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2016年6月30日 (木)

2016年夏ドラマを待ちながら(キッド)

明日から七月である。

六月の谷間から七月の谷間へ・・・あわただしく移動するわけだが・・・今年はなんだかのんびりしているな。

冬ドラマの黄金の七人と比べても・・・遜色のない春ドラマだったなあ。

特に「世界一難しい恋」の波瑠は圧巻だった・・・。

そして「ゆとりですがなにか」の吉岡里帆は最高だった。

その他のドラマもそれなりに面白かった・・・。

なんといっても大河ドラマが楽しいので・・・一週間に主軸がある。

世界情勢が穏やかではない上に五輪の夏である。

夏ドラマはもう・・・潮風に吹かれているような気がする。

ドラマなんか見ている場合ではない!・・・と言うべきだが結局、見るよね。

で、(月)は冬の黄金の七人の一人・・・桐谷美玲の月9「好きな人がいること」だ・・・。女優陣は菜々緒、飯豊まりえ、佐野ひな子、大原櫻子とバトルロイヤルした方が楽しそうなメンバーである。2015年の夏ドラマ「恋仲」をしっとりと描きあげた桑村さや香の脚本である。お相手は三兄弟・・・「デスノート」のL役からココの山﨑賢人、イケメンだけど三枚目の三浦翔平、「恋仲」でも恋敵だった野村周平。これに最近よく見る浜野謙太と吉田鋼太郎である。カップリングすると・・・こうなのか。

桐谷美玲♥山﨑賢人

菜々緒♥三浦翔平

飯豊まりえ♥野村周平

佐野ひな子♥浜野謙太

大原櫻子♥吉田鋼太郎

あ・・・もう・・・五組のカップル成立している・・・。「フィーリングカップル5VS5」かよっ。

(火)は武井咲と滝沢秀明の社内恋愛ものである「せいせいするほど、愛してる」と波瑠がヒロインから主人公に転ずる「ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子」の火10対決であるが・・・もう・・・これは火を見るよりも異常犯罪だよね・・・夏だから・・・意味不明だぞ。二日続けて色恋沙汰はねえ・・・。まあ・・・両方見るんだけどねえ・・・。

(水)というか・・・火曜深夜は「闇金ウシジマくん Season 3」なのでアレなんだが・・・激戦の水曜日なのである。大石静脚本で北川景子主演の「家売るオンナ」と吉岡里帆、中村ゆりか、清原果耶、そして松井珠理奈を固めたホラー「死幣-DEATH CASH-」・・・場合によっては谷間捜しということになるのだなあ。

(木)は尾野真千子の「はじめまして、愛しています。」と松嶋菜々子の「営業部長 吉良奈津子」である・・・ここかっ。夜中には酒井若菜と森川葵の「遺産相続弁護士 柿崎真一」もあるけどな。主人公の名前がタイトルのドラマ多過ぎ・・・。

(金)は脚本・櫻井武晴で演出・堤幸彦の「神の舌を持つ男」があるよ。もう、おやおや・・・というしかない気がするよ。

(土)は黒島結菜の「時をかける少女」だ・・・先行している(金)松岡茉優の「水族館ガール」(土)川島海荷の「朝が来る」もあるけれど・・・ここは王道ジュヴナイルSFこそがサマータイム・ブルースだよね・・・何を言っているのだ。

(日)は不動の「真田丸」・・・。多部未華子の「仰げば尊し」も・・・山本美月の「HOPE~期待ゼロの新入社員~」も・・・二階堂ふみの「そして、誰もいなくなった」も・・・敵対できない・・・いや・・・二階堂ふみVS桐谷美玲という構図は想定できるな・・・(日)からこぼれて・・・(月)に・・・。結局・・・すべては・・・見てからです。何が面白いかなんて誰にもわからないもの!

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2016年6月29日 (水)

後編です!(福士蒼汰)あの人は海を見ていました(芳根京子)

あの人は今・・・こんなことに・・・。

半世紀の物語となると・・・どうしても加齢による俳優チェンジが問題になるわけである。

ここは実年齢でチェックしておこう。

主人公の父親である野村周平(22)は唐沢寿明(53)に・・・実年齢差31才。

ちなみに48年後の話である。

ヒロインの祖父である三浦貴大(30)は西田敏行(68)に・・・実年齢差38才。

もう一度言うが48年後の話である。

ヒロインの祖母である西原亜希(28)はリリィ(64)に・・・実年齢差36才、

念のために言うが48年後の話である。

恋人を48年間待ち続けたホラン千秋(27)は夏木マリ(64)に・・・実年齢差37才。

11年不足である。

配役だけでも十年以上の誤差がある。

二十年近い誤差のある野村→唐沢のリレーはもう少しなんとかしないとねえ。

香川照之(50)は1967年と2009年で同一人物を演じる。時差は42年である。

実年齢で言うと2009年には(92)ということになるわけである。

もちろん・・・若作りや老けメイクによる修正が行われているわけだが・・・荒唐無稽な話だけに・・・見た目ですでにリアリティーがないのは・・・なんだかなあ・・・と思うわけである。

結局・・・このドラマのスタッフは半世紀近い歳月というものをなめていると思う。

で、『モンタージュ 三億円事件奇譚・後編』(フジテレビ20160626PM9~)原作・渡辺潤、脚本・大森寿美男、演出・水田成英を見た。1968年12月・・・「東京都府中市三億円強奪事件」発生。2009年・・・鳴海鉄也(唐沢寿明)が失踪後水死。2016年・・・父親の残した遺品から鳴海大和(福士蒼汰)は「血まみれの三億円」を入手する。直後に幼馴染の小田切未来(芳根京子)の両親・小田切武雄(デビット伊東)と葉子(西尾まり)夫妻が失踪。民和党幹事長の沢田慎之介(西田敏行)に操られる長崎の刑事・関口二郎(遠藤憲一)に殺人犯の濡れ衣を着せられた大和と未来は・・・逃亡者となった。

ジャズバー「HERBIE」にやってきた大和と未来は年齢不詳のマスター(クリス・ペプラー)から・・・昔話を聞かされる。

この店のバーテンダーとなった川崎雄大(野村周平)はジャズ愛好家の大学生・井上和子(門脇麦)と恋仲になる。 

1968年は東大紛争をはじめとする学生運動の嵐の中にあった。 

和子は「共産主義思想家のカール・マルクスよりモダン・ジャズの帝王であるマイルス・デイヴィスが好き」という穏やかな学生だった。 

写真は・・・川崎雄大が誕生日祝いとして和子に贈ったカメラで撮影されたと言う。 

まもなく同棲を始めた雄大と和子・・・しかし・・・デモに巻き込まれた和子は死亡する。 

過激派学生が・・・機動隊車両を奪取して暴走・・・和子は交通事故死したのだった。 

まもなく・・・雄大は姿を消した。

写真の人物は・・・チンピラの望月竜(渋谷謙人)と情婦の響子ギブソン(夏木マリ)、そして竜の子分の横溝保(瀬戸利樹)だった。

「みんな・・・あの時代の若者たちだ・・・」

「他の人たちの消息は・・・」

「響子ギブソンは・・・沖縄で店をやっていると言う」

「沖縄・・・」

「そう言えば・・・昔の写真を持ってくるものがいたら・・・渡してくれと預かっているものがある」

「誰からですか・・・」

「さあ・・・知らない男だったよ」

マスターは「沖縄行きのチケットと数万円の紙幣の入った封筒」を渡した!

指名手配中の二人だったが・・・謎の交通機関によって・・・気がつくと沖縄に到着しているのだった。

「ほとんどワープだよね」

「沖縄キターッ!・・・でいいんじゃないか」

年老いた響子ギブソンは・・・大和と未来に・・・「三億円事件」の真相を話すのだった。

傷心の川崎雄大に・・・同郷の沢田慎之介(三浦貴大)が計画をもちかける。 

三億円強奪という未曾有の事件を起こすことによって・・・国内の過激派の潜伏先をローラー作戦で摘発するという公安警察的陰謀である。 

「事件によって・・・起こる社会不安の方が大きいじゃないですか」

「手柄立てちゃえばこっちのものよ・・・という風潮はいつの時代にもあるのよ」 

結果として・・・三億円事件は成功したが・・・実行犯となった雄大と望月竜は消息不明となってしまった。

「あの人を待って・・・半世紀が過ぎてしまったの・・・それで雄大があなたの父親だとすると・・・」

「父は・・・七年前に不審死しました・・・望月竜さんのことも・・・事件のことも・・・秘密にしたまま・・・」

「・・・」

しかし・・・沖縄に関口刑事が現れる。

響子ギブソンの店は放火され・・・大和と未来も襲われるが・・・予備校講師の鈴木泰成が再び・・・二人を救う。

「かなり・・・真相に近付いてきたな」

「一体・・・あなたは誰なんです」

「私は・・・釣り人さ・・・大物を狙っているんだ」

「何のために・・・」

「それを言ったら話が終わるじゃないか」

響子ギブソンの家に身をひそめる二人をまたもや関口刑事が襲撃する。

拳銃を奪う大和だったが・・・未来の首を絞める関口に発砲することはできない。

「女を助けるために・・・発砲もできないなんて・・・ダメな奴だな・・・」

大和を嘲笑する関口だったが・・・響子ギブソンが呼んだ海兵隊の前に瞬殺されるのだった。

響子ギブソンは米軍関係者だったのである。

響子ギブソンは昔馴染みのハリー・スタンレー(団時朗)の家に二人を匿う。

ハリーは・・・三億円事件のその後を語るのだった。

ハリーの父親は米国軍人でありながら・・・公安の協力者(スパイ)だった。 

ハリーは父親の命令で・・・三億円の秘匿に協力したのだった。 

三億円は・・・当時、米軍と航空自衛隊が共用していた府中基地に運び込まれた。 

警察の捜査権が及ばないエリアだからである。 

雄大と竜はハリーとともに運びこんだ三億円を仕分けしていた。 

そこへ・・・沢田慎之介と公安の秘密警察官・須黒隆(飯田基祐)が現れる。 

須黒は沢田に実行犯の射殺を命じるのだった。 

沢田はあらかじめ・・・雄大たちに防弾チョッキを着用させていたが・・・須黒は竜の首を討ってしまう。 

逆上した雄大は須黒を撲殺する。 

「こんなことになるとは・・・」と沢田・・・。 

「響子ギブソンに会わせる顔がない・・・」と雄大・・・。 

雄大と竜は横溝保の家に隠れるが・・・竜はまもなく死亡する。 

「響子には・・・言わないでくれ」 

その遺言を雄大が守ったために・・・響子ギブソンは恋人の帰りを待って半世紀である。

ハリーはすべてを知っていた。

響子は竜の墓の中から・・・昔、竜にねだった「一万円のダイヤの指輪」を発見して涙する。

響子は「三億円事件の犯人」として沖縄県警に自首するが・・・愉快犯扱いをされてしまう。

大和と未来は予備校講師の鈴木泰成から「軍艦島」に招聘される。

ハリーの操縦するヘリコプターで沖縄から長崎に飛ぶ二人・・・。

沢田慎之介(西田敏行)が現れる。

「もう・・・終わりにしようじゃないか」

「お父さんとお母さんはどこ・・・もし死んでいたら・・・」と未来。

「彼には・・・君のお母さんは殺せない」

鳴海鉄也が現れた。

そして・・・若者たちにすべてを語る。

響子ギブソンに公安の手が及ばないようにするために・・・雄大は・・・沢田とヒロミの娘を誘拐した。 

事件が発覚した時のために・・・娘に害が及ばぬように・・・娘を施設で育てることに同意した。

「それが君のお母さんだ・・・未来ちゃん」

「えええええええええ」

沢田と離婚した関口ヒロミ(りりィ)に謝罪する鉄也である。

「それが君のお祖母さんだ・・・未来ちゃん」

「そんなの・・・あやまってすむことなの」

沢田はヒロミのために・・・コインロッカーに捨てられていた乳児を引きとった。 

しかし・・・沢田を許すことのできなかったヒロミは二郎を連れて家を出る。 

ヒロミは再婚したが・・・再婚相手は家庭内暴力を振るい・・・二郎は義父を殺害する。 

子供が殺したとは思われず事件は迷宮入りだった。 

沢田は関口ヒロミの子となった関口二郎を引きとって・・・殺人マシーンとして育成したのである。

「ひどい・・・」と誰もが思うのだった。

雄大は軍艦島に戻った。 

炭鉱で爆発事故が発生・・・雄大は・・・死亡した鳴海鉄也になりすます。 

鳴海鉄也は寡夫で・・・乳幼児が残されたが・・・その子も施設に預けられた。

「それが君のお父さんだ・・・」

「ええええええええええええ」

つまり・・・未来は・・・沢田の孫娘なのだ。

「だから・・・沢田には・・・君のお母さんは殺せない・・・自分の娘だから」

「もうすぐ・・・マスメディアが押し寄せます・・・あなたは終わりだ」と鈴木泰成。

「お前は一体・・・何者だ」

「僕の父は・・・横溝保ですよ・・・すべてを知っていた父は・・・事業に失敗した時に・・・あなたを頼った・・・そして・・・鉄道事故で死んだのです・・・つまり・・・あなたに殺されたんだ」

「もういい・・・」と沢田。

関口が現れた。

「全員殺せ・・・」

「えええええ」

「私は政治家として・・・まだ仕事がある・・・すべては大義のためだ」

「ここにはあんたの孫もいるんだぞ」

「この国の未来のために・・・未来・・・死んでくれ」

「ええええええ」

「親父・・・」

「なんだ・・・」

「俺はもう・・・疲れたよ」

関口刑事は・・・電池が切れたように拳銃自殺をした。

「え」

こうして・・・沢田の政治生命は終わった。

マス・メディアは・・・国家的陰謀をネタとして謳歌するのだった。

こうして・・・大和と未来の逃亡の日々は終わった。

「私たち・・・好奇の目に晒されるわよね」

「もう・・・まともな人生は送れないな」

「まあ・・・まともな人生なんて・・・所詮・・・夢だから」

「でも・・・」

「楽しかったよね」

「うん」

二人は遠ざかる軍艦島を見つめた。

多くのお茶の間の人々も茫然と眺めたことだろう・・・。

そして・・・鉄也の無人島一人生活が始る。

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2016年6月28日 (火)

モンタージュ 三億円事件奇譚(福士蒼汰)前編です!(芳根京子)

いろいろとアレなドラマだが・・・。

脚本力と演出力とプロデュース力が見事にかみ合っていない・・・一種の限界ものである。

マンガにできることをテレビでやろうと思ってもいろいろアレなんだよな。

これはもう・・・「日活ロマンポルノ」でやればよかったんじゃないか。

「少女凌辱!三億円事件秘録!イチャイチャしちゃうんです」みたいな感じでな。

次期朝ドラマのヒロインがそういうことができる時代になってほしいものだ。

ヒロインの友達役ならできるわけだが・・・。

ヒロインの母親役でもな。

いや・・・ヒロインも結構やってる人はやってるぞ。

門脇麦とか、常盤貴子とか、波瑠の話か・・・。

しかし・・・芳根京子は未成年だからな・・・もう、そういうことを絶対にやってはいけない時代になっている。

できる範囲で頑張ったよね。

昔は・・・よかったなあ。

で、『モンタージュ 三億円事件奇譚・前編』(フジテレビ20160625PM9~)原作・渡辺潤、脚本・大森寿美男、演出・水田成英を見た。原作とドラマの最大の違いは主人公とヒロインの年齢設定である。それが・・・ある意味でドラマにただならぬ違和感を持たせているし・・・おかしな感じを醸しだすわけである。それでいいと思うプロデューサーがいるんだから・・・しょうがないなあ。

原作の鳴海大和・・・16才の高校一年生。殺人事件を目撃するのは小学生時代。

原作の小田切未来・・・18才の高校三年生。大和より二歳年上

ドラマの鳴海大和・・・25才のフリーター。殺人事件を目撃したのは高校生時代。

ドラマの小田切未来・・・23才の大学生。大和より二歳年下。

高校生がやっても問題ないことを社会人がやってはいけないのだ。

年上のヒロインと年下のヒロインでは・・・いろいろと差異が生じるわけである。

ドラマ全体につきまとう「なんだか変だぞ」感覚は基本的にこれが原因である。

それを前提に視聴すれば・・・荒唐無稽なアドベンチャー・ゲームとしてそこそこ楽しめます。

次に2016年に1968年の「三億円強奪事件」を結び付ける困難さがあり・・・二つの青春物語の比較が・・・サスペンス部分を弱めている。

時差はざっと48年である。

当時、二十歳なら・・・現代では六十八歳になっていて・・・四十歳なら八十八歳である。

回想としては限界点を越えているんだな。

そこで・・・お茶の間は・・・主人公たちの知らない昭和の世界が同時に物語られることに物凄く違和感を感じるだろう。

しかも・・・この昭和がものすごく・・・チープなのである。

いや・・・実際に1968年はチープだったのだが・・・そういうチープさが描き切れていないチープさがあるのだった。

実際には昭和篇は1967年から始る。

少年ジャンプの創刊は1968年なのでまだないわけだ。

ちなみに創刊号の定価は90円である。

大卒初任給23000円前後、 高卒初任給17000円前後である。

ラーメンは70円だ。

その頃の三億円である。庶民には想像もつかない超大金なのである。

1968年12月・・・東京都府中市で三億円強奪事件発生・・・。

それから41年後の2009年の長崎県長崎市・・・。

高校三年生の鳴海大和(福士蒼汰)と高校一年生の小田切未来(芳根京子)は通学路で血痕を発見。

思わず血の跡を辿った二人は・・・瀕死の老人・・・東海林明(香川照之)を発見する。

「なるみ・・・やまと・・・お前の父親は・・・三億円事件の犯人だ・・・いいか・・・誰も信用するな」

「さんおくえんじけん・・・ってなに?」

「う」

老人は息絶えた。

通報によって駆けつけた刑事・・・関口二郎(遠藤憲一)は二人から事情を聴取する。

「あの人って誰なんですか・・・」

「昔・・・東京で刑事だった人らしい・・・」

帰宅した大和は・・・父親の鳴海鉄也(唐沢寿明)がその日から行方不明になるとは知らなかった。

老人の残した謎の言葉は・・・刑事には話さなかった。

大和には意味不明の言葉だったのだ。

まもなく・・・鉄也は東京で水死体となって発見される。

顔などは腐乱していたが所持品から身元が特定されたらしい。

大和は・・・母親をすでに亡くしていていた。

鉄也は享年五十九だった。

未成年の大和は・・・鉄也を師と仰ぐ小田切武雄(デビット伊東)と葉子(西尾まり)夫妻に引き取られる。

幼馴染の未来とは兄妹のように家族同然で育った大和だった。

そして・・・大和の心に暗い影を残したまま・・・歳月は流れた。

2016年・・・剣道の達人だった鉄也の防具を・・・小田切武雄に託した日・・・。

大和と武雄はそれぞれに・・・秘密のアイテムを入手する。

武雄は小手の中から・・・「軍艦島」と書かれたメモを・・・。

大和は垂のネーム袋の中から血まみれの五百円札を・・・。

フリーターとなった大和は・・・すでに「三億円事件」の研究家となっていた。

その五百円札のナンバーが特別なものと知るほどに・・・。

それは三億円事件で奪われた紙幣のうちナンバーが分かっている二千枚の五百円札の一枚だった。

数日後・・・小田切夫妻が失踪する。

大和は未来と・・・手掛かりを探し・・・武雄の書斎でメモを発見する。

こうして二人は・・・今は誰も住むものない孤島「軍艦島」へと旅立つ。

社会から落ちこぼれ・・・鬱屈していた大和は・・・謎の事件に・・・高揚するのだった。

両親が突然、行方不明になった未来は不安を覚えつつ・・・大和との二人旅に胸がはずむのである。

まあ・・・そういう年頃なのである。

そして・・・二人は軍艦島の秘密の隠し場所から「三億円」を発見するのだった。

島から戻った二人を・・・何故か・・・関口刑事が襲撃する。

二人を救ったのは・・・武雄の剣道の弟子の一人で予備校講師の鈴木泰成(劇団ひとり)だった。

しかし・・・関口刑事は残された大和のバールのようなもので・・・目撃者を殺害し・・・罪を大和に負わせる。

こうして・・・大和と未来は殺人事件の容疑者として・・・逃走を余儀なくされるのだった。

ここまでの登場人物で48年前の「東京都府中市三億円強奪事件」(1968年)に関与できたのは年齢的に大和の父親である鳴海鉄也・・・当時18才だけである。

ちなみに小田切夫妻と関口刑事は(48)という年齢設定で「意味深」となっている。

もちろん・・・ドラマではそういう設定の思わせぶりはまったく効いていない。

事件とは無関係な若者たちが血まみれの三億円を巡って「日常生活」から離脱していくのは一種の「呪い」によるファンタジーと言える。

警察に保護を求めた大和と未来だったが・・・関口刑事のいる所轄署に護送されると知り、護送中に脱走する。

殺人事件の重要参考人を移送するにあたっては・・・お粗末な展開であるが・・・ドラマだからです。

もちろん・・・小中学生なら・・・あらかじめ準備された大和の緻密さに感嘆するのかもしれない。

こうして・・・指名手配された二人は・・・事件の真相を求めて博多から東京へと向う。

新幹線での脱出は困難が予想されるが・・・一部マスメディアに証拠の札束を郵送したり・・・橋の上から大量の旧一万円札を撒いたりすれば・・・非常警戒の隙をつけるらしい。

ちなみに・・・何故か・・・二人に盗聴器を仕掛けたりする鈴木泰成(33)の行動は不審・・・ということである。

これに・・・女スパイのような謎の予備校生・中野夏美(杉咲花)や夏美に誘惑された博多の警察官(ムロツヨシ)が学業や職務を放置して絡んでくるのだった。

夏美(19)で博多の警察官・水原大輔(30)という設定である。

途中、実は殺人犯である関口刑事は・・・未来を拉致監禁し・・・暴虐の限りを尽くすがテレビではお茶の間にお見せできないのだった。

ドラマの中のテレビには民和党幹事長の沢田慎之介(西田敏行)が現れる。

世間を騒がす「三億円事件の証拠」について問われた沢田(70)は未解決事件の捜査関係者として不快感を示すのだった。

だが・・・沢田こそが・・・関口刑事の黒幕なのである。

そんなこととは露知らず・・・殺された東海林明の足跡を辿った大和と未来は・・・組織暴力団関係者の末裔である土門明葉(吉岡里帆)から・・・東海林と交友のあった男の遺品を示される。

その中に「軍艦島」関連の書籍があり・・・そこには名前がサインされた一枚の写真が残されていた。

「この男・・・」

川崎雄大(野村周平)と書かれた若者に・・・父親の面影を見る大和・・・。

「そう言われれば・・・なんとなく・・・」

未来は「唐沢寿明の若い頃が野村周平にそっくりかどうか」について言葉を濁すのだった。

明言しておこう・・・半世紀も立つと人間はまるで別人になる場合があります。

そして・・・お茶の間は・・・ドラマの特殊な機能により・・・1967年の東京にタイムスリップする。

軍艦島から・・・何かを求めて東京にやってきた十七歳の川崎雄大・・・。

いきなり・・・チンピラとヤクザの抗争に巻き込まれる。

剣道の達人だった川崎雄大は拳銃を持つヤクザを叩き伏せる。

そこに・・・若き日の東海林刑事が現れ・・・喧嘩を仲裁するのだった。

チンピラの望月竜(渋谷謙人)や情婦の響子ギブソン(夏木マリ)の世話になる川崎雄大・・・。

性風俗の店のヒロミ(西原亜希)の客となっていた若き日の沢田慎之介(三浦貴大)は・・・川崎雄大の地元の先輩だった。雄大より四歳年上で上京し・・・東京で警察官になっていたのである。

「日活映画みたいなことしやがって」

「日活もロマンポルノになったらおわりじゃ」

「おいおい・・・日活ロマンポルノは1971年スタートだよ・・・歴史考証どうなってんの」

「そうじゃっと?」

「1967年の日活映画は夜霧よ今夜もありがとうじゃ」

「少年ジャンプのハレンチ学園は・・・」

「来年、連載開始じゃ・・・そもそも・・・ジャンプはまだない・・・ハレンチ学園が映画化されるの1970年じゃ」

「そげな・・・」

「そもそも・・・大衆がポルノという言葉を知るのは当時16才の池玲子が東映映画・・・温泉みみず芸者・・・で日本初のポルノ女優というキャッチフレーズをつけられたからだ。これに触発されて日活ロマンポルノ第一弾・・・団地妻 昼下りの情事・・・が封切られたのが1971年11月だ・・・まだ四年後の話だぞ」

「そうやったと・・・」

とにかく・・・この若者たちが・・・三億円事件に関わっていたらしい。

そして・・・時は再び・・・現代に・・・。

関口刑事に拉致された未来を救助にやってきた大和だが・・・結局、腕力で制される・・・しかし・・・何者かが関口に発砲し・・・ピンチを脱する。

茫然とする大和の前に・・・謎の予備校講師・鈴木泰成が現れる。

ソフトな拷問で・・・瀕死の関口に黒幕の正体を問いつめる大和。

しかし・・・関口は大和の暴力の迫力不足を嘲笑する。

「とにかく・・・食事をしろ・・・」

関口に睡眠薬入りの弁当を奨められた大和と未来は昏睡である。

誰も信じるなと言われたのに・・・。

気がつけば・・・証拠の五百円札を奪われていた大和だった。

最期の手掛かりを求めて・・・ジャズバー「HERBIE」にやってきた大和は・・・時を越えてやってきた川崎雄大あるいは死んだはずの鳴海鉄也と再会するのだった・・・。

「後編に続くのね」

「もう・・・仕方ないだろう」

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クロコーチ

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2016年6月27日 (月)

笑え・・・笑うがいいさ・・・残酷なことを為すために(長澤まさみ)

ココログの障害発生で・・・ヒヤヒヤしながら更新てす。

他人のふんどしで相撲を他所様の軒先でとっているからな・・・。

久しぶりののヒロイン・きり(長澤まさみ)の登場で安堵したよ。

通説では真田信繁の正室は大谷吉継の娘あるいは姪または妹で生年不詳の法名・竹林院殿梅渓永春大姉である。

ドラマでは堀田興重の妹あるいは娘が一度正室となり、娘を出産しているので・・・竹林院は継室となる。

高梨内記の娘であるきり(仮名)は側室として於市と阿梅の二人の娘を生むはずだが・・・於市は早世で・・・阿梅は竹林院が産んだと言う説もあり・・・ギリギリのところで虚構のかけひきをしている脚本家なので油断はできない。

信繫の側室には豊臣秀次の娘とされる隆清院がいて一男一女を生んでいる。

信繫~きり~秀次の三角関係を無理矢理ぶっこんできている展開なのである。

なにしろ・・・豊臣秀次といえば色事師である・・・そして本人はともかく・・・その愛妾たちにはとんでもない運命が待ちかまえているわけだ。

秀次にプロポーズされちゃうなんて戦慄のホラー・サスペンスだからな・・・。

で、『真田丸・第25回』(NHK総合20160626PM8~)脚本・三谷幸喜、演出・渡辺哲也を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は堺の納屋衆「とと屋」の息子にして「茶の湯」の改革者・千利休の描き下ろしイラスト大公開でお得でございます。商人と芸術家という二つの顔を持つ利休は・・・最近では朝鮮半島への侵略者という外交に配慮した悪名を与えられがちな秀吉を「残虐な独裁者」として描くための道具として・・・利休を「不運な芸術家」風に扱うことが多いわけですが・・・今回は「商人」の顔を前面に押し出してトレビアンな感じに仕上がっておりましたな。利休という名には様々な解釈が可能ですが・・・商人としては「利」は絶対的な価値の根源のようなもの。「利を休む」とは文字通り・・・商人であることを忘れて茶人として夢中になることだと素直に解釈すれば・・・今回の利休像が浮上してくるわけでございます。「秀長様も悪でございますなあ」「とと屋お前もなあ・・・」と商売に関してはいろいろと悪い噂のある豊臣秀長と・・・悪徳商人千利休の手切れな感じも匂い立つ今回の筋立て・・・。死期を悟った表の顔役である秀長が裏の顔役である利休に仕掛けた罠の気配さえ感じられましたねえ。

Sanada025天正十八年(1590年)一月、徳川家康の継室・朝日姫(豊臣秀吉の異父妹)死去。天正十九年(1591年)一月、豊臣秀長(秀吉の異父弟)の娘・おきくと豊臣秀保(秀吉の姉・智子の三男)が婚姻。秀長が死去。秀保が大和国と紀伊国を継承する。秀吉は諸大名に「唐入り」の遠征準備を発令する。二月、千利休は堺への蟄居を申しつけられた後に京に召され切腹。利休の首は一条戻橋に晒される。陸奥国で九戸政実の乱が発生、徳川家康や伊達政宗を率いて豊臣秀次(智子の長男)が総大将としてこれを鎮圧すべく出動。秀吉は「唐入り」のための大船建造を諸大名に命ずる。三月、秀吉は「唐入り」のための軍役を諸大名に命ずる。茶々の妹の江(浅井長政の三女)が豊臣秀勝(智子の三男)の正室となる。秀勝は美濃国を継承。六月、陸奥国一揆鎮圧作戦開始。七月、秀吉の養女で織田信雄の娘・小姫(徳川秀忠の正室)が夭逝。八月、豊臣鶴松が数え三つで夭逝。秀吉は髻を切って喪に服した。秀吉の養女で前田利家の娘・豪姫(宇喜多秀家の正室)は嫡男となる宇喜多秀高を出産。

天正十九年、正月。豊臣鶴松は高熱を発した。

北政所となった寧は鶴松が回復するとまたもや鬱を発する。

秀長を聚楽第に呼び出し・・・寧は難事を持ちかける。

茶々と茶々の産んだ子供に対する寧の憎悪は深い。

「小一郎、妾の父は小牧・長久手の合戦で家康に殺された・・・妾はそれにも耐えて、家康にええ顔しちょるのよ・・・」

「は・・・」

「だもんで・・・茶々と鶴松のことは腹にすえかねるのだわ」

「義姉上・・・おっしゃってることが無茶苦茶です」

「噂じゃ、利休は唐の忍びを飼っとるそうね」

「・・・」

「あんた・・・利休とはいい仲と聞いたで・・・一つ、口をきいておくれ」

義姉の世迷いごとをもてあまし・・・秀長は利休屋敷を訪ねる。

「義姉上にも・・・困ったもんじゃ・・・」

鶴松暗殺の相談を昵懇の秀長にされた利休は蒼ざめる。

曖昧な返事をして秀長を送りだした利休は音無しの笛を吹く。

「お呼びになられましたか」

姿を見せたのは朝鮮半島生まれの小娘・李虎鈴だった。

「小童の命など・・・どうなるか・・・わからぬさかい・・・もしもの時が恐ろしい・・・あの人の口を封じておかねば・・・我が身が危ういのや」

「仰せのままに・・・」

虎鈴は朝鮮魔法の使い手である。

京から大和郡山城に帰還する秀長の行列を追った虎鈴は・・・風花毒虫の術を仕掛ける。

一の毒を呼吸器から吸わせ・・・二の毒を虫を使って体内に注入する。

やがて・・・秀長は城内で発作を起こし・・・未明には息を引き取った。

奥州の反乱鎮圧のために人手の少なくなった京の都だが・・・飛騨の忍者・黒影が・・・その次第を見届けていた。

千利休による秀長暗殺の報を黒田官兵衛に聞かされ・・・秀吉はうろたえる。

「何のためじゃ・・・」

「秀長様と利休には闇取引の疑いがございます」

「そんなもの・・・前から見て見ぬふりをしておったことじゃ・・・」

「しかし・・・吝嗇な石田殿と・・・厳正な大谷殿が・・・昨今、取り締まりを厳しゅうなさいますので・・・」

「それを・・・惧れたと申すか・・・」

「御意」

秀吉は利休に切腹を申しつけた。

事の発端を知る・・・虎鈴は・・・主人である利休の仇討ちを思い立つ。

秀吉や寧・・・茶々を葬ることは難しかったが・・・無防備な鶴松を殺すことは簡単だった。

風に吹かれ・・・虫に刺された鶴松は三日で身罷った。

慟哭する茶々を養母である寧は優しく抱きとめた。

寧は初めて茶々を愛おしく思う・・・。

石女である寧は・・・子を亡くした茶々の憐れな背中を優しく撫でた。

そして・・・泣いた。

淀城に蝉の声が響く。

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2016年6月26日 (日)

何が悪いのかわからない(川島海荷)要領だってば(小島梨里杏)スポンジだよ(佐津川愛美)

春と夏の谷間である。

噂では春と夏の谷間は長いらしい。

ドラマ製作陣が疲れたのかな・・・。

しかし・・・自称・公共放送や深夜には梅雨ドラマと言うべき一群が徘徊しているわけである。

英国のEU離脱問題を観測しているために多重人格群も疲弊気味なのである。

今回もいくつかのコースがあったのだが・・・脱輪気味なのだ。

「モンタージュ三億円事件奇譚」コース・・・後篇を見てから考えたい。

「とと姉ちゃん」コース・・・手つかずだし・・・来週の空襲を見てから考えたい。

「警視庁・捜査一課長」コース・・・今さらかっ。

「春の深夜アニメ総括」コース・・・やめろっ。

残ったのは「水族館ガール」コースとコレだ。

なんていうか・・・どっちもどっちなのだが・・・「心の闇」があけっぴろげなコレの方がスムーズに書けそうなので・・・。

そんな理由かよっ。

で、『朝が来る・第4回』(フジテレビ20160252340~)原作・辻村深月、脚本・髙橋麻紀、演出・古澤健(他)を見た。2012年にはNHK総合で同じ原作者の「本日は大安なり」がドラマ化されている。優香が主人公のウェディングプランナーを演じているのだが・・・部下役に黒川智花が配されている。何組かのカップルが登場するが星野真里の花婿を演じたのが田中直樹、山口翔悟の花嫁を演じたのが佐津川愛美である。黒川智花(研音)、田中直樹(吉本興業)、佐津川愛美(ホリプロ)といずれも大手芸能プロダクション所属だし・・・制作が同じテレパックということもあるだろうが・・・ある意味、原作者のお眼鏡にかなっているのかもしれない。もちろん・・・あくまで妄想である。

物語は現在、幼稚園に通う六歳の男の子・栗原朝斗(林田悠作)の育ての母である佐都子(安田成美)と産みの母である片倉ひかり(原菜乃華→川島海荷)を巡る物語である。

不妊治療の果てに養子を得た佐都子は・・・幼い朝斗に自分が実母ではないことを告白している。

この物語が・・・偏執的な色彩を帯びるのは・・・佐都子の拘りが・・・養子の実母に執拗に向けられていることである。

具体的に明らかにされないが・・・不妊の原因である無精子症の佐都子の夫・清和(田中直樹)の苦悩への配慮は・・・佐都子には見られない。

佐都子が狂気を秘めているように見えるのは・・・朝斗が「家族の絵」を持ちかえった時である。

そこに描かれているのは・・・「清和と佐都子と朝斗・・・そして広島のお母ちゃん」だった。

もちろん・・・「性教育的な知識」の問題もあるが・・・もしも・・・「養子告知」をするならば・・・そこには「清和と佐都子と朝斗・・・そして広島のお母ちゃん・・・さらに本当のお父ちゃん」が描かれているべきだろう。

つまり・・・その絵は「子供を産まなかった女」としての佐都子の偏執の象徴なのである。

清和は・・・親子三人の平穏な生活に満足している。

だが・・・佐都子は・・・六年後に突然、現れた片倉ひかりに執着する。

そして・・・朝斗を伴って・・・ひかりの足跡をたどりはじめるのである。

恐ろしいことだ。

たとえば・・・片倉ひかりが・・・殺人者だったら・・・どうするつもりなのだ。

だが・・・狂ったように微笑み続ける佐都子は・・・無心に・・・ひかりの転落の人生に足を踏み込んでいくのである。

陽のあたる場所に佇む佐都子の心の闇こそが・・・本当は恐ろしいドラマだと考えます。

さて・・・「ゆとりですがなにか」で見られる芸術的な時間軸のシャッフルは・・・ここでは少しドラマを見にくくしている足枷になっている。

片倉ひかりの心の闇がシャッフルされすぎなのである。

ここで・・・時系列を整理しておく。

片倉ひかりより七歳年上の後藤香澄(佐津川愛美)の幼少期・・・離婚した母親に育児放棄されスポンジを食べる。

片倉ひかりの姉の茜(小島梨里杏)は誕生日に母親の咲子(赤間麻里子)による手作りケーキを食べる。

片倉ひかりは誕生日に市販のケーキを食べる。

片倉ひかりはこのケーキによる姉妹差別により傷心する。

心が歪んだ片倉ひかりは愛に狂い中学生で妊娠する。

片倉ひかりは特殊な出産施設で六歳年上の売春婦・平田コノミ(黒川智花)と同室となり、コノミの手作りのケーキで誕生日を祝ってもらい・・・不出来なケーキを泣きながら食べる。

片倉ひかりは出産し、「ちびたん」は朝斗として栗原夫妻の養子となる。

喪失感を抱き・・・自分の居場所がないと感じる片倉家に戻ったひかりは茜が母親のサイフからくすねた金を自分の仕業として糾弾された16才の夜・・・金髪に変身して母親のサイフから金を抜いて家出をする。

特殊な出産施設の寮母である浅見洋子(石田えり)が臨時のひかりの後見役となる。

近所の商店主と知りあいになったひかりは・・・商店主の死に際して借金を背負った息子の山本健太に同情し、駆け落ち同然で施設を去る。

ひかりはビシネスホテルのメイド、健太は飲食店の見習いとして働き同棲生活。

しかし、二人は姉妹のような清い仲らしい・・・そんな馬鹿な。

数年後、借金取りにひかりが発見され・・・居所が明らかになり健太は追い込まれる。

利子の返済だけでも月に十万円という法外な借金である。

しかし・・・無知な二人はただ困惑するだけなのだ。

ひかりは大学生になった茜に借金を申し込む。

「三十万円必要なの・・・」

「なんとかするから・・・住所を教えて」

「わかった」

「あなたも・・・家に帰りなさいよ・・・私があやまってあげるから」

「私・・・あやまるような悪いことをしてない」

「あなたは要領が悪いのよ」

「お金を盗んだのはお姉ちゃんじゃない」

「私は・・・バレなかったでしょう」

「・・・」

「あなたは・・・罪を世界に負わせる・・・そんなの何の意味もないのよ・・・役立たずの自分が残るだけ」

「!」

交渉決裂である。

幼くして悪い大人になった姉と・・・いつまでも甘えさせてくれる何かを求める妹だった。

切羽詰まったひかりは・・・危機管理のないビジネスホテルの金庫から金を盗む。

心の拠り所を「ちびたん」に求めて・・・栗原家に強請をしかけたひかりは・・・心変わりして立ち去る。

窃盗の疑いで警察に追われる二人は・・・借金取りの坂上(山田将之)に匿われるのだった。現在である。

母親の存在を憎悪する後藤香澄は別れた不倫相手の子供を妊娠していることに気がつく。

後藤香澄は上司の清和を誘惑するが・・・清和は拒絶する。現在である。

その頃・・・朝斗を連れた佐都子は・・・広島の特殊な出産施設で特殊な事情を抱えた見ず知らずの妊婦のために手作りのバースデイケーキを振る舞っていた。

不気味なほど和やかな・・・特殊な施設の宴。

目の前の相手が違法薬物の常習犯だったり、家庭内暴力の被害者だったり、反社会勢力に繋がる売春組織の一員である可能性・・・そこから生じる危険性など・・・微塵も考えず・・・お嬢様育ちの世間知らずのような佐都子は・・・わが子を危険な世界に晒すのである。

そういう恐ろしい話なのである。

しかし・・・佐都子は・・・なんだか怪しい善意によって・・・わが子を授けてくれたひかりの幸福をひたすらに願うのだった。

世界の光と闇は・・・常に交錯しているものだから・・・。

善人にも悪人にも・・・夕陽は美しいはずだから・・・。

もちろん・・・そうとは限らないと考えるのは自由である。

何が悪いのか今もわからない

誰のせいなのか今もわからない

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2016年6月25日 (土)

水族館ガール(松岡茉優)浦島太郎が助けたカメはオスかメスか?(足立梨花)

谷間なのだが。

三夜連続の元アイドルドラマである。

・・・といっても・・・ドラマ「あまちゃん」のGMTのリーダー入間 しおりの話である。

ちなみに・・・アメ女のセンターマメりんも共演している。

松岡茉優はモーニング娘。'16のスペシャルメンバーとして実際に卒業アイドルともいえるぞ。

フィクションだけどな。

昨日・・・炎のストッパーの話をしたのがいけなかったのか・・・英国の国民投票はEU離脱派が勝利して・・・大騒ぎである。民主主義とは基本的に物騒なものだからな。

まあ・・・融合と分裂は・・・この世の基本中の基本だからな。

日本でも大坂が独立したら「東海道戦争」が勃発するわけである。

グローバル化というのは貧富の差も世界水準になるということだからな・・・上の方はいいが下の方はたまったもんじゃないよねえ。

しかし・・・何十万という人がEUの市民として英国内で異邦人になるというのはなかなか壮絶なことだな。

国籍というのは実にに厄介なものである。

さて・・・22才戦線が伯仲するアイドル女優界では松岡茉優はまだ21才なのである。

22才には小島瑠璃子がいる。

「KinKi Kidsのブンブブーン」(フジテレビ201606191330~)では小島瑠璃子はイルカに乗っていた。

で、『水族館ガール・第1回』(NHK総合20160617PM10~):原作・木宮条太郎、脚本・荒井修子、演出・谷口正晃を見た。云わずと知れた「モップガール」の脚本家と・・・石橋杏奈が芳山くんを演ずる映画「時をかける少女」(2010年)の監督のカップリングである。・・・まあ、微妙だよな。それにしても「モップガール」を越えられないなあ・・・。今回もセリフの変態度合が結構きついぞ。それでも主人公の独特の演技力でなんとか消化している。この脚本家は色恋沙汰に自意識過剰なんだよな・・・もう少し枯れるといいと思うぞ。もうベテランなんだから。

大手商社・四つ星商事のOL・嶋由香(松岡茉優)は「ゆとり」であり、酒乱の気がある。

説明はされないが・・・由香のいるセクションは不動産部門なのだろう。

エリート社員の矢神拓也(西村元貴)と交際していたが・・・突然、交際を打ち切られ、失意の由香は泥酔して・・・気がつくとラブホテル「竜宮城」で目を覚ます。

その入り口にある「浦島太郎が助けたカメはオスかメスか?」というクイズに感銘を受ける・・・ちょっと変わったところがある由香だった。

出勤した由香を待ちうけていた上司の森下(木下ほうか)は由香に預けた書類の欠損を告げる。

後にわかるがこれは森下の罠だった。

続いて「怪文書」のメールが届く。

由香が男二人とラブホテルに入る画像付である。

後にわかるがこれも森下の罠だった。

公私に渡る不祥事で左遷を余儀なくされる由香。

後にわかるが・・・酒の席で失敗の続く由香を森下が疎んじたのが発端だった。

由香の出向先は傘下の「はまかぜ水族館」だった。

図式としては「ミンミンホールディングス」→「鳥の民」と同じである。

しかし・・・「四つ星商事」→「はまかぜ水族館」には少しリアリティーが不足している。

たとえば「しながわ水族館」←「サンシャインエンタプライズ」←「サンシャインシティ」←「三菱地所」ぐらいの親子関係である。

「はまかぜ水族館」の運営に関して大手商社の森下が「本社」の立ち場で口を挟むのはいささか・・・下界に足をつっこみすぎなのである。

地域の再開発と水族館運営にはもう少し・・・間があるような気がするのだった。

ようするに・・・「エリアマネージャー不足」なのである。

とにかく・・・経営難の「はまかぜ水族館」は「本社」にとってお荷物的存在で・・・「本社」としては「経営合理化」を求めており・・・そのために森下や・・・矢神が介入してくるわけである。

由香は本社から見捨てられ・・・「はまかぜ水族館」の飼育員見習いとなるのだが・・・水族館の人間にとっては・・・本社から送り込まれたスパイとみなされるという板挟み設定である。

由香は社会人としての常識に欠けるところがある・・・出勤途中で川に流された仔犬を拾い上げ初日から遅刻するという問題児なのである。

ただでさえ・・・経営合理化を迫る本社に敵意を持っている「はまかぜ水族館」海獣課のチーフ・梶良平(桐谷健太)は完全に由香に不信感を抱くのだった。

しかし・・・水族館の館長・内海良太郎(伊東四朗)は由香の迷子への対応を見て・・・発達障害の側面を持つ由香の秘められた特殊な能力に気がつくのだった。

由香は人間の気持ちはわからないが動物の気持ちがわかるファンタジックな存在だったのである・・・おいっ。

「一週間でイルカの個体を識別すること・・・そして給餌ができるようになること」と由香に試練を与える梶・・・。

「名前を教えてください」

「C1、B2、F3・・・」

「記号・・・ですか」

「愛称を付ける水族館もあるが・・・うちは学術的な施設なんだ」

そのことに誇りを持っているらしい梶だっだか・・・由香は水族館が不人気な理由の一端に触れたわけである。

「Cとかに意味があるんですか」

「Cは捕獲した時のグループ名だ・・・C1はCグループの一頭目だ」

「・・・」

根性の観察により・・・なんとか・・・識別が可能になる由香だが・・・C1は由香の手から餌を食べようとしないのだった。

悩む由香を元気付けようと親友の小柴久美子(足立梨花)は合コンに誘うが・・・由香に心の余裕はなかった。

そんな由香にアドバイスをする内海館長。

「C1には・・・C1ジャンプという必殺芸があったけれど・・・前の飼育係が引退してから・・・一度もやらないんだ」

「つまり・・・義理立てですか」

「そうかもしれないし・・・ただ寂しいだけかもしれない」

「・・・」

由香は優しい言葉をかける館長に甘えて質問する。

「浦島太郎が助けたカメはオスかメスか?・・・というクイズがあるんですけど」

「その答えは・・・資料室にきっとあるよ・・・」

水族館の資料室で根性の検索を開始する由香・・・。

いつしか・・・由香は水族館に夢中になっていき・・・冷凍室に閉じ込められたり・・・入浴シーンをサービスしたりするのである。

そんな折・・・森下と矢神から食事に誘われる由香。

本社復帰の希望を抱き・・・指定された店に出向いた由香は・・・立ち聞きで左遷の理由を聞いてしまう。

「それにしては・・・彼女に優しいですね」と矢神。

「優しくしておけば一回くらいやらしてくれるかもしれないじゃないか」とクソ上司ぶりを発揮する森下だった。

自分には帰れる場所がないと自覚する由香だった。

「試験の日」・・・イルカの識別については問題なかったが・・・C1は・・・餌を食べようとしない。

そこへ・・・森下と矢神がやってくる。

「唯一の・・・集客能力が見込めるイルカショーも・・・地味だな」

「水族館の皆さんは・・・必死で命の世話をしているんです・・・軽々しく云わないでください」

激昂する由香・・・。

「なんだと・・・」

「浦島太郎が助けたカメはオスかメスか?・・・知ってますか」

「え」

「勉強すればわかるんです・・・産卵するために上陸するアカウミガメはメスに決まってるんですから」

「アホか・・・」

「知識のない人間が知識のある人間をアホ呼ばわりするのは間違ってます」

「君はどっちの人間だ」

「私は水族館の一員です」

「じゃあ・・・水族館が処分される時は一緒にお払い箱になるわけか」

「・・・」

その時・・・C1が由香が話に聞いた伝説の技の動きを始める。

C1は・・・由香の孤独な心に感応したのである。

思わず餌を空中に投げる由香。

水中から回転しながら飛翔したC1は見事に餌をキャッチするのだった。

「あれは・・・C1ジャンプ」

はまかぜ水族館の総務課長の倉野(石丸幹二)・・・魚類課チーフの今田(澤部佑)、ペンギン担当の吉崎(西田尚美)、専属獣医師の磯川(内田朝陽)・・・一同は感嘆する。

「私は・・・この水族館を世界一にする・・・そして・・・どんなに優しくされても・・・嘘つきクソ上司にはやらせない」

啖呵をきる由香だった。

しかし・・・梶は・・・。

「ふん・・・俺はお前なんか認めないぞ」

ツンツンするのだった。

しかし・・・二回目でデレます。

松岡茉優が・・・独特の気迫で作品に感動を生みだしているのは間違いないようだ。

脚本家には是非・・・応えてもらいたいね。

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2016年6月24日 (金)

OLですが、キャバ嬢はじめました(倉持明日香)ここはお客様とキスをする職場ではありません(石川梨華)

さて・・・谷間である。

たまたま・・・二夜連続卒業アイドルドラマである。

けして、意図的ではないというか・・・アイドルなんて谷間の花とキッドが考えているわけではない。

どこかで・・・誰かがそう思っているにしても・・・。

もっとも「朝が来る」の川島海荷は本来が女優としてスタートしていて・・・事務所の方針でアイドルになったわけである。

所属グループの「9nine」センターとしてよりも「役者魂!」の福田桜子とか「ブラッディ・マンディ」の高見香奈とか「怪物くん」の市川ウタコとか・・・女優としての川島海荷の方がお茶の間の認知度は高いだろう。

しかし、アイドルというものはある程度、日銭が稼げるので事務所への貢献度は高いわけである。

同じ事務所には同い年の「あまちゃん」でアイドルを演じた能年玲奈がいるわけだが・・・最高に陽のあたる場所へ出たのに・・・個人的事情で日蔭者になってしまった彼女に比べれば順風満帆とも言える。

弱肉強食の芸能界で・・・事務所や個人的事情のゴタゴタでファンを一喜一憂させるのは・・・残念なことだが・・・人間らしくてよろしい・・・という考え方もある。

そもそも「永遠のアイドル」とか「永遠のスター」が成立しずらい御時勢なのである。

共演している小島梨里杏も同じ事務所で同じ年だが・・・こちらは「みんな!エスパーだよ」シリーズのWeb配信ドラマでパンチラをサービスしている。子供たちのアイドル・トッキュウ3号なのにな。

黒川芽以を彷彿とさせる美少女でありながら・・・結構、汚れ仕事をまわされているわけである。

みんな・・・いたいけない・・・。

一方で・・・アイドルとしてはメジャーな存在であるAKB48元メンバーでチームBのキャプテンであった倉持明日香をお茶の間がどれだけ認知しているか・・・といえば何とも言えないものがある。

「マジすか学園」(テレビ東京)で小歌舞伎やってました・・・と言われてもああと頷く人はあまり多くないだろう。

深夜ドラマとはいえ・・・そういう元アイドルの26才が・・・主役を演じることは・・・さすがAKB48とでも言えばいいのか・・・。

性風俗産業と水商売の境界線業界を舞台とした物語である。

ある意味・・・経験が活かせる設定なのか・・・。

ナンバーワンキャバ嬢として君臨する脇役を勤めるのがモーニング娘。を卒業して11年目の石川梨華(31)である。ドラマ「釣り刑事」シリーズの城下香津美役でお馴染みである・・・お馴染みなのかよっ。

流れていくよねえ・・・時が。

で、『OLですが、キャバ嬢はじめました・第1回』(TBSテレビ201606220128~)原作・鏡なな子、脚本・山咲藍、演出・小川弾を見た。この枠は次回作に「闇金ウシジマくん Season3」が控えているわけである。その期待度は圧倒的なのであり・・・この枠の前作である「ディアスポリス 異邦警察」も主演が松田翔太で夏帆をゲストに迎えるなど豪華キャストでダークな世界観を満喫させてくれたために・・・本当に谷間な感じがするよね。

あまり大きいとは言えない広告代理店のOL・・・小泉菜奈子(倉持明日香)・・・。

手取り16万円である・・・都会で一人暮らしするには・・・ある意味、ギリギリだ・・・。

あまり・・・節約上手とは言えない菜奈子は・・・貯金ゼロの状態で・・・支払いが滞ったために・・・ガスと電気を止められてしまうのである。

ふと手にとった求人誌で・・・「キャバクラ嬢募集」の広告を目にした菜奈子は時給四千円に誘われて・・・夜の街のドアを叩くのだった。

「新人は・・・時給二千円からね・・・貸衣装代は初日はサービスしておくよ」

キャバクラ「クラブ プロポーション」の店長・織田(福士誠治)は軽い口調で菜奈子を即日採用するのだった。

「え・・・そんな・・・ここに四千円て・・・」

「それは・・・お客さんの指名がとれるようになったら・・・すぐに稼げるようになるから」

「指名?」

「つまり・・・ナナコちゃん目当てのお客さんがつくっていうこと・・・時給とは別に指名料手当もあるよ」

「・・・」

「とにかく・・・習うより慣れろさ・・・三時間すわってるだけで今夜は六千円稼げるよ」

こうして・・・キャバクラ嬢・ナナコは誕生した。

ナナコより一週間早く入店したカズミ(筧美和子)は・・・すでに「神セブン」と呼ばれる売上上位七人の一人となっているが・・・優しくアドバイスしてくれるのだ。

「指名をとるためにはお客様に名前を覚えてもらうことが大切だけど・・・ヘルプの時は営業してはいけないの」

「ヘルプ?」

「指名が重なったお客様のお相手をすることよ・・・」

「・・・」

「だから・・・営業をするのは指名をしないフリーのお客さんの時だけよ」

しかし・・・見事に洗練されていないナナコを「イモ」と断じる怖い先輩メグミ(奥仲麻琴)もいるのだった。

そして・・・ナンバーワン・キャバ嬢として君臨するのが姫乃(石川梨華)である。

いきなり・・・キスを求めてくる常連客に・・・困惑するナナコ・・・。

そこへ・・・姫乃が助け舟を出してくれる。

「ナナコちゃん・・・チェンジの時間よ」

安堵したナナコに姫乃は囁くのだった。

「ここは・・・お客様とキスをするところではないのよ・・・」

はたして・・・ナナコは・・・キャバ嬢として・・・高収入を獲得できるのか・・・という物語なのである。

まさか・・・ナナコがそんなことをしているとは知らないボーイフレンドの横山保を橋爪功の息子の橋爪遼が演じている。

ちなみに・・・倉持明日香は薄毛でお悩みの方にお馴染みの炎のストッパー倉持明の実の娘である。

つまり・・・二世カップル誕生なのだった・・・。

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嬢王Virgin

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2016年6月23日 (木)

