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2016年3月 3日 (木)

私は世界で一番の幸せものです(桐谷美玲)

認知症になる直前の老いた母は・・・昔の手紙を引っ張り出して来て・・・何十年も前の父方の小姑たちとの確執に対する怨みを何度も何度も語っていたものである。

思えば・・・あれは過渡期というか・・・すでに記憶がおかしなことになっていたのだと・・・今になって思う。

しかし・・・当時はその怨みの深さに辟易したものである。

年老いていけば・・・枯淡というか・・・情念も静まるものだという側面もある。

それは一種の諦念によるものだが・・・なかなかどうして・・・表面からは失われた湿度とはうらはらに・・・恐ろしいほどの奔流が渦巻いていたりするわけである。

いつまでも若く、いつまでも愚かでありたい。

そういう人の気持ちを・・・痛いと思うのか・・・せつないと思うのか。

ドラマでは・・・桐谷美玲が松坂慶子に戻り、松坂慶子が桐谷美玲に変身するドタバタと・・・その両方に内在する「心」のロマンスが絶妙にからみあっている。

少し・・・仕掛けすぎたのではないかと・・・ヒヤヒヤする場面もあるのだが・・・なかなかどうして巧妙なカラクリなのである。

このまま「愛すること」が「幸せ」であることを・・・謳いあげてもらいたいと考える。

で、『スミカスミレ 45歳若返った女・第4回』(テレビ朝日201602262315~)原作・高梨みつば、脚本・古家和尚、演出・小松隆志を見た。魔物ファンタジーに慣れない人は化け猫である黎(及川光博)の妖力というものの凄さをなかなかに受け止め難いものである。最初に六十五歳の澄(松坂慶子)を二十歳のすみれ(桐谷美玲)に変身させていることから・・・その能力はほとんどなんでもありだということに気がつかない人もいるだろう。その上で・・・黎はこの世には存在していないすみれを椿丘大学に編入してしまうわけである。つまり・・・社会の登録ルールの改編など容易に成し遂げてしまう実力の持ち主なのだ。隣家の夫人である小倉富子(高橋ひとみ)に至っては心を操作されてしまうわけである。つまり・・・黎はほとんど「神」に等しい力を持っているのだ。それなのに・・・すみれが・・・戸籍上の問題などで携帯端末を購入できないのではないかと・・・心配するのは愚の骨頂なんだな。まあ・・・理解力のなさ・・・というのはどうしようもないけどな。

