持ちになる大地だった。

「提携の仕事・・・凄いですね・・・」

「まだ・・・イベントの目玉が決まってなくて・・・」

「目玉ですか・・・」

仕事に燃えるミチコだった・・・。

しかし・・・大地はまだ・・・ミチコに未練があるわけである。

悪魔は基本的に三角関係でもニヤニヤできるわけだが・・・お茶の間的には不貞がからむとモヤモヤする場合もあるわけである。

終盤はこの処理が難しくなってくる。

前回は・・・主人公のアホな片思いが炸裂し・・・思われている相手が・・・ツンデレを発揮する。

つまり・・・本当は両想いの途中経過で・・・最高にニヤニヤの連続だったわけだが・・・作劇的には・・・ここで大きくモヤモヤさせなければならないわけである。

ミチコの貢いでいた大学生の佐野純太(吉沢亮)を除けば・・・ほぼ邪悪な魂が表面化しないドラマの登場人物たち・・・。

ミチコ自身が・・・本当の愛に目覚めたので・・・大地との関係を清算するという・・・考え方によっては酷いことをしているのだが・・・基本的にアホなので許されているわけである。

さらに・・・今回・・・考え方によっては・・・ミチコに酷いことをする登場人物は・・・基本的に「天然」として描かれていることが・・・仕上げにかかった時のフリとして生きてくるわけである。

その結果・・・誰も悪くはないが「モヤモヤ」する・・・仕掛けが完成することになるのだった。

晶(野波麻帆)にプロポーズ玉砕を報告するミチコ・・・。

「食っちゃえばよかったのに・・・」

「食う?」

「試合よ・・・試合」

「でも・・・」

「遠慮なんてしている場合じゃないのよ・・・見なさい・・・私の女子アナ風ファッションを」

「・・・」

「婚活中の獲物に合わせてなりふり構わず変身するのよ」

「コンカツジャー・・・ですね」

「そうよ・・・女の涙、酔った勢い・・・あらゆる必殺技を駆使して・・・必死で戦え」

「はい」

泥酔するミチコだった。

「ひまわり」に乱入するミチコ。

「うわ・・・酒臭い」

「相当飲みましたね」

ポチやタマは驚くが・・・テリーは機敏に察するのだった。

「どうしたんですか」

「ミチコは主任を食べにきました~」

「なんだと」

「ガオ~」

歩の腕にかぶりつくミチコ・・・。

「こら・・・やめないか」

「主任を食ったど~」

ニヤニヤしながら退出する従業員一同・・・。

しかし・・・ミチコは墜落するのだった。

ソファでミチコを介抱する歩・・・。

噛み痕を手当てしてから・・・ミチコの寝顔を見ていた歩は・・・ついにミチコの頭を撫でる。

つまり・・・ミチコをかわいいと思っているのである。

「しゅ・・・しゅに~ん」

寝言の後で意識を取り戻すミチコだった・・・。

「私・・・ひどい夢を見てました・・・主任を食べちゃったんです」

「夢じゃないぞ・・・どんだけ腹へってたんだ・・・」

「三十年間・・・ずっと腹ペコです・・・」

ミチコは考える・・・。

何がいけなかったのだろうか・・・。

プロポーズする前に何かすることがあっただろうか・・・。

(そういえば・・・主任のこと好きだって言ったかな・・・)

言ってないぞ・・・。

まず・・・交際をスタートとないことには何もはじまらない・・・とようやく気がつくミチコである。

まあ・・・経験豊富なら・・・試合から入る手もあるのだが・・・乙女なミチコには無理な話なのだ。

元カノである晶は・・・援護射撃をするのだった。

「実家に行ったんだって・・・」

「誰からそれを・・・」

「春子さんから・・・」

「え・・・なんで・・・」

「柴田がらみで・・・春子さんともいろいろね・・・」

「・・・」

「三十女を・・・あまり・・・弄んじゃだめよ」

「・・・」

揺れる・・・歩の心・・・。

そもそも・・・春子一筋の歩だったが・・・明らかにミチコの存在を意識しているわけである。

まあ・・・元カノの晶は・・・人がいいのにも程があるくらいのお人好しなのだが・・・。

通りすがりの若い恋人たちが手を繋いでいる。

ミチコは・・・それを見て・・・歩と手を繋ぐことを思いつくのだった。

「主任・・・私・・・」

ミチコは勇気を出して・・・主任の手に自分の手を重ねる。

その時・・・モヤモヤの使者・・・歩の兄嫁で未亡人・・・花屋「クレッセント」の春子(ミムラ)からの着信がある。

ここからは・・・まるで計算しているようなタイミングで・・・春子はミチコの恋路を邪魔して邪魔して邪魔しまくるのだった。

完全なラスボス様である。

春子との会話で・・・血相を変えた歩は・・・ミチコに閉じまりを命じ・・・店を出るのだった。

好きな男が・・・好きな女の元へ・・・夜更けに出かけていく。

とてもじゃないが・・・眠れないミチコだった・・・。

試合未経験のミチコでも・・・あんなことやこんなことが妄想できるのである。

夜明けとともに帰還する歩・・・。

「何があったんですか・・・」

「クレッセントの大口の取引先が・・・未払い代金を残して倒産した」

「え」

「連鎖倒産に追い込まれるかもしれない」

「そんな・・・」

「すでに・・・支払いが苦しくなっているんだ」

「なんとか・・・ならないんですか」

「お前が心配してもしょうがない・・・もう寝ろ・・・出勤するまでに少しは寝ないと・・・」

「主任こそ・・・休んでください・・・朝食は私が作ります」

「お前が・・・」

ミチコは形は悪いが味はまあまあの・・・LOVEライスを作るのだった。

「主任・・・直伝ですから」

「まあ・・・なんとか・・・食えることは食えるな・・・」

「ひでぶ・・・」

ミチコは好きな人に料理を作れて満足だった。

なにしろ・・・尽くしすぎるタイプなのである。

しかし・・・会社では爆睡するのだった。

「ひまわり」に戻るミチコ。

そこへ・・・春子がやってくる。

「ごめんなさいね・・・今日も一日資金繰りに追われて・・・」

「大丈夫か・・・」

「・・・」

春子は意識を失うのだった。

過労と睡眠不足によるインフルエンザ発症である。

「お前の部屋のベッドを貸してくれ」

「はい」

歩は春子を抱き上げてミチコの部屋に運ぶのだった。

「悪いな・・・お前はとりあえず・・・俺の部屋で・・・」

「でも・・・」

思わずためらう・・・ミチコだった。

何しろ・・・乙女なのである。

まあ・・・救急車を呼ばないのは・・・すべてモヤモヤのためなのである。

なにしろ・・・歩もミチコも弱っているものを放っておけない魂の持主なのだ。

一部お茶の間の皆さんはお気づきだろうが・・・月曜日と設定が丸かぶりである。

月曜日の二人は犬のサスケを拾っているが・・・こちらは猫のA5を・・・。

まあ・・・常套手段だからな。

ついでに言っておくが月曜日の二人は静恵さんの屋敷で犬を飼うが・・・喫茶店「ひまわり」は・・・歩の祖母の店である。

おばあちゃんとペット・・・それは・・・なんだか・・・定番なんだな。

ミチコと歩は・・・必死に春子を看病する。

「ハジメ・・・くん」

朦朧とした意識の中で・・・亡き夫・一(竹財輝之助)の名を呼び・・・手を差し伸べる春子。

思わずその手を握る歩・・・。

ミチコの中のモヤモヤは全開バリバリなのである。

夢の中で春子の代わりにミチコのファースト・キスを奪った歩。

それに対し・・・ミチコは寝ている歩の唇を奪い・・・寝たフリで肩枕を強要した。

邪悪なミチコのふるまいは・・・アホなので健気なのだが・・・不可抗力である歩や春子のふるまいは何故か邪悪に映るのである。

それは・・・おそらく・・・二人が・・・ミチコにくらべるとアホではないからなのだろう。

とにかく・・・ミチコの恋は・・・崖っぷちへと追い込まれていくのである。

翌朝・・・目覚めた春子は手を握ったまま眠っている歩に気がつく。

そこへ・・・ミチコが体温計を持って入室。

その気配に目覚めた歩は思わず窓を開けるのだった。

「三十八度四分・・・熱・・・下がりませんね」

「とりあえず・・・今日は安静にしていることだ」

「昨日・・・店に戻れなかったから・・・切り花が・・・ダメになっちゃったかも・・・」

「私・・・様子を見てきます」

何気ない春子の一言がミチコに対する圧力と化していくのだった。

春子・・・最強のラスボス様だな・・・。

愛する歩の愛する春子のために一生懸命・・・アホな頭を回転させるミチコ・・・。

テリーに頼んで・・・「クレッセント」の鉢植えを「ひまわり」に運び・・・即売をする。

まあ・・・テリーを花屋で留守番させてもいいわけだが・・・。

大地に・・・イベントの目玉として・・・花と花瓶のセットのプレゼントを提案する。

少しでも役に立ちたいミチコなのである。

大地は愛するミチコの愛する歩の愛する春子のために協力するのだった。

打合せのために「ひまわり」にやってきた大地・・・。

歩と対峙するのであった。

「柴田さんの気持ち・・・知っているんですよね」

「・・・」

「みんなに優しいのは・・・誰にも優しくない・・・そういうことってあると思います」

「・・・」

大地の言葉が胸に突き刺さる歩・・・。

一方・・・春子はミチコに猛攻を加えるのだった。

「私・・・なんとか・・・一人で頑張ろうと思ったんだけど・・・結局、みんなに迷惑をかけて・・・」

「人に頼るのは・・・悪いことじゃないと思います・・・頼られてうれしい人もいるでしょうし・・・私なんて人に迷惑かけてばかりで・・・」

「・・・」

ミチコは歯を食いしばり・・・春子を慰める。

そして・・・春子が歩に頼る時・・・自分がいては邪魔だと思い詰めるのである。

ミチコは洗面所から自分の歯ブラシを回収する。

もっと・・・ずっと・・・二人で歯を磨きたかったミチコだったけれど・・・。

ベッドで眠る春子を起こさないように静かに荷物をトランクに詰めるミチコ。

主任がとってくれた肉クッションを抱え階段を下りるミチコ。

「どうした・・・」

「ちょっと・・・タメ口きいていいですか」

「あん?」

「びびってんじゃねえよ・・・このまま・・・本当の気持ちを春子さんに言わないつもりかよ」

「何・・・」

「振られるのがこわいのか・・・それとも・・・亡くなった兄貴に気をつかってんのかよ」

「・・・」

「じゃ・・・コンビニ行ってきます」

「クッション持ってかよ」

「・・・」

「柴田・・・お前のオムライス・・・美味かったぞ・・・元気が出た」

「・・・」

「柴田・・・俺は・・・」

その時・・・さりげなく現れる春子・・・。

「ちょっと・・・喉がかわいちゃって・・・」

「寝ていなくちゃ・・・ダメじゃないか」

居たたまれず・・・店を出るミチコ。

思わず追いかけようとする歩の袖を掴んで離さない春子である。

どうやら・・・天然な魔性の女だったのである。

はあるこおおおおおおおおと一部お茶の間が絶叫するのだった。

店を出て・・・ふりかえるミチコ。

静かな「ひまわり」・・・。

「なんだ・・・美味しかったのか・・・元気が出たのか・・・よかった・・・」

もっともっと・・・歩にLOVEライスを作りたかったのだ・・・。

ミチコは涙を流しながら・・・夜の街へ彷徨いだす・・・。

おそらく・・・晶の部屋を目指すつもりなのだろう・・・。

しかし・・・その頃・・・ミチコへの思いをふりきろうとする大地と・・・例によって婚活に失敗した晶は・・・星の数ほどある酒場で・・・運命の接近遭遇していたのだった。

ニヤニヤとモヤモヤの見事なコンビネーション・・・そして・・・最終回へ・・・。

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2016年3月 8日 (火)

私もずっとあなたのことを考えていたの(有村架純)

恋するとは乞うことである。

私に愛をくださいと・・・乞うて乞うて乞いまくり・・・もらいは少ないのが普通だ。

映画「プリティ・ウーマン」(1990年)は「10億ドルで買収した会社を分割して売却する」企業転がしの実業家とハリウッドの売春婦の恋の物語である。

1990年度全米興行収入第1位を獲得した大ヒット作である。 

ヒロインが売春婦という・・・ある意味、キワモノの映画だが・・・そこがロマンチックだという考え方もある。 

なにしろ・・・ヒロインは「街角に立って客を待ちながらいつか王子様が現れることを夢に見ている」のである。 

そこには・・・非常にデリケートな問題が潜んでいる。 

つまり・・・純愛とは何か・・・ということだ。 

「身体は売っても心は売らない」なんて・・・幻想そのものだからな・・・。 

その問題をスルーすれば・・・「プリティー・ウーマン」のヒロインに主人公を例えることは賛辞である。 

もちろん・・・ここでは・・・主人公は・・・単に「お前は売春婦のようなもの」と蔑まれているにすぎない。 

シンデレラが売春婦だったとしたら・・・少女たちの夢はかなり凄惨なものとなるに決まっているのだ。 

主人公は・・・金の亡者となった父子の前から消える・・・そこには「愛」がないからである。 

心の貧しい人間相手に「愛」を乞うことはできないのだ。 

なぜなら・・・ここは「愛」がすべての月曜九時だからである。 

そういうニュアンスが分からない人はすでに精神が腐敗しています。

一度は女を飼おうとした男だったが・・・拒絶されて最後はプロポーズを果たすという顛末。

そこには古き良き時代の男尊女卑が描かれる。

しかし・・・素晴らしいインターネットの世界では二人の子供は必ず「お前の母ちゃん売女」と囁かれるのだ。

で、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう・第8回』(フジテレビ20160307PM9~)脚本・坂元裕二、演出・並木道子を見た。売買春が法律で禁じられた国家では・・・売春婦と顧客は犯罪者である。しかし・・・それを単なる「悪」と言いきれない曖昧なゾーンがある。なにしろ・・・人類史上最古と言われるビジネスの話なのである。そこには「支配による搾取」の問題も絡んでくるし・・・実際にそれで生活している「人間の感情」の問題もある。「かわいい女」と「かわいくない女」の摩擦の問題さえ絡んでくる。「従軍慰安婦問題」のやるせなさである。ナイーブな女性差別撤廃主義者たちは必要以上に傷口を抉る。傷害事件の証拠として流血を続ける必要があると主張する。暗黒大陸では現代も少女たちが集団誘拐されて性的奴隷となっている。犯罪者としての売春婦と・・・暴力の被害者女性との間に横たわる亀裂の深さ・・・。あるいはホストやホステスと顧客の間に醸しだされる暗闇の黒さ・・・。とても一言では言えない複雑な感傷がそこにはある。まあ・・・そうやって人類はここまで来たわけだが・・・。

そういう複雑な問題をそれとなく察してもらうことができるのもドラマの醍醐味なんだな。

昔は・・・女優なんて売春婦と同じだったのである。・・・おいっ。

「プリティー・ウーマン」が大ヒットしている頃・・・日本では下着は売っても身体は売らない女子高生がゴロゴロしていたわけなのだ。

この物語はそういう世情とは一線を画しています。

曽田練(高良健吾)を通じて・・・女友達となった杉原音(平澤宏々路→有村架純)と日向木穂子(高畑充希)・・・。

どこか・・・空虚な心を抱えている木穂子は・・・恋に恋する少女のように・・・「幻想の恋愛論」を音に振りかざす。

「恋愛は衣食住なのよ」

「?」

「最初は・・・ファッションとして・・・自分を男で飾りたいものでしょう・・・次に心の栄養というか・・・男を食べずにはいられない・・・そして最後は・・・一緒に暮らす・・・つまり、結婚に至るわけ・・・」

