私の罪を若さだと云う人もいれば私の魅力を若さだと云う人もいるのね(長澤まさみ)
物語の中で人が感じる世界のカタチはそれぞれである。
たとえば・・・世界というものが・・・人を矯正するというイメージを抱く人がいる。
その遠因を徳川幕府による長い平和体制によるものだと推察する人もいるだろう。
きりという登場人物のキャラクターはそういう考え方へのアンチテーゼとして捉えることができる。
戦国時代が不自由な時代だったと・・・考えるのは愚かなことだからである。
すべての人間に忍従することを求めたのは絶対的支配者となった徳川家康なのであって・・・それ以前のこの国のカタチはそうではなかったということである。
つまり・・・きりがおかしいと感じる人は・・・そういう前提を知らない教養のない人だと考えることができるわけである。
もちろん・・・それもまた「考え方」の一つに過ぎない。
「男たちの世界」に女性が同席することがすでにおかしいという考え方もある。
今回・・・身分を越えて主筋の信繫と親しくするきり(真田家家老の娘)を複雑な表情で見つめる一門衆(分家)でありながら家臣である矢沢三十郎頼幸(頼康)の眼差しは実に意味深いものであった。
うらやましさと蔑みの入り混じった目。
男と男では越えられない壁を越える女への・・・嫉妬と・・・男ではないことによる軽蔑。
人はそれぞれの視点で世界を見るのだった。
この一点をさりげなく描いているだけでも・・・本年度大河ドラマの凄みを感じる人もいるだろう。
で、『真田丸・第14回』(NHK総合20160410PM8~)脚本・三谷幸喜、演出・木村隆文を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は真田昌幸の叔父にして沼田城主の矢沢頼綱の嫡男・矢沢三十郎頼幸と真田家家老(ドラマでは筆頭家老ポジション)の高梨内記の娘で真田信繁の側室の一人となるきり(仮名)の二大描き下ろしイラストでお得でございます。信繫のお目付け役設定の頼幸(頼康)も第一次上田合戦や、沼田城防衛戦では・・・バリバリ活躍しているので・・・そろそろお役御免。代わってお供にきりが配させるという絶妙な展開ですな。きりと三十郎はここまでも信繫をめぐって三角関係のような間柄を醸しだしているので・・・このバトンタッチはなんだか華麗な感じさえ漂っておりました。一方で家康VS秀吉の仁義なき戦いに・・・石川数正出奔事件の影で暗躍した真田信尹を絡める・・・用意周到さ・・・圧巻でございました。上杉主従の上洛と信繫の秀吉への人質化がスムーズに展開する・・・最愛の側室の死というフィクション。本当に凄い手際です。何かに憑依されたような完成度でございますねえ。そして・・・暗示される・・・後北条家の没落の気配・・・。そして・・・黒い大阪城に待ちうける「人を不快にさせる・・・何かを持っている」石田三成、十年前に見たかった茶々、どうやら真田昌幸の妻・薫(仮名)とは縁も所縁もない設定の三成の妻・うた、すでに悲しい感じの片桐且元、やんちゃな加藤清正、そして・・・せわしない感じの豊臣秀吉・・・。一瞬で漂う存在感・・・脚本家が分かって書いているって素敵なことなのですな~。
天正十三年(1585年)三月、正二位内大臣に叙任された羽柴秀吉は紀伊国に侵攻して雑賀党の首領・鈴木重意を謀殺する。七月、秀吉は関白宣下を受け、四国をほぼ統一していた長宗我部元親を降伏させ土佐一国を封ずる。石田三成は従五位下治部少輔に福島正則は従五位下左衛門大夫に加藤清正は従五位下主計頭に片桐且元は従五位下東市正に加藤嘉明は従五位下左馬助に大谷吉継は従五位下刑部少輔に叙任される。八月、秀吉は越中国富山城の佐々成政を十万の大軍で包囲し降伏させる。十一月、徳川家康の家臣・石川数正が出奔して秀吉に帰属する。真田昌幸は秀吉に臣従のために信繫を人質として差し出すことを検討。