鎖 女刑事 音道貴子(小池栄子)男より早く食べる女たち(篠田麻里子)
前回が直木賞作家の物語だったわけだが・・・今回は「凍える牙」で第115回直木三十五賞(1996年)を受賞した乃南アサの原作をドラマ化である。
受賞作の「凍える牙」のヒロイン・音道貴子はこれまで、天海祐希や木村佳乃などが演じてきたが・・・今回はシリーズ作品の一編「女刑事 音道貴子 鎖」のドラマ化である。
音道貴子を演じる小池栄子が抜群の存在感だ。
グラビアアイドルのイメージの強い小池栄子だが映画「下妻物語」や「パーマネント野ばら」などで素晴らしい演技を見せている。女優としての実力をお茶の間に認知させたのはドラマ「リーガルハイ」の沢地君江役だろう。完璧なボディーを備えた優秀な秘書という・・・他者の追随を許さない役柄を得たのである。
その延長線上に「世界一難しい恋」はあり・・・再び「最高の秘書」でお茶の間を魅了したのである。
もちろん・・・秘書でなくても・・・できるわけで・・・魅力的な女刑事が誕生している。
遡って「凍える牙」も小池版で見たいぞ。
で、『水曜ミステリー9 鎖 女刑事 音道貴子』(テレビ東京20160706PM9~)原作・乃南アサ、脚本・坂上かつえ、演出・児玉宜久を見た。ミステリに限らず筋立てというものはいくつかの断片を複合させたものである。断片はありふれた素材だ。「迷宮入りした幼女失踪事件」「母親による虐待」「介護に疲れて家出」「いやな年下の上位者」「ひったくりの被害者」「税金逃れのための隠し口座」「強盗殺人事件」「人質立てこもり事件」「心あるものは通じ合う」「よく似た女」「面倒見のいい先輩」「若い男と駆け落ち」「睡眠薬入りオレンジジュース」「犯罪現場に通りかかる」「解雇された企業に復讐」「金の切れ目が縁の切れ目」「老いた両親の涙」「カッとなりやすい性格」「山分けで仲間割れ」「詐偽の常習犯」「現場から前科者の指紋を検出」「廃墟に地下通路」「偶然の再会」・・・そういう断片が巧に絡み合い・・・物語が誕生する。
「ご馳走様でした」と特捜班の女刑事・平嶋真紀(篠田麻里子)は食事を手早く終える。
「早いな」と呆れるベテランの滝沢保刑事(高橋克実)・・・。
「滝沢さんが・・・女はメシが遅くてダメだって言ったんですよ」
「お前によく似た女がいたよ」
「どこの店にですか」
「馬鹿・・・刑事だよ」
かってコンビを組んでいた音道貴子(小池栄子)を思い出す滝沢刑事だった。
機動捜査隊に所属する音道貴子巡査長は殺人事件の現場に一番乗りしていた。
占い師夫婦が客の夫婦とともに惨殺された事件である。
捜査本部が開設され、音道刑事は捜査一課の星野秀夫警部補(阿部力)とコンビを組むことになる。
星野刑事は音道よりも階級は上だが年下だった。
「怨恨の線が強い」と捜査方針を口にする星野に音道は「強盗殺人の疑い」を口にする。
殺害現場に銀行の粗品が大量にあったのに・・・通帳が残されていないことを指摘する音道。
捜査会議で報告しようとする音道を星野は制止し、裏をとるために銀行に向う。
しかし・・・銀行には占い師の口座はなかった。
「着眼点はよかったが・・・ハズレだったな」
「しかし・・・匿名口座の可能性も」
「今の時代・・・銀行にはそんなことはできないよ」
お互いをよく知りあうためにと酒席に誘う星野だった。
その席で・・・星野は音道を口説き始める。
「私にはそういうつもりはありません」
「なんだと・・・色目を使いやがったくせに・・・」
星野は女癖の悪さに定評のある悪徳刑事だった。
その上・・・星野は上司の柳沼伸治(益岡徹)に「銀行の件」を報告していた。
