才能泥棒(黒木華)道具屋だよ(オダギリジョー)シーソーゲーム(ムロツヨシ)真剣勝負(永山絢斗)普通が一番(蒔田彩珠)
落語愛好家のアシスタントが聞いているのは「道具屋」である。
一種の古道具を売るお店をまかされた若者が・・・「ろくでもない商品」を客に売り付けようと悪戦苦闘する「話」である。
編集者を道具屋、漫画家を道具と考えれば・・・そのビジネスのあらましが分かるわけである。
最期に御隠居さんが客として現れ・・・汚れた笛の穴に埃が詰まっていることに難癖をつける。
しかし・・・穴につっこんだ指がぬけなくなってしまう御隠居。
「困りますね・・・売り物なのに・・・」
「仕方ない・・・買い取るよ」
そこで高額をふっかける道具屋。
「お前さん・・・足元を見るんじゃないよ」
「いいえ・・・手元を見ました」
お後がよろしいようで・・・。
漫画家も役者も「才能」が売り物である。
それを売ろうとする編集者やマネージャーがどちらも人間であることは・・・厄介だが面白いのだった。
で、『重版出来!・第7回』(TBSテレビ20160524PM10~)原作・松田奈緒子、脚本・野木亜紀子、演出・塚原あゆ子を見た。現場から離れて二十年以上経つのに時々・・・昔の夢を見る。そんな出来事はなかったのに渋谷のスタジオで大物芸人に頼まれてスポーツ新聞を買いに行くというのが定番で・・・物凄い冒険が始るのだ。コンビニまでが遠い道程なのである。今日なんか銃撃戦に巻き込まれて危うく死ぬところだった。「ラヴソング」や「重版出来」などの業界もののドラマを見ている影響だろうか。タレントと所属事務所の軋轢の噂などもなんらかの残滓となっているのだろう。まあ・・・昔と比べたらかなり普通になっていると思われる芸能界で・・・相変わらずの茶番劇が展開されているのかと思うと心が騒ぐのかもしれない。人間は基本的に馬鹿だからなあ。そこが面白いのかもしれないけれどね。道具は道具として徹すればいいとも思うし・・・あまりにも道具扱いじゃかわいそうだしなあ。
週刊コミック誌『バイブス』で新人賞を受賞した「ピーヴ遷移/中田伯」は読み切り掲載だったらしい。
つまり・・・中田伯(永山絢斗)は三蔵山(小日向文世)のアシスタントとして修行中の身の上なのである。
しかし・・・素人同然の画力や基礎知識のなさに・・・指導する万年アシスタント・沼田(ムロツヨシ)・・・二十年間デビューできない男・・・は時々・・・絶句するのだった。
「一点透視・・・って何ですか」
「そこからかよ」
だが・・・心から漫画を愛するムロは・・・面倒な後輩を同業の仲間としてなんとか受けとめようとする。
「遠近法というものがあってな・・・」
沼田も中田と同じように二十代で新人賞を受賞した過去がある。
「えんきんほう・・・」
しかし・・・本格的な作品を発表する機会を得ないままに二十年の歳月が過ぎ去ったのだ。
「このまま・・・一生デビューできなかったりしてな」
「冗談でもそういうことは言わない方がいいですよ・・・言葉には力がありますから」
「トリックかよ」
「ボクを育てたじいさんも・・・ある朝・・・もうダメだ・・・死ぬと言って死にました」
「それは・・・寿命だったんじゃないか」
自分には帰る場所もなく・・・漫画家になるしかないと思い詰める中田。
画力不足だけでもなく・・・精神的にも問題がありそうだった。
三蔵山夫人(千葉雅子)の手料理の感想を求められ・・・言葉を失い・・・「構わないでくれ」と席を立つ中田なのである。
「お前・・・先生の奥さんに失礼じゃないか」
「なんだか・・・煩わしくて・・・」
「え・・・お前だってお母さんがいるだろう・・・」
「いませんよ・・・」
「それは・・・すまなかった・・・でも思い出くらいあるだろう」
「僕の母は・・・いつも僕を犬の首輪につないでいましたよ」
「ええ」
「冗談です」
「えええ」
明らかに心に闇を抱える中田だった。