「?」

「恋愛」を「神秘」と考える音には木穂子の言葉はあまりにも卑小だった。

衣食住は生きるために必要なもので恋愛は裸でするものだからである。

何もなくても愛することが重要なのだ。

要するにちんぷんかんぷんなのである。

「私・・・彼氏に一度プロポーズされたんだけど・・・仕事が忙しくてしばらく返事しなかったら・・・放置されまくりなのよ・・・」

「・・・」

「だから・・・プロポーズされたら・・・何も考えずにイエスって言わなきゃだめよ」

「・・・」

「お醤油とって・・・」

「はい」

「そういう感じでね」

木穂子は・・・音を案じている。

それが・・・音の幸福を心から願っているのかどうかは別として・・・。

音には幸せになってほしい・・・しかし・・・音の相手が練であるとなれば・・・心が穏やかではないのである。

木穂子は・・・音の心を見抜いている。

できれば・・・音が好きでもない男と結ばれればいいと思う。

なぜなら・・・自分が欲しかった「愛」は・・・手に入らなかったからだ。

しかし・・・両親の愛に恵まれて育った木穂子には・・・音の心が抱える孤独がわからない。

その心から発する恐ろしいほどの「恋する気持ち」も・・・。

音は夢を見る。

六歳のあの日・・・。

火葬場で母親(満島ひかり)が遺骨となった日・・・。

駐車場で母親が焼却されるのを待ちながら・・・チョークで絵を描いた音。

ふと空を見上げた音は・・・素晴らしいものを見たのだ。

今回・・・明らかになったのは・・・音の養父母である林田夫妻が・・・親族ではなく・・・里親だったことである。

誤解を恐れずに言えば・・・音は赤の他人に育て上げられ・・・最後には養父(柄本明)に母親の遺骨をトイレに流されたのだ。

そういう記憶が・・・音の現在の心を作り上げているのである。

音の求める愛の過酷さがそこにある。

愛とは記憶の集合体にすぎないのだから・・・。

「春寿の杜」の介護施設には・・・「素晴らしい愛の記憶」が日々失われていく人々の日常がある。

その残酷さこそ・・・音が親近感を覚える世界の実情なのである。

新しい利用者の老婦人(草村礼子)にも認知症の兆しが現れる。

「あなた・・・どなたでしたっけ・・・」

「杉原です・・・」

「ごめんなさいね・・・私は主人と四十年間・・・パンを焼いて暮らしてきたの・・・」

「・・・」

「あなた・・・どなたでしたっけ?」

「杉原です」

愛が記憶である以上・・・認知症患者からは・・・愛は日々・・・失われていく。

しかし・・・音の最終兵器である・・・練から贈られた「白桃の缶詰」は消費期限を遥かに越えて音の部屋に鎮座しているのだ。

音はご飯を炊く。

貧しくても白米のおにぎりを毎日食べられる生活。

それは音にとって至福の暮らしだった。

そして・・・練もまたご飯を炊く。

暗黒の世界から音によって救出され仙道静恵(八千草薫)の家に帰還した練は・・・幼馴染の市村小夏(森川葵)の夢を支えながら・・・「柿谷運送」に復帰したのだった。

ブラック企業に見えた「柿谷運送」も時給三百円の世界から見れば天国だった。

搾取の鬼に見えた女社長・柿谷嘉美(松田美由紀)は給料から天引した金を本当に積み立てていたのである。

空白の五年の間にプールされていた金は・・・一時金として練に支給されるのだった。

復帰した練を・・・苦楽を共にした仲間として佐引穣次(高橋一生)たち従業員一同は暖かく迎える。

奪われているのか・・・与えられているのか・・・それは・・・本人の気持ち一つで切り替わる。

しかし・・・父親への「愛」を求めるあまりに・・・心を失いつつある井吹朝陽(西島隆弘)はその思想を暴挙を正当化する説得の材料として使う。

父親の征二郎(小日向文世)の命ずるままに企業買収ビジネスによるリストラ業務を遂行する朝陽・・・。

「なんとか・・・全員解雇だけは回避してもらえませんか」

「発想を変えてみたらどうかな・・・これは一からやり直すチャンスでもあるわけだし」

「・・・」

何か・・・恐ろしいものに変貌しつつある朝陽だった。

朝陽は・・・父親という名の悪魔に魂を売ってしまったようだ・・・。

通勤バスで・・・何度か・・・ニアミスする音と練・・・。

練は積極的に・・・音にアプローチする。

音は・・・朝陽の存在を考え・・・練と距離を置こうとする。

どこまでもじれったい・・・二人の関係。

しかし・・・微笑みかける練に音は断固とした態度で抗うことはできない。

「知ってますか・・・キリンはキックでライオンを蹴り殺すことができるんですよ」

「すごいな・・・キリン・・・じゃあ・・・磯野波平の声って変わったって知ってますか」

「知ってます」

「・・・」

「知っていてごめんなさい・・・」

どうでもいいことで・・・幸せな気分を共有する二人だった。

静恵の屋敷には・・・二人が拾った犬の「サスケ」も健在である。

「サスケにも会えたし・・・これで帰りますね」

「今・・・お茶を入れますから・・・久しぶりに逢えたし・・・」

「・・・そうですね」

「この間・・・観覧車の近くに仕事で行って・・・あの店を探したけど・・・見つかりませんでした」

「ピアノの店・・・」

「そうです・・・今度、一緒に捜しに行ってみませんか・・・今もあるかどうかわからないけど」

「五年もあればいろいろ変わります」

「何か・・・変わりましたか」

「私・・・プロポーズされました・・・二年前から交際している人に・・・」

「そうですか・・・おめでとう」

「受けるかどうか決めてません」

「そうですか・・・じゃあ・・・プロポーズおめでとう・・・」

「・・・」

音は練の心を探る・・・。

練は音の幸せを第一に考える。

二人は・・・心の壁の前で立ちすくむ。

「園田さんという認知症を発症した利用者さんがいたんです」

「・・・」

「認知症の症状は様々で・・・ある程度、回復する方もいます」

「そういうものですか」

「ある日・・・園田さんはきんつばって呟いたんです」

「へえ・・・」

「その時・・・朝陽さん・・・練さんも一度会ったことのある・・・私にプロポーズした人がきんつばを買ってきて・・・園田さんはそれ以来・・・症状が改善されました。それから三人で動物園に行ったりして・・・園田さんは・・・ゴリラが好きで・・・」

「朝陽さんは・・・いい人なんですね」

「・・・はい」

朝陽に背を向けて・・・練を見つめる音・・・。

しかし・・・練に向かって歩き出すことはできない音だった。

練と過ごした時間を上回る・・・朝陽との記憶が・・・音を縛るのだった。

老婦人の介護のために・・・夜勤をする音。

朝陽は・・・父親との食事会のためのドレスを持って職場にやってくる。

「明日・・・お父さんが・・・君と食事をする時間をとってくれた」

「でも・・・明日はシフトが入っています」

「シフトは僕の方から変更するように言う・・・父が二時間も時間を作ってくれたんだ・・・それは凄いことなんだ・・・いいよね」

「あの・・・結婚のことは・・・ゆっくりと考えたいのです」

「発想を変えてみたらどうかな・・・結婚はゴールじゃないんだ・・・そこがスタートなんだよ・・・二人で幸せになることをずっと考えていけばいい・・・僕は君を必ず幸せにするよ・・・仕事だって・・・落ちついたらまた復帰すればいい」

「私を・・・説得しないでください」

音にとって愛は説明するものではないのである。

「・・・」

「今・・・認知症の利用者さんがいて・・・ほら・・・園田さんの時のように・・・」

「園田さん・・・って誰だっけ・・・」

「え・・・忘れたの・・・きんつばで・・・ゴリラの・・・」

「きんつば・・・ゴリラ・・・なんだい・・・それ・・・」

「・・・」

音の大切な記憶を踏みつけたことを朝陽はまったく気がつかない。

朝陽は「愛」を踏みにじりながら囁く。

「とにかく・・・明日は・・・頼んだよ・・・ドレスはきっと凄くお似合いだよ」

音は見知らぬ誰かがそこにいることに気がついた。

父親への愛で盲目になった朝陽には・・・音の心がまったく見えないのである。

朝陽が今、関心のある事柄は・・・父親に愛されるために必要な伴侶としての見映えのする女を確保することだった。

朝陽の心は壊れかけていた。

静恵の屋敷で・・・小夏は罵詈雑言をさらけだしていた。

専門学校時代の友人が・・・ファッションの店をオープンしたのだった。

「なによ・・・これ・・・ダサイ・・・日本死ねって感じ・・・」

「でも・・・その人たちは・・・夢を実現させてるよね」

小夏のためにクレープを焼いていた晴太(坂口健太郎)はついに牙をむく。

「なによ・・・」

「もう・・・いい加減・・・練に頼るのはやめにした方がいいよ・・・デザイナーになる気なんてないんだろう」

そこに練が帰宅する。

「どうした・・・」

「私・・・デザイナーになるの・・・無理みたい」

「そんなことはないよ・・・」

「私・・・手に入らないものばかり・・・欲しがって・・・人生失敗しちゃったの」

「小夏・・・」

「晴太・・・私をボーリングに連れてって」

「いいけど・・・俺・・・重いものを持つの苦手だぜ」

唖然とする・・・練だった。

夜の道を彷徨う二人・・・。

「練に好きだって言えばいいじゃないか」

「妹ポジションまで失いたくないの・・・あんたこそ・・・何よ・・・ゲイなんでしょう」

「君のことを好きな男だよ・・・そのことだけは・・・覚えておいてほしい」

「え・・・」

晴太の言葉が本心なのかどうかは謎である・・・所詮は財布を盗んで金を抜く男なのだ。

その日は・・・練の誕生日だった。

穣次は・・・練に・・・コンビニのショートケーキをプレゼントした。

穣次は・・・ゲイではない。

ただの・・・さびしい男である。

さびしいから・・・誰かに何かをしてあげたくなる年頃になったのである。

穣次にとって練は・・・離婚して会えなくなった家族の代わりのような存在になったのだ。

音は迷いながら・・・朝陽との約束を守った。

「君は坐っていてくれればいい・・・父親の質問には僕が答えるから」

弱肉強食の世界の悪魔となった朝陽の父親がやってきた。

「美人だな」

「杉原音と申します」

「東京の人?」

「北海道から・・・上京して大学に入ったけれど・・・介護の仕事に目覚めてうちの会社に・・・」

突然・・・虚偽のプロフィールを語りはじめる朝陽だった。

「父親の職業は」

「市役所におつとめです」

「そうか・・・総務省のお嬢さんの方がいいけどな」

「・・・」

唖然とする音。

「おっと・・・鞄を車に忘れて来た・・・朝陽・・・取ってきてくれないか」

「はい・・・お父さん」

父親は音に微笑みかける。

「さて・・・どこまでが本当なんだ」

「北海道から上京したことは本当です・・・後は嘘です」

「そうか・・・まあ・・・欠陥商品をありのままにプレゼンテーションできないからな・・・で・・・本当のところはどうなんだい」

「神戸で生まれました。父親は不在で・・・母親が六歳の時になくなると・・・北海道の里親のもとで育ちました・・・家は裕福ではなかったので高校を卒業するとクリーニング店で働きました」

「他にはどんな仕事を・・・」

「新聞配達とか・・・上京後はガソリンスタンドで・・・お金をためて資格をとって春寿の杜に・・・」

「なるほど・・・貧しさは心を鍛えるからな・・・プリティー・ウーマンという映画をしっているかい」

「・・・」

「貧しい女が金持ちの男をたらしこんでのし上がるいい話だよ・・・君も幸せになりなさい」

迸る傲慢な男の狂気・・・。

あらゆるものを値踏みし・・・一銭の価値もないものを蔑む精神。

たとえば「愛」を・・・。

音は目の前に悪魔がいることを悟った。

朝陽は父親と音の間にかわされた会話を知らず・・・会食が無事に済んだことを喜ぶ。

父親を送りだして安堵してふりかえると・・・音は消えていた。

朝陽は音が練の元へ逃げたことを確信する。

静恵の屋敷を訪ねる朝陽。

出迎えたのは練だった。

「ここに・・・音さんが来ませんでしたか」

「彼女に何かあったのですか」

「あんたが戻ってくるまではすべて上手くいってたんだよ」

「え・・・」

「いや・・・今のは八つ当たりでした」

練は変事を悟った。

音は介護施設の老婦人の枕元にいた。

老婦人は音を孫娘だと思った。

「恋人できた?」

「え・・・」

「いるんでしょう・・・恋人・・・どんな人・・・かっこいい人・・・面白い人・・・優しい人」

「わからない・・・」

「最初に心に浮かんだ人がそうよ・・・」

「・・・」

その人は音の部屋の前で佇んでいた。

「すみません・・・どうしても確かめたいことがあって・・・」

「・・・」

「幸せなんですか・・・」

「・・・」

「プロポーズされて・・・」

「ストーカー」

「ちがいます・・・引越し屋です」

音は微笑んだ。

「入り・・・」

音の心に母親の亡霊が忍びこむ。

神戸で育った音の本性・・・。

「夜勤が続いていたので・・・何にもないの」

「・・・」

「寒いね・・・着替えるから・・・火を見てて」

目をつぶる練。

「ここでは着替えんよ」

「・・・」

練は穣次がくれたケーキを思い出す。

「食べますか・・・」

「うん」

「・・・」

洗面所に向かった音は振り向く。

「誰か誕生日やったの?」

「俺です」

「・・・」

音が着替えている間に部屋を見回した練は・・・白桃の缶詰の存在に気がつく。

缶詰は・・・練に激しく愛を乞うのだった。

着替えた音はお茶を入れ・・・二人はケーキを食べる。

テーブルにペンで星型を作り・・・消す音。

星は・・・朝陽のシンボルである。

「・・・」

「ケーキは何が好き」

「イチゴです」

「私も・・・他には・・・」

「もちとか・・・」

「醤油で・・・」

「きなこも・・・」

「甘党やん」

「外で食べるスイカとか」

「種をペッペッすんの」

「そうです・・・」

「食べ物以外では何が好き」

「雪を踏む音とか」

「雨の降る前の匂いとか」

「じゃんけんであいこが続いた時とか・・・」

「好きなことの話をするのは楽しいね」

「じゃんけんホイ」

「あいこでホイ」

「そこは・・・グーやろう・・・」

フォークが落ちて手を伸ばした二人は・・・突然黙る。

「プレゼントするようなもの何もないけど・・・前に患者さんに似顔絵描いたらよろこんでくれた」

「描いてください」

「あんまり上手くないよ・・・」

「・・・」

「引越し屋さん・・・描きやすそうな顔してる」

「ありがとう」

「ほめてないよ」

「・・・」

「駅前の商店街で福引したら一等があたったの」

「すごいですね」

「でもテレビゲームだった・・・うち・・・テレビないから」

「・・・」

「それで・・・二等と替えてもらおうとしたら・・・テレビ台だった・・・それで三等があれ」

真新しい洗濯もの干しハンガーを指さす音。

「いいじゃないですか」

「本当・・・みんなはバカだと言ったよ・・・ゲームを売ればよかったって」

「でも・・・あれはいいです」

「よかった・・・私一人がいいと思ったんじゃなくて・・・」

「いいと思います」

「でも・・・多数決で言ったら・・・いいと思う人少ないでしょう」

「杉原さんがいいと思ったらいいじゃないですか」

「でも・・・どんどん多数決で少ない方ばかりだと・・・一人になってしまうし」

「俺はいつも・・・一緒ですよ・・・最後まで杉原さんのそばにいます」

白桃の缶詰が練を勇気づける。

音は・・・目の前に「愛」があることを疑わない。

「あのな・・・お母さんが死んで・・・火葬場で・・・係の人が二時間待ってって言うから・・・駐車場でお絵かきしとったんよ・・・そしたら・・・いつのまにか・・・夕方になっていてな・・・空を見たら・・・すごく綺麗だったんよ・・・雲が虹みたいに光って・・・アイスクリームみたいになめらかでな・・・オレンジやストロベリーや・・・見たこともないような色に輝いていたんよ」

「すごいですね」

「わかるの・・・」

「わかります」

「この話・・・ずっと誰かに話したかったんよ・・・でも・・・伝わらへんて思いよってん・・・どうせ話しても誰にも伝わらへんってな」

二十年の歳月を越えて蘇る音の本当の心・・・。

激しく一体化する二人の孤独・・・。

「俺は・・・何をしていても・・・杉原さんのことばかり・・・考えてしまうのです」

「・・・」

「俺は・・・音さんが好きです」

仕上がった練の絵に・・・見惚れる音・・・。

「・・・私も・・・いつでも・・・どこでも・・・練さんのことばかり・・・」

封印されていた二人の気持ちは今・・・通じあった。

ただそばにいるだけで・・・生まれてきた意味を感じることができる二人・・・。

鮮やかな今週のハッピーエンド・・・。

切っても切れない・・・怪しい二人の絆・・・。

その時・・・扉が開いて・・・朝陽が現れた。

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2016年3月 7日 (月)

それが善なのか悪なのか決めるのはあなた(長澤まさみ)

歴史に詳しいという立場というものは非常に微妙なものだ。

なにしろ・・・日本でさえ・・・すでに千年以上の歴史がある。

いまだに人生は百年足らずであり・・・どうあがいても・・・千年の歴史を学ぶことはできない。

基本的に・・・歴史に詳しい歴史学者でさえ・・・本当の歴史など知らないのだと断言できる。

彼らはおおよそのところを研究しているのに過ぎないのだ。

まして・・・そういう研究者の書物を千冊呼んだとしても・・・とても歴史に詳しいとは言えない。

たとえば戦国時代にしぼったとしても・・・その前史をある程度知る必要があるし・・・安土桃山江戸と続く後世の流れも押さえる必要がある。

基本的に歴史は勝者によって作られるので・・・勝者の言い分を疑う必要があるわけである。

つまり・・・歴史とは謎に包まれているのであり・・・そこが魅力的なのである。

人間は基本的に歴史に翻弄される。

真田昌幸というそこそこ名の知れた武将でさえも・・・大きな歴史の濁流に飲み込まれていく。

なにしろ・・・天正十年(1582年)に始ったこの物語は・・・すでに全体の六分の一を消化してまだ半年しか過ぎていない。

「真田丸」の主人公が討ち死にする慶長二十年(1615年)まで三十三年あるのにだ・・・。

その間に主人公の父親は・・・武田勝頼、織田信長、滝川一益、上杉景勝、北条氏政、徳川家康と・・・主を変えること六人目・・・。同じ職種だけど一月ごとに転職している計算である。

家族としては・・・もういい加減にして・・・と言いたいところである。

そういう話を面白いと考えるかどうかは・・・あなた次第・・・。

キッドは今世紀の大河ドラマ・ベスト3入りは確実の面白さだと思います。

で、『真田丸・第9回』(NHK総合20160306PM8~)脚本・三谷幸喜、演出・小林大児を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は甲州透破の頭領ともされる信濃国衆・出浦昌相の描き下ろしイラスト大公開でお得でございます。出浦対馬守あるいは出浦守清は真田忍びの中でも特異な存在でございますねえ。村上義清の一族ですから・・・武田に臣従した時点ですでに裏切り者・・・その中で武田忍びのトップに踊り出たわけですから・・忍びの腕は超一流だったのでございましょう。まさに忍びの中の忍びとして本作中の存在感抜群でございますな。演じる寺島進の最高傑作になるような気がいたします。忍びとは・・・相手を動かすもの・・・でございますので・・・昌幸と昌相はどちらが主従か判別不可能な関係ですな。昌幸が昌相を御しているのか・・・昌相が昌幸を制しているのか・・・忍びと忍び操りつられ・・・でございます。二人とも・・・相当な人形使いであった感じが実に生々しい。その一点をとっても・・・「真田丸」の傑作性が窺われると申せましょう。孫子の言う兵法の基本・・・「戦わずして勝つを最上とする」・・・教養ある武士ならば誰もが知っている極意の深みを・・・登場人物たちが手を変え品を変え・・・主人公に悟らせる今回。きりの投げた饅頭が・・・信繫に補給路分断の策を想起させたことを・・・強調しておきたいと考えます。

Sanada009天正十年(1582年)八月一日、諏訪頼忠が籠る諏訪・高島城を攻略中の徳川家康配下の酒井忠次は撤退を開始。北条勢は北条氏直が佐久・小諸城まで南下し、北方から四万の兵で甲斐攻略を開始する。北条氏邦一万が東から、北条氏忠一万が南から・・・と総勢六万の大軍勢である。八日、甲斐国新府城で酒井忠次と合流した徳川家康は総勢一万。九日、北信濃から北条勢が引き上げたことを確認し上杉景勝は越後国に撤兵。十日、御坂峠を越える南方軍団迎撃のために鳥居元忠の別働隊二千が新府城より出撃。十二日、黒駒で徳川別働隊が北条南方軍を急襲。五倍の兵力差をはねかえし、徳川勢が勝利する。若神子城まで南下し・・・新府攻撃の機会を窺っていた氏直軍は停滞。二十二日、信濃国福島城の木曽義昌が徳川家に臣従。九月、家康配下の依田信蕃は佐久周辺で北条勢の後方撹乱作戦を開始。十九日、木曽義昌は城内の真田家人質を徳川勢に引き渡す。二十八日、信蕃は真田昌幸の調略に成功。昌幸は家康に臣従する。十月初旬、北条と徳川の対峙は膠着状態となる。十九日、昌幸は北条方の佐久・根津城の禰津昌綱を急襲。真田の離反を知った北条勢は真田一門衆の矢沢一族の篭城する上野国・沼田城を包囲。二十五日、沼田の真田軍は北条勢を撃退。二十六日、信蕃は佐久・春日城を奪還。合流した昌幸と信蕃は北条勢の信濃における補給拠点である小諸城の大道寺政繁を撃破。氏直は大軍を抱えながら南北からの挟撃の危機に陥る。二十九日、信濃国での補給路を断たれた北条家と甲斐国を死守する徳川家の和睦が結ばれる。家康の娘・督姫と北条氏直の婚姻によって徳川・北条同盟が締結された。この同盟によって甲斐・信濃を徳川領に、上野国を北条領にすることが決まり・・・徳川傘下となった真田家の沼田城領有が問題として浮上する。