柳沼は銀行に再就職した警察官関係者を利用し・・・法規制前に存在した匿名口座の存在と・・・事件後、「二億円」の預金口座が解約されたことを突き止める。
「強盗殺人の疑い」が濃厚となる。
聞き込みを続ける音道は・・・昔の事件の被害者を見かける。
一年前のひったくり事件の被害者だった。
中田加恵子(西田尚美)は寝たきりの父親と無職の夫、高校生と中学生の二人の子供を抱え・・・夜のアルバイトもする看護師である。
現金を抜かれた財布だけが戻ると・・・財布の中から古いお守り袋を取り出し・・・安堵していた様子が印象に残っていた。
だが・・・挨拶もせずに立ち去る中田加恵子は不釣り合いな若い男と一緒だった。
交際申し込みを拒絶してから態度を一変させた星野刑事は・・・関与が疑われる銀行の退職者リストを音道に示す。
「ここは遠いからお前一人で行ってくれ」
「単独捜査は規則違反です」
「うるせえな・・・命令するのは俺なんだよ・・・警察は階級組織だってことを忘れるな」
仕方なく埼玉県に聞き込みに行った音道は・・・目当ての退職者が東京に引っ越したことを知る。
だが・・・引越し先の住所には墓地があるだけだった。
駅へ引き返す音道に星野からの着信がある。
《今、どこだ》
「東京です」
《なんだと・・・命令に従わないつもりか》
そこへ・・・中田加恵子が現れる。
「刑事さん・・・」
「あら・・・中田さん」
《なんだって・・・》
「すみません・・・知りあいに会ったので・・・折り返し連絡します」
《男なのか》
音道は電話を切った。
「二回も会うなんて・・・偶然ね」
「中田さんはどうして・・・ここへ」
「私・・・家を出たの・・・ちょっと寄って行く?」
音道は招かれてジュースを御馳走になる。
「ここに・・・お一人で・・・」
「・・・」
その時・・・浴室から明らかに返り血を浴びた堤健輔(黄川田将也)が現れた。
「え・・・」
立ち上がろうとした音道は眩暈を覚える。
「ごめんね・・・睡眠薬を入れたの・・・あなたが悪いのよ・・・私を付け回すから」
「そんな・・・」
横道は意識を失った。
横道刑事が捜査会議に現れず・・・連絡もとれないために・・・騒然となる捜査陣。
しかし・・・星野は嫌がらせのために単独捜査を命じたことについて口を噤む。
「彼女は・・・風邪気味で・・・帰宅させました」
だが・・・翌日も・・・横道は姿を見せない。
滝沢刑事の特捜班に失踪警察官の捜査が命じられる。
「捜査中の刑事が行方不明になった・・・事件性があるかどうかは・・・不明だが」
資料を見た滝沢刑事は顔色を変える。
「こいつが・・・無断欠勤するなんて・・・ありえません」
滝沢は星野に事情を聴取するのだった。
「あいつは・・・いい加減な奴で・・・手を焼いているんですよ」
「あんた・・・彼女に振られていやがらせをしていたそうだな」
「誰が・・・そんなことを・・・」
「みんなだ・・・警察なめるなよ」
「・・・」
「横道に何をやらせた」
「埼玉県まで聞き込みに・・・」
「単独捜査はタブーだろうが」
「・・・だが・・・あの女は東京にいて」
「横道との最後に連絡を取ったのはあんただ・・・状況を思い出せ」
「確か・・・事件の被害者に会ったとか・・・中のつく名前だった」
「あんた・・・鈍いようだから・・・言っておくが・・・彼女にもしものことがあったら・・・ただではすまないぜ・・・」
滝沢刑事と平嶋刑事は埼玉県から阿佐ヶ谷の墓地にたどり着く。
「はがきにはただ三丁目とありましたが・・・北と南があるそうです」
「何・・・」
