みんなが私の幸せを願ってくれたのです(綾瀬はるか)
教育の基本は「愛」である。
自分を愛することの素晴らしさを教え、自分を愛するように他者を愛することを育む。
バランスを変えれば「個人主義」に導くことも可能だし、「奉仕精神」への傾斜を形成することもできる。
「個性」は「複雑さ」の許容となるし、「標準」を求めれば「画一化」が推進される。
「生きるために必要な情報伝達」は「死ぬために必要な情報伝達」に他ならない。
私たちは素晴らしい教育を受けて来た。
あるものは政治的に無関心だし、あるものは全体的なバランスというものを考えない。
人間はどのような「制度」も実現する可能性を秘めている。
誰かが幸せになれば自分も幸せになれると信じる人間は幸せなのである。
あるいは他人なんてどうなろうと知ったことではないと心から思える人は。
で、『わたしを離さないで・第8回』(TBSテレビ20160304PM10~)原作・カズオ・イシグロ、脚本・森下佳子、演出・吉田健を見た。ここではないもう一つの別の世界で・・・。臓器移植のための提供者として生産されたクローン人体である保科恭子(鈴木梨央→綾瀬はるか)は特殊な施設・陽光学宛で成長し、研修を受けて介護人となった。提供開始後のクローン人体のケアをするのが仕事である介護人は一定期間の提供開始への猶予という特権が与えられる。陽光学苑は介護人になるための特殊なルートであった。しかし・・・何らかの事情で陽光学苑は閉鎖され・・・跡地は一般的な提供者養育施設である「「HOME」となっていた。
最後の思い出作りのために・・・酒井美和(瑞城さくら→水川あさみ)の発案で土井友彦(中川翼→三浦春馬)とともに陽光学苑跡地にやってきた三人。
「HOME J-28R」の閉ざされた扉を横目に・・・森の中へと進む。
間もなく三種同時提供をする美和は低下した体力のために歩みを止める。
ピクニックを計画している恭子は適当な空き地を求めて森を探索する。
吐く息が白い早春の森で・・・三人は残り少ない時間を共有するのだった。
「この料理って・・・創立記念日の給食メニューじゃない」
「よくわかったね」
「よく覚えていたわね」
「美味しかった料理はいつもメモしているから」
「さすがは・・・優等生の恭子ね」
「とてもおいしいよ」
「ありがとう」
「私・・・少し・・・散歩してくるわ」
「じゃ・・・私も」
「いいの・・・あなたはそこにいて・・・私だってもう子供じゃないんだから」
美和は恭子と友彦を二人きりにするために席を外したのだった。
「美和は・・・次の提供が決まっているの?」
「・・・三種同時提供よ」
「そうか・・・」
「トモ・・・あなたなんだか変わったわね」
「君も・・・提供が始まれば・・・わかることさ・・・」
「・・・」
一方・・・一人になった美和は二人のためのプレゼントを確認していた。
プレゼントは二つあり・・・どちらをどちらに渡すか迷っていたのである。
そこへ・・・「HOME」の警備員が現れる。
本能的な恐怖から逃げ出そうとした美和は・・・プレゼントの一つを落してしまう。
何かが壊れる音が森の中に鈍く響く。
美和の帰りが遅いことに不安を感じた恭子が立ちあがった時・・・警備員が現れる。
「酒井美和担当の介護人の保科恭子は君か・・・」
「はい・・・」
警備員は二人を「HOME」へと導くのだった。
二人は初めて・・・陽光学苑意外の養育施設の実態を知った。
殺風景な施設の中で子供たちは静かに生きていた。
運動をする子供たちも無表情で歓声をあげることもない。
「みんな楽しそうじゃないな」
「言葉をかけるものがいなければ子供は話すことを覚えないのよ」
「俺の介護人は・・・陽光育ちじゃないんだ・・・ある意味・・・凄いよな・・・こんな環境の中で独学で介護人になったんだから・・・」
「陽光じゃない人はよく私たちをうらやましがるけど・・・その意味がわかったわ」
子供たちの中には粗末な餌を奪い合うものもいた。
音楽室では古いコンシューマゲーム機で遊んでいる子供たちもいる。
その動作に漂う虚無感・・・。
「こんなのひどすぎる・・・まるで家畜ね」
「俺たちだって本質的には同じだけどな」
「まあ・・・友彦・・・本当に変わったのね」
