彼と彼女の祝言は御伽草子のようにめでたしめでたしとはいきませんでした(長澤まさみ)
ドラマチックだったなあ・・・。
フリがあってオチがあることが劇的ということである。
一世を風靡した「だまれ!小童」で・・・おそらくほとんどの人が知らない室賀正武をここまで強烈にアピールして・・・真田昌幸の幼い頃からの宿敵だったというフィクションを浸透させていく。
国衆というのは地縁・血縁で結ばれているが・・・室賀の出自は屋代氏であり、その本流は武田に北信濃を奪われた村上氏である。
武田氏の信濃侵略は信濃国衆の一員である真田の裏切りによって一挙に進行する。
村上一門の高梨家は真田嫡流である真田信綱と娘の婚姻によって安全保障を得る。
おそらく高梨内記はその一族である。
結局、上杉氏を頼って村上一門は越後に落ちるわけだが・・・高梨や室賀・・・そして出浦などは武田に臣従して真田配下となるわけである。
しかし・・・あくまで信濃先方衆(外様)としての結びつきであって・・・真田と室賀は同格という気分は残るわけである。
真田も海野氏の一支族に過ぎないからだ。
この真田昌幸と室賀正武の関係性を・・・史実音痴の人にもなんとなくわからせることが脚本力なのである。
阿吽の呼吸で乱世を切りぬけてきた二人・・・時には協力し、時には敵対して・・・なんとか・・・ここまでやってきた。
その果ての・・・家康による昌幸暗殺指令であり・・・むざむざと殺されるわけにはいかない昌幸。
さらに言うならば・・・独立勢力として力を持つために隣接する室賀領は直轄したいという野望もあるわけだ。
実際に真田と室賀は前年に小競り合いをしている。
一方で・・・次男・信繫の最初の婚姻の相手が真田の里の地侍の娘であるという史実が「祝言」というフィクションの舞台を提供する。
天才的な戦略家である信繫であるが・・・まだ若者である。
殺伐とした乱世に育ちながら・・・真田の長の一族として甘い部分も持っている。
父親の非情な策略や実際の戦闘で「鬼」になりきれない部分があるのをここまでくりかえしフリとして描いているのである。
三角関係として真田家当主の次男、里の地侍の娘、准一族の家臣の娘が展開されている。
ここまでのストーリー展開から信繫(18)、堀田の娘(16)、高梨の娘(14)といった年齢設定が推測できる。
堀田の娘の現実的な側面や・・・高梨の娘の夢想的な側面が・・・信繫の内面を語っている。
信繫が何故・・・本来相応しい家柄の高梨の娘ではなく・・・身分の低い堀田の娘に魅了されるのかといえば・・・つまり、信繫自身が夢想家だからである。ないものねだりなのだ。
信繫が大人の仲間入りをするための祝言の裏で・・・凄惨な陰謀が繰り広げられる。
ある意味で信繫は父や兄、そして重臣たちの画策する「真田家の陰謀」の蚊帳の外に置かれるわけである。
その修羅場に・・・夢想家と現実家の結婚からはみ出した・・・夢見る少女が迷いこむのである。
なんという皮肉・・・。
なんという作劇・・・。
ものすごく計算されつくした展開なんだな。
「真田丸」の構成を普通に考えていくと四分構成になることが分かる。
①真田家の勃興・・・第一次上田合戦まで。
②豊臣家臣従。
③関ヶ原・・・第二次上田合戦まで。
④九度山隠遁・・・大阪の陣。
序盤の最終章が近付き・・・信繫は大人の階段を登る。
それが「祝言」と「暗殺」で彩られるのである。
ふりまくり・・・おとしまくる・・・痺れるフリオチだ。
まあ・・・今回・・・一番のサービスは・・・昌幸正室の山手殿の出自のヒントの提出である。
つまり・・・京都の公家の娘ということは・・・菊亭晴季、正親町実彦、三条家周辺といういくつかの実家候補に絞られて・・・この世界では宇多頼忠説は消え・・・真田昌幸と石田三成は相婿同志ではない関係となるのである。
今後の展開を予想する上で結構・・・重要だよなあ。
ううん・・・ゾクゾクするのお・・・。
で、『真田丸・第11回』(NHK総合20160320PM8~)脚本・三谷幸喜、演出・田中正を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は真田昌幸の家臣で後の信繫の舅の一人となる高梨内記と屋代秀正の兄で小県国衆の室賀正武の二大イラスト描き下ろしでお得でございます。主人公の義父と・・・主人公の父の宿敵・・・ついに描き下ろし・・・ですな。まあ・・・「だまれ!小童!」の人は残念ながらさよなら描き下ろしシリーズでございますね。マップ的にはまさに・・・一期一会でございました・・・。「秀吉」の家康・・・よかったなあ・・・。宍戸正信と二人でもち焼いて・・・食って・・・。ついに暗躍を開始する闇の狩人・本多正信・・・。まあ・・・昌幸には煮え湯を飲まされ続けるわけで・・・しかし・・・それでも大久保家の没落を招くまで・・・家康の汚れ仕事を引き受け続ける感じが香り立ち・・・素敵でございました。そして・・・緊迫の暗殺シーン。大河名物田舎踊りで盛り上がる祝言の場と・・・静寂の囲碁対決。本多正信の放った刺客を瞬殺する出浦昌相の忍びの刀術・・・。生温かい流血と冷たい碁盤上の石・・・。腹を探り合う二人を見つめてその時を待つ三人の討手。波紋を投げかける幼いきりの無作為の行動。見せかけの武装解除の後の暗器の光。乾坤一擲の一打を許さぬ手裏剣の一撃。浅手に終わる若者の二手。愛娘に動揺しつつも致命傷を追わせる熟練の三手・・・そして武士の情けを感じさせる同族よりの止めの介錯。そして主人公を現場に引きだすヒロインの爆発する感情。これは大河史上に残る名場面でございましたよねえ・・・。