「ここは・・・北三丁目です」
「じゃあ・・・南だ」
そして二人の刑事は退職者の死体を発見する。
「仲間割れか・・・」
横道の捜査記録から・・・中田加恵子の名が浮上する。
二人の刑事は中田加恵子の交際相手の堤健輔を割り出し・・・堤が借りたレンタカーから前科者の指紋を発見する。
詐偽の常習犯・・・井川一徳(小木茂光)である。
「おそらく・・・こいつが主犯だな」
音道は廃工場で監禁されていた。
脱出に失敗し・・・暴行を受けた音道を手当てする中田・・・。
「なんで・・・あなたは・・・こんなことを・・・」
「変わりたかったのよ・・・」
「変わるって・・・人殺しの仲間になることなの・・・」
「あなたには・・・わからないわ・・・」
「そんな・・・」
「私はね・・・幼い頃から亡くなった母親に折檻されていたの・・・」
「・・・」
「なぜだと思う・・・」
「・・・」
「私が本当の子供じゃないからなの・・・私は三歳の時に死んだ子供の代わりに・・・今の父親に誘拐されたのよ」
「え・・・」
「信じられないでしょう・・・私だって・・・母が死ぬ時にそう言われて・・・そんな馬鹿なと思ったわ」
「本当の御両親は・・・」
「昔の事件の記事を捜して・・・家の前まで行ったのよ・・・でも・・・何十年も前の話なのよ・・・とてもじゃないが・・・顔なんか出せなかったわ・・・」
「・・・」
「そんな私が・・・すべてを捨てて生まれ変わるためには・・・こんなことをするしかなかったの・・・彼が私を地獄から救ってくれたの」
「お子さんのことは・・・」
「うるさい・・・黙れ」
しかし・・・中田は高校生の息子と連絡を取り合っていた。
自分の捨てた家族に捜査の手が及んでいるとは夢にも思わなかったのだ。
たちまち・・・特定される犯人グループの位置情報。
「新潟だと・・・」
「船で・・・高飛びするつもりだな」
特殊部隊により包囲される廃墟。
「どうするんだ・・・」
「安心しろ・・・この工場には地下通路があるんだよ」
「え・・・」
「だから・・・この女を殺さずに連れてきたんだ・・・この女がいれば簡単に突入できないからな・・・出航時間までの時間稼ぎだ」
その時・・・中田の携帯に着信がある。
井川が電話を取り上げる。
《もしもし・・・井川にかわってくれ》と滝沢刑事。
「私が・・・井川だ」
《あきらめろ・・・》
「こっちには・・・人質がいる・・・銃もある」
《人質は生きているのか・・・》
「声を聞かせるよ・・・お前らのお仲間だ」
《音道・・・俺だ》
「滝沢さん・・・」
《いいか・・・お前のタイミングで突入する・・・合言葉を決めろ》
「・・・」
《お前が一番嫌いな奴の名前でも叫べよ》
音道は絶叫した。
「星野の野郎!」
音道は身を伏せた。
たちまち突入が開始され・・・犯人たちは一網打尽の憂き目に・・・。
応急手当を受ける音道が猫撫で声で現れる。
「無事でよかったな・・・誤解のないようにいっておくけど・・・」
問答無用で星野を鉄拳制裁する音道だった。
音道は・・・中田加恵子の本当の両親を訪ねる。
「にわかには・・・信じられないでしょうが・・・しかも・・・彼女は獄中にいます・・・けれど・・・御両親には彼女の更生の一助になってもらいたいと・・・」
音道は・・・中田加恵子の写真を見せる。
加恵子の年老いた両親は・・・加恵子の本当の名を呼ぶ。
「間違いない・・・面影がある・・・」
涙にくれる両親だった。
音道貴子は優秀でタフで・・・心ある刑事なのである。
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