「絵を描く様になって・・・世界に意味があるような気がしてきた・・・そして提供を始めてから・・・それが間もなく消えてしまうことを知ったから・・・」
「・・・」
警備員室に美和は保護されていた。
「まったく・・・これだから・・・陽光出身者は面倒だな」
「私たちは・・・」
「提供前の思い出作りだって言うんだろう」
「・・・はい」
「身分証を出したまえ・・・」
美和は介護人の身分証を提示する。
「そっちのは・・・」
「俺は・・・施設に忘れて・・・」
「まさか・・・脱走者じゃないだろうな」
友彦は回復センターを無許可で抜けだしていた。
「違います・・・彼は私が誘ったんです・・・私が責任を持って施設に送りますから」
「・・・責任を果たしてくれよ」
警備員は三人を解放した。
「HOME」の門の近くに・・・輸送車が停車していた。
子供たちは「早期提供者」として出荷されるところらしい・・・。
その中に・・・幼い頃の恭子にそっくりなクローン人体がいた。
「あ・・・あなた・・・名前は・・・」
しかし・・・恭子よりも後にコピーされたクローン人体は無反応だった。
係員は無造作に輸送車に子供たちをおしこむ。
「邪魔だ・・・」
「・・・」
「今のは・・・恭子じゃないわ・・・あんなの恭子じゃない」
「ここで育てられればああなるのよ・・・あれも私・・・」
「・・・」
恭子は美和の体調を気遣い荷物を持とうとする。
「いいの・・・これは私のだから・・・」
夕闇せまる街。
家路を急ぐ三人の車・・・。
「私たちは・・・みんな・・・恵まれていたのね」
「提供者としてはね」
「・・・」
三人の口数は少なくなった。
「でもよかったよ・・・二人に会えて・・・」
「・・・」
「美和・・・誘ってくれてありがとう・・・」
「あのね・・・これ・・・恵美子先生の住所・・・」
「え・・・」
「私・・・介護人だった時に・・・調べたの」
「・・・」
「絵を持って言って猶予をもらって・・・」
友彦は放屁した。
「いやだ」
「トモ・・・」
恭子は車の窓を開けた。
「ごめん・・・びっくりしたので」
「驚くと・・・出るシステムだったのか」
「私・・・そうじゃないかと思ってた」
「さすが・・・優等生ね」
回復センターで友彦と別れた二人・・・。
「美和は・・・他にしたいことはないの・・・」
「とまって・・・」
「え」
「車を停車しろってことじゃないわ・・・・私の部屋に泊まり込んでって言ってんの」
「そんなことでいいの・・・」
「それが私の最後の願いよ・・・」
「・・・」
夜がやってきた・・・。
「知っている?・・・三月三日はひな祭りなのよ」
「人間が女の子の成長を祝う祭りね・・・」
「陽光には・・・そういう行事はなかった・・・」
「提供者が成長することにはあまり意味はないものね」
「知っている?・・・三月四日は私の最後の日よ」
「・・・」
美和と恭子は一緒に暮らし始めた。
回復期に入った加藤(柄本佑)は尋ねる。
「なんだか・・・楽しそうだね」
「そうですね・・・楽しいけれどさぴしいのです」
「・・・」
「なぜ・・・楽しいが今なんだろうと・・・思ってしまうのです」
「君たち・・・陽光育ちは・・・絆が深いからな・・・」
「絆・・・」
「そうさ・・・HOMEで育てば・・・幼い時の友達なんて・・・望めないもの」
恭子は「HOME」の過酷な生活と・・・その中で「知性」を獲得してしまったものの孤独を想像し・・・身震いした・・・。
「僕たちは・・・介護人研修で仲間に会うまでは・・・淋しさなんて・・・知らなかったんだから」
三月三日がやってきた。
「私・・・恭子と一緒に寝たい」
「ダメよ・・・狭いもの」
「いいじゃない・・・昔はそうしていたんだから・・・」
「美和・・・」
「私の下着あげるわよ・・・友彦は黒のレースがお気に入りよ」
「何を言ってるの・・・」
「宝箱に入れてよ・・・そういえば・・・宝箱なんて・・・なんであったのかしら」
「男子はゴミ捨て箱だと思っていたみたいよ」
「私は・・・ゴミにしちゃったわ・・・ねえ・・・恭子の宝箱見せてよ」
「部屋においてあるわ・・・」
「明日朝一で持ってきて・・・」
「最後まで我儘な人ね・・・」
「いいじゃない・・・最後の我儘だもの」
夜が明けぬうちに・・・眠っている美和を残し、自分の部屋に戻る恭子。
