神の舌を持つ男(向井理)古物商許可証を持つ女(木村文乃)手袋咥えて33年(片平なぎさ)
甕棺墓(かめかんぼ)とは・・・甕を棺とした墓である。主に小児の埋葬に使われた。
朝永振一郎はノーベル物理学賞の受賞者である。
宮沢賢治は詩人で童話作家である。
よく似た名前が主要人物のネーミングに用いられているようだ。
このドラマはトリオのコントを基盤として、基本的には甕棺墓がボケ、宮沢がツッコミ、朝永が大ボケという役割分担になっている。
甕棺墓と宮沢は凡人なのだが朝永は天才なのである。
なにしろ人間化合物成分分析器という超能力者なのだ。
荒唐無稽な話である。
つまり・・・ファンタジーなのである。
けして真剣に見ないでください。
で、『神の舌を持つ男・第1回』(TBSテレビ20160708PM10~)原案・堤幸彦、脚本・櫻井武晴、演出・堤幸彦を見た。「さあ・・・眠りなさい」で始る「聖母(マドンナ)たちのララバイ/岩崎宏美」は1981年にスタートした日本テレビの「火曜サスペンス劇場」の最初の主題歌である。「火曜サスペンス劇場」の略称は「火サス」であるが・・・他局なので二時間のサスペンスドラマの代名詞として「二サス」と言い逃れているのである。それでもそこそこ伝わるのだが・・・2005年に「火サス」が終了して十一年である。そろそろ・・・元ネタを知らない人は多いだろう。だから・・・そういうものはけしてメインディッシュにはならないと何度言ったら・・・まあ、いいか。
珍道中(道行)ものである・・・まあ・・・ロード・ムービーと言っても良いだろう。
主要登場人物は三人。
三人が何故・・・旅に出たのかは・・・謎に包まれている。
主人公の朝永蘭丸(向井理)は舌で化合物に含まれる分子成分を特定できるという・・・モンスターである。絶対に人間ではないはずだ。人間にそんなことができるわけがない。そもそも西洋化学の発展の礎となった錬金術師たちの死亡率は高いのである。みんな「物質」を舐めて見極めるので・・・いつか死ぬわけである。それはともかく・・・蘭丸は祖父である伝説の三助・・・朝永平助(火野正平)の葬儀で謎の温泉芸者・ミヤビ(顎に特徴のある女優だが何故か秘されている・・・何か不祥事があっておそらくキャスティングが間に合わなかったのだろう・・・きっと違うぞ)と「特別な味のキス」をして以来・・・ミヤビに恋焦れ・・・彼女を求めて旅に出たらしい。
ワゴン車に乗って古物の行商をする甕棺墓光(木村文乃)は蘭丸に懸想し、行動を共にしているらしい。甕棺墓のキスはカメムシのような味がするようだ。
謎の男である宮沢寛治(佐藤二朗)は宮沢賢治の詩を諳んじる常識人風だが・・・変な男女と行動を共にしていることがすでに怪しいわけである。
三人を乗せたワゴン車はびわ狩りのシーズン(梅雨時)に栃木県の秘湯「湯西川温泉」を目指す。
温泉芸者・ミヤビの出没情報があったらしい。
しかし・・・びわの食べ過ぎでお腹をこわした甕棺墓のために山中で車内泊を余儀なくされる一行だった。
甕棺墓は「困った女」設定であり、トリックの山田同様・・・誰もが認める美女なのに登場人物だけはそれにまったく気がつかないというおかしなことになっている。
ただの変な旅行記では成立しないために・・・基本的にはミステリ要素があり・・・それがありふれた手法であることを隠すために「二時間ドラマ好きな女」として設定された甕棺墓は「二時間サスペンスドラマ」的な言動で一種のバロディーを構成する。
倫理観に問題のある甕棺墓は管理していた蘭丸の金も使いこむ。
びわで金を使い、お腹の薬でお金を使い・・・ほとんど無一文となった一行はガソリン代も賄えない。
件の温泉旅館に到着するが・・・謎の女・ミヤビはタッチの差で・・・温泉宿の主人・高藤茂(菅原大吉)の運転する車で・・・駅へと向っていた。
追いかけるワゴン車はガス欠でエンコ(行動不能)である。
温泉宿の女将・高藤美鈴(片平なぎさ)は「空き部屋はありますが・・・初めてのお客様は・・・保証金を頂くシステムです・・・」と当然の対応。
しかし・・・宮沢は言葉巧に「伝説の三助・・・朝永平助の孫の特殊な技術」を売り込むことに成功する。
三助とは銭湯の従業員の一種だが・・・その業務内容は「釜焚き」「湯加減」「番台」の三種である。ここで語られる垢すりなどの「流し」のサービスは業務外のものである。
しかし・・・なにやら如何わしい蘭丸の秘密のマッサージ・テクニックは女性客に好評で・・・お茶の間サービスを兼ねるのだった。
しかし・・・サービスの質は昨夜の「遺産相続弁護士 柿崎真一 」の方が高品質であった・・・蘭丸のふんどしサービスも臀部の露出が物足りなく・・・向上に努めてもらいたい。
第一、甕棺墓の入浴シーン・サービスがないなんておかしいだろう・・・落ちつきたまえ。
さて・・・事件発生である。
温泉郷では町長の推進する「ゲンジボタルの放流事業」で村おこしをしていたが・・・他地域のホタルの放流による遺伝子汚染を憂慮する反対運動も発生していた。
