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2016年8月31日 (水)

誰が人間を殺すのか(波瑠)ゆりかごの中の大人たち(林遣都)それは私と彼女が言った(横山裕)

広島で原爆が大量殺人兵器として威力を示してから71年が経過している。

大日本帝国の国民であった被爆者たちが・・・戦勝国である米国の現在の大統領に謝罪を求めることはやむにやまれぬ気持ちの発露であるが・・・銀メダリストが金メダリストに謝罪を求めるような理不尽さを秘めている。

なにしろ・・・戦争という殺し合いをしているのである。

一度にたくさんの敵国民を殺したことが罪であるならば戦勝国の首脳は全員、死刑になるべきだった。

しかし・・・人類はまだそういうルールを確立していないのである。

その証拠にロシアは現代においても殺戮しながら容赦なく武力で領土を拡大している。

そして・・・プーチンは今の処、死刑になっていないのである。

テロリストと呼ばれるイスラム原理主義者は同時多発テロで多くの人命を奪い、首謀者とされる人間は報復攻撃で処理されたり・・・あるいは潜伏して新たなテロリズムを実行している。

「平和への祈り」は「戦乱」の中では何の役にも立たない。

殺人を犯さないことをあまりにも正当化してしまえば・・・侵略されたら奴隷になる覚悟を求められる。

兵士たちが・・・戦場で人を殺して・・・英雄になれず・・・異常者として白眼視されたらランボーになるしかないわけである。

人は人を殺すことができる。

しかし・・・なるべく仲良くしていきたい。

このぐらいが妥協点ではないのかな。

殺すべき時に殺した人間はそれなりに評価されるべきだからである。

多くの人間は・・・好きで殺すわけではないのだから。

そういう恐ろしい思想を・・・このドラマは語りかけている・・・ような気がする。

人が人を殺すことを正当化してしまえば・・・この世は闇に堕ちるだろうが・・・悪魔としては別に構わないわけです。

で、『ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子・第8回』(フジテレビ20160830PM10~)原作・内藤了、脚本・古家和尚、演出・白木啓一郎を見た。警視庁刑事部捜査第一課の藤堂比奈子刑事(波瑠)は制服警官の原島巡査(モロ師岡)とのプライベートな会話を東海林刑事(横山裕)に盗聴録音され・・・「殺し合いに来た」と発言を問題視される。刑事の仕事は犯罪者を逮捕することで殺すことではないという建前で・・・東海林は比奈子に辞職を強要する。東海林にとって・・・比奈子は・・・理解できない「怪物」だったからである。

つまり・・・東海林には・・・比奈子を理解する能力がなかったのである。

自分の頭の悪さを棚に上げて人を責めるのはどうかと思うが・・・それが人間というものなのである。

「しかし・・・東海林先輩も一歩間違えれば・・・人を殺していたのではないのですか」

「お前と一緒にするな・・・俺は人殺しを憎むが・・・犯人を殺したりしない・・・最初から殺そうとしているお前とは違う」

「正当防衛をするつもりでした」

「最初から凶器を用意しておいて・・・正当防衛は成立しない。小学生全員に拳銃を配布して・・・虐待者の射殺を許可したら・・・どうなると思う」

「性犯罪が抑制できます」

「無分別な子供みたいなこと言うな・・・世の中には不文律があるんだよ・・・性的暴行よりも殺人の方が量刑が重いんだ」

「・・・」

「容疑者と殺し合いをするような刑事は・・・認められない・・・これを証拠として提出すれば・・・お前は懲戒解雇だ・・・せめて・・・潔く辞職しろ・・・」

「・・・」

比奈子は絶望した。

しかし・・・それをどう表現するべきか・・・比奈子は迷うのだった。

自分のような怪物の心は・・・やはり怪物でなければわからないのだろうか。

「精神・神経研究センター」に反社会的傾向を理由に隔離されている心療内科医師で電子工学の天才・中島保(林遣都)が・・・人殺しだったように・・・。

東海林には比奈子の心のメカニズムがわからない。

比奈子にも・・・東海林に自分を理解させることはできない。

同じ人間なのに・・・別の人間だからである。

比奈子は退職願を認めた。

刑事を辞めれば・・・中島と逢うことができなくなる。

なぜか・・・それは・・・比奈子にとって戸惑いを感じさせることだった。

理解者を失う淋しさという感情が・・・比奈子にはないのだ。

そういう感情はないが・・・心は疼くのである。

比奈子の・・・常人とは違う・・・特殊な心理メカニズムが・・・複雑な情報処理を繰り返す。

そして・・・結論に達する。

彼には別れの言葉を告げるべきだと。

白い部屋で中島は困惑する。

「刑事を・・・警察官を辞めるのですか・・・辞めてどうするのです」

「わかりません」

「あなたは・・・まだ誰も殺していない」

「しかし・・・いつか殺すかもしれません」

「あなたは・・・殺す人間と・・・殺さない人間の境界線を捜しているのでしょう」

「・・・」

「それは見つかりましたか」

「そんなものは・・・ないのではないかと疑っています」

「それは・・・僕が人殺しになったから・・・でしょうか」

「サンプルとしては非常に重要な・・・ケースと言うべきではないかと」

「私はあなたが・・・こちら側に来ることを望みません・・・」

「もう・・・あなたとお会いすることもないでしょう」

「藤堂さん・・・」

「さようなら」

比奈子の心は疼くが・・・その思いを吐き出す術は・・・比奈子には備わっていないのだ。

中島は・・・比奈子の心に潜む・・・呪いの正体に思いを馳せる。

しかし・・・情報が不足しているので・・・潜入的プロファイリングは不可能だった。

一体・・・比奈子の心に呪いをかけたのは・・・男なのか・・・女なのか。

中島は・・・微かな苛立ちの表情を浮かべる。

彼は天使を得るチャンスを逃した悪魔のような気分になった。

比奈子は・・・東海林の視線を感じる。

その視線に急かされるように・・・厚田巌夫班長(渡部篤郎)に辞意を表明しかける比奈子。

その時・・・事件発生の急報が伝えられる。

警察病院で加療中の連続殺人犯・佐藤都夜(佐々木希)が担当刑務官を殺害して脱走したのである。

きっかけを失って・・・同僚たちと臨場する比奈子だった。

新人鑑識官の月岡真紀(佐藤玲)は疑問を口にする。

「被害者は何故、スボンをさげた状態で殺されたのでしょうか」

「え・・・」と三木鑑識官(斉藤慎二)は絶句する。

捜査員一同はコンプライアンス的に沈黙する。

「加害者に誘惑されて行為に及ぼうとして不意を突かれた可能性が高いですね」

淡々と答える比奈子だった。

「え・・・こんなところで・・・」

男たちは・・・月岡の様々な経験値をあれやこれや考えるのだった。

担当刑務官は・・・都夜に骨抜きにされていたらしい。

「ただちに緊急手配だ」

「送検前なので・・・各方面は恐慌状態ですな」

「取調中の殺人犯に逃走されるなんて大失態だからな」

「逃がした獲物を狙う可能性がありますな」

「証拠品として押収した人皮ボディスーツをか・・・」

「吉田母娘には警護を付けるべきかもしれません」

「それから・・・藤堂・・・お前もだ」

「私・・・ですか」

「彼女は・・・お前の顔の皮膚で必ずマスクを作るとお前に伝言してくれと俺に言った」

厚田班長の言葉に表情を失う比奈子。

どのような反応をすれば正解なのかわからなくなったらしい。

「藤堂は自宅に帰らずホテルに宿泊しろ・・・護衛は東海林だ」

「俺・・・ですか」

「お前は・・・情報屋の藤川殺しの嫌疑がかかっているからな・・・」

「証拠があるなら・・・逮捕してください」

「まあ・・・片岡の顔も立ててやらんとな」

警視庁刑事部捜査第一課片岡班の片岡班長(高橋努)は紛失した藤川(不破万作)の携帯電話から東海林に着信があったことに不審を抱いている。

東海林は・・・何者かが・・・「藤堂比奈子」に執着していることを感知しているが・・・それについて上司に報告することを躊躇っている。

当然・・・「比奈子」の身辺に危険が迫っていることを刑事としては案ずるべきだが・・・比奈子を「人間」扱いできない東海林には迷いが生じているのだ。

東海林にとって・・・警察官であることと一般市民であることには確固たる境界線がある。

おそらく・・・東海林は・・・比奈子に・・・保護が必要な一般市民に戻ってもらいたいと潜在的に思っているのだろう。

しかし・・・熱血刑事である東海林には・・・そういう自分の深層心理を理解する能力はないのだった。

ここまでの未解決事件。

①情報屋・藤川殺人事件・・・担当・片岡班・・・犯人未詳。

②刑務官殺害事件・・・担当・厚田班・・・犯人・佐藤都夜。

そこに・・・帝都大学医学部の法医学教授・石上妙子(原田美枝子)から新たな事件発生の情報が入る。

「解剖医同志の横の連携で判明したことよ」

「どういうことです・・・」

「地方警察の縄張りを越えているのよ」

③人体置き去り事件・・・担当者・不在・・・犯人未詳。

長野県警でのケース。

7/29・・・・宝元町でカエル五匹の死骸の切り裂かれた腹部に人の毛髪が詰め込まれているのを路上で発見。

8/3・・・砂上町でスズメ三羽の腹から成人男性三人分の歯が発見される。

8/8・・・岩見堂町でハムスター四匹の腹から成人男性四人分の右耳が発見される。

群馬県警のケース

8/13・・・鵜佐間町でハト一羽の腹から人間の鼻が発見される。

埼玉県警のケース

8/18・・・西沢平町でカラス五羽から人間の指が五本発見される。

8/23・・・中井川町で狸ではなくて猫一匹から人間の眼球五個が発見される。

警視庁のケース

8/28・・・小菅五丁目で犬の体内から小指を切り取られた人の右手が発見される。

「ほぼ・・・一ヶ月の間に・・・七件・・・長野、群馬、埼玉と南下して上京したような感じです」

「少なくとも・・・眼球をえぐり取られた人間が五人・・・指を切り落とされた人間が五人・・・歯を抜かれた人間が三人・・・鼻を削がれた人間が一人・・・耳を削がれた人間が四人・・・髪の毛を抜かれた人間が一人・・・手首を切り落とされた人間が一人いるわけか」

「おそらく・・・五体の人体が使用されていると思います」

「まさか・・・その人たちは・・・生きているんじゃないだろうな」

「死体の方が保管は簡単だと思われますが」

「鳥や動物に人間を食べさせるというユーモアですかね」

「そういうのはユーモアとは言わないだろう」

比奈子の故郷からスタートする人体入り動物死骸事件は・・・明らかに比奈子にリンクしているわけだが・・・東海林が情報を独占しているために・・・犯人と比奈子を結び付けるものはいない。

ここまで死亡二人、生死不明五人である。

衝撃的な事件だが・・・比奈子のイラストはヘタウマでかわいいのだった。

厚田は呻く。

行方不明者のリストアップ。

DNA鑑定のためのサンプル提供の要請。

照合。

遺族たちの慟哭。

すべては定められた道である。

「中央区で変死体が発見された」

「殺害の手口から犯人はおそらく・・・佐藤都夜だ」

③中央区男性会社員殺害事件・・・容疑者・佐藤都夜。

「死亡が一件追加か・・・」

「物騒なことになってきましたな」

「警視庁の面目が問われるぞ」

刑事たちは暗澹たる思いを噛みしめる。

収監中の佐藤都夜には熱烈なプリズン・グルービー(囚人・・・主に殺人犯・・・の追っかけ)からのファンレターが寄せられていた。

「人殺しに恋するなんて・・・なんという愚かさだ」と嘆く倉島刑事(要潤)・・・。

「殺人という一線を越えたものに対する純粋な興味もあるかもしれません」と比奈子。

「自分にはできないことをやっているという憧れもな・・・芸能人や・・・スポーツ選手のように・・・だよ」

「彼らが・・・佐藤都夜の逃走を援助する可能性があります」

全国各地から寄せられたファンレターを検閲する捜査官たち・・・。

「各県警に応援要請をする必要がありますね」

「都内の人間の所在確認をします」

「それは・・・倉島と清水にやってもらう・・・藤堂はホテルで待機だ・・・東海林・・・お前もだ」

倉島と清水刑事(百瀬朔)は聞き込みに出かけ・・・比奈子と東海林は比奈子の自宅を経由して東京第一ホテルに向うのだった。

お茶の間的には・・・藤川殺しと動物殺しの犯人は・・・明らかに同一人物で・・・比奈子の関係者であることが暗示されている。

そして・・・佐藤都夜も・・・比奈子を狙っていることが明白である。

だから・・・佐藤都夜に手紙を送り・・・邂逅する人物が・・・その「人」であることは間違いないのだろう。

「お前が・・・私を呼び出したのか」

佐藤都夜はその「人」と合流した。

自宅で比奈子は東海林に冷たい麦茶を出した。

「七味唐辛子を入れますか」

「いらないよ」

「毒は入っていませんよ」

「お前・・・」

「辞表は・・・明日提出します」

二人はホテルにチェック・インした。

比奈子はいつもの夢の中にいた。

絶妙のロングヘアで・・・なんちゃって高校生を演じる本人。

田舎町の廃墟で・・・成人した比奈子は・・・高校生の自分を客観視する。

穴の中に積み上げられた動物の死骸を発見してから・・・高校生の比奈子は・・・実行者に深い関心を抱いていた。

そして・・・ついに真壁永久(芦名星)と遭遇したのである。

「あなたが動物たちを分解したのですね」

「そうよ・・・恐ろしいと思う?」

「別に・・・」

「私とあえてうれしい」

「そう思うべきだと思います」

「そう・・・少しでも怖がったら殺すつもりだったけど・・・あなたとは友達になれそうね」

「・・・」

「だから・・・これをあげる・・・いつか・・・あなたも・・・自分らしく殺せばいい」

高校生の比奈子は血まみれのナイフを拾いあげる。

それを・・・成人した比奈子は止めようとするのだった。

覚醒する比奈子。

「私は・・・ナイフを拾うべきではなかったのか」

比奈子の中で・・・何かが生まれようとしていた。

悪意と善意の相克である。

出勤の準備を整えた比奈子は・・・寝起きの悪い隣室の東海林を起こすのだった。

東海林はまだ・・・事件の全貌を把握していない。

もっとも重要な鍵を握っているのが自分だと気がついてもいないのである。

それが・・・一般人というものだ。

厚田は比奈子に・・・中島との面談を命ずるが比奈子は辞表を提出する。

「お前・・・」

辞表を預かる厚田。

中島との面談は東海林が務める。

「いい・・・身分だな・・・人殺しのくせに」

「比奈子さんは・・・警察を辞めたのですか」

「さあ・・・俺は・・・この資料を届けに来ただけだ」

「あなたと比奈子さんは似ています」

「一緒にするな」

「違うのは・・・比奈子さんにはあなたのような感情がない」

「感情がない?」

「正確には・・・一般的な感情というものが・・・回路として成立しないと言うべきかもしれない」

「何を言っているのかわからん」

「あなたには・・・比奈子さんを救ってもらいたい」

「俺が・・・」

「僕は・・・彼女が一線を越えてしまっても・・・寄り添うことができてしまうから」

「・・・」

「一緒に地獄に落ちても構わないと思ってしまうので・・・無理なのです」

「俺に・・・何をしろと・・・」

「彼女からナイフをとりあげてください・・・あれは・・・きっと呪いのようなものなんだ」

「呪いって・・・オカルトかよ」

「いいえ・・・人間も所詮・・・システムですから・・・言語化された命令はある程度有効なのです」

「・・・」

「あのナイフは・・・彼女にとって・・・邪悪なコマンドを潜めたウイルスのようなものなのです」

「まるで・・・あいつが・・・コンピューターみたいな言い方だな」

「コンピューターですよ・・・人間はみんな」

しかし・・・中島の言葉を理解するためには・・・東海林には少し教養が不足しているようだった。

比奈子がメッセンジャーとして来ていれば・・・「ハトが一羽で・・・カラスが五羽なのは不合理だ」というヒントを口にしただろう。

犯人からのメッセージが秘められた犯行内容は・・・その場で解読された可能性がある。

しかし・・・中島と東海林の組み合わせでは・・・それは発生しないイベントなのである。

一人になって潜入を開始した中島は・・・シンプルな暗号を解読する。

「犯人が選択するのは日付いや・・・地名と・・・殺害数・・・その方がフレキシブルだ」

犯行順に町の名前を並べる。

たからもとまち

すなうえまち

いわみどうちょう

うさまちょう

にしざわひらまち

なかいがわちょう

こすげごちょうめ

これに鍵となるナンバー・・・5、3、4、1、5、1、1を組み合わせる。

たからもまち

すなえまち

いわみうちょう

さまちょう

にしざわらまち

かいがわちょう

すげごちょうめ

「とうどうひなこ・・・藤堂比奈子・・・」

中島は戦慄する。

比奈子と藤堂はホテルに戻っていた。

警視庁に藤川の携帯が使用された連絡が入る。

東海林は着信に気がついた。

「比奈子の命はもらったぞ」

「なんだと」

あわてて部屋を飛び出した東海林は背後から痛恨の一撃を食らう。

全国のお茶の間が「東海林ちょろすぎる」と叫ぶのだった。

東海林を貼りこんでいた片岡班の刑事たちは・・・佐藤都夜の姿を目撃する。

追跡する刑事たち。

都夜はエレベーターに消える。

階段を上がった片岡は・・・廊下で見知らぬ女に遭遇する。

「ここに・・・女が来ませんでしたか」

「さあ・・・誰も来なかったと思いますけど」

「そうですか・・・」

片岡は東海林の部屋をノックする。

「おい・・・東海林」

その時・・・廊下の騒ぎを聞きつけた比奈子は部屋のドアを開ける。

「片岡さん・・・何かあったんですか」

「おお・・・お前・・・無事だったか」

比奈子は片岡の背後にいる女に驚く。

「なんだ・・・どうした」

ふりかえった片岡の喉笛を切り裂く女の一撃。

全国のお茶の間が「片岡もちょろすぎる」と叫ぶのだった。

吹きだす鮮血。

のけぞって倒れかかる片岡を支えた比奈子の目は・・・女に釘付けとなる。

青い目をした魔性の女は微笑む。

「比奈子・・・久しぶりだね」

真打ち登場で怒涛のクライマックスに突入である。

精神分析的ミステリドラマとしては・・・21世紀随一じゃないか・・・。

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2016年8月30日 (火)

好きな人を捜しにいくこと(桐谷美玲)尾道まで電車で行って自転車に乗りました(山﨑賢人)子供を捨てた女(紺野まひる)

血縁をめぐる生い立ちの話である。

ちなみに公式による柴崎三兄弟の設定年令は以下の通り。

柴崎 千秋(29)

柴崎 夏向(24)

柴崎 冬真(21)

ついでに櫻井 美咲(27)である。

千秋が五才の時に・・・夏向が捨てられたということは・・・夏向は生まれてすぐに捨てられたのである。

夏向の母を演じる紺野まひるの実年齢は(39)なので・・・15~6才で夏向を生んだことになる。

それから・・・消息不明になるなんて・・・夏向の母の実家にも凄く問題がありそうな感じである。

夏向の実の母はレストラン「Sea sons」で働いていたわけだが・・・アルバイトの高校生だったのではないか。

もちろん・・・夏向を演じる山崎賢人の実年齢は(21)だし・・・夏向の実の母は年齢不詳である。

実の母はなんちゃって四十代なのかもしれない。

しかし・・・夏向の実の父が不明である以上・・・千秋や冬真の実の父にも疑惑の眼差しを注がざるをえない。

アルバイトの女子高校生を妊娠させたレストラン店長疑惑だ・・・おいっ。

本当は親に捨てられた子供で・・・実子ではなかった・・・「成人した息子のことで母親が謝罪しなければならない社会」では・・・心を揺らす要素なのかもしれない。

しかし・・・悪魔は親が誰であろうと・・・子が何をしようと・・・その人はその人にすぎないと思うのだった。

もちろん、一夜をともにした相手の親が有名人だった場合、驚愕することはあります。

で、『好きな人がいること・第7回』(フジテレビ20160829PM9~)脚本・大北はるか、演出・森脇智延を見た。脚本家のチェンジである。連続ドラマで複数の脚本家が存在することについてキッドはいいことだとは思わないが・・・新人育成ということを考えると教育実習を受ける生徒のような気分で・・・受けとめる必要があるのかもしれない。相手はあくまで新人脚本家なのである。その不手際を責めるよりはフレッシュさを味わった方が前向きと言えるのだ。若いって素晴らしい・・・だ。

五輪で一週飛んで・・・連続ドラマとしては二週間のご無沙汰だしな。

主人公の恋のお相手に出生の秘密があった・・・もう・・・ずっとそんな月9が続いている気がするよ。

「ラヴソング」のさくらは養護施設育ち。「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」は主人公もヒロインも両親を幼くして亡くしている。「5→9」のお坊さんも祖母に育てられている。「恋仲」はヒロイン一家が夜逃げ。「ようこそ、わが家へ」は恋愛要素希薄である。ずっとか・・・ずっとなのか。両親健在のふつうの家庭で育つと恋はできないとでも言いたいのか。「デート」は・・・まあ、いいか。

さて・・・ドラマにおいて「小道具」はアイテムとして重要である。

「思い出のアクセサリー」は基本だ。

アイテムで・・・話が展開する場合がある。

店舗の譲渡についての契約書

櫻井美咲(桐谷美玲)の憧れの先輩・柴崎千秋(三浦翔平)が経営する海辺の町のレストラン「Sea Sons」・・・。

弟でシェフの夏向(山崎賢人)にまつわる出生の秘密を守るために千秋を飼いならしたい変態企業家の東村了(吉田鋼太郎)の脅迫に負けてサインである。

そこへ・・・「店を売るってどういうつもりだ」と事情を知らない夏向とパティシエの美咲が到着。

答えることができない千秋。

そこへ・・・夏向の実の妹である謎の美少女風の西島愛海(大原櫻子)を連れて三男の柴崎冬真(野村周平)が到着。

何故か・・・すべての事情を察している冬真である。

「秘密を守るためなんだろう」

ええと・・・冬真は・・・東村の千秋への脅迫内容を・・・いつ知ったんだっけ。

きっと・・・お前が見逃しているだけだよ。

・・・そうなのかな。

「夏向は・・・本当の兄弟じゃなかったんだよ」

三歳年上の兄に・・・両親の溺愛を感じて・・・ひねくれた育った三男なのである。

その怨みが・・・激情を生みだしたらしい。

おそらく・・・実子ではない夏向への両親の特殊な愛情を・・・冬真は自分より深く愛されている証拠と勘違いしてしまった・・・ということになるのだろう。

よくあることである・・・そうなのか。

まあ・・・単にひがみっぽいと言うこともできます。

「すみません・・・そんなことを今さら・・・言えた義理ではないのですが・・・母親は・・・再生不良性貧血で輸血が必要なのですが・・・珍しい血液型んので・・・夏向さんに・・・お願いするしかないのです」

「昭和の話なのか」

「何もかも・・・唐突すぎる」

「あああああああああ・・・なんだかわからない」

混乱して・・・出て行く夏向である。

「なんで・・・そんなこと言うんだよ」と千秋は冬真を責める。

「なんで・・・ずっと隠してきたんだよ・・・いつか・・・わかることじゃないか」

「だけど・・・いきなり・・・言われたら・・・夏向がどんな気持ちになると考えてみろよ」

「俺だってそうなんだよ・・・今さら・・・本当の兄弟じゃないって知って・・・やりきれないんだよ・・・兄貴一人が・・・秘密を守っていい気になってただけなんだよ」

いたたまれない気持ちで出て行く冬真である。

残された千秋は・・・虚脱する。そして契約書を破り捨てる。

「あああああああああああ」

そして・・・誰もいなくなった。

さて・・・恋愛ドラマとしては・・・美咲の恋心の行方が気になるわけである。

基本的に好感度の高いのは「一途な恋」である。

もちろん・・・恋多き女の場合は・・・一部お茶の間の共感を得ることができる。

「片思い」もそれなりに評価されるが・・・相手に「決まった相手」がいる場合の是非は分かれる。

そこで・・・第二の相手が「本命」というこのドラマの場合・・・いつ乗り換えるかが重要なポイントだ。

第一の相手だった千秋が・・・元カノの高月楓(菜々緒)の事情を知って、元鞘に収まるというUターンをした後のひとときである。

「私は軽い女ではない」というモードで振る舞ってきた美咲だけに・・・「好きだ」と告白してきた夏向に簡単には乗り換えることができないのである。

そこで・・・用意されていたのが「出生の秘密」なのだった。

秘密が明らかになり・・・「三兄弟」に亀裂が走る。

「好きだった人」に協力しながら・・・行方不明となった「好きになる人」を捜しに行く・・・。

なかなかに・・・計算された展開なのだ。

もちろん・・・計算が鼻につく人もいるでしょう。

応答なしのスマートフォン

心配する美咲は夏向に電話をするが応答はない。

家庭用テレビゲームに逃避する冬真に気持ちをぶつける美咲。

「心配じゃないの」

「美咲も・・・夏向の味方かよ」

「そんなつもりじゃ・・・」

「ウチの家族は・・・昔から夏向ばかり可愛がってさ・・・まあ・・・本当の息子がダメだからしょうがないけどね」

優秀だった夏向と自分を比べて自己憐憫に陥った冬真である。

冬真は三才年上の夏向を名前で呼び捨てる。

つまり・・・対等であろうとし続けたのである。

三歳差の年齢差による実力差は基本的にに埋まらないので虚しい闘争である。

「俺は・・・愛されたかったんじゃない・・・認められたかったんだ」

深夜のマフィアアニメでファミリーの神経質な弟も呟くのである。

「ちー兄ちゃん」「かー兄ちゃん」とかで二人の兄貴を呼び分けていれば・・・可愛い末っ子ですんだのに・・・。

美咲と冬真が言いあっていると一時帰宅する夏向だった。

入れ替わりに出て行く冬真だった。

そして・・・冬真のことは・・・美咲にはどうでもいいことなのである。

塩味の目玉焼き

翌朝・・・美咲ははりきって夏向のために朝食を用意する美咲。

しかし・・・ベッドはもぬけのからである。

せっかく・・・夏向好みの・・・味付けにしたのに・・・と落胆する美咲。

千秋は封印していた思いを・・・美咲に語る。

「俺が五才の時・・・店で働いていた女性が赤ちゃんを残して消えた・・・それから・・・両親は夏向を弟だと言って俺に見せた。俺は弟が可愛くて・・・本当の弟じゃないなんて思ったことはない。夏向の母親に・・・俺の親父は連絡していたみたいだが・・・相手は別の家庭を作っていて・・・夏向の存在を隠していたらしい・・・そんなの関係ないと俺は思った・・・だって・・・夏向が本当の弟じゃないことを忘れていたから・・・だけど・・・もし・・・夏向が・・・自分が母親に捨てられた子供だったと知ったら・・・無茶苦茶可哀想じゃないか・・・だから・・・嘘をつき続けるしかなかったんだ」

「優しい嘘ですね」

「結局・・・嘘はばれたら人を傷つけるだけなんだけどな」

好きだった人の力になりたいと感じる美咲である。

そんな二人の話を楓が立ち聞きしていた。

海辺の街で・・・兄弟の失踪はたちまち伝播する。

サーフショップ「LEG END」の経営者・日村信之(浜野謙太)と奥田実果子(佐野ひなこ)の出番を確保するために愚痴る楓だった。

「もっと・・・私を頼るべきだと思わない」

「だよな」

「ですね」

何故か・・・楓に逆らうことは恐ろしいことらしい。

再び応答なしのスマートフォン

シェフが行方不明のために・・・レストラン「Sea Sons」は臨時休業である。

予約のお客様にお詫びの電話をした後で・・・自分の部屋から夏向に電話する美咲。

夏向の応答はないが・・・スマホの着信音が微かに聞こえる。

夏向のスマホは・・・夏向のベッドに放置されていた。

仕方なく・・・美咲は・・・夏向の部屋で手掛かりを探す。

住所の書かれたメモ

美咲は・・・西島愛海の住所の書かれたメモを見つけた!

そこには「転校生」「時をかける少女」「さびしんぼう」の大林監督尾道三部作で知られる尾道の住所が書かれていた。

美咲は・・・千秋に報告するのだった。

「夏向さんは・・・病気のお母さんに逢うために・・・尾道に行ったのではないでしょうか」

「かもしれないな」

「私・・・迎えにいきます」

「え・・・」

「だって・・・自分が捨て子だって知ったら・・・ショックだろうから・・・側に誰かいないと」

「よし・・・俺も行く」

好きだった人と尾道観光である。

それはそれで悪くないわけだが・・・話を進めるために楓が割り込むのだった。

「街で情報収集したら・・・冬真くんの居場所がわかったよ」

「え」

「私・・・近くで張り込んでいるから・・・すぐに来て」

「行ってください」と楓に千秋を譲る風の美咲だった。

「私は尾道に行ってきます」

「わかった・・・夏向のこと頼んだぞ」

「はい」

こうして・・・美咲は次男を・・・千秋は三男を手分けして捜索するのだった。

連絡先に携帯電話番号ないのかよ・・・などとは突っ込まないでください。

辻褄よりもデートスポットとして風光明媚な尾道情景が優先です。

尾道までの切符

数時間のタイムラグがあって尾道に到着する美咲だった。

その頃・・・千秋は冬真の身柄を拘束。

「俺なんか・・・親父に料理を教えてもらえなかったし」

拗ねる冬真に・・・恋愛とは無関係のアイテム「冬真のために夏向が書いたノート」を突きつける千秋。

「親父は・・・お前に・・・教えたかったよ・・・だけど・・・お前はまだ子供だった・・・だから・・・夏向に頼んだんだ・・・お前に料理を教えてやってくれって・・・」

「え」

ノートには・・・夏向が冬真のために書いた「バカでもわかるレシピ」が満載されていた。

「ちくしょう・・・」

夏向の優しさが心に沁みる冬真である。

一足先に尾道に到着した夏向は・・・実の母親(紺野まひる)の入院している病室を訪ねる。

「あなた・・・どなた」

「・・・」

「愛海のお友達かしら・・・」

「そうです」

「まあ・・・あの子ったら・・・こんなイケメンのボーイフレンドがいるなんて・・・」

例の屋上で秘密の話をする兄と妹・・・。

「ごめんなさい・・・私も・・・柴崎さんからの手紙を読むまで・・・お兄さんのこと知らなかったの」

「・・・」

「でも・・・お母さんが病気になって・・・困ってしまって」

「どこに行けばいい・・・」

「え」

「輸血するんだろう・・・」

「いいんですか・・・」

「俺は善意の第三者だ」

自分を捨てた母親の命を救った夏向は海岸で黄昏るのだった。

漸く尾道に到着した美咲は・・・スマホに導かれ愛海の家に到着する。

着替えを取りに戻った愛海と再会する美咲。

「お兄ちゃんの彼女さんですか」

「いえいえ・・・従業員です」

「お兄ちゃん・・・何にも云わずに血をくれました」

「そういうところありますね」

「本当は彼女さんなんでしょう」

「シェフとパティシェの関係です」

ソーダ味のアイスキャンデー

「どんだけ・・・海が好きなのよ」

「お前・・・どうしてここに・・・」

「迎えに来たのよ・・・お店開けないと・・・給料出ないのよ」

「実の母親に会ったのに・・・全然実感わかなかった・・・だって・・・俺にとっての両親は・・・」

「だよね・・・とにかく・・・私についてこい」

ソーダ味のアイスキャンデーの当たりくじを突きあげる美咲である。

二人は・・・デートに最適なサイクリングコースを堪能するのだった。

身体を動かすことで・・・もつれた夏向の心は解き解されるのだった。

「解々か・・・」

「そうよ・・・ときほぐすって言葉は漢字にしたらかぶっちゃうのよ」

「遅いぞ・・・」

「あ~ん・・・待って~」

甘い二人だった。

東京タワーのキーホルダー

最後は西瀬戸自動車道「しまなみ海道」を構成する橋梁・・・因島大橋に沈む夕日を見てフィニッシュする二人だった。

おそらく・・・美咲としては・・・千秋から夏向に乗り換える儀式の終了だったのだろう。

しかし・・・身体の方はまだお預けである。

なにしろ・・・最終列車で尾道から江の島方面に戻らなければいけないのだ。

「ほら・・・忘れもの・・・」

「ありがとう」

美咲は・・・自分のプレゼントしたキーホルダーをもう一度、夏向に捧げた。

ペンギンの手人形

「ただいま」

「おかえり」

何事もなかったように夏向を迎える千秋。

「今日の損害分は給料から引いておくからな」

「うん」

「わかったら・・・明日の仕込みしてくれ」

「うん」

仕込みを始めた夏向。

厨房に現れる冬真。

「手伝うよ」

「まず・・・手を洗え」

「オムバーグ作ってもいいかな」

「十年早い」

疲れ果てた美咲は・・・ソファで眠っていた。

「ご苦労さん」

千秋は・・・美咲をお姫様抱っこでベッドに運ぶ。

部屋に残されたペンギンの手人形に気がつく千秋。

楓と別れている間・・・美咲の心を知らぬままに・・・デートのようなことをした思い出の水族館のおみやげである。

微笑む・・・千秋は・・・美咲の寝顔を見て・・・ムラムラするのだが・・・挿したりはしないのだった。

そういうキャラクターとして設定されていないからである。

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2016年8月29日 (月)

天地人を思い出せとでも言いたいのか・・・若かったあの頃を・・・今となっては虚しい日々を(長澤まさみ)

実在すると言われる真田信繁の側室の一人・・・高梨内記の娘。

このドラマでは「きり」と名付けられ・・・「死の天使」の役割を担っている。

高梨内記は北信濃の名族清和源氏井上氏の一族で・・・真田昌幸の兄・真田信綱の正室・高梨政頼の娘の縁者なのであろう。

真田信幸の最初の正室が信綱の娘である以上・・・信幸の家老となってもおかしくないのだが・・・高梨内記が信繫に従ったのは・・・舅の縁があったからだろう。

高梨内記の娘は信繫との間に二人の娘を儲けたとされるが・・・一人は早世し、一人は竹林院が産んだとする説もある。

そのために・・・「きり」は霧隠才蔵のポジションに虚構化されているわけである。

本能寺の変以後は・・・河原一族の出自を持つ真田昌幸の生母の侍女として人質人生を送る。

信繫の最初の室である堀田作兵衛の妹の死後、秀吉の人質となった信繫に従い、上方に登ると・・・北政所の侍女として潜入し、関白豊臣秀次に見染められたりする。

そして・・・秀次の死後・・・聖母マリアに憧れた秀次の思い出に寄り添いキリシタンのきりとなるべく・・・細川ガラシャに接近していくのである。

恐ろしいことだ。

細川ガラシャの運命を知る一部お茶の間にとって・・・きりはまさに「死の天使」だし・・・どうしてこの子は危険な場所へと自ら足を踏み入れてばかりいるのかという・・・ドタバタ劇における一同爆笑ポイントとなっている。

そして・・・今回はついに・・・くのいちとして・・・細川忠興の石田三成襲撃を真田信繁に通報しているのである。

大坂城細川屋敷から伏見城真田屋敷まで韋駄天走りなのだ。

ああ・・・大河ドラマにおける彼女はいつでもくのいちだったんだなあ・・・と今さらながらに思うのだった。

「功名が辻」(2006年)・・・小りん(甲賀の忍び)

「天地人」(2009年)・・・初音(真田昌幸の娘で忍び)

「真田丸」(2016年)←今ココ!

なんだろう・・・やはりモスラを呼んじゃう小美人出身だからなのか・・・。

で、『真田丸・第34回』(NHK総合20160828PM8~) 脚本・三谷幸喜、演出・渡辺哲也を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は美声で直江状を朗読する戦国の悪態名人・直江兼続描き下ろしイラスト第二弾大公開でお得でございます。判官贔屓の皆様にとって時の権力者をこきおろす負け組の遠吠えは・・・やんやの大喝采なのでございますよねえ。弱い犬ほどよく吠えるの典型なのに・・・でございます。まあ・・・上杉景勝・直江兼続主従が・・・もう少し・・・上手くゲリラ戦を展開していれば・・・日本の歴史は変わっていたかもしれないわけですが・・・まあ、それは禁句でございますれば・・・一方の局地戦では無敵な上田城の真田父子は・・・大勢に影響なし・・・。細川父子は必死の攻防・・・そして明智光秀の娘は・・・九州では黒田官兵衛が加藤清正とやりたい放題・・・毛利は「また騙された!」ともう・・・色々と血沸き肉踊る・・・第三のクライマックスが急接近ですねえ。本編の人間関係ドラマが十分面白いので・・・戦が割愛されてもそれほど気にならない仕上がりなのに・・・それなりに合戦も見せてくれる今年の大河・・・。果たして・・・どんな関ヶ原が・・・どんな上田合戦が・・・待っているのか・・・。それにしても・・・みんな死んじゃうんだなあ・・・お別れは近いんだなあ・・・と茫然といたしますねえ。

Sanada034慶長四年(1599年)二月、大老前田利家は伏見城徳川屋敷で大老徳川家康と手打ち。家康は大坂城前田屋敷で病床の利家を見舞う。閏三月、前田利家死去。加藤清正、福島正則、黒田長政、細川忠興、浅野幸長、池田輝政、加藤嘉明の七将が石田三成の大坂屋敷を襲撃。三成は佐竹義宣の助勢により大坂を脱出し、伏見城治部少輔丸に篭城。七将は追撃し、伏見城下に集結。徳川家康は大老として喧嘩を仲裁し、七将に撤兵させ三成に蟄居を申しつける。三成は佐和山城に退去。堀尾吉晴の手引きにより家康は伏見城本丸に入城。七月、浅野長政、増田長盛、長束正家の三奉行は家康の命により諸将に帰国の沙汰を伝える。上杉景勝、前田利長、毛利輝元、宇喜多秀家の四大老、黒田如水、細川忠興、加藤清正など有力大名は領国に戻る。九月、家康は大坂城に入城。高台院は京に移住し、家康は西の丸に入る。十月、浅野長政が謀反の疑いで武蔵国府中へ流罪となる。前田利長を謀反人として成敗することを諸将に命ずる。細川忠興にも疑いがかかり忠興は三男光千代を人質として江戸に送る。利長も生母・芳春院(まつ)を江戸に人質として送る。慶長五年(1600年)一月、豊臣秀頼とともに大坂城で家康は諸将の年賀を受けた。堀尾吉晴は五万石、細川忠興は六万石の加増を受ける。三月、越後国の堀秀治、出羽国の最上義光それぞれが会津帰国中の上杉景勝の戦支度を通報。上杉家の家臣・藤田信吉が出奔し景勝の謀反を告発。家康による上洛命令に対し直江兼続が怪文書で拒絶。家康は会津征伐を宣言。秀頼は黄金二万両・兵糧米二万石を征伐軍に下賜。六月、家康は大坂城を出陣。七月、大谷吉継と石田三成が大坂城西の丸を奪還。毛利輝元を総大将とする反徳川軍が決起する。家康に先行して出陣し上田城から関東に出た真田昌幸と信幸・信繫兄弟は徳川秀忠軍に属し犬伏に在陣していた。

大坂城・真田屋敷には人気が絶えている。

残っているのは・・・夫人たちと留守居役のものだけである。

そこにふらりと流浪の僧侶が立ち寄る。

真田源内幸家である。

「義姉上・・・ご無沙汰しておりました・・・」

「おう・・・源内殿か・・・」

真田昌幸夫人の薫は夫の年若い弟を迎える。

幸家は夫・昌幸の父・幸隆が晩年に産ませた庶子で・・・まだ三十前だが叔父の幸景の跡を継ぎ真田の山家修験者頭となっている。

「忍び座敷を借り受けたい」

「お城で・・・変事がございましたか・・・」

「石田治部少輔様が戻っておられます・・・」

「なんと・・・」

「おっつけ・・・ここにも石田方の侍衆が参りましょう」

「お急ぎなされ」

事情を察した薫は忍び座敷の鍵を渡す。

昌幸の居室に隣接する忍び座敷には入れば暗闇となる籠りの間が整えられている。

真田源内は・・・漆黒の闇の中で心気を凝らす。

下野国の犬伏の陣に向って野を駆けていた真田佐助は・・・心に繋るものを感じた。

木陰に身を潜ませた佐助は息を整え・・・修験の印を結ぶ。

たちまち・・・佐助は没我の境地に入る。

(さすけ・・・か)

(げんない・・・さま)

(いしだみつなり・・・おおさか・・・むほん)

(・・・)

二人の会話を真田昌幸は犬伏の陣屋で聞いていた。

側には真田の忍び頭・真田幸村が控えている。

「幸村・・・三成が挙兵したぞ・・・」

「御意」

「信幸と信繫を呼べ」

「父上・・・信繫はここに」

すでに・・・信繫は姿を見せていた。

幸村が・・・信幸を呼びに去ると・・・昌幸は・・・信繫を見つめた。

「聞いたか・・・」

「石田様が・・・決起したとのこと・・・」

「ここまでは・・・読み通りだ・・・しかし」

「恐ろしいほどに五里霧中でございますな」

「これほど・・・先が見通せぬとは・・・異なことだ・・・」

「おそらく・・・ここは・・・時の大きな分かれ目なのでございましょう」

「分かれ目か・・・」

「凶と出るか吉と出るか・・・修験の道をもってしても見極められぬものがあると・・・父上が教えてくれたではありませんか」

「そうだ・・・だが・・・忘れておった・・・あれは・・・天正十年・・・信長が本能寺で討たれた時・・・あの時のようじゃ・・・」

「いかがなされますか・・・」

「のるか・・・そるかじゃ・・・侍として生まれて・・・これほど心躍ることは・・・またとないぞ」

「御意」

「石田がどれほどの兵を集めるのか・・・家康がどう動くか・・・」

昌幸は熱病にうなされたような表情になる。

幸村と信幸が近付いてくる気配があった。

真田一族の命運が揺れる夜が始る。

それは・・・慶長五年七月十七日のことだった。

家康はまだ江戸城にいた。

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2016年8月28日 (日)

盲目のヨシノリ先生(加藤シゲアキ)この屍!(沢尻エリカ)光を失って心が見えた(小山慶一郎)

土曜日の谷間である。

以前も書いたが、二十年くらい前に中華料理屋で相席になった見知らぬ中年女性から話しかけられたことがある。

「息子が目が不自由なので・・・将来が心配だ」と言うのだ。

それは神からの創作のためのヒントであったろうが・・・悪魔なので無視するしかないわけである。

もちろん・・・それを面白おかしく描く自信はあったが・・・世の中が受け入れないだろう。

笑うことを許されない場合・・・悪魔は微笑むしかないのだった。

それから・・・二十年以上たってこのドラマを視聴したわけである。

「死んだ方がマシだ」と言う人を沢尻エリカが「この屍」と罵倒するわけである。

バカリズムの一人小芝居で「リア充であることを非リア充に告白する男」といった内容のものをお笑い番組で見たばかりだったので・・・「沢尻エリカに罵られるだけでリア充じゃねえか」と思ったわけである。

絶望することを許さない社会は優しい社会なのだろう・・・。

健康な身体障碍者の皆さんが競争するパラリンピックに栄光あれ!

