自由ってのは失うものが何もないってことだよ(山田孝之)
三十年前にも女子高校生売春婦を集めてインタビューするテレビ番組はあった。
いつの時代にもマルイチ(高校一年生)の「性」は商業価値があるわけである。
取材者たちは「犯罪」を行う未成年者たちに忠告する。
「そういうことはやめた方がいいよ」
しかし・・・それ以上の関わりは持たないのである。
取材者たちは合法的な情報料を経費で落とす。
そして・・・情報を「お茶の間」に流して米を買うのだ。
売春をするのも自由。
売春を報道するのも自由。
それ以下でもそれ以上でもない。
失うものが多い人々は思う・・・まさか・・・うちの子は違うよな。
そう思うのも自由なのだ。
で、『闇金ウシジマくん Season3・第3回』(TBSテレビ201608030128~)原作・真鍋昌平、脚本・福間正浩(他)、演出・山口雅俊を見た。生まれついてほとんど平等ではない人間は競争社会の中で切磋琢磨する。人生に成功と失敗はつきものだし、社会に上流と下流もつきものである。誰もが中流にいると幻想を抱ければ安堵できるが・・・着ている服、食べているもの、住んでいる家の差異は嫌でも五体が感じるわけである。そういうことに鈍感でいられれば幸せだが・・・敏感なものは不安を感じる。その不安の振幅が人をさらに底辺へと押しやる場合がある。そして・・・ウシジマくんにキャッチされてしまうのである。恐ろしいことだな。
☆☆☆☆★就労せずに生活保護を受給する若者たち。母親と売春する娘。闇金に借金してまでも買春をする会社員。すでに・・・底辺にいる人々に対して・・・資産家の親を持ち、ファッション雑誌「ノマド」の編集者である上原まゆみ(光宗薫)はまだ「陽のあたる場所」にいるように見える。
しかし・・・この世を支配する「目に見えない何か」への傾斜が上原まゆみをすでに闇へと導いているのである。
「運命を特別の方法で鑑定する職業」は常に「善悪の境界線上」に存在している。
朝の情報番組では毒にも薬にもならない「占い」を垂れ流すが・・・それは「遊び」の範囲を出ない。
時にはスピリチュアルな能力を売りにする芸能人まで出現する。
そういうものに対して半信半疑なのがまともな人間というものなのである。
虚実をとりまぜた情報産業である雑誌にもそういうコーナーは定番としてある。
そこには・・・専門家が関与するわけである。
おそらく・・・上原まゆみが信じてしまった占い師の勅使川原先生(三田真央)もそういう専門家だったのだろう。
編集者とスピリチュアルの専門家として出会った二人は・・・いつしか信者と教祖の立場へと人間関係を深めていったのである。
上原まゆみが現実主義者であれぱあるほど・・・実際にご利益のある「それ」は・・・「本当の力」として認識されてしまうのだ。
もちろん・・・そうなってしまい・・・彼女が「先生には特別な力がある」と言い出せば・・・周囲の人々は眉をひそめ、微笑みながら遠ざかっていくのが普通である。
そうなれば・・・彼女は孤立し・・・ますます・・・霊能者への依存を深めることになる。
だが・・・上原まゆみに仕掛けられた罠はさらに巧妙で・・・おそらく彼女は生きながら地獄へと導かれていくのだろう・・・。
転落の道は・・・高い位置から落ちるほど危険なのであり・・・彼女には恐ろしい運命が待っていることが予想できる。
編集者として実直に仕事に取り組んでいた上原まゆみは編集長(小嶋理恵)から大きな企画の責任者に抜擢される。
すべては・・・まゆみの力量によるものだが・・・本人には「新しい数珠」のパワーが意識されるのである。
「今度出来る新しい支店の店長になれそうなんだ・・・そこで実績を積んだら道が開けると思う・・・だから・・・一緒に暮らさないか」
まゆみの恋人であるハシくんこと橋本(ジェントル)はかってのまゆみの望んでいた言葉を口にする。
しかし・・・まゆみはすでに・・・運命の人と勅使川原先生に指定された神堂大道(中村倫也)と出会ってしまったのである。