国衆とは土着の小領主である。小県周辺は海野一族の縄張りであったが・・・村上勢と武田勢の対立を経て・・・武田信玄の先方衆(外様)となった真田家が台頭し・・・緩やかな共同体を形成して、一つの勢力となっている。北信濃でかっては敵対した村上一族に連なる高梨衆が臣従したり、同じ海野一族である根津家や望月家が敵となったりもする。

そもそも・・・真田一族は忍者の集団であり・・・腕を諸国に売る傭兵集団の側面も持っている。

昌幸の父・幸隆は兄弟・郎党に恵まれ・・・ついに信州・小県の真田の里から上州・沼田城に至る真田の領土を作り上げた。

猛将であった兄・真田信綱亡き後・・・跡目を継いだ昌幸はどちらかと言えば智将である。

しかし・・・父親の残した忍びの軍団を率いることには兄よりも長けていたと言えるだろう。

昌幸の血統には優れた術者が生まれる。

庶子である幸村は猿(ましら)使いだった。

同じく庶子でくのいちとなった初音は暗殺の達人となっている。

真田くのいちを率いる三女の銀杏は白鳥(しらとり)使いである。

猿も白鳥も・・・ともにオシラサマと呼ばれる憑依神の術である。

昌幸自身も忍び修行による気の使い手であった。

しかし・・・修行の半ばで・・・信玄公に近侍したために・・・その能力は忍びというよりも軍略家という傾向が強い。

そして・・・弱肉強食の戦国の世にあって・・・昌幸は合戦の鬼となっていく。

真田の里の忍び小屋に入った昌幸は・・・気を用いて神仙の領域に入り・・・変化する状況を読んで行く。

北に上杉・・・西南に徳川・・・東南に北条・・・大勢力に囲まれて・・・真田一族を守護することは・・・薄氷の上をあるくことに似ていた。

上杉に臣従する真田の行く末・・・徳川に臣従する真田の行く末・・・北条に臣従する真田の行く末・・・交錯する運命の糸をたどり・・・正しい縫い目を作らねばならない。

ひとつ道を間違えれば滅びが待っている。

「結局・・・ここは徳川か・・・」

霧に包まれた部分もあるが・・・大方の道は見出せた・・・そう感じた昌幸は・・・呼吸を整え・・・夢と現の境界を乗り越える。

目の前に・・・幸村の顔があった。

「・・・戻られましたか・・・」

「うむ・・・国境の様子はどうだ・・・」

「北条勢と徳川勢は・・・相変わらずにらみ合いを続けております」

「ふ・・・あれだけ多勢をもって新府城を囲みながら・・・北条の意気地のないことよ・・・」

「北条の戦は・・・そういうものなのでございましょう・・・おかげで沼田もなんとか持ちこたえております」

「幸村・・・猿使いは今・・・誰が残っておる」

「三蔵がおります」

「呼べ・・・」

「すでに控えさせております」

「小諸城に忍ばせるのだ」

「では・・・徳川様に・・・」

「うん・・・馳走してやるのだわ」

山猿を従えた三蔵が忍び小屋の猿の間に入った。

幸村は・・・神通力により・・・三蔵に猿の目を与える。

三蔵自身の能力を幸村が呪文で増幅するのである。

座禅を組んだ三蔵は無我の境地に誘導されていく。

「ましらのかみにたまあげてましらのまなこおりたまえ」

三蔵は座禅を組んだまま動きを止める。

突然・・・山猿が幸村を見上げた。

幸村は頷いてつぶやく・・・・

「小諸へ・・・」

山猿は忍び小屋を出ると驚くべき迅速さで・・・林の中に消える。

今・・・三蔵の意識は・・・山猿の中にあった。

林の中に真田忍びの鎌原佐兵衛が待っていた。

山猿は佐兵衛の背に乗る。

佐兵衛は山猿を担いで小諸城へと向う。

城につけば・・・山猿を放つだけである。

どのような城壁も・・・山猿にとって・・・意味を為さない。

三蔵は山猿の目を使い・・・城内を覗くことができるのである。

猿(ましら)斥候(うかみ)の秘術である。

遠く離れた山猿の目と三蔵の口は霊的な繋がりで結ばれている。

真田一族にとって敵城に忍びこむことは・・・児戯に等しかった。

小諸城の様子は・・・軍備から兵糧にいたるまで・・・昌幸の知るところとなった。

攻城の支度が整うと幸村は盲人となっている三蔵を背負い・・・現地へ進出する。

真田忍びが配置に着くと・・・山猿の三蔵は弾薬庫に忍びこみ・・・放火した。

まもなく小諸城は落城した。

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2016年3月 6日 (日)

夕陽は一番星に追われて消えるけれど(亀梨和也)山猫たちの旅は続く(広瀬すず)

素晴らしいものが何かを決めることは生きている証のひとつである。

日曜日の昼下がりに近所のラーメン屋で一杯のラーメンを食べることは素晴らしい・・・かもしれない。

人間たちは・・・いろいろな意味で・・・素晴らしいものを決めるゲームに夢中になっているということもできる。

時々・・・そういうものは交差していく。

たとえば・・・第39回日本アカデミー賞最優秀作品賞受賞作品となった映画「海街diary」は素晴らしい・・・かもしれない。

そこには今季のドラマを彩る女優のうち・・・「怪盗山猫」の千葉すず、「真田丸」の長澤まさみ、「わたしを離さないで」の綾瀬はるかが登場している。もちろん・・・夏帆が欠けているが・・・それはたまたまだろう。

はるか、まさみ、夏帆の三姉妹は・・・見事なふくらみを持つ女優の集合体である。

しかし・・・今回、チャイナドレス姿を披露したすずもまた・・・なかなかなのであった。

四人が一同に会する映画は・・・特に一部の人間にとって素晴らしい・・・かもしれない。

キッドもまた・・・それを素晴らしいと思うが・・・スレンダータイプも・・・素晴らしいと思う。

何かを素晴らしいと思うこと・・・それがコアである・・・かもしれない。

ゲームの世界では・・・複雑さは・・・かもしれないと付け加えることを求めるのだ。

ちなみに「いつ恋」の有村架純は新人俳優賞と優秀主演女優賞を獲得している。

第39回日本アカデミー賞とは無縁だっが・・・「ちかえもん」の早見あかり、「ダメ恋」の深田恭子、「スミカスミレ」の桐谷美玲が素晴らしいのも・・・間違いない・・・かもしれない。

それは同じ「コア」から・・・生まれ出るものだからである。

で、『怪盗 山猫・第8回』(日本テレビ20160305PM9~)原作・神永学、脚本・武藤将吾、演出・西村了を見た。ゲームに満ちた世界では・・・「コア」は「妥協」の産物である。「日本国政府」と「沖縄県民の代表である県知事」は「訴訟合戦」より「一時的な休戦」で「合意」に達する。「決定的な決裂」は「内戦勃発」の可能性さえ含んでおり・・・「利得分配」に適さないという判断を双方が持っていたということになる。つまり・・・「コア」とは「交渉の余地」なのだ。怪盗探偵・山猫(亀梨和也)は「あなたのコアは何か?」と問いかけ続ける。相手のコアを知ることにより・・・交渉の余地を見出そうとする。山猫は躊躇なく盗むが・・・大切なものを奪うことには逡巡する。その微妙な差異を理解する人は多くないにしても・・・。

このドラマは「正義」についてのゲーム理論の展開という側面を持っているのである。

大人は子供に「正しく生きる大切さ」を教えるものだ。

しかし・・・「正しさとは何か?」を常に問い続けることも教えなければならない。

子供たちは時々・・・その曖昧な教えに・・・大いに戸惑うべきなのである。

それが・・・人生というものなのだ。

それを忘れれば・・・最悪の結末が待っている・・・かもしれない。

山猫は悪徳警官の関本修吾警部(佐々木蔵之介)と「山猫ウルトラクイズ」で対決する。

山猫は懐かしいゲームで楽しむが・・・悪徳警官もそれなりに楽しむ。

出題者は路地裏のカフェ「STRAY CATS 2号店」のマダム・宝生里佳子(大塚寧々)・・・。

判定者は魔王こと高杉真央(広瀬すず)・・・。

観客として雑誌記者の勝村英男(成宮寛貴)はイベントのくだらなさを揶揄する。

「山猫が侠武会から盗んだ金額は?」

「一億二千百万円」

「赤松杏里の本名は?」

「セシリア・ウォン」

「都知事が黒幕だったテロリスト集団は?」

「ウロボロス」

次々と正解を重ねる山猫・・・。

不正解の悪徳警官は・・・今は亡き細田(塚地武雅)の開発した電撃グッズで痺れる。

お仕置きをするのは魔王で・・・愉悦を感じる「悪い顔」に勝村は震えるのだった。

結局・・・その遊びは「目の前で都知事の自殺を許し・・・謹慎処分となった悪徳警官を叱咤激励する意味」を含んでいる。

敗者となった悪徳警官は・・・謹慎終了に伴う出勤を強制されるのだった。

「ずる休みはだめよ」なのである。

「北浦警察に隕石が落ちればいいのに」

「小学生か」

「いってらっしゃい」

「いってきます」

こうして・・・チーム山猫に日常が戻って来た。

しかし・・・それは・・・最終対決に至るゲームの始りだった。

巨大な資本力で・・・国家を支配する結城天明と・・・山猫の決戦は近付いていた。

細田の実家の工場跡地の地下で・・・電子的虚像のユウキテンメイと対峙した山猫。

「オマエニハ失望シタ・・・」

「・・・」

「関本ノ調教ガ甘カッタ」

「・・・」

「オマエニハ・・・ナニモカエラレナイ」

ユウキテンメイは・・・悪徳警官の名をあげて・・・消える。

邪悪なマスクをかぶったユウキテンメイの正体は不明である。

出勤した悪徳警官に冷たい視線を送る北浦警察署の刑事たち。

悪徳警官が予想した通り・・・霧島さくら刑事(菜々緒)は眼鏡を冷たく光らせ・・・狂犬刑事である犬井克明(池内博之)は土佐犬のように睨む。

あくまで・・・悪徳警官の主観である。

終業時刻に悪徳警官の携帯端末に着信があり・・・顔色を変えたラクダは・・・定時で署を出る。

「都知事の自殺に不審な点はなかったんですか」とさくら・・・。

「特にはな・・・秘書がグラビアアイドルである一点を除いては・・・」

「この女・・・売春組織の一員だった門松殺害現場にいました」

「何・・・」

「山根さんと一緒でした・・・」

謎の女(中村静香)の写真を見つめる二人の刑事・・・。

山根とは・・・怪盗山猫の仮名である。

謎の女の格闘技術に圧倒された記憶を反芻してさくらは唇を噛みしめる。

悪徳警官は・・・ユウキテンメイの邸宅を訪問していた。

「藤堂ヲ失脚サセタ罪ハ重イゾ・・・」

「申し訳ございません」

「山猫ハモハヤ不用ダ・・・」

「・・・」

「オ前ガ殺セ・・・サモナクバ・・・かめれおんニ命ズル・・・」

悪徳警官は・・・藤堂都知事と同様に・・・結城天明に支配されていた。

悪徳警官はそれを山猫に隠していたのである。

お約束のビルの屋上に山猫を呼びだす悪徳警官・・・。

「すまないが・・・死んでくれ」

悪徳警官は拳銃の引き金を引く。

しかし・・・不発だった。

「やけ酒飲んで眠っている間に・・・不発弾にチェンジしておいた・・・」

「なんでだ・・・」

「お前には盗聴器を仕掛けている・・・お前がユウキテンメイに会ったことも知っている」

山猫は悪徳警官の首に絞め技を決める。

「やめろ・・・殺す気か」

「お前が先じゃないか・・・」

悪徳警官は・・・家族写真を見せた。

「すまない・・・離婚した妻と子供を・・・人質にとられている」

「家族の命と引き換えに俺の命を奪うのか・・・それがお前の覚悟か・・・」

「しょうがないじゃないか・・・山猫よりわが子だ・・・それが人情ってもんだろう」

「開きなおるのかよ」

「・・・」

「どうするつもりだ・・・」

「こうなったら・・・結城天明をつぶすしかないな・・・」

「最初から・・・そうしろよ」

「俺だって・・・そうしたかったよ」

「つまり・・・結城天明を殺すより・・・俺を殺す方が簡単だと考えたんだよな」

「ま・・・いいじゃないか・・・終わったことだ」

都内の明るい喫茶店。

謎の女は狂犬の呼び出しに応ずる。

「さくらさんはお元気?」

「お前と会ったら殺しそうだと言っていた」

「あらあら・・・」

「お前・・・一体何者だ」

「それより・・・もっといいことを教えてあげるわ・・・」

「質問に答えろ」

「あなたは・・・飼い犬だけれど・・・飼い主は国民だと思っているでしょう」

「・・・」

「しかし・・・本当はそうではないとしたら・・・」

さくら刑事は狂犬から話を聞いた。

「つまり・・・警察は・・・そのユウキテンメイとかいう男に影から支配されていると・・・自殺した都知事も・・・セクハラ上司も・・・みんなユウキテンメイの飼い犬だって言うのですか・・・どんな・・・ここだけの話なんですか」

「信じるかどうかは・・・あなた次第・・・じゃなくて・・・とにかく・・・本庁の公安に行って・・・ユウキテンメイが実在するかどうか・・・聞きだす」

「その男・・・確かに政界の黒幕として君臨していたという噂があったけど・・・十年ほど前に死んだという話です」

「なんだと・・・」

「いいですか・・・その男・・・大東亜戦争のドサクサに紛れて・・・大日本帝国の巨大な軍資金を着服したという人物なんですよ・・・終戦から七十年たっているんです・・・そういう立場にいたとしたら・・・百歳を軽く越えてますよ」

「百歳を越えてる老人なんて・・・いくらでもいるだろう・・・それにしても・・・お前、詳しいな」

「陰謀論マニアです・・・」

二人は・・・公安で・・・悪徳警官の姿を目撃する。

「どうして・・・セクハラ上司がここに・・・」

「陰謀の匂いがするな・・・」

狂犬は公安の人間に噛みついた。

路地裏のカフェ「STRAY CATS 2号店」・・・。

「これからは・・・ユウキテンメイとの命がけの勝負になる・・・」

「奴を潰すには資金源を断つしかない」

「だから・・・ここからは俺と関本のおっさんで・・・」と山猫。

「今さら・・・おりられないよ」と魔王。

「細田さんの仇を討たなきゃならないし・・・」

マダムも勝村も不退転の覚悟だった。

「公安から得た情報では・・・結城天明に関する情報は・・・秘密の資料館である・・・警察歴史館に保存されているそうだ・・・しかし・・・現場の関係者によればそんな情報はないという」

「警察図書館には・・・秘密の資料室があるわ」

「なに・・・」

「ハッカーにとっては常識だけど・・・電子化されていない資料だから・・・内容はわからない」

「怪盗探偵の出番ということだ・・・なあ・・・相棒」

「え・・・俺・・・」

勝村は茫然とした。

そして・・・二匹の山猫は警察歴史館に侵入した。

魔王はあらゆる回路を通じ閉鎖された電脳空間にさえ侵入可能なスーパー・ハッカーである。

素晴らしいインターネットの世界に接続されていないシステムをハッキング対象へと引きずりこむことができるスーパー・ナチュラルな能力を持っているのである。

警察歴史館のセキュリティー・システムは瞬時に書きかえられ・・・疑似情報を信じ込む。

山猫は秘密の部屋に通じる通路に侵入し、囮山猫・カツムラによって麻酔ダーツ、粘着床などの障壁を労せず突破するのだった。

「助けてください・・・」

「靴脱げよ」

「・・・あ」

しかし、山猫侵入を予測した狂犬が通路に到着する。

催眠スプレーで対応する山猫。

秘密の部屋の捜索を開始する二匹の山猫。

カツムラは・・・「㊙結城天明資料ファイル」を発見する。

「まるで・・・罠のようなわかりやすさだな・・・」

「ここまで侵入するものの存在を・・・想定していなかったんじゃ・・・」

「にゃ~るほど」

だが、覚醒した狂犬は囮山猫を人質にとり・・・山猫の確保に成功する。

「ついに・・・山猫をつかまえたワン」

仮面を取ろうとした狂犬は「ビビビ」と痺れるのだった。

「痛・・・」

「電撃マスクにゃ」

そこへ・・・悪徳警官とさくらが到着する。

「先輩・・・」

「・・・」

見つめ合う素顔の勝村とさくら刑事・・・。

護送用のパトカーは二台・・・。

さくらは勝村に告げる。

「いつか・・・こんな日が来るのではないかと・・・惧れていました」

「君とは・・・長い付き合いだからね・・・」

一方・・・悪徳警官と狂犬と山猫。

「お前は・・・何を狙っているんだワン」

「それは・・・これから・・・教えてやるニャン」

悪徳警官からパスされた手錠の鍵で手錠を解錠し・・・油断した狂犬を密着格闘技術で昏倒させる山猫。

「勝村を解放しろ」

奪った拳銃で悪徳警官を人質にとり・・・勝村を奪還する山猫。

「いいか・・・勝村はあくまで・・・人質だ」

「・・・」

山猫カーが到着し・・・山猫と人質の勝村を回収するのだった。

「山猫が・・・人質をとって逃走中・・・緊急手配願います」

だが・・・山猫カーは街の中で煙のように消えてしまうのだった。

ソファがマーサージチェアに換装された路地裏のカフェ「STRAY CATS 3号店」・・・。

「複雑だわ・・・」

「難しいの・・・」

「いいえ・・・ファイルは中学生でも解ける暗号化しかしてないけど・・・これで・・・チーム山猫の仕事も終わりかと思うと・・・」

淋しさを感じる魔王にマダムは厳しい顔を見せる。

「あなたは・・・表の世界に戻らないとダメよ・・・」

「・・・」

「でも・・・お店でアルバイトするくらいなら・・・いいわよ」

「え」

「路地裏のカフェSTRAY CATSは不滅だから・・・」

魔王の顔に喜びが満ちる。

山猫は問う。

「あらためて聞こう・・・お前のコアとはなんだ」

「生きる余地をさがすことよ・・・そして大切なものを守り、共に生きていく可能性をいつも探し続けること」

「ゲーム的だが・・・正解だ」

山猫は魔王の頭を撫で・・・わしゃわしゃにした。

「やめて」

「どうだ」

「やめろってんだろうがっ」

「にゃあ」

山猫は叱責された。

「解けたわ・・・大量の丸福金貨は細田工場の地下から・・・結城天明の屋敷に公安が移送している。結城天明の屋敷は・・・国有地よ・・・しかも・・・所轄官庁は不明・・・実質・・・警視庁公安部の秘密事項ね・・・」