で、『盲目のヨシノリ先生〜光を失って心が見えた〜』(日本テレビと20160827PM9~)原作・新井淑則、脚本・水橋文美江、演出・中島悟を見た。実話のドラマ化で・・・24時間テレビ39「愛は地球を救う」内に放映されたものである。不祥事を起こして逮捕された高畑裕太の出演シーンは代役の小山慶一郎が撮り直してオンエアに間に合わせたという。絶望の淵から・・・立ち直り・・・それでも生きていく人間は強く美しい生き物である。
 
秩父鉄道皆野駅に近い埼玉県武甲町(フィクション)に住む中学校の国語教師・新井淑則(加藤シゲアキ)は音楽教師の妻・真弓(沢尻エリカ)と小学生の美希など三人の子供に恵まれ・・・充実した日々を送っていた。
 
しかし・・・網膜剥離が発症し・・・全盲となり・・・教師の職を失ってしまう。
 
「希望は愛でできている」とヨシノリ先生に教えられた元教え子の緒ノ崎快(小瀧望)は「会いたくなったらいつでも来い」と言っていたヨシノリ先生に・・・生まれたばかりの子供を見せようと妻の優奈(田中美麗)とともに故郷の町に帰ってきた。
 
だが・・・希望を失い精神を失調したヨシノリは「すまない・・・オレはもう教師ではない」と弱音を吐く。
 
元の教え子が傷心して去った後で・・・優奈は・・・不甲斐ない夫に激怒するのだった。
 
「結婚おめでとう・・・とか・・・出産おめでとう・・・とか・・・言うべきでしょう」
 
「俺は・・・もう死にたいんだよう・・・お前にオレの気持ちがわかるもんか・・・世界が真っ暗なんだぞ」
 
「このシカバネ・・・私をものにしようとしたときの・・・あの情熱はどこにいったの」
 
「だから死にたいんだってばあ」
 
「じゃあ・・・一緒に死にましょう・・・子供たちも道連れにして・・・みんなで死にましょう」
 
「え・・・」
 
そこへ・・・ヨシノリの父親である則安(橋爪功)が・・・妻の洋子(高林由紀子)が作った煮物をもってやってくる。
 
「お恥ずかしいところをお見せして・・・」
 
「いや・・・息子のために・・・苦労をかけてすみません」
 
「私・・・うれしかったんです・・・無反応だったヨシノリさんに言い返されて」
 
「夫婦喧嘩は犬も食わないっていいますからねえ」
 
妻の罵声で気力を回復したヨシノリだったが・・・盲目の夫婦に経験談を聞きに出かけて・・・またふさぎ込む。
 
「整体師とか・・・鍼灸師とか・・・オレの天職は教師なのに」
 
「・・・」
 
「君だって・・・オレが熱血教師だから・・・好きって言ったじゃないか」
 
「・・・」
 
「オレはもう一度・・・あの日に帰りたいんだよ」
 
夫の教師への偏執をもてあました優奈は二人の結婚式で一人でモーニング娘。を歌い踊ったヨシノリの大学時代の先輩で埼玉県庁の福祉課に勤務する青井修平(小泉孝太郎)に相談する。
 
修平は知り合いで「弱視の高校教師」である宮城道雄(若林正恭)を新井家に送り込むのだった。
 
「お邪魔します・・・」
 
「あなたは・・・」
 
「私はほとんど目が見えませんが・・・高校で教壇に立ってます」
 
「本当ですか」
 
目の見えない二人は・・・急速に接近しうっかりキスをしてしまうのだった。
 
「キスしてしまいました」
 
「してしまいましたな」
 
「でも・・・先生は弱視で全盲ではないのでしょう」
 
「しかし・・・あきらめないという気持ちは同じです」
 
こうして・・・ヨシノリは・・・教壇に立つ日を夢見てリハリビを開始するのだった。
 
盲導犬のクロードとお見合いし・・・点字をマスターし・・・自力で通学できるようになることが第一関門だった。
 
リハリビの支援員が榊京太(小山慶一郎)である。
 
「命にかかわることなので・・・厳しく指導します」
 
京太は・・・ヨシノリをしごきあげる。
 
一方で・・・修平は・・・ヨシノリの復職を・・・教育委員会の益田(山中崇)にアピールする。
 
しかし・・・前例のないことに難色を示す益田である。
 
「生徒を助けるための先生が・・・人の手を借りるというのはどんなものでしょう」
 
「そういう先生がいてこその・・・バリアフリーじゃないですか」
 
一か月の合宿を経て盲導犬の使用許可証を得るヨシノリ。
 
「おめでとうございます・・・」
 
京太はヨシノリを激しく抱擁するのだった。
 
久しぶりに帰宅したヨシノリは長女の顔をなでる。
 
「美希・・・遠き山に日が落ちて・・・弾いてくれ」
 
難曲を弾く美希に励まされたヨシノリなのである。
 
小学四年生の美希はまだ「おやじうざい」とは言わないのだ。
 
真弓の母親の弓子(風吹ジュン)を案じる。
 
「大丈夫かい」
 
「私・・・うれしいの・・・ヨシノリさんがやる気だしてくれて」
 
「でも・・・教師に戻るのは無理なんじゃ・・・」
 
「いいのよ・・・希望があれば」
 
全盲の教師というシステムを確立するために県立の養護学校で試行錯誤を行うことになるヨシノリ。
 
往復で五時間の道程を家族が同行するのが条件だった。
 
「私がやる」
 
ヨシノリの老父が名乗りを上げた。
 
溺愛する息子と肩を並べる老いた父・・・。
 
「お前・・・大きくなったなあ」
 
「父さんが小さくなったんじゃないか・・・見えないけど」
 
二人は美しい父と子になったのだった。
 
だが・・・教育委員会は動かない。
 
ヨシノリを支援する人々は・・・講演会を企画する。
 
ヨシノリが・・・身体障害者でありながら・・・教師を目指す・・・その意義を訴えるためである。
 
たまたま・・・講演を聴いた大澤慶子(神保美喜)が心を動かされた。
 
慶子は武甲町の大澤町長(中村梅雀)の妻だった。
 
大澤町長に召喚されるヨシノリ・・・。
 
「君はなぜ・・・そんなにしてまで・・・教師になりたいのかね」
 
「金八先生になりたかったのです」
 
「・・・」
ついに・・・道は開けたのだった。
 
補助教員と協力して・・・中学生たちの前に立つヨシノリ。
 
「ヨシノリ先生と呼んでくれ・・・イエ~イ」
 
中学生たちが暴力的でないことを祈るばかりである。
 
長若中学校の登校路・・・。
 
桜は咲き・・・鶯は鳴く。
 
ヨシノリはついに意地を貫いたのだった。
 
善意に満ちた世界・・・それは不可能を可能にする世界なのかもしれない。
 
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2016年8月27日 (土)

真犯人は意外と身近にいるんじゃないの?(向井理)それが掟というものだから(木村文乃)だな!(片瀬那奈)幸福へと続く例の鉄道(佐藤二朗)

世界は「オキテ」で満ちている。

人間にとって何かを共有することは非常に重要なことだ。

たとえば・・・こうして語ることも・・・語法という「言葉の掟」に従っているから・・・伝わる場合があるわけだ。

「オキテヤブリ」は罪である。

人は時には「罪」を犯す生き物である。

罪人は時には思うだろう・・・。

「オキテがなければなあ・・・」と。

人は時に知られざるオキテに抵触することがある。

「知らなかったではすまされない」と「オキテマモリ」は凄むのである。

「オキテ」は流動的なものだ。

半世紀前には「ツミ」でなかったことが「ツミ」になることもある。

「大切なものを守るためのオキテ」は・・・人それぞれの「大切なもの」を時には奪うだろう。

つまり・・・世界は「オキテ」と「オキテ」が激しく衝突する舞台なのだ。

はげしくぶつかりあったものが粉々になるのはよくあることである。

で、『神の舌を持つ男・第8回』(TBSテレビ20160826PM10~)原案・堤幸彦、脚本・櫻井武晴、演出・加藤新を見た。童話「銀河鉄道の夜/宮沢賢治」はファンタジー文学の金字塔である。そこでは幻想的な死出の旅路が描かれる。銀河が星の集いであることを知ってる二人の少年のはかない友情の物語である。「どこまでも一緒に行こう」と誓い合ったジョバンニとカムパネルラのせつない別離にうっとりしなければ人間性を疑われるのだ。もちろん・・・一度も読んだことがない奴なんて人間じゃないと断言してはいけません。

誰に気を使っているのだ。

例によって温泉芸者ミヤビ(広末涼子)を追って「草津温泉鉄道(フィクション)の草津一ツ前駅(フィクション)」方面にやってきた伝説の三助・朝永平助(火野正平)の孫である人間成分分析器・朝永蘭丸(向井理)、ニサスマニア(二時間サスペンスドラマ愛好家)の古物の行商人・甕棺墓光(木村文乃)、そして宮沢賢治の心象スケッチを諳んじる宮沢寛治(佐藤二朗)の温泉探偵トリオ・・・例によって、車はガス欠。例によって殺人事件に遭遇である。

温泉観光バスツアーの乗客・金級真琴(上野なつひ)がモウドクフキヤガエルの毒で服毒死したのであった。

「骨董屋・甕棺墓光の殺人鑑定書・後編」が幕を開けるが・・・ドラマ・クルーは見切れるのだった。

「お前たちっ」と楽屋オチ(メタネタを含む)禁止委員会を代行してツッコミを入れる寛治だった。

ニサスの掟その一・・・十時マタギの容疑者は死ぬ・・・

「二時間ドラマは午後九時から午後十一時までの二時間に放映されるのが基本。午後十時を跨ぐまでにリストアップされた容疑者は・・・真犯人ではない・・・一時間ドラマの前後篇では前編で犯人と疑われた容疑者は・・・前編の終盤で死ぬのが定めなのよ」

第一の被害者・金級真琴の周辺を調査していたフリーライター・見城ゆたか(和田聰宏)は草津一ツ前警察署のベテラン刑事の樋口(篠井英介)と若手刑事の若林(若葉竜也)の目を盗みトイレから脱出。

しかし・・・間もなく崖の下で死体となって発見される。

ニサスの掟その二・・・十時マタギの容疑者は目撃者・・・

「十時マタギの容疑者は第一の殺人現場を目撃・・・通報せずに真犯人を強請るのがお約束よ」

一同が唖然とするところで・・・甕棺墓くんに同意するニサスマニアのバスガイド・沢村さくら(片瀬那奈)だった。

一方、崖の上下の交差点でミヤビを追いかけた蘭丸は・・・山道で転倒、ミヤビを見失う。

蘭丸や刑事たちは崖下の死体発見現場で一行と合流するのだった。

その時、員数外の「お達者クラブ」のメンバーと金級真琴の義父に怨みを持つ運転手の芦田学(阪田マサノブ)は観光バスの車内にあった。

「私が検死したところ・・・被害者は刺殺されています」

勝手に検死する青山の骨董通り(東京都港区)に店を出すのが夢の骨董商だった。

全編に渡って展開する「かわいいよ、甕棺墓くん、かわいいよ」の嵐である。

フリーライターの時計は壊れていて・・・十三時四十一分で止まっていた。

フリーライターの死体を検死した甕棺墓くんが死亡を確認したのが十三時五十三分。

死体の落下に驚いて崖の下でカップル(女)の尾木亜香里(今泉彩良)が悲鳴をあげたのが十三時五十一分頃である。

「時間差がありますな」

「みんなの時計が正確ならば・・・ですが」

ニサスの掟その三・・・基本的に登場人物の時計合わせは正確無比・・・

「時限爆弾の秒針まで一致するのがお決まりよ」

「そうでなければトリックよ」

一同は崖の上にあがり・・・血痕を発見する。

血痕を辿るとそこには・・・「○」というダイイングメッセージがある。

「被害者は瀕死のまま・・・逃げて・・・ここから転落したのね・・・」

「しかし・・・血で書いたとは限らんぞ」とベテラン刑事。

ダイイングメッセージを舐める蘭丸。

「人血です」

「え」

「犯人は・・・返り血を浴びている可能性が高いですね」と若手刑事。

早速・・・鑑識課によるAlternative Light Sources(代替光源照射)検査が行われる。

しかし・・・一同の中に血液反応は見つからない。

捜査は難航し・・・ツアー一行は草津スカイランドホテルに足止めされる。

バスガイドのアドバイスで・・・上田旅館に宿泊中の温泉芸者ミヤビが出張サービスに現れるのだった。

「ミヤビさん・・・」

ミヤビとの再会に喜ぶ蘭丸。

甕棺墓くんは地団駄を踏むのだった。

しかし・・・ミヤビは躊躇いを見せる。

「あなたをおいかけて・・・何度も電話して・・・」

「あなたのお気持ちはわかります」

「ミヤビさん」

「すべては今夜のお座敷の後で・・・」

思わせぶりな態度のミヤビだった。

ミヤビはお座敷で「芸者」としての見事な美しさを見せる。

今回の演出はギャップ萌え狙いか・・・。

お座敷のミヤビは絶頂期を彷彿とさせるよね。

熟女狙いの気持ちがわかるよね。

広末は熟女なのか。

・・・ロリータ愛好家にとってはな。

思い起こせよリップスティックかっ。

お座敷後・・・覚悟を決めて神妙な顔をするミヤビ。

「ミヤビさん・・・好きです」

「え」

あきらかに・・・別な理由で恋愛沙汰とは別の理由で蘭丸を避けているらしいミヤビ。

そんなミヤビは・・・去り際に「金級運輸が会社設立20周年を記念して作ったペーパーナイフ」を落す。

思わずペーパーナイフを舐めた蘭丸は・・・血の成分を感知するのだった。

刑事たちはミヤビを問いつめる。

「お前が・・・やったのか」

「私がやりました・・・」

茫然とする蘭丸だった。

が・・・しかし・・・「殺人は否認する」ミヤビだった。

「私は・・・このペーパーナイフをネコババしただけです」

崖の下ホテルでのお座敷を終えたミヤビは落ちてきたナイフを拾ったのだった。

証言に基づき、現場を捜索した刑事は・・・観光バスの運転手の血まみれの制服を拾う。

バスには・・・予備の制服が搭載されていたが・・・紛失していた。

容疑者として・・・浮上する運転手。

「俺はやってない・・・」

何故か・・・ホテルのフロントで一同は揉み合うのだった。

しかし・・・血まみれの制服をなめた蘭丸は着用者を割り出すのだった。

「俺の舌をなめないでもらおう・・・」

「なめたのはお前だ」

「この制服からは・・・ジャスミンの香水の匂いがします」

「私はやってない」

「はい・・・この制服からは・・・アンドロステロン・・・つまり、精子形成の維持に関与する男性ホルモンと・・・過剰なストレスにより多量に分泌されたコルチゾールが検出されました・・・ジャスミンの香水の匂いのする男性といえば・・・あなたしかいません」

カップル(男)の大場陸(細田善彦)である。

「事件の謎はこの舌が・・・」と決めゼリフをいいかけた蘭丸。

そこへベテラン刑事が現れた!

「大場陸・・・経歴を哨戒したところ・・・お前は・・・第一の被害者・金級真琴さんのストーカーだったそうだな」

「えええええ」

「そうだよ」

大場は・・・ストーカーとしての自分に誇りを持っているらしい。

「しかし・・・カップルなのでは・・・」

「恋愛とストーキングは別でしょう」

「え」

「恋人がいたり・・・既婚者だって・・・アイドルのファンはいるじゃないですか」

「ええっ」

「彼女はすでに人妻だし・・・社長夫人という手の届かない存在なので・・・結婚できるとは思えないし・・・まこっちゃんはまこっちゃん・・・彼女は彼女です」

「そんな・・・韓流ドラマの頃のヨン様ファンのおばちゃんみたいなこと言われてもな」

フリーライターの持っていたイニシャル「R.O.」の指輪は・・・大場が金級夫人に贈ったものだった。

ニサスの掟その四・・・目撃者に崖に呼び出されたらどんな立場の者も従う・・・

「だから・・・崖に行ったのね」

「あいつは・・・まこっちゃんのストーカー被害について記事を書こうとしていたんだ。それで・・・いろいろと・・・調べるうちに・・・僕に疑いを抱いたらしい・・・僕がまこっちゃんに贈った指輪を借りだしたり・・・僕の携帯電話の番号も・・・まこっちゃんから教えられたと言っていた」

「ストーカーのくせに・・・番号非通知じゃないのかよ」

「あいつは・・・まるで・・・僕のことをまこっちゃん殺しの犯人だとでも言いたい口ぶりだった」

「犯人なんだろうが・・・」

「違う・・・だが・・・頭に来たので・・・殺してやろうと思った・・・バスから制服を盗み出して・・・崖の上で・・・ペーパーナイフで刺した」

「なぜ・・・ペーパーナイフを所持していたのだ」

「まこっちゃんの部屋に忍びこんだ時にお土産として貰ってきたに決まってんだろ!」

「決まりなのか・・・ストーカーの掟なのか」

「運転手の制服を目にした被害者は・・・ダイイングメッセージとしてハンドルの絵を・・・」

「-○・・・だったのか」

「血まみれの制服を脱いで・・・ペーパーナイフと一緒に崖の下に捨てた・・・」

「それをミヤビさんが拾ってネコババしたのか・・・」

「とにかく・・・署で詳しい話を聞こうか」

「いや・・・陸を連れていくなら・・・私も行く」

カップル(男)に相応しいカップル(女)だった。

一同は何故かホテルの女将まで巻き込んでもみ合うのだった。

取り残された蘭丸はホテルのフロアに落ちたバスガイドのバッグを拾う。

そして・・・すべての謎を解くのだった。

「待って・・・謎解きは崖の上でして・・・」と甕棺墓くん。

ニサスの掟その五・・・とどめの真犯人は崖の上で冥土の土産の告白タイム・・・

「約束通り・・・一人で来たわ」

崖の上で待つトリオの前に姿を見せるバスガイド。

「鞄の中に・・・毒入りマークの袋に入ったキャンデーがありました・・・酔い止めに有効な生姜の粉末をまぶしたキャンデーです」

「・・・」

「金級夫人の衣服から・・・同じ成分を感知しました」

「・・・」

「あなたは・・・毒をキャンデーに注入しておいたのですね」

「そうよ・・・」

「一体・・・どこでこんな毒を・・・」

「バスガイドの研修で行った・・・南米の狩猟民族に学ぼうツアーで・・・」

「どうして・・・彼女を殺したのです」

「私は・・・彼女の義父・・・金級社長の実の娘なのよ」

「まさか・・・愛人の娘・・・」と甕棺墓くん。

「そうよ・・・認知されなかったけど」

「そして・・・母親は不遇のうちに亡くなった」と甕棺墓くん。

「その通り・・・」

「ニサスの真犯人としては王道の生い立ちだわ」と甕棺墓くん。

「私はいつか・・・父親に復讐するつもりだった」

「どうして・・・バスガイドに・・・」

「母は寝物語で・・・父がバス旅行が好きだったと言ってたから」

「他に語ることはなかったのか・・・」と寛治。

「でも・・・よく考えたら・・・お金持ちの父が・・・こんなバスツアーに参加するはずはなかったのよ」

「ちょっと馬鹿なのか・・・」と寛治。

「そして・・・父は病死・・・そんな時・・・彼女がバスツアーに参加してきた・・・友人の費用まで賄って・・・血のつながりもないくせに・・・父の娘としてすべてを受け継いだあの女」

「別にすべてを受け継いではいないだろう・・・息子の嫁になっただけだ」

「私にはどうしても許せなかったの」

必殺の気合をこめて・・・ペーパーナイフを構えるバスガイド。

「さすがは・・・配役序列的にも真犯人・・・腰の入れ方が堂々としているわ」

「獲物はペーパーナイフだけどな」

「計画は完璧だった・・・キャンデーの袋を捨てて・・・証拠は残らない・・・ところがフリーライターに見られていたのよ・・・あの男・・・私が運転手と共犯だと思ったみたい・・・崖の上に呼び出されて・・・行ってみたら・・・あの男は死にかかっていた」

「崖の下で・・・あなたは手袋をしていませんでしたよね・・・しかし、ブラックライトによるALS検査の時にはしていた・・・つまり・・・手についた血を隠していたんだ・・・でも・・・今・・・手袋には血がついている・・・どうして・・・始末しなかったんです」

「また・・・誰かが拾うかもしれないと考えたら捨てられなかったのよ」

「やはり・・・馬鹿なのか・・・」

「探偵仲間がミスリードをするのもニサスの常套手段ですものね」

「みんなまとめて崖から身を投げましょう」

崖の上で揉み合いとなるが・・・甕棺墓くんの敵ではないバスガイドだった。

「まったく・・・真犯人の告白が終わっても警官隊が到着しないなんて・・・ニサスの掟をなんだと思ってるの」

「一時間ドラマであ~る」

「最後に九つだけ言わせて」

「多過ぎる」

「・・・復讐行きのバスを降りる時間よ」

「・・・」

「さあ・・・眠りなさい~疲れきったあああ・・・かあらあだあをなげだしてええええ・・・あおい」

「崖の上だ・・・存分に歌うがいい・・・」

警察署の前で・・・釈放されるミヤビを待つ蘭丸。

しかし・・・ミヤビは「あなたのおかげで助かったと聞きました・・・でも・・・私はあなたに相応しい女ではない」と去っていく。

「ミヤビさん・・・」

茫然とする蘭丸に言葉をかける寛治。

「ミヤビは・・・伊豆の九十九温泉郷へ・・・追いかけるしかないのだろう」

「はい」

仕方なく甕棺墓くんも警察が満タンにしてくれた愛車に乗り込むのだった。

なにがしあはせかわからないです。ほんたうにどんなつらいことでもそれがただしいみちを進む中でのできごとなら、峠の上りも下りもみんなほんたうの幸福に近づく一あしづつですから。

ああさうです。ただいちばんのさいはひに至るためにいろいろのかなしみもみんな、おぼしめしです。

・・・「ジョバンニの切符」より・・・

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2016年8月26日 (金)

何も考えず支配されることの安寧を求めて(山田孝之)

気付きは精神の重要な要素である。

ほとんどの人間は記憶のない混沌とした意識のまどろみの中で・・・幼児期を過ごす。

脳神経のすさまじい成長の過程で・・・環境から言語化された情報が流入し・・・模倣による発生から道具としての言語の使用期に至る。

そして・・・ある日、突然・・・言語化された自分という存在に気がつくのである。

その日から・・・それぞれの人生が始ることになる。

自分と・・・それ以外の世界の境界線は・・・曖昧なままに幼年期は終了する。

自分と世界の衝突と融和の中で人々は性格を育成する。

世界を認識することで・・・自分が再認識され・・・再認識された自分によって世界が再構築されていく。

家から街へ・・・街から国へ・・・国から地球へ・・・地球から・・・宇宙へ・・・宇宙から時空間へ・・・拡大する世界に目くるめきながら・・・自分の・・・はかなさに気がつく。

人は何かに気が付く度に・・・何かを得て・・・何かを失う存在と言えるだろう。

目の前に素晴らしいものがあると気がついた人間は・・・それを手に入れるために・・・何か大切なものを失うのがバランスというものである。

それは・・・お金だったり・・・時には生命そのものだったりする。

自分を失った時・・・人がそれに気がつくことはない。

で、『ウシジマくん Season3・第5回』(TBSテレビ201608240128~)原作・真鍋昌平、脚本・福間正浩(他)、演出・山口雅俊を見た。共同体の勝利が共同体に属する個体の優位性を深めることは自明の理である。しかし、共同体内部の階級闘争において共同体の勝利による不利益を被るものは共同体の勝利を必ずしも望まない。共同体と共同体の抗争が必ずしも勝利を得られるものでない以上、抗争を回避するのは重要な戦略の一つである。「素晴らしい世界」を目指す者は・・・愚か者であってはならない。目の前にある「平和」にとびつけば必ず何者かに支配されるのが・・・鉄則なのだから。

釣り針を口にした魚は釣りあげられるのが宿命・・・ということだ。

★「自他共栄」は闇金融「カウカウファイナンス」を営むウシジマくんこと・・・丑嶋馨(山田孝之)のデスクサイドに貼られたスローガンである。

☆ファッション雑誌「ノマド」の編集者である上原まゆみ(光宗薫)は人間の皮を着た悪魔である神堂大道(中村倫也)と婚約し・・・ついに婚約する。しかし、ある夜・・・ついに悪魔は仮面の裏の素顔を見せる。突然の神堂の暴力に驚愕するまゆみ。しかし・・・神堂は「すべて愛するゆえの行動」と自己正当化の言葉をまゆみに囁く。

婚約指輪をはめた指を瓶で殴打し・・・腫れあがった指を掴み痛みでまゆみを脅しながら・・・性行為におよんだ神堂は・・・ショックで我を失うまゆみの心に支配者としての楔を打ち込む。

「私はあなただけを愛しているのです・・・私に二度とこのような真似をさせないように・・・あなたも私を愛して下さい」

「・・・」

朝の光の中・・・下着姿のまゆみの負傷した指に包帯を巻く神堂。

「痛いですか・・・」

「鎮痛剤を飲んだので・・・大丈夫です」

まゆみの中で・・・神堂への恐怖・・・神堂への猜疑が渦巻く。

しかし・・・同時に神堂を選んでしまった自分自身への動揺も起こっている。

それは・・・逃走するべき時に・・・自らにそうさせない思考停止の状態へとまゆみを追い込んでいくのだった。

★・・・カウカウファイナンス営業中・・・

悪魔に見染められたまゆみとウシジマくんはゆっくりと邂逅の時を待つ。

ウシジマくんとは無関係だったまゆみの人生が・・・運命の糸で・・・底辺へと導かれていくからである。

小銭をつみあげて利息の返済をする顧客(松下いずみ)に柄崎(やべきょうすけ)が怒鳴る。

「足りねえじゃねえか」

「すいません」

「コサカイさん・・・あんた・・・来月の誕生日に年金支給が始るよな」とウシジマくん。

「はい」

「年金手帳をウチに預けたら追加融資してやるよ」

いろいろな意味で犯罪である。

十日で五割の利子で融資することがすでに犯罪なのである。

今日、一万円を借りれば・・・十日後には五千円の利子が発生する。

利子の返済が滞れば借金は雪だるま式に増えていくのだ。

三十日後には元金と利子をあわせて三万三千七百五十円。

四十日後には五万六百二十五円。

五十日後には七万五千九百三十七円五十銭。

六十日後には十一万三千九百六円二十五銭。

一万円のために二ヶ月後には十万円払う計算である。

十万円は百万円になり・・・百万円は一千万円となる。

一千万円は一億円である。

恐ろしいことです。

「ありがとうございます」

「じゃ、今回はジャンプ(利息支払いの先送り)してやるよ」

「ありがとうございます」

「ありがとうございました」と受付嬢・エリカ(久松郁実)は珍しく後ろめたさを匂わせる。

「完全に社長のこと信じてますね」と高田(崎本大海)・・・。

「自分で考えるのが面倒なだけだろう・・・だがそうなったら御終いだ」

ウシジマくんは時々、いいことをいうが・・・悪人である。

☆男日照りの編集長(小嶋理恵)はまゆみのチェックミスを咎める。

そして・・・まゆみの指を見て・・・怪我の心配をするのではなく婚約指輪に目を留めるのだった。

「あなた・・・結婚するの」

用心深いまゆみは挙式の日程が決まるまでは職場で結婚のことを秘匿していたのだった。

まゆみの警戒心は・・・どこか方向がずれている。

同僚が「暴力男」の話をする。

暴力男は嫌だ・・・とまゆみは思う。

しかし・・・婚約破棄というのも自分の評価を下げる。

まゆみは身に迫る危険から・・・目をそらそうとする。

たとえ・・・瞑目しても・・・危険からは免れないと知っていても。

まゆみは・・・そうやって・・・なんとか生きてきた女だった。

★★結城恵美子(倖田李梨)は妻子持ちの情夫である亀井(仲俣雅章)に三万円を貢ぐ。自分が萎れた花であることを認めない女。

「もっと稼いで綺麗にならなくちゃ・・・」

恵美子の娘の美奈(佐々木心音)は母親との抱き合わせ売春に心を荒ませている。

「だから・・・もう・・・ママと一緒に売りはやらないよ」

母親の電話を一般とは別の意味で煩わしく感じる美奈だった。

街中で名前を呼ばれる美奈・・・。

「ミナ」

美奈を呼んだのは奇妙なファッションセンスの男だった。

「あんた誰・・・なんで私の名前を知ってんの?」

「俺は街にいるのが好き・・・お前が街でそう呼ばれたのを聞いた」

「・・・私・・・あんたなんか知らない」

「昔・・・俺はハケンだった・・・今は無職・・・今の俺には金がある・・・」

「どうして・・・」

「一発逆転したのさ」

「そんなの・・・興味ないわ」

おいしい話を警戒する美奈・・・。

「気が変わったら・・・連絡してくれ」

男は「K」と書かれたカードを美奈に手渡した。

★★★地域ボランティアの学びの場であるNPO法人「峠のやまびこ」に参加した生活保護受給者の小瀬(本多力)は代表(西洋亮)の指導で・・・学ぶために老人たちへの「無料靴磨き」という声かけを行う。

老人たちから詐偽者あつかいをうける中・・・千代(恩田恵美子)の家の雨どいを直したことがきっかけで・・・ゴミの整理などを手伝うようになる小瀬。

「あんた・・・よく働くから・・・」と千円を千代がくれた。

「この人だれ・・・」と胡散臭い目で小瀬を見る千代の娘(滝本ゆに)だったが・・・千代さんは小瀬を庇う。

「この人はいい人だよ」

小瀬は感激するのだった。

「あんた・・・行きたくなったらトイレに行っていいんだよ」

極度の過敏性腸症候群に悩んでいた小瀬の涙腺は崩壊する。

「こ・・・子供の頃から・・・両親は・・・ずっと厳しかった・・・勉強しろ・・・働け・・・我慢しろ・・・死んだ祖母ちゃんだけが・・・俺を庇ってくれた・・・千代さん・・・あなたは・・・俺の祖母ちゃんにそっくりだ」

それは・・・褒め言葉ではない可能性があります。

☆神堂はまゆみに「頼み」を切りだす。

神堂が経営するIT企業の株主になってもらいたい・・・それに先立って五百万円の融資を受けたいと言うのである。

つまり・・・五百万円を貸せと言うのだ。

本能的に危険を察知したまゆみは・・・母親の広子(武藤令子)に「相談」する。

「私・・・結婚を考え直そうと思って・・・」

「今さら・・・式場の手付もうったし・・・お父さんの面目丸つぶれよ」

「でも・・・私・・・神堂さんとは合わないと思うの」

「何言ってるの・・・あなたが神堂さんを支えなくてどうするの・・・」

母親の広子はすでに・・・神堂に誘惑されて性的関係を結んでいた。

神堂と娘の結婚が成立しない場合に・・・自分の身に降りかかる災厄の予感に震える広子だった。

自分が一番かわいい人間は・・・悪魔の大好物なのだ。

まゆみの父親・上原重則(名倉右喬)は上原家が悪魔に蝕まれていることには気がつかず・・・神堂から贈られたゴルフクラブを振るう。

★下総屋食堂の二代目(久保勝史)は今風のふわとろオムライスにデミグラスソースをかけようしてウシジマくんの逆鱗に触れる。

「ケチャップ持ってこい・・・これはちゃんとしたのにして」

「え・・・でも・・・」

「・・・」

「わ・・・わかりました」

「昔ながらのオムライスにケチャップ」は譲れないウシジマくんだった。

母親が「カウカウファイナンス」のライバル企業である闇金融「ライノー・ローン」の顧客である美奈はそうとは知らずに・・・同じ店で友人の沙希(寺田御子)と食事中だった。

元カレのJP(福山翔太)が少年院を出て街に舞い戻ったという噂に戦慄する美奈。

JPは中学生を使った管理売春中に・・・美人局におよび・・・顧客を暴行して確保された狂犬(DQN)だった。

「美奈のこと捜しまくってるって・・・」

「・・・」

☆まゆみの誕生祝いに店を予約したという神堂のメールが着信する。

暴力の後の謝罪。

典型的なDV男の言動と・・・「参考書」にも記されている。

しかし・・・そんなことを確認するまでもなく・・・神堂は・・・まともな人間ではないことが明白だった。

しかし・・・まゆみは迷うのである。

「まともな人間」がどういうものなのか・・・知らないからである。

差別を忌み嫌う社会は「悪魔」の温床でもあるのだ。

帰宅したまゆみを神堂が襲う。

甘い言葉で囁き・・・まゆみを性的快楽に導き・・・まゆみの排泄行為にまで関与しようとする神堂に・・・迷わされるまゆみの幼い精神・・・。

そこに・・・元カレのハシくんこと橋本(ジェントル)から着信がある。

豹変する神堂だった。

「どういうことです」

「貸していたお金を返してくれるというので・・・」

「いくらですか・・・」

「五万円です・・・」

「あの男に今までいくら貢いだのですか」

「・・・百万くらい」

「あなたには・・・男友達が多過ぎる・・・」

「・・・」

「関係性をこれからチェックしましょう・・・朝まで寝かせませんよ・・・最初の男」

「高校の同級生です」

「彼とセックスしましたか」

「してません」

「それじゃ・・・削除しましょうね」

「・・・」

「こっちを見るな」

まゆみは恐ろしさに身が竦む・・・。

★「一致協力」もまたカウカウファイナンスのスローガンである。幼馴染の情報屋・戌亥(綾野剛)が来店中だ。

高級腕時計を持ちこんだ後妻業の女は「百万円」の融資を申し込むがウシジマくんは「五十万円」という限度額を提示。

「後妻業ってなんですか」と受付嬢・エリカは素朴な疑問。

「金持ちの老人の遺産狙いの女だよ」と高田。

「保険金かけてあの世に送りだしたりして」と柄崎。

「公正証書で・・・遺言を書かせることが大事だね・・・」と戌亥。

「下手に手を出したら・・・一番疑われるのは自分だしな」と柄崎。

「一番性質(タチ)が悪いのは・・・自分では手を汚さない奴さ」とウシジマくん。

ウシジマくんは時々、いいことをいうが・・・悪人である。

☆悪魔である神堂は・・・大麻の常習者であり・・・まゆみの妹のみゆき(今野鮎莉)の夫であるカズヤ(板橋駿谷)も支配下に置いている。

神堂は・・・カズヤを唆し・・・ハシくんに暴行させる。

「お義兄さんというものがあるというのに・・・お義姉さんに手をだすなんて・・・とんでもねえやつだ」

「彼には資産家の両親がいます・・・まゆみさんから彼が騙し取った二百万円は・・・親に返済してもらいましょう」

「しかし・・・あいつ・・・警察に密告したりしないでしょうね」

「さあ・・・いずれにしろ・・・私は指一本触れていませんし・・・」

「またまた・・・兄貴ったらあ・・・冗談ばかり・・・」

しかし・・・神堂の目は最初から最後まで笑わない。

そこには地獄の炎が燃えているだけだ。

★★★カウカウファイナンスの常連客の川崎(ムートン伊藤)は「上司のセクハラ」の相談に来た部下の真帆(木乃江祐希)を酔わせて暴行しようとして逮捕された。

「まったく・・・ああいう女の人権を認めず性的な対象としかみない男は許せん」と柄崎。

「また・・・変な言動を・・・」と高田。

「私に気があるんですか」とエリカ。

「えええ」

「客が何をしようが・・・俺たちには関係ねえ」と嘯くウシジマくんである。

★★美奈はJPがホストの大賀を襲う夢を見る。

★まゆみは・・・最後の頼みの綱である・・・占い師の勅使川原(三田真央)に電話をする。

「先生・・・私・・・」

「大丈夫よ・・・彼はあなたの運命の人・・・彼の暴力は愛の証よ・・・あなたは彼によって最高の幸福を与えられるでしょう・・・」

「・・・ありがとう・・・先生」

そもそも・・・魔女は・・・悪魔の僕と相場が決まっているのである。

人間の粗暴な振る舞いを悪しき情報の氾濫に帰する者たちは・・・この世に紛れ込む魔性の存在をまず疑うべきである。

その者たちには・・・魔性に囁かれ魔女狩りを始める危険性があるのだ。

五輪は終わり金は金でも闇金の季節である。

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2016年8月25日 (木)

異常に怠惰な女を育んだ家(北川景子)か細い声の女(工藤阿須加)心のふるさとを捜して(仲村トオル)

人間には信じるタイプと信じないタイプ・・・そしてどちらでもないタイプがある。

ほとんどの人間は三番目のタイプに属していると思われる。

人間には裏切るタイプと裏切らないタイプ・・・そしてどちらでもないタイプがある。

ほとんどの人間は三番目のタイプに属していると思われるのだ。

結局、人間が他人を信じることで困ったことになるのは・・・この組み合わせの妙によるものである。

信じるタイプと裏切らないタイプの出会いは奇跡なんだな。

カップリングのゲームでプレイヤーとしてプログラムされたシステムはいくつかの戦略を持つことができる。

ゲームは信じることについてのオンオフと裏切ることのオンオフで点数を競い合う。

信じ合えば3点。

信じる相手を裏切れば2点。

信じて裏切られれば1点。

お互いに裏切れば0点である。

全員が信じあうことが出来れば全員が3点で・・・喜ばしいことだが・・・裏切れば次の相手を求めることができる。

二回裏切れば4点である。

こうして・・・世界は泥仕合に突入していく。

で、『家売るオンナ・第7回』(日本テレビ20160824PM10~)脚本・大石静、演出・猪股隆一を見た。ダメな人間を見れば人はダメだと思うが・・・ダメな人間がダメになった理由を知ればなるほどと思う場合がある。悪魔は人間の性質を直感的に見抜く能力を持っているのでダメ人間がダメでないフリをしていてもやがてダメになる可能性を吟味する。人間同志の場合は・・・隠れダメ人間がダメを露呈した場合・・・見る目がなかったと言われるのである。上に立つ人間は自分の見る目がなかったことで・・・下々のものが編集室で目を真っ赤にしていたり・・・ギリギリの予算なのに・・・取り直しを命じなければならない時に・・・己の不明を恥じておへそを噛みたい気持ちになるのだった。

まあ・・・人間の世界ではよくあることです。

早朝から・・・上得意である竹野内工業の社長(大河内浩)に呼び出され営業に出たテーコー不動産株式会社・・・新宿営業所売買営業課の屋代課長(仲村トオル)・・・。

竹野内社長の要件は三十路を目前にした三女・佑奈(華子)のお見合い相手募集のお知らせだった。

縁談がまとまった暁には新居マンション購入という餌付である。

佑奈はキッチン・スクールの師範という社長令嬢である。

しかし・・・何故か・・・売れ残っているらしい・・・。

この枠の春ドラマ「世界一難しい恋」でも主人公のお見合い相手だったので二期連続である。

屋代課長が留守のために・・・朝礼を仕切るのは営業チーフ・三軒家万智(北川景子)だ。

不動産屋の稼ぎ時である土日のアポどり(顧客との面談予約)状況を挙手で確認する三軒家。

10件のアポがある人・・・O人

5件のアポがある人・・・足立聡(千葉雄大)

3件のアポがある人・・・八戸(鈴木裕樹)

2件のアポがある人・・・布施誠(梶原善)、宅間剛太(本多力)

0件の人・・・白州美加(イモトアヤコ)

三軒家はシラスミカに週末に三千枚のチラシ・ポスティングを命じる。

サポタージュを許さないためにタクマにシラスミカの監視を命じるのだった。

タクマとシラスは明らかにカップリングされているようだ。

デザートのプリンも禁じられ・・・「ゴー」を出されるシラスミカ。

営業に出る足立に盛んにアプローチをするが・・・足立にはまったく「その気」はないのだった。

もしも「その気があるという意外な展開」があったらお茶の間にパニックが起こるだろう。

なぜか・・・シラスミカの支配下に入るタクマは・・・お似合いなのだった。

そこへ・・・シラスミカの母親・白洲貴美子(原日出子)がやって来た!

夫の保(モロ師岡)が浮気した上で離婚届けを置いて家を出たために・・・離婚に応じ土地付の自宅を売却する覚悟の貴美子である。

シラスミカは両親の離婚に反対し・・・自分の育った家の売却にも反対する。

しかし・・・三軒家が現れ・・・営業を開始するのだった。

「お母さん・・・ダメよ・・・この人にまかせたら・・・本当に家が売れちゃう」

「お願いします」

「私に売れない家はありません」

「ひでぶ」

見事なオープニング(ツカミ)である。

シラスミカというダメ人間が・・・キャラクターとして定着したところでの絶妙なフューチャリング・・・本当に凄腕だな。

一方・・・ちっとも具体的ではないが・・・水面下で進行する・・・課長と庭野と三軒家の三角関係も見事にいい感じに仕上がっていく。

脱帽するしかないぞ。

課長は・・・部下の査定を行う。

「足立は・・・どうした・・・」

「アポがあって外出中です」と事務員の室田まどか(新木優子)は出番を確保。

三軒家は白州家の内見に出かけ・・・シラスミカは消息不明。

男たちは顧客名簿でアポどり電話をかけまくっている。

足立・・・独身主義×

八戸・・・パッとしない×

宅間・・・論外×

庭野・・・△

年下だが・・・身長は高いし・・・人柄は誠実である。

屋代課長は・・・お見合い相手候補として庭野を選択した!

「どうだ・・・それとも誰か決まった人がいるのか」

「意中の人はいますが・・・相手にされていないので」

「無理強いはしないぞ」

「考えさせて下さい」

庭野は・・・恋仇である自分を・・・課長が追い払おうとしているという疑念を持つ。

しかし・・・それはもやもやとした気持ちを生じさせるだけである。

そして・・・課長にはまったくそういう邪心はない。

あわよくば家が売れるという邪心だけである。

なにしろ・・・浮いた話が浮上しない物語なのである。

潜水艦か。

まあ・・・恋の弾道ミサイルはまもなく発射されるのかもしれない。

白州家の三軒家は・・・貴美子に査定結果を伝える。

「家屋は・・・築年数が経過しているので・・・取り壊して更地として売った方がよろしいと思います・・・五千万円ほどでいかがでしょうか」

「構わないわ・・・一刻も早く引っ越したいの」

「家と土地の名義がご主人のものであれば許可が必要ですが」

「大丈夫・・・親の残した遺産で・・・私が買った家なので・・・家も土地も私の名義よ・・・引越し先も捜してくれる」

「では・・・こちらの申込書にサインをお願いします」

「うちの子・・・どうですか・・・少し図々しいところがあるけど・・・素直な子なんです・・・なんとかやってますか」

「まったくやっていません。このままでは解雇されるでしょう」

「まあ・・・そんなに」

そこへ・・・シラスミカの父親の匂いが存分に醸しだされる夫の保が帰宅する。

どうやら・・・浮気相手に見放されたらしい。

「何しに来たんです」

「すまん・・・昨夜の話は忘れてくれ」

「忘れられるものですか」

「昨日はどうかしてた・・・魔がさした」

前夜の「ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子」からの連続ゲスト出演の俳優である。

確かに前夜は異常犯罪者として逮捕されていたからな。

「こちら・・・どなた」

「不動産屋です」

「この家をこちらの方に売ってもらうの」

「え」

「離婚もするし・・・家も売るの」

「そんな・・・」

そこへ・・・シラスミカが乱入する。

「離婚しないで・・・家も売らないで・・・」

「いいえ・・・離婚もするし・・・家も売ります・・・あなたは仕事をがんばりなさい」

「そんな~・・・」

「ゴー」と貴美子。

「三軒家チーフ」とシラスミカは三軒家にすがりつく。

「申し込み書にサインはもらいました」

「やめてください・・・私の家族が壊れてしまいます」

「家を売るのが私の仕事です・・・家族が崩壊するかしないかは不動産屋が関知するところではありません」

(あなたの家族がどうなろうと知ったこっちゃありません)とは口に出さない三軒家だった。

しかし・・・三軒家の胸中には何かよぎるものがあるようだった。

親の離婚と・・・生家の売却。

ありふれた出来事だが・・・妻に捨てられた過去を持つ屋代課長の胸に迫るものがある。

三軒家の過去の一端に触れた庭野は・・・シラスミカへの同情心と・・・三軒家の心に触れたい下心から・・・なんらかの解決策を・・・三軒家に求める。

「ちょっと私のことを知ったくらいで・・・わかったような口を聞くな」

返り討ちである。

庭野は屋代課長に甘えるのだった。

「三軒家チーフのことをどう思っているんですか」

「そんなことを言われても」困る屋代課長だった。

BAR「ちちんぷいぷい」のママ・珠城こころ(臼田あさ美)は問わず語りで身の上話を始める。

「私にとってこの店が故郷みたいなもの・・・幼い頃・・・学校帰りに・・・母のやっていたこの店に寄って・・・母の作るソースヤキソバを食べて・・・宿題をして・・・店が終わるまで片隅で眠ったりして・・・」

ママの幼少時代に想いをはせ・・・うっとりである。

そして・・・ヤキソバタイムだ・・・毎週食べているな。

庭野は見合いを決意する。

「僕は・・・見合いをしようと思います・・・チーフは見合いしたことありますか」

つまり・・・庭野のお見合いしちゃうぞ攻撃である。

「ある」と答える三軒家である。

三軒家はパートナー募集中の女なのだ。

玉砕する庭野。

「二人きりの場合、男性はコーヒーか紅茶を注文し、よきところでスイーツを勧める。話題は自分の得意分野について話し、社会性を披露する。最後は必ずタクシーで相手の家まで送ること」

三軒家のお見合いマニュアル披露である。

お嬢様育ちの竹野内佑奈は物静かな女性だった。

中森明菜のような繊細な声で話すので・・・庭野は話を聞きもらすのだった。

難聴なのか・・・じじいなのか・・・庭野・・・。

庭野はうろたえている状態が正常という人格のために・・・コーヒーと紅茶を注文し・・・住宅展示場でデートをして・・・専門知識不足を商売仇に指摘されてしまう。

お嬢様育ちの竹野内佑奈は笑顔を絶やさない。

庭野は・・・お見合いをそつなくこなしたつもりだったが・・・見る人が見れば大失態の連続であることは間違いなかった。

白州家にはついに買い手がついて・・・ローンの審査に入る。

「家を壊さないでください・・・」と哀願するシラスミカ・・・。

「審査が終わったら解体します」といつもの三軒家。

「私が家付で売ります」

一同は・・・シラスミカの「やる気」に首を傾げるが・・・。

「白洲美加が積極的に仕事をする気になったのは稀有な事です」と三軒家は許可するのだった。

「しかし・・・審査が終わったら解体します」

死に物狂いで・・・現地販売を開始するシラスミカ。

入社以来はじめて本気になったらしい・・・。

その情熱にほだされて・・・布施はとっておきの顧客を紹介する。

まもなく・・・子供が生まれる夫婦に・・・「土地代だけで・・・(資産価値ゼロの)家がついてくる」という売り文句である。

内見に来た客はその気になるが・・・病院で検診を受けた妻から・・・「三つ子だった」と連絡が入る。

「三つ子じゃあ・・・手狭だよね」

「ですね」

そして・・・顧客のローン審査は通り・・・白洲家の解体が決まるのだった。

解体当日・・・シラスミカは立ち退きを拒否し・・・家に立てこもるのだった。

「厄介な事態です」と三軒家。

「私は~・・・絶対に~・・・私の生まれた家を~・・・壊させない~」

「このまま・・・お願いしちゃいますか」と解体スタッフをふりかえる布施。

「そんなことができるか」と屋代課長。

「私が説得します」と三軒家は解体スタッフのハンマーを借用する。

一同は・・・恐ろしい情景を思い浮かべるのだった。

ガラスを破り侵入する怪物サンチーに備え・・・机の下に批難するシラスミカ。

そして・・・問わず語りで身の上話を始める三軒家だった。

「私が高校二年生の時・・・両親が死に・・・莫大な借金が残りました。助けてくれる大人は一人もいませんでした。すべてを失った私は公園で暮らすホームレスとなったのです。住んでいた家を追い出されたあの日・・・雨が降っていました。私はそれ以来・・・心に穴があいてしまったのです。その穴を埋めるために・・・私は家を売りました。家を売ってまた家を売って・・・家・・・家・・・家・・・家・・・家・・・それでも心にぽっかりと開いた穴は埋まりません。シラスミカ・・・あなたには私のようになってもらいたくない・・・。家にこだわるのはやめなさい。心を解き放ち・・・自由な人生を生きるのです」

シラスミカは・・・落ちた。

家を飛び出したシラスミカは屋代課長に抱きついて泣きじゃくる。

「私・・・解き放たれました・・・家から自由になりました」

「そ・・・そうか」

白洲家は解体され・・・更地となって売却された。

白州美加は・・・母の新居を訪ねた。

ベランダに出ると母は娘に双眼鏡を渡す。

「これね・・・三軒家さんが引越し祝いにくれたのよ」

双眼鏡を覗いた実加は・・・遠くで手をふる父の姿を見る。

「あの人もね・・・引越し祝いに双眼鏡をもらったの・・・あっちは賃貸だけどね」

「・・・」

「私たち・・・時々・・・デートするのよ」

離婚した二人は・・・適当な距離をおいて・・・新しい関係を構築しているらしい。

「三軒家さんて・・・いい人ね」

白州家は全員・・・落ちているのだった。

庭野は・・・穏やかな家庭に逃げ込むことを回避した。

庭野が恋しているのは嵐のような上司なのである。

「すみません・・・お見合いの件・・・お断りします」

「そうか・・・気にするな・・・先方から断られているから」

「え」

「コーヒーと紅茶を注文するようなうろたえた男はダメだそうだ・・・知ったかぶりして失敗したのもまずかったな・・・」

「ええええええええ」

エレベーターから・・・どこかで見たような女が降りてくるのに気がつく布施・・・。

「ええと・・・どちら様でしたっけ」

「昔・・・屋代の家内だったものです」

屋代課長を捨てた女・・・理恵(櫻井淳子)の登場である。

エピローグの後のクロージング(引き)も抜群である。

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2016年8月24日 (水)

メチルビオローゲンはパラコートの別名です(波瑠)飲んだら死ぬぞ(横山裕)もう一人誰かいます(林遣都)

主人公の殺意の存在を追いかける物語である。

人間の心を描く難しさは・・・意識や感覚、意志や理性、欲望や感情という「心の機能」が共通理念として確定していないことである。

人はそれぞれの「心」で「心」を考える。

「感情のある人間」にとって「感情のない人間」は想像することが難しい存在である。

そもそも・・・「感情」とは何かと定義することさえ・・・本質的には困難なのだ。

感覚器はある程度・・・刺激に対する結果を・・・共通認識の土俵に乗せる。

砂糖は甘く・・・塩は辛い・・・と舌は感じる。

しかし・・・甘いのと辛いのと・・・どちらが好きかは・・・個人的な問題になってしまう。

時には甘さと辛さの区別がつかない人間も存在するだろう。

たとえれば・・・「感情のない人間」とは砂糖と塩の区別がつかない味音痴のようなものだ。

喜びと悲しみの区別がつかないわけである。

砂糖と塩がどちらも白い粉にすぎないと感じる人を想像するのも難しいかもしれないが・・・。

ある意味・・・その人には喜びも悲しみもないのである。

そういう人間をあなたは想像することができますか。

で、『ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子・第7回』(フジテレビ20160823PM10~)原作・内藤了、脚本・古家和尚、演出・大内隆弘を見た。衝動が感情と言えるのかどうかも微妙である。性的欲望が感情と言えるのかどうかもわからない。人間の精神は成長の過程で様々な抑圧により・・・本来の活動を制御されていると言える。空腹になれば食物を摂取するが・・・時には量を制限する。消化活動が終了すれば排泄するが・・・時には排泄を制限するわけである。男性が性器を女性の性器に挿入し射精する行為は・・・甚だしく制限を求められるのである。その制限ができない人間は・・・正常ではないと推定される。生物としての人と社会的存在である人間の境界線には暗くて深い川があり・・・人はそれを心と呼ぶのである。

あるがままの心というものは・・・実は量りしれない恐ろしさを秘めている。

多くの人間が常に意識しているわけではない・・・そのことを・・・このドラマは描こうとしているのであろう・・・まあ・・・なかなか・・・大変だけれどねえ。

どうしても・・・理解するための共通認識に依存しなければならないからねえ。

そんなものは・・・本当はないのにねえ。

小学生だった比奈子(藤澤遥)は・・・父親の大切にしていた時計を分解する。

父親にその理由を問われた比奈子は答える。

「あなたを分解する代わりに・・・時計を分解しました」

父親は娘の答えに言葉を失う。

「それが両親の離婚の理由の一つになったと考えています」

警視庁刑事部捜査第一課の藤堂比奈子刑事(波瑠)は「精神・神経研究センター」に反社会的傾向を理由に隔離されている心療内科医師で電子工学の天才・中島保(林遣都)に自らの生い立ちを語る。

「母が父と別れたのは・・・父の浮気と母に対する家庭内暴力が主な要因だったと推定しています。幼い私は父親に対するわだかまりのようなものを表現するべきだと考えてそのような言葉を発したのでしょう。それは言うならば後付けの理屈で・・・私は時計を分解することを望んでいたと言えます」

「つまり・・・時計を分解するのが楽しかったんですよね」

「私の意志が時計を分解するべきだと強く判断したのです」

比奈子の特殊な心を・・・比奈子自身が懸命に表現しようとしていることを・・・中島は疑わない。

「あなたは・・・ナイフをいつ用意したのですか」

「高校生の時に・・・人間を殺すべきだと判断したのです」

「なぜ・・・父親を対象に選んだのですか」

「父親の存在はどうでもいいものでした・・・他の人間と比較して対象として適当と判断したのです」

「しかし・・・実行しなかった」

「職業として警察官を選ぶべきだと判断した結果・・・警察官に任官した直後に実行することを選択しました。完璧な計画性に従い、実行するべきだと。しかし・・・その日・・・母が突然の心臓発作で病死したのです。母は私が警察官になることを喜んでいたと判断した私は・・・万が一の場合を想定して・・・計画を中止しました」

中島は・・・比奈子の奇妙な精神を分析する。

そして・・・彼女の語るエピソードの欠落した部分を推定する。

しかし・・・事件が発生し・・・中島と比奈子の対話は中断した。

「助けてくれ・・・殺される」

情報屋の藤川(不破万作)からの電話を受け・・・現場に急行した東海林刑事(横山裕)は刺殺された藤川の遺体を発見する。

臨場した厚田巌夫班長(渡部篤郎)は東海林刑事に事情を聴取し・・・事件の捜査から東海林を外すことを決断する。

東海林と藤川の関係を知る片岡班長(高橋努)は疑惑の眼差しを隠せない。

東海林は比奈子についての疑惑を感じる。

殺された藤川は・・・東海林に比奈子についての情報を求めていたのだ。

比奈子の統計的には異常と言える精神構造を・・・「仮面で本心を隠している」としか理解できない東海林にとって・・・比奈子は心に闇を潜ませた怪物のようにも感じられるのだった。

(お前・・・一体・・・何なんだ)

藤川殺害事件の捜査が難航する中・・・新たな不審死が発生する。

同一薬物による連続殺人事件の発生である。

「使用された薬剤は二十五年前に製造が中止された・・・除草剤ビオローグと特定された」

「パラコートの別名であるメチルビオローゲンにちなんだネーミングですね」

「毒性が強く・・・多臓器不全を引き起こすパラコートは・・・自殺できる農薬の代名詞のようなものだからな」

「とにかく・・・何者かが自殺者に対してビオローグを提供している可能性がある」

「自殺幇助・・・ですか」

東海林がデスクワーク要員となったために・・・倉島刑事(要潤)と聞き込みを開始する比奈子。

捜査の途中で立ち寄った交番で・・・制服警官の原島巡査(モロ師岡)を知る比奈子だった。

原島の子供は投身自殺の巻き添えで死亡・・・現場を目撃した妻は子供の後を追うかのように自殺した。

原島は複雑な心情を吐露する。

「生きたくても生きられなかった人間がいるというのに・・・自ら命を粗末にするような人間の気持ちがわかりません」

比奈子は複雑な原島の気持ちにどのような表情で応じるべきか・・・判断に迷うのだった。

「やりきれないわねえ・・・想像しただけで・・・嫌になっちゃう」

検視結果を聴取するために帝都大学医学部の法医学教授・石上妙子(原田美枝子)を訪問した比奈子は・・・気分転換と称して石上教授から食事に誘われる。

感情豊かに振る舞う石上教授だったが・・・比奈子の異常さにはほぼ無関心である。

知っているのに知らないふりをしているのか・・・単に鈍感なのが微妙な演技なのだった。

いつもの「萌オさまカフェ」の店長・西連地麗華(伊藤麻実子)から・・・従業員の伊集院きらり(松本穂香)について相談を受けた比奈子。

自殺の虞があると聞いた比奈子は・・・麗華とともにきらりの自宅に向う。

麗華の説得できらりは自殺を思いとどまるが・・・比奈子は・・・室内にビオローグの瓶を発見する。

きらりは素晴らしいインターネットの世界で自殺志願者の集うサイトの一つ「AID」にアクセスして・・・ビオローグを入手していた。

「自殺を思いとどまるようにと・・・説得してくれるのですが・・・最後は臓器移植について仄めかし・・・捨てるのならその命をください・・・ということで・・・楽に死ねるクスリを送ってくれるのです」