一方・・・印刷された出版物の売れ行き不振に悩む大手出版会社・興都館は過去の名作の電子書籍化を目論んでいた。
和田(松重豊)は「タイムマシンにお願い/牛露田獏」の電子書籍化の許諾を求め・・・黒沢心(黒木華)とともに・・・業界から消えた漫画家である牛露田宅を訪れる。
銀座の夜の店で札束をばら撒いていた過去を持つ牛露田獏(康すおん)だったが・・・その後ヒット作に恵まれず・・・「過去の人」となっていた。
集合住宅前で応答のない牛露田を待っていた二人は・・・牛露田の娘の女子中学生・後田アユ(蒔田彩珠)に出会う。
「アユちゃん・・・大きくなったねえ」
面識のある和田が声をかけるが・・・アユは素っ気ない態度で応じる。
「入れば・・・」
「お父さんはどこかに・・・でかけているのかな・・・」
「・・・」
「お母さんは・・・昔・・・よくカレーを御馳走になったもんだが・・・」
牛露田夫人の祥子(赤江珠緒)は遺影になっていた。
疎遠になっていたとは言え・・・和田・・・不義理過ぎるだろう。
「ダメ親父のせいで・・・母は働き過ぎで身体を壊し・・・死んだ」
「・・・」
そして・・・奥の座敷で・・・牛露田は飲んだくれていた。
「何の用だ」
「先生の作品を・・・電子書籍に・・・」
「一億持ってこい・・・」
「それは・・・少し法外です」
「俺の作品の値段は俺が決める・・・文句あるか」
交渉決裂である。
アユの前途を案じた心は・・・名刺を渡すのだった。
「何かあったら・・・どんなことでも構わないから・・・連絡してください」
まもなく・・・警察から呼び出される心。
公園で補導されたアユは母親として心を指名したのだった。
「何もしてないのに・・・」
「学校は・・・」
「球技大会だから・・・」
生活保護を受けているアユは・・・その件で学校でいじめを受けていることを心は察している。
「・・・」
「助かったよ・・・これでバイトに間に合う」
「バイトって・・・」
「新聞配達・・・」
心はアユをカフェに誘うのだった。
スイーツの注文に迷う心の姿は・・・アユに亡き母を思い出させる。
「一口あげようか」
「え」
「お母さんも・・・いつも迷ってた」
アユは微笑み・・・中学生らしい幼さを見せる。
「一口もらいます」
「あんな・・・ダメ親父さえいなければ・・・」
「でも・・・お父様は・・・素晴らしい漫画を描いて・・・たくさんの人を喜ばせていたんですよ」
「関係ないよ・・・」
「・・・」
「私は・・・普通がよかったよ」
言葉を失う心。
電子書籍化によって・・・牛露田家にもいくらかの収入がある・・・しかし・・・「過去の栄光の世界に住む天才漫画家」の説得は難航しそうな気配である。
「ピーヴ遷移」の連載化を目指す中田はネーム(下書き)ノートを心に持ち込む。
しかし・・・七冊目が欠けていることに気が着く心だった。
七冊目のネームノートを発見し・・・誘惑に負けて・・・それを読む沼田。
そこに「天才の狂気」を感受した沼田は恐怖した。
恐ろしいほどに開花している中田の才能というモンスターが・・・沼田には見えたのだ。
戦慄して・・・怪物に墨汁を投げつける沼田。
我に返った沼田は・・・ネームノートを汚してしまったことに慄く。
「嫉妬・・・嫉妬なのか・・・」
漫画家アシスタント・沼田渡の半生
地方の造り酒屋の息子に生まれた沼田は幼少期から漫画家を目指し、大学の漫画研究会でも抜群の才能を見せる。新人賞を受賞後・・・三蔵山のアシスタントとなり・・・デビューを目指しながら・・・二十年の歳月が過ぎ去った。
ネームを持ちこんでは編集者にダメ出しされ・・・師匠からは愛の鞭を受ける。
「この作品の主題は何なの・・・」
「主人公が自分とは何かを見つめることです」
「さっぱり・・・わからないな」
そして、四十歳になったのである。
一冊足りないネームノートを捜す中田・・・。
素知らぬ顔をする沼田だったが・・・アシスタントを支配する関白殿下にはお見通しだった。
