ラヴソング(福山雅治)僕は出て行く見知らぬ街へ(藤原さくら)
500マイルはざっと800キロメートルで・・・およそ東京と広島の間の距離くらいである。
回想シーンでヒロインは広島県出身であることがわかるのでそういう意味も含まれる。
ヒロインの歌う「500マイル」は米国のシンガー・ソング・ライターであるヘディ・ウェストの「500miles」(1961年)を忌野清志郎が訳詞したもの。清志郎が細野晴臣、坂本冬美と組んだユニット「HIS」のスタジオ・アルバム「日本の人」(1991年)に収録されたナンバーである。
原曲は・・・失業者のあふれる恐慌時代に・・・仕事を求めて放浪する労働者を歌ったものだが・・・やむにやまれぬ事情で故郷を離れる心情は普遍的なものと言えるだろう。
特に「フクシマ」がある今は。
そういう意味では・・・月9の前作「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」と通じるテーマを持っていると言える。
しかし・・・「いつ恋」は「恋」だけが・・・「救い」という究極のラブ・ロマンスだったが・・・こちらは「最愛の人」を失った男と・・・「世界」から捨てられた上にハンディキャップを背負った女が「歌」で結ばれるという甘めの仕上がりを予感させる。
ずるい展開と言えるだろう。
まあ・・・泣いちゃいますけどね。
かわいい声で「500マイル」は反則ですからね。
で、『ラヴソング・第1回』(フジテレビ20160411PM9~)脚本・倉光泰子、演出・西谷弘を見た。新人脚本家の・・・みずみずしい本格デビューである。誰にだってはじめてというものはあるわけで・・・ベストを尽くせば初々しさがすべてを超越していく。いいじゃないか・・・巨匠には書けないピュアな恋の話があったって・・・。どうせ・・・フィクションなのである。
女に期待させるだけさせておいて・・・朝のお勤めに応じない神代広平(福山雅治)はビンタと共に「住まい」を失うのだった。
まあ・・・「最低」なので仕方ないのだった。
広平は愛用のギターをとりあえず笹裕司(宇崎竜童)の経営するライブハウス「S」に預ける。
笹とは腐れ縁らしい。
とりあえず・・・仮初の住居を求めて・・・昔のバンド仲間である宍戸夏希(水野美紀)の部屋に転がり込む広平。
夏希とも腐れ縁らしい。
自称・ミュージシャンである広平にはおそらく輝いていた時代があったのだろう。
その栄光の終焉は・・・夏希の姉である宍戸春乃(新山詩織)と無関係ではないのだろうが・・・春乃は未登場で・・・死んでいるのかもしれない。いや、追悼されているで死んでいるのだろう。ゾンビものではないのでずっと死んでいると思われる。
夏希は・・・明らかに広平に男を感じ、広平の寝顔で濡れてしまう様子だが・・・きっと「姉の彼氏に手が出せない」ジレンマを抱えているので・・・独身なんだな。
ミュージシャンとして食えるほど成功しなかった・・・夏希の現在の職業は言語聴覚士である。ヒロインの特性から考えると恐ろしい偶然と言えるかもしれないが・・・逆に・・・だからこそ関係が成立したという無難さもある。
なにしろ・・・主人公の広平の職業は・・・臨床心理士なのである。
基本的には「ヒモ」なのだが・・・「自称・ミュージシャン」で「ヒモ」ではなくて・・・「臨床心理士」で「ヒモ」なのである。
臨床心理士の賃金に問題があるということなんだな。
そのために・・・広平は・・・総合病院に勤務しながら、パートタイムで中古車整備・販売会社「ビッグモービル」の心理カウンセラーとして雇われている。
「ビッグモービル」の整備部で働いているのが・・・妖しい中国人・李朱美(高畑淳子)だった。
違うぞ・・・自動車整備士の佐野さくら(志村美空→藤原さくら)だった。
さくらは言葉が円滑に話せない小児期発症流暢障害(吃音症)であり・・・どもってしまうことを惧れて・・・言葉を発せないコミュニケーション不全に陥っていた。
工場長の滝川(木下ほうか)は思慮深いとは言えないタイプなので・・・さくらの苦境を・・・単なる対人関係が苦手なタイプの我儘としか理解できない。
滝川は・・・新人の高橋正志(阪本奨悟)が不注意から事故を起こしそうになった時も・・・発声で注意喚起できなかったさくらをもてあまし・・・カウンセリング・ルームに連行するのだった。
「なんとかしてくださいよ・・・」
「・・・はい」
広平はさくらに話しかけるが・・・応答はない。
「・・・」
「今日は・・・どうしましたか」
「・・・う・・・」
「話す気になったら・・・話してください」
さくらにお茶を勧める広平。
その熱さに思わず・・・「熱い」と言おうとして言えないさくら。
「・・・あ・・・」
「すみません・・・水を・・・」
「・・・い・・・」
広平は直感的にさくらの吃音(どもり)を察知する。
さくらは・・・涙を流していた。
広平はティッシュを勧めるが・・・さくらは汚れた手袋で顔を拭ってしまう。
「黒くなってますよ」
「・・・」
「よろしいですか」
広平は湿らせたティッシュでさくらの顔を拭う。
「・・・」
「きれいになりましたよ・・・」
「・・・あ・・・」
ついにさくらは部屋から逃げ出そうとした。