朝が来る(川島海荷)子供に子供は育てられない(小島梨里杏)

谷間です。

日本には四季があり・・・なんとなく連続ドラマというものが一つの季節に納まって久しいのだが。

そういうものを自称・公共放送がぶち壊し・・・民放の人々も「勝手にやらしてもらおうか」的な感じになってきている。

春ドラマの最終回シーズン前に・・・夏ドラマがスタートしていたり・・・間を置かずにスタートしたり・・・梅雨ドラマかっていう短さだったり・・・いろいろとアレなのである。

このドラマも「火の粉」の後番組としてスタートして・・・すでに第3回なのである。

全8話らしいから・・本格的な夏に入ると終わるわけである。

ま・・・五輪の夏だしな・・・。

で、『朝が来る・第1~3回』(フジテレビ201606052340~)原作・辻村深月、脚本・髙橋麻紀、演出・古澤健(他)を見た。2012年にはNHK総合で同じ原作者の「本日は大安なり」がテレパックで作られている。今回は東海テレビとテレパックである。「本日は・・・」の演出家・渋谷未来がこちらではプロデューサーとなっている。2012年にはこの後プレミアムドラマとして制作される予定だった「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」が同じ原作者による許諾取り消しで流れている。NHKは講談社に損害賠償訴訟を起こしたが東京地方裁判所は2015年にこれを棄却した。原作に対する脚色を原作者が許容できなかったことが原因だが・・・間にNHKと講談社を挟んでいるとはいえ・・・脚本家の大森寿美男と原作者が一歩も譲らなかったことは天晴である。お互いに意地を貫いたわけだ。それによって右往左往した関係者はたまったもんじゃないにしても・・・。創作者はそういう理不尽な信念で成立しているものだからな。

出生の秘密は・・・昼ドラマの基本テイストだが・・・ここでは昔だったら「秘密」だったことがオープンになっているところが・・・「現代的」なのである。

いわば・・・末期癌を患者に告知する時代ということだ。

たいよう幼稚園に一人息子の朝斗(林田悠作)を通わせる栗原佐都子(安田成美)は出版社に勤める夫・栗原清和(田中直樹)と長い不妊治療の果てに・・・結局、妊娠出産を諦め・・・特別養子縁組支援団体・ベビーバトンを通じて出産直後の朝斗を養子にしたのである。

不妊の原因は夫の無精子症にあった。

栗原夫妻は朝斗に養子であることを告知しており、ベビーバトンの施設のある広島に生みの母がいると話している。

朝斗は生みの母を「広島のお母ちゃん」・・・佐都子を「お母さん」と呼び、幼いながら生みの母と育ての母を区別している・・・あるいは区別させられている。

ここに一つの「問題提起」がある。

修学前の未成年者に・・・「事実」を認識させることの是非である。

実に悩ましい問題だ。

生みの母である片倉ひかり(原菜乃華・実年齢12歳→川島海荷・実年齢22歳)は中学生だった14歳の時に「彼氏」によって妊娠し出産した。現在は20歳になっているわけである。

未成年者同士のカップルの行為の結果を周囲の大人たちは・・・「あってはいけないこと」として処理した。

施設に預けられ出産を終えたひかりが故郷に戻ると・・・「彼氏」は家族と一緒に行方をくらましていた。

ひかりの両親である片倉宏(妹尾青洸)と片倉咲子(赤間麻里子)は教師を職業としており、娘の妊娠・出産を不祥事としかとらえない。すべてをなかったことにしようとする両親の態度にひかりは深く傷ついて行く。

ひかりの姉の片倉茜(小島梨里杏)は成績優秀な優等生だったが・・・親の財布から金を抜き取る性悪な一面も持っていた。

17歳になったひかりは・・・姉の罪をなすりつけられ母親に罵倒された日。

髪を金髪に染めて・・・家出をするのだった。

このように・・・妊娠・出産という慶事によって・・・疎外され・・・家族に遺棄されたひかりは転落の人生を歩んでいく。

美少女が酷い目に遭うのも・・・昼ドラマの基本テイストである。

ひかりが向かった先は・・・「ちびたん」とひかりが呼ぶ愛児を出産したベビーバトンの施設だった。

ベビーバトン代表の浅見(石田えり)は傷心のひかりを受け入れ、施設で保護する。

本来なら・・・未成年者であるひかりの処遇は両親に相談するべきところだが・・・浅見は特殊な事情に慣れ過ぎて判断を誤ったのだろう。

風俗店で働き、父親が誰かわからない子を出産した平田コノミ(黒川智花)のような女が通過していく施設なのである。

ひかりの心が落ち着くまでという算段だったのかもしれない。

施設の雑用を手伝うひかりは生鮮食品店の山本哲男(山本龍二)と健太(小野塚勇人)の父子と知りあう。

健太は哲夫の姉夫婦の子で両親が事故死したために養子となったという事情がある。

いつしか・・・ひかりと健太は心を通わせるようになる。

しかし、哲夫は心臓病の発作で他界・・・。

健太には返済不能の借金が残される。

金貸しの坂上(山田将之)と部下の権田(鈴之助)の暴力的な借金取り立てに翻弄される健太・・・。

相談できる大人は街には一人もいないらしい・・・。

見かねたひかりは健太とともに街を出ることを決意する。

「実家に帰る」・・・明らかに嘘だと見抜きつつ・・・餞別を渡す浅見だった。

社会人としては・・・完全に失格だが・・・厄介払いなら仕方ないところである。

なにしろ・・・ひかりには転落してもらわなければならない昼ドラ体質なのである。

そして・・・三年が過ぎ去ったのである。

ひかりは二十歳となり・・・朝斗は六歳となっている。

見知らぬ街で・・・細々と暮らしていた健太とひかりだったが・・・踏み倒していた借金が巨額な利子を膨らませたところで・・・坂上が現れる。

切羽詰まったひかりは・・・職場の金に手をつけてしまうのだった。

その穴埋めをするために・・・ひかりは・・・ベビーバトンの施設で盗み見た・・・栗原家の連絡先を思い出す。

「片倉です・・・子供を返して欲しいんです・・・私が生んだ朝斗を・・・」

六年間・・・朝斗をわが子として育ててきた佐都子の葛藤。

二人の母を持つことで・・・普通の園児と些細な諍いを起こす朝斗。

なにやら・・・他人の家庭を破壊することに暗い喜びを感じるらしい心の闇を持つ・・・香澄(佐津川愛美)は・・・上司である佐都子の夫に誘惑の手を伸ばす・・・。

夫の妻以外の女性との不適切な関係は・・・昼ドラマの基本テイストである。

そういう昼ドラマの世界に囲まれて・・・主人公の佐都子は・・・自分の育てている子供と同じように・・・自分の子供の産みの母も案じるという・・・朝ドラマのヒロイン体質であるらしい。

朝斗の幸せを巡る物語だが・・・一部お茶の間はひかりや茜の出番をひたすら待つばかりである。

香澄の病んだ感じも・・・少し食傷気味だ。

それよりも昼ドラとしてはイケメン枠に問題あるよね。

ゲスニックマガジンの編集者だけじやね・・・。

まあ・・・そういう朝だか・・・昼だか・・・わからないドラマを夜・・・やってます。

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2016年6月22日 (水)

トットてれび(満島ひかり)白いかもめを泣かすなよ(吉田鋼太郎)

「知床旅情」に登場する国後島は・・・我が国固有の領土であるが、ロシア連邦が不法占拠中である。

困ったことだな。

で・・・春と夏の谷間に突入したわけだが・・・春ドラマのレビューから漏れた作品の中でも1、2を争う名作がコレだ。

そのクライマックスを飾るのが森繁久彌を演じる吉田鋼太郎の熱唱である。

ロシア(当時のソ連)が「クナシリ」を不法占拠して15年目の1960年に・・・森繁久彌が作詞作曲した歌である。

すでに日本は「飲んで騒いで」いられる時代になっているわけである。

白いかもめ(日本人)を泣かすのは黒いカラス(ソ連軍)である。

カラスたちは満州で樺太で暴虐の限りを尽くしたのだ。

加藤登紀子が白いかもめ(よ)・・・と歌うのは男女の話にすりかえるマジックなのである。

白黒をはっきりつけないまま・・・それから56年の歳月が流れたのだ。

それでも「忘れちゃいやだよ」と白いかもめは歌うのだった。

で、『トットてれび・第1回~最終回(全7話)』(NHK総合201604302015~)原作・黒柳徹子、脚本・中園ミホ、演出・井上剛(他)を見た。往年のスターや著名人を現代のスターが演じる回顧録であるが・・・その幻想的なシーンの積み重ねは一種のファンタジーの趣きである。トットちゃんこと黒柳徹子(藤澤遥→満島ひかり→黒柳徹子)は遥か彼方の小学生から近未来の百歳まで超時空的に偏在し・・・あたかも神の如しである。

トットちゃんは・・・不思議な女の子で・・・創成期のテレビ局にもぐりこみ・・・エンターティメントの花を開かせる。

そのデビューからの付き合いとなる伊集院ディレクター(濱田岳)は永遠のとっちゃん坊やなんだな。

渋谷の伏魔殿の正面には地味な中華料理屋がある。

思わず八宝菜が食べたくなるドラマである。

もちろん・・・王さん(松重豊)がいるわけではない。

坂本九(錦戸亮)、沢村貞子(岸本加世子)、永六輔(新井浩文)、横山道乃(菊池亜希子)、篠山紀信(青木崇高)、三木のり平(小松和重)、スリーバブルス(高橋愛、田中れいな、久住小春)など・・・次から次へと繰り出されるキャスティングの嵐だ・・・。語り役のパンダが小泉今日子という豪華絢爛さである。

しかし・・・後半になって・・・トットちゃんの青春が翳りを見せる頃・・・三人の思い出の人が主軸となっていく。

稀有の脚本家・向田邦子(ミムラ)、男はつらいが泣いてたまるかの渥美清(中村獅童)、愛人が12人いる大スター・森繁久彌である。

自由奔放に見えるトットちゃんだが・・・永六輔を知らない若者に「この方は草分けなのよ」と嗜めていたことをいつも思い出す・・・そういう古風な女の一面を持っている。

天才同志の秘密めいた友情を交わす向田邦子とトットちゃん。

旅先で散った彼女の留守番電話に語りかけるという抒情・・・。

「このアマ・・・山手育ちの女なんて大嫌い」で始る渥美清との交流。

「お嬢さん」「お兄ちゃん」と呼びあい・・・森繁久彌のものまねを得意とした彼に「星の王子さま/サン・テグジュペリ」を贈り・・・モギリのお姉さん(片桐はいり)に「男はつらいよ」の入場券を渡す・・・。

「ダック入りの北京ダック」を腹いっぱい奢られるトットちゃん。

「一回、どう」で始る森繁久彌との腐れ縁・・・。

昭和から平成へ。二十世紀から二十一世紀へ。

「徹子の部屋」では「知床旅情」が時代を越えて歌い継がれる。

「面白くなければテレビじゃない」・・・リベラルであることを見失った「徹子の部屋」の某テレビ局には耳が痛い話である。聞く耳ないぞ。

恍惚の人となった森繁久彌の誘惑を最期まではねのけるトットちゃんだった・・・。

別離のシーンでの車中からの表情は森繁久彌が憑依したように見えた。

素晴らしい時代があった。

テレビの黄金時代があった。

それが失われないようにと祈る今日この頃なのである。

北方領土がいつまでたっても返還されないにしても・・・。

「黒柳さ~ん」と叫んでみたいよねえ。

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2016年6月21日 (火)

ゆとりですがいかが(岡田将生)

青春の旅の終わりはいつも少しさびしい。

傑作ドラマの最終回のようなものだ。

いつまでも子供でいたいけれど・・・そうは問屋がおろさないわけである。

それは・・・ゆとり世代には通じないフレーズじゃないか。

いや・・・今日、「スマホの使い方教室」を見ていたら、わからない言葉をガンガン検索するみたいだから大丈夫じゃないか。

クドカンドラマを味わうためにはある程度、知能や教養が必要だが・・・ある程度、馬鹿でもそこそこ楽しめる。

「優しい世界」では「馬鹿」をバカにしたり、「醜女」をブスと言ったりしてはいけないわけだが・・・クドカンのドラマの登場人物は基本的に「どうしようもない人」だったり「困った感じのブス」だったりするわけである。

しかし・・・そういう人たちを優しく抱擁するようなところがある。

なんとなく・・・泣きたくなるような・・・とにかく・・・抱かれたくなるような・・・そんな優しさである。

時系列のシャッフルは秩序へのチャレンジだ。

それは・・・基本的に表と裏がある人間の心を深く突き刺す手法である。

そのまま味わえるのが一番だが・・・春ドラマの最終回の最終回だし・・・少しだけ整理しておこう。

で、『ゆとりですがなにか・最終回(全10話)』(日本テレビ201606192230~)脚本・宮藤官九郎、演出・水田伸生を見た。:結婚式を控える坂間正和(岡田将生)と宮下茜(安藤サクラ)・・・。七年間、全力で「みんみんホールディングス」に人生を捧げてきた茜は喪失感に苛まれる。同時に心に刺さった釘・・・上司の早川道郎(手塚とおる)との一夜の過ちが正和への後ろめたさを募らせるのだった。すべてを打ち明けた上で正和に許され・・・さらに深く愛を感じたい。茜の間違った女心は暴走を開始するのだった。

その結果・・・牛丼屋で・・・冷酒を頼んだ正和は・・・打撲によって痛んだ利き手で瓶をつかみ損ね・・・叫ぶことになるが・・・それは近未来の話である。

10月10日(月)赤口(火の用心)

酒蔵の片隅で塞ぎこんだ茜に甘い言葉を囁く正和。

「やはり・・・茜ちゃんだけ・・・復職したらどうかな・・・なんだったら・・・僕から早川さんに相談してみようか・・・」

「その名前は言わないで」

思わず口走る茜である。

茜を心底愛する正和は一瞬ですべてを洞察する。

ほとんど・・・超能力者である。

「え」

正和を心底愛する茜もまた・・・正和が悟ったことを感知する。

「どうして・・・そういうところだけ勘がいいのよ」

ダメ惜しされて正和は・・・「茜と早川課長の不適切な肉体関係」をダイレクトに受け止め・・・懊悩するのだった。

「うわああああああああああ」

「ごめん・・・話を聞いて」

「うわああああああああああ」

「どうした」と駆けこんでくる坂間酒造の長男・宗貴(高橋洋)・・・。

「サイレンなの・・・火事なの」と身重の嫁のみどり(青木さやか)・・・。

「はやかわああああああああ」

「早川?・・・ミステリー?」と会心のボケを決めるみどりだった。

10月11日(火)先勝(善は急げ)

正和は・・・早川をいつものカフェに呼び出す。

「ごめんな・・・結婚式・・・出張が決まっててさ」と欠席を詫びる早川課長・・・。

「実は・・・宮下さん・・・仕事がしたいみたいなんです」

「え」

「会社に戻ることはできないでしょうか」

「それは・・・ちょっと難しいな・・・どうしてもというなら心当たりを当たってみるが・・・」

「それは・・・やましいことがあるからですか」

「ええっ」

「どうなんですか」

「えええええ・・・何を言ってるかわからんが・・・失礼だぞ」

「・・・」

早川は大人としてとぼけた。

実刑判決は免れ・・・執行猶予中の道上まりぶ(柳楽優弥)は植木職人として働いていた。

「この前科者が・・・」といたぶりにかかるぼったくりの被害者・・・。

しかし、植木職人の親方(半海一晃)が優しく声をかける。

「そいつだって食わなきゃならねえんだ・・・嫌ならお前がやめな・・・」

まりぶは人の情けが身に沁みるのだった。

性教育の授業を週末に控え・・・ついに・・・教え子の母親である奈々江(石橋けい)と密会する童貞の山路(松坂桃李)・・・。

奈々江は密会場所としてラブホテルを選択するのだった。

「二人きりで逢いたいっていうから」

「いえ・・・僕は・・・女性のいろいろな部位について・・・口にするので」

「ごめんなさいね・・・田舎からおばあちゃんが来ていて・・・ゆっくりしてられないの」

童貞キラーの菜々江は山路の首に手を回し・・・自慢の部位を押しつけてくるのである。

「お・・・お母さん」

「お母さんじゃないでしょう・・・おっぱいでしょう・・・山路くん」

思わず奈々江をベッドに押し倒す山路。

しかし・・・奈々江の息子の顔が脳裏に浮かぶのである。

欲情しているのに勃起しない・・・童貞にはよくあることです。

結局・・・時間切れなのであった。

奈々江が去った後で・・・居酒屋「鳥の民・高円寺店」の女子大生アルバイト・佐倉悦子(吉岡里帆)から着信がある。

思わず・・・呼び出す山路。

ダブルヘッダーである。

二人は全裸で抱き合うが・・・欲情しているのに勃起しない・・・童貞にはよくあることです。

「その・・・言いわけするわけじゃないけど・・・子供たちの顔が浮かんで」

ポーカーフェイスでふりかえる悦子。

「・・・」

「やまじ~・・・赤ちゃんってどうやって作るの~って・・・」

「いい先生ですね」

「・・・」

「それ・・・前に僕が言った・・・いい先生にならなくてもいい人間になってほしい・・・へのアンサーソング的なことですか・・・つまり・・・僕が人としてダメ・・・みたいな」

「性教育の授業いつですか・・・」

「週末です」

「健闘をお祈りします」

悦子は握手を求めて手を差し出す。

山路はその手を握ったが・・・結局、童貞喪失ははたせなかったのだ。

10月12日(水)友引(親しき仲にも礼儀あり)

ボルダリングジムで・・・茜と遭遇する山路。

二人は居酒屋「鳥の民・高円寺店」へ・・・。

背景では・・・悦子がテキパキと働くのだった。

「えええええ」

すべてを打ち明ける茜。

「そうだよ・・・最初に何でも話せる山路に話すべきだったよ」

「でも・・・後悔してるなら・・・ちゃんと・・・正和くんに謝らないと」

「でも・・・凄く傷ついてるんだ・・・これ以上・・・痛い思いはさせられないよ」

「だけど一回だけなんだろう」

「これだ・・・一回は一回だし、ゼロじゃないし・・・一回ずつ百人とやったらいいのかよって話しだし」

「失礼しました~」と何故か謝罪する通りすがりのバイトリーダーの村井(少路勇介)・・・。

「そんなこといったって」

「じゃ・・・殴ってよ・・・」

「え」

「私も痛みを味わないとバランスがとれないよ」

「そんなことできないよ」

「友達でしょう」

思わずジャブを繰り出す山路。

豹変する茜である。

「ちょっと・・・何すんのよ」

「と、ともだちパンチ・・・」

「いたあああああい」

飛んでくる悦子だった。

「私・・・見てました・・・どんな理由があっても女性を殴るなんて最低です」

「いや・・・だけど・・・」

「いたあああああい」

「氷ですね」とバイトの中森(矢本悠馬)・・・。

「いや・・・警察だろう・・・傷害の現行犯だし」と褒められて伸びるタイプの店長・山岸(太賀)・・・。

「ええええええええええ」

10月13日(木)先負(過信は禁物)

いつものカフェでレンタルおじさんこと麻生厳(吉田鋼太郎)のお世話になる山路だった。

「おおいおい・・・ついに女の人を殴ったんですよ・・・童貞の上にDV野郎なんですよ」

「まあまあ・・・」

「童貞のDV野郎になんか性教育の授業なんて無理ですよ」

「いや・・・小学生相手の性教育に必要なのは知識で経験じゃないでしょう」

「そんな綺麗事なんて聞きたくないんですよ」

「綺麗事って・・・」

「性教育に託けて・・・やりたかっただけなんです」

「え」

「セックスしたかったんですよ・・・」

「・・・」

「したかったなあ・・・セックスしたかったああああ」

「うるさいですよ」

周囲の目を気にして山路の口を思わず塞ぐレンタルおじさんなのである。

今さらかっ。

10月14日(金)仏滅(泣きっ面に蜂)

どんな時も・・・どんな時も・・・時は流れて行くのだった。

「阿佐ヶ谷南小学校4年2組」の教壇に立つ山路だった。

黒板に裸の男女の絵を描き・・・「思春期」そして「異性」と書く山路だった。

副担任のポジションで山路を見守る藤原教頭(原扶貴子)・・・。

「思春期になると・・・男の子は精通があり・・・女の子は・・・」

女の子の絵に乳房を描こうとして躊躇する山路だった。

「何をこだわってるんだ・・・」と教室を覗く太田学年主任(小松和重)・・・。

「カタチじゃないですか・・・」と教師・円山(加藤諒)・・・。

「たれすぎてる!」と女教師・島本(菊池美里)・・・。

「丸みをおびてふくよかになります」と思わず助け舟を出す教頭だった・・・。

「そうなるのは・・・身体が大人になって・・・お父さんやお母さんになるための準備が出来て行くということです」

なんとか・・・性教育を成し遂げようとする・・・童貞教師だった・・・。

やがて・・・おしべとめしべの出会いについて語る山路・・・。

教頭は・・・「子供が生まれる確率的な問題」についてフォローする。

「つまり・・・赤ちゃんが生まれるのは・・・奇跡のようなものなのです」

「だから・・・身体が変化していくのは・・・当たり前のことなのです・・・誰かのおっぱいが大きいとか小さいとか・・・毛が生えたとか生えないとかで・・・笑ってはいけません・・・」

「先生は・・・もう大人ですか」と質問する男の子・・・。

「うん・・・そうだねえ・・・先生は来年・・・三十歳です・・・君たちから見れば凄く大人に見えるでしょう・・・でもね・・・大人だって・・・色々悩むことはありますよ・・・二十年後・・・君たちは三十歳になります。そして・・・身体は大人でも・・・心はまだ思春期のままかもしれません。山路だって・・・まだまだ間違ったり失敗したり・・・身体は大人でも心は子供みたいです。でも・・・人間は間違う生き物です・・・みんな間違いを犯す・・・好きになってはいけない人を好きになったり・・・無駄遣いをいけないことと知りつつしてしまったり・・・だから・・・先生は誰かが間違ったことをしても許すことのできる人間になりたい・・・みんなにもそういう大人になってもらいたいのです」

山路はなんとか成し遂げた。

完璧な授業ではなかったかもしれない。

しかし・・・児童たちは・・・そんな山路先生が大好きなのだ。

「やまじ~あそぼ~」

子供たちに囲まれて・・・山路は今という時を噛みしめる。

10月15日(土)大安(馬鹿につける薬なし)

性教育の後の結婚披露宴の司会というハードなスケジュールに挑む山路はタブーの白いスーツで家を出る。

結婚式の準備に忙しい坂間家。

喪中の慶事に仏壇の中の人に詫びる未亡人の和代(中田喜子)・・・。

白無垢を着る頬を打撲した花嫁の茜にこっそりと母の形見の指輪を贈る和代。

「みどりさんには内緒よ」

しかし・・・みどりは見ていた!

晴れ着に着替え終わったところで正和の妹・ゆとり(島崎遥香)は「お母さん、おしっこ」と甘えるのだった。

目が覚めた山岸は二度寝する。

都下の田園風景の中・・・狐の嫁入りのような花嫁道中・・・。

神社へ向かう途中の三差路で羽織袴の新郎・正和の足がとまる。

「だめだ・・・こんな気持ちじゃ・・・神様の前にでられない」

「え」

唖然とする家族を残し・・・走り去る正和である。

郊外へ向かう電車の中で山岸は呟く。

「やべえ・・・遅刻じゃね」

正和はタクシーに乗ってそれほど遠くない早川の一戸建て住宅に到着する。

早川は愛車を洗車していた。

「あ・・・これ・・・これから出張だから・・・本当だよ」

「・・・」

問答無用でストレートパンチを繰り出す正和。

朝から正装した男に何故か殴られたところを玄関先で早川の妻と幼い息子は見た!

自分の暴力に驚愕した正和は現場から逃走。

家族にふるわれた暴力の理由を悟られたくない早川は洗車ブラシをもって追いかける。

通り魔的犯行に見せかけるためである。

それが大人というものだ。

犯罪を犯しても警察に逮捕されるのは全体の三割に過ぎないのである。

つまり・・・三回目は注意しないといけないということだ。

逆にこのドラマではまりぶが逮捕されているので正和も山路も暴力を見逃されたのだ。

正和は街角の牛丼屋に入店する。

花婿抜きで神社に到着した花嫁行列。

茜は一人・・・神前に向かう。

「茜ちゃん」

「三々九度の時間です」

「そんな一人で・・・」

「なんだったら・・・私が代理を務めましょうか・・・四回ほど経験があるので」

「やらなきゃ・・・あきらめきれないから」

「あきらめるな・・・俺が必ず弟を捜してくるから」

「冷酒をください」

時刻を確かめた正和は・・・藁にもすがる思いで一人三々九度を決行する。

しかし・・・瓶を掴もうとした手に激痛が走る。

人を殴れば手が痛い法則である。

それでも・・・諦めずに・・・冷酒を頼み直す正和。

時空を越えた固めの杯を・・・神様は見ていた!

「この世のすべては奇跡なのです」

「この世のすべては運命なのです」

「この世のすべてはめぐり会いです」

「アンタソレ・・・トリザラヨ・・・ニホンジンノクセニジョーシキナイネ」

「え・・・」

顔をあげた正和は行方知れずだった道上ユカ(瑛蓮)・・・中国名・胡冰鈴(フー・ビンリン)を発見する。

「ユカさん」

「ナニスルカ・・・ワタシ・・・吉田よしえ・・・専門学生ヨ・・・」

「ユカさんでしょう」

「ハナセ・・・パワハラか・・・」

披露宴会場に到着した山路は・・・極道の襲名披露のような座敷に驚愕する。

「シャ、シャンパンタワーは・・・ウエディングケーキは・・・」

「うちは・・・神前結婚式で和風の祝言と代々決まってます」

そこへ到着する極道の親分のような花嫁の父の宮下重蔵(辻萬長)と極道の若頭のような花嫁の兄の和重・・・。

「ひ」

山路の寿命は急速に短縮した。

正和からの連絡を受けまりぶは職場から自分の部屋へ全力ダッシュでたどり着く。

「誰もが道に迷います」

正和を捜すレンタルおじさんは墓地に迷い込んでいた。

「地獄でなぜ悪い」

着座したの村井とバイトの中森は空席を見る。

「ういーっす」と遅刻して到着する山岸だった。

「めしべとおしべは出会います」

再会するまりぶとユカ。

「コイツノセツメイ・・・チンプンカンプン」

「どうして・・・逃げたんだ」

「まりぶ捕マッタラ・・・日本ニイラレナクナル」

「大丈夫なんだよ・・・出生届け出してるから・・・申請すれば残留許可が下りる」

「結婚シテイナクテモカ」

「うん」

「日本、チョロイナ」

祝言の席でごねる花嫁の父。

「身元も確かだし・・・若いのにはっきりとものを言う男と信じたから結婚ば認めたのに・・・娘は連れて帰るとたい」

しかし・・・花嫁は来客に酌をしていた。

「もう・・・始ってると・・・あんた・・・声が大きくて丸聞こえたい」

年長者として同郷の男を嗜める・・・正和に恩義を感じる野上(でんでん)だった。

「殴ったらすっきり・・・すると思ったんだ・・・でも・・・人を殴るなんて初めてだし・・・手は痛いし・・・これ・・・骨折してるかな・・・俺って本当に無力だよなって」

「骨折してねえよ」

まりぶはロープを握りしめる。

そして、中国語でユカにタクシーを呼ぶように指示するまりぶ。

突然、泣きだす愛児セレブ・・・。

まりぶは正和を布で包んで目隠しすると手早く拉致するのだった。

なんか・・・やってるのか・・・すでに・・・そういうことも経験済みなのか・・・。

花婿抜きで始った披露宴。

「好きになってはいけない人を好きになった人も許してあげられる人に」

「えーっ・・・新婦の父上にご挨拶を・・・はしないほうがいいみたいなので・・・新郎の母上にご挨拶を・・・も無理みたいなので・・・乾杯の御発声を野上さんに」

「え・・・私」

「なるべく長めでお願いします」

花嫁の父親は激怒・・・花婿の母親は号泣。

花婿の妹はしょげた顔をしている。

地獄のような披露宴に必死の司会者である。

「えーっ・・・スカートとスピーチは短い方がいいと言います・・・乾杯」

「あまちゃんかっ」

「乾杯・・・」

そこへ・・・正和を確保したまりぶが乱入する。

「二人でちょっと話があるんで・・・みんな外に出て」

「二人が出た方が早いんじゃ・・・」と山路。

「頭いいね・・・外に出ろ・・・ブス」

「まりぶくん・・・ブスはダメだよ」

「おっぱいが大きいとか小さいとかおならをしたとかしないとかキレイとかブスとかで人を笑ってはいけません」

泣きだす花嫁。

「泣くな・・・ブス・・・化粧が落ちる」

「まりぶくん・・・ブスはダメ」

「私・・・結婚なめてた・・・こんなに恥ずかしくてこんなに口惜しくてこんなに心細い思いをするのはもういやだ・・・私・・・まーちんと結婚できないなら・・・一生結婚なんかしない」

茜の絶唱である。

心が震える正和。

「僕も・・・茜ちゃん以外とは一生結婚しないことを誓います」

「まーちん」

「茜ちゃん」

正和に駆け寄ろうとする茜だが足が痺れていた。

それでも必死にのたうちまわる茜である。

「蒲田行進曲か」

「ヤスと銀ちゃんか」

「貞子か」

「伽椰子か」

「ヘビ女か」

「打ち上げられた大王イカか」

「断末魔のトドか」

「脱皮する芋虫のクロール」

「生まれたてのカバか」

「お座敷ストリップか」

はいずりおわり力尽きたちょっと甘えたしゃべり方をする愛しいブスを抱きとめる主人公。

「では・・・ここで新郎新婦の誓いのキスを」

熱烈キスにどよめく一同。

目の前で繰り広げられる面白い光景に思わず立ち上がり拍手をするゆとりだった。

時間を止める記念撮影。

そして迷子だったレンタルおじさんが宴へとたどり着く・・・。

2017年のエピローグ(鬼が笑う)

坂間家の朝食光景。

茜は寝坊しているゆとりを義姉として起こし、パジャマ姿をサービスさせる。

甘えん坊の夫のネクタイを結ぶ新妻である。

正和は「みんみんホールディングス」に新作銘酒「ゆとりの民」を売り込む。

「勝手にコラボですか」と消極的な姿勢を示す山岸。

だが・・・正和の根拠ある迫力に屈する早川だった。

「検討しましょう」

「ありがとうございます」

まりぶは大学入試に挑んだ。

研修生として旅行代理店の窓口業務につくゆとり。

「オフショアは最高ですよね」

サーファー気取りで家族旅行の申し込みにくるレンタルおじさん。

「ごめん・・・何言ってるのか・・・わかりません」

塩対応かっ。

カーテンコールである。

坂間酒造の営業職募集に応じた舎弟こと豊臣吉男(長村航希)・・・。

フェミニストなので産気づいたみどりの手を振り払うのだった。

みどりは男児を無事出産した。

居酒屋「鳥の民・高円寺店」には「ゆとりの民」のポスターが張られている。

まりぶとユカの婚姻届に保証人としてサインをする山路。

まりぶは11年かかって誰でも入れる東京中央大学の学生となっていた。

アルバイトの制服が可愛い悦子は銘酒「ゆとりの民」を推奨する。

鳥の民でゆとりの民を飲むゆとりたち。

「そろそろ看板です」

一人、また一人と去っていくゆとりたち・・・。

「お勘定はあちらの方が・・」

まりぶとユカは仲良く去っていく。

「お待たせしました」

私服も可愛い悦子は山路と腕を組む。

今夜こそ・・・山路には童貞を卒業してもらいたい。

祈りながら坂間夫婦は店の後片付けを手伝う。

息も合い手際もいい二人。

しかし・・・お皿は割れるために作られるのだ。

響き渡る破壊の音・・・。

「失礼しました~」

「失礼しました~」

時は流れて行く・・・どうか・・・誰もが幸せに暮らせますようにと。

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2016年6月20日 (月)

今はただ切腹して果てることこそ無上の喜び、その首を晒すが汝の誉れなり(堺雅人)

元亀二年(1571年)に父・北条氏康が没し、氏政が北条家を継いでおよそ二十年である。

天正十八年(1590年)七月・・・豊臣秀吉の小田原征伐に敗北し・・・氏政は切腹して果てた。

氏政の母・瑞渓院と継室の鳳翔院は六月十二日に共に死去していて自害したとの説もある。

八王子城主だった弟の氏照は小田原城に篭城。八王子城は六月中に落城し、氏照夫人は自害する。

氏照も氏政と同日に切腹する。

氏政の弟の一人、藤田氏邦は鉢形城に篭城。前田利家に攻められ降伏し助命されて前田家家臣となる。

氏政の弟の一人、北条氏規は韮山城に篭城。徳川家康の説得により降伏する。氏規の子氏盛は河内国狭山藩主となる。

氏政の嫡男・氏直は助命されて高野山に入る。氏政の弟である佐野氏忠、北条氏光や、氏直の弟である太田氏房、千葉直重、北条直定らは氏直に従った。

氏直夫人で徳川家康の娘である督姫は天正十九年(1591年)に夫が病死すると、秀吉の命により三河国吉田城主の池田輝政の継室となった。

北条氏滅亡の端を発した猪俣邦憲は消息不明となる。

氏政の軍師・板部岡江雪斎は秀吉の臣下となり、関ヶ原の合戦では徳川家康の臣下となった。

小早川秀秋の裏切りを導いたのは板部岡江雪斎だったという説もある。

北条氏は滅亡したが・・・血族や家臣たちはそれなりに生き抜いたのである。

で、『真田丸・第24回』(NHK総合20160619PM8~)脚本・三谷幸喜、演出・木村隆文を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は豊臣秀吉の馬廻衆として活躍中の主人公・真田信繁の新作描き下ろしイラスト大公開でお得でございます。颯爽としておりますねえ。秀吉の馬廻り衆には尾張中村出身の服部正栄とか、木村重成の室・青柳の父である真野頼包とか、黄母衣衆では桶狭間の合戦でおなじみの服部一忠とか、小田原征伐で戦死した一柳直末とか、赤母衣の長谷川重成とか・・・いろいろといるわけですが・・・信繫が大抜擢されて・・・小田原城に密使として送られるなどという素晴らしい脚色に血沸き肉踊る今日この頃でございます。一歩間違えれば・・・北条家の人質になっていた可能性だって信繫にはあったわけでございますからねえ。氏政に可愛がられていたかもしれない信繫・・・そうはならなかったところが・・・歴史の醍醐味かもしれません。

Sanada024天正十八年(1590年)六月、北条氏政は笠原政尭を豊臣秀吉への内通の罪で処刑。政尭の父・松田憲秀を監禁する。七月、北条氏直が秀吉に降伏する。氏政や氏照、大道寺政繁や憲秀らは秀吉に切腹を命じられる。助命された氏直は家臣を伴い高野山に出発する。小田原城開城後も唯一抵抗を続けていた忍城の成田長親は石田三成に降伏する。成田氏長の長女・甲斐姫は秀吉の側室として召された。秀吉は小田原城に入城。江戸から岩槻を経て宇都宮に入る。秀吉は南部信直陸奥国南部を安堵する。羽柴秀次は陸奥国会津に出発。八月、秀吉は上杉景勝と大谷吉継に出羽国での仕置きを命ずる。秀吉配下の堀尾吉晴が陸奥国の九戸政実を討伐。秀吉は白河を経て会津に到着。秀吉は浅野長政に陸奥国検地を命ずる。織田信雄は出家し常真と号す。九月、秀吉は京都に凱旋する。佐竹義重が上洛。秀吉の命により千利休、聚楽第で茶会を催す。秀吉は摂津国有馬へ湯治。十月、秀吉は有馬で茶会を催す。羽柴秀次が羽柴秀長の病気本復を祈願する。十一月、秀吉は参内し関東・奥羽の平定を報告する。豊臣秀吉は天下を統一した。

聚楽第の忍び屋敷で秀吉は三成と軍師・官兵衛と密議を凝らしていた。

周囲は雪景色である。

官兵衛は竹中半兵衛が育て上げた美濃と飛騨と近江の忍び衆を受け継ぎ、軍事と外交のための諜報網を統括している。

三成は秀吉の育成した官僚組織を率いる行政機関のトップである。

北条征伐の大まかな軍略を秀吉が立案し、官兵衛が緻密な作戦に練り上げ、石田三成が実戦に必要な諸事を司る。

織田信長の構築した超時代的な「戦のカタチ」を秀吉は優秀な人材の登用で踏襲している。

「これで・・・ええかのん」と秀吉が東海・関東地方の絵図から顔をあげる。

「おおよそは・・・」と官兵衛が答える。

「水軍は・・・いささか大袈裟と存じまする」と三成は吝嗇な性格をあらわにする。

「佐吉よ・・・これはのん・・・演習と心得よ」

「石田殿・・・確かに・・・下田で北条水軍を撃破すれば・・・酒匂河口への上陸作戦は無用のものと言えますが、四国、九州とは違い、敵前上陸作戦となる今回は・・・唐入り(大陸侵攻)のための稽古とお考えいただきたい」と官兵衛。

「・・・」

「四国や九州とは違い・・・大軍の籠る城を攻めるのは滅多にない機会でござる」

「損して得取れと申すだがや・・・のう・・・佐吉」

「御意にござります」

水陸併せて二十万を越える兵の移動はすでに大事業である。

合戦場への兵力の集中は兵糧の運搬も併せて石田三成の采配に委ねられる。

遠方の武将と近在の武将の足並みをそろえる書状の伝達だけでも日数を要する時代なのである。

三成の指揮する軍使部隊は全国の山野を駆けまわる。

「父上・・・合戦の開始は三月の二十八日と定められております」

「戦は・・・機に応じてするものではないのか」

秀吉からの命令を家康経由で嫡男・信幸から伝えられた真田昌幸は顔を顰める。

「父上は先手を命じられておりますが・・・まもなく・・・信濃には前田勢、上杉勢が南下してくる手筈・・・信濃衆を含めて・・・これらが集結してから・・・一気に押し出るのでございます」

「まるで・・・祭りの踊りのような按排じゃのう・・・」

「北方軍は総勢六万となりますれば・・・」

「大道寺政繁の松井田城は・・・たかだが・・・二千の籠る城・・・真田の五千で充分抜けるぞ・・・」

「父上・・・北方軍はそのまま、関東の城をすべて・・・夏までには落すことになります」

「なんと・・・武蔵や下野までもか」

「安房国までです」

「なるほどのう・・・」

従五位下真田安房守昌幸はため息をついた。

「まもなく・・・米が参ります」

「何・・・」

「六万の兵を養う米がまず届くことになっております」

昌幸は驚愕した。

「そんな話・・・聞いたことがないわ」

「それが・・・関白流ということでございましょう・・・と家康様が申しておりました」

「・・・米蔵を作らねばならんな」

「御意」

真田昌幸が北方軍六万の先手として出陣した三月下旬・・・。

秀吉は沼津で十万の軍を集結させていた。

秀吉の本陣に徳川家康が呼ばれる。

そこには・・・織田信雄と豊臣秀次・・・そして黒田官兵衛が控えている。

「大納言殿・・・よいかな」と秀吉が微笑む。

「すべて整ってござる」と家康が応じる。

「予想通り・・・北条氏政・氏直親子は小田原に篭城」と官兵衛が切り出す。

「前衛として・・・松田康長の山中城と北条氏規の韮山城を結ぶ線に防御を整えておりまする。守備兵は山中城が五千、韮山城が四千というところ・・・線というものは二つの点があって・・・成り立ちまするゆえ・・・まずは・・・軍を二つに分け・・・我武者羅攻めをいたしますぞ」

「・・・」

「これは早いもの勝ちといたします・・・どちらかの城が陥落したところで・・・線は点になりますので・・・残った城は兵糧攻めに切り替えます・・・」

「なんと・・・」

「奪った城を付け城として残し・・・本軍は一気に小田原を囲むのでござる」

「山中攻めは中納言秀次が主将、韮山攻めは織田内大臣信雄を主将といたす・・・大納言殿には秀次を助けてもらいたい」と秀吉。

「仰せのままに・・・」と家康は応じる。

山中城には豊臣秀次と徳川家康、池田輝政、堀秀政、長谷川秀一、丹羽長重、木村重慈など六万が向かう。

韮山城には織田信雄と細川忠興、蒲生氏郷、稲葉貞通、森秀政、中川秀政、蜂須賀家政、筒井定次、生駒親正、福島正則など四万である。

三月二十九日、両城の攻略競争が同時に開始される。

豊臣秀次の旗下には・・・中村一氏、山内一豊、田中吉政、堀尾吉晴、一柳直末などの猛将が顔を揃えていた。

中村一氏の家臣・渡辺勘兵衛の一番槍で始った山中城攻めは昼下がりに開始され、夕刻には終了した。

北条勢四千は一瞬で殲滅されたのである。

用心深く・・・韮山城包囲の采配をふるっていいた信雄は山中城落城の報告を聞き、腰を抜かした。

「うつけたことを申すな」

「うつけは殿でございます」

信雄の叔父で織田家宿老の織田長益(有楽斎如庵)は舌打ちした。

長宗我部元親、加藤嘉明、九鬼嘉隆は下田城の北条水軍を壊滅させ、関白軍は四月三日には小田原城の包囲を開始する。

秀吉は官兵衛に石垣山城の着工を命ずる。

「とにかく・・・磔台は急ぎ用意せよ」

「御意」

北方軍は四月二十日に松井田城の大道寺政繁を降伏させ、厩橋城、箕輪城、玉縄城、江戸城を四月中に攻略する。

小田原城に籠る兵の多くは・・・関東各地から駆りだされた半農半兵のものたちである。

秀吉は・・・占領した領地から・・・小田原城に籠る兵の妻子を小田原に護送させた。

そして・・・泣き叫ぶ女子供を次々と石垣山城の磔台に架けたのだった。

「あんた~」

「お父~」

小田原に木霊する悲痛な叫び。

断末魔の家族の声を聞き・・・小田原城兵の戦意は急速に低下した。

六月下旬、八王子城に進軍した真田昌幸は・・・斥候(うかみ)から帰った佐助の報告を聞く。

「攻め口がせまく・・・鉄砲衆も多いため・・・なかなかに厄介なる城と見ました」

「才蔵を呼べ・・・」

きりことくのいちの霧隠才蔵は信繫から離れ、昌幸の軍に加わっていた。

「真田忍法・・・夜霧の術・・・」

霧隠才蔵の秘術により・・・八王子城は霧に包まれた。

霧の中を真田忍軍が八王子城に向かって進軍する。

「敵襲」に気がついた時には八王子城は業火に包まれている。

七月六日に・・・自らが使者となった北条氏直は秀吉に降伏した。

「なに・・・小田原城が落ちただと・・・」

忍城を攻めあぐねる石田三成は唇を噛みしめた。

「なぜ・・・城が落ちぬ・・・」

「各所で攻めるが・・・最後には甲斐姫が出てきて兵が狂わされるので・・・戦にならん」

官僚として三成の同僚である長束利兵衛正家がぼやく。

そこへ真田信幸の影武者である真田幸村が現れる。

「真田の里から・・・手のものを呼びましたのでご安心を・・・」

三成は総攻撃を開始した。

風魔忍びはゲリラ戦を展開するが・・・十倍の敵に圧倒される。

危機と見て出馬する甲斐姫・・・。

「妾を見よ」

殺到する敵兵を甲斐姫の邪眼が射竦める。

しかし・・・敵兵は一糸乱れず前進を開始する。

「なんと・・・」

「甲斐姫とやら・・・我は真田竜芳・・・我に邪眼は通じぬ・・・」

真田竜芳率いるオシラサマ忍びの一群は・・・全員が盲目だった。

「者どもかかれ」

四方から鎖が放たれ、馬上の甲斐姫を呪縛する。

「・・・」

武者姿の甲斐姫は捕獲され・・・瞳を閉じた。

その目を竜芳は容赦なくくりぬく。

七月十四日・・・忍城は降伏した。

小田原征伐は終わった。

蝉の声が北条の滅亡を告げる。

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2016年6月19日 (日)

目撃者を捜しにちょっと天国まで(福士蒼汰)帰ってこいよ(土屋太鳳)お別れしたのにね(門脇麦)私は守られている(小林涼子)

最期は二時間スペシャルである。

熊本地震が発生し、初回が放送延期となったために・・・全十回が九回に短縮されたのだろう。

しかし・・・最終回の内容を考えると前後篇ではなくて・・・二時間ドラマとして見た方が良かったかもしれない。

これまで引っ張って来たいくつかの謎が明らかにされ・・・ゲストをめぐる話もミステリ仕立ての素人探偵ものとなっている。

事件解決のために・・・とんでもない展開が用意されており・・・ロマンチック・コメディーとしては馬鹿馬鹿しくて面白い感じに仕上がっているのだ。

死神が立ち入り禁止のはずの天国の扉の向こう側に・・・結局、追跡者としての死神が登場するなど・・・最期まで辻褄合わせに失敗しているわけだが・・・お茶の間を躓かせるこういうボケも・・・最近ではツッコミどころとして許容される範囲なのかもしれない。

前回・・・余韻を残して三角関係が終了したところで・・・今回のぶりかえしである。

「あの世の彼女」がかなりキュートに描かれていて・・・萌える人は萌えたよね・・・。

で、『お迎えデス。・最終回(全9話)』(日本テレビ20160618PM9~)原作・田中メカ、脚本・尾崎将也、演出・南雲聖一を見た。発達障害で「恋」というものを知らなかった堤円(福士蒼汰)は高校時代の同級生だった千里(門脇麦)の恋心を踏みにじったことにも気がつかなかった。大学生になった円は・・・事故死した千里の葬儀に参列した日から霊能力者となり・・・幽霊となった千里と再会・・・憑依されるなどの体験を重ね・・・ついに二人が初恋をしていたことを理解する。千里は・・・円に悪気はなく・・・ただ幼すきただけであることを理解し・・・この世に別れを告げる。

「ロケット・・・必ず成功させてね」

円は・・・千里の最期の願いに応えるべく・・・ロケット作りに熱中し・・・「全国学生ロケット大会」でロケット打ち上げを成功させるのだった。

加藤孝志(森永悠希)は・・・ロケット研究会の同志を求め説明会を開始する。

真奈美(松川星)と佳織(小林璃央)はサクラとして参加し・・・あたりさわりのない質問を展開するが・・・円は相変わらずサービス精神ゼロの回答をする。

「ロケットの打ち上げはこわくないですか」

「ロケットの打ち上げがこわい人はロケット研究会には向きません」

「おいおい・・・」

加藤は・・・心霊研究会の阿熊幸(土屋太鳳)を呼び出す。

「ロケットを作っている間は・・・まともだったんだけど・・・打ち上げに成功したら・・・元に戻っちゃったんだよ」

「元に戻ったわけじゃないのよ・・・」

幸は・・・千里を送りだした円が淋しさを感じていることを察するのである。

幸は円を元気付けようと体当たりをするのだった。

「元気出しなさいよ」

「君に体当たりされるまでは元気だった」

「なんですってえ」

そこへ・・・ナベシマ(鈴木亮平)とゆずこ(濱田ここね)が幽霊の律子(観月ありさ)を連れてやってくる。

「今回の成仏対象者だ」とナベシマ。

「この世にどんな未練があるんですか・・・」と幸。

「プロポーズ大作戦よ・・・」と律子。

「?」と円。

「なんでも・・・愛し合っている二人を結婚させたいそうです・・・ロマンチックよね」とゆずこ。

「とにかく一緒についてきてよ」

律子は自分の葬儀に二人を連れて行くのだった。

手早く喪服に着替える円と幸・・・。

成仏補助のアルバイトに喪服は欠かせないのだ。

「あの子よ・・・」

律子が指さすのは・・・車椅子に乗ったあさみ(小林涼子)である。

あさみは・・・ナベシマが最近つきまとっている足の不自由な女性である。

あさみの持っているウサギのマスコットが・・・ナベシマの生前の記憶を呼び覚ますのだった。

《お兄ちゃん・・・助けて・・・》

ナベシマがムラカミだった頃の記憶である。

死神たちは・・・死者の国の住人である。

神のような存在は・・・なんらかの条件下で・・・死者の魂を死神として利用する。

死神たちは・・・生前の姿や記憶を失って・・・死神というシステムの一員になる。

しかし・・・記憶の消去は完全ではなく・・・様々な刺激で・・・再生することがあるらしい。

ナベシマは・・・生前は・・・村上あさみの年の離れた兄だったのだ。

俳優の実年齢で考えると・・・小林涼子(26)で鈴木亮平(33)で七歳差・・・しかし・・・あさみが幼い頃にあさみの兄は死亡していて・・・その当たりはルーズである。

ちなみに・・・律子はあさみの兄・・・つまり・・・現在のナベシマと恋人関係にあったらしい。

律子を演じる観月ありさ(39)なので律子とあさみの年齢差は十三歳もある。

あさみが七歳くらいで兄が死亡したとすると・・・律子はその時・・・二十歳である。

あさみには身寄りがなく・・・それ以来・・・律子と暮らしてきたという話なのである。

いろいろと無理な感じがあるが・・・そういう点を深く考えないのが身のためである。

ナベシマは・・・律子が生前の恋人であったことは思い出せないが・・・あさみが気になる以上に・・・律子も気になるのだった。

「あんな気の強い女はじめてだ」とナベシマ。

「なんだか・・・二人とも昔馴染みみたいな感じでしたよ」と幸。

「え?」

死神たちは密かに協議する。

「あさみちゃんが妹で・・・律子さんが・・・あさみちゃんの死んだお兄さんの恋人だとすると・・・つまり・・・ナベシマさんの恋人だったということになるんじゃないの」とゆずこ。

「え・・・そんな・・・まさか・・・あんな女のことちっとも覚えてないぞ」

「二十歳の女の子も四十近くなれば変わるもの」

「なるほど・・・」

「でもおばさんになったら彼女のこと忘れるなんてひどいわね」

「う・・・このことはみんなには秘密にしておいてくれ」

「まあ・・・死神の生前の記憶なんて・・・不確かなものですものね」

まもなく・・・弘(田中圭)が姿を見せる。

「あれが・・・お相手よ」

「あんなのが・・・」と兄として敵対モードとなるナベシマである。

「あんなのとは何よ・・・二人はものすごく愛し合ってるんだから」

しかし・・・告別式でのあさみと弘はよそよそしい感じだった。

「どこが・・・愛し合ってるんだよ」

「実は・・・私が生きている間・・・弘はあさみちゃんにプロポーズしてるんだ」

「なんだって・・・」

「でも・・・あさみちゃん・・・断ったの」

「愛し合ってないじゃないか」

「ちがうのよ・・・二人は愛し合っているの・・・ひょっとしたら・・・障害者であることをあさみちゃんが気にしているんじゃないかと・・・」

「そんな・・・」

ナベシマは記憶が鮮明になった。

あさみと海に行ったのだ。

あさみは律子に贈る花を摘もうと崖から手を伸ばし足を踏み外した。

ナベシマは手を伸ばしあさみを助けようとしたが一緒に転落してしまった。

あさみは足が不自由になり・・・ナベシマは即死だったのだ。

妹を守り切れなかった記憶に痛打されるナベシマだった・・・。

死んだ律子が勤めていた舞台照明の会社にアルバイトとして潜入する円と幸。

同じ会社にあさみは事務員として、弘は律子の助手として働いていたのだ。

「あさみちゃんは弘に・・・早起きしてお弁当を作っていたりしていたんだ」と律子。

その言葉に・・・高校時代いつもお弁当を作ってくれた千里のことを思い出す円。

「今日はタコさんウインナーにしたよ」

まさか・・・千里が円のためにお弁当を作っていたとは思わず・・・千里はお弁当を作るのが好きだと思っていた円だった。

今・・・そうではなかったと悟っている円は・・・心が疼くのである。

「だから・・・あさみちゃんが・・・弘を嫌いなわけはないんだよ」

「しかし・・・好意にもいろいろあるから・・・」と幸。

しかし・・・律子は・・・弘のとれかけた上着のボタンをあさみがこっそり繕う姿を二人に見せるのだった。

「ほらね・・・」

「なるほど・・・」

律子の不在を埋めるために弘の手伝いをするアルバイト二人組である。

弘は上司として二人を食事に誘う。

「実は・・・私たちは前から律子さんの知り合いだったんです」

「え」

「大学の舞台を点検に来た時に知り合ったんですよ」

「そうなんだ」

「律子さん・・・あさみさんと弘さんのことを心配していました・・・」

「え」

「どうして・・・好き同志なのにって」

「好き同志って・・・僕はふられたんだよ」

「一度くらいプロポーズ断られたくらいでだらしがないって言ってました」

「ええっ」

思わず円に憑依する律子。

「男なら・・・何度でもチャレンジしろよ」

「えええ」

しかし・・・ビールを飲みほした律子/円は急性アルコール中毒を発症するのだった。

「飲めないのに・・・」と幸。

「ごめん・・・」と離脱した律子。

しかし・・・負傷の癒えた幸は恐ろしい体力で円を担いで自宅に送還するのだった。

堤郁夫(大杉漣)、由美子(石野真子)、さやか(大友花恋)の親子は・・・円の恋人かもしれない幸を例によって大歓迎する。

律子の発案で・・・あさみにタブルデートを持ちかける二人。

なんとか・・・水族館デートを四人ですることに・・・。

しかし・・・ささいなことでケンカを始める円と幸である。

「結婚できない男にあってこれにないのが何ですって」

「だから主人公が変な男でもお約束はあるわけだよ」

「こっちだってお約束だらけじゃない」

「死んだ人間が死神になるとか、死神になると姿が変わるとか、記憶も失うが、思い出すこともあるとか・・・もうお約束だらけの上に結局何でもありだろう」

「まあ・・・ややこしいことはややこしわよね」

「じっくり見ていればわかるけど・・・うっかり見逃すと・・・」

「もう何がなんだかわからない」

「だろう」

「何の話か知らないけど・・・お二人は仲がいいのね」とあさみ。

「よくありません」と口を揃える円と幸である。

「そういうベタなお約束はありなんだけどね・・・私・・・二人を見ていると小さい頃を思い出すの・・・私の亡くなった兄と律子さんは恋人同志でいつも喧嘩ばかりしていたわ」

