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2016年3月15日 (火)

会えません・・・今はまだ(有村架純)

あなたが来るのが遅すぎたのよ・・・。

こうなったら・・・もう・・・誰かを守って帰らぬ人になるしかないわけである。

しかし・・・ここは宇宙世紀ではないので・・・あれなんだな。

それにしても・・・どんな脚本家も・・・有村架純を見ると・・・凌辱したくなってしまうんだな。

今回は・・・お前もかっ・・・だったぞ。

地球のずっと西の方では女子校が襲撃されて女学生が丸ごと奴隷にされている21世紀。

中野区では夜歩いていると見知らぬ男に殺されて裸にされてしまう。

実の親が子供をウサギ扱いし、家出少女はヤクザのヤサで薬物中毒死する。

殺伐とした世界で・・・略奪愛をしようものなら袋叩きである。

まあ・・・父と母の愛の結晶である子供は・・・生まれてしまえば愛が冷えたり壊れたりすることもよくあることなんだと諦めて生きていくのが一番なんだな。

だって・・・愛は冷めやすく・・・壊れやすいものなんだから。

消費期限が過ぎた缶詰の中身は何か恐ろしいことになっているような気がする。

とりかえしの・・・とりかえしのつかないことをしてしまうのが人生だ。

で、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう・第9回』(フジテレビ20160314PM9~)脚本・坂元裕二、演出・石井祐介を見た。ラブ・ストーリーの定番は三つある。ひとつは愛するもの同志が結ばれる「シンデレラ・ストーリー」、ひとつはどちらかが消える「ある愛の詩」、そして「ロミオとジュリエット」である。ハッピーエンドと言えるのは「シンデレラ」だけと考えることもできるが・・・どちらかが「私は最高に愛された」と思えれば「ゴースト」だってハッピーエンドだし、いい思い出だったとなれば「ローマの休日」だってハッピーエンドと言えないこともない。そもそも・・・愛に恵まれない人にとっては・・・「愛のかけら」だって・・・うらやましい限りなのかもしれないのである。とにかく・・・「ハッピーエンド」の前に愛する二人が別れるのは・・・深夜を過ぎたら駆け下りる階段のようなお約束・・・。しかし・・・階段から落ちると・・・恐ろしい結末が待っている可能性があるのでご用心である。

もちろん・・・このドラマは最初からヒロインの亡き母親(満島ひかり)が・・・「どんな苦しさも恋をしていれば忘れられる」という恐ろしい呪いを愛児にかけ・・・遺骨を下水道に流されてスタートするホラーなので・・・どんな結末でも許されるのである。

後半で身近な女子にいいところを見せようとして狼藉を働く男性が登場するが・・・この物語全体がそういうラブレターだと言えないこともないのだった。

そういうところもやるせないよねえ。

「好きです・・・」と曽田練(高良健吾)が言う。

その言葉を噛みしめる杉原音(有村架純)は返す言葉を失う。

その時・・・音の部屋に井吹朝陽(西島隆弘)がやってくる。

音と二年間交際し・・・結婚を申し込んだ男である。

しかし・・・朝陽は・・・音が恋をしているのは練だと最初から知っているのである。

だから・・・ここで逆上するわけにはいかないのだ。

「いま・・・そこでお隣の夫婦は喧嘩していたよ・・・なんていったっけ・・・上が下田さんで下が上田さんだったっけ・・・ええと・・・僕が出て行った方がいいのかな」

音は堪えていた・・・欲しいものを手に入れようとする純粋な心と・・・生きるためにはあらゆることを我慢しなければならないと自分自身が鍛え上げた心が鬩ぎ合う精神分裂の危機に・・・。

