恋をしているので遠回りして帰ります(有村架純)
清く貧しく美しく・・・そんな二人の恋の軌跡・・・。
うっとりするよねえ。
ファミリーレストランで会話しているだけの恋人たちをずっと眺めていたくなるなんて・・・どんだけ傑作なんだよ。
奇跡のような2016年の冬ドラマの恋のラインナップも・・・いよいよクライマックスが近いな・・・。
いつか、この恋を思い出して・・・ニヤニヤしてしまうんだな。
結局、恋の話というのは・・・ニヤニヤしてしまう・・・一種の麻薬なんだな。
清く貧しくても美しい恋はできるんだよね。
清く貧しく美しい二人が出会えばね。
そして・・・二人なら貧しさは少し緩和されて・・・三人になってもなんとか生きていければ・・・たとえ、車の中で生活して最高のごちそうがみたらし団子でも・・・いい思い出と言えるアイドルが育つ可能性はあるのだ。
何の話だよっ。
とにかく・・・こんなに一週間がせつなくなる月9は久しぶりだったよ。
もう・・・思い出になったからニヤニヤしたいだけすればいいんだものな。
今夜は月がとても青いからね・・・。
で、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう・最終回(全10話)』(フジテレビ20160321PM9~)脚本・坂元裕二、演出・並木道子を見た。清く貧しく美しいという三拍子を揃えるのも大変だよな。ブサイクで金持ちで不潔という三拍子も大変だけどな。いや・・・不潔でブサイクな金持ちは結構いるんじゃないか・・・。ついにお墓を掃除していて「業者の方ですか」と声をかけられたしな。雨上がりだったので結構、装備多めだったからな。リュック一杯の掃除道具を背負ってお彼岸を過ごすからだろう。何の話だよ・・・。いや、林田雅彦(柄本明)の遺骨が下水に流されなかったかどうか・・・気がかりでな。どんな復讐劇なんだよっ。とにかく・・・酷い目にあってきた主人公がハッピーエンドを迎えられて・・・こんなにうれしいことはない・・・。
シマシマの東京タワーを背景に・・・緊急のお知らせを受け取る日向木穂子(高畑充希)・・・。
木穂子と井吹朝陽(西島隆弘)の間には杉原音(有村架純)を通じた交遊関係があったわけである。
「春寿の杜」の船川玲美(永野芽郁)は音と長い付き合いだし、施設長の神部(浦井健治)は社長の息子の婚約者の危機に駆け付けているわけである。
階段から落下して意識不明の音の病院に駆けつける木穂子は・・・当然のように曽田練(高良健吾)に連絡するのだった。
担当医は「脳の神経が損傷している」と物騒なことを言う。
しかし・・・清く貧しく美しい音は・・・身体も丈夫な方なので安心するしかない。
東京に住んでいる以上・・・階段から落ちない人はいないのだ。
なにしろ・・・第一回で・・・六人の男女は待ち合わせをして埠頭に集合するのである。
そういう場面がまだない以上・・・音が復活することは約束されているのである。
イメージだったらどうすんだ。
そういう不安が漂う中・・・「最近、ヘリコプターの音を聞いても動揺しなくなったんだ」と仙道静恵(八千草薫)の家で晴太(坂口健太郎)は練に囁く。
劇団の衣装係として復活した市村小夏(森川葵)が元気を取り戻したことを喜ぶ練。
「晴太・・・ありがとう」
「そこの二人・・・遊んでないで・・・明日までに猿とウサギとパンダを完成しなくちゃなんだから」
「はいはい」
しかし・・・木穂子の電話で家を飛び出す練。
大丈夫なのか・・・三体の着ぐるみが完成するのか不安になるのである。
ここで・・・練と朝陽は気まずく顔を合わせる。
しかし・・・重要なのは・・・船川玲美と練の顔合せなのである。
もちろん・・・恋の亡霊(満島ひかり)が暗躍しているわけである。
ちなみに・・・音の鞄を落して朝陽に自分が音に書いた手紙を読ませるのも彼女の仕業なのだ。
目に見えなくても存在するものは存在するのだった。
生死の境を彷徨う音・・・。
そこへ・・・ひったくられた女・明日香(芳根京子)がやってくる。
「あの・・・階段から落ちた人って・・・」
「君は・・・被害者の人・・・犯人は捕まったって」
「いえ・・・そうじゃないんです・・・ひったくった人は悪くないんです・・・ひったくられたのは本当だけど・・・ちゃんと返してくれたし・・・関係ない人が追いかけだして・・・私たち、止めようとして・・・関係ない人があの人にぶつかって・・・警察に言っても信用してもらえないし・・・あの人に証言してもらえれば・・・」