「・・・」

「私は喧嘩するほど仲がいいって言葉の意味がよくわかる・・・私もそういう恋がしてみたかった」

弘の出番である。

「僕も君と喧嘩するほど仲がよくなってみたい・・・だから・・・もう一度言わせて欲しい・・・結婚して下さい」

「ありがとう・・・でも・・・ごめんなさい」

「君が・・・足のことを気にしているなら・・・そんなこと・・・僕はなんとも思わないって・・・わかってほしい」

「そうじゃないのよ・・・私は・・・」

口を噤むあさみ。

そこへ・・・私服の刑事二人がやってくる。

「職場で起こった死亡事故について・・・ちょっとお伺いしたいことがあるんですが・・・」

「え」

任意同行を求められた弘は・・・刑事たちに連れ去られてしまうのだった。

「どういうこと・・・」

律子は弘の取調に立ち会うのだった。

刑事たちによれば・・・律子の死亡には他殺の疑いが浮上しているというのである。

そして・・・弘は容疑者リストに乗っているのである。

律子は照明器具の調整のために昇った場所の手すりが緩んで転落したのだが・・・そこに何者かが細工をしていた形跡があったらしい。

「私・・・殺されちゃったみたい」

「えええええ」

「プロポーズ大作戦」が「霊感探偵・円と幸の事件簿」に変更である。

一方で・・・律子は幸にそっと囁くのである。

「あなたと・・・円くんて・・・本当に仲がいいわね・・・」

「とんでもない・・・私が好きなのはナベシマさんですし・・・」

「そうなの・・・あの変態ウサギ野郎のどこがいいの」

「私・・・小さい頃から・・・霊が見える体質で・・・そのことで疎外感を持っていました。なにしろ・・・ほとんどの人には見えないので・・・そんな時・・・ナベシマさんがやってきて・・・話し相手になってくれたんです・・・今では・・・こうやってお手伝いすることで・・・誰かのためにできることがあるって教えてくれたのもナベシマさんだし・・・」

「でも・・・それって・・・親とか・・・先生とかに感じる憧れみたいなものじゃないの」

「え」

「恋愛ってのは・・・相手の温もりを感じていないと・・・さびしくなってしまうものなのよ・・・そしてその人と一緒にいるだけで幸せな気分がこみ上げてくる・・・そういうもの」

「・・・でも彼には・・・死んだ恋人がいるんですよ」

「あらまあ・・・まるで私みたいね・・・でも・・・私は二十年間・・・恋をしなかったわけじゃないわよ・・・」

「え」

「たまたま・・・男運がなくて・・・独身のまま・・・死んじゃっただけよ」

「そうなんですか」

「彼が・・・私みたいに寂しい二十年を送ればいいと・・・あなたは思っているわけ」

「そりゃ・・・元気出してもらいたいけど」

「ほらね・・・ウフフ」

「なんですか」

円は現場を調査して・・・手すりのボルトが破壊されていたことに気がつく。

「部品のナットがなくなっているんです」

「そんなこと調べていたの?」

「律子さんが・・・あそこに昇ることを知っていた犯人が・・・」

「事故にみせかけて・・・殺したと」

「実は・・・この会社では一年前にも人が死んでいるんです」

「え」

「経理の池田君のこと・・・」と律子。

「ええ・・・屋上から転落していますよね」

「そういえば・・・死ぬ前に・・・私に何か預けたようなこと・・・言ってたな」

「律子さんの机に鍵のかかった引き出しがありましたよね・・・」

「あったあった・・・鍵が見つからなくて・・・一年前から開かずの引き出しって呼んでるんだけど」

「なんて・・・ズボラな女なんだ」とナベシマ・・・。

「池田さんを殺した犯人が・・・証拠を隠滅するために・・・律子さんを殺したと考えると辻褄があいます」

「かなり・・・こじつけたわね」

「どうしよう・・・弘さんが逮捕されてしまいました」とあさみがやってくる。

「えええええ」

現場から消えたナットが・・・警察の家宅捜索により・・・弘の部屋から発見されたのである。

「わざわざ・・・証拠品を家に持ち帰るなんて・・・おかしいですよね」

「だな・・・」

弘の部屋のドアにはピッキングの形跡が残されていた。

誰もが感じる真犯人が弘に濡れ衣をきせた気配・・・。

「池田君に聞けば・・・なんかわかるかもしれないけど・・・死んでるんじゃね」と律子。

「ナベシマさん・・・天国に行って聞いてきてくださいよ」

「いや・・・死神は天国の扉までしかいけないんだ」

「えええ・・・またそういうルールですか」

「でも千里はそこから戻って来たって・・・」

「そうそう・・・幽体はそういうことができる」

「じゃあ・・・私の出番じゃないですか」

「ダメだ・・・危険すぎる・・・」

「そんな・・・」

「円なら・・・できるかもしれない」

「え」

「幸にそんな危険な真似はさせられないが・・・円なら最悪の場合・・・どうにかなっても耐えられる」

「ひどい・・・でも・・・僕は幽体離脱なんてできませんよ」

「私は・・・強制的に幽体離脱をさせる手を持っている」

「ああ・・・本当になんでもありだなあ・・・」

幸とともに・・・部屋に籠ることを宣言する円だった。

「実験をするんで・・・一時間・・・誰も部屋に入らないでください」

「一時間・・・」

ゴクリと唾を飲み込む郁夫だった。

若い男女が一時間・・・密室で何を実験するというのか・・・である。

母親と妹も・・・カップル成立を祈るのだった。

「あの世に行ったら・・・彼女に会ってくれば」と円に囁く幸・・・。

ナベシマは円の幽体を鷲掴みで肉体から離脱させるのだった。

「思ったより・・・簡単ね」

「タイムリミットは一時間だ・・・それを過ぎると低体温症で蘇生が難しくなる」

「え」

「これって・・・仮死状態ってことですか」

「うん・・・」

「幸ちゃんはとにかく・・・円ちゃんの身体が冷えすぎないように注意してくれ」

「わかった・・・」

ナベシマのサイドカーは円を乗せて虚空に消える。

「一応・・・ウサギの着ぐるみで変装だ」

「え」

「顔見知りに逢うと立ち話とかで時間を浪費する惧れがある」

「なんで・・・ナベシマさんはコレを着てるんです」

「昔・・・子供の幽霊を専門に担当していた頃・・・子供が喜ぶようにと上司がくれたんだ・・・」

「・・・」

「でも・・・あさみのぬいぐるみを見て思い出した・・・ピンクのウサギは俺が初めて稼いだ金で・・・あさみにプレゼントした思い出の品だったんだよ」

この世とあの世の中間施設で死神一課のシノザキ(野間口徹)と部下のマツモト(根岸拓哉)がからんでくるのをゆずこのおべっかで切れ抜けた円。

「ここから先は・・・一人だ・・・長居しすぎてはだめだぞ・・・それから・・・もしもの時は土管に飛びこめ」

「土管って・・・」

あの世のゲートは開かれた。

円は気がつくと・・・普通の街のように見える「あの世」に立っていた。

手には・・・ナベシマが手渡してくれた池田(林泰文)の心霊写真がある。

普通の街のような商店街で聞き込みを始める円。

しかし・・・雲を掴むような話である。

「おい・・・あんた」

円に声をかけてきたのは・・・心臓病で早世した和弥(加部亜門)だった。

「死んじゃったの?」

「いや・・・ちょっと人捜しに・・・」

「凄いな・・・あんた・・・何でもありだな」

「この人・・・知らない?」

「名前は・・・?」

「池田さん・・・」

「そういう場合はカテゴリ検索だな」

「そんなことができるの」

「いいかい・・・これだってテレビ用のイメージなんだ・・・そもそもあの世の霊は存在として一体化しているんだよ・・・個性が無くなったら・・・魂として成形されて再生するわけだから」

「なるほど」

「つまり・・・すべてが一種の想念さ」

「理外の理というやつだね」

「池田さんは・・・池田の池にいる」

池田の池は池田の集合体である。

基本的にみんな池釣りをしているのだった。

「さあ・・・写真のその人のイメージを強く念じて・・・」

「あ・・・いた」

池田は存在感を強めた。

「あの・・・照明の会社にいた池田さんですか」

「そうだけど・・・君誰?」

「あなた・・・誰かに殺されましたか」

「もう・・・そんなことはどうでもいい・・・誰も耳を貸してくれなかったし・・・」

「実は・・・律子さんも殺されちゃいました」

「え」

「あなた・・・律子さんに何か預けましたか」

「不正経理の証拠をメモリーに入れて・・・彼女の机に・・・でもあの人・・・ズボラだから・・・役立たずだった・・・」

「不正経理って・・・」

「吉岡だよ・・・律子さんに相談しようと思ったけど・・・その前に吉岡に口封じされちゃった」

吉岡(住田隆)は律子の上司だった。

「備品の架空発注で・・・会社の金・・・横領してたんだ・・・」

「謎はすべて解けたな・・・」

安堵から・・・幸の言葉を思い出す円。

「千里にもう一度会いたいな」と思う円なのだ。

たちまち・・・光景は一変し・・・雛罌粟(ポピー)の咲き乱れる高原に転移する円。

そこに・・・ポツンと佇む千里だった。

せつないぞ、千里、せつないぞ。

千里は大きなおにぎりを食べていた。

いたいけないぞ、千里、いたいけないぞーっ。

「堤くん・・・どうしたの・・・死んじゃったの」

「ごはんつぶ・・・ついてるよ」

「あれ」

「ちょっと用事できた・・・」

「ちょっと来るようなとこじゃないよ」

「君にもう一度会いたいと思って・・・」

「ちゃんと・・・お別れしたじゃない」

「でも・・・僕にも言いたいことが・・・」

その時・・・警報が鳴り響く。

「霊界質量に異変が生じています・・・生者が紛れ込んだ可能性があります・・・天使の皆さんは生者確保に全力をあげてください」

「あら・・・大変」

天使の群れが現れる。

「この世の扉の場所を知ってるかい」

「あっちよ・・・」

路地裏に飛びこむ二人。

しかし・・・天使たちは迫ってくる。

そこへ・・・馬場陽造(伊東四朗)が現れる。

「話は和弥から聞いた・・・ここは俺が食い止める」

「お手数かけます」

二人は・・・この世の入り口である神社にたどり着くが・・・入り口は天使が警護している。

「そうだ・・・土管・・・土管の場所を知らないか」

「ドカンって・・・何?」

タイムリミットの一時間を過ぎても目覚めない円が心配になる幸。

円の体温は急速に低下を始める。

「大変だ・・・冷たくなってる」と幸。

「死んじゃうのかい」と律子。

「いや・・・堤円・・・戻ってきて・・・」

幸は思わず・・・円の身体に身を投げ出すのだった。

本来なら全裸で温め合うところだが・・・大人の事情でお見せできないのである。

あの世で絶体絶命の円に・・・幸の言葉が響く。

「幸ちゃん?」

「向こうからだ」

声の示す土管が現れた!

「やはり・・・スーパーマリオ的なアレか・・・」

「凄いね・・・さあ・・・早く」

「僕は君に言いたかった・・・僕はバカだから・・・気がつかなかったれれど・・・僕も君がすきだったんだ」

「ありがとう・・・でも今は幸ちゃんのことが好きでしょう」

「え」

「幸ちゃんもきっと堤くんのことが好きだよ」

「ええっ」

「だって・・・あの世とこの世を繋ぐなんて・・・凄く強い思いじゃない・・・」

「・・・」

「さよなら・・・堤くん」

二人は握手を交わした。

そして・・・円は土管に飛び込んだ。

シノザキは仮死状態のアルバイトを拘束するために堤家に魔百合(比留川游)を派遣する。

円と幸と魔百合の三角関係の修羅場を阻止しようとする郁夫。

しかし・・・セクハラになってしまうのであきらめるのだった。

円の部屋に飛び込む魔百合・・・。

しかし・・・すでに円は蘇生していた。

部屋に漂う濃厚な事後の気配・・・。

魔百合は変顔で気不味い空気を和ませる。

円から事情を聴く一同。

「そういえば・・・吉岡さんは・・・あさみちゃんに・・・机の鍵を捜すように命じていたぞ」

「そう・・・確か・・・土曜日までにとか・・・」

「今日・・・土曜日だ」

ナベシマは瞬間移動するのだった。

机の中からメモリーを発見したあさみは・・・中身を閲覧して蒼ざめる。

「これって・・・」

「やはり・・・そこだったか」

「え」

「まったく・・・おかげで二人も殺しちゃった・・・こうなりゃ・・・何人殺しても同じだ」

吉岡は殺意を秘めた皮手袋を装着する。

「やめてください」

「あの世で・・・律子が待ってるぜ」

突然・・・宙に舞い上がる吉岡・・・。

「なんじゃあ・・・こりゃあああ」

念力による死神ナベシマの物理的攻撃である。

見えない相手の殴る蹴るの暴行にパニックに陥る吉岡だった。

「やめてえええええええええ」

一人で暴れまくる吉岡に唖然とするあさみ・・。

そこへ・・・刑事たちを連れて円と幸が到着する。

吉岡は殺人容疑で逮捕され・・・連行されるのだった。

「早く連れてって・・・私を刑務所に連れてって・・・」

茫然とするあさみの手元に・・・ウサギのマスコットがふわふわと着地する。

「実は・・・ここに・・・律子さんの幽霊がいるんです」

「え・・・」

「彼は憑依体質で・・・いま・・・律子さんと合体します」

「あさみちゃん・・・」

「律子さん・・・」

「どうして・・・弘の求婚を断るの・・・」

「だって・・・お兄ちゃんは私を助けようとして死んじゃった・・・律子さんからお兄ちゃんを奪っておいて・・・私だけ幸せになれない・・・」

「馬鹿ねえ・・・あの人も・・・私も・・・一番の望みは・・・あさみちゃんが幸せになることに決まってるじゃない」

「律子さん・・・」

「幸せになってちょうだい・・・お願いします」

「・・・はい」

律子の旅立ちの時が来た。

「あっちに・・・彼はいるのかな・・・私がおばさんになっちゃってびっくりするかも」

「心配ないよ・・・あの世には・・・心配することが一つもないんだから」

「なるほどね」

ナベシマは嘘をついた。

釈放された弘を待ちかまえるあさみ。

「弘さん・・・私と結婚してください」

「ええええええええええええええ」

こうして・・・この世の時は過ぎて行く。

幸は言った。

「彼女に逢えた?」

「うん」

「よかったわね・・・」

「そろそろ・・・僕たち・・・本格的に付き合わないか」

「何言ってるのよ・・・」

「もう・・・充分に検討できたと思うんだ」

青空の下で・・・円は幸の唇を奪う。

「なによ・・・これ・・・」

「キスというものは唇と唇を重ね合って」

「そういうことじゃない」

幸のボディーブローで一瞬、天国を見る円なのだった・・・。

霊能力者であっても・・・今を生きることは大切なのである。

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2016年6月18日 (土)

被疑者ですがなにか(柳楽優弥)教え子ブラジャーですがなにか(松坂桃李)被害者ですがなにか(岡田将生)マリッジピンクですがなにか(安藤サクラ)無節操ですがなにか(吉岡里帆)逃亡中ですがなにか(瑛蓮)舞妓Haaaan!!!ですがなにか(早織)かっぽれちゃんですがなにか(古手川祐子)民事ですがなにか(平山浩行)パワハラキャラですがなにか(太賀)神様のゆとりですがなにか(島崎遥香)

最終回直前である。

聖人君子ではない人々の繰り広げる悲喜劇も・・・まもなくお別れである。

ある意味。キャラ作りの天才であるクドカンが・・・イケメントリオをリフレッシュしてしまったわけだ。

メンクイではないイケメン、イケメンなのに童貞、やさぐれたイケメン・・・どのイケメンも困ったものだな。

一方で・・・どこか切羽詰まった感じの二人の女子大生。

男殺しの教育実習生としょげた顔のガールズ・バー嬢・・・どちらも甲乙つけがたい可愛さである。

そして史上最高に可愛い子ぶったブスのヒロイン・・・。

さすがとしか言いようがない・・・ですよね。

今回は・・・ヒロインの後任として・・・何故かはんなりとした舞妓Haaaan!!!の駒子・・・銭形雷・・・真加出くんがさりげなく登場・・・ファンをうっとりさせました。

一瞬も見逃せない・・・緊張感を漂わせる・・・そういうドラマもないと・・・ですよね。

で、『ゆとりですがなにか・第9回』(日本テレビ201606122230~)脚本・宮藤官九郎、演出・水田伸生を見た。「みんみんホールディングス」を退職して婚約した坂間正和(岡田将生)と宮下茜(安藤サクラ)・・・。内縁の妻・ユカ(瑛蓮)と愛娘・セレブがありながら・・・正和の妹・ゆとり(島崎遥香)と続けていた不適切な関係を清算した道上まりぶ(柳楽優弥)はぼったくりバー「ウーマンウーマン」の経営者から植木職人への転職を試みるが・・・犯罪者として摘発の憂き目に・・・。そして・・・徹頭徹尾童貞の山路(松坂桃李)には新たなる試練がまっているのだった・・・。

まりぶに・・・「性教育」について相談したかった山路だったが・・・まりぶは警視庁杉並南署員に逮捕され・・・法務省地方入国管理局を惧れるユカことフー・ピンリンは乳呑児を抱えて逃走・・・。

あわてて・・・正和に通報するのだった。

事態を重く見た二人は・・・レンタルおじさんこと・・・まりぶの実の父・・・麻生厳(吉田鋼太郎)に通報するのだった。

いつものカフェで情報交換をする三人だった。

「一体・・・どうするつもりなんです」

二人に責められて一瞬、鬱陶しさを感じるレンタルおじさん。

「うるさいなあ・・・いえ・・・結婚おめでとうございます」

正和は退職したものの坂間酒造の後継者になり損ねていた。

「うるさいなあ・・・いえ・・・ありがとうございます」

「とにかく・・・弁護士を頼もうと思っています」

「ユカさんは・・・オーバー・ステイだったんですよね」と山路。

「すべて・・・私の不徳の致すところです・・・」

とにかく・・・事態は・・・冗談ではすまない方向に・・・進捗していくのだった・・・。

そして・・・レンタルおじさんが招聘した弁護士・道上政伸(平山浩行)がやってくる。

「親父・・・なんの真似だ」とまりぶによく似た反応を示す兄だった。

「すまない・・・」

「久しぶりに顔を見せたら・・・まりぶが警察沙汰とは・・・どういうことだよ」

「え・・・この人は・・・」と山路。

「まりぶの兄です・・・」とレンタルおじさん。

「えええええええええ」と驚く二人。

「あなたたちは・・・まりぶの・・・ご友人ですか?」

「被害者です」と正和。

こうして・・・まりぶを支援する会が結成されたのだった。

会長・・・レンタルおじさん

担当弁護士・・・まりぶり異母兄

会員・・・ぼったくりバーの被害者

・・・以上である。

まあ・・・ろくなものじゃないね。

居酒屋「鳥の民・高円寺店」で語られる「まりぶのおいたち」・・・。

レンタルおじさんが繰り返す結婚と離婚の歳月。

道上政伸が四歳の時・・・朝ドラ「かっぽれちゃん」で人気の女優・麻生ひとみ(古手川祐子)と浮気した「バブルの残りカスみてぇな不動産野郎」は政伸の実母と離婚、ひとみと結婚。人気女優でありながら義理の息子を育てつつまりぶを生んだひとみは「育ての親」と「生みの親」の両立に葛藤しながら日々を送る。運動会て兄が二着なら弟も二着にならないとバランスがとれないと悩む日々。政伸は政伸で「政伸がんばったね」ではなく「政伸もまりぶもがんばったね」と言われれば・・・その並列的な扱いに傷心し、異母弟のまりぶを苛まずにはいられない少年時代を過ごす。やがて兄は東大法学部在学中に司法試験に一発合格、そこでレンタルおじさんは浮気。ひとみと離婚。心を病んだひとみは「義理の息子が一発合格した以上、お前も一発で」とまりぶにプレッシャーをかけ・・・まりぶは受験に失敗・・・十年間の浪人生活の間に夜の世界に馴染み不法滞在者との間に一子を儲け被害者の妹の女子大生と肉体関係を持つ自堕落な暮らしの果てについに逮捕されてしまったのだ。また別の女性と結婚し幼い子供もいるレンタルおじさんとしてはいろいろと面目ない話である。

結婚を控える正和には何とも言えない話であり、童貞の山路には何の事だかさっぱりである。

やがて正和はひとみが・・・居酒屋「鳥の民・高円寺店」が仕入れる銘酒・「多摩美人」のポスターのモデルであることに気がつく・・・。

まりぶの指定席からは・・・いつも「実の母」が優しく微笑んでいたのだ。

「かっぽれちゃん・・・可愛かったなあ・・・」とバイトリーダーの村井(少路勇介)・・・。

「三十年近く前の番組なのに・・・」

「その頃は小学生でした・・・甘茶でかっぽれ一緒に踊りましたよ」

「かっぽれかっぽれあまちゃでかっぽれ・・・あまちゃんでかっぽれちゃん」

「そこかっ」

弁護士として留置中のまりぶに面会する政伸。

「示談にしますか」

「裁判で・・・それに弁護士はいりません・・・自分でできます」

「神童が・・・なんて様だ」

「・・・」

セキュリティーの甘い留置所である。

警官の制止を振り切って兄弟喧嘩を始める二人だった。

「余計なお世話だ」

「厄介かけるな」

殴る蹴るの大立ち回りである。

「どういうことだよ」と涙目の警官。

茜の部屋でナポリタンを食べる婚約者たち。

「社長夫人になれなくなったから・・・茜ちゃんだけでも・・・会社に戻る?」

「別に社長夫人になりたくて結婚するんじゃないし・・・まーちんのお嫁さんになりたいだけだし」

「茜ちゃん・・・」

一種の猟奇的なカップルなのだった・・・。

それにしても・・・たとえば・・・「あまちゃん」的なドラマの主演女優が妻子ある実業家と略奪愛したら三十年前でもとんでもないスキャンダルだし・・・十年前に・・・夫に浮気された上に逆に略奪された時も「あの人は今」的にスキャンダルだったよな・・・。

とにかく・・・レンタルおじさんの嫌いな言葉ベスト3は・・・。

1位 自業自得

2位 慰謝料

3位 養育費

・・・だった。

かっぽれちゃんが好きだったバイトリーダーは・・・。

「身から出た錆 とか自分で撒いた種はランクインしないのか」と言いたい気分。

「ぶっ殺すぞ・・・この野郎」とレンタルおじさんは開き直るのだった。

そして・・・謎の道上一族の本名である。

道上政伸(本名)

道上まりぶ(本名)

麻生ひとみ(芸名)

麻生厳(仮名)

道上ユカ(偽名)・・・中国名・胡冰鈴(フー・ビンリン)

道上セレブ(出生届けに記載された名前)・・・このままだと無国籍児に・・・。

ニュースで・・・まりぶの逮捕を知ったゆとりは手紙を認める。

「私の名前は・・・お兄ちゃんが神様の言う通りを・・・神様のゆとりと言ったのでそうなりました。私はゆとりちゃんと呼ばれで育って良かったです。かばちゃんやばかちゃんよりずっと良い・・・ですよね。名前を付けた人には名付けた責任があるでしょう。名付けられた人はずっとそう呼ばれることを背負わされるのですから。今度は私たちが・・・名付ける番・・・ですよね。そういう責任を背負うべき・・・ですよね」

示談が不成立となり、傷害罪で起訴され、刑事被告人として拘置所に移送されたまりぶは手紙を読んで心が震える。

「くそお・・・・一人でどんどん・・・大人になっちゃってええええ・・・ずるいよおおお」

「あんな・・・まともじゃない奴・・・どうしようもない」

弟との確執に悩む政伸を説得する正和と山路。

「でも・・・彼はいつも僕の前ではまともでしたよ」

「正和くんのこと・・・ゆとりのくせに努力家でえらいって言ってたし」

「僕もおっぱいが正論でたすけられましたし・・・」

「世の中がまともじゃないから・・・まりぶくんの正論が通じないんです」

「・・・まったく・・・こんないい友達がいるのに・・・あいつは・・・」

「友達じゃありません」

「被害者です」

ああ・・・誰もが譲れない一線を持っているのだった。

その傍らで・・・レンタルおじさんは新店長の山岸(太賀)の話し相手になっている。

「俺もパワハラキャラから卒業したいんです・・・でも・・・なかなかキャラが定まらなくて・・・」

「その・・・キャラというのは定めなくちゃいけないんですか・・・ありのままのあなたでいいんじゃないんですか」

「うえええええええええん」

「話し相手としては最高なんですよね」と山路。

「でも・・・父親としてはねえ・・・」と正和。

言葉を失う政伸だった。

次兄の嫁を迎えるために可愛いお尻を振りあげて掃除をするゆとり。

長男・宗貴(高橋洋)は身重の嫁のみどり(青木さやか)の嫁入り道具である少女のような白い箪笥を廃棄処分して・・・弟夫婦のスペースを確保する。

茜は「ふつつかものですがよろしくお願いします」と三つ指ついて未亡人の和代(中田喜子)に挨拶する。

「こちらこそ・・・」

「ちっともふつつかな感じがしない」と思うゆとりだった。

ふつつかとは・・・不束と書いて束ねられないほど太いという意味である。

「丈夫」という良い意味あいから・・・平安時代の頃から優美さに欠けるという悪意に転じている。

つまり・・・ゆとりはあかねを優美だと感じているのだった。

その説明必要なのか・・・ゆとり相手だからな。

平安時代は・・・ぽっちゃり優勢じゃなかったのか。

男はな・・・女はいつの時代も優美繊細を自分に求めるんだよ。

ある意味、厄介だよな。

スレンダーだけどグラマー・・・理想の女である居酒屋「鳥の民・高円寺店」の女子大生アルバイト・佐倉悦子(吉岡里帆)は今日も男性客に口説かれ・・・バイトリーダーの村井やバイトの中森(矢本悠馬)にもチヤホヤされている。

佐倉悦子のストーカーとなった小暮静磨(北村匠海)は「阿佐ヶ谷南小学校」の教師・円山(加藤諒)と手を繋いでデートをする悦子の画像を山路に送信する。

「休戦しようと思って・・・敵に塩をふるっていうか」

「おくるだよ」

しかし・・・女性に対して苦手意識のある山路は・・・悦子を問いつめず・・・職員室で眉毛をいじる円山を追及する。

「どういう仲なんですか」

「えっちゃんとは・・・素晴らしいインターネットの世界でオンラインゲームをしたり・・・相談にのったりしているけど」

「あんたのようなファッション童貞が一番嫌いだ・・・面白キャラ装って・・・さりげなくボディータッチしたりして・・・」

「童貞前提で話してるけど・・・俺、十六歳で喪失してるし・・・先輩の彼女を略奪してるし・・・」

「すいませんでした」

「なにやっとんのじゃ」

小学校の踊り場で不謹慎な会話をする教師たちを激しく叱責する太田学年主任(小松和重)だった。

要所要所で大人計画である。

佐倉悦子・・・底の知れない女だ・・・。もはや・・・峰不二子と言ってもいい。

「寿退社には無縁と思われていた彼女が寿退社します・・・心から思ってなくても祝福してください」

不倫関係にあった上司の早川道郎(手塚とおる)のジョークが嫌味に響く複雑な心境の茜である。

セレモニーの余韻を打ち砕く仙台プロジェクトの新任リーダー青山(早織)が登場する。

「憧れの先輩に道を譲っていただき光栄です・・・おおきに~」

京言葉ではんなりと挨拶する青山の華やかさに・・・何かを略奪された気がする茜だった。

早川も・・・青山にすでに夢中なのである。

七年間に構築してきた地位を喪失した茜だった。

実家から送られてきた佐賀牛のステーキセット。

義妹となったゆとりにブレゼントする無用となったスーツ。

新居の見知らぬ天井。

マリッジピンクからマリッジブルーへ揺れ動く茜の女心だった・・・。

「お義姉さん・・・面接で泣いたって本当ですか」

「まさか・・・社員研修で・・・まーちんは泣いてたけど・・・自己啓発的なアレで・・・社員同志が向かいあってお互いの欠点を指摘しあうレッスンがあって・・・私が・・・あなたは自分が思っているほどかっこよくないし、頭もよくないし、ださいんだから、ヘラヘラしてないで自分を磨く努力をしないと・・・出世できないと言ったら・・・まーちん泣きだしちゃって・・・」

「ええええええ」

「道上まりぶ・・・保釈だ」

「え」

弁護士である異母兄の献身で・・・起訴されて裁判を待つ身だったまりぶは母親の保釈金で解放されたのだった。

孫の行方が気になるレンタルおじさんは・・・息子たちと入国管理局に出頭する。

対応する当局の役人。

「出生届けが出ているので・・・在留資格取得許可申請をしてくださればよかったんですよ」

「そんなの・・・知らねえし・・・義務教育の間、一度も教えてもらわなかったし」

「所在は不明なんですか」

「逃げちゃったんだよ・・・」

激昂して机の上に仁王立ちになるまりぶ。

「まりぶ・・・元はといえば・・・お前が・・・自業自得・・・」

言いかけて言葉を濁すレンタルおじさん。

「なんだよ・・・言いたいことがあれば言えよ」

「いや・・・私にはお前を責めることなど」

「じゃ・・・誰が俺を叱るんだよ・・・親なら自分のことなんか棚にあげて叱れよ」

「まりぶ・・・お前が悪い」

「むかつくんだよ」

まりぶの鉄拳制裁。

あわてる役人。

「民事ですから・・・お構いなく」と政伸。

「じゃ・・・どうすればいいんだ」

「レンタルならチェンジだよ・・・親だからチェンジできないんだよ」

「まりぶ・・・」

「くそ親父」

「それが親に向かって言う言葉か」

「親なら責任とるべき・・・ですよね」

壮絶な殴り合いに発展。

泣きながらパンチを応酬する父と息子。

あわてる役人。

「やめなさい」

「民事ですから」

吹き荒れる自業自得の嵐・・・。

居酒屋「鳥の民・高円寺店」は優しく父子三人を迎える。

まーちんと茜の引越し祝いとまりぶの保釈祝いである。

「どうなんですか・・・」と山路。

「初犯ですから・・・実刑は免れると思います」と政伸。

政伸もまた・・・鳥の民に馴染んでいた。

焼き鳥に塩を振る正和・・・。

「日本一」

まりぶは微笑んで焼き鳥を味わう。

微笑む・・・ポスターの中のひとみ・・・。

正和がいなくなることに不安を感じる山岸・・・。

「俺・・・納得いかないっす・・・ここで辞めたら・・・ゆとりってことじゃないですか」

「俺は・・・もう・・・元をとったんだよ・・・それなりに実績もあげたし・・・最高のお嫁さんも捕まえた・・・悔いはない」

「だけど」

「じゃあ・・・もうパワハラにならないし・・・一言言っておくよ」

「・・・」

「お前は自分が思っているほどかっこよくないし、頭もよくないし、ださいんだから、ヘラヘラしてないで自分を磨く努力をしないと・・・出世できないぞ」

「うえええええええええええん」

誰かから誰かへ・・・伝道していくメッセージがあります。

閉店後の店内で・・・悦子と山路が対峙する。

「私・・・あやまらなければいけないことがあります」

「え・・・」

「進路のことで・・・先生になんかならないって・・・言ったけど」

「・・・」

「子供たちの笑顔が忘れられなくて・・・」

「・・・」

「やはり・・・先生になろうと」

「あの・・・もう店の鍵しめちゃうけど・・・」と山岸・・・。

アルバイトなのに店長を無視して話を続ける悦子。

「教室に忘れものをしたみたいです」

やってられるかと鍵をたたきつける山岸だった。

「それをとりもどしたいのです」

山路の心はいろいろな意味で乱れるのだった。

あっという間に過ぎ去る夏の日々・・・。

いやあ・・・いろいろなことがあっただろう・・・。

それも見せてくれるのかなあ・・・。

裏の攻撃的に・・・。

「阿佐ヶ谷南小学校」の教室で・・・セクハラ事件が発生する。

「セクハラって・・・」

「男子が野村さんのブラジャーのカップのサイズを聞いたんです」

「えええ・・・・野村さんブラジャーしてるの」

「うえええええええん」

「山路先生が野村さんを泣かした・・・」

「えええ」

職員室で藤原教頭(原扶貴子)に糾弾される山路。

「小四でブラジャーなんて普通ですよ・・・初潮を迎える子もいるし・・・」

「すみません」

「性教育の授業大丈夫ですね・・・童貞でも」

「はい」

日程を指定される山路。

10/14 性教育の授業

10/15 正和と茜の挙式で司会

「うわあ・・・ハードだなあ・・・」

茜は坂間酒造の営業担当をする正和をマネージメントする。

「社長の方の坂間さん・・・」

「はい・・・」

「在庫管理はどうなってますか」

「それは・・・正和が・・・」

「営業の方の坂間さん」

「いや・・・兄貴が・・・」

「在庫がないのに営業しちゃったら・・・納品できなくて信用を失うでしょうが」

「はい・・・」

すでに・・・坂間酒造のトップは茜となっているらしい・・・。

「鬼嫁の涙・・・今年は美味しくできました」

「置かないって言ってんだろう」

必死に営業中の正和。

「じゃ・・・せめてTシャツを・・・小さな姑もあります」

「いらねえって言ってるだろう」

「お手伝いします」

「帰れ」

茜は酒蔵の片隅で結婚式の出欠をチェックする。

上司の早川は欠席だった。

蘇る給湯室の女子達の噂話の光景。

「宮下さんって早川課長と不倫してんじゃないの?」

それも過去の話である。

そこへ帰宅する正和。

「結婚したら・・・からっぽになるんじゃないかって・・・不安になるの」

「幸せになることが仕事だと思えばいいよ・・・」

「まーちん」

イチャイチャしようとして酒瓶を倒した茜に最大の鬱の波が襲いかかるのだった。

自分が思っているほど美人じゃないし、頭もよくないし、ださいんだから、ヘラヘラしてないで自分を磨く努力をし続けて燃え尽きたのか・・・。

「中国人の母親と赤ちゃんを捜しています」

「見かけた方はご連絡ください」

レンタルおじさんと舎弟(長村航希)は夜の街でビラを配るのだった・・・。

ユカとセレブは・・・行方不明らしい。

ドラマの中では秋風が吹きまくるのだった・・・。

ああ・・・これから夏が来るなんて・・・信じられない。

今日の東京は暑いけどな。

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2016年6月17日 (金)

サラブレッドとライオン(竹野内豊)捕食するわよ(松雪泰子)オリーブオイルで(上野なつひ)

次々と最終回となっていくな。

(月)「ラヴソング」は*9.3%でフィニッシュ。平均視聴率は*8.4%であれたが・・・最期が↗なので希望がある。

(火)「重版出来」は*8.9%でフイッシュ。平均視聴率は*8.0%でこれも↗である。

(水)「世界一難しい恋」は堂々の16.0%フイニッシュ。平均視聴率も12.8%で*のない世界だ。

(木)「グッドパートナー」はここまで・・・12.9%↘*9.9%↗10.5%↗11.1%↘*9.1%↗*9.3%↗11.7%↘11.5%と来ているのでなんとかフタケタを確保しそうな感じである。

視聴率の上では十年に一度の傑作も・・・可もなく不可もない作品もあまり変わらないのが世界というものだな。

春ドラマも残りは「お迎えデス。」と「ゆとりですがなにか」となった。

「ゆとり」は変則レビューなので(月)には最終回となるわけである。

ああ・・・今年も夏が来る・・・しかも五輪の夏である。

揺れ続ける列島は・・・なにやら恐ろしい気配に満ちているけどな。

次は誰が叩かれるのか・・・私やあなたではないことを祈りたい・・・。

で、『グッドパートナー 無敵の弁護士・最終回(全9話)』(テレビ朝日20160616PM9~)脚本・福田靖、演出・本橋圭太を見た。十年に一度の傑作の後だと些少、見劣りするがこれはこれで澱みなく展開し・・・まずまずのフィニッシュを迎えている。結末が予想通りすぎて・・・まさに「予定調和」の趣きだが・・・安心して見られるドラマだってあってもいいわけである。愛を誓った夫婦が別離するのは・・・それなりに理由があることは間違いない。しかし・・・一時の気の迷いの可能性だってある。考え直すならお早めに・・・という話でした。

ヴィーナス法律事務所の代表弁護士・美山亜希子(峯村リエ)からヘッド・ハンティングを受ける夏目弁護士(松雪泰子)・・・返事を保留している過程で・・・新たなる案件が持ち込まれる。

神宮寺法律事務所が顧問を務めるレストランチェーン「ナギダイニング」の社長夫人・名木裕子(戸田菜穂)が・・・夫の名木登志夫(橋本さとし)と離婚し、フラワーアレンジメントの会社「花凜」を起業したいと相談に訪れたのである。

名木夫妻には子供はなかったが・・・咲坂健人(竹野内 豊)と夏目は家族ぐるみでのつきあいがあった仲だった。

名木夫妻の結婚は2008年の六月・・・八年目の離婚沙汰なのだった。

「なぜ・・・」

「主人は私を従業員としか思ってないし・・・私が新会社を設立することに反対なの・・・だから、私は離婚して独立することを決意したの・・・こちらで・・・新会社の法律顧問をお願いしようと思って・・・」

「ご主人は離婚に同意されたのですか・・・」

「いいえ・・・」

「そうなると・・・ナギダイニングの法律顧問を務める私たちは弁護士倫理的に・・・敵対する可能性のある裕子さんの・・・代理人を務めることは困難なのです」

「・・・」

困惑する裕子の顔を見て・・・決断する夏目だった。

「突然ですが・・・こちらを辞めようと思います」

夏目の言葉に驚く神宮寺所長(國村隼)・・・。

「理由を聞かせてもらおうか・・・」

「裕子さんの弁護を引き受けたいのが直接の動機ですが・・・咲坂先生と距離を置いてみようと思う気持ちもあります」

「それでは・・・引きとめられませんね・・・」

咲坂と夏目を離婚前から知る神宮寺にはなにやら思うところがあるようだった。

夏目の胸の内を察しているようである。

夏目が去ることに驚く・・・所員一同・・・。

「離婚した時は・・・辞めなかったのに・・・」と咲坂。

「あの時は・・・私の方が出て行ったら・・・負けだと思っていたから」と夏目。

「・・・」

夏目のアソシエイト(助手)だった赤星弁護士(山崎育三郎)は動揺する。

「僕は・・・どうなるのでしょう・・・」

しかし・・・神宮寺は微笑む。

「君は昇格するんだ・・・今日からパートナー弁護士だ」

「え」

たちまち・・・ウザキャラブームの火付け役として・・・調子に乗るレッドである。

「今日から僕のことは・・・赤星先生と呼んでくれたまえ」

「さっきまで泣いていたのに・・・」と呆れるパラリーガルの茂木さとみ(岡本あずさ)・・・。

「君が弁護士なら・・・アソシエイトをお願いできるのに・・・残念だ」

「人生いろいろあるけれど・・・されど進むが人の道・・・命の重みを感じなさい」

「銭形命かっ」

「勇者ヨシヒコと導かれし七人のヒサ役があるのかドキドキよ」

まあ・・・このドラマの見どころはキッドにとっては岡本あずさ一点だからな。

そろそろ・・・ヒロインぐらいあってもいいよねえ。

波瑠より一つ年下なんだし・・・そこかよっ。

とにかく・・・こうして・・・名木夫妻の離婚問題に関して・・・咲坂は夫側、夏目は妻側に分かれ・・・ついに雌雄を決することになる二人なのだった。

その頃・・・懲りない猫田弁護士(杉本哲太)は素晴らしいインターネットの世界で新たなるお見合い相手として水田まり(上野なつひ)と出会っていた・・・。

どこからか・・・エコエコアザラクの呪文が聞こえてくるのだった。

なにしろ・・・水溜り・・・なのだ。

連続詐偽事件でもいいくらいのキャスティングだな・・・。

何故か、最近注目のウザキャラを二枚揃えたり・・・ベタな三枚目を何重にも準備したり・・・手ゴマを揃え過ぎた上で・・・あたりさわりのない筋運び・・・。つまり・・・いきなり水田まりさんが魔女だったり、吸血鬼だったりしてもなんの問題もないお膳立てなのである。

ものすごく奇妙な物語なんだな。

「法的に問題はないが不適切」という意味不明の恐ろしい呪文が蔓延し・・・本当はどこにもない「絆」を誰かが引きちぎっているようだな。

神宮寺法律事務所のどこかレトロな佇まいとは一線を分かつ・・・無機的で巨大なビルに内蔵されるヴィーナス法律事務所である。

敵地に乗り込む咲坂弁護士とそのアソシエイトである熱海弁護士(賀来賢人)・・・。

何故か・・・トップの美山亜希子が出迎えるのだった。

美山は咲坂と夏目が元夫婦であることを知っており・・・ある種の警戒感を持っているのだろう。

男女同権主義者と・・・女尊男卑主義者の問題の装置だが・・・これは発動させないらしい。

熱海より優秀そうなアソシエイト高木黎弁護士(小池由)が登場する。

しかし・・・熱海と同じように高木もゆとり世代であり・・・野獣のような夏目に翻弄される気配をのぞかせる。

熱海・・・咲坂・・・VS・・・夏目・・・高木

・・・というようなシンメトリーな構図にある程度固執しているのだろうな。

「みんな仲良く」が浸透した熱海の精神を脅かす・・・咲坂と夏目の殺気の応酬・・・という脚本の狙いが・・・お茶の間にはあまり伝わっていないわけだが・・・長期シリーズを狙った展開なら・・・そういう一方通行を狙った主張というのは許容範囲なんだな。

じわじわ浸透すればいいわけだからな。

主人公とヒロインの視点で考えるとここまでは「離婚した夫婦が職場の同僚」という奇妙な構図から・・・「離婚した夫婦がライバル」という落ちついた構図への転換が示されたわけである。

最初から後者で始らなかったということは・・・次のひねりがオチということになる。

「離婚した夫婦がライバル」の方がダブル主役方式としては正解なのに・・・あえて・・・「離婚した夫婦が職場の同僚」からスタートした意図が明白となるわけである。

「裕子さんは・・・離婚を望んでいます」

「その前に・・・裕子さんは独立の際に取締役を務めるナギダイニングから二名の従業員を引きぬいています」

咲坂は熱海を促す。

「これは会社法第355条違反となります。取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない・・・のに会社からあえて従業員を離反させたわけですから」

「なによ・・・それ」と夏目。

「次に・・・裕子さんはナギダイニングから顧客名簿をコピーして持ち出した疑いがあります」

咲坂は熱海を促す。

「これは不正競争防止法の第二条第一項第四号の窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為又は不正取得行為により取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為に抵触します」

「そんな・・・言いがかりじゃないの」と夏目。

「以上の二点において・・・損害賠償訴訟を起こす準備があります」

「まず・・・離婚の問題を片づけましょうよ」

「さらにいえば・・・裕子さんの新会社は設立資金について疑わしいところがあります・・・もしも・・・ナギダイニングの資金からの無断流用ということになれば・・・刑事告訴も考えられる・・・離婚どころではないでしょう」

「刑事告訴・・・」と思わず動揺する高木・・・。

「こちらからは・・・慰謝料など二億円を請求します」とふっかける夏目だった。

第一回代理人交渉終了である。

「問題点を持ちかえって検討ということになりますが・・・問題点をすりかえるのはほどほどになさってくださいね」

「なに・・・」

会議室からエレベーターに向かう通路で上司が・・・元夫にモードを切り替えるのを無駄に機敏な感覚でキャッチする熱海である。

あわてて・・・エレベーターのスイッチを無駄に連打するのだった。

「なによ」

「そっちこそ・・・いいがかりってなんだよ・・・弁護士の使う言葉かね」

「咲坂先生・・・ここは敵陣ですから」

「あなたの口癖でしょう・・・言いがかりはよせよお」

「俺はそんなこと言った覚えはないぞ・・・ママ」

「ケンカをふっかけたのはそっちでしょう・・・パパ」

エレベーターが到着し・・・興奮した上官を敵地から引きずり出す新兵だった。

「なんだとおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ・・・・・」

下階に去り行く咲坂を冷たく見下ろす夏目・・・。

事情を知らないらしい高木は・・・唖然とする。

「パパって・・・?」

クライアントの裕子と打合せをする夏目は・・・裕子の周辺に出没する男の存在が気になるのだった。

「今の方は・・・どなた・・・」

「私のマネージメントをしてくだっている高部さんです」

「彼と何か・・・契約しましたか・・・」

夏目は咲坂の指摘した開業資金の出資者が気になっていた。

離婚訴訟では・・・クライアントに不倫の疑惑があることは避けたいところである。

夏目の直感が・・・お茶の間レベルで・・・高部プロダクション社長(羽場裕一)から漂う「犯罪者の香り」を嗅ぎ取っていたのである。

一方・・・咲坂はクライアントの名木登志夫から漂う犯人臭には無頓着だった。

妻の不在を酒に溺れることで回避する夫には同情を禁じ得ないのである。

登志夫は法的にはあまり有効とは言えない「結婚契約書」を見せる。

結婚式のプランの一種だった・・・「二人の誓い」である。

「夫は妻を助け・・・妻は夫を助けること」

「食事の好みはお互いに歩みよること」

「夫婦喧嘩は一時間まで」

他愛もない熱愛中の二人の戯言に・・・哀愁を感じる咲坂だった。

家に帰れば娘のみずき(松風理咲)の家庭教師・島谷涼子(宮﨑香蓮)と家政婦のグエン(上地春奈)から責立てられる咲坂・・・。

夏目の事務所替えを知らされて気に病んだみずきがテストで〇点をとってしまったのだという。

一種のストライキである。

「馬鹿だな・・・ママはみずきから離れたりしないよ・・・わかるだろう」と慰めるみずき。

「離れて行くよ・・・パパから離れて行っちゃう・・・」と問題点を指摘するみずきなのである。

返す言葉のない咲坂だった。

「ある日突然・・・出て行って・・・離婚届けが送られてきた」と嘆くクライアントの登志夫。

咲坂もまったく同じだったらしい。

夫婦喧嘩の延長で離婚調停に挑み・・・勝ちとったのは娘の傷心だけだったとは・・・咲坂はようやく自分の愚かさを認めた。

第二回代理人交渉・・・。

結婚契約書を提示する咲坂。

「そんなものに・・・法的効力は・・・」と高木。

「だけど・・・ここに・・・問題は話し合って解決すると誓いあってる・・・別れるにしても・・・もう一度・・・本音をぶつけ合えば・・・修復可能ではないかと・・・提言します」

「あれを出して・・・」と夏目。

高木は・・・裕子夫人と高部社長との契約書を示す。

「一点は開店資金についての契約書・・・一点は芸能プロダクションとしてのマネージメントについての契約書よ」

「なんじゃ・・・こりゃ・・・」

「ひどいでしょ・・・提供資金三百万の顧問料としての同額返却とか・・・マネージメント契約解除の違約金二千万円とか・・・」

「悪質な契約詐欺の手口じゃないか」

「今回の騒動は・・・レストランの客としてやってきた高部が裕子夫人の不満に巧妙につけ込んで示唆したものと考えられるわ・・・」

「世間知らずの奥さんを口八丁で誑し込んだか・・・」

「裕子さんの独立への意欲は本物だけど・・・夫婦仲を壊さなくても成立していたはず・・・」

「先にこちらに相談してくれたらよかったのに・・・」

「問題は・・・今の理不尽な状態をどうするかでしょう」

「ここは・・・共通の敵の排除ということか・・・」

「え・・・共闘するんですか・・・」と呆れる高木だった。

「よくある展開です」と元夫婦と付き合う先輩である熱海が同情するのだった。

「奥さん・・・話が長くなりそうなので・・・後は部屋ではなしましょう」

細めのサングラスの下で怪しく輝く高部社長の邪眼である。

ぞっとする裕子に夏目からの着信がある。

「え・・・自宅の住所を聞き出せって・・・」

「花を贈るとか・・・理由をつけて・・・必要な処置です」

裕子は高部からの誘惑を退けて情報を入手する。

神宮寺チームは高部プロダクションの実態調査を開始する。

猫田弁護士とアソシエイトの城ノ内弁護士(馬場園梓)は高部プロが実態のないバーチャルオフィスを利用していることを突き止める。

「高部プロには・・・営業の実態がない・・・」

一方、高木は高部の住所が「大久保」名義であることを突き止める。

「でも・・・確かに高部本人が帰宅しました」

レッドが身辺調査を終える。

「高部は偽名です・・・」

「大久保との関連は・・・」

「大久保が本名です・・・」

「なるほど・・・」

ベテラン秘書である朝丘理恵子(宮地雅子)が告げる。

「大久保プロという・・・悪徳芸能事務所の噂を聞いたことがあります」

古株パラリーガルの九十九が補足する。

「モデルや女優の卵に違法AVや買春を強要してつぶれた悪徳業者ですね」

「その筋のものか」

「半グレの芸能ゴロというところですか」

「もらったな・・・」

サラブレッド(良血馬)からムスタング(野生馬)となる咲坂は嘶くのだった。

裕子に呼び出されて・・・解体場に現れる獲物だった。

「すっかり・・・会社らしくなりましたね・・・こちらのお二人は・・・」

「私がお世話になっている弁護士の先生方です」

「え・・・」

「高部さん・・・高部って偽名ですよね」と獅子として咆哮する夏目弁護士。

「ええっ」

「偽名で交わした契約書が有効であるとするならば・・・詐欺罪であなたを訴えることになりますが・・・よろしいでしょうか」

「何を言っているんだか・・・」

そこで咲坂が身を乗り出す。

「それとも・・・風営法違反で・・・裁判しますか・・・この先生にかかったら・・・実刑までありますよ・・・買春斡旋業者の大久保さん」

尻尾を巻いて逃走する犯罪者だった。

「危ないところだったわね」と夏目夫人。

「私・・・」と萎れる裕子だった。

「いや・・・未然に阻止できたので・・・何も問題はありませんよ」と微笑む咲坂。

遅い夕食をとる元夫婦。

「独立に反対した点以外には・・・ご主人に不備はないのよね・・・浮気なし・・・家庭内暴力なし・・・返済不能な借金なし・・・ギャンブル狂いなし・・・」

「一事が万事ってこともあるからな」

「一時の気の迷いというのもあるわ」

「・・・さて・・・俺は帰るよ・・・仕事が残ってる」

「あなた食べ過ぎよ」

「う」

元夫の食生活に釘を挿す元妻だった。

裕子夫人を思い出の結婚式場に連れ出す夏目弁護士。

悔い改めた登志夫を伴う咲坂弁護士。

「ごめん・・・事業にのめり込みすぎて・・・君という存在の大切さを忘れていた」

「私こそ・・・意地を張って・・・あなたの一面だけしか見ないようにしていた」

「本当は・・・君が外に出すのが心配だったんだ」

「馬鹿ね・・・浮気なんかしないわよ」

夫婦生活をやりなおすことに合意する二人だった。

熱海と高木は夫妻に付き添い退場する。

「円満解決だな」

「まさにウインウインね・・・」

「君の方が・・・裕子さんの新会社で移籍後最初の顧問を獲得してお得だよな」

「男の嫉妬はみっともないわよ」

「・・・」

「あら・・・言いかえさないの」

咲坂は弁護士バッヂを外す。

「俺も・・・君にすまないことをしていたと気が着いた」

「・・・」

「君と言う人間の尊厳を踏みにじり・・・済みませんでした」

夏目み弁護士バッヂを外す。

「土下座することはないのよ・・・私だって・・・本当のあなたを見失っていたわ・・・だから・・・事務所を移って遠くから眺めることにしたのよ」

「・・・じゃ・・・どうしようか」

「どうする?」

帰宅した・・・みずきは玄関で母親のハイヒールを発見する。

キッチンでは・・・母親がグェンの手ほどきでベトナム料理を作っていた。

「ママ・・・」

「みずき・・・お父さんとお母さんは・・・やり直すことにしたよ」

「パパ・・・」

「これからは・・・親子三人で・・・一緒に暮らすんだ」

「グェンさんは・・・」

「ママさんもパパさんも仕事忙しいからね・・・私もクビにはならないよ」

「やった・・・」

「主人も賛成だしね」

「え・・・グェンさん・・・結婚してたの」

「はい・・・夫は医者の森山さんね・・・私、日本国籍取得しているね」

「堂上総合病院の・・・森山卓先生ですか?」

こうして・・・「ライバル弁護士が家に帰れば夫婦」という主題が完成したのである。

長い前日譚だったな・・・。

つまり・・・「俺たちの戦いはこれからだ」オチである。

レッドのアソシエイトとして生垣太郎弁護士(坂口涼太郎)が採用される。

「生牡蠣って・・・名前だけで選んでるだろう・・・」

レッドと熱海を天秤にかける悪い女モードのパラリーガルさとみ・・・。

「結局・・・咲坂先生の再婚って・・・熱海さんのおかげかもですね」

「エヘヘ」

「ウザさが一つのパワーになるなんて・・・発見です」

「ゲロロ」

その片隅で・・・秘書見習いとなった島谷涼子は続編開始に備える姿勢なのだ。

そして・・・お見合いの会食に挑む猫田。

「私・・・食いしん坊なんです」

「私も・・・」

「私・・・水溜りなんですけど・・・猫田さんと結婚したら・・・猫溜まり・・・なんか可愛いですよね」

「うえええええん」

「どうして・・・泣くんですか」

「なんだか・・・暖かい気持ちになりました」

春も終わりだが・・・猫田には遅い春が訪れる・・・のかもしれない。

関連するキッドのブログ→第8話のレビュー

Gpoo9ごっこガーデン。熱血すぎるウザキャラの殿堂セット。

まここうして・・・王様と女王様は末長く幸せに暮らしましたとさ・・・めでたしめでたし・・・ベタベタなハッピーエンドでごじゃいました~・・・夫婦はやっぱり共に白髪の生えるまででしゅよね~。そして・・・この教会は・・・多くのウザキャラたちの眠る場所です・・・活動を終えたウザキャラロイドが出番に備えて安眠中なのデス。時々・・・会いたくなるけどすぐにウザくなるのでご注意くだしゃりますように!・・・続編の時はもう少し夫婦がイチャイチャしますように・・・