「すみません・・・帰ります・・・僕が・・・無理を言ってお邪魔したんです・・・杉原さんは困惑していました・・・」

「・・・」

「あの・・・どこかで・・・二人だけでお話できませんか」

「これ・・・持って・・・お帰りください」

朝陽は音が描きかけた「練の似顔絵」を押し付けた。

朝陽にとってそれは・・・自分が愛されていない証拠のようなものなのである。

練は・・・虚しい気持ちを抱いて立ち去る。

誰かを傷つけてまで・・・自分の欲しいものを手に入れることは・・・今の練にとっては・・・困難なことだった。

愛することは奪うことではないという教えが練を縛っている。

あらゆるものを奪われ・・・奪い返そうと決意した時・・・それを止めたのは・・・音だった。

それが・・・音の愛し方。

そして・・・それは練の愛し方。

二人を結びつける亡き母の亡霊・・・。

しかし・・・世界はそんな二人に無情なのである。

練を待つ音を放置してはくれないし・・・音を守る力を練に与えない。

音を地獄から解放した練は幼馴染の市村小夏(森川葵)や恋人の日向木穂子(高畑充希)に呪縛され・・・練を地獄から解放した音には父親の征二郎(小日向文世)の奴隷である朝陽がまとわりつく。

亡き母の恋の魔法は・・・現実に抗うことはできないのだった。

仙道静恵(八千草薫)の家に帰還した練の後を・・・いたたまれない思いを抱いて追いかける朝陽。

「先程は・・・追い返すような真似をして・・・失礼しました・・・もしも・・・あなたが・・・満足できないようなら・・・示談金を・・・」

「示談金って何よ」と小夏が現れた。

「手切れ金ってことだろう・・・」と晴太(坂口健太郎)は教える。

「舐めないでよ・・・練の・・・音ちゃんへの気持ちは・・・買えないよ・・・お金じゃ買えないものなんだよ」

「・・・」

朝陽は・・・言葉を失い・・・家路をたどる。そのやるせない気持ちは鞄にぶつけられた。

「ちくしょう・・・」

小夏に福島の母から連絡が入る。

小夏の母は・・・練の祖父が残した大根の種を使った収穫があるという。

福島に手伝いに来てくれないか・・・というのである。

ホワイトデーなので・・・木穂子がエクレアを持って静恵の家にやってくる。

「バレンタインデーにチョコをもらったわけじゃないけど・・・で・・・音ちゃんに会ったわけ」

「・・・」

「告白したの・・・」

「・・・」

「どうするつもり・・・」

「・・・」

「遅刻したり迷ったりもしたけど二人はもう同じ船に乗っちゃってるんだよ・・・進むしかないよ・・・優しいと優しすぎるは違うよ?・・・恋愛って不平等なんだよ・・・奇数は弾かれるの・・・しょうがないよ・・・頑張りな!・・・あたしも相変わらず楽しくやってるから・・・」

木穂子の中にも練を乞う気持ちは残っている・・・しかし・・・今は練の幸せを願う気持ちの方が大きいのである。

「春寿の杜」の介護施設に音との結婚の予定を伝える朝陽。

施設長の神部正平(浦井健治)は「まさか・・・あなたが朝陽様の婚約者だったとは・・・知らぬこととは言え・・・失礼しました・・・身が震える思いです」と二倍の速度で掌を返すのだった。

困惑する音・・・。

音にとって・・・朝陽は・・・拾った仔犬のようなものなのである。

音は・・・乞われて餌を与えただけなのだが・・・二年の歳月は重くのしかかるのだった。

情が移ってしまったのだ。

朝陽は買収して整理する会社の顧問弁護士と面会する。

弁護士はかって・・・朝陽がジャーナリストとして告発した医療事故で・・・被害者遺族の弁護を担当していた。

「あの時の・・・あなたの記事で・・・不正が明るみに出たのです・・・遺族の皆さんは大変感謝していましたよ・・・」

「・・・」

「今は・・・こちらの会社にお勤めですか・・・大変ですね」

「いえ・・・私が全員解雇を求めている・・・新しい経営者の代理のものです」

「え・・・そんな・・・まさか」

清らかだった頃の自分を知る弁護士の前で矛先が鈍る朝陽。

交渉は不調に終わり・・・朝陽の父親は激怒する。

「無様だな・・・それでも私の息子か」

「次回の交渉で押し切ります」

「あの女は・・・どうした」

「はい」

「お前のような奴は早く結婚した方がいい・・・女房に尻を叩かれれば少しはマシになるだろう。あの女はいいぞ・・・貧困で強欲になった女だ・・・自分を捨てた過去がある女は強い。嘘を指摘されても・・・顔色ひとつ変えなかった・・・あれはいいタマだ・・・ああいう女の方がお前にはむいているかもしれない」

