夢の中の殺人(波瑠)君の心を裸にしたい(林遣都)気持ちの悪い女だねえ(渡部篤郎)
前回も指摘したが・・・このドラマは「沙粧妙子 - 最後の事件 -」(1995年)から派生した「ケイゾク」(1999年)の正統な後継者としての系譜に属するものと想定できる。
「ケイゾク」は常識的な捜査では対応できない異常犯罪に対応するための「未解決事件の継続捜査」が主眼であったが・・・このドラマの主人公は・・・警視庁捜査一課に所属しながら・・・「過去十年の未解決事件」のデータをすべて記憶している一種の天才である。
「ケイゾク」は「沙粧妙子 - 最後の事件 -」のパロディーとしての側面も持っていて「沙粧妙子」の黒幕的犯罪者「梶浦圭吾」の名を登場人物が無意味に叫んだりする。しかし・・・常識的な捜査では対応できない異常犯罪者として「朝倉裕人」が設定されている。
パロディー要素を強めた「SPEC」や・・・「沙粧妙子 - 最後の事件 -」の亜流である「アンフェア」とか「ストロベリーナイト」よりもこのドラマは「ケイゾク」の換骨奪胎を強く意識しているように思う。
つまり・・・「ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子」←「ケイゾク」←「沙粧妙子 - 最後の事件 -」←映画「羊たちの沈黙」(1990年)という流れなのである。
初回の主人公の独白・・・「犯人はもうわかりました」が「犯人わかっちゃったんですけど」の変形であるのは明らかである。
相棒の先輩男性刑事の妹は殺され・・・相棒の心に暗い影を落しているわけである。
当然のように・・・レクター博士や梶浦圭吾そして朝倉裕人のような天才的犯罪者が配置されているのだろう。
もちろん・・・その人は・・・すでに登場しているものと思われる。
ゾクゾクするような素晴らしい「悪」を堪能したいものだな。
で、『ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子・第2回』(フジテレビ20160719PM10~)原作・内藤了、脚本・古家和尚、演出・白木啓一郎を見た。「殺人」は恐ろしい犯罪である。しかし、人はたやすくそれを行うことができる。あるものは衝動的に・・・あるものは計画的に。あるものは生きるための必要に迫られて・・・あるものはちょっとした気分転換のために。戦争のように殺人が正当化される場面もあるし、正当防衛による殺人はその根拠となる。多くの人々は「殺されること」に恐怖を感じ、「殺すこと」に躊躇いを覚えると言うが・・・そうでもない人がいるだろうことは充分に妄想可能なのである。そういうことに異常な興味を抱くことが異常なことだと言う人も多いだろうが・・・キッドは特に差し支えないと考える。
夢の中では・・・すべてが自分の分身であると考えるのが一般的だ。
しかし・・・人によっては夢は神の世界に通じていると信じているものもいる。
どちらにしても夢の中で罪を犯しても現実では裁かれない。
しかし・・・それが夢だと知らなければ・・・人は罪に対して用心深くなる。
物凄い美少女とそういう感じになりそうだったのに・・・つい怖気づいてそうならないままに目覚めて・・・「大失敗じゃないか」と悔やむ朝もある。
夢の中で鈴木仁美(篠田麻里子)の死体を見つめる藤堂比奈子(波瑠)・・・。
すでに自殺してこの世にはいない殺人者である小林翔太(三浦貴大)が問いかける。
「き・・・興味深いのか・・・」
「興味深いです」
「お・・・お前は・・・こ・・・壊れている」
「・・・」
「だ・・・だから・・・お前も・・・こ・・・こっちの人間に・・・もうすぐ」
死者は自分が殺した死体を愛撫しはじめる。
佇む比奈子を母の声が呼びとめる。
(大丈夫よ・・・比奈子・・・あなたは大丈夫)
薄暗い夢の中で善光寺七味唐辛子の缶は囁くのだった。
夢の闇から・・・比奈子は現実の光の中に帰還する。
東村山市で「怪事件が発生していた。
盗難車として届けられた冷凍車を発見した警察車両は追跡を開始し、乗り捨てられた冷凍車を確保するが・・・運転者はとり逃がす。
そして・・・冷凍車の側に着席した人体を二体発見する。
二人は死んでおり・・・死体は氷結していた・・・。
出動する警視庁刑事部捜査第一課・厚田班・・・。
ケイゾクの野々村光太郎警部(竜雷太)に該当するのが厚田巌夫班長(渡部篤郎)である。
ケイゾクの近藤昭男刑事(徳井優)に該当するのが倉島敬一郎刑事(要潤)である。
