史上最弱ストーカーの一流の交渉術(大野智)史上最高コンシエルジュの可愛い涙目(波瑠)史上最強秘書の愛の鞭(小池栄子)
どうだと言わんばかりの「世界一難しい恋」の終盤戦である。
主人公がストーカーでヒロインがストーカー被害者・・・これは難しいよな。
もう・・・嫌な事件のことしか思い出せない状況である。
まあ・・・昔の恋するドラマの主人公たちは今だったら犯罪者になってしまうことを平気でやっていたわけである。
ある意味・・・嫌な時代になっちゃった・・・ということなのだな。
しかし・・・緻密に練られた脚本は・・・主人公やヒロインがそうなってしまうのは仕方がないし・・・その上でけして主人公が犯罪者でも冷血でもないことをお茶の間には伝えている。
一方・・・ヒロインは謎に包まれている部分もあるが・・・理不尽なことをけして許さない天晴な気質であると同時に・・・他人に求める以上に自分に求める真面目な性格であることが明白になっている。
主人公はひたむきに愛しているのだし・・・ヒロインは自分をぶん殴ってやりたいだけなのである。
つまり・・・終わってはいない・・・本当の愛が始っていないだけ。
だから・・・。
この・・・針の穴のような可能性に・・・糸を通す作業がこれから始るわけである。
絶対に無理だろうと多くの失恋経験者が感じ・・・もう破滅的な終幕しか予想できない流れで・・・一発逆転勝利に向かって突き進む筋書きのあるラブコメ・・・。
凄く馬鹿馬鹿しいぞ!
で、『世界一難しい恋・第8回』(日本テレビ20160601PM10~)脚本・金子茂樹、演出・中島悟を見た。ドラマを視聴することは一種の現実逃避である。しかし、ドラマに感情移入しすぎてモヤモヤしたりすると何のために逃避してきたのかわからないことがある。そのモヤモヤを解消しようとして「認知症のドキュメンタリー」を見てわああああああああああっとなり、仕方なく絶対安全なアイドルソングを眠くなるまで聞いて眠ると悪夢。目が醒めれば過酷な現実が待っている。恐ろしいことだ・・・。しかし、それが生きるということなんだな。おいおい。
「こんなに意気地無しで器の小さな人のやってることを大人の余裕と勘違いしていたなんて・・・自分を殴ってやりたい気分です」
「お前なんか・・・クビだ」
・・・破局である。
我に帰って柴山美咲(波瑠)を追いかける鮫島零治(大野智)だったが・・・覆水盆に戻らないのだった。
もう・・・ビショビショだからな。
美咲は鮫島ホテルズを退職し・・・零治の薔薇色の日々は幕を閉じた。
生ける屍と化した零治・・・。
社員一同が「おはようございます」と挨拶しても・・・零治は無言ですり抜けるのだった。
「交際開始から二週間で・・・」
「社長ってキスはおろか手も握らない」
「そんな赤いスイートピーのような交際でも・・・」
「美咲さんと交際中の社長に戻ってもらいたい・・・」
社長室企画戦略部一同は激しく願うのだった。
まあ・・・簡単なことを無理矢理難解にしていると言えばそれまでだが・・・これがドラマというものなのである。
「赤いスイートピー」が名曲なのは・・・意気地なしの男の理想の彼女像を歌っていることだが・・・要するに松田聖子に手玉にとられているわけである。
つまり・・・ここから零治は・・・美咲の手玉としてとられてとられてとられまくるのだ。
「ここは・・・美咲さんに戻ってきてもらうしかない」
運転手の石神剋則(杉本哲太)の相談室や秘書の村沖舞子(小池栄子)への根回しをする男たち。
美咲の送別会の決行と・・・その席での社長による退職勧告取り消し宣言というシナリオが描かれる。
白浜部長(丸山智己)との「夜の約束」も延期状態で困窮する堀まひろ(清水富美加)は引き継ぎ業務を利用して・・・美咲を口説くのだった。
「送別会を開きたいので・・・お願いします」
「気持ちだけ・・・受け取っておくわ」
「でも・・・皆さん・・・このままお別れするのは・・・あんまりだと・・・」
「その席には社長も・・・」
「はい」
「わかりました」
公私のけじめのつかない社長に対して公私のけじめをはっきりつける覚悟の美咲だった。
「あの素晴らしい日々」をもう一度と・・・音無静夫部長代理(三宅弘城)も気を引き締める。
「皆さん・・・何を張りきっているんですか」と三浦家康(小瀧望)だけはマイペースである。
空気を読まないのではない・・・存在が空気なのだ。
そして・・・送別会当日。
ダーツで気を引き締める零治・・・。
「見ろ・・・」
「なんですか・・・」
「333点だ」
「?」
「み・さ・さんじゃないか」
「・・・」
零治は・・・ゾンビ状態から・・・虚勢を張ってなんとか立ち上がった状態である。
そこへ・・・美咲が到着する。
「社長・・・乾杯の音頭をお願いします」
「最初に言っておきたいことがある・・・」
「私も社長に報告があります」