宝箱を開け・・・整理しているうちに・・・蘇る思い出の数々・・・。
気がつけば美和の最後の一日の開始を告げる朝陽が昇る。
提供開始は午前十時だった。
「さすがは・・・優等生ね・・・」
美和は恭子の宝箱の中身を賞賛する。
「これ・・・花ちゃんの・・・」
「へえ・・・」
「これ・・・珠ちゃん・・・」
「ふふ・・・」
「これは・・・美和にもらった奴・・・」
「まあ・・・とってあったの」
「これ・・・真実がくれた・・・玩具」
「きゃ・・・」
「結局・・・美和との思い出の品が一番多いのよ・・・」
「ごめんねリスも・・・」
「美和はリスだもんね」
美和は子供の頃を思い出してリスの顔になる。
恭子はウサギの顔になる。
微笑む二人。
「私ね・・・恭子になりたかった」
「・・・」
「恭子はかわいくて・・・絵が上手で・・・優等生で・・・みんなから頼りにされて・・・」
「美和・・・」
「だけど・・・私には無理だった・・・だから・・・恭子を自分のものにしようとしたの」
「・・・」
「そうすれば・・・恭子になるのよりもずっといいでしょう・・・」
「・・・」
「だけど・・・恭子がトモと一緒にどこかへ行くと知って・・・トモを奪ったの・・・トモなんかちっとも好きじゃなかったのに・・・」
「そんなの・・・知ってたわよ」
「そう・・・最後だから・・・どうしてもあやまりたかった・・・ごめんね」
「いいのよ・・・友達だから・・・」
その時・・・提供のための医療スタッフが入室する。
「時間です」
「嫌・・・」
美和ぱ恭子にしがみついた。
その顔に浮かぶ・・・恐怖・・・。
「ちょっと待って・・・」と思わず美和を庇う恭子。
しかし・・・スタッフたちは・・・慣れた手つきで美和をストレッチャーに乗せ、拘束する。
「恭子・・・離さないで・・・わたしを・・・離さないで・・・」
「美和・・・」
「恭子・・・恭子・・・恭子」
恭子は追いすがり・・・美和の手を握る。
「美和・・・大丈夫・・・私たちは天使だから・・・誰かのために身体を提供する。誰かの命を救うという崇高な使命を果たす・・・大丈夫・・・あなたはきっと成し遂げる」
美和は恭子を見つめ・・・泣きながら頷いた・・・。
そして・・・美和は提供を終了した。
摘出された内臓は搬出され・・・残された部分は焼却される。
回復センターの係員がやってくる。
「ゴミの分別が間違っているのでやり直してください・・・」
恭子は美和の残したゴミの中から粉砕された美和の最後の作品を発見する。
恭子は・・・修復を試みる・・・。
(わかりにくいし・・・見栄っ張りで・・・疎ましく・・・扱いにくい女だった・・・)
美和の彫塑は・・・「恭子と友彦の恋人握り」だった・・・。
(芸術家の魂は・・・作品にすべて・・・曝け出される)
恭子は亡き友のために泣いた・・・。
(美和・・・)
友彦の介護人である中村彩(水崎綾女)が情報を持ってやってくる。
「恭子さんが・・・リクエストに応えてくれましたよ」
「・・・」
彩は友彦の作品を賞賛する。
「お上手ですね・・・」
「昔は下手でした・・・でも・・・今は描けることが喜びです・・・もう会えない人にも・・・いつでも会うことができるから・・・」
友彦は描く・・・幼い天使が小さなベッドで抱き合っている聖なる情景を・・・。
友彦は覗き屋だったのである。
友彦の回復センターに恭子が到着した。
「来ちゃった・・・」
「ようこそ・・・」
「珠世がね・・・奨めてくれたの・・・真実がね・・・この世に生まれてよかったってことを・・・捜せって言ったの・・・美和がね・・・幸せになってもいいって・・・許してくれた・・・みんなに導かれて・・・私はここに来たの・・・すべてを取り戻すために・・・」
「さびしかったんだね」
「さびしかったのよ」
回復センターのベッドで恭子は友彦を抱いた。
夢にまで見た友彦の局部を勃起させ・・・自分の局部に挿入させる。
恭子は・・・そういう欲望が特別に強い介護人なのである。
友彦は全力で応じるのだった。
天使たちは生きながら天国を感じた。
だが・・・この物語はまだ続いて行く・・・。
二人がすべてを世界から奪われるまでは・・・。
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