「つまり・・・警視庁公安部はまるこど・・・ユウキテンメイの所有物なのか・・・」

「結城天明屋敷の地下に・・・巨大な金庫がある」

「それを持ち出すには・・・」

「さあ・・・どういう形で富が所有されているか・・・わからないから」

「それを確かめなければならないな・・・」

決戦を前に・・・さくらに呼び出される勝村・・・。

例によって窓の外には・・・ラブホテルがそびえ立つ・・・。

巨大な「HOTELプロポーズ」の看板が輝いていた。

「先輩・・・お誕生日おめでとうございます」

「毎年・・・ありがとう・・・重いね」

中身は・・・「結婚情報誌」だった。

「・・・」

「中身も重いね」

「先輩はあくまで・・・人質なんですよね」

「・・・」

「どうして・・・泥棒なんかとつきあうんですか」

「法律の枠内で悪事を為すものと・・・法律に触れながら悪事を暴くもの・・・どちらが正義なんだろうか」

「私にとって・・・法律を順守することが正義です・・・日本は法治国家ですから」

「右京さんは・・・そういうけれどね」

「え」

「ダークカイトは・・・厨二病だったから・・・」

「・・・なんの話ですか」

「いや・・・カラVS右京さんだと・・・噛みあわないだろうなと思って」

勝村の携帯端末に着信がある。

「・・・女ですか」

「いや・・・編集長からだ・・・え・・・山猫の連載記事は終了ですか・・・いえ・・・結構愛着があったものですから・・・わかりました」

勝村は・・・さくらを残し・・・仕事に着手した。

カメレオンの正体は・・・雑誌記者でほぼ確定し・・・。

ユウキテンメイの正体として・・・。

雑誌の編集長・水上(村杉蝉之介)が浮上するのだった。

・・・お前かっ。「あまちゃん」ワールドよりの使者か。

本当は百歳なのかっ。

カメレオンはともかくとしてテンメイが編集長なら・・・それは意外なのかもしれない。

もちろん・・・電話の相手が本当に編集長だとは限らないわけだが。

さて・・・マジシャンのアシスタントの衣装は・・・。

① バニーガール

② チャイナドレス

③なんとなくミニスカート

どちらにしろ・・・足元が問題なのだが・・・勝村の疑似誕生会の余興でマダムのマジックのアシスタントを務める魔王はゆるふわ緊縛でバスト強調、スリット控えめのサービスだった。

アシスタントが脚線美を強調するのは観客の視線を誘導するための擬装の一種である。

二匹の山猫は「青春アミーゴ」的に友情を深める・・・。

山猫の音程が外れている熱唱・・・。

夢の中にだけある理想郷へ続く道を捜して・・・旅する若者たちのバラード・・・。

囮山猫は悪徳警官かせ痺れるブーツを贈られる。

そのうっとりするような履き心地・・・。

そして・・・最後の晩餐は終了する。

結城天明の屋敷・・・地下金庫の扉に難なくたどり着く・・・二匹の山猫・・・。

しかし・・・すでに警察は動き始めていた。

急を知らせようとする悪徳警官を狂犬が制する。

「あんたの手錠の鍵をどうして・・・山猫が持っていたのか・・・説明してもらおうか」

「盗んだんじゃないのか・・・泥棒だから」

「ワン・・・」

「ニャア・・・」

しかし・・・金庫の鍵は開かなかった。

「魔王・・・どうした」

電子の要塞で魔王は驚愕する。

「システムに・・・罠が仕掛けられていたの・・・私のシステムは・・・のっとられた・・・スーパーナチュラルな人工知能に・・・」

「なんとかしろ・・・」

「どうにもならないよ・・・」

勝村は・・・カメレオンに変身した。

「なんだって・・・」

「魔王はうっかり・・・システムに悪いクスリを飲ませてしまった・・・君が僕を信用したようにね・・・」

「・・・なんだ・・・お前は俺と一緒で楽しくなかったのか」

「楽しかったよ・・・しかし・・・君はコアの本質を見誤ったのだ」

「・・・」

「人には譲れない一線がある。人と人とは許容範囲を探り合う・・・その合意のひとつがコアだ・・・そして・・・コアがなければ殺し合う・・・それがゲームのセオリーなんだよ」

「心のコアと心のコアが通い合うなんて・・・幻なのかい?」

「変わらない忠誠・・・それもまたコアなんだよ・・・」

カメレオンは山猫を撃つ。

「細田には四発プレゼントした・・・君には五発あげるよ」

腹に銃弾を食らい、血しぶきをあげて悶絶する黒猫・・・。

もちろん・・・それは・・・細田の遺品・・・血糊の噴き出す防弾ベスト着用なのは明らかなのだが・・・。

山猫の心は・・・友情の終焉に軋むのだった・・・。

落日の果ての夜の世界では信じるものは裏切られるのが宿命なのである。

関連するキッドのブログ→第7話のレビュー

Ky008ごっこガーデン。ピンクのハートが無限に飛び出す天才美少女マジシャンステージセット。

エリはい・・・はい、はい、はい!・・・エリの山猫先輩へのラブはいくらでもハートを飛ばせるパワーを秘めているのでス~。次は・・・先輩を箱にいれて剣で串刺し・・・そして胴体真っ二つショーへと続いて行きます。愛する人に恐怖を与えて・・・それからホッとしてもらう・・・恋愛にも緩急は必要なのでス~。じいや・・・最後は愛の爆発・・・金庫入りカップル水中脱出ごっこのスタンバイをお願いしまス~」

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2016年3月 5日 (土)

みんなが私の幸せを願ってくれたのです(綾瀬はるか)

教育の基本は「愛」である。

自分を愛することの素晴らしさを教え、自分を愛するように他者を愛することを育む。

バランスを変えれば「個人主義」に導くことも可能だし、「奉仕精神」への傾斜を形成することもできる。

「個性」は「複雑さ」の許容となるし、「標準」を求めれば「画一化」が推進される。

「生きるために必要な情報伝達」は「死ぬために必要な情報伝達」に他ならない。

私たちは素晴らしい教育を受けて来た。

あるものは政治的に無関心だし、あるものは全体的なバランスというものを考えない。

人間はどのような「制度」も実現する可能性を秘めている。

誰かが幸せになれば自分も幸せになれると信じる人間は幸せなのである。

あるいは他人なんてどうなろうと知ったことではないと心から思える人は

で、『わたしを離さないで・第8回』(TBSテレビ20160304PM10~)原作・カズオ・イシグロ、脚本・森下佳子、演出・吉田健を見た。ここではないもう一つの別の世界で・・・。臓器移植のための提供者として生産されたクローン人体である保科恭子(鈴木梨央→綾瀬はるか)は特殊な施設・陽光学宛で成長し、研修を受けて介護人となった。提供開始後のクローン人体のケアをするのが仕事である介護人は一定期間の提供開始への猶予という特権が与えられる。陽光学苑は介護人になるための特殊なルートであった。しかし・・・何らかの事情で陽光学苑は閉鎖され・・・跡地は一般的な提供者養育施設である「「HOME」となっていた。

最後の思い出作りのために・・・酒井美和(瑞城さくら→水川あさみ)の発案で土井友彦(中川翼→三浦春馬)とともに陽光学苑跡地にやってきた三人。

「HOME J-28R」の閉ざされた扉を横目に・・・森の中へと進む。

間もなく三種同時提供をする美和は低下した体力のために歩みを止める。

ピクニックを計画している恭子は適当な空き地を求めて森を探索する。

吐く息が白い早春の森で・・・三人は残り少ない時間を共有するのだった。

「この料理って・・・創立記念日の給食メニューじゃない」

「よくわかったね」

「よく覚えていたわね」

「美味しかった料理はいつもメモしているから」

「さすがは・・・優等生の恭子ね」

「とてもおいしいよ」

「ありがとう」

「私・・・少し・・・散歩してくるわ」

「じゃ・・・私も」

「いいの・・・あなたはそこにいて・・・私だってもう子供じゃないんだから」

美和は恭子と友彦を二人きりにするために席を外したのだった。

「美和は・・・次の提供が決まっているの?」

「・・・三種同時提供よ」

「そうか・・・」

「トモ・・・あなたなんだか変わったわね」

「君も・・・提供が始まれば・・・わかることさ・・・」

「・・・」

一方・・・一人になった美和は二人のためのプレゼントを確認していた。

プレゼントは二つあり・・・どちらをどちらに渡すか迷っていたのである。

そこへ・・・「HOME」の警備員が現れる。

本能的な恐怖から逃げ出そうとした美和は・・・プレゼントの一つを落してしまう。

何かが壊れる音が森の中に鈍く響く。

美和の帰りが遅いことに不安を感じた恭子が立ちあがった時・・・警備員が現れる。

「酒井美和担当の介護人の保科恭子は君か・・・」

「はい・・・」

警備員は二人を「HOME」へと導くのだった。

二人は初めて・・・陽光学苑意外の養育施設の実態を知った。

殺風景な施設の中で子供たちは静かに生きていた。

運動をする子供たちも無表情で歓声をあげることもない。

「みんな楽しそうじゃないな」

「言葉をかけるものがいなければ子供は話すことを覚えないのよ」

「俺の介護人は・・・陽光育ちじゃないんだ・・・ある意味・・・凄いよな・・・こんな環境の中で独学で介護人になったんだから・・・」

「陽光じゃない人はよく私たちをうらやましがるけど・・・その意味がわかったわ」

子供たちの中には粗末な餌を奪い合うものもいた。

音楽室では古いコンシューマゲーム機で遊んでいる子供たちもいる。

その動作に漂う虚無感・・・。

「こんなのひどすぎる・・・まるで家畜ね」

「俺たちだって本質的には同じだけどな」

「まあ・・・友彦・・・本当に変わったのね」

「絵を描く様になって・・・世界に意味があるような気がしてきた・・・そして提供を始めてから・・・それが間もなく消えてしまうことを知ったから・・・」

「・・・」

警備員室に美和は保護されていた。

「まったく・・・これだから・・・陽光出身者は面倒だな」

「私たちは・・・」

「提供前の思い出作りだって言うんだろう」

「・・・はい」

「身分証を出したまえ・・・」

美和は介護人の身分証を提示する。

「そっちのは・・・」

「俺は・・・施設に忘れて・・・」

「まさか・・・脱走者じゃないだろうな」

友彦は回復センターを無許可で抜けだしていた。

「違います・・・彼は私が誘ったんです・・・私が責任を持って施設に送りますから」

「・・・責任を果たしてくれよ」

警備員は三人を解放した。

「HOME」の門の近くに・・・輸送車が停車していた。

子供たちは「早期提供者」として出荷されるところらしい・・・。

その中に・・・幼い頃の恭子にそっくりなクローン人体がいた。

「あ・・・あなた・・・名前は・・・」

しかし・・・恭子よりも後にコピーされたクローン人体は無反応だった。

係員は無造作に輸送車に子供たちをおしこむ。

「邪魔だ・・・」

「・・・」

「今のは・・・恭子じゃないわ・・・あんなの恭子じゃない」

「ここで育てられればああなるのよ・・・あれも私・・・」

「・・・」

恭子は美和の体調を気遣い荷物を持とうとする。

「いいの・・・これは私のだから・・・」

夕闇せまる街。

家路を急ぐ三人の車・・・。

「私たちは・・・みんな・・・恵まれていたのね」

「提供者としてはね」

「・・・」

三人の口数は少なくなった。

「でもよかったよ・・・二人に会えて・・・」

「・・・」

「美和・・・誘ってくれてありがとう・・・」

「あのね・・・これ・・・恵美子先生の住所・・・」

「え・・・」

「私・・・介護人だった時に・・・調べたの」

「・・・」

「絵を持って言って猶予をもらって・・・」

友彦は放屁した。

「いやだ」

「トモ・・・」

恭子は車の窓を開けた。

「ごめん・・・びっくりしたので」

「驚くと・・・出るシステムだったのか」

「私・・・そうじゃないかと思ってた」

「さすが・・・優等生ね」

回復センターで友彦と別れた二人・・・。

「美和は・・・他にしたいことはないの・・・」

「とまって・・・」

「え」

「車を停車しろってことじゃないわ・・・・私の部屋に泊まり込んでって言ってんの」

「そんなことでいいの・・・」

「それが私の最後の願いよ・・・」

「・・・」

夜がやってきた・・・。

「知っている?・・・三月三日はひな祭りなのよ」

「人間が女の子の成長を祝う祭りね・・・」

「陽光には・・・そういう行事はなかった・・・」

「提供者が成長することにはあまり意味はないものね」

「知っている?・・・三月四日は私の最後の日よ」

「・・・」

美和と恭子は一緒に暮らし始めた。

回復期に入った加藤(柄本佑)は尋ねる。

「なんだか・・・楽しそうだね」

「そうですね・・・楽しいけれどさぴしいのです」

「・・・」

「なぜ・・・楽しいが今なんだろうと・・・思ってしまうのです」

「君たち・・・陽光育ちは・・・絆が深いからな・・・」

「絆・・・」

「そうさ・・・HOMEで育てば・・・幼い時の友達なんて・・・望めないもの」

恭子は「HOME」の過酷な生活と・・・その中で「知性」を獲得してしまったものの孤独を想像し・・・身震いした・・・。

「僕たちは・・・介護人研修で仲間に会うまでは・・・淋しさなんて・・・知らなかったんだから」

三月三日がやってきた。

「私・・・恭子と一緒に寝たい」

「ダメよ・・・狭いもの」

「いいじゃない・・・昔はそうしていたんだから・・・」

「美和・・・」

「私の下着あげるわよ・・・友彦は黒のレースがお気に入りよ」

「何を言ってるの・・・」

「宝箱に入れてよ・・・そういえば・・・宝箱なんて・・・なんであったのかしら」

「男子はゴミ捨て箱だと思っていたみたいよ」

「私は・・・ゴミにしちゃったわ・・・ねえ・・・恭子の宝箱見せてよ」

「部屋においてあるわ・・・」

「明日朝一で持ってきて・・・」

「最後まで我儘な人ね・・・」

「いいじゃない・・・最後の我儘だもの」

夜が明けぬうちに・・・眠っている美和を残し、自分の部屋に戻る恭子。

宝箱を開け・・・整理しているうちに・・・蘇る思い出の数々・・・。

気がつけば美和の最後の一日の開始を告げる朝陽が昇る。

提供開始は午前十時だった。

「さすがは・・・優等生ね・・・」

美和は恭子の宝箱の中身を賞賛する。

「これ・・・花ちゃんの・・・」

「へえ・・・」

「これ・・・珠ちゃん・・・」

「ふふ・・・」

「これは・・・美和にもらった奴・・・」

「まあ・・・とってあったの」

「これ・・・真実がくれた・・・玩具」

「きゃ・・・」

「結局・・・美和との思い出の品が一番多いのよ・・・」

「ごめんねリスも・・・」

「美和はリスだもんね」

美和は子供の頃を思い出してリスの顔になる。

恭子はウサギの顔になる。

微笑む二人。

「私ね・・・恭子になりたかった」

「・・・」

「恭子はかわいくて・・・絵が上手で・・・優等生で・・・みんなから頼りにされて・・・」

「美和・・・」

「だけど・・・私には無理だった・・・だから・・・恭子を自分のものにしようとしたの」

「・・・」

「そうすれば・・・恭子になるのよりもずっといいでしょう・・・」

「・・・」

「だけど・・・恭子がトモと一緒にどこかへ行くと知って・・・トモを奪ったの・・・トモなんかちっとも好きじゃなかったのに・・・」

「そんなの・・・知ってたわよ」

「そう・・・最後だから・・・どうしてもあやまりたかった・・・ごめんね」

「いいのよ・・・友達だから・・・」

その時・・・提供のための医療スタッフが入室する。

「時間です」

「嫌・・・」

美和ぱ恭子にしがみついた。

その顔に浮かぶ・・・恐怖・・・。

「ちょっと待って・・・」と思わず美和を庇う恭子。

しかし・・・スタッフたちは・・・慣れた手つきで美和をストレッチャーに乗せ、拘束する。

「恭子・・・離さないで・・・わたしを・・・離さないで・・・」

「美和・・・」

「恭子・・・恭子・・・恭子」

恭子は追いすがり・・・美和の手を握る。

「美和・・・大丈夫・・・私たちは天使だから・・・誰かのために身体を提供する。誰かの命を救うという崇高な使命を果たす・・・大丈夫・・・あなたはきっと成し遂げる」

美和は恭子を見つめ・・・泣きながら頷いた・・・。

そして・・・美和は提供を終了した。

摘出された内臓は搬出され・・・残された部分は焼却される。

回復センターの係員がやってくる。

「ゴミの分別が間違っているのでやり直してください・・・」

恭子は美和の残したゴミの中から粉砕された美和の最後の作品を発見する。

恭子は・・・修復を試みる・・・。

(わかりにくいし・・・見栄っ張りで・・・疎ましく・・・扱いにくい女だった・・・)

美和の彫塑は・・・「恭子と友彦の恋人握り」だった・・・。

(芸術家の魂は・・・作品にすべて・・・曝け出される)

恭子は亡き友のために泣いた・・・。

(美和・・・)

友彦の介護人である中村彩(水崎綾女)が情報を持ってやってくる。

「恭子さんが・・・リクエストに応えてくれましたよ」

「・・・」

彩は友彦の作品を賞賛する。

「お上手ですね・・・」

「昔は下手でした・・・でも・・・今は描けることが喜びです・・・もう会えない人にも・・・いつでも会うことができるから・・・」

友彦は描く・・・幼い天使が小さなベッドで抱き合っている聖なる情景を・・・。

友彦は覗き屋だったのである。

友彦の回復センターに恭子が到着した。

「来ちゃった・・・」

「ようこそ・・・」

「珠世がね・・・奨めてくれたの・・・真実がね・・・この世に生まれてよかったってことを・・・捜せって言ったの・・・美和がね・・・幸せになってもいいって・・・許してくれた・・・みんなに導かれて・・・私はここに来たの・・・すべてを取り戻すために・・・」