だからといって・・・黎は自分の万能さで・・・すみれをコントロールしたりはしない。

そこに・・・「霊界のルール」が介在してくるからである。

そういう「神のような力」と「掟による縛り」の駆け引きが・・・この手のドラマの醍醐味である。

傲慢なものたちは・・・己の正しさを信じる。

あげくの果てに・・・ヒトラーによって強制収容所に送られる憂き目に遭うのである。

トランプ氏を蔑むようなコメンテーターたちの言動がその証と言えるだろう。

自分たちが何様なのか・・・内省するべきなのである。

そして・・・この世に存在する暗黙のルールというものを・・・。

その上で恐ろしい世界の訪れに対処する気構えを持つべきなのだ。

この世に現れ・・・害を為す魔物と孤独な戦いを続ける天楽寺住職の天野早雲(小日向文世)は如月家に生じた魔を払うために突撃する。

不意をつかれた黎は一瞬、よろめくのだった。

そこに割って入るすみれ・・・。

「いきなり・・・何をなさるのです」

「おどきなさい・・・この化け猫は私が退治する」

「すみれ様・・・大丈夫です・・・ちょっと驚いただけですから」

「でも・・・」

黎は妖力を行使する。

「さあ・・・正体を現わしにゃさい・・・え・・・にゃんだ・・・にゃにをいっているのにゃ・・・わにゃしは・・・」

「少しろ・・・可愛くしてさしあげました」

「にゃに~・・・にゃんだ・・・これは~」

戦意を挫かれて・・・休戦する早雲だった。

お茶の間の三人・・・。

「これは私が願ったことなんです・・・」

「にゃんと・・・」

「お待ちください・・・今、術を解きますので・・・」

「・・・すると・・・偶然・・・かきつばたの屏風の呪縛を解き放ってしまったと・・・」

「はい・・・黎さんは・・・悪い人・・・いえ・・・悪い化け猫ではありません・・・」

「・・・」

「察するに・・・なかなか徳を積まれたお方のようですな・・・遊園地に結界を張ったのもあなたでしたか・・・」

「さよう・・・この家に怪異が生じていたようなので・・・」

「ご心配をおかけして・・・申し訳ありません・・・」

「いや・・・如月さんが・・・侘びることではありません・・・とにかく・・・何か困ったことがありましたら・・・ご相談ください。今夜は遅いので・・・これにて失礼します」

「御苦労様でした・・・」

和解成立である。

「話の分かる方でよかった・・・」

「住職さん・・・いい人ですから」

平和的解決を望むもの同志の対話はスムーズに進むのである。

そこに・・・午後十一時の真白勇征(町田啓太)からのラブ・コールである。

「あら・・・どうしましょう」

ちょうど子の刻タイムですみれは澄に戻ってしまうのだった。

「これはこれは・・・真白様・・・遊園地では大変ご迷惑をおかけして・・・すみれ様をお世話していただきありがとうございました・・・今度はいつデートにお誘いいただけるのでしょうか」