「彼女は・・・意識不明なんだ」
「そんな」
愕然とする明日香を自販機のコーナーに連れ出す練・・・。
「喉が渇いただろう」
ソフトドリンクを勧める練。
「いえ・・・あの人・・・こんなことになるなんて・・・抛っておいてくれればよかったのに・・・」
俯く明日香・・・。
「いや・・・音ちゃんは・・・抛っておかないよ・・・音ちゃんはそういう人だ」
「・・・」
朝陽は・・・木穂子に告白する。
「彼女のお母さんの手紙を読んだ・・・手紙はもう一通あって・・・それを読めば彼女が僕と曽田さんのどちらを選んだか・・・わかるかもしれない」
「安心して・・・彼女はあなたを選んだから・・・今は・・・恋人として彼女の覚醒を祈って・・・」
「お母さんの手紙・・・曽田さんが・・・北海道まで届けたって話を聞いたことがある」
「そうよ・・・」
「僕だったら・・・そうしたかなって・・・思って・・・」
「しないのが普通よ・・・彼は普通じゃないだけ・・・」
「・・・」
悪い奴が素敵な恋をしたって問題ないのだが・・・ここは清く美しい恋の世界なのである。
貧しくなくても・・・清く美しいことは求められる。
木穂子は・・・朝陽が・・・清く美しくあるために背中を押すのである。
昔の恋人である練のために・・・今の親友である音のために・・・清く美しくあるために・・・。
怒りを含んだ言葉は朝陽の胸を刺すのだった。
長い夜の果て・・・。
すべての準備を調えた恋の亡霊は・・・音に囁く。
「ベイビー・・・私の可愛いベイビー・・・もういいよ」
覚醒する音だった。
「患者さんが意識を取り戻しました・・・」
喜びに輝く三人。
「じゃあ・・・僕はこれで・・・」
練は離脱した。
病室に入る朝陽と木穂子。
「こけちゃった・・・」
「音ちゃん・・・」
「そうだ・・・あの子・・・どうしただろう」
「ひったくりの犯人のこと・・・?」
「違うの・・・ちゃんと謝ったし・・・許されて・・・それなのに・・・私が行って説明してあげないと・・・痛」
「安静にしてないと・・・」
「たぶん・・・」と木穂子は言った。「その件は・・・練が片付けにいったよ・・・」
音が安堵したことを朝陽は悟る。
木穂子の容赦ない「月9なんだから恋こそがすべて」攻撃である。
そして・・・この恋は清く美しくなければならないのだ。
練は明日香とともに・・・ひったくり犯(葉山奨之)が取調を受けている警察署に向かうのだった。
練は音が朝陽を選んだと考えて身を引いた。
しかし・・・音の望むことは練の望むことなのである。
恋の亡霊は・・・素敵な出会いのために・・・悪事を働いた晴太に報いる。
着ぐるみを着た晴太に・・・小夏は靡いていた。
「晴太・・・あんたの言うことは本当か嘘かからないけど・・・私・・・あんたの言うことが嘘だろうが・・・本当だろうが・・・全部信じることにした・・・」
「なんで・・・」
「あんたのこと・・・好きになっちゃったから」
晴太は狼の仮面をかぶって泣いた。
「・・・」
「なんで泣くのよ・・・」
「・・・」
小夏は狼の晴太を抱きしめた。
狼は小夏にキスをした。
「私は赤ずきんちゃん」
小夏は晴太に食べられてしまった・・・。
恋の亡霊は・・・役目を終えた木穂子にも幸せを振る舞う。
かねてから交際していた同じ職場の恋人は木穂子に結婚を申し込むのだった。
長い長い恋の迷路の果てに彼女は結婚というゴールに到着する。
それはそれで祝福するべきことだろう。
そういう意味で・・・天使の一人であった佐引穣次(高橋一生)は「恋の弁当」を入手する。
彼らはみな・・・音の恋の成就のための犠牲者なのである。
そして・・・最大の犠牲者である朝陽は・・・音の退院を契機に・・・人間関係を清算する。
優しさを与えてくれた人に優しさで報いなければ・・・清く美しい人間にはなれないのだ。
「換気しないと・・・」
音はジャーナリスト時代の朝陽の記事の載った雑誌を見せる。
「このこと・・・話していたね」
音は・・・朝陽との関係を良好なものにするために・・・努力を惜しまない。
しかし・・・朝陽はすでに決断していたのだった。
「僕は・・・父親にお見合いを勧められている」
「え」
「結婚となると・・・いろいろとあるからね」
「・・・」
「だから・・・君との婚約は解消する」