「この薬を飲んで死ぬと・・・相当に苦しみます」

「え・・・そうなのでございますか」

自殺についての捜査資料を検索した比奈子はいくつかの発見をする。

服毒自殺ではないのに・・・現場にビオローグが残されていた事例の存在。

そして・・・AID関係者が・・・正確に未発表であるビオローグによる死亡の件数を把握していた形跡。

AID関係者が・・・警察内部にいる可能性が生じたのである。

西連地麗華と交際中の三木鑑識官(斉藤慎二)は・・・自殺志願者を装って・・・ビオローグ配布者の正体を突き止めようと素晴らしいインターネットの世界にアクセスする。

一方・・・東海林は・・・藤川の携帯電話から・・・謎の人物の着信を受ける。

「比奈子の正体を教えてやろう・・・あいつは物騒なものを隠しているぞ」

東海林は比奈子に対する疑いから・・・比奈子の私物を秘密裏に検査するのだった。

それは・・・犯罪です。

そして・・・件のサバイバルナイフを発見する東海林・・・。

東海林の比奈子に対する疑いは深まるのだった。

厚田班長は比奈子に捜査資料を持って中島に意見を求めるように指示する。

「この間の話の続きですが・・・」

「・・・」

「あなたは意図的に隠していることがありますね」

「・・・」

「あなたにナイフを贈った人は誰なんですか」

「その人は私がやるべきだと思ったことをやるべきだと言いました」

「その人とは・・・高校生の頃に出会ったのですか」

「その人は高校生の私にナイフをくれたのです」

「・・・」

ビオローグ配布犯に潜入プロファイリングを実行する中島。

中島からの着信は・・・きらりの危機を示唆していた。

「犯人には・・・自殺者に対する憎悪が感じられます。そして自殺すると確信した相手が自殺しなかった場合に・・・おそらく恐怖を感じています。犯人にとって・・・自分がコントロールした自殺は・・・神の裁きに匹敵するもので・・・その神威から逸脱するものは許されざる裏切り者となるはずです。犯人は・・・そういう人間を処刑している形跡があります・・・」

比奈子はきらりの自宅へと急行するのだった。

東海林の携帯に・・・死んだ藤川からの着信がある。

「比奈子は・・・また単独で動いているぞ・・・」

その頃・・・三木鑑識官は素晴らしいインターネットの世界でAID信者を煽りすぎ・・・拉致されて監禁されていた。

新人鑑識官の月岡真紀(佐藤玲)は蒼ざめる。

捜査員たちは三木の監禁場所を特定するが・・・長時間放置された三木は脱水状態にあった。

しかし・・・どこからともなく現れた麗華はスポーツドリンクを携えていたのだった。

「え・・・」

「誰・・・」

三木を抱きしめる麗華に唖然とする刑事たち。

自殺者を憎悪する原島巡査は・・・きらりを拳銃で脅迫していた。

「死ぬと言ったのに・・・何故・・・薬を飲まなかった」

「この薬は・・・楽に死ねない薬ではありませんか」

「そうだよ・・・自殺者が楽に死ぬなんて・・・とんでもないことだ・・・命を粗末にするような奴は苦しんで死ぬべきなんだよ」

「おことわりします」

「撃たれたいのか・・・撃たれたくないなら・・・飲め」

そこへ・・・比奈子が到着する。

「命を粗末にしているのは・・・あなたも同じです」

「何を言っている・・・」

「あなたは・・・捨てる命ならください・・・と書きこみましたね・・・それは自分に殺させろと言っているのと同じです」

「ふざけるな・・・俺は・・・天罰を与えているんだ」

「それは・・・単なる復讐です」

「お前も・・・死ね」

激昂した原島巡査は比奈子に襲いかかる。

比奈子はナイフを取り出そうとするが・・・鞄の中にナイフはなかった。

原島巡査は比奈子を組み敷く。

「それで・・・俺を逮捕するつもりか」

「私は殺し合いに来たのです・・・そして負けました」

「なんだと・・・」

そこへ・・・東海林刑事が到着する。

「東海林・・・」

「くそくらえだ・・・誰が・・・あんたの後継者になんか・・・なるかよ」

「東海林・・・」

東海林は原島巡査を逮捕した。

「藤堂・・・何をやっているんだ・・・」

「・・・」

「お前を刑事とは認めない」

「私は・・・」

東海林はナイフを示した。

「これは・・・俺が預かっていた・・・そして・・・代わりにレコーダーを仕込んでおいたのさ」

「・・・」

「もう・・・言いのがれできないぞ・・・お前は・・・犯人を逮捕しないで・・・殺そうとしたんだ」

比奈子は同意した。

東海林の心にやるせない思いがこみあげる。

「藤堂・・・お前はもう・・・警察官を辞めろ」

人間の発する言葉は・・・どのようなニュアンスを伴っていも・・・すべて命令なのである。

比奈子もまた・・・あらゆる行動を・・・自分に命ずるシステムに過ぎないのだ。

そして・・・すべての人間がそうなのである。

その頃・・・人肌をこよなく愛する佐藤都夜(佐々木希)は魔性の微笑みを浮かべている。

ドラマは人の心の暗闇に真っ向から突入していくようだ・・・。

はたして・・・東海林に比奈子を探らせる謎の人物は・・・誰なのだろうか。

警察関係者でないとすれば・・・父親しかいないわけだが。

ないがしろにされた上に殺されそうになっているのに・・・娘を溺愛しているお父さんなのか。

父親に対応する未登場の人間となると比奈子の初恋・・・そういうものがあるとして・・・あるいは初体験の相手ということになるが・・・東海林や中島を超えるイケメンゲストが必要になってくる・・・男とは限らんがな。

人間を殺すべきなのか・・・殺すべきではないのか。

比奈子の葛藤は続く・・・。

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2016年8月23日 (火)

そして、誰もいなくなった(藤原竜也)彼の帰りを待つ女(二階堂ふみ)

月曜日の谷間である。

谷間だらけだな・・・五輪の夏にはよくあることだ。

・・・う、撃たないで・・・の人じゃないか。

名作「ドラゴン桜」(2005年)から十一年・・・裏切られ続けてきたが・・・今回、面白いぞ。

主人公が東大に入れなかった人・・・という設定がよかったんじゃないか。

つまり・・・裏・ドラゴン桜の要素があるんだよな。

まあ・・・ヒロインが二階堂ふみだしな。

長い・・・ふみ不足の時代のオアシスだ・・・毎週、ゴチで見てるだろう。

それは・・・別腹だから・・・。

で、『そして、誰もいなくなった・第1回~6回』(日本テレビ201607172230~)脚本・秦建日子、演出・佐藤東弥(他)を見た。ある日、突然、自分が自分でなくなることの恐怖は・・・「記憶喪失」という古典的題材である・・・逆に世界から「自分の記憶が失われる」ことは浦島太郎だ。そのバリエーションとして「無実の罪」の「逃亡者」というものがある。この物語は・・・「パーソナルナンバー」という制度の存在を利用して・・・突然「名無し」にされた男のアドベンチャーである。それは・・・ちょっとした人為的なミスでも起こりうる時代になっているが・・・ここでは「黒幕」がいるらしい。「黒幕」の正体は気がかりだが・・・その目的は「世界」を孤独に追い込むことらしいので・・・ものすごく「孤独」を感じている誰かなのだろう・・・。

主人公は・・・黒幕の陰謀に・・・すべてを奪われた上で・・・テロリスト・グループに編入されるのだった。すべてを奪われたと主人公が納得した上で・・・そもそも・・・最初から何も持っていなかったのだと言う心理状態に誘導され・・・ついにテロリストとなったのが第六話である。

ここからは・・・陰謀に追いつめられた主人公が陰謀を開始するのである。

登場人物たちは・・・全員怪しいが・・・なかなか正体を見せない。

大手コンピュータシステム会社「株式会社L.E.D」のシステム開発研究員・藤堂新一(藤原竜也)はある日、突然、パーソナルナンバーを奪われる。

もう一人の藤堂新一(遠藤要)が現れ・・・婦女暴行事件を起こし逮捕されてしまったのである。

しかし・・・パーソナルナンバー上は・・・実は川野瀬猛である彼こそが・・・藤堂新一なのである。

クレジットカードから・・・会社におけるアクセスコードまでを書き換えられ・・・藤堂新一は職を失い無一文になってしまう。

新一には倉元早苗(二階堂ふみ)という婚約者がいる。

二年前・・・早苗は・・・新一の部下である五木啓太(志尊淳)と交際していたのだが・・・新一と知りあい・・・乗り換えた過去があった。

復縁を迫る啓太とのやりとりを目撃した新一は・・・疑心暗鬼に陥る。

妊娠中の早苗の胎児の父親が本当に自分なのか懐疑する新一。

そんな・・・新一に救いの手を差し伸べる大学時代の恋人・・・長崎はるか(ミムラ)・・・。

しかし・・・はるかには裏の顔があった。

新潟の大学で・・・新一に大学院への道を譲ったはるかは・・・ブラック企業に就職してしまい転落の人生を送っていたのだった。

新一は結局、大学院には進学せず・・・「L.E.D」に就職する。

そして・・・はるかは・・・新一に尽くした新一に捨てられたという思いを強くする。

そういう状況を知った新一は「陰謀」について激しく問いつめるが・・・「どうして早苗さんなの・・・どうして私じゃないの」と言い残して投身自殺を遂げてしまう。

大学時代から・・・はるかを慕い・・・新一を憎んでいた友人の一人・・・斉藤博史(今野浩喜)は逆上し・・・新一をナイフで刺そうとするが・・・揉み合い途中の階段から転落の果てにナイフが胸に刺さって死亡してしまう。

「俺が・・・殺人犯になってしまった・・・」

新一は深い絶望に襲われる。

新一の親友である総務省のキャリア官僚・小山内保(玉山鉄二)は窮地に陥った新一を救済しようとするが・・・新一の使用したグラスを回収したりと挙動不審である・・・まあ・・・単なる同性愛者なのかもしれんがな・・・消息不明となった新一を・・・早苗と協力して捜そうと動き始める小山内・・・。

新一の身を純粋に案じているように見える・・・母親の万紀子(黒木瞳)だったが・・・実は・・・新一は父親の連れ子であり・・・義理の母親だった。

そして・・・彼女のデスクには「ボイス・チェンジャー」が隠されていた。

新一が開発していたシステムは「Miss.Eras(ミス・イレイズ)」と呼ばれるインターネット上に拡散した情報を自在に改変できるスーパー・プログラムだった。

国家機関が関与するプログラムであるために・・・公安警察の鬼塚刑事(神保悟志)にマークされていた新一だったが・・・「陰謀」の主は国家側にはいない模様である。

新一の上司である田嶋課長(ヒロミ)はドサクサにまぎれて・・・二億円横領の罪を新一になすりつける。

やがて・・・行きつけのバー「KING」のバーテンダー日下瑛治(伊野尾慧)に救われた新一は・・・瑛治もまたパーソナルナンバーを持たない人間だと知る。

やがて・・・同様にパーソナル・ナンバーを持たない君家砂央里(桜井日奈子)や「ガキの使い」を名乗る馬場(小市慢太郎)と奇妙な連帯感を持った新一は・・・黒幕に脅迫されて・・・世界を孤独にするための七つの罪を犯すように命じられるのである。

それは・・・世界から疎外されたと思うようになった新一にとって・・・復讐心にも似た感情を抱かせる。

新一の行方を捜す啓太は・・・母親に贈られた「新一のウイルス」を入手し・・・封印されたプログラムの解読に着手するが・・・それは新一の仕掛けた罠だった。

「L.E.D」のコンピューター・システムは暴走し・・・新一の支配下に入る。

新一の行方不明に啓太が関与していると察した小山内は啓太を尾行するが・・・待ち伏せていた馬場に拉致されてしまう。

偽の「新一」の弁護士であった西条信司(鶴見辰吾)は拉致現場を目撃し、警察に通報。

警察車両に追われた馬場は・・・小山内を車のトランクに封じ込めたまま・・・海へダイブする。

ああ・・・やはり・・・裏・ドラゴン桜なんだな。

天才だった・・・新一はセンター試験の日に熱を出し、東大に行けなかった男なのである。

ちなみに・・・秀才の啓太は東大卒なのである。

西条弁護士は桜木(阿部寛)で・・・。

車で海に飛び込んだ馬場は・・・真々子先生(長谷川京子)なのだ。・・・おいおい。

万紀子を担当する介護ヘルパーの西野弥生(おのののか)は川野瀬猛の父に出会った日から消息不明となる。

早苗は・・・万紀子の捨てたボイス・チェンジャーを発見する。

「あああああ・・・ワタシハサナエエエエエ」

かわいいぞ、早苗、かわいいぞ・・・である。

そして・・・新一の世界を孤独に追いやるテロ行為が開始される。

はたして・・・黒幕は誰なのか・・・。

登場人物・・・全員が疑わしいまま・・・終盤戦に突入である。

それが・・・未登場の人間でないことを祈るばかりだ・・・。

まあ・・・今のところは義母だけどな。

大どんでん返しが好きだからなあ・・・う、撃たないで~。

まあ・・・谷間予定未定の「侠飯~おとこめし~」とか「仰げば尊し」の涙の編集残業ご苦労さんのそして一人だけいなくなった事件が発生しているわけだが・・・。

これは関係なくてラッキーだったな。

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2016年8月22日 (月)

恐ろしい災いの倍返しだ・・・薪が燃えれば釜戸が滾るの道理ゆえ(長澤まさみ)

フリとオチというのは物語を構成する基本である。

この物語は・・・「真田丸」という「オチ」に向っていくのだが・・・その途中に「関ヶ原の合戦」という「フリとしてのオチ」があり・・・そのための「フリ」も同時進行する。

「歴史劇」はある意味で「オチ」のわかっているドラマである。

もちろん・・・お茶の間には歴史に疎い人間もいるのだが・・・幼い視聴者には「みつなり」や「いえやす」の運命を知らないものもいるわけである・・・それはまた別の話だ。

一般的には慶長四年(1599年)になれば「来年、関ヶ原で合戦がありまーす」なのである。

わかっている「オチ」を面白おかしく見せる「フリ」こそが腕の見せ所なのだ。

慶長四年正月の緊張というのは・・・実は「大坂城の前田利家」陣営と・・・「伏見城の徳川家康」陣営の緊張である。

五大老の名目的重鎮である前田利家と・・・五大老の実力筆頭である徳川家康の権力闘争なのである。

しかし・・・このドラマでは・・・主人公・真田信繁が「真田丸」に至るドラマであり・・・その途中経過に「関ヶ原の合戦」がある以上・・・信繫と石田三成について描くわけである。

そのために・・・「大坂城」と「伏見城」の対峙は・・・「伏見城石田屋敷」と「伏見城徳川屋敷」の対峙に変換されている。

本来、大坂城にいるはずの上杉景勝や宇喜多秀家・・・あるいは加藤清正や細川忠興は微妙なポジショニングを行う。

加藤清正は・・・徳川屋敷と石田屋敷を往復したり、細川忠興は石田三成に訪問されたり、宇喜多秀家は石田三成と一蓮托生だったり、上杉景勝は大坂から伏見に駆け付けたりするわけである。

このドラマの石田三成は・・・飼い主を失った忠犬ハチ公属性なので・・・その「義」に偉大すぎる先代を持つ上杉景勝が感応する・・・というのが・・・「関ヶ原の合戦」への今回の最大の「フリ」になっている。

もちろん・・・「敵役」である徳川主従にも様々なフリが施されているし・・・未亡人の高台院の「裏切り」も仄かに香り立つ。真田兄弟の運命の分かれ道も暗示されている。秀頼母娘の「世情への疎さ」も描かれる。

濃厚である。

その上で・・・大谷吉継の忠臣であり・・・ドラマ「世界一難しい恋」のヒロインが好きな武将・湯浅五助がさりげなく登場していたりする。

そして・・・真田兄弟が離別する場面で・・・酷い目に遭うであろう真田信幸の家臣・河原綱家が・・・徳川屋敷でちょっとした「痛い目」に遭うという「くすぐり」も展開しているのである。

憐れな仔犬にお茶の間の同情を誘いながら小ネタも挿入なのだ。

伏線はフリの別名である。

伏線につぐ伏線にうっとりなのである。

で、『真田丸・第33回』(NHK総合20160821PM8~) 脚本・三谷幸喜、演出・土井祥平を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は空気が読めない男・石田治部少輔三成の第二弾描き下ろしイラスト大公開でお得でございます。毎回、何が描き下ろされるのか・・・ガチャポンみたいな楽しさがあります・・・「ニュー三成」キターッ!という歓喜がございますねえ。徳川VS豊臣は家康の仕掛ける間諜合戦の趣きがあるわけですが・・・小田原合戦で・・・あれほど濃厚に描いた板部岡江雪斎を史実ベースで再登場させ・・・重要な密偵の役割を背負わせる・・・実に渋い展開ですよねえ・・・。練りに練った感じが漂います。三成と明智光秀は敗者として似ているところがありますが・・・「大義名分」に拘りすぎるところはそっくりですよね。「戦」に大義名分は必要ですが・・・なにより「臨機応変」も求められる。奇襲をかけるっていうのに・・・伏見と大坂を往還していちゃだめですよねえ。いざと言う時の決断力の弱さにも光秀的な三成。もちろん・・・結果論で・・・そう見えてしまうという部分もあつでしょうが・・・二人の「みっちゃん」はこうすれば負けるのお手本みたいなところがございます。そういう部分を容赦なくえぐり出す脚本は本当に素晴らしいと考えます。関ヶ原の前哨戦のような虚構の極みとなってますよね。やることなすこと裏目に出て・・・追い込まれていく三成ですが・・・そんな三成だからこそ・・・放置できない周囲の優しい人々。主人公・信繫も・・・盟友の大谷刑部も・・・お屋形様こと景勝も・・・情にあふれた清正も・・・高台院の苛立ちも・・・丁寧に描かれていて素晴らしいですな。あそこで特攻して三成が死んでいれば歴史は変わっていたかもしれないと思わせるものがありましたものね。三成を真似たらダメ!・・・そういう教訓が明らかです。次回は徳川家康奇襲失敗を受けて・・・武断派七将の石田三成襲撃事件でございましょうか・・・。「関ヶ原」はすぐそこまで来ていますな・・・。まあ・・・この大河は第二次上田合戦がメインでしょうけれども~。

Sanada033慶長四年(1599年)一月、豊臣秀頼は伏見城で諸大名の祝賀を受ける。秀頼の後見人である前田利家は関白の遺言に従い、秀頼を未亡人となった高台院、秀頼生母の淀の方とともに大坂城に入城させる。朝鮮から凱旋した加藤清正らは石田三成に軍監だった福原長堯らの不正を訴え処罰を求める。三成はこれを拒絶。大坂の利家と伏見城の三成が諮り、徳川家康の無許可婚姻策を問責。家康はこれを無視。大坂城に利家派の諸将が兵を集結。伏見城では家康派が兵を集結する。大坂城には大老である毛利輝元が二万、利家の娘婿である宇喜多秀家が一万の兵を動員、上杉景勝、加藤清正、加藤嘉明、浅野幸長、長束正家、増田長盛、小西行長、長宗我部盛親、細川忠興が参加する。伏見城には黒田孝高・黒田長政父子、福島正則、池田輝政、蜂須賀家政、京極高次、藤堂高虎、山内一豊、伊達政宗、森忠政、大谷吉継などが参加する。二月、利家は伏見城を攻略する覚悟であったが・・・長男の忠隆に利家の七女・千世を娶らせた細川忠興の説得により家康と和解。秀次事件の際に徳川の恩を受けた忠興は最初から家康の意を受けていたとされる。利家を中心とした四大老と三成を中心とする五奉行の連携は閏三月の利家の死で瓦解する。利家派だった武将たちは続々と家康派に鞍替えする。

高台院は・・・秀吉の死後・・・たちまち高まった政治的緊張に虚しさを感じていた。

大坂城には・・・夫・秀吉の血を継ぐ秀頼がいるが・・・所詮は自分の子ではない。

形式的に落飾した大広院こと淀の方は・・・「御袋様」と呼ばれている。

つまり・・・豊臣家当主の母は・・・高台院ではなく・・・淀の方なのである。

何度も暗殺者を送り殺しそこなった母子に・・・高台院は敗北感を覚えるのだった。

しかし・・・それを表に出すわけにはいかない。

加藤清正や・・・福島正則は手懐けているが・・・その忠誠心が向う先はあくまで秀頼なのである。

同じように秀頼に忠誠を誓う近江出身の石田三成にはどこか馴染めないものを感じる。

秀吉の妻として・・・夫に天下を取らせたと自負する高台院は・・・天知通を使うくのいちである。

石女である高台院にとって・・・身内と言えるのは養家である浅野家の長政・幸長父子・・・そして養子とした小早川隆景などの兄・木下家定の子息たちぐらいのものだった。

「佐吉は油断できぬ」と高台院が感じるのは・・・小早川隆景に対する仕打ちにあった。

隆景は筑前国三十万石の領主であったが・・・朝鮮出陣後に越前北ノ庄十五万石に転封されてしまった。

筑前国は太閤蔵入地という豊臣家の直轄地となったのだが・・・その代官は石田三成であった。

つまり・・・隆景は財産の半分を石田三成に奪われたようなものなのだ。

減封によって隆景の家臣は離散し・・・そのうちの何人かは三成の家臣となっている。

それは秀吉が存命中の処置であったが・・・高台院は腑に落ちぬものを感じるのだった。

これは・・・何とかしなければならぬ・・・と戦国を生き抜いた太閤秀吉の未亡人は思う。

高台院は武将たちの顔を思い浮かべる。

古い馴染みのものたちは・・・すでに・・・去っていた。

前田利家も・・・長くはあるまいと高台院は思う。

利家に死相が浮かんでいることは天知通を使わずともわかっていた。

「結局・・・江戸の内府殿か・・・」

高台院は正二位内大臣・徳川家康に頼ることを決意した。

「寄らば大樹の陰じゃものなあ・・・」

高台院は大坂城の奥の間で・・・微笑んだ。

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2016年8月21日 (日)

ほんとにあった怖い話(稲垣吾郎)夏の特別編2016(中島健人)病室でゴー!(武井咲)父とチラシの入手方法(前田敦子)

土曜日の谷間である。

①サイエンスフィクションと②ファンタジーと③スーパーナチュラルホラーの境界線は曖昧だ。

それはニュアンスとして表現するとしかない。

①「死後の世界」があると仮定する話。

②「死後の世界」か「夢」かよくわからない話。

③「死後の世界は必ずある!」という話。

おおむね・・・こういう感じだと思う。

もちろん・・・キッドの知る限り、「死後の世界」が現世で証明されたことはない。

なにしろ・・・死んでしまったら・・・二度と・・・いや・・・なんでもありません。

それはけして・・・口にしてはいけないことですから。

悪魔としてっ。

このドラマは③です。

で、『土曜プレミアム・ほんとにあった怖い話 夏の特別編2016』(フジテレビ20160820PM9~)脚本・酒巻浩史(他)、演出・鶴田法男(他)を見た。台風9・10・11号が太平洋で活動中である。五つまとめてきたら五輪だったのにな・・・などと無責任なことを言っているが全国の皆さんの無事を心からお祈り申し上げます。スーパーナチュラルホラーも恐ろしいがナチュラルも恐ろしいのだった。東京だって半世紀以上前の台風では大川(隅田川)が氾濫して大変だったのである。さて・・・稲垣吾郎と子供たちが「キャーッ」っていう番組も長いな・・・。「みんなは家族がいるけど・・・僕は家に帰ったら一人なんたぜ・・・まあ、一人が好きなんだけどな」と何を言っても意味深な今日この頃だ。

いろいろあるとは思うが・・・「終わらないもの」なんて・・・ない・・・それだけの話である。

宇宙も終わるし・・・地球も終わる・・・人類も終わるし・・・人も終わる。

しかし・・・死後の世界はあるという話である。

本当にあったかもしれない話を本当にいるのかもしれない視聴者からの手紙を元に再現したドラマです。

最初の話・・・「押し入れが怖い」・・・美容師見習いの幹也(中島健人)は上京して一人暮らしを始める。賃貸アパートなので・・・三軒家チーフの出番はないのだが・・・明らかに事故物件である。先に上京していた同郷の友人・義之(前野朋哉)が捜してくれた物件だった。夜中に物音がして騒がしい。文句を言おうと隣の部屋を訪ねるが空室だった。それどころか・・・アパートの二階に住んでいるのは幹也だけだったのである

一階に住んでいる男(半海一晃)は・・・幹也の顔を見ると・・・物言いたげに去っていく。

幹也は美容師になりたくて・・・というよりは都会の生活に憧れて・・・地方公務員の職を辞し・・・親の反対を押し切って上京したのだった。

息子を案じる母親は山梨県名物の「ほうとう」を送ってくれる優しい母親である。

しかし・・・見習いとして酷使される幹也は・・・母親からの電話も煩わしく感じるのだった。

義之に「ほうとう」をおすそわけしようと呼び出した幹也・・・しかし・・・「ほうとう」は一日で変質していた。

「おかしいな・・・押入れは涼しいから大丈夫だと思ったのに」

「押入れが涼しい?」

「うん・・・ほら・・・」

「ほら・・・っておかしいだろう・・・押入れはクーラーでも冷蔵庫でもないんだぜ」

「・・・」

幹也が押入れを開くと・・・明らかに冷気が漂い出す。

「えええええええ」

「な」

「なっ・・・じゃねえよ」

不審に思った義之が検索すると・・・そのアパートは有名な「心霊スポット」だった。

「お前・・・ここ・・・引っ越した方がよくねえか」

「他に・・・安いアパートあるのか」

「いや・・・これほど安いのは・・・だから安かったのか」

顔を見合わせる二人だった。

幹也は一階の男に事情を聞いた。

「あの家で・・・育児放棄された子供が死んだんだ・・・母親は家出中で・・・子供は押入れで餓死していた」

「都会って恐ろしいところだな」

「まあな」

しかし・・・貧乏な幹也は引っ越すことができないのだった。

押入れからは時々、生足が出てきたりするのだった。

ある夜・・・幹也が目覚めると閉めておいた押入れの戸が開いている。

そして・・・やせ衰えた幼児の目が光った。

「ごめん・・・君はもう死んでいるんだ・・・でも僕は生きていかなきゃならない」

だが・・・悪霊にそんな理屈は通じないので・・・幹也は・・・母親に引越し代を無心するのだった。

世の中には息子に金を送ってくれる母親もいれば・・・育児放棄する母親もいるという恐ろしい話である。

「幽霊くらい我慢すればいいのに」と三軒家チーフは思うだろう。

二番目の話・・・「病棟に棲む五円玉」・・・ようやく看護師の資格をとったばかりの吉川亜由美(武井咲)はまだ「事故物件」を買うほどの貯金はないので・・・三軒家チーフの顧客にはなれない。そして・・・三軒家チーフが「事故物件」を売るために病院にチラシを配っていることなど知るよしもないのだった。

小児病棟に奇妙な女の子がいることに気がつく亜由美・・・。

女子小学生の入院患者・藤木麻友(豊嶋花)が院内の案内板をスケッチブックに書き取っていたのだ。

「何しているの」

「・・・」

麻友は無言のまま病室に戻るとスケッチブックを開く。

そして・・・図面に描かれた廊下に五円玉を乗せる。

いわゆるひとつの「コックリさん」的な動作である。

「それ・・・なに・・・」

「知らない」

「・・・」

五円玉は・・・するすると動き・・・とある病室の前で止まると・・・その部屋に入って行った。

そして・・・その夜・・・その病室の患者が死んだのだ。

思わず・・・先輩看護婦(板谷由夏)に相談する亜由美。

「病院で人が死ぬのは・・・普通のことよ・・・」

「ですね」

しかし・・・次の日も麻友の五円玉は・・・死者の出る病室を当てた。

「すごいわね・・・」

「・・・わからない・・・こわい・・・」

「こわいの」

「こわいよ」

「・・・」

この病院には何かよくないものが・・・潜んでいるのかもしれないと亜由美は思う。

そして・・・その夜・・・病院の廊下で亜由美は蠢く影を見た。

長い髪の女の影。

風もないのにそよぐ髪。

恐怖を感じる亜由美。

逃げても逃げても影はおいかけてくる。

思わず・・・麻友の病室に逃げ込む亜由美。

振り返ると・・・黒い影は「ゴーッ!」と言い残し去って行った。

三番目の話・・・「呪いの絵馬」(脚本・穂科エミ、演出・森脇智延)・・・しがないサラリーマン・小島洋介(バカリズム)は出汁汁にネクタイを浸けてしまうような粗忽者である。ある日、取引先の会社との飲み会の席で心霊スポットめぐりが趣味という美少女・川田千鶴(吉本実憂)から古めいた絵馬を贈られる。もちろん・・・洋介はまんざらでもない気持ちにになる。しかし、同居している妹(岸井ゆきの)は「そんなもの・・・贈る方も贈る方だし・・・受け取る方も受け取る方だわ」と呆れるのだった。

しかし・・・その夜から・・・洋介の周囲では奇妙な出来事が起こる。

会社の上司(利重剛)がうどんのどんぶりに七味唐辛子を全部入れたり、同僚や部下がミスを連発するのである。

まるで・・・洋介の粗忽が伝染したようなのだ。

事情を聞こうと千鶴の会社に電話するが・・・千鶴はすでに辞職していた。

「このままでは会社がつぶれる」

危機感をもった洋介は妹の勧めに従い・・・近所の神社に件の「絵馬」を奉納することにする。

しかし・・・近所にあるはずの神社への道程は恐ろしいほど遠かった。

近道は工事中で・・・曲がり角では交通事故・・・そして突然の嵐・・・。

だが・・・洋介は黄色いタクシーに乗ることで・・・絵馬をもらう時間まで遡上することに成功する。

凄い出費じゃないか・・・。

「これ・・・もらってください」

「お断りします」

「ちっ・・・」

それ以来・・・洋介は・・・会社で一番の粗忽者として恙無く過ごした。

四番目の話・・・「もう1人のエレベーター」・・・友達の上崎亜矢奈(生駒里奈)が入院したので四人の女子高校生(生田絵梨花・齋藤飛鳥・白石麻衣・西野七瀬)がお見舞いに行く。

「さっき・・・ストレッチャーに白い布かぶせられてた」

「それは・・・亡くなった人を霊安室に運んでいたのよ」

「霊安室・・・」

「地下一階にあるらしいよ」

「なんだかこわい・・・間違えて地下一階に行っちゃいそう」

「この病院のエレベーター古いものね」

「病院が古いからね」

エレベーターに乗った四人。

病院の出入口は一階である。

しかし・・・何故か・・・エレベーターは地下一階に直行する。

「どうして・・・」

「まさか・・・霊が一緒に乗ってたりして」

エレベーターの扉が開くと正面が霊安室だった。

「まさか・・・霊安室から・・・霊が出てきたりして」

霊安室の扉が開く。

「きゃあああああああ」

チラシを持った三軒家が現れた!

五番目の話・・・「誘う沼」・・・高松明憲(柳葉敏郎)は息子の直樹(志尊淳)と娘の瞳(恒松祐里)と一緒に湖畔の別荘に避暑に来ていた。妻に先立たれた明憲は喪失感から鬱を発症している。ぼんやりした父親を気遣い・・・直樹と瞳は気分転換になればと・・・父親を連れ出したのである。しかし・・・旅程の最後の夜。明憲は亡き妻と湖で戯れる夢を見る。

それは淫夢だった。

目が覚めた明憲は・・・自分だけもう一泊すると息子たちに告げる。

「父さん・・・大丈夫かい」

「大丈夫さ・・・今日は釣りでもするよ」

息子たちは父の身を案じるが・・・東京に所用があるために帰らざるをえない。

一人になった明憲は・・・昼寝をする。

夢の中に現れたのは・・・貞子だった。

最後の話・・・「夏の知らせ」・・・七年前・・・萩原朋子(前田敦子)は父親の晴彦(鹿賀丈史)の反対を押し切って田舎から上京・・・東京の小さな広告代理店に就職する。しかし、その実態は印刷屋で・・・業務内容は・・・スーパーマーケットのチラシや商店街のイベント代行だった。朋子は・・・あまり華やかではない日常に倦んでいた。ある日・・・三年前に死んだ父親の姿を商店街で見かける朋子。

上京をする時、喧嘩別れしたまま・・・葬儀にさえ出席していない朋子は・・・父の怨みを感じる。

「ち・・・化けてでたか」

出没する父親の亡霊に・・・辟易した朋子は・・・ついに帰郷するのだった。

母親は突然の娘の帰郷に驚く。

「お父さんが死んだ時さえ・・・帰ってこなかったのに・・・どうしたの」

「ちょっとね・・・」

父親の書斎に入った朋子は・・・見慣れぬファイルに気がつく。

そこには・・・朋子が作った「チラシ」がすべてコレクションされていた。

「ストーカーかよっ」

しかし・・・父親の溺愛に触れ・・・涙の止まらない朋子だった。

「お父さん・・・ごめんね」

親孝行をしたい時には親はなし・・・それは幸せなことなのである。

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2016年8月20日 (土)

モウドクフキヤガエル殺人バスツアー(向井理)ホームズちゃん(木村文乃)ガイドイエロー(片瀬那奈)被害者になるわ(上野なつひ)挙動不審の男(細田善彦)草津一ツ前温泉で入浴!ワケあり同級生(高樹マリア)我が儘BODY(佐藤二朗)

いろいろとふざけていて楽しいドラマなのだが・・・。

「神の舌を持つ男」*6.4%↘*6.2%↘*5.7%↘*5.3%→*5.3%↘*3.8%・・・である。

大丈夫だ・・・まだ四百万人くらいの人が見ているぞと・・・そっと肩を抱いてあげたい気分である。

来週は・・・五輪ライブも終わってるしなあ。

六百万人くらいには見てもらいたいよね。

まじめで素晴らしいドラマがあってもいいが・・・くだらなくておかしなドラマもあっていい。

「貧しい地域出身のあなたが・・・金メダルを獲得することは貧しい地域の子供たちに夢を与えますね」と極めて失礼なインタビューをするインタビュアーがいてもいいように。

ライブにはライブの・・・ドラマにはドラマの面白さがあるのだから。

で、『神の舌を持つ男・第7回』(TBSテレビ20160819PM10~)原案・堤幸彦、脚本・櫻井武晴、演出・加藤新を見た。丹沢大山温泉(フィクション)で温泉芸者ミヤビ(広末涼子)の電話番号を入手した伝説の三助・朝永平助(火野正平)の孫である人間成分分析器・朝永蘭丸(向井理)だったが・・・ミヤビに電話を切られてしまう。ニサスマニア(二時間サスペンスドラマ愛好家)の古物の行商人・甕棺墓光(木村文乃)が通話を再生、そして宮沢賢治の心象スケッチを諳んじる宮沢寛治(佐藤二朗)は「草津温泉鉄道(フィクション)の草津一ツ前駅(フィクション)」という手掛かりを得る。

温泉探偵トリオは・・・草津温泉(群馬県)へと向うのだった。

しかし・・・例によってガス欠となる甕棺墓くんのポンコツ車。

目の前には湯けむりツアー中の観光バスが停車していた。

車酔いのためにツアー客の一人で・・・大手運送会社の社長夫人・金級真琴(上野なつひ)がバスガイド・沢村さくら(片瀬那奈)に介抱されていたのである。

温泉探偵トリオは・・・例によって「伝説の三助の孫によるサービス」をアピール。

ちゃっかり・・・バスツアーへの参加を認められる。

しかし・・・直後・・・苦しみ出した金級(かねしな)夫人は・・・口から泡を吹いて倒れる。

その時・・・蘭丸はギンゲロールやショウガオールなど生姜の成分を金級夫人の胸元から感知するのだった。

金級夫人はほぼ即死状態で・・・通報によってかけつけたベテラン刑事の樋口(篠井英介)と若手刑事の若林(若葉竜也)は事情聴取を開始する。

毒殺の疑いから・・・金級夫人に「超強力微炭酸水」を勧めたバスガイドさくらが疑われる。

蘭丸は「超強力微炭酸水」のペットボトルを一舐めして「無毒」を主張するが・・・刑事たちは鑑識の結果が出るまで・・・ツアーを中止するように要請する。

しかし・・・「旅の思い出を殺人で終わらせるわけにはいかない」と反発するパスガイドさくら・・・。

刑事たちも同乗し・・・バスはツアーを強行するのだった。

そして・・・バスツアー殺人事件に・・・ニサスマニアの甕棺墓くんの血が騒ぐのである。

「被害者はいつ・・・毒を飲んだのかしら」

バスは宿泊先の利央出邪寧楼に向っていたが・・・昼食のために高崎でバイキング料理を食べていたらしい。

しかし・・・乗り物酔いをしていた金級夫人はほとんど食べなかったと友人たちは証言する。

金級夫人は同級生の長谷部樹奈(松岡依都美)と鎌田礼子(高樹マリア)と同行していた。

金級夫人をツアーに誘ったのは樹奈で・・・礼子は反対していたらしい。

あややに似ている礼子は高校時代、男性に人気があってちやほやされていたがゆえに・・・社長夫人となった金級まことが経済的に優位に立ったことを快く思わなかったのである。

「つまり・・・あなたには動機がある」

「そんな・・・」

蒼ざめる礼子だった。

一行は・・・足湯が楽しめる西ノ河原公園で休憩する。

しかし・・・甕棺墓くんは長谷部樹奈が金級夫人に借金していたことを小耳にはさむのだった。

「つまり・・・あなたには動機がある」

「そんな・・・」

蒼ざめる樹奈だった。

しかし・・・バスガイドさくらが割り込む。

「怪しいのは・・・あの男よ」

さくらが指さすのはフリーライター・見城ゆたか(和田聰宏)だった。

「彼は・・・ツアーにギリギリで参加して来た・・・しかも一人で」

「それは・・・怪しいわね」

甕棺墓くんは同意する。

「何故だ」と疑問を呈する寛治。

「ニサスの定番だからよ・・・ラジオ・テレビ番組欄略してラ・テ欄的に」

「ラ・テ欄的な出演者で言えば・・・ゲスト・スターが一番怪しいのでは」

「バスガイドは除外よね・・・探偵役だから」

口を揃える甕棺墓くんとさくら・・・バスガイドさくらもニサスマニアだったのだ。

「しかし・・・それだけで犯人扱いするのはどうかと」

「疑えるものなら家族でも疑えと言うでしょう」とさくら。

「誰の言葉ですか」

「おそらく金八先生よ」

「金八先生は絶対言わんぞ」

こうして・・・ダブルニサスマニアの対決が始るのだった。

そして・・・一組のカップルが捜査線上に浮上する。

大場陸(細田善彦)が「地元で死ぬなんて」と金級夫人を知っていたかのような言葉を漏らすのだった。

「ラ・テ欄的にもお前が犯人だ」

指摘されてあからさまに動揺する大場・・・。

「ツアー中に彼女から・・・聞いたんですよ」

「え・・・あの人と話なんかしてないでしょう」

大場の恋人の尾木亜香里(今泉彩良)が問い質す。

「つまり・・・被害者を以前から知っていたとしたら・・・あなたにも動機がある」

「動機って・・・」

蒼ざめる大場・・・。

「となると・・・あなたにも動機がある」

「え・・・」

蒼ざめる亜香里・・・。

蘭丸は亜香里から・・・ジャスミンの香りを嗅ぐ。

次々と不審者が現れるのだった。

まるでミステリみたいだ・・・ミステリだぞ。

殺人方法にもトリックがあるようなので本格ミステリと言えるぞ。

おいおい・・・神の舌のくせにかよ・・・である。

ここまでの容疑者候補。

被害者を妬んでいた同級生の礼子。

被害者から借金をしていた同級生の樹奈。

被害者を以前から知っていた風の大場。

その恋人の亜香里。

そして・・・怪しいフリーライター。

検死の結果が出るまで草津一ツ前警察署の管轄下に入ることになったツアー。

宿泊所が利央出邪寧楼から草津スカイランドホテルに変更になる。

「え~・・・そこには部屋風呂あるの~」と亜香里。

「展望風呂があります」

「そんなのいや~・・・彼と二人で入りたい~」

「うるさい・・・早朝貸し切り風呂があると説明しろよ」とフリーライター。

「あら・・・くわしいですね」

「まるで・・・以前にも宿泊したことがあるみたい」

ニサスマニアの二人の目がキラリと光るのだった。

一刻も早く草津一ツ前に向いたい蘭丸だったが・・・三助サービスが待っているのだった。

険悪になっていた同級生コンビはサービス要員として癒されるのだった。

久しぶりに朝永平助の回想シーンも挿入されるのだった。

トウチャコファンのためにも入れとかないとな。

下がるよね。

むしろ・・・全編平助でもいいくらいだ・・・どんだけ好きなんだよ。

翌朝・・・ミルキーホームズ的なコスプレとなった甕棺墓くん。

ホテルに被害者の父親がやってきて・・・事件を表沙汰にしたくないと言い出す。

どうやら・・・娘が社長夫人になったために・・・金級家から経済援助を受けているらしい。

何故か・・・被害者の父親を知っている風な大場・・・。

そして・・・姿を隠す運転手の芦田学(阪田マサノブ)・・・。

「アシダマナ・・ブだよ」かっ。

昼食はお食事処「さくら亭」で上州牛のすきやき御前である。

「なにか・・・キノコがはいってますね」と成分を分析する蘭丸。

「ブナシメジの粉末だよ」とフリーライター。

「よくご存じですね」

「舌には自信があります」

「嘘よ・・・蘭丸くんの化け物のような舌でも・・・ブナシメジまでは特定できなかった・・・あなたこの店も取材したことがあるんでしょう」と甕棺墓くん。

「・・・僕を疑うなら運転手さんを疑うべきでしょう」

「え」

「彼には・・・金級夫人の義理の父親に・・・解雇された過去がある」

大手運送会社の先代経営者の写真を見せるフリーライター。

「これは・・・」

「社長室でパターをする社長は犯人じゃないけど悪人」

「ニサスの掟ね」

芦田学は配送トラックの運転手をしている時に・・・先代社長に暴言を吐き・・・解雇されていたのだった。

「つまり・・・動機があるのね」

「そんなことで・・・義理の娘を殺したりしませんよ」

バスドライバーは容疑を否定した。

そして・・・被害者の体内から毒物が検出され・・・事件性は高まるのだった。

「服毒自殺の可能性もありますが」と寛治。

しかし・・・同級生の二人は「彼女は幸せの絶頂なので自殺なんてしない」と声を揃える。

検出された薬物は・・・心臓発作を引き起こすバトラコトキシン、麻痺などを引き起こす神経毒性を持つプミリオトキシン神経伝達物質やホルモンなどの働きを阻害するヒストリオニコトキシン・・・いずれもヤドクガエル科フキヤガエル属モウドクフキヤガエル(猛毒吹矢蛙)由来の毒物である。

モウドクフキヤガエルは実在する生物である。

「凄い毒なの」

「微量に触っただけで死にます」

「そんなもの飲んだら即死だな・・・」

そしてニサスマニアの二人は・・・ツアー客たちに・・・被害者の葬儀への参列を求めるのだった。

地元の人間とツアー客の接点を探るという目的で牛乳を飲み続ける刑事たちも説得されるのだった。

被害者の葬儀で・・・被害者の母校の教師に呼びかけられるフリーライター。

「あら・・・あなた・・・確か取材に来られた方・・・」

フリーライターは被害者の母校を訪問して・・・被害者を調査していたことが発覚する。

バスは草津には珍しい海岸線を走る。

群馬県に海はありません。

「崖よ」

心ときめく甕棺墓くんだった。

刑事たちに事情聴取を受けることになったフリーライター。

しかし・・・ドライブインのトイレから脱走である。

「真琴って女のことで話があるの」

カップルの女は男に言った。

「礼子・・・真琴のことで話があるの」

同級生の女は女に言った。

謎めいた・・・二組・・・。

ニサスマニアとして崖を目指す甕棺墓くんは道に迷う。

そこでトリオはミヤビと遭遇する。

「ミヤビさん・・・」

だが・・・逃げ出すミヤビだった。

追いかける蘭丸。

そこで・・・悲鳴が上がる。

思わず方向を変え甕棺墓くんと寛治は悲鳴の聞こえた場所へ・・・。

崖の下海岸・・・。

そこで・・・フリーライターが変わり果てた姿になっていた。

第一発見者は・・・亜香里。

甕棺墓くんと寛治・・・礼子と樹奈・・・そして大場が死体を見下ろす。

人数合わせのツアー客が歌うバスに戻って来た運転手は白い手袋を装着するのだった。

サスペンスドラマみたいだな・・・サスペンスだっ。

つづく・・・だけどな。

ニサスだからな・・・。

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2016年8月19日 (金)

百合子さんの絵本(薬師丸ひろ子)陸軍武官・小野寺夫婦の戦争(香川照之)ヒトラーを愛した男(吉田鋼太郎)

小野寺夫妻は実名で登場だが・・・駐ドイツ大使の原島浩は仮名である。

そういう配慮がどこを出発してどこに着地していくのか・・・よくわからない。

歴史的事実として・・・小野寺百合子は日露戦争における旅順攻囲戦の歩兵第6旅団長・一戸兵衛の孫娘であり、小野寺信はスウェーデン公使館附武官で昭和十八年(1943年)には陸軍少将に昇進している。

そして、駐ドイツ特命全権大使を務め、日独伊三国同盟締結の立役者として知られるのは大島浩陸軍中将である。

極東国際軍事裁判でA級戦犯として終身刑の判決を受けた大島は昭和三十年(1955年)に釈放され、昭和五十年(1975年)まで生きた。

大島は「アレキサンダー大王やナポレオンのような天才戦略家としてのヒトラーに傾倒していた」と言われる。

登場人物に同じようなことを言わせて・・・仮名にする意味がよくわからないが・・・おそらく、実名にすると物騒な気がしたスタッフがいたのだろう。

敗戦国で敗戦ドラマを創作するということは・・・戦後これだけの時が過ぎても本当に大変なことなのだなあ。

で、『終戦スペシャルドラマ・百合子さんの絵本~陸軍武官・小野寺夫婦の戦争~』(NHK総合20160730PM9~)原案・岡部伸、脚本・池端俊策、演出・柳川強を見た。ベートーヴェンの交響曲第9番の第4楽章で歌われる「歓喜の歌」が様々な場面で挿入される。音楽・千住明である。千住明ファンならそれだけでドラマを楽しく堪能できる。リオ五輪のために「ウシジマくん」が一回お休みの谷間でのレビューとなったが・・・そもそもオンエアが早すぎるのである。大人の事情かっ。しかし・・・リオ五輪の陸上・女子5000m予選(第2組)で転倒したハンブリン選手とダゴスティノ選手の寄り添う姿は涙腺を刺激する麗しい光景だったが・・・何故か、このドラマの小野寺信(香川照之)・百合子(薬師丸ひろ子)を連想させる。二人は・・・エリート軍人と才媛の夫妻だったが・・・大日本帝国の悲劇に対してあまりにも無力であり・・・よろけながらよりそいつつ人生を完走していくのである。

歌人・佐佐木信綱(加藤剛)の歌会に出席した百合子は・・・。

ましろなる花にむかいて我が心清く優しくなりし心地す

・・・と詠んだ。

佐佐木は「素直でいいが・・・光あるところに闇があることも心に留めてほしい」と評する。

「闇・・・」

東京女子高等師範学校附属高等女学校専攻科を卒業したお嬢様である百合子は首を傾げる。

昭和十五年(1940年)・・・大日本帝国は日中戦争の渦中にある。

四歳の末っ子の上に三人の子供のいる母でもある百合子。

明治三十九年(1906年)・・・百合子の生まれた年に書かれた「ニルスのふしぎな旅/セルマ・ラーゲルレーヴ」の英語版(原作はスウェーデン語)を和訳して子供たちに読み聞かせるほどの語学力を持っている。

夫の小野寺大佐はスウェーデン公使館の駐在武官に着任している。

スウェーデンは武装中立政策を取り、第一次世界大戦、第二次世界大戦の両大戦に参加していないために・・・各国の外交戦の舞台となっていた。

昭和十四年(1939年)にヒトラー率いるドイツ軍がポーランドに侵攻し、破竹の勢いでノルウェー、フランスを占領している。

昭和十六年(1941年)の新春・・・百合子は夫の同僚である臼井(千葉哲也)の勧告で三人の子供を妹に預け、単身赴任中の夫の元へ・・・末っ子の龍二だけを連れて出発する。

白夜の国、スウェーデンの首都・ストックホルム。

百合子は欧州の香りに心騒ぐ。

しかし・・・小野寺大佐は諜報戦の最中にあった。

百合子の仕事は・・・小野寺大佐の得た情報を暗号文に替え・・・参謀本部に打電することだった。

突然・・・間諜(スパイ)の妻となった百合子は・・・機密保持のために・・・夫婦の会話は蓄音機の大音量や・・・野外に限られるという夫の態度に戸惑うのだった。

「一体・・・どうなっているのです」

「日本は米国との戦争を考えている」

「勝てるのですか」

「勝てない」

「そんな・・・」

「だから・・・正確な情報を得て・・・参謀本部に伝えなければならない」

陸軍参謀本部は海軍軍令部とともに・・・米国ならびに英国との開戦を考えていた。

そのために・・・独軍による英国侵攻のしかるべき時期の情報を求めていたのだった。

小野寺大佐は情報獲得のために・・・元ポーランド軍の情報将校・ペーター・イワノフ(イヴォ・ウッキヴィ)を事務員として雇用していた。同盟国ドイツの占領下にあるポーランド人を保護することは危険を伴っている。

イワノフは・・・独軍がソ連国境に棺桶を集積している「事実」を掴んでいた。

それは独軍がソ連に侵攻する兆候を示している。

「しかし・・・独ソ不可侵条約があるのではありませんか」

「条約なんて・・・破るためにある・・・というのが欧州の常識なのだ」

だが・・・参謀本部は・・・小野寺の「独ソ開戦情報」を無視した。

参謀総長は杉山元陸軍大将である。昭和天皇に「日米戦争は三ヶ月で勝利する」と確約した男で・・・敗戦後の昭和二十年(1945年)9月12日に司令部にて拳銃自決する。杉山夫人は杉山の死を確認すると自決した。