ケイゾクの谷口剛刑事(長江英和)に該当するのが清水良信刑事(百瀬朔)である。
もちろん・・・清水刑事は何者かに操られたあげくに殉職するものと思われる。
いつ死んでもいいように警視庁には不似合いな関西弁なのであろう。
そして・・・ケイゾクの真山徹刑事(渡部篤郎)に該当するのが東海林泰久刑事(横山裕)なのである。
本人が共演中なのであれだが・・・いろいろと勉強する機会である。
後輩の主人公をもてあますキャラクターとしては・・・真山刑事は「最高」だったからな。
単に直情的だったり・・・単にお人好しだったりするのではなく・・・複雑な人格というものを演じるチャンスなのである。
殻を破りたまえ。
主人公の比奈子は部署の先輩におずおずと声をかける。
「興味深いですよね」
「お前の趣味の悪さは・・・もうよくわかったよ」
二人は・・・小林翔太の逮捕劇以来・・・会話していなかったらしい。
「なんじゃ・・・こりゃ」と真山ではなく・・・厚田班長が呆れる。
「凍ってますな」と三木鑑識官(斉藤慎二)・・・。
新人鑑識官の月岡真紀(佐藤玲)もなんとなく現場にいる。
ドラマ「相棒」のスタートは2000年。「ケイゾク」では「鑑識」がそれほどに重視されていない。
鑑識が刑事ドラマになくてはならないものではなかったからである。
そういう意味で・・・このドラマの鑑識は付けたしなのである。
ついでに・・・ドラマ「きらきらひかる」(1988年)はすでにあったが・・・「ケイゾク」では「検死」もそれほどに重要視されていないために監察医の存在もない。
そのために・・・司法解剖のプロフェッショナルで帝都大学医学部の法医学教授である石上妙子(原田美枝子)の存在もそこはかとなく浮いているわけである。
これは・・・構造上の問題なのだ。
なにしろ・・・比奈子という天才がいれば・・・鑑識官も監察医も本来不要なのである。
まあ・・・設定してしまったものは仕方ない・・・それらしさを求めるお茶の間もあることだからな。
そもそも・・・原作のある話だぞ。
「とにかく・・・死んでから凍ったのか・・・凍ってから死んだのか」
「それについては検死解剖してみないと・・・」
「まあ・・・冷凍されているから保存状態はいいよな」
「溶けだす前にモルグへ搬入しましょう・・・もう・・・少し匂い出しているから」
「・・・」
解剖の結果・・・遺体は殺害されてから冷凍されたことが判明する。
そして・・・遺伝子情報から・・・二人が兄弟である可能性が高まった。
警視庁内の自動販売機前。
「久しぶりに先輩と話をしました」
「お互いに話すことなんてないだろう」
「先輩はどうして・・・単独捜査のことを秘匿したのですか」
「お互いに・・・始末書をかかないですむからな」
「・・・」
「お前こそ・・・どうして一人で容疑者にコンタクトした」
「彼が犯人である・・・確証がつかめなかったからです」
「そんなことして・・・奴に殺されてたらどうすんだ・・・お前と違って・・・俺は死体を興味深く見る趣味はない・・・お前の死体なんて見たくねえんだよ・・・」
「・・・」
「お前・・・家族はいるのか」
「幼い頃に両親が離婚して・・・母子家庭でしたが・・・警察に就職が決まった頃、母も病死しました・・・この七味唐辛子は母の遺言入りです」
「進め!比奈子」と記された缶なのである。
「・・・!」と微かに動揺する東海林刑事だった。
「先輩のご家族は・・・」
「何故・・・そんなことを話す必要がある」
「最初に聞いたのは先輩じゃないですか」
「・・・両親は・・・健在だ・・・それから・・・妹が一人いた」
「いた?」
盗難車の逃走経路から・・・冷凍庫のある施設が割り出された。
何故か・・・明確にはされないが・・・食肉業者であろう「霜川商店」である。
現場を訪問した厚田班は・・・「霜川商店」で新たな冷凍死体を発見する。
テーブルを挟んで向かい合う・・・夫婦のような遺体。
比奈子は・・・空席があることに注目する。
近所での聞き込みにより・・・死体の四人が家族だったことが明らかになる。
冷凍庫の死体は父親の霜川幸三(螢雪次朗)と長女の由美(赤間麻里子)・・・。
最初に放置された死体は由美の弟たちだった。
聞き込みでは・・・仲の良い親子だったが・・・二年前に父親が姿を消してから・・・家業が傾いたと噂があった。
しかし・・・実際は・・・。
三人の姉弟には幼い頃からの虐待の痕跡があり・・・姉には帝王切開の跡が残されていた。
