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2016年5月11日 (水)

努力できる才能(黒木華)運命という誘惑(オダギリジョー)自分の意志で何かを選択しているという幻想(永山絢斗)

「善」というフィクションは「悪」というフィクションと同じように厄介なものだ。

自分たちが善を行ってると信じて地下鉄にサリンを散布する馬鹿もいるわけである。

ギャンブルに費やす時間にアルバイトをすれば収入は・・・多くの場合、増収となるだろう。

しかし・・・七億円当たれば・・・ほとんどの人はもう働く気は起きなくなる。

それは・・・あくまで確率の問題である。

宝くじを買えば必ず当たり、健康で、百歳まで生きる人はいるだろうし・・・何もいいことがなかったまま早世する人もいる。

早死にすれば・・・楽しみも少ない代わりに苦しみも少ないというのは一種の慰めに過ぎない。

善行を積めば幸運が舞い込むというのは基本的に嘘である。

津波や地震に被災した人が全員悪人ではないのと同じようにだ。

しかし・・・そう信じることはできる。

信じるということは・・・つまり・・・少し、頭がおかしいことなのである。

で、『重版出来!・第5回』(TBSテレビ20160510PM10~)原作・松田奈緒子、脚本・野木亜紀子、演出・土井裕泰を見た。黒沢心(黒木華)は週刊コミック誌「バイブス」の編集者として・・・二人の漫画家の卵を温め始める。一人は画力が抜群の東江絹(高月彩良)、一人は絵は下手だが独特のセンスを持つ中田伯(永山絢斗)・・・。編集者として「新人賞」に応募する原稿について二人にダメ出しをする心だったが・・・東江の画力に目をつけた先輩編集者の安井(安田顕)は・ベストセラーの小説「ガールの法則/根本明吾」のコミカライズ(漫画化)のために東江を強奪する。育成途中のタマゴを奪われ・・・失恋に似た思いを感じる心だった。しかし・・・すべての編集者に見放された中田伯は・・・心一筋を貫くのだった。なにしろ・・・心しか相手にしてくれないので・・・。

柔道的精神で・・・上昇志向の強い心は上級者と認めた編集者・五百旗頭(オダギリジョー)のテクニックを盗むために徹底的な観察を開始する。

常に心の視線を感じる五百旗頭はノイローゼ寸前まで追い詰められた・・・おいっ。

一方・・・熱烈な阪神タイガースのファンである「バイブス」の編集長・和田(松重豊)は贔屓の阪神の敗北が精神的失調を引き起こすという自己管理能力に問題のある上司だった。・・・おいおいっ。

小料理屋「重版」で女将相手に五百旗頭の日常を語る心。

「すごく・・・小心者なんですよ」

「たとえば・・・」

「だれもいない交差点で赤信号で止まるんです」

「人間としては正しいでしょう」

「でもフランス人なら渡ると思います」

「おいおいおい」

五百旗頭は国際問題化を惧れる。

「僕は・・・小心者ではない・・・ただある人にあやかっている」

「つまり・・・ルーティーンってことですか」

「まあ・・・そうだな」

「誰に追従しているのですか・・・」

「社長だ」

「しゃ・・・社長?」

興都館社長・久慈勝(高田純次)の半生

戦後のどさくさの中で生まれた久慈は炭鉱夫だった父を幼くして病気で失った。学業の成績は優秀で教師からは進学を勧められたが、女手一つで久慈を育てた母親は学費の点で拒否した上に・・・久慈の中学の卒業式の日に・・・男と逐電した。