スウェーデンでは夏至祭が行われる。

花の冠をかぶる娘たちが歌い踊る華やかな宴・・・。

百合子は美しい女神の描かれた絵本を入手する。

夏至祭りの際中・・・バルバロッサ作戦が発動し・・・独軍はソ連に侵攻する。

そして・・・十二月・・・予定通りに大日本帝国は米英と戦闘状態に突入するのだった。

恐ろしい殺戮が続く間・・・スウェーデンは平和だった。

ある日・・・駐ドイツ大使の原島浩(吉田鋼太郎)の訪問を受ける百合子。

「ご主人の情報の評判が悪いのです」

「評判・・・」

「日本に不利な情報ばかりを打電している・・・ドイツがソ連軍に負けているとか」

「それは事実ではないのですか」

「ヒトラーが指揮するドイツ軍が負けるなどということはありえないのですよ」

「何故ですか」

「ヒトラーは天才だからです・・・ナポレオンに勝るとも劣らない」

「ナポレオンは・・・最後は敗北したのではないかしら」

「・・・」

「奢る平家も久しからずと言うではありませんか」

「夫婦揃って・・・とんだ敗北主義者だ」

昭和十七年(1942年)、スターリングラード攻防戦を契機にソ連軍の反攻作戦が開始される。翌十八年、十万人のドイツ軍がソ連軍の捕虜となり、クルクスの戦いで大戦車戦に敗北したドイツはソ連に押し返される。

連戦連敗を続けるイタリアは連合国に降伏。

昭和十九年(1944年)に連合軍はノルマンディー上陸作戦を開始する。

大日本帝国の本土にも本格的な空襲が開始される。

日本からの潜水艦による通信で・・・「欲しがりません勝つまでは」という娘の習字を得た百合子は焦燥感に震えるのだった。

「今日・・・龍二の目の前で・・・イワノフの部下が射殺されました・・・もうイワノフとの関係を断つべきではありませんか」

「それはできない」

「子供を巻き込まないでください」

「とっくに・・・巻き込まれているのだ・・・それに国が滅びたら・・・子供たちがどうなると思う」

「・・・この絵本を・・・子供たちに送ってください」

「伊号潜水艦が祖国に戻れるがどうか・・・わからん・・・しかし・・・頼んでみるよ」

大日本帝国の敗色は濃厚だった。

昭和二十年(1945年)2月4日、クリミア半島のヤルタ近郊でアメリカ、イギリス、ソ連による首脳会談が行われた。ソ連の対日参戦の密約がなされたのである。

イワノフによる諜報活動により・・・その事実を掴む昇進して少将となっている小野寺。

「ドイツ降伏後・・・日ソ中立条約を一方的に破棄しソ連が大日本帝国に宣戦布告する」

だが・・・この情報を参謀本部は無視した。

陸軍参謀総長は梅津美治郎だった。

3月10日、東京大空襲である。

スウェーデンは平和だった。

世田谷に残した子供たちのことを案じ震える百合子。

5月8日、ドイツは降伏した。

梅津美治郎はソ連が極東に大兵力を移動しはじめていることを知っていたが・・・東郷茂徳外務大臣によるソ連を仲介して和平交渉を探るという方策に反対はしなかった。

重光葵元外相の模索したスウェーデン政府の和平仲介工作は中止される。

日本は・・・まもなく対日戦争を開始する予定のソ連に・・・和平交渉の仲介を頼むと言う・・・極めつけの愚行を開始したのである。

8月6日、広島に原爆投下。

8月8日、ソ連の対日参戦。

8月15日、大日本帝国は無条件降伏。

梅津美治郎は極東国際軍事裁判で終身刑の判決を受け、服役中の昭和二十四年(1949年)に獄中死する。

昭和二十一年(1946年)・・・小野寺夫妻は帰国した。

「百合子さんの絵本」は子供たちに届いていた。

「でも・・・スウェーデン語なので・・・読めませんでした」

百合子は娘を抱きしめた。

小野寺少将は・・・巣鴨プリズンに拘留された。

MPに見据えられつつさしいれの本の包みをおもむろに解く

「なかなかに深みがありますな」と百合子の歌は評価された。

小野寺夫妻は戦後を生きた。

百合子は「ムーミンパパの思い出/トーベ・ヤンソン」の翻訳者となった。

「私たちも・・・ムーミンパパのような冒険をしたわね・・・小野寺閣下」

「そして・・・負けた」

「そのことを語るべきではないかしら・・・」

小野寺は出版社の企画する座談会に出席する。

軍人や官僚たちは・・・「あの戦争」を振り返る。

小野寺は・・・「貴重な情報」が無視されたことを指摘する。

しかし・・・敗残者たちは・・・すべては「仕方がなかった」と結論付けるのである。

小野寺は「虚しさ」を感じる。

平和の時代の「歓喜の歌」が二人を包み込む。

小野寺信は昭和六十二年・・・1987年まで生きた。

小野寺は百合子は平成十年・・・1998年まで生きた。

そして・・・世界は今も美しく・・・平和と戦争で混沌としている。

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2016年8月18日 (木)

夫を殺して妻が自殺した家(北川景子)僕が課長で課長が僕で(仲村トオル)愛人の手切れ金を狙え(千葉雄大)

一夫一婦制度のもとで経済力がある人間が配偶者以外の人間と性行為を行うことは・・・公序良俗に反する行為である。

経済力のない人間がそれを行うと犯罪の香りがする。

もちろん・・・すべての制度は・・・虚構であり・・・その善し悪しを決めるのは人間の主観に過ぎない。

精力の許す限り複数の人間と性的関係を結んで関係者一同が満足ならそれでいいのである。

「愛」についての脚本家の考え方は・・・基本的に・・・いろいろあって面白しなのであろう。

今回は・・・愛人女子が二人登場するし、本妻も登場し、男鰥夫や浮気な夫、そして母と娘が登場する。

どんな人間も性的結合の結果だし・・・誰がいいとか悪いとかでもない。

ただただ面白いのである。

このドラマが伝えるのは・・・人間はみんな面白いものだ・・・ということだ。

そういうドラマが面白くないわけがないのである。

で、『家売るオンナ・第6回』(日本テレビ20160817PM10~)脚本・大石静、演出・山田信義を見た。バブル時代を知るものは栄華のはかなさを氷河時代しか知らないものは底辺のはかなさを身に沁みつかせている・・・崩壊寸前の男社会である。男たちは男と生まれた特権の中で温く生きたいと願うのだが・・・彼女はそれを許さないのだ。彼女は家を売る獣、虎で狼でゴジラだ。登坂で伊調で土性だ。猛獣で怪獣で金メダルの三連打なのである。彼女の去った後には売却済みの札が残るばかりなのだった。

テーコー不動産株式会社・・・新宿営業所売買営業課の営業チーフ・三軒家万智(北川景子)はまたしても家を売る。

しかし・・・顧客の顔を見たマダムキラーの足立聡(千葉雄大)はついに微笑みを消す。

「僕のお得意さんじゃないですか」

「足立が三ヶ月も放置していた茂野様が私のチラシを見て私から家を買ったのです」

「それにしたって・・・一言あっても」

だが・・・サンチーこと三軒家チーフにはそれ以上、足立にかける言葉はなかった。時間の無駄だからである。

「そうまでして・・・売上一位をとりたいのですか」

ついに負け惜しみを叫ぶ足立だった。

「どうした・・・何があった」と屋代課長(仲村トオル)・・・。

「足立が私の客をとったってそりゃもう大騒ぎ」とは言わない三軒家である。

険悪なムードの課内に・・・事務員の室田まどか(新木優子)が足立への来客を告げる。

「今日は・・・アポはないはずなのに・・・」

現れたのは顧客を装ったヘッドハンティングの営業マンだった。

「ファンクラブまであるというマダムキラーなあなたの営業手腕を高く評価しています・・・顧客名簿をもって・・・大手生命保険会社に転職なさいませんか・・・あなたの実力なら・・・年収の150~200パーセントアップが可能です」

「しばらく・・・考えさせて下さい」

揺れる黒王子・・・。

例によって本社からの特別命令として「物件」を受ける屋代課長。

「お買い得すぎる一千万円の物件だ」

「私が売ります」と珍しく名乗りをあげる白州美加(イモトアヤコ)・・・。

今回は・・・心理的瑕疵(キズもの)の事故物件である。

豪邸だが・・・寝室で浮気な夫を妻が刺殺、その後自殺したということで・・・遺族が一千万円で売りに出したのである。

「そんな家・・・売れませんよ」といつものシラスミカだった。

「そんな家に住む人間の気が知れないよな」と陰で反サンチー同盟を主導する腐臭の漂う布施誠(梶原善)・・・。

「人それぞれではないですか」と事故物件に住んでいる三軒家を気遣う庭野聖司(工藤阿須加)である。すでにサンチー信者なのである。

「その物件は・・・私が売ります」と三軒家が宣言するのだった。

布施に教唆された八戸(鈴木裕樹)は足立を反サンチー同盟に参画させようと目論む。

「さすがに・・・サンチーのアレはないよな」

「僕は・・・派閥は嫌いなので・・・」

「ちっ」

足立には足立のプライドがあるのだった。

その拠り所の一つが・・・社内報にも掲載された・・・老舗和菓子屋「みやざわ」の宮澤社長(東根作寿英)への三年前の本宅販売だった。社長夫人(田中美奈子)と幼い娘の幸せそうな三人家族に「素晴らしい家」を売ったことが足立の心に喜びをもたらしたらしい。

幼い頃に・・・父親に捨てられ母子家庭となった足立は・・・父親への怨みを・・・幸せな夫婦に家を売ったことで昇華していたらしい。これは・・・父親への怨みを朝ドラマにまで持ち込むあの脚本家へのアンチテーゼ的暗喩なのか。・・・おいおいっ。

しかし・・・久しぶりに来訪した宮澤社長は・・・息子の誕生を祝って作られた新作水ようかんのパッケージデザインを担当した奥平礼央奈(小野ゆり子)と愛人関係となり・・・店と自宅を結ぶ中間点に・・・愛人を住まわせるための三千万円の物件をオーダーするのだった。

家族を裏切って愛の途中下車を目指す宮沢社長は・・・足立の心の聖域を土足で踏みにじるのである。

来客にお茶を出したまどかは・・・スキャンダルを課内に報告する。

「宮澤社長と愛人がテーブルの下で手を握ってました」

「汚らわしい」と愛の夢を見るシラスミカは吐き捨てる。

「結婚相手より愛人の方が魅力的だっただけでしょう」とまどか。

「何故・・・愛人の味方を・・・」

「私の彼にも奥さんがいるからです」

「ええええええええええええ」

騒然となる課内。

「でも・・・彼はもうすぐ奥さんと別れるのです」

「男は・・・みんなそう言うんだ」と布施誠は遠い目をするのだった。

売上がゼロの続く庭野聖司(工藤阿須加)は一戸建てを半田さとみ(片岡富枝)とかおり(西慶子)の母娘に売ろうとしていた。

すでに内見が三回目だが・・・なかなか決断しない母子。

隣の家に誰が住んでいるかが気になると言い出すのである。

「どんな人なら・・・よろしいのでしょうか」

「それはもちろん・・・普通の人よ・・・」

普通の人なら大丈夫だろうと思う庭野だった。

「チーフ、家が売れそうです・・・隣の人が普通なら買ってくれるそうです」

「普通とはなんだ」

「え」

「私は普通か」

「チーフは少し・・・変わってますけど」

「私が隣人ならその家は売れないのか」

「・・・」

「だから庭野には家が売れないのだ」

だが・・・屋代課長が気になるのは・・・庭野が報告を課長にではなくチーフにするようになったことである。

上司としての存在意義が問われているのだった。

隣人の調査を開始した庭野は・・・隣の家の布川氏(小林隆)が花柄のワンピースを着用した男性であることに・・・驚愕するのだった。庭野的には女装する男性は普通ではないらしい。

事故物件の下見をした三軒家は・・・「現地販売」を提案する。

「しかし・・・台風が関東直撃コースに入ってるぞ」

タイムリーだったな。

「シラスミカ・・・来なさい」

「えええ・・・課長~」と屋代に救いを求めるシラスミカ。

「勉強になるよ~」とすでに三軒家の軍門に下っている屋代課長だった。

葛藤しながら・・・愛人のための物件を用意する足立王子。

しかし・・・愛人は物件の立地に抵抗を示す。

「店と自宅の中間点に・・・愛人を住まわせるなんて・・・それでは私は都合のいい女になってしまうじゃない」

「しかし・・・愛人という時点で・・・男に都合のいい女なのではありませんか」

「いいえ・・・不便でも私との愛のために遠回りをする・・・彼はそういう男よ」

「・・・」

愛という幻想は人それぞれにいろいろなのである。

現地販売の二人のもとへ・・・ひやかしの客が現れる。

「いやあ・・・こわいものみたさというか・・・幽霊屋敷探訪ですよね」

伊佐洋(村松利史)と信子(ふせえり)という明らかに変態的な夫婦だった。

「それに安さは魅力よねえ・・・」

だが・・・「状況」を克明に説明する三軒家の言葉に背筋が震えあがる伊佐夫妻とシラスミカだった。

シラスミカは・・・愛する足立への思いで恐怖を克服しようとする。

「実は私・・・足立さんとお付き合いしてるんです」

本人は・・・そう信じているらしい。

「庭野くんは・・・チーフのことを愛していますよ」

恋愛についての勘に自信があるシラスミカだった。

もちろん・・・どんな直感も自分自身については別なのである。

買い出し要員として陣中見舞に現れる宅間(本多力)だった。

「私は・・・仕事だけの女ってさびしいと思うんですよ」と語るシラスミカ。

「仕事ができないだけなのもさびしいけどな」と応じる宅間。

人の意見は聞き流すシラスミカである。

台風が上陸し・・・雷鳴響く嵐の夜・・・。

寝袋ツタンカーメン状態の三軒家を残しトイレに向うシラスミカ・・・。

ふりかえれば三軒家である。

「ひえええええええええ」

「私が先です」

もはや・・・名コンビの域に達しているサンチー&シラスミカなのだった。

翌日・・・都内の病院や葬儀社に三軒家が散布したチラシによって・・・まっしろな世界から看護師のみどり(小林きな子)がやってくる。

事故物件の由来を聞いても動じないみどり・・・。

「私はERのオペ看なので・・・死体なんて日常茶飯事です・・・一人や二人死んでいたってどうということはありません」

「しかし・・・怨念が・・・」とシラスミカ。

「怨念なんて生きていたって死んでいたってどこにでもあるものじゃないですか」

「では・・・一千万円でお買い上げいただけますか」

「はい」

即決である。

お盆ネタなんだな・・・死後の世界を信じなければ幽霊はこわくはないが・・・死後の世界を信じたとしても毎年、祖先の霊を迎えることに敬虔な思いを抱くのが人間というものだ。

「一千万円の物件は私が売りました」

チーフが課長に報告していると・・・宮澤夫人が足立を急襲する。

「あなた・・・私たち一家の幸せを祈っているなんて言っておきながら・・・愛人に家を売るなんてどういうつもり・・・私たちの幸せを壊して平気なの」

言葉を失う足立。

しかし・・・三軒家が足立に代わって応じるのだった。

「足立が家を売るのは宮澤様です・・・その家が何に使われるのかについては私たちの関与することではございません。まして・・・宮澤様の家庭については・・・宮澤様ご夫婦のプライベートな問題でございます」

「なんですって・・・きいいいいいいいいい」

浮気発覚によって愛人との別離を選択する宮澤氏。

件のマンションは愛人との手切れ金にするという。

しかし・・・愛人はそんなマンションに住む気はないと言い出すのである。

傷心の足立を庭野が誘うのだった。

行き先は・・・件の中華料理屋である。

「なぜ・・・こんな汚い店に・・・」

「餃子とビールがおいしいのです」

庭野にビールを注がれて思わず微笑む足立。

「ここは三軒家チーフの行きつけなんですよ」

「え」

水洗の音も高らかにトイレから三軒家が現れる。

「何しに来た?」

「餃子とビールと上司の説教をお願いします」

三軒家に餃子を勧める庭野だった。

「足立・・・家を売って家族を幸せにしたとうぬぼれ・・・愛人に家を売ったら家庭を壊すとウジウジする・・・庭野は庭野で・・・普通などというわけのわからない価値感について・・・ウジウジする」

「・・・」

「私たちの仕事は家を売ることだ」

「はいっ」

足立も陥落したらしい・・・。

庭野は隣の家を訪問した。

布川氏は・・・妻に先立たれた寡夫だった。

「生前は浮気三昧だったんですが・・・妻に死なれてみると・・・誰よりも彼女が愛おしくなって・・・彼女の遺品を身につけ・・・妻の愛したローズティーを愛飲するようになったのです」

「・・・」

庭野は・・・布川氏に・・・「好ましい普通さ」を感じるのだった。

庭野は半田母娘に・・・ローズティーを勧め・・・隣の家の住人の物語をする。

「優しい方なのね」

「優しい方です」

「この家に決めましょうか」と母。

「ローズティーも美味しいものね」と娘。

庭野はついに家を売った。

愛人ではなくなった奥平礼央奈に物件を紹介する足立。

「愛には値段はつけられませんが・・・不動産には資産価値があります」

「・・・」

「もらうものはもらっておくべきではないでしょうか」

「価値ある物件なのね」

「値上がりが期待できますよ」

「いただくわ」

足立も家を売った。

足立はヘッドハンティングの件を断った。

家を売る深みにはまったらしい。

夫を殺した妻が自殺した家。

妻を亡くした夫が一人暮らす家。

浮気が発覚して愛人を捨てる夫と妻と子供たちの家。

捨てられた女の得た家。

愛人が妻と別れると夢見る女の家。

どんな家にも罪はないのである。

まあ・・・家相とか風水とか言い出すと別だがな。

そういう回も見たいよね。

屋代課長は・・・取り壊される家を見守っていた。

偶然、通りかかる足立。

「課長・・・」

「この家は・・・俺が売ったんだ・・・経済的に苦しくなった顧客が・・・ローン返済に行き詰まり・・・結局、売却・・・更地になっちゃうのさ・・・」

「・・・」

自分が売った「物件」に勝手にロマンを感じる男たちだった。

そうでもしないと生きていけないタイプは存在する。

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2016年8月17日 (水)

カネゴン殺し(波瑠)カネゴン殺しだって(横山裕)カネゴン殺しですね(林遣都)ガヴァージュ(強制給餌)だよ(渡部篤郎)

カネゴンは「ウルトラQ」(1966年)に登場する怪獣である。

金の亡者である男子小学生が不思議な繭に引きこまれ変身した怪獣で・・・主食は「お金」である。

人間に対してお金をガヴァージュ(強制給餌)する機械を開発した職人を演じるのは「柔道一直線」(1969年)や「刑事くん」(1971年)でおなじみの桜木健一だった。

昭和の香りがするよね・・・。

いろいろと・・・「とんでもない展開」のこのドラマだが・・・なんとなくしみじみとした味わいがある。

被曝者の中には「原爆投下の責任」を問い、誰かに「謝罪してもらいたい」気持ちも生じるだろう。

しかし・・・矛盾は人類の宿命である。

熊を殺すためには猟銃が必要な場合があるし・・・爆弾かかえて飛び込んでくる相手には原爆投下もやむなしと考えることもできる。

共食いを続ける兇悪な種である人類はいっそ滅びた方がいいという考え方もあります。

お金を食べないと「腹へったよ~」と嘆くしかないカネゴンを可愛いと感じるのはひもじさというものを知らないからだと言われて困惑したことがあります。

で、『ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子・第6回』(フジテレビ20160816PM10~)原作・内藤了、脚本・古家和尚、演出・宝来忠昭を見た。「ハヤサカメンタルクリニック」に勤める心療内科医師・中島保(林遣都)が電子工学の天才で・・・超技術による「脳機能調整腫瘍発生機」を発明していたことが明らかになった前回・・・刑事ドラマはSFミステリとなって・・・お茶の間から大量な脱落者が心配される今日この頃だが・・・まあ・・・どうせリオ五輪のドサクサにまぎれているからな。そもそも・・・お茶の間の大半は「感情のない人間」というものをイメージすることも難しいだろうからな・・・「発達障害」とか「茫然自失」とか「統合失調症」とかとは・・・レベルが違う話なのである。そもそも・・・感情のない知能が思考できるのかという話だ。感情と知能は別物なのか・・・どうか。それについて考えるだけであっという間に一週間が経過してしまうほど・・・面白い主題なのである。とんでもないよねえ・・・。

とんでもない発明をする異常な人間が登場したために・・・この世界にはそういうものに対応する国家の施設が設定される。「精神・神経研究センター」である。

表向きは単なる研究所だが・・・実際は・・・異常者の隔離矯正施設なのである。

そういうものがあると「人権問題」が浮上するわけだが・・・そういうものがないために「障害者施設で大量虐殺が発生」するとも言える。

「象徴」が「お言葉」を「人間」として「主体的」に発すると「矛盾」が吹きだすのが「制度」というものである。

だが・・・まあ・・・「ことなかれ主義」で曖昧に・・・事態を収拾するのが・・・大人というものなんだな。

だから・・・ひっそりと・・・本当は・・・「そういう施設」があったっておかしくないのだ。

「なぜ・・・例の機械を作ろうと考えたのですか」

「私は・・・兇悪な犯罪者が更生することが許せなかったのです・・・ひどいことをしておいて・・・心から後悔して反省するなんて・・・ずるいでしょう」

「中島先生・・・もう一度・・・例の機械を作ってもらえませんか」

「お断りします・・・あれは・・・作ってはいけないものでした」

「なにか・・・お望みがあれば・・・国家予算で対応しますが」

「私には・・・もう・・・欲しいものはないのです。私は生ける屍なのです」

「気が変わったら・・・いつでもお申し出ください」

国家の闇に潜む裏役人たちは・・・微笑んだ。

相当な国家予算をつぎ込んだ巨大な闇の施設の白い部屋で・・・中島は・・・脳内に発生した腫瘍の成長を待つ。

実行犯ではない・・・中島は・・・自分を殺すことはできないが・・・脳腫瘍のレベルが上がれば・・・病死することは可能なのだ。

「殺人衝動への抑圧を失った人間は檻の中にいるべきだ」と中島は理性的に判断したらしい。

警視庁刑事部捜査第一課の藤堂比奈子刑事(波瑠)は・・・交際中の噂があった中島の逮捕によってショックを受け・・・落胆している演技をする。

人間関係の把握力に問題のある倉島(要潤)は愛車「シノブ」とのツーリングの成果である「風光明媚な記念写真」で比奈子にアプローチする。

「元気が出ました」と笑顔で演技する比奈子だった。

東海林(横山裕)は「発砲の件」で監察官(小須田康人)に事情聴取されるが・・・厚田巌夫班長(渡部篤郎)による弁明で処分なしとなる。

東海林の処分について気にかける演技をする比奈子に本心を告げる自動販売機前の対話。

「落ち込んでいるのか」

「そう見えますか」

「見えるが・・・嘘臭い気もする」

「・・・」

「俺はお前のことが・・・少しわかってきた・・・」

「・・・」

「お前の素顔・・・最初から・・・俺には不審だった・・・」

「・・・」

「お前は・・・」

しかし・・・事件が発生し・・・東海林の心情吐露は先送りされる。

三木鑑識官(斉藤慎二)は「キャンデーの次はコインです」と捜査員に告げる。

防災公園で発見された男性の死体は下半身を土中に埋められていた。

「ここは・・・災害用のマンホールトイレです」

「肥溜に埋められたわけか・・・」

「死因は・・・窒息死でしょうか」

「それは解剖の結果待ちですな」

「百円玉は腹部にも達していますね」

「おそらく内蔵を突き破って腹腔内に露呈しています」

新人鑑識官の月岡真紀(佐藤玲)は蒼ざめる。

「腹の皮膚ごしに百円硬貨が見える死体を見ていると・・・恐ろしさを通り越して笑いたくなってきます・・・頭がおかしくなりそう・・・」

「同感です」と冷静に応じる比奈子だった。

「両手は焼かれていて指紋の検出は困難です」

「身元の特定を妨害するつもりか・・・」

「あるいは・・・犯人がなぶり殺しを楽しんだか・・・」

比奈子は思わずつぶやく「興味深い・・・」

中島逮捕の現場に居合わせた厚田班長も比奈子の異常性に気がついていた。

比奈子はまるで「犯罪を引きよせる魔性」のように感じられる。

厚田は比奈子の「人としての心」の存在を疑うのだった。

「藤堂刑事・・・」

「はい・・・」

「俺とペアを組め」

厚田は比奈子に命じる。

しかし・・・夏の聞き込みは・・・厚田班長には厳しかった。

「ちょっと冷たいカフェオレでも飲むか」

「シラスミカですか・・・まだ聞き込み始めて一時間ですよ」

「あまり・・・気を張り詰めるな・・・リラックスした方がいい場合もある」

二人はゲームセンターから現れ転倒した老人を救助する。

「狙ってたぬいぐるみをゲットできてスキップしたのが失敗だった」

老人・稲富信吾(浜田晃)を自宅まで送る二人の刑事。

稲富の家は「十八家」という名のシェアハウスだった。

身寄りのない老人たちが集まり、共同生活をしているのだと言う。

「気分は十八歳なのよ」と芙巳子(角替和枝)・・・。

他に女性は奈津子(今本洋子)、医師の西沢(大石吾朗)、そして職人だったという大吉(桜木健一)・・・。

比奈子は振る舞われた西瓜に七味唐辛子をふりかける。

「最近の若い人は西瓜に七味をかけるのかい」と驚く芙巳子・・・。

「こいつだけです・・・」と厚田班長。

そこへ・・・巡査の原島(モロ師岡)が通りかかる。

原島は東海林の交番勤務時代の上司だった。

「しかし・・・街の情報屋を使うことを教えたのは私の失敗でした」

「・・・」

その頃・・・東海林は聞き込みという名の「情報屋(不破万作)との面談」を行っていた。

「あんたには・・・もう情報は流せない」

「なんだと・・・」

「それに頼みたいことがある」

「ふざけるな・・・」

「なに・・・大したことじゃない・・・最近の事件の捜査資料と・・・藤堂比奈子という警察官の情報だ」

「藤堂の情報・・・何故だ」

「情報の使い道なんて知らねえよ・・・誰かが知らないこと知っている・・・そこに価値があるだけだ・・・あんたも俺と関係していることを・・・警察幹部に知られるのはまずいだろう」

情報屋は・・・東海林に強請を仕掛けるのだった。

闇社会で・・・「藤堂比奈子に関する話」が価値を持つ・・・東海林はそのことに興味を抱くのだった。

比奈子は夢の殺人現場を訪れる。

マンホールにはまり百円玉を食った男の死体・・・そこに比奈子の亡き母親・藤堂香織(奥貫薫)が現れる。

「かわいそうに・・・」

「お母さんにこんな場面はみせたくなかった」

「それに・・・こんなことをした人もかわいそう」

「しかし・・・何も感じなかったかもしれません・・・喜びをかんじていたのかも・・・世界にはそういう人間も存在します・・・だから・・・私は・・・あの時」

香織は七味唐辛子の缶を取り上げる。

「これをいつも持っていてね」

「お母さん」

「これからもずっと手放さないで・・・」

「進め!比奈ちゃん」は香織の遺言である。

比奈子は・・・ガン、ガチョウ、ペキンダックなどに対する強制飼養の用具を検索する。

清水刑事(百瀬朔)は口を開けて爆睡している。

その口に・・・薄い金属かプラスチックの漏斗を挿入し百円玉を注ぎこむ真似をする比奈子。

「何をしている・・・」と東海林が見咎める。

「百円玉を詰め込む方法を・・・」と笑顔を取り繕って答える比奈子。

「表情が間違ってるんだよ・・・」

「東海林先輩・・・」

「しばらく・・・お前とは口を聞きたくない」

東海林刑事の中で膨らむ・・・比奈子への警戒心。

しかも・・・東海林は仲間を売る必要に迫られている。

情報提供の期限は一週間なのである。

それまでに・・・比奈子と裏社会との接点を探る必要があったのだ。

二人の意志疎通には問題があった。

そこに第二の死体発見の情報が入る。

第二の死体は女性で高架下の側溝から発見される。

「次はドブにはまっているのか・・・」

「今度は・・・指紋が残っています」

「これは・・・凌辱だな・・・」

「なんらかの報復でしょうか・・・」

「快楽殺人の可能性はいつだって残るがな・・・」

「藤堂刑事・・・」

「はい・・・」

「お前さんは・・・石上教授とコンタクトしてくれ」

厚田に命じられ・・・「萌オさまカフェ」で帝都大学医学部の法医学教授・石上妙子(原田美枝子)と合流する比奈子。

「中島くんは・・・釈放されたわよ・・・でも・・・特殊な施設に軟禁されたの」

「軟禁なんて・・・この国では認められていないのでは」

「認可されなくても存在するものなんて・・・意外とあるものよ」

「・・・」

「彼は・・・犯罪捜査への協力をしてくれるらしいの・・・」

「え」

「今回の捜査資料送ったら・・・早速、回答があったわ」

「それは・・・情報漏洩にはならないのですか」

「警察内部で・・・情報やりとりしているだけだからね」

「つまり・・・超法規的措置なのですね」

「そういうこと」

中島は・・・「連続硬貨詰め込み殺人事件の犯人は・・・自己主張が激しいこと」を分析していた。

「殺人現場には・・・犯人からのメッセージが込められている」と中島は指摘するのだった。

「つまり・・・犯人は被害者を処刑している」と結論する中島・・・。

比奈子は・・・巡査の原島から・・・災害公園が・・・稲富信吾の経営していた町工場の跡地だと聞き出していた。

第二の被害者に残された指紋から・・・被害者が山嵜ちづるという詐偽の常習者であることが分かる。

そして・・・第一の被害者が山嵜と共犯関係にあった首藤泰造であることが特定される。

二人は地面師・・・不動産関係中心の詐欺師・・・であった。

「二人は・・・特定指定団体の荒神会をバックにしていたらしい」

「マルボー(暴力団)がらみかよ」

「口封じかな」

「見せしめだとしても・・・ヤクザがあんな手のこんだことするか・・・」

「詐偽の被害者の線がありますな」

「とすると・・・次のターゲットは・・・」

荒神会の浦沢会長(すわ親治)はヤクザの親分であることを孫娘に隠していた。

そのために・・・娘の広香(小橋めぐみ)の家で孫の恵美(早坂ひらら)と会う時はボディガードを遠ざけていたのである。

娘の家からの帰り道・・・拉致された浦澤会長は「リッチマン殺人事件」の第三の被害者となるのだった。

事情聴取のために広香の家を訪れた比奈子は見覚えのあるぬいぐるみを発見する。

「近所のおじいちゃんやおばあちゃんに・・・恵美は人気がありまして・・・」

比奈子はすべてを察するのだった。

十八家に向う比奈子を・・・東海林は尾行するのだった。

「おや・・・刑事さん」

「あなたたちを逮捕に来ました」

「おやおや・・・ついに見つかってしまいましたか」

「あなたたちは・・・不動産詐欺事件の被害者の方々だったのですね」

「そうですよ・・・あいつらに・・・土地や建物・・・そして家族まで根こそぎ奪われたものの集いです」

「司法は無力でしたか」

「だまされて金を取られて被害者が自殺したって・・・犯人は死刑にならないでしょう」

「死刑だって一瞬だもの・・・犯人は苦しいとも思わない」

「最高に苦しんで地獄に送り込んでやらなきゃね」

「どうして・・・手掛かりを残すような真似をしたのですか」

「なんだかねえ・・・楽しくなってきちゃったのよ」

「あいつらが・・・苦しんで苦しんで死ぬのを見るのは最高だったわ」

「そんな・・・自分たちが・・・こわくなっちゃったのかもねえ」

「あさましいものねえ」

「なにしろ・・・次に誰を殺すか相談していると・・・」

「笑いがとまらなくなっちゃうのよねえ」

「私たちから家族を奪っておいて・・・孫を可愛がってるなんて許せない」

「だけど・・・そうしたら・・・あんなかわいい恵美ちゃんだって・・・殺しちゃうかもしれないでしょう」

「だってねえ・・・私の孫は息子夫婦と心中したんだもの」

「ほら・・・おそろしいでしょう・・・私たち」

老人たちは朗らかに笑った。

「皆さんのそんな顔は・・・見たくありませんでした」

しかし・・・そう言う比奈子の顔からは表情が失われていた。

東海林刑事は通報した。

警視庁の刑事たちは現場に急行した。

老人たちは大人しく逮捕されるのだった。

東海林は比奈子と対峙する。

「俺は・・・お前と言う人間が・・・恐ろしい」

「・・・」

「お前は・・・さっき・・・人殺しと同じ目をしていた・・・お前は何者なんだ」

「私は刑事です・・・まだ」

「・・・」

東海林の顔に苦渋が浮かぶ。

しかし・・・比奈子は無表情だった。

厚田刑事は比奈子に命じた。

「お前はクラリスに・・・いや・・・中島先生とのパイプ役になってもらう・・・それが大丈夫じゃないといけない時に大丈夫な・・・あまり正常とは言えないお前の心のために・・・よかれと思ってな」

比奈子は白い部屋の中島に面会した。

「また・・・あなたに会えるとは思っていませんでした」

「私もです」

「僕はこっちに来てしまいましたが・・・あなたはまだです・・・それをお忘れなく」

「・・・私は境界線が曖昧になってしまって」

「結局・・・境界線は・・・やるかやらないか・・・その事実だけですよ」

「・・・」

「もちろん・・・実行可能性の高さというものもあるでしょう・・・拳銃がなければ射殺はできないし・・・原爆がなければ投下はできない・・・道具というものはすべてそういうものです・・・釣り竿があれば釣りが可能だ・・・しかし・・・釣りをしない人間もいるし・・・なくても釣りはできる・・・そして・・・必要に迫られ・・・決断すればどんな人間もこっちへ来ることはできるでしょう・・・」

「・・・私も・・・いつか」

「あなたは・・・例のナイフをいつ用意したのですか」

「高校生の時に」

「で・・・誰のために使うつもりだったのです」

「父です」

中島と比奈子は・・・見つめ合う。

その頃・・・情報屋は何者かに襲撃されていた。

「おい・・・期限まで・・・まだ時間が・・・やめてくれ・・・あ」

人間の体には血液が流れている。

それが体外に流出する時・・・人間は闇を感じるのだ。

世界が終わる暗闇の刻印の時・・・。

カネゴンの胸の残高メーターがゼロを示す。

スリリングで最高に奇妙な人間を演じるヒロインの演技力に圧倒されるよなあ。

この役を演じられる実力があるのは・・・現時点では・・・彼女だけじゃないのか・・・。

まあ・・・わからない人にはわからないだろうけどなあ。

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2016年8月16日 (火)

思いがけない告白をされること(桐谷美玲)好きだから好きだと言ってなぜ悪い(山﨑賢人)雨あがりの東京タワーは濡れているか(菜々緒)

月並と言えば・・・褒め言葉ではないわけだが・・・そうしたのは正岡子規だという説がある。

月並の本来の意味は月例で・・・毎月行われることである。

俳句にも月例会があり・・・そういう「会」で生まれる「伝統的な俳句」を批判して・・・俳句を革新しようとする正岡子規が「月並な句」と表現したわけである。

つまり・・・平凡でつまらないと子規が言ったから・・・月並みは褒め言葉ではなくなったということだ。

それに対して・・・「ベタ」と言う言葉はある程度、反逆していると言える。

もちろん・・・ベタは平凡でつまらないとも言えるが・・・ベタは誰にもわかりやすくおもしろいとも言えるわけである。

「そんな陳腐な言い回しは私のプライドが許さない」は「ちかえもん」の決まり文句だが・・・常套句というものは馴染みがあって成立するベタなものなのである。

斬新さには・・・難解さがつきまう。

わかりやすいと月並だ・・・。

表現者は・・・この矛盾に立ち向かうわけである。

ベタな恋愛ドラマが・・・斬新かつ面白いこと・・・。

広島に原爆が落ちたことは善なのか悪なのか・・・迷わない人は幸いだ。

2020年の東京オリンピックでオープンウォータースイミング(競泳10㎞マラソン)が東京湾で開かれた場合の放射能汚染問題とか・・・核兵器による抑止力のない世界のことも気がかりである。

それでも若者たちは恋をして地球は回って行くのだ。

もう・・・何を言ってるかわからんぞ・・・。

わかる人にだけわかってもらいたい。

ベタから逃避する場合の決めゼリフかっ。

で、『好きな人がいること・第6回』(フジテレビ20160815PM9~)脚本・桑村さや香、演出・田中亮を見た。月並であることはお気楽である。たとえば・・・両親の精子と卵子の結合によって生まれた子供は一夫一婦制度の社会において月並なのである。もちろん・・・月並だからといって父親がテロリスト、母親がギャンブラーなら月並とは言えない場合がある。とにかく・・・出生の秘密がある場合は・・・隠すというのがベタな展開である。しかし、情報公開が主流の時代には・・・医師ががん患者に対して「ステージ4」ですねと告知することは珍しいことではなくなっている。実子と養子を差別しないためにも・・・「養子」だと告知することは・・・だからといって「実子」と分け隔てなく接しますよという誓いのために必要だという流れである。

そういう意味で・・・店の経営権を譲渡してまで・・・「実の兄弟ではない」ことを隠そうとする登場人物の心は・・・「異常かもしれない」という時代になっているわけである。

つまり・・・「出生の秘密」を告知することがベタなのか・・・しないことがベタなのか・・・非常に判定しにくい今日この頃なのです。

もちろん・・・いやあ・・・ずっと兄弟だと思っていたのに・・・急に血縁がないと言われるのは嫌だなあ・・・と思う人がいても問題ないです。

さらに母親だろうと父親だろうと兄弟姉妹だろうと他人だ・・・という考え方もあります。

出生の秘密は・・・ホームドラマではベタですが・・・恋愛ドラマでは・・・恋人同志が兄妹がベタで・・・恋人の兄弟が血縁ではないというのは・・・変化球ですが・・・それと恋愛関係ないだろうという気分も生じますな。

斬新さを狙って死球にならないことを祈るばかりでございます。

憧れの先輩・柴崎千秋(三浦翔平)に誘われ、千秋の経営する海辺の町のレストラン「Sea Sons」でパティシエとして働くことになった櫻井美咲(桐谷美玲)・・・。「江ノ島花火大会」で千秋に告白することを決意した美咲だったが・・・千秋の元カノである高月楓(菜々緒)の事情を知ってしまい・・・敵に塩を送る善人ぶりで・・・失恋する。しかし・・・千秋の弟でカリスマ・シェフの夏向(山崎賢人)が現れて・・・「俺がいるから我慢しろ」と言うのだった。

「あれはドリカムの涙目で季節はずれの花火につきあってくれる的なものよね」

「ドリカムなんて聴かない・・・引用するとイロイロアレなご時世だしな」

「だから・・・同情してくれたんでしょう」

「バカに同情するほどバカじゃないぜ」

「え・・・」

「自分で兄貴と元カノのヨリを戻す手伝いしておいて・・・ヨリが戻ったから落ち込んでいる奴はバカだと言ってる」

「悪かったわね・・・バカで」

「いらつくんだよ・・・」

「バカだから・・・」

「お前が落ち込むことがだよ・・・」

「なんでよ」

「お前のことが好きだからに決まってるだろう」

「何よ・・・それ・・・自分が好きな人が他の人にふられて落ち込んでいるのが嫌だってこと」

「・・・はっきり言うなよ」

「えええええええええ」

予想外の展開に・・・戸惑う美咲である。

なにしろ・・・恋に不慣れな設定なのである。

もちろん・・・美咲にとって・・・夏向は相手に不足があるわけではないのだが・・・昨日まで好きだった人の弟を・・・簡単に受け入れることは・・・いろいろと差しさわりがあると考えるタイプである。

尻が軽いと思われたくない乙女心が発動するのだった。

そういう乙女心はベタなんだよな。

尻軽女は浮気相手にはもってこいなんだけどな。

だからだろっ。

千秋は結局・・・「辛い思いをさせてしまった楓を放ってはおけない」と・・・交際復活を報告する。

案の定の結末だが・・・美咲は顔を洗わないわけにはいかないのだ。

涙を隠して出直しである。

三男の柴崎冬真(野村周平)は「美咲ちゃん、告白するつもりだったのに・・・兄貴が楓さんとやり直すことになったのは・・・ショックだろうな」

「え」と驚く千秋。

「またまた・・・知ってたくせに・・・兄貴だって・・・半分くらい受け入れ態勢整えていただろう」

「俺は受け入れてもらう方だ」

「いや~ん」

千秋はレストラン同志のコラボレーション企画「ダイニングアウト」の打合せのために・・・夏向と美咲を東京に出張させる。

美咲はコラボレーションの相手が有名なレストランプロデューサー・大橋尚美(池端レイナ)の超有名店と知り、舞い上がるのだった。

「よろしくね」

握手のためにさしだした大橋の手をなかなか離さない美咲だった。

大橋から・・・夏向をスカウトして断られた話を聞く美咲・・・夏向の才能をあらためて見直すのである。

久しぶりの上京のために石川若葉(阿部純子)と約束している美咲。

しかし・・・夏向は「行きたい場所があるから・・・つきあえ」と待ち合わせ場所のメモを渡す。

「でも・・・今日は・・・本当に友達と会うから」

「九時に待ち合わせだ・・・待ってる」

「行きませんよ・・・行きませんからね」

今回はどこぞの球場で広島カープファン一同とカープ女子として応援をエンジョイする若葉と美咲だった。

「あんな奴に好きだって言われてもねえ・・・いつかバルスって言うことになる気しかしないわ」

「何言ってるんですか・・・」

「え」

「ウジウジした男だらけの世の中で・・・貴重なストレート男子にめぐりあったんですよ」

「・・・」

「ガツンと打ち返さないでどうするんです」

「えええ」

「真っ向勝負ですよ・・・敬遠している場合じゃないんです」

「私はピッチャーなの・・・バッターなの」

「女は基本、キャッチャーです」

「いやあん」

月並なバス停で逡巡する美咲。

「お嬢さん・・・乗るの乗らないの」

無言で引き返す美咲である。

少し・・・マナーに問題あるが・・・それが切羽詰まった美咲なのである。

月並な雨が降ってくる。

月並に雨に打たれて待っている仔犬テイストの夏向。

「バカじゃないの・・・」

「待ってるって言っただろう」

「行かないって言ったでしょうが」

「じゃ・・・なんでここにいるんだよ」

「・・・」

夏向は東京タワーを目指すのだった。

「東京タワー?」

しかし、夏向は月並に発熱してダウンである。

月並な「しょうがないなもう・・・」である。

東京に部屋を持っている美咲は夏向をお持ち帰り。

月並な雑炊作成である。

パティシエなので・・・雑炊を月並に失敗するわけにはいかないのだ。

しかし・・・夏向の猫舌が発覚する。

「しょうがないわね・・・ふ~ふ~」

月並な「ふ~ふ~」だった。

月並な男女の交わりがあったのかなかったのかわからない翌朝・・・いや、なかったんだろう。

そうとも限らんぞ。

すっかり・・・精気を取り戻した夏向・・・元気でいいだろうがっ。

看病中に眠りこんだ美咲のために朝食セットを用意する夏向である。

「行こうか・・・東京タワー」

「いいのか」

「行きたいんでしょう」

「うん」

母と小学生男子の会話である。

「初めてなの・・・」

「親父と一度だけ・・・来たことがある・・・その時・・・クイズを出された」

「クイズ?」

「東京のど真ん中にあるのに東京タワーから見えないものはなんだ?」

「なるほど・・・」

「その答えがわからなくて・・・ずっと気になってたんだ・・・」

二人は東京タワーの展望台に昇った!