「どうして・・・」
「二番目や三番目でもいいなんて言ってすまなかった・・・大切な人に順番なんてつけられないものね」
「朝陽さん・・・私・・・決めたのに」
「愛なんて決めるものじゃないだろう・・・君に無理矢理、決めさせたのは僕だけどね」
「・・・」
「僕は曽田さんみたいに君を愛せないし・・・君は曽田さんを愛するようには僕を愛せない・・・だから・・・僕は君が嫌いになった・・・」
「朝陽さん・・・」
「また・・・一緒にご飯を食べよう・・・今度は四人で・・・」
音は朝陽の示した最高の優しさに涙する。
朝陽は清潔なハンカチを残し潔く去って行った。
音と練の間に・・・「恋」だけが残っている。
恋の亡霊は仕上げにかかる。
この世に残した遺骨を流した憎むべき音の養父の心臓をひとひねりしたのだった。
恋の障害であった優しすぎる婚約者を失い・・・茫然とする音の携帯電話の着信音が響く・・・。
養父の突然の死・・・地獄の北海道に残された養母からの電話である。
音は地獄の養父母に送金を続けている清く貧しく美しい主人公なのである。
そして最後のジャンプ・・・一ヶ月が過ぎ去る。
練は朝陽と結婚する音の幸せを祈っていた。
坂の上から見下ろす町のどこかで・・・音は・・・きっと幸せになる・・・。
しかし・・・いつの間にか、晴太と恋をしていた小夏は・・・最後の矢を放つ。
「音さん・・・どうしているかな」
「便りがないのは無事の報せさ」
「でも・・・頭の怪我はこわいのよ・・・震災の時だって・・・」
「・・・」
小夏はもう・・・震災のショックを乗り越えたのだった。
練は安堵すると同時に・・・不安を感じる。
音に何かあったら・・・と思うと・・・頭が痺れてくる。
なぜなら・・・練は音に恋をしているのだ。
恋の亡霊の最後の犠牲者である井吹和馬(福士誠治)の再就職先は妻の実家の手伝いと決まった。
腹違いの兄に励まされ・・・朝陽は・・・目に見えないものを信じない父親(小日向文世)とのゲームを開始する。
「全員解雇というのは利益を損なうと考えますね」
「どこが損益になるんだ」
「有能な人材は利益を生みますから」
「つまり・・・どういうことだ・・・」
「無能な人間を切って・・・有能な人間は残します」
「一理あるな」
「将来性というものも考慮する必要があります」
「ところで・・・有能と無能を判断するのは誰なんだ」
「もちろん・・・私です」
「なるほど・・・」
「お父さん・・・後継者というものをどう考えるか・・・それも経営者としての有能さの証ですよ」
「先の先を考えれば・・・後継者の後継者も大切だぞ」
「最高の後継者を産む配偶者を確保してみせます」
「それでこそ・・・俺の息子だ」
血は争えないものだ。
最後のピースをはめるために・・・音の無事を確かめるために「春寿の杜」にやってくる練。
恋の亡霊は船川を外出させる。
「あら・・・あなた・・・病院で」
「杉原さんは・・・お元気ですか」
「杉原さんは退職しましたよ・・・お母さんの具合が悪いので・・・北海道に帰るとかで」
「え・・・あの・・・井吹さんは・・・」
「井吹さんは・・・ご令嬢と結婚するそうです」
「・・・」
音は・・・初めて手に入れた自分の城を清掃した。
最後に残ったのは・・・一通の手紙と・・・白桃の缶詰。
音が書いたのは・・・亡き母への手紙だった。
お母さん・・・私は二十七歳になりました。
お母さん・・・私は東京に住んでいますよ。
介護の仕事をしています。
立派な資格も持っています。
お給料が上がって欲しいとか・・・お休みが欲しいとか思うこともあります。
でも・・・がんばって働いて・・・ありがとうと言われると・・・それだけで幸せな気持ちになります。
坂の上から見るとたくさんの家が見えます。
そこにはたくさんの人がいます。
そこで暮らしている人たちのあれやこれやを想像すると楽しくなります。
世界は・・・こわいこともたくさんあるし・・・うれしいこともありますね。
バスに乗っている引越し屋さんとか。
バスに乗っている介護士さんとか。
お疲れ様ですと顔馴染みなので挨拶したりとか。
仔犬に名前をつけたりとか。
お母さん、私は恋をしましたよ。
恋をすると・・・うれしいことは二倍になるし、悲しいことは半分になるよ。
あの頃の私に・・・伝えてほしい。
お母さんが恋しくて泣いていた頃の私に。
いつか・・・大きなトラックを運転している引越し屋さんが。