中卒の炭鉱夫となった久慈の気持ちは荒んだ。

そんなある日・・・川辺で釣りをする天使(火野正平)と出会う久慈。

「命が惜しかったら金を出しな」

「時代劇かよ」

「・・・」

「いいか・・・浮気をすれば浮名が流れる」

「なんだって?」

「それでひどい男だと思われるタイプと・・・かわいい奴と思われるタイプがいる」

「ですか?」

「あんたは・・・人を殺して刑務所に行くタイプと・・・殺し屋として成功するタイプ・・・どっちだと思う・・・?」

「・・・」

天使の問いに答えを見つけられなかった久慈は・・・自分の夢を求めて上京するのだった。

高度成長時代の東京・・・職に困ることのない日々。

飯場で学生アルバイトが読み終わった詩集をくれた。

「宮澤賢治は・・・岩手県を代表する詩人だが・・・生前に得た原稿料は五円だけだったと言うね」

「?」

「死んでからもてはやされてもつまらんね」

久慈は死者の言葉に酔った。

「雨ニモ・・・」

久慈はそういう人になりたいと思った。

安保の騒乱のドサクサにまぎれて出版社にもぐりこんだ久慈。

社会全体が荒廃する中で・・・久慈も酒と女とギャンブルに溺れる。

一攫千金を狙った久慈は・・・自宅が火事になり・・・生まれたばかりの子供と妻の安否が不明となった。

「真面目になるので・・・妻子だけはお救いください」

久慈は・・・天使に祈った。

「久慈さんの妻子は無事だった・・・それ以来・・・久慈さんはずっと真面目に生きている・・・するとたまたま担当した本がベストセラーになり・・・気がつけば社長になっていた・・・しかし・・・久慈さんが真面目をやめたら・・・奥さんと子供は・・・」

「ホラーですね」

「まあ・・・一種の強迫観念だよな・・・でも・・・そういう生き方で・・・幸せになれるなら・・・真似してみたくなるじゃないか」

「日本人がフランス人になる必要はないんですよね」

「おいおいおい」

宮澤賢治の「詩」によって「人間性」を獲得した久慈は・・・「出版」に「天意」を感じていた。

本もまた「生き物」なのである。

「売れる本」は長生きするし・・・「売れない本」は短命である。

「重版出来」は云わば・・・「本」の成人式なのである。

「売れない本はどうなるのですか・・・」

「売れることを信じて・・・しばらくは倉庫に眠る・・・しかし、本は次々に出産されるからね・・・倉庫代も馬鹿にならないし・・・やがて・・・天に召され・・・新しい本の材料として生まれ変わったり・・・トイレットペーパーになったりする」