「どう・・・わかった・・・?」

「わからん」

美咲は「東京タワーのキーホルダー」を渡した。

「答えはね・・・東京タワーよ」

「う」

月並に愕然とする夏向だった。

「がっかりした」

「いや・・・くだらなくて・・・親父らしい・・・」

「どんなお父さんだったの」

「バカだったけど・・・料理の腕は確かだった・・・厨房の親父に俺は憧れてた」

「あのね・・・私・・・あなたのことを・・・もう少し知りたいの・・・それから・・・答えを出したいの・・・それでいいかな」

「別にいいけど」

月並にかわいい夏向である。

「じゃ・・・さっそくだけど」

夏向に聞きたいことをリストアップしている美咲だった。

「最初の質問・・・目玉焼きに何かける?」

「バカなのか・・・」

「大事なことじゃない」

「塩に決まってるだろう」

「だよね~・・・文春と新潮はどっちが好き」

「どっちも読まねえよ」

「だよね~」

月並なバカップルじゃねえか・・・。

恋愛の方に・・・問題が作れないので・・・いろいろと事件勃発の後半戦である。

千秋を飼いならしたい企業家の東村了(吉田鋼太郎)は・・・「店か家族か」の二者択一を千秋に迫るのだった。

譲渡契約にサインしなければ・・・家族の秘密をばらすと脅される千秋である。

楓とデート中の千秋は・・・仲睦まじい美咲と夏向の姿を目撃する。

楓は・・・美咲を見るが・・・千秋は夏向を見ているのだった。

夏向は・・・調理学校からの報せに驚く。

「退学ってどういうことだよ」と冬真に問い質す夏向。

「もう・・・飽きちゃった」

「なんだと」

「俺に期待しないでよ・・・俺・・・才能ないんだ・・・」

「お前・・・」

「もう・・・やなんだ・・・親父の背中を追いかけたり・・・お前とこの店で働くのも・・・息苦しいんだ・・・許してよ」

冬真が・・・どうして不貞腐れているのかはまだ謎である。

味音痴なんじゃないのか。

夏向と美咲が開店準備をしているところに・・・東村が登場。

「待たせてもらうよ」

店を今にも破壊しそうな凶悪さを醸しだすその筋のムードの男である。

「困ります・・・」

「あれ・・・千秋から聞いてない・・・俺がこの店の新しいオーナーなんだけど・・・」

その頃・・・謎の美少女風の西島愛海(大原櫻子)は・・・切羽詰まった顔で冬真に迫る。

「助けてください・・・もう時間がないんです」

「すぐやれるけど」

「いやあん」

真偽を問うために・・・江ノ電と競争しながら自宅に戻る夏向・・・。

譲渡契約書のサインを終える千秋。

「なんなんだよ・・・これは・・・」と叫ぶ夏向。

「仕方ないんだよ・・・これは・・・」

そこへ・・・冬真がやってくる。

「ねえねえ・・・冬真だけ・・・血がつながってないって本当?」

「え・・・」

「ああああああああああああああああ」

血が繋がってないくらいのことを何故・・・そうまでして隠そうとするのか・・・よくわからないが・・・きっと・・・連続殺人犯すなんかの血筋なんだよ・・・いや、違うと思うぞ。

まあ・・・遺産相続ともなれば・・・揉めるよね。

「捨て子に遺産分配なんかできるか」って実子はきっと思うよね。

まあ・・・そういういざこざも・・・元をただせば恋愛沙汰なんだよね。

そこが月並なんだよね。

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2016年8月15日 (月)

落日の残照にわが漆黒の欲望輝くことなかれ(長澤まさみ)

「虎の威を借る狐」という言葉は石田三成によく似合う。

太閤秀吉の権威により奉行として腕をふるったニュアンスである。

しかし・・・語源である「戦国策」の狐はもう少し必死である。

虎の獲物となった狐は・・・自分が百獣の王だと虎に告げる。

「私の後についてくれば・・・私の威光がわかるでしょう」

虎が狐の後に従うと・・・獣たちは「虎の威を借りた狐」に逃げ去るのである。

つまり・・・狐は虎の威を借りて虎自身を欺こうとしているのである。

独裁者であった秀吉の死後・・・石田三成は・・・豊臣政権という幻の権威をふりかざしたのではなく・・・徳川家康という新たな権力者の幻を作りだしたと言える。

その威を借りて・・・豊臣家を守ろうとしたのである。

しかし・・・三成にとって残念なことに・・・家康は虎ではなく・・・狸だったのだ。

で、『真田丸・第32回』(NHK総合20160814PM8~) 脚本・三谷幸喜、演出・小林大児を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は虎之助こと肥後熊本藩初代藩主となる加藤清正の描き下ろしイラスト大公開でお得でございます。ついに秀吉の寵愛を争う宿命のライバルが激突の展開で・・・胸が熱くなりますな。清正は仲良くしたかったのに・・・三成が冷たくしすぎたのが・・・いけなかったみたいな展開に一同爆笑の今日この頃でございます。二人が組めば無敵だったのでしょうが・・・世の中というのは一筋縄ではいかないものなのでございますな。計算高い秀才と・・・野性味あふれる天才・・・当然歩みよるべきは秀才の方ですが・・・三成の側近のプライドがそれを許さないんですよね。その点・・・一家の主として生まれながら・・・苦労に苦労を重ね・・・関東の太守にのし上がった家康の懐は・・・すべてを飲みこむ深さなのでございますよねえ。基本的に戦国武将の基本は地縁・血縁・・・。信長や秀吉は・・・実力主義という改革を成し遂げたのですが・・・そうであるほど・・・権力の継承は難しい。「血縁は関係ないんでしょう?」ということになるわけです。独裁者の死後、家康はすぐに血縁の拡張を開始する。それに対して三成はあくまで「豊臣政権」の維持に拘るわけですが・・・人の心の「欲」や「情」について・・・知り尽くした「家康」の敵ではないのですよねえ。一歩、また一歩と破滅への道を突き進む三成と・・・それに巻き込まれていく真田信繁・・・その道筋が丹念に描かれていく今年の大河はまさに戦国絵巻の醍醐味そのものでございまする。

Sanada032慶長三年(1598年)八月十八日、太政大臣豊臣秀吉死す。十九日、石田三成は徳川家康の暗殺に失敗。九月、家康、前田利家、宇喜多秀家、毛利輝元は明・朝鮮との和議交渉の担当者を加藤清正とすることを島津義弘に通達。黒田如水は「秀吉薨去」を吉川広家に通達。蔚山守備の加藤清正は明・朝鮮連合軍の攻撃を撃退。順天守備の小西行長も連合軍を撃退する。十月、泗川守備の島津義弘が連合軍を撃破。三万八千の首級をあげる。十一月、上杉景勝ら五大老(年寄衆)と石田三成ら五奉行(奉行衆)、敵軍の退却を見計らって釜山浦へ退却、さらに帰朝すべきことを在朝鮮軍に通達。十二月、福島正則の養子・正之が家康の養女・満天姫が婚約。伊達政宗の長女・五郎八姫と家康の六男・松平忠輝が婚約。加藤清正と家康の叔父・水野忠重の娘・かなが婚約。蜂須賀至鎮が家康養女の万姫と婚約。黒田長政が家康の姪・栄姫と婚約。政略結婚につぐ政略結婚である。慶長四年(1599年)一月、前田利家が大坂城に、家康が伏見城に諸大名を結集。三成ら五奉行は家康を問責。しかし、家康は問罪使として派遣された堀尾吉晴を恫喝し、緊張が高まる。

信繫は伏見城真田屋敷に佐助を走らせた。

「太閤様・・・ご臨終でござる」

「そうか・・・」

昌幸は息をとめた。

観相により・・・形勢を読むためである。

真田忍軍により・・・様々な情報が昌幸の元へと集められる。

すでに・・・秀吉の死は・・・昌幸にとって想定内である。

しかし・・・想定と・・・実際の「死」は違う・・・。

危機に際し・・・人は思わぬ動きをするものである。

昌幸は真田忍軍の長である幸村を信州・上田城から呼びよせていた。

「どう見る・・・」

「すべては唐入りの武将衆が帰陣してからのこととなりましょう」

「家康と張り合えるのは・・・加賀の前田ということになるが・・・」

「前田様の御加減も悪しゅうござる」

「おそらく・・・一年と持つまいな・・・」

「石田様が・・・仕損じたとなれば・・・次は前田様が家康に仕掛けるかもしれませぬ」

「前田も己の死後のことを考えれば・・・うかつには動けぬだろう」

「・・・」

「やるなら・・・今だ・・・俺は・・・信幸を沼田に戻すつもりだ・・・」

「御意」

「おそらく・・・家康も・・・秀忠を江戸に戻すじゃろうて」

「・・・」

「伏見の徳川屋敷には・・・唐沢玄蕃を忍ばせてある・・・」

「唐沢殿は・・・生きておいででしたか」

「上田城の合戦の折りに・・・家康の包丁人の一人と入れ替わったのじゃ・・・」

「あれから十五年になりますか・・・」

「殺るとなれば・・・秀忠も殺らねばならぬ・・・」

「家康は・・・秀忠を守るために・・・鉄壁の守備を引きましょうな」

「まあ・・・守るより・・・攻めるが易しじゃ・・・」

「出浦衆、河原衆、横谷衆、望月衆に四方から・・・攻めさせまする」

「秀忠はお前にまかせる」

「承知」

家康は秀忠の出立を見送った。

服部半蔵は・・・秀忠の護衛のために・・・徳川屋敷を出る。

家康の警護が緩む一瞬の隙。

厨房を出た唐沢玄蕃は廊下を進む。

十五年の潜伏の間に・・・家康の立ち振る舞いはすべて玄蕃の心中にあった。

獲物は包丁一本であったが・・・玄蕃には自信がある。

屋敷の廊下を家康が進み、出会いがしらに玄蕃は必殺の一撃を繰り出す。

しかし・・・包丁の刃は家康自身の手によって・・・挟まれた。

「お」

「見たか・・・無刀取りの秘術・・・」

家康もまた超一流の忍びである。

柳生石舟斎の秘術をすでに会得していたのだった。

玄蕃は飛んだ・・・家康の背後から柳生又右衛門が躍り出る。

「曲者じゃ」

「・・・」

玄蕃は庭の松の木に跳び、微塵隠れを行う。

徳川屋敷から火柱があがった。

見届け人の二人は顔を見合わせる。

似たような光景を見たばかりだった。

「玄蕃殿・・・」と佐助。

「ちっ」と才蔵は舌打ちをする。

幸村は・・・火柱から立ち上る狼煙の色を見て・・・家康が生きながらえたことを悟る。

「散・・・」

四方から秀忠一行に忍びよっていた真田忍軍は撤退を開始する。

親が生き残ったのでは子を殺す意味がない。

子は代わりがいくらでもいるのだ。

秀忠は命拾いをしたことも知らずに東海道を江戸に向うのだった。

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2016年8月14日 (日)

キッドナップ・ツアー(豊嶋花)ろくでもない大人になっても人のせいにはしないこと(妻夫木聡)お前が言うな(木南晴夏)

ドラマ「時をかける少女」が全5話で駆け抜けていったので・・・土曜日の谷間である。

貴重な谷間なんだな。

男女雇用機会均等法が産んだらしい「ノンママ白書」がちょうど始ったのだが・・・「最後から二番目の恋」の水野祥子(渡辺真起子)が葉山佳代子という役名で出ているようなドラマだったという印象しか残らないのだった。

男女雇用機会均等法と少子化問題の関連についてはもう語り尽くした気がするんだなあ。

まあ・・・ママになるのもならないのも・・・自己責任だよねえ。

人類百万年の歴史はもうしばらくは続いて行くし・・・子を生さずに死んだ女なんて掃いて捨てるほどいただろうしねえ。

運命・・・と言ってもいいけどね。

親はなくても子は育つしね。

で、『夏休みドラマ・キッドナップ・ツアー』(NHK総合201608020730~)原作・角田光代、脚本・演出・岸善幸を見た。小学5年生のクールな女の子・ハルを演じるのは「梅ちゃん先生」「あまちゃん」「ごちそうさん」などの連続テレビ小説の子役でおなじみの豊嶋花(9)である。心の声としてナレーションも務め・・・実質的な主役である。父親・タカシを演じるのが妻夫木聡(35)で・・・何も言わなくてもわかるダメ人間ぶりが微笑ましい。なんだろう・・・このイケメンなのに必ずダメ人間役的な流れは・・・ある意味・・・男たちの願望の表出なのか。妻夫木聡にはダメ人間であってほしいみたいな・・・。

まあ・・・イケメンとして甘やかされたらダメ人間になるだろう・・・みたいな。

明らかに偏見である。

小学校の終業式が終わり・・・下校するハルとクラスメートのさゆり(遠藤璃菜)とさや(渋谷そら)・・・。

ハルは「ごちそうさん」のめ以子(杏)の幼少期・・・。

さゆりは「探偵の探偵」の玲奈(北川景子)の幼少期・・・。

さやは「サマーレスキュー〜天空の診療所〜」の遥(尾野真千子)の幼少期・・・。

つまり・・・杏と北川景子と尾野真千子のスリーショットである・・・ちがうぞ。

ハルにとっては「憂鬱な夏休み」の始りなのだが・・・。

さゆりは・・・「ハワイよりパリに行きたいのだが・・・今年の家族旅行はハワイ」なのである。

さやは「塾の合宿が二つもきまっている」というハードスケジュールだ。

ハルは「夏休みのはっきりした予定はまだない」と言葉を濁すのだった。

ハルの心の拠り所は・・・母親のキョウコ(木南晴夏)の妹で近所で一人暮らしをしているゆうこ叔母さん(夏帆)である。

ハルはいつも「ゆうこちゃん」とコンシューマ・ゲームをプレイして心の憂さを晴らしいるのだ。

しかし・・・「ゆうこちゃんの家」には見知らぬ男がいた・・・。

バイト先の「ピザ屋」で知り合った男と今日から同棲を始めるのだという。

「お姉ちゃんには秘密よ・・・ややこしいことになるから・・・」

「・・・ハリネズミみたいな人がタイプなの」

「出会いは奇跡なのよ」

「お姉ちゃんの彼氏っていつもダサめだよね・・・これもスタッフの願望なのかしら」

「かもね」

これから・・・夏休みだというのに・・・「ゆうこちゃんの家」で「お邪魔虫」になってしまうことを予感するハルだった・・・。

母親のキョウコはハルを残し買い物に出かける。

ハルは母親の選ぶ地味な子供服よりも・・・「ゆうこちゃんのパイナップル柄のシャツ」に憧れる年頃だった・・・。

仕方なく・・・近所の公園に出かけるハルに・・・黒い車が忍びよる。

「家まで送るよ・・・乗っていかないか」

今時・・・恐ろしい描写だが・・・ハルは誘われるまま・・・車に乗り込むのだった。

「この車どうしたの・・・」

「・・・もらった」

「どこへいくの」

「ミルピスのスマートアイスでも食べる」

「安上がりね・・・お父さん」

「誘拐されたくせに・・・生意気だぞ」

タカシとキョウコは別居して二ヶ月である。

ハルは思い出す・・・キッチンで食器の割れる音がして・・・「やってられないわ」というキョウコの罵声・・・母親が不貞寝したので・・・ハルが様子を見に行くと・・・父親のタカシはキッチンの片隅でシクシクと泣いているのだった。

男女雇用機会均等法の成果かっ。

ハルが憂鬱なのは・・・夏休みに・・・家族旅行の思い出が作れないことが決定しているからなのである。

だが・・・呑気なタカシは・・・ファミリーレストランでハンバーグを注文するのだった。

「じゃあ・・・あんたのお母さんと・・・取引の話をしなくちゃな・・・」

誘拐犯気どりで・・・キョウコに電話をするタカシである。

ハルは呆れながら巨大な海老フライを頬張るのだ。

「身代金とれそうなの」

「お金は・・・さすがになあ・・・」

「これから・・・どうするの」

「車を返しに行く」

「もらったんじゃなかったの・・・」

「・・・」

具体的には・・・全く描写がないのに・・・すごくダメ人間であることが明らかなタカシだった。

なにしろ・・・子供と一緒に夏休みなのである。

車は物騒な夏の森の中を抜けていく。

今時、恐ろしい描写の連続だが・・・二人を出迎えるのは丹沢で釣り堀を経営している男・神林(新井浩文)なのだった。

いきなり・・・ハルを連写する神林・・・。

父親が娘を変態に売却の構図である。

しかし・・・神林はタカシの古い友人らしかった。

「お父さんは言わないだろうけど・・・僕はお父さんに助けられたことがあるんだ」

「・・・」

「僕は・・・赤ちゃんだった頃のハルさんに会ったことがあるんだよ・・・覚えていないだろうけど・・・」

「・・・」

「お土産にクッキーを買って行ったら・・・離乳食もまだだって笑われたんだ」

「ああ・・・クッキー事件な」

しかし・・・ハルにはぼんやりと記憶があった。

子供にもなつかしい記憶はある。

しかし・・・それは・・・言葉にはならないし・・・イメージにもならない・・・。

ぼんやりとした感覚としての記憶。

ハルにはそれが「暖かいムード」として感じられる。

ハルには・・・タカシよりも神林の方がずっとマシな大人に感じられる。

二人は丹沢の最寄り駅まで・・・神林に送ってもらう。

「ハル・・・背が伸びたか」

「別居して二ヶ月だもの・・・そんなに伸びてないよ」

「どこか・・・行きたいところはないか」

「じゃ・・・デパート」

「デパート・・・は苦手だな・・・」

タカシには経済力がないのである・・・まあ、最初からわかっていたことだがな。

鉄道に乗って丹沢から伊豆下田方面に移動したタカシとハルの父娘。

タカシは・・・駅前で・・・ハルのために水着を買うのだった。

子供にとって特別な思い出・・・それは親にとっても特別な思い出だ。

どちらの思い出もなければ・・・それはとても寂しいことのようにも思える。

だが・・・そういうことはよくあることなのだ。

子供を作らない大人もいるし・・・子供を捨てる大人もいるからである。

どんなにクールな子供も・・・可愛い水着を買ってもらうことは嬉しいことだ・・・だが・・・そういうことがつかの間の幸せにすぎないということを察することもできる。

同じ旅館にはハルと同じ年頃の娘がいる親子連れがいる。

羨ましげに親子連れを見つめるハル。

何故か・・・ハルを睨む娘・・・。

こにタカシがやってくる。

「どうした・・・」

「いいよねえ・・・みんなで海水浴だよ・・・私なんか・・・誘拐されてるんだもん・・・大違いだよ」

「・・・」

しかし・・・海にやってくると・・・子供らしいときめきに胸躍るハルだった。

「海だ~・・・海だ~!」

タカシはビールを飲んで寝そべるが・・・水際で波と戯れテンションのあがるハル・・・。

砂浜で休憩していると・・・家族連れの娘がやってくる。

「私・・・ちず・・・変な名前でしょう」」

「私・・・ハル」

「あの人・・・お父さん・・・?」

「ううん・・・親戚のおじさんだよ・・・私の両親・・・忙しくて」

「お父さんとお母さんの仲はいいの?」

「・・・うん」

「うちの両親は喧嘩ばかり・・・離婚届って見たことある?」

「え・・・」

「私は見たことある・・・ゴミ箱に捨ててあった・・・」

「・・・」

「ハルちゃんて勉強できるの?」

「あんまり・・・」

「よかった・・・私できるんだ・・・」

「え」

「私にもいいところないとね・・・」

「・・・」

「明日もいるんでしょう・・・住所教えあって・・・友達になろうよ」

「うん」

プリント柄のスカート付水着を着たもの同志の奇妙な友情が芽生えたらしい。

ちずを演じるのは原涼子で「レッドクロス〜女たちの赤紙〜」の天野希代(松嶋菜々子)の幼少期を演じた子役である。

・・・集めてきたな。

夕飯を終えてくつろぐハルとタカシ。

「泳ぎに行こうか」

「え・・・夜だよ」

「夜の海は楽しいぜ」

危険である。遊泳は禁止である。

タカシは芯からダメ人間なのだ。

暗い海に足がすくむハルだが・・・タカシはどんどん沖へ進む。

遊泳というよりは入水である。

「冷たいよ・・・これじゃ・・・児童虐待だよ」

タカシはハルを仰向けに浮かせる。

「ほら・・・あったかいだろう」

「うん」

父娘は星空を見上げた。

しかし・・・翌朝・・・急に出発すると言い出すタカシ。

「もう一日・・・海で泳ごうよ」

「行きたいところがあるんだ」

ハルはちずの部屋を訪ねるが・・・すでに家族は海に出たらしい。

嘘をついたままちずと別れることに鬱屈するハル。

その苛立ちは駅前で爆発する。

「誰か助けてください」

「え・・・」

たちまちかけつける優秀な静岡県警である。

小学生誘拐の容疑で逮捕されるタカシだった。

警察署で婦人警官にジュースを勧められるハル。

「あの人に何かされたのかな・・・?」

優しく問いつめられて・・・思わず泣きだすハルだった。

タカシは解放された。

「残念だった・・・」

「え」

「カツ丼も親子丼も出なかった・・・」

「私はジュースをもらったよ」

「そっちは被害者だもの・・・俺なんか犯人だぜ」

一杯の冷やし中華を分け合って食べ・・・美しい虹も見る二人。

タカシの行きたい場所は・・・キャンプ場だった。

バーベキューがしたかったらしい。

しかし・・・満足に火を起こせないタカシである。

「ハルが着火剤ケチるから・・・」

「私のせい・・・」

「ちょっと・・・電話してくる」

といいながら・・・ビールを買ってくるタカシだった。

火はハルが火吹き竹で見事に起こす。

「こんなところでビール買ったら高いのに・・・」

「俺は・・・何をやらせてもダメな男だな」

「しょうがないよ・・・ところでテントはどうするの」

「テントは俺にまかせろ」

しかし・・・山林に捨ててあるテントを拾ってくるタカシだった。

テントは屋根に穴があいていた。

ハルは流れ星を見た。

まあ・・・ものすごく蚊に刺されるよね。

二人は雨に降られた・・・。

たどり着いたのはお寺である。

「お寺に泊まるの?」

「宿坊って言ってな・・・リーズナブルなんだ」

しかし・・・現れた寺の内儀の清江(八千草薫)は・・・「二年前から宿坊をやめている」と言う。

「えええええ」

二人の窮状を見てとった清江は一泊千二百円で二人を泊めると言い・・・握り飯もサービスしてくれるのだった。

「どうして・・・宿坊をやめてしまったのですか」

「ちょっと・・・変な噂が立ってしまって・・・」

「・・・」

「五年ほど前のことでしょうか・・・その頃は・・・たくさんのお客さんで賑わっていたのです。ところが・・・ある夜・・・一人の女の人が夜中にやってきて・・・知り合いが泊まっているので泊めてほしいと言うのです・・・それで・・・部屋に招きいれると・・・寺内で眠っているお客さんの顔を順番に覗きはじめて・・・ふと気がつくと消えてしまったのです・・・こわいなこわいな」

「イナジュンですかっ」

思わずおもらししそうになるハルだった。

子供のようなタカシは「肝試ししよう」と言い出すのだった。

真夜中の墓場に連れ出されるハル。

「おい・・・あれ・・・」

思わず目を閉じるハル。

「大丈夫だから・・・目を開けてごらん」

そこには燐光を放ち・・・螢が乱舞しているのだった。

「これが・・・本当のホタルの墓だ」

「だじゃれかよっ」

ついに・・・キョウコとの取引が終了したと告げるタカシ。

「だから・・・家まで送って行くよ・・・」

「・・・」

「ただ一つ問題なのは・・・もう・・・交通費がなくなっちゃった」

「えええええ」

徒歩で帰還の旅に出る父娘だった。

ハルは靴擦れで歩行困難になる。

タカシはハルをおんぶした。

「重くなったじゃないか・・・」

「失礼ね・・・」

夜通し歩いたタカシは・・・早朝・・・一軒の家に到着する。

「この家に住んでいる佐々木からお金を借りる」

「まだ・・・朝早いよ」

「大丈夫・・・佐々木は早起き人間だ」

猫を三匹飼っている佐々木(ムロツヨシ)はのりちゃん(満島ひかり)と暮らしている。

疲れきったタカシはソファで爆睡である。

「相変わらずね・・・」というのりちゃん。

「すみません・・・」

「ちがうわ・・・悪い意味じゃないのよ・・・タカシは相変わらず素敵だなって思って」

「え」

「私・・・タカシの元カノだから・・・」

「えええええ」

「あなたも・・・タカシに似ているわね・・・素敵よ」

「ちょっと嫌な感じです」

ハルは思う。

もしも・・・タカシがのりちゃんと結婚していたら・・・。

自分は生まれてこなかったのだということを。

それはなんだか・・・不思議なことだった。

ホームタウンに向う電車の中で・・・タカシとの別れがつらくなってくるハル。

「逃げようよ・・・私・・・貯金あるし・・・」

「もう誘拐ごっこは終わりだよ」

「私きっと・・・ろくでもない人間になるよ・・・人に期待させといて裏切ってばかりのあんたのせいで・・・」

「俺は確かにろくでもない人間だ・・・でもそれを誰かのせいにしたことは一度もない・・・ハルもろくでもない人間になるかもしれないが・・・それを人のせいにするのはカッコ悪いぜ」

「・・・」

お茶の間では・・・それが父親の言う言葉かと怒号が飛び交うが・・・まあ、ダメ人間なんで許容範囲なんだな。

タカシの血を引くハルは納得したようである。

改札口で二人は別れた。

「また・・・誘拐しにきてね」

タカシはサングラスをかけた。

きっと涙があふれてきたのだろう。

そして・・・ハルに向って大きく手をふるのだった。

ハルは・・・ダメな父親を愛しく思うのだった。

そして・・・その姿を胸にしまった。

すべての出来事は誰のせいでもない・・・なるべくしてそうなるにすぎないのだ。

それが宇宙の真理なのである。

8月28日(日)に再放送されるらしい・・・。

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2016年8月13日 (土)

あらゆる望みがみんな浄められている場所(向井理)転んだら必ず死ぬ呪い(木村文乃)丹沢大山ツェラ高原に死す(佐藤二朗)

宮澤賢治は西方浄土に並々ならぬ憧れを持っていた。

科学と仏教的信仰の境界線で・・・「西域」は賢治のロマンをかきたてたのである。

「インドラの網」では「華厳経」に深い関与がある幻想のツェラ高原で賢治の分身的な架空の考古学者・青木晃が「天空の子供たち」と交感する。

この世とあの世の狭間であるツェラ高原で大日如来(太陽神)の降臨に接した青木は・・・同時に天空にインドラ(雷神)の綱(ネットワーク)を見る。

雷に打たれ絶命する瞬間・・・この世の真の姿を見たと信じる青木。

それはこの世とあの世が断絶しておらず・・・すべての生命が繋がっているという信仰の輝きである。

「銀河鉄道の夜」に結晶する賢治の「透明な死への憧憬」が・・・「インドラの網」にも仄かに匂い立つのである。

で、『神の舌を持つ男・第6回』(TBSテレビ20160812PM10~)原案・堤幸彦、脚本・櫻井武晴、演出・伊藤雄介を見た。毛増村温泉郷という虚構空間を脱出した伝説の三助・朝永平助(火野正平)の孫である人間成分分析器・朝永蘭丸(向井理)、古物の行商人・甕棺墓光(木村文乃)、そして宮沢賢治の心象スケッチを諳んじる宮沢寛治(佐藤二朗)のトリオは現実空間に隣接する丹沢大山国定公園の丹沢大山温泉(フィクション)に到着する。例によってガス欠だが・・・温泉芸者ミヤビ(広末涼子)に逢いたい一心の蘭丸は甕棺墓くんの愛車から飛び降り温泉旅館へとダッシュする。

しかし・・・旅館に滞在しているはずのミヤビはすでに立ち去っていた。

「そんな・・・」

「男性のお迎えがあって・・・お急ぎの御様子でした」

女将(猫田直)の言葉に落胆する蘭丸。

すぐにでも・・・ミヤビを追いかけたいのだが・・・ガス欠である。

「そもそも・・・ミヤビの行き先が不明である」と寛治。

「大山こんにゃく美味しいよ」と甕棺墓くん。

「なぜ・・・一人で食べてお~る」

「だって一串税込216円もするのよ」

「ガソリン代に600円ほど残しておいたはずだが」

「何故か216円少なくなってるのよ」

「殴ってやりた~い」

仕方なく温泉街で聞き込みを始める蘭丸。

「この人知りませんか」と蘭丸描き下ろしイラストで訊ねるが・・・ミヤビとはあまり似ていないのだった。

主な町の住人は三人である。

土産物屋のマスノ(平田敦子)・・・。

「怪しげな男が写真を持ってミヤビという女性を捜していたわ」

怪しげな男(宅間孝行)を発見するが・・・男は共同浴場に入り中から鍵をかけてしまう。

マスノは「モラルが低下して・・・共同浴場は施錠された・・・入浴は無料だが・・・鍵は街の二か所にある鍵の管理人に借りなければならない」と教える。

東の鍵を管理するのは・・・名物大山コマのコマ屋・・・女主人は早苗(平栗あつみ)。

「鍵は貸し出し中で・・・鍵を借りた入浴者が戻るまでは順番待ちになる」と話す。

西の鍵を管理するのは・・・煙草屋・・・主人は磯吉(利重剛)。

「コマ屋の女将から・・・貸し出し中の鍵の返却されたと連絡がないと貸せない」と話す。

土産物屋、コマ屋、煙草屋・・・このうちの一人が犯人だな。

「ものすごく・・・面倒くさいシステムなんですけど」

「まさに・・・密室トリックを成立させるためだけの無理矢理な設定であ~る」

しかし・・・別行動をしていた甕棺墓くんが鍵を入手したと言う。

すでに・・・怪しい男は風呂を出ており・・・甕棺墓くんは金子という男から鍵を借りたのである。

「それで・・・その人は・・・」

「ホテルをつきとめてあるからあわてなくても大丈夫」

「じゃあ・・・すぐにそのホテルに・・・」

「それよりも・・・せっかくだから・・・お風呂に入っていきましょうよ」

「確かに・・・風呂には入るべきた」

「そんな・・・どう考えても・・・ホテルに行くべきでしょう・・・ここでお風呂に入ったら・・・湯船に死体が浮いていて事件に巻き込まれてしまう気がします」

「そうしないと・・・話が進まないのであ~る」

甕棺墓くんが入浴準備をしている間に・・・蘭丸と寛治が・・・着衣のまま湯船に浮かぶ女性の変死体を発見し・・・甕棺墓くんの入浴サービスもないのだった。

サービス悪いぞ!

所持品から・・・死んでいたのは加茂陽子(神楽坂恵)だと判明する。

「携帯電話もありましたが・・・お湯につかっていたので」と今週の若手刑事・二若(岡山天音)・・・。

「それは防水機能付だから・・・乾燥させれば・・・復活するわ」と甕棺墓くん。

「で・・・あなた方は・・・」と今週のベテラン刑事・徳沢(加藤虎ノ介)・・・。

「第一発見者です」

「ちょっと署までご足労願います」

「嫌よ」

「いや・・・ここは無料で宿泊するチャンスであ~る・・・朝食も出るかもしれな~い」

「夕食も出しますよ」

サービスのいい伊勢原警察(フィクション)だった。

日本科学技術大学などでお馴染みのその他大勢のコント。

署員一同が・・・伊勢原市公式イメージキャラクター「クルリン」と親しむ光景があって・・・。

翌朝である。

容疑者として浴場の鍵を借りていた金子が確保され・・・取調を受ける。

被害者の携帯電話から・・・金子の携帯電話からの着信が確認されたのである。

「あんた・・・蘭丸だろう・・・」

「どうして・・・僕の名を・・・」

「藪先生から聞いたのさ・・・俺の無実を証明してくれたら・・・ミヤビの携帯電話の番号を教えてやるぜ」

「・・・一体あんたは・・・」

「俺はしがない借金とりさ・・・」

実はウシジマくんの同業者であった金子である。

ミヤビを追跡していたのは・・・借金回収のためだった。

ミヤビの借金回収に成功したところで・・・やはり金を貸している加茂陽子に遭遇。

金をとりたてただけだという。

二件の取り立てを終えたので・・・風呂に入ってのんびりしただけだと言うのだ。

「しかし・・・このままでは・・・借金返済をめぐるトラブルで犯人にされかねない」

ミヤビの電話番号と聞いただけで・・・早速捜査を開始する蘭丸だった。

ミヤビに嫉妬する甕棺墓くんは妨害しようとするが・・・蘭丸の三助アピールで若女将(棚橋唯)の宿を確保した寛治はのんびり休憩したいのである。

「たっぷり眠ったでしょう」

「だれもが留置場でぐっすり眠れると思うなよ~」

「このままじゃ・・・蘭丸がミヤビと再会しちゃうじゃないの・・・」

「それのどこがいけないのか~」

「一人で旅をするよりもみんなで旅をした方が楽しいに決まってるでしょう」

「・・・」

甕棺墓くんは寛治の説得に成功したらしい。

全国に五百万人程度しかいないと思われるお茶の間の皆さんもそろそろ・・・トリオに愛着が沸いてきた頃合いなのだった。

これまでの県警に問い合わせ・・・トリオの活躍を知った刑事たちは・・・名探偵待遇でトリオに協力するのだった。

これは・・・まあ・・・警察の偉い人が兄というあのルポライター的なアレだな・・・。

そして・・・脱衣場のロッカー、死体、共同浴場の鍵・・・あらゆるものをなめまくり・・・成分を褌にメモする蘭丸だった。

事件の経過をまとめてみよう。

ミヤビが金子に借金を返済し宿を出る。

金子が被害者の加茂陽子から借金を回収。

加茂陽子が死亡。

金子がコマ屋の鍵で共同浴場に入室。

トリオがコマ屋に鍵を借りに行く。

蘭丸と寛治が煙草屋に鍵を借りに行く。

甕棺墓くんが金子から鍵を強奪。

トリオが・・・共同浴場で遺体を発見。

「つまり・・・第三の人物が・・・犯人です」

例によって・・・関係者が共同浴場の脱衣室に集められる。

「コマ屋の鍵がなくても・・・共同浴場の鍵をあけられる人がいます」

「え・・・私」と煙草屋の主人・・・。

「このロッカーの中から・・・私の舌は次の成分を感知しました」

脱衣し、ふんどしを披露する蘭丸。

スクロース・・・砂糖の主成分。

ベンゾピレン・・・発癌性物質

ニトロソアミン・・・発癌性物質

「これらは煙草の成分ですが・・・普通の紙巻きたばこには香料など雑多な成分が含まれる・・・煙草屋の御主人の愛用しているキセル煙草にはそれがありません・・・つまり・・・ロッカーの中にいたのは・・・煙草屋の御主人です」

「・・・キセル煙草を愛用しているのは私だけではないだろう」

「この鍵をみてください」

「・・・」

鍵には・・・マニキュアの着色があった。

「被害者のマニキュアと成分が一致しています・・・そして血の味がしたので・・・おそらく被害者のものと一致するでしょう」

「鑑識で調べればすぐにわかることよ」

「あなたは・・・鍵をあけて・・・彼女を共同浴場に連れこみ・・・暴行目的で殺害した・・・ところが・・・金子さんがやってきたので・・・とりあえず死体を浴槽に沈め・・・ロッカーに隠れた・・・そして・・・何食わぬ顔で店に戻った・・・金子さんは死体に気がつかないまま・・・浴場を出たが・・・私たちが続けて入浴して・・・ついに・・・死体が浮き上がった」

「違う・・・」

「この期に及んで・・・シラをきる気?」とニサス的に追及する甕棺墓くん。

「あの女が・・・鍵を盗んだんだ・・・私は鍵がないことに気がつき・・・浴場に行った・・・入浴者のモラルが低下したために・・・誰もが入れた共同浴場に鍵が必要となった・・・その鍵を無断で持ち出した女に私は注意しただけだ・・・それなのにあの女は私を突き飛ばして痴漢呼ばわりだ・・・思わず私は女から鍵を奪い返そうと揉み合いになり・・・女が転んで・・・頭を打った・・・」

「揉み合いになって転んだら死ぬ・・・ニサスの鉄則よ・・・」

「蘭丸の舌から・・・逃れられる犯罪はないのであ~る」

寛治は宮沢賢治の童話「インドラの網」の一説を引用する。

・・・いちめんはられたインドラのスペクトル製の網、その繊維は蜘蛛のより細く、その組織は菌糸より緻密に、透明清澄で黄金でまた青く幾億互いに交錯し光って顫えて燃えました。・・・

「風だよ・・・草の穂だよ・・・ごうごうごうごう・・・すべての人間は仏になれる・・・なぜなら・・・ひとの心はネットワークでつながっているからです・・・しかし・・・それは誰もが罪人にも成り得ることを示しています。老子曰く・・・天網恢恢疎にして漏らさず・・・雷神インドラの張る綱は・・・緩やかに見えてけして悪人を逃さない・・・天罰は必ず下るのです」

究極の勧善懲悪理論である。

「さすがは・・・神の舌だ・・・」

金子は蘭丸を賞賛する。

「男と男の約束だ」

蘭丸はミヤビの電話番号を入手した!

カミノシタ・・・は上の下という意味を持つ。

上下が定かではないのである。

はたして・・・神の舌は・・・ふたたびミヤビを味わうことができるのか・・・。

それは上なのか・・・下なのか・・・。

刑事たちは・・・甕棺墓くんの愛車のガソリンを満タンにしてくれた。

そして・・・蘭丸は・・・愛しいミヤビに電話をかけるのだった。

リオ五輪の嵐の中を折り返す物語である。

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2016年8月12日 (金)

母親のような売春婦になることを誰が願うのだろうか(山田孝之)

戦いに敗れたものは惨めである。

昔なら敗れた屈辱のみならず・・・あらゆるものを奪われるわけである。

領土を奪われ、家族を奪われ、命を奪われたりするわけだ。

五輪の敗者だってCM契約を打ち切られたりするわけである。

勝者に惜しみない拍手を贈るのも楽しいが、敗者の無様さを堪能することもひとつの喜びだ。

銀メダルの表彰台でずっと俯き続けるもの。

銅メダルを首からはずすもの。

一度も勝てずに涙が止まらず嗚咽をもらすもの。

みっともない醜態をさらすものたちを嘲笑するのも人間、同情するのも人間だ。

生きながら地獄に誘いこまれるものたちの姿は恐ろしいが・・・様々な教えを秘めている。

なにしろ・・・勝者であり続けることは・・・至難の業だからである。

ほとんどの人間は結局のところ負けるのだから。

で、『ウシジマくん Season3・第4回』(TBSテレビ201608100128~)原作・真鍋昌平、脚本・福間正浩(他)、演出・山口雅俊を見た。哺乳類の子供たちは・・・親の養育を必要とするのが自然である。鳥類も親鳥は雛を養育する。不思議なシステムである。一体、誰がそんな設計図を描いたのだろうかと思わずにはいられない。人間もまた・・・その制度の中に・・・子供を保護する姿勢を示す。しかし・・・それぞれの個体は・・・それぞれの個性で自然の掟に反逆を試みる。特に人間は・・・世界よりも自分を愛することが正しいと認識できる生き物である。その醜さに吐き気を催すほどに・・・己の欲望に忠実な人があなたの隣で微笑んでいるかもしれない。

他人がどれほど幸福になろうと・・・自分には関係ないのである。

それが・・・間違っているわけではないのが・・・面白いんだな。

登場人物たちの複雑な人間関係の紹介もほぼ終了し・・・いよいよ地獄図も本番である。

★ウシジマくんこと・・・丑嶋馨(山田孝之)が営む闇金融「カウカウファイナンス」の上客である一流企業に勤務する川崎(ムートン伊藤)・・・売春婦のテルミ(卯水咲流)を買春して・・・行為を動画記録したことが発覚し・・・テルミの情夫である若琥会系のチンピラ・マサくん(濱崎一輝)に十万円を脅し取られるのだった。

「最低」と軽蔑する受付嬢・エリカ(久松郁実)・・・。

「本当だねえ・・・俺はそういう行為が許せないね」・・・今回、エリカを狙っているらしい柄崎(やべきょうすけ)である。

「なんです・・・そのわざとらしい同調は・・・」と高田(崎本大海)は呆れる。

「で・・・あんたどうするつもり?」と淡々と応じるウシジマくん。

「十万円・・・ジャンプで・・・」

「あんた・・・上客だから・・・アドバイスをしてやろう」

ウシジマくんは秘策を授けるのだった。

「なんで・・・あんな奴を助けるんですか」

「チンピラに食いつかせたら・・・俺たちのしゃぶる分が減るだろう」

★喫茶店で・・・テルミとマサくんに金を払う川崎。

「もう・・・十万円頼むわ」

「会社に盗撮野郎ってチクるよ」

「今の・・・恐喝ですから」

「何・・・」

「カメラ・・・まわってるし録音もしましたから」

「てめえ・・・」

ウシジマくんの指示通りにカメラを持って遁走する川崎である。

★テルミの部屋で反省会が始る。

「まったく・・・一般人に弱みを握られるって・・・バカじゃないの」

「うるせえな・・・十万円の臨時収入で充分だろう」

そこへ・・・乱入するウシジマくんのライバル企業・闇金融「ライノー・ローン」の女経営者・犀原茜(高橋メアリージュン)と手下の村井(マキタスポーツ)だった。

「何よ・・・あんたたち・・・」

「若琥会から・・・組に内緒でチンケなシノギをしている掟破りがいないかどうか・・・監視役を頼まれてるのよ」

「見逃してください」

「とりあえず・・・ゲームをして成功したら十万円から一割戻してやるよ」

「ゲーム?」

マサくんの指と指の間に刃物を突きさすゲームで・・・プレイヤーは犀原だった。

一回目で失敗する犀原・・・。

「ぎゃああああああああああああああ」

血まみれのマサくんを残し・・・十万円を持ち去る犀原と村井だった。

★★隣の部屋のけしからん体の希々空(小瀬田麻由)のために・・・「カウカウファイナンス」への返済に追われる生活保護受給者の小瀬(本多力)・・・。

十日で五割の利子はもちろん違法な金利なので返済の義務はないわけだが・・・いろいろとこわいので返済を続ける小瀬なのだった。

どのくらい暴利かと言うと・・・希々空の借金は五万円で・・・十日ごとに二万五千円の利子が発生する。

月額およそ七万五千円の利子・・・しかも返済が滞れば・・・雪だるま式に利子は膨らんでいく。

この地獄から脱出するためには次の返済日までに元金と利子をあわせた七万五千円を用意するしかないのだが・・・五万円借りちゃう人間に・・・それは至難の業なのである。

そんな簡単な罠から逃げることができないからこそ・・・底辺の住民なのである。

★★切羽詰まった小瀬は・・・ニート仲間のめしあ(野澤剣人)に相談する。

「この間の起業の話だけど・・・」

「僕は・・・老人相手の仕事を考えている」

「老人愛手?」

「今度・・・NPO法人に参加して・・・学ぼうと思うんだ」

「NPO法人?」

「君も参加してよ」

「・・・」

働く気も起こらない人間が・・・起業できるものか・・・どうかという話である。

★★★パチンコに魂を奪われた結城恵美子(倖田李梨)は娘の美奈(佐々木心音)に母子売春を強要する。最初は・・・客に足元を見られた恵美子だったが・・・千円しか値打ちのない女が娘とセットなら数万円で売れることに味をしめ・・・荒稼ぎを続けるのだった。

素晴らしいインターネットの世界では「話題」となり・・・「背徳感覚」を求める客が次々と予約してくるのだった。

当然・・・客の中にはより凌辱的なプレーを求めるものがあり・・・落書きプレーや拘束プレーさらには浣腸プレーまでとエスカレートしていく。

当然、凌辱されるのは娘の美奈が中心であり・・・母親と男たちに犯され。汚され続ける美奈の心は荒廃して行くのである。

「私・・・もう嫌だ」

「何言ってんだよ・・・お金がいるんだろう・・・あんたが言い出したことじゃないか」

「・・・」

「しっかりしておくれよ・・・ママはあんたがいなけりゃ・・・生きていけないんだよ」

「千円女だから・・・」

「そうだよ・・・ね・・・頼むよ・・・もっとどんどん3Pやって稼ごうよ」

子供が親を選べるシステムがもう少し積極的に導入されるべきである。

恵美子にとってお腹を痛めて産んだ美奈は便利な道具に過ぎないのである。

美奈はそのことに気が付き・・・二重の意味で苦しめられていた。

底辺であえぐ人間であること。

底辺であえぐ人間の娘であること・・・。

しかし・・・救いの手はどこからも伸ばされない。

ただ奇妙な金髪の男(金田誠一郎)が・・・闇に落ちた母娘を見つめていた。

★★★★ファッション雑誌「ノマド」の編集者である上原まゆみ(光宗薫)にはゆっくりと人間の皮を着た悪魔である神堂大道(中村倫也)の魔手が迫っていた。

女子会で婚約指輪を披露するまゆみ・・・恋人だったハシくんこと橋本(ジェントル)の浮気相手だった女友達のユカ(三浦葵)にも優越感を覚えるのだった。

占い師の勅使川原先生(三田真央)にも「幸福感」を報告するまゆみ・・・。

しかし・・・明らかに神堂大道と関係している勅使川原は破滅を意味する「死神」のカードを引く。

雨の日・・・買い物中のまゆみの母親・広子(武藤令子)の自転車をパンクさせた神堂は欲求不満だった広子を巧に誘惑し関係を結ぶ。

そして・・・母親を通じて・・・神堂に胡散臭さを感じる父親の上原重則(名倉右喬)に高価なパターを贈るのだった。

結婚後もガールズバーで働き続ける妹のみゆき(今野鮎莉)は常連客の菅原(礒部泰宏)との関係も続けている。

二人を盗撮した神堂は・・・みゆきとも性交渉を持つのだった。

みゆきの夫であるカズヤ(板橋駿谷)は公務員でありながらマリファナ(大麻)の常用者だった。

妻のみゆきの浮気の相談に乗る形で・・・カズヤとの交流を深める神堂。

ある夜・・・まゆみは・・・妹の夫と神堂から・・・大麻パーティーに誘われる。

「でも・・・それって・・・違法でしょう」

「お義姉さんだって・・・時々・・・飲酒運転するでしょう」

「だけど・・・」

「人身事故を起こす可能性のある飲酒運転と・・・親しい人との喜びのひとときをもたらすこと・・・どちらが罪が深いと思いますか・・・」と神堂はまゆみを唆す。

まゆみは・・・興味本位の気持ちもあり・・・自ら・・・禁止薬物に手を伸ばす。

母親や妹と性交渉を持つ男と婚約していることを知らない女・・・。

すでに・・・悪魔の虜囚となっていることに人は意外と気がつかないものだ。

男日照りの編集長(小嶋理恵)と飲む約束をしていたまゆみの前に神堂が現れる。

「顔が見たくなってしまいました」

「どなた・・・」

「知り合いです」

まゆみは編集長の配慮で神堂とのデートに予定を変更する。

まゆみが去った後で冷たい顔となる編集長・・・。

まゆみは熱に浮かされた顔で神堂を見る。

「なぜ・・・婚約指輪をしていないのですか」

「職場では・・・まだ報告していないの・・・結婚式の日取りとか決まらないと・・・」

不満げな神堂の表情にあわてて指輪を嵌めるまゆみ・・・。

その指を瓶で強打する神堂・・・。

「痛・・・何をするの・・・」

「指輪を外すことが出来ないように・・・してあげたのです」

血を流し腫れあがるまゆみの指・・・。

神堂はついに悪魔の素顔を現すのだった。

まゆみは・・・その顔に・・・すでに心を奪われている・・・。

★デリヘル経営者の利子集金にやってきたウシジマくんは・・・勅使川原先生と遭遇する。

「あんたもデリヘル嬢?」

「近所に住んでいる占いの先生だよ」とやり手婆・・・。

「俺も占ってよ」

「占いを信じない人は占いません」

「へえ・・・そういうこと言うんだ・・・」

底辺とは無縁だった・・・まゆみの人生に・・・ついにウシジマくんが足を踏み入れる。

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2016年8月11日 (木)

ホームレス女子高校生(北川景子)天使のように美しく悪魔のように恐ろしい(工藤阿須加)ジャンボ餃子焼売ぎっしり弁当に怠惰をこめて(イモトアヤコ)

売って売って売りまくるだけ・・・これほど「営業」に力をいれたドラマは意外に珍しいのではないか。

もちろん・・・ありえない営業力が展開されるわけだが・・・個々の物件にそれなりにドラマがあり面白おかしいわけである。

犯罪者を面白おかしく逮捕する刑事ドラマや患者を面白おかしく治療する医療ドラマではありふれた手法とはいえ・・・なんだか新鮮な気分になる。

お仕事ドラマのほとんどが・・・なんとなくやってます的な空気になるのに・・・これは主人公が刑事や医者のように丹念に仕事をするわけである。

もちろん・・・それだけの実力を供えたベテラン作家の創作力かあってのことなんだなあ。

「家売るオンナ」12.4%↘10.1%↗12.8%↘12.4%と夏ドラマで唯一のフタケタ推移も納得なんだな。

嵐のような五輪中継の中だけに大健闘だよな。

レビューを書く時間も柔道とサッカーと卓球の中を漂流しているぞ。

とかなんとか言っている間にも女子70キロ級で田知本遥が金メダル!

男子柔道90キロ級でベイカー茉秋が金メダル!

体操男子個人総合で内村航平が連覇で金メダル!

田知本選手の表彰式でアナウンサーが「国旗が掲揚され日の丸が流れます」と実況していたがな。

流れるのは「国歌」で「君が代」だぞ。

ラグビー7人制男子もフランスを12-7で撃破してベスト4に進出!

いつ・・・眠ればいいのだ・・・。

で、『家売るオンナ・第5回』(日本テレビ20160810PM10~)脚本・大石静、演出・猪股隆一を見た。テーコー不動産株式会社・・・新宿営業所売買営業課の屋代課長(仲村トオル)は人事移動で同期にかなり抜かれたらしい。布施誠(梶原善)の話ではかっては「トップだった」らしいので・・・管理職に向いてないのかもしれない。そして・・・その責任は「売上ゼロ記録を更新中」の白州美加(イモトアヤコ)にあるらしい・・・。

だったら・・・お前がなんとかしろ・・・という話である。

しかし・・・コンプライアンスを気にして・・・「時代が違う」が口癖の屋代課長はまったく指導力を発揮しないのだった。

「白洲美加は辞めさせたらいいと思います」

ストレートな営業チーフ・三軒家万智(北川景子)だった。

ブラック課長にはなりたくない屋代課長は蒼ざめる。

「チーフが・・・指導してやってよ」と助け舟を出すベテラン布施。

「私のやり方に口をはさまないと約束していただけますか?」

「サンドイッチマンはダメだよ」

「それが口をはさむと言うことです」

前回、泥酔中に三軒家にキスしてしまった屋代課長は・・・見つめられるとたじろぐのである。

三軒家と屋代課長のタクシーの中でのキスを目撃してしまった先月の売上がゼロの庭野聖司(工藤阿須加)は・・・最近、三軒家を見るだけで動悸が激しくなるのだった。

それは心の病気か・・・それとも恋なのか・・・。

謎に満ちた展開なのだった。

そして三軒家チーフの登場までエースだった・・・マダムキラーの足立聡(千葉雄大)は微笑王子から・・・暗黒王子へと変貌を遂げる予感である。

三軒家 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

足 立  ☆☆☆

営業成績表が足立を闇へと誘うのだ。

三軒家のシラスミカへの教育的指導が開始される。

築30年超えの木造モルタルアパート群へのチラシのポスティングである。

例によって・・・やる気を見せないシラスミカ。

お茶の間では即刻解雇の大合唱だが・・・一部お茶の間は「そんなに無理強いしなくても」と擁護するのだった・・・お前も給料泥棒かっ。

チラシの物件は「キャビネットコート永田町708号室」である。

シラスミカのスマホにセールスポイントを叩きこむ三軒家である。

「各政党の本部、議員会館がある永田町だから治安がいい。エントランスにICカードロック。24時間監視システムでセキュリティー抜群。女性の一人暮らしも安心。徒歩圏内に地下鉄の駅が四つあり、6路線が利用可能という交通の便」

「・・・」

三軒家の脳内に蓄積された情報量に唖然とする一同である。

「木造モルタルのアパートに住んでいる人には高級すぎますよ・・・買う人なんかいません」

「お前の意見は必要ない。ゴーッ!」

「ゴーッ!」と課長も三軒家に従うのだった。

「ひどい・・・」

泣きながら逃げ出すシラスミカだった。

「チラシ置いて行っちゃいましたけど」と事務員の室田まどか(新木優子)・・・。

「足立」

「僕ですか」

「ゴーッ!」

「はいっ」

屈辱感を抱きながらシラスミカを追いかける足立である。

今回、庭野が担当するのはフリージャーナリストの日向詩文(ともさかりえ)・・・。

週刊誌「ファクト」と専属契約を結ぶ政治スキャンダル狙いの女だった。

「私に暴けない悪事はありません」

どこかで聞いたことのあるようなセリフに震える庭野だった。

日向は「大臣の裏金問題を追及した件」を自画自賛するタイプである。

内見に向けて物件を集めるように庭野に指示する日向だった。

独身女性は課内では「女単(じょたん)」と呼ばれる。女性の単身者の略なのだろう。

「お一人様か・・・」

男たちは36才の独身女性を明らかに蔑むのだった。

「とにかく・・・今度こそ売れ」と屋代課長。

「がんばります」

「がんばりますじゃない・・・必ず売りますだ」

屋代課長は完全に三軒家に感化されたようだ。

仕事に対してまるで情熱を持てないシラスミカは・・・三軒家のせっかくのアドバイスにも興味が持てず・・・一軒目で早くも挫折し・・・カフェラテタイムである。

だが・・・例によって・・・シラスの配布したチラシは・・・さっそく客の目に止まる。

目の前を獲物が通りすぎていくのに全く気がつかないシラスミカ・・・。

野生動物なら餓死確実である。

しかし・・・強者が弱者に遠慮するのが当たり前の制度では・・・給料泥棒の生存が認可されるのだった。

カフェラテを飲みながら・・・愛する足立王子にメールを送信するシラスミカ。

だが・・・受信した足立は即刻削除である。

足立が自分にお似合いの男かどうかもわからないシラスミカなのだった。

誰が彼女をこのように育てたのかっ。

恐ろしいことだ。

チラシを見た大手出版社・「新都心出版」校閲部の草壁歩子(山田真歩)は早速、三軒家にアポイントメントをとるのだった。

「お客様へのアンケート用紙」も校閲する草壁だった。

「校閲(こうえつ)・・・」

「原稿の間違いを訂正する仕事です」

「はい」

「チラシに惚れました・・・訂正個所がゼロの素晴らしい文面です」

「ありがとうございます・・・このチラシは私が作りました」

「このマンションに決めようと思ってます」

「不動産は出会いです・・・この物件は4100万円ですが・・・よろしいでしょうか」

「貯金が2000万円あります」

概算で・・・2100万円を頭金にすると月5万円の返済で35年ローン。月7万円の返済で25年ローンと即答する三軒家。

「キャビネットコート永田町708号室」に草壁を案内する三軒家。

「不動産屋さんはみんな・・・結婚の予定を聞いてくるんですよねえ・・・」

「独身者を結婚というゴールに向かう途中の中途半端な人間と決め付けるのはおかしいです・・・ご自分のために自力で家をお買いになることは素晴らしいしカッコいいです」

「ありがとうございます」

「御礼を言うのは不動産屋の方です」

しかし・・・物件で床に蟻を発見する二人。

「アリってこんなところにまで・・・」

「アリがお嫌いですか」と三軒家はあわてず騒がずである。

「いいえ・・・私はアリですから・・・校閲の仕事は・・・編集者や著者に・・・煩がられ嫌われるものなんですよ・・・まあ・・・他人の書いたものを訂正する仕事ですからね・・・でも私はそれしかできないので校閲の仕事をして貯金しました・・・そのお金で買った家で・・・気ままな暮らしをしてみたいのです。壁紙を自分好きな色に張り替えるのが夢なんです」

一晩ゆっくり考えて明日返事をするという草壁だった。

一方・・・独身女性向けの物件として・・・庭野はジャーナリストの日向に紹介する物件リストに「キャビネットコート永田町708号室」を加えたいと三軒家に申し出る。

「あきらめなさい・・・その物件は私が明日売ります」

女単を蔑む男たちは嘲笑する。

「また・・・お一人様か・・・なんで若い女が一人で暮らす家なんか買うのかねえ」

「私達の仕事は家を売ることです。女性であろうと独身であろうと買う力がある人に家を売るのは当然です。独身女性が家を買うことについての偏見は改めるほうがまっとうです」

三軒家の男女雇用機会均等法的世界の正論に沈黙する男たちだった。

それでも専業主婦を希望する自称・一般女性は存在するのだった。

戻って来たシラスミカはチラシを見た顧客獲得に自分の手柄を主張するが・・・三軒家はシャーロック・ホームズのように・・・シラスミカの襟元のカフェラテの滲みを見逃さない。

「築30年超えのアパートにはマイホーム購入のために家賃も節約してお金をためている人が住んでいる可能性がある」

「・・・」

「そういうこともわからずカフェラテ飲んでさぼっている人間は会社を辞めろ」

「ひどい・・・」

課長に泣きつくシラスミカだったが・・・三軒家チーフの軍門に下りつつある課長は・・・。

「それしかない時はそれしかないね」と言葉を濁すのだった。

そこに足立が外回りから戻ってくる。

シラスミカは・・・専業主婦を目指して不毛な足立アタックを開始するのだった。

愛のお弁当攻撃である。

「ごめん・・・お客様とランチしてきたから」

「明日も頑張ります」

「明日もランチの予定だし・・・お弁当はもう持ってこないで」

微笑みで拒絶する黒王子である。

シラスミカはお弁当を抱えて・・・カフェに向うのだった。

その恐ろしい光景に立ちすくむカフェの店員一同である。

「持ちこみはご遠慮ください」とはとても言えない恐ろしさなのだ。

シラスミカの手作り弁当は作った本人が食べてもまずいらしい。

とにかく・・・シラスミカの行動はすべてお見通しの三軒家だった・・・。

しかし・・・三軒家がなんとか・・・シラスミカを育てようとしている気配は感じられる。

一方・・・要求の厳しい日向に次々と物件を否定される庭野・・・。

「景色が悪い・・・駅から遠い・・・街かださい」

仕方なく・・・「キャビネットコート永田町708号室」を紹介する庭野。

三軒家の選び抜いた物件にたちまち魅了される日向だった。

「永田町は私の戦場・・・編集部も近いし・・・治安も抜群」

申し込みのために会社を訪れた日向である。

しかし・・・すでに草壁の申し込みが終了していた。

原稿を書くジャーナリストと・・・原稿を校正する校閲者は顔見知りだった。

「あ・・・708号室の申し込み終わってしまいましたか」と庭野。

「終わりました」と三軒家。

「申し込み書に法的拘束力なんかないでしょう」と日向。

「でも順番は順番です」

対峙する三軒家と日向である。

「あなた・・・あの人は人が書いた文章の些細な間違いを鬼の首でも取ったように訂正する女よ・・・こっちは24時間・・・社会の不正をただすために働いてるのに・・・あんな九時五時女に物件とられたら腸が煮えるわ」

「腸が煮えくりかえる・・・です」

「お気もちはわかりましたが・・・順番は順番です」

一歩も譲らない三軒家だが・・・日向も譲らないのだった。

「庭野くん・・・あなたもプロでしょう・・・なんとかしなさいよ」

「・・・」

困惑する庭野だった。

三軒家はアドバイスするのだった。

「お客様があのマンションにこだわるなら・・・やることはただ一つ」

「あ・・・あのマンションに・・・もう一つ空き部屋が出れば・・・」

自分の仕事が「売買」であることを思い出す庭野だった・・・そこからかっ。

「シラスミカ・・・あなたもついていきなさい」

「え」

「ゴーッ!」

「キャビネットコート永田町」で売り物件を求めて営業を開始する庭野だった。

「何をするんですか」とシラスミカ。

「出入りする住人にアタックです」

「私・・・蚊が苦手なんです・・・入り口の植え込みって蚊が多いじゃないですか」

「じゃ・・・エントランスのインターホンで・・・在宅している方に営業してください」

「営業って」・・・そこからかっ。

「住み替えの御予定をお聞きするんだよ」

例によって・・・すぐに当たりを引くシラスミカである。

一人暮らしの老女(草村礼子)がトイレが詰まったと言って招き入れるのだった。

しかし・・・途中で放棄して・・・庭野にバトンタッチ・・・趣味の映画鑑賞に向うシラスミカだった。

お茶の間の勤勉な人々の腸は煮えくりかえるのだった。

トイレを開通させた庭野は・・・208号室の老女が終活をしていることに気がつく。

「一人暮らしだから・・・さびしいと思うでしょう。でもね・・・人間は生まれてくる時は一人だし死ぬ時も一人・・・本来さびしいものなのよ・・・それにね・・・私は大家族で育ったの・・・兄弟姉妹がたくさんいて・・・いつもお母さんをとられていた・・・それはさびしい思いをしたものよ・・・今はね・・・一人だけど・・・ちっともさびしくないのよ・・・ここを売って素晴らしい老人ホームに入るから・・・」

「この部屋・・・僕に売らせてください」

庭野は・・・「208号室」を売り物件として入手した。

早速・・・日向の行きつけの小汚い中華料理屋で報告をする庭野。

「同じ間取りで・・・しかも五百万円お安いんです」

しかし・・・餃子とビールをこよなく愛する日向は・・・草壁の階下に住む点に特殊な拘りを見せる。

「あの女の下なんて・・・ごめんだわ・・・どう考えても私が上でしょう」

イメージとしての上下関係である。

これは日本人独自の感性と言われる。

「・・・」

「なんとかしなさいよ・・・あの上司をガツンとやっつけなさいよ」

「ガツンと・・・」

「そうよ・・・ガツンと」

「やります・・・ガツンとやります」

お約束で・・・入店する三軒家だった。

「あ・・・あなた・・・どこかで見たことあると思ったら・・・この店の常連じゃないの」

「私はわかっておりました」

「私たちは似たもの同志よね・・・男もいないでしょう・・・あなた」

「今はいませんが・・・いずれパートナーが欲しいと思っています」

その言葉に動揺する庭野だった。

「ねえ・・・似たもの同志の好で・・・なんとかしてよ」

「私を担当にしてくだされば・・・あのマンションのことを忘れてしまうほどの物件をご提案させていただきます」

「チーフ!」

追いつめられる庭野だった。

三軒家も餃子とビールだった。

シラスミカは足立に「おやすみメール」を送信した!