白桃の缶詰をくれること。
飴をあげたらガリガリかむこと。
だから・・・お母さん・・・この恋はしまっておいてください。
思い出したら泣いてしまうから。
大切にしまっておいてね。
また、手紙を書きます。
じゃあね。
音は手紙を破り捨てた。
手にいれたものを手放すのはさびしいことだ。
しかし・・・思い出があれば・・・音は生きていける。
音はそうやって自分で自分を支えて来たし・・・これからもそうやって生きていける。
音は練にもらった白桃の缶詰を開ける。
とっくに賞味期限は切れているが・・・清く貧しく美しい人間はお腹も丈夫なので平気だった。
音は味わう。
白桃の缶詰は「恋」の味がする。
甘い汁を飲み干すと・・・からっぽの部屋で音は眠る。
思い出がありあまり・・・心は安らかだ。
清く貧しく美しい七年間をくれた養母の顔を思い出す。
受けた恩を返すのは・・・清く美しい生き方そのものだ。
目覚めた音は・・・恋がしっかりと封印されていることを確かめる。
恋の亡霊は・・・音に部屋の鍵を閉め忘れさせた。
仕事を終えて・・・雨の中をラーメン屋の二階にあるアパートの一室にかけつける練。
鍵のかかっていない部屋を開けると・・・からっぽの部屋がある。
からっぽの部屋の何もない広さと・・・何かがあった狭さに胸をしめつけられる練。
思わず・・・音に電話をかける練だった。
「もしもし・・・杉原さん・・・」
「・・・・・・・・何?」
「どこにいるんですか」
「北海道・・・」
「今・・・部屋の前です」
「だから・・・何よ」
「会って下さい・・・月曜日に・・・あのファミレスに行きますから」
音は電話を切った。
恋の亡霊は泣く。
夜の雨は涙の味がする。
「柿谷運送」のトラックは走る。
女社長の神谷嘉美(松田美由紀)は仙台発苫小牧行フェリーにのって・・・たどり着く北海道八羽根町(フィクション)への「荷」を手配したのである。
採算割れの場合は練の給与から天引きするだけだ。
しかし・・・七年の歳月が・・・彼女の経営者としての手腕を磨きあげたことは間違いないのだった。
景気がよかろうとわるかろうとなんとかするのが優れた経営者というものなのである。
こうして・・・練は・・・「ガスト」八王子宇津木店のようなファミリーレストラン「QUEST」に到着する。
時間が止まったような北海道・・・ウエイトレスまでが・・・あの日のままのように見えるが別人だ。
音はあの日のコートでやってきた。
音はあの日に戻るつもりなのだった。
だから・・・音はまだ・・・練に恋などしていない覚悟なのである。
「無理を言って・・・すみません」
「・・・」
姿勢を正す・・・練。
「この度はお悔み申し上げます・・・」
「・・・ご丁寧にどうも・・・」
「何か・・・食べませんか」
「コーヒーで・・・」
ウエイトレスは注文を受ける。
「お母さんの具合・・・どうですか」
「足がちょっと・・・」
「大変ですね」
「別に・・・」
コーヒーが運ばれてくると二人はウエイトレスに感謝する。
「ありがとう」
「どうぞ」
「ありがとう」
「ごゆっくり・・・」
「やはり・・・何か注文しましょう・・・俺はお腹がすいてるし・・・簡単なもので・・・一応、二人前注文しますね」
「・・・」
「あの日は・・・何を注文したんでしたっけ・・・」
「・・・」
「大根おろしのハンバーグと・・・デミグラスソースのハンバーグで・・・」
ウエイトレスが注文を確認していると・・・思わずつぶやく・・・音。
「トマト・・・」
「え」
「なんでもない・・・」
「じゃあ・・・大根おろしとデミグラスで・・・」
ウエイトレスが去った後で文句を言う音。
「トマトソースだったやん」
「あ・・・注文しなおしましょうか」
「いいよ・・・もう」
思い出には厳しい音なのである。
しかし・・・トマトソースの味を思い出した練は・・・蘇る記憶を繰り出すのだった。
「あの時・・・杉原さんは・・・東京では家具屋で迷子になるって思ってましたよね」
「そんなこと・・・」
「迷いましたか」
「六本木ヒルズで・・・」
「六本木ヒルズになんて行くんですか」
「そりゃ・・・六年もいれば・・・」
「見上げちゃいますよね」
「見上げちゃいますね」
「運送会社の先輩はビルを見上げると田舎者だってばれるぞって言ってました」
「そんなこと・・・お腹がすいた犬だって見上げるじゃない」