「・・・」

父親の期待に応えるために・・・音の尊敬する人格を捨て去った朝陽。

そのために音に捨てられそうになっている朝陽。

その父親に音との結婚を急かされる朝陽。

父親に捨てられないためには・・・朝陽は音をなんとか説得しなければならないのだ。

たとえ・・・音の心を踏みにじることになっても・・・。

震災後の景気回復で・・・「柿谷運送」の経営はやや上向きだった。

女社長・柿谷嘉美(松田美由紀)は練に帰省のための休暇を与えた。

手土産の番付煎餅まで用意する配慮を見せる。

五年という歳月の重さ・・・。

「すみません・・・福島に行かせてもらえて・・・うれしいです」

「行くってか・・・帰るんじゃないの」

「もう・・・家も畑もないので」

「私は東京生まれでアレだけどさ・・・ふるさとなんてものは・・・思い出の中にあるんじゃないの」

「・・・」

佐引穣次(高橋一生)が言う。

「知ってるか・・・猪苗代湖の白鳥のボートに乗ったカップルは一生結ばれるって話」

「本当ですか・・・」

「俺が嘘ついたことあるかい」

「・・・」

一人の部屋で悶々とする練・・・。

迷い・・・ためらい・・・ついに・・・堪え切れずに音にメールを送る。

「会いたいです」

音は考える。そして返信する。

「会えません・・・今はまだ」

しかし・・・周囲の応援を受けて・・・練は送信する。

「声が聞きたいです」

音は・・・練に電話をかけた。

「杉原です・・・」

「あ・・・曽田です」

「今・・・大丈夫ですか」

「はい・・・あの・・・特に用もなくて・・・似顔絵ありがとうございました」

「まだ描きかけだったのです」

「あの・・・今度・・・福島に大根の収穫にいきます」

「福島に・・・」

「一緒に行きませんか」

「休暇を合わせるのが難しいかもしれません」

「もし・・・たまたま合ったらで・・・」

「ごめんなさい・・・もう寝ないと」

「あ・・・おやすみなさい・・・」

「おやすみなさい」

音はうれしかった・・・。

恋する人との・・・寝る前の電話にときめいた。

しかし・・・それはまだ許されない恋なのだった。

最後の謎だった晴太の正体が明かされる時が来た。

小夏をデートに誘う晴太。

「こっちにボーリング場なんてあった?」

「ボーリングのシーンがないのは野島ドラマと一線を画すからだよ」

晴太が小夏を連れこんだのは・・・小夏がかって衣装デザインを担当していた小劇団のリハーサル会場だった。

「なんでよ・・・」

「河童なのに大根踊りなんて変だよな」

「私はもう・・・やめたのよ・・・こんな劇団ださいし」

「ださいけど・・・楽しかったんだろう」

「あんた・・・何よ・・・どうして・・・私に構うのよ・・・何でもお見通しみたいな顔して・・・私、知ってるわよ・・・あんた・・・なんか・・・隠してるでしょう」

「僕の両親は仮面夫婦で・・・お互いが他に恋人がいた・・・でも僕の前では仲良しさんだった・・・僕はそんな嘘に付き合うのに疲れて・・・十五才の時に家出をした・・・それからずっとふてくされて生きて来たんだ」

「ばかじゃないの・・・」

「でも君のことが好きだ」

「どうしてよ・・・」

「君は悲しい時に泣くし・・・嫌な時に嫌な顔をするから・・・」

「ばかね・・・」

小夏は涙ぐんで・・・晴太の手に自分の手を重ねた。

二人は一足先にゴールしたらしい。

晴太はゲイではなくバイだったのか・・・。

崖っぷちの朝陽はきんつばを購入した。

「散歩しないか・・・」

「・・・」

「昔・・・園田さんと三人でしたみたいに・・・」

朝陽は音の弱点を突いた。

「覚えていたのね」

「昔の僕を知っている人に会った・・・変わってしまった僕を見て驚いていたよ・・・今の君みたいにね」

「・・・」

「僕は今・・・一生懸命まじめに働いている人から仕事を奪う仕事をしている・・・君には黙っていたがもう・・・隠すのはやめたんだ・・・だからといってもう昔の自分にはもどれない。君が誰かを一番好きなことも知っている。それでも・・・僕は君と結婚したい・・・僕には君が必要だから・・・それでも二人は幸せになれると思うから・・・」