「・・・」

在庫調整の日・・・久慈社長とともに・・・古紙再生の儀式に立ち会う心・・・。

そこでは・・・売れずに・・・読者とめぐりあわなかった本たちが断末魔の悲鳴をあげるのだった。

「これ・・・感受性の豊かな人は・・・トラウマになるんじゃ・・・」

「心の傷を背負って生きて行く方が・・・ロマンチックなんですよ」

社長の言葉に・・・心は「心の不在」を感じるのだった。

五百旗頭が担当する大塚シュート(中川大志)の初めての単行本の出版業務に参加する心。

五百旗頭は・・・人気デザイナー野呂(ヒャダイン)に作品を見せ、スケジュールを獲得する。

「つまり・・・割り込みですね」

「自分の担当作家のために・・・特別な配慮をする・・・天罰が当たらないように・・・プライベートでは絶対に割りこまない」

「結局・・・みんな・・・縁起担ぎなんですね」

「だって・・・何が売れるかなんて・・・本当は誰にもわからないから・・・」

しかし・・・野呂は絶好調の波にのり・・・心にもわかる傑作デザインを完成する。

「売れるデザインの秘訣はなんですか・・・」

「自分のベストを尽くすことです・・・」

「それが一番難しいんですよね」

「ええ・・・でも一生懸命やって・・・それでだめなら・・・あきらめがつくでしょう」

「はい」

柔道家であった心には分かる。

努力が実るかどうかは別で・・・努力しなければ何も始まらないのである。

相手が嫌な顔をしてもダメ出しを続け・・・ダメを出されてもあきらめない。

心と中田は根性の二人三脚でついに・・・「原稿」を完成させる。

編集会議で・・・「新人賞」の受賞作が選考される。

中田の作品は・・・賛否が分かれる。

「この絵で受賞したら・・・バイブスの値打ちが下がる」

「こんな絵の受賞作見たことない」

「しかし・・・面白いです・・・」と心は粘る。

「前代未聞の受賞作か・・・いいじゃないか・・・雑誌なんて・・・見たことないものを読者に見せるのが存在意義だ」と編集長の鶴の一声である。

「えええ」

こうして・・・中田は新人賞を受賞したのだった。

「ええええええ」と驚く・・・大作家・三蔵山(小日向文世)の万年アシスタント・沼田(ムロツヨシ)・・・二十年間デビューできない男である。

一方・・・安井の指示に従って・・・コミカライズの作業を進める東江・・・。

「いま・・・どのくらい進んでいる?」

「今・・・七話のペン入れ中です」

「そうか・・・悪いが・・・全部ボツだ・・・」

「え」

はたして・・・安井の真意は・・・。

連載マンガの引きのようにつづくなのである。

天真爛漫に見えて・・・ある意味ドス黒い心が・・・垣間見える今日この頃です。

挫折した漫画家はきっと・・・心が痛くてテレビの前に居られないのではないかと妄想する作品なんだな。

東洋では禍福は糾える縄の如しとも言うが・・・西洋では幸運に恵まれたものは生涯幸福、悪運に呪われたものは生涯不運という考え方もある。

運がいいとか悪いとか・・・凡庸な人々は・・・どちらかを選びますね。

誰かが鼻くそをほじりながら書いている朝の占いに一喜一憂しますね。

おいおいおいおいおいおい。

関連するキッドのブログ→第4話のレビュー

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コメント

キッドさん☆
こんばんは(*^^*)

第5話は なんだか全く別の作品を見ているような
視聴者層も別なんじゃないかと
ちょっと落ち着かない気もしたのですが
火野正平さんの表情に引き込まれ 言葉が胸に沁みました
テイスト変えて大丈夫なの⁇という戸惑いが
大真面目に作られた回想シーンにTBSの本気度を見たようで
いつのまにか 感激の方が上回ってしまいました
結構 回想シーンに尺をとっていた気がしましたが
装丁やら廃棄 出版社の内部の事もよくわかり
よく出来たお話だと思いました

制作者の姿勢にブレが全くないように見えるのは
ひょっとしたらプロデューサーさんが
すごく優秀なんでしょうか

明るい元気なドラマなのかと思って見ていたら
回が進むに連れ
翳りも描かれ 鬱屈した想いをセリフでなく
表情だけでみせる役者さんの演技も素晴らしいですね

見ていて胸がチクリと痛み 登場人物の今後が気になります
でもきっと爽やかなラストが待ってますよね‼︎

メロンヌ先生もまた出てきて欲しいです😊

投稿: chiru | 2016年5月12日 (木) 23時07分

シンザンモノ↘シッソウニン↗・・・chiru様、いらっしゃいませ・・・大ファン

基本的に原作があるので
些少の前後はあるものの・・・こういうお話でございます。

主人公だから・・・あれですが
心の波乱万丈な人生と同じように・・・
それぞれの登場人物にも人生がある。
社長はある意味、高齢者なので
波乱万丈もスケールが大きかったということですね。

仏教的な他力本願の考え方では
人を善に導く菩薩は
常に出現しており
それに気付くかどうかが
人生の分かれ道だという教えが生まれます。

芥川の蜘蛛の糸のようなものと言えます。

キッドは悪魔なので・・・
そういう戯言は信じないので
今回はやや妄想が膨らむことになりました。

まあ・・・多くの日本人には
なんとなく馴染みやすい考え方で
そういう人がうっかり尊師の命ずるまま悪人をポアしたりするのですがね・・・。

まあ・・・人の嫌がることはしない・・・
人の嫌がることを拒まない・・・
この違いが明確であれば・・・
処世術としては申し分ないですな。

そもそも・・・人は罪を犯すために
この世に生まれてくるという考え方もございます。

創作のために・・・身を捨てるような人を
しっかりと支える補助者としての
編集者もあれば
創作者を道具と考えて
創作しているのは自分と考える編集者もいる。

そういう対立軸を見せているわけですね、

もちろん・・・一瞬はそう見えても
目指すところが同じということになるでしょう。

そうでなければ・・・「売れる雑誌」は作れないからでございます。

豚を殺さなければとんかつはできない。

読者は・・・豚を殺す必要はないわけですが・・・
編集者は・・・時には・・・ということなのでしょう。

ドラマはそういう裏表をお茶の間に届ける場合がございます。

投稿: キッド | 2016年5月13日 (金) 00時38分

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