誰か私にご褒美をください(桐谷美玲)グリーン・アスパラガス・ブルース(山崎賢人)
初回の冒頭はウェディングケーキを作る主人公でバック・グラウンド・ミュージックは「Butterfly/木村カエラ」(2009年)だった。言わずと知れたウエディング・ソングである。
ドラマではこうした実在の風俗に基づく固有名詞の挿入は常套手段だが、虚構の世界ではスティーヴン・キングのようにことさらに・・・そういうものを盛り込むタイプとコマーシャリズムを嫌悪するタイプに分かれる。
どちらかといえば・・・キッドは後者に属するのだが・・・現実世界を描くにあたって・・・実在する風俗のディテールを描くことが強力なテクニックであることは認める。
主人公を演じる女優の実年齢は26歳である。
2009年には19歳だったことになり、成人を前にして・・・木村カエラが親友の結婚式のために書き下ろしたとされる曲に・・・ときめきや憧れを感じたことは簡単に想像できる。
挿入された風俗の固有名詞が作品に奥行きを与えることができれば・・・それは工夫と言えるだろう。
今回は「First Love/宇多田ヒカル」(1999年)である。
平均視聴率21.5%を獲得したドラマ「魔女の条件」の主題歌であり、あやかりたい気持ちもあるだろうが・・もちろん、主人公の初恋の気持ちを重ねているわけである。当時の主人公は小学生だったわけだ。「魔女の条件」の道ならぬ恋をする主人公の年令設定は26歳であり・・・「彼女」と比較した時のその頃のさらには今の「自分」の幼さも仄かに浮かび上がることになる。
どちらも「ラヴソング」であるから・・・この枠の前作「ラヴソング」に対する敬意とも皮肉とも受け取れる。
初回には主人公の書棚に「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-/和月伸宏」と「NANA/矢沢あい」が並んでいたが・・・脚本家の前作「恋仲」(2015年)も「盗まれたコミック」が重要なアイテムとなっていた。少年マンガと少女マンガが並んでいることは・・・主人公の性的な未成熟を示しているとも言える。どちらも大手出版社の「集英社」刊行なのでベタな性格を象徴している可能性もある。
なりふり構わぬ小ネタの挿入とは違い・・・こういう趣味は可愛い感じがする。
で、『好きな人がいること・第2回』(フジテレビ20160718PM9~)脚本・桑村さや香、演出・金井紘を見た。パティシエの櫻井美咲(桐谷美玲)は失職中に・・・学生時代の憧れの先輩だった柴崎千秋(三浦翔平)と再会し、千秋の経営する海辺の町のレストラン「Sea Sons」に住み込みで就職することになる。千秋の弟でカリスマ・シェフの夏向(山崎賢人)とは最悪の出会いをするが腕を認められ・・・厨房への入ることを許されるのだった。しかし・・・買い出しの途中で千秋が謎の美女と結婚式場に消えるのを目撃した美咲は動揺し、グリーンアスパラガスを購入してしまうのだった。
思わず、スマホと称される携帯電話機のデバイスで検索大手企業が提供する音楽サービスを利用し「最初の恋心」を確認する美咲だった。
あなたは・・・誰を・・・想っているの?