エリちょっとした不満を抱える人々を狙う悪質な詐欺の手口・・・ざっくりとしたハッカーからちまちましたオレオレ詐偽まで・・・少しでもお金が余っていればたちどころにターゲットになってしまう時代ですね。公僕の警官の皆さんにも頑張ってもらいたいですが・・・転ばぬ先の杖はやはり弁護士さんでス~。腕利きで対立する弁護士が家に帰れば夫婦というのはセキュリティー的な問題がありそうですが・・・ここからがきっと本番なのでしょうか・・・そういう意味では凄く長い予告篇?」

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2016年6月16日 (木)

シルエット・ロマンス大作戦(大野智)帰りに牛乳買ってきて(波瑠)

都知事「なんとか粘りたいのだ」

秘書「それは・・・無理です」

都知事「どうしてもか・・・」

秘書「都民いや国民が・・・今夜をすっきりとした気分で迎えたい・・・そう望んでいるのです」

都知事「何故だ・・・」

秘書「今夜は世界一難しい恋の最終回なんですよ」

都知事「そうなのか・・・じゃ・・・仕方ないな」

で、『世界一難しい恋・最終回(全10話)』(日本テレビ20160615PM10~)脚本・金子茂樹、演出・中島悟を見た。ある意味・・・爽快にフィナーレを決めた後で・・・またウジウジし始めるという豪快なのか繊細なのか判別不能なアクロバット展開である。凄いな・・・もう達人の域に達してるのではないか・・・。しかも・・・ゴールしてないじゃないか・・・まあ・・・でも・・・頑張ったよね・・・脚本も社長も・・・。「つづく」でもきっとお茶の間はうれしいよね。

「一歩一歩・・・俺はみささんに歩みよった・・・信じられないほどの勇気じゃないか」

鮫島ホテルズの社長室・・・鮫島零治(大野智)は・・・お母さんのような秘書の村沖舞子(小池栄子)とお父さんのような運転手の石神剋則(杉本哲太)に昨夜の出来事を報告する。

「確認ですが・・・社長は彼女と抱擁しただけなんですか」

「最高にロマンチックだったのに・・・通りすがりの酔っ払いが・・・」

「よ・・・お二人さん・・・うらやましい」

夢から醒めたように・・・身を離す零治とステイゴールドホテルのコンシエルジュである柴山美咲(波瑠)だった。

見つめ合う二人は・・・思わず深々とお辞儀をするのだった。

「まるで・・・柔道家が試合を終えて礼をするように・・・清々しい光景だった」

「おそらく・・・珍妙だったと思われます」

「なぜ・・・思い出を美化することを許さない・・・思い出コンテストがあれば優勝まちがいなしだぞ」

「どんなコンテストですか」

「じゃあ・・・聞こう・・・俺とみささんは今、どんな状態だ」

「わからないんですか?」

「お前の意見を聞くと言っている」

「彼女は・・・社長から贈られた本をうれしく感じて・・・社長に声をかけたのだと思います」

「え・・・そうなの?」

「私もそうだと思います」と運転手。

疑似両親の意見の一致に納得する零治だった。

仕事を終えて帰宅した美咲は「ホテルの経営戦略(改訂版)/デヴィッド・フィリップス」を読んでいた。そして、零治からの電話に応答する。

「夜分遅くすまない・・・少しお時間いただけますか」

「どうぞ・・・」

「君のホテルを予約したい」

「それでしたら・・・直接フロントに・・・」

「いや・・・君が作るホテルを・・・」

「そんな・・・まだいつできるのかも未定です」

「俺は君の夢を応援するって決めた・・・一度・・・その土地を見せてもらえないだろうか」

美咲は承諾した。

零治はストーカーから交際相手に返り咲いたのだ。

ライトグリーンのミニクーパーに乗って待ち合わせ場所にやってくる零治。

美咲は赤と白のボーダーを着こんでいて・・・零治は青とグリーンのボーダーである。

期せずしてパカップルのペアルックになっている二人だった。

「君とドライブするのは久しぶりだな」

「前の時はお仕事だったじゃないですか」

「君が一緒で・・・心強かった・・・契約も上手く行ったし・・・」

「ありがとうございます・・・」

美咲の祖父の残した土地に到着する二人。

「素晴らしいロケーションじゃないか」

「ここへ・・・誰かを連れてきたのは初めてです・・・」

「・・・そうなのか」

「自分の部屋を見られるみたいで・・・照れくさい気持ちがします」

「お邪魔していいか」

「はい・・・」

「お邪魔します・・・」

ホテル建設予定地の草むしりを始める零治。

「何をなさっているんですか」

「草むしりだ」

「すぐ・・・伸びてしまいますよ」

「君の夢をイメージするために・・・キャンパスを白く塗りたい・・・」

美咲は一緒に除草を開始する。基本的に業者に頼んで定期的に除草しているわけだが。

「・・・」

「しりとりでもしようか」

「え」

「いや・・・なんでもない」

レミゼラブル

「しりとり偏差値高いな・・・ルミノール反応

「犯罪捜査ですか・・・ウインストン・チャーチル

「ル攻めか・・・ルクセンブルク

くちびる

その言葉に思わず反応する零治。

ルービックキューブ

武士道

ウコンエキス

スマホ

ホッチキス

砂場

梅肉エキス

「キスばかりですね・・・」

「偶然だ・・・心がキスを望んでいるのかもしれない」

「そんなこと言っても絶対しませんよ」

「しないとも・・・するわけがない」

スリランカ

カナダ

大英帝国

くちづけ

警戒態勢

いさなみすやお

汚名返上

ウルグアイ

いさなみしほ

本音

寝癖

接吻・・・あ・・・」

突然、黙り込む二人・・・。

無我夢中で唇から特攻する零治だった。

唇を奪われて思わず尻もちをつく美咲。

慄き倒れる零治。

見つめ合う二人・・・。

夢を見たがるヒロインと・・・恋心盗まれた主人公はたちあがり・・・よりそって・・・だきしめあって・・・シルエットになってロマンチックなキスをするのだった。

由緒正しい逆光影法師・・・。

ゴールである。

フィナーレである。

クライマックスである。

しかし・・・本題はここからなんだな。

「運転お疲れさまでした」

いつか・・・渡せなかった花束を・・・今度は渡せた零治。

「おみやげにどうぞ・・・」

「まあ・・・」

成し遂げた零治は・・・慌てふためいてワイパーでバックで急発進なのだった。

そんな零治を微笑んで手を振って見送る美咲だった。

二人はらせんを描いて・・・はるかな恋愛の高みへと登りだすのだ。

お茶の間のニヤニヤはもう全開なのである。

しりとりは言葉尻をとらえるゲームなのであり、ある意味で追いかけっこなのだ。

「ん」がついたら罰ゲームであり、零治にとって最大の罰は「好きな人にキスすること」なのである。

小学生で庭園に池を造成し、語学も堪能なスーパー・ビジネスマンである零治と生まれた時から学級委員で才気煥発な美咲だけに許された高度な前戯なのである。危険なほどに再現してしまったのでもう絶賛するしかありません。

毎回、最終回のようなピークに次ぐピークを征服する二人・・・稜線に沿って登頂を繰り返しているのでいつ滑落するかわからないスリルに満ちているのだった・・・。

ちなみに主人公の演技プランは喜怒哀楽がすべて顔に出るというもので・・・ヒロインは些少コントロールができる感じである。

つまり・・・主人公のビジネスモードでは・・・つねに「怒」しかない。

ここに・・・美咲が来てからの・・・「喜怒哀楽」が加わることで・・・主人公は特に無表情に近い「怒」とエクスタシーに近い「喜」を激しく往復し・・・「ユーモア」を形成するのだ。

一方・・・政治家である学級委員は・・・「クラスメート」というよりも「猛獣」に近い主人公の調教を決意し・・・ここからはアメとムチを使い分けていくのである。

二人のタブーでもある「零治にとっての禁断の果実・・・くちびる」を提示するのは美咲だ。

「五秒ルール」を導入して追い込んでいくのも美咲。

キスのことで頭がいっぱいになった零治に「私からはキスしない」と宣言する美咲。

零治にとって親しみのある世界の国名のやりとりの後で「くちづけ」というアクションを起こさせる美咲。

煽りつつ・・・自分は難攻不落であることを匂わせ・・・零治の闘志をかきたてるのだ。

そして・・・二人の愛のヴァーチャル夫婦・・・「いさなみ夫妻」を経由して・・・ついに「接吻」でチェックメイトである。

「つかまえてごらんなさい・・・ホホホ」

「こいつめ」

爆発してしまえ・・・なのである。

こうして、ファーストキッスの長い旅は終わったのだった。

零治は破瓜した乙女のように涙するのだ。

そして・・・失われたいさなみ先生のピースがソファから発見される。

零治は愛を取り戻したのである。

《今日はありがとうございました・・・いさなみしほ》

美咲からのメールで昇天する零治なのだ。

たたみかける展開。

「みさき定食でも食べようか」

「そんなお魚あるんですか」

「いさきだった・・・間違えちゃった」

定食屋から銭湯コースである。

銭湯代は零治のおごりだ。

番台の女将も祝福である。

そして・・・浴槽の親父責めの後で牛乳で乾杯だ。

ああ・・・バカップルだ・・・パカップルがここにいるのでみんなニヤニヤしてくださいだ。

そして「彼女の家にお泊まり」である。

期待に胸は高鳴り、消灯だ。

美咲もモリモリだ。

そして・・・テレビではお見せできない合体終了である。

ターゲット フルスピード トゥーマンス

零治はやる時にはやる男なのだ。

そして・・・ついにやり遂げた男の・・・朝の顔披露である。

あんなことやこんなことを思い出すだけで24時間が経過してしまう至福の一日。

「社長、そろそろお仕事なさってください」と有能な秘書が笛を吹くのだった。

「ようやく・・・登頂に成功したんだ・・・旗を立てるくらいいいじゃないか」

「高尾山に登って旗を立てる人はいません」

「俺にとっては冬の富士山くらい険しかったぞ」

「山というか・・・ジャングルジムに登ったようなものです」

「公園かっ」

「社長はもう・・・三十五歳なんですよ・・・彼女と一夜を過ごしたくらいで喜んでいる場合ではありません」

「俺は喜ぶのも秘書に指図されるのか・・・じゃあ、喜びに値することってなんだよ」

「結婚です」

「けっ・・・」

気絶する零治だった。

「お気を確かに・・・」

「恋愛と結婚はまったく別の話だろう」

「すると・・・彼女と結婚したくはないのですか」

「けっ・・・」

気絶する零治だった。

「和田さんがお見えです」

「何・・・」

ステイゴールドホテルの和田社長(北村一輝)が交際相手のリリコ(中村アン)を伴ってやってきた!

「和田社長・・・」

社長室企画戦略部一同は赤い彗星の登場に「逃げろーっ」と叫びたい気分である。

ただ・・・かねてから・・・密会を続けている白浜吾郎部長(丸山智己)は別だ。

月並なドラマなら会社乗っ取りなどの陰謀の伏線だが・・・。

伏線は伏線でも・・・あっと驚く同性愛展開である。

「じつは・・・結婚することにしたんだ・・・そこで鮫島ホテルズの実力を見せてもらおうかと思ってね」

和田社長がリリコと結婚するという事実を知って・・・腰が抜ける白浜部長。

その意味をニュータイプの洞察力で感知する堀まひろ(清水富美加)だった。

「同性愛キターッ!・・・同時に私の恋も木端微塵キターッ!」

社長の真意を酌むことで鍛え上げられた音無部長代理(三宅弘城)を始めとする社長室員一同も事態を把握する。

もちろん・・・三浦家康(小瀧望)は員数外である。

白浜部長は・・・学生時代に・・・コンパの罰ゲームで和田先輩とキスして以来二十年・・・片思いをしていたのである。

和田の色事師力・・・恐るべしだった・・・。

しかし・・・それはちょっとした路地裏の出来事なのである。

社長室の零治と和田社長。

「君の新しいホテルで記念に結婚してあげようと思ってね」

「残念だが・・・すでに予約が入っている」

「なんということだ・・・一撃でお断りか・・・」

「私が彼女と結婚するのです」

「ほお・・・」

「しかし・・・まだ・・・あくまで予定なので・・・このことは御内密に・・・」

「私もよくよく運のない男だ」

あっさり退場するシャアではなく和田社長だったが・・・秘書を口説くのも忘れない。

「君がその気なら・・・婚約は解消する」

「彼女を幸せにしてあげてください」

なにしろ・・・不倫の方が本領を発揮するタイプの秘書なのである。

しかし・・・それもまた裏通りの物語なのである。

ちなみに・・・秘書は家康とも・・・意味ありげなシーンを垣間見せるが・・・それはもうマンホールの下のような話だ。

すべてはホワイトベースの周囲を漂う宇宙塵のようなものなのだ・・・もう、いいか。

「和田社長への対抗心で・・・あんなことをおっしゃってよろしいのですか」

「そういうことではない・・・結婚も人生には不可欠な要素だ・・・」

零治の言葉を・・・何一つ信じないお茶の間だった・・・。

美咲とまひろのガールズ・トークのコーナー!

「まさか・・・私としたことが・・・ソレに気がつかないなんて」

「恋は盲目だからねえ」

「最初から・・・独身貴族にはそれなりの理由があると・・・わかっていたはずなのに」

「自分のこととなるとね」

「あーっ」

部長と部長代理のボーイズ・トークのコーナー!

「別に男が好きなわけではなかった・・・・」

「そうなんですか」

「でも・・・彼は特別だったの・・・」

「部長は隙のないエリートだと思っていたのに・・・かわいそうな人だったんですね」

「うん・・・そうなの」

部長に身を預けられ思わず叫ぶ部長代理・・・。

「ええええええ」

ちなみに・・・ここは・・・まひろにもワンチャンスありの伏線です。

ここまで・・・ずっと張っていた秘密の暴露・・・一種の保険ですが・・・使う必要のなかった本筋の充実度の証明とも言えますね。

部長の恋もまた世界一難しい恋・・・まひろの恋もまた世界一難しい恋なのだった・・・。

「彼女に結婚を申し込むことができるのですか」

「俺に不可能はない」

しかし・・・社長のすべてを把握している秘書は・・・次の試練を提示するのだった。

「それでは・・・同棲をしてみたらいかがでしょうか」

「同棲・・・」

「そうです・・・彼女と一緒に暮らしてみれば・・・お互いのいろいろなことが分かるというものです・・・旅という手もありますが・・・もう最終回なのであまりモタモタできません」

「それは・・・朝、目覚めるとみささんがいて・・・夜、眠る時もみささんがいるということか」

「もちろんです」

あまりの幸福感に気絶する零治だった。

「社長・・・社長は家族以外の誰かと寝泊まりした経験はおありですか」

「修学旅行は・・・入るのか」

「問題外です」

「一泊したぞ・・・」

「つまり・・・彼女とだけ・・・なんですね」

「・・・」

「それで・・・大丈夫なんですか」

「結婚がチョモランマとすれば・・・同棲はベースキャンプだ・・・頂上にアタックするためにはベースキャンプで高高度のトレーニングをする必要はあるな・・・むしろ・・・合理的な手順だ」

零治は決意を秘めて・・・「その件」を切りだすのだった。

「君の部屋は築何年だ・・・」

「四十年ですけど・・・」

「関東では・・・震災の危機がある・・・よかったら・・・家で一緒に暮らさないか」

「同棲ということですか・・・」

「そうすれば家賃の分だけ・・・君の夢の実現に一歩近づくじゃないか」

「・・・お話はとてもうれしいのですが・・・もう少し・・・ゆっくりと話を進めませんか・・・私たち・・・早急すぎて・・・一度失敗していますから・・・」

「・・・そうか・・・」

美咲の柔らかな拒絶に立ちすくむ零治だった。

零治は運転手に心情を吐露するのだった。

「同棲を拒否するもなにも・・・彼女は私の部屋に来るのを拒んでいるような気がする」

「それは・・・やはり・・・ベッドの件でしょうか」

「それだ・・・お前が悪い」

「私はお止めしました・・・」

「いや・・・最後はいけると言った」

「・・・」

「何もかもお前のせいだ」

「社長ーーーーーーーっ」

モヤモヤをトレーニングで解消しようとする零治。

ジムにはなぜか・・・零治の父親の幸蔵(小堺一機)がいた。

「なぜ・・・ここに」

「家康くんに呼び出されて・・・合コンに欠員が出たからって・・・」

「そのために・・・伊豆から・・・」

「私も・・・再婚するならそろそろ・・・婚活をしないと」

「するなっ」

幸蔵を強制的に連れ帰る零治・・・。

「あれ・・・ベッドは・・・すてたの」

爆心地は更地になっていた。

あれほど・・・疎遠だった父親と・・・なんとか接することができるようになったのも・・・美咲のおかげであると・・・零治にもお茶の間にも暗示するシーン。

「そうそう・・・美咲ちゃんと連絡とれるかな・・・ピクルス持って来たんだけど」

「俺から・・・渡しておくよ」

「それじゃあ・・・頼むね」

父親の取り出した手作りピクルスの瓶を見て閃く零治だった。

《父がピクルスをみささんに食べさせたいそうです・・・いつ渡せますか》

《お父様がいらしているなら・・・ご挨拶したいのですけれど・・・これからよろしいですか》

零治の頭に鳴り響くファンファーレ!

(釣れた~)のであった。

父と零治と美咲・・・三人で囲む食卓・・・。

「美味しい」

「喜んでくれてありがとう」

美咲の笑顔にうっとりとする零治だった。

「れいさんも食べてみなさいよ」

「零治はあまり好きではないんだよ」

「そんなことはない・・・美味しい」

「ほら・・・食べず嫌いなんだから・・・」

しかし・・・ひきとめても帰宅してしまう美咲だった。

喜びもつかの間である。

「なぜだ・・・」と社長室で苛立つ零治。

「それは・・・幸蔵さんとの親子水入らずを尊重してくれたのでしょう」と秘書。

「しかし・・・親父がいれば・・・彼女が来てくれるんだ」

「そういえば・・・彼女は・・・幸蔵さんのおそばも食べたがっていました」

「それだ・・・」

《親父がみささんにそばを食べさせたいと・・・》

《今夜・・・遅くなってもよければ・・・》

(釣れた~)のであった。

「伊豆に行って・・・親父と蕎麦粉と蕎麦打ち道具一式を東京に持ち帰ってくれ」と運転手に命じる零治である。

この画策癖・・・明らかに間違った方向への暴走に手に汗握るお茶の間だった・・・。

そして・・・何故か御相伴に与る・・・チキン持参の家康くんである。

「いや・・・チキンはあわないと思うよ」と運転手。

当然、秘書も同席である。

美咲も到着して和やかな会食開始・・・。

「美味しい・・・」

自分の部屋で蕎麦を食べる美咲にうっとりの零治。

「美咲ちゃん・・・可愛いなあ」と暴言を吐く家康の口にチキンをねじ入れる零治だった。

そして・・・なんとか・・・美咲を引きとめる零治。

「父がみささんと話したがっていた」

「もう・・・お休みみたいですけど」

「目が覚めて・・・みささんがいなかったら・・・父がさみしがる」

「・・・」

そして・・・幸蔵を挟んで川の字で就寝の・・・三人だった。

美咲は・・・事態を把握するのである。

しかし・・・暴走中の零治には・・・美咲の心は見えないのだった。

目覚めれば早番出勤の美咲の姿はない。

「親父・・・一緒に住んでくれないか」

「え」

「俺が・・・親父に何か頼んだことあったかな」

「いや」

「頼むよ・・・」

「お前がそこまで言うのなら・・・」

「じゃ・・・今日からよろしく」

「今日から・・・?」

そして・・・零治が展開する・・・父親の具合が悪いから・・・看病してほしい作戦・・・。

「ゲホゲホ・・・」

「親父が・・・急に・・・具合が悪くなって」

「私・・・零治さんの言葉を信じていいんですよね」

すべてを見抜いた美咲の一撃である。

「いや・・・思ったより・・・酷くはないんだ・・・」

「・・・そうですか」

撤退である。

「私のせいかな・・・」

「親父のせいじゃないよ」

「いや・・・お前にも私の血が半分流れているから・・・」

「え」

「私の女の扱いの下手さが・・・お前にも遺伝しているのではないか・・・と思ってね」

「そんなことない・・・俺は女の扱いくらい・・・心得ている」

「そうかい」

「そうだよ」

微笑み合う・・・似たもの父子だった。

幸蔵は伊豆に強制送還された・・・。

「お話があります」と美咲が零治の部屋にやってくるのだった。

おもてなしの体制を整える零治・・・。

別れの予感に緊張感の高まるお茶の間である。

「私は・・・れいさんと一緒に暮らすのがこわいのです」

「え」

「れいさんは思い通りにならないと・・・出ていけと言うから・・・」

「ええ」

「引っ越してきて・・・そう言われたら・・・私は家なき子に・・・」

「そんなこと・・・俺が言うわけはない・・・」

「二回も言ったじゃないですか・・・私を解雇して出ていけと・・・それから再就職した私に・・・神奈川県から出ていけと・・・」

「・・・」

「あの時は・・・私にもいたらぬことはありました・・・だから・・・今度はゆっくりとお互いを知ってから・・・暮らしたいと思ったのです」

「あの時の俺と・・・今の俺は違う・・・」

「なにがですか」

「自分の言ったことで・・・どれだけ・・・人を傷つけてしまったか・・・思い知った・・・そして・・・大切なものを壊してしまうことの恐ろしさも・・・君といると・・・俺は変になってしまう・・・だけど・・・もっともっと変わりたい・・・変わらなくちゃと思うんだ」

「・・・」

「ゲーテの言葉は間違っていると思う」

「?」

「相手の欠点を受け入れなくては本当の愛ではないなんて・・・独りよがりだ・・・本当に愛しているなら相手のために自分の欠点を改めなくてはいけないと俺は思うんだ」

二人は合意に達した。

零治と美咲の夢の同棲生活がスタートしたのである。

数日後・・・美咲の私物は・・・零治の部屋に搬入され・・・朝食を甲斐甲斐しく作る美咲にまとわりつく零治のバカップルモードが炸裂する。

「ミソスープか」

「もうすぐ・・・ごはんですよ・・・着替えてきてください」

「トーフだ・・・ネギだ・・・」

裸エプロンまでもう一歩だな・・・絶対にないぞ。

新婚さんいらっしゃいモードの朝食風景・・・。

美咲の笑顔が満開である。

浮き立つ零治・・・しかし・・・。

「まさか・・・こんな問題が浮上するとは・・・」と社長室の零治。

「彼女はお料理が得意だったのでは・・・」と秘書。

「いつも・・・ご馳走しか食べていなかったのでスタンダードな料理が盲点になっていた」

「?」

「ごはんが柔らかいんだ・・・目玉焼きはミディアムだし・・・俺はごはん固め、目玉焼きレアが好みだ」

「それならそうとおっしゃればいいじゃないですか」

「俺は・・・みささんに変わるって誓ったんだ・・・そんなことできるか」

いや・・・それは別に好みの問題だからな・・・。

調整可能だ・・・などという一般論は零治の辞書にはないのである。

靴下のたたみ方・・・食器洗浄のペース・・・細かいことが・・・零治とは違う美咲である。

「納豆は・・・かき混ぜてから醤油だろう」

「出汁は削り節じゃないといやだと言って離婚された方もいるそうですからね」

「・・・」

「同棲解消の恐怖」に戦慄する零治である。

「バスタオルは一度じゃ洗濯しないだろう」

「それは・・・社長・・・一人暮らしならアレですが・・・ホテルでそれをやったらどうなると思いますか」

「う」

不満をため込み・・・鬱屈していく零治。

「ただいま」

先に帰宅した零治は・・・流しに洗いものが残っているのに絶望する。

「ただいま・・・」

「うん・・・」

敏感な美咲は・・・零治の心中に何かが生じているのを察しているのである。

「何か・・・我慢していますよね」

「そんなことはないさ」

「正直に言ってください」

「してる・・・我慢しまくってる」

「私・・・やはり・・・家に戻りましょうか」

緊急事態に備えて・・・解約していない美咲なのだった。

「そんなことをする必要はない・・・俺は我慢できる」

「でも・・・どんどんれいさんが不機嫌になっていくので・・・私が辛いのです」

「それでは・・・なるべく不機嫌さを悟られないようにする」

「そこまでして・・・一緒に暮らす必要はないのでは」

「そこまでしても一緒に暮らしたいのだ」

「一体・・・一緒に暮らすメリットは何ですか」

「恋人たちが一緒に暮らす話をしているのに・・・メリットなどという冷たい言葉を使うなんて・・・」

「すみません・・・メリットと言う言葉が冷たいという感覚はありませんでした」

「うわあ・・・感覚か・・・好みだけでなく・・・感覚も・・・」

「なんのことですか」

「私は変わってみせると誓ったんだ・・・」

「しかし・・・不満があるのなら言ってくれなければわかりません」

「思ったことを言えば出て行くかもしれないし・・・言わなくても出て行くという・・・俺はどうすればいいんだ」

「極端なんですよ・・・一緒に暮らしているのに本音で話せないのでは困ります」

「じゃあ・・・もし・・・俺が不満をぶちまけても出て行かないと約束してくれるか」

「・・・わかりました・・・何を言われても出ていかないと誓います」

もう・・・面倒くさい男の極みである。

しかし・・・美咲は・・・すでに調教モードなのだった。

「まず・・・話し方だ・・・いつまでたっても敬語じゃないか・・・もう少しフレンドリーじゃないと・・・俺の心は傷ついて荒んでしまう・・・」

わかった・・・これからは敬語はなしだ・・・これでいいか

「いや・・・それはちょっと・・・学級委員の匂いが強すぎて・・・なんか違う・・・入門編って言うか・・・敬語10にタメ口1くらいの割合でおためししてみたい・・・」

「はいはい・・・わかりました」

二人の人間がいれば・・・どちらかが大人になるしかないのが人間関係というものなのである。

「君はごはんは柔らかめが好きなんだよな」

「そんなことはありません・・・いつもの炊飯器ではないので・・・勝手が違うだけですよ」

「そうなのか」

「ほら・・・話し合えばなんでもないこともあるじゃないですか」

「しかし・・・目玉焼きはミディアムなんだろう」

「私はそうですが・・・れいさんが半熟がすきならば・・・半熟にしますよ・・・とろっと」

「とろっとか」

問題が解消する度に笑顔がこぼれる二人・・・。

「簡単なことです」

「君は靴下を全部たたみこむが・・・折り返すのは上の部分だけでいい」

じゃあ自分でやれ

「え」

「タメ口を混ぜてみました」

「嘘だ・・・今のは意図的だったろう・・・じゃあ・・・食器の洗いものを俺が勝手にしても怒らないか」

「もちろんです」

「よし・・・俺も君がすぐに洗わなくても文句は言わない」

「だったら・・・零治さんが洗ってくれてもいいですよ・・・零治さん・・・私より上手ですし、水の節約にもなります」

「いいのか・・・じゃ・・・俺は今日から食器洗い係だ」

「よろしくお願いします」

零治を操縦するコツを掴んだ感じの美咲の表情が抜群である。

「そろそろお腹がすきませんか」

「うん」

何食べたい?

「あ・・・今の・・・いい・・・そういうのもっと頂戴」

じゃあ・・・手伝え

「いや・・・それはちょっと」

「私がおかずを作りますから・・・れいさん、ご飯を炊いてください」

「固く炊いてもいいのか」

「いいですよ」

「お米を研ぐのは時計回りか・・・反対回りか」

「どっちでもいいですよ・・・」

美咲は手早くカレイの煮つけを仕上げる。

カレイとヒラメの違いを語りはじめる零治。

団欒が始った。

美咲は零治好みの靴下のたたみ方をサービスするのだった・・・。

靴下を宝物のように抱く零治・・・。

こうして・・・零治は飼いならされた。

名作誕生である。

一年後・・・「鮫島ホテルズ東京」のレストラン「五助」で結婚式を挙げたのは・・・和田社長と新婦リリコだった。

零治と美咲のその後が気になるお茶の間だが・・・零治は鮫島ホテルズ社長として・・・ステイゴールドホテルの新社長と主賓席に着いている。

美咲は・・・ステイゴールドホテルの従業員の席である。

「鮫島くんは世界一のホテルを目指して頑張ったが・・・弟の引き継いだステイゴールドホテルが六年連続の世界一を達成してしまった・・・ビジネスでも恋愛でも・・・私を師と仰いで精進してもらいたい」

新郎の自由なスピーチにムカムカする零治。

しかし・・・仕事のために退席する零治を美咲は優しく見送るのだった。

「気をつけて」

「心配ない」

ちなみに・・・友達から始った部長とまひろの交際は・・・謎の男女関係に到達したらしい。

そして・・・家康が就職できた理由は最期までミラクル《三浦来る~》な謎となった。

零治は・・・ニュースキャスターの櫻井翔(櫻井翔)のインタビューを受けるのだった。

「ZERO~」である。

「Vanguard・・・それは前衛・・・社訓を変更されたとか」

「ターゲット・フルスピード・トゥーマンス・withラブ」

「それは・・・」

「どのような目標も・・・愛なしで達成しても無意味です」

「なるほど・・・」

秘書は社長とキャスターにツーショット写真をお願いする。

「櫻井くんは・・・君のことを素敵な人だと言ってたぞ」と囁く零治。

「本当ですか」

「冗談に決まっているだろう・・・この身の程知らずが」

「・・・」

勝ち誇る零治だった。

そして・・・社長秘書運転手トリオを乗せた車は家路に着く。

「美咲さんも・・・そろそろ・・・結婚したいのではないでしょうか」と運転手。

「まあ・・・私のタイミングしだいだ」

「本当ですか」と秘書。

「彼女は・・・今頃、三つ指ついて俺を待っている」

そこへ・・・エプロン姿の美咲から着信がある。

「帰りに牛乳買ってきて・・・日付をちゃんと見てね・・・それからサラダ油もお願いします」

「はい・・・」

「彼女は器用ですねえ・・・三つ指ついて電話してくるなんて」

「どちらかにお寄りしますか」

「喉がかわいたな・・・牛乳でも買っていくか」

「畏まりました」

笑顔で満ちる車内。

そして・・・尻に敷かれた男の愉快な人生が続いて行く。

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2016年6月15日 (水)

食べて寝てそれから漫画を描きましょう(黒木華)

「家族あっての政治家です・・・政治資金で家族旅行をして何が悪い」と開き直ればかったのに・・・。

愚民たちは・・・「裏切られた」じゃなくて・・・「選挙で選んだ責任」を痛感しろよ。

マスメディアは「選挙前」に「法的には問題ないが不適切な事実」を明らかにできなかった取材力のなさを反省しろよ。

与党政治家たちは「貧乏人が騒ぎすぎ」ぐらいの姿勢で養護しろよ。

まあ・・・そもそも・・・こんな「貧相な顔つきの男」が東京都主になっちゃったことが・・・庶民の「見る目のなさ」を露呈しているんじゃないか・・・。

・・・おい、もういいか。

とにかく・・・どこかに「悪いガス」がたまっているのは明らかだな。

団塊の人たち以外の人が気分を害するような・・・何かがあったんだな。

やはり・・・ソウルでいい顔し過ぎたのが遠因か・・・。

いやな渡世だなあ・・・。

そんな・・・雑音に悩まされつつ・・・最終回シーズンに突入である。

「ラヴソング」の脚本家の倉光泰子も大抜擢だったが・・・「重版出来!」の野木亜紀子もいきなり月9「ラッキーセブン」(2012年)で連続ドラマデビューをしているわけである。キッドはドラマとしてはあまり高く評価はしなかったが・・・平均視聴率は15.6%で月9としては久しぶりのヒット作となった。

しかし・・・学生演劇→製作会社勤務→脚本家という経歴から生じる手堅さが滲み出ていたらしい。

ここからは・・・原作ものの脚本家として急速に花開くのだった。

主に泣いてます」(2012年・原作・東村アキコ)、「空飛ぶ広報室」(2013年・原作・有川浩)、映画「図書館戦争」(2013年~・原作・有川浩)、「掟上今日子の備忘録」(2015年・原作・西尾維新)・・・と次々と佳作を生みだし・・・その脚本力は驚異的に飛躍していった。

はずさない・・・のである。

オリジナルについては未知数だが・・・もう、腕が立っていることは明らかなんだなあ・・・。

そういう意味で・・・倉光泰子も次のチャンスがあるといいよねえ。

で、『重版出来!・最終回(全10話)』(TBSテレビ20160614PM10~)原作・松田奈緒子、脚本・野木亜紀子、演出・土井裕泰を見た。ものすごく面白い漫画家だけど・・・殺人犯だった・・・ということになると・・・とにかく獄中で原稿を描き続けてもらいたいと願う読者は石を投げられる可能性が高いのである。それが・・・世界というものだ。だが・・・違法薬物でもダウナー系の歌手は復帰率が高いし、アッパー系だと難しいとか・・・窃盗した芸人と暴行した芸人ではどうかとか・・・拳銃不法所持は物騒だが死体の写真コレクションはギリギリセーフとか・・・世の中の不透明で曖昧な部分は残される。創作という特殊な仕事と・・・人間としての生活やモラルの兼ね合いは様々な問題を孕んでいて面白い。選挙という経済活動が・・・税金の無駄使いなのかどうかは微妙だが・・・それで儲かる人にとっては望むところだよねえ。人殺しの本が売れたりすれば物議を醸すわけだが・・・どうしても嫌なら作者を殺すのも出版社を爆破するのも・・・選択肢としてはあるだろう。それが人間だもの。このドラマの醍醐味は・・・そういうギリギリの話をエンターティメントに仕上げていることだと考える。実にトレビアンである。

愛はすべて

愛だけが世界を踊らせる

愛だ・・・愛だけは・・・嫌って言えない

愛について考えるのは無駄

愛がなくては生きていけない

愛がなくなるなんてありえないのさ

漫画を愛する人々で成り立つ漫画商売の歯車人間となった週刊コミック誌「バイブス」の編集者・黒沢心(黒木華)は・・・「大ヒット商品を生みだす原石」である漫画家・中田伯(永山絢斗)を入手する。

柔道家である心は・・・伯を辛抱強く磨き・・・伯は神秘の光を放ちはじめていた・・・。

連載開始から数週間が過ぎ・・・その光に・・・読者虫たちが群がりはじめていたのである。

一方・・・近代芸術文化賞の漫画部門大賞の選考が始まっている。受賞作は知名度があがり、売上倍増が見込めるのである。

各出版社は賞レースのために盛んに選考委員の夜の接待を行っているが・・・そこは大人の事情で描かれないのだった。

下馬評で大賞候補になっているのは・・・バイブス連載の「ツノひめさま/高畑一寸」とエンペラー連載の「HITTI-POTTI/井上佳二」である。

先輩編集者の五百旗頭敬(オダギリジョー)から高畑一寸(滝藤賢一)の担当を引き継いだ心だったが・・・まだまだ若輩ものなので・・・賞レースの実感はないのだった。

「やはり・・・受賞したいものですか」

「あたり前だろう・・・名誉だし・・・歴史に名が残るし・・・儲かるし・・・女の子にももてるに決まってる」

高畑一寸は本音を叫ぶのだった。

バイブス最新号に目を通した高畑は「ピーヴ遷移/中田伯」に注目する。

「これは・・・来るな」

「何が・・・来るんですか」

「恐ろしいものが・・・だよ」

高畑は金色の瞳で・・・心を睨むのだった。

伯の担当でもある心には・・・一つの悩みごとがあった。

「中田伯のアシスタントがやめちゃう問題」である。

パンとインスタントラーメンがあれば漫画が描ける伯と違い・・・アシスタントたちはもう少し豊かな食生活を求めるし・・・一人で漫画を描いてきた伯には・・・アシスタントの使い方が解らないのである。

「中田先生の指示待ちをしていたら・・・一日・・・何も手伝えませんでした」

アシスタントたちは・・・恐ろしさと悲しみを抱くのだった。

「一人でやるには・・・限界があります」と伯に助言する心・・・。

しかし・・・鬼神となった伯に・・・心の思いは届かない。

「一人でやれますから・・・」

不眠不休で創作に打ち込む伯なのである。

心の心配をよそに・・・「ピーヴ遷移/中田伯」のインパクトは世界を動かし始めている。

漫画家たちは新たなるライバルの出現を本能のレベルで察知する。

「KICKS」の大塚シュート(中川大志)は「僕には想像もつかない世界があります」と感嘆するのだった。

「豆は豆でも大きいほうだ!!」の成田メロンヌ(要潤)は「笑えないほど面白い」と蒼ざめる。

興都館コミック営業部部長の岡(生瀬勝久)は目の色を変える。

「今・・・人気投票は何位だ・・・」

「現在は八位・・・中の下というところですが・・・」と営業部員の小泉純(坂口健太郎)は続ける。「しかし・・・素晴らしいインターネットの世界のおためしサービスで・・・物凄いアクセス数をただき出してます」

「これは・・・来るかもしれんな」

バイブス編集長の和田(松重豊)は腹心の安井(安田顕)と密談する。

「じわじわ・・・来ているが・・・来週、話が大きく動くよな・・・」

「ええ・・・金の匂いがしますぜ・・・」

器のしたたりおちる水は・・・寸前までは穏やかなのである・・・しかし、突然あふれだすものだ。

そうなればびしょびしょなのである。

何の話だよ。

しかし・・・伯の創作活動は完全に常軌を逸し始める。

飲まず食わず・・・不眠不休の体制である。

心は伯の体調を気遣うのだった。

「一日二食」と伯の部屋の冷蔵庫に貼り、「眠らないと毒ですよ」と注意するのだった。

しかし・・・創作にのめりこんだ伯は聞く耳を持たない。

「自分の内面を絞り出すタイプの作家は・・・作品に飲みこまれてしまうかもしれない」

巨匠・三蔵山龍は・・・アシスタントだった伯を案ずる。

そして・・・堤防決壊である。

新展開を迎えた「ピーヴ遷移/中田伯」に・・・読者が沸騰し・・・バイブスが売り切れて店頭から消える異常事態が発生したのである。

素晴らしいインターネットの世界でも「ピーヴ」がトレンド入りするのだった。

「ブームキターッ!」と壬生(荒川良々)が叫ぶ。

「単行本・第一巻の部数が決まりました」と営業の営業担当の小泉・・・。

「5000だと・・・最低部数じゃないか・・・一万・・・いや二万は・・・」と和田編集長。

「よく・・・見てください」

「50000かっ」

新人作家としては規格外の発行部数だった。

書店でも・・・風が吹いていた。

スーパー書店員・河舞子(濱田マリ)は「単行本発売記念サイン会」を企画するのである。

帯の推薦文は・・・三蔵山龍が書くことを承諾する。

そして・・・カバーのデザインは売れっ子デザイナー・野呂ダイスケが担当する。

突然・・・脚光を浴びた「わが子のような漫画家」に驚愕する心である。

しかし・・・打合せに訪れた心は・・・昏倒する伯を発見するのだった。

「しっかりしてください」

目覚める伯。

「冷蔵庫の中身は減ってないし・・・眠らなきゃダメです」

「今・・・寝ました」

「倒れちゃったら・・・漫画描けないじゃないですか」

「うるさい・・・僕を支配するつもりか・・・」

「・・・少しは言うこと聞いてください」

激突する漫画家と編集者だった。

出番を確保するために状況を解説する五百旗頭だった。

「奇跡的な出会いをした・・・伯と心・・・伯にとって心は女神・・・初めて自分を認めてくれた編集者を親鳥として刷り込んでしまったひよこのようなものなのだ・・・しかし・・・ひよこもいつしか大人になる・・・いつまでも親の後をついてくるわけではない。それに小熊である心が気をつけないといけない・・・私がアドバイスしないのは・・・心もひよこだからだ・・・私もいつまでも親の役割をしているわけにはいかない・・・心もそろそろ巣立ちの季節なのだ」

心の留守を狙って編集部にやってくる伯。

心の机に「重版出来」のメモがある。

「じゅう・・・」

「じゅうはんしゅったいですよ」と編集部でネームを書くシュート・・・。

「みんなが幸せになる言葉だと・・・心さんが言ってました」

机の上には・・・単行本について・・・推薦文、サイン会など・・・伯が否定した件についてのメモが残されている。

「自分」と「作品」だけが・・・「伯の世界」だったはずなのに・・・いつの間にか・・・「心」という「他人」が侵入していたのだ。

伯は・・・師匠である三蔵山を訪ねる。

「自分だけのために・・・作品を描いてはダメなのでしょうか」

「そんなことはない・・・僕たちは自由に何でも描ける・・・」

「・・・」

「誰かのためではなく・・・自分だけのために描くのも自由だ」

「・・・」

そこに伯が苦手とする三蔵山夫人(千葉雅子)が握り飯を持って現れる。

「君は・・・このおにぎりのために・・・水がどのくらい使われると思う」

「?」

「米を作るために田に水を引かなければならない・・・田植えをする人々も水を飲む・・・精米する人々や米を運ぶ人々、米を売る人も水を飲む。もちろん・・・炊飯にも水がいるし・・・これを握った僕の奥さんも水を飲む・・・」

「・・・」

「君が思っているより・・・世界は広い・・・のかもしれないよ」

帰宅した伯はおにぎりを食べる。三蔵山の言葉が・・・おにぎりとともに伯に沁み込むのだった。

そして・・・伯は水を飲むのだった。

そこへ・・・現れる心。

「この間は・・・失礼なことを申しあげてすみませんでした」

頭を下げる心に・・・伯も頭を下げる。

「僕の方こそ・・・」

二人は頭を下げ続けるのだった。

「表紙の見本ができました・・・」

主人公ではなく「ピーヴ」を主軸にした斬新なデザイン・・・。

「かっこいいな・・・僕に他にできることはありませんか」

「推薦文の件は・・・」

「先生がお書きくださるなら・・・」

「サイン会は・・・」

「名前を書くだけなら・・・絵は・・・下手だし・・・」

伯と心は・・・ひよことひよこではなく・・・漫画家と編集者の絆で結ばれたのだった。

「単行本・・・売上好調です」と心。

「そうか・・・」と和田編集長。

そこへ・・・一本の電話が入る。

「受賞した・・・」

「ツノひめさま・・・ですか」

「いや・・・三蔵山先生の・・・ドラゴン急流・・・」

「えええええ」

長期連載作品が受賞することは希なことだった。

「スランプ脱出後の・・・作品の上質さが・・・評価されたみたいだ・・・」

喜びに沸く・・・編集者一同だった。

書店のサイン会に到着した伯と心・・・。

書店員の手作りのキャラクター看板や・・・読者の熱気に心を動かされる伯。

「まだ・・・時間ありますか」

「サイン会まで・・・三十分くらいは・・・」

「練習します・・・絵を描きます」

サインに添えて「かわいいピーヴ」を描く・・・伯。

そこに・・・ヒロインのモデルである通りすがりの後田アユ(蒔田彩珠)が現れる。

「がんばってください・・・」

しかし・・・絶句する伯。

心が女神なら・・・アユは天使なのである。

中田伯の女子中学生との不適切な交際を案ずる一部お茶の間だった・・・。

心とアユは・・・眼と眼で通じあうのである。

伯は立ち去って行くアユの後ろ姿をいつまでもいつまでも見つめていた。

「先生・・・次の方がお待ちです」

その日は三蔵山の受賞パーティーだった。

会場には・・・東江絹(高月彩良)や・・・沼田渡(ムロツヨシ)などかっての三蔵山のアシスタントも顔を出す。

「私・・・派遣社員やりながら・・・デビューを目指しています」

「僕は・・・嫁さんもらいました」

「僕は一寸法師やってます」と「タンポポ鉄道」の八丹カズオ(前野朋哉)・・・。

「確かに・・・美少年ではないですね」

「オワコンを描いていると言われた私ですが・・・」と壇上で挨拶する三蔵山。

「みなさんのおかげで・・・こうして受賞の栄誉に浴することができました・・・まもなく・・・・ドラゴン急流も最終回を迎えるでしょう・・・しかし、私は新作を描くつもりです・・・満93歳でお亡くなりになった水木しげる先生のように・・・生涯現役・・・いや・・・お化けになっても描き続ける覚悟です・・・もっともっと稼ぎますよ」

盛大な拍手が沸き起こる・・・。

その時・・・営業部から報せが届く。

「心さん・・・ピーヴ遷移の単行本50%売れました・・・」

「え・・・」

「重版出来です」

歓喜に沸く・・・一同である。

景気がいいのはいいことなのだ。

酒が美味いのである。

小料理屋「重版」の女将・ミサト(野々すみ花)は微笑む。

そして・・・編集者の菊地文則(永岡佑)は読売巨人軍のファンだった・・・。

こうして・・・夢物語は・・・めでたく幕を閉じる。

終わりよければすべてよしである。

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2016年6月14日 (火)

すると俺は立ち去る・・・体裁つけて(福山雅治)愛してくれないなら一緒に音楽活動はできません(藤原さくら)弱虫じゃのう(夏帆)つきまとい勝ちじゃ(菅田将暉)

シンプルに分析すると・・・これは「ローマの休日」の焼き直しである。

主人公は新聞記者・・・ヒロインは王女様である。

王室のお姫様と・・・一般市民・・・この階級格差を現代で表現すると・・・やってやれないことはないが・・・現在この国にはリアルで美少女なプリンセスがいるので・・・いろいろとアレなんだよな。

で・・・一応・・・「年の差」で置換されるわけである。

主人公がいくら好きになっても・・・相手は娘ほどの年齢なのだ・・・ということですね。

もちろん・・・現実の世界では年の差は恋の障害としては弱いのでいろいろと付属物がつく。

広島の孤児院(養護施設)育ち・・・というのは一種のロイヤルファミリーなのである。

主人公とヒロインが結ばれないように・・・嘘までつく「幼馴染」は侍従長である。

「母親代わりの親友」は「乳母」で・・・「ボディ・ガード」たちである。

監視の目を緩めて・・・ヒロインをローマの街に解き放つが・・・結局は連れ戻すのだ。

主人公は・・・最初は「特ダネ」という「音楽」目当てで・・・ヒロインと行動を共にするが・・・いつしか・・・恋の虜になる。

ここだ・・・ここが少し・・・換骨奪胎できてなかったな。

主人公が・・・明らかに・・・ヒロインに恋をしてしまっている・・・そういう「心」がお茶の間に伝わらなかったのだ。

だから・・・最後は片道なのである。

主人公は・・・王女に声をかけることさえ許されない。

ただ・・・ロイヤルファミリーを遠くから見て・・・立ち去るだけなのだ。

惜しいけど・・・記者会見場から去る新聞記者の寂寥感は・・・あんなもんじゃないからねえ。

ギターは暴力によって迫害されなかったけれど0円扱いされたのは「お遊び」なんだな。

くりかえしになるが・・・過去の女から・・・今の女に・・・広平の心が乗り替わる瞬間をわかりやすく・・・たとえば夢の相手が変わるとか・・・で描けばこの結論には達しなかったのに・・・。

まあ・・・スターにそういう役をさせるのは・・・いろいろと不自由な問題があるにしてもだ。

で、『ラヴソング・最終回(全10話)』(フジテレビ20160613PM9~)脚本・倉光泰子、演出・西谷弘を見た。「愛の歌」とはなんだろうか。「月9」では「恋愛の歌」であるべきだろう。しかし、世界は何故か「恋愛」にそっぽを向いていると・・・誰かが思いこんでいるわけである。だが・・・「恋愛」は今もそこにあるわけだし・・・今日も誰かが誰かを愛しているのは間違いないと思う。「犯罪」がいつの時代も色褪せない魅力を持っているように・・・「恋愛」も不滅なのだ。しかし、このドラマの「愛の歌」は「男と女のすれ違いの歌」であるらしい。主人公にとっては「歌」が「セックス」なのである。二人で「歌」に熱中したので・・・今さら・・・抱いたり抱かれたりするのは面倒なのだ。つまり、「セックス以上の歌」なのである。一方、ヒロインは「歌がなかろうがあろうが抱いてもらいたいの歌」なのである。抱いてくれないなら歌ってあげないぞ・・・という話だ。不毛だなあ・・・こんな愛の歌・・・喜ぶのは変態だけじゃないか。もっと素直に恋愛を信じるべきじゃないか。

せめて・・・友達と恋人の境界線くらい越えようよ・・・。

まあ・・・なんとなく・・・正体不明のどす黒い怒りが作品世界の裏側にあることを感じるんだなあ・・・それは・・・さくらと真美以外の女たちに共通している何かで・・・妄想はどうしてもその一点に収斂していくのだった。そう考えるといろいろと辻褄が合うんだよなあ。