天正大地震により前田利家の弟・秀継は倒壊した越中国木舟城で圧死。天正十四年(1586年)一月、一説によれば石田三成は島左近を登用。定説によれば左近は筒井定次、蒲生氏郷、豊臣秀長、豊臣秀保の家臣を経て天正十九年頃に家臣となったとも言われる。秀保は文禄四年まで存命であり・・・その後だった可能性もある。同様に秀保の家臣である藤堂高虎がすでに天正十四年に一万石の大名になっており・・・秀吉家臣団の主従関係は流動的だったという考え方もある。六月、上杉景勝は上洛し、秀吉に臣従する。
真田信繁が人質として大坂城に入ることが決まり、昌幸は従者として真田佐助とお峰(霧隠才蔵)をつけることにした。二人は信繫の異母弟妹である。
この他に上野鈴木氏の出自を持つ鈴木孫七、吾妻衆の割田下総守、雁ヶ沢の横谷庄八郎、祢津潜竜斎の娘のお龍、高梨内記の娘でお桐、唐沢玄蕃の娘のお久が選ばれた。
いずれも忍びのものである。
真田の隠れ里で鍛錬された忍びやくのいちは役行者に発し源義経を経た修験の術を身につけている。
四人の忍びと四人のくのいちは信繫とともに信濃山中を抜け、美濃を目指す。
装束を武家に改めた一行は冬景色の街道を進み、織田信雄の領地を抜け、近江国に入っていた。
「送り狼がついてきているな」
信繫は琵琶湖の畔で佐助に囁いた。
「美濃にいた徳川の伊賀者でしょう」
「だが・・・先程から・・・人数が増えておるようじゃ・・・」
「信繫様の顔を見て・・・密殺をする気になったのかもしれませぬ」
「今日はこの辺りで泊まるつもりだったが・・・せっかくだ・・・このまま夜行するとしよう・・・やつらが仕掛けてきたら・・・もてなしてやるがよい」
「御意にござる」
月影の中・・・信繫を中央に置いた九つの影法師が人気の途絶えた街道を速足で通りすぎる。
銃声が響いて、中央の影が揺らぐ。
続けて鉄砲が放たれ、前後の影が倒れて行く。
すべての影が倒されると静寂が訪れた。
「仕留めたか・・・」
「他愛もない」
待ち伏せていた伊賀の鉄砲忍びたちの一人が・・・骸を検めるために闇の中から現れる。
突然、影法師が起きあがる。
「お・・・」
不意をつかれた伊賀者はあわてて背負うた忍刀を抜刀する。
しかし・・・その時には胸に槍が突き刺さっている。
その衝撃に周囲に潜んでいた伊賀者たちの息が乱れた。
九つの黒い影が飛翔し・・・伊賀者たちに襲いかかる。
第二射を用意していた鉄砲忍びたちは向かってくる影に発砲するが手応えはない。
「はっ」
気合が発せられ・・・正体を明かした伊賀者たちの心臓に襲いかかる。
各所で苦悶の声が上がり・・・再び静寂が訪れる。
真田の忍びたちは・・・姿を消した穏形のまま戦闘する技術を身につけている。
彼らは布をつかったくぐつ(人形使い)の術で・・・伊賀者に幻影をみせ・・・気配を消したまま忍びより・・・それぞの武具で相手を仕留めていた。
「真田流・・・影斬りの術か・・・」
遠方から心眼を使って様子を窺っていた服部半蔵は呟いた。
「やはり・・・うかつには手が出せぬ・・・」
駿府城の家康の元に戻った半蔵は・・・失敗を報告する。
「山を出れば・・・仕掛けることもできるかと量りましたが・・・甘うござった」
「よい・・・これで真田に暗殺は通じぬと断じることができた」
家康は半蔵を咎めなかった。
「ひとまず・・・真田との戦は終いじゃ・・・」
真田昌幸は佐久を攻めている。
家康は諏訪城や小諸城などの戦線を縮小することに決めた。
「北信濃は・・・しばらく真田に預けておくことにするがよかろうず・・・」
家康は辛抱強さには自信があった。
当たって砕けぬからには・・・時間をかけて裂くしかないのである。
家康は城内に幽閉中の真田信尹に狙いを定める。
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