「音楽を止めて」
思わず・・・スマホと称される携帯電話機のデバイス内の電子的執事に命ずる美咲だった。
「停止シマス」
心乱れる美咲なのだ。
「時をかける少女」が近所で時をかけているのも知らず海岸に背を向ける美咲だった。
「なぜ・・・アスパラなんか買ってきた」
「アスパラみたいだったんです・・・シュッとしていて・・・千秋さんに相応しいアスパラ美女でした・・・そりゃ・・・千秋さんですからアスパラみたいな婚約者がいたっておかしくないんですけど・・・そのうち・・・このアスパラと結婚するんだとか打ち明けられてしまうのかしら」
「・・・バカは幸せでいいな」
事情を察して年下の男である夏向は微笑む。
そこへ・・・千秋が件の美女・高月楓(菜々緒)を伴って現れる。
沸騰する一部お茶の間の「サイレーン」愛好家たち・・・。
「君に・・・ウエディングケーキを作ってもらいたいんだ・・・」
「け、結婚おめでとうございます・・・凄くお似合いですね」
しかし、笑いだす千秋と楓・・・。
結婚するのは二人の大学の友人で・・・二人は結婚式の幹事を務めるのだった。
「あ・・・そうだったんですか・・・私・・・変なことを・・・」
安堵に胸をなでおろす美咲なのである。
美咲の安堵を見抜いたのは・・・夏向だけだったようだ。
「お相手」だからなっ。
もちろん・・・千秋は最初から・・・すべてを心得ているかもしれないが・・・。
そういうことも含めての「お楽しみ」だからなっ。
ケーキ作りのアイディアを得ることに没頭する美咲・・・。
千秋に・・・結婚する二人について質問する。
「どうして・・・そんなことを知りたいのかな」
「お二人のことをよく知った上で・・・お二人のための特別なケーキを作りたいのです」
「なるほど・・・それなら二人に直接聞くのはどうかな」
「はい」
「君がいてくれて・・・本当によかったよ・・・」
千秋の言葉を持ちかえり・・・不気味な赤い抱き枕に喜びをぶつける美咲だった。
「君がいてくれて・・・よかったよ・・・ですって・・・君がいてくれてよかった・・・きゃああああ」
ひとつ屋根の下は完全防音なのか・・・。
結婚する二人は一寸法師(前野朋哉)とアニメ声(松本まりか)だった。
日村信之(浜野謙太)の経営するサーフショップ「LEG END」で二人にインタビューする美咲。
「薔薇の花束をブレゼントしてくれたの」
「素敵ですね」
美咲は・・・二人の思い出の写真にヒントを求める。
しかし・・・発見したのは学生時代の・・・仲睦まじい千秋と楓のスナップ写真だった・・・。
千秋と楓は・・・学生時代に交際していたが・・・ピアニストの楓がボストンに留学したために別れたらしい・・・。
再び・・・海岸線で動揺を鎮める美咲。
「別れた二人があんなに仲良くできるものなの?」
「人間ノ心ハ複雑ナモノデス」
淡々とアドバイスする電子的執事。
単純な美咲には・・・理解が難しいらしい・・・。
とにかく・・・ケーキのアイディアは得た美咲・・・。
しかし・・・結婚式には問題が発生する。
式場の調理スタッフが・・・生牡蠣に当たって集団休職したのである。
恐ろしすぎる事態じゃないか・・・。
「五十人分の料理を頼めないか」と兄の千秋は弟の夏向に頭を下げる。
「いくらなんでも・・・無理だよ」
「Daniel Thomsonのサーフボードでどうだ」
「引き受けた」
カリスマシェフは・・・サーファーだった。
兄の夏向は弟の冬真(野村周平)に手伝いを頼む。
「ごめん・・・もうすぐ試験なんだ」
調理師学校に通っている冬真だったが・・・同級生の二宮風花(飯豊まりえ)との会話で・・・卒業への熱意がないことが明らかになる。
「Sea Sons」を傘下に収めようとしている企業家の東村了(吉田鋼太郎)が入手した「柴崎三兄弟の秘密」が関与するのかもしれないし・・・単にちゃらいだけなのかもしれない。
結婚式前日・・・夏向は千秋を買い出しに連れ出す。
なにしろ・・・五十人前の食材だ・・・普通はトラックじゃないか。
だが・・・「だまって俺についてこい」と言われた美咲は「食材のすべて」を持たされるのだった。
そこに・・・千秋と楓が現れる。
何故か・・・二人を見ると物影に隠れる美咲だった。
わざとらしいにも程があるのだが・・・本人はあくまで動揺が隠せないだけなのだ。
結局・・・食事に誘われ・・・千秋と楓に挟まれた子供のような美咲である。
学生時代に店でアルバイトをしていた楓は・・・「シラスパスタ」を注文し・・・マスターのリクエストに応える。
誕生祝いの客のための「革命のエチュード/ショパン」からの「ハッピーバースデートゥーユー」をピアノで演奏する。