「見上げますね」
「佐助なんて東京生まれの東京育ちでしょ」
「ですね・・・」
「佐助・・・元気ですか」
「昨日・・・お風呂に入れたら暴れました」
「顔に水がかかるの・・・嫌いなんですよね」
「佐助・・・杉原さんに似てきました」
「曽田さんに・・・似てるでしょう」
「いいえ・・・こんな感じだから・・・」
「それはただの曽田さんの変顔ですよ・・・」
ついに笑ってしまう音。
「今度・・・佐助を連れてきますね」
「・・・」
「北海道は遠くないですよ・・・新幹線だってあるし」
「・・・」
今にも爆発しそうな音の心の扉。
「迷惑かもしれませんけど・・・」
「迷惑なわけないやん・・・今日だって来てくれてうれしいし」
「返事もしてもらってないし・・・」
「好きやで・・・好きなんやわ・・・それはほんまに・・・」
「・・・」
「本当は・・・お母さん・・・東京に帰りって言ってくれたんや・・・でも・・・そんなお母さん・・・一人にできへん」
「・・・」
「それにな・・・井吹さん・・・すごく・・・優しい人やった・・・」
「・・・」
「だから・・・東京には住めん・・・」
「・・・」
「佐助の写真・・・送ってくれる」
「はい」
「佐助の写真を飾って・・・毎日・・・眠る前に見たら・・・安心できる」
「・・・」
「振り出しにもどっても・・・」
そこへウエイトレスがやってくる。
恋の亡霊の最後のマジック。
「大根おろしのハンバーグと・・・トマトソースのハンバーグです」
奇跡の衝撃波に眩暈を感じる二人。
「あ・・・」
「こんなことってある?」
「運が良かったですね」
「こんなにちょこっとした運なんて・・・」
「振り出しになんか・・・戻ってないですよ」
「え」
「杉原さんは・・・七年間も東京で頑張って・・・目には見えなくてもたくさん・・・思い出を作ったでしょう。僕は杉原さんがどんなに努力したか・・・ちゃんと覚えています」
「・・・」
「みんなの心の中に杉原さんの七年間は残っていますから・・・振り出しになんか・・・戻れませんよ」
音は思い出してしまった。
大切な恋を思い出してしまった。
だから・・・泣いてしまうしかないのだった。
「俺は何度でも来ますよ・・・会津に一緒に行く約束だって果たしてないし・・・猪苗代湖で白鳥のボートに乗せたいし、じいちゃんの種の大根を食べてもらいたいし・・・道がありますから・・・道があって・・・約束があって・・・ちょこっとした運があれば会えますから・・・」
「・・・逢えます」
「音さん・・・あなたが好きです・・・」
「はい・・・」
「・・・はい」
「・・・」
「食べましょう・・・二つに分けますね」
「はい」
音は好きな人にサービスされて身も心も温まる。
「どうぞ」
「美味しい・・・」
「はい」
恋人たちの窓の外で・・・愛の亡霊は白い雪と化す・・・。
店員は素晴らしいカップルを見つめる。
もう・・・帰っちゃうの・・・。
もう少しイチャイチャしていてもいいですよ・・・。
したっけ・・・。
店を出た二人は空を見上げた。
「北海道はまだ雪が降るんですね」
「はい」
練は音の手をとった。
音は微笑んだ。
二人はあの日のようにトラックに乗り込む。
練は音にキスをした。
「・・・」
音は世界からあらゆる苦悩が消えていく気分を味わう。
「出たら・・・右に行って左・・・」
「近道ですか」
「・・・遠回りよ」
練はアクセルを踏んだ。
音が地獄に落ちたら練は手を差し伸べる。
練が地獄に落ちそうになれば音は抱きしめる。
そして・・・ハンバーグを半分ずつ食べて・・・いつか・・・仲間たちと埠頭で再会する。
その前に・・・二人は鮮やかなネオンの下で・・・。
恋の果実を味わうだろう。
二人は元気だし・・・ついに大切な人に巡り合ったのだから。
これからは清く貧しく美しい人生を二人で生きていくのだ。
一話のファミリーレストランのシーンを見直すと・・・そこに二十歳そこそこの音がいて驚く。
そして最終話の音が大人として美しく成長しているのに驚くのである。
女優・有村架純の底力にトレビアンである。
結局・・・道端の雑草のようなたくましさこそが・・・人を幸せに導くという話なのである。
世の中なんて・・・間違っているのが大自然なのだ。
結局、恋だけが人を救う唯一の手段なんだな。
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