反対派は・・・環境省の調査員に「ホタルの生態調査」を依頼する。
その・・・調査員が死体で発見されるのだった。
ここから・・・「二サス」のパロディーとして甕棺墓刑事(ではない)が事件解決を目指す。
主な要素は・・・。
旅館の主人が不似合いな鬘を着用。
甕棺墓が「二サスの視聴者ならすぐわかること」「おかどちがいの容疑者が複数登場」「なんのことだかわかりませんと言ったら真犯人」とボケまくり、ついには「聖母の子守唄」を歌い出す。
「二時間ドラマのことは忘れろ・・・そして歌うな」と冷静に突っ込むホトケ・・・じゃなかった宮沢。
「鬼怒川県民健康スポーツ医療福祉グローバル薬科短期大学」「略してキヌ短」「鬼怒川県民健康スポーツ医療福祉薬科短期大学」「グローバルぬけておーる」
「梅雨時なのに雪が降る」「夏ドラマのロケはなごり雪の季節にやるので」
「新婚さんいらっしゃ~い」と女将。
反対派の団体に謎の外国人勢力が関与。
結局、ゲストの片平なぎさが犯人。
事件の謎を解くのは主人公である。
「事件の謎はこの舌が味わった」のだった。
宿泊客だった調査員に・・・びわから抽出したアミグダリンを食させ・・・小腸粘膜のβグルコシターゼとの加水分解によってシアン化水素を発生させ・・・毒殺。
同じ部屋に宿泊した蘭丸は「神の舌」で成分を検出したのである。
調査員が殺された動機も・・・蘭丸の温泉成分分析で解明される。
温泉汲み上げ施設が故障した旅館では・・・入浴剤を用いた偽装工作を続けていて・・・それを調査員に見抜かれてしまったのだ。
宿泊客への損害賠償を考えると・・・調査員を生かせておくことはできなかったのである。
集められた一同は・・・蘭丸の謎解きに茫然とする。
「この旅館も終わりね・・・」と呟く女将。
「え・・・」
謎を解いたが・・・誰かを不幸にするつもりはなかった無垢な主人公は泣きだす。
「何・・・同情してんのよ・・・殺人犯よ」と慰める甕棺墓だった。
「どうして・・・温泉擬装なんか・・・よくあるネタだからですか」
「シーズンオフになったら・・・施設は修理するつもりでした・・・しかし・・・何故か・・・螢がいつまでもいなくならないので・・・お客さんが押し掛けて・・・」
「それは・・・汲み上げられなかった温泉が川に流れ込んで・・・水温が高くなったからです・・・螢にとって繁殖しやすい環境になったのです」
「・・・」
人間たちのイザコザを余所に螢はつかのまの生を謳歌するのだった。
宮沢は「春と修羅第二集/宮沢賢治」の一節を引用する。
奇怪な印を挙げながら
ほたるの二疋がもつれてのぼり
まっ赤な星もながれれば
水の中には末那の花・・・
螢は青くすきとほり
稲はざわざわ葉擦れする
うしろではまた天の川の小さな爆発・・・
ほたるはみだれていちめんとぶ
赤眼の蠍
萱の髪
わづかに澱む風の皿
螢は消えたりともったり
泥はぶつぶつ醗酵する・・・
連行される旅館の主人は蘭丸に囁く。
「ミヤビさんは・・・体を売るダルマ芸者のような真似はしていませんでした・・・ただ妙な男と一緒だったのです」
「・・・」
主人の回想によってその男はお茶の間には赤星昇一郎が演じていることが分かる。
「ミヤビさんは・・・テツトモ温泉のなんでだ楼に行くと言ってました」
テツ・・・本当にしょうがないな・・・。まあ・・・いいじゃないか。甕棺墓くんが可愛いのだから。
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→劇場版 ATARU THE FIRST LOVE & THE LAST KILL
→スシ王子
→トリック
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コメント
この初回の,ホタル生態の場面は,私が監修しました。番組最後の字幕に,「ホタル生態協力 生物科学研究所 井口豊」と出てきます。
外来種ホタル問題を扱っていますが,モデルは辰野町で,Yahoo!知恵ノートの私の記述が参考にされました。
長野県辰野のホタル再考: 観光用の移入蛍で絶滅した地元蛍 松尾峡ほたる祭りの背景にあるもの
http://note.chiebukuro.yahoo.co.jp/detail/n43312
私の研究室ブログにも書きました。
ドラマ神の舌を持つ男・殺しは蛍が見ていた,辰野町がモデル
http://laboratoryofbiology.blogspot.jp/2016/07/tbs-kaminoshita.html
ドラマ自体はフィクションですが,外来種ホタル問題は,番組製作者と私の間で,何度もやり取りがあり,ほぼ事実に沿っています。ブログにも書きましたが,ドラマ中盤で,バックに出てくる研究資料(ポスター類)も,非常に良く勉強されて掲示されました。あまりに専門的な質問だったので,びっくりしました。
投稿: 井口豊(生物科学研究所) | 2016年7月11日 (月) 20時52分