「いえ・・・それは・・・いろいろと考えています・・・あのすみれさんは・・・」

「すみれ様は夜になると喉の調子があまりよくないのですが・・・」

「ゴホゴホ・・・ごめんなさい・・・お電話変わりました」

「大丈夫ですか・・・夜遅くにすみません・・・どうしてもすみれさんの声が聞きたくなって」

「まあ・・・」

「でも・・・無理をしないでくださいね」

「いえ・・・私も真白さんの声が聞けてうれしいです」

「今夜は・・・これで失礼します・・・あの・・・真白さんは・・・携帯電話は持たないのでしょうか」

「携帯電話・・・いつか持ちたいと思っていました」

「その・・・携帯電話を持ってくれたら・・・メールのやりとりとかが・・・できるのになあ・・・と思って・・・」

「メール・・・」

「それでは・・・おやすみなさい」

「おやすみなさいませ・・・」

昔の男の子はみんな女の子の家の電話がみんな母親の膝の上に乗っているのではないかと戦々恐々としていたものだ・・・。

わかるかな・・・わかんないだろうな。

赤頭巾ちゃん気をつけてかよっ。

文体がどうとか・・・サリンジャーがどうとかというよりも「そういう青春があった」ことを記録していることがすでに素敵なんだよな。

思い出したら胸が熱くなるものね。

・・・もういいか。

帰宅した早雲は不肖の息子である慶和(高杉真宙)がまたもや叶野りょう(梶谷桃子)を部屋に連れ込んでいるのを嗅ぎつける。

「帰りなさい」

二人のこれからいいところを許さない住職だった。

交際を開始したすみれと勇征は大学でも親密さを深めるのであった。

カチカチカチカチ・・・。

仲睦まじい二人に微笑む由ノ郷千明(秋元才加)と西原美緒(小槙まこ)・・・。

カチカチカチカチカチカチ・・・。

一方、女王様きどりの幸坂亜梨紗(水沢エレナ)の嫉妬の炎は燃えあがる。

カチカチカチカチカチカチカチカチカチ・・・。

シャープペンの芯がポトリと落ちる勢いである。

勇征のペンケースが綻んでいるのに気がついたすみれは・・・。

手作りの筆入れをプレゼントしようと思い立つ。

「なかなか積極的ですな」

「こんなことしか・・・思いつかなくて・・・それより・・・この間のことだけど・・・」

「願いが成就する・・・ことですか」

「はい」

「その前に・・・かきつばたの屏風は一対であることをお話しなければなりません」

「うちには・・・一つしかないけど・・・」

「封印を解くために鍵となる言葉がございます」

「言葉・・・」

「その言葉がなんであるか・・・私の口からは言えません」

「そうなんですか・・・」

「しかし・・・すみれ様が幸せを感じた時に・・・その言葉を口にすれば・・・もう一つの封印が解けるのです」

「私・・・もう充分・・・幸せですけど・・・」

「その言葉が発せられれば・・・私の婚約者が解放されます」

「黎さんの婚約者・・・?」

「はい・・・」

妖しく微笑む黎だった。

勇征のリクエストに応えるべく・・・携帯電話購入を目指すすみれ・・・。

困った時は由ノ郷千明である。

携帯電話購入のアドバイスを求めるのだった。

「これ・・・どうかしら・・・」

「そちらはシニア向けでございます」

結局、スマートホンを購入するすみれ・・・。

「すごく・・・難しそう・・・」

「すぐに慣れるわよ・・・」

「お手紙の方が早い気がします」

「相手に届くまでの時間を考えなさいよ」

「・・・あの・・・もう一つお願いがあるのですが・・・」

すみれは・・・生まれてから家業である花屋以外では働いたことがなかった。

アルバイトというものをしてみたかったのだ。

千明は自分のバイト先であるファミリーレストランを紹介する。

「いらっしゃいませ・・・」

ウエイトレスのコスプレ・サービスである。

オーダーエントリーシステムのハンディターミナルの操作に手間取るすみれだったが・・・長年花屋を手伝っていたので接客の技量は抜群なのだった。

「手書きのメモはダメよ・・・これには伝票としての機能もあるから」

「でも・・・難しくて」

「習うより・・・慣れろよ」

「はい・・・」

「でも接客には問題ないわね・・・経験あるの」

「花屋の手伝いをしたことがあるので」

「へえ」

千明の指導により・・・なんとか初日を乗り切るすみれ・・・。

一方・・・辻井健人(竹内涼真)は女王様のとりまきである菜々美(小池里奈)と玲那(谷川りさこ)に脅迫され・・・密偵を命じられるのだった。