しかし、ドアは開かない。
「あ・・・それ・・・引くんです」
男と女が出会ったらしい。
帰宅したさくらは少し嬉しげである。
部屋には中村真美(西條妃華→夏帆)がいる。
真実に心を許しているさくらは饒舌である。
「きききききききき今日、へへへへへへへへへ変な男に・・・・・・きききききききききれいっていいいいいいいいいい云われた」
「急がなくちゃ・・・今日、同伴なんだ」
真美はキャバクラ嬢なのだった。
二人は姉妹ではなかったが・・・親に捨てられた孤児仲間だった。
広島の児童養護施設で育ち・・・年上の真美は・・・いじめられがちなさくらを庇い・・・いつしか慕われていた。
親の血をひく姉妹よりも固い契りの施設姉妹なのである。
この他に同じ施設出身で・・・真実と頭突きで結ばれた天野空一(菅田将暉)も存在している。
しかし・・・真美はさくらに隠していることがあった。
新入社員の歓迎会のために・・・女子社員から幹事として指名されるさくら・・・。
さくらにとっては・・・苦手な交渉事である。
困惑するさくらに・・・真実は追い討ちをかける。
さくらを「ビッグモービル」に斡旋したのは営業部員の野村健太(駿河太郎)で・・・野村は真実の「客」だった。
しかし・・・野村の子供を身ごもった真実は結婚を決意していたのだ。
絶対的な保護者の喪失にうろたえる・・・さくら。
しかも・・・真実は・・・「あなたに結婚式でお祝いのスピーチをしてもらいたい」と無理難題を告げる。
錯乱して町へ飛び出したさくら・・・。
広平と偶然・・・再会するが・・・駐輪場の自転車を倒しただけで終わる。
帰宅した・・・さくらに・・・真実が言葉をかける。
「ごめんね・・・馬鹿だろう・・・子供を作るなんて・・・親に捨てられた私が母親になれるかどうか・・・わからない・・・でも・・・お腹の中にいるのは・・・豆粒みたいに小さくて・・・なんだか・・・かわいいんだよ・・・あのね・・・スピーチは無理しなくていいよ・・・」
「・・・」
さくらは・・・決意して・・・歓迎会の会場予約に挑戦する。
空一と繰り返す・・・電話予約の練習。
偶然・・・事情を知った広平は・・・会場予定の居酒屋で見守るのだった。
直接、居酒屋を訪れたさくらはついに「予約作業」を口頭で完了する。
微笑む広平。
屋上の喫煙スペースでさくらは鼻歌を奏でる上機嫌・・・。
何かが空にとけていくような気分。
広平は盗み聞きをして微笑む。
しかし・・・直後・・・現れた女子社員たちは・・・さくらの報告を鼻で笑い・・・予約をキャンセルし・・・別の店を予約するのだった。
すべては・・・陰湿な嫌がらせだったのである。
いつもの「世界」の仕打ちに激しく傷つくさくらは・・・無断欠勤してしまう。
野村からの報告を受け・・・出勤途中から引き返す真実は・・・ゲームに逃避するさくらを叱責する。
「どうして・・・辛抱しないのさ・・・」
「・・・ききキャバクラ嬢の・・・せせせ説教かよ」
「なんだって・・・」
「・・・」
「言いたいことがあったら・・・はっきり云いな」
「いいい言ったってななな何もかかか変わらない・・・」
「そんなの・・・言ってみなきゃ・・・わからないだろう」
「やややややめて・・・けけけけ結婚なんて・・・・やややややめて」
「・・・」
さくらは家を飛び出した。
事態を把握している広平は・・・さくらの家に向かう途中で・・・踏み切りに飛び込もうとするさくらを発見。
「やめろ」
「ほほほほほほほっといて・・・」
揉み合う二人をかけつけた空一が発見。
「てめえ・・・なにしてんだ」
広平は・・・空一の頭突きで天国を見るのだった。
三人は・・・夏希の診療室を訪れる。
「この人が・・・一応専門家だ」
額から血を流し・・・広平は云った。
「ふん・・・俺は謝らねえぞ」
額から血を流し・・・空一は部屋を出ようとした。
しかし・・・扉は開かない。
「それ・・・押すのよ」
夏希は・・・空一に好意を抱いたらしい。
「ゆっくりと・・・訓練するしかないの・・・」
「・・・い・・・」
「リラックスして・・・話す訓練をね・・・楽しいことを考えて」
「音楽なんてどうかな」
「そうね・・・音楽療法は直接的なアプローチではないけれど・・・メロディーやリズムで発声をしやすくするという言語療法もないことはないわ・・・」
「・・・」
夏希がお手本を示すが・・・さくらの口はもつれてしまう。
静寂の後で・・・さくらはか細い声で歌い出す。
それは・・・愛する真実と共に過ごした時間を想起させる歌・・・。
チケットなんて買わねえよ
もうすぐ貨物列車がやってくらあ
こっそりもぐりこむだけさ
500マイルもただ乗りして
知らない町に着いたなら
生きるために稼ぐのさ
500マイルも揺られた後で
仕事があればめっけもの
人間は辛抱が肝心なんだ
辛抱して辛抱して辛抱して
また500マイルの夢心地・・・
広平はさくらの歌声に痺れるのだった。
気持ちよく歌ったさくらは・・・晴れ晴れとした気持ちになる。
季節は春。
風が桜を散らしていく。
花弁を食べて桜は笑う。
さくらの花はさくらの花の味がします。
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