「さびしかったんだね」

「さびしかったのよ」

回復センターのベッドで恭子は友彦を抱いた。

夢にまで見た友彦の局部を勃起させ・・・自分の局部に挿入させる。

恭子は・・・そういう欲望が特別に強い介護人なのである。

友彦は全力で応じるのだった。

天使たちは生きながら天国を感じた。

だが・・・この物語はまだ続いて行く・・・。

二人がすべてを世界から奪われるまでは・・・。

関連するキッドのブログ→第7話のレビュー

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2016年3月 4日 (金)

これからこの世の暇乞いせめて心が通じなば夢にも見えてくれよかし(早見あかり)

たくろう・・・来たな。

たくろう・・・来たね。

結局、ひろしだったけどな。

かまやつひろしだったね・・・。

ひろしのことが好きだったんだな。

鯖も好きだったけどな。

結局・・・みんな人形だったね。

演技で寄せていたけれど・・・役者がみんな人形顔なんだよな。

ちかえもんも万吉も腹話術の人形みたいだしな。

人形使いの話だよな。

人形使いの話だね。

フィナーレだな。

フィナーレだね。

で、『ちかえもん・最終回(全8話)』(NHK総合20160303PM8~)脚本・藤本有紀、演出・梶原登城を見た。蒼ざめた夜の森を抜ける遊女・お初(早見あかり)と平野屋の道楽息子・徳兵衛(小池徹平)・・・。桜散る天満屋中庭のピンクから・・・ミッドナイトブルーへと桃色で青色なアレなのである。まさに・・・これはお初のための物語。なにしろ・・・「曽根崎心中」はお初あってのお話なのである。曾根崎村の露天神がお初天神と呼ばれるようになってしまうわけだから。お初を演じるのが早見あかりで・・・早見あかりが演じるのがお初で・・・よかったと思うのである。

黒田屋九平次(山崎銀之丞)の悪だくみにはめられて思い詰める徳兵衛。

「もはや・・・身の潔白を明かすために・・・自害して果てる他はなし・・・お初・・・お前のことをあの世で何十年でも待っているよ」

「徳様なしで・・・一日たりとも過ごせましょうか・・・妾も一緒に参ります」

「お初・・・」

「徳様・・・」

「よっしゃ・・・ほんなら・・・心中ちゅうことで決まりやな」と合点する万吉(青木崇高)だった。

そして・・・死出の旅へと旅立つ二人なのであった。

元禄十六年(1703年)四月七日早朝・・・堂島新地天満屋の女郎・初(21)と内本町醤油商平野屋の手代・徳兵衛(25)西成郡曾根崎村の露天神の森で情死したのだった・・・。

その少し前・・・ちかえもんこと近松門左衛門(松尾スズキ)は急を知らせるために平野屋に走っていた。

「そんな・・・まさか・・・死ぬなんてこと・・・ここまでの顛末でお茶の間も・・・そんな心の準備ないで・・・」

夜なのに明々と灯りのついた平野屋の店先は使用人たちが右往左往して騒がしい。

「近松はん・・・どこぞで若旦那を見かけまへんでしたか・・・昼間、往来で騒ぎを起こしえらく打ち据えられたという話を聞き八方手を尽くして行方を捜しておりますがいまだに影も形も見えしまへんのだす」

「お初と・・・露天神の森で心中するちゅうて・・・今、万吉が止めに行ってます」

「心中やと」

あわてて駆けだす親馬鹿の平野屋忠右衛門(岸部一徳)だった。

江戸時代の夜は暗い・・・。

結局、一行が現場にたどり着いた時には世は明けていた。

ムシロの端からのぞくのは生々しい男女の生足・・・。

茫然と立ちすくむ万吉。

駆け寄る・・・忠右衛門はムシロをめくる。

「・・・なんでや・・・」

恐ろしさのあまり・・・土手の上で立ちすくむちかえもんだった。

「徳兵衛・・・」

「若旦那様・・・」

遺体にすがり・・・震える忠右衛門と・・・番頭の喜助(徳井優)の背中・・・。

「そんな・・・アホな・・・」と呟くちかえもん。

二人が死んだことが嘘のように感じられ・・・実感がわかないのである。

「嘘やろ・・・」

嘘だといってよ・・・ちかえもんと騒然とするお茶の間。

しかし・・・瓦版は事件を盛んに報道する。

遊女たちはお初の仮初の墓に合掌し花を手向ける。

ちかえもんの馴染みの遊女・お袖(優香)はお初の部屋から白無垢の婚礼衣装を仕舞う。

色茶屋・天満屋の主人・吉兵衛(佐川満男)と女将のお玉(高岡早紀)は帳場で語らう。

「何も死ぬことはなかろうに・・・」

「結局、黒田屋に欺かれたのがあかんのや・・・」

その黒田屋も・・・どうやら・・・例の不手際が響いてとり潰しの憂き目にあったらしい。

もちろん・・・平野屋が裏から手を回したのだろう。

なにしろ・・・憎き息子の仇なのである。

そして・・・平野屋の仏壇の前に安置された徳兵衛の位牌に向かい・・・竹本義太夫(北村有起哉)と焼香するちかえもん・・・。

「ほんまなんか・・・嘘やないんか・・・ほんまに心中してもうたんか・・・」

月光差し込む部屋で一人・・・ついに二人の「死」を実感するちかえもん。

「なんで・・・そんなアホなこと・・・するんや」

静寂の中で・・・ちかえもんは二人のありし日の姿を思い出す。

一目見て・・・惚れあった二人。

親の仇と懐剣を構えるお初。

懐剣を奪い取り自死しようとする徳兵衛。

黒田屋の罠にはめられて捕縛される徳兵衛と泣き叫ぶお初。

そして・・・桜吹雪の中で抱き合い・・・夜の森へと駆け去る二人・・・。

「ワシはしょうもないやっちゃ・・・涙でなく・・・言葉があふれて・・・言葉があふれて・・・とまらん・・・言葉があふれてとまらんのや・・・」

ちかえもんは灯に点火する。

墨を磨る。

そして・・・紙に筆を落す・・・。

ちかえもんは書く。

お初と徳兵衛の物語を・・・曽根崎心中を・・・書いて書いて書きまくるのだった。

ついに完成した渾身の浄瑠璃台本・・・。

義太夫の顔色を窺うちかえもん。

その顔は無精髭を伸ばし憔悴の色が濃い。

「・・・」

「うん・・・五月七日や」

「五月七日・・・」

「五月七日に・・・初演の幕上げるで」

「・・・」

ちかえもんは義太夫に賤しい顔で微笑みかける。

呼び出されて部屋に出たお袖は・・・ちかえもんにぎょっとする。

「・・・お袖・・・しばらくやな・・・息災か」

「なんや・・・あんた・・・そんなにやつれて・・・悪い病にでもなったんかいな」

「家に籠って書いてたんや」

「・・・」

ちかえもんは袋に入れた銀をお袖に渡す。

「義太夫はんに頼みこんで・・・前借りしてきた・・・五月七日・・・初演を観に来てくれ・・・これだけあれば・・・年増の遊女の一人くらい・・・半日連れ出すことできるやろ・・・」

「年増は余計や」

「来てくれるか・・・」

「行くに決まってるやろう・・・くそじじい」

お袖は・・・生まれて初めて人形浄瑠璃を見るのである。

その顔は喜びに輝く。

綺羅綺羅しくも・・・暗闇に満ちた遊女の人生に差す一筋の光・・・なのであった。

そして・・・その日がやってくる・・・。

ちかえもんは・・・越前に去った母の喜里(富司純子)が夜なべして縫った羽織を着込む。

その心に浮かぶ一抹の不安・・・。

本当に死んだ人間の話を・・・物語にして・・・金を稼ぐことの後ろめたさ・・・。

何者かが近松家の戸を叩く。

表から現れたのは・・・忠右衛門。

「よくも・・・わしのせがれのことを・・・浄瑠璃の種になぞしたな」

ちかえもんに掴みかかり打擲の嵐・・・。

殴られ蹴られ土下座するちかえもん・・・・

「すんまへん・・・」

しかし・・・それはちかえもんの罪悪感が作り出した幻影だった。

「・・・」

つかの間安堵したちかえもんを何者かが背後から羽交い締めにする。

大入り満員の竹本座。

忠右衛門と喜助も姿を見せる。

「死んだ倅の話を種にした浄瑠璃に金を出すとは・・・わても酔狂の極みや」

「金主様の懐の深さに・・・惧れいるばかりにて・・・」

天満屋の主人夫婦に連れられてお袖も到着する。

お袖は・・・ちかえもんを捜すがその姿は見当たらない。

そして・・・竹本座に乗りつける一丁の駕籠・・・。

降り立ったのは・・・。

いよいよ・・・開幕を告げる拍子木の音が響く・・・。

げにや安楽世界より~今此の娑婆に示現して~我らがための観世音・・・

苦悩のないあの世から苦悩に満ちたこの世に神や仏がなぜ姿を見せるのか・・・それを慈悲と感じる人もいる・・・義太夫の名調子も高らかに・・・舞台に登場するお初によく似た白い首・・・。

お初のような人形・・・人形のようなお初である。

お初の恋の旅路が観客を巻き込んで進む・・・。

その頃・・・ちかえもんは・・・。

刀を構えて天満屋に乗り込み・・・客や遊女を監禁した九平次の虜となりて・・・。

「ええええええ」

「ふふふ・・・近松さん・・・読ませてもらいましたよ・・・あなたの書いた曽根崎心中・・・」

「・・・」

「私は嬉しかった・・・なにしろ・・・私が大活躍する話だ」

「・・・」

「敵役こそ・・・物語を動かす・・・核心と言えますよねえ」

「あの・・・わては・・・初演に行かんとならんのです」

「しかし・・・私には不満もある」

「え」

「この話じゃ・・・私は単なる負け犬じゃ・・・ありませんか」

「そないなこと言われても・・・」

「そこで・・・私は物語の続きをお目にかけることにしたのです」

「なんやて・・・」

「人の生死をネタにして・・・飯の種にするあさましい浄瑠璃書きを・・・この九平次が成敗するという一幕を・・・」

「なんやて・・・なにがあかんのや・・・お初と徳兵衛の話を・・・わしが書かんで誰が書く」

「戯言はそこまでだ・・・この腐れ外道が・・・その首・・・もらった」

「ひえええええええ」

ちかえもん絶体絶命である。

もちろん・・・そこに現れる万吉だった。

間一髪、九平次の刀をはじき返す不孝糖の壺。

「万吉~」

「ちかえもん~」

「また・・・お前か・・・」

「キッチョム・・・お前の好きにはさせへんで・・・」

「わては九平次や」

たちまち始る痛快娯楽時代劇的アクション。

斬りつける九平次、かわす万吉の大活劇・・・。

「ちかえもん・・・行きなはれ・・・」

「でも・・・」

「晴舞台がまっとるで・・・」

万吉に背を押され・・・店を飛び出すちかえもん・・・。

「誰か・・・人を呼んどくんなはれ・・・わては行かねばならんのや」

ちかえもんは・・・興行の場へと急ぐのだった。

江戸時代・・・それは徳川家康が作った巨大な監獄である。

人々は自由を奪われ・・・上下の隔てなく・・・家畜として生きる。

忍従につぐ忍従によって営まれるどす黒い平和の日々・・・。

つかの間咲き乱れる仇花だけが・・・人々の救いの光だった。

苦界に身を沈めた遊女お初と・・・商人の世界に馴染めない正直者の徳兵衛。

あらゆる束縛から逃れるために残された唯一の道行は・・・心中である。

誰もが求める解放の時は・・・無惨な死によってしか実現しないのだ。

暗闇の中を手さぐりで進み・・・漸く相手を見出した二人の歓喜の一瞬。

その一時はたちまち過ぎ去って行く。

あれ数えれば暁の・・・七つの時が六つ鳴りて残る一つが今生の鐘の響きの聞き納め・・・

時を知らせるお寺の鐘が鳴っている。七回鳴れば・・・次の八つの時までに死に果てる覚悟の二人・・・。六回目まで鐘の音を数えてしまえば・・・次に鳴る「ご~ん」という鐘の音はこの世で聞く最後の鐘の音なんだなあとふと思う。

死に支度を整えてお初は声をあげて泣き・・・徳兵衛ももらい泣く・・・。

いつまでいうて詮もなし~はやはや殺して殺してと最後を急げば心得たりと~脇差するりと抜き放し~さあただいまぞ南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏と~

「残念に思うことを言い出せばきりがないわ。それよりも一刻も早くこの世を去ってあの世で末長く結ばれたいの。さあ、早く、さあ、早く・・・殺してちょうだい、殺してちょうだい」と大事なことなので二度言うお初なのであった。徳兵衛も愛しい女にせがまれて「わかっているさ」とドスを抜きそれではいくぞと念仏を唱えるのであった。ああナンマイダナンマイダ・・・。

お初の肌に刃を向けることにためらう徳兵衛・・・。

何度かしくじりその後で・・・あっとばかりに喉を突く。

その断末魔に叫びを漏らす観客たち・・・。

お初の最後を見届けて・・・徳兵衛も剃刀とって咽につきたてる。

その凄惨な末路に呻く観客たち・・・。

・・・恋の手本となりにれり・・・

恋する二人の潔い旅立ち・・・残る遺骸のあさましさ・・・。

鮮やかな幕切れに・・・静まりかえる観客たち。

ちかえもんは手に汗握って観客の受けを待つ。

一人の嗚咽を皮切りに・・・怒号のような号泣の波・・・。

思わず見つめたお袖の顔が・・・優しく頷く時・・・ちかえもんの緊張は一気に解かれる。

そして・・・現れる母の喜里・・・。

「よくぞやった」と子を褒める。

褒められて無性にうれしいちかえもんなのである。

その頃・・・九平次と万吉は格闘の末に川に落ちる。

到着した役人に引き上げられたのは・・・九平次のみだった。

かけつけたちかえもんは思わず叫ぶ・・・。

「万吉」

「おい・・・危ないぞ」と言われたそばから川に落ちるちかえもんだった。

引き上げられたちかえもんに寄り添うは・・・幼き日の遊び相手の万吉人形・・・。

「お前か・・・お前だったのか・・・」

すべては・・・幻・・・戯作者の業の深さを物語るばかりなのである。

ちかえもんの心情とは裏腹に・・・「曽根崎心中」は大当たりとなるのであった。

義太夫は借金を全額返済した。

平野屋の労いの席・・・お茶の間を慰める救いの後日談である。

「実はな・・・二人は生きている」

「え」

「すべては万吉が仕組み・・・天満屋の主人夫婦の粋な計らいに・・・私も乗って芝居をした」

「ええっ」

「後の始末は私がすべて金で解決した・・・二人は今・・・越前で鯖漁師をしている」

「えええ」

一部お茶の間がとある夫婦を思い出す・・・仲睦まじい漁師とその女房となった徳兵衛とお初。

お初はしがらみから解放されて最高の笑顔を見せるのだった。

鯖が大好きお初さんである。

ちかえもんは激昂した。

「戯作者を騙すなんて・・・最低だ・・・騙していいのは・・・」

しかし・・・どこかで・・・万吉の声がする。

「嘘か本当かわからない・・・それが一番面白い」

「虚実皮膜論かいっ」

もう・・・最後なので歌うしかないちかえもんだった。

カランコロンカランカランコロン・・・

下駄を鳴らして奴が来る・・・。

青空の下・・・時空を越える万吉の姿・・・。

せつなくて・・・愛おしい物語を語るドラマの幕切れ・・・。

もしもあの世にいったとしても時々この世の夢枕に立つので・・・。

夢でもし逢えたら素敵なことだな。

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2016年3月 3日 (木)

私は世界で一番の幸せものです(桐谷美玲)

認知症になる直前の老いた母は・・・昔の手紙を引っ張り出して来て・・・何十年も前の父方の小姑たちとの確執に対する怨みを何度も何度も語っていたものである。

思えば・・・あれは過渡期というか・・・すでに記憶がおかしなことになっていたのだと・・・今になって思う。

しかし・・・当時はその怨みの深さに辟易したものである。

年老いていけば・・・枯淡というか・・・情念も静まるものだという側面もある。

それは一種の諦念によるものだが・・・なかなかどうして・・・表面からは失われた湿度とはうらはらに・・・恐ろしいほどの奔流が渦巻いていたりするわけである。

いつまでも若く、いつまでも愚かでありたい。

そういう人の気持ちを・・・痛いと思うのか・・・せつないと思うのか。

ドラマでは・・・桐谷美玲が松坂慶子に戻り、松坂慶子が桐谷美玲に変身するドタバタと・・・その両方に内在する「心」のロマンスが絶妙にからみあっている。

少し・・・仕掛けすぎたのではないかと・・・ヒヤヒヤする場面もあるのだが・・・なかなかどうして巧妙なカラクリなのである。

このまま「愛すること」が「幸せ」であることを・・・謳いあげてもらいたいと考える。

で、『スミカスミレ 45歳若返った女・第4回』(テレビ朝日201602262315~)原作・高梨みつば、脚本・古家和尚、演出・小松隆志を見た。魔物ファンタジーに慣れない人は化け猫である黎(及川光博)の妖力というものの凄さをなかなかに受け止め難いものである。最初に六十五歳の澄(松坂慶子)を二十歳のすみれ(桐谷美玲)に変身させていることから・・・その能力はほとんどなんでもありだということに気がつかない人もいるだろう。その上で・・・黎はこの世には存在していないすみれを椿丘大学に編入してしまうわけである。つまり・・・社会の登録ルールの改編など容易に成し遂げてしまう実力の持ち主なのだ。隣家の夫人である小倉富子(高橋ひとみ)に至っては心を操作されてしまうわけである。つまり・・・黎はほとんど「神」に等しい力を持っているのだ。それなのに・・・すみれが・・・戸籍上の問題などで携帯端末を購入できないのではないかと・・・心配するのは愚の骨頂なんだな。まあ・・・理解力のなさ・・・というのはどうしようもないけどな。