「冷凍焼けの状態から言うと・・・」と監察医。
「死体からの水分蒸発率ですね」と比奈子。
「殺されたのは・・・父親、兄弟、姉の順ね・・・」
「父親の失踪後・・・姉は家を出て男と同棲・・・長男が家業を継承し、次男はギャンブルに狂っていたそうです・・・そのための借金で・・・店の経営が続けられなくなったと思われます」
「きっと・・・狂っていたのは弟だけじゃないわ」
「父親の作った監獄家庭ということでしょうか」
「あなた・・・想像力が豊かすぎるわね」
「・・・」
小菅の東京拘置所で再び起きた死刑囚の変死事件について調査したいことがあると監察医は比奈子の同行を求める。
しかし・・・看守(利重剛)が心療内科医の中島保(林遣都)を伴って現れると・・・比奈子と中島をデートへと送り出す監察医・・・相当に意味不明な行動だが・・・きっと恐ろしい裏があるのだろう。
不気味な色のケーキと生姜焼き定食を運んで来た「萌オさまカフェ」のメイドにハートを撃ち抜かれる比奈子を・・・奇妙な生物を見る目で観察する中島だった。
「確かに・・・大友・・・いや小林には殺人衝動のスイッチのようなものがあったようです」
「・・・」
「しかし・・・殺人というものは・・・衝動によって起こるものだとは限らない」
「けれど・・・ある種の異常犯罪者には類似点があるのではないでしょうか」
「そうですね・・・」
「小林翔太の殺人衝動の背後にあるのは・・・憎悪だと思いますか・・・それとも」
「愛情ですか・・・」
「情愛も・・・憎悪も・・・欲望という点では似ていますよね」
「とにかく・・・人の心をシンプルなものとして決めつけるのはよくないです」
「・・・はい」
単独捜査を慎んでいる東海林刑事は・・・比奈子と聞き込みを続けている。
「殺人事件の統計によれば・・・53.5%は親族間の殺人だそうです」
「統計的にはそうだろうが・・・そういうことを嬉しそうに言うな」
「・・・はい」
「・・・しかし・・・一家が全員死んでいるとなると・・・親族間殺人は成立しないな」
比奈子の携帯端末に中島からの着信がある。
「中島先生が・・・一家冷凍死体事件について・・・犯人像を推察してくれました」
「おい・・・捜査情報を漏らしたんじゃないだろうな」
「先生が知っているのはニュース番組の情報だけです」
「それで何を推察するんだよ」
しかし・・・中島の電子メールを一瞥した東海林刑事は顔色を変える。
「非嫡出子・・・か」
「存在しない存在というやつですね」
「うれしそうに言うな・・・」
「・・・はい」
「俺にはすこし別件がある・・・お前は署に戻って報告しろ」
「・・・はい」
東海林刑事は・・・情報屋(不破万作)から・・・霜川幸三の愛人の情報を仕入れた。
情報屋・・・知らないことがないのか・・・。
霜川幸三は都内に妾宅を持っていたのだった。
しかし・・・比奈子が待ち伏せていた。
「何故・・・ここに・・・」
「単独行動を禁じられているので・・・先輩を尾行しました」
「・・・」
「犯人は愛人・・・あるいは愛人の子供だと思うか・・・」
「それはまだ・・・わかりません」
「どうして・・・」
「これは・・・あくまで推測です」
「いいから言え・・・」
「霜川由美は妊娠出産した形跡があります。霜川幸三が子供たちを全員虐待しながら・・・世間的にはそれを悟らせなかったことを考えると・・・非常に巧妙に子供たちを支配していたと考えられます。そのようなケースでは由美の子供の父親が・・・霜川幸三である可能性があります・・・愛人の子供よりも・・・父親と・・・父親の娘である母親と・・・出生届けを出されない子供が一緒に暮らす可能性は高いのではないでしょうか・・・」
「親父と娘と・・・その子供か・・・吐き気がするぞ」
「吐きますか」
「吐かない」
「父親が死んで・・・彼らは父親を冷凍保存した・・・一家は父親のことは黙って生活を続けた。しかし・・・父親という支配者のいなくなった・・・一家は崩壊していく・・・長女は家を出て・・・男と暮らし・・・次男の借金で・・・立ち退きを迫られる・・・彼・・・もしくは彼女は・・・引越ししようと思ったのではないでしょうか」
「・・・引越し?」
「彼にとって・・・世界は・・・霜川家だけなのです・・・そして・・・父親は凍った男・・・彼は・・・家族を全員・・・父親と同じ状態にして・・・みんなで引越しをしようと考える」
「・・・狂ってるな」
「そうでしょうか」
「お前の想像力がだよ」
「・・・」