だから・・・「真田丸」をまぜるな。
「返せるのなら・・・返してあげなさい」
「私は・・・」
「君は嘘をつくほど・・・子供だったのかい」
「・・・」
三蔵山は・・・嘘をついて中田にノートを返す。
「すまない・・・読んでいるうちに・・・うっかり墨汁をこぼした」
届けられたノートを見て・・・心を疑心暗鬼が襲う。
「新人アシスタントいじめ発生中・・・」
心はチーフ・アシスタントの沼田に事情を聴取する。
震える沼田の心・・・。
「中田くんは・・・奥様の仕業じゃないかって・・・言うんですけど」
「えええ」
「私も・・・まさかとは思うんですが・・・」
「彼は・・・母親との間に確執があったようなので・・・」
「やはり・・・おいたちに問題があるんでしょうか・・・」
「・・・」
追いつめられる沼田は・・・自分のネームノートを読んでいる中田を見て心をかき乱される。
「君が読んだって・・・つまらな・・・」
中田は泣いていた。
「お前・・・わかるのか」
「主人公は・・・自分が何者なのか・・・知りたいんですよね」
「・・・」
「すごいな・・・沼田さんの漫画は・・・」
沼田は・・・自分の漫画の読者を見出した。
そして・・・自分の怠惰を恥じた。
誕生祝いに実家から贈られた銘酒を師匠と酌み交わす沼田・・・。
「決心したのか・・・」
「私は・・・故郷に帰って・・・家業を手伝います」
「そうか・・・」
「自分の作品が・・・いつか理解してもらえる・・・いつかいい編集者にめぐり会える・・・いつか面白さを認めてもらえる・・・いつかいつかいつか・・・そうやって・・・本気で戦わないまま・・・四十歳になってしまったのです・・・理解してもらうためにはどうすればいいのか・・・面白さを認めてもらうために何をするべきか・・・自分と戦うことを避けて・・・」
「それが・・・一番・・・難しいのさ・・・」
「はい」
アシスタントたちにチーフの退職を告げる三蔵山。
「どうして・・・」と問いかける中田。
「卑怯者だったからさ・・・」
「・・・」
「お前のノートを汚したのは俺だ」
「・・・」
「どうしてだと思う?」
「絵が・・・下手過ぎてむかついたから・・・」
「違うよ・・・お前がうらやましかったんだ・・・帰る家のないお前が・・・ごめんよ・・・俺には帰る家があって・・・」
「アムロ・・・」
「ムロだけにね」
戸惑う中田に・・・沼田は「古典落語全集」をプレゼントした。
「結局・・・俺には無用のものだった・・・お前の役に立つといいけどな」
「・・・」
故郷に戻った沼田は・・・素晴らしいPOPを描く。
「上手ねえ」
「さすがだねえ」
「まるでプロみたい・・・」
「新酒出来!」・・・夢破れた寂寥感を胸に沼田の新たなる戦いが始ったのだ。
心は思う・・・私が二十年早く生まれていたら・・・沼田さんをデビューさせることができたのに・・・と。
「おいおい」とツッコミを入れる編集者一同だった。
「でも・・・漫画家さんと編集者って・・・子供とお母さんみたいだなって・・・」
「この処女がっ」
「小熊のくせに」
「くやしかったら、孕んでみろ」
正義漢とエイリアン(異邦人)の対峙か・・・・・・おいっ。何故「銀魂」をまぜるんだよ。
韻をふむならコレって感じなもんで・・・。
再放送中だからだろう・・・。
思い切って・・・沼田渡と牛露田獏の同世代設定にしてもよかったけどな。
アユの年齢から言っても牛露田獏は三蔵山世代ではないしな・・・。
天才になった男と天才になれなかった男の対比も効いたんじゃないか。
関連するキッドのブログ→第6話のレビュー
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コメント
昨夜はドラマの始まる前に6話を見直してました
キッドさんが1番胸を打たれた新人漫画家たちの
ペンを走らせるシーンが印象に残ってなくて
早く確認したかったからです
ほんの一瞬だったけれど ありました