化け猫よりも邪悪な人間たちである・・・。

帰宅したすみれは一生懸命、メールを作成して送信するのだった。

「携帯電話を買いましたそれから千明さんに紹介してもらってアルバイトを始めましたすみれ」

「ふふふ・・・全文・・・件名になってるよ・・・」

素朴なすみれの行為に・・・うっとりとする勇征だった。

心ある人々の交流の美しさである。

勇征は「もうすぐ仔犬が生まれる愛犬」の画像を添えて返信するのだった。

スマートホンの使い方を指南する勇征はカメラ機能について教える。

思わず花の写真を撮るすみれ。

すぐ横で中年女性が二人・・・花の写真を撮っていた。

「年取るとつい・・・花を撮っちゃうねえ」

「そうねえ」

自分の行為が・・・六十五歳のそれなのではないかとふと焦るすみれ。

「今度・・・家の猫の写真を送りますね」

「それも嬉しいけど・・・」

さりげなく自撮りでツーショットを撮影する勇征だった。

はじめてのツーショット写真に・・・ときめくすみれなのである。

「これも送ってよ」

「はい」

住職はすみれに研究の成果を伝える。

「寺に伝わる古文書では・・・どうやらかきつばたの屏風には秘密があるようです」

「そのことは黎さんもおっしゃってました」

「あの化け猫は・・・邪悪なものではないようですが・・・油断はできません」

「・・・」

「それに・・・あなたが・・・若返ったことは・・・森羅万象の理には・・・反していると言わざるをえません」

「・・・」

それが・・・特別なことであることを・・・すみれ/澄自身も承知しているのである。

しかし・・・願いが叶って若返ったことを否定する気持ちにはなれないすみれだった。

今・・・すみれは幸せを感じているのだ。

だが・・・無理なことを実現しているという思いがすみれの中でわだかまっているのも事実なのだ。

入浴中に・・・スマートホンの着信を知り・・・あわてて転倒したすみれは潜在する罪悪感により悪夢を見る。

自分の正体が六十五歳だと知られ・・・周囲に責められるのだ。

「まさか・・・君が・・・六十五歳だったなんて・・・」

勇征までが・・・すみれに冷たい視線を送る。

「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」

眼が覚めたすみれは絶叫する。

「気がつかれましたか」

「私・・・」

「風呂場で倒れていたのです」

「まあ・・・黎さん・・・私の裸を・・・」

「気にすることはありません・・・私は猫ですから」

「でも・・・恥ずかしい・・・」

六十五年間・・・他人に裸を見られたことのない澄/すみれだった・・・。

「ちょっと・・・ジュリちゃ~ん・・・」

「すみれ様・・・」

「添付はどうすれば」

「すみれ様・・・」

「送信って何かしら」

「すみれ様・・・」

主従関係も深まり、桐谷慶子と松坂美玲がクロスオーバーするのである。

すみれのアルバイト姿を見るために勇征は健人とファミレスにやってくる。

制服マニアなのである。

店内に怪しい二人組がいる場合は要注意である。

連続暴行魔かもしれないからかっ。

配役で犯人が判るヒガンバナのことはもう忘れたまえ。

しかし・・・健人はマウンティングトリオに情報漏洩をしているのだった。

「バイト・・・何時まで」

「十時半です・・・」

「終わったら送って行くよ」

「え・・・」

いや・・・午後十一時にあれなのに・・・十時半まではヤバイだろうと騒然とするお茶の間。

しかし・・・うっかり変身もののヴァリエーションとして楽しむしかないのだな。

さらに・・・事態を紛糾するためにやってくるおバカ女子大生トリオである。

「終わったら・・・カラオケいきましょうよ」と女王様。

「俺はパス」と勇征。

「私もちょっと・・・」とすみれ。

「感じ悪いわね」とバカトリオ。

感じ悪いのはお前たちだと騒然とする一部お茶の間・・・。

あさましい・・・と言えば・・・心の汚れた様子が見て取れる状態が現代では意味として通じる。

しかし・・・本来は・・・死んでいるという意味である。

つまり・・・残念なことになっている状態なので・・・そのままにしておけば腐敗し・・・惨状を呈するわけである。しかし・・・死んでいるのでもうそれ以上は悪くならないという意味も含んでいる。それが・・・無惨なのである。