足立は微笑んで即刻削除した。

「ちちんぷいぷい」タイムである。

ママの珠城こころ(臼田あさ美)に弱気を責められる庭野。

「自分は強い女が苦手です」

「うそ~・・・強い女が好きなくせに~」

「好きじゃない~」

「だったら・・・ガツンとやりなさいよ」

「ガツン」

そこへ・・・屋代課長が登場する。

「あれ・・・庭野・・・来てたのか」

「庭野ちゃん・・・ガツンとやるんだって」

「え・・・まさか・・・俺を」

「チーフですよ・・・課長だって・・・チーフの尻に敷かれてるし」

「そんなことない」

「知ってますよ」

「え」

「課長はチーフのこと・・・どう思ってるんですか」

「どうって・・・」

「知ってるんですよ・・・この間・・・」

「この間って・・・」

しかし・・・言い淀んで帰る庭野である。

「屋代ちゃん・・・何があったのよ」

「ななななななんにも~」

「ちちんぷいぷい」タイム終了である。

ほっと一息だよね~。

さて・・・連続ドラマである。

このドラマは刑事ドラマにおける事件にあたる物件を・・・事件を解決するように・・・お客様から買ったり売ったりするわけで・・・一話完結している部分もある。

主人公の超販売力も見せ場であるが・・・同時に・・・そこそこ優秀な社員や、規格外に優秀ではない社員の内面的葛藤や・・・精神的変化も楽しめる仕掛けになっている。

今回は庭野が「だから庭野には家が売れない」という三軒家チーフの教えに発奮し・・・積極的な営業にチャレンジするわけである。

営業成績という「戦い」において・・・三軒家と庭野の対決となるわけである。

お茶の間は・・・三軒家にシンパシーを感じたり魅了されたりしているものと庭野を判官贔屓で応援するものとに分岐する。

ここでは小さな起承転結が展開される。

①庭野が三軒家に挑戦

②庭野が一時的に勝利

③しかし最後の段階で問題発生

④結局は三軒家の勝利

ここで・・・三軒家は「部下の失敗の尻拭い」をすると同時に「部下の手柄を横取り」する。

この両者を成立させるところがこのドラマの醍醐味なのである。

ここで賢いが幼いお茶の間の皆さんは・・・「折り合いをつける」ということを学ぶはずである。

物事には複数の意味があるということに気付くのである。

物語の中で寓話「アリとキリギリス」が取り上げられ・・・二つの解釈が示されるのも全く同じなのである。

物事の一つの面だけを見つめることの危うさをドラマは物語るのだ。

そして・・・慣れないことをすれば失敗の可能性は高まるが・・・それを通過しなければ成功にはたどり着けないことも・・・暗示しているわけである。

販売成績ゼロの庭野とシラスミカの差異は誰の目にも明らかなのである。

しかし・・・主人公の厳しい姿勢は・・・優しい眼差しを伴っている。

しごきといじめは違うものなのだということを今の世の中は忘れがちなのである。

実に複雑な内面世界を持った単純明快なドラマなんだなあ。

庭野は草壁に208号室を売りこむのであった。

「500万円安いということに・・・価値を見出されるのではないかと思いまして」

「確かに助かるけど・・・三軒家さんは承知しているのかしら」

「お疑いであれば・・・電話でお確かめください」

「わかりました」

こうして・・・庭野は・・・208号室を草壁に・・・708号室を日向に売り付けることに成功した。

「ということになりました」と報告する庭野。

「庭野が私の客を横取りしました」

「え」と驚く一同。

「どういうこと・・・」と和を尊び過ぎる課長。

「庭野が私を出し抜いて家を売りました」

三軒家は何故か・・・部屋を出る。思わず追いかける庭野。

「すみませんでした」

「家を売って謝るとは何だ」

「でも・・・」

「本契約まで気を抜くな!」

上司としてうれしいのか・・・部下に負けてくやしいのか・・・不明である。

しかし・・・すでに暗黒面に転じた足立黒王子は囁く。

「あの人の餌食になっちゃうからご用心」

「え・・・」

「僕だって・・・君を狙っているかもしれないよ」

「ええっ」

お茶の間は全員承知のどす黒さを垣間見せる黒王子だった。

何故か・・・みんなエレベーターが閉まる瞬間に大事なことを言うらしい。

もう一回・・・誰かがやってボケると笑いとして成立するわけである。

庭野は売買の最終段階である本契約を前に・・・躓きはじめる。

「最終的には・・・金融機関の審査がありますが・・・支払いのプランをどうなさいますか」

「私・・・貯金がないので・・・頭金はなしね」

「そうなると・・・月12万円の返済で35年ローンになりますが・・・」

「月12万円なら・・・今住んでる家賃より安いから大丈夫よ」

「・・・」

フリーランスのビジネスの場合は過去の収入の実績が審査の対象となる。

つまり・・・どれだけ税金を国庫におさめたかである。

おそらく・・・日向は高額納税者なのだろう・・・審査は通過したらしい。

しかし・・・一難去ってまた一難である。

今度は草壁が契約に応じないのだ。

「マンションは欲しいんですけど・・・貯金がゼロになると考えたら眠れなくなってしまったのです・・・病気になった時、貯金がないと不安だし・・・マンション買うのやめます」

「え」

そして・・・追い討ちをかける日向の決断。

「考えたら・・・私・・・36才だし・・・ローン完済は・・・71才よ・・・70才過ぎて月々12万の支払いは・・・少し・・・無理があるわよね・・・家賃はなくても管理費とか修繕積立金とかはあるわけだし・・・」

「ええっ」

「だから・・・マンションは欲しいけどやめる」

「ええええええええええええ」

まさに・・・二兎追うものは一兎も得ず状態の庭野だった。

屋上で途方に暮れる庭野。

「なにしてんだ!」と三軒家。

「チーフにガツンとやるなんて百年早かったんです・・・」

「ここで苦悩してるのか・・・二枚目気取って家が売れるのか」

「・・・」

「来い!」

三軒家は庭野を連れて・・・「新都心出版」校閲部に乗り込むのだった。

図書館のように静かな職場で響く三軒家の営業ボイス。

「私にお時間をいただけないでしょうか」

「誰だ・・・」と草壁の上司が呟く。

「不動産屋でございます」

「・・・」と草壁は困惑する。

「草壁様はアリとキリギリスの話はご存知ですか?・・・庭野、話す」

「え・・・」

仕方なく一般的な「アリとキリギリス」について物語る庭野。

夏の間・・・キリギリスは汗を流して働くアリを嘲笑する。

冬になって・・・アリの巣には食糧が満載・・・キリギリスは餓死する。

キリギリスの死体を食糧貯蔵庫に運びこみアリは微笑むという話だ。

少し・・・怖いぞ。

「校閲部でコツコツ働き・・・貯蓄なさった草壁様はまさにアリです。真面目にコツコツ働くアリの姿は勤勉な日本人の美徳の象徴とも言えます。書籍を愛する方々でさえ・・・校閲の仕事の尊さを知るものは少ないでしょう。しかし・・・皆さまのおかげで美しい日本語は存在し続けていると言っても過言ではありません。素晴らしいです・・・感動します・・・頭が下がります・・・今こそ・・・ご自分の勤勉さを誇りに想うべきです」

「そうです・・・家を買いましょう・・・208号室を」と思わず口走る庭野。

「余計なことを言うな・・・馬鹿もの!」

「・・・」

「ご清聴ありがとうございました・・・草壁様・・・お仕事中失礼しました」

風のように去っていく三軒家。

同僚に「家を買うの」と訊ねられ・・・思わず肯定する草壁だった。

そして・・・永田町で突撃取材中の日向を襲撃する二人。

「アリとキリギリスの話をご存じですか」

「私がキリギリスだと・・・」

「そうです・・・御存じでしょうか・・・欧州の一部では・・・アリと比較されるのはコロオギやセミなど鳴くものたちであることを・・・」

「もちろんよ」

「アリの生き方の虚しさを歌う者たちはからかいます」

「・・・」

「歌わずして・・・本当の人生を生きたと言えるのかと・・・」

「・・・」

「明日のことなど誰にもわかりません・・・今を生きるキリギリスこそ・・・輝いているのです。今欲しいなら今家を買い・・・苦しくなったら売ればいいのです・・・それでこそ資産価値の高い708号室に拘る日向様のプライドの証ではございませんか」

「私は誇り高きキリギリスか」

「ローンという不安を得てますます仕事に励みが出る・・・それでこそ日向様です」

「やはり・・・あなた・・・私に似てるわ」

「光栄です」

「今、契約できる」

「もちろんです」

こうして・・・草壁も日向も・・・三軒家に撃墜させられてしまうのだった。

「課長・・・キャビネットコート永田町208号室708号室2件まとめて私が売りました。庭野ではなく私が売りました!」

紆余曲折あっていつものゴールである。これがひねりというものだ。

おまけのエピローグ。

三軒家の部下として・・・飼い犬として・・・磨きのかかった庭野。

家路につきまとい・・・雨に降られて軒下に雨宿り・・・思わず手をとる庭野だった。

「雨宿り」といったら「ラブホ」だろうと考えるのは邪まなのです。

「あの・・・ホームレスの件なのですが」

「私が高校生の時・・・両親が事故で他界し・・・莫大な負債が残されました」

「相続放棄すればよかったのでは・・・」

「そんなことを教えてくれる大人は一人もいませんでした・・・家を売っても借金は五千万円残りました」

「・・・」

「家を失い・・・私は公園で暮らし始めました・・・梅雨時で・・・雨に打たれて寝ました。風をしのぐ壁があり、雨に降られぬ屋根がある」

「それが家・・・そういう家を売ること・・・」

「一週間後・・・肺炎を起こして瀕死となった私は保護されて入院し・・・施設に送られました」

「・・・」

「それから・・・朝昼晩と働きづめに働いて・・・去年、借金を完済したのです」

壮絶な三軒家の人生に・・・息を飲む庭野だった。

それが事実なのかどうかは・・・別として。

日向は・・・素晴らしいマンションを購入したことで・・・安住の地を求める男と結婚した。

とにかく「今」は幸せらしい。

そして・・・草壁は「ゴ~ゴ~♥」な感じのおタク様だった。

壁はかなり痛い感じに仕上がっているが・・・本人がご満悦なら・・・いいのである。

老女・・・日向・・・草壁・・・三軒家・・・シラスミカ・・・事務員と連なる独身女たちの系譜も見事なバランスなんだなあ・・・腕が冴えわたってるな。

関連するキッド→第4話のレビュー

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2016年8月10日 (水)

メガネと時計×2の人の顔について(波瑠)どういう表情をしたら正解なのかわからなくなっている君はかわいい(林遣都)狙い撃った男(横山裕)

辺境の王タンタロスは・・・息子のペロプスを神々の供物として捧げたことを主神ゼウスに咎められ・・・奈落(タルタロス)に落される。

神の裁きは・・・タンタロスの目の前に食物と水を置くが・・・タンタロスは食べることも飲むこともできないという刑罰に定まる。

殺そうと思っても殺せないもどかしさ・・・死のうとしても死ねないやるせなさは・・・神の呪いなのである。

身の置き所のない苦しみを・・・タンタロスの飢餓と呼ぶ由縁である。

人間の心のメカニズムについて・・・人は解明を試みるが・・・それは困難である。

動物実験や・・・障害者の研究によって脳における機能局在についてはある程度解明されているが・・・個々人の心の働きを解明するためには・・・膨大なデータの解析が求められる。

そして・・・基礎となるデータを得るためには・・・脳の解体が不可欠なのである。

一度、分解した脳を使用可能な状態に戻すことには無理があるのだった。

外科的な脳に対する処置によって・・・精神障害を緩和させる試み・・・前頭葉切除(ロボトミー)が20世紀に実施されたが・・・重大な副作用の顕在化により現在は「精神外科」そのものが廃れてしまっている。

そして、映画「カッコーの巣の上で」(1975年)を生んだのである。

一方で脳腫瘍の切除に関する医療技術は確実に進歩している。

外科手術以外にも定位放射線治療を行う放射線照射装置であるガンマナイフによればピンポイントでガンマ線を病変部に集中照射も可能である。

本編に登場する「携帯型の電磁波による腫瘍発生装置」は超技術であるが・・・電磁波による腫瘍の発生が証明できれば実現不可能なものではないと考える。

だが・・・その実用性を証明するためには・・・相当な動物実験が必要とされることは言うまでもない。

もちろん・・・軍事的な利用価値は高いため・・・以下省略。

で、『ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子・第5回』(フジテレビ20160809PM10~)原作・内藤了、脚本・古家和尚、演出・白木啓一郎を見た。感情は精神的なものと考えられがちだが精神もまた肉体から発生する物理的な現象であると考えられる。快感と脳内麻薬性物質との関係の研究は日々進捗している。「心配」もまた感情の一つである。それは「予見」と呼ばれる情報処理の結果、生じる肉体的な緊張と関連している。爆発音やサイレンの音、目の前に現れた猛獣、暗がりの中で恋人に肩を抱かれること・・・様々な刺激が人の心臓の鼓動を早め・・・不安な「気持ち」を生じさせる。はたして・・・警視庁刑事部捜査第一課の藤堂比奈子刑事(波瑠)は「心配」するのか・・・それとも「心配するべきだ」と「判断」するのか・・・すべては謎に包まれているし・・・その違いがわからないお茶の間の人々はかなり多いと予想される。

つまり・・・このドラマはかなり高尚なのである。

それはそれで潔いぞ・・・この程度の描写でクレームする人々は精神科を受診するべきだしな。

「私は目が見えないので世界から光を奪ってください」と主張しているのと同じだからな。

比奈子と東海林泰久刑事(横山裕)は五年前の「少女惨殺事件」と類似した変死体に遭遇する。

窓から吹き込む風で現場に散乱するキャンデーの包装紙が舞う。

比奈子は捜査資料により頭に叩き込まれた情報をチェックする。

東海林刑事にとっては・・・模倣犯による妹の殺害現場を想起させる光景だった。

厚田巌夫班長(渡部篤郎)率いる厚田班と片岡啓造(高橋努)が率いる片岡班が臨場する。

「遺体にキャンデーが詰め込まれていたことは非公開ですよね」

「そうだ・・・警察内部に犯人がいない場合・・・模倣犯である可能性は低い」

「遺体の腕にリストカットの痕跡があります・・・」と比奈子。

「被害者の身元確認の役に立つかもしれんな・・・周辺の心療内科を当たろう」

いつものように・・・興味深く遺体を見つめる比奈子を・・・東海林は無言で見つめる。

その眼差しには比奈子という存在に対する興味が浮かんでいるようだ。

「今回の犯人像の解析を・・・中島医師に頼みたいのだか」と片岡班長は厚田班長に提案する。

「いいんじゃないですか・・・彼は有能だ」と進言する東海林。

比奈子は疑問を浮かべる。

二人きりになった時に疑問を口にする比奈子。

「中島先生は・・・容疑者の一人ではないのですか」

「あれは・・・あくまで・・・奇妙な連続自殺に関してのことだ・・・情報は正当な捜査によるものではないしな・・・それに・・・怪しいのは中島先生より・・・早坂院長の方だろう・・・どちらにしろ・・・今は事件かどうかもわからない連続自殺の件より・・・殺人事件の解決が優先だ・・・」

「・・・」

比奈子は・・・連続自殺と殺人事件が関連している可能性を疑うが・・・それを口にはできない。

心療内科医の中島保(林遣都)と比奈子の交流は一種のプライベートな領域に属しているからである。

そして・・・中島より・・・テレビ番組に出演の際、「神の裁き」を口にして犯罪者の連続自殺を肯定した「ハヤサカメンタルクリニック」の早坂雅臣院長(光石研)が疑わしい点には同意できる。

帝都大学医学部の法医学教授・石上妙子(原田美枝子)は検死解剖の結果を報告する。

「推測される凶器の形状や遺体の状況は五年前に酷似しているわ」

「すると・・・五年前の犯人による犯行が高いな」

「ただ・・・気になる点もある・・・五年前より・・・殺し方が丁寧なのよ」

「快楽殺人者は犯行がエスカレートするのが一般的ですよね」と比奈子。

「単に・・・犯人の腕があがったんじゃないのか」

「・・・五年間・・・ずっと腕を磨いていたと・・・」

厚田班長と比奈子は中島に・・・犯人像の解析を依頼する。

「もし・・・五年前の事件の第一発見者となったことで精神的外傷などのストレスを感じているなら・・・無理強いはしません」

「大丈夫です・・・」

二人きりになったところで中島は囁く。

「僕のことを心配してくれたんですね」

「データを読みこんでいたのに・・・先生が第一発見者であることに気が付きませんでした」

「キャンデーに対する僕のパニック状態で・・・気がついたということですか」

「・・・」

「もう大丈夫です・・・それに僕にとって・・・あのことは・・・乗り越えなければいけない壁のようなものなのです」

部屋探しをしていた大学院生の中島は・・・死体を発見してショックで失神し・・・心のケアを必要とした。帝都大学の電子工学部に所属していた中島は・・・ケアを担当した早坂院長と出会い・・・心療内科医に転向したのである。

「先生は・・・あの事件の犯人を今までプロファイリングなさったことはないのですか」

「ありません・・・これから・・・じっくりと犯人と向き合うつもりです」

比奈子の中で目まぐるしい推測が渦巻くが・・・それを外見から伺うことはできない。

ただ・・・それを感じさせる演技力が波瑠にはあるらしい。

超絶的なテクニックだな・・・。

石上妙子は・・・比奈子たちに興味深い論文を発掘したことを告げる。

「電磁的刺激による・・・心のケア」である。

「どういう研究でしょうか」

「虐待による精神的外傷を・・・外科的治療で緩和するというものよ・・・もちろん・・・精神外科という廃れたジャンルに属するものなので・・・研究は頓挫したらしい・・・問題は・・・研究者よ」

研究者は早坂院長。そして共同研究者として中島医師が参加していた。

「電子工学の研究者だった中島くんは・・・装置開発を担当したらしい・・・」

「装置・・・」

「電磁的に・・・心をケアする装置よ・・・」

「そんなことが可能なのでしょうか」

「死体の専門家に聞かないで・・・」

遺体だけを解剖する外科医と・・・普通の外科医の最大の違いは・・・前者は失敗しても誰も殺さないという点にある。

つまり・・・普通の外科医は常に「患者を殺す恐怖」と戦っているわけである。

「そういう意味では・・・私は・・・臆病な医師と言えるのよ・・・逆に言えば・・・普通の外科医は毎日・・・人間を殺すかもしれない行為を平気でしていると言える」

「それは・・・死亡事故を起こす可能性がある・・・すべてのドライバーと同じじゃないですか」

「まあね・・・やはりあなたはそう考えるのね」

「・・・」

「とにかく・・・結婚相手として・・・中島くんは要注意よ」

「先生は結婚なされたことがあるのですか」

「一度ね・・・あれは面倒だったわ」

「面倒って」

「ハヤサカメンタルクリニック」に不審な男が現れていた・・・。

「早坂先生はお留守です」と受付嬢(小松春佳)ともめる男。

「どうかしましたか・・・」と中島が介入する。

「指示が欲しいんです」

「指示?」

そこへ・・・早坂院長が現れる。

「君は・・・」

「先生」

「とにかく・・・こちらへ・・・」

早坂院長は男を隠すように院長室に引き入れる。

「あれは・・・患者さんなの」と受付嬢に尋ねる中島。

「いいえ・・・見知らぬ人です」

「・・・」

中島の顔に院長への不信感が浮かび上がる。

東海林と比奈子は・・・早坂院長を訪ねる。

奇妙な連続自殺と早坂院長の関連を追及する二人・・・。

「五人の連続自殺者と・・・先生が深い関係にあったことは・・・偶然ですか」

「それは・・・偶然とは言い切れないだろうね」

「まさか・・・先生が自殺させてるんじゃないでしょうね」

「君は・・・潜入という言葉を知っているかね」

「潜入・・・」

「プロファイリングは統計学を基にした行動科学的分析だ・・・犯人像や犯人の行動の予測にはある程度有効だ。しかし、潜入は対象の意識化に潜って犯人と精神を同一化させる手法です。 相手が犯罪者であればより鮮明に犯行時の精神状態を把握することができるんですよ。つまり・・・分析者が犯人の心理そのものに同化したように・・・」

「それは・・・かなり危険なことではないのですか」と比奈子。

「もちろん・・・犯罪者の心理そのものを理解することは危険です。なにしろ・・・犯罪を肯定することにもなりかねない。分析者は充分に修練する必要があります」

「それで・・・犯罪者を自殺に追い込むことができるのですか」

「できます・・・しかし・・・それを実証することは不可能だ・・・」

「・・・」

「日本の医学界では・・・それが可能であることを認めていないから」

「あなたが・・・神の裁きを下していると」と東海林は斬り込む。

「私は・・・恥ずべきことは何もしていない・・・もしも・・・私が何か法的に問題がある行為をしているというのなら・・・証拠を持って出直したまえ・・・ふふふ」

「・・・」

引きさがる二人。

「東海林先輩・・・」

「魔法使いを逮捕することはできない・・・」

「・・・」

風に吹かれキャンデーの包装紙が舞っていた。

第一の事件の殺害現場。

比奈子は・・・少女の無惨な死体を見下ろす。

「あなたも・・・ここへ来ていたんですね」

中島が現れる。

比奈子はそれが夢だと自覚する。

「私が得たデータの中で最も興味深い事件ですから・・・」

「データか・・・ではあなたにはこの匂いや・・・彼女の叫びは感じられないのでしょう」

「キャンデーの甘い香りは想像することができます。死体から発する血の匂い・・・弛緩によって排出される体内の汚物の腐敗臭は何度も現場で体験しています」

「しかし・・・感情のないあなたには・・・殺された少女の叫びは聞き取れない・・・その哀しさ・・・口惜しさ・・・苦しさがわからない」

「・・・」

「それは・・・この世界を呪っているのです」

「先生・・・」

「ほら・・・犯人がそこにいます」

「比奈ちゃん」

比奈子は上位自我として精神を抑圧する亡き母・香織(奥貫薫)の声を聴く。

比奈子は夢から離脱するために・・・八幡屋礒五郎の七味唐辛子を手にする。

自宅のベッドで覚醒した比奈子は・・・中島に電話をする。

しかし・・・応答はない。

比奈子は中島が非常に危険な領域にあることを予見していた。

比奈子は一日中・・・中島に電話をかける。

その姿に新人鑑識官の月岡真紀(佐藤玲)は「恋する乙女」を感じるのだった。

しかし・・・「恋」という感情が・・・比奈子に存在するのかどうかは・・・謎である。

三木鑑識官(斉藤慎二)は「包装紙は五年間に買いためた形跡がある」と語る。

「連絡待ってます」

比奈子は恋人に送るように中島にメールを送信する。

「連絡できなくてすみません・・・」

中島からの電話があった。

「今日はメンタルクリニックに伺ったのですが・・・先生はお休みでした」

「明日・・・すべてが明らかになります・・・明日の朝・・・メールで住所を送信しますのでその場所を訪ねてください」

「先生・・・犯人に潜入したのですか」

「さようなら」

中島は早坂院長に罠を仕掛ける。

「先生は・・・彼を確保していたのですね」

「中島くん・・・」

「罪のない患者を・・・彼に与えるなんて・・・」

「神の裁きを・・・世間に認知させるために必要な処置だ・・・犯罪者のいない世界を招聘させるための尊い犠牲じゃないか」

「先生・・・それは僕に対する裏切りですよ・・・彼の居場所はわかっていますから」

「中島くん・・・」

早坂は・・・中島の元へと急ぐ。

しかし・・・久保の部屋には誰もいない。

中島から着信がある。

「一体・・・どうする気だ・・・彼はどうした」

「押入れの中です」

なだれ落ちるキャンデーの山。

「これは・・・」

キャンデー殺人事件の犯人・・・久保一弥(中林大樹)は甘い香りに誘われて現れた。

久保は早坂を刺した。

その腹をひきさく。

その手を床に釘付けにする。

「先生は一年かけて・・・彼を調整したようですが・・・僕は一晩で・・・充分でしたよ・・・あなたへの信頼を憎悪に書き換えることはたやすかった」

「愛を・・・憎しみにか・・・」

そして久保は・・・早坂の引き裂かれた腹に・・・弛緩した口腔内に・・・キャンデーを詰め込むのだった。

倉島敬一郎刑事(要潤)は比奈子からの体調不良の連絡を受ける。

「無理をしてはいけないぞ・・・」

その会話に・・・東海林は直感的に疑いを持つ。

(あの女・・・また単独行動を・・・)

厚田班長は・・・中島から・・・メールを受け取る。

「犯人像か・・・えっ・・・これが犯人本人だと・・・」

片岡班も別ルートから容疑者として久保を割り出していた。

「どうなってんだ」

現場へ急行し・・・早坂の死体を発見する刑事たち・・・。

「おっさん相手でもいいのかよ・・・」

「異常嗜好だな・・・」

その頃・・・比奈子は養護施設に勤務する・・・元刑務官の壬生(利重剛)に会っていた。

「あなたとは一度お会いしていますね・・・藤堂さん・・・」

「あなたは・・・」

「早坂先生は・・・性善説を信じていらっしゃった」

「・・・」

「人間は誰もが生まれついて善良な心を持っている・・・生育する環境が・・・悪を生むのだと」

「それは割と普遍的な考え方ではありませんか」

「早坂先生は・・・潜入という名の・・・洗脳で・・・人格改造ができると信じていらっしゃいました・・・悪に染まった精神を・・・浄化できるというお考えです。しかし・・・それには限界があった。心を開かない相手には無効です」

「・・・」

「そこで・・・電子工学の天才だった中島先生に電磁波による脳機能の一部破壊を提案したのです」

「閉ざされた心・・・生理的な防衛機能の破壊ですね」

「そうです・・・早坂先生は・・・脳の一部を破壊すれば犯罪者が心を開き・・・その罪を悔み・・・善導できると」

「・・・」

「しかし・・・設計者の中島先生は知っていた・・・脳機能の腫瘍化による停止で殺人衝動が・・・自己破壊衝動へと転換されることを・・・」

「自分で自分を殺すようになると」

「殺したい気持ちと死にたい気持ちは似ているでしょう。人を殺すことに変わりないですから。まさに神の裁きだ・・・私は早坂先生より・・・中島先生を指示しています・・・あいつらはみんな死ぬべきだ」

「しかし・・・それでは・・・」

「中島先生は・・・今日・・・すべてを清算するとおっしゃってました」

その時・・・厚田班長からの着信がある。

「早坂院長が殺された・・・人手が足りないんだが・・・体調はどうだ」

「中島先生は・・・」

「中島先生とも連絡がつかない」

「第一の犯行現場です・・・」

「え」

「犯人は現場に戻るのです・・・原点に・・・」

比奈子は走る。

まるで恋人の元へと急ぐ乙女のように・・・。

中島と久保は五年間・・・借り手のいない殺人現場にいた。

「君は・・・どうして・・・彼女を殺したんだ」

「小さい頃から・・・動物を解剖してきました・・・いつか人間を解剖してみたい・・・そう思い続けて大学を卒業し就職した・・・その記念です」

「それからどうした・・・」

「いつもいつも・・・キャンデーの甘い香りを嗅ぐ度に・・・あの日のことを思い出しました・・・性的興奮を覚え・・・自慰をする・・・それだけで満足していたのです・・・それを早坂先生・・・早坂が・・・」

「君を唆したんだね」

「ええ・・・思い出だけでは・・・虚しいと・・・今を生きろと・・・そうです・・・素晴らしかった・・・むせるようなあの・・・汚れた温もり・・・」

中島は腕時計に仕込まれた電磁波発生機を作動させる。

そこに比奈子が到着する。

「先生・・・ここで何を・・・」

「よく・・・ここだとわかりましたね」

「夢の中で・・・先生と会ったんです」

「それは・・・素敵な偶然だ」

「この女は・・・警察・・・あんた・・・どういうつもりだ」と激昂する久保。

「殺ればいい」

久保の怒りが喜びに転化する。

比奈子見る目に欲望の火が灯る。

「そうだね・・・我慢することはない・・・殺したいのに殺さないなんて馬鹿げてる」

比奈子は中島を見つめる。

比奈子は・・・戸惑いの表情を選択する。

中島は微笑んだ。

久保の顔に怯えが浮かんだ。

久保は見た。

自分を殺そうとする自分の姿を。

殺意は自殺衝動に変換され・・・久保の精神は分裂する。

「殺したい・・・自分自身を・・・」

久保はキャンデーを頬ばった。

ナイフで自分の腹を引き裂く。

思わず制止しようと足を踏み出す比奈子。

しかし・・・比奈子を羽交い締めにする中島。

「ちゃんと見て・・・犯罪者が自らの手で・・・自分を捌くところを・・・」

「中島先生・・・」

「僕には聞こえる・・・被害者の叫びが・・・復讐の祈りが・・・」

「・・・」

久保は自分の手に釘を刺しこむ。

「ああああああ」

「僕は復讐者になった・・・そして・・・感じた・・・快感を・・・犯罪者たちを殺す喜びを」

「中島先生・・・」

久保は着実に自分を殺し終わった。

「そうだ・・・僕は・・・犯罪者になっちゃったんだ・・・でも忘れないで・・・あなたの手はまだ清らかだ・・・だから・・・さようなら」

拳銃自殺を図る中島・・・しかし・・・駆けつけた東海林が・・・窓の外から中島の手を狙い撃ちにする。

「拳銃自殺の時はこめかみじゃなくて・・・口に咥えないと・・・死にそこなう可能性が高い」

虚無の海を漂う比奈子。

厚田班長が部屋に侵入する。

「藤堂・・・どういうことだ」

「中島先生が・・・やりました」

厚田は中島を確保する。

「緊急逮捕するぞ」

「・・・」

「中島先生・・・不思議なのですが・・・」

「・・・」

「あなたのその顔は見たくなかったと思うべきだと・・・」

「やはり・・・思うべきなんですね」

放心したように表情を失う比奈子・・・。

とりつくろうことができない・・・比奈子の素顔である。

比奈子は・・・どんな顔をすればいいのか・・・判断に迷っていたのである。

超技術による自殺衝動の誘発を実証することは困難だった。

人体実験ができないからである。

「罪に問うにしても・・・犯人隠匿ぐらいだからねえ・・・」

デスクで厚田課長はぼやく。

「彼は・・・しかるべき施設に入院ということになった」

比奈子は神妙な顔をした。

「どんな人間も犯罪者になる可能性はある・・・俺はそれがこわくて子供を作れなかった」

「班長は・・・結婚されていたのですか」

「あれは・・・面倒だったな」

「面倒って・・・」

自動販売機の前で・・・東海林は・・・早坂の言葉を思い出していた。

「初対面で・・・コーヒーに七味唐辛子を入れるという行為で・・・彼女は奇妙な女性であるという初頭効果・・・印象付けることができる・・・」

「おつかれさまです」

挨拶する比奈子に東海林は要求する。

「一度・・・試させろよ」

「体をですか」

「七味だよ」

比奈子は素直に七味を投入する。

「うわ・・・まずっ」

東海林は比奈子に興味を感じる。

目の前にいるのは常識の通じない・・・何か・・・奇妙な生き物なのだ。

比奈子はいつものように平常心を装っていた。

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2016年8月 9日 (火)

好きな人と浴衣でおでかけすること(桐谷美玲)恋は甘く恋は苦い(山崎賢人)失われた時を求めてはいけない(阿部純子)

土曜日を駆け抜けていった女子高校生の恋のドラマ「時をかける少女」では時間は巻き戻されまくっていたが・・・「月9」の大人の恋は・・・時間は巻き戻せないのが前提である。

しかし、失敗したらやりなおせばいいらしい。

もちろん・・・時間は限られているので無限にやり直せるわけではない。

ゲームの世界では・・・制限時間というものが一つのルールになっている。

ゆっくりやれば難易度が低くなるものを時間を制限することで高難度にするわけである。

たとえば・・・競泳という競技では・・・誰よりも早くゴールしたら優勝という時間制限があるわけだ。

そして・・・たとえば五輪の決勝レースともなれば・・・失敗すれば・・・次のチャンスは四年後という時間制限になる。

では・・・「失敗してもやりなおせない」ではないか・・・と考える人もいるだろう。

この場合・・・「やりなおし」は前倒しになる。

本番前に何度も何度もやり直す・・・つまり、反復練習である。

あらかじめやりなおしておいて・・・本番にすべてをかけるのだ。

それは人生というゲームの基本システムなのである。

女子高校生の恋がやり直せるのは・・・それがまだ練習だからである。

もう恋なんてしないと思うほど失敗しても女子高校生なら気にすることはない。

本番はこれからなのだ。

恋の五輪は大人になってからである。

ドラマだって本番前にはリハーサルを積み重ねる。

もちろん・・・大人になってから失敗すると・・・アウトになる場合があるので注意が必要です。

ドラマなどの「恋の虚構」はあくまでテキストである。

そして・・・やりなおせないほどの年齢のあなたにとっては・・・甘いメモリーなのである。

で、『好きな人がいること・第5回』(フジテレビ20160808PM9~)脚本・桑村さや香、演出・金井紘を見た。憧れの先輩・柴崎千秋(三浦翔平)に誘われ、千秋の経営する海辺の町のレストラン「Sea Sons」でパティシエとして働くことになった櫻井美咲(桐谷美玲)・・・。強力な恋仇として千秋の元カノである高月楓(菜々緒)が現れピンチに陥るが・・・復縁を申し出た楓を千秋が拒絶することによって・・・ノーアウト、二塁三塁のチャンスに打席が回ってくるのである。・・・そのたとえはまったく意味不明だ。勇気を出して「花火大会に行きたい」とつぶやいた美咲は・・・千秋と一緒に「江ノ島花火大会」におでかけすることになる。有頂天になって千秋の弟でカリスマ・シェフの夏向(山崎賢人)に「デートの件」を報告する美咲・・・しかし・・・美咲に仄かな想いを寄せているらしい夏向は・・・「行くな」と言うのだった。

「え・・・」

「花火大会に行くなと言っている」

茫然とする美咲・・・。

しかし・・・夏向が自分に恋をしているとは夢にも思わない美咲は・・・。

「ああ・・・花火大会で告白したりして・・・大失恋とか・・・そうなるのを心配してくれてるの?・・・あなたが私のことを心配してくれるなんて・・・意外だわ・・・でも大丈夫・・・一緒に花火を見るだけで・・・私は大満足なんだから・・・」

美咲の勝手な解釈に憮然とする夏向だった・・・。

後輩の石川若葉(阿部純子)に電話で「花火を千秋と見に行く件」を報告する美咲である。

今回の若葉はカープ女子として登場。

若葉は青春をエンジョイしすぎだな。

ちなみに「ラブソング」のヒロインもカープ女子だった。

謎のカープ女子推しである。

何故か・・・横浜DeNAベイスターズが二軍の本拠地として使用している横須賀スタジアムにエキストラが集合したらしい。

そして・・・背番号33の内野手・菊池涼介(26)・・・シーズン補殺:535の日本プロ野球記録保持者・・・推しである。

「光を追い越しメーター振り切り駆け抜けろ止まらないぜ韋駄天菊池」

「え・・・」

「美咲先輩凄いじゃないですか」

「そう?」

「行け行け美咲!千秋の恋人美咲は最高!」

「えへへ」

「美咲、それ美咲」

美咲にエールを贈る電話の向こうの広島カープファン一同である。

五輪の際中ですが・・・プロ野球のことも思い出してあげてくださいというメッセージなのか。

まあ・・・広島カープは「こい」の球団である。鯉の恋はだじゃれの極みだからな。

とにかく・・・赤いウサギの抱き枕「ウサギ型宇宙人RAB(ラブ)」を抱きしめる美咲だった。

うつ伏せになった美咲が膝を曲げ、正面からとらえた画像では・・・美咲のそろえた足の裏がウサギの耳となっていることに注目してください。

バニーガール美咲である。

繁殖力旺盛なバニーは性欲の象徴である。

そして・・・ウサギの赤い目は・・・恋に夢中になると寝不足になることを暗示しています。

・・・妄想激しいな。

五輪に夢中で目が真っ赤だからな。

こうして・・・美咲の恋は暴走を開始するのだった。

翌朝・・・三男の柴崎冬真(野村周平)は「千秋と美咲の花火大会デート」を冷やかす。

「ここは浴衣で決めるべきだね」

「浴衣?」

「兄貴は・・・可愛い浴衣少女が大好物なのさ」

「そんな・・・千秋さんを変態みたいに・・・」

「またまた・・・変態が好きなくせに~」

もちろん・・・美咲も千秋とあんなことやこんなことをしたり「としまえん」にも行ってみたいのだった。

さあ・・・水着サービスのフラグかっ。

千秋のために・・・誰もが二割増しになるという浴衣サービスについて考える美咲。

サーフショップ「LEG END」のオーナー日村(浜野謙太)と交際中の奥田実果子(佐野ひなこ)も「花火大会で浴衣は定番」と推奨する。

「できれば・・・花火の前に告白はすませておきたいわねえ」

「え」

「だって・・・好きな人と見る花火も楽しいけど・・・恋人と一緒に見る花火は最高だから」

「・・・」

美咲の前にハードルが示されるのだった。

ショーウインドウの浴衣を見つめる美咲の前に日村が現れ・・・コーディネイトを申し出る。

美咲は可愛い大輪の花柄の浴衣をゲットした!

デートへの期待が爆発しそうな美咲である。

さて・・・同時並行で進むミステリ展開・・・謎の美少女風の西島愛海(大原櫻子)はレストラン「Sea Sons」に来店。千秋に要件を切りだす。

「私の名前は・・・西島愛海・・・イソヤマナギサの娘です」

顔色が変わる千秋・・・千秋を飼いならしたい企業家の東村了(吉田鋼太郎)の持ちだした戸籍謄本の件と絡めて・・・柴崎兄弟には出生の秘密があるわけである。

しかし・・・そのことについて触れられることを頑なに拒絶する千秋だった。

「俺たち兄弟のことはほっといてくれ」

「・・・」

さらに・・・料理人になることになんらかの悩みを抱える冬真の件もあるが・・・これはまだ「問題」が生じていることを匂わせる段階である。

今回進展するのは・・・美咲が好きな人を同じく好きな人の楓の抱える秘密である。

ライバルでいいじゃないか。

今回文章力問題あるな。

今、卓球の強すぎる愛ちゃんで頭がいっぱいです。・・・おいっ。

ウキウキする美咲は・・・喫茶店の窓際の席に座る・・・楓と謎の男(阿部進之介)を目撃。

楓から金を受け取った男は去っていく。

美咲に気がつく楓・・・。

「誤解しないでね・・・留学ってお金がかかるの・・・借りてたお金を返しただけよ」

「でも・・・留学は嘘なんでしょう」

「え」

「ごめんなさい・・・あの時・・・立ち聞きしてしまいました」

「よかったわね・・・私・・・今日でこの街を出るわ」

「でも・・・」

「気にしないで・・・千秋のことは・・・ちょっとした遊びだから・・・ひと夏くらい・・・また遊んでもいいかなと思っただけ・・・」

美咲は・・・楓が嘘をついている気配を感じるが・・・語りかける言葉が見つからないのだった。

美咲には新たな選択肢が生じたのである。

①千秋に告白する

②千秋に楓が街を出て行くことを伝える

思い悩む美咲。

そこで・・・夏向に相談することを決意する。

ちなみに夏向の部屋の窓から階下の美咲の部屋の窓は見下ろせる。

夏向は美咲の頭に貝殻を投げつけて遊ぶことのできるシステムである。

さらに・・・夏向は高さのあるベッドを使用している。

夏向の部屋の床にすわった美咲を見下ろすポジションなのである。

体は上位にある夏向だが・・・気持ちは美咲を仰ぎ見ている。

そういう変態的なポジショニングである。

「そんなこと・・・伝えても仕方がない・・・二人は破局しているんだから」

美咲の望んでいた回答を与える夏向・・・。

「よかった・・・気持ちがすっきりした」

「・・・」

「でも・・・緊張して来たな・・・明日のデート」

「・・・」

「好きな人がいることが・・・こんなに楽しいことだなんて」

「・・・」

「ほら・・・浴衣かわいいでしょう」

夏向の心を知らず語りまくる美咲。

ついに爆発する夏向。

「お前の浴衣姿なんて誰も興味がない・・・花火大会なんか・・・くだらない・・・俺の前でその話はやめろ」

「・・・ひどい」

「出ていけ」

部屋から美咲を追い出す夏向だった。

花火大会当日・・・美容院でデートのために「いつもよりきれいになる」美咲である。

美容師(ふせえり)はバンサークローの幹部なので女子・レッドと戦闘シーンに突入しそうでドキドキする。

・・・世界でお前だけだぞ。

美容師に「デートなら・・・もっとかわいくドレスアップしないと」と営業される美咲。

「でも・・・」

「ダメよダメダメ~」

美咲は「かわいい玉簪」を頭にさした!

待ち合わせ場所に千秋が現れ・・・デート開始である。

「バーベキュー大会」の画像を美咲、夏向、そして千秋が・・・三者三様で見つめたシーンから・・・千秋は楓を忘れようとしてこのイベントに参加していることが推察できる。

千秋はスマートフォンで「かわいい浴衣姿の美咲」を盗撮して・・・新しいメモリーを追加するのだった。

穴場スポットへと移動を開始する二人。

美咲は上級者向けの「花火の前の告白」にチャレンジする。

しかし・・・いつもの子供たちがそれを阻止するのだった。

子供たちは恋を知らないからである。

きっかけを失った美咲に千秋が「穴場へ行く前の飲み物の調達」を申し出る。

おそらく・・・「穴場」は三兄弟の口説きスポットなのであろう。

とりのこされた美咲・・・チンピラ登場の場面であるが・・・現れたのは謎の男。

謎の男は・・・楓を捜していた。

そして・・・饒舌にすべての事情を話すのだった。

ちなみに・・・男は夏向にもまったく同じ話をします。

男は高月誠・・・楓の兄であった。

事情は明らかにされないが・・・誠には多額の借金があり・・・その返済のために・・・楓は水商売に身を落したらしい。

「えええええ」

デートの前にもっとも聞いてはいけない・・・好きな人の元カノの「かわいそうな話」である。

戻って来た千秋と「花火見物・・・地元民だけの秘密スポット」に到着した美咲。

しかし・・・「楓の話」をしないわけにはいかなくなった美咲である。

「行ってください・・・楓さんは・・・まだ駅にいます・・・私は・・・東京の友達を呼んでるんで大丈夫です」

変な嘘でその場をしのぐ美咲である。

「ごめん」

千秋は下駄を鳴らして駅へと走るのだった。

たちまち始る恋の打ち上げ花火・・・。

駅のホームで楓をキャッチする千秋だった。

「なにしにきたの・・・」

「すまなかった・・・お前のこと気付いてやれなくて」

「・・・」

「お前を悲しませて・・・主に泣かせて・・・」

楓を抱きしめる千秋だった。

一人で花火を見る浴衣の女。

下駄が海面に落下しそうでハラハラするのだった。

お・・・このポイントが天使テンメイ様と完全にかぶったのでございます。

いつだったか忘れたが・・・たしかに落下する下駄だかサンダルの記憶がある。

母さん・・・あのサンダルはどうしたでしょうね。

冥い海に落ちて行ったあのサンダルですよ・・・。

「何・・・泣いてるんだよ」

「え」

事情を察した夏向が現れた!