「これは君の送別会だが・・・君が退職して・・・はじめて・・・君が鮫島ホテルズになくてはならない存在だとわかった・・・よければ・・・復職してもらいたい」
「ありがたいお言葉ですが・・・私、ステイゴールドホテルに再就職が決まりました」
「な・・・なに~」
開いた口がふさがらず顎が床につく零治だった。・・・おいっ。
「お世話になりました」
「よりによって・・・なんで・・・」
「最高のホテルですから」
「俺は・・・お前のことを考えるだけで・・・いてもたってもいられないというのに・・・」
「どうしろとおっしゃるのですか」
「せめて・・・神奈川県から出ていけ!」
完全なる破局である。
自分で墓穴を掘り、棺桶と一緒に墓穴に飛び込む勢いの零治なのだった。
世界中が・・・絶望した。
ついに・・・発熱する零治だった。
こよなく・・・零治を愛する秘書は必死に看病する。
その優秀な技能には零治の汚れた足をマッサージするテクニックも含まれていた。
恋愛という緊張状態に疲れ果てた零治の心は安らぐ・・・。
「お前となら簡単にキスできそうだ・・・」
「当然です・・・社長は私のことを好きではないのですから」
「木綿豆腐にキスするようなものだな」
「せめて絹ごし豆腐とおっしゃってください」
来るものは拒ます・・・去るものは追わずの心境とは程遠い零治は・・・恋愛マスターである和田英雄(北村一輝)にクレームをつける。
「人の女に手を出すなんて最低じゃないですか」
「君は勘違いしている・・・私は彼女にちょっかいを出していない・・・彼女の方から就職を申し込んできたのだ」
「・・・」
「それに君は彼女の使い方も間違えている・・・彼女はホテルの顔になれる逸材だ・・・企画部よりもコンシェルジュに向いている・・・彼女は世界一のコンシェルジュになるよ」
「・・・」
「君は舞子くんの使い道も間違えている・・・彼女は秘書ではなく恋人向きだ」
「村沖をふっておいて・・・何を今さら・・・」
「おやおや・・・ふられたのは私だよ」
「え」
「舞子くんは・・・大好きな君を裏切れないそうだ」
「ええっ」
「まったく・・・君のどこがいいのか・・・私より君を選ぶとは」
「えええ」
零治の中で何かが弾けた。
美咲がもたらす緊張と興奮。
秘書のもたらす緩和と安息。
恐ろしい世界に背を向け・・・秘書のマッサージに身を委ねれば・・・世界は平和じゃないか。
完全なる現実逃避である。
今・・・零治の中で・・・秘書はメダカやキノコと同列の存在となったのである。
このままでは・・・ラブコメではなく・・・エロコメになってしまう・・・。
危機感を感じた世界は・・・零治の父親である・・・鮫島幸蔵(小堺一機)を召喚する。
社長の父親を歓迎する社長室一同だが・・・秘書に汚れた足をマッサージしてもらいたい一心の零治は冷淡に対応する。
「何しに来たんだ・・・」
「今年は蕎麦の出来がよくてな・・・お前に食べてもらいたくて・・・」
「誰が食うか」
しかし・・・秘書は「是非・・・御相伴にあずかりたいです」とよどみない対応である。
空気である家康は・・・早速、社長の父親にまとわりつくのである。
運転手相談室で明かされる鮫島父子物語。
「ああ見えて・・・社長のお父様は・・・酒癖が悪いんです」
「え・・・」
「社長が高校生の時・・・社長のお父様は・・・奥様・・・つまり、社長のお母様にバッグをプレゼントしたのですが・・・そのバッグは・・・いつも奥様がお使いになっているものと全く同じ品物でした・・・奥様としては自分がいつも使っているバッグさえ・・・覚えていないのかと・・・怒られて・・・口論となり・・・酔った社長が奥様を旅館から追い出したのです」
「社長のお父様とお母様は・・・お別れになりました」
「うわあ・・・父子そろって・・・」
「・・・それ以来・・・社長はお父様ほ嫌悪なさっておいでです」
「近親憎悪か・・・」
しかし・・・息子との関係を修復しようと・・・必死に蕎麦を打つ幸蔵・・・。
「昔は・・・大好きだったんだよなあ」
「・・・」
ついに・・・少しだけ父親に心を開く零治だった。
父親が帰り・・・待ちに待ったマッサージ・タイムである。
「お前・・・俺のことを好きだとか・・・それは愛なのか」
「ええ・・・愛してますよ・・・家族のようなものですから」
「それなら・・・まず・・・お付き合いを・・・」
卑屈の見本のような表情で・・・秘書を窺う零治だった。
「失恋の傷を身近な女で埋めようとするのは止めてください・・・大好きな美咲さんに拒絶されて痛めた心を癒そうというお気持ちは察しますが・・・今の社長はマッサージのおばちゃんにも落ちそうな危険な状態です・・・社長のお父様は自分の落ち度を棚に上げて社長のお母様を追い出した点では・・・自分の落ち度を棚に上げて美咲さんをクビにした社長と似たもの同志ですが・・・自分のふがいなさを認めて・・・社長のために蕎麦を打つ態度は立派です。社長も逃げずに・・・自分の本当に欲しいものに立ち向かってください」