もうB太なんて言ったら失礼ですね
徹底的に役作りされてる永山さんがいました
このドラマの割と早い段階から
アシスタントの沼田に自分を投影していたので
予告を見て彼が暗黒面に落ちる展開になったら
イヤだなと気になってました
墨汁をこぼしてしまったかもしれないけれど
沼田は最後まで彼らしかった
沼田のところに訪ねていた心が奥様を疑っているという発言をしたのも
ちょっと意表を突かれ 深いな と
というか もう泣けて泣けて ドラマが終わった後
目だけでなく鼻が真っ赤になるほど泣けて
朝起きたら目がしょぼしょぼしょぼでした^^;
このドラマのこと思い出すだけで涙が浮かんでくるので
もう生活に支障をきたしちゃってます💦
構成としては前回の方が緻密な気もしましたが
深く心に残る第7話でした
沼田が中田に別れを告げた後
角を曲がり信号が青に変わる
走ってきた心は沼田に追いつくことは出来ない
こういった演出が本当に好みで
しみじみと人生の悲哀を感じさせてくれます
最後の新酒出来‼︎ にも気持ちが明るくなりました
それにしてもこのドラマ
原作 脚本 演出
全部女性なのが驚きです
人の心の襞を丁寧に見せてくれて
忘れられないドラマになりました
投稿: chiru | 2016年5月25日 (水) 19時51分
シンザンモノ↘シッソウニン↗・・・chiru様、いらっしゃいませ・・・大ファン
若く優秀な脚本家が選択する要素と
中堅の優れた演出家の編集の妙が
素晴らしい出版社の人々が呑気に飲食している間にも
我を忘れて創作に没頭する人々がいることを
暗示しているわけです。
現場の本音を感じましたのでございます。
男女雇用機会均等化の世には
言いにくいことですが
女性の母性あるいは疑似母性本能のようなものが
心には結集していますよねえ。
漫画家を子供・・・編集者を母親に見立てるところが
哀愁の源でございます。
安井や和田は・・・ドライな男性の象徴で
漫画家を・・・「道具」として捉えている。
どうしてもそういう対比になりますね。
今回は三蔵山が優しい父親の象徴でしたねえ。
プロダクション・システムが確立していれば
世襲の問題はさておき
沼田のような人材は・・・
三蔵山の死後の作品管理も含めて
一般企業としては重役クラスのポジション。
しかし・・・あくまで三蔵山は
疑似息子である沼田に
自由な道を歩かせるのでございます。
それがまた三蔵山の素晴らしい人格を
示しているのですが・・・
これが・・・スタッフの思い描く
理想の父親像なのですな。
真摯に仕事に打ち込み
かなりの高収入を維持しながら
いつも家族のことを思いやっている・・・。
そんなパパがみんな欲しいのでしょう・・・。
沼田は基本的に「いい人」で・・・
自分の中に「嫉妬」だの「ないものねだり」だの
「臆病」だの「なまけもの」だの
ネガティブな感情があることに
打ちのめされてしまうわけです。
しかし・・・それはふつうにいい人なんですよね。
けれど・・・創作の現場では
そういう善良さが・・・足枷になる場合がある。
なにしろ・・・創作とはウソをつきまくることですからねえ。
そして・・・自分が正しいと思う道を突き進めば進むほど・・・折り合いをつけるのが困難になる。
キッドは演出家に台本の書き直しを命じられ
激怒して帰っちゃったことがあります。
大人げないのにもほどがあるわけです。
そこで歯を食いしばって書きなおすのも道ですし
何がいいのかは結果論でしかありません。
そうやって無数の選択肢の中から
成功を掴むこともあれば
大失敗に終わることもある。
成功しても・・・長続きしないこともある。
そういう険しい道を・・・
道具屋たちは「あきない」を合言葉に継続する。
男性たちはそういう意味ではビジネスライクですが・・・。
心は・・・少しウエットなのですな。
投稿: キッド | 2016年5月25日 (水) 21時47分