「あの男・・・店にも来たよ・・・お前に話したのと同じ話をしていたよ」

「・・・慰めにきてくれたの」

「・・・」

「花火ってさ・・・好きな人がいようといまいと・・・綺麗だよね・・・私・・・バカだから・・・本当は少し・・・期待してた・・・楓さんのことを伝えても・・・千秋さんは私を選んでくれるんじゃなかって・・・でも・・・ダッシュして行っちゃったよ・・・まあね・・・浴衣なんか来ても・・・中身が変わるわけじゃないもんね」

「思ったより・・・似合ってるぞ」

「今さら・・・そんなこと言われても・・・好きな人がいるって・・・こんなに苦しいんだね。さっきまで楽しかったのが嘘みたい・・・だって・・・千秋さんがいなくなっちゃったんだもん」

「・・・俺がいるだろう・・・俺がそばにいてやるんだから・・・我慢しろ」

「・・・」

一部お茶の間はうっとりするのだった。

美咲の制限時間はまだまだたっぷりあるようだ。

そして、深夜・・・早朝(日本時間)である・・・速報で柔道男子・大野将平選手の金メダル獲得のニュースが今、流れました。

王者不在の八年・・・長かったなあ・・・。

四年前の唯一の女王・松本薫選手は銅メダルに終わったが・・・誰も文句は言うまい。

銅メダルの松本はインタビューに応える。

「うれしくもあり・・・くやしくもあり・・・甘酸っぱい気持ちです」

恋なんだな。

この夏の光と影はまだまだ続くのである。

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2016年8月 8日 (月)

日の本に花咲く秀頼、枯れて果てる秀吉・・・この世に罪などひとつもない(長澤まさみ)

豊臣秀吉が伏見城で逝去した時、朝鮮半島の蔚山城や順天城では加藤清正や小西行長が明・朝鮮連合軍と激戦を繰り広げていた。

織田・徳川連合軍と武田信玄の戦いの再来である。

信玄は陣中で没し武田軍は戦闘の継続が不可能になる。

すべては主君のための戦だからである。

主君からの報奨のあてがなくなれば・・・戦う意味がなくなるのである。

秀吉の残した政府機関と言える大老たちは早速、停戦交渉に入るのだった。

もちろん・・・信玄の死が隠匿されたように・・・秀吉の死は秘された。

停戦合意がなされるが・・・敵は・・・秀吉の死に気付くと約束を破り襲いかかってくる。

しかし、それはもう少し先の話である。

秀吉は死の直前に・・・大老のシステムを整えつつあった。

大老は六人いたが・・・秀吉より先に筑前52万石の小早川隆景が逝去し、秀吉の死の直後には五大老となっている。

筆頭は関東256万石の徳川家康である。

北陸83万石の前田利家。

備前57万石の宇喜多秀家。

中国120万石の毛利輝元。

この四人が停戦交渉にあたる。

会津120万石の上杉景勝は領地にあって不在である。

家康以外の大老の石数を合わせれば家康以上になるわけだが・・・豊臣家にとって致命的なことは・・・秀吉の盟友である前田利家の余命がいくばくもなかったことなのである。

一種の地方分権制度の勢力である五大老にたいし・・・豊臣政権は中央集権制度の要として五人の官僚を配置していた。いわゆる五奉行である。

行政官として大老筆頭に対峙することになる石田三成は近江佐和山19万石の大名だった。

五奉行の筆頭は甲斐甲府22万石の浅野長政。

次席が丹波亀山5万石の前田玄以である。

三成の同格者として大和郡山22万石の増田長盛があり・・・財務官僚として近江水口5万石の長束正家がいる。

実力として・・・五大老と五奉行の差異は大きい。

まして・・・徳川家康と石田三成の格差は十倍以上である。

石田三成に一定のファンがいるのは・・・この弱者の大博打にロマンを感じるからなのだろう。

まあ・・・勝負というものは終わってみないとわからないからな。

いや・・・四百年以上も前にもう終わってるんだけどな。

で、『真田丸・第31回』(NHK総合20160807PM8~)脚本・三谷幸喜、演出・木村隆文を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は真田信幸の正室の実父であり・・・徳川軍団最強の猛将・本多平八郎忠勝の描き下ろしイラスト大公開でお得でございます。待ちに待った忠勝キターッ!です。しかし、あくまでマイペースでお願い申し上げます。「戦は嫌い」と家康に言わせるというものすごい展開ですな。その理由はただひとつ「自分が殺されるかもしれないから」・・・天晴でございました。しかし・・・家康でございますので・・・どこまで本心かは謎でございますよね。このドラマにおける家康は実に複雑な性格になっておりますよね。基本はものすごい臆病ものなのですが・・・敵に対する愛情が半端ない・・・。北条の時もそうですが・・・今回は秀吉のことが憐れで憐れでたまらない風情・・・。やはり・・・少し武田の軍師の心が残っている気がしますな。策士である本多親子に踊らされながら・・・お前たちの魂胆はわかってるぞ・・・的な表情がたまりませんな。そして・・・家康暗殺未遂事件・・・。秀忠の挙動にはっきりと示される家康の血筋・・・。怯えすぎでございますよねえ。しかし・・・ある意味でこれが人間という小動物の本質なのかもしれません。猛獣にあったら食べられちゃうという恐怖。おそらく・・・秀忠は・・・家康をさらにデフォルメした形で・・・それを体現してくるような気がします・・・っていうかもうしてますね。殺さなければ殺される時代の終焉。それはすべて・・・家康の恐怖心によって具現化されるのかもしれません。そして・・・また・・・忍法「死んだフリ」が冴えわたるのかどうかも楽しみです。信幸に続いて昌幸も騙されちゃうのか?・・・次回のクレジット出浦(回想)になってるかどうか・・・でございます。史実では出浦昌相は元和九年(1623年)まで生きてますし・・・。まあ・・・忍びなので別人かもしれませんが・・・。

Sanada031出浦対馬守には盛清、守清、昌相、幸久、頼幸・・・と様々な名前があり・・・一部は誤伝ともされるが・・・忍びなのでいくつ名前があってもおかしくはないのである。慶長三年(1598年)四月、豊臣秀吉は秀頼とともに参内。秀頼は中納言に推挙される。上杉景勝、毛利輝元は権中納言を辞退。秀頼が従二位権中納言に任官する。秀吉は予定されていた有馬湯治を延期する。五月、朝鮮に派遣されていた福原長堯(石田三成の妹婿)が帰国。戦況を秀吉に報告する。蜂須賀家政・黒田長政などが戦略的撤退をしたことに秀吉が激怒。秀吉は石田三成に筑前国・筑後国を与えようとしたが三成は辞退。秀吉は翌年、福島正則、石田三成、増田長盛に大将として朝鮮に出陣することを命ずる。六月、秀吉は病床の側室・松丸殿(京極竜子)を見舞い自身の病状の悪化を伝える。松丸殿は寛永十一年(1634年)まで長寿を保つ。大谷吉継は越前国西福寺に寺領安堵の旨を通知する。七月、秀吉は諸大名に秀頼への忠誠を誓う起請文の提出を命じる。秀吉は島津義弘・鍋島直茂へ病状が回復したことを通知する。八月、秀吉は家康に三年間の在京を命ずる。秀頼の大坂城に諸大名の妻子を人質として置くことを命ずる。秀吉は「いへやす」(家康)「ちくせん」(前田利家)「てるもと」(毛利輝元)「かけかつ」(上杉景勝)「秀いへ」(宇喜多秀家)に自筆遺言状を認め、「秀より」(秀頼)を託す。安国寺恵瓊は末座にいた。十八日、秀吉、伏見城にて死す。

大和国守護だった筒井定次が伊賀上野に転封された時、大和の忍びだった島左近清興は新たな国主となった豊臣秀長に仕えた。秀長の後継者・秀保の時に浪人し、石田三成の招きに応じる。

戦下手で知られる三成は・・・戦場のことを島左近に託したと言われる。

左近の娘・珠は柳生石舟斎の孫で柳生宗矩の甥である柳生利厳に嫁ぐ。

柳生家は大和争乱において松永氏に従った一族だが忍びには一種の横の繋がりがあった。

そもそも筒井家は僧兵忍びの一族である。

幼少の秀吉に兵法を教え、後に臣下となる武芸者・松下之綱の娘・おりんは柳生宗矩の正室となっている。

太閤検地による隠し田発覚のために没落したと言われる柳生家だが・・・柳生の里は怪しい存在感を常に醸しだしているのだった。

柳生宗矩を生んだ石舟斎の正室は伊賀名張の流れをくむ興ヶ原一族のくのいちである。

真田家からも鈴木右近が柳生宗矩の弟・柳生宗章に剣を指南されている。

もちろん・・・右近は・・・柳生家の内情を探るための密偵だった。

信長の伊賀攻めによって・・・衰退したかに見えた伊賀の忍びが・・・徳川家康の下で服部半蔵影の軍団として健在であるように・・・忍びたちは・・・常に影の中でしたたかに生き延びているのだった。

「家康を暗殺できるか・・・」

伏見城天守から石田屋敷に戻った三成は蒼白な顔で左近に問う。

「太閤様の・・・お指図でござろうか」

「そうだ・・・」

「殿は・・・服部半蔵をご存じですかな」

「家康の使う伊賀者と聞く・・・」

「初代の半蔵は死んで二代目が跡を継いだと言われておりますが・・・伊賀者の動きを見ておりますと・・・まだ死んでおりませぬ・・・つまり・・・家康は・・・半蔵が守っておると言うことです」

「それが・・・まずいのか」

「おそらく・・・半蔵は・・・我らのこの会話を聴いておりまする」

「なに・・・」

「伊賀者にも名人は多くおりますが・・・半蔵は・・・術者としては達人の域に達したものでござる」

「・・・」

「明智光秀謀反の折り・・・家康は伊賀を越えましたが・・・それが可能であったのも・・・半蔵の体術が極まっておったからでござろう。しかし・・・今は心術を極めてござる。観相によって・・・森羅万象を見通す天知通の術者となって久しいのでござる」

「なにやら・・・おそろしいの・・・」

「刺客を放てば・・・放った瞬間に・・・そのことが知れ・・・待ち伏せにあいまする」

「では・・・家康を暗殺など・・・できぬではないか」

「無論でござる」

「・・・」

しかし・・・三成は左近が顎を撫でたのを見た。

それは・・・三成と左近の間の符牒であった。

左近は「承知」と答えたのである。

三成は無言で・・・部屋を出た。

左近は石田屋敷の庭に出た。

「ノウマクサンマンダバサラダンセンダマカロシヤダソワタヤウンタラタカンマ・・・」

不動明王の真言である。

左近から気が発し・・・それに庭の樹木が感応するのだった。

木陰から・・・ひとつの影がはい出し・・・一陣の風となって消える。

左近に飼われている忍び・慧光童子はそろそろと徳川屋敷に近付いて行く。

その姿は隠行の術によって人目には映らない。

慧光童子は足音もたてず・・・息使いさえ音無しである。

左近による暗示催眠で・・・何も考えずに・・・標的に向っていく。

すべて・・・天知通に悟られぬためである。

心なきものの心は読めないのだ。

一方、左近は配下の鉄砲忍びを呼び・・・家康狙撃の指図を始める。

半蔵の心眼が左近を見つめている気配があった。

左近はそれが陽動であることを悟られぬために心機を凝らす。

「家康は・・・明日・・・登城する」

「しかし・・・おいそれと狙撃はできませぬぞ」と忍び頭が不審を口にする。

「わかっておる・・・やるとなれば刺し違えじゃ」

「しくじれば・・・殿もただではすみませぬぞ」

「覚悟の上じゃ・・・」

慧光童子は徳川屋敷の門前に達していた。

もちろん・・・すでに伊賀忍者の結界の内に侵入している。

無心の術を身に付けた慧光童子の気配を・・・忍びたちも感知できない。

慧光童子はそのためだけに育てられた捨て忍びだった。

しかし・・・屋敷番の甲賀の犬丸は慧光童子の身体から漂う微かな火薬の匂いを嗅ぎつけていた。

犬丸はその名の通りに鼻の利く忍びである。

(おかしい・・・誰もいない場所で・・・匂いだけが移って行く)

その匂いが・・・家康の座所に向って動いていくことに犬丸は危機を感じた。

犬丸は空間に向って手裏剣の十字撃ちを放つ。

その殺気に・・・慧光童子の穏形が破れた。

「あーっ」

次の瞬間・・・慧光童子の体内に仕掛けられた火薬が炸裂する。

慧光童子は木端微塵となった。

監視のための木陰で真田佐助は徳川屋敷に火柱があがるのを見た。

「あれが・・・島流の発破崩しの術か・・・」

霧隠才蔵が応じる。

「どうやら・・・大和の忍びはしくじったようじゃの」

「わしらも・・・うかつに手がだせんものを・・・そう簡単に仕留められはせんじゃろ」

「そうっちゃねえ」

二人の真田忍びは伊賀の結界の輪が広がる気配に撤退を開始する。

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2016年8月 7日 (日)

ふりむかないで未来へ(黒島結菜)夏を知らなかった僕(菊池風磨)今夜彼女に告白しよう(竹内涼真)

原作もまた・・・様々な虚構の歴史を踏まえて創作されている。

時間旅行は人類の見果てぬ夢のひとつだからである。

原作からテレビドラマが生まれ、劇場版映画が生まれ、劇場版アニメが生まれる。

それぞれにお気に入りの「時をかける少女」があって・・・主観に基づいた比較が成立する。

しかし・・・どんな「時をかける少女」もそれなりに名作になるのは・・・やはり原作があってのことだろう。

この作品ではじめて「時をかける少女」に出会った人の何パーセントかは・・・忘れられないインパクトを感じたはずである。

それは素晴らしいことなのだ。

心の汚れた大人はなんだかんだ言うだろうが・・・「時をかける少女」の「せつなさ」は充分に描かれていた。

「少女が好きになった人は未来人だった」

「少女の心は操られており・・・恋が真実かどうかは不明」

「それでも・・・少女は初恋の気持ちを消すことができない」

考えようによっては心をコントロールされてしまう少女は憐れである。

考えようによっては心をコントロールしてしまう未来人は冷酷無比だ。

しかし、心なんて・・・情報の集積に過ぎないのである。

どんな愛も主観的な記憶の発露に過ぎない。

そう考えれば・・・人間の存在そのものの「はかなさ」が浮かび上がる仕掛けなのである。

みんなが幸せになれる結末なんて・・・最初から存在しないのである。

もちろん・・・キッドの妄想は・・・自分好みの結末を何通りも描くことができる。

アルバムを持ってあの日の理科室に戻ってきた芳山くんは泣かない。

芳山くんのやってきた「八月まで」の経緯を話し終えた芳山くんは・・・クールに別れを告げる。

そして・・・ケンが去っていくと号泣するのだった。

しかし・・・ケンは一冊の古い写真集を持って戻ってくる。

ケンはアルバムの文字に気がついていた。

「恋を知らない君に」・・・それは・・・ケンの愛読していた21世紀の写真集「夏を知らない君に」の自筆タイトルと同じ筆跡を思わせる。

「これは・・・きっと・・・君の作る写真集だ・・・」

「私が・・・写真集を・・・」

「僕はこの写真集で・・・21世紀の夏に憧れの気持ちを抱いたんだ」

「・・・」

「君は・・・初恋を忘れたくないと思うのだろう・・・でも・・・それはできない」

「え」

「さようなら・・・芳山くん」

ケンは去り際に催眠装置を作動し・・・芳山くんの「もうひとつの別の時間」の記憶は削除される。

吾郎ちゃんがやってくる。

「どうした・・・芳山くん・・・なんで泣いているの」

「わからない・・・おかしいわね・・・なんだか哀しくなっちゃった」

「これから・・・夏休みなのに・・・」

「そうね・・・高校生活・・・最後の夏休みだね」

見つめ合う二人・・・。

「なあ・・・今年も花火大会・・・一緒に行くだろう」

「たこ焼きを食べるためにね」

「たこ抜きのたこ焼きかよ・・・たこが食べられないなんて・・・どんだけ子供なんだよ」

「たこが食べられないって・・・なんのこと」

「え・・・」

「たこ焼きからたこを抜いたらたこ焼きじゃないじゃない・・・」

「えええ」

2016年夏、いつの間にか芳山くんはたこ焼きが食べられるようになっていた。

花火大会の夜・・・吾郎の告白が成功するかどうかは謎である。

なぜなら・・・それは未来の話だからだ。

芳山くんと吾郎が結ばれる未来。

芳山くんが芸能事務所にスカウトされる未来。

吾郎が花火大会で櫓の下敷きになって死亡する未来。

ゴジラの上陸で花火大会が中止になる未来。

あらゆる未来が・・・今を通過していく。

現在はいつでも過去と未来の交差点なのである。

で、『時をかける少女・最終回(全5話)』(日本テレビ20160806PM9~)原作・筒井康隆、脚本・渡部亮平、演出・岩本仁志を見た。結局、素晴らしい最終回だったな。最終的なまとめ部分で・・・いくつか好みの分かれるところはあるが・・・青春のもどかしさや・・・芳山くんの初恋のせつなさは充分に表現されていたと思う。何より・・・どちらかといえば「不思議ちゃん」を演じてきた黒島結菜が「普通の女の子」を演じられてよかったと考える。いつも優等生や何を考えているかわからない謎の美少女じゃやってられなくなるからな。もちろん・・・そういう役が求められるならまたやればいいのだった。

キッドは「芳山くん」の可愛さを堪能できたので・・・まったく文句がありません。

ちなみにこのブログのポリシーは「愛は記憶」である。

犬に愛があるかどうかを問う場合、犬は餌をくれた飼い主についての記憶があり、その記憶に基づいた行動をする。つまり・・・愛があるということだ。

このドラマには二つの「スーパー・テクノロジー」が挿入されている。

ひとつは「時間跳躍を可能にするラベンダーの香りがする薬剤」・・・。

ひとつは「記憶を書きかえることができる催眠装置」・・・。

芳山くんが「記憶を改変されて未来人と恋に落ちること」がどこかレイプ的であったとしても・・・芳山くんが「彼」に恋してしまったのは虚構的事実なのである。

現実でも・・・「売春してまでホストに貢ぐ女子高校生の恋」なんて日常茶飯事である。

「いい人に恋するより・・・悪い人に恋したこと」なんて・・・ありふれた出来事です。

もちろん・・・第三者の目からは・・・そういう「恋」は賢いとは言えないが・・・そもそも恋なんて愚かな行為に決まっているのだった。

二つのスーパーテクノジーを持たない人間は・・・この物語を「絵空事」と感じるかもしれないが・・・その通りであり・・・それを楽しむのが愛好家というものなのです。

八月・・・22世紀のケン・ソゴルこと深町翔平(菊池風磨)との恋にうかれている藤浦東高校の3年生・芳山くん(黒島結菜)だったが・・・お好み焼き店「りぼん」のマスター・三浦浩(高橋克実)から恐ろしい事実を告げられるのだった。

「実はおじさんは・・・22世紀からやってきた未来人なんだ」

「えっ」

「そして・・・翔平も・・・22世紀からやってきた未来人なんだ」

「ええーっ」

「未来人はこの時代に長期滞在すると時間エネルギーの干渉で長く生きられない」

「えええええって・・・そんな馬鹿な・・・翔平は幼馴染だし・・・」

「今・・・催眠状態を緩和するよ・・・」

「え」

「さあ・・・考えてみてくれ・・・幼かったころの翔平の顔・・・覚えているかい」

「翔平は・・・犬に追いかけられていた私を助けてくれたわ・・・あれは・・・吾郎ちゃんだった」

「わかったろう・・・君は心を翔平こと・・・未来人・ケン・ソゴルにコントロールされていたんだ」

「そんな・・・」

「わかるよ・・・たとえ・・・挿入された記憶でも・・・人の愛情は発生する・・・そういうメカニズムだ・・・君と翔平は確かに恋をしているんだ・・・おじさんはそれを否定しない」

「・・・」

「本題はここからだ・・・私も七年前に21世紀にやってきて・・・彼女と出会い・・・恋をした」

三浦は・・・松下圭太(五十嵐陽向)という連れ子のある松下由梨(野波麻帆)と出会い・・・借金のあった彼女を困窮から救い・・・愛人となったのである。

「私は・・・任務を放棄して・・・この時代に定住することを選んだ・・・しかし・・・恐ろしいスピードで肉体が老化し始めたのだ」

「肉体が・・・」

「つまり・・・未来人が過去に滞在すると・・・寿命が縮まるということだ。個人差もあるかもしれないが・・・おそらく十年以上は生きられない」

「そんな・・・」

「私もこのままでは・・・一ヶ月以内に老衰死すると思う」

「じゃあ・・・翔平も・・・」

「そうだ・・・だから・・・彼を長生きさせたければ・・・未来に戻した方がいい」

「・・・」

「私は家族を愛している・・・愛する家族を残して去っていく余命一ヶ月のおじさんだ・・・」

「でも・・・それを選んだのはあなたでしょう」

「そうさ・・・俺はその運命を受け入れるつもりだった・・・しかし・・・そこへ君が現れた」

「・・・」

「タイムリープして・・・俺と家族の出会いを阻止してくれ・・・」

「そんな・・・嫌です・・・私は神様じゃないんだから」

「いや・・・君は神様だよ・・・いいかい・・・愛が消えるのは恐ろしいことだ・・・しかし・・・君がそれをすることで・・・俺の命は助かり・・・家族は一ヶ月後の悲しみから救われる」

「・・・」

「君は・・・おそらく・・・僕を殺すことはできないだろう・・・」

「未来人って・・・すごく自分勝手だわ」

「人間はみんなそうなんだ」

芳山くんは七年前に跳んだ。

そして・・・未来の三浦からの手紙を・・・過去の三浦に渡したのだった。

このドラマの・・・辻褄合わせの失敗は二種類の時間旅行スタイルにある。

過去への遡行によって・・・未来の記憶を過去に送るスタイル。

この場合は・・・たとえば髪を切る時間からの主観的なやり直しになるように・・・世界が巻き戻された状態になるわけだ。

もう一つは・・・七年前の過去に戻って歴史を改変してから改編後の未来へと往復するスタイルである。

第一のスタイルなら芳山くんは小学生になってしまう。

そして・・・七年間をやり直すことになる。

しかし・・・第二のスタイルなら・・・小学生の芳山くんと未来から来た高校生の芳山くんは同じ時空間に同時存在することができるのである。

それをどうやって使い分けているのか・・・特殊な能力だとしか言えないのである。

本来22世紀からの時間旅行は第二のスタイルでしか・・・なされない。

なぜなら・・・彼らは2016年には存在しないのてある。

なんでもありが許せない一部お茶の間はここで絶対に転びます。

とにかく・・・歴史改変に成功する芳山くん。

新しい2016年には・・・見知らぬマスターが存在する。

芳山くんの肉体には・・・新しいマスターと過ごした七年間と・・・古いマスターと過ごした七年間の記憶が混在することになるが・・・若いのでなんとかなるのだろう。

普通の人間は発狂します。

新しいマスターと松下由梨は結婚していて・・・由梨はすでに第二子を出産している。

芳山くんが知っている「愛しあっていた家族」は喪失されてしまったのだ。

未来人のミウラは・・・任務を終えて未来に帰還したのだ。

そのことを知っているのは世界でただ一人・・・芳山くんだけなのだった。

「翔平も未来に帰りなさい」

「え・・・」

「ここにいたら・・・十年で死ぬのよ」

「君と過ごす十年なら・・・問題ないよ」

「私の記憶をこれ以上・・・いじらないで・・・」

「・・・」

「翔平と別れるのは・・・嫌だけど・・・翔平が死ぬとわかっていて・・・別れないでいることは・・・もっと嫌よ」

「・・・」

翔平は悩みつつ・・・時をかけるクスリの調合を行う。

最終段階に入り・・・未来への帰還を決意する翔平。

深町奈緒子(高畑淳子)の記憶を操作しようとするが・・・奈緒子はすでに・・・翔平が自分の子供ではないことを知っていた。

「あなたは・・・私の戸籍上の子供じゃないけれど・・・あなたと暮らしていて楽しかったわ」

「・・・」

「どこに行くのか知らないけど・・・またいらっしゃい」

「母さん・・・」

奈緒子は一種の認知症なんだな。

しかし・・・調合は失敗してしまうのだった。

「じゃあ・・・未来に戻れず・・・私は十年で死ぬの・・・」

相原央になりすましている未来人ゾーイ(吉本実憂)は絶望する。

翔平は笑顔で・・・事実を芳山くんに伝える。

「帰れなくなっちゃった」

「どうして・・・」

「最初になくした薬が見つかれば・・・まだ可能性がある・・・緑のキャップのついた紫の液体の入ったケース・・・それか・・・実験室で行った最初の調合・・・」

「私が・・・割っちゃったから・・・翔平は帰れなくなったってこと・・・」

「君のせいじゃないよ・・・」

「私が・・・翔平を殺すのね・・・」

「だから・・・君のせいじゃない・・・運命だよ」

芳山くんは・・・運命を受け入れるには若すぎたので一人で街を彷徨う。

そして・・・運命によって・・・ケースを発見するのだった。

「これがあれば・・・いいえ・・・それだと・・・翔平は・・・未来に帰らないかもしれない」

芳山くんはあの日に向って・・・時をかけた。

「翔平・・・そこにいるんでしょう」

「芳山くん・・・」

「私・・・時をかけてきたの・・・」

「え・・・」

「これが・・・証拠よ」

芳山くんは・・・「翔平との愛を記録したアルバム」を見せる。

「ここであなたの実験を台無しにした私とあなたは・・・一ヶ月後には恋人になるの・・・」

「え」

「だから・・・あなたは・・・未来に帰らないって言う」

「ええっ」

「でもね・・・未来人は過去に長期滞在すると寿命が短縮されるの」

「えええ」

「私・・・あなたに頭をいじられて・・・おかしくなったのよ」

「・・・」

「あなたが好きで好きでたまらない・・・あなたが早死にするんなて・・・耐えられないの」

「・・・芳山くん・・・」

「だから・・・何も言わずに・・・完成した薬でこのまま未来に帰って・・・」

とめどなく涙を流す芳山くんに戸惑うケン・ソゴルだった。

「君に・・・僕が・・・恋をするのか・・・マジか」

「ひどい人ね・・・」

「僕は一度・・・未来に戻るよ・・・」

「え」

「そして・・・また戻ってくる」

「ええっ・・・」

「時々・・・会うだけなら・・・ずっと交際できるんだろう」

「えええ」

「夏を知らない僕に・・・君がいろいろと教えてくれよ」

「・・・」

こうして・・・芳山くんと未来人ケンの時をかける遠距離交際が始った。

初恋がいつまで続くのか・・・誰にもわからない。

すべては・・・運命なのである。

本編では違う結末になっている場合がありますが・・・それはタイムパトロールの関与によるものと妄想します。

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2016年8月 6日 (土)

たたりなんてみんなかなしいはなしです(向井理)もののけ姫とBRAVE HEARTS 海猿の挟撃だと!(木村文乃)誰か私たちのことも見てください(佐藤二朗)

「ゆとりですがなにか」→「家売るオンナ」→「神の舌を持つ男」と続くボルダリングの連鎖である。

みんな・・・運動不足が不安なんだな。ボルダリングに憧れてるんだな。

「神の舌を持つ男」は「カミのシタを持つ男」なので「神の下を持つ男」でもあるのだな。

「いてて・・・何するんだ・・・」かよっ。

「髪の下を持つ男」なら「禿つかみ」だよな。

どうした・・・疲れてるのか。

朝から・・・リオ五輪の日本VSナイジェリア戦を見たからな。

ノーガードの打ち合いみたいで楽しかったじゃないか。

一試合で九つのゴールなんてなかなか見られないからな。

さあ・・・五輪中継の海にドラマの漂う夏の始りである。

で、『神の舌を持つ男・第5回』(TBSテレビ20160805PM10~)原案・堤幸彦、脚本・櫻井武晴、演出・堤幸彦を見た。二時間サスペンスドラマ・横溝系の後編である。一種の漫才システムである。作品の中で・・・登場人物がボケて登場人物がツッコむスタイル。アニメ「銀魂」の標準スタイルだよな。誰もがわかる「ボケ」で「お茶の間」にツッコんでもらうのが正統派だとすれば・・・これは邪道とも言える。まあ・・・「男はつらいよ」だって寅さんのボケに登場人物一同ツッコみまくるけどな。わかるやつだけにわかればいいという潔さがないよな。さらに言うとツッコミ入れても伝わらない場合もあるしな。とにかく「吉岡さ~ん」とか「黙れ小僧」とかに「舐めて」で対抗するのは絶望的な挑戦と言えます。

後編なので謎解きに次ぐ謎解きである。

主題は・・・「誤解の招いた悲劇」と言うことなのだろう。

毛増村温泉郷の唯一の温泉旅館「波外ノ湯」の仲居である六つ子の老婆(松金よね子・田岡美也子・その他)や村人たちに「刃無の時期なのに刃物を持ちこんでたたりを誘発した」と責められる伝説の三助・朝永平助(火野正平)の孫である人間成分分析器・朝永蘭丸(向井理)、古物の行商人・甕棺墓光(木村文乃)、そして宮沢賢治の心象スケッチを諳んじる宮沢寛治(佐藤二朗)のトリオである。

たたり信仰の主導者である「雷神寺」の住職・神村精進(石橋蓮司)と対立する村長の赤池慎太郎(きたろう)によってなんとか窮地を救われる一同。

住職の次女である神村町子(臼田あさ美)の口から説明される「たたり」に纏わる話。

昭和初期・・・村に他所者の夫婦が住みついた。

しかし・・・女房は浮気症で亭主は嫉妬深い。

ある夜・・・ついに爆発した亭主の狂気は村の男たち十一人を次々と惨殺・・・ついに村の男たちに返り討ちに合う。しかし・・・亭主を仕留めた男たちも落雷によって全滅する。土砂崩れの現場に出現した白骨はその名残りと推定される。

続いて・・・六つ子の老婆たちは・・・村に伝わる「毛増村の蹴鞠歌」・・・略して「毛鞠歌」を披露する。

驚異の身体能力で妙技を披露するおそ松婆さんである。

「おそ松さん」からの六つ子ネタ。「おそ松くん」ストレートじゃないコネタの選択がださいんだよな・・・まあ・・・いいんじゃないか・・・そういう狙いなんだろうから。どうせ、おそ松さんネタなら・・・木村文乃の笑い皺からの「チビ太」連想とかも欲しいよね。誰もわからんわっ。

他人の女房と浮気をしたなら背中刺されて死ぬけ~の~

女にまたがれて射精したなら腹をさされて死ぬけ~の~

十一人の男たちの死に様を歌い十一番まであるという「毛鞠歌」だった。

「卑猥だ・・・よくある艶歌じゃないか・・・」と寛治。

「二人の犠牲者と一致する死に様がありませんね」と蘭丸。

「もういい・・・エロすぎるからやめて」と甕棺墓くん。

全国・・・どれだけのライターが・・・「かめかんぼ」の一発変換で「甕棺墓」が出てくることに驚愕したことだろう。

そして・・・六つ子の仲居の出生の秘密が明かされる。

彼女たちは・・・他所者夫婦の娘たちだったのである。

「闇っ子」と呼ばれた彼女たちに村長の祖父が情けをかけ・・・引きとって育てたらしい・・・。

まあ・・・実は・・・村長の祖父の種による娘の可能性もあるわけだよね・・・。

一人息子の辰也(柄本時生)の帰りが遅いことを案ずる女将で村長の妻である栄子(真飛聖)・・・。

「どうせ・・・住職の娘の町子と契っているのだろう」と村長。

町子との相思相愛に傾いていた寛治にとって衝撃の事実である。

「えええええええええええ」とは言わずに表情で示す寛治だった。

そういうとこ・・・なんだよな。

まあ・・・お茶の間は・・・達也・町子・寛治の三角関係にほとんど興味ないからな。

しかし・・・翌朝・・・辰也の死体は住職によって発見される。

しかも死体は・・・毛鞠歌の三番目の歌詞のように「吊るされて斬られた」状態だったのだ。

だが・・・現場に残された出血量から・・・「斬られてから吊るされた」と推測する蘭丸。

「横溝系ではたたりに見せかけた殺人が定番なのよ」と大見得を切る甕棺墓くんである。

そこへ・・・麓の藪クリニックの藪医師(赤星昇一郎)が土砂崩れをボルダリングで乗り越えて到着する。

藪医師は・・・温泉芸者ミヤビ(広末涼子)と関係するあのスキンヘッドの男だった。

写真を見たわけでもないのにピンとくるトリオだった。

町子は愛する辰也の遺体にすがって泣く。

「おう・・・やはり・・・二人は愛し合っていたのですか」と寛治。

「・・・結婚を約束してました・・・辰也のマンガが完成したら・・・二人で村を出ようと」

哀愁のメロディーと寛治の失恋の沈黙が交差する現場。

「やはり・・・たたりはあったんですね」

「いいえ・・・これはたたりではありません」と蘭丸。

「さあ・・・舐めて」

甕棺墓にせかされて死体を舐める蘭丸にどよめく一同。

「おかしいと思うでしょうが・・・彼はこうやって数々の難事件を解決してきたのです」

しかし・・・第二の被害者の手を舐めた蘭丸は吐くのだった。

「そりゃ・・・気持ち悪いからな」と藪医師。

「違います・・・」

複雑な事件のために謎解きは二部構成になっているが・・・五輪中なのでまとめてお届けする。

最も疑わしいゲスト女将は単なる息子を失った悲しい母親だった。

辰也の奇妙なスタイルは・・・自作マンガの登場人物のコスプレだった。

けして「仮面ライダー」の赤いマフラーではなかったのだ。

自作マンガの主人公の持つ「カタナ」のモデルを捜していた辰也は甕棺墓くんの骨董品を発見し「黄色い取っ手のマイナスドライバー」で車のドアの鍵を壊し、「日本刀」を入手。

それを駐在に咎められ揉み合ううちに過失致死に至るのだった・・・。

想像の範囲の出来事を再現VTRで押し切るスタイルである。

第一の犠牲者である駐在は・・・あやまって抜かれた日本刀を掴んだ辰也が転んだ弾みで刺殺されてしまったのだ・・・まあ・・・目撃者どころか・・・加害者も死んでいるので本当かどうかはわからないわけだが。

黄色いドライバーから車の成分やら辰也の手から日本刀の成分やらが検出されたのでそうなるのだ。

第二の犠牲者の手からは・・・ドクセリの成分が検出される。

ドクセリ、ドクウツギ、トリカブトは日本三大有毒植物である。

フィクションではないのかよ。食用のセリに似ているために中毒事故を起こしやすい植物である。

しかし・・・毛増村では・・・ケマシグサと呼ばれ・・・殺された十一人の生まれ変わりとして摘まれることのない草だった。

被害者の妻(村岡希美)は浮気症の夫に苦しみ・・・夫が女将と浮気していると誤解して・・・散策の際に採取したドクゼリをセリと偽って夫に食べさせたのであった。

天麩羅になってたけど・・・誰が調理したんだよ。

しかし・・・夫は本気で夫婦仲を修復するつもりで新しい結婚指輪まで用意していたのである。

女将とは「サプライズ」の打合せをしていただけだった。

「ご主人から・・・この指輪を預かってました」と村長が夫の真心の証を示すのだった。

「馬鹿ね・・・サプライズとか・・・ろくなことがないのに・・・」

膝から崩れる被害者の妻である加害者だった。

そして・・・第三の犠牲者である辰也は・・・殺人事件の凶器として「雷神の祠」に保管された日本刀を狙い・・・侵入しようとしたところを住職に見つかり・・・揉み合ううちに住職が誤って刀を抜き・・・斬り殺されてしまったのである。

「祟りにみせかけようとして・・・吊るしたのが間違いでしたね・・・ロープにはあなたの皮膚の成分が残っているでしょう」

「儂の負けじゃ・・・」

蘭丸が舐めまくって追いつめた犯人の自白によって一件落着である。

日本刀に甕棺墓くんが執着したのは・・・それが蘭丸との出会いにちなんだ思い出の品だったのである。

室町時代の作と鑑定した刀を舐めた蘭丸が「確かに五百年前の味がします」と裏付けた。

それが・・・二人の出会いだったのだ。

っていうか・・・切れ味良すぎで・・・呪われた刀じゃないのか・・・。

町子の目にはベッカムに見えるらしい寛治。

町子は・・・寛治も愛していたらしい。

しかし・・・寛治は・・・町子を宮沢賢治の最愛の妹トシにたとえ・・・訣別するのだった。

「兄妹では結婚できませんから・・・」

そういう問題なのか・・・。

だが・・・町子はピンとこない様子だった・・・。

そして・・・ついに明らかになる・・・ミヤビとドクター・ヤブの関係・・・。

ドクター・ヤブは・・・ミヤビの主治医だった。

医師の守秘義務で病名は明かせないが・・・病気であることを明かすのはいいのか・・・ミヤビは病に冒されており・・・ドクター・ヤブは惚れた患者に薬を届けていたのだった。

それがミヤビの行く場所にドクター・ヤブが出没する理由だったのだ。

「ミヤビにはつきまとっている悪い男がいる・・・あんたになら・・・ミヤビを救えるかもしれん」

「・・・」

「ミヤビの次の目的地は大山温泉・・・夢見るぞ」と言い残しドクター・ヤブは去っていくのだった。

こうして・・・おかしなトリオは大山温泉を目指すのである。

いろいろと・・・おかしなところのある事件解決だが・・・目指しているところが・・・おかしな感じなのだから・・・これはこれでいいのである。

蘭丸は「幻の女」を求めて旅をする。

いつの世にも変わらぬ青春の旅路・・・。

夢見る頃は過ぎても・・・寛治も甕棺墓くんもついていかないわけにはいかないのだ。

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2016年8月 5日 (金)

自由ってのは失うものが何もないってことだよ(山田孝之)

三十年前にも女子高校生売春婦を集めてインタビューするテレビ番組はあった。

いつの時代にもマルイチ(高校一年生)の「性」は商業価値があるわけである。

取材者たちは「犯罪」を行う未成年者たちに忠告する。

「そういうことはやめた方がいいよ」

しかし・・・それ以上の関わりは持たないのである。

取材者たちは合法的な情報料を経費で落とす。

そして・・・情報を「お茶の間」に流して米を買うのだ。

売春をするのも自由。

売春を報道するのも自由。

それ以下でもそれ以上でもない。

失うものが多い人々は思う・・・まさか・・・うちの子は違うよな。

そう思うのも自由なのだ。

で、『ウシジマくん Season3・第3回』(TBSテレビ201608030128~)原作・真鍋昌平、脚本・福間正浩(他)、演出・山口雅俊を見た。生まれついてほとんど平等ではない人間は競争社会の中で切磋琢磨する。人生に成功と失敗はつきものだし、社会に上流と下流もつきものである。誰もが中流にいると幻想を抱ければ安堵できるが・・・着ている服、食べているもの、住んでいる家の差異は嫌でも五体が感じるわけである。そういうことに鈍感でいられれば幸せだが・・・敏感なものは不安を感じる。その不安の振幅が人をさらに底辺へと押しやる場合がある。そして・・・ウシジマくんにキャッチされてしまうのである。恐ろしいことだな。

☆☆☆☆★就労せずに生活保護を受給する若者たち。母親と売春する娘。闇金に借金してまでも買春をする会社員。すでに・・・底辺にいる人々に対して・・・資産家の親を持ち、ファッション雑誌「ノマド」の編集者である上原まゆみ(光宗薫)はまだ「陽のあたる場所」にいるように見える。

しかし・・・この世を支配する「目に見えない何か」への傾斜が上原まゆみをすでに闇へと導いているのである。

「運命を特別の方法で鑑定する職業」は常に「善悪の境界線上」に存在している。

朝の情報番組では毒にも薬にもならない「占い」を垂れ流すが・・・それは「遊び」の範囲を出ない。

時にはスピリチュアルな能力を売りにする芸能人まで出現する。

そういうものに対して半信半疑なのがまともな人間というものなのである。

虚実をとりまぜた情報産業である雑誌にもそういうコーナーは定番としてある。

そこには・・・専門家が関与するわけである。

おそらく・・・上原まゆみが信じてしまった占い師の勅使川原先生(三田真央)もそういう専門家だったのだろう。

編集者とスピリチュアルの専門家として出会った二人は・・・いつしか信者と教祖の立場へと人間関係を深めていったのである。

上原まゆみが現実主義者であれぱあるほど・・・実際にご利益のある「それ」は・・・「本当の力」として認識されてしまうのだ。

もちろん・・・そうなってしまい・・・彼女が「先生には特別な力がある」と言い出せば・・・周囲の人々は眉をひそめ、微笑みながら遠ざかっていくのが普通である。

そうなれば・・・彼女は孤立し・・・ますます・・・霊能者への依存を深めることになる。

だが・・・上原まゆみに仕掛けられた罠はさらに巧妙で・・・おそらく彼女は生きながら地獄へと導かれていくのだろう・・・。

転落の道は・・・高い位置から落ちるほど危険なのであり・・・彼女には恐ろしい運命が待っていることが予想できる。

編集者として実直に仕事に取り組んでいた上原まゆみは編集長(小嶋理恵)から大きな企画の責任者に抜擢される。

すべては・・・まゆみの力量によるものだが・・・本人には「新しい数珠」のパワーが意識されるのである。

「今度出来る新しい支店の店長になれそうなんだ・・・そこで実績を積んだら道が開けると思う・・・だから・・・一緒に暮らさないか」

まゆみの恋人であるハシくんこと橋本(ジェントル)はかってのまゆみの望んでいた言葉を口にする。

しかし・・・まゆみはすでに・・・運命の人と勅使川原先生に指定された神堂大道(中村倫也)と出会ってしまったのである。

「どうか・・・私のパートナーになってください」

差し出された指輪の輝きがまゆみの目を眩ませる。

日課であるジョギングを終えた後・・・。

「どこかで・・・汗を流しませんか」

まゆみはホテルへ神堂を誘い・・・ついに二人は結ばれるのだった。

もちろん・・・すべて・・・神堂の計画通りなのである。

まゆみは蜘蛛の巣にからめとられた憐れな蝶なのだった。

しかし・・・お茶の間はまだ・・・神堂の胡散臭さは知っていも・・・その恐ろしさを知らないのである。

★★★★☆生活保護の受給に成功した小瀬(本多力)は怠惰な生活を送っている・・・。

「なんとか仕事を探してください」というケースワーカー。

「ナマポの金があるなら借金返済しろ」という旧友。

そういう雑音を振り払いつつ一人暮らしのニートとして引き籠りの暮らしを続ける小瀬・・・。

そこに・・・天使が舞い降りる。

ニート仲間のめしあこと飯野(野澤剣人)のアパートで出会った希々空(小瀬田麻由)が・・・なんと隣人だったのである。

「え・・・」

「セコチン・・・髪洗って・・・」

「コセだけど・・・」

希々空(ののあ)は精神状態に少し問題があるらしい・・・精神的外傷のストレスによる自傷癖のために両手に包帯か巻かれており洗髪を小瀬に依頼するのだった。

ノノアの部屋に導かれた小瀬は・・・セクシーなノノアの下着姿に勃起しつつ、髪を洗う。

「セコチンは何人としたの」

「三、四人かな・・・」

小瀬はもちろん童貞だった。

突然、天国に導かれた小瀬だったが・・・もちろん現実は甘くない。

ノノアの部屋にやってくる「カウカウファイナンス」の柄崎(やべきょうすけ)と高田(崎本大海)・・・そしてウシジマくんこと・・・丑嶋馨(山田孝之)・・・。

「あんた・・・何してるの」

「髪を洗ってます・・・」

「じゃ・・・あんたが・・・利子を立て替えてくれ」

「え」

ノノアは・・・借金持ちだった。

背中に隠れたノノアの甘い匂いに酔って・・・小瀬は現金を支払うのだった。

ノノアは・・・浮いた金で・・・食材を買い・・・めしあの部屋を訪ねる。

「おい・・・金をどうしたんだ」

「セコチンが・・・払ってくれた」

「そりゃ・・・ダメだよ」

めしあと友人のトーキー(水間ロン)は古瀬を公園に呼び出すのだった。

「これ・・・足りないけど・・・」

「・・・え」

「ノノアも謝れ」

「イヤだ・・・」

ノノアは機嫌を損ねて逃げ出すのだった。

いたいけなくて・・・ちょっと可愛いぞ。

パピコの香りがするよね・・・。

いや・・・このドラマに登場する女たちはみんなパピコなんだよ。

凌辱された天使たちだよな。

そこが「売り」だよな。

小瀬はめしあに尋ねる。

「どうして・・・親切にしてくれるの」

「ぼくたちは・・・ニート仲間じゃないか」

「・・・」

「一緒にボートにでも乗るかい」

「それはやめておこう・・・男同志だから」

底辺にも美しい「心」はあるのだった。

☆★☆★☆年金暮らしの老婆の部屋に孫を連れた息子夫婦がやってくる。

その隣の部屋で・・・恵美子(倖田李梨)はホテル代を浮かせるための自宅売春を行っていた。

家族たちの団欒をかき乱す・・・恵美子の嬌声。

恵美子は・・・老婆が・・・路上で・・・自分の噂話をしていることを知る。

「隣の女・・・昼間から男を連れこんで恥知らずもいいところだわ・・・管理人に言って退去を勧告してもらわないと・・・」

恵美子は私鉄の通貨する踏み切りで鬱屈した心を吐き出す。

「あああああああああああああ・・・ちくしょおおおおおおおおおお」

金に困った恵美子は家出中の娘の美奈(佐々木心音)に母娘同時売春の客を誘うように告げる。

「いやだよ・・・」

「あんただって・・・部屋借りる金がいるだろう」

「これで・・・最後だからね」

美奈はスキッパーこと正体を隠している小学校教師の杉本先生(中島弘輝)に連絡する。

「七万円・・・あれは・・・君たち親子の精神を凌辱した代金だよ・・・汚れちまった君たちにもうそんな価値はないな・・・やるとしたら一万三千円だ・・・君が一万二千円で・・・あのばあさんは千円だ」

理不尽なモンスターペアレントや、躾のなっていない児童に悩まされストレスをためきっている杉本先生だった。

二度目ということで気が緩んだ杉本先生はバスルームで・・・美奈と痴態にふける。

「ほら・・・もっと丁寧に裏筋を舐めろよ」

その隙に・・・恵美子は・・・杉本先生に衣服を検める・・・そして・・・彼が小学校教師であることほつきとめるのだった。

「あんた・・・学校の先生かよ・・・口止め料として十万よこしな」

「おいおい・・・売買春だぜ・・・あんたらも同罪だろうが」

「私たちには失うものなんてないからね」

恵美子は・・・ツキがまわってきたような気になる。

隣室の老婆は・・・恵美子が勤務するスーパーマーケットで万引きをした。

「申し訳ありません・・・年金暮らしで・・・不安になって・・・」

「初犯だしなあ」と同情する店長。

しかし・・・恵美子は容赦なく警察に通報するのだった。

「もしもし・・・万引きです・・・犯人・・・すごく悪そうなばあさんですよ」

鬱憤を晴らして有頂天になる恵美子。

子供たちの悪戯で・・・愛車に落書きされた杉本先生の心の中で何かが切れる。

「先生・・・ポスターで見たんですけどインランってなんですかあ」

杉本先生は男子小学生を殴り倒すのだった。

校庭で痙攣する悪童・・・。

「俺にだって・・・失うものなんてないよ」

杉本先生は自由を感じた。

杉本先生への嫌がらせのポスターを貼る恵美子の前に・・・ウシジマくんのライバル企業・闇金融「ライノー・ローン」の女経営者・犀原茜(高橋メアリージュン)と腹心・村井(マキタスポーツ)が現れた。

「回収させてもらうぜ・・・」

「いやあああああああああ」

☆☆☆☆☆☆いつもの駄菓子屋でウシジマくんは幼馴染の情報屋・戌亥(綾野剛)と旧交を温めていた。

「犀原茜のライノー・ローンは結構・・・強引に・・・縄張りを広げているよ・・・バックには若琥会がいるし・・・用心しないとね」

「腹減ったな・・・メシ食いに行こう」

「じゃあ・・・ボクのベビースターラーメンあげるよ」

「お前・・・本当に駄菓子が好きだな」

「だって美味いもの」

ウシジマくんは常連客の女児にベビースターラーメンを譲渡した。

☆☆☆★★★「カウカウファイナンス」の顧客である売春婦テルミ(卯水咲流)に同じく顧客の川崎(ムートン伊藤)を狙わせるウシジマくんである。

川崎にとって不幸なことは・・・会社のビンゴ大会でビデオカメラを当ててしまったことだった。

「ホテル代別のイチゴ(一万五千円)」でテルミを買春する川崎・・・。

「結構・・・楽しかったわ」

見事な接客術を見せるテルミだった。

テルミが去った後で盗撮のために仕掛けたカメラを回収する川崎だった。

しかし・・・ラブホテルの外ではテルミの情夫が待ち伏せていた。

「あんた・・・盗撮はご法度ですよ」

「え・・・」

「こういう世界じゃ・・・もっともしてはいけないことです」

「・・・」

「ここは十万円で手を打ちましょう」

「えええ」

「てめえ・・・払うものは払えよ」

豹変するテルミだった。

ウシジマくんに泣きつく川崎なのだった。

「ジャンプ(未返済のままの再融資)につぐジャンプになるよ」

「お願いします」

「あんた・・・会社にしがみつきなよ」

「・・・」

「あんたが会社にいる限りは付き合えるからね」

金づるが去った後で・・・受付嬢・エリカ(久松郁実)は毒づく。

「闇金で借りた金で女を買うなんてバカみたい」

「バカだろうとクズだろうと・・・きっちりしぼれればそれでいい」

ウシジマくんは訓示するのだった。

売春婦からも売春婦の客からもしぼりとるウシジマくんなのである。

闇は少しずつ深まっていく。

気がつけば闇夜なのである。

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2016年8月 4日 (木)

趣味は不動産売買の仲介です(北川景子)おやすみのキス(仲村トオル)愛犬は見た(工藤阿須加)

「先生はサイコパスです」の名言を残したドラマ「悪夢ちゃん」から・・・心を見せない女の演技には定評のある北川景子である。

基本にあるのはクール・ビューティーだが・・・「モップガール」のように最高のドジッ子もできる演技力の幅が独特の魅力を醸しだすわけである。

つまり・・・クール・ビューティーの「意外な一面」がいつ出るのかというギャップ萌えへの期待感が隠し味になるのだ。

そういう・・・北川景子の「特性」を見事に捉えきった脚本の魅力が遺憾なく発揮されているわけである。

ダメ人間があふれるお茶の間では・・・相当にできる女は反感を買いやすい・・・しかし・・・それにもまして素晴らしいものへの「憧憬」もある。

「スター」というものは「ファン」とそういう駆け引きをしているものなのである。

他人をけなしてスッキリする気持ちより・・・ファイン・プレーにうっとりする方がストレートに心が和むのだ。

素晴らしいインターネットの世界に生い茂る罵詈雑言のジャングルを我らがヒロインは切り開いて雄姿を見せる。

かっこいいのである。

冷静から冷淡へ・・・冷淡から冷酷へ・・・そして極寒の女王へ・・・冷たさにも様々な段階があるが・・・どんな低温も演じられそうだよなあ。触れただけで凍てついてしまうような・・・フリージング・ビューティーも見てみたいものだ。

で、『家売るオンナ・第4回』(日本テレビ20160803PM10~)脚本・大石静、演出・佐久間紀佳を見た。営業不振でありながら現状に満足するテーコー不動産株式会社・・・新宿営業所売買営業課を襲う・・・ゴジラのような営業チーフ・三軒家万智(北川景子)・・・その真意は誰も知らないとナレーター(中村啓子)は物語るのだが・・・さすがにゴジラと一緒に過ごすと心穏やかではいられない屋代課長(仲村トオル)以下の営業課一同である。何しろ、商売に従事するものにとって「売って売って売りまくる」ことほどの「正義」は他にないのだから。

本社の会議に出席中の屋代課長と三軒家・・・。三軒家は五期連続の売上ナンバーワンを記録し、「テーコー不動産の至宝」として表彰される。思わず・・・屋代課長も誇らしく想ってしまうのだが・・・本人はいつものポーカーフェイスなのだ。