「どうか・・・私のパートナーになってください」
差し出された指輪の輝きがまゆみの目を眩ませる。
日課であるジョギングを終えた後・・・。
「どこかで・・・汗を流しませんか」
まゆみはホテルへ神堂を誘い・・・ついに二人は結ばれるのだった。
もちろん・・・すべて・・・神堂の計画通りなのである。
まゆみは蜘蛛の巣にからめとられた憐れな蝶なのだった。
しかし・・・お茶の間はまだ・・・神堂の胡散臭さは知っていも・・・その恐ろしさを知らないのである。
★★★★☆生活保護の受給に成功した小瀬(本多力)は怠惰な生活を送っている・・・。
「なんとか仕事を探してください」というケースワーカー。
「ナマポの金があるなら借金返済しろ」という旧友。
そういう雑音を振り払いつつ一人暮らしのニートとして引き籠りの暮らしを続ける小瀬・・・。
そこに・・・天使が舞い降りる。
ニート仲間のめしあこと飯野(野澤剣人)のアパートで出会った希々空(小瀬田麻由)が・・・なんと隣人だったのである。
「え・・・」
「セコチン・・・髪洗って・・・」
「コセだけど・・・」
希々空(ののあ)は精神状態に少し問題があるらしい・・・精神的外傷のストレスによる自傷癖のために両手に包帯か巻かれており洗髪を小瀬に依頼するのだった。
ノノアの部屋に導かれた小瀬は・・・セクシーなノノアの下着姿に勃起しつつ、髪を洗う。
「セコチンは何人としたの」
「三、四人かな・・・」
小瀬はもちろん童貞だった。
突然、天国に導かれた小瀬だったが・・・もちろん現実は甘くない。
ノノアの部屋にやってくる「カウカウファイナンス」の柄崎(やべきょうすけ)と高田(崎本大海)・・・そしてウシジマくんこと・・・丑嶋馨(山田孝之)・・・。
「あんた・・・何してるの」
「髪を洗ってます・・・」
「じゃ・・・あんたが・・・利子を立て替えてくれ」
「え」
ノノアは・・・借金持ちだった。
背中に隠れたノノアの甘い匂いに酔って・・・小瀬は現金を支払うのだった。
ノノアは・・・浮いた金で・・・食材を買い・・・めしあの部屋を訪ねる。
「おい・・・金をどうしたんだ」
「セコチンが・・・払ってくれた」
「そりゃ・・・ダメだよ」
めしあと友人のトーキー(水間ロン)は古瀬を公園に呼び出すのだった。
「これ・・・足りないけど・・・」
「・・・え」
「ノノアも謝れ」
「イヤだ・・・」
ノノアは機嫌を損ねて逃げ出すのだった。
いたいけなくて・・・ちょっと可愛いぞ。
パピコの香りがするよね・・・。
いや・・・このドラマに登場する女たちはみんなパピコなんだよ。
凌辱された天使たちだよな。
そこが「売り」だよな。
小瀬はめしあに尋ねる。
「どうして・・・親切にしてくれるの」
「ぼくたちは・・・ニート仲間じゃないか」
「・・・」
「一緒にボートにでも乗るかい」
「それはやめておこう・・・男同志だから」
底辺にも美しい「心」はあるのだった。
☆★☆★☆年金暮らしの老婆の部屋に孫を連れた息子夫婦がやってくる。
その隣の部屋で・・・恵美子(倖田李梨)はホテル代を浮かせるための自宅売春を行っていた。
家族たちの団欒をかき乱す・・・恵美子の嬌声。
恵美子は・・・老婆が・・・路上で・・・自分の噂話をしていることを知る。
「隣の女・・・昼間から男を連れこんで恥知らずもいいところだわ・・・管理人に言って退去を勧告してもらわないと・・・」
恵美子は私鉄の通貨する踏み切りで鬱屈した心を吐き出す。
「あああああああああああああ・・・ちくしょおおおおおおおおおお」
金に困った恵美子は家出中の娘の美奈(佐々木心音)に母娘同時売春の客を誘うように告げる。
「いやだよ・・・」
「あんただって・・・部屋借りる金がいるだろう」
「これで・・・最後だからね」
美奈はスキッパーこと正体を隠している小学校教師の杉本先生(中島弘輝)に連絡する。