その才媛ぶりに・・・心穏やかではいられない美咲。
そんな美咲を・・・ついに・・・楓がロックオンするのだった。
「美咲の千秋に対する恋心」を捕捉したらしい。
美咲の恋心が銃撃される予感である。
恋に揺れる美咲だったが・・・パティシエとして厨房に入れば・・・ケーキ作りに没頭できるらしい。
料理の仕込みをする夏向よりも早く・・・ウエディングケーキを完成させるのだった。
「終わったなら・・・とっとと帰れ・・・」
しかし・・・見て見ぬフリはできない美咲なのである。
「ジャガイモの皮くらい剥けますから」
夏向の調理助手を申し出る美咲。
「皮はもっと薄く剥け」
あくまで・・・上から目線の夏向である。
二人は・・・主人公とお相手役として・・・息のあったプレーで調理をフィニッシュするのだった。
夏向は「礼」として冷えたビールを美咲に贈るのだった。
「おかげで間に合ったよ・・・」
「ご褒美ですね」
「?」
「私・・・子供の頃・・・がんばった時にもらえる御褒美が・・・凄く楽しみだったんです」
「・・・」
応じない夏向は・・・もしかしたら・・・ご褒美とは縁のない子供時代を過ごした可能性がある。
「大人になったら・・・ご褒美はなくなったけど・・・お客様の喜ぶ顔は凄く楽しみになりました」
「まあ・・・よく頑張ったよ・・・兄貴に媚売るためだとしてもね」
「私・・・可愛いって言われるよりもかっこいいって言われたいんです」
「?」
「でも・・・千秋さんにだけは・・・可愛いって言われたいんです」
「・・・」
夜風が寝不足の二人の目を醒ますのだった・・・。
結婚式・・・当日・・・ブーケトスで・・・千秋に「交際再開」のトスを投げた楓は・・・千秋の反応の鈍さに・・・少し苛立ちを感じる。
千秋にケーキを運ぶ美咲を捉えた楓は・・・「意地悪な気持ちで千秋とイチャイチャして見せるテクニック」を披露する。
たちまち・・・ケーキを皿ごと落とす美咲・・・。
食糧を粗末にするにも程がある・・・と二週連続でお茶の間は激昂するのだった。
続いて披露宴が開始され・・・美咲の薔薇の花束ケーキが喝采を浴びる。
だが・・・圧倒する楓のピアノ演奏。
そして・・・司会の日村信之から・・・余興の泥鰌すくいのお相手として指名される美咲。
義務教育の必修課目として「泥鰌すくい」があるかのように・・・即興で見事な泥鰌すくいを披露して会場を沸かせる美咲だった。
しかし・・・「好きな人の前で・・・それはあんまりだな」的に・・・お相手役の夏向は美咲を見つめるのだった。
面白メイクの名残のあるおかめの美咲を結婚式場から連れ出し・・・係留してあるボートに乗せる夏向・・・。
「お前に・・・見せたいものがある」
「え」
そして・・・夕暮れのクルージングに出発する美咲と夏向である。
そうだ・・・これが月9というものだ。
夏向は・・・変な形の島を前座として披露する。
灯台が寝そべった人間の男根みたいな島だ・・・おいっ。
そして・・・メイクを洗い流すために美咲を海に突き落とす夏向・・・。
ライフジャケット着用だが・・・お約束で「泳げない」美咲である。
あわてて・・・救助する夏向。
二人は・・・騒動で打ち解ける。
美咲の鬱屈も流れ去る・・・。
そして・・・「最高の夕陽が見えるポイント」に上陸する二人。
「ちょっと・・・待ってよ」
慣れない岩場歩きに戸惑う美咲。
マイペースの夏向・・・。
しかし・・・絶景が・・・美咲の心を撃ち抜くのだった・・・。
「素敵・・・どうして・・・これを見せてくれたの」
「ご褒美だよ・・・お前は・・・今日・・・頑張ったし・・・かっこよかったから」
「・・・」
言葉を失う・・・美咲だった。
繰り返すが・・・これが月9というものだ。
美しい女と美しい男が美しい恋をする。
これがすべてのドラマの基本なのである。
これでいいのだ。
しかし・・・最終回ではないのでキスはしません。
ちなみに・・・アスパラといえば缶詰のホワイトアスパラガスを思い出す世代があって・・・軟白栽培せずに普通に育てたアスパラをグリーンアスバラガスと呼んだ世代があって・・・アスパラといえばグリーンアスバラガスを指す世代がある。
どんな世代にとっても・・・月9はこういう王道でいいと考える。
それにしても演技力には定評のある主人公・・・松坂慶子化を経て・・・完全に凄い感じになってきたな・・・。
圧倒されるぞ・・・。
なにしろ・・・絶世の美女が一瞬・・・そうではないように思わせるんだからな。
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