一方・・・二人の留守を預かる最年長の布施誠(梶原善)は「今日も一日、交通事故には気をつけるように」と気の抜けた朝礼の挨拶中。

デスク・ワーカーの室田まどか(新木優子)は屋代課長からの一報を受ける。

「二位だ・・・営業成績第二位になっちゃった」

前期十三位からの大躍進だった。

「・・・といっても・・・三軒家チーフ一人のおかげだけどな・・・」とぼやく宅間剛太(本多力)・・・。

「この課の成績トップの座を奪われて穏やかじゃないでしょう」と嫌味を言う帰国子女の八戸大輔(鈴木裕樹)・・・。

「いえ・・・これでみんながやる気になったらいいことだと思います」と悪魔の笑顔を見せるマダムキラーの足立聡(千葉雄大)・・・。

「おやおや・・・上から目線ですか」

「いやねえ・・・ひがんじゃって」と戦力外の白州美加(イモトアヤコ)・・・。

「お前が言うか・・・このごくつぶしが」

「すみません」とシラスに代わって謝る・・・先月の売上がゼロの庭野聖司(工藤阿須加)である。

「まあなんだ・・・俺たちには関係ないよ・・・この課の成績が向上して・・・屋代課長が本社に栄転したら・・・新課長は・・・三軒家チーフなんだぜ・・・」と布施。

「・・・」蒼ざめる課員一同だった。

「十三位万歳じゃないか」・・・自分の怠惰を課内に蔓延させる布施だった。

本社からの帰路・・・高揚している課長である。

「社長から・・・南青山の七億円のマンション売るように言われちゃったよ」

「そのマンションは私が売ります」

「おいおい・・・簡単に言うなよ・・・七億円だぞ・・・俺もがんばるからさ」

「課長・・・私に売れない家はありません」

Olé!・・・である。

屋代課長には・・・切り札があった。

十七年前から親交のある・・・カリスマ料理研究家・沢木峰乃(かとうかず子)へ「七億円のマンションへの住み替え」を提案するのだ。

クッキングスクールの経営者でもある沢木に・・・十七年前、三億円の豪邸を売った実績のある屋代課長は・・・その後も投資用のマンションなどを沢木に買ってもらっていたのである。

「七億円のマンションね・・・」

「沢木様に相応しい物件です」

「考えてもいいけど・・・こちらからもお願いがあるの」

「?」

「今夜の婚活クッキングスクールに参加してちょうだい・・・急な欠員が出て・・・男女一名ずつ・・・員数合わせが必要なの」

「婚活・・・」

「あなた・・・まだ独身でしょう。女性は二十代から三十代まで・・・美人で上品な方をお願いね」

「はい・・・」

共に調理した料理で会食することで親睦を深める趣旨の婚活料理教室である。

屋代課長はまず・・・室田まどかに参加を打診するが「彼氏あり」なので拒絶されてしまう。

話を聞きつけたシラスが立候補するが・・・美人でも上品でもないので問題外なのだった。

そして・・・何故か・・・名乗りをあげる三軒家である。

「え・・・」

「私が婚活に参加します」

「君・・・結婚する気あるの・・・」

「あります・・・愛するパートナーをみつけて家族を持ちたいと思います」

「・・・」

三軒家は美人で上品なので承諾する屋代課長だった。

現地へ向かう交差点で・・・。

「何度か・・・婚活パーティーにも参加しています・・・私は・・・何故ダメなのでしょうか」

「いや・・・君は美人だし・・・でも近寄りがたいところがあるし・・・仕事はできるし・・・少し出来過ぎるし・・・」

「どうすればいいのでしょうか・・・」

「少し・・・人に優しくすれば・・・」

「優しくとは・・・」

一歩進みでる三軒家の積極性にたじろぐ屋代課長。

「とにかく・・・婚活パーティーに参加しても・・・家は売れないぞ・・・」

「承知しています」

屋代課長は・・・はじめて部下である三軒家からアドバイスを求められ・・・途方にくれたのであった。

婚活料理教室での三軒家の自己紹介。

「年齢は三十歳です・・・趣味は家を売ることです」

早くも三軒家の婚活の前途多難を感じる屋代課長だった。

フランス料理を見事に仕上げていく三軒家・・・。

美人で・・・料理上手で・・・無表情・・・。

参加者は三軒家の迫力に圧倒され・・・後退していくのである。

「もっとフレンドリーにしないと・・・」と気を揉む屋代課長である。

しかし・・・沢木先生は・・・三軒家を高く評価する。

「素晴らしい人を連れてきたわね・・・彼女は誰にも媚びない・・・料理も上手だし・・・自立している・・・気品があって・・・しかも美人だわ」

「自立というか・・・孤立していますが・・・」

フリータイムになっても・・・三軒家にアプローチする男性はゼロなのである。

三軒家は無表情に自分の手料理を食するのだった。

その頃・・・営業課一同は・・・行きつけのBAR「ちちんぷいぷい」へ・・・。

「三軒家チーフは・・・病院で待機する葬儀屋みたいですね」と毒を吐く足立王子だった。

「でも・・・三軒家チーフは・・・凄い人だと思います」と庭野。

「犬・・・三軒家チーフの犬」と毒づくシラス・・・。

「僕は・・・犬じゃありません」

今夜は・・・誰もが・・・酔いたいらしい・・・。

八方美人すぎてシラスにも優しくしてしまう足立黒王子・・・。

泥酔したシラスを持て余し・・・公園のベンチに遺棄するのだった。

そこで・・・シラスは・・・ホームレス風の男(渡辺哲)と意気投合するのである。

一方・・・「ちちんぷいぷい」のママ・珠城こころ(臼田あさ美)を相手に飲み続ける庭野。

「三軒家チーフに・・・大切なことを教わりました」

「へえ」

「僕の仕事は家を売ることなのです」

「そこからかよっ」

「三軒家チーフの家は豪邸なんですよ」

「どうして知ってるの」

「後をつけたんです」

「庭野ちゃん・・・恋をしているのね」

「恋?」

「ようし・・・おまじないをかけちゃうぞ」

「おまじない?」

ここから・・・S.E.(効果音)は庭野を弄び始める。

ちちーんぷいぷいちちんぷい・・・謎のBGM挿入である。

「庭野ちゃんは・・・三軒家チーフに会いにいきたくな~る」

「そんなあああああ」

一方・・・三軒家の婚活は完全な不首尾に終わる。

「今回は・・・優良物件がなかっただけだよ」

思わず・・・慰める屋代課長だった。

三軒家はいつもの無表情だが・・・どこか哀愁を感じさせる。

見事な演技だな・・・。

「・・・」

「飲み直そうか・・・なんちゃって」

「行きます」

「え」

酒場に向って前進を開始する三軒家だった。

ストレートを一息に飲み干す三軒家。

「同じものを・・・」

「酒も強いのか・・・」

仕方なく対抗する屋代課長だった。

泥酔する課長と・・・お酒を飲んでも無表情の三軒家・・・。

二人はタクシーに乗り込んだ。

「君は凄いよ・・・誰にも媚びない・・・そこへ行くと僕はダメだ・・・上にへつらい・・・下にへつらい・・・中途半端だ・・・」

「そんなことはありません・・・私は七年前・・・小さな不動産屋にいたときに・・・屋代課長に負けたことがあります。私が売りそこなったのは後にも先にもその時だけです」

「え・・・そんな話・・・初めて聞いた」

屋代課長の中で何かが蠢動したらしい。

「先に一人おります」

タクシーを降りようとした三軒家を呼びとめる屋代課長。

「三軒家くん・・・」

「はい・・・」

屋代課長は三軒家の唇を奪うと沈没するのだった。

唖然とする三軒家・・・。

二人のキスを庭野が見ていた。

タクシーの中で息を吹き返す屋代課長。

唇から漂う口紅の香りに我に帰るのだった。

「・・・え・・・・うそおおおおおお」

翌朝・・・エレベーター前で出会う屋代課長と庭野・・・。

庭野は思わず・・・屋代課長を睨むのだった。

「どうした・・・?」

「いえ・・・」

そこへいつもの扉こじ開け技で乗り込んでくる三軒家・・・。

気まずさ最高潮だが・・・三軒家は何事もなかったように無表情だった。

これほどまでに先の読めない三角関係も珍しい。

そもそも・・・これは三角関係なのかとどよめくお茶の間である。

いつになく緊張感の漂う職場・・・。

そこに乱入するジャージ姿の男・・・。

「あ・・・おじいちゃん」とシラス。

「家を売ってもらおうと思ってね」

「だから・・・アパートなら駅前の不動産屋に行かないと」

しかし・・・男の顔を見て無表情のまま顔色を変える三軒家だった。

本当に見事な演技だな。

足立の存在に気がついた男は説教を始める。

「君が足立か・・・酔っ払った女性を公園に放置するのは人として問題があるぞ」

「え・・・」

愛する足立のピンチにシラスは男を追いかえすのだった。

三軒家チーフは立ち上がりセールスに参入する。

「足立・・・」

「・・・」

「返事」

「はい」

「どういうことですか」

「わかりません」

「シラスミカ」

「はい」

「なぜ・・・お客様を追いかえしたのです」

「だって・・・ホームレスに家なんか売れませんよ」

「売れるかどうか・・・外見で判断できますか」

「そりゃ・・・」

「私たちの仕事は家を売ることです」

微かだが・・・婚活に失敗した怒りが・・・滲んでいる感じもする絶妙の激昂である。

「シラスミカ・・・私をお客様のところへ案内しなさい」

「え」

「庭野・・・ついてきなさい」

「はい」

公園に向う三人。

何故か・・・犬が吠えているのだった。

男を発見するシラス・・・。

「あそこに・・・」

ホームレスたちに混じって歓談する男・・・。

「待て」

おすわりする庭野だった。

「わん」と犬が吠えるのだった。

男に接近する三軒家・・・。

「先程は・・・部下が失礼しました」

「ほう・・・」

「富田様の御用命を伺いたいと参上しました」

「・・・」

「庭野」

あわててご主人様の元へ駆けつける愛犬・庭野である。

たちまち・・・始る接待の嵐。

「それにしても・・・あんた・・・場馴れしてるな」

「私・・・ホームレスだったことがありますので」

度肝を抜かれる庭野だった。

たちまち泥酔するシラス・・・。

「富士の高嶺にふる雪も・・・」

「あ、それ」

合いの手もロボットな三軒家だった。

「人生の最後に何を食べたい」と問う男。

「ロールケーキ」と答えるシラス。

「ミソラーメン」と答える庭野。

「炊きたての白米です」と答える三軒家。

「気に入った・・・家を探してもらおうか」

「おまかせください」

三軒家の態度にピンと来た足立は・・・検索していた。

「これは・・・」

男は・・・大手炊飯器メーカー「金太郎電機」の富田会長だった。

一方・・・屋代課長は・・・沢木先生に呼び出されていた。

「実はね・・・私、破産寸前なの」

「え」

「七億円のマンションなんて・・・買えないわ・・・財産をすべて処分しても・・・まだ三億円の負債があるの」

「では・・・この屋敷を売るおつもりですか」

「いくらになるかしら・・・」

「一億五千万円ほど・・・でしょうか」

「お願いするわ・・・」

「なんとか・・・一円でも高く売るように心がけます」

お得意様の没落に・・・心が痛む屋代課長である。

しかし・・・屋代課長の持ち帰った資料に注目する三軒家・・・。

「この家・・・私が売ります」

「え」

三軒家は・・・富田会長を・・・沢木先生の屋敷に案内するのだった。

「これが・・・君が売りたい家か・・・」

富士山が遠望できる高台の屋敷。

「セールスポイントは厨房にあります」

そこには・・・料理研究家として沢木先生が古民家から移設した昔ながらの竃(かまど)があった。

「おお・・・炊飯器を作り続けて半世紀・・・しかし・・・母ちゃんが竃で炊いてくれたごはんに勝るものはなかった・・・わしのソウル・フード(魂の食物)・・・」

(落・ち・た・・・)

確信する三軒家だった。

「三億円でいかがでしょう」

「買った」

契約成立である。

富田会長は迎えに来たリムジンに乗って去っていくのだった。

「最初から・・・知っていたのですか」

「資産家のリストおよびその立志伝を頭に叩き込んでおくのは不動産屋の常識です」

飼い犬は主人の雄姿を尻尾をふって仰ぎ見るのだった。

鳴り響くスパニッシュな喝采・・・。

かっこいいよ・・・三軒家チーフ・・・かっこいいよ・・・なのである。

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2016年8月 3日 (水)

怪物と呼ばれた娘(波瑠)殺人者として観察される女(佐々木希)人として好意を持つ男(林遣都)

「心の闇」と人はよく口にするが・・・そもそも心は闇の中にある。

その闇は光を受け入れない。そのために・・・誰も「心」というものを見たことはないのである。

「心」の存在を人は・・・自分というもので確認する。

つまり・・・「自分」とは「心」そのものなのである。

人は鏡を見るように他人に「心」を見ることがある。

拳で殴り合えば「自分」の感じる痛みを・・・「相手」も感じているのではないかと想像することができる。

幼い命が・・・「薬」がないという理由で失われようとしている時・・・人は・・・薬代を寄付したりする。

しかし・・・その「薬」によって生きながらえた子供が・・・長じてテロリストとなり、寄付したものを爆弾で殺傷することもあるだろう。

その場合・・・人は・・・「命」を大切にしたことになるのだろうか。

それでも人は・・・目の前の「不幸」を見過ごすことができないものだと言うこともできる。

はたして・・・それは・・・本当なのか?

で、『ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子・第4回』(フジテレビ20160802PM10~)原作・内藤了、脚本・古家和尚、演出・白木啓一郎を見た。ドラマの主人公の造形には2014年に発生した佐世保女子高生殺害事件の加害者の影響があるのではないかと妄想する。猟奇的殺人事件のルーツの一つである「羊たちの沈黙」では女性捜査官が天才的犯罪者をアドバイザーとして利用する。正常な人間である女性捜査官は・・・異常者の心理を理解するために異常者に教えを乞うのである。ドラマ「沙粧妙子 - 最後の事件 -」では女性捜査官は交際相手の異常者を追うことになり、ドラマ「ケイゾク」では女性捜査官自身が一種の異常者として描かれる。その延長戦上にあるこのドラマでは異常者である女性捜査官が正常を求めて難事件に挑むわけである。・・・恐ろしい流れだな。常人にはない超記憶力は・・・異常者描写の常套手段だが・・・「羊たちの沈黙」の天才的犯罪者は・・・「心に部屋を持っている」という記憶術を明らかにしている。心の中の部屋に・・・あらゆる記憶が書籍化されているので・・・膨大な知識を収納できるのだ。このドラマで主人公が見る「夢」のイメージはまさしくその延長線上にあると妄想できる。ルーツというものの呪縛は恐ろしいものだ。「羊たちの沈黙」の掌から逃れることはなかなかに難しいのである。

クリーニング店を営む佐藤都夜(佐々木希)は連続殺人および遺体損壊事件の犯人だった。

被害者女性の両腕、両足、臀部、腹部の皮を使い、ボディスーツを縫い上げた都夜は背中部分を剥ぐ予定の佐和(中島亜梨沙)を拉致監禁し・・・さらに睡眠薬によって警視庁刑事部捜査第一課の藤堂比奈子刑事(波瑠)も虜にしてしまう。

クリーニング店の一室は・・・都夜の作業室となっていた。

「あなたの顔の皮膚も綺麗だから」

「とれるものならどうぞ」

都夜の見過ごしたサバイバルナイフを隠し持ち、後手で縄を切る比奈子。

「お前・・・むかつくな・・・ジロジロ見やがって・・・」

「興味深いので・・・」

「おっと・・・カッとなって刃を入れて失敗するとまずいからね・・・」

「最初の被害者ですか」

「そう・・・あの女・・・三流モデルのくせに・・・私を見下ろして・・・むかついて殺しちゃったんだ」

「・・・」

「最初はあの部屋に捨てるつもりだったんだけど・・・死化粧して死装束を着せてやったら・・・もったいないと思ったんだ・・・あの白くうつくしいう腕の皮膚・・・私にこそ・・・相応しい・・・だから・・・もらうことにした」

「すると・・・腕だけではものたりなくなったんですね」

「そうだよ・・・どうせなら全身をそろえたいだろう」

「あの男は・・・」

「あいつは・・・私に一目惚れしたのさ・・・だから・・・利用してやった」

二人の淡々とした会話に・・・佐和が割り込む。

「なんで・・・そんなことを・・・あなた・・・私なんかよりずっと綺麗なのに・・・」

「あんたの背中は美しいんだよ・・・ごらん」

都夜は・・・自分の裸の背中を晒した。

その背中は一面が焼け爛れている。

「私はね・・・一流モデルになれたんだ・・・それなのに馬鹿なストーカー野郎が・・・私に硫酸をかけやがったんだ」

「ひ・・・」

「だから・・・あんたの背中は私が貰ってあげる・・・あんたの娘も大きくなったら・・・一緒に縫い合わせてあげるよ」

「やめて・・・娘にそんなことしたら・・・絶対に許さない」

「ふふふ・・・ただの皮になったら・・・大人しく着られる以外には何もできないわよ」

「滑稽ですね・・・」と割り込む比奈子。

「なんだって・・・」

「そんなことをして完全な女になれるとでも?」

「うるさいね・・・舌を切り落とすよ」

もがいた佐和が人皮のディスプレイを倒してしまう。

「なにやってんだてめえ・・・人がどれだけ苦労したと思ってんだ」

作品を汚されて佐和に暴行を開始する都夜。

「醜い・・・」

「みにくい?」

「あなたが・・・みにくい人間になったのは・・・いつですか・・・生まれつき?・・・最初に人を殺した時?・・・それとも・・・硫酸を浴びてモデルになる夢を断たれた時?」

「ふざけやがって・・・」

都夜は・・・比奈子の肩を鋏で刺す。

「そう・・・その顔が見たかった・・・」

比奈子は都夜の腕を自由になった手でつかむ。

そして、サバイバルナイフを一閃させた。

「え・・・」

都夜の頬から滴り落ちる血・・・。

「人を殺せるのはあなただけではありません」

「私の顔に・・・私の顔に傷を・・・」

「・・・」

「絶対に許さない」

そこに・・・相棒・東海林泰久刑事(横山裕)が心療内科医の中島保(林遣都)を伴って到着である。

東海林は都夜を簡単に確保するが・・・殺人犯に対する暴行は行使しないのだった。

女は殴らない主義なのか・・・。

一方・・・中島は・・・床に落ちた比奈子のサバイバルナイフを隠匿する。

比奈子は出血のために・・・意識を失った。

「犯人・・・確保しました」と連絡する東海林。

「刑事さん・・・彼女・・・刺されてます」

「救急車を手配してください」

取調室の都夜・・・。

「あの女・・・一体・・・何?」

「・・・刑事だよ」

厚田巌夫班長(渡部篤郎)は微笑む。

「あの女・・・私を殺す気だった」

「夢でも見たんじゃないか」

厚田班長は犯人確保の状況にあまり拘らない方針なのである。

現場に到着する片岡啓造(高橋努)が率いる片岡班と厚田班の刑事たち。

「これが・・・人皮のボディスーツ・・・」

三木鑑識官(斉藤慎二)はうっとりする。

「藤堂先輩の容体は・・・」と新人鑑識官の月岡真紀(佐藤玲)は東海林に問う。

「上で・・・倉島先輩が連絡とってるはずだ」

絶望的な表情の倉島敬一郎刑事(要潤)・・・。

「まさか・・・藤堂先輩の身に・・・」

「まだ意識は戻ってないが・・・命に別条はないそうだ」

「じゃ・・・なんで・・・そんなに深刻な顔を・・・」

片岡班の刑事たちが解説する。

「犯人に会っていながら・・・見過ごして・・・相棒を殺されかけたんじゃな」

「俺は・・・責任をとる」

「え・・・辞職ですか」

「彼女にプロポーズする」

「ええっ」

倉島・・・ボケ担当である。

佐和は病院で娘の遥香(住田萌乃)と会っていた。

「お母さん・・・大丈夫?」

「あの女の刑事さんが・・・助けてくれたのよ」

「へえ・・・あの人・・・いい人だったんだ」

怪訝な顔をする遥香だった。

自分の洞察力を懐疑する小学生である。

比奈子は・・・夢の中で・・・都夜に訣別していた。

「私にはもう・・・興味がないのね」

「はい」

「あんた・・・私なんかより・・・ずっと壊れてるんじゃないの」

「・・・」

「あんた・・・生まれた時から壊れてたんでしょう」

ミシンで人の皮を縫製しながら・・・都夜は奥の部屋へと比奈子を誘導する。

そこは比奈子の父の書斎だった。

母と父が言い争う声がする。

「勝手に出て行くがいい・・・だが・・・あの子は怪物だ・・・いつか人を殺すぞ」

幼い比奈子(藤澤遥)は分解された時計を見下ろす。

「いつかになった?」

「まだです」

比奈子は自問自答する。

そして覚醒した。

病院のベッドの傍らには中島保が待機していた。

「ナイフは僕が預かっています」

「そうですか」

「正当防衛で殺そうとしたのですが・・・」

「あなたは殺していないし・・・僕たちが間に合わなかったとしても・・・殺さなかったかもしれない」

「・・・」

「兇悪な犯罪が起こると・・・人は犯人を怪物と決めつけたりする・・・しかし・・・人は・・・人です」

「私は父に怪物と呼ばれました」

「・・・」

「時計を分解してバラバラにするのが楽しかったのです」

「楽しい・・・それは感情じゃないですか」

「そうですか・・・」

「快・不快こそ・・・感情の根源と言う人もいます・・・それに幼少期の破壊衝動は・・・知的好奇心の発露と考える人もいます」

「機械の方が楽しめました・・・生き物は・・・血が流れるので後始末が大変ですし」

「・・・」

少なくとも・・・比奈子には「喜怒哀楽」の「楽」はあったようだ。

そして・・・猫などを殺した場合の後始末を面倒だと思う気持ちもあったようである。

つまり・・・比奈子は全くの無感情ではないのだ。

ただ・・・殺された猫の気持ちは理解できなかったようだ。

もちろん・・・そんな気持ちの存在が人間の空想に過ぎないからである。

「先生は・・・なぜ・・・私に興味を持ったのですか」

「君は殺人という行為によって自分を理解しようとしている・・・それは・・・人の心を知るために犯罪者と接する僕のアプローチと似ているから・・・」

「人の・・・心」

そこへ・・・帝都大学医学部の法医学教授・石上妙子(原田美枝子)が見舞いに訪れる。

「あら・・・お邪魔だったかしら・・・」

「そんなことはありません・・・僕はこれで」

「いずれまた・・・」

「ふうん・・・いずれまた・・・か」

何故か・・・警視庁で比奈子と中島の交際説を吹聴する石上妙子だった。

まさか・・・ただの気のいいおばさんなんじゃないだろうな。

殺伐とした物語の清涼剤なんじゃないか。

石上も・・・ボケ担当かよっ。

まあ・・・倉島と石上は対になっているのかもな。

比奈子が病床で回復を目指していた頃・・・某テレビ局には不審な映像素材が配達されていた。

退院した比奈子が職場に復帰してまず行ったことは中島との交際の噂を否定することだった。

噂のために落ち込んでいた倉島は息を吹き返す。

書類仕事を終えた比奈子は石上に苦情を申し入れ、中島を呼び出す。

比奈子と同様に「彼女が出来た」という噂がある三木鑑識官と「萌オさまカフェ」で遭遇する二人・・・。

三木鑑識官は噂を否定しない。

化け猫の見下ろすパーティー用の個室で・・・中島はナイフを比奈子に返却した。

「ありがとうございます」

「僕たちは共犯者だね」

「便宜をはかっていただき恐縮です」

「僕の前では無理に表情を作る必要はないですよ」

「今日は表情筋を酷使したので助かります」

比奈子の顔から表情が消える。

「楽になりましたか」

「楽になりましたね・・・これも感情なのでしょうか」

「ですね・・・あなたは本当に興味深い人だ」

「私のような人間に興味を持つ人がいるとは意外です」

「前にも言ったように僕はあなたにシンパシーを感じるらしい」

「それは性的興味ではないのですね」

「ぶほっ」

「そういう意図のある人は態度でわかりますので」

「そうですか・・・」

「私に興味を持ってくれるのはいい人だと判断しました」

「判断したのですか」

「はい」

しかし・・・母親以外の理解者に・・・比奈子は戸惑いも感じているようだった。

それは・・・変形された恋情と言えないこともない・・・。

会計の際にキャンデーのつかみどりサービスがあり・・・キャンデーが床に落ちると激しく動揺する中島・・・。

中島の様子に何かを感じる比奈子である。

帰宅した比奈子は・・・厚田班長から連絡を受ける。

テレビでは・・・犯罪者の自殺映像が公開されていた。

内容について意見を述べる・・・コメンテーターは「ハヤサカメンタルクリニック」の早坂雅臣院長(光石研)だった。

「これは・・・あくまで・・・私見ですが・・・犯罪者が自らを罰するなら・・・それはまるで神の裁きとでもいうべきものでしょう」

東海林とともに・・・自殺映像の回収に向う比奈子。

テレビ局のロビーで早坂院長に遭遇するのだった。

「先生は・・・どうして・・・この番組に出演したのですか」

「いや・・・私も急に呼び出されて驚いています」

「そうですか・・・」

東海林は引き下がったが・・・比奈子は戸惑いを感じていた。

「ハヤサカメンタルクリニック」では中島が早坂院長を問いつめる。

「何故ですか」

「すべて・・・予定通りだよ・・・網を広げる時に至ったのだ」

「・・・」

厚田班は・・・石上医師を交えて・・・対応策を協議する。

「ただの自殺なのか・・・事件性があるのか・・・なんとも言えない」

「しかし・・・奇妙な自殺が続いているのも間違いないし・・・画像診断で・・・共通点も見つかっている。この部分の腫瘍が・・・自殺衝動を喚起する可能性はあります」と石上。

「そんなことは・・・呪術の範囲じゃないんですか・・・」

「未開地にはウイッチ・ドクター(呪術医師)だっているのよ」

「・・・」

リアリティーのある話としてはかなりのタイトロープである。

比奈子と東海林は動画に登場する自殺した医師の周辺の聞き込みに着手するのだった。

「本当に・・・誰かが・・・自殺を強制しているのでしょうか」

「さあな・・・もしそうなら・・・そいつを逮捕しなければならないし・・・そういう病気なら・・・刑事にできることはない」

「・・・」

「俺の妹は・・・女子中学生殺人事件の模倣犯に殺された・・・」

「模倣犯・・・」

「俺は・・・犯人を突き止めるために・・・違法捜査もした・・・犯人を殺さなかったのか・・・殺せなかったのか・・・自分でもわからない・・・」

「・・・」

「お前・・・中島先生とはどういう関係なんだ」

「東海林先輩まで・・・何を言っているんですか」

「これは・・・情報屋から入手した資料だ」

「また・・・違法捜査を・・・」

「見ろ・・・自殺した犯罪者たちは・・・みんなハヤサカメンタルクリニックに繋がっている」

小菅の東京拘置所で起きた死刑囚の変死事件について調査に行った時に対応した刑務官(利重剛)が消息不明になっていた。画像情報流出の容疑がかかる男である。

比奈子は思い出す・・・あの時・・・刑務官と中島が一緒だったことを。

「中島は・・・例の女子中学生殺人事件の・・・第一発見者なんだよ・・・引越し先を探して不動産屋と空き部屋を・・・」

その時・・・サイレンが響く。

思わず・・・現場にかけつける東海林と比奈子。

そこには血の海となった床の上に死んだ少女が横たわっていた。

東海林の妹が模倣犯によって・・・犠牲になった未解決の女子中学生殺人事件と同じ・・・。

少女の遺体の口元から・・・あふれだすキャンデー。

そして現場に散乱するキャンデーの包装紙・・・。

中島が「事件」に何らかの関与をしていることをお茶の間はすでに知っている。

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2016年8月 2日 (火)

好きな人に私を花火に連れてってと言うこと(桐谷美玲)彼には言えない秘密(菜々緒)キャンプでバーベキューのブギー(山崎賢人)

色恋の基本設定に「悪女の深情け」というものがある。

言葉をイメージで解釈すると・・・物凄く悪い女だが・・・その裏には真心が隠れている的なニュアンスが生じる。

しかし・・・この場合の悪女とは・・・「容貌が悪い女」を指している。

つまり「ブスほど嫉妬深い」という意味なのである。

なんていうか・・・真の意味というものはまったくオブラートに包まれていないな・・・。

可愛い女に「やきもち」を焼かれたりするのは・・・ちょっといいものだ。

だが・・・「醜女」に愛され過ぎるのは・・・なんだかこわいわけである。

そういう「男心」の話である。

男女雇用機会均等法の「お茶の間」ではなかなかに「禁じ手」なのだが・・・ドラマ「家売るオンナ」では結構、ストレートにこれをやっている。さすがはベテラン脚本家である。

こちらでは初々しいのでいくつかのアレンジ展開がある。

まず・・・「ブス」がそうなる理由の一つに自分のブスに無自覚という場合がある。

十人の女がいたら一人は美人で三人は可愛くて残りの六人は十人並みと自分を評価するものだ。

ブスはどこにいった・・・ということになるわけである。

つまり・・・無自覚なブスが・・・美しい女のように振る舞うというパターンが生じる。

ドラマ「家売るオンナ」のイモトアヤコはこのパターンと言える。

一方で・・・「少女漫画」の王道では「眼鏡をとったら美人」という奴がある。

つまり・・・ブスのように見えて本当は美人のパターンである。

このドラマの主人公は・・・最近流行の「奥手」と言うやつである。

つまり・・・無自覚な美人なのである。

自分が美人と思えないから・・・深情けになってしまうのだ。

「私が告白したら・・・落ちるでしょう」とは無自覚な美人は思わないのである。

その結果・・・「好きな人に好き」と言えない姿が・・・好感度をあげるわけである。

もちろん・・・お茶の間の中には・・・「あんな美人がそんなに消極的なわけがない」と反感を持つものも生じます。

一方・・・主人公の恋仇は・・・今回、誤解された方の「悪女の深情け」をやるのだろう。

いかにも・・・「性格が悪い女」に見える美人が・・・本当は深い愛情を隠していたという展開である。

さて・・・男女雇用機会均等法以後の世界では・・・当然、「ブサイク男の深情け」というものもあるわけで・・・無自覚ブサイクや、無自覚イケメンも大量生産されている。

「悪漢の深情け」はどちらかと言えば古典だからな。

そのようなテクニックから・・・どんな新手を生みだすか・・・そこがラブストーリーの醍醐味なのです・・・。

で、『好きな人がいること・第4回』(フジテレビ20160801PM9~)脚本・桑村さや香、演出・森脇智延を見た。クールな悪女役が続く菜々緒は本来なら「ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子」で猟奇的な連続殺人犯を演じた方が一部お茶の間の期待に応えることになるのかもしれないが・・・貴重な美人女優なのでたまにはホットな役も演じるべきなのである。そういう意味ではこのキャスト(配役)と脚本はなかなかにチャレンジ精神を感じさせるのだ。

憧れの先輩・柴崎千秋(三浦翔平)に誘われ、千秋の経営する海辺の町のレストラン「Sea Sons」でパティシエとして働くことになった櫻井美咲(桐谷美玲)・・・。しかし・・・強力な恋仇として千秋の元カノである高月楓(菜々緒)が現れ怯む美咲だった。

最悪の出会いから一転・・・パティシエとしての美咲の実力を認めた千秋の弟でカリスマ・シェフの夏向(山崎賢人)はすでに・・・美咲に心魅かれているようだが・・・恋に悩む美咲の背中を押す男気を見せる。

結果として・・・美咲は千秋と真夜中の水族館でいけないデートをエンジョイするのだった。

好きな人と一緒にいるだけで・・・ドキドキできる美咲は・・・幸せを感じるのだった。

レストラン「Sea Sons」の休業日・・・。

柴崎三兄弟は釣りに出かける。

「話題」は「女」の話である。

千秋は・・・三男の柴崎冬真(野村周平)の女癖が気になる。

調理学校の同級生である二宮風花(飯豊まりえ)という交際相手がいるのに・・・女遊びをしているという悪い噂が耳に届いているらしい。

「彼女を泣かせるなよ・・・」

「兄貴こそ・・・美咲ちゃんのことどうするつもりなんだよ」

「美咲のこと?」

「そうだよ」

「彼女のことはちゃんと考えているさ」

話の流れから・・・千秋が経営者と従業員としての話をするのは些少、無理があるが・・・この場合、千秋はそういう意味で言っているらしい。

しかし・・・美咲に片思い中の夏向は・・・「恋愛」の話と解釈して・・・動揺し・・・釣り竿を落しそうになるのだった。

一方・・・サーフショップ「LEG END」のオーナー日村(浜野謙太)と交際中の奥田実果子(佐野ひなこ)は美咲に「江ノ島花火大会」が八月七日(日)にあることを教える。

「好きな人と一緒に見る花火は最高だから」

まあ・・・そういう時期は確かにあるよねえ。

遠い目になる一部お茶の間はさておき・・・「千秋と一緒に花火が見れたら最高」の呪いにかかる美咲だった。

しかし・・・「一緒に花火が見たい」とは言い出せない美咲なのである。

なにしろ・・・美咲にとって千秋先輩は高嶺の花なのである。

取ろうと欲を出せば崖から転落して死ぬ可能性があるのだった。

そんなこわいことはできない・・・のである。

つまり・・・美咲は美人だが崇高な千秋にとっては醜女かもしれない相対的な深情け・・・ということだ。

本来・・・「深情け」には・・・身分をわきまえず大胆になってはいけない・・・というニュアンスが含まれているのだった。

「美人でもないのに一人前に嫉妬するなんてとんでもないことだ」という自戒である。

とにかく・・・そういうわけで・・・「好きだ」と一言言えないジレンマが美咲を襲うのである。

休日明け・・・開店準備をする美咲と夏向・・・そこに楓が現れる。

「千秋に話があるのだけど・・・」

「千秋さんは・・・今日は東京のお店です」

「そう・・・」

「あの・・・楓さん・・・この間は・・・突然押し掛けて・・・変なことを言ってごめんなさい」

「いいのよ・・・だけど・・・私も世界で一番、千秋を愛しているから・・・あなたに千秋は渡さないわ」

美しい女たちによる獲物を狙う前哨戦である。

うっとりしますな。

楓は・・・夏向をつかまえて援護を求める。

「千秋が電話に出ないの・・・あなたから・・・一言言ってくれる」

「それはできない・・・俺はあなたが・・・いなくなった後のことを知っているから」

かって交際していた千秋と楓。

楓がボストンへの音楽留学のために・・・千秋に別れを告げたことが明らかになったわけである。

その頃・・・千秋は東京で学生時代の友人である安西(入野自由・・・アニメ「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」のじんたん役)と会っていた。

「二年前・・・楓と別れた頃はひどかったけど・・・落ちついたみたいだな」

「すっかりね」

「最近、楓と会ったか」

「結婚式の幹事をやったよ」

「実は・・・俺・・・半年前に楓を見かけたんだ」

「え・・・」

千秋は・・・自分が事実と信じていたこととは違う事実を安西に告げられる。

つまり・・・「彼は彼女に噓をつかれていた。」ということである。

大人の集団であるレストラン「Sea Sons」に・・・青春的なイベントを持ちこむ役割の日村は「グランピング」一歩手前の「デイキャンプ」での「第12回BBQ大会」を決行する。

参加メンバーは柴崎三兄弟、日村と実果子、風花と美咲である。

「私も行っていいんですか」

「もちろん・・・美咲も「Sea Sons」の一員だもの」と千秋。

あくまで職場仲間を強調する千秋だが・・・美咲は好きな人と一緒にいられれば満足なのである。

実果子は美咲に囁く。

「キャンブの解放的な雰囲気で・・・普段は言えないことも言えるかもよ」

好きな人を花火大会に誘えるかもしれないのだった。

しかし・・・運命を分けるくじ引きで・・・キャンピングカーに乗れず・・・キャンプ場まで夏向の車に同乗することになる美咲だった。

美咲は落胆するが・・・夏向はそうでもないのだった。

本筋ではないが・・・「点火担当」のバカップル日村と実果子はキス寸前のシーンがあるが・・・お笑いパートなので事務所的にNGなのだろう。ほとんど罰ゲームだからな。

ハンモック担当になった冬真は風花を「花火」に誘う。

「その日は・・・調理学校の実技試験の日よ」

何故か・・・調理への情熱を失ってしまったように見える冬真を批判する風花。

「僕が・・・君を好きになったのは可愛いからだ」

風花の人格を否定する態度の冬真を平手打ちする風花である。

本筋ではないが副音声実況を担当した冬真は「自分のセリフの大幅カット」に嘆いていた。

脚本家の前作「恋仲」からのお気に入りである俳優を現場で乗せるためにセリフを増やしても本筋ではないと演出が判断し編集でカットする。

よくあることである。

本筋は・・・あくまで主人公の恋の行方である。

キャンプ場でも調理担当として夏向と行動を共にする美咲。

「串の刺し方が悪い」と説教され・・・タマネギを刻んで泣き濡れるのだった。

そこに千秋がやってくる。

「花火に連れてって」と言えず「兄弟の釣りに同行したい」と言った美咲のために・・・キャンプ場での釣りに誘う千秋だった。

ありえないことだが・・・ボートでの立ち釣りを開始する二人・・・ボートでは立たないのが基本である・・・転覆するからな・・・たちまち動揺して釣り竿を落しそうになる美咲。

身を寄せてしゃがみこんだ二人。

「実は君に話がある・・・夏が終わっても店に残ってほしいんだ」

千秋の言葉に・・・「花火に連れてって」と言うチャンスを見出す美咲。

しかし・・・岸辺から日村がそれを阻止するのだった。

「お~い・・・千秋・・・楓さんが来たぞ・・・」

失恋の痛手から立ち直った千秋は・・・「やりなおしたい」という楓を避けていたのである。

だが・・・新たな事実を知った千秋は・・・楓の話し合いに応じる。

去っていく二人を追い掛けずにはいられない美咲である。

「私・・・どうしても・・・あなたとやりなおしたい・・・ボストンにいる間・・・ずっと思っていたの」

「どこのボストンだい・・・六本木のクラブの名前か・・・君がホステスをしていたと安西から聞いたよ」

思いがけない言葉に衝撃を受ける楓・・・しかし、説得を続ける。

「あれは・・・事情があって・・・」

「そんな話は聞きたくない」

「・・・私とやりなおせないのは・・・美咲ちゃんのため・・・」

「彼女は・・・大切なスタッフだ」

美咲はすべてを聴いていた。

最後の部分はできれば聴きたくなかったわけである。

そんな美咲を・・・夏向が見ていた。

とにかく・・・第12回BBQ大会は・・・あまり盛り上がらなかったらしい・・・。

後輩の石川若葉(阿部純子)に電話で恋愛相談をする美咲である。

「それで満足なんですか・・・店のスタッフとして大切にされてるってことで」

若葉は今日は砂風呂エステ中である。

やはり・・・ひとつの拘りらしい。

まあ・・・少しニヤニヤできるものな。

「だって・・・告白して失恋したら・・・店に居づらくなるし」

「それで・・・いつか・・・千秋さんに恋人を紹介されたらどうするんです」

「・・・」

「いいですか・・・一度逃げたら・・・二度とチャンスはないんですよ・・・今日と言う日は今日だけなのです」

「でも・・・」

「でもじゃない・・・花火に連れてってぐらい・・・言ってくださいよ」

「火花じゃだめかな」

「散らしてどうするんですか」

結局・・・言えない美咲だった。

「夏の後の話なんですけど・・・お世話になりたいと思います」

「よかった・・・ありがとう」

美咲が千秋に言えたのはそこまでである。

恋を封印してパティシェとして生きる決意をした美咲は・・・ケーキ作りに逃避するのだった。

美咲の作った「白いケーキ」が気になる夏向・・・。

「それ・・・中に真っ赤なキイチゴが入ってるんです」

「RASPBERRY DREAMか・・・今夜死んでもいいから綺麗になりたいみたいな」

「人間はみんな・・・胸に想いを秘めているんです」

「・・・」

胸に想いを秘めた男は胸に想いを秘めた女を複雑な表情で見つめるのだった。

一方・・・街を彷徨う冬真は謎の美少女風の西島愛海(大原櫻子)と再会する。

「あなたを捜していました・・・」

「僕を・・・」

「あなたのお店に連れてってほしいのです」

「どうして・・・」

「私は・・・兄を捜しているの」

「お兄さんを・・・なんて言う人・・・」

「タクミです」

一方・・・千秋を飼いならしたい企業家の東村了は・・・戸籍謄本を餌に・・・傘下に下ることを迫るのだった。

「君は・・・それを・・・ずっと隠してきたみたいじゃないか」

それほどの秘密とは・・・どんな秘密なのだ。

実の兄弟じゃないことくらいじゃ・・・ないよな。

やはり・・・犯罪がらみだよな。

殺人犯の息子と娘の兄妹とかな・・・。

しかし・・・「朝が来る」的な告知制度を受け入れ難い人情もあるからな・・・。

落雷で幻の地震が発生する時代になっても変わらぬものがあるよね。

動揺して帰って来た千秋は・・・毎晩・・・新作ケーキに打ちこむ美咲の声をかける。

「あまり・・・・無理するなよ・・・」

「でも・・・今・・・アイディアがどんどん沸いてきて・・・」

「この白いケーキ・・・」

「・・・」

「夏向に聞いたよ・・・情熱を閉じ込めたケーキなんだろう」

白いケーキの中の真っ赤なキイチゴ・・・。

「・・・」

「こんな風に・・・隠された心が見えたら・・・いいのにね」

思わず・・・思いを口にする美咲。

「花火・・・行きたい」

「え・・・」

「なんでもありません・・・」

「いいな・・・行こうよ・・・花火」

「ええええええええええええ」

風呂上りの美咲は有頂天だった。

「私・・・千秋さんに花火に連れてってもらえることになりました」

夏向に報告する美咲である。

「・・・」

「何よ・・・嫌そうな顔して・・・感謝の気持ちをこめて・・・報告しているのに・・・あれあれ・・・それとも嫉妬してたりして・・・なわけないか」

「行くな・・・」

「え・・・」

八月の青春の光と影へ・・・盛り上がってまいりました。

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2016年8月 1日 (月)

気高い暴君、御仏の如き悪鬼、鷹の羽を持った鶯、豺狼の牙を隠す禿鼠・・・大いなる英雄の黄昏(長澤まさみ)

歴史は大河のようなものだ。

悠久の時をただ上流から下流へと流れていく。

振り返れば遥か彼方の水源は幻のように霞んでいる。

現在を生きる人間はその流れの中で悪戦苦闘しているわけである。

大陸や半島の国家に生きる人々に気を使いすぎて・・・自国の英雄を辱めるのはなんだか情けないことだ。

戦乱に明け暮れた下剋上の世界を平らげ・・・次へのステップを踏み出した英雄は・・・敬愛すべきご先祖様の一人なのである。

志半ばで・・・天寿を全うすることになったのは残念だが・・・それが歴史的運命と言うものだろう。

どんなに素晴らしい英雄でも・・・やがて・・・老いて死ぬことも必然だ。

輝きが強いほど・・・闇も深くなる。

「秀吉」の末路をこれほど抒情的に描いた大河ドラマの仕上がりは近年、まれに見る快挙と言えるだろう。

真田信之の正室・小松姫が、天正十九年(1591年)に長女・まんを、文禄二年(1593年)に次女・まさを生み、次男の信政を生むのが慶長二年(1597年)だという通説があったり、側室とされる清音院殿が長男の信吉を文禄四年(1595年)に生んでいた・・・としても・・・正室・側室、同時出産の構図が面白いと思ったフィクションぐらい許容範囲であると考える。

そもそも・・・信吉も小松姫が生んだ説もあるくらいなわけである。

真田本家の血を引く清音院殿と・・・徳川家の養女説のある小松姫・・・それぞれの生んだ二人の・・・真田の兄弟が・・・また新たな歴史を刻んでいく。

生まれた時に・・・すでに波乱含み・・・そういうことは本当に面白いわけなんだな。

大河ドラマらしい大河ドラマを見ることができて・・・今年は本当に幸せだ。

で、『真田丸・第30回』(NHK総合20160731PM8~)脚本・三谷幸喜、演出・田中正を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は待望のヒロイン・北信濃の清和源氏の血脈である高梨内記の娘・きりの第二弾描き下ろしイラスト大公開で万歳でございます。素晴らしい・・・大人になったきりの花が咲いておりますねえ。しかし・・・このドラマのきりはいったい・・・いつ信繫の寵愛を受けられるのか・・・手に汗握る中盤戦でございますよね。「義」というものは・・・基本的に自己犠牲の精神ですが・・・誰に・・・あるいは何に身を捧げるのか・・・という問題がございます。真田家に身を捧げ・・・黒く染まった叔父・真田信尹・・・上杉家を守るために覇者に靡いたかっての主君・景勝・・・天下人たる秀吉の豊臣家と・・・出自である真田家との「義」の板挟みとなる主人公・・・。思い悩む主人公に・・・養父となった大谷吉継が「誰のために生きるかくらい・・・自分で選んでよいのではないか」とアドバイスする。・・・なんというホームドラマでございましょうか。こんなところで・・・「サザエさん」的世界が展開するとは・・・。血沸き肉踊る一言でございましたな。東京では夏の首都決戦が展開・・・彼女が勝つのは最初からわかっていたとしても・・・今後も都政の義理や闇がいろいろと難ありでも・・・一人一人が誰かを選ぶことができる権利を与えられている現代の尊さを・・・噛みしめてもらいたい今日この頃でございます。

Sanada030文禄五年(1596年)九月、豊臣秀吉の嫡男・拾丸は禁裏で元服し藤吉郎秀頼と称する。改元後の慶長元年(1596年)十一月、服部半蔵正成が死亡。服部半蔵正就が家督を相続。十二月、豊臣秀頼が大坂城に移り、朝廷がこれを祝す。十月のスペイン船サン=フェリペ号の漂着を受けて秀吉は二度目の禁教令を発する。スペインとポルトガルの国際紛争やイエズス会とフランシスコ会の宗教的対立が・・・国内の治安維持の問題として浮上したためである。京都奉行・石田三成は京都・大坂で捕縛したフランシスコ会のペトロ・バウチスタなど宣教師や修道士、および日本人信徒20人を長崎にて処刑する。慶長二年(1597年)一月、秀吉は伏見城より大坂城に移り、秀頼は伏見城に在城。前田利家が従二位権大納言を辞任。二月、第二次唐入りのための諸大名の出陣・部署が定まる。総勢14万1500人の軍勢となる。三月、秀吉は伏見城に戻る。四月、秀吉は上洛し参内。五月、伏見城天守閣が再建される。矢沢頼綱が没する。六月、小早川隆景が没する。七月、小早川秀秋を元帥とする日本軍は藤堂高虎・脇坂安治・加藤嘉明の指揮する水軍が元均の指揮する朝鮮水軍を壊滅させる。その後、慶尚道・全羅道・忠清道を制圧した日本軍は南岸の城塞(倭城)を補強し、防衛戦に転ずる。翌々年に大攻勢を予定し、半数の日本軍を一時帰還させるための戦略だったとされる。在番(朝鮮駐留軍)以外の諸将は帰還した。慶長三年(1598年)一月、築城中の蔚山城を朝鮮・明連合軍が急襲。加藤清正らが篭城し、餓死寸前まで追いつめられる。毛利秀元らが援軍となり連合軍の撃破に成功する。二月、秀吉は醍醐寺諸堂の再建を命じ、庭園を造営する。三月、羽柴秀吉、醍醐寺三宝院において「醍醐の花見」を行う。秀吉の御伽衆・六角義賢は前日に死去した。

大坂城の郊外にある小さな寺に真田家は悲田院を建てていた。

国内の合戦は絶えていたが孤児はいつの時代にも現れる。悲田院は仏教的な慈悲の思想に基づく孤児院であるが・・・真田家にとっては忍びの里である。

山野をかける戦忍びは真田の里で育成されるが・・・草のものとして諜報を行うものは街に馴染む必要がある。

時には才能あるものを神隠しで攫うことも・・・忍びの常道である。

才色に恵まれたものは・・・くのいちとして京の遊廓などに売られることもあった。

沼田城の忍びである横谷左近、横谷惣左衛門の兄弟は・・・忍び技の教官として真田の悲田院に棲む父・惣右衛門を訪ねる。

「おう・・・来たのか」

「若殿(信幸)のお供で伏見屋敷まで参りました」

「きり姫様より童を預かっておりまする・・・親は切支丹で・・・磔になったそうでござる」

「そうか・・・」

初老の惣右衛門は童女に微笑みかける。

幼い娘は恥じらいの表情を浮かべる。

「これは・・・よきくのいちになりそうじゃ」

気配を察して奥から小坊主が現れる。

「清海・・・粥でも食わせてやれ」

清海と呼ばれた小坊主は娘の手を引き・・・厨房へ導く。

「沼田のものは皆・・・達者かの」

「矢沢の大旦那が・・・往生を遂げられましたぞ」

「そうか・・・あのお方は百まで生きそうだったがの・・・」

「北条との戦にあけくれた頃を思えば皆・・・のどかなものでございます」

「鈴木右近様などは・・・腕をもてあまし・・・柳生の里で剣術修行をなさっているとか」

「ほう・・・」

鈴木右近忠重は北条征伐の発端となった名胡桃城代として落城を恥じて切腹した鈴木重則の嫡男だった。

「柳生といえば・・・徳川様に名人石舟斎が秘儀を伝授したとか」

「嫡男の宗矩殿が召し抱えられたそうです」

「武芸者の諸国修行は・・・忍びの道じゃからのう・・・」

「伊賀の半蔵が死んだという噂ですが・・・」

「さて・・・どうかのう・・・風魔の小太郎と同じで・・・半蔵が何人いるのか・・・わかったものではないからな」

「やはり・・・太閤様亡き後の・・・仕掛けの一つでしょうか」

「徳川は・・・伊賀者だけでなく・・・甲賀や・・・本多家の使う根来衆、近江の犬神衆を率いる藤堂様、そして柳生にも手を伸ばして・・・忍び戦に備えておるのじゃろうて」

「・・・」

「半蔵は家康様の守護神として・・・隠れたに違いないわ」

「大戦となるのでしょうか」

「ふふふ・・・天下分け目の戦という奴よ・・・もう・・・唐入りもしまいじゃ・・・」

「武者ぶるいがいたしまする」

「そんなもの・・・忍びには無用ぞ」

老いた忍者は若侍となった息子を睨んだ。

その気迫に・・・横谷惣左衛門は背筋が凍りつく。

戦いに明け暮れた男たちは・・・のどかな日々がかりそめのものだと知っている。

紅い山桜が風に散った。

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