「愛人の子が・・・父親と正妻の子供たちを憎んで殺したくらいにしておいてくれ」
「そういうのが・・・お好きですか」
「・・・」
愛人宅に到着する二人の刑事。
そこは・・・庭付きの一戸建てだった。
「大した経済力だな」
「家族を支配するためにはそれなりの経済力が必要でしょう・・・霜川幸三は資産家ですよ」
「俺は・・・二階を検索する・・・お前は一階だ・・・何かあったらすぐに俺を呼べ」
「それは単独捜査にならないのですね」
「俺は東京都内に二人がいれば単独捜査にはならないと思う」
「なるほど・・・」
しかし・・・不意をつかれた東海林刑事はスタンガンの餌食となるのだった。
比奈子は・・・冷え切った部屋で霜川幸三の愛人の遺体を発見する。
「お姉さんも・・・警察の人?」
ふりかえった比奈子はスタンガンを構える男(間宮祥太朗)を発見する。
「あなたは・・・ニーチェ先生」
「誰だい・・・それは・・・ボクはケンジだよ」
「あなた・・・小学校に行きましたか」
「行かないよ・・・お父さんは・・・行かなくていいって」
「そうですか・・・どうしてお兄さんたちを殺したの」
「みんなで一緒に引っ越すためだよ」
「でも・・・捨てちゃったのね」
「仕方ないじゃないか・・・」
「嘘・・・あなたが本当に暮らしたかったのは・・・お父さんとお母さんだけなのでしょう」
「・・・」
「だから・・・この家の人を始末したら・・・ここにお父さんとお母さんを運びこむつもりだったのね」
「お母さんはいないよ・・・ボクにはお父さんとお姉さんがいるだけさ・・・お姉さんは・・・ボクなんか・・・産みたくなかったって・・・」
「あなたは・・・お母さん・・・お姉さんに笑ってほしかったのね」
「そうだよ・・・殺してから笑顔になってもらったんだ」
「夢が叶ってよかったわね」
「ありがとう・・・」
「でも・・・残念ね・・・お父さんもお母さん・・・お姉さんも・・・警察が運んで行っちゃって・・・」
「大丈夫だよ・・・綺麗なお姉さん・・・お姉さんにボクのお嫁さんになってもらうから・・・ねえ・・・新しい家族になってよ」
「液体窒素で凍らせるのね」
「うん・・・その前にバチバチで動けないようにして・・・首を絞めるんだ」
「いい顔ね・・・その顔が見たかった・・・あなたにとって愛は・・・殺して凍らせて・・・支配することね」
「うん・・・死んだら・・・人は裏切らないって・・・お父さんが」
比奈子はバッグの中に手を入れて身構える。
そこへ・・・回復した東海林刑事が乱入する。
ケンジを投げ飛ばした東海林刑事は馬乗りになって殴打を開始する。
「先輩・・・その子は・・・」
可哀想なのだ・・・とは比奈子は語らない。
容疑者を半殺しにしなければ気が済まない東海林刑事が興味深かったのである。
「人殺しは知らないといけないんだ・・・自分が死にそうな気分になる瞬間を」
「もしもし・・・班長・・・早く来ないと・・・容疑者が死にます」
駆けつける厚田班だった。
「また・・・やっちゃいました」
「ほどほどにな・・・」
東海林刑事を庇って庇って庇いまくる厚田班長なのである。
比奈子は質問する。
「東海林刑事の妹さんはどうなりましたか」
「変質者に殺されたよ」
「なるほど・・・」
「よくある話だろう」
「事件的にはそうなりますね」
「それで東海林の気が晴れるなら・・・容疑者を半殺しにするくらいはいいと思う」
「・・・」
比奈子は中島と密会する。
連続殺人犯獄中死事件に・・・中島がなんらかの関与をしていると・・・比奈子が想定していないことはありえない。
中島も・・・比奈子の想定を想定しているのだろう。
「先生のヒントのおかげで事件を解決することができました」
「あなたは・・・いつも笑顔ですね」
「・・・」
「無理はしなくていいですよ・・・あなたの笑顔は確かに・・・交渉スキルとしては有効だ」
「・・・」
「しかし・・・演技としての笑顔は私には無効です」
「・・・」
「ありのままのあなたでいいのです・・・あなたは・・・興味深い人だから」
「そうですか・・」
笑顔を消した比奈子は・・・バッグからナイフを取り出した!
凡庸な刑事ドラマのファンにはあれだが・・・このドラマは比奈子と異常犯罪者の愛の物語なのである。比奈子には基本的に組織的な犯罪捜査は不必要なのです・・・。
なにしろ・・・比奈子単独で・・・犯人は解明できるのですから・・・。
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