だからといって・・・黎は自分の万能さで・・・すみれをコントロールしたりはしない。

そこに・・・「霊界のルール」が介在してくるからである。

そういう「神のような力」と「掟による縛り」の駆け引きが・・・この手のドラマの醍醐味である。

傲慢なものたちは・・・己の正しさを信じる。

あげくの果てに・・・ヒトラーによって強制収容所に送られる憂き目に遭うのである。

トランプ氏を蔑むようなコメンテーターたちの言動がその証と言えるだろう。

自分たちが何様なのか・・・内省するべきなのである。

そして・・・この世に存在する暗黙のルールというものを・・・。

その上で恐ろしい世界の訪れに対処する気構えを持つべきなのだ。

この世に現れ・・・害を為す魔物と孤独な戦いを続ける天楽寺住職の天野早雲(小日向文世)は如月家に生じた魔を払うために突撃する。

不意をつかれた黎は一瞬、よろめくのだった。

そこに割って入るすみれ・・・。

「いきなり・・・何をなさるのです」

「おどきなさい・・・この化け猫は私が退治する」

「すみれ様・・・大丈夫です・・・ちょっと驚いただけですから」

「でも・・・」

黎は妖力を行使する。

「さあ・・・正体を現わしにゃさい・・・え・・・にゃんだ・・・にゃにをいっているのにゃ・・・わにゃしは・・・」

「少しろ・・・可愛くしてさしあげました」

「にゃに~・・・にゃんだ・・・これは~」

戦意を挫かれて・・・休戦する早雲だった。

お茶の間の三人・・・。

「これは私が願ったことなんです・・・」

「にゃんと・・・」

「お待ちください・・・今、術を解きますので・・・」

「・・・すると・・・偶然・・・かきつばたの屏風の呪縛を解き放ってしまったと・・・」

「はい・・・黎さんは・・・悪い人・・・いえ・・・悪い化け猫ではありません・・・」

「・・・」

「察するに・・・なかなか徳を積まれたお方のようですな・・・遊園地に結界を張ったのもあなたでしたか・・・」

「さよう・・・この家に怪異が生じていたようなので・・・」

「ご心配をおかけして・・・申し訳ありません・・・」

「いや・・・如月さんが・・・侘びることではありません・・・とにかく・・・何か困ったことがありましたら・・・ご相談ください。今夜は遅いので・・・これにて失礼します」

「御苦労様でした・・・」

和解成立である。

「話の分かる方でよかった・・・」

「住職さん・・・いい人ですから」

平和的解決を望むもの同志の対話はスムーズに進むのである。

そこに・・・午後十一時の真白勇征(町田啓太)からのラブ・コールである。

「あら・・・どうしましょう」

ちょうど子の刻タイムですみれは澄に戻ってしまうのだった。

「これはこれは・・・真白様・・・遊園地では大変ご迷惑をおかけして・・・すみれ様をお世話していただきありがとうございました・・・今度はいつデートにお誘いいただけるのでしょうか」

「いえ・・・それは・・・いろいろと考えています・・・あのすみれさんは・・・」

「すみれ様は夜になると喉の調子があまりよくないのですが・・・」

「ゴホゴホ・・・ごめんなさい・・・お電話変わりました」

「大丈夫ですか・・・夜遅くにすみません・・・どうしてもすみれさんの声が聞きたくなって」

「まあ・・・」

「でも・・・無理をしないでくださいね」

「いえ・・・私も真白さんの声が聞けてうれしいです」

「今夜は・・・これで失礼します・・・あの・・・真白さんは・・・携帯電話は持たないのでしょうか」

「携帯電話・・・いつか持ちたいと思っていました」

「その・・・携帯電話を持ってくれたら・・・メールのやりとりとかが・・・できるのになあ・・・と思って・・・」

「メール・・・」

「それでは・・・おやすみなさい」

「おやすみなさいませ・・・」

昔の男の子はみんな女の子の家の電話がみんな母親の膝の上に乗っているのではないかと戦々恐々としていたものだ・・・。

わかるかな・・・わかんないだろうな。

赤頭巾ちゃん気をつけてかよっ。

文体がどうとか・・・サリンジャーがどうとかというよりも「そういう青春があった」ことを記録していることがすでに素敵なんだよな。

思い出したら胸が熱くなるものね。

・・・もういいか。

帰宅した早雲は不肖の息子である慶和(高杉真宙)がまたもや叶野りょう(梶谷桃子)を部屋に連れ込んでいるのを嗅ぎつける。

「帰りなさい」

二人のこれからいいところを許さない住職だった。

交際を開始したすみれと勇征は大学でも親密さを深めるのであった。

カチカチカチカチ・・・。

仲睦まじい二人に微笑む由ノ郷千明(秋元才加)と西原美緒(小槙まこ)・・・。

カチカチカチカチカチカチ・・・。

一方、女王様きどりの幸坂亜梨紗(水沢エレナ)の嫉妬の炎は燃えあがる。

カチカチカチカチカチカチカチカチカチ・・・。

シャープペンの芯がポトリと落ちる勢いである。

勇征のペンケースが綻んでいるのに気がついたすみれは・・・。

手作りの筆入れをプレゼントしようと思い立つ。

「なかなか積極的ですな」

「こんなことしか・・・思いつかなくて・・・それより・・・この間のことだけど・・・」

「願いが成就する・・・ことですか」

「はい」

「その前に・・・かきつばたの屏風は一対であることをお話しなければなりません」

「うちには・・・一つしかないけど・・・」

「封印を解くために鍵となる言葉がございます」

「言葉・・・」

「その言葉がなんであるか・・・私の口からは言えません」

「そうなんですか・・・」

「しかし・・・すみれ様が幸せを感じた時に・・・その言葉を口にすれば・・・もう一つの封印が解けるのです」

「私・・・もう充分・・・幸せですけど・・・」

「その言葉が発せられれば・・・私の婚約者が解放されます」

「黎さんの婚約者・・・?」

「はい・・・」

妖しく微笑む黎だった。

勇征のリクエストに応えるべく・・・携帯電話購入を目指すすみれ・・・。

困った時は由ノ郷千明である。

携帯電話購入のアドバイスを求めるのだった。

「これ・・・どうかしら・・・」

「そちらはシニア向けでございます」

結局、スマートホンを購入するすみれ・・・。

「すごく・・・難しそう・・・」

「すぐに慣れるわよ・・・」

「お手紙の方が早い気がします」

「相手に届くまでの時間を考えなさいよ」

「・・・あの・・・もう一つお願いがあるのですが・・・」

すみれは・・・生まれてから家業である花屋以外では働いたことがなかった。

アルバイトというものをしてみたかったのだ。

千明は自分のバイト先であるファミリーレストランを紹介する。

「いらっしゃいませ・・・」

ウエイトレスのコスプレ・サービスである。

オーダーエントリーシステムのハンディターミナルの操作に手間取るすみれだったが・・・長年花屋を手伝っていたので接客の技量は抜群なのだった。

「手書きのメモはダメよ・・・これには伝票としての機能もあるから」

「でも・・・難しくて」

「習うより・・・慣れろよ」

「はい・・・」

「でも接客には問題ないわね・・・経験あるの」

「花屋の手伝いをしたことがあるので」

「へえ」

千明の指導により・・・なんとか初日を乗り切るすみれ・・・。

一方・・・辻井健人(竹内涼真)は女王様のとりまきである菜々美(小池里奈)と玲那(谷川りさこ)に脅迫され・・・密偵を命じられるのだった。

化け猫よりも邪悪な人間たちである・・・。

帰宅したすみれは一生懸命、メールを作成して送信するのだった。

「携帯電話を買いましたそれから千明さんに紹介してもらってアルバイトを始めましたすみれ」

「ふふふ・・・全文・・・件名になってるよ・・・」

素朴なすみれの行為に・・・うっとりとする勇征だった。

心ある人々の交流の美しさである。

勇征は「もうすぐ仔犬が生まれる愛犬」の画像を添えて返信するのだった。

スマートホンの使い方を指南する勇征はカメラ機能について教える。

思わず花の写真を撮るすみれ。

すぐ横で中年女性が二人・・・花の写真を撮っていた。

「年取るとつい・・・花を撮っちゃうねえ」

「そうねえ」

自分の行為が・・・六十五歳のそれなのではないかとふと焦るすみれ。

「今度・・・家の猫の写真を送りますね」

「それも嬉しいけど・・・」

さりげなく自撮りでツーショットを撮影する勇征だった。

はじめてのツーショット写真に・・・ときめくすみれなのである。

「これも送ってよ」

「はい」

住職はすみれに研究の成果を伝える。

「寺に伝わる古文書では・・・どうやらかきつばたの屏風には秘密があるようです」

「そのことは黎さんもおっしゃってました」

「あの化け猫は・・・邪悪なものではないようですが・・・油断はできません」

「・・・」

「それに・・・あなたが・・・若返ったことは・・・森羅万象の理には・・・反していると言わざるをえません」

「・・・」

それが・・・特別なことであることを・・・すみれ/澄自身も承知しているのである。

しかし・・・願いが叶って若返ったことを否定する気持ちにはなれないすみれだった。

今・・・すみれは幸せを感じているのだ。

だが・・・無理なことを実現しているという思いがすみれの中でわだかまっているのも事実なのだ。

入浴中に・・・スマートホンの着信を知り・・・あわてて転倒したすみれは潜在する罪悪感により悪夢を見る。

自分の正体が六十五歳だと知られ・・・周囲に責められるのだ。

「まさか・・・君が・・・六十五歳だったなんて・・・」

勇征までが・・・すみれに冷たい視線を送る。

「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」

眼が覚めたすみれは絶叫する。

「気がつかれましたか」

「私・・・」

「風呂場で倒れていたのです」

「まあ・・・黎さん・・・私の裸を・・・」

「気にすることはありません・・・私は猫ですから」

「でも・・・恥ずかしい・・・」

六十五年間・・・他人に裸を見られたことのない澄/すみれだった・・・。

「ちょっと・・・ジュリちゃ~ん・・・」

「すみれ様・・・」

「添付はどうすれば」

「すみれ様・・・」

「送信って何かしら」

「すみれ様・・・」

主従関係も深まり、桐谷慶子と松坂美玲がクロスオーバーするのである。

すみれのアルバイト姿を見るために勇征は健人とファミレスにやってくる。

制服マニアなのである。

店内に怪しい二人組がいる場合は要注意である。

連続暴行魔かもしれないからかっ。

配役で犯人が判るヒガンバナのことはもう忘れたまえ。

しかし・・・健人はマウンティングトリオに情報漏洩をしているのだった。

「バイト・・・何時まで」

「十時半です・・・」

「終わったら送って行くよ」

「え・・・」

いや・・・午後十一時にあれなのに・・・十時半まではヤバイだろうと騒然とするお茶の間。

しかし・・・うっかり変身もののヴァリエーションとして楽しむしかないのだな。

さらに・・・事態を紛糾するためにやってくるおバカ女子大生トリオである。

「終わったら・・・カラオケいきましょうよ」と女王様。

「俺はパス」と勇征。

「私もちょっと・・・」とすみれ。

「感じ悪いわね」とバカトリオ。

感じ悪いのはお前たちだと騒然とする一部お茶の間・・・。

あさましい・・・と言えば・・・心の汚れた様子が見て取れる状態が現代では意味として通じる。

しかし・・・本来は・・・死んでいるという意味である。

つまり・・・残念なことになっている状態なので・・・そのままにしておけば腐敗し・・・惨状を呈するわけである。しかし・・・死んでいるのでもうそれ以上は悪くならないという意味も含んでいる。それが・・・無惨なのである。

死を忌む考えから・・・それはやがて見苦しいもの・・・嘆かわしいことへと変容していく。

逆に言えば・・・必ず死ぬ人間はすべてあさましいのである。

しかし・・・バカトリオがことさらにあさましく感じるのは・・・美しく生きようとする姿勢に欠けているからとも言える。

やがて・・・腐敗して朽ちていく人生なので生きている間は清々しくしようという気持ちが・・・人の行いを正すのだから・・・。

バカトリオをあさましく感じる社会はそれなりに美しさを孕んでいる。

ドタバタ仕掛けの仕上げとして「遅番の子が来ないので残業をお願い」する店長。

ついにいつか遅番の子が来なかったのを思い出してきっと泣いてしまう展開である。

午後十時五十五分・・・。

「店長・・・あの私・・・そろそろ・・・」

「あ・・・今、遅番の子が来たから・・・どうもありがとう・・・トイレの備品をチェックしたらあがってください」

先週に続いて・・・トイレで澄に変身するすみれだった。

ここは好みの分かれるところだな・・・あまり芳しいとは言えないからな。

しかし・・・ギャルはトイレで変身するものだしな。

ついでに言うが澄とすみれのスリーサイズチェンジに伴う衣装チェンジには黎の妖力が介在しているのは言うまでもない。

考え過ぎるな・・・感じろ・・・なのである。

そもそも脳内記憶を肉体年齢の変更にも関わらず継続する「力」なのである。

元素転換など自由自在に決まっている。

トイレから登場した澄は用を足しにやってきた女王とりまきの菜々美と玲那をやり過ごす。

さらにすみれを捜しに来た勇征を突破する澄だった。

更衣室に戻って安堵したのもつかの間・・・。

遅番女子に発見される澄・・・。

「ど、泥棒・・・」

「いえいえ・・・この人は単なる迷子ですよ・・・私が連れて参りますので・・・あなたはフロアに戻りなさい」

「はい・・・ご主人さま」

黎の催眠術で操作される遅番女子だった。

「黎さん・・・」

「その姿では・・・目立ちますので・・・コートをおめしかえください」

どうせ・・なんでもできる妖力なので・・・まるごと老婦人用にチェンジしてもいいと思うのだが・・・現場の着替えが大変だからな。

大女優だからな。

店の外ですみれの出待ちをする勇征に合掌し・・・逃亡する澄だった。

「真白さん・・・ごめんなさい・・・」

帰宅した澄は・・・筆入れ作りに励むのだった。

ファンシーなチェックのペンケースである。

澄/すみれが夜なべして筆入れ作ってくれた・・・。

どこかで誰かが歌っているようだ。

冬の愛のドラマも中盤戦・・・いろいろとかぶるのである。

百円ショップで見かける紙袋にプレゼントを包み入れ・・・大学に出席するすみれ。

しかし・・・今回は男友達に囲まれ・・・なかなか手渡すチャンスに恵まれない。

「長期休暇にどこか・・・行かない」

「ニュージーランドなんてどうだ」

「いいねえ」

なかなかにゆとりある学友たちである。

廊下では男子学生が女子学生にプレゼントされた高級腕時計を自慢する。

「凄いな」

「お返しは倍返しだから・・・大変だよ」

携帯端末で勇征に連絡をとろうとしたすみれの前に女王様登場。

「その紙袋なによ・・・」

「これは・・・」

いきなり・・・中身を検める女王様・・・どんな権限なんだよ。

「何よ・・・これ・・・まさか・・・こんなものを・・・真白くんに贈るつもり」

「・・・」

「こんなのもらって・・・真白くんが喜ぶとでも・・・」

「・・・」

「あんたに・・・真白くんと付き合える資格なんてないのよ」

「・・・」

「私はあきらめていないわよ・・・必ず真白くんを取り戻してみせる」

いや・・・最初からお前の持ち物じゃないだろうとブーイングする一部お茶の間・・・。

あさましいのである。

女王様はすでに死んでいるのだ。

しかし・・・こういう心の賤しい言葉も・・・時には社会のカンフル剤となる。

罵れば罵るほど・・・女王様は泥沼に沈み・・・罵りの言葉が罵る相手を勇気付けたりする。

憎しみは自分の首を絞め・・・相手を利する感情なのである。

なんてったってあさましいのだから・・・。

だから・・・愛する人につい憎まれ口というのはツンデレのスタイルとしても成立するのだった。

可愛さあまって憎さ百倍も同様である。

つまり・・・「死ね」というのは「死ぬな、生きろ」と同じ意味なのだ。

プレゼントを渡せぬままに・・・アルバイトに出るすみれ・・・。

そこに・・・孫を連れた吉田芳江(立石涼子)が現れる。

よっちゃんこと芳江は澄の高校まで仲良しだった幼馴染みである。

(よっちゃん・・・)

「あっ」と驚く芳江・・・そこに・・・半世紀近く音信普通だった幼馴染のそっくりさんがいたからである。

「あなた・・・澄ちゃん・・・いえ・・・そんな馬鹿なことはないわね・・・ごめんなさい」

芳江は息子夫婦と・・・孫と一緒に夕食をとりに来店したのだった。

澄は・・・大学に進学した芳江がうらやましく・・・まぶしくて・・・ずっと会うのを避けてきたのである。

芳江は結婚して・・・子供を産み育て・・・今では孫もいるお祖母ちゃん・・・。

すべて・・・自分の人生とは無縁のものだったと・・・すみれ中の澄の心は揺れる。

料理を注文する声が遠ざかるすみれ・・・。

しかし・・・ハンディターミナルの便利さがすみれを救うのだった。

使い方を習得すれば・・・頭を使わなくてすむのである。

平静を取り戻そうとするすみれを帰り際のよっちゃんが襲う。

「あの・・・あなた・・・私の幼馴染にとても似ていらして・・・他の店員さんに名前を聞いたら如月さんと・・・失礼だけど・・・如月澄さんをご存じではないかしら・・・」

「澄は・・・親戚のものです」

「まあ・・・澄ちゃん・・・お元気なのかしら・・・」

「はい・・・」

「今はどこにお住まいか・・・ご存じ・・・」

「今は少し・・・遠方に・・・」

「そう・・・あの・・・これ・・・私の連絡先・・・澄ちゃんに会う機会があったら・・・私が会いたがっていたと・・・お伝え願えませんか・・・」

「・・・はい」

しかし・・・よっちゃんに対する複雑な感情が爆発し・・・精神状態が不安定になるすみれ・・・。

そこに黎が登場する。

「すみれ様・・・申し訳ありません・・・すみれ様はあまりお丈夫でないので・・・」

「あら・・・」

「今日のところはこれで・・・」

「お仕事中にお引き留めして・・・すみません・・・」

公園のベンチで黎に慰められ号泣するすみれ・・・。

「大丈夫ですか・・・すみれ様」

「ごめんなさい・・・なつかしくて・・・うらやましくて・・・なんだかくやしくて・・・申し訳なくて・・・どうにもならないあさましい気持ちになってしまったの・・・でも・・・泣いてスッキリしました」