幻想的な湖の畔・・・桟橋のはずれで・・・神代広平(福山雅治)と佐野さくら(藤原さくら)は二人きりの時間を楽しむ。

「わ・・・私・・・い・・・言いたかったのに言えなかったことを言いたい」

さくらは・・・声を失うかもしれない腫瘍切除の手術を控えている。

「聞こうじゃないの」

「あ・・・ありがとう」

「こちらこそ・・・」

「お・・・音楽ができて・・・う・・・うれしかった」

「お互い様さ」

「せ・・・先生は・・・か・・・かっこいい」

「いいね・・・もっと言って」

「・・・」

広平はギターをつま弾く・・・広平はさくらの歌を要求する。

「他にはないの・・・」

「おやすみなさい・・・」

それは・・・さくらが夢見る広平との愛の暮らしの言葉だ。

「おやすみなさい」

「おはよう」

「おはよう」

「ただいま・・・」

「おかえりなさい・・・」

「いってきます・・・」

「いってらっしゃい・・・」

「・・・さようなら・・・」

「それは大袈裟・・・じゃないかな」

さくらの声を失う恐怖に広平はあわてる・・・。

広平に愛されないさくらは・・・心を閉じかけて・・・もう一度、愛を叫ぼうとする。

二人の愛を阻止するために正装した天野空一(菅田将暉)が割り込む。

「二人とも・・・時間ですよ・・・急いで・・・スタンバイして・・・」

湖の畔で行われている中村真美(夏帆)と野村健太(駿河太郎)の結婚披露宴・・・。

空一の司会で・・・祝辞を述べるさくらが紹介される。

「けけけけ・・・・けけけけ」

ギターを抱えた広平は・・・歌で吃音が解消されるさくらのために・・・伴奏を開始する。

しかし・・・さくらはそれを制する。

「けけけ・・・結婚おめでとうございます・・・ままま真美は気が強くて・・・おっかない人で・・・わわわ私にけけけ結婚式のスピーチという・・・ししし試練を与えました」

「おい・・・少しは褒めろ」と真美。

「ででででも・・・ままま真美は・・・世界で一番優しくて・・・ここここんな私や・・・バカな空一をいいいいつも見守ってくれました」

「馬鹿って・・・ひどい」と空一。

参加者たちは和やかな空気に包まれる。

吃音症は別に恥ずかしいことではないというメッセージ。

それは・・・吃音症を矯正するレッスンに励むこととは別に矛盾しないのである。

どもったっていいし・・・どもらなくってもいい・・・という理想の話だからだ。

「おおおおかげで・・・すすす素晴らしいラヴソングができました」

広平は・・・ようやく・・・さくらが歌ってくれることに喜びを覚える。

さくらは歌い出す・・・さくらと広平のすれ違う気持ちの結晶であるラヴソングを・・・。

広平は・・・さくらの歌声を堪能する。

さくらの歌さえ・・・聞くことができれば・・・他には何もいらない広平だった。

しかし・・・それを恋愛とは認めない・・・大自然は・・・雷鳴を響かせる。

たちまち激しい雨が二人を襲うのだった。

「室内に退避してください・・・」

新郎新婦・・・司会者と神父・・・参加者たちはあわてて席を立つ。

広平も歌手をシートで包むのだった。

さくらと広平の・・・重ならない心・・・重ならない体・・・なのである。

さくらは抱いてもらいたいだけなのに・・・広平は・・・歌姫に対して去勢されている身なのである。

宍戸春乃(新山詩織)を失って以来・・・広平は不能なのだ。

それでもいいと言ってくれる女を・・・広平は求めているのである。

しかし・・・そんな女は・・・あまりいないようだ。

自分が「インポのおっさん」であることを隠した広平は・・・さくらの愛を受けとめることができないのである。

そして・・・人生の幸せなひとときは・・・終わる。

手術の前日・・・耳鼻咽喉科の増村泰造医師(田中哲司)は「手術」の内容をさくらに説明し・・・同意書へのサインを求める。

付き添う空一の横で・・・ペンを持つ手が止まるさくら・・・。

声を失うことへの恐怖と・・・広平の歓心が消えることへの絶望が・・・さくらの心を麻痺させてしまう。

なぜ・・・広平は・・・ここにいないのか・・・。

心と心が通い合ったと感じたのは自分の錯覚だったのか・・・。

さくらの苦悩は深まっていく・・・。

それは・・・愛の苦悩なのである。

幼馴染の空一や・・・真美さえも・・・その苦悩の壁を破ることはできないのだった。

さくらは・・・心をシャットアウトした・・・。

駆けつける広平に・・・空一は愚痴る。

「もう・・・今回は・・・無理です・・・さくらは心の準備が・・・」

「今回を逃せば・・・彼女が声を失う確率が高まるだけだ・・・」

広平にとって・・・さくらの「声」がすべてなのである。

さくらの「声」が失われるのは・・・広平にとって「世界」を失うことに等しい。

広平は病室に飛び込む。

そして・・・さくらと広平の思い出の歌を歌い出す。

「500マイル」を・・・。

広平の歌声に反応するさくら・・・。

広平の愛なしでは・・・生きていけないと思うさくら・・・。

さくらの歌なしでは・・・生きていけないと思う広平・・・。

二人の・・・すれ違う心を・・・歌が繋いでいく・・・。

「汽車の窓に映った夢」

「帰りたい心」

「抑えて・・・抑えて・・・抑えて・・・抑えて・・・抑えて・・・」

何かを諦めなければ生きていけないのだと悟る二人だった。

せつなさに涙が止まらないさくらを・・・優しく抱きしめる・・・広平。

思わず・・・広平の股間に顔をうずめるさくら・・・。

しかし・・・広平の男性器はまるで反応しないのだ。

それほどまでに・・・自分は・・・彼にとって女ではないのか。

ついに・・・さくらは・・・新たな境地にたどり着く。

もう・・・笑うしかないな・・・。

さくらは・・・同意書にサインした。

手術は成功した。

結局・・・さくらの「声」が失われることはなかった。

しかし・・・元通りになるためには・・・訓練が必要となる。

だが・・・広平は楽観していた。

「声」さえ残れば・・・さくらの「歌」は自分のものだという根拠のない自信・・・。

だが・・・手術が成功した時から・・・さくらは決意を固めていた。

彼のために「歌う」のは辛すぎる。

彼が「愛」をくれないのなら・・・自分は「歌」をやらないのだと心に決めたのである。

浮かれて・・・退院祝いのパーティーを準備する仲間たち・・・。

しかし・・・退院したさくらは・・・真美と・・・空一に置手紙を残して姿を消すのだった。

空一には「愛に応えられない」という優しい拒絶。

真美には「広平さんを愛しているので・・・顔を見るのが辛い」という本音だった。

自分に残された言葉がないことに苛立つ広平・・・。

「僕について・・・何か・・・言ってませんでしたか」

「あんたが・・・何も言わんのに・・・どうしてあの子だけが・・・言わんとならんの」

卑怯な広平に頭突きをぶちかます真美である。

気が遠くなりながら・・・広平はつぶやく・・・。

「だって・・・しょうがないじゃないか・・・俺は・・・イ」

さくらが姿を消して・・・言語聴覚士・宍戸夏希(水野美紀)は上機嫌だった。

「結局・・・広平は・・・さくらちゃんのこと・・・恋してたんでしょう」

「・・・恋か・・・」

とにかく・・・広平が誰のものにもならなければ・・・夏希は満足なのである。

たとえ・・・自分のものにならなくても・・・憧れのスターには独身でいてもらいたいのだ。

広平がさくらに夢中だとしても・・・さくらが消息不明なら問題はない。

真美は・・・広平を呼び出した。

「さくらに会ってきました・・・」

「彼女は・・・歌っていましたか」

「どこにいるかとは・・・聞かないのね」

「・・・」

「あなたに伝言があります」

「・・・」

「音楽を続けてくださいって・・・」

「それだけですか」

「それだけです」

もちろん・・・さくらは・・・広平に追いかけてきてもらいたいのである。

みつけてもらうために・・・かくれたのだ。

しかし・・・広平は追いかけない・・・探そうともしない・・・性的不能者だからである。

さくらの性的欲求に応えることはできないのだ・・・。

二年の月日が流れた・・・。

世界的な歌姫・CHERYL(Leola)に楽曲を提供し・・・音楽プロデューサーとしてそれなりの地位を築いた広平・・・。

「月とオートバイ/CHERYL」は大ヒットしたらしい。

「これって・・・結局・・・さくらへのラヴソングでしょう」

歌姫は精神感応力に優れていた。

「あの子の歌・・・今でも五十位くらいにチャート・インしてるわよ・・・二年前の曲なのに凄いロング・ヒットよね」

「・・・」

「あの・・・好きさ好きさ好きさって歌・・・」

「好きよ 好きよ 好きよ・・・です」

「私がカバーしてもいいわよ」

「・・・」

CHERYLのマネージャーが言う。

「そうなると・・・佐野さくらの承諾が要りますよね・・・一応、作詞者だから」

「しかし・・・居場所がわかりません」

「そういうことは・・・こちらで調べますよ」

「もし・・・居場所がわかったら・・・交渉は私にさせてください」

「まあ・・・ストーカーみたいね・・・」

ストーカーではない・・・ただインポなのである。

しかし・・・さくらの歌は聞きたくて聞きたくてたまらない広平だった。

もし・・・さくらに逢えたら・・・愛を打ち明けようと思う広平だった。

「君を愛してる・・・だけど・・・性的不能なんだ」

彼女は呆れるかもしれないが・・・笑って許してくれるかもしれない・・・。

「最近では性的機能障害とか・・・ED(勃起不全)と言うのではなくて」

「言い変えたって実態は同じだ・・・今に始ったことじゃない」

「あんたたち誰だ」

海辺の都市で・・・整備員をしているという情報によって・・・さくらの職場を訪れる広平。

しかし・・・さくらは休暇中だった。

失意の広平は・・・さくらのオートバイとすれ違う。

思わず・・・追いかける広平・・・。

しかし・・・潮風に乗ってさくらの歌声が広平の耳に届く。

恍惚となる広平。

港の広場で・・・さくらはライブを行っていた。

思わず駆け寄ろうとする広平は・・・広島県民が忌み嫌う広島風お好み焼きの屋台を出している空一に気がつく・・・。

事務員の渡辺涼子(山口紗弥加)にキャベツの千切り競争で負けた空一は放浪の果てにさくらと邂逅したらしい。

(馬鹿な男だが・・・性的不能者である自分より・・・さくらに相応しい男だ)

もはや・・・広平には・・・さくらに声をかける勇気は残っていなかった。

広平はレコード会社に連絡する。

「カバーの件はなしだな・・・だって・・・彼女・・・今も歌ってるから・・・」

広平に気がつけば・・・さくらは声をかけたのかもしれない。

広平に気がついたのに・・・彼女は声をかけなかったのかもしれない。

何もかもお茶の間の想像におまかせしますという・・・孤児たちの王宮に背を向けて・・・広平は歩きだす・・・。

仕方なくお茶の間はあらぬことを妄想するしかないのである。

とにかく広平はどこかへ歩いて行く・・・世界で一番愛おしい歌を聞きながら・・・。

世界からは誰かが汚いと感じる言葉が静かに削られていく。

悪い女を罵る「ビッチ」・・・悪い男を罵る「ファック」・・・そして女にとって悪い男を罵る「このインポ野郎」・・・どれも美しい言葉だとうっとりする悪魔を除いて・・・その言葉を惜しむ人はそれほど多くないのだろう。

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2016年6月13日 (月)

初陣の夜にも落城の朝にも惜しむ命などない覚悟(堺雅人)

久しぶりの高梨内記の娘・きり(長澤まさみ)の未登場回である。

虚構性の高い真田十勇士的発想では真田幸村(信繫)には猿飛佐助と霧隠才蔵がつきものであり・・・佐助が忍者として登場している以上・・・きりはくのいちなのであろう。

ドジッ娘に見えるが・・・これはもちろん擬態である。

高梨内記は真田信綱の正室・高梨政頼の娘・於北に連なる家柄である。

きりの母が真田家の出自を持つことは濃厚であろう。

もしかしたら、昌幸の娘であるくのいち・初音(長澤まさみ)なのかもしれない。

少なくとも・・・妄想大河の上では瓜二つだしな。

で、『真田丸・第23回』(NHK総合20160612PM8~)脚本・三谷幸喜、演出・田中正を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は北条氏政の軍師・板部岡江雪斎のイラスト描き下ろし大公開でお得でございます。江雪斎の実家の田中家は北条時行の子孫を称するので・・・内心「俺が北条本家だ」と思っているといつも妄想してしまいます。氏政の子の一人・太田氏房の家老でもあった江雪斎は・・・後北条氏の始祖・北条早雲と太田道灌の故事についても想像していたでしょう・・・。最近の研究では早雲こと伊勢宗瑞は道灌より二十歳ほど若かったという説もありますが・・・太田氏房の正室の父である①太田氏資、その父が②太田資正、その父が③太田資頼、その父が④太田資家で、その父が⑤道灌の弟(資忠あるいは資常)となっていて・・・①北条氏政②北条氏康③北条氏綱④北条早雲と・・・一代不足するのでちょうどいいわけですな。俗説では・・・太田道灌暗殺の黒幕である北条早雲。・・・太田道灌暗殺は文明十八年(1486年)、翌年の長享元年(1487年)に早雲は・・・太田道灌がバックアップしていた駿河館を襲撃して今川家当主としての道を今川氏親に用意するわけです。ちなみにこの年、北条氏綱が誕生しています。太田道灌が刺客に襲撃されるのは風呂上りです・・・。黒幕だったかどうかは別にしても有名人である太田道灌の死にざまは早雲の心に深く焼きついたことでしょう。臨戦体制の御北条氏の裏の家訓には「戦時においては風呂に入るべからず」とあったのかもしれませんな。だから・・・氏政は「家訓に従っているだけじゃ・・・けして臆病なわけではない」と言いたかったのかもしれません。

Sanada023天正十八年(1590年)三月、関白豊臣秀吉は沼津より進撃を開始。松田康長の山中城を豊臣秀次二万、徳川家康三万、池田輝政、堀秀政など二万あわせて七万の大軍で包囲。数日で周辺の鷹之巣城、足柄城などの支城を含めて落城させる。北条氏規の韮山城では織田信雄の二万が攻城に失敗、蒲生氏郷、細川忠興、蜂須賀家政などによる包囲戦となる。北条水軍の根拠地である下田城は長宗我部元親、九鬼嘉隆などが急襲し、撃破する。四月、小田原城を関白軍が完全に包囲する。前田利家、上杉景勝、真田昌幸の北方勢により、大道寺政繁の松井田城は開城。降伏した政繁の勧告により、厩橋城、箕輪城が降伏。徳川勢の一部は武蔵国に侵入し、玉縄城、江戸城を落城させる。五月、浅野長政は下総国に侵入も小金城、臼井城、本佐倉城を落城させる。本多忠勝は河越城、岩付城を陥落させる。伊達政宗小田原に着陣。小田原城に降伏勧告が開始される。堀秀政陣没。六月、合流した北方勢と小田原別動隊の前田利家、浅野長政は鉢形城を攻略。上杉景勝と真田昌幸は八王子城を殲滅。鉢形城、韮山城が開城される。七月、石田三成、直江兼続、真田信繁の忍城攻略は難航中。

真田昌幸が婢に産ませた源太郎幸村は嫡男・信幸の影武者である。

信幸は岳父である本多忠勝に従い、徳川勢に加わっているが、幸村は昌幸と共に真田勢にあった。

上杉の軒猿(忍者)である直江兼続はそのことを知っていたが・・・主君である上杉景勝は「真田のものたちはまるであやかしのようだ」と薄気味悪い心情を率直に口に出す。

「殿は・・・忍城攻めに参加してはなりませぬ・・・」と兼続は告げる。

「何故じゃ・・・城主不在の小城ではないか」

「真田が沼田の城主になって以来・・・たかが小城と侮って・・・北条勢は何度も憂き目にあっておりまする」

「それは・・・真田の忍びどもの手強きゆえであろう」

「忍城も同じでございます」

「ほう・・・」

「あそこは・・・風魔の巣窟なのでございますよ」

「北条の忍びどもか・・・」

「関白のお気に入りである石田三成が手柄欲しさにやってまいりますが・・・支援は私におまかせくだされ・・・」

「ふむ・・・うかつに手を出せば火傷するということか・・・」

「なんとか・・・石田三成の命だけは守っておくつもりでございます」

「真田はどうするかの・・・」

「おそらく・・・次男の信繫を出してくるでしょう」

「つまり・・・城攻め失敗の汚名を逃れるため・・・ということか」

「御意」

こうして・・・小田原城包囲網の分派隊として石田三成を中心に組織された関白勢一万人に直江兼続率いる上杉勢千人、真田信繁率いる真田忍者千人・・・合わせて一万二千人が忍城に向かった。

対する忍城を守備する人数は女子供を含めて三千人だが・・・全員が忍びである。

忍城とは文字通り・・・忍びの里なのである。

北条忍びを統括する明智遠山氏の手配で・・・風魔一族や、魔咲一族、甲神一族など・・・関東の主だった忍びの宗家が・・・忍城周辺に置かれている。

城主・成田氏長の娘・甲斐姫はくのいちとして超一流の素質ありと忍者の世界では評判なのである。

そこに・・・石田三成は・・・まんまと乗り込んだのだった。

「見よ・・・城構えと言うほどのものもない・・・本丸まで一気に攻め込もう」

「まずは・・・おまかせいたしまする」と兼続は応じる。

「真田殿は何か・・・意見がおありか・・・」

「石田様のお指図に従いまする」

石田三成の主力は正面から攻め込む。

突然、隠し堀(落とし穴)が出現した。

「なんじゃと・・・」

巨大な落とし穴は石田軍の主力をすべて飲み込んだのだ。

その穴の中に・・・燃える水が革袋で仕掛けられている。

落とし穴に落ちて我を失った石田軍に火矢が降り注ぐのだった。

「火攻めじゃ」

「あああああああ」

たちまち・・・業火が巻き起こり・・・地獄絵図が展開する。

信繫は佐助に命じた。

「石田様をお助けしろ・・・」

「それは・・・上杉の軒猿勢がする手筈になっております」

「そうか・・・では・・・こちらも脱出しよう」

真田勢は落とし穴の手前で軍を止めていた。

最初の突撃で・・・石田勢は半数の五千人を焼死させてしまったのである。

櫓の上で甲斐姫が燃えあがる石田兵を見ながら舌舐めずりをする。

「肉の焼ける良い匂いがしてくるのう」

「御意」

風魔小太郎は畏まった。

「攻め方には・・・上杉の軒猿や・・・真田の忍びがいると聞くが・・・他愛もないの」

「いえいえ・・・忍びの戦はこれからでございまする・・・次は石田が自慢の犬神衆が夜襲を仕掛けてまいりましょう」

「ほう・・・」

「しかし・・・こちらには・・・犬饅(犬用の毒殺具)が大量に備えてありますぞ・・・」

「ふふふ・・・犬を殺すのは少し・・・かわいそうね」

「戦に情けは禁物ですぞ・・・姫」

「・・・」

甲斐姫は年齢不詳の老忍者にあどけない微笑みを向けた。

その瞳が一瞬、黄金色に輝く。

その恐ろしいほどの色香に・・・風魔小太郎は戦慄を覚えるのだった。

(この姫・・・邪眼を使うのか・・・)

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天地人の小田原征伐

軍師官兵衛の小田原征伐

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2016年6月12日 (日)

青空の下で僕は愛を見つけた(福士蒼汰)ご愁傷様デス(土屋太鳳)残念デス(門脇麦)

死後の世界は幻想である。

しかし・・・すべてのフィクションは幻想であり・・・そういう意味では死後の世界を描く物語は・・・ベーシックなものなのである。

そういうものにベテラン作家が挑む時に・・・期待は高まる。

そして・・・期待しすぎればガッカリするのだ。

もちろん・・・今回・・・実らなかった初恋を心残りとする幽霊と・・・生きている二人の男女のせつない心模様はそれなりに哀愁があった・・・。

まあ・・・細部に拘らず・・・見て見ぬフリができれば・・・である。

脚本家は・・・君塚良一→尾崎将也→金子茂樹といった一つの流れに位置づけられる人であると思う。

いや・・・キッドが勝手にカテゴライズしているだけです。

なんとなく・・・洋画を研究して・・・そのエッセンスを巧に活かしているタイプじゃないかと思うわけである。

あくまで・・・キッドの妄想なので念のため。

そういうことを勝手に決め付けていいのか・・・という迷いもあるが・・・これだけ妄想だと言っておけばまともには受けとめないでもらえると信じたい。

脚本家は「結婚できない男」という傑作を書いているので・・・問題点は充分に承知していると思う。

たとえば・・・四十九日という発想は・・・かなり仏教的である。

一方で・・・死神の上司は・・・キリスト教的な天使や神のイメージがある。

いわば和洋折衷で・・・宗教色のない慰霊・・・といった怪しい概念を感じさせる。

霊があるということ自体が非常に宗教的であることを失念した馬鹿な発想なのは言うまでもない。

とにかく・・・そういう曖昧な死後の世界で・・・準拠しているイメージは映画「ゴースト/ニューヨークの幻」(1990年)なのではないかと思う。

幽霊と幽霊の愛していた生者を霊媒師がつなぐ・・・この基本は全編にあふれているわけである。

そして・・・それに準じて死後の世界の細部がそれなりに描かれるわけである。

素直に昇天する霊もあれば・・・この世に未練があるために彷徨う霊もあるわけだ。

そして・・・昇天を強制する組織と・・・話し合いで解決する組織があるわけだ。

さらに・・・昇天しないと・・・死後の死が待っているわけだ。

死神たちに協力する霊能力者たちは・・・いわば・・・そういう対立に巻き込まれるわけだ。

結構・・・混み入った設定である。

そういう設定の説明の仕方が・・・少し・・・不足しているなあと思うわけである。

なぜ・・・そうなるのか・・・それは・・・死後の世界をなめているからなんじゃないのかなあ・・・と思うのである。

「ゴースト/ニューヨークの幻」には説明不要の部分がある。

そこには・・・キリスト教という伝統を背景に・・・なんとなく・・・共有している死後の世界があるからである。

それがない世界では・・・「死後の世界」を描くための工夫がもう少し求められる気がする。

たとえば・・・このドラマの裏のヒロインとも言える「彼女」の「四十九日」はもう少し最初から明らかにするべきだっただろう。

6/11がその日なら・・・命日は4/23に決まっているわけである。

主人公や表のヒロインが・・・その日が迫ってくるのを「意識」するだけで・・・物語は明瞭になっていく。

なぜ・・・そうしなかったのか・・・不思議なんだなあ・・・。

で、『お迎えデス。・第8回』(日本テレビ20160611PM9~)原作・田中メカ、脚本・尾崎将也、演出・小室直子を見た。前回、白銀の糸(肉体と霊体をつなぐアンビリカルケーブル)の存在が強調された。今回、特に説明はないが・・・白銀の糸は幽体離脱中の本人以外にも・・・霊能力者には見えるはずだ・・・と考えると・・・おかしな事態が生じるわけである。幽体離脱した阿熊幸(土屋太鳳)は・・・肉体に千里(門脇麦)を憑依させている間・・・・白銀の糸をぶら下げているわけである。霊能力者である堤円(福士蒼汰)がそれを見ないでいるのは・・・おかしくないのか・・・ということだ。そして・・・円の性格から・・・そういうものを見て見ぬフリはできないはずである。

・・・ということは・・・最初から・・・阿熊幸の中に・・・誰かがいることを円は知っていたわけだ。

そういう話にするか・・・死神のゆずこ(濱田ここね)が特別な力を使って・・・白銀の糸を隠すとか・・・そういうワンポイントが必要だった。

そういうところで・・・お茶の間が躓かないようにするのが脚本というものだと考えます。

ついでに演出についても一言言うと・・・幽体離脱中の幸が・・・着衣であることは・・・まあ・・・大人の事情で察するにしても・・・急に透けて見えたりするのは・・・どうなんだろう。今まで・・・幽霊と人間の差別化をしてこなかったくせに・・・と躓いたことを述べておく。

ナベシマ(鈴木亮平)とゆずこは・・・幸と幽霊の千里の前に姿を見せる。

「まさか・・・君が匿っていたとはね・・・」

「ごめんなさい・・・」

「私・・・昇天します」

「そうか・・・じゃあ・・・逝こうか」

「待って・・・」と幸は呼びとめずにはいられない。

「何故・・・引きとめるのかな」とナベシマ。

「千里ちゃんは・・・まだ・・・告白していないんです」

「告白?」

「千里ちゃんは・・・円くんが・・・好きなの」

「え・・・円を・・・まさか・・・あんなの・・・どこがいいの・・・」

「・・・」

「なるほど・・・好きな人と・・・思い出作りがしたいのね・・・わかるわ」とゆずこ。

「えええええ」と驚愕するナベシマだった。

しかし・・・男一人に女三人である。

「タイムリミットは・・・」

「六月十二日です」

「まだ一週間あるわね・・・がんばりましょう・・・」

「えええええ」・・・押し切られるナベシマだった。

女たちは生死を問わず・・・そういうものだ的展開なのだ。

「一体・・・いつから・・・千里さんを匿っていたの」とゆずこは幸に問う。

「あれは・・・四月の寒い夜・・・」

四十九日を過ぎれば・・・幽霊は人間的本質を見失い、怨霊化するのが標準とされる世界である。

もちろん・・・そこには個人差があり・・・偏執や妄執によって早くから疑似怨霊化する個体もあるらしい。

幸が説得していた幽霊が兇悪な怨霊と化し・・・死神一課のボランティア・魔百合(比留川游)によって霊的処刑対象とされ・・・霊的に解体された夜・・・。

自分自身の無力感に打ちのめされていた幸は・・・街を彷徨う・・・死後まもない千里と出会う。

「あなた・・・幽霊なの?」

「あなたには・・・私が見えるのですか・・・」

「私・・・昇天のお手伝いをするボランティアをしていて・・・」

「私・・・昇天されるように説得されたんだけど・・・」

死神二課の死神の手から逃げ出してきた千里だった。

千里が消息不明になったのは・・・どこかで誰かが不手際を隠蔽しようとしたからなのだろう。

お役所仕事にはありがちなことである。

千里にも家族があるはずだが・・・そのことに・・・彼女は触れない。

幸も・・・家庭的には満たされない日々を過ごしてきた。

幸は・・・千里をさびしい家に連れ帰った。

高校時代の同級生だった千里の通夜に出席した円は突然、「幽霊が見える上に憑依させることもできる」という霊能力に目覚める。

霊能力と精神障害の境界線は曖昧なものだ。

「幽霊が見える」と言えば心の病を疑われる世界である。

身近なものの死は・・・精神的なダメージを生じさせることがあり・・・千里の「死」は円が霊能力者(発狂者)となるイグニッション・システム(点火装置)の一部となったのだろう。

円の特異な性格を発達障害と位置付けるのは簡単だが・・・本当の父親との離別と母親の再婚という「家庭の事情」が「他者への感情移入の乏しさ」や「恋愛感情に対する嫌悪」を生みだしていることは明らかである。

義父への潜在的な否認意識は・・・父親の趣味への無関心として表現されている。

基本的に人間が霊を見ないのは・・・防衛的な反応である。

つまり・・・霊的世界を不可視にすることで生きやすい状況を作り出している。

普通の人間は・・・常時・・・霊的サングラス着用なのである。

千里の死によって・・・壊れやすかった円の精神が破損し・・・円はサングラスを失い・・・さらには憑依体質という霊的に無防備な状態になったわけだ。

やがて・・・円は幸と出会い・・・死神二課のアルバイトと言う名の奉仕活動に巻き込まれる。

父親について無関心であろうとする精神によって封鎖されていた円の知的好奇心は「死後の世界」によって解放され・・・円の遅延していた精神的成熟が始る。

一方・・・千里は幽霊として円に接するうちに・・・円の「家庭の事情」を知り・・・千里の「初恋」が成就しなかったのが・・・円による恋愛感情の拒絶ではなく・・・単に円が「発達障害者」であったことを認知させる。

そして・・・円にとって自分が・・・掛け替えのない存在であったことを知るのである。

なにしろ・・・千里の喪失によって・・・円は精神的に破綻してしまったのだ。

娘への溺愛によって怨霊化しかけた父親、幼すぎて恋の実体を知らぬ少年、禁断の愛によって怨霊と化した女教師、恋愛弱者として変態となった男、血縁ではない子供に愛情を示そうとする大人、初恋を胸に秘めながら普通の生涯を全うした老女・・・様々な「死後の愛の形」を学んだ二人は・・・「生」と「死」に分かたれなれれば・・・「良いパートナー」となれたムードさえ醸しだしている。

しかし・・・千里はすでに「死者」なのである。

死神のゆずこと霊能者の円は・・・幽霊の千里に最期の思い出をプレゼントしようと考える。

もちろん・・・ロマンチックだからだ。

千里は・・・別れを告げるために・・・円の部屋を訪れる。

「幸さんが退院したので・・・幸さんの処に戻ろうと思います」

「え」

「男子の部屋に居候していると・・・いろいろアレでしょう」

「うん・・・」

つまり・・・部屋で自慰行為ができない件である。

「ゆとり」を除き、今季の日本テレビのドラマは・・・「老若男女が一緒に楽しめる」ディズニー・テイストに仕上がっています。

「家族の皆さんともお別れしたいな・・・」

「・・・」

もちろん・・・千里の存在を円以外の誰も知らない。

しかし・・・千里の中では将来、義理の家族になったかもしれない人々なのである。

血縁のない由美子(石野真子)とさやか(大友花恋)の母娘は仲良くキッチンで料理をしていた。

「私も・・・手伝いたかったなあ・・・」

千里の叶わぬ夢に・・・言葉を失う円。

憑依によって・・・千里と一体化した円には・・・千里の心情が理解できるのだ。

幸との疑似恋愛感情によって・・・「女心」についても少し解って来た円なのである。

親友のような千里が・・・なぜ・・・自分と絶交したのかも・・・今の円には推定できる。

円は・・・千里の「ロマンチックな期待」を裏切ったのだった。

だが・・・それに気がついても・・・今さら・・・どうすることもできないと考える円なのだ。

「君が・・・逝く時は・・・必ず見送るから」

「ありがとう」

しかし・・・千里は母娘の会話に耳を傾けていた。

「今週の日曜日・・・東仙祭だから・・・浴衣出してえ」

「まあ・・・もう・・・そんな時期なの」

星が丘町にある東仙神社のお祭りである。

その日は縁日の屋台が立つのだ。

「草原で風に吹かれるなんて素敵じゃない・・・」

「いや・・・やはり誰もいない海でしょう」

幸とゆずこはロマンチックな話題に熱中していた。

円の家から戻った千里は希望を口にする。

「私・・・お祭りの縁日でデートがしたいの・・・」

「それもなかなかに定番よね~」

「そこで提案があるの・・・」

幽霊は生者と接触できないが・・・幸が幽体離脱した肉体に・・・千里が憑依すれば・・・疑似接触が可能だという円の提案である。

「でも・・・そのためには・・・幸ちゃんが円くんをデートに誘わないと・・・」とゆずこ。

「なんで・・・」

「だって・・・千里さんが事情を話したら誘った時点で告白したことになっちゃうでしょう・・・」

「でも・・・それじゃあ・・・私が円に告白したことに・・・」と幸・・・。

「だから・・・デートの途中で千里が正体を明かして・・・気持ちを告げるのよ・・・ああ、ロマンチック・・・」

いろいろと矛盾が生じる展開だが・・・ゆずこのおばさんロマンチックに押し切られる千里と幸だった。

幽体離脱の危険性を統計的に把握しているナベシマは危惧するが・・・女たちのロマンチックには抵抗できないと悟っているのだった。

一方、死神一課のシノザキ(野間口徹)は・・・ナベシマの言動に不信感を覚え・・・部下のマツモト(根岸拓哉)を通じて魔百合に死神二課アルバイトの動向チェックを命じる。

実は・・・「家庭の事情」によって円とは別の意味で「恋愛感情」が苦手な幸である。

デートの誘いも喧嘩腰なのである。

大学のロケット研究会では・・・千里の昇天リミットである六月十二日の前日に行われる「全国学生ロケット大会」に参加するために・・・円と加藤孝志(森永悠希)がロケット製作に熱中していた。

円には期するところがあった。

円がロケットに熱中していたのは・・・千里がいたからで・・・千里と絶交してからは・・・何故か熱意を失っていたのだ。

今の円には・・・解っていた・・・円もまた千里を大切に思っていたのだ。

千里と一緒にずっとロケットを飛ばしたかったのである。

だから・・・千里が昇天する時に・・・ロケットを打ち上げたいと思っているのである。

そこへ・・・幸がやってくる。

「今度の日曜日・・・神社の縁日に案内してくれる」

「検索すれば場所はすぐわかる」

「あなたにお願いしているのよ」

「その日は・・・ロケットの点火装置が届く予定なんだ・・・」

「そんな・・・飛ぶかどうかわからないロケットなんてどうでもいいじゃない」

千里のためにデートに誘いたい幸。

千里のためにロケットを飛ばしたい円。

交渉決裂である。

「ロケットのことを悪く言う人とお祭りなんかに行きたくないね」

「ああ・・・そうですか」

加藤は・・・愕然とするのだった。

「お前・・・今、何したのか・・・わかってるのか」

「?」

「デートの誘い断ったんだよ」

「なぜ・・・彼女が俺をデートに誘う・・・」

「お前ら・・・いい感じじゃないのか・・・」

幸は千里に謝罪した。

「ごめん・・・やっちゃった・・・」

「いいのよ・・・彼がロケット作りに熱中しているのを見ているのは楽しいし」

「そうなの・・・」

円に憑依した千里もまた・・・円の心から少し情報を盗んでいた。

その中には・・・千里にしたことへの後悔もあったし・・・円への好意の萌芽もあったのだ。

千里の中で・・・少女としての恋心と死者としての諦念が揺らめいている。

「私・・・もう一つやりたいことがあるの・・・」

「何?」

円と加藤のロケット製作は難航する。

「だめだな・・・」

「どうした・・・ロシアがなんかしでかしたか」

「いや」

「じゃ・・・女がなんかしでかしたのか」

「点火装置が不調だな・・・」

「新しいイグニッションプラグを発注しよう・・・」

「もう予算が・・・」

「貯金を全額下ろす・・・」

「ひえっ」

しかし・・・届いたスパーク式の点火装置は不良品だった。

「もう・・・だめじゃないか」

苦悩する円だった。

日曜日・・・幽体離脱した幸の肉体に憑依した千里は堤家にやってくる。

白銀の糸を伸ばして同行する幸である。

幸/千里は食材を購入してやってきたのだった。

「母の実家から・・・送られてきたので・・・おすそわけを・・・」

「あら・・・まあ・・・ちょうどお祭りの御馳走を作っていたのよ」

「そうですか」

「一緒にどう」

「手伝わせてもらえますか」

「大歓迎よ」

坂間家のキッチンで料理を作るのが・・・千里の最期の願いだった。

「あら・・・あなた手際がいいわね」

「料理は好きだったんです」

「そうなの・・・いい奥さんになれるわよ」

「えへへ」

「あなたが・・・円のガールフレンドじゃないと知ってガッカリしたけど・・・将来のことはまだわからないわよね・・・だって二人ともまだ大学生なんだし・・・」

「幸さんがお姉さんになってくれたらうれしいのに・・・」

女っ気のない円を想う母心、妹心全開なのである。

にぎやかなキッチンに誘われる円と義父の郁夫(大杉漣)だった。

「美味しそうだな」と郁夫。

「お母さん・・・そろそろ・・・浴衣に着替えたい」とさやかがおねだり・・・。

「そうだ・・・幸さんも私の浴衣に着替えたら・・・」と気を利かす由美子だった。

「そうしなさい」と郁夫も鼻の下を伸ばす。

浴衣に着替えた千里はふと・・・われに帰る・・・姿見に映る姿は・・・幸だった。

「せっかくだ・・・神社に連れてってあげろ」と郁夫。

「ロケットに注ぎ込んだので一文なしです」

「しょうがないなあ・・・」と臨時にお小遣いを奮発する郁夫だった。

こうして・・・千里の願いは成就したのだった。

背後に白銀の糸で繋がった幸の幽体を従えて・・・神社のお祭りデートを堪能する円と幸/千里のカップル。

もちろん・・・すでに円には・・・すべてのトリックが解っていた。

「ロケットの調子はどう?」

「うん・・・ちょっと問題があってね」

「この神社であることをすると願いが叶うらしいよ」

「へえ」

「まあ・・・円くんはそんなの信じないと思うけど・・・手を繋いで御神木の周囲を回ると・・・」

「昔・・・千里くんが言っていた・・・フラシーボ効果のこと・・・」

「え・・・」

「信じるものは救われるんだろう」

「・・・」

「ちょっと・・・検索してみる」

その結果・・・「御神木の下で接吻」であることが判明する・・・。

「え・・・それはちょっと」と慌てる幸・・・。

しかし・・・千里は一瞬その気になる。

誘われて・・・ファースト・キスに挑む円。

しかし・・・最期の最後で・・・幸を思いやる千里だった。

「ごめん・・・やはり無理・・・」

突き飛ばされて尻もちをついた円はスパークするのだった。

「ちょっと待って・・・閃いたことがある」

「え・・・」

円は走り去るのだった。

「どうしたの・・・」と幸。

「私・・・キスできるのなら・・・いいかとも思ったんだけど・・・結局、円くんがキスするのは・・・私じゃなくて・・・幸さんなんだな・・・と思って・・・」

「・・・」

「私・・・死んでから・・・こんなに色々なことを体験できて・・・幸せだったよ」

「・・・」

「でも・・・幸せに終わりはないからね」

「・・・」

「そして・・・私はすでに死んでいる」

「・・・」

円のロケット魂に火がついていた。

「おい・・・どうした」

「電子着火でなくて・・・火薬式を試してみる」

「え・・・スパークでなくて爆発だよ」

火薬を用いたイグニション・システム・・・。

燃焼実験は成功した。

「やった・・・」

「やったな・・・」

「あ・・・」

神社に残してきた千里/幸を思い出す円だった。

日暮れの神社に佇む幸。

そこに円が戻ってくる。

「お待たせ・・・」

「待たせすぎじゃ」

「君は・・・幸ちゃん・・・それとも千里・・・」

「え」

そこへ・・・シノザキが現れた!

「見つけたぞ・・・まさか・・・憑依させていたとは・・・」

「残念でした・・・千里は・・・ナベシマさんの処へ行きました」

「え・・・」

「なに!」

「千里は・・・」

「最期に・・・円くんと・・・ロケットを飛ばした場所が見たいって・・・」

円は走り出す。

見送る幸は何故か・・・泣けてくるのだった。

千里の魂の残り香が幸の涙腺を刺激するのだ。

円は思い出の河原にやってきた。

「千里くん・・・僕は・・・君のためにロケットを・・・」

「もう・・・いいのよ・・・来てくれてありがとう・・・最期に言いたかったことが言えるよ」

「・・・」

「円くん・・・好きでした・・・大好きでした・・・死んじゃったけど・・・今はもっと好きです」

「千里くん・・・僕は・・・もっと君とロケットを・・・」

「さようなら」

「千里・・・」

ナベシマは・・・千里をサイドカーに乗せた。

飛翔し・・・虚空へ消える・・・千里の魂。

夕闇せまる空に残された青空を・・・円はいつまでも見つめていた。

円は「哀しい気持ち」を手に入れた!

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2016年6月11日 (土)

ぼったくりですがなにか(柳楽優弥)連名ですがなにか(岡田将生)純潔ですがなにか(松坂桃李)つまみ食いですがなにか(安藤サクラ)不法滞在ですがなにか(瑛蓮)くのいちですがなにか(吉岡里帆)母子同伴ですがなにか(石橋けい)卒業ですがなにか(島崎遥香)

普通の人々であれば通りすぎる喪失、三角関係、不倫、ダブル不倫、妊娠、出産、青春・・・そのすべてを体験しなくても・・・人間は生きていける。

しかし・・・年下の大学生と交際中に社会人を好きになったり、就職活動の合間にヤクザを更生させたり、同僚と交際し破局した後で上司と不倫してから元カレにプロポーズされたり、異国でパスポートが失効している間に乳呑児を育てたり、息子の担任教師に発情したりなんていうことは日常茶飯事なのである。

もちろん・・・何事もなく無難に生きてきた人々には・・・そんなのありなのかよ・・・とまぶしいのかもしれない。

「ブスとやりまくっていたのに結婚するのは美人とか・・・お前すげえな」

昔・・・尊敬する先輩に言われてくすぐったい気持になったのを今も覚えている。

いいじゃないか・・・楽しいことをするのも人間・・・慎重に控えるのも人間。

それぞれの人生を必死に生きて行くのだ。

そういうドラマがあれば・・・他のものはみんな・・・色褪せるけどね。

で、『ゆとりですがなにか・第8回』(日本テレビ201606052230~)脚本・宮藤官九郎、演出・相沢淳を見た。アニメ「坂本くん」では高校生の母親の小太りのおばさんが・・・スーパー・スタイリッシュな息子の同級生に発情する。その無様さに比べれば小学生の息子の担任教師にうっとりとする母親は荘厳と言ってもいい美しさである。童貞をこじらせて友人の恋人、教え子の母親、指導担当の女子大生と据え膳並べられても腰が引けてしまう臆病ものの小心ぶりもなんだかいじらしい。人間が生きているだけでこんなにも儚く馬鹿馬鹿しい存在であることを面白おかしく語りかける・・・これが天才の為せる業なんだなあ。

「みんみんホールディングス」の杉並・世田谷地区統括責任者(エリアマネージャー)の宮下茜(安藤サクラ)が上司で妻帯者の早川(手塚とおる)とラブホテルにしけこんでいるころ・・・居酒屋「鳥の民・高円寺店」の出向店長である坂間正和(岡田将生)は家族会議を招集していた。

草木も眠る丑三つ時の坂間酒造のお茶の間・・・。

未亡人の和代(中田喜子)・・・。

妊娠活動中の長男・宗貴(高橋洋)と嫁のみどり(青木さやか)・・・。

就職が決まって道上まりぶ(柳楽優弥)と別れた妹のゆとり(島崎遥香)・・・。

全員、眠い・・・のだった。

「俺は・・・会社やめて・・・兄貴を手伝おうと思う」

「そんな・・・せっかく出世したのにもったいない」と和代。

「実は・・・俺は・・・酒蔵やめて・・・北海道で農業がしたい」

「なんですって・・・」と和代。

説明しよう・・・和代は長男を溺愛しているので・・・長男が家を出ることは生理的に受けつけないのである。

「環境が変わるのは妊娠のためにもいいとお医者様が・・・」

「私がいつ・・・孫が欲しいって・・・いいましたか」

「私が欲しいんです」

「ああ・・・そうですか・・・そんなに軽い気持ちなら・・・坂間酒造は私の代で終わりにします」

説明しよう・・・長男を手放したくない一心で無茶苦茶を言い出す和代なのだ。そもそも・・・坂間酒造は亡くなった先代が懸命に維持してきたのであり、和代の代とかそういうものはない。

「お義母さん・・・とにかく帳簿を見てください・・・宗貴さんがいかに経営者に向いてないか・・・わかりますから」

夫の生前も死後も経営にはあまりタッチしてこなかった姑に嫌味な感じでアタックする嫁なのである。

どんなに穏便に見えても所詮、嫁姑なのだ・・・。

「きいいいいいいい」

仏間に退避する未亡人だった。

「お義母さん、お義母さん」と追い討ちをかける嫁・・・。

「私・・・もう寝る・・・明日早いから」

末っ子は「小姑」としては未成熟なのである。

取り残される正和だった。

その頃・・・宮下茜と早川は一戦おえてシャワータイムである。

やってしまった後の軽い後悔を伴う嫌悪感に動揺した早川に・・・正和は折り返し送信をするのだった。

もちろん・・・早川は応答せずに・・・毒を食らわば皿までで・・・二戦目に突入する。

なにしろ・・・そこにはうっとりするほどの「不倫ゾーン」が広がっているのである。

しかも・・・相手はもうすぐ仙台に転勤する後腐れのない部下なのだ。

やれる時にやっておくのは哀しい男の性なのだ。

ゆとりは・・・正和に兄妹トークをもちかける。

「私・・・彼とわかれちゃった」

「・・・」

「現実逃避していた自分が子供っぽくて・・・ダサかったなあと思ったら・・・そんな自分が好きだった彼までダサく思えてきて・・・」

「・・・」

「彼のせいじゃない・・・彼はただ普通の人だったのに・・・」

「普通じゃないけどな」

「なんか・・・言った?」

「いや・・・なにも」

翌朝・・・ラブホテルで打合せ、練習してきた「いつもの上司と部下」を演じる宮下茜と早川・・・。

「売上好調じゃないか」

「高円寺店が少し伸び悩んでいます」

「そうか・・・ランチタイムに弁当とかどうだ」

「なるほど・・・検討してみます」

その怪しい演技には乗らず・・・上昇志向に目覚めた正和は「ランチサービス」のアイディアに食いつくのだった。

「やってみます」

「そ・・・そうか」

なんとなく気不味い宮下茜と早川だが・・・それがまた醍醐味なのである。

宮下茜はともかく・・・早川はねっとりした気分を味わうのである。

できる間にもっとやっておきたいという焦燥感さえ生じるのが男なのである。

居酒屋「鳥の民・高円寺店」では正和旧店長の「ランチサービス」の提案にバイトリーダーの村井(少路勇介)とバイトの中森(矢本悠馬)はノリノリて応じるが新店長の山岸(太賀)は消極的に駄々をこねる・・・もちろん無視されるのである。

たちまち・・・「ランチサービス」限定五十食が決定するのだった。

一方・・・「阿佐ヶ谷南小学校」では藤原教頭(原扶貴子)と太田学年主任(小松和重)が意見を交換していた。

「山路先生は・・・童貞でしたよね」

「童貞です」

「なんなんですか・・・」と割り込む童貞の山路一豊(松坂桃李)である。

「いえ・・・もうすぐ四年生は・・・性教育の時間があるので」

「ど、童貞だって・・・性教育ぐらいできますよ」とレンタルおじさん(吉田鋼太郎)に愚痴る山路である。

「そうですねえ・・・まりぶにもあなたくらい貞操観念があればよかったのに・・・」

「え・・・」

たちまち明らかになる「まりぶとゆとりの不適切な交際」(すでに終了)だった。

「秘密」を抱えて・・・居酒屋「鳥の民・高円寺店」にやってきた山路は・・・。

「正和くんには話せない」と正和本人に口走る。

「まりぶとゆとりのことなら・・・知ってるし・・・もう別れたし・・・」

まりぶは・・・植木職人の親方(半海一晃)や職人仲間(前田公輝)と来店していた。

レジでは新店長山岸がバイトリーダーに厳しいレッスンを受けている。

アルバイトの女子大生・佐倉悦子(吉岡里帆)は驚くべき順応性で新店長に指示を出すのだった。

そこに・・・山路が童貞であることを「阿佐ヶ谷南小学校」にアナウンスした佐倉悦子の交際相手だった小暮静磨(北村匠海)が現れる。

浮気がばれて破局してから・・・佐倉悦子につきまとっているらしい。

「あんた・・・恥ずかしくないの・・・女のアルバイト先にまで押し掛けてきて」

実際は山路の行きつけの店で「山路先生に会いたくて」とアルバイトを始めた佐倉悦子である。

アルバイト先に押し掛けているのは静磨なのだった。

しかし・・・童貞だが・・・大人である山路は黙って酒席を共にするのだった。

「ふられたことないんだね」

「ないよ・・・」

「浮気して浮気した相手と付き合ってまた浮気して・・・そのくりかえしだったんだ」

「それがどうした」

「だけど・・・今・・・ふられてますよ」

「童貞に何がわかる」

「童貞だってわかります・・・このファッション眼鏡が・・・」

思わず眼鏡を外す静磨だった。

「君は・・・愛想尽かされて・・・ふられたの・・・その事実をまず受け入れないと・・・」

まあ・・・性欲の権化で恋愛体質の佐倉悦子はいつ旧交を温める気になるか・・・わからないわけだが・・・。

この局面では・・・保護者とストーカーのポジションとなる山路と静磨だった・・・。

旧店長が料理を届ける間隙をついてお代りのグラスを差し替えるくのいち悦子だった。

未成年なのでジュースを飲む静磨だった。

彼は今・・・子供と大人の狭間にいるのだった。

すでに大人である一同は見守る立場なのである。

まあ・・・大学三年生と大学一年生の性的関係にはそういう配慮が必要なのである。

もちろん・・・本人たちはそんなことはあまり考えずにやるのが一般的だ。

ああ・・・何もかもが懐かしい・・・。

静磨から悦子をガードするために送る山路。

「ここで結構です」

「いつでも送るから連絡して」

「必要なくても連絡します」

別れの抱擁を求める悦子から退避する山路。

しかし・・・行手をさえぎるイチャイチャカップル・・・。

方向転換をすればそこにもカップル。

「山路先生こっち・・・」

安全な方向を示す悦子。

「悦子先生ありがとう」

お馬鹿な二人を涙目で見つめるストーカーの静磨だった。

お腹が痛いぞ。

居酒屋「鳥の民・高円寺店」はついにエリアマネージャー・宮下茜、元店長・正和、新店長・山岸、バイトリーダー村井、バイト中森、くいち悦子という鉄壁の布陣を完成し、ランチタイムの「焼き鳥が一本乗る親子丼」完売を実現するのだった。

物凄い成長を遂げた感じである・・・。

「すみません・・・ランチ売り切れなんです」

「なんだよもう・・・」

笑顔でお客に頭を下げる悦子先生かわいいよ、悦子先生なんだな。

一方・・・山路は・・・迫る性教育の時間に頭を悩ませていた。

「女子は乳房が発達し・・・」

乳房という言葉に童貞として抵抗を感じてしまう山路は・・・まりぶを訪ねるのだった。

深夜に土産の缶ビールをアパートの階段で散乱させる山路。

性教育の指南書を散乱させたり・・・動揺を隠せない童貞なのである。

まりぶと内縁の妻・自称・道上ユカ(瑛蓮)は入国管理局の影におびえているらしい。

「入管かと思ったぜ」

「にゅうかん?」

「なんでもない」

ユカは中国語で深夜の来客を罵倒するが・・・怒っているわけではないらしい。

「あのゆとりちゃんのこと・・・」

「ああ・・・こいつは知ってるから大丈夫・・・むしろ・・・ゆとりちゃんがこいつらのことを知らないで終わった・・・」

「ああ・・・」

「俺がなんだか・・・巻き込まれて転職しちゃったわけだけど・・・もう自分さがしはやめようと思って」

「自分探ししてたんだ・・・」

「植木屋が天職かどうかは・・・わからないけど・・・参考書はみんな売ったし・・・」

「・・・」

「俺さ・・・あの店の・・・店長だった正和が・・・好きだったんだ・・・ゆとりなんかないのにゆとりって呼ばれて・・・でも・・・一生懸命で・・・それに自分が守るべき大切なものが何か・・・そういうところには一本筋が通っていて・・・俺も・・・見習いたいなと・・・」

「ようやくわかったか」とユカ・・・。

まりぶの話に感動した山路は・・・レンタルおじさんに報告する。

「そうですか・・・まりぶがそんなことを・・・これで呪われた血から・・・あいつが解放されるなら・・・こんなにうれしいことはない・・・この際、あなたも童貞から・・・」

「え」

「いえ・・・なんでもありません」

つまり・・・レンタルおじさんとしてはセックスをし過ぎるのもなんだが・・・しなさ過ぎるのもどうかとうっかり口を滑らせたのである。

しかし・・・すでに童貞と一心同体の山路にとって・・・それは死活問題なのである。

山路に「童貞を捨てろ」というのは「死ね」というのと同じなのだ・・・おいおいおい。

みんみんホールディングスの七月の人事移動のために引き継ぎ業務で一緒にいることの多くなった正和と宮下茜・・・。

二人で仲良く残業である。

「明日・・・早いでしょう、ウチに泊まっていけば」

「でも・・・」

「大丈夫よ・・・今さらどうにもならないって」

しかし・・・たちまち合体する二人だった。

「どうにもならないっていったのに」

「合体したってどうにもならないってこと」

「・・・」

「私は別れたり・・・やったりするくらいじゃ・・・変わらないもの」

「俺は・・・少し・・・換われたうな気がする・・・」

「そうかな」

「会社のために働くってことが楽しいってわかったし」

「会社のためになんか変わらないでいいよ・・・マーチンはマーチンのままで」

宮下茜のためにだけ生きろ・・・という言葉を飲み込む宮下茜である。

ある意味・・・恐ろしい女だな。

だが・・・いい女だ。

そして・・・すべての引き継ぎ業務を終えた居酒屋「鳥の民・高円寺店」の送別会。

「大盛軒」の野上(でんでん)も招かれる。

「それではエリアマネージャーの宮下さんから一言・・・」と山岸もそれなりに場を盛り上げる。

「ええ・・・おかげさまで・・・すべての引き継ぎも終わり・・・来月からは新天地に向かうことになりました・・・わたしが担当した地区では・・・最低の売上だったこの店が・・・皆さんの協力により売上上位に転じたことは・・・わたしにとってうれしいことでした・・・特に店長の坂間さんの功績は大きかったと思います」

「あああああああ」と泣き濡れる正和だった。

「店長・・・大丈夫ですか」と案ずるくのいち悦子である。

「ここは店長に一言いただくところですが・・・野上さん」

「え・・・私」

「最年長ですから」

「御指名いただきました・・・私・・・ここにこうしていられるのも・・・すべて坂間さんのおかげだと思っています」

「あああああああ」と泣き崩れる店長。

「店長・・・一言・・・お願いします」

「今・・・僕は・・・最高の気分です・・・この店で実績もあげ・・・」

「まあ・・・ランチタイム百食完売しただけだけど・・・」とバイトリーダー。

「もう・・・思い残すことはありません・・・僕は退職して・・・結婚するつもりです」

「誰と」

「宮下さん・・・茜ちゃんとです」

「えええええええ」と驚く一同。

「しかし・・・彼女は仙台に・・・」

「何年だって待ちますよ・・・結婚なんていつでもできますから」

「いますぐしよう・・・そうしよう」と茜。

「えええええええ」と驚く一同。

いつものボルダリング・ジムで・・・大悟と奈々江(石橋けい)と憩いのひとときを楽しむ山路・・・。

そこへ・・・駆けつける茜。

激しくハグする二人を警戒する奈々江。

「これは・・・前戯なの・・・」

「ペッティングじゃ・・・」

「マーチンにプロポーズされちゃったああああ」

「ええええ」

「オーケーしちゃったああああ」

「ええええ」

「私たち結婚するのおおおおお」

「おめでとおおおおおおおおお」

親友二人のゴールを喜ぶ山路だった・・・。

レンタルおじさんの喫茶店・・・小学校の教員室・・・夜の街角・・・ボルダリングジム・・・山路の行くところ・・・常に「お騒がせします」なのである。

上司に「連名」で・・・退職願いを提出する二人だった。

「連名って・・・これだからゆとりは・・・」

つかの間の愛人と育てた部下を一度に失って・・・仕方なく吐き捨てる早川である。

長いトンネルを抜けだした主人公とヒロイン・・・しかし・・・友人のまりぶには暗転が迫っていた。

職場の先輩が・・・かってぼったくりの店に案内した客引きが・・・まりぶであることを思い出してしまったのである。

「このポン引きが・・・」

たちまち始る陰湿な嫌がらせ・・・そして鉄拳制裁・・・。

人に侮辱されることに馴れないまりぶは・・・たちまち野生の男に戻るのだった。

止めに入った同僚や親方まで全殺しである。

荒涼とした気持ちで街を彷徨うまりぶは舎弟(長村航希)の元へ・・・。

「おっぱい・・・いかがですか」

「声が小さいんだよ」

「兄貴・・・でも最近手入れが厳しくて」

「おっぱいだよ・・・おっぱい」

暴力バーへ客を引く・・・まりぶである。

「ビールと枝豆で十二万円って高いな」

「高円寺の相場ですよ」

「あんた・・・経営者?」

店に乱入する刑事の皆さん・・・。

「はい・・・動かないで・・・」

「はい・・・そのまま・・・」

「この店の業務内容に関連して・・・被害届が出ています」

「東京都には性風俗営業等に係る不当な勧誘、料金の取立て等及び性関連禁止営業への場所の提供の規制に関する条例がありますよ」

「条例違反の疑いで逮捕しますね」

「・・・」

まりぶは手錠をかけられた・・・。

一方・・・「性教育」について相談できないままの山地はまりぶのアパートへ・・・。

しかし・・・今までそこで誰かが料理をしていたような部屋は無人・・・。

「まりぶくん・・・ユカさん・・・」

そこに東京入国管理局の人々が乱入するのだった。

「あなた・・・道上さんの・・・」

「・・・ゆ・・・友人です」

茫然とする山路・・・。

道上ユカは乳呑児を抱え・・・夜の街を逃亡する。

そんなこととは露知らず・・・家族に「婚約」を報告する正和。

「これで兄貴たちも・・・安心して北海道に・・・」

「すまん・・・めでたいことが重なって・・・」

嫁は妊娠したのだった。

「北海道どころじゃなくなったの・・・」

「えええええ」

「私・・・明日、早いから」

「おめでとう・・・正和・・・」

そんなこととは露知らず茜は幸せの絶頂だった。

正和と茜の結婚・・・山路の性教育・・・まりぶの逮捕・・・。

物凄くドタバタしながら・・・つづくである。

こんな楽しいやつらとお別れする日は近いのだ・・・せつな過ぎるな。

ま・・・いつものことだけどな。

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2016年6月10日 (金)