死を忌む考えから・・・それはやがて見苦しいもの・・・嘆かわしいことへと変容していく。

逆に言えば・・・必ず死ぬ人間はすべてあさましいのである。

しかし・・・バカトリオがことさらにあさましく感じるのは・・・美しく生きようとする姿勢に欠けているからとも言える。

やがて・・・腐敗して朽ちていく人生なので生きている間は清々しくしようという気持ちが・・・人の行いを正すのだから・・・。

バカトリオをあさましく感じる社会はそれなりに美しさを孕んでいる。

ドタバタ仕掛けの仕上げとして「遅番の子が来ないので残業をお願い」する店長。

ついにいつか遅番の子が来なかったのを思い出してきっと泣いてしまう展開である。

午後十時五十五分・・・。

「店長・・・あの私・・・そろそろ・・・」

「あ・・・今、遅番の子が来たから・・・どうもありがとう・・・トイレの備品をチェックしたらあがってください」

先週に続いて・・・トイレで澄に変身するすみれだった。

ここは好みの分かれるところだな・・・あまり芳しいとは言えないからな。

しかし・・・ギャルはトイレで変身するものだしな。

ついでに言うが澄とすみれのスリーサイズチェンジに伴う衣装チェンジには黎の妖力が介在しているのは言うまでもない。

考え過ぎるな・・・感じろ・・・なのである。

そもそも脳内記憶を肉体年齢の変更にも関わらず継続する「力」なのである。

元素転換など自由自在に決まっている。

トイレから登場した澄は用を足しにやってきた女王とりまきの菜々美と玲那をやり過ごす。

さらにすみれを捜しに来た勇征を突破する澄だった。

更衣室に戻って安堵したのもつかの間・・・。

遅番女子に発見される澄・・・。

「ど、泥棒・・・」

「いえいえ・・・この人は単なる迷子ですよ・・・私が連れて参りますので・・・あなたはフロアに戻りなさい」

「はい・・・ご主人さま」

黎の催眠術で操作される遅番女子だった。

「黎さん・・・」

「その姿では・・・目立ちますので・・・コートをおめしかえください」

どうせ・・なんでもできる妖力なので・・・まるごと老婦人用にチェンジしてもいいと思うのだが・・・現場の着替えが大変だからな。

大女優だからな。

店の外ですみれの出待ちをする勇征に合掌し・・・逃亡する澄だった。

「真白さん・・・ごめんなさい・・・」

帰宅した澄は・・・筆入れ作りに励むのだった。

ファンシーなチェックのペンケースである。

澄/すみれが夜なべして筆入れ作ってくれた・・・。

どこかで誰かが歌っているようだ。

冬の愛のドラマも中盤戦・・・いろいろとかぶるのである。

百円ショップで見かける紙袋にプレゼントを包み入れ・・・大学に出席するすみれ。

しかし・・・今回は男友達に囲まれ・・・なかなか手渡すチャンスに恵まれない。

「長期休暇にどこか・・・行かない」

「ニュージーランドなんてどうだ」

「いいねえ」

なかなかにゆとりある学友たちである。

廊下では男子学生が女子学生にプレゼントされた高級腕時計を自慢する。

「凄いな」

「お返しは倍返しだから・・・大変だよ」

携帯端末で勇征に連絡をとろうとしたすみれの前に女王様登場。

「その紙袋なによ・・・」

「これは・・・」

いきなり・・・中身を検める女王様・・・どんな権限なんだよ。

「何よ・・・これ・・・まさか・・・こんなものを・・・真白くんに贈るつもり」

「・・・」

「こんなのもらって・・・真白くんが喜ぶとでも・・・」

「・・・」

「あんたに・・・真白くんと付き合える資格なんてないのよ」

「・・・」

「私はあきらめていないわよ・・・必ず真白くんを取り戻してみせる」

いや・・・最初からお前の持ち物じゃないだろうとブーイングする一部お茶の間・・・。

あさましいのである。

女王様はすでに死んでいるのだ。

しかし・・・こういう心の賤しい言葉も・・・時には社会のカンフル剤となる。

罵れば罵るほど・・・女王様は泥沼に沈み・・・罵りの言葉が罵る相手を勇気付けたりする。

憎しみは自分の首を絞め・・・相手を利する感情なのである。

なんてったってあさましいのだから・・・。

だから・・・愛する人につい憎まれ口というのはツンデレのスタイルとしても成立するのだった。

可愛さあまって憎さ百倍も同様である。

つまり・・・「死ね」というのは「死ぬな、生きろ」と同じ意味なのだ。

プレゼントを渡せぬままに・・・アルバイトに出るすみれ・・・。

そこに・・・孫を連れた吉田芳江(立石涼子)が現れる。

よっちゃんこと芳江は澄の高校まで仲良しだった幼馴染みである。

(よっちゃん・・・)