天正十一年(1583年)、上田城築城開始。真田昌幸は上田・丸子城の丸子三左衛門を攻略。周辺の禰津氏、屋代氏、室賀氏を臣従させる。蒲生氏郷と織田信長の次女・冬姫夫妻の嫡男・秀行生まれる。四月、賤ヶ岳の合戦にて柴田勝家は羽柴秀吉に敗れ北ノ庄城で自害。秀吉は浅井三姉妹を入手。上杉景勝は越中国の佐々成政と対抗するために秀吉と同盟。直江兼続山城守を称する。織田信雄と徳川家康が同盟を締結。六月、矢沢頼綱が昌幸に改めて臣従。八月、北条氏直に徳川家康の次女・督姫が嫁ぐ。天正十二年(1584年)三月、信雄が三家老を粛清。家康は尾張に出兵。徳川軍の酒井忠次が羽柴軍の森長可を撃破。沖田畷の戦いで有馬晴信・島津家久連合軍が龍造寺隆信軍を撃破。隆信は討ち死に。四月、尾張では羽柴軍が犬山城に、織田・徳川連合軍が小牧山に進出し対峙する。長久手にて羽柴軍の羽柴秀次・堀秀正・池田恒興・森勢を徳川軍が撃破。恒興、長可は討ち死に。五月、戦況不利な秀吉は滝川一益・一忠父子を起用し尾張国蟹江城を攻略。六月、長宗我部元親が讃岐を平定。羽柴軍、織田徳川連合軍の和平交渉が開始される。七月、家康は尾張清州城に在陣。上田城内において真田昌幸は室賀正武を暗殺。室賀一族と本家筋の屋代一族は信濃国を脱出し家康に臣従する。正武の弟・秀正の子・屋代忠正は後に安房北条藩一万石の大名となる。羽柴秀吉は大坂城に帰還。九月、末森城の戦いで前田利家が佐々軍を撃破。十月、伊達政宗、家督を継承。
家康が軍団を率いて尾張に出兵したために・・・信濃国は再び空白地帯となっている。
上田城築城を開始した真田昌幸は真田忍軍によって西の諏訪、南の佐久、北の善光寺に対峙する結界を張っていた。
信濃国の徳川領を預かる本多正信は配下の大和忍びを使って謀略を仕掛けるが・・・真田忍びの底知れぬ力の前に苦戦を強いられる。
「真田の忍びは得体が知れぬ・・・」
正信は甲斐の新府城で嫡男の正純にこぼす。
正純は父親譲りの無表情のまま・・・ほとんど口を動かさず答える。
「今・・・柳生の里から剣術使いが参っております」
「ほう・・・」
「柳生本家のものではありませんが・・・なかなかの達人と見ました」
「ふん・・・」
「築城に使う木材を運ぶ人夫に検分役としてまぎれさせ・・・上田に遣わしてはいかがかと・・・」
「それでどうなる」
「真田忍びは一騎当千のものだらけ・・・誰でも良いので挑ませるのです」
「それは・・・もう策でもなんでもないのう・・・」
「手詰まりでございますゆえ・・・」
正信は室賀正武を使った暗殺の失敗を思い出す。
室賀一族の中に真田に通じるものがあり・・・結局・・・無惨な結果となったのである。
「何もやらぬよりましか・・・」
柳生九兵衛は賑わう上田城下に入った。
城はほとんど完成しており・・・城下町も活況を呈している。
九兵衛は柳生の里で剣技を学ぶと同時に忍びの心得を習得している。
柳生忍びもまた・・・「気」を使う。
九兵衛はすでに自分が監視されていることを知った。
(面白い・・・腕試しと行こうか)
九兵衛は・・・監視者に向かって軽く殺気を放ち・・・気を引いた。
そのまま・・・川辺へむかって歩きだす。
監視者は誘われるように九兵衛を追いはじめる。
九兵衛は釣り上げた獲物を人気のない方に誘導していく。
「さて・・・この辺りでよかろう・・・一手・・・所望したい・・・拙者、大和の国の修行者で柳生九兵衛と申す」
「・・・」
監視者は答えない。
「名を名乗られよ」
「命を落すことになるが・・・よいかな」
「ははは・・・勝負はしてみなければならぬもの・・・」
「霧隠の才蔵じゃ・・・」
しかし・・・才蔵は姿を見せない。
九兵衛は監視者の気配が消えたことを知った。
「なんだ・・・つまらぬの・・・」
九兵衛は仕方なく元来た道を戻ろうとする。
しかし・・・道は消えていた。
「おや・・・」
周囲にいつの間にか霞みが立ち込め始めている。
「面妖な」
九兵衛は背後を振り返る。
河原にも靄が立ちこめている。
突然、殺気を感じた九兵衛は思わず抜刀し、跳び下がった。
着地して構えようとした九兵衛は思わず叫び声をあげる。
「うわ・・・」
そこに地面はなかった。
九兵衛はいつのまにか山中に導かれていたのだ。
川と思っていたのは谷間だった。
九兵衛は今の今まで断崖絶壁に立っていたのだ。
そして・・・今は虚空に身を躍らせている。
一瞬の後、墜落した九兵衛は即死した。
谷底には川が流れていた。
その河原に九兵衛は無惨な骸を晒す・・・。
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