わざわざのお運び御苦労様です。
最初にお断りしておきますが私、悪魔ですので
御無礼があっても御容赦願います。
このドラマのプロデューサーは本筋を外れすぎる
情報過多の傾向があり
一部お茶の間では問題視しておりますが・・・
キッドは基本的に自由放任主義なので
それもよかろうと考えています。
そういう意味で・・・ホタル観光の問題点ネタを
拾っていて井口先生に行きついたと妄想いたします。
この場合のネタとはお茶の間ビジネスの素因子とお考えください。
つまり・・・ホタルになにか問題があるようなので
触っておこう・・・ということですな。
とにかく・・・触りたがりなのでございます。
さて・・・そういう番組作りを容認する如く・・・。
キッドはホタル観光で稼いで何が悪いという立場です。
もちろん・・・1993年に日本が締結した生物多様性条約基づいて制定された日本の生物多様性基本法が成立することから・・・世界の趨勢は生物多様性の保全に向っているわけですが・・・人間の欲望はそれよりも自由であるべきだと考えます。
もちろん・・・「観光事業よりも生態系保全が大事」という研究者の欲望も尊重いたします。
「遺伝子的分断の境界線上で研究の邪魔すんな!」・・・でございますよね。
そういう意味で・・・リンクされたページの井口先生の口調はやや喧嘩腰で微笑ましい限りでございます。
ただ・・・もう少し・・・何故県外からホタルを輸入放流して原産種を絶滅させるのが好ましくないのかをわかりやすく説明した方がよろしいですね。
まあ・・・キッドは経済発展のために原発を導入して・・・フクシマがあんなことになったことに残念な感じを持ちますが・・・。
それでも原発を導入し続ける選択に異議は唱えません。
それによりさらに悲惨な事態が発生すれば・・・フクシマの皆さんに対する共感はさらに深まることでしょう。
ホタルや人間が滅びるのもまた自然の帰結でございます。
ホタルの光は魔王の名を冠するものなので疎かにはできませぬが・・・ドラマがフィクションであるように外来種ホタル問題もフィクションにすぎません。
すべては虚構だからです。
悪魔なのでそのように考えます。
投稿: キッド | 2016年7月12日 (火) 05時51分
キッド 様
ありがとうございます!
>御無礼があっても
全然そう思わないコメントです。むしろ,私が同意できる点も多くあります。
>情報過多の傾向
そうなんです。出演者バックのポスター類も,相当,凝りに凝っています。だからむしろ,そこまでやるなら殺人事件というより,生態保護の問題を中心にしてほしかったくらいです。
>ホタル観光で稼いで何が悪いという立場
同意!私のそうですし,DNA分析を行った福井工大グループも,ほぼそんな感じです。
だから,辰野町への政策提言
http://www.ab.auone-net.jp/~biology/Tatsuno.htm#proposals
でも,外来種も在来種も,両方見てもらう,エコタウンモデルを提言しているのです。
私が,一番問題視しているのは,「隠していること」なのです。隠すから,外来種の拡散状況も分からない,在来種を守る手立ても進まない状況なのです。
>自由放任主義
と書かれましたが,隠さず自由にどんどん意見を言ってもらえる状況を作ればよい,と思うのです。
生物多様性保全とか,在来種保護とか言っても,所詮,ヒトが考え出した「線引き」に過ぎません。でも,「線引き」をすると決めたら,少なくとも,役場のやることなら,どこで線を引こうか,隠さず,もっと議論してほしいと思うのです。
ただしこれは,ドラマの作りとは,全然関係ないので,むしろ,ニュースや情報番組でやってほしいところです。
私の話も本筋から離れてしまって,すみませんでした。
投稿: 井口豊(生物科学研究所) | 2016年7月12日 (火) 16時45分
省庁から村役場まで・・・
官僚や役人は基本的に秘密主義ですからねえ。
後ろめたくても清廉潔白でも何故か隠す・・・。
隠すことに意義があるが如しでございます。
基本的に民間人を信用していないのでしょう。
公僕とは無私であるべきなので
「私」的なものを排除するべきだと
信じているのかもしれません。
情報は秘匿しなければ漏洩するものですから。
そういう人を相手にする時・・・
公明正大を求めても徒労に終わる場合がありますが
それでも・・・正攻法で情報公開を求めて行くのが
探究者の使命というものなのでしょう。
時にはこっそり教えてもらうのも手ですが
その情報がとるに足らないもので・・・
「なんでそんなことを隠しているのか」と
茫然とすることもございますな・・・。
基本的にこのブログはドラマについての妄想を展開する場ですが・・・。
とくにタブーはありませんので
よほどのことがない限りコメントは公開しております。
気が向いたらまたおでかけください。
投稿: キッド | 2016年7月12日 (火) 17時51分