「七万円・・・あれは・・・君たち親子の精神を凌辱した代金だよ・・・汚れちまった君たちにもうそんな価値はないな・・・やるとしたら一万三千円だ・・・君が一万二千円で・・・あのばあさんは千円だ」
理不尽なモンスターペアレントや、躾のなっていない児童に悩まされストレスをためきっている杉本先生だった。
二度目ということで気が緩んだ杉本先生はバスルームで・・・美奈と痴態にふける。
「ほら・・・もっと丁寧に裏筋を舐めろよ」
その隙に・・・恵美子は・・・杉本先生に衣服を検める・・・そして・・・彼が小学校教師であることほつきとめるのだった。
「あんた・・・学校の先生かよ・・・口止め料として十万よこしな」
「おいおい・・・売買春だぜ・・・あんたらも同罪だろうが」
「私たちには失うものなんてないからね」
恵美子は・・・ツキがまわってきたような気になる。
隣室の老婆は・・・恵美子が勤務するスーパーマーケットで万引きをした。
「申し訳ありません・・・年金暮らしで・・・不安になって・・・」
「初犯だしなあ」と同情する店長。
しかし・・・恵美子は容赦なく警察に通報するのだった。
「もしもし・・・万引きです・・・犯人・・・すごく悪そうなばあさんですよ」
鬱憤を晴らして有頂天になる恵美子。
子供たちの悪戯で・・・愛車に落書きされた杉本先生の心の中で何かが切れる。
「先生・・・ポスターで見たんですけどインランってなんですかあ」
杉本先生は男子小学生を殴り倒すのだった。
校庭で痙攣する悪童・・・。
「俺にだって・・・失うものなんてないよ」
杉本先生は自由を感じた。
杉本先生への嫌がらせのポスターを貼る恵美子の前に・・・ウシジマくんのライバル企業・闇金融「ライノー・ローン」の女経営者・犀原茜(高橋メアリージュン)と腹心・村井(マキタスポーツ)が現れた。
「回収させてもらうぜ・・・」
「いやあああああああああ」
☆☆☆☆☆☆いつもの駄菓子屋でウシジマくんは幼馴染の情報屋・戌亥(綾野剛)と旧交を温めていた。
「犀原茜のライノー・ローンは結構・・・強引に・・・縄張りを広げているよ・・・バックには若琥会がいるし・・・用心しないとね」
「腹減ったな・・・メシ食いに行こう」
「じゃあ・・・ボクのベビースターラーメンあげるよ」
「お前・・・本当に駄菓子が好きだな」
「だって美味いもの」
ウシジマくんは常連客の女児にベビースターラーメンを譲渡した。
☆☆☆★★★「カウカウファイナンス」の顧客である売春婦テルミ(卯水咲流)に同じく顧客の川崎(ムートン伊藤)を狙わせるウシジマくんである。
川崎にとって不幸なことは・・・会社のビンゴ大会でビデオカメラを当ててしまったことだった。
「ホテル代別のイチゴ(一万五千円)」でテルミを買春する川崎・・・。
「結構・・・楽しかったわ」
見事な接客術を見せるテルミだった。
テルミが去った後で盗撮のために仕掛けたカメラを回収する川崎だった。
しかし・・・ラブホテルの外ではテルミの情夫が待ち伏せていた。
「あんた・・・盗撮はご法度ですよ」
「え・・・」
「こういう世界じゃ・・・もっともしてはいけないことです」
「・・・」
「ここは十万円で手を打ちましょう」
「えええ」
「てめえ・・・払うものは払えよ」
豹変するテルミだった。
ウシジマくんに泣きつく川崎なのだった。
「ジャンプ(未返済のままの再融資)につぐジャンプになるよ」
「お願いします」
「あんた・・・会社にしがみつきなよ」
「・・・」
「あんたが会社にいる限りは付き合えるからね」
金づるが去った後で・・・受付嬢・エリカ(久松郁実)は毒づく。
「闇金で借りた金で女を買うなんてバカみたい」
「バカだろうとクズだろうと・・・きっちりしぼれればそれでいい」
ウシジマくんは訓示するのだった。
売春婦からも売春婦の客からもしぼりとるウシジマくんなのである。
闇は少しずつ深まっていく。
気がつけば闇夜なのである。
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