だまってすわれば三億円(竹野内豊)ふりかえれば元家族(松雪泰子)結婚詐欺師でお馴染み(小松彩夏)

セーラーヴィーナスこと小松彩夏は・・・2016年の冬ドラマ「家族ノカタチ」の丸山久美役に続いて、結婚詐欺師役で登場である。大田蘭子が本名なのか偽名なのかは取調によって明らかになるだろう。

それにしても・・・なかなか狙ってできることじゃないよね。

夏ドラマでも結婚詐欺師役で誰かキャスティングしてほしいよね。さらに言えば秋ドラマでもやって一年に四回の結婚詐欺師役という金字塔を打ち立てて欲しい・・・。

まさに金星の女に相応しいことだ。

ちなみに・・・「家族のカタチ」の被害者は主人公の同僚・佐々木(荒川良々)で・・・こちらでも主人公の同僚・猫田(杉本哲太)だった。

ドラマ「あまちゃん」の北三陸駅の駅長と副駅長である。次は漁協の組合長か観光協会長あたりがターゲットになればいいと思う。

まあ・・・それ以外についても・・・すべてが予想通りの展開で・・・なんていうか波風立たないドラマです。

で、『グッドパートナー 無敵の弁護士・第8回』(テレビ朝日20160609PM9~)脚本・福田靖、演出・本橋圭太を見た。今年の春ドラマは例年より早めに店じまいするような気がする。これも来週が最終回になるらしい。なんとなく・・・オリンピック体制を感じるな。そうか・・・五輪の夏か・・・。2016年8月5日から8月21日までがリオ五輪となると・・・七月開始のドラマはいろいろとアレだもんな・・・。みんな・・・なんとなくソワソワしているのはそのせいか・・・。都知事をどうするのか・・・そろそろ決着つけないととか・・・周囲の人が憂鬱になったりするわけだなあ。まあ・・・関係ないけどなあ。

このドラマでは・・・「弁護士」である前に「人間」が強調されるわけだが・・・どことなく・・・それが「グレーゾーン」への「キー」になっている気がしないでもない。「違法ではないが不適切」という「相手」を無理矢理、「罪」に追い込む「展開」である。

今回であれば・・・施設の定期点検が・・・行われていなかったにも関わらず・・・「営業」を続けた旅館経営者の不適切さには触れないで・・・「嫌な感じの人々」を一方的に懲らしめる話である。なんだかなあ・・・と思うが・・・そういうドラマもあってもいいか。

そもそも・・・「お金儲け」を前提とした弁護士たちの物語だからな。

温泉旅館「しらかぜ荘」の爆発事故に関して施設・所有者の土井垣設備に損害賠償を求める民事訴訟裁判の第一回口頭弁論に挑んだ原告の「しらかぜ荘」経営者・島津佐知子(あめくみちこ)と夏目弁護士(松雪泰子)、そして赤星弁護士(山崎育三郎)・・・。

対する被告は土井垣茂(福田転球)で・・・「岬&マッキンリー法律事務所」の岬伊知郎弁護士(正名僕蔵)とロボット弁護士(羽場涼介)が代理人となる。

土井垣が後援会を勤める地元選出の代議士・荒木田正直(清水紘治)が暗躍し、刑事責任を問われなかった爆発事故だが・・・夏目は民法第717条の「工作物責任」を根拠に工作物の所有者の無過失責任を問うのだった。

地裁の裁判官は・・・利根川浩一郎(新井康弘)で夏目の顔見知りである。

今回の見せ場は・・・「同意すると鼻の穴が開く癖」を持つ利根川裁判官の「鼻の穴」である。

面白いと思えば面白い世界なんだな。

利根川は・・・土井垣の「賠償責任」では鼻の穴をおっぴろげる。

「勝った」と思った夏目・・・。

しかし・・・「請求額」の「一億四千万円」には鼻の穴が開かない。

被告側の「建物の修復や休業中の損害を補てんするおよそ四千万円」という「金額」に鼻の穴を広げる利根川だった・・・。

「負けたわ・・・」と元夫の咲坂弁護士(竹野内豊)に報告する夏目だった。

「つまり・・・賠償責任は認められたが・・・賠償金額が減額されるということか」

「一億円の赤字よ・・・」

「それじゃあ・・・弁護士事務所は四百万円しか・・・とれないな」

「もうしわけありません」と俯く赤星。

「いいのよ・・・一銭も払わないと言った相手から・・・四千万円もとれるなら」と島津未亡人。

「しかし・・・それじゃあ・・・借金返済が・・・」と蒼ざめる熱海弁護士(賀来賢人)だった。

熱海の幼馴染であり、「しらかぜ荘」の跡取りである勝太(渋谷謙人)を助けたい一心の熱海なのである。

「もう一度・・・作戦を考えよう・・・」と咲坂。

「事故さえなければ・・・一億四千万の負債は発生しなかったのですから・・・それを立証できればいいんですよね」と熱海。

燃える・・・神宮寺法律事務所のメンバーたち。

しかし・・・お見合いパーティーで知りあった大田蘭子(小松彩夏)との結婚の夢に浸る猫田弁護士(杉本哲太)は・・・蘭子の求める「二百万円」を準備して・・・待ち合わせ場所にいた。

しかし・・・蘭子は姿を見せない。

電話しても留守番電話サービスに接続されてしまうのだった。

蘭子の身に何があったのだろうと・・・危惧する猫田。

翌日・・・パラリーガルである茂木さとみ(岡本あずさ)はニュースサイトを見て城ノ内弁護士(馬場園梓)を呼ぶ。

「見てください・・・」

「あ・・・この人は・・・猫田先生のデートの相手・・・」

大田蘭子は結婚詐欺の容疑で逮捕され・・・報道陣に対し不敵な笑みを浮かべていた。

「にゃあああああああ」

猫田は事実を知り・・・卒倒した。

一方・・・咲坂は仕事の同僚たちを・・・家に連れ帰っていた。

「ちょっと・・・仕事が終わらなくて・・・」

赤星と熱海・・・そして夏目・・・。

「ママ・・・」とみずき(松風理咲)・・・。

夏目にとっては元「我が家」である。

密かに咲坂を狙う家庭教師の島谷涼子(宮﨑香蓮)は動揺するが・・・だからといってそういう話にはならなさそうだ。

島谷は・・・熱海の後輩の女子大生である。

第ニシリーズがあるとすればパラリーガル候補か・・・。

ベトナム料理でもてなすグエン(上地春奈)は・・・赤星に目をつける。

「レッド・・・バトラーか」

「風と共に去りぬ・・・ではありません」

赤星は・・・君のためなら死ねる系ミュージカル・スターなのである・・・おいっ。

岩清水→砂清水→赤清水である・・・おいおい。

ミュージカルというある意味、空気を読まない舞台芸術を揶揄する風潮はいかがなものだろうか・・・おいおいおい。

「騒がしくてすまない・・・」と娘に詫びる父。

「ううん・・・パパと二人きりより・・・にぎやかで楽しいよ」

「・・・」

宴のあとで・・・しんみりしてしまう咲坂と夏目とみずき。

「パパとママはベストフレンドになるつもりだ・・・みずきもうれしいだろう」

「それなら・・・パパとママに戻ってよ・・・」

顔を見合わせる元夫婦・・・。

「パパとママがともだちになったって・・・うれしいわけないじゃん」

「・・・」

引き籠った娘に話をしようとする咲坂をひきとめる夏目。

「そっとしておきましょう」という阿吽の呼吸である。

「あの・・・俺たち・・・」と何かを言いかける咲坂・・・。

しかし・・・言葉を飲み込む咲坂だった・・・。

そもそも・・・離婚を言い出したのがどちらなのかさえ・・・提示されていない・・・気持ち悪い展開である。

冒頭で離婚訴訟で徹底抗戦する二人を見せなかったのが・・・このドラマの構成ミスである。

元鞘に収まるにしろ・・・そうでないにしろ・・・発端が曖昧すぎてお茶の間置き去りなのである。

ダメ親父だったから・・・バカ嫁が切れたでいいじゃないか。

結局・・・幼い娘を苦しませているダメでバカな両親なのだから・・・。

一方・・・賠償額は抑えたものの・・・責任を認めた岬伊知郎弁護士の元へ姿を見せる荒木田正直・・・。

「困るじゃないか・・・後援会の不祥事は・・・選挙に悪影響が出る」

「岬&マッキンリー法律事務所の名前にも傷がつくでしょう」と荒木田の秘書(村杉蝉之介)も冷たい視線を岬弁護士に注ぐのだった。

第二回弁論。

猫田の婚活が素晴らしいインターネットのお見合いがきっかけだったことから・・・素晴らしいインターネットによる弊害を申し述べる咲坂。

「しらかぜ荘にとって・・・インターネットによる広報は大切な要素です・・・しかし・・・しらかぜ荘を検索してみると・・・」

インターネットの検索サイト「beegle」には・・・しらかぜ荘・爆発事故・・・の情報が並ぶのだった。

「爆発事故による風評が・・・経営に重大な悪影響を及ぼしているのは明らかです」

利根川裁判官の鼻は開く。

しかし・・・被告側のロボット弁護士が口を開く。

「伊豆地方では悪天候の影響などで集客率が下がっているというデータもあります・・・すべてを爆発事故による風評被害であると断定するにはそれなりの証拠が必要です」

利根川の鼻は開くのだった。

「弁護士ロボットめ・・・」

「しゃべるんだな・・・」

感心する咲坂と熱海だった。

第二回も引き分けの様相である。

神宮寺法律事務所では失恋した猫田が泣き濡れ続ける。

「被害に遭わなかったんだ・・・君はラッキーボーイだ」と神宮寺所長(國村隼)が言葉をかける。

しかし・・・猫田の心は晴れない。

そこで・・・・ベテラン秘書である朝丘理恵子(宮地雅子)の出番である。

「出会いがあれば・・・別れがあるでしょう・・・別れは新しい出会いの始りよ」

「新しい出会い・・・」

猫田は正気を取り戻した。

そこへ・・・荒木田の秘書が現れる。

「つまらないものですが・・・」という手土産を拒絶する弁護士一同。

「一部の企業に・・・特殊な便宜をはかるのは・・・公職にあるものとして・・・不適切と言えます」

目覚めたばかりの猫田が告げる。

「しかし・・・違法ではないでしょう」

「不適切な人が公職にあるのは不適切そのものじゃないですか」

「・・・」

かっこいい猫田に拍手喝采の一同。

「弁護士バッヂを外すところだったか」

「今のは弁護士のセリフですから」

とにかく・・・脚本家はここには拘りたいらしい・・・あまり効いてなかったけどな。

こういうのは・・・「おふざけ」の範疇だが・・・それなりに・・・相応しい演出が要求されるのである。

特に・・・弁護士バッヂにものを言わす場面とのセットとかねえ・・・。

まあ・・・それが既に周知されているという前提なんだよ・・・きっと。

高尚かっ。

調子にのった猫田は咲坂にアドバイスする。

「データは上書きすればいい・・・統計的手法には統計的手法で応ずるのです」

「なるほど」

神宮寺法律事務所一同は・・・「しらかぜ荘」周辺の宿泊施設に電話によるリサーチを開始するのだった。

第三回弁論。

「爆発事故直後から・・・しらかぜ荘は従業員の再教育をはじめ・・・営業再開後もサービスの充実に努めてきました・・・ここにそのために必要だった経費の概算がまとめてあります」

熱海はしらかぜ荘の経営努力を訴える。

膨らむ裁判官の鼻。

「しかし・・・経営不振と爆発事故の因果関係は説明できないでしょう」と被告陣営。

膨らむ裁判官の鼻。

「これをごらんください・・・」と咲坂が立ちあがる。

「これはしらかぜ荘周辺の全旅館の・・・集客率を示すものです」

「え・・・調べたの」

「はい・・・総力をあげて・・・」

示される・・・前年と今年度の比較。

「確かに・・・悪天候の影響で全体にマイナスになっていますが・・・その前年度比はマイナス5パーセントにも満たない。それに対し・・・しらかぜ荘だけが前年度比・・・マイナス80パーセントとなっています。これは明らかに・・・爆発事故の影響を示しています」

膨らむ裁判官の鼻。

「これをもって・・・原告は被告に対して三億円の賠償金を請求します」

利根川裁判官の鼻は全開した。

「なんだと」と土井垣は周囲を見渡す。

しかし・・・利根川裁判官の鼻を見つめる岬弁護士は敗北を悟っていた。

岬も利根川と顔見知りだったのだ。

「このまま・・・裁判を続ければ・・・判例が残りますよ」

咲坂は岬に囁く。

「・・・」

ロボット弁護士は怪光線で熱海を威嚇するのだった・・・おいっ。

裁判官から神宮寺法律事務所に電話がある。

被告側は和解に応じ・・・賠償金を三億円で了承したのだ。

「勝った・・・」

喜びに沸く・・・一同。

「成功報酬は経費を含めて三千万プラスアルファというところか・・・君たちはやはりグッド・パートナーだな」

神宮寺所長は微笑む。

咲坂は・・・尋ねた。

「所長は・・・私たちにベストフレンドになれとおっしゃいましたが・・・娘はそれを望まないようです」

「君は勘違いしているよ・・・」

「?」

「私はベストフレンドからやり直したらどうだ・・・と言ったのだ」

しかし・・・その頃・・・ヴィーナス法律事務所の代表弁護士・美山亜希子(峯村リエ)は・・・夏目を勧誘していた。

「パートナー弁護士として・・・うちに来ない・・・今よりずっと稼げると思うわよ」

どうやら・・・ヴィーナスの方が・・・神宮寺より格上の事務所らしい。

こうして・・・物語はだらだらと最終回へ・・・おいおいおいっ。

関連するキッドのブログ→第7話のレビュー

Gpoo8ごっこガーデン。いつでもどこでもミュージカルセット。

まこ人生にはつらいことや・・・かなしいことがあるけれど・・・ミュージカルならどんな場面でもみんなが歌い出すことができましゅ。雨に降られても・・・恋が上手くいかなくても・・・敵の軍隊に追われても・・・歌うだけで幸せがやってくるのデス・・・さあ・・・ぼぎゃああああんと歌って踊るのでしゅ~・・・しーんぎんざれいーんしーんぎんざれいーん・・・♪」

エリ企業弁護士のお仕事は割と地味めですね~。まこちゃんはついに踊りだしてしまったのね~。まあ・・・メンバーにミュージカルロイドがいるから仕方のない展開でス~。それにしても土井垣さん・・・きちんと三億円払えるのかしら~・・・管理の甘い会社なのでボロ儲けしているのかもね~。それなら懲らしめの意味でもふんだくってやるのがいいのでス~

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2016年6月 9日 (木)

消せない恋をつかまえた(大野智)憎み切れない意気地なし(波瑠)元史上最高社長の修正平手打ち(北村一輝)

ふふふ・・・最終回直前まで・・・ウジウジを貫くとは・・・。

この脚本家は・・・やはり・・・骨の髄まで腐ってやがる・・・。

もはや・・・凄えと感服するしかないな・・・。

一方・・・シャアを捨てブライトさんになってしまった北村一輝・・・なんでもありだな。

しかし、来週は「見せてもらおうか・・・鮫島ホテルズの結婚式とやらを・・・」とか言いそうだな。

腐ってもオレザクの人だからな。

とにかく小学生の夏休みの宿題で「旅館の池」を造園してしまう・・・恐ろしいほどの才能だよね。

とんでもない男と出会ってしまったのだから・・・それなりの覚悟で挑む元学級委員・・・。

なにしろ・・・金魚鉢とか虫籠に獲物を入れて飼育したいだけの相手だからな・・・。

まさに・・・あなたに抱かれて蝶にならないといけない展開なのだから・・・。

一歩間違えたら・・・防腐剤を注射されちゃうんだものねえ。

いよいよ・・・今年の春が去っていくんだなあ・・・。

で、『世界一難しい恋・第9回』(日本テレビ20160608PM10~)脚本・金子茂樹、演出・菅原伸太郎を見た。おそらく・・・この春の最高傑作をあげるとなるとコレは確実に候補になるだろう。しかし・・・何が最高かは人それぞれで・・・キッドは基本的にそういう決めつけはしない方向で記事を書いてきた。ただ・・・この脚本家のドラマとしては「プロポーズ大作戦」以来の完成度を感じる。オリジナルでコレを仕上げるのは素晴らしい才能だと素直に認めたい。片思いの人はみんなストーカーだし・・・成人したのに童貞の人は可哀想だという観点からニヤニヤするしかないドラマだとしても。

「なぜ・・・あなたの欠点を認めなくてはならないのですか」

「本当の愛を始めるためです」

「それでは・・・条件があります」

「どんな条件でも承る」

「では・・・今夜はこれでお引き取り下さい・・・次の条件はメールで指示します」

「ありがとう・・・いさなみすやお」

「・・・」

鮫島零治(大野智)は夜の街で叫ぶ。

しかし・・・柴山美咲(波瑠)は振り返らない・・・。

けれど・・・首の皮一枚・・・残っているような気がする。

それは・・・ほとんど死んでいるよね。

鮫島ホテルズ社長室の朝・・・。

零治は秘書の村沖舞子(小池栄子)を笑顔で迎える。

「おはよう・・・」

「おはようございます・・・社長・・・何か、いいことがありましたか」

「いいことなんかありゃしねえ・・・みささんからのメールを待って・・・12時間経過しているし」

「彼女とコンタクトできたのですか」

「・・・俺は成長できたのかな」

「もの凄く・・・」

その時・・・着信がある。

《しばらくお会いしたくありません》

「・・・」

「・・・」

零治は絶望の一歩手前で踏みとどまる。

訣別した相手と・・・コンタクトしたことを堀まひろ(清水富美加)に報告する美咲・・・。

「えええ・・・ストーカーじゃないですか」

「でも・・・あの時は・・・私も少し冷静さを失って・・・怒りすぎたかも」

「美咲さんは・・・何も悪くありませんよ・・・自分からキスしなかった上に・・・美咲さんがキスしようとしたら拒絶するなんて・・・女のプライドズタズタじゃないですか」

「・・・」

「そのあげくにつきまとうなんて・・・男らしくないにもほどがあります」

まひろの正論に頷くしかない美咲だった。

だが・・・正統派学級委員である美咲は・・・ダメな子を見捨てられないタイプなのである。

零治は・・・悩む。

美咲のメールに対して返信していいものなのか・・・しかし・・・我慢することはできない。

《了解しました・・・しばらくはお互いに仕事に励みましょう・・・いさなみすやお》

《御理解いただきありがとうごさいます・・・おやすみなさい》

零治は癇癪を起こし・・・一度は破り捨てた「いさなみ夫婦の絵」を見つめる。

いさなみしほが帰ってくる日があるのかどうか・・・心は乱れるのだった。

そんな零治の苦悩とは無縁の三浦家康(小瀧望)は毎朝の自転車通勤の途中でステイゴールドホテルに出勤する美咲とすれ違い挨拶をしているという。

「明日から・・・俺も・・・」

「会わないという約束を破るのですか」と秘書。

「会うのではない・・・偶然すれ違うだけだ」

自転車すれちがい大作戦(シティサイクル篇)

運転手の石神剋則(杉本哲太)の用意した自転車はサドルの位置に問題があったが・・・零治は困難を克服する男なのである。

しかし・・・三浦家康(小瀧望)の絶妙のタイミングを真似ることはできない。

一番遅く出社する家康よりも遅く到着する零治。

「会えましたか・・・」と秘書。

「・・・」

「三浦くんは会えたそうです」と運転手。

自転車すれ違い大作戦(ロードバイク篇)

サドルの位置の問題は解消されないが困難に挑む零治。

お約束でナイスタイミングの家康より先着してしまうのだった。

「彼女に会えたのか」

「ハイタッチしました」

「ハイタッチ・・・」

「彼女がおはようと手をあげたのでイエーイと・・・」

息のあったコンビネーションでハイタッチを再現する家康と運転手を睨む秘書だった。

「だめだ・・・このままでは・・・この世に棲息しているはずの・・・ダイオウイカを目撃できないまま・・・一生が終わってしまいそうだ」

「ダイオウイカは・・・映像で捉えることに成功していましたよね」

「そうだ・・・ここはNHKスペシャルのスタッフを見習って・・・多角的な作戦運営に乗り出そうと思う」

今や・・・美咲は零治にとって謎の深海生物と化したらしい。

社長室分室をステイゴールドホテルの正面に賃貸しちゃおう大作戦

「社長・・・やりすぎです」

「何がおかしい・・・私が作業スペースを必要として・・・たまたまみささんの勤務するホテルの正面に優良物件があった・・・それだけのことだ」

「それでは白鳥麗子になってしまいます・・・彼女は明らかにストーカーです」

秘書の注意中も・・・双眼鏡で・・・美咲の動向をチェックする零治だった。

明らかに・・・不審者である。

零治は美咲の通勤路の途中にイベントスペースがあることに気がついた。

そこでは・・・。

着ぐるみに入って彼女と触れ合おう大作戦

横浜市中区のマスコットキャラクター「スウィンギー」の握手&撮影会が催されていた。

あの中に入れば・・・通りかかる美咲を間近で見ることができる。

零治は・・・スウィンギーの本当はいない中の人(上島竜兵)に掛け合うのだった。

「なんで・・・ホテルの社長がゆるキャラに入りたがるんだよ」

「ホテル・ビジネスの基本は顧客に対するサービスです・・・お客様と直接触れ合う機会を得たいというのが社長の御意向です」ともっともらしいフォローをする秘書だった。

「見習い期間はギャラなしだけど・・・」

「金はこちらが払う・・・レンタル料金とお考えいただきたい」

簡単なレクチャーを受け・・・大桟橋生まれのカモメであるスウィンギーに変身する零治。

「はい・・・笑って」

「しかし・・・顔は見えないだろう」

「本当はいない中の人の喜怒哀楽が・・・大切なんだよ」

「そういうものなのか・・・」

頑張って笑う零治だった・・・。

やってきた最初のチャンスで思わず握っていた風船を空に解放するスウィンギー。

無邪気に微笑みかける美咲の輝きに失神寸前の零治だった。

「彼女が・・・僕にもう一度笑顔を見せてくる日がくるだろうか」

落ち込む零治を励ます秘書。

「大丈夫です・・・そんな日がきっと来ます」

おそらく・・・秘書には・・・零治にも美咲にも見えない何かが見えているのだろう・・・。

スウィンギー零治の前に再び美咲がまひろを伴って現れる。

美咲はスウィンギーがお気に入りなのである。

まひろが撮影を担当し・・・スウィンギーと記念撮影にチャレンジする美咲。

「もっと・・・くっついて・・・」と指示するまひろ。

調子に乗った美咲は・・・スウィンギーに抱きつくのだった。

愛しい人に抱擁されて・・・動顛する零治。

去りゆく二人を目で追ううちに・・・着ぐるみの頭部を脱いでしまう・・・。

あわてて・・・子供たちの目を塞ぐ母親たち。着ぐるみ師も飛び出す。

「なんて・・・ことを・・・これは・・・目の錯覚ですから・・・」

「見てはいけない世界」である。

騒ぎに振り返った時・・・すでに零治はスウィンギーに収納されていた。

「お前はクビだ」

いつものセリフを着ぐるみ師に言われる零治だった。

零治は落ち込んだ。

「社長・・・」

「私が望んでいるのは・・・あんな抱擁じゃない・・・」

だから・・・抱擁のチャンスはいくらでもあったではないか・・・と言っても童貞相手では虚しいばかりだ・・・。

たまたま新聞記者が撮影した「ゆるキャラ情報」で新聞に掲載された美咲とのツーショットも・・・喜びを分かち合う人の不在を明らかにするだけなのである。

零治に残されたのは・・・家路を徒歩に変更するという手段のみ。

しかし・・・美咲とは遭遇しないのだった。

似ている人を追いかけても他人・・・。

靴紐を結び直しても時間は稼げない・・・。

万策尽きた零治に衝撃的なニュースが届く。

恋愛マスターである和田英雄(北村一輝)がステイコールドホテルの社長から勇退してしまったのだ。

社長の座を弟の英彦に譲った和田は・・・山村生活をエンジョイしていた。

「なんでだよ」

何故か・・・和田の暮らす古民家に殴りこむ零治だった。

「ここは・・・私がリゾート開発を頼まれた・・・土地だ・・・しかし・・・この雄大な自然に触れた時・・・私は天啓を受けた」

「・・・」

「どんな栄光も一瞬だ・・・世界一のホテル王になってしまったら・・・いつかはその座を誰かに奪われる日を案じて暮らさなければならない・・・しかし・・・本当の幸せはそんなところにはない・・・」

「本当の幸せ?」

「お前は・・・幸せか」

「いや・・・」

「私は・・・この周辺の土地をすべて買収して・・・手つかずの大きな自然に囲まれて・・・この小さな家で暮らすことで・・・満ち足りている」

「大山林の小さな家か・・・金持ちの道楽じゃないか」

「その茶碗を持って見ろ」

「・・・あったかい・・・」

「その温もりが・・・幸せというものだ・・・」

「師匠・・・」

「喝」

いきなり零治を平手打ちする和田・・・。

「何をする・・・」

「お前は・・・こんなところでのんびりしていいのか」

「だって・・・」

「お前は・・・柴山美咲を追いかけて右往左往するべきだ」

「何故だよ」

「だって・・・その方が面白いもの」

「でも・・・接見禁止だし・・・」

「会えないから何もできない・・・お前の限界はそんなものか・・・」

「・・・」

和田に翻弄されて都会に戻る零治だった。

極秘密諜報員におまかせ!

「ダイオウイカの存在感に圧倒されて・・・戦略の基本を失念していた」

「社長・・・」

「相手のことを知らないのでは話にならない」

「情報収集ですね」

「三浦家康を呼べ・・・」

何故・・・家康なのかは不明だが・・・諜報活動させても仕事に影響ないからだろう。

社長の極秘プロジェクトとして・・・美咲の情報集めを開始する家康。

「太陽にほえろ」のような聞き込みスタイルだが・・・追い込むのは白浜部長(丸山智己)や音無静夫部長代理(三宅弘城)たち・・・社長室企画戦略部一同である。

たどり着いた結論は・・・一番仲のいいまひろの尋問である。

「彼女の靴のサイズは」

「知りません」

「彼女の指輪のサイズは」

「知りません」

「何にも知らないじゃないか・・・」

激昂する社長だった。

「どんな些細なことでもいいから・・・」と取調を続ける家康・・・。

「社長は・・・美咲さんが・・・なぜホテルに就職したか御存じですか」

「いや・・・」

「彼女にはおじい様の残した土地にホテルを立てる夢があるのです」

「そうなのか・・・」

「社長が・・・美咲さんの夢を叶えてあげたらどうでしょうか」

「馬鹿なことを言うな・・・夢は自分で叶えるものだ・・・応援は出来ても手伝うことはできない」

「えええ」

しかし・・・この作戦は・・・意外な効果をあげるのだった。

「ひどいのよ・・・社長ったら・・・美咲さんの夢に手を貸す気はない・・・夢は自分の力で叶えなければ意味がないって・・・」

「え・・・」

「別れて・・・正解よ」

「そんなことを言う人だとは思っていなかった・・・私・・・彼のことを何も知らなかったのかも」

「でしょ・・・」

「いいえ・・・とてもいいことをおっしゃったと思うのよ」

「え・・・」

「そんなことを言ってくれる人だったなんて・・・」

「私・・・美咲さんが何を言っているのか・・・わからない」

愛する人と一緒に歩いていくが・・・自分の夢は自分で叶える・・・美咲の信条にジャスト・フィットする零治なのである。

美咲は・・・零治のことをもっと知りたくなり・・・旅に出るのだった。

たどり着いたのは「鮫島旅館」だった。

翻る真田家と同じ「結び雁金」紋・・・。

美咲の祖父が好きな武将は大谷家の家来・・・。

そして・・・家康。

関ヶ原が匂い立つのだが・・・本筋とは関係ありません。

零治が経営再建したという伝説の旅館。

出迎える零治の父親・鮫島幸蔵(小堺一機)・・・。

「この旅館のことは・・・雑誌か何かで・・・」

「実は・・・私、鮫島ホテルズの社員だったことが・・・」

「まさか・・・社長にクビにされたのでは・・・」

「そのようなものです」

「もうしわけありません・・・しかし、それは・・・あなたのせいでも・・・社長のせいでもなく・・・この私の責任です・・・息子をあんな冷淡な性格にしてしまったのは・・・私の不徳の致すところなのです」

「そんな・・・私はただ・・・子供の頃の・・・社長のことをちょっとお訊きしたくて」

「いい子でしたよ・・・本ばかり読んで・・・内気で・・・後は生き物を飼育するのが・・・好きで・・・」

思い出のアルバムに写る泥だらけの少年。

「結構・・・わんぱくそうですが・・・」

「ああ・・・それ・・・あの子が鯉が飼いたいと言い出して・・・家には池がないからダメだと言うと・・・・自分で作ると言い出して・・・」

「はあ・・・」

「最初は私も従業員も笑って見ていたのですが・・・毎日・・・池を掘り進めて・・・これは本気だと思った私が手伝おうとすると・・・・これは・・・自分の夢だから・・・手を出すなと怒られましてね・・・」

「自分の夢・・・」

幸蔵は美咲を庭園にある池に案内した。

「結局・・・一人で・・・これを作ってしまいました・・・庭師が驚いていましたよ・・・」

「・・・」

池には無数の鯉が遊泳していた。

「あの子が・・・ホテルの経営者になるために留学すると言い出した時・・・周囲のものは危ぶんだのですが・・・私はあの子が凄いことをするんじゃないかと信じていました・・・なにしろ・・・この池を見ていますから」

「・・・」

「息子に冷たくされているのに・・・親馬鹿ですみません」

波打つ美咲の胸・・・。

少なくとも零治は・・・変な人だと確認できたのである。

そんな変な人を常識で量っても仕方のないことだと思う賢さを美咲は持っている。

何故なら・・・美咲だって・・・「おじい!まほうのくにを建てるよ!」的な変な人なのである。

美咲が鮫島旅館を訪ねたことは「幸蔵-家康」の親友ホットラインを通じて・・・零治に報告されるのだった。

「何故・・・お前が知っている」

「幸蔵さんと親友だからです」

「社長の父親と勝手に親友になるな」

「親の顔が見たいですね」

まあ・・・息子に「家康」と名付ける親の息子である。

零治は・・・故郷に向かうのだった。

不倫騒動で・・・迷惑をかけた秘書は車で待機するが・・・幸蔵は招き入れる。

「もう・・・昔のことだよ・・・」

「幸蔵さん・・・」

「一体・・・どうしたんだ」

「実は・・・社長と彼女は・・・短い間でしたが交際なさっておいででした」

「え」

零治は・・・美咲が・・・自分のことを知ろうと努力していることを察した。

その返礼を考えた零治は・・・考え抜いた贈り物を準備する。

異常な努力家だった零治の過去を示す膨大なホテル関係の蔵書・・・。

その中から・・・零治と秘書そして運転手が捜し出したのは・・・付箋にまみれた書き込みだらけの「ホテルの経営戦略(改訂版)/デヴィッド・フィリップス」だった。

家康の手で・・・美咲に届けられる零治からのプレゼント。

《私にはもう必要のないものだがあなたにはこれから必要なものです》

美咲は・・・本に残された零治の努力の痕跡を見る。

《社長には決断力が求められる→社員に対する責任》

《ターゲット フルスピード スリーマンス》

「一ヶ月・・・減ってる・・・」

美咲の心には・・・零治への愛おしさがあふれるのである。

美咲は・・・可愛いものが好きなのだ。

そして・・・運命の夜が訪れる。

偶然の再会を願ってステイゴールドホテルを通過する零治を・・・美咲が発見するのだった。

心の準備が整った美咲は・・・零治を追う。

お約束の横断歩道を渡り・・・階段を登りかけた零治を呼びとめる美咲。

「れいさん・・・」

振り向いた零治は思わずスウィンギーのジェスチャーでご挨拶するのだった。

一瞬で察する美咲。

洞察されたことを洞察する零治・・・。

超能力対決である。

「いや・・・違うんだ」

「お会いしない約束でしたよね」

「すまん」

「口にした約束は守る人だと思ってました」

「・・・すまん」

「世界一のホテル・・・本当に作るんですか?」

「え」

「鮫島旅館の池・・・どうして一人で作ったんですか」

「ええっ」

「みんなに手伝ってもらった方が・・・早くできたのに」

「・・・夢に早さは必要ない」

高みにある社長を見上げて問い質す元社員・・・。

「しかし・・・社訓にはターゲット フルスピード トゥーマンスと・・・」

「あれは目標に対するスタンスだ・・・夢と目標は違う」

「社長にとって夢とはなんですか」

「夢は・・・世界が消そうとしても消えないもの・・・自分自身が自暴自棄になって消そうとしてさえ・・・消えないものだ・・・俺にとって夢は君に似ている・・・クビと何度も言いかけて言えず・・・ようやく口にできたのに・・・それでも心から追い出すことができない・・・君は夢にそっくりだ」

「クビアカトラカミキリよりもですか」

「どちらも・・・よく似ている」

「・・・」

「俺にとって・・・夢とは・・・みささんそのものだ」

零治を見つめるひたむきな美咲の瞳に吸い込まれるように足を踏み出す零治。

許可を求めるように停止する零治に小さく頷く美咲だった。

零治は階段を降りきり・・・静かに美咲に近づく。

おいでおいで・・・と誘うような美咲の真摯な顔。

誰もがキスへのチャレンジを期待するし・・・美咲にも覚悟ができたはず・・・。

しかし・・・零治は・・・昆虫を採取するような気持ちで距離を詰めているのだった。

忍び足で接近し・・・ついに獲物をキャッチである。

おずおずと・・・美咲を抱擁する零治・・・。

美咲の表情には戸惑いも浮かんでいるように見えるが・・・杞憂なのだろう。

零治の繊細さには・・・美咲も耐える必要があるのだ。

それが本当の愛なのだから・・・。

とにかく・・・零治は・・・失いかけたものを取り戻した安堵で満たされる。

だが・・・消えそうで消えない夢の成就への道はまだまだ相当に難しいだろう。

なにしろ・・・根性なしなので・・・最終回だって油断はできないんだからね。

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2016年6月 8日 (水)

悲しみを希望に変えろ(黒木華)窓から這い出せ(永山絢斗)霧の中の女(蒔田彩珠)男から男へ渡り歩いて(最上もが)捨てたつもりで捨てられて(オダギリジョー)

Q.あなたの一番好きな曲は何ですか?・・・A.特にありません。

Q.あなたの一番好きな漫画は何ですか?・・・A.特にありません。

うっかりすると忘れるのだが・・・音楽や漫画の好きな人間はほとんどの人間がそうでないのを忘れがちである。 

そういうことを失念したままで・・・ドラマを作るとこうなるのである。 

「ラヴソング」   10.6%↘*9.1%↗*9.4%↘*8.5%↗*8.4%↘*6.8%↘*6.8%↗*7.4%↗*8.0% 

「重版出来」      *9.2%↘*7.1%↗*7.9%↗*9.1%↘*7.3%↘*7.0%↘*6.8%↗*7.8% 

いや・・・結構頑張ってるじゃねえか。 

まあ・・・どちらも音楽や漫画を愛する人たちにとってそこそこいいドラマなのだが・・・要するにそうでない人にどうアピールするかなんだよな。 

いや・・・そもそも・・・。 

Q.あなたの一番好きなドラマは何ですか?・・・A.特にありません。 

・・・という問題があるんじゃないのか。 

いや・・・火曜日の裏ではものすごくおバカなドラマをやっていて・・・。 

「僕のヤバい妻」   *8.3%↘*7.7%↘*6.8%↗*8.4%↘*7.5%↘*7.3%↗*9.4% 

・・・と結構、健闘している。 

火曜日のドラマを先行した「重版出来!」第1週を除外して単純に合計すると・・・。 

15.4%↗15.6%↗15.9%↘15.7%↘14.5%↘14.1%↗17.2% 

・・・と*のない世界に脱出可能の可能性が見えるのだ。 

まあ・・・「月9」の立ち場はないけどな。 

漫画より音楽の方がマニアックなのかもしれない・・・。 

どういう理論だよ。 

とにかく・・・音楽や漫画に興味のない人にも面白くが合言葉なんだよ。 

それは・・・色々と嫌な感じがするな。 

まあ・・・あくまで視聴率が欲しい人向けのメッセージだ。

で、『重版出来!・第9回』(TBSテレビ20160607PM10~)原作・松田奈緒子、脚本・野木亜紀子、演出・福田亮介を見た。「言わなくたってわかるだろう・・・いや、わからない」という話である。「阿吽の呼吸」とか「以心伝心」とかが幻想に過ぎないということだな。「一人合点」ほど虚しいものはないからな。もちろん、言葉にしてもわからない場合もある。「あなたのことは嫌いです」と言われても・・・「嘘をつくな」と応じる輩がいるからな。しかし・・・「ツンデレ」っていうこともあるだろう・・・そういうのは「希望的観測」なんだよ。そういう場合は口で嫌いって言いつつ下半身は握られているもんなんだよ。・・・ああ。

言葉に出し、行動で示す・・・これが人のすべてなのである。

「ツノひめさま」を連載中の漫画家・高畑一寸(滝藤賢一)の愛人・梨音(最上もが)を素晴らしいインターネットの世界での現状報告情報によってキャッチした週刊コミック誌「バイブス」の担当編集者・黒沢心(黒木華)だった・・・。

しかし・・・現地に先着したのはライバル誌「週刊エンペラー」(瑛明社)の副編集長・見坊我無(明和電機)だった・・・。言葉巧みに梨音に接近した見坊は高畑一寸の個人情報を引き出すことに成功していた。

梨音に家出されると描けなくなる高畑に・・・電話でコンタクトをとる見坊・・・。

「梨音さんはもうすぐ・・・戻ります」

「あんた・・・誰だ?」

「エンペラーの見坊と申します」

「御用件は・・・」

「先生に折り入ってお話があるのでお会いしたいと思いまして・・・」

「・・・」

発行部数ナンバーワンを誇る「エンペラー」の編集者は「売る手段」を選ばない。

人気作家の引き抜きなどは常套らしい・・・。

心が仕事場に梨音を連れ帰り、「抱擁」や「接吻」のニンジンをぶら下げて・・・高畑の尻を叩き・・・原稿を仕上げさせたのは・・・締め切りギリギリのことであった。

バイブス編集部で爆睡する心・・・。

夢の中では・・・白紙のバイブスが店頭に並ぶ悪夢が・・・。

「おい」

「あああああああ」

壬生(荒川良々)に起こされて絶叫する心。

「大丈夫か・・・」

「ああ・・・よかった・・・製版所に入稿終了したんでした・・・」

和田靖樹編集長(松重豊)は心を叱咤する。

「いい加減にさせろ・・・愛人に家出される度にこれじゃ・・・困るぞ」

「しかし・・・プライベートのことですから・・・」

「プライベートが・・・仕事に食い込んでんだ」

優しい編集者・五百旗頭敬(オダギリジョー)もいつになく厳しい言葉を投げかける。

「でも・・・恋愛は理屈じゃなくて・・・どうにもならずに突っ走ってしまうものですから」

心の恋愛擁護発言に・・・静まる編集部一同。

「って漫画を読んだことがあります」

何故か・・・安堵する編集部一同だった。

心にも「女心」があるとわかって安堵したのか・・・そうでなかったことで安堵したのか・・・微妙なところである。

小料理屋「重版」で営業担当の小泉純(坂口健太郎)と恋愛もどきの展開をする心である。

女将のミサト(野々すみ花)は微笑むのだった。

「ツノひめさまの売上も好調だけど最近の一番のヒット作と言えば・・・エンペラーのHITTI-POTTIだね」

「井上佳二先生ですね・・・知ってますか・・・本当はあの作品はバイブスで連載されるはずだったんです」

「HITTI-POTTI/井上佳二」は五百旗頭が連載寸前までこぎつけた話だったが・・・和田の前任の編集長の反対で実現せず・・・エンペラーがその機に作家ごと引き抜いて行ったのである。

五百旗頭は井上佳二の前途を祝して快く送り出したのだと言う。

「五百旗頭さん・・・凄いですよね」

「・・・」

心は美談と考えているようだが・・・営業担当の小泉はふと思う・・・。

逃がした魚は大きい・・・のである。

「HITTI-POTTI/井上佳二」の総発行部数は四千万部。

単純売上で・・・二百億円の損失である。

しかし・・・純真な心の思いに水を差さない小泉だった。

惚れているからである。

だが・・・善行を積めば運が開けるという変な宗教的思想にはまっている五百旗頭は・・・今夜も道に倒れた自転車と運転していた老人を援助するのだった。

しかし・・・運命の神様は・・・五百旗頭を・・・ライバル誌の副編集長と密会する高畑の元へと導くのである。

「先生は・・・現状に満足ですか」

「・・・」

「そろそろ・・・描きたいものを描く時期じゃないですかね」

「・・・」

見坊は高畑を誘惑する悪魔の微笑みを浮かべる。

五百旗頭は思い悩む。

偶然を装って・・・割り込むか・・・それとも・・・知らないフリをして様子を見るか。

しかし・・・そこに梨音が現れ・・・五百旗頭に声をかける。

結局・・・梨音と密会しているところを高畑に発見されたような・・・最悪の事態に・・・。

「新しい作品の話ですか」

「そうだ・・・」

「しかし・・・掛け持ちは難しいでしょう」

「そうなるかもしれん・・・」

「黒沢と情報を共有して・・・」

「あいつには言うな・・・」

「え・・・」

「あいつは泣くに決まってる」

一方、心は「タイムマシンにお願い/牛露田獏」の作者の娘である後田アユ(蒔田彩珠)にちょっとしたアルバイトを紹介したことを和田編集長に紹介する。

「学習誌の中学生座談会に参加してもらうんです」

「キスは何年生までに?・・・なんていう如何わしい企画じゃないだろうな」

「そういう企画ではありません」

「じゃ・・・いいけど」

「生活も安定して・・・新聞配達も朝刊だけにしたみたいですし・・・お父さんの漫画が学校で人気になって・・・苛めもなくなったみたいです」

「まあ・・・逆に苛められるかも知れんがな・・・」

ここは・・・さりげない後半のネタフリである。

心のアドバイスによりスランプを脱出した中田伯(永山絢斗)はアシスタント仲間の沼田(ムロツヨシ)などをモデルとした脇役のキャラクター設定を進めていた。

しかし・・・女性キャラクターのモデルがいないためにまたも躓くのだった。

「女性ですか・・・」

「心さんだと・・・なんかイメージが違うので・・・」

これは・・・心が相当な美人ではないから無理というのではなく・・・中田にとって心は女神だからである。

中田は「ピーヴ遷移」のヒロイン「あすみ」に相応しい理想の女性を求めて街を彷徨う。

そして・・・何度か街を彷徨う梨音とニアミスするのである。

一方・・・心は「ピーヴ遷移/中田伯」の連載を始めるための企画書にトライする。

「私が今一番読みたい漫画です」という心の企画意図に・・・「もう少し知恵を絞れ」と苦言を呈する五百旗頭だった・・・。

「ただの読者と編集者は違う・・・中田伯の伴走者にならなければ・・・一緒に走ったことにならない」

「漫画家は・・・ランナー・・・読者は沿道の観客ですか」

「そもそも・・・ピーヴってなんなんだ・・・」

「・・・」

道行く女性の路上スケッチを開始する中田・・・。

明らかに不審者である。

たちまち職務質問を始めようとする警官だった。

中田は逃亡し・・・公園の植木の影に潜む。

三蔵山(小日向文世)の仕事場に泥だらけで戻って来た中田・・・。

優しい三蔵山夫人(千葉雅子)は「洗濯するからお脱ぎなさい」と声をかける。

夫人に肩を触られ・・・幼児虐待による心的外傷(トラウマ)が疼き・・・フラッシュバックを展開して幼児退行する中田だった。

「触るな・・・くそばばあ・・・そんなことを言って・・・俺を支配するつもりなんだろう」

唖然とする一同。

三蔵山は優しく注意する。

「それは・・・言いすぎですよ・・・私の妻に失礼です・・・謝罪しなさい」

「・・・す・・・すみません・・・でした」

中田は乖離しようとする自分自身を必死に制御するのだった。

三蔵山は心に事態を報告する。

「彼は・・・幼少時に・・・母親に鎖に繋がれて虐待されたことがあるらしい・・・それが今の彼を呪縛する心の監獄になっているのでしょう」

「アシスタントを・・・辞めた方がよろしいでしょうか」

「いいえ・・・その必要はありません・・・私も妻も彼を見守っていくつもりです」

「ありがとうございます」

「彼は・・・自分の心にある恐怖心と・・・ずっと戦っているんだと思いますね」

「恐怖心・・・」

高畑から・・・心に配送品が届く。

一日早く、完成原稿と・・・次回分のネームが届いたのだ。

「前回のお詫びだ・・・ゆっくり美味しいものを食べてくれ」というメッセージとグルメカード五百円分が添えられていた。

「うれしい・・・」と歓喜する心。

しかし・・・五百旗頭は・・・エンペラーの影について・・・注意を促そうとする。

だが・・・心は・・・メッセージ・カードの痕跡を発見する。

「一枚上のメモに書かれた文字が・・・鉛筆でなぞると浮かび上がるトリック」である。

古典この上なし!