すがりつく仔犬を音は追い払うことができないのだった。

その帰り道・・・母の亡霊は・・・練の元へと音を導く。

行く手を阻む迷子の男の子。

音に気付かず練は男の子に声をかける。

「大丈夫・・・一緒に捜してやるよ」

「・・・」

そこに母親がかけよってくる。

「すみません」

「よかった・・」

夜の街角で一部始終を見届けて・・・去って行く練の姿を見つめる音。

その瞳から涙があふれる。

(よかった・・・あの人は・・・いつまでも変わらない)

音は介護施設のゴミ箱に捨てられた便箋を拾う。

花模様の透かしの入った美しい白い紙・・・。

手紙で始った恋は手紙で終わらせるしかないのだった。

母の亡霊は・・・木穂子に縋る。

「聞いたわよ・・・練に好きって言われたんでしょう」

「・・・」

「どうするのよ」

「結婚します」

「え」

「もう・・・引き返せない」

「なんでよ・・・あなたには練でしょう・・・練にはあなたでしょう」

「おそすぎたの・・・もう・・・彼と二年も交際しているし・・・」

「私はね・・・練に会いに行けなかった・・・あなたは行ったでしょう・・・一番好きなんでしょう」

「もう・・・決めたの・・・誰かを傷つけて・・・幸せにはなれないから」

「練は・・・どうするのよ・・・練だって傷つくよ」

「あの人は・・・いいんです・・・あの人はわかってくれるから」

母の亡霊が離脱し腰を抜かす木穂子。

「しぇらしか・・・許さんよ・・・練やないと・・・」

帰省の前日。

音から「直接会いたい」と連絡された練は職場で待つことにする。

手紙を書き終えた音は・・・練の職場の最寄り駅で降りる。

駅前でピョンピョン飛び跳ねる挙動不審な少女を発見する音。

「何を捜してるん?」

「泥棒」と明日香(芳根京子)は答えた。

「泥棒?」

「かばん・・・とられてん」

「わかった・・・交番連れてったる」

「・・・あんた・・・誰?」

「どっから来たん・・・」

「奈良から・・・吉野ってとこ・・・」

「そうか・・・あめ食べ」

「ねえ・・・東京って一駅歩けるって・・・ホンマ?」

「ホンマや」

「あ・・・」

明日香はひったくり犯(葉山奨之)を発見した。

遅刻する音に電話する練。

「もしもし・・・道に迷っているんじゃないかと思って」

「メッセージをどうぞ」

「何か困ってるなら電話してください・・・俺は・・・そんなにいろいろなことを考えているわけではないけど・・・あの日のことはよく覚えています・・・君と東京へ向かうトラックの中で・・・朝陽を見たこと・・・二人で夜明けを迎えた時・・・俺は何か素晴らしいことが起こるような気持ちになりました・・・君と二人で」

「メッセージをお預かりしました」

母の亡霊は半狂乱になっていた。

せっかく・・・とっておきの「恋」を用意したのに

あなたはそれを裏切るの

そんなこと・・・母さんは許しませんよ

亡霊の狂気は夜の街に凶運を呼び込む。

ひったくり犯は・・・飢えていた。

「なんだ・・・あんた・・・お腹すいてるの」

「・・・」

優しい言葉をかける明日香に・・・戸惑う音。

そこへ・・・通りすがりの暴漢たちがやってくる。

「ひったくりだって」

「警察につきださなくちゃな」

「俺がいいところ見せてやるよ」

「俺たちは正義の味方だ」

逃げ出すひったくり犯を追いかける野次馬たち。

「やめて・・・ひどいこと・・・しないで」

明日香は野次馬を追いかけ・・・音は明日香を追いかける。

歩道橋の階段を駆け上がるひったくり犯。

お茶の間はざわつく。

おい・・・練で階段落ちは終わりじゃないのか。

木穂子も落ちていたからな。

二度あることは三度ある展開かよ。

じゃ・・・三度目の正直じゃないか。

倒れた明日香を庇う音・・・。

転がり落ちる音の荷物・・・。

音の職場からの連絡を受け・・・顔色を変える朝陽。

どこかで亡霊が笑う・・・。

・・・暗転。

この世の終わりを告げるサイレンが残響する。

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