「・・・」
「私は社長がそうしなければ・・・大好きな社長を軽蔑いたします」
零治は・・・秘書による汚れた足のマッサージを断念した。
一番好きなものをあきらめて・・・二番で満足することは・・・零治には許されないことだったのである。
零治は「ホテルの部屋」を予約すると・・・緑色のネクタイを締め・・・夜の街を走るのだった。
失われた恋人を求めて・・・。
それは・・・現代では許されない愛のカタチだが・・・。
そんなことを言っていたら愛なんて成立しないのだ。
愛とは殺すか殺されるかの真剣勝負なんだもの・・・おいおいおい。
ステイゴールドホテルのコンシエルジュとなった美咲の前に立つ零治。
思わず身構える美咲。
「おまえはクビだ」と言われた時に美咲は涙目だった。
「神奈川県から出ていけ」と言われた時にも美咲は涙目だった。
しかし・・・美咲は泣かない女なのである。
そして・・・プロとして微笑むのだった。
「何かお困りですか」
「このホテルのコンシエルジュはどんな求めにも応じてくれると聞いた」
「お客様のお求めであれば・・・」
零治は333号室のキーを示す。
「では・・・教えてください」
「・・・」
「喧嘩別れした恋人と仲直りする方法を・・・」
「それは・・・難しいと思います」
「でも・・・あなたは世界一のコンシエルジュなのでしょう」
「・・・」
おかしな客に困惑する新人を見かねた初老のコンシエルジュが現れた!
「私が代わって承ります」
撤退する零治。
そして・・・被害者の退社時間まで待ち伏せするストーカー・・・。
「・・・」
「待ってください・・・」
「警察を呼びますよ」
「これをお返ししようと思ったのです」
美咲の落語全集を差し出す零治。
「返却不要です」
「しかし・・・あなたの大切なものだと知っていたから・・・」
「・・・」
「一つだけ話を聞いてください」
足を止めない美咲。
しかし・・・チャイナタウン・・・マリンタワーと二人の背景はまるでデートコースなのである。
「・・・」
「我々は交際していました・・・」
「私たちの交際は終わったのです」
「交際中・・・あなたは・・・本当に私を愛してくれていたのですか」
「・・・」
「ゲーテは・・・愛する相手の欠点を愛せないものは本当の愛ではないと言ったと私の運転手に教わりました・・・」
「はああ?」
「私には・・・意気地なしという欠点がある・・・それを私は欠点として認めていませんでした」
「・・・」
「しかし・・・今は愛している相手にキスひとつできないのは欠点だと認めています。つまり・・・あなたはそういう欠点を愛してはくれなかった」
「なんですって・・・」
「だから・・・私たちの交際は本当の愛とはいえなかったのです」
「・・・」
「私の父親も・・・私の母親にひどいことをしました」
「今さら・・・親のせいですか」
「いいえ・・・でも私の父親は自分のみっともなさを私にさらけだしてくれたのです・・・あなただって欠点はある・・・気の強いこと・・・学級委員ばりの正義感・・・でもそれを私は乗り越えた・・・」
「何を・・・」
「私はあなたの欠点も愛せる・・・むしろ・・・あなたの欠点こそが・・・あなたの魅力だと乗り越えました・・・私たちの交際には本当の愛がなかったのだから・・・終われない・・・始ってもいないのですから・・・私たちの愛はこれからスタートするのです」
「・・・」
「私は立ち向かった・・・君は・・・逃げるのか・・・それとも立ち向かうのか」
「・・・わかりました・・・それには条件があります」
「なんなりとお申しつけください・・・私は君専属のコンシェルジュです」
零治の交渉術がついに勝利の糸口を・・・。
まあ・・・この論理・・・一回はなんとか通用するんだよな。
次に使うと・・・。
「ああああああ、聞きたくない・・・・あなたに説得されるのはまっぴら」って言われるよね。
「条件その一・・・今夜はおとなしく帰ること」
「承りました」
「その他の条件はメールで通知します」
「せめて電話で・・・」
「・・・」
「承りました」
「それでは・・・これで・・・」
「ありがとう・・・気をつけて・・・」
「・・・」
「いさなみすやお」
「・・・」
なんとか・・・ストーカーをふりきった被害者である。
そして・・・一人取り残される・・・ストーカーのような愛を乞う者・・・。
世界一難しい恋・・・看板に偽りなし・・・。
高校生までとは言え・・・彼をこんな風に育ててしまった母親が登場するかどうかも楽しみである。
今夜は少し安眠できそうだ・・・。
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