「エンペラーのためのネームを見坊に渡す」

「引き抜きか!」

色めき立つ編集者たち。

「どうしましょう・・・」

「漫画家を縛る権利はない・・・」と五百旗頭。

「馬鹿なことを言うな・・・縛らないでどうする・・・」と安井昇(安田顕)・・・。

「しかし・・・」

「稼ぎ頭の高畑先生を引きぬかれて・・・雑誌が売れなくなって・・・そのために廃刊になったら・・・お前、責任とれんのか」

「・・・」

「井上先生の二の舞は御免だぜ」

「私・・・行きます」

高畑は・・・夢中でネームに取り組んでいた。

梨音は目算が外れてがっかりする。

「ツノひめさま」の連載が終われば・・・もっと構ってもらえると思っていた梨音だった。

「つまんない・・・私・・・出て行く」

「出て行けばいい・・・」

「・・・」

「お前にはいつも試され続けた・・・だから・・・今日は俺が試してやる」

「・・・」

「出ていけ」

梨音は荷作りして出て行った。

梨音は「漫画」に負けたのだ・・・勝負する相手を間違えているという考え方もあります。

しかし・・・梨音が出て行くとやはり凹む高畑だった。

五百旗頭は見坊と対峙する。

「描くのは編集者ではなく漫画家ですからねえ」

「・・・」

「知ってますか・・・井上先生の担当・・・私だったんです」

「・・・」

「あの先生・・・酔うといつもあなたの話をします」

「・・・」

「五百旗頭には裏切られた・・・連載を土壇場でキャンセルしたし・・・エンペラーに行く俺を引きとめもしなかった・・・俺はあいつに見捨てられたことを一生怨んでやるって」

「えええええええええ」

五百旗頭は離婚した妻の言葉を思い出していた。

「あなたって・・・理性的なのかどうか知らないけど・・・一言足りないのよねえ」

五百旗頭は・・・言うべきことを言わないと・・・意図が伝わらないのだと思い知った。

まあ・・・見坊の作り話の可能性もありますが・・・。

五百旗頭は路上で叫んだ。

「なんて日だ」・・・おいっ。

編集部に・・・中田がやってきた。

「心さんに・・・相談が・・・」

五百旗頭が対応する。

「今・・・ちょっと留守で・・・」

そこに梨音がやってくる。

「今夜、あなたのところに泊めて」

「それは無理です」

「じゃあ・・・ホテルとってよ」

「高畑さんは・・・」

「仕事していて遊んでくれないの」

「・・・」

高畑を尊重して・・・何もしない・・・ではいられなくなった五百旗頭である。

五百旗頭は走りたい衝動に駆られる。

一方で梨音を見つめる中田・・・。

モデル発見か・・・と思わせておいて・・・中学生座談会に出席するために後田アユがやってくる。

「あなたも・・・漫画家」と中田に声をかけるアユ。

「はい・・・」

「もしも・・・売れても調子にのらない方がいいよ」

「はい?」

「印税は貯金しなさいね」

「・・・」

凍りついた中田だったが・・・ついに・・・ヒロインのモデルを獲得したらしい。

その場でガリレオと化す中田画伯・・・。

アユにそっくりの・・・ヒロイン誕生である。

高畑を急襲する心・・・。

「先生にお話しがあります」

「五百旗頭の奴・・・口止めしたのに・・・」

「違います・・・これが証拠です」

「火曜サスペンス劇場かっ」

「凶器は氷ではありません」

「泣かないのか・・・」

「描きたいものを描くのは漫画家の権利です・・・しかし・・・読者のために・・・いい加減なたたみ方はさせませんよ・・・終わらせるとしても最高の最終回を描いてもらいます」

涙目の心に高畑は呟く。

「新しいネーム・・・見るか」

「拝見します・・・」

しかし・・・そこにあったのは「ツノひめさま」のネームだった。

「新しいものを描こうとしたけど・・・浮かんでくるのは・・・彼女のことばかりさ」

「先生・・・」

「これから・・・見坊に会って・・・今回の話はなかったことにしてくる」

五百旗頭に報告する心だったが・・・会話は途中で切れる。

五百旗頭は走っていた。

息を切らして見坊と高畑の席に到着する五百旗頭・・・。

「ち・・・違うんです・・・」と心が制止するが・・・。

「私は・・・ツノひめさまが・・・大好きです」

告白する五百旗頭だった。

「俺もだよ・・・」と高畑。

「私もです」と心。

「昔・・・俺はオンボロの自転車に乗ってました・・・でも気がつくとそいつは超豪華なジェット旅客機になっていたんです・・・みんなを乗せてもっともっと飛びたいと思うんですよ」

高畑は見坊の愛に応じられないことを詫びた。

「わかりました・・・今回は引き下がります・・・しかし、私はあきらめたわけではありませんよ」

悪魔のように微笑んで立ち去る見坊である。

「私は他人の恋路を邪魔するほど野暮ではない・・・しかし・・・恋はいつか醒めるものですからねえ」

つまり「畜生、おぼえてやがれ」である。

梨音はディスプレーされたツノひめさま等身大看板を睨みつける。

「二次元野郎たちめ・・・バカばっか・・・」

もちろん・・・ツノひめさまのモデルは・・・梨音なのであろう・・・。

同性愛者マニアたちは・・・高畑と五百旗頭のおっさんラブに萌え・・・アリス愛好家は中田とアユの出会いに萌える。

しかし・・・基本はみんな二次元が好きなのだな。

まだまだ・・・一般的なお茶の間の空気感とは違うんだな。

まあ・・・面白いけどねえ。

そして・・・連載決定のための定例編集者会議に挑む心・・・。

「ピーヴは・・・人の心の恐怖を狙う兵器です・・・恐怖しなければ平気ですが・・・人は恐怖心に負けて破滅してしまう・・・それに立ち向かうのが主人公です」

「少し・・・線が細い気がするが・・・」と編集長。

「弱い主人公が必死になって戦う姿が・・・日常的に戦い続ける人の心にフィットします」

「・・・」

「ピーヴ遷移/中田伯」の連載が決定した。

三蔵山の仕事場で心からの連絡を受ける中田・・・。

「あああああああああああああ」

「どうした?」

「連載とれました」

「・・・」

「生きていてよかった・・・」

「・・・」

「生まれてきて・・・よかった・・・」

師匠とその弟子たちは・・・無言で・・・天才の誕生を見守るのだった。

こちらでも・・・虐待される中田の回想が欲しいと思わないではない。

しかし・・・回想やナレーションを封じてライブ感覚で戦いたいならそれはそれでいいとも思う。

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2016年6月 7日 (火)

つらい日々の終わり(福山雅治)どうか私と(藤原さくら)消された希望を見つけた僕はなかったことにしようとしたが無理だった(菅田将暉)明日は誰にもわからない(夏帆)

「Soup」は英語である。

日本語の「スープ」は西洋料理の「汁物」を指すという見解があるが・・・それには異論もあるだろう。

たとえば・・・「カレー」はスープではないのだろうか。

「カレー・スープ」はカレー味のスープらしいが・・・どろっとしていたり、具が入っていたらスープでないとしたらコーン・スープの立ち場がない。

「ミソ・スープ」は味噌汁である。味噌味のスープで具はお好みだ。

「スープ」に限りなく近いものに「ソース」がある。

「カレー」はソースだと主張することもできるだろう。

しかし「シチュー」はスープの仲間らしい。

だが、シチューをライスにかけたって問題はないだろう。

パスタにかけたっていい。

そうなると・・・「ラーメン」と「カレーライス」は同じジャンルだよな。

つまり・・・すべての料理はスープってことになるんだな。

人生はスープの如しなんだな。

チャーハンだって炒めたスープだ。

いや・・・チャーハンをスープとは認められない。

チャーハンには別に中華スープがついてないと・・・。

だから・・・あれはスープのダブルなんだってば。

このドラマは時々・・・そういう・・・なにもかも一緒にしてしまうところがあるので好みが分かれるよね。

で、『ラヴソング・第9回』(フジテレビ20160606PM9~)脚本・神森万理江、演出・平野眞を見た。最終回直前でまたもや脚本家チェンジである。ラフなストーリー・ボード(絵コンテ)あるいは「あらすじ」を脚本家と脚本協力者が作り、コンビネーションを活かして木皿泉のような作風の脚本に仕上げる。そういうことは一朝一夕でできることではない。その「雑な感じ」は作品に確実に現れると思う。少なくとも倉光万理江とか神森泰子とかコンビ・ネームにしてごまかせばよかったのに・・・と思う。まあ・・・一話完結ではない連続ドラマでは・・・こういうチーム・ワークは基本的に失敗すると何度でも言うわけである。「相棒」の脚本家チームがそれぞれの味を出すのとは違うのである。

前回・・・天使テンメイ様の記事とのやりとりで・・・読者の皆様にはおわかりいただけたかもしれないがあえてもう一度、分析しておこう。

浜辺の吃音天使降臨のシーンである。

どこにでもいる吃音少女A(志村美空)が現実的な存在だとしたら唐突すぎるし、さくらの夢の中に登場する少女時代のさくら(志村美空)だとすれば難解すぎるのである。

「わかる奴だけわかればいい」という姿勢で処理するにはあまりにも重要なシーンなのである。

なぜ・・・さくらが・・・「過酷な現実」の呪縛から解放されて・・・「まだ見ぬ未来」に向かって自由に進むようになったのか・・・ほとんどのお茶の間が置き去りにされてしまうのである。

もう少し・・・・わかりやすく作ろうよ・・・前衛芸術じゃないんだから・・・。

このドラマには「回想シーン」の不足が目立つ。

一つは主人公の神代広平(福山雅治)と宍戸春乃(新山詩織)の「過去」である。

ここまで・・・じっくり見続けてうっすらとわかったのは・・・広平と春乃がアマチュアバンド時代に恋人関係にあったこと・・・春乃だけが桑名喜和子(りりィ)の「グリスターミュージック」からデビューしたこと・・・そして音楽活動を中止した広平が大学に復学したこと・・・そして、音楽活動をもう一度春乃としたいと決意した広平が再会しようとして・・・死亡事故が発生したことである。

おそらく・・・脚本家の意図は「どうということのない出来事」がいかに広平にとって「特別な出来事」だったかを示すために・・・隠し続けたということであろう。

だが・・・それは・・・創作者の「逃避」に過ぎないのである。

「過去の呪縛」を描かなくては・・・現実から逃避する広平がお茶の間に伝わらない。

もう一つは「捨てられた子供たち」である・・・佐野さくら(藤原さくら)と天野空一(菅田将暉)そして中村真美(夏帆)の微妙な関係である。

第一話で語られた・・・さくらの過去へ遡る旅の終着駅は・・・養護施設で吃音症で挨拶する幼いさくらだった。

空一はさくらの「変な言葉」を嘲笑し、さらには苛める。

一方で真美はさくらの「孤独」を感じ取り、空一を頭突きで征伐するのである。

やがて・・・三人は・・・「親に捨てられた子供」という共通点で結びつき・・・共同体を形成する。

さくらにとって真美はかけがいのない保護者。

両親を知らない真美にとって母親と死別して父親に捨てられたさくらは「憧れ」と「共感」を秘めた宝物。

そして・・・空一は可愛いさくらを苛めた罪を背負う贖罪者なのである。

空一はさくらを支配するために・・・努力を惜しまないが・・・原点が示す「悪」の呪縛に苛まれる。

「親に捨てられた気持ち」から生じる怨みから・・・逃れられず・・・結局はさくらの足を引っ張ることしかできない。

今回・・・空一は・・・ついに・・・広平の中に「見返りを求めない善」を見出し屈服するのだが・・・「さくらを苛めて真美に制裁された空一」の強調がなければ・・・その「愛」の独善性はお茶の間に伝わらないし・・・その存在の「哀しさ」も理解されないのではないかと危惧するのだった・・・。

少なくとも・・・さくらには・・・「最初に与えられた屈辱」がずっと存在しているのだから。

さくらにとって空一はいつ裏切るかわからない・・・改心した悪党なのである。

さくらと空一を抱える真美の苦悩や怒りもほとんど伝わっていないわけである。

さくらのデビューをつぶした空一に怒り、さくらの秘密を隠した空一に怒るのは・・・幼い空一を粉砕して流した血の痕跡なのである。

真美の一撃により虚しく画面から消えて行く空一こそがこのドラマの要であり・・・何度でも繰り返すべきだったと考える。

広平を呪縛する春乃の記憶と・・・捨てられた子供たちの思い出・・・この二つの回想をもう少しちりばめたら・・・もっとわかりやすいドラマになったと考えます。

特に前回、音楽によって「回心」してしまったさくらと・・・罪を悔み「改心」し続けようとする空一の差異にもう少し触れれば・・・同じ心を持つ広平の謎も解明されるはずである。

「過去の大切な歌姫・春乃」と訣別し「現在の大切な歌姫・さくら」の存在を受容した広平は「現実世界の世界的な歌姫・CHERYL(Leola)」と対峙する。

「どんな歌をお望みですか・・・」

「売れる歌を・・・」

「まあ・・・私が気に入って歌えば・・・それが売れる歌なんだけどね」

「・・・わかりました・・・あなたのために歌を作ります・・・ただし・・・一つだけ条件があります」

「私に条件を」

「もし・・・あなたの気に入った曲が作れたら・・・その時は・・・あなたの言葉で・・・佐野さくらの曲を紹介してもらいたいのです」

「佐野さくら?」

「あなたが気に入ってくれた歌のアーティストです」

「なるほど・・・それが・・・あなたのお気に入りっていうわけね」

「・・・」

「いいわよ・・・私が気に入ったものを・・・隠す必要なんかないもの・・・素晴らしいインターネットの世界の私のサイトから画像共有ソフトで情報フィルタリングしてあげる」

「ありがとうございます」

「どんな曲ができるのか・・・少し楽しみ」

「はい・・・」

広平は・・・愛する佐野さくらのために・・・タイトロープを渡った。

スケジュールがタイトなCHERYLは送迎の車で走り去る。

笹裕司(宇崎竜童)の経営するライブハウス「S」に到着した広平。

「ダメじゃないの・・・あなたが一番聴かなきゃならないライブでしょ」

広平に対する恋心を・・・亡き姉への思い入れとして処理した言語聴覚士・宍戸夏希(水野美紀)は爪を隠して広平を詰る。

「その通りだ」

自分の言葉ではなく・・・さくらへの思いを肯定した広平を感じ、痛みを感じる夏季である。

とにかく・・・守秘義務を超越して・・・音楽家は皆家族という信仰心で挑む耳鼻咽喉科の増村泰造医師(田中哲司)・・・。

「さくらちゃんの声が残る確率は統計医学の見地から・・・10%程度しかない」

「残り九割が絶望なんて・・・どんな計算よ・・・」

「十人に一人に奇跡が起きるってことだ」

「・・・」

そこへ・・・さくらと空一が戻ってくる。

「忘れ物しちゃいました」

「やあ」と微笑む広平。

さくらは広平に微笑みを返す。

「おおおおおお遅いじゃないですか」

「すまない」

二人に通いあう特別な空気に目が眩む空一。

「いまさら・・・用無しなんだよ・・・」

空一は・・・さくらを広平から引き離し・・・店を出る。

そこにあるのは・・・さくらの幸せを願う気持ちではなく・・・さくらの気を引きたい恋心だけがある。

つまり・・・空一の心は・・・男の子に特有の好きな人を苛めたい気持ちに満ちているのである。それは・・・幼い頃から・・・何一つ変わっていないのだ。

おそらく・・・さくらは空一の気持ちにずっと気がついている。

しかし・・・広平にこっそり添い寝をしてみたくなるような衝動を空一には感じない。

なにしろ・・・空一は・・・幼馴染のダメな奴なのである。

可愛いが・・・好きにはなれない。

さくらは・・・ギターを磨く。

真美の去った部屋は寂しいので空一がいることは拒否しない。

しかし・・・空一と同衾はしないし、求められてもキスはしないのだ。

「メメメメッセージビデオが撮りたい」

「え」

「ままま真美の結婚式・・・」

「そんなの・・・ダメじゃ・・・まるでしゃべれなくなることが前提みたいじゃろ・・・悪い方に考えたら悪くなるんじゃ」

「いいいい一割しかないって・・・声が残るんは」

「え」

「もももももう・・・無くなるのも同じじゃ」

「さくら・・・お前・・・やりたいことあるか・・・やりたいこと・・・全部やろう・・・」

「・・・」

「これに書き出せ」

さくらはメモに「やりたいこと」を書き込む。

・ジェットコースターにのりたい

・お笑いライブが見たい

・路上ライブがしたい

・曲を一緒に作りたい

最期の願いを書いて消すさくら・・・。

空一は・・・消された願いを読みとるが・・・気がつかなかったフリをする。

好意的に考えれば・・・それが叶わない願いと考えたから・・・ということになるが・・・何を隠そう独占欲から生じる嫉妬に他ならない。

できれば・・・自分の好きな人の好きな人を削除したい空一なのである。

だが・・・基本的に根性無しの空一には無理な話だった。

さくらの手術は6/20の月曜日。

真実の結婚式は9/25の日曜日である。

さくらは・・・ビデオ・メッセージの中で・・・真美のためにオリジナルソングを歌いたくなった。

「ビッグモービル」のさくらの仕事場で・・・さくらの忘れものを渡す広平・・・。

「のどの調子はどう・・・」

「へへへ平気です・・・」

「僕にできることがあれば・・・」

「せせせ先生は・・・CHERYLの歌をしあげてください」

「・・・」

「わわわ私も・・・歌を作ろうと思うんですけど・・・無理ですかね」

「そんなことはない・・・素晴らしいことじゃないか」

「・・・」

さくらの笑顔。

広平の中で気持ちが蠢く。

さくらは・・・上司の滝川(木下ほうか)に「手術の日程」と「休暇願い」を告げる。

「手術って・・・」

滝川はさくらの就職を斡旋した野村健太(駿河太郎)に相談し・・・野村は婚約者にさくらの手術について問い質す。

頭に血が昇った真美は空一を問いつめる。

「なんで・・・そんな大事なこと隠し取ったんじゃあ」

「だって・・・泣きながら・・・さくらが真美にはいうなって言うから・・・」

「それでも・・・こっそり打ち明けるのが大人ってもんじゃろうが・・・お前はさくらと二人だけの秘密が欲しかっただけじゃろう」

「ごめんなさい・・・」

「本当にいつまでたっても器の小さい男じゃの」

「・・・」

広平にとっての天使である湯浅志津子(由紀さおり)が「神の言葉」を告げる。

「あら・・・あなた・・・まだここにいたの」

「はい」

「私にとってあなたは・・・ただのカウンセラー・・・カウンセラーなんて誰でもいいのよ」

「・・・」

「あなたにはあなたしかできないことがあるはず・・・」

「そうですね」

「あなたのいるべき場所に戻りなさい」

「ありがとうございます」

認知症患者である志津子に罵声を浴びることもある看護師(武田玲奈)は車椅子を押しながら広平に微笑んだ。

認知症患者の言うことを否定しないのはカウンセリングの基本である。

まあ・・・そんな会話の不毛さに生きているのが嫌になることもあるがな。

だが・・・広平の心には・・・神の言葉が響くのだった。

広平はさくらの部屋へと走る。

しかし・・・あいにくさくらは入浴中で・・・「障害者」としての空一が立ちはだかるのだった。

空一は・・・さくらから広平を引き離す。

「何しにきたんだよ」

「君にじゃなく・・・さくらくんに話があるんだ」

「さくらは・・・今・・・入浴中だよ・・・俺たち付き合ってんだ・・・邪魔しないでくれよ」

口から出まかせにも程がある空一だった。

「じゃあ・・・伝えてくれ・・・また一緒に曲を作りたいと俺が言っていることを」

「・・・わかった」

さくらの願いと広平の願いが一致していることを・・・もちろん・・・受けとめられない空一は・・・メッセンジャーとして・・・広平の伝言を握りつぶすという暴挙に出るのだった。

「恋愛の年齢差」にこだわる「お茶の間」はそれでも空一を応援します。

主人公の気持ちを素直に応援できるお茶の間を育てないのは脚本家のミスです。

なにしろ・・・何を考えているのかわからない・・・主人公なのである。

「だだだ誰か来たの?」

「新聞の勧誘だよ」

「ずずず随分しつこかったな」

「本当だよな」

広平はCHERYLを直撃する。

「今日はおわびに来ました」

「?」

「私の大切な人にとって・・・大事な一ヶ月なのです・・・私はその人のために・・・すべてを捧げることにしたので・・・あなたの曲は作れません」

「佐野さくらのために・・・曲を作るのね」

「そうです」

「どんな曲ができるか・・・楽しみよ」

「ありがとうございます」

「でも・・・私が歌った方が売れるわよ」

「・・・」

「ビッグモービル」で・・・広平と合作した「好きよ 好きよ 好きよ」を口ずさむさくらに声をかける広平・・・。

「返事を聞こうと思って・・・」

「へへへへ返事って・・・」

「ああ・・・勘違いだった・・・忘れてくれ・・・」

広平は空一の気持ちを察して・・・自制するのだった。

なにしろ・・・「さくらと空一」はお似合いの二人で・・・「年寄りの冷や水」は危険なのである。

空一はさくらと遊園地に行った。

ジェットコースターを楽しむさくら。

空一は恐怖を感じる。

催し物会場では「お笑いライブ」が実演されていた。

さくらは笑った。

空一は心から笑えない。

「路上ライブ」に事務員の渡辺涼子(山口紗弥加)を誘う空一。

「残念だけど・・・その日、子供の面会日だから・・・」

「そうすか・・・」

「それに・・・行ったら新宿のラブホの話をしてしまいそう・・・」

「勘弁っす」

空一・・・本当にダメな男だな。

それでも・・・空一は・・・無許可の路上ライブのステージをさくらのために用意する。

ダメだけど・・・憎めない男なのである。

「あれれ・・・あそこでなんかやっている」

空一は客引きとして・・・さくらの役に立つ・・・そういう器の人間なのだ。

まりぶとはいい友達になれるだろう・・・。

さくらは・・・千円札を稼ぐが・・・警備員に見咎められ・・・路上から逃げ出す。

その千円札で・・・さくらと空一は牛丼屋に入る。

店主(山崎樹範)はここで重要な出来事が起こることを暗示するキャスティングである。

店にはラジオが流れている。

「次は・・・素晴らしいインターネットの世界で・・・CHERYLさんがお気に入りの曲として紹介して話題のこの曲です」

流れ出す・・・「好きよ 好きよ 好きよ/佐野さくら」・・・。

広平の熱意に応じるCHERYLの善行・・・。

茫然とするさくら・・・。

空一の心の器は壊れた。

あふれだす・・・善なる魂の叫び・・・。

「すげえ・・・先生・・・あんた・・・凄えな」

「え」

「さくら・・・ここで・・・待っていてくれ・・・絶対だぞ」

「空一・・・」

空一は・・・広平の部屋に走る。

「先生・・・あそこの牛丼屋知ってる・・・」

「知ってるぞ・・・」

「急いで・・・行ってくれ・・・さくらが待っているから」

「わかった・・・」

後を追おうとした空一だったが・・・ドアが施錠されていないことに気がついて動けなくなるのだった。

心の器が壊れた空一の心は善で満たされ・・・愛する人の愛する人の部屋で留守番せざるを得ないのである。

広平は・・・さくらと邂逅した。

「君と一緒に音楽がやりたい」

「・・・」

「ダメかな・・・」

「ややややる・・・やります・・・」

「音楽は世界を変えたかな」

「すすす少し・・・きれいになりました」

「ご注文は・・・」

「牛丼のとくとくてっぺんの大盛り肉中冷や盛りつゆじゃぶじゃぶ」

「おおお美味しそう」

「食べたくなるだろう」

「そそそそれはスープですか」

「カレーライスだってスープだもの」

「たたたたぬきうどんは」

「スープです」

部屋に戻ったさくらと広平を鬼の形相で真美が待っている。

「マママママミ・・・」

「さくら・・・なんで隠しとったの・・・」

「まままま真美の幸せに水を差しとうなかったんじゃ」

「それが冷たいと言うとんのじゃ・・・目え瞑れえ」

「・・・」

「開けてもええじゃ」

真美はカレンダーを差し出す。

「結婚式は・・・手術の前にやる・・・」

「え・・・しししし式場は・・・のののの野村さんの家の人は・・・」

「あの人はやる時はやる人なんじゃ・・・」

「・・・」

「スピーチ頼んだぞ」

さくらの夢の歳月が始る。

あの時のように・・・大好きな広平と・・・夢中で曲を作る。

歌ってもいい場所でたくさんの聴衆に向かって歌う。

鍋の中で煮込まれたスープのように・・・食欲を誘う日々・・・。

さくらは輝く・・・。

広平と音楽と・・・そして残された日々の中で・・・。

どこまでが現実でどこからが夢なのかよくわからないけれど・・・。

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2016年6月 6日 (月)

支配するものが心変わりするというのなら誠実であることに意味なんかなくなってしまうじゃない(長澤まさみ)

安全保障というものが相互の信頼に基づき・・・実行されれば・・・何の心配もないわけである。

しかし、親が子を殺し、兄が弟を殺す戦国時代には信頼を築くことは・・・非常な困難を伴う。

家康は同盟者の信長に命じられ妻子を殺処分している。

信長は家康に家族を殺させることで・・・なんとか・・・信頼を得ようとしたわけである。

つまり・・・家康の信用度を試したのだ。

現代では理解の難しい関係性と言えよう。

そして、家康は妻子を殺害することで・・・「律義」という「カード」を手に入れる。

武将が主従の誓いをすれば・・・その証として・・・「人質」が交わされる。

武将同志の「婚姻関係」はその延長線上である。

血縁であっても殺し合うのだが・・・血縁がないよりは安全性が高いという祈るような気持ちの発露だ。

家康が殺した正室は旧主であった今川家の血筋である。

家康は幼少時代を今川家の人質として過ごした過去がある。

その頃、今川家と北条氏は同盟中で・・・今川家の本拠地だった駿府には北条氏規も人質となっていた。家康の二歳年下である。

氏規の七歳年上の兄が北条氏政である。

氏政や氏規の母は今川氏の娘である。

氏政や氏規の姉は今川氏真の正室なのだ。

それほど・・・混み入った安全保障をしながら・・・結局、今川家は滅び・・・駿府に君臨するのは徳川家康である。

だが・・・この時・・・今川氏真と正室は京の都でのんびりと余生を過ごしているのだった。

戦争と平和・・・そして人の運命は・・・人知の預かり知らぬ展開をするものだ。

今川家を滅ぼした徳川家康の娘が・・・孫の氏直の正室となり・・・そして手切れとなって離縁する。

関東の覇者・北条氏政の母である瑞渓院の運命もまた・・・息子・氏政の決断によって大きく変転するのだった・・・。

で、『真田丸・第22回』(NHK総合20160605PM8~)脚本・三谷幸喜、演出・土井祥平を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は本多忠勝と本多総本家を争う本願寺門徒系三河武士・本多正信のイラスト描き下ろし大公開でお得でございます。謀臣キターッ!・・・なので猛将も待ち遠しいのですが・・・あくまでマイペースでお願いします。妄想代役のもこみち・深キョン父娘は実年齢・娘が二歳年上ですけれど~。「戦だけはなんとか避けたい」と三成が必死なのは「忍城攻めだけはなんとか避けたい」と懇願しているようで妄想的には一同大爆笑でございました。予告篇で一瞬「忍城」というフレーズが聞こえた気がします。映画「のぼうの城」から四年・・・戦下手な石田三成が見られるかもしれないと思うとそれだけで胸が高鳴る今日この頃でございます。名胡桃城代・鈴木主水重則がナレーション死亡だっただけに期待はしすぎないようにしておりますがーっ。それにしても男祭りの中で櫛の仇を握り飯でとるきり・・・抜群のヒロインでございますな。

Sanada022天正十七年(1589年)七月、沼田領問題に秀吉の裁定が下り、利根川の沼田城側を北条家、名胡桃城側を真田家の領土とし、真田家には替地として信濃国箕輪が与えられる。北条氏政は弟の藤田氏邦に沼田城を管轄させる。八月、前田利家は南部信直に上洛を促す。豊臣秀吉による「出羽奥州両国之御仕置」がまもなくあることが通知された。鶴松丸と淀殿(茶々)が大坂城に移り、朝廷は太刀を賜り祝う。九月、秀吉は一万石以上の諸大名に妻子の在京を命令する。十月、秀吉弟の豊臣秀長が聚楽第に正室を置いている例をあげ、大友義統に人質の入京を促す。秀吉は奈良で諸大名・公家衆を従え鷹狩りを行う。十一月、秀長が摂津国有馬で湯治。氏邦配下の沼田城代・猪俣邦憲が名胡桃城代の鈴木主水の義兄・中山九郎兵衛を調略して謀反させ、乗っ取りに成功。主水は城外で立腹にて自害。秀吉は惣無事令違反を名目に北条氏直へ宣戦布告状を発する。同時に秀吉は諸大名に出陣準備を命令。十二月、秀長発病。毛利輝元は毛利水軍の出動を発令。秀吉は聚楽第で越年する。天正十八年(1590年)一月、秀吉は参内し新年を祝賀する。前田利家が正四位下参議に昇進。織田信雄、織田水軍の出動を発令。二月、小田原征伐先鋒部隊出陣。三月、秀吉が京から出陣し、沼津に着陣。

真田忍軍は信濃国上田から上野国沼田に続く真田街道を縄張りとしている。

しかし・・・豊臣家の勃興により・・・京や大坂の真田屋敷に人数を割く必要に迫られ・・・手不足に陥っていた。真田幸村や真田佐助など真田本家の忍びや、出浦対馬守や横谷左近などの昌幸に臣従した武田の忍び、河原衆や山家修験者など海野忍び衆たちは昌幸の命により再編成され・・・二つのグループに分かれていた。

真田信繁を筆頭とする上方衆と・・・真田信之を筆頭とする与力衆である。

いずれにも属さない一部の忍びやくのいちは昌幸の手元に遊撃隊として残された。

すでに秀吉政権の臣下として働く信繫と・・・徳川家康の与力としての真田衆を総べる信幸との緩やかな手切れは・・・始っているのである。

家康の養女を正室とした信幸はもはや・・・実質的な舅である本多忠勝の一門衆としての趣きを醸しだしていた。

昌幸の弟で伯父である信尹は先にに家康に臣従し・・・信幸を補佐する体制となっている。

一方・・・秀吉の馬廻衆である信繫は・・・秀吉の直臣のようなものとなっている。

昌幸は豊臣家に臣従しつつ、徳川家の与力となった真田家が乱世の終焉を迎えた時に生き残る道を模索していたのである。

しかし・・・生まれついての戦国武将である昌幸自身は・・・乱世の終焉そのものを疑わずにはいられない。

秀吉に招聘され上洛の支度を整えていた昌幸の元へ・・・戦死した信綱と昌輝の間の兄で修験者となって諸国を放浪する清鏡が顔を出す。

「これは・・・兄者・・・」

「源五郎・・・久しいの」

「本能寺の変の年以来ですから・・・八年ぶりですか・・・」

「そろそろ・・・気が迷う頃と思って参ったぞ」

「・・・」

昌幸も観相によって・・・将来を見渡す力を持っているが・・・清鏡は修験者としてその道を究める達人である。

「どうじゃ・・・世はまさに・・・乱世の終わりを目指しているだろう・・・」

「しかし・・・信長の死以来・・・死にもの狂いで戦ってこの有様ですぞ・・・」

「それは・・・小さき器の出来事じゃ・・・」

世捨て人のような日常を過ごす清鏡に言われ・・・少し立腹する昌幸だった。

「兄者・・・ひどい言われようじゃ」

「甘えるでない・・・殺すか殺されるかの修羅の世界を生きるものは一瞬の油断が命とりじゃ」

清鏡は微笑む。

その笑みに幼い頃の兄を想起する昌幸は心を引き締める。

「信長が死んでも秀吉が道を継いだであろう・・・」

「しかし・・・秀吉がこのまま天下を丸く治めるでしょうか」

「わしが見るところではもうひと荒れきそうじゃ・・・」

「やはり・・・」

「信長が存命であれば・・・まるで違う世が到来しただろうが・・・日の本の神はそれを許さなかった・・・秀吉が信長を真似ようとすれば・・・いずれ同じ道に至る」

「・・・秀吉も滅びまするか・・・」

「いや・・・秀吉は天寿を全うするのよ・・・」

「そこまで読めますか・・・」

「それがいつかは・・・しかとはわからぬ・・・じゃが・・・十年のうちに乱世は幕を閉じる・・・」

「なんと・・・」

「もちろん・・・ものの終わりが静かとは限らん。それはひとつの極まりなのじゃからのう」

「・・・」

「じゃから・・・お前の好きな戦はまだ残っておる・・・安心いたせ」

「兄者にはかなわんのう・・・」

「信幸と・・・信繫・・・二人の子に忍びたちを分けたことも・・・妙手だと申しておこう」

「ただ・・・成り行きでそうなっただけのことですがのう・・・」

「兄と弟が争う家もあるが・・・真田家では兄弟は助け合うしきたりじゃ・・・信幸も信繫も手を取り合って真田の家を盛りたてるであろう・・・」

「それはなにより・・・」

「じゃが・・・最期までそうなるとは限らん・・・」

「それは・・・」

「わしがお前に申すのはここまでじゃ・・・お前は戦の鬼として・・・乱世の終焉を楽しむがよかろう」

「兄者・・・」

「次に会うのは・・・ここではない・・・その時はお前に引導を渡すことになるかもしれんのう」

「・・・」

「ははは」

「兄者!」

昌幸はうたた寝から目覚めた。

清鏡は羽黒山にいると聞く。

おそらく夢の回廊を通じてやってきたのだろう。

昌幸は秀吉からの上洛の誘いに逡巡するところがあった。

しかし・・・すでに迷いはふっきれている。

「関白殿下が・・・わしの命を狙うことなど・・・ありえない・・・」

妙なことを迷っていたものだと昌幸は思った。

上田を出て二日目・・・美濃を抜けたところで・・・真田佐助が駆けつけた。

「佐助か・・・いかがいたした」

「北条が名胡桃城を攻め落としたのでございます」

「何・・・」

「鈴木主水殿は切腹なされました」

昌幸は・・・秀吉の仕掛けた謀略の匂いを嗅いだ。

「そうか・・・滅ぶのは真田ではなく・・・北条か・・・」

「は?」

「よい・・・急ぎ上洛せねばならぬ・・・」

「上田にお戻りにならぬので・・・」

「お前は上田に戻り・・・幸村に防御を固めろと伝えよ」

「名胡桃の城は・・・」

「捨て置け・・・もっと大きな戦が始るのだ・・・ははは」

昌幸は騎馬忍びたちを引き連れ・・・冬の気配が漂う山中を突っ切り・・・京を目指して疾走する。

真田が秀吉と家康に向き合えば・・・東が手薄になるのは必然・・・。

北条はそこに噛みつき・・・死地に踏み入ったのである。

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2016年6月 5日 (日)

そして彼女の心は僕とひとつになった(福士蒼汰)私の好きなピンクのウサギちゃん(土屋太鳳)白銀の糸を断たれて(門脇麦)

人が死んでいる。

その人に呼びかけても答えない。

その人の息吹はない。

その人の心臓は動かない。

死体を前に人はいつか・・・自分がそうなることに慄き・・・あるいは陶酔する。

その時、自分が消えてしまうことを受け入れられない人は・・・死後の生に思いを馳せる。

誕生の時に・・・母と胎児を繋ぐ臍帯が切断されるように・・・肉体と霊体をつなぐアンビリカルケーブル(命綱)の存在を人々は空想する。

古代イスラエルのソロモン王は「コヘレトの言葉」の中でこれに言及しているとされる。

曰く「人が神の家に帰る時・・・白銀の糸は断たれ・・・肉体は塵となる」と・・・。

臨死体験を語るものの多くは・・・肉体と霊を繋ぐ銀色の紐を幻視すると言う・・・。

で、『お迎えデス。・第7回』(日本テレビ20160604PM9~)原作・田中メカ、脚本・尾崎将也、演出・塚本連平を見た。今季のレビューは日本テレビのドラマが3/7を占めている。大河ドラマを除けば50%という高い値である。もちろん・・・そこには「コメディー」としての好みの問題もあるし・・・三本のドラマの棲み分けのバランスの良さもある。「世界一難しい恋」は実にオーソドックスなラブコメだし、「ゆとりですがなにか」は童貞やビッチがドタバタするスラップスティック・コメディである。そして・・・「お迎えデス」は死後の世界を絡めたファンタジック・コメディーと言えるだろう。いわばコメディーの品揃え豊富なラインナップなわけである。ファンタジーはなんでもありになりがちなので・・・ドタバタだったり、ホラーだったり結構揺れまくっているが・・・基本は少女マンガの求めるロマンチックが主眼である。終盤に入り・・・死後・・・家族・・・誕生というヒューマニズムな問題を遡上して・・・いよいよ・・・青春篇に突入するわけである。「死んでしまった彼女」と「生きている彼女」を巡り主人公がモヤモヤするのだな。朴念仁の主人公がついに・・・その気配に気がつく今回なのである。まあ・・・「結婚できない男」に比べて・・・ファンタジーの道の険しさを脚本家は実感したことだろう。

悪霊と化した矢島美樹の亡霊(野波麻帆)の念力攻撃により・・・重傷を負った阿熊幸(土屋太鳳)は入院中に幽体離脱する能力を発現させる。それを知った死神一課のシノザキ(野間口徹)とマツモト(根岸拓哉)は死神二課からの離脱と一課への勧誘を幸に申し出る。

「お断りします」

幸は死神二課のナベシマ(鈴木亮平)に特別な思いを抱いているのだ・・・。

一方、死神一課と二課からの追及を逃れる脱走幽霊である千里(門脇麦)は堤円(福士蒼汰)の家に居候中である。

リアルでは健全な青年である円の性欲処理の問題などで不都合が生じるがファンタジーなのでそこはスルーである。

つまり「可愛い幽霊と同居中なのでオナニーくらい我慢しろ」なのである。

千里は堤家を彷徨う霊として・・・円の家族も観察している。

円の母親である由美子(石野真子)の異変を円に報告するのである。

「お母さんが泣いています」

「え・・・」

連れ子同志の再婚である堤家は・・・。

由美子と息子の円が血縁で・・・。

堤郁夫(大杉漣)と娘のさやか(大友花恋)が血縁である。

郁夫は庭で日曜大工中であり・・・さやかが騒音についてクレームをつけている。

一方で由美子がキッチンの片隅で泣いているのである。

「お母さん・・・どうしたの・・・」

「お父さんの背広から女物のハンカチが・・・」

「まあ・・・不倫なんていやらしい」とたちまち結束する血の繋がらない母と娘。

「私は・・・不倫なんかしてないよ」と反論する郁夫。

「まあまあ・・・不倫していないものが・・・していないことを証明するのは・・・白いカラスがいないことを証明するくらい難しい」

「まあ・・・男同志で結束して・・・」

「じゃあ・・・このハンカチはなんなのよ・・・」

「そ・・・それは・・・」

追いつめられた郁夫は心臓発作を起こすのだった。

「え」

「お父さん」

「えええ」

「救急車」と千里は叫ぶ。

郁夫が緊急搬送された病院は・・・幸の入院先だった。

幸の両親は離婚しているが・・・この病院の院長の山下医師(飯田基祐)は離別していた父親である。

そして・・・死神一課に所属人間で悪霊浄化能力を持つ魔百合(比留川游)は病院の給食センターの職員である。

こういう偶然の出来事はいろいろとアレだが・・・ファンタジーなので仕方がない。

早期蘇生処置により・・・一命をとりとめた郁夫だったが・・・意識不明の重態である上に・・・のほほんと幽体離脱をしてしまうのだった。

「え・・・」と驚く円だったが・・・霊視能力を持たない母と妹には郁夫の姿は見えないのである。

円は郁夫を連れて幸の病室へ相談に訪れる。

女子大生の真奈美(松川星)と佳織(小林璃央)が「スイーツ」を持ってお見舞い中である。

「幸さんに・・・話が・・・」

「ああ・・・私たちお邪魔でしたか・・・」

「いえ・・・そうじゃなくて」

いつものリフレインがあって・・・女子大生コンビの出番終了である。

「お父さん・・・亡くなられたの・・・」

「いや・・・生きているんだけど・・・」

「じゃ・・・幽体離脱・・・」

「一体・・・なんのことやら・・・」

そこで・・・円と幸は自分たちの特殊能力と・・・死神の下でのアルバイトについて説明する。

「アルバイトって・・・時給いくらなの?」と郁夫はお茶の間が聞きたかったことを聞くのだった。

「そういえば・・・まだ・・・もらってない」

「それじゃ・・・アルバイトじゃなくて・・・ボランティアじゃないか」

容赦なきツッコミである。

そこへ・・・ナベシマとゆずこ(濱田ここね)が現れる。

郁夫は事態を説明するのだった。

「時々・・・そういう気の早い人いるんですよね」

「じゃ・・・私は死ぬんですか」

「そういうことは死神の管轄外なんです」

・・・どんな死神なんだよ。

「ところで・・・息子はアルバイトしているそうですが・・・」

「ええ・・・大変だけどやりがいのある仕事ですよ」

「アルバイト代は・・・」

「息子さんは有能で素晴らしい実績をあげています」

ブラックなのか・・・ブラック死後の世界なのか・・・。

「・・・」

「とにかく・・・肉体に戻った方がいいですね」

「どうやって・・・」

「肉体と幽体を重ねて・・・えいっと念じると戻りますよ・・・」と幸。

「幸っちゃん・・・どうしてそんなことを」とナベシマ。

「私・・・幽体離脱能力が備わったんです」

円の憑依能力に対してライバル意識のある幸は・・・ナベシマに能力・・・自分の存在意義をアピールする。

「ほら・・・こうすれば・・・ナベシマさんにも普通に触れます」

「ダメだ・・・」

「どうして・・・」

「幽体離脱は人体に悪影響を及ぼすという死神界の常識がある」

「人間界でもそういう研究があるけれど・・・幽体離脱そのものが疑似科学現象なので・・・あくまで噂レベルですけどね」

「でも・・・」

「とにかく・・・早く・・・ボディーに戻りたまえ」

「・・・」

一方・・・ナベシマの目を逃れた千里は魔百合に発見されてしまう。

シノザキとマツモトも駆けつけ・・・病院内で逃走劇が繰り広げられる。

こういう要素はもう少し早い段階で欲しかったな。

幽霊と生身の人間、そして死神の追いかけっこは・・・病院中で繰り広げられるが怒られるのは「病院内で走る魔百合」だけである。

ナベシマとゆずこは幸の病室を出る。

「サっちゃんのこと・・・気になるのね」

「上手く・・・思い出せないけど・・・生きていたころの大事な誰かのことが思い浮かぶんだ」

「・・・」

生前のナベシマと幸の関係も未だ謎なのである。

それを隠していることが効果的だといいんだけどねえ・・・。

ちなみに・・・このドラマの臨機応変な感じのする設定では・・・死神も・・・特別な資格を何者かによって与えられた亡霊の一種らしい。

設定がアバウトにも程があるよね・・・。

ついに院内での逃走劇に気がつくナベシマとゆずこ・・・。

「一課より先に千里の幽霊をつかまえないと」・・・二課の存続が危うくなるのである。

追いつめられた千里は円の中に逃げ込むのだった。

「ごめん・・・」

「千里・・・」

千里に憑依される円。

はっきりと表現されないが・・・ここで円は・・・生前の千里の記憶を共有したと思われる。

「今・・・ここに女の子の幽霊が来なかったか・・・」とナベシマ。

「誰も・・・来ませんよ」と千里の口調で答える円。

ナベシマは事態を察するが・・・意味深な言葉を残して見逃すのだった。

「いつまでも・・・しがみついていると・・・ますます離れ難くなるのになあ・・・」

幸の病室ではいつもミラノに出張している母親(高岡早紀)と父親が遭遇。

「娘とお気に入りの医者をお見合いさせるだなんて・・・相変わらずね」

ナベシマの役に立つはずの能力をナベシマに否定されて投げやりな気分の幸だった。

「私・・・どうでもいいから・・・お見合いしてみようかな」

「そんな気持ちでするなら・・・お断りだ・・・相手に失礼だろう」

父親は・・・娘を嗜める。

娘に教育的指導をしているようにも・・・やはり病院経営第一主義にも見える・・・微妙な発言である。

そもそも・・・離婚後・・・この父親が娘を放置していたのは明らかなのである。

ずっと脚本が甘めなのだが・・・まあ・・・ファンタジーだからな。

肉体が生死の境を彷徨っているのに郁夫は病院内を散策中・・・そして例のハンカチの持ち主が・・・由美子によって発見される。

「あなたは・・・」

「私・・・さやかの本当の母親です」

「え・・・」

「私・・・今、再婚して・・・結構・・・裕福な暮らしをしていまして・・・」

「はあ・・・」

「今さらなんですけど・・・さやかを引きとりたいと・・・郁夫さんに申し出たのです」

「なんですって・・・」

「それが・・・こんなことになるなんて・・・」

「まさか・・・あなたがハンカチの持ち主」

「ええ・・・カフェで水をこぼしてしまって・・・」

「それで・・・」

「郁夫さんがもし・・・亡くなったら・・・血の繋がっていないあなたと・・・息子さんとさやかが一緒に暮らしていく理由がなくなるでしょう・・・これ・・・私の連絡先です・・・さやかに私の気持ちを伝えてください」

「そんな・・・」

「ふざけるなっ」と激昂する郁夫だったが・・・円以外の誰にも聞こえないのだった。

そして・・・産みの母と育ての母のやりとりをさやかは聞いていた。

動顛した由美子は・・・さやかに・・・連絡先を渡してしまう。

「あなたに・・・選ぶ権利があると・・・思うから・・・」

「・・・お母さん」

「何を馬鹿な・・・あの女は幼いさやかを平気で捨てたんだぞ・・・そして・・・男と駆け落ちしたんだ」

女房に逃げられた郁夫の哀しい過去だった。

顔も覚えていない母の突然の登場に動揺したさやかは・・・つい連絡してしまい・・・実母(山下容莉枝)に呼び出される。

「円・・・なんとかしてくれ」と血の繋がらない息子に哀願する郁夫。

「僕がですか」

「お前だって・・・さやかの兄だろう・・・」

「・・・」

こうして・・・円と郁夫・・・そして千里はさやかの追跡を開始する。

「白銀の糸」(肉体と幽体を繋ぐ命綱)は幸の場合・・・かなり短めだったが・・・郁夫の場合は長めである。

個人差があると解釈してもいいが・・・設定が適当な感じは否めない・・・だけどどうせファンタジーだからな。

「幽体」としては「白銀の糸」を車椅子で轢かれたりするのは嫌な感じがするものらしい。

「やめてよ」と叫ぶ郁夫だった・・・かわいいぞ。

まあ・・・子を想う親心が「まぼろしの汽車」を呼ぶように「白銀の糸」も伸びるのだと好意的な解釈も可能だ。

水木しげる先生降臨かよっ。

高級レストランで待ち合わせをするさやかと実母である。

「コーヒーが二〇〇〇円だと・・・」

尾行中の円は眩暈を感じるのだった。

「大きくなったわね・・・」

「あなたが・・・」

「私のこと・・・覚えてないの」

「まったく・・・」

「しょうがないわよね・・・まだ小さかったもの・・・でもね・・・お父さんにもしものことがあったら・・・」

「・・・」

「まだ・・・死んでいないのに・・・そんなことを言うのは・・・不謹慎でしょう」

「あなたは・・・」

「さやかの兄です」

「ああ・・・でも・・・もしもそうなったら経済的に大変でしょう」

「・・・」

「その点・・・うちなら・・・さやかは何不自由なく暮らせるのよ・・・」

実母の勝手な言い分に・・・千里の義憤念力発動である。

コップが揺れて実母に放出される水流発生である。

「お兄ちゃん・・・やりすぎよ・・・」

「僕は・・・」

「とにかく・・・私・・・さやかに見せたいところがあるの・・・あなたは遠慮してくれる」

「そうはいきません・・・」

実母が二人を連れてやってきたのは・・・古いアパートだった。

「こんなみすぼらしいアパートで私はさやかを生んだの・・・このまま・・・貧乏な暮らしが続くのかと思ったら・・・将来が不安で・・・わかるでしょう・・・」

「そんなことで・・・娘を捨てる言いわけになると思っているのか・・・この女は」

涙目の郁夫だった。

「わかりません・・・」

由美子が現れた!

「お母さん・・・」

「ごめんね・・・私も不安で一杯でした・・・私なんかがこの子のお母さんでいいのかって・・・毎日・・・毎日・・・不安を抱えながら・・・さやかを育ててきたのです」

「・・・」

「だから・・・本当のお母さんが現れた時・・・一度はさやかに会わせようと思ったんです・・・でも・・・心配でつけて来ちゃいました」

「お母さん・・・私のお母さんはお母さんだけだよ」

「さやか・・・」

抱き合う由美子とさやか・・・。

その時・・・病院から急報が届く。

「大変・・・お父さんが・・・」

郁夫の容体が急変したのだった。

あわてて・・・病院に戻る一同。

実母だけが虚しく取り残されるのだった。

郁夫の「白銀の糸」は衰弱していた。

病室ではあわただしい救命処置が取られている。

医師たちの懸命の努力にも関わらず・・・郁夫の心拍数は低下する。

「お父さん・・・死んじゃいや」とさやか。

「あなた・・・頑張って」と由美子。

「俺は・・・死ぬのか・・・円・・・お願いだ・・・憑依させてくれ・・・最期の言葉を伝えたい」

幽体離脱してるからじゃないのかとざわめくお茶の間・・・。

しかし・・・死にそうな自分に戻っていくのが郁夫は恐らく怖いのだろう。

「お断りします」

「え」

「生きて・・・自分の口で伝えてください・・・僕は生きているお父さんと一緒に天体観測をしてみたいし・・・お父さんの好きな野球にもつきあいたいから」

「・・・」

その時・・・AED(電気的除細動)が開始される。

「あ」

電気的ショックに驚愕して消滅する郁夫の幽体・・・一瞬で離脱状態が解除されたらしい。

たちまち・・・脈拍は戻るのだった。

「脈戻りました・・・」

「ふう・・・」

郁夫は蘇生するのだった。

そして・・・意識を取り戻した郁夫は・・・幽体離脱のことを忘却していた。

郁夫の精神はすべてを夢の中の出来事として合理化したのだろう。

歓喜に沸く堤一家。

何やら思うところのある円は・・・おそらく・・・それは千里と一体化して感じたことなのだろう・・・親友の加藤孝志(森永悠希)に告げる。

「ロケットコンテストに参加しよう」

「出番が・・・出番があって・・・よかった・・・」

すべてを見ていた幸は・・・自分の淋しさに気がつく。

「明日・・・退院だって・・・お母さん、明後日から出張なのでちょうどよかったわ」

「お母さん・・・私ね・・・ずっと・・・ちょっとさびしかったんだ」

「・・・ごめんね・・・幸」

母は娘の真意に気がいたようだ。

なにしろ・・・二人は実の母と娘なのである。

それは巨乳が証明しているのだ。

一方・・・円の「生きて・・・自分の口で伝えろ」という言葉に追いつめられた模様の千里だった。

「幸さん・・・私・・・昇天しようと思う・・・」

「え・・・でも・・・」

幸は千里のせつない恋心を思いやる。

そこへ・・・ナベシマが現れた。

「見つからないわけだよね・・・灯台もと暗しってやつだ」

ナベシマは死神の目で・・・千里を見るのだった。

いよいよ・・・本題らしい・・・。

二人の霊能力者と・・・死神と幽霊の四角関係なのである。

長い四九日である。後・・・残り何日あるんだ。

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2016年6月 4日 (土)

耳も心もですがなにか(岡田将生)植木職人ですがなにか(柳楽優弥)標的ですがなにか(松坂桃李)アルバイトですがなにか(吉岡里帆)冒険の時間ですがなにか(島崎遥香)性欲旺盛ですがなにか(石橋けい)休憩ですがなにか(安藤サクラ)

自分を信じることができないのは恐ろしいことである。

たとえば・・・外見に自信がないと・・・被害妄想はとめどなくひろがる。

「彼が自分を愛してくれていること」へのとめどない拘り・・・。

「結婚しようと言うけれど・・・それは私への愛ではなくて・・・世間体を考えてのことではないか」

「私の他には何もいらない・・・私だけいればいいと・・・きっと彼は思わない」

「そういう風に愛されないのは・・・私が美人ではないからだ」

「どうして・・・美人のように・・・彼は私を愛さないのか」

「純粋に私だけを愛さない・・・彼のそういうところが私は我慢できない・・・」

「結婚したくないって言ってんじゃない・・・世界を敵に回しても・・・私と結婚したいと思って欲しいだけ」

「私がいれば世界なんて滅びても良いって覚悟をしてほしい」

「そういう彼と結婚したいの」

ああ・・・面倒くさいなあ・・・。

彼がいるだけで儲けものってなんで思えないのかなあ。

まあ・・・思えたら苦労しないんだけどねえ。

で、『ゆとりですがなにか・第7回』(日本テレビ201605292230~)脚本・宮藤官九郎、演出・水田伸生を見た。クラスに一人か二人・・・だれもが憧れる美少女がいる。残りはブスだという考え方もある。しかし・・・まあまあ可愛い子は四~五人はいると考えるものもいる。十人前後の普通の子がいて・・・そこにそれぞれの好みのタイプがあるとも考えられる。ブスだけどやってやれなくはない子がクラスの半分くらいだとも思う。数人はどうしようもなくやれる感じがしないけれどいざとなったらやれるかもしれない。美人とブスの境目は・・・人それぞれなんだな。ものすごい美少年なら男だってやれそうな気もする。とにかく・・・恋愛は相手がいるものなのだ。それが大前提だ。

「みんみんホールディングス」から居酒屋「鳥の民・高円寺店」に店長として出向中の坂間正和(岡田将生)は上司で元交際相手の杉並・世田谷地区統括責任者(エリアマネージャー)の宮下茜(安藤サクラ)に命じられ、後輩の山岸(太賀)が担当する取引先の仕出し弁当屋「大盛軒」へ急行する。

「大盛軒」の仕出し弁当により・・・サルモネラ菌の食中毒事件が発生したのである。

現地で営業課の上司・早川(手塚とおる)と合流する正和。

「大盛軒」にはすでに報道陣が押し寄せていた!