「それは何よりです・・・」

黎の瞳にあさましいものに対する憐憫が浮かぶ・・・。

それは慈悲の心である。

「私・・・勇気が出ました・・・願いが叶って・・・こうしているのに・・・やるべきことをやらないのは・・・卑怯ですもの」

「・・・」

「私・・・ちょっと行ってきます」

「お気をつけて・・・」

すみれは勇征を呼びだして・・・筆入れを渡すのだった。

「つまらないものですが・・・」

「これは・・・君の手作り・・・」

「はい」

「こんなにうれしい贈り物をもらったのは・・・生まれて初めてだよ・・・ありがとう・・・如月くん」

「真白さん・・・」

見つめ合う二人・・・。

「はい」

「私・・・他の誰よりも・・・真白さんをちゃんと好きですから・・・これからもよろしくお願いします」

「如月くん・・・」

思わず距離をつめる勇征。

処女なので・・・怯えるすみれ・・・。

その額に優しく口付ける勇征だった・・・。

思わず感激の涙を流すすみれだった。

生まれて初めてのキスに腰の抜けそうなすみれなのである。

その手を握り勇征は囁く。

「仔犬が生まれたんだ・・・今度・・・見においでよ」

「はい・・・」

二人は手を繋いで家路につく。

午後十一時には・・・まだ間があったらしい。

「お帰りなさいませ・・・」

「はい・・・」

「何かいいことがありましたか」

「いやだわ・・・黎さんたら」

「いつも・・・ありがとう・・・黎さん」

「いえ・・・すみれ様は私のあるじ様ですから・・・」

絶妙の主従である。

想像以上の真白家の豪邸ぶりに驚くすみれ・・・。

しかし・・・真白はにこやかに・・・すみれを迎え入れる。

「うちのアンディは・・・なぜか蔵で出産しちゃって・・・」

「蔵・・・」

「うん・・・いつもは近付かないのに・・・仕方なく・・・今は蔵で飼っている」

蔵の中に潜む母犬と仔犬。

「かわいい・・・」

「難産だったんで心配したんだ」

「無事に生まれてきてよかった・・・」

何気なく口にしたすみれ・・・。

「生まれてきてよかった」・・・それは人生最良の時に発する言葉の一つである。

たちまち・・・反応する蔵の中の「かきつばたの屏風」・・・。

「なんだ・・・」

怪しい妖気が蔵にたちこめ・・・大地は蠢動する。

「え・・・」

ふりかえると・・・そこには・・・妖艶な女性が立っていた。

これこそが・・・黎の許嫁・・・雪白(小西真奈美)である。

「あ・・・屏風の白猫がいなくなってる」

「それでは・・・この人が・・・」

屏風の中の猫が消えて女が出てくるなんてありえないという人はご遠慮ください。

これは・・・そういう「話」ですから~。

一対のかきつばたの屏風をそれぞれが伝承する如月家と真白家・・・両家にはどんな因縁があるのか・・・そして・・・すみれの恋はどこが成就のポイントなのか。

やはり・・・処女だけに・・・初夜なのか・・・。

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2016年3月 2日 (水)

私と結婚してください(深田恭子)お断りだ(ディーン・フジオカ)

今季の選ばれた七本はどれも素晴らしい。

その中でも・・・一人で見なければならないと感じるのがこのドラマである。

なにしろ・・・見終わった時にかならず・・・にやついちゃっているわけである。

テレビを見ながらニヤニヤしているところを悪魔は他人に見られたくないものなのだ。

悪魔にも恥じらいがあるのかよ。

もちろん・・・見終わった時だけでなく・・・見ている間に一度、ニヤニヤしてしまうと・・・ずっとニヤニヤしているわけである。

桃源郷というものがあるとすればこういう世界なんだな。

今世紀最高のニヤニヤしてしまうドラマと言っても過言ではないな。

なにしろ・・・登場人物がみんな「好人物」なのだ。

いい人ばかりでドラマを作るのは難しいと考える人は・・・このドラマの完成度を見習うべきである。

みんないい人で・・・心が休まりつつ・・・ニヤニヤしてしまう・・・一種の危険な香りさえするな。

で、『ダメな私に恋してください・第8回』(TBSテレビ20160301PM10~)原作・中原アヤ、脚本・吉澤智子、演出・福田亮介を見た。主人公の柴田ミチコ(深田恭子)が「好きな人」を自覚するまでに七話を費やしたわけである。ベタなラブコメのお手本なんだな。なにしろ・・・本当は好きなくせに・・・おやおや・・・とお茶の間は思うしかないわけでニヤニヤが止まらないことになるのである。「ホタルノヒカリ」の「部長」と「雨宮」が「主任」と「柴田」に置換されただけと考える人もいるかもしれないが、「干物女」と「三十路の処女」ではかなり違うニュアンスも生じる。「人口爆発」→「人口減少」→「人口消滅」の流れが進行中の日本国の象徴とも言えるドラマなのだ。

黒沢歩(ディーン・フジオカ)が「好きだ」と気が付いてしまったミチコは婚約中の最上大地(三浦翔平)に婚約解消を申し出る。

これはもう「ダメな人」なのであるが・・・超善人設定らしい大地はこれを優しく許容するのだった。

もちろん・・・両親の入院加療中という負い目が大地にもあるわけだが・・・それならそれで・・・「承知の上での結婚」こそが「ダメじゃない人」の道なのである。

しかし・・・そうはしないし・・・できないミチコなのだった。

居候を決め込んでいる晶(野波麻帆)の部屋から即時退去を命じられるミチコ。

なにしろ・・・歩に対する未練がある元・恋人の前で・・・歩への恋を宣言しているミチコなのである。

当然の報いなのであるが・・・「私・・・なにか悪いことしたかなあ」と本心から思うのだった。

完全に「ダメな人」です。

しかし・・・晶はそういうミチコをお茶の間レベルで可愛く思っているのである。

「私・・・結婚相手を探すサイトに登録したの・・・いつでも相手を連れこめる体制が必要なのよ・・・三十越えた女の仲良しごっこに費やす時間はないの」

「せめて・・・一ヶ月の猶予を」

「明日、出て行って・・・」

「ひえ~」

当然の結果なのだが・・・晶がまた超善人設定なので・・・テリー(鈴木貴之)に命じて送りだすミチコの荷物の送り先が・・・喫茶「ひまわり」なのであった。

ミチコと歩の・・・「幸せ」を願ってのことだった。

敵に塩を贈るにも程がある善人ぶりである。

もう・・・ニヤニヤするしかないにゃあ・・・。

便利グッズの会社「ライフニクス」で大地と遭遇するミチコ。

会わせる顔がないミチコなのだが・・・大地は優しく微笑む。

「元カレだけど友達だし・・・またカレになれるかもしれないんだから・・・普段通りでお願いします・・・」

「大地くん・・・」

「え・・・二人は別れたんですか」

中島美咲(内藤理沙)は「ミチコと大地の破局」を社内に一斉通達するのだった。

「彼氏がいる身で・・・三十過ぎて婚約解消したミチコさんに慰める言葉もないのですが・・・ファイトです」

門真由希(佐野ひなこ)はミチコを真摯にミチコを労わる。

「え・・・彼氏いたの」

「残業しないのは彼氏に美味しい夕飯を作ってあげるためです」

「ぎょえ」

販売本部長の森努(小松和重)もミチコにさりげなく言葉をかける。

「仕事に打ちこみなさい・・・そうすれば時は過ぎていく」

「・・・地獄じゃ」

自分から婚約を解消しそれほど不幸でもないミチコを職場の人々は生温かく見守るのだった。

こうして・・・再び・・・喫茶「ひまわり」の居候となったミチコだった。

就寝前に歩と並んで歯磨きタイム。

今や・・・それも・・・ミチコの至福の時なのである。

思わず、うっとりとしてしまうミチコ。

しかし・・・歩は殺気を放つのだった。

「なんで・・・そんなに睨むんですか」

「先にガンつけたのはそっちだろう」」

ガンのくれあいとばしあいは・・・元ヤンの習性だった。

そして・・・焼き魚付き朝ごはんに心ときめくミチコだった。

ホッペにも服にもごはんつぶをこぼし・・・歩に注意されることも喜びなのである。

味噌汁は鍋が空になるまでおかわりするのだった。

心の底からダメな人だった・・・。

そんなミチコの平和を揺さぶる故郷の母・奈津江(山下容莉枝)からの電話。

「え・・・おばあちゃんの法事のこと・・・あ・・・婚約者を連れていくって話・・・あの・・・彼、ちょっと仕事が忙しくて・・・え・・・もう親戚中に話をしちゃったって・・・そんなことを申されましても・・・」

ひまわり従業員一同は事情を察するのだった。

「俺が・・・代役を務めます・・・ミチコさんには本当に感謝してるんで・・・」

テリーは申し出るが・・・。

「金髪はちょっと・・・」

「じゃ・・・私が」とポチ(クロちゃん)・・・。

「いろいろと問題が・・・」

そして・・・ついにスポットライトがあたるタマ(石黒英雄)だった。

痩せても枯れてもエリートヤンキーである。

なんだろう・・・このポジション。

ついに・・・ドラクエCMまでサプリに奪われてしまった国民的アイドル女優みたいに・・・人生の光と影なのか・・・。

「がんばるっす」

「そのっすって言うのはですますでお願いします」

「がんばりますっす」

「なんだろう・・・っすの強化月間なの」

常連客の鯉田(小野武彦)も巻き込んで・・・家族に対応する訓練のコント。

ミチコの家族は・・・祖父、父母、そして妹らしい。

「祖父はマカロンが好物で・・・母は陶芸教室が趣味、お父さんはプロレス好きで・・・」

「だーっ」

「全日の馬場さん贔屓です」

「あ、ぽー」

しかし・・・結局、「不良言葉のす」が改善できないタマ。

「無理っす・・・すって言うなと言われるとますますすっと言いたくなるっす」

土下座してお役御免を願い出るのだった。

終わりか・・・タマの出番終わりか・・・。

ニヤニヤしつつも・・・芸能界栄光と下積み物語の暗闇を垣間見るよね。

なにしろ・・・実際の芸能界は可愛ければ許される社会じゃないからな・・・。

基本的に果てしなき搾取と暗黒の袋叩きシステムだからな。・・・おいっ。

油断は禁物なんだよな・・・おいおいっ。

泣くな、あまちゃん・・・おいおいおいっ。

まあ・・・ほっとくしかないわけだがな。

仕方なく・・・山梨県の片田舎にある実家の寺に・・・一人帰省するミチコだった。

「婚約凱旋おめでとう」の横断幕を用意する柴田家一同。

マカロン好きの祖父・・・智文(不破万作)

プロレス好きの父・・・秀輔(佐戸井けん太)

陶芸好きの母・・・奈津江

油断のならない妹・・・明日香(小島藤子)

申し分のない・・・布陣である。

「あら・・・婚約者の方は・・・」

「それが仕事で・・・」

「えええええ」

落胆する家族たち。

「本当は・・・婚約したなんて・・・嘘なんじゃないの」

明日香は疑いの眼差しをそそぐ・・・。

そこへ・・・逆光で登場する歩・・・。

「遅れてすみません・・・仕事を終えて追いかけたのですが・・・少し、迷ってしまって」

「どうして・・・」

「寺マニアだからだ」

こうして・・・お約束の偽の婚約者展開開始である。

できる男である歩は・・・マカロンを手土産に・・・さりげなく母親の手作りの器を褒め・・・婚約者を装うのだった。

「こんな素晴らしい方がミチコと婚約してくださるとは・・・ウチの娘のどこがお気に召したのかしら・・・」

ストレートに探りを入れる母だった。

もちろん・・・結婚詐欺を疑っているのである。

「娘さんは・・・ミチコさんは・・・明るくて・・・・・・・・・・よく食べて・・・・・・・・・・・・」

「それだけですか」と疑う妹の明日香・・・。

「・・・かわいくて・・・好きなのです」

歩に「好き」と言われて・・・そういう「役の上での話」なのだが・・・絶頂感を感じるミチコだった。

思わず・・・ミチコの足指を握り潰す歩。

「ひでぶ」

ボロを出さないために散歩に出かける二人。

山梨の夜は早い・・・間もなく宵闇が押し寄せミチコは母校に忍びこむ不良生徒を発見する。

「ほっとけ」という歩の制止をふりきり・・・乗り込むミチコ。

不良生徒たちは・・・黒板にペイント・スプレーで悪戯書きをしようとしていた。

「やめなさい・・・」

「うるせえ・・・婆・・・」

その時・・・突然流れるピアノの音・・・。

呪いのベートーヴェン・・・ピアノソナタ 第14番 「月光」・・・。

「あれ・・・聞いたら死ぬって言う夜のピアノでごいす・・・」

「きゃああああああああ」

迷信深い山梨の中学生は逃走するのだった。

音楽室で歩を発見するミチコ。

「ピアノまで・・・なんで・・・なんでもできるんですか」

「兄が好きだった曲だ・・・兄はもっと上手だったよ」

「・・・」

「余計なことに首をつっこんで・・・いざとなったら人に助けを求めるのか」

「でも・・・一人だけ・・・乗り気でなかった子がいたから・・・気になって」

「・・・」

客間に「床」を用意してもてなす母・・・。

二つ並んだ布団に萌えるミチコだった・・・。

「私・・・自分の部屋で・・・」

「嘘がバレるだろうが・・・」

ドキドキするミチコ・・・そこに母親が・・・。

「お先に・・・お風呂をご案内して・・・」

「・・・お寺のお風呂をご堪能ください」

「・・・」

歩が入浴中・・・思わず・・・布団を密着させるミチコである。

お約束で戻ってくる歩だった。

「お母さんが・・・お前も先に風呂を使えとおっしゃってたぞ・・・」

「早かったですね・・・」

ときめきながら・・・入浴をすましたミチコ・・・。

サービスが一方的である。

缶ビールとおつまみをかかえてルンルンである。

しかし・・・すでに・・・歩は爆睡しているのだった。

「主任・・・」

しかし・・・恋する相手の寝顔を見て・・・下半身に着火するミチコだった。

思わず・・・歩の唇を奪うのである。

同時に覚醒する歩。

「・・・」

「・・・」

しかし・・・処女なのでそれ以上の攻撃は不可能なのだった。

そして・・・歩を苦しめる爆寝相の悪さ・・・。

「好きですサーロイン・・・」

寝言もダメな人だった・・・。

翌朝・・・実家の寺で祖母の法要が営まれる。

「お前・・・酔うとキスする癖があるのか」

「忘れてください」

「じゃ・・・ノーカウントだな」

「・・・はい」

しかし・・・一度目のキスも・・・二度目のキスも・・・しっかりカウントしているミチコなのである。

その頃・・・喫茶「ひまわり」を訪ねて事情を知った花屋「クレッセント」の春子(ミムラ)はいつもの定食屋に・・・。

そこへ・・・婚活に失敗した晶もやってくる。

「あら・・・」

「あれ・・・」

「ここ・・・ミチコさんに教わって・・・」

「私も・・・」

「あの子・・・いい子よねえ」

「そうですね・・・」

「今日は・・・どうしたの」

「ちょっと・・・ふられちゃって・・・」

「そうなの・・・一度聞いてみたかったんだけど・・・どうして歩くんと別れちゃったの」

「あんたのせいだ」とは言えない晶・・・。

「やはり・・・あの店のせいでしょうか・・・勝手に始めちゃって・・・」

「一さんがね・・・親の会社を継ぐって決めたのは・・・歩くんに自由に生きてもらいたいって・・・気持ちだったのよね・・・それが・・・めぐりめぐって・・・仇となったのかもしれないわねえ」

「・・・」

「でも・・・今日がダメでも・・・明日があるから・・・お互い・・・頑張るしかないよね」

「ですね」

未亡人と・・・永すぎた春に終止符を打った女は・・・お互いの孤独を持ち寄って温まるのだった。

幻影の「素晴らしい結婚」を求めて・・・滅びに向かう日本の女たちは・・・それほど不幸なわけでもないのだった。

「子育て支援のために保育士の月収を二十万円から三十万円にするべきです」

「しかし・・・財源が確保できません」

「介護士の月収を二十万円から十万円にすればいいのではないですか」

「介護士のなりてがなくなり・・・鉄道会社が破綻します」

「え」

「風が吹かないと桶屋は儲かりません」

「何を言っているのですか」

「たとえです」

「公務員の月収を三十万円から二十万円に引き下げるのはどうですか」

「そんな答弁を役人が書くはずないじゃないですか」

「ですね」

「クリントンとトランプはどうなるのかしら」

「トランプが勝つわね・・・そしてとんでもないことになればいい」

「ですね」

嘘の婚約者でありながら・・・並んで焼香をするミチコと歩・・・。

「このまま・・・本当になればいいのになあ・・・」と祖母に願わずにはいられないミチコだった。

ミチコの祖父であり・・・住職でもある智文は法話を宣・・・。

「故人のいいところは・・・合掌すればいつでも話せるということです・・・」

感銘を受ける歩だった・・・。

用意された「お食事」の席・・・。

「何故・・・脱サラして・・・喫茶店経営を・・・」と娘の婚約者の経営状態を探るミチコの父。

「それは・・・」

ふと言葉につまる歩。

「みんなに寄り添いたいと・・・思っている人なんです・・・可哀想な人を見逃せないんです」

「・・・」

「お客様の心に寄り添う・・・そういう素敵な喫茶店なんです」

歩を弁護するミチコだった。

「いつも門を閉じないお寺と同じようなものですな」と助け舟を出す祖父だった。

やがて・・・座が盛り上がり・・・柴田一族の定番であるヘソ踊りタイムがやってくる。

「さあ・・・どうぞ・・・あなたも・・・」

「そ・・・それだけは」

「まあまあ・・・いいじゃないですか」

次々に裸になる一族の男たち・・・。

覚悟を決めた歩も脱ぎ始める・・・。

「嘘です・・・この人はアルバイト先の喫茶店のマスターです・・・」

「えええええ」

「へそだけは・・・勘弁です・・・イメージ的に裏のおっさんとは違うのです」

擬装婚約・・・終了である。

「親の欲目で・・・息子たちには見えなかったようだが・・・私にはわかっておりました・・・」

「お姉ちゃんに・・・こんな素敵な婚約者がいるわけないものね・・・」

「お恥ずかしいことで・・・」

「娘のこと・・・よろしくお願いします・・・」

一家で見送る柴田家だった。

「すぐに・・・犬や猫を拾ってくるダメな姉ですが・・・よろしくお願いします」

妹は健気に姉の唯一の美点を推奨するのだった。

拾われた犬も・・・歩に縋るのである。

心温まるミチコの一族・・・。

手を振り笑顔で見送る一族を思わず振り返るミチコと歩だった。

無人のバス停で・・・バスを待つ二人。

「早く帰りましょう・・・家に・・・」とミチコ。

「ああ・・・」と応ずる歩。

「そして・・・私と結婚して下さい」

捨て身のミチコである。

だが「断る」歩だった。

いくら、ニヤニヤしてもまだ最終回ではないからである。

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2016年3月 1日 (火)

また逢いに行こうと思っているのだめならもう会わない(有村架純)