「あっ」と驚く芳江・・・そこに・・・半世紀近く音信普通だった幼馴染のそっくりさんがいたからである。

「あなた・・・澄ちゃん・・・いえ・・・そんな馬鹿なことはないわね・・・ごめんなさい」

芳江は息子夫婦と・・・孫と一緒に夕食をとりに来店したのだった。

澄は・・・大学に進学した芳江がうらやましく・・・まぶしくて・・・ずっと会うのを避けてきたのである。

芳江は結婚して・・・子供を産み育て・・・今では孫もいるお祖母ちゃん・・・。

すべて・・・自分の人生とは無縁のものだったと・・・すみれ中の澄の心は揺れる。

料理を注文する声が遠ざかるすみれ・・・。

しかし・・・ハンディターミナルの便利さがすみれを救うのだった。

使い方を習得すれば・・・頭を使わなくてすむのである。

平静を取り戻そうとするすみれを帰り際のよっちゃんが襲う。

「あの・・・あなた・・・私の幼馴染にとても似ていらして・・・他の店員さんに名前を聞いたら如月さんと・・・失礼だけど・・・如月澄さんをご存じではないかしら・・・」

「澄は・・・親戚のものです」

「まあ・・・澄ちゃん・・・お元気なのかしら・・・」

「はい・・・」

「今はどこにお住まいか・・・ご存じ・・・」

「今は少し・・・遠方に・・・」

「そう・・・あの・・・これ・・・私の連絡先・・・澄ちゃんに会う機会があったら・・・私が会いたがっていたと・・・お伝え願えませんか・・・」

「・・・はい」

しかし・・・よっちゃんに対する複雑な感情が爆発し・・・精神状態が不安定になるすみれ・・・。

そこに黎が登場する。

「すみれ様・・・申し訳ありません・・・すみれ様はあまりお丈夫でないので・・・」

「あら・・・」

「今日のところはこれで・・・」

「お仕事中にお引き留めして・・・すみません・・・」

公園のベンチで黎に慰められ号泣するすみれ・・・。

「大丈夫ですか・・・すみれ様」

「ごめんなさい・・・なつかしくて・・・うらやましくて・・・なんだかくやしくて・・・申し訳なくて・・・どうにもならないあさましい気持ちになってしまったの・・・でも・・・泣いてスッキリしました」

「それは何よりです・・・」

黎の瞳にあさましいものに対する憐憫が浮かぶ・・・。

それは慈悲の心である。

「私・・・勇気が出ました・・・願いが叶って・・・こうしているのに・・・やるべきことをやらないのは・・・卑怯ですもの」

「・・・」

「私・・・ちょっと行ってきます」

「お気をつけて・・・」

すみれは勇征を呼びだして・・・筆入れを渡すのだった。

「つまらないものですが・・・」

「これは・・・君の手作り・・・」

「はい」

「こんなにうれしい贈り物をもらったのは・・・生まれて初めてだよ・・・ありがとう・・・如月くん」

「真白さん・・・」

見つめ合う二人・・・。

「はい」

「私・・・他の誰よりも・・・真白さんをちゃんと好きですから・・・これからもよろしくお願いします」

「如月くん・・・」

思わず距離をつめる勇征。

処女なので・・・怯えるすみれ・・・。

その額に優しく口付ける勇征だった・・・。

思わず感激の涙を流すすみれだった。

生まれて初めてのキスに腰の抜けそうなすみれなのである。

その手を握り勇征は囁く。

「仔犬が生まれたんだ・・・今度・・・見においでよ」

「はい・・・」

二人は手を繋いで家路につく。

午後十一時には・・・まだ間があったらしい。

「お帰りなさいませ・・・」

「はい・・・」

「何かいいことがありましたか」

「いやだわ・・・黎さんたら」

「いつも・・・ありがとう・・・黎さん」

「いえ・・・すみれ様は私のあるじ様ですから・・・」

絶妙の主従である。

想像以上の真白家の豪邸ぶりに驚くすみれ・・・。

しかし・・・真白はにこやかに・・・すみれを迎え入れる。

「うちのアンディは・・・なぜか蔵で出産しちゃって・・・」

「蔵・・・」

「うん・・・いつもは近付かないのに・・・仕方なく・・・今は蔵で飼っている」

蔵の中に潜む母犬と仔犬。

「かわいい・・・」

「難産だったんで心配したんだ」

「無事に生まれてきてよかった・・・」

何気なく口にしたすみれ・・・。

「生まれてきてよかった」・・・それは人生最良の時に発する言葉の一つである。

たちまち・・・反応する蔵の中の「かきつばたの屏風」・・・。

「なんだ・・・」

怪しい妖気が蔵にたちこめ・・・大地は蠢動する。

「え・・・」

ふりかえると・・・そこには・・・妖艶な女性が立っていた。

これこそが・・・黎の許嫁・・・雪白(小西真奈美)である。

「あ・・・屏風の白猫がいなくなってる」

「それでは・・・この人が・・・」

屏風の中の猫が消えて女が出てくるなんてありえないという人はご遠慮ください。

これは・・・そういう「話」ですから~。

一対のかきつばたの屏風をそれぞれが伝承する如月家と真白家・・・両家にはどんな因縁があるのか・・・そして・・・すみれの恋はどこが成就のポイントなのか。

やはり・・・処女だけに・・・初夜なのか・・・。

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受信: 2016年3月 3日 (木) 17時58分

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