トットてれび(満島ひかり)白いかもめを泣かすなよ(吉田鋼太郎)
「知床旅情」に登場する国後島は・・・我が国固有の領土であるが、ロシア連邦が不法占拠中である。
困ったことだな。
で・・・春と夏の谷間に突入したわけだが・・・春ドラマのレビューから漏れた作品の中でも1、2を争う名作がコレだ。
そのクライマックスを飾るのが森繁久彌を演じる吉田鋼太郎の熱唱である。
ロシア(当時のソ連)が「クナシリ」を不法占拠して15年目の1960年に・・・森繁久彌が作詞作曲した歌である。
すでに日本は「飲んで騒いで」いられる時代になっているわけである。
白いかもめ(日本人)を泣かすのは黒いカラス(ソ連軍)である。
カラスたちは満州で樺太で暴虐の限りを尽くしたのだ。
加藤登紀子が白いかもめ(よ)・・・と歌うのは男女の話にすりかえるマジックなのである。
白黒をはっきりつけないまま・・・それから56年の歳月が流れたのだ。
それでも「忘れちゃいやだよ」と白いかもめは歌うのだった。
で、『トットてれび・第1回~最終回(全7話)』(NHK総合201604302015~)原作・黒柳徹子、脚本・中園ミホ、演出・井上剛(他)を見た。往年のスターや著名人を現代のスターが演じる回顧録であるが・・・その幻想的なシーンの積み重ねは一種のファンタジーの趣きである。トットちゃんこと黒柳徹子(藤澤遥→満島ひかり→黒柳徹子)は遥か彼方の小学生から近未来の百歳まで超時空的に偏在し・・・あたかも神の如しである。
トットちゃんは・・・不思議な女の子で・・・創成期のテレビ局にもぐりこみ・・・エンターティメントの花を開かせる。
そのデビューからの付き合いとなる伊集院ディレクター(濱田岳)は永遠のとっちゃん坊やなんだな。
渋谷の伏魔殿の正面には地味な中華料理屋がある。
思わず八宝菜が食べたくなるドラマである。
もちろん・・・王さん(松重豊)がいるわけではない。
坂本九(錦戸亮)、沢村貞子(岸本加世子)、永六輔(新井浩文)、横山道乃(菊池亜希子)、篠山紀信(青木崇高)、三木のり平(小松和重)、スリーバブルス(高橋愛、田中れいな、久住小春)など・・・次から次へと繰り出されるキャスティングの嵐だ・・・。語り役のパンダが小泉今日子という豪華絢爛さである。
しかし・・・後半になって・・・トットちゃんの青春が翳りを見せる頃・・・三人の思い出の人が主軸となっていく。
稀有の脚本家・向田邦子(ミムラ)、男はつらいが泣いてたまるかの渥美清(中村獅童)、愛人が12人いる大スター・森繁久彌である。
自由奔放に見えるトットちゃんだが・・・永六輔を知らない若者に「この方は草分けなのよ」と嗜めていたことをいつも思い出す・・・そういう古風な女の一面を持っている。
天才同志の秘密めいた友情を交わす向田邦子とトットちゃん。
旅先で散った彼女の留守番電話に語りかけるという抒情・・・。
「このアマ・・・山手育ちの女なんて大嫌い」で始る渥美清との交流。
「お嬢さん」「お兄ちゃん」と呼びあい・・・森繁久彌のものまねを得意とした彼に「星の王子さま/サン・テグジュペリ」を贈り・・・モギリのお姉さん(片桐はいり)に「男はつらいよ」の入場券を渡す・・・。
「ダック入りの北京ダック」を腹いっぱい奢られるトットちゃん。
「一回、どう」で始る森繁久彌との腐れ縁・・・。
昭和から平成へ。二十世紀から二十一世紀へ。
「徹子の部屋」では「知床旅情」が時代を越えて歌い継がれる。
「面白くなければテレビじゃない」・・・リベラルであることを見失った「徹子の部屋」の某テレビ局には耳が痛い話である。聞く耳ないぞ。
恍惚の人となった森繁久彌の誘惑を最期まではねのけるトットちゃんだった・・・。
別離のシーンでの車中からの表情は森繁久彌が憑依したように見えた。
素晴らしい時代があった。
テレビの黄金時代があった。
それが失われないようにと祈る今日この頃なのである。
北方領土がいつまでたっても返還されないにしても・・・。
「黒柳さ~ん」と叫んでみたいよねえ。
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