恋というのは恐ろしいものなのである。

揺れ動く主人公の心・・・。

不在の五年間があり・・・空白を埋めた優しい人がいる。

「あの人に逢って・・・また逢いに行こうと思っている」

「・・・」

「ダメなら言って・・・」

「ダメって言ったら」

「・・・もう会わない」

優しい人は敏感に悟る。

なぜ・・・主語がないんだ・・・。

誰と会わないつもりなのか・・・。

まさか・・・俺じゃないだろうな・・・と。

恋とは恐ろしいものだからな・・・。

義理とか人情とか安心とか安全とか将来性とか眼中にないからな・・・。

で、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう・第7回』(フジテレビ20160229PM9~)脚本・坂元裕二、演出・高野舞を見た。恋する機械は恐ろしい。しかし・・・恋する機械ほど魅力的なものはない。もちろん・・・恋する対象が自分であればそれほど問題はないし、時にはもてあます。しかし・・・別の何かに恋する機械に恋をして・・・激しい嫉妬に襲われたとしても・・・最後にはつい笑ってしまう。恋する機械の愚かしさはそれほどに愛おしいものなのだ。この凍てついた世界では。

恋しい曽田練(高良健吾)に再会してしまった杉原音(有村架純)・・・。

最悪のタイミングで・・・婚約指輪を取り出す井吹朝陽(西島隆弘)である。

お笑い草なのである。

反射的に身を引き・・・婚約指輪を弾き飛ばす音・・・。

「え・・・」

「ごめん・・・(結婚なんて)・・・考えたこともなかったから」

省略形で話す音である。

「ごめん・・・プロポーズの返事も聞かずに・・・勝手に盛り上がって・・・」

愛人の息子という生い立ちから・・・敏感な朝陽は・・・。

無意識に・・・自分が傷つく展開から逃避するのだった。

知りあって五年・・・交際を始めて二年である。

まさかと思うが・・・その気がないなんてことはないよな。

だけど・・・本当にそうだったら・・・どうしよう。

戦慄する朝陽だった。

だが・・・ここは・・・どんなにブラックな東京で・・・憂鬱な展開が続いていようとも・・・月9なのである。

主人公が生きながら・・・三枚目と結ばれることなどないのである。

朝陽はともかく・・・お茶の間は知っているのだった。

音の恋の成就・・・朝陽の破局に向かって・・・時は刻まれていくのである。

「私・・・今日・・・曽田練さんに逢ったの」

「誰?」

「五年前に・・・一度会ってるんだけど」

「あの・・・会津の人・・・」

「今は東京なんだけど・・・」

「元気だった」

「そうでもなかった・・・今日はあまり話せなかったけど・・・また逢いに行くつもり」

「どうして・・・」

「昔・・・助けてもらったから」

「・・・」

「ダメなら言って・・・」

「ダメって言ったら・・・」

「・・・もう会わない」

「ダメなんて言わないよ・・・元気付けてあげればいい・・・」

「ありがとう」

ダメだって言わなきゃダメなんだが・・・言ってもダメだからな・・・。

音の中に潜む・・・孤独は素晴らしいほどに頑強なのである。

その孤独から生まれ出る恋は・・・すべてを破壊するパワーを秘めているのだった。

それでも朝陽は・・・音の希望に従い・・・船川玲美(永野芽郁)を「春寿の杜」の介護施設に派遣する。

施設長の神部正平(浦井健治)は本社の人となった朝陽を讃えるのだった。

仙道静恵(八千草薫)は月9の神様の指令を受け・・・音を応援する。

「だって・・・あなたたちは・・・お似合いだもの」

静恵は自宅の鍵を音に託す。

「練に・・・いつでも来てって言って・・・庭の花が枯れそうだからって」

音は・・・練に逢う口実を手に入れたのだった。

恋する音は・・・冷静である。

情報を収集するために・・・「柿谷運送」の佐引穣次(高橋一生)を訪ねるのである。

練の変貌の理由を知る必要があると判断したのだ。

会津出身の穣次は・・・震災後に故郷に戻っていて・・・会津における練の事情を知っていた。

「あいつ・・・変わっただろう」

「はい・・・角が二本生えてました」

「だろう・・・無理もないんだ・・・あいつのじいさん・・・認知症になっちまって・・・」

「・・・」

「そういう施設に入ってたんだけど・・・俺が見舞いに行ったときなんか・・・もう・・・練が孫だとはわからなくなっていた」

「・・・」

「練のことを盗人とか・・・畑を返せって・・・罵倒して・・・暴れて・・・」

「・・・」

「病気だとわかっていても・・・練はそれをまともに受けとめて・・・ごめんとか・・・すまないとかずっと謝ってたよ・・・」

「・・・」

「何もかも・・・自分のせいだって思ってるんだろうよ・・・馬鹿だからな」

スマートリクルーティング社では・・・。

正気を取り戻したかに見える市村小夏(森川葵)が着飾って専門学校に登校しようとしていた。

「また・・・違うデザインスクールか」

晴太(坂口健太郎)が批判的な口調で言う。

「前のところは・・・教師と折り合いが悪かったんだ」

「あの時のこと・・・まだ気にしているのか」

「・・・」

「あの夜・・・小夏を追い返して・・・震災が起きて・・・小夏が孤立して・・・おかしくなったって」

「・・・」

「あれは・・・俺がけしかけたことだ・・・責任だったら俺の方に・・・」

「練!」と小夏が引き返してくる。

「小夏・・・」

「ヘリ・・・ヘリコプターが・・・飛んでる・・・」

「小夏・・・大丈夫だ・・・ほら・・・何も聞こえないだろう」

「・・・うん・・・気のせいだったみたい・・・」

「・・・」

練と晴太は・・・職のない人間に職を与え続ける。

「会社を首になったなんて・・・家族に言えないので・・・」

「もう大丈夫ですよ・・・」

「助かりました」

「さあ・・・契約書にサインを・・・」

「はい」

しかし・・・その仕事は危険な上にピンハネされて手取りでは時給三百円に換算されるのである。

事務所で汚れ仕事を片付ける練・・・。

そこに・・・音がやってくる。

「失礼しま~す・・・失礼しま~す・・・失礼しま~す」

「あんたか・・・」

「今日は用があってやってきました・・・」

音は鍵を渡した。

「静恵さんに・・・もう・・・俺のことは忘れてくれと言ってくれ」

「・・・」

音は漫画の単行本をとりあげた。

「こんなの読むの・・・」

「誰かの忘れものだ・・・」

「じゃ・・・この人ね」

本には家族写真が挟まれていた。

練は・・・そのうちの一人が・・・仕事を斡旋した人間だと気がつく。

「もう・・・帰ってくれ」

「おじいさんのこと・・・聞きました・・・譲次さんに・・・」

「・・・」

「あの人・・・凄いんですね・・・ウサイン・ボルトに・・・」

「嘘に決まってるだろう・・・あの人虚言癖があるんだよ」

「クソッ・・・だまされた」

「・・・小室ファミリーだったってさ・・・」

「えええ」

音のペースに引きこまれかける練である。

「・・・」

「スーツなんか似合ってないですよ」

「・・・」

「引越し屋さんに戻らないんですか」

「今の仕事の方が金になる」

反論を封じられ話題を変える音。

「おじいさん・・・きっと・・・練さんのことを・・・怨んでたわけじゃ・・・」

傷口に触れられ練は激昂した。

「あんたに何がわかる・・・」

「・・・」

練は祖父の健二(田中泯)の遺品がつまったダンボール箱から・・・汚れたパジャマを取り出した。

「じいさんは・・・駅のトイレで倒れて死んでいた・・・臭い臭いトイレの汚れた床の上で・・・俺はそこにいなかった・・・遺言もなく・・・死んだ・・・ご存じないなら・・・何も言うな・・・帰れ」

練はパジャマをゴミ箱に投げ捨てた。

一瞬の隙をつき・・・音は・・・パジャマを回収するのだった。

傷ついた練を癒す方法を・・・亡き母の霊が耳元で囁いたからである。

クリーニング店勤務、ガソリンスタンド勤務を経て介護の仕事をしている音のキャリアは伊達ではない。

すべては・・・恋しい練の祖父の汚れたパジャマを清潔に整えるための遍歴だったのである。

洗濯前にパジャマのポケットをチェックした音は・・・数枚のレシートを発見する。

音は糸口を掴んだのである。

静恵の家に・・・日向木穂子(高畑充希)がやってきた。

ワインを嗜む木穂子と音・・・ある意味、姉妹である。

「え・・・それで・・・なんで・・・練のところに・・・」

「心配だから・・・」

「心配って・・・心を配るってことよ・・・昔好きだった人に逢って・・・心を配って・・・どうするつもり」

「・・・」

「ま・・・いいか」

「・・・先輩」

ある意味、先輩後輩なのだった。

音はパジャマの衣魚を抜き、洗濯し、アイロンをかける。

恋にひたむきに一直線な音。

結婚を前提とした交際をしている朝陽をないがしろにしているようにも見えるが恋愛と結婚は別なのである。

そういう人にとってはそういうものなのだ。

朝陽の父で社長の井吹征二郎(小日向文世)は政略結婚の香りがする縁談を持ちかける。

「どうだ・・・」

「実は・・・結婚を前提として交際している人がいます」

「どこの娘さんかな・・・一度会ってみよう・・・家に招きなさい」

「はい、お父さん」

「次はこの企業だ・・・来週までに社員を全員解雇しなさい」

「はい、お父さん」

音の職場に顔を出す朝陽。

音はクリーニング室で散乱した洗濯ものを収拾していた。

そこへ・・・父親に反逆して解雇された腹違いの兄・和馬(福士誠治)が現れる。

「兄さん・・・」

「結局、世の中・・・変わり身の早い奴の勝ちだな」

鬱憤を晴らすために液体洗剤を朝陽に浴びせかける和馬・・・。

「・・・」

「ほら・・・お前の汚れが綺麗になるぞ」

「兄さん・・・再就職にお困りでしたら・・・相談に乗りますよ」

音は兄弟喧嘩を無表情に見つめる。

一人っ子の音には憧れの世界である。

スマートリクルーティング社にはまた羊の群れがやってくる。

「学費をアイドルに遣っちゃって・・・」

「どうしても欲しい時計があったもんで」

「大丈夫ですよ」

羊たちを牧場に届ける練。

突然の渋滞が発生する。

クラクションの応酬。

「前の様子を見てきます」

中年夫婦の車。

「ラジオの国会中継なんて何が面白いの」

「結局、野党は選挙に勝てるような政策はやめて負けてくれないかって言ってる・・・与党は馬鹿なことを言うなと鼻で笑っている」

「野党はクローズアップ現代の女をスカウトして党首にすれば勝てると思うわ」

若い夫婦の車。

「マンハッタンの夕陽はきれいだったわねえ」

「日本じゃ大震災だったけどな」

最前列のトラック運転手に声をかける練。

「何してんだ」

「あれだよ」

横断歩道と歩道の間の段差を乗り越えることができない車椅子の老人。

「ちょっと下りて・・・手伝ってやればいいだろう」

「あれが罠で・・・俺が車を降りた途端、誰かにトラックを奪われたらどうする」

「どんな・・・無法地帯なんだよ」

練は車椅子の老人を介助した。

「ありがとうございます」

その時・・・揺れる練の心。

障害の消えた道路を去って行く車列。

立ちすくむ練・・・。

事務所に戻った練は・・・投石準備中の就職斡旋詐偽の被害者と遭遇する。

「あ・・・お前・・・」

「・・・」

それは写真の青年だった。

「ここで・・・待ってろ」

青年の忘れものを事務所にとりにいく練・・・もちろん・・・青年は逃走する。

追いかける練。

どこか体調の悪そうな青年は階段の途中で転倒する。

「何もしないよ・・・俺はただ・・・忘れものを」

青年は振り向きざま・・・練を突き落とす。

落下する練。事後に蒼ざめる青年。

「痛・・・」

「・・・」

「忘れものだ・・・もってけよ・・・早く行け・・・人が来たら面倒だろう」

青年は去って行った。

練は痛みを堪えて立ち上がる。

擦り傷と捻挫・・・というところだ。

朝陽は音の部屋を訪問する。

音がジュースの瓶に飾った花を花瓶に入れ替える朝陽。

「ほら・・・素敵でしょう」

「・・・」

「僕は・・・返事を聞きたいんだ」

「仕事のこともあるし・・・」

「あんな仕事・・・」

「派遣で不安定だけど・・・ここ一年くらいでいろいろと出来るようになったことがあるし・・・今、辞めたくないの」

「・・・」

「それに・・・私、この部屋を出たくないの・・・」

「・・・」

「ここは・・・私が東京に出てきて・・・自分の力で手にいれた・・・大切な場所・・・たいしたものはないけど・・・全部、私にとって大切なものなの・・・」

その中には・・・朝陽の与えたストーブも含まれているのだが・・・。

「僕はただ・・・君と幸せになりたいだけだ・・・」

朝陽は花瓶から花を取り出し・・・ジュースの瓶に戻す。

「どうして・・・こんな時に・・・彼の話なんかするかな・・・ダメと言ったら嫌な気持ちになるし・・・言わなかったら・・・もっと嫌な気持ちになる・・・どうせなら・・・黙って・・・言ってほしかった」

「・・・」

「・・・父親が君に会いたがっている・・・」

「・・・」

朝陽が去った後で・・・音は花を半分に分け・・・ジュースの瓶と花瓶に飾る。

音は・・・来るものは拒まない。

去るものは追わない。

しかし・・・ただ一人・・・特別な相手にだけは・・・違う態度をとるのだった。

それが・・・音の恋だから。

どんなに経済援助をしようが・・・心のケアをしようが・・・その境界線を渡ることはできない。

音にとって・・・それは単なる友情の証に過ぎない。

一度は養い親の言う通りに・・・好きでもない男と結婚しようとした女なのである。

朝陽は結婚しても・・・心の金庫にしまった大切なものは・・・奪えないない。

奪おうとすれば・・・音の心はきっと死んでしまうのだ。

それが・・・音の恋なのだ。

音は恋する練に逢いに行く。

誰もそれを止めることはできない。

「失礼します」

「もう・・・俺には構わないでくれ」

音は「健二のパジャマ」を練に返した。

「勝手に洗濯してすみません」

「・・・どうも・・・」

「パジャマの中に・・・レシートがありました」

「・・・?」

「おじいさんは・・・時々、病院を抜け出して・・・買い物をしていたんですね」

「そうだよ・・・徘徊して・・・最後は駅の便所で・・・」

「読んでもいいですか・・・読みますね」

「え・・・」

「九月三日・・・十二時五十二分・・・スーパーたけだ屋・・・蒸しパン百六十円、牛乳(小)百二十円、一口羊羹八十円・・・お昼だから・・・ランチでしょうか」

「・・・」

9月4日 13:08 スーパーたけだ屋

栗蒸しパン 180円

牛乳(小) 120円

きんつば 100円

「認知症の人も・・・時々・・・調子のいい時あるんですよね・・・昨日は蒸しパンだったから・・・今日は栗蒸しパンにしようか・・・とか・・・おじいさん・・・甘党ですよね」

思わず頷く練・・・。

押し寄せる在りし日の祖父・健二の幻影・・・。

「少し・・・日付が飛びます・・・九月二十九日、十五時三十二分・・・家庭菜園の店オータニ・・・ソラマメノタネ二百八十円、ゴカクオクラノタネ三百二十円、コカブノタネ二百六十円、クマデ四百六十円、グンテ百六十円・・・」

「ちょっと見せてくれ・・・」

音は読み終わったレシートを練に手渡す。

「続けますね・・・十月九日十時五十三分スターベーカリー、アンパン九十円・・・同じ日の・・・十三時二分・・・アンパン九十円・・・アンパン食べて美味かったので・・・もう一つ食べようか・・・わからないですけどね・・・私がそう思うだけですけどね・・・」

あんぱんあんぱんあんぱんあんぱんあんぱん・・・。

容赦ない音の精神攻撃の嵐・・・。

「同じ日です・・・十四時三十分・・・家庭菜園の店オータニ・・・ハクサイノタネ四百九十円・・・白菜高い・・・ダイコンノタネ二百九十円・・・」

「・・・」

「おじいさん・・・本当は何をしていたのかしら・・・」

「・・・」

「十月十一日・・・十二時二分・・・スーパーたけだ屋・・・栗蒸しパン百八十円、牛乳(小)百二十円・・・最後の一枚です」

「・・・」

「十六時十五分・・・ミナミ商店・・・純米酒カップ・・・×2・・・五百円、サキイカ二百六十円・・・おじいさん・・・お酒を二本買いましたね・・・」

「じいちゃんは・・・自分では・・・一本しか飲まねえ・・・種まきの終わった後・・・畑に飲ませる・・・んだ」

涙で前が見えない練だった・・・。

練の心眼は見ていた。

会津の他人の畑で・・・パジャマ姿の健二は塩田に海水を撒く様に酒を撒く・・・。

正気と狂気の境界を彷徨いながら・・・最期まで農業従事者だった祖父を練は誇りに感じる。

今日はここまでにしておくか・・・という顔で・・・嗚咽する練を残し退散する音。

手応えを感じているのだった。

黒い車に乗せられる若者・・・。

「母ちゃん・・・びっくりするなよ・・・俺、仕事決まった・・・泣くなよ・・・だから帰らねえど」

練は決意した。

「降りろ・・・」

「え・・・」

財布から一万円札を二枚取り出す練。

「国に帰れ・・・」

「・・・」

「帰れって言ってんだ」

「練・・・」と顔色を窺う晴太。

「俺・・・この仕事・・・辞める」

「そうか・・・じゃあ・・・俺も辞める」

晴太・・・もう・・・練の側にいられれば何でもいいんだな・・・ラスボスなのか。

仕事を終えてバスに乗った音・・・。

途中で・・・昔のスタイルに戻った練が乗り込んでくる・・・。

「どうも・・・」

「どうも・・・」

練の手に提げた袋に肥料を確認し・・・微笑む音。

静恵の前で・・・正座する練。

「あの時・・・どこにいたの・・・」

「会津の家の近所に・・・」

「頑張ったのね・・・」

首を横に振る練。

「いいえ・・・あなたは頑張りました」

「・・・」

「生きているのが申しわけないなんて思ってはダメよ・・・音ちゃんを見ていれば・・・音ちゃんのお母さんがどんな人だったかわかる・・・練をみていれば練のお祖父さんがどんな人だったかわかるのよ・・・私たちはみんな死んだ人とも・・・これから生まれてくる人とも・・・一緒に生きていくしかないの・・・だから・・・精一杯生きなさい」

練は泣く。

音も泣く。

拾われた仔犬サスケも成犬となり餌をねだるのだった。

練は静恵の庭の手入れをした。

音は甲斐甲斐しく手伝う。

二人は仲睦まじい・・・二人は幸福だ。

これが二人の生きる道。

これは最初のハッピーエンド。

しかし・・・残酷な人生は続いて行く。

「飴・・・食べ・・・」

練はいちごみるく味の飴を噛み砕く。

音は微笑んだ。

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