「大盛軒」の責任者である野上(でんでん)を挟んで対峙するのは・・・新規参入してきたライバル会社「アイアイフーズ」の営業マン夏目(中尾明慶)と上司(おかやまはじめ)・・・。

「シューマイと手羽さきが疑われている」と夏目。

「手羽さきなら・・・消費期限内です」と正和。

「実は・・・冷凍庫が一杯で自然解凍を・・・」と土下座中の野上。

「なんで・・・そんなことに・・・」と早川。

「接待じゃないの・・・そっちはかなりエロいところに連れてったみたいじゃない」と夏目。

「とにかく・・・そちらは創業以来のつきあいで・・・こちらは新規ですから・・・」と夏目の上司。

「それは関係ないでしょう」と早川。

「とにかく・・・こちらの名は出さない方向でお願いします・・・タダとは言いませんよ・・・幸い代金が未納なので・・・未納の三百万円は請求しません・・・大盛軒さんとしては経営的な窮地なので悪い話じゃありませんよね」

「助かります」と野上。

「せめて・・・焼売なのか手羽さきなのか・・・判明してから」と正和。

「だから・・・アイアイフーズは納品そのものをしてないんだよ」と夏目。

一端・・・現場から引きあげる一同だった。

大手であるアイアイフーズの資金力を活かした豪快な撤退ぶりに鬱憤たまる早川だった。

行きあった若者たちのストリート・バスケット・ボールに乱入して大暴れである。

「ヘイヘイヘイ」

「早川さん・・・」

「あーっ、気が晴れた~」

「本当ですか」

「なわけないだろう・・・何が冷蔵庫に入らなかったから自然解凍だ・・・私の妻かっ」

嘆く早川だが・・・ポイントは早川が妻帯者であるという提示である。

「野上さん・・・どうなるんでしょう」

「原因がずさんな衛生管理だからな・・・普通はクビだ」

「・・・」

「責任は大盛軒にあって・・・みんみんホールディングスは無関係という手もある」

「・・・」

「だが・・・逆の手もある」

その頃・・・「大盛軒」の担当者・ザ・山岸は・・・八景島シーパライダスにいた。

「すげえ・・・超癒される・・・」

お茶の間一同・・・「癒されてんじゃねえよお」の大合唱である。

野上を召喚した早川・・・。

「とにかく・・・謝罪して・・・被害者とマスメディアに対応します」

「しかし・・・卸しさんには関係ないですよね」

「だからこそです・・・謝らなくてもいいのに謝る・・・そちらさんは信用を回復し・・・こちらは会社への好感度を逆にアップします」

「どうして・・・そこまで・・・」

「あなたを男として・・・見込んだからです」と正和・・・。

「こんなに・・・うれしいことはありません・・・」としゃがみこむ野上だった。

「これは・・・営業です・・・御社との取引を独占するための・・・だから・・・生き残れ」と早川。

「はいっ」

野上を送りだした早川は正和に囁く。

「追い込まれた男は何をするか・・・わからんからな・・・野上から目をはなすな」

「はい・・・」

「それから山岸が出社したら始末しろ」

「え」

「始末書を提出させろと言っている」

「びっくりした・・・殺しちゃうのかと思いました」・・・おいっ。

正和は茜に愚痴る。

「早川さん・・・なんだか迫力あるな」

「伝説の営業マンだから・・・」

「結局・・・俺が手柄たてようと余計な真似したから・・・」

「反省するだけ・・・山岸よりマシでしょう・・・ああ・・・また私・・・女としてじゃなく上司としていいことを・・・」

「・・・」

「ところで・・・父の件なんだけど・・・」

「別れたことは・・・」

「言ってない・・・今夜・・・鳥の民でいいかしら」

「・・・」

面倒くさい男と面倒くさい女の駆け引きは続くのだった。

号泣記者会見である。

「すすすすすすすべてのせせせせせせ」

「すべての責任は当社にございます」

「しししししん・・・・しししん」

「信用を回復するためにあらゆる努力をする所存です」

「まままままままま」

「誠に申し訳ありませんでした」

心神喪失の野上を支える第三者の二人だった。

お茶の間で危険を察知する坂間酒造の嫁と姑。

「正和のところ・・・悪くないのに・・・」と和代(中田喜子)・・・。

「お義母さん・・・あのネクタイ・・・」とみどり(青木さやか)・・・。

「あ・・・」

正和のネクタイは髑髏柄だった。

ゆとりですから・・・。

居酒屋「鳥の民・高円寺店」・・・。

茜の父親・重蔵(辻萬長)の前で・・・交際中を装う正和と茜。

バイトリーダーの村井(少路勇介)とバイトの中森(矢本悠馬)は様子を窺う。

「あの二人・・・別れたんじゃ・・・」

「・・・ないみたいですね」

「ない方向で・・・」

空気を読む鉄壁のバイトコンビである。

「店長とエリア・マネージャーはどっちが偉いのかな」

「それはもちろん・・・宮下さんです」

「じゃ・・・エリア・マネージャー、店長にもう一杯飲ませてもいいかな」

「やめてよ・・・お父さん・・・」

「さ・・・店長・・・一杯くらい」

「ですね・・・ですですですね」

妹のゆとり(島崎遥香)と同じ口調である。

茜の部屋で一泊する重蔵・・・。

「彼のジャージでいい・・・」

「なんだ・・・一緒に住んでいるのか」

「家が遠いんで終電に遅れた時とか」

「まったく・・・最近の若いもんは・・・話をしながら・・・スマホを使って」

「お父さんのために・・・明日の乗り換えを検索していたのよ」

「・・・」

結婚前の娘を持つ良い父親、良い娘を演じる二人・・・。

しかし・・・娘はもう彼氏のいない女なのである。

列車に飛び込み自殺した青年の母である田之上明子(真野響子)の家を訪問し捕獲される山岸。

「大根おろしとかあるとサンキューっす」

「図々しいわねえ」

「サンキューっす」

「わが子のような気がするけどわが子じゃないんだから」

「自分もデキる子を演じているうちに自分を見失ったっす」

「あなたはやればできる子じゃなくてやらないとできない子なんだから・・・みんなに甘えればいいのよ・・・」

「ごはん・・・おいしぃっす」

世間が披露困憊しているのに自分を癒すことに余念のない山岸だった。

正和は山岸に野上の件を託す。

「まかせてください」

「まあ・・・二回も失踪している奴に失踪しそうな人を託すのもアレなんだけどな」

「耳が痛いです」

「恥って・・・耳に心って書くだろう」

「はい」

「いや・・・なんでもない」

上手い言葉が思いつかない正和だった。

就職が決まったらフェイド・アウト(ゆっくりと消える)の約束をしたまりぶは・・・。

ゆとりとラブホテルで事後のキス。

「ラブホじゃない方がよかったかな」

「・・・そろそろ・・・お兄ちゃんに打ち明けようかなって」

「ちょっと便所・・・」

「・・・」

ラブホのテーブルに置かれた「レンタルおじさん」のチラシを目にするゆとり・・・。

レンタルおじさん(吉田鋼太郎)の登場である。

「まさか・・・レンタルおじさんなんて・・・」

「ははは」

「で・・・就職が決まって彼氏・・・まりぶって言うんですけど」

「ははは」(知ってます・・・息子です)

「もっと盛り上がるかと思ったんですけど・・・」

「ははは」

「彼の言うこと・・・経営哲学って言うか・・・凄く心を打つんですけど・・・実際の彼は浪人生だし」

「ははは」(知ってます・・・息子ですから)

「私も女子大生だし・・・結局、浪人生と女子大生ってだけで・・・落ちつかないんですよね」

「お兄さんの方が落ちついてますもんね」

「え・・・兄のこと話しましたっけ」

「いや・・・妹のように可愛いので・・・お兄さんがいるのではないかと」

「さすがですね・・・実は兄とまりぶは友達なんです」

「ははは」(ものすごくよく知ってます)

「そこが・・・唯一、ドキドキするところなんですよね・・・不倫とかなら・・・もっとドキドキなのに」

「ははははははははは」(してます・・・妻子ある男と不倫していますよ・・・あなた・・・)

一方・・・「阿佐ヶ谷南小学校」では保護者参観日に・・・転校生・大悟の父親(浜田学)が来ることを・・・夫と別れた奈々江(石橋けい)に告げられて童貞の山路一豊(松坂桃李)は激しく動揺し・・・レンタルおじさんを頼るのだった。

「結局・・・彼女の別れた御主人っていうのは息子の学習障害を理解できない・・・発達障害者なんですよ・・・まあ・・・結局・・・専門家でないと理解できない・・・専門的な知識の共有というのはどこにでもあることなんですが・・・で・・・とにかく・・・そのことが発端で夫婦仲が冷えて・・・でも浮気したのは彼女なんです・・・前の学校の担任が・・・若くて情熱的で・・・そういう関係になって問題になって・・・つまり・・・彼女はスケベなんです・・・ななえは・・・淫らな女・・・スケベが白衣を着ているんだ・・・スケベな看護師なんてもう・・・たまらないでしょう・・・」

興奮して絶叫する山地に・・・カフェの客たちの視線が集中していく。

「お騒がせしてすみません」

「とにかく・・・僕にとって一番問題なのは・・・29年間ずっとゼロだったのに・・・なぜ1じゃなくて・・・2なのかってことで・・・」

「山路先生・・・」

「あ・・・早いよ」

約束の時間より早めに現れる・・・女子大生・佐倉悦子(吉岡里帆)である。

1、悦子先生

2、奈々江ママ

茜は員数外らしい・・・。

参観日当日・・・。

科目は算数である。

「がんばって」と励ます奈々江の言葉が木霊する山路・・・。

「がんばってえ~がんばってえ~がんばってえ~」

「耳がわんわんしている・・・」

黒板での出題・・・。

⑤507÷3に挙手する大悟・・・。

①~④までを次々と解く同級生たち。

「わからない時は・・・順番に掛けていくだよ」

507÷3=1・・・

「次は引き算だ」

5-3=2

20÷3・・・3×1=3・・・3×2=5・・・ああ・・・。

巻き起る「大悟コール」・・・しかし・・・息子が障害者であることを受容できない父親は高圧的な態度に出る。

「甘やかさないでください」

「甘やかしてません」

「いいか・・・大悟・・・お父さんがやるのをよく見ていろ」

息子に代わって筆算をしようとする父親。

しかし・・・山路は父親からチョークをとりあげる。

「さあ・・・大悟・・・もう一度」

「チャイムが鳴ってしまうだろう」

「構いません」

「・・・」

鳴り響く山路への賞賛の拍手喝采・・・。

「障害を認めて共有する時代」なのである。

「惨め」だからといって「死ぬこと」は許されないのだ。

善悪ではなく・・・そういう時代なのだ。

そして・・・「4年2組は愛の世界」なのだ。

員数外の茜は山路の部屋でボルダリングの動画を見ながら女子会である。

「父親は・・・自分の老いを認められないのよ」

「・・・」

「公務員だったんだけど・・・地元じゃ名士でね・・・定年後はスクールバスの運転手をしてたんだけど・・・事故を起こしてね・・・母が亡くなると・・・もう自信喪失して・・・」

「九州男児は大事にされすぎて自分では何もできないが・・・その分・・・女子は優秀になるんだよね」

「例外はあるけど・・・基本的にはそうなのよね。大悟くんみたいに・・・自分の障害を・・・周囲に受け入れさせることができることの素晴らしさに気がつけばいいのに・・・」

「できていたことができなくなるのは・・・最初からできないことより・・・つらいけどね」

「・・・失恋と童貞の話かよ」

そして、居酒屋「鳥の民・高円寺店」・・・。

正和は「妹の件」でまりぶを攻める。

「何か焼きますか・・・イツワカレマスカ~」

「じゃ・・・ネギマ」

「はい、ネギマ、塩にしますかタレにしますか・・・イツワカレマスカ~」

「塩で・・・今週中・・・」

「はい、塩で・・・コンシュウチュウ一丁!」

戸惑うバイトリーダーだった。

個室で野上を監視する山岸。

「どうして・・・エロいの欲しかったのよ」

「娘が・・・男との動画を素晴らしいインターネットの世界にアップすんだよ」

「そんなことで」

「たまんねえよ」

「わかるな」

割って入る重蔵だった。

「あんた・・・誰・・・」

「茜の父親です」

「わわわ・・・口数減るわ~」

「あんたら若い人は年寄りがやぐらしかでしょう」

「何言ってんのかわからない」

「やぐらしかってしぇからしかってことよ」

「お・・・九州の人かね」

「久留米です」

「佐賀の鳥栖です」

近隣である。ちなみにやぐらしかもしぇからしかも・・・うるさいとか鬱陶しいの意味の方言だ。

夜の街では舎弟(長村航希)が客を引く。

「おっぱいいかがですか~。おっぱいそろってます~。おっぱいあったまってますよ~」

突然切れる・・・まりぶである。

「公衆の面前で・・・おっぱいおっぱいってうるさせえんだよ」

「兄貴・・・」

「小さくて悩んでいる人も大きすぎて悩んでいる人もいるんだぞ・・・」

「・・・」

「ごめん・・・調子出ねえ・・・あがらしてもらうわ・・・」

舎弟を抱擁して去っていくまりぶ・・・。

「おつかれした」

取り残される舎弟・・・。

まりぶと出会いゆとりは道を見出したが・・・。

ゆとりと出会い・・・まりぶは・・・自分を見失ってしまったらしい・・・。

そして・・・重蔵は・・・坂間酒造を訪問する。

寝坊したゆとりはパジャマですべりこみアウトである。

「妹です」

「ノーメイクですみません」

「火力をレギオンの頭部に集中し、ガメラを援護せよ!」

「師団長!」

「いや・・・そういう話ではありません・・・二年半ほど前に・・・娘から交際開始を聞きました・・・それから何の音沙汰もなし・・・進展もなし・・・挨拶もなしなので・・・」

「・・・」

「私・・・結納の品を購入してきました」

「それは・・・新郎側が用意するものです」と長男の嫁。

「え」

「ほら・・・あんたが煮え切らないから・・・」と母。

「僕は・・・茜さんが好きです・・・でも・・・お父さんは嫌いです・・・だって・・・僕と会ってから会社がどうの・・・家族がどうのって・・・僕のことは何も知ろうとしてくれないんだもん」

「・・・」

「煮え切らないも何も・・・もう・・・お別れしています」

「えええ」

「アキレス腱の切れ目が縁の切れ目ですから・・・」

「えええええええええ」

「お父さんは知らないかもしれませんが・・・茜さんには栄転の話があるのです」

「そんなの関係ないよ・・・私は結婚したかった」

「そういうわけにはいかない」

「私は結婚して幸せになりたかった・・・会社や家族じゃなくて・・・まーくんと一緒になりたかったの」

「僕は変わりたかったんだ」

「そういうとこ・・・そういうとこが嫌なの・・・もういい」

茜は・・・正和を・・・ただただ支配したかったのである。

大切な「男」を完全に保護することが九州女の本能だからである・・・おいおいおいっ。

茜は酒蔵で拗ねた。

「まーくんのバカ」

正和と重蔵は酒蔵を訪れた。

「こげな立派な酒蔵とは・・・」

「子供の頃、かくれんぼして親父に叱られました」

「年寄りは・・・若いもんが恐ろしい」

「・・・」

「なにしろ・・・若いもんには勝てん・・・だからこわい・・・」

「・・・」

「娘に老後の面倒を見てもらおうと思っとりましたがあげな気の強い女子では・・・」

「恥って言う字は耳に心と書きます」

「?」

「お父さんに責められて・・・僕は耳が真っ赤になりました」

「??」

「若者はもっと一生懸命頑張って恥をかくべきなんですよね」

「???」

「・・・何でもありません」

決められない正和だった。

「みんみんホールディングス」の人事異動。

茜→仙台支店新店舗プロジェクトリーダー。

正和→エリアマネージャー。

山岸→新店長。

バイトリーダーの店長指導再びである。

「本社から来た人はみんな店長です・・・店長と呼ぶのは基本馬鹿にしている時です・・・よろしく店長・・・午後にバイトの面接があるので・・・それまで仕込みをすませてください」

料理落しまくり、グラス割りまくりの山岸店長。

「失礼しました」

「お客さんの無事を確認して」

「おおおおおお怪我ありませんかあ」

「俺に言わないでくださいよ店長」

「店長」

「はい」

「ネギは?」

「2.5㎝です」

「長い・・・短い・・・超長い・・・やりなおし」

そこに山地が登場する。

「まりぷくん・・・最近来た?」

「そういえば」

そこで・・・新店長が再びクラッシュ。

「失礼しました」の声に振り返る山路。

新しいアルバイトは悦子だった。

「どうして・・・」

「山路先生に逢えるし・・・時給もらえますから~」

思わずニヤリとする山路だった。

出番少なめでも一瞬で光さす悦子先生・・・凄いぞ。

そこで舎弟の泣きが入る。

「兄貴・・・仕事を投げ出して・・・植木屋さんらなっちゃいました」

「えええ」

「そうなんだよ・・・学校にも来た」

学校の樹木の剪定作業。

「おい、キラキラネーム、しっかり押さえとけって言っただろう」

植木職人の親方(半海一晃)に叱られるまりぶ・・・。

職人仲間(前田公輝)にも頭を小突かれる。

「デス」

「デスノートかっ」

まりぶとゆとりの愛の行方は・・・。

そして・・・山路が選ぶのはビッチ1号かビッチ2号か・・・。

その頃・・・飲んだくれた茜を介抱する早川は・・・。

「私・・・まあまあそういう気分です」

「俺も・・・そういう気分だな」

「今なら冗談ですみますよ」

「決めゼリフが思い出せん」

「・・・」

「あ・・・そうか・・・ちょっと休んでいこう」

二人はラブホテルに消えた。

もちろん・・・早川には冷蔵庫が一杯だと自然解凍する妻がいるのだ。

まあ・・・正和と茜のことは・・・一般男性にとってはどうでもいいレベルだからな。

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2016年6月 3日 (金)

くよくよするなよ(竹野内豊)愛しているから噛みつきたい(松雪泰子)無過失責任について(松風理咲)人として(賀来賢人)

今季レビューしているドラマは「落語」に絡んだものが多い。

「世界一難しい恋」では主人公に対してヒロインの用意するデートプランが落語の鑑賞である。

絶体絶命の主人公が突破口にするのが借りていた落語ソフトの返却である。

「重版出来!」ではデビュー出来なかった漫画家のアシスタントが後輩に「お気に入りの落語」を託す。

ここでは落語「道具屋」がピックアップされ・・・商人である編集者と道具である漫画家の関係が暗示される。

そして・・・「グッドパートナー」では弁護士の物語でありながら・・・落語「女の子別れ」が展開中である。

「子別れ」では女が子供を連れて出て行くが・・・「女の子別れ」では女は一人で家を出て行く。

基本的には「子まで生した夫婦」が別れるのは「愚の骨頂」という人情噺である。

長い長い前フリの後で・・・夫婦は和解・・・「子は鎹」というオチになるのかどうか・・・。

お手並み拝見中だが・・・本題に入るのが遅すぎる気がしないでもない。

で、『グッドパートナー 無敵の弁護士・第7回』(テレビ朝日20160602PM9~)脚本・福田靖、演出・田村直己を見た。「ドクターX〜外科医・大門未知子〜」や「アタックNo.1」の演出家である。今回、初めて弁護士事務所内の配置と人間関係が・・・意識された演出になっていた。群像劇に近いような充実のキャスティングがあまり活かされていないのは・・・事務所の構造上の欠陥が大きいのだ。同じ局の「相棒」を考えてみよう。「特命係」の孤立した特殊性を示す物置のようなあの小部屋がすべてである。しかし・・・ドアの外には組織犯罪対策部組織犯罪対策第5課の大部屋があり・・・捜査一課や刑事部長室など巨大な警察組織の存在を窺わせる。一目瞭然なのである。同じ脚本家の「HERO」では・・・東京地検城西支部の中央にサロンがあり・・・それを囲むように各検事の取り調べ室が配置され・・・中央に支部長の部屋がある。容疑者との「急」と仲間との「緩」さえもが一目瞭然なのである。検事と事務官たちのパートナーシップは相手を入れ替えても明瞭な小部屋の個性で歴然とする。そう言う点で・・・神宮寺法律事務所は・・・所長、パートナー弁護士、アソシエイト弁護士、パラリーガル、秘書と・・・役割分担の違う大人数が屯していて雑然とした印象しか残らないわけである。

「所長の部屋」「咲坂の部屋」「夏目の部屋」「猫田の部屋」「事務室」「応接室」「会議室」が無個性で不明瞭なのである。

「個室」以外は「大部屋」風なのであるが・・・ベテラン秘書である朝丘理恵子(宮地雅子)とアソシエイト弁護士である城ノ内麻里(馬場園梓)とパラリーガルである茂木さとみ(岡本あずさ)の立場の差異などは説明されなければわからない。

弁護士で言えば・・・所長は別格として・・・部屋持ちで一種の独立採算制であるパートナー弁護士と・・・事務所に雇用されて給与制のアソシエイト弁護士の格の違いも分かりにくい。

収入の多寡で言えば・・・事務所の順列は・・・どんな感じなのか・・・。

①神宮寺所長(國村隼)

②咲坂弁護士(竹野内豊)

③夏目弁護士(松雪泰子)

④猫田弁護士(杉本哲太)・・・ここまで経営パートナー

⑤城ノ内弁護士・・・ここから給与制

⑥赤星弁護士(山崎育三郎)

⑦熱海弁護士(賀来賢人)

⑧朝丘秘書

⑨九十九パラリーガル(大倉孝二)

⑩茂木パラリーガル

こんな感じなのか・・・秘書の相場がわからないな・・・猫田と城ノ内の間くらいに割り込むのか。

まあ・・・とにかく・・・このシステムだと・・・茂木は雑用で披露困憊になってもおかしくないよね。

そういうことが・・・非常に伝わってこない事務所風景なんだよなあ・・・。

今回は四人が出張したという要因もあるが・・・事務所内のポジションが割と明確だったのである。

猫田と城ノ内の微妙な関係とかももう少し感じたいものだな。

パートナー昇格でいえば末席パートナーと上席アソシエイトはライバル関係になる可能性もあるわけだし・・・お互い・・・独身だしな。

そんなことに時間を使わなくて済む・・・事務所設定が欲しいのである。

熱海、伊豆に帰る

熱海弁護士はリトルリーグ時代に所属していた少年野球チームの監督・島津善治郎(石井洋祐)の葬儀に参列するために生まれ故郷の伊豆に帰る。

葬儀で島津の息子で熱海の同級生である勝太(渋谷謙人)と参列者の土井垣茂(福田転球)との間にトラブルが発生する。

「親父はお前に殺された」と勝太が土井垣に殴りかかり暴行傷害で現行犯逮捕されてしまったのだ。

されてないだろう・・・されるべきじゃないか。

暴行の件は示談となり・・・熱海は勝太の代理人として土井垣と示談交渉を行うことになる。

パートナー弁護士たちの事情

咲坂家ではみずきの「親離婚ともだち」である目黒仁志(藤野大輝)を招き、ベトナム人家政婦のグエン(上地春奈)の手料理による食事会が催される。みずきの家庭教師・島谷涼子(宮﨑香蓮)も出席し・・・それなりににぎやかな宴になるが・・・。

「こんな美味しいもの・・・お母さんにも食べさせたい・・・」

「うちのお母さんも・・・いつも一人でご飯食べているのよねえ」

娘の視線に咎められる咲坂弁護士だった。

夏目弁護士は・・・結婚を前提とした交際を求める岸田英樹(横田栄司)に対して・・・将来的には娘を引きとる意向を伝える。

「何の問題もありません・・・子供は好きですし」

だからといって交際を承諾するでもない夏目である。

なにより・・・男親を選んだ・・・みずきの意向が問題となるからだ。

親権について再度話し合う約束はあるが・・・再婚すれば・・・娘の心理は元夫に傾く可能性は高い。

何より・・・夏目の中で・・・「離婚」についての懐疑が始っているらしい・・・。

猫田弁護士はお見合いパーティーで知りあった大田蘭子(小松彩夏)と順調に見える交際を開始していた。

「私はエステティシャンとして・・・自分の店を持つのが夢なので・・・結婚はそれから・・・」

「お店の開業資金は」

「五百万円で・・・すでに三百万円は貯金しています」

「では・・・残りの二百万円は私が出資します」

「え」

「あなたは・・・自分の店と結婚を両立できます」

見つめ合う二人・・・蘭子は猫田の手に自分の手を重ねる。

お茶の間を騒然とさせる「結婚詐欺」の四文字・・・。

その光景を城ノ内と茂木が見ていた!

温泉旅館「しらかぜ荘」爆発事故の顛末

熱海は・・・土井垣側の代理人が・・・「岬&マッキンリー法律事務所」の岬伊知郎弁護士(正名僕蔵)と知り驚愕する。

そして・・・示談金として百万円を請求されてしまうのだった。

ライバル事務所の名を聞き・・・熱海から事情を聴取する咲坂。

「事の発端は今年一月に起きた島津氏経営の温泉旅館「しらかぜ荘」の温泉汲み上げ施設の爆発事故です」

「松濤温泉シエスパ爆発事故(2007年)がヒントかな」

「でしょうね・・・温泉を汲み上げた際に一緒に噴出するガスの処理がどうのこうのと言ってましたから」

「で・・・」

「幸い・・・死傷者はなかったのですが・・・施設が半壊し・・・再建のために一億数千万の負債が発生しました・・・風評被害のために経営状態も思わしくなくなり・・・資金繰りに奔走したあげくに・・・経営者が心筋梗塞で帰らぬ人となったのです」

「それと・・・暴行事件に関係が・・・」

「被害者の土井垣は・・・爆発した施設の点検を任されていた設備業者で・・・前年秋の定期点検を怠っていました・・・旅館経営者が設備の点検を催促している間に起こった爆発事故だったのです・・・土井垣は危険物取扱者としての義務も怠り・・・事件当時、連絡がとれなかったばかりか・・・一切の責任は旅館経営者にあるとして・・・爆発事故とは無関係という立場を通したのです」

「なるほど・・・いかにも・・・殴ってやりたくなるような男だったんだな」

「しかし・・・暴力沙汰を起こしたら負けです」

「その通りだ・・・しかし」

「?」

「戦う価値はありそうだ」

咲坂から「岬&マッキンリー法律事務所」の名を聞き燃えあがる神宮寺所長の闘志。

「勝算はあるのか」

「現地で調査をして見定めます」

「ここは・・・絶対に負けられない」

「はい」

「夏目弁護士とタッグを組みたまえ」

「え」

「グッドフレンドになるんだろう・・・」

「・・・」

こうして・・・咲坂、夏目、熱海、赤星の四人の弁護士は温泉旅行・・・ではなく現地視察に赴くのだった。

幼馴染の一家に対する卑劣な仕打ちに義憤に燃える熱海は早速、人として土井垣を挑発する。

「長い付き合いだったというのに・・・随分、阿漕な真似をしましたね」

「この件は・・・もう決着がついている」

「そうでもないと思いますよ」

「馬鹿な・・・私は・・・衆議院議員の荒木田正直先生の後援会をやっているんだ・・・この土地で・・・私に逆らうなんて無駄なことなんだよ」

咲坂は・・・警察が事故調査の結果・・・土井垣に刑事責任を問わなかった裏の事情を察知した。

日本は法治国家だが・・・地方では有力者・荒木田(清水紘治)の意向が法なのである・・・おいっ。

まあ・・・経営者の認識の問題もあるが・・・「爆発の危険」がある設備の「定期点検」を業者が怠っていると知りつつ・・・三ヶ月も営業をしていた時点で経営者としての資質を問われるよな。

犠牲者が出た場合・・・「私は業者に業務を怠るなと注意していました」で済むとは思えない。

だが・・・その点はスルーするのか・・・敵側のポイントになるのか・・・不明である。

なにしろ・・・このドラマの主眼は・・・部屋割りで・・・元夫婦なので同室となった主人公とヒロインの気持ちの変化なのである。

「私が再婚するって言ったらどうする・・・」

「俺に相談する問題かよ」

「私が再婚して・・・みずきを引きとったら・・・再婚相手が・・・みずきの新しい父親になるわけだけど・・・」

「馬鹿な・・・みずきの父親は・・・世界でたった一人・・・俺だけだ」

「・・・」

「もう・・・寝ろよ」

「ねえ・・・私たち・・・なんで離婚したんだっけ・・・」

「・・・」

それを聞きたいのはお茶の間である。

夏目弁護士・・・認知症を発症したのかよ。

しかし・・・土井垣の過失を認めさせるために・・・夏目は「民法第717条」を想起するのだった。

民法第717条

工作物責任・・・土地の工作物の瑕疵によって他人に損害を与えた場合に、工作物の占有者・所有者が負う賠償責任である。

原則として責任を負うのは工作物の占有者であるが、工作物の占有者が損害防止のために必要な注意義務を果たしている場合には工作物の所有者が賠償責任を負う。

この場合、工作物の所有者は無過失責任を負うことになる。

未亡人の温泉女将・佐知子(あめくみちこ)に説明するチーム・咲坂&夏目。

「しらかぜ荘は占有者ですが・・・土井垣設備は所有者にあたります」

「?」

「つまり・・・しらかぜ荘の御主人は損害防止のために必要な注意義務を果たしているので・・・賠償責任は土井垣設備にあるということです」

「しかし・・・前の弁護士さんは・・・そんなこと・・・」

「法律は・・・法律家によって・・・使い方が変わるものなのです」

「そんなことが・・・あるんですか」

「こわいですよね・・・でも安心してください・・・私たちはあなたの味方です」

勝算ありと・・・自身に満ちた弁護士たちに・・・安堵する未亡人だった。

地裁に申し立て・・・第一回口頭弁論・・・。

しかし・・・出廷した夏目は・・・咲坂に「敗北」を報告するのだった。

悄然とする赤星と未亡人・・・。

赤星にも「俺って最高!」と叫ぶゆとりはなくなっていた。

工作物責任については「失火ノ責任ニ関スル法律」との兼ね合いがあり・・・判例が別れている。

危険工作物と通常工作物を区別し、失火責任法は通常工作物に限るという説もあるが・・・重大な過失がない場合は失火者の責任を問わないと定めているのである。

つまり・・・所有者の失火であっても・・・占有者の被害に対する責任は問えない場合があるのだった・・・。

まあ・・・地方なら裁判官・利根川(新井康弘)が有力者の傘下という場合もあるけどな・・・おいおいっ。

関連するキッドのブログ→第6話のレビュー

Gpoo7ごっこガーデン。愛と青春の温泉旅館セット。

まこ裁判に勝ってガッポリ儲けたら温泉でエンジョイするのも最高気分でしゅ~。が、しかし、裁判に負けてションボリした時も温泉ですべてを忘れるのデス。どんなぼぎゃあああんな出来事でガックシしても・・・温泉に入ればすっぱり忘れるのコトなのでしゅ~。じいやに訊いたら四千年前のエジプトの人も悩むことなんてない・・・くよくよしないで楽しくやろうぜと言ってたそうデスヨ~エリ愛する人のために二百万円を援助するのが愛ならばエリが小学生の時のお年玉二人分で賄えるので安上がりでス~。え・・・じいや・・・庶民の皆様には大金なの?・・・二百万円ぽっちを騙し取る方もいるんですか・・・なんて可哀想なことなのかしらん?・・・まこちゃまが悪戯をして問題を起こした時のための平成財閥弁護団の暫定予算は年間二百億円でしたね~・・・詐偽よりもまこちゃまに悪戯された方がリーズナブルよね~

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2016年6月 2日 (木)

史上最弱ストーカーの一流の交渉術(大野智)史上最高コンシエルジュの可愛い涙目(波瑠)史上最強秘書の愛の鞭(小池栄子)

どうだと言わんばかりの「世界一難しい恋」の終盤戦である。

主人公がストーカーでヒロインがストーカー被害者・・・これは難しいよな。

もう・・・嫌な事件のことしか思い出せない状況である。

まあ・・・昔の恋するドラマの主人公たちは今だったら犯罪者になってしまうことを平気でやっていたわけである。

ある意味・・・嫌な時代になっちゃった・・・ということなのだな。

しかし・・・緻密に練られた脚本は・・・主人公やヒロインがそうなってしまうのは仕方がないし・・・その上でけして主人公が犯罪者でも冷血でもないことをお茶の間には伝えている。

一方・・・ヒロインは謎に包まれている部分もあるが・・・理不尽なことをけして許さない天晴な気質であると同時に・・・他人に求める以上に自分に求める真面目な性格であることが明白になっている。

主人公はひたむきに愛しているのだし・・・ヒロインは自分をぶん殴ってやりたいだけなのである。

つまり・・・終わってはいない・・・本当の愛が始っていないだけ。

だから・・・。

この・・・針の穴のような可能性に・・・糸を通す作業がこれから始るわけである。

絶対に無理だろうと多くの失恋経験者が感じ・・・もう破滅的な終幕しか予想できない流れで・・・一発逆転勝利に向かって突き進む筋書きのあるラブコメ・・・。

凄く馬鹿馬鹿しいぞ!

で、『世界一難しい恋・第8回』(日本テレビ20160601PM10~)脚本・金子茂樹、演出・中島悟を見た。ドラマを視聴することは一種の現実逃避である。しかし、ドラマに感情移入しすぎてモヤモヤしたりすると何のために逃避してきたのかわからないことがある。そのモヤモヤを解消しようとして「認知症のドキュメンタリー」を見てわああああああああああっとなり、仕方なく絶対安全なアイドルソングを眠くなるまで聞いて眠ると悪夢。目が醒めれば過酷な現実が待っている。恐ろしいことだ・・・。しかし、それが生きるということなんだな。おいおい。

「こんなに意気地無しで器の小さな人のやってることを大人の余裕と勘違いしていたなんて・・・自分を殴ってやりたい気分です」

「お前なんか・・・クビだ」

・・・破局である。

我に帰って柴山美咲(波瑠)を追いかける鮫島零治(大野智)だったが・・・覆水盆に戻らないのだった。

もう・・・ビショビショだからな。

美咲は鮫島ホテルズを退職し・・・零治の薔薇色の日々は幕を閉じた。

生ける屍と化した零治・・・。

社員一同が「おはようございます」と挨拶しても・・・零治は無言ですり抜けるのだった。

「交際開始から二週間で・・・」

「社長ってキスはおろか手も握らない」

「そんな赤いスイートピーのような交際でも・・・」

「美咲さんと交際中の社長に戻ってもらいたい・・・」

社長室企画戦略部一同は激しく願うのだった。

まあ・・・簡単なことを無理矢理難解にしていると言えばそれまでだが・・・これがドラマというものなのである。

「赤いスイートピー」が名曲なのは・・・意気地なしの男の理想の彼女像を歌っていることだが・・・要するに松田聖子に手玉にとられているわけである。

つまり・・・ここから零治は・・・美咲の手玉としてとられてとられてとられまくるのだ。

「ここは・・・美咲さんに戻ってきてもらうしかない」

運転手の石神剋則(杉本哲太)の相談室や秘書の村沖舞子(小池栄子)への根回しをする男たち。

美咲の送別会の決行と・・・その席での社長による退職勧告取り消し宣言というシナリオが描かれる。

白浜部長(丸山智己)との「夜の約束」も延期状態で困窮する堀まひろ(清水富美加)は引き継ぎ業務を利用して・・・美咲を口説くのだった。

「送別会を開きたいので・・・お願いします」

「気持ちだけ・・・受け取っておくわ」

「でも・・・皆さん・・・このままお別れするのは・・・あんまりだと・・・」

「その席には社長も・・・」

「はい」

「わかりました」

公私のけじめのつかない社長に対して公私のけじめをはっきりつける覚悟の美咲だった。

「あの素晴らしい日々」をもう一度と・・・音無静夫部長代理(三宅弘城)も気を引き締める。

「皆さん・・・何を張りきっているんですか」と三浦家康(小瀧望)だけはマイペースである。

空気を読まないのではない・・・存在が空気なのだ。

そして・・・送別会当日。

ダーツで気を引き締める零治・・・。

「見ろ・・・」

「なんですか・・・」

「333点だ」

「?」

「み・さ・さんじゃないか」

「・・・」

零治は・・・ゾンビ状態から・・・虚勢を張ってなんとか立ち上がった状態である。

そこへ・・・美咲が到着する。

「社長・・・乾杯の音頭をお願いします」

「最初に言っておきたいことがある・・・」

「私も社長に報告があります」

「これは君の送別会だが・・・君が退職して・・・はじめて・・・君が鮫島ホテルズになくてはならない存在だとわかった・・・よければ・・・復職してもらいたい」

「ありがたいお言葉ですが・・・私、ステイゴールドホテルに再就職が決まりました」

「な・・・なに~」

開いた口がふさがらず顎が床につく零治だった。・・・おいっ。

「お世話になりました」

「よりによって・・・なんで・・・」

「最高のホテルですから」

「俺は・・・お前のことを考えるだけで・・・いてもたってもいられないというのに・・・」

「どうしろとおっしゃるのですか」

「せめて・・・神奈川県から出ていけ!」

完全なる破局である。

自分で墓穴を掘り、棺桶と一緒に墓穴に飛び込む勢いの零治なのだった。

世界中が・・・絶望した。

ついに・・・発熱する零治だった。

こよなく・・・零治を愛する秘書は必死に看病する。

その優秀な技能には零治の汚れた足をマッサージするテクニックも含まれていた。

恋愛という緊張状態に疲れ果てた零治の心は安らぐ・・・。

「お前となら簡単にキスできそうだ・・・」

「当然です・・・社長は私のことを好きではないのですから」

「木綿豆腐にキスするようなものだな」

「せめて絹ごし豆腐とおっしゃってください」

来るものは拒ます・・・去るものは追わずの心境とは程遠い零治は・・・恋愛マスターである和田英雄(北村一輝)にクレームをつける。

「人の女に手を出すなんて最低じゃないですか」

「君は勘違いしている・・・私は彼女にちょっかいを出していない・・・彼女の方から就職を申し込んできたのだ」

「・・・」

「それに君は彼女の使い方も間違えている・・・彼女はホテルの顔になれる逸材だ・・・企画部よりもコンシェルジュに向いている・・・彼女は世界一のコンシェルジュになるよ」

「・・・」

「君は舞子くんの使い道も間違えている・・・彼女は秘書ではなく恋人向きだ」

「村沖をふっておいて・・・何を今さら・・・」

「おやおや・・・ふられたのは私だよ」

「え」

「舞子くんは・・・大好きな君を裏切れないそうだ」

「ええっ」

「まったく・・・君のどこがいいのか・・・私より君を選ぶとは」

「えええ」

零治の中で何かが弾けた。

美咲がもたらす緊張と興奮。

秘書のもたらす緩和と安息。

恐ろしい世界に背を向け・・・秘書のマッサージに身を委ねれば・・・世界は平和じゃないか。

完全なる現実逃避である。

今・・・零治の中で・・・秘書はメダカやキノコと同列の存在となったのである。

このままでは・・・ラブコメではなく・・・エロコメになってしまう・・・。

危機感を感じた世界は・・・零治の父親である・・・鮫島幸蔵(小堺一機)を召喚する。

社長の父親を歓迎する社長室一同だが・・・秘書に汚れた足をマッサージしてもらいたい一心の零治は冷淡に対応する。

「何しに来たんだ・・・」

「今年は蕎麦の出来がよくてな・・・お前に食べてもらいたくて・・・」

「誰が食うか」

しかし・・・秘書は「是非・・・御相伴にあずかりたいです」とよどみない対応である。

空気である家康は・・・早速、社長の父親にまとわりつくのである。

運転手相談室で明かされる鮫島父子物語。

「ああ見えて・・・社長のお父様は・・・酒癖が悪いんです」

「え・・・」

「社長が高校生の時・・・社長のお父様は・・・奥様・・・つまり、社長のお母様にバッグをプレゼントしたのですが・・・そのバッグは・・・いつも奥様がお使いになっているものと全く同じ品物でした・・・奥様としては自分がいつも使っているバッグさえ・・・覚えていないのかと・・・怒られて・・・口論となり・・・酔った社長が奥様を旅館から追い出したのです」

「社長のお父様とお母様は・・・お別れになりました」

「うわあ・・・父子そろって・・・」

「・・・それ以来・・・社長はお父様ほ嫌悪なさっておいでです」

「近親憎悪か・・・」

しかし・・・息子との関係を修復しようと・・・必死に蕎麦を打つ幸蔵・・・。

「昔は・・・大好きだったんだよなあ」

「・・・」

ついに・・・少しだけ父親に心を開く零治だった。

父親が帰り・・・待ちに待ったマッサージ・タイムである。

「お前・・・俺のことを好きだとか・・・それは愛なのか」

「ええ・・・愛してますよ・・・家族のようなものですから」

「それなら・・・まず・・・お付き合いを・・・」

卑屈の見本のような表情で・・・秘書を窺う零治だった。

「失恋の傷を身近な女で埋めようとするのは止めてください・・・大好きな美咲さんに拒絶されて痛めた心を癒そうというお気持ちは察しますが・・・今の社長はマッサージのおばちゃんにも落ちそうな危険な状態です・・・社長のお父様は自分の落ち度を棚に上げて社長のお母様を追い出した点では・・・自分の落ち度を棚に上げて美咲さんをクビにした社長と似たもの同志ですが・・・自分のふがいなさを認めて・・・社長のために蕎麦を打つ態度は立派です。社長も逃げずに・・・自分の本当に欲しいものに立ち向かってください」

「・・・」

「私は社長がそうしなければ・・・大好きな社長を軽蔑いたします」

零治は・・・秘書による汚れた足のマッサージを断念した。

一番好きなものをあきらめて・・・二番で満足することは・・・零治には許されないことだったのである。

零治は「ホテルの部屋」を予約すると・・・緑色のネクタイを締め・・・夜の街を走るのだった。

失われた恋人を求めて・・・。

それは・・・現代では許されない愛のカタチだが・・・。

そんなことを言っていたら愛なんて成立しないのだ。

愛とは殺すか殺されるかの真剣勝負なんだもの・・・おいおいおい。

ステイゴールドホテルのコンシエルジュとなった美咲の前に立つ零治。

思わず身構える美咲。

「おまえはクビだ」と言われた時に美咲は涙目だった。

「神奈川県から出ていけ」と言われた時にも美咲は涙目だった。

しかし・・・美咲は泣かない女なのである。

そして・・・プロとして微笑むのだった。

「何かお困りですか」

「このホテルのコンシエルジュはどんな求めにも応じてくれると聞いた」

「お客様のお求めであれば・・・」

零治は333号室のキーを示す。

「では・・・教えてください」

「・・・」

「喧嘩別れした恋人と仲直りする方法を・・・」

「それは・・・難しいと思います」

「でも・・・あなたは世界一のコンシエルジュなのでしょう」

「・・・」

おかしな客に困惑する新人を見かねた初老のコンシエルジュが現れた!

「私が代わって承ります」

撤退する零治。

そして・・・被害者の退社時間まで待ち伏せするストーカー・・・。

「・・・」

「待ってください・・・」

「警察を呼びますよ」

「これをお返ししようと思ったのです」

美咲の落語全集を差し出す零治。

「返却不要です」

「しかし・・・あなたの大切なものだと知っていたから・・・」

「・・・」

「一つだけ話を聞いてください」

足を止めない美咲。

しかし・・・チャイナタウン・・・マリンタワーと二人の背景はまるでデートコースなのである。

「・・・」

「我々は交際していました・・・」

「私たちの交際は終わったのです」

「交際中・・・あなたは・・・本当に私を愛してくれていたのですか」

「・・・」

「ゲーテは・・・愛する相手の欠点を愛せないものは本当の愛ではないと言ったと私の運転手に教わりました・・・」

「はああ?」

「私には・・・意気地なしという欠点がある・・・それを私は欠点として認めていませんでした」

「・・・」

「しかし・・・今は愛している相手にキスひとつできないのは欠点だと認めています。つまり・・・あなたはそういう欠点を愛してはくれなかった」

「なんですって・・・」

「だから・・・私たちの交際は本当の愛とはいえなかったのです」

「・・・」

「私の父親も・・・私の母親にひどいことをしました」

「今さら・・・親のせいですか」

「いいえ・・・でも私の父親は自分のみっともなさを私にさらけだしてくれたのです・・・あなただって欠点はある・・・気の強いこと・・・学級委員ばりの正義感・・・でもそれを私は乗り越えた・・・」

「何を・・・」

「私はあなたの欠点も愛せる・・・むしろ・・・あなたの欠点こそが・・・あなたの魅力だと乗り越えました・・・私たちの交際には本当の愛がなかったのだから・・・終われない・・・始ってもいないのですから・・・私たちの愛はこれからスタートするのです」

「・・・」

「私は立ち向かった・・・君は・・・逃げるのか・・・それとも立ち向かうのか」

「・・・わかりました・・・それには条件があります」

「なんなりとお申しつけください・・・私は君専属のコンシェルジュです」

零治の交渉術がついに勝利の糸口を・・・。

まあ・・・この論理・・・一回はなんとか通用するんだよな。

次に使うと・・・。

「ああああああ、聞きたくない・・・・あなたに説得されるのはまっぴら」って言われるよね。

「条件その一・・・今夜はおとなしく帰ること」

「承りました」

「その他の条件はメールで通知します」

「せめて電話で・・・」

「・・・」

「承りました」

「それでは・・・これで・・・」

「ありがとう・・・気をつけて・・・」

「・・・」

「いさなみすやお」

「・・・」

なんとか・・・ストーカーをふりきった被害者である。

そして・・・一人取り残される・・・ストーカーのような愛を乞う者・・・。

世界一難しい恋・・・看板に偽りなし・・・。

高校生までとは言え・・・彼をこんな風に育ててしまった母親が登場するかどうかも楽しみである。

今夜は少し安眠できそうだ・・・。

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2016年6月 1日 (水)

道場でなら戦えます(黒木華)飛ぶ鳥の気持ちなんかわからない(永山絢斗)本だ翼だと騒ぐじゃないよ(蒔田彩珠)だじゃれか(松重豊)ふんじゃったねこかいちゃった(赤江珠緒)

エゴイズムこそ・・・人間の本質であるという考え方がある。

そう言うと「我儘万歳」と思われがちだが・・・「自分が楽しく生きるため」に「仕事」とか「家族」とか「友人」が必要と考える人には「本能のままに生きるような贅沢」は許されないのである。

そこにある種の合理性が求められる。

合理的な利己主義こそが処世術の源なのだが・・・「全人類が不幸でなければ幸せを感じない」という悪魔を生みだすこともあるので注意が必要だ。

「みんながいい人であればみんなしあわせ」という「しあわせな人」を裏切る誘惑に悪魔が打ち勝つのは至難の業なんだな。

「戦争反対」を叫びながら・・・不和の種をまき散らす人・・・。

「核廃絶」を祈りながら・・・嫌いな人を憎む人・・・。

町を騒がす宣伝車は左右共通である。

戦わないように戦うこと・・・。

柔よく剛を制す・・・柔道家は柔の心で絞め殺すのです・・・。

「自閉症」だから面白い人・・・「サイコパス」だから有能な人・・・そういう人たちと仲良く付き合うのは結構大変なのよね。

で、『重版出来!・第8回』(TBSテレビ20160531PM10~)原作・松田奈緒子、脚本・野木亜紀子、演出・土井裕泰を見た。「ラヴソング」と比較すると「業界もの」としてはやや「リアル」な感じのするコチラ・・・。「ラヴソング」の「音楽業界人」はひどい扱いだからな・・・。逆にこちらの「出版業界人」は少し持ち上げられているようにも見える。バランスって難しいよね。素晴らしいインターネットの世界の登場と・・・人口爆発ボーナスの終了に伴い・・・「ものが売れない」時代の到来に・・・「業界」の人々は必死なんだよな・・・。

鋸やナイフを持ちだす「兇悪な人」を相手に「音楽商品」を販売するのは・・・大変なことだものなあ。そして・・・「作品」を買う習慣を失った人たちに何かを売りつけるのはどんどん難しくなっていく。もう・・・図書館を爆破するしかないところまで・・・創作者は追いつめられているのかもしれない・・・おいおいっ。

まあ・・・それでも売り上げる人はいるわけで・・・あやかりたいものですな。

そういうタイプとなった週刊コミック誌「バイブス」編集部の編集者・安井昇(安田顕)と・・・コミック「FLOW」廃刊仲間である・・・和田靖樹編集長(松重豊)である。

年度末となり・・・年度計画会議が行われる大手出版会社・興都館・・・。

「バイブス」の年度計画表を作成中の和田編集長は・・・慣れないPC作業に癇癪を起こすのだった。

優しい編集者・五百旗頭敬(オダギリジョー)は仕方なくアシストである。

「年度計画とは・・・」と先輩編集者の壬生平太(荒川良々)に問う黒沢心(黒木華)だった。

「来年度の売上目標を発表するんだ」

「目標なら高く持てば・・・」

「達成できないと・・・責められる・・・目標が低すぎると・・・責められる・・・」

「なるほど」

「かけひきだよ」

「勝負ですね」

各部門のトップが揃う御前会議である。

「次・・・バイブス」

「編集長の和田ですすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすす」

「・・・」

「来年度は電子書籍化の実現もあり黒字確実、黒く真っ黒くブラック企業を邁進します」

「ブラックの使い方間違えてるぞ」と思わず突っ込む興都館コミック営業部部長の岡(生瀬勝久)だった。

戦い済んで日が暮れて・・・小料理屋「重版」で旧交を温める和田と岡・・・。

女将のミサト(野々すみ花)は微笑むのだった。

戦士たちを癒すことで商売繁盛だからである。

「昔の編集長はよかったよな・・・」

「飲んで騒いでいるだけで・・・雑誌バカ売れだったしな・・・」

「もっと・・・早く生まれたかった・・・」

黒字を約束する電子書籍第一弾は名作「タイムマシンにお願い/牛露田獏」なのだが・・・過去の名声に溺れた牛露田獏(康すおん)はアルコールに耽溺しており・・・交渉は難航しているのだった。

発行部数1300万部という「タイムマシンにお願い」である・・・数億円の印税収入を使いはたして生活保護を受ける牛露田・・・どんだけ浪費したんだよ・・・。

契約交渉のために牛露田のアパートを訪ねる和田だが・・・本人は応答しないのだった。

おそらく・・・自分のための必要最低限の買い物をするために・・・新聞配達のアルバイトをしている中学生の娘・・・後田アユ(蒔田彩珠)は和田に同情する。

「おじさんも大変だねえ・・・入れば」

「いや・・・出直すよ・・・これ・・・イチゴ・・・」

和田は手土産を残し・・・退散する。

故郷で母親が倒れたので帰郷しなければならないのだ。

状況の変化をぼやく和田だったが・・・道行けば・・・流通はさらに火の車である。

町の書店は続々と廃業に追い込まれている。

和田は嘆くが・・・自身が手掛ける電子書籍化も・・・書店を追い込む一因なのだった。

和田の故郷は岐阜県である。

幸い母親の病状は安定していた。

「あゆのお菓子」を買った和田は旧友(梶原善)の営む書店を訪ねる。

腰を痛めてシャッターを下ろしたままの店舗・・・経営状態は思わしくない。

人気書籍の転売屋が現れるなど・・・「純粋に本を愛する男たち」は心を痛める。

「今・・・牛露田との交渉が難航してるんだ」

「タイムマシンにお願いか・・・売れたよな・・・奥さん美人だったな」

「なんで・・・奥さんが美人だと」

「うちの店に来たことあるんだ」

「え」

和田が故郷で思わぬ拾いものをしている頃・・・東京では・・・。

担当である三蔵山(小日向文世)の仕事場から戻った五百旗頭が・・・心に情報を届ける。

「中田くん・・・ネームが止まったみたいだ」

「え」

「ピーヴ遷移/中田伯」連載のためのネームはすでに十三回分が作られている。

しかし・・・和田からは「展開はいいが面白さに欠ける」とダメ出しされている。

中田伯(永山絢斗)は三蔵山(小日向文世)のアシスタントとして修行中だが・・・これまでネーム作りが停滞することはなかったのだが・・・。

「すぐに・・・行ってみます」

「待て・・・創作活動には波がある・・・向こうから相談があるまで・・・ここは待ちがいいと思う」

「まあ・・・連載中じゃないしな」と壬生。

「連載開始未定だしな」と安井。

そこへ・・・連載中の「KICKS」の作者・大塚シュート(中川大志)のネームが停滞していると連絡が入る。

「どうやら・・・エゴサーチをしてしまったらしい」

エゴサーチとは素晴らしいインターネットの世界で自分を検索することである。

漫画家の場合・・・物凄い酷評を覚悟しなければならない。

大塚シュートは共感力が高いので・・・アンチ・大塚シュートの罵詈雑言を浴びて共感してしまい・・・筆が止まったのである。

「登場人物がみんないい人で・・・偽善的だと言われると・・・そうだなあと」

「人かいいにもほどがあるんだから・・・君はエゴサーチしちゃダメって言ったのに・・・」

担当の五百旗頭は困惑しつつ・・・大塚を慰める。

「君の作る登場人物はただ・・・人がいいだけではないだろう」

「そうでしょうか・・・」

二人の会話でヒントを掴む心・・・。

「中田さんは・・・どちらかというと・・・他人の心がわからない感じですよね」

「共感力不足だよな・・・」

「だから・・・登場人物が・・・みんな中田さん的なんですよ・・・」

「敵も味方も中田か・・・」

「その他大勢も中田です」

「ギャグ漫画としては成立しているけどな・・・」

「ギャグ漫画家は基本的にサイコパスですからね」

「おいっ」

登場人物のキャラクター設計を再構築するように中田に提案する心・・・。

しかし・・・中田の精神は破綻しかかっているような・・・気配が漂う。

先にスランプを克服した大塚が・・・心と親しげに話しているのを見た中田の心はさらに乱れるのだった。

中田にとって・・・大塚は・・・敵視すべき凡人の象徴なのである。

女神と崇める心が・・・凡人に笑顔を向けるなんて・・・あってはならないことなのだ。

「一緒に食事でも」

友好を求める大塚をエレベーターの閉じるボタン連打で拒絶する大塚だった。

一方・・・ライバル誌「エンペラー」の営業担当者が書店で勝手に自社製品並び替えの術を駆使している場面に遭遇した心を愛する営業担当の小泉純(坂口健太郎)は動揺する・・・。

「エンペラー」の営業担当が書店員を「作家の直筆サイン」で誑かそうとしているのを見て・・・思わず・・・少女漫画の編集部に・・・人気漫画家・山縣留羽(内田淳子)のサインをおねだりするのだった。

心の心酔する書店員・河舞子(濱田マリ)が「山縣留羽ファン」であると知ってファンレターまで勝手に代筆するのだった。

そんなこととは露知らず・・・仕事帰りに・・・新作「音の作法/山縣留羽」を買いに来る心。

書店には河の人生を変えたと言う名作「100万オトメバイブル/山縣留羽」もディスプレーされている。

「読書少女の心を鷲掴みにした名作よ・・・本ばっかり読んでいていいんだ・・・本が心を豊かにしてくれるから・・・なにしろ・・・本の形は鳥の形・・・空想の翼が世界を切り開く」

引き籠りの自己肯定にも聞こえるセリフだが心はスルーして・・・「100万オトメバイブル」を孤独な少女にプレゼントしようと考える。

「将を射んとすれば馬から射よ・・・だけど漫画家の娘が漫画嫌いじゃね」

いじめっ子を撃退した心から「100万オトメバイブル」を推奨され仕方なく手にとるアユ・・・。

しかし・・・血筋である。

たちまち・・・漫画の世界に魅了されるアユだった。

今回・・・登場人物たちが一挙に動いて目まぐるしい展開である。

「ラヴソング」は描写不足・・・こちらは描写過多だな・・・。

若いって素晴らしい。

もちろん・・・今回の主題である・・・愛妻を失った夫と・・・母親を失った娘の和解は見事にお涙頂戴を仕掛けてくる。

アユと心が牛露田宅に戻ってくると・・・和田がドアの外でヤクザの取り立て屋のように凄んでいるのだった。

「でてきてくださいよ・・・牛露田さん・・・確かに時代は変わりましたよ・・・駆けだしだった私だって五十です・・・でも・・・漫画を愛している気持ちは変わりません・・・私たちは夢を売ってきたんです・・・子供たちの夢を壊すようなことはあってはいかんのです」

「大人がちゃんと働いていると・・・ホッとするよ」

アユは部屋に入り・・・倒された母の祥子(赤江珠緒)を起こす。

「なんで・・・こんなクズのために・・・ママは・・・死んじゃったの」

「それは・・・お母さんも漫画を愛していたからです・・・」

「え」

「牛露田さん・・・覚えていますか・・・新婚旅行で岐阜に行かれたでしょう」

「・・・」

「たまたま立ち寄った書店で・・・ファンに囲まれ・・・サイン責めにあったそうですね」

「・・・」

「その店の店主・・・私の幼馴染です・・・」

「・・・」

「サインをしているあなたを見て奥さんに彼はこう言いました・・・大変ですね・・・すると奥さんは・・・いいえ、すごく楽しいと答えたそうです・・・」

「・・・」

「奥さんはあなたも・・・あなたの漫画も・・・愛していたんだ」

和田は預かって来た色褪せた色紙を見せた。

そこに描かれたキャラクターに驚くアユ・・・。

「ふんじゃったねこ・・・」

「え」

「ママがいつも描いてくれた・・・」

「それは・・・タイムマシンにお願いに登場するキャラクターです」と心が「タイムマシンにお願い/牛露田獏」を取り出す。

「ママ・・・」

「祥子・・・」

泣き崩れる父と娘だった。

アユは理解した。父親がダメだから母親が死んだのではなく・・・母親が死んで父親がダメになったことを・・・。

幼いアユは時系列の整理を間違っていたのである。

そして・・・牛露田獏は・・・失われた愛妻を娘の中に見出したのである。

これは近親相姦の流れだな・・・違うぞっ。

和田は電子書籍化の許諾を獲得した。

契約のために正装した父親・・・。

「ちゃんとしてるだろう」

「シャツが出てるわよ」

「ギャグさ」

「お父さんの漫画・・・結構面白いね」

「あはははは・・・」

その時・・・心の元に・・・担当の漫画家・高畑一寸(滝藤賢一)の愛人・梨音(最上もが)の家出の急報が入る。

そして・・・梨音を確保した心をそっと見つめる・・・怪しい男の影・・・。

書店ではエンペラーの営業担当を「書店員が真剣に作っている棚を勝手にいじるなよ・・・この妖怪パタパタが・・・」と河が撃退。

御褒美として山縣留羽の表敬訪問を受けるのである。

一方・・・三蔵山は中田の苦悩の正体を見極めていた。

「どうして・・・沼田さんは・・・漫画家になれなかったのですか・・・大塚シュートなんかよりずっと面白いのに・・・それに・・・こんなどうしようもない僕になりたいなんて・・・沼田さんのことが・・・わからない・・・」

三蔵山は・・・中田の精神に「新しい心」が生まれようとしていることを察するのである。

「そうか・・・人の心が・・・人の心を生むのか・・・これは産みの苦しみ・・・」

物語は限りなく錯綜したまま・・・つづくなのである。

少し・・・盛り込み過ぎじゃないのか・・・。

原作ありだからサザエさん方式でもよかったよね。

